2018-11-12 13:51:51 更新

概要

同一スタジオ作品「きみの声をとどけたい」と「若おかみは小学生!」のコラボ小説となります。ただし、あんまり落ちは期待しないでねw


前書き

2018年、異例のヒットの仕方をしたということで話題に上る映画といえば「カメラを止めるな!」と「若おかみは小学生!」ということになろうかと思います。どちらもSNS発の火のつき方ということも言えますが、結果として「傑作が世に埋もれずに正当に評価される」という事象の一端になったと思ってます。
ところが2017年の「きみの声をとどけたい」は、結果的にいまだにくすぶり続けていて、再評価のさの字もない状態。本当に忸怩たる思いです。

さて「キミコエ」と「若おかみ」をどうフュージョンさせようか…実は別の構想で「大人になったDJたちを春の屋に集結させる」という計画もあったのですが、おっこが小学生のままでないとだめとわかり、歳を取ってしまう書きは難しいと判断、現在凍結中です。
そのかわり「2018年、3年生のなぎさたちなら小学生のおっこに逢える」と考えたため、今年しか書けない内容ということで書こうと考えました。

2018.10.15 着手
2018.10.23 7000字オーバー。やや停滞気味。
2018.10.29 12000字オーバー。ウリ坊/美陽/鈴鬼と作者が語るシーンを創作
2018.11.12 第一版完成・上梓(25076字)。ただし、今後大幅改良する予定。


なぎさ 「ねえねえ、あやめさんからの手紙、読んだ?」

かえで 「ああ、読んだ読んだっていうか、A45枚って、どんだけ語りたいんだか」

雫 「それは、ちょっと、引くんじゃ…」

夕 「私のところにも来ましたわ」

なぎさ 「でもさあ。なんで私達が取材目的とはいえ、温泉に行かないといけないんだよぉ」

かえで 「まあ、夏休みの今だから、俺たちの体が空いてるって、考えたんじゃないの?藍色のことだし…」

雫 「でも、本当に行ってくれるなら、取材費は進呈って書いてあったよね」

夕 「私のおじいさま、秋好旅館には泊まったことがあるって言ってましたわ」

なぎさ 「そうなんだぁ。で、どんな感じなの?」

夕 「おじいさまに曰く『あれは旅館じゃない、騒々しくて性に合わん』って」

かえで 「CMもバンバン打ってるけど、泊りに行くってよりは遊びに行くって感じの宿だもんな」

雫 「で、あやめさんは、いろいろ候補上げてたけど…」

なぎさ 「そう。それなんだけど…」

かえで 「なんだよ?」

なぎさ 「結構候補が多くて困ってるんだ。あやめさん、わざとどこにしようか悩ませてるんじゃないかと思うのね」

かえで 「まあ確かに。「ここに泊まって」って言ってくれるなら俺たちもイエスノー、言いやすいんだけど…」

夕 「ああ、秋好旅館もありましたわね」

なぎさ 「ええっと…秋好旅館、お宿花の湯、春の屋旅館、ホテル花湯・・・」(資料で確認する)

かえで 「確かに目移りしちゃうんだよなあ。寂れたお宿2軒に近代的な施設の2軒。まあ、お金はあやめが出してくれるとして、せっかくだから、俺たちがしっかりレポートできる規模にしようよ」

雫 「私達のせいでマイナスにならないところの方がいいよ」

なぎさ 「てことは、ホテルスタイルのところではなくて、こじんまりとした2軒の方か…じゃあ、どっちにする?」

夕 「これはこれで難しい選択ですわね」

なぎさ 「でしょう?私たちをもてなしてくれそうなのは…」

かえで 「なあなあ、この春の屋って、5部屋なのはいいんだけど、おかみと仲居さんが一人って書いてあるよ」

雫 「あ、ほんとね。宿のプロフィールにもあるわ」

夕 「いくらなんでも、ここではおもてなしは期待できそうにもなさそうね」

なぎさ 「でもね、なんか宿の評価サイトではそこまでの低評価でもないのよ。逆にお宿花の湯は、高評価も多いけど「ないがしろにされた」「タイミングが悪い」と書かれていて、平均は、春の屋よりも低いのよね」

かえで 「泊まっている絶対数が違うから一概に比較できないけど…見ていると、お宿花の湯は、若い人が泊まると対応が雑になっているみたいだね」

夕 「それには気がつきませんでしたわ。確かにネガティブ評は30代のカップルとか、20代の女性ペアとか…」

雫 「まさか客を区別してる?」

なぎさ 「考えられなくもないわね。上得意の高年齢層に手厚く、若い客には適当に。区別でもしないとやってられないのは仕方ないのかなぁ」

かえで 「そういう姿勢ってちょっとむかつくよね。同じお金出してるのに…料理にも差別あったりするかもだし…」

雫 「じゃあ、「春の屋」にしとく?」

かえで 「ああ、それがよさそうだな。ハズレならハズレで、ちゃんとリポートすればいいんだし」

夕 「ちょっと不安がよぎりますけど…」

なぎさ 「わかったわ。じゃあ、このこと、あやめさんにお知らせしてみるね」

かえで 「頼むよ。まあ、俺のバイト、突発的に休まなきゃにならないように日程は調整してみるけど」

夕 「ちょうど夏休みでもあるから部活も休めるし、わたくしは大丈夫でしてよ」

雫 「私も、別段用事もないし、帰省もしなくていいし」

なぎさ 「オッケー。あとはまかしといて」


あやめ (電話口で)”そうですか、「春の屋」に決められましたか”

なぎさ 「はい。4人でちゃんと議論して決めましたよ」

あやめ ”まあ、あの4軒なら、春の屋かお宿花の湯だろうとは思ってましたけど”

なぎさ 「でも、どうして私たちのところに・・・」

あやめ ”もとはといえば、「温泉旅行ブームを作ろう」っていうテレビ局の呼びかけに私の師匠も一枚かんでいるというのがあるのね"

なぎさ 「テレビって、そういうところ、あるよね。何とか流もブームになっているってよく言ってるし」

あやめ ”でも、師匠が大まかな段取りをしたら、個別の構成作家に投げるんだけど、私にも『作ってみないか』って依頼が来たのね。まだヒヨッコの私にっっ"

なぎさ 「それってもしかして、凄いことだよね」

あやめ "そうなの。キャスティングも行き先選定も何もかも。で、浮かんだのが、ラジオアクアマリンの面々だった、とこういうわけ"

なぎさ 「ちょっと待って。ラジオではまともでもど素人だよ、わたしたち。それで番組作っちゃうの?」

あやめ ”あら?資料にも、それらしいこと書いてありましたけどね”

なぎさ 「えー、ほんと?マジで…(資料をめくり目で読む)」

あやめ ”見つかった?”

なぎさ 「あ、ほんとだ…でも、私達でうまくコーナーなんか作れないですよ…」

あやめ ”その件ならご心配なく。カメラマン兼構成で私が現地に当日向かいますから…”

なぎさ 「それなら、何とか格好つくかな…ア!私達、テレビに出ちゃうんですけど?」

あやめ ”ああ、高校の対応?日ノ高も、鶴ケ岡女子も根回し済み。そこんところは抜かりなくてよ”

