2018-11-20 00:43:07 更新

その鎮守府は、銀髪の提督が運営していた。

最前線とまでは言えないが、激戦の繰り広げられている海域。

そんなところに配置される…銀髪の女提督にはとてつもない重圧がかかっていた。


重圧の原因はそれだけではないのだが。


この提督は陰でこう呼ばれている。

深海の魔女、銀の呪い。などと。



世界は、現状深海棲艦と一進一退の攻防を繰り広げている。

それもこれも艦娘の働きによるところが大きい。

しかし、艦娘の権利はなかなか拡大されない。

主に、陸軍や市民団体といった組織が抵抗を続けている。


この艦娘達を束ねるのが提督。

提督は人間だ。

この女提督ももちろん人間だ。


しかし


かつて深海棲艦が現れ世界の海から人類を駆逐していき、一部の陸上を制圧した頃。

誰もが見た。

おぞましい化け物と、

それを率いる


銀髪の女達。


人々の記憶に強く焼き付いたのは化け物だけではなかった。

その美しすぎる銀髪、透き通るような白すぎる肌。


そこから、今の状況に至るまで誰もそれらを忘れることはなかった。

そして深海棲艦への恨みつらみは強く印象に残った銀髪の娘に向けられた。

そして、銀の髪は忌むべき対象となったのだ。

もちろん、銀髪に対してあまり執着してない者も少なからずいる。

(でなければ、提督になどなれはしない)

だが、依然差別は根強くこの娘が提督になれたのも奇跡としか言いようがない。

一因としては今の元帥が実力さえあれば採用してくれる人であるから、と言うこともある。


なんにせよ、ここの鎮守府の提督は実績を重ねつつもあらゆるところからの妨害、嫌がらせを受けながら運営しているのだ。

並大抵の器ではないことは自明だ。


夕立「てーとくさん!遠征おわったっぽーい!」

元気よく金髪の女の子が執務室に入って来る。

提督「お疲れ様。夕立ちゃん」

夕立「ぽーい!大成功っぽい!!」

提督「よかった」

少しぎこちなくではあるが微笑む。

夕立「やっぱてーとくさんには笑顔が似合うっぽい!」

提督「…そう?ありがとう」

少しきょとんとしつつも答える。

夕立「ぽい!失礼しますっぽい!ごっはんーごっはん」

元気よく、語尾に♪が付きそうな感じで夕立が執務室を出ていく。


提督(可愛いなぁ)

夕立と入れ替わるようにして、秘書艦がやってくる。

鈴谷「てーとくー!お疲れ様~!」

提督「鈴谷も、ね?」

鈴谷「ありがとっ!お茶淹れてきたよ!」

提督「ありがとう。鈴谷」

提督がお茶を飲むしぐさ一つを見ても何か上品さを感じる。

それもそのはずこの提督、本名は神崎綾という。

神崎家はこの国で俗にいう上流階級に属するお金持ちのお家なのだ。

今でこそ本家との関係が冷え切ってしまって本人はお金持ちではないが。

本家にいたときに叩き込まれたものが今でも生きているのだ。

本家ではいい思いはしなかったが、このことだけは役に立ついいことだと思っている。


綾「ふぅ…。資源カツカツねぇ…」

鈴谷「やっぱ厳しい?」

綾「ええ。運営は何とかなるけれど大規模作戦には少し心もとないわ…」

鈴谷「大規模作戦かぁ…もう計画されてるのかな?」

綾「私には何も知らされてはいないけれど多分あるんじゃないかしら…」

鈴谷「何も知らされてないなんてあるの…?」

綾「まぁ…私はあまりあそこでは気に入られていないようだし…ね」

苦笑いを浮かべつつそう答える。

鈴谷「てーとくのこんなに綺麗な髪なのにね」

綾「その言葉だけで嬉しいわ」


鈴谷「はい!書類片付け終わったよー!」

綾「ありがとう。今日の書類は…これで終わりね」

最後の書類に判子をついて、執務を終わらせる。

綾「まだ昼間だけど…何しようかしら」

鈴谷「何しようねぇ…お出かけ…は無理か」

綾「お出かけ…行きたい?」

鈴谷「無理しなくて大丈夫だよ?てーとく!」

綾「んー…じゃあ次のお休み。お出かけしよう?」

鈴谷「いいの?やったぁ!」

久しぶりの綾とのお出かけに飛び上がって喜ぶ。


綾は銀髪のお陰で外に出るだけで陰口をあらゆるところから言われるのであまり外が好きではないのだ。

しかも、毎日のように鎮守府の前には艦娘反対派や人権擁護を自称する人間、銀髪を半ば公然と差別するようなことを言う団体達がたむろしているのだ。

いつ、綾が攻撃されるか。いや、鎮守府内の銀