なぎさ 「さすがはあやめさんだわ。感服しました」

あやめ ”じゃぁ、受けてくれるってわかったんで、渾身の構成、考えるね。それじゃぁ”<プツッ>


---「春の屋」訪問当日---

かえで 「珍しいな、藍色が遅れるなんて」

なぎさ 「さっき、連絡あって、一本電車遅れたって」

雫 「珍しいこともあるものね」

夕 「人を待たせるなんて、サイテーですっていうのが口癖だったけど…まあ、いろいろあるんでしょうね」

なぎさ 「会社の人に止められたんだって。別件らしいけど」

かえで 「それにしてもおせーなぁ」

雫 「まあまあ。焦ったって電車が早く来るわけじゃないし…それより、はい、どうぞ」

かえで 「なんだよ?」

雫 「レモンスライスのはちみつ漬け。これでも食べて心落ち着けて」

かえで 「おっ、なかなか気が利くじゃん。(一枚とって口に)ン~、スッパー」

なぎさ 「夏って言ったらやっぱこれだよね…(手に取り)これ持って来てるなんて、雫ちゃん天才」

雫 「やっぱみんなで食べたいでしょう…あ、夕ちゃんも一枚どう?」

夕 「ではいただきますっ…うわっ、この酸味、久しぶりに味わいますわっ」

あやめ 「あーーー、遅くなっちまいました。藍色仮面、ただいま…」

かえで 「おお、ようやく来たかぁ、じゃあ宿に向かってシュッパーッつ」

あやめ 「あーーー、ちょっとちょっと。私にも段取りというものが…」

なぎさ 「かえでちゃん、ここは一つ、あやめさんを立てて・・・」

あやめ 「お、さすが元トップDJ! 場を読むのが素早いっっ」

かえで 「エエ、いきなり宿に行くんじゃないのかよ…」

夕 「そんな味気ない紀行番組なんか、即チャンネル変えられますわよ」

雫 「お宿だけじゃない、温泉街の魅力もお伝えしないと…」

あやめ 「おおお、さすが、皆さん、番組の趣旨がわかってらっしゃる!」

なぎさ 「まあ、それもこれもあやめさんの膨大な企画書メールで読んだから分かったけど…」

かえで 「知ってんだろ?オレが面倒くさがりで、そんなメールなんか読むわけないってことぐらい」

あやめ 「フフッ。かえでさんが読まないことも全て想定の範囲。つまりここまでは私の構成通りってことなんです」

なぎさ 「えっ、てことは、もう番組始まってるんですか?」

あやめ 「いや、正確には私が、この…」

と言いながらハンディを取り出す。

あやめ 「ハンディで撮り始めてからがスタートということになるんですが、一応台本を用意してますので、それに従って進めていただければよろしいかと…」バサッ

なぎさ 「(一冊ずつ手渡し、パラパラ開きながら)今からこの通りにやるんですか???」

かえで 「即興芝居に近いなぁ・・・アドリブでやっても構わね?」

あやめ 「本線がずれないなら、それでもいいですけど、一応目は通してくださいね」

雫 「私、固くなりそう…」

夕 「こういう時こそ度胸を決めるの、そうすれば何も怖いものなど無くなるわ」

あやめ 「さっすが元部長だけのことはある。その意気でお願いしますね」


あやめ 「では、参りますよぉ…」

  なぎさ 「みなさーん、こんにちわーー。私、地域FMアクアマリンでDJやってました、行合なぎさ 高校三年生です。きょうは、私と幼なじみの4人で、ここ、花の湯温泉にやってきましたぁぁぁ」

  なぎさ 「場所は、JRの熱海駅から電車で一時間弱。伊豆急行線の「花の湯温泉」駅。今、私はその駅頭に立っています」

あやめ (なかなかいい感じじゃないの。表情もいけてるわ)

  なぎさ 「今日は、DJ卒業記念、そして、最後の高校の夏休みを堪能しようとここにやってきたわけですが、一緒にマイクに向かっていた、DJ3人に登場してもらいましょう」

  かえで 「テレビをご覧の皆さん、初めまして、DJかえでこと、龍ノ口かえでって言います。日ノ坂高校のラクロス部の部長もやってました。皆さんに良いレポートができるよう頑張りますので、よろしくお願いします」

  雫 「はじめまして。私は、DJ雫。名前は土橋雫です。趣味はお菓子作りです。なんか今日行く旅館はスイーツも絶品だとか。楽しみです」

  夕 「皆様、初めまして。DJ夕こと、浜須賀夕です。私立鶴ケ岡女子の3年生です。私もラクロス部の部長をしていました。私の知見が皆様に良いご提案になるように努力いたしますので、よろしくお願いします」

  なぎさ 「さあ、それでは、お宿に向かってレッツゴー」

  かえで 「(というなぎさをフレームから押し出し)もいいんだけど、せっかくだから、温泉街のお店巡りもしていかない?」

  夕 「それがいいですわね、まだ日も高いし」

  雫 「甘味処はどうしてもチェックしときたいなぁ」


あやめ 「カッット」

なぎさ 「あやめさんのカット、面白い―――」

かえで 「特徴あるよな」

雫 「ちょっとびっくりしちゃった…」

夕 「で、今までのお芝居、いかがでした?」

あやめ 「うーん、オープニングで100%出してもらっては困るのでこんなところでいいと思いますね。リテイクなし、でいいでしょう」

4人 「「「「やったぁぁぁーー」」」」

あやめ 「実際時間は結構あるので、あとは台本の通りでお店を回っていきます。「花の湯織」のお店とランチに花の湯牛を出してくれるお店…グリル花の湯、あと、金平糖制作工房、池月和菓子店、稲荷神社、梅の香神社と回って、お宿ですからね」

なぎさ 「わかりました」


あやめ 「さあて、とりあえず、今日のお店やら、温泉街の取材はおしまい。いよいよ、お宿の取材ですよぉ」

雫 「それにしても疲れたなぁ。こんなにしゃべったのって初めてじゃないかなぁ」

かえで 「確かに。雫、和菓子屋さんでオレたちがドン引きするくらいしゃべってたもんな」

なぎさ 「そうそう。私たちがびっくりしちゃったよ」

夕 「こんなにしゃべる雫だったのかなって、私も思いましたし」

あやめ 「おかげで、十分に撮れ高も上がってますので」

なぎさ 「トレダカ?ああ、結構いっぱいいい絵が撮れたってことかぁ」

かえで 「それにしても…あやめさんって、結構様になってましたね、カメラマン姿」

あやめ 「まあ、それほどでも…まだ、駆け出しのヒヨッコですから、ここまで一人でするのなんて、武者修行みたいなものですから」

なぎさ 「でも、なんかすごくかっこいいんだなぁ」

夕 「私にこれをしろと言われてもできませんわ」

雫 「あーそろそろお宿かぁ。この最後の坂が曲者みたいね…」

あやめ 「さあ、それでは、旅館のエントランスに入るまでを撮りたいと思うので…みんな、台本チェックね」

夕 「ええっと…17ページかぁ」

あやめ 「それでは、その坂を上がり始めるところから、撮りたいと思いまぁす。よーいっアクショッ」


  なぎさ 「いやあ、花の湯温泉も、魅力的なお店がいっぱいだったね、夕ちゃん」

  夕 「そうでしたね。ひなびた温泉街だと思ってましたが、どうして、個性的なお店ばかりでしたね」

  雫 「私、あの和菓子屋さん、気に入っちゃったぁ」

  かえで 「オレはやっぱり花の湯牛だったなあ。こんな銘柄牛がいたなんて、知らなかったよ」

  なぎさ 「さて、今日、私たちがこの温泉に来たのは、ここのお宿を紹介するためなんだよね、かえでちゃん?」

  かえで 「ああ、そうそう。オレたちには分不相応っていう声もあるかも、だけど、オレたち女子高生から見た日本旅館の魅力ってものも感じてもらえたらなぁ、って考えてます」

  夕 「純和風のお宿のポテンシャルがいかほどのものか、お伝えしたいですね」

  雫 「私、緊張してきちゃったぁ…」

  なぎさ 「大丈夫、自然体でいればいいんだから…」


あやめ 「カッット」

かえで、思わず吹き出す。

かえで 「いやぁ、もうさすがに耐えられんわ、そのカット切り」

あやめ 「あら?私はいたって普通でしてよ」

なぎさ 「笑いを取りに来ていないのはわかるけど…特徴的なんだよね」

あやめ 「はい。宿導入部はこれでOK。あとは、皆さんの後姿をエントランスに向かっていくところを私が押さえますので、自然体で向かってくださいね。後でナレーションをかぶせますから」

なぎさ 「あ、そうか。後で音入れとかもするんだね」

あやめ 「そりゃそうでしょ?編集しないで撮って出しなんかにするわけないでしょうが」

なぎさ 「ああ、そりゃそうですよね」

あやめ 「では、このまま、皆さんは宿に向かってください」


なぎさ 「ごめんくださぁーい」

エツ子 「あっ、どうもいらっしゃいませ。ええっと・・・」

なぎさ 「今晩お世話になります」

エツ子 「ええっと・・・あ、行合様、土橋様、龍ノ口様、浜須賀様、そして中原様の5名さまでしたね」

一同 「「「「「はいっっ」」」」」」

エツ子 「ようこそいらっしゃいました。あ、マスコミ様もご一緒ですか?(あやめのハンディを見て)」

あやめ 「はい。ご予約の時にもお話してあったと思いますが…」

エツ子 「一応おかみに確認してまいりますので、しばしお待ちいただけますか?」

なぎさ 「え?あ、はい…」

玄関で待たされる5人。

峰子 「これはこれは大変失礼いたしました。首都圏テレビの河合さんからお話もいただいておりましたのに…お待たせいたしました。どうぞおあがりくださいませ」

かえで 「あーびっくりしたぁ、年齢低くてお断りされるのかと思ったぜ」

あやめ 「さすがにそれはなくてよ。ここの温泉のモットーがあるんですから、ね」

峰子 「(部屋に案内していきながら)はい。『花の湯温泉のお湯は、神様からいただいたもの。誰も拒まない。すべてを受け入れて、癒してくれる。』っていうのがあるんです。来ていただいた方の貴賤、国籍、性別、もちろん、タトゥーがあるから、と言ってお泊めしないことなどこの温泉地ではありえません」

夕 「それはすごいですわ。精神面では最先端を行ってますよ」

峰子 「差別や区別は、少なくともこの春の屋では一切ありません。行き届かないところもあるかもしれませんが、どうぞごゆっくり」


5人が通されたのは、「じんちょうげの間」。2番目に大きく、5-6人が泊まるのに最適の部屋だ。

そこへ”若おかみ”がやってくる。

おっこ 「失礼いたします」

なぎさ 「ええっっ、ここって、こんな子も働いてるのぉ?」

あやめ 「失礼な。ここの若おかみでいらっしゃいますわよ」

おっこ 「はいっ。このたびは、お泊りいただきまして、ありがとうございます。粗茶をお持ちしました。どうぞごゆっくりおくつろぎくださいませ」

かえで 「おおっ、滑舌もしっかりしてるねぇ。すごいや」

雫 「ねえ。おいくつ?」

おっこ 「12歳、小学6年生です」

夕 「まあ、しっかりしていらっしゃること。感心いたしましたわ」

あやめ 「実はなぎさが「春の屋」に決めてくれたことで、こっちもいろいろ企画を進めやすくなってね…」

なぎさ 「え?なんのこと?」

あやめ 「「若おかみチャレンジ」って企画なのね。例えば、雑巾がけとか、実際の接客とか…要するにただ単に女子高生が宿に泊まりに来ました、では中身が薄いでしょ?サービスショットも撮れればっていうのが上の考え方なのね。実際企画出すように言ったのは師匠で、私がいろいろ考えたんだけどね」

かえで 「ああ、なるほど。そりゃぁ、これだけお金かけるんだから、視聴者に楽しんでもらってもと取らないとね」

雫 「宿のいい宣伝にもなるし」

夕 「なんといっても、若おかみさんの可愛さがなんとも・・・で、お名前は?」

おっこ 「関織子って言います。「おっこ」って呼んでいただけたら、うれしいです」

かえで 「ほー、おっこちゃんかぁ…なんか、言いやすいな」

雫 「ほんとね」

おっこ 「で、皆さんのことは、私、なんとお呼びしたらいいでしょう?」

あやめ 「私が中原あやめ、あやめでいいわよ(メガネキラーン)」

なぎさ 「わたしはなぎさ」

夕 「わたくしは夕」

雫 「あたしは…雫」

かえで 「オレ、かえでっていうんだ」

おっこ 「ボーイッシュなのがかえでさんで、おしとやかなのが夕さん、メガネっ子が雫さん、藍色なのがあやめさん…」

なぎさ 「で、わたしは?」

おっこ 「その特徴的な四人じゃないのがなぎささん」

かえで 「あっはっは、おいおい、一番印象薄いじゃんかよ」

なぎさ 「おっこちゃん、ひどーい。なんかいい特徴見つけてよぉ」

おっこ 「うーん、なんか、こう、つかみどころがないっていうか…」

かえで 「まあ、実際そうだから仕方ないんだけどなぁ」

夕 「これでも一応ラクロス部の副キャプテンだったんですからね…」

雫 「おっこちゃんには、なぎさちゃんのいいところ見つけるのは早すぎるんだよ、きっと…」

あやめ 「まあ、そういうことにしときますか(笑い)」

なぎさ 「で、その、若おかみさんとの勝負企画って…」

あやめ 「ああ、台本に書いてあるから見ていただければいいかと。ええっと・・・」

夕 「23ページに。えっ?こんなにやるの?」

雫 「あっ、私好みの企画があるぅぅ」

あやめ 「そう。スイーツ対決ですね。厨房の使用許可もとってありますので思う存分腕を振るっちゃってください」

かえで 「で、オレとなぎさは、肉体労働対決、かあ…」

あやめ 「そういわない。小学生とマジのガチンコでやっても、大人げないんで、ちょっと色は付けてくださいね、絵面的にもおいしくないんで…」

かえで 「まあまあ、そこら辺は任しといてよ」

夕 「早速の対決がおしとやか対決、になってますけど…」

あやめ 「ええ。ほかの宿泊客のみなさんをお見送りしてから、立ち居振る舞いなどを先ほどの仲居さんのエツ子さんに指導いただいた上で、接客の作法がどうであるか、を見てもらうというものです」

夕 「でも、私、着物とか着たことないから…」

おっこ 「着付けは、エツ子さんがやってくれますので。一度袖を通してみるのもいいかもですよ」

あやめ 「すでに、あなたが着るべき着物は、準備されてますので、ご心配なく」

夕 「そういうのは、手回しいいんだから…」


一通りレクチャーも終わって、露天風呂に入る5人。

なぎさ 「よくよく考えたら、夕ちゃんと一緒にお風呂入るのなんて、初めてかもしれないなぁ」

かえで 「オレたちは、修学旅行とかでは一緒だったけど…」

雫 「そうだね」

夕 「考えてみたら、学校違ってたし、ほんと、初めてかも…」

あやめ 「まあ、私も、よもや、DJの4人と一緒のお風呂に入るなんて、夢にも思いませんでしてよ」

かえで 「(露天風呂に手を付けて)あっっ、結構熱めなんだな、ここって…」

雫 「ほんとだあ。源泉44度って書いてある」

夕 「ぬるめで長時間つかるのが私流なので、これは少し熱いかと…」

なぎさ 「私は平気。お父さんが熱めのお風呂好きだから…」

夕 「仕方ないわね。内湯で我慢しますわ…」(露天から室内に戻る)

かえで 「結構熱いぜ、ここのお湯…露天だから何とかつかれるけっど(ザブン)」

雫 「長時間は、ちょっと無理かも…」

なぎさ 「そう?全然平気なんだけどなあ。あやめさんはどんな湯加減?」

あやめ 「ち…ちょっと熱すぎかも…」

かえで 「うう…いい感じにあったまったら、飯だぜ、めしっっ」

なぎさ 「そうだね。ここの夕飯って結構おいしいらしいから楽しみぃぃ」


全員、浴衣に着替えて、夕飯の支度を見ている。

あやめ 「ああー、そこ、まだ箸つけちゃだめーー」

かえで 「そんなに言うなよ、腹ペコなんだぜ、みんな」

なぎさ 「まあまあ。あやめさんの段取りもあることだし、ここはひとつ構成サンに任せて…」

あやめ 「皆さんの段取りが整ってこそ、撮る意味ってのがあるんですから…」

雫 「おっこちゃんもしっかり働いているわね。さすが若おかみ…」

夕 「ホント。感心するわね」

ほどなく峰子がやってくる。

峰子 「大変お待たせいたしました。お料理の説明をさせていただきたくまいりました」

あやめ 「はい。それでは、台本19ページから行きますよぉ。おかみさんは、流れに沿って発言していただく感じで。それでは、よーい、アクショ」

  

  なぎさ 「旅館と言ったら、やっぱりお食事ですよねぇ」

  かえで 「見てください、この豪勢なお料理の数々」

  雫 「和、洋、中…色とりどりのお料理に目移りしてしまいますね」

  夕 「大規模旅館に勝るとも劣らない内容にびっくりですわ」

  なぎさ 「では、お料理については、時々でおかみさんにご説明いただきながら食べてまいりたいと思います」

  峰子 「春の屋のおかみでございます」

  なぎさ 「それでは、解説の方、よろしくお願いします。なんといっても目を引くのが、お刺身ですよね」

  峰子 「本日は、アジ、カンパチ、ノドグロ、キンメダイを盛りつけさせていただきました」

  なぎさ 「これって、当日のお魚の入荷の具合で…」

  峰子 「はいっ、お客様のニーズも承りますが、基本は入荷状況で変わります」

  なぎさ 「そうなんですね・・・では、まずは・・・これは?」

  峰子 「ああ、それがノドグロです。こちらではめったに入らないお魚なんですよ」

  なぎさ 「そうなんですか・・・では、いただきまぁす…うわっっ、すっごい歯ごたえですね」

  峰子 「アジはたたきになってますので、ポン酢でお召し上がりください」

  かえで 「ではさっそく・・・うん、新鮮だから、臭みもないし、薬味も絶妙ですねぇ」

  ・

  ・

  ・

夕食風景、撮影終了。もちろん、あやめは食べずにひたすらカメラを回していた。

あやめ 「オッ疲れ様でしたぁ…」

なぎさ 「あー、なんだか食べた気がしなかったよぅ」

雫 「そりゃあ、しゃべりながらでは、ねぇ」

夕 「今度来るときは、撮影抜きで来たいですわ」

かえで 「でもよぅ、すごくなかった?どれもこれも…」

なぎさ 「そうそう。ほんとにすごかった」

夕 「日本料理のいいところだけでなく、所々で見せる和洋折衷感がすごかったですわね」

あやめ 「で、申し訳ないんでけど、誰か、被写体になってくれる?」

なぎさ 「え?まだ撮るの?」

あやめ 「そう。私の分の料理を使って、ほら、食材を持ち上げたりする映像あるでしょ?あれを撮るの」

夕 「シズル感を出す映像を撮るってわけね」

あやめ 「さすが才女だけのことはありますね。それのことですわ」

雫 「あれって結構難しいんでしょ?」

あやめ 「でもね、これが撮れるようになったら一人前って師匠にも言われてて、何度か挑戦もしてるから、うまくいくと思うのね…」

なぎさ 「じゃあ、一応、私の食べたノドグロのお刺身を…こんな感じ?」

あやめ 「うん、悪くないですね。あ、どうせここは映像しか使わないから、なにしゃべってても大丈夫よ」

かえで 「で、その次がアジのたたきか…こんな感じでどうだ?」

あやめ 「別に同じ人が食べたスケジュール通りにリフトアップしなくても大丈夫だよ」

夕 「あとはどの料理を使う?」

あやめ 「そうねぇ・・・アマゴの塩焼きは、別に食べてるところを撮ったから大丈夫だし、あ、春の屋流チンヂャオロース、撮りますか」

雫 「あれは衝撃だったねぇ」

なぎさ 「パプリカでチンヂャオロースだもんね・・・あ、こんなもんでいい?」

あやめ 「いや、ここは千切りのお肉と色とりどりのパプリカを使っていることをアピールしないと…そう。それなら何使っているか、味付けは、とか、いろいろ伺えるでしょ?それでいいのよ」

雫 「最後はやっぱり温泉プリンだよねぇ」

あやめ 「色合いといい、滑らかさといい。見ているだけでよだれ出そうだったですもんね。では雫さん、スプーンですくったところを…」

雫 「こんな感じかな?」

あやめ 「さすがスイーツ女子。うまくいいところを狙ってすくってくれてるんで助かりますわ。で、これで素材どり、完了、ですね」

なぎさ 「あやめさん、お疲れさまでした」

あやめ 「あーーーーーー、やっとこれで私も食事にありつけるぅぅぅ」



ウリ坊 「なあなあ、作者ハン?オレたちを出してくれるつもりはあるんかいな?」

美陽 「そうよ。私達がいないとお話に厚みがつかなくてよ」

鈴鬼 「僕は甘いものが食べられたらそれでいいですぅ」

作者 「今回は主役はなぎさたちだから、しばらく様子を見ていてほしいな」

ウリ坊 「てことは、どっかで絡ませてくれるんやな?」

作者 「ほら、若おかみチャレンジするだろ?あそこだよ、あそこ」

美陽 「期待していいわね?」

作者 「ていうか、ちょっと引っ掻き回してほしかったりする、かな?」

鈴鬼 「そこまでやっちゃっていいんですかねぇ」

作者 「まあ、段取りは追って指示するから、とりあえず今日のところはこのまま・・・」

ウリ坊 「ほな、頼んだで!」



翌朝。

なぎさ 「あーよく寝たぁ…」

かえで 「おお、おはよう、ていうか、ちょっと遅すぎじゃね?朝飯、7時半からだってよ」

なぎさ 「エエ、そんなに早いの?寝過ごすところだったじゃん」

雫 「今日は宿泊客一堂に会して提供されるらしいから、あんずの間に来てくださいって、さっき仲居さんが…」

夕 「なぎさ!早くしないと遅れるわよ」

なぎさ 「わかったよ、もう・・・そんなに早いんなら起こしてくれたらよかったのにぃ…」

慌ててあんずの間に行く一同。そこへ現れたのがユーレイたち。


ウリ坊 「あれが女子高生っちゅう奴か。なんか、変なにおいが充満しとるわ」

美陽 「それは香水。結構身だしなみはきっちりしているみたいですね」

鈴鬼 「甘いものは…残ってなさそう、って、見つけたぞ!」

ウリ坊 「あーー、アカンアカン。人様のものに手出ししたら」

美陽 「そうよ。買った人ががっかりしちゃうから、それだけはやめてあげて」

鈴鬼 「ううう・・・今日はここに食事運ばれてこないからつまみ食いもままならないんですぅ」

ウリ坊 「まあまあ。またどっかで食べられるから心配すんな」

美陽 「それにしても…作者さんのいってた「若おかみチャレンジ」って、どんなことになるのかな…」

作者 「知りたい?」

ウリ坊 「まあ、知っておくのといきなり本番、とでは心構えが変わるからな」

作者 「雫のスイーツ対決は、鈴鬼君に任せるとして、おしとやか若おかみ対決は、美陽ちゃん! 」

美陽 「私の出番ね」

作者 「裾を引っ張るとか、ちょっとドタバタになるようにしてくれたら。あ、落書きは禁物ね」

美陽 「はいはい。わかりましたよ」

ウリ坊 「なあなあ、俺は何すんの?」

作者 「雑巾がけの方で頑張ってもらおうかな」

ウリ坊 「えー、俺がするんかいな」

作者 「いや、違う違う。まあ、これは一発勝負だから、小細工無理かなぁ…」

ウリ坊 「んーー、なんかようわからんけど、手伝えることがありそうやったら、声かけて」


あやめ 「さて、時刻は9時前。私たち以外は皆さんチェックアウトされたようですね」

夕 「もう…この和服っていうか着物って、ちょっと窮屈かも…」

かえで 「お、もう着替えたのか…なかなかばっちり決まってんじゃん!」

夕 「結構息苦しいのよ、かえで。あなたも着てみるといいわ」

なぎさ 「でも、かっこいいよ、夕ちゃん」

雫 「なんかこのままお嫁さんに行っちゃいそう…」

夕 「よしてよ、雫…」

おっこ 「さあて、これから撮りですね。皆さん、頑張っていきましょー♪」

かえで 「おっこちゃんって、凄い明るいんだなぁ」

なぎさ 「見習うべきところはあるよね」

あやめ 「では皆さん、あんずの間に集合ってことで…」


あやめ 「それでは「若おかみチャレンジ」を始めたいと思います。基本MCは、なぎささんでお願いします」

なぎさ 「はーい♪」

あやめ 「それでは、そろそろと行きますよ、よーい、アクショっ」


 なぎさ 「ここ「春の屋」さんには、かわいい若おかみさんがいらっしゃる、ということで、今回特別にカメラの前に出てきてもらうことにしました」

 おっこ 「春の屋の若おかみの、関織子です」

 なぎさ 「よろしくお願いしますね。で、若おかみさんは、いくつなんですか?」

 おっこ 「12歳、小学6年生です」

 なぎさ 「小6で、旅館のお手伝い…凄いですね」

 おっこ 「ここの温泉街にいる子供たちは、大なり小なり、家業を手伝ってますので私だけが特別ってことはありません」

 なぎさ 「そうなんですね。ちょっと安心しました」

 おっこ 「はいっ」


あやめ 「カッット」

なぎさ 「おいおいおい。びっくりしたよもう…」

おっこ 「何か不都合でもありましたか?」

あやめ 「いや…完璧すぎて、思わずカットって言っちゃったよ」

なぎさ 「えええ、なんでよぉ」

かえで 「このまま、二人の会話ばっかりになりそうだったから、止めたんじゃないの?」

雫 「その可能性あるわね」

夕 「(後ろのふすま越しに)もう、早く終わらせたいんだから、余計なことに時間使わないでよ」

あやめ 「ああ、そうだったね。それでは、さっきの続きから行きますね…」


 なぎさ 「私達、現役高校生も、若おかみさんの仕事ぶりがどんなのか、体験したいと思います。題して、「若おかみチャレンジのコーナー」」

 おっこ 「ぱちぱちぱち」

 なぎさ 「若おかみさんには、普段通りに行動していただきます。そこに私たちがどこまで再現、あるいは凌駕できるかを競い合いたいと思います」

 おっこ 「私は普通で、いいってことですよね?」

 なぎさ 「若おかみさんの普通って、私達の普通じゃないわけですから、ドジったりすることもあろうかと思いますが、そこは生暖かく見守っていただけたらいいかな、と思います。それでは、最初のチャレンジは、おしとやか対決。お嬢様学校に行ってる夕ちゃんが対戦相手です。それでは、夕ちゃん、お入りくださいっっ」

 夕 「(ふすまから立った状態で入ってくる/かえでと雫は拍手している)初めまして、夕と申します・・・」

 おっこ 「おはようございます」

 なぎさ 「それにしても、和服の似合うこと…おかみさん、いかがですか?」

 峰子 「エツ子さんに着付けていただいたんだけど、立ち居振る舞いといい、今日からおかみでやっていけますよ」

 夕 「では今日から私が…っておいっ」

 なぎさ 「(これアドリブかぁw)気が早いなあ。この勝負、勝ったら考えなくもないですよね。おかみさん?」

 峰子 「お待ち申し上げておりますww」

 なぎさ 「さあ大変なことになりました。夕ちゃんとしては負けられない試合。でも勝ってしまったらおかみさんの道が…」

 夕 「そこまで話、進めないでよ」

 なぎさ 「結果は後ほど、ということで、お二人にやっていただくのは、基本的な立ち居振る舞いです。すでに夕ちゃんも、エツ子さんから聞いていると思うので、ぶっつけ本番でやりたいと思うんですが・・・夕ちゃん、心構えはいかがですか?」

 夕 「やってできなくはないけど…ちょっとレクチャー頂けたらなあ、と…」

 なぎさ 「ということなので、ここはおかみさんに少しご教授いただきましょうか」

 峰子 「和式旅館は、一挙手一投足にもおもてなしが感じられるものにするべく、すでに形としても完成しています。例えるなら、ふすまは、一気に開けない、であるとか、基本は正座で対峙するとか。お迎えの際に斜めに相対するのも、お客様に対して柔らかくお迎えするためのものなのですよ」

 なぎさ 「いろいろあるんですね」

 峰子 「今日やっていただくのは、単に畳の上を歩いてもらうというだけ。でも、これこそが一番重要で、畳のヘリを踏まない、ということがどれほど難しいかを体感してもらいたいと思います」

 なぎさ 「はい。というわけで、畳の上を歩くだけというミッションですが、部屋の端から端までを2往復していただきます。この間に、畳のヘリを踏まないで歩けるのか、を競っていただきたいと思います」

 なぎさ 「ではお手本として、若おかみさんにやっていただきましょう。お願いします。」

すたすたと歩みを始めるおっこ。もちろん、ノーミスで2往復を完遂させる。

 一同  「パチパチパチ」

 なぎさ 「まあ、毎日のことなので、ミスらなくて当然といえますが、いかがでした?」

 おっこ 「カメラに見られている中で歩くのって、緊張しましたけどね」

 なぎさ 「仮にノーミスでも引き分け。それでは若おかみチャレンジ、おしとやか対決、浜須賀夕ちゃんの挑戦ですっっ」

夕、最初の片道は、ぎこちないながらでもヘリを踏まずに行くのだが、歩調が乱れ始める帰路の時点で足元がおぼつかなくなる。

何とか一往復はやり過ごしたが、2往復目の往路で、とうとう歩調の乱れを修正できず、ヘリを踏んでしまう。

だが、実は「見えざる手」が障害になっていたのだ。そう。美陽が悪さをしたのが遠因だった。

 一同 「あーーあ」

 夕 「た、たまたまですわ、ていうか、裾が引っかかったのが原因だし…」

 なぎさ 「というわけで、夕ちゃんは踏んじゃいましたので、この勝負、若おかみの勝利となりますぅ」

 一同 「パチパチパチ」

 おっこ 「普通の事しただけだから、なんか照れるな…」


あやめ 「カットォォォ」

かえで 「あ、掛け声変えてきた」

雫 「もしかして、かなりいい絵が撮れた時はこの掛け声なのかもね」

なぎさ 「そうなんですか?あやめさん?」

あやめ 「はいっっ。よもや浜須賀さんが失敗するとは思ってませんでしたので…」

かえで 「意外性が生み出す奇跡、かあ・・・」

なぎさ 「そんなこと言ってる場合じゃないよ。次の出番、かえでちゃんなんだから」

かえで 「げっっ!オレに確定なの?」

なぎさ 「だってMC、私で固定みたいだし、雑巾がけ対決なら、かえでちゃんの方が優位だろうし…」

かえで 「まじかよ…」

雫 「がんばってね。かえでちゃん!」

かえで 「なあなあ。夕の奴、ガチで取りに行って失敗したっぽいんだけど、オレの場合も全力投球でやるべきなのかな?」

あやめ 「ああ、絵面的なことですか?極力ガチンコであるように見せかけてください。ちなみにおっこちゃんのスピードは半端ないですから」

雫 「そうなんだ…」

なぎさ 「で。計測はどうするの?」

あやめ 「二人同時にスタートは難しいから、一人一人でやろうかなっと。陸上のタイム測るのと同じ装置も小型の奴を使うから」

かえで 「本格的だな、おいっ」

あやめ 「その準備もありますのでしばしお待ちのほどを」(廊下に計測機器をセットし始める)


あやめ 「さあて、準備もできたことですので第2弾「雑巾がけ対決」へとまいりましょう」

かえで 「それにしても、藍色の奴、生き生きしてんなぁ…」

雫 「自分にとってもいい仕事したいから、当然なんじゃない?」

なぎさ 「ほんと、びっくりしちゃったよ…」

おっこ 「次は、雑巾がけですね。お相手は…」

かえで 「ああ、オレだよ、オレ」

おっこ 「かえでさんですか。これはちょっと強敵ですね…」

ウリ坊 「なあなあ、オレ、なにしたらええんや?」

作者 「そうさなあ…高校生軍団にはスイーツの方で一矢報いた、風にしたいから、ここもすんなり負けてもらいましょ」

ウリ坊 「だから、どうやって邪魔するんや?」

作者 「雑巾がけだから、雑巾に細工っていうか、遅くなるように仕掛けをお願いしたいかな」

ウリ坊 「なあんや、そんなことか。それやったら簡単やで。任しときっ」


 なぎさ 「それでは「若おかみチャレンジ」第二弾は雑巾がけ対決です。春の屋さんの長い廊下をどちらが早く一本拭き切れるか、が勝負です」

 峰子 「織子は、毎日のようにやってるから、これ、さすがにハンディがいるんじゃ…」

 なぎさ 「・・・とも思いましたが、参加するかえでちゃんのたっての頼みで、ハンディなしとなりました」

 かえで 「自信あるんで、任せといてください」

 峰子 「さて、どうなっても知りませんよ…」

 なぎさ 「それでは、若おかみチャレンジ、今度は高校生チームの先攻で参ります。ではかえでちゃん、お願いしますっ!」


かえでは、途中でカラカラになってしまった雑巾が、逆に摩擦となってしまい後半失速。5秒12という平凡なタイムに終わった。


 かえで 「あちゃーー。後半乾いていく分、余計に濡らしとくべきだったかぁ…」

 なぎさ 「これは若おかみにとっては絶好のチャンス。それでは、若おかみさん、お願いしますっ!」


おっこにとっては、普通の仕事の一貫であり、いつも通りの動き。4秒33のタイムが出た。


 かえで 「というわけで、またしても、若おかみの勝利ぃぃ」

 一同 「パチパチパチ」

 おっこ 「普通にやっただけなのに…照れるなぁ」

 なぎさ 「おっこちゃんがすごいのか、わたしたちがへぼいのか、は視聴者の皆さんに判定してもらうことにしましょう」

 

あやめ 「カッッット」

なぎさ 「おおっと」

かえで 「ちょっと怒り気味なんじゃね? あやめの奴」

あやめ 「なかなか興味深い絵が撮れたんで、かなり興奮したせいですわ、きっと」

雫 「と、言うと?」

あやめ 「今回かえでさんが負けた理由はズバリ、堅絞りすぎた雑巾なんですね」

かえで 「どこまで濡らしていいかわからなかったんだから、しょーがねーだろ」

あやめ 「いやあ、べちゃべちゃだったら、仕上がりませんし、一度で済まなくなりますよね?」

かえで 「やっぱり、おかみは一日にしてならず、ってところだよなぁ…」

あやめ 「ということで、雫さんっ(ぱっと指をさす)」

雫 「あ、は、ハイ…」

あやめ 「せめてここは一矢報いたいところ。頑張ってくださいね」

雫 「でも、どんなもの作ったらいいんだろ…」

あやめ 「さあて、次は厨房対決ですからねぇ。楽しみ楽しみ~~~♪」

--------------------------------------------------------

 なぎさ 「というわけで、私達女子高校生の「春の屋」リポート、いかがだったでしょうか?」

 夕 「清楚な旅館、というだけではなく、風格と気品に満ち溢れていましたわね」

 雫 「私的には、お料理のおいしさがとびきりでした」

 かえで 「もうちょっと大人になったら泊まりたいなって思ったもんね」

 なぎさ 「そしてもう一つのお楽しみ企画も皆さんやられて見てどうでした?」

 夕 「たった畳の上を歩くだけでも作法があり、すぐには会得できないのがすごいですね」

 かえで 「たかが雑巾がけ、されど雑巾がけ…若おかみにはいろいろ教えてもらったって感じましたね」

 雫 「たまたま私がアイディアで勝てたけど、いい勝負だったですよね、プリン対決」

 なぎさ 「そうそう。あの和菓子屋さんに入ったことが結構反映されてたもんね」

 夕 「わたしたちも、全敗を免れたから、ほっとしてますわ」

 かえで 「毎日お菓子のことしか考えてない雫が勝てないでどうするって思ったけど、若おかみもすごかったよね」

 なぎさ 「はい。一時はどうなるかと思いましたが・・・」

 

あやめ 「カットカット」

なぎさ 「あ、あれ?なんか間違えたかな?」

あやめ 「クロージングはレポートの最重要ポイント。ここはしっかり撮りたいんですよ」

かえで 「で、なんで止めたの?」

あやめ 「ちょっと一人ずつの表情も入れたいなぁって、思ったんで…」

雫 「通しで感想言っていかないことにするんだね?」

あやめ 「その通り。まあ、一旦残りの部分を撮って、あとは個人的に抜いた状態で、セリフを言ってもらいましょうかね」

なぎさ 「りょうかぁい。じゃあ、最後のページそのまま演じるね」


 なぎさ 「それでは、これにて、私達、現役高校生の、元DJによる「春の屋」リポートはおしまいです」

 かえで 「かわいい若おかみもいますし」

 雫 「美味しい料理とおもてなしと」

 夕 「素敵な温泉で癒されること、間違いなしですわ」

 なぎさ 「みなさんもぜひ、花の湯温泉の、「春の屋」にお越しください」

 一同 「「「「まってまーーーーす」」」」


あやめ 「うーーーーん、カットォォォォォ」

かえで 「あ、あやめ、モーレツに感動しているぞ」

雫 「ほんとだ、顔、くしゃくしゃ」

夕 「ここまで泣いたあやめさん、初めて見ましたわ」

あやめ 「み”な”さ゛ん”、ほ゛ん”と゛う゛に”あ”り”か゛と゛う゛・・・」(号泣)

なぎさ (近寄り) 「まあまあ、あやめさんこそ、お疲れさまでした」

かえで 「オレたちも楽しかったぜ。ありがとな」

雫 「あやめさん・・・」

夕 「成し遂げたので緊張の糸が切れたんでしょうね」

あやめ 「こんな、絵が、撮れるなんて、私は、幸せ者です…」(しゃくりあげながら)

なぎさ 「まあ、とりあえず、帰りましょうよ。玄関先でたむろっているのも何だし。あ、最後にあの和菓子屋さん、寄っとく?」

かえで 「おお、いいねえ。食べたかった奴、結構あったし」

雫 「大賛成っっ!ご主人にもいろいろ聞きたいことまだまだあるし…」

夕 「もう取材は終わってますのに…」

あやめ 「はぁ…やっと落ち着きました。でも、本当に、皆さんの協力のおかげで、ものにできそうです。ありがとう」

なぎさ 「後は編集の方、頑張ってくださいね」

かえで 「そうだよ。番組の一コーナーとして放送されないと意味ないんだからね」

夕 「最後はあやめさんの手腕にかかっていますわ」

雫 「私のコーナーは少なめでいいから…(テレ)」

あやめ 「はっはっは。最後はこの藍色仮面にまっかせなさぁーい」

なぎさ 「ほっ。これで大丈夫そうだね」

かえで 「まったく。この一言が出たら、任せてられるもんな」

夕 「放送が楽しみになってきましたわ」

雫 「私は、ちょっと不安かな…」


放送当日。 

鉄男 「今日だろ?みんなが旅館泊まったレポートが放送されるの?」

なぎさ 「そうだよ。みんなちゃんと録画するって、LINEも入ってた」

みつえ 「また、あんた、バカなこと言ってないだろうね?」

なぎさ 「大丈夫。ていうか、編集されてるよ、多分」

みつえ 「だといいけど・・・」

鉄男 「お、始まったな。さすがに一発目のコーナーじゃないんだ…」

なぎさ 「北から南からってことらしいから、最初が北海道の定山渓なのは当然じゃない?」

みつえ 「あ、場所が切り替わった…別府かあ。そうそう、二人が初の温泉旅行に行ったのって、別府だったよね。お父さん?」

鉄男 「ああ、そうだったなあ。系列の鉄道会社の保養所が安く使えるってんで、一度行ったよ。新婚旅行はハワイだったけど」

なぎさ 「それって、私が生まれる前?」

鉄男 「そうそう。でも、九州新幹線なんてなかったし、飛行機もべらぼうに高かったから、フェリーで行ったんだっけ・・・」

みつえ 「なつかしいわねぇ」

ナレーション 「CMの後は、フレッシュなレポーターが伊豆の秘湯を体験。えっ、若おかみは小学生??」

なぎさ 「あ、ここからそろそろ始まるよ!」


CM明け。

  司会 「さて、北海道と九州の温泉地を巡ってみましたが、次は首都圏至近の温泉地・伊豆半島ですよね」

  温泉博士 「はい。熱海や修善寺、伊豆長岡といった著名な温泉が多数存在する、日帰りでも訪問可能な温泉地ですよね」

  司会 「で、今回は、その中でも最近大規模旅館の出現で活気のあふれている「花の湯温泉」を、なんでも、フレッシュなレポーターが報告していただけるとか…」

  温泉博士 「そうなんですね。私もどういう内容になるのか、ちょっと楽しみです」

  司会 「それでは、6カ所目、花の湯温泉です。どうぞ。」


   なぎさ 「みなさーん、こんにちわーー。私、地域FMアクアマリンでDJやってました、行合なぎさ 高校三年生です。きょうは、花の湯温泉にやってきましたぁぁぁ」

   なぎさ 「場所は、JRの熱海駅から電車で一時間弱。伊豆急行線の「花の湯温泉」駅。今、私はその駅頭に立っています」

   なぎさ 「今日は、DJ卒業記念、そして、最後の高校の夏休みを堪能しようとここにやってきたわけですが、一緒にマイクに向かっていた、DJ3人に登場してもらいましょう」

   かえで 「テレビをご覧の皆さん、初めまして、DJかえでこと、龍ノ口かえでって言います。日ノ坂高校のラクロス部の部長もやってました。皆さんに良いレポートができるよう頑張りますので、よろしくお願いします」

   雫 「はじめまして。私は、DJ雫。名前は土橋雫です。趣味はお菓子作りです。なんか今日行く旅館はスイーツも絶品だとか。楽しみです」

   夕 「皆様、初めまして。DJ夕こと、浜須賀夕です。私立鶴ケ岡女子の3年生です。私もラクロス部の部長をしていました。私の知見が皆様に良いご提案になるように努力いたしますので、よろしくお願いします」

   ナレーション 「鎌倉・日ノ坂でDJをやっていたという4人。彼女たちが向かった先は…」


なぎさ 「そう。ここから雫ちゃんの大活躍が見られるんだけど…」

みつえ 「そうなんだ。あの子、お菓子大好きだからね」

鉄男 「お、うまそうなステーキじゃないかぁ」

なぎさ 「花の湯牛って言ってね。ブランドなんだけどなかなか手に入らないんだって。私はハンバーグにしたけど、肉の甘みがすごかったなぁ」

みつえ 「あ、池月和菓子店、だって」

なぎさ 「そうそうここから雫ちゃんが…あれ?」

鉄男 「あんまり映ってないじゃないか。まさか、カットされたんかな?」

なぎさ 「うーん、どうやらそうみたい」

みつえ 「でも、意外といい感じの温泉街って感じだったわね。お土産物屋さんもいっぱいあったし」

なぎさ 「でしょう?」

鉄男 「宿に入るまで、結構じっくりやってたよなあ。ほかがサラッとだったのに…」

なぎさ 「本当ね。しかも、CMまたぎだし…」


   ナレーション 「『春の屋』旅館は、部屋数5部屋。しかし、その規模ゆえ、きめの細かいサービスとくつろぎが約束される、極上の空間が提供されているのがほかとの違い。競争率も激しく、土日の予約はすぐさま埋まるほど」

みつえ 「へぇ。こんな旅館だったのね。あなたたちには不釣り合いも甚だしいけど」

 

   なぎさ 「旅館と言ったら、やっぱりお食事ですよねぇ」

   かえで 「見てください、この豪勢なお料理の数々」

   雫 「和、洋、中…色とりどりのお料理に目移りしてしまいますね」

   夕 「大規模旅館に勝るとも劣らない内容にびっくりですわ」

   なぎさ 「では、お料理については、時々でおかみさんにご説明いただきながら食べてまいりたいと思います」

   峰子 「春の屋のおかみでございます」(テロップに、関峰子、と出る)

   なぎさ 「それでは、解説の方、よろしくお願いします。なんといっても目を引くのが、お刺身ですよね」

   峰子 「本日は、アジ、カンパチ、ノドグロ、キンメダイを盛りつけさせていただきました」

   刺身のドアップが映し出される。  

   なぎさ 「これって、当日のお魚の入荷の具合で…」

   峰子 「はいっ、お客様のニーズも承りますが、基本は入荷状況で変わります」

   なぎさ 「そうなんですね・・・では、まずは・・・これは?」

   峰子 「ああ、それがノドグロです。こちらではめったに入らないお魚なんですよ」

   リフティングされたノドグロの刺身のカットイン。

   なぎさ 「そうなんですか・・・では、いただきまぁす…うわっっ、すっごい歯ごたえですね」

   続いて、アジのたたきを皿からすくうところがインサートされる。

   峰子 「アジはたたきになってますので、ポン酢でお召し上がりください」

   かえで 「ではさっそく・・・うん、新鮮だから、臭みもないし、薬味も絶妙ですねぇ」


みつえ 「あなたたち、食レポ、なかなかのものじゃない」

なぎさ 「えへへっっ」

鉄男 「十分やっていけるぞ。もう芸能界入ったらとどうだ?」

なぎさ 「ちょっ、ちょっと、お父さん、本気にしちゃうじゃない・・・」

みつえ 「でも、これだけの映像、なかなか録れてるわね。お刺身のアップとか…」

なぎさ 「これも、元DJのあやめさんが一人で撮ったんだよ」

鉄男 「へえ、一人で・・・それはすごいなぁ。」


   ナレーション 「次の日の朝・・・」

   なぎさ 「ここ「春の屋」さんには、かわいい若おかみさんがいらっしゃる、ということで、今回特別にカメラの前に出てきてもらうことにしました」

   おっこ 「春の屋の若おかみの、関織子です」

   なぎさ 「よろしくお願いしますね。で、若おかみさんは、いくつなんですか?」

   おっこ 「12歳、小学6年生です」

   なぎさ 「小6で、旅館のお手伝い…凄いですね」

   おっこ 「ここの温泉街にいる子供たちは、大なり小なり、家業を手伝ってますので私だけが特別ってことはありません」

   なぎさ 「そうなんですね。ちょっと安心しました」

   なぎさ 「私達、現役高校生も、若おかみさんの仕事ぶりがどんなのか、体験したいと思います。題して、「若おかみチャレンジのコーナー」」

   おっこ 「ぱちぱちぱち」

   なぎさ 「若おかみさんには、普段通りに行動していただきます。そこに私たちがどこまで再現、あるいは凌駕できるかを競い合いたいと思います」

   おっこ 「私は普通で、いいってことですよね?」

   なぎさ 「若おかみさんの普通って、私達の普通じゃないわけですから、ドジったりすることもあろうかと思いますが、そこは生暖かく見守っていただけたらいいかな、と思います」

   ナレーション 「最初の対決は「おしとやか対決」。DJ夕さんが和服で登場してきました」

   夕 「(ふすまから立った状態で入ってくる/かえでと雫は拍手している)初めまして、夕と申します・・・」

   おっこ 「おはようございます」

   なぎさ 「それにしても、和服の似合うこと…おかみさん、いかがですか?」

   峰子 「エツ子さんに着付けていただいたんだけど、立ち居振る舞いといい、今日からおかみでやっていけますよ」

   夕 「では今日から私が…っておいっ」(笑い声のインサート)

   なぎさ 「気が早いなあ。この勝負、勝ったら考えなくもないですよね。おかみさん?」

   峰子 「お待ち申し上げておりますww」

   ナレーション 「おしとやか対決の内容、それは…」

   峰子 「今日やっていただくのは、単に畳の上を歩いてもらうというだけ。でも、これこそが一番重要で、畳のヘリを踏まない、ということがどれほど難しいかを体感してもらいたいと思います」

   なぎさ 「はい。というわけで、畳の上を歩くだけというミッションですが、部屋の端から端までを2往復していただきます。この間に、畳のヘリを踏まないで歩けるのか、を競っていただきたいと思います」

   なぎさ 「ではお手本として、若おかみさんにやっていただきましょう。お願いします。」

   ナレーション 「若おかみは、そのミッションを難なくクリア」

   一同  「パチパチパチ」

   なぎさ 「まあ、毎日のことなので、ミスらなくて当然といえますが、いかがでした?」

   おっこ 「カメラに見られている中で歩くのって、緊張しましたけどね」

   なぎさ 「仮にノーミスでも引き分け。それでは若おかみチャレンジ、おしとやか対決、浜須賀夕ちゃんの挑戦ですっっ」

   ナレーション 「さて、夕ちゃんの挑戦ですが、最初の出だしはよかったものの、2往復目で躓き、ヘリを踏んづけてしまいました」

   一同 「あーーあ」

   夕 「た、たまたまですわ、ていうか、裾が引っかかったのが原因だし…」

   なぎさ 「というわけで、夕ちゃんは踏んじゃいましたので、この勝負、若おかみの勝利となりますぅ」

   一同 「パチパチパチ」

   おっこ 「普通の事しただけだから、なんか照れるな…」


みつえ 「へえ。こんな企画もやってたんだ」

鉄男 「ていうか、この女の子、いくつなんだい?」

なぎさ 「あ、若おかみの方ね。12歳とか言ってたっけ。さっき自分でも言ってたよ」

みつえ 「まだ小学生なのに、背筋もすっと伸びてるし、すごいね」

なぎさ 「で、次がかえでちゃんの雑巾がけ対決なんだけど…」

 

   なぎさ 「それでは「若おかみチャレンジ」第二弾は雑巾がけ対決です。春の屋さんの長い廊下をどちらが早く一本拭き切れるか、が勝負です」

   峰子 「織子は、毎日のようにやってるから、これ、さすがにハンディがいるんじゃ…」

   なぎさ 「・・・とも思いましたが、参加するかえでちゃんのたっての頼みで、ハンディなしとなりました」

   かえで 「自信あるんで、任せといてください」

   峰子 「さて、どうなっても知りませんよ…」

   なぎさ 「それでは、若おかみチャレンジ、今度は高校生チームの先攻で参ります。ではかえでちゃん、お願いしますっ!」

   ナレーション 「勢い込んで出発したDJかえででしたが、後半、雑巾が渇いてしまい滑らず」

   なぎさ 「タイムは…5秒12。」

   かえで 「あちゃーー。後半乾いていく分、余計に濡らしとくべきだったかぁ…」

   なぎさ 「これは若おかみにとっては絶好のチャンス。それでは、若おかみさん、お願いしますっ!」

   ナレーション 「さすがは若おかみ。一切躓くことなくスイスイっと一本通り抜ける」

   なぎさ 「タイムは…4秒33! というわけで、またしても、若おかみの勝利ぃぃ」

   一同 「パチパチパチ」

   おっこ 「普通にやっただけなのに…照れるなぁ」

   なぎさ 「おっこちゃんがすごいのか、わたしたちがへぼいのか、は視聴者の皆さんに判定してもらうことにしましょう」


なぎさ 「で、ここから雫ちゃんのスイーツ対決になだれ込むんだ」

みつえ 「そうなのね。でも実際のところはどうだったの?」

なぎさ 「当初は別々のものを作ることになってたんだけど、食材の都合で、結局プリン対決になったのね」

みつえ 「ふんふん」

なぎさ 「若おかみは自信作の露天風呂プリン、雫ちゃんは、上下で味の違う、コントラストプリンにしたのね。ちょっと二番目を入れるタイミングが早かったせいで、境目がいい感じのグラデーションになったこともあって、評価が上がったの。で、料理人の方が雫ちゃんに軍配挙げたの」

鉄男 「そうか。いまそのシーンやってるけど、若おかみのより手間暇かかってるじゃないか」

なぎさ 「今回は味の面だけ。手間暇考えたら、そりゃぁ露天風呂プリンでしょうよ」

みつえ 「要するに、オマケしてもらって1勝2敗だったってこと、でしょ?」

なぎさ 「そんな感じかな…」


   なぎさ 「というわけで、私達女子高校生の「春の屋」リポート、いかがだったでしょうか?」

   夕 「清楚な旅館、というだけではなく、風格と気品に満ち溢れていましたわね」

   雫 「私的には、お料理のおいしさがとびきりでした」

   かえで 「もうちょっと大人になったら泊まりたいなって思ったもんね」

   なぎさ 「そしてもう一つのお楽しみ企画も皆さんやられてみてどうでした?」

   夕 「たった畳の上を歩くだけでも作法があり、すぐには会得できないのがすごいですね」

   かえで 「たかが雑巾がけ、されど雑巾がけ…若おかみにはいろいろ教えてもらったって感じましたね」

   雫 「たまたま私がアイディアで勝てたけど、いい勝負だったですよね、プリン対決」

   夕 「わたしたちも、全敗を免れたから、ほっとしてますわ」

   かえで 「毎日お菓子のことしか考えてない雫が勝てないでどうするって思ったけど、若おかみもすごかったよね」

   なぎさ 「はい。一時はどうなるかと思いましたが・・・」

   ナレーション 「若おかみの交流もあった女子高生の和風旅館リポートでした。最後に」

   なぎさ 「それでは、これにて、私達、現役高校生の、元DJによる「春の屋」リポートはおしまいです」

   かえで 「かわいい若おかみもいますし」

   雫 「美味しい料理とおもてなしと」

   夕 「素敵な温泉で癒されること、間違いなしですわ」

   なぎさ 「みなさんもぜひ、花の湯温泉の、「春の屋」にお越しください」

   一同 「「「「まってまーーーーす」」」」

   スタジオの拍手音がインサート。


  司会 「いやあ、実に面白いレポートでしたねぇ。」

  温泉博士 「あれって、ずぶの素人さんでしょ?あそこまでレポートできるってなかなかないですよ。みんなカメラ向けられたら硬直しちゃうし」

  司会 「普通の女の子が普通にレポートしているだけと思われがちですが、結構手間暇かかってますよ」

  温泉博士 「それも含めて、斬新なレポートでした」

  司会 「で、花の湯温泉に戻るんですが・・・」

  温泉博士 「今や日本の旅館業の先頭を切って走っている「秋好旅館」がある温泉街、ということで急激に注目が集まっている場所なんですね。「春の屋」さんも創業自体はそんなに古くはないんですが、昭和初期に始めた関 春樹という創業者が自身の名前から「春の屋」と名付けたのが始まりと言われてます」

  司会 「そうなんですね。いやあ、それにしても、初々しいレポートで、こっちまで癒されそうでした」

  温泉博士 「まったくです」

  ここで拍手のインサート。花の湯温泉のコーナーは終了する。


後日。

なぎさ 「あー面白かったぁ」

かえで 「次の日、オレたち思いっきり有名人だったよな?」

夕 「わたくしもですわ。毎日大変で…」

雫 「でも、私のシーン、あんまりなかったような…」

あやめ 「まあまあ。そうぼやかない。和菓子の番組ならもっと出てたけど、温泉旅館がメインだからね…」

なぎさ 「でも、なんか番組の評価、高くない?」

夕 「それは私も思いましたわ」

かえで 「掲示板見てたけど、オレたちがでてきた途端、一気に投稿が始まったっていうし…」

雫 「プリンのレシピ、教えてってメールも結構来てるんでしょ?」

あやめ 「エエ、そりゃもう。番組HPに急遽載せたくらいですから…」

なぎさ 「でも、いい想い出になったよね」

雫 「それは確かに」

かえで 「まあ、一日や二日、勉強しなくたって大勢に影響ないし…」

夕 「それはそうですわね。行って正解だったですわね」

あやめ 「そう言っていただけると、私も救われます。高評価のおかげで、一本番組決まりそうですし…」

なぎさ 「えっ、ほんとに?大出世じゃないですかぁ」

かえで 「そりゃよかった。そうとわかりゃあ、これから、あやめさんの祝賀会でも開かね?」

雫 「さんせーい」

夕 「自分のことのように私もうれしいですし」

かえで 「バイトしてた「SEAGULL」でやろうよ、あそこなら無理もサービスもしてくれるだろうし…」

なぎさ 「よぉし、みんなであやめさんを盛り立てよう」

一同 「「「「「おーーーーー」」」」」

   


後書き

僕のコラボ小説の設定、というか、決め事があります。それは「基本時間軸を動かさない」こと。
なので、DJたちが大人になって春の屋に訪れた時におっこが小学生、はあまりにもおかしいので、書くのをやめたという経緯があります。
かといって、高校生レベルには荷が重い(格的にも、金額的にも)純日本旅館。これをどう埋めようか、となって、あやめの番組制作に4人がかかわる、というプロットはどうだろう、となったのが今作品の端緒です。
温泉旅行に行こう、的な番組コンセプトに、女子高生がレポーターとして活躍するというありえないシチュエーションでしたが、やっぱりそれだけでは面白くないので、ウリ坊たち3人にも賑やかしで出てもらいました。私との会話という、ちょっとありえない流れにしたのも、物語に少し変化を与えたかったという意味合いがあります。もっとも、鈴鬼君に関しては、結局出たか出なかったのかがわかりにくくなりましたが、私の構想の中に、厨房対決は最初から文章化するつもりがなかったので、こうなった、という背景があります。
番組を見る行合家からは、当初の構想になかったもの。でもおかげでいろいろと説明できたのでよかったって思ってます。
これで、秋の創作活動は、仕掛なくなり、いったん終了。オリジナル長編は、実は、収束しようとする際の道筋に難儀しているので、いまだ5本目に取り掛かれないでいます。そちらの方はしばしお待ちのほどを。


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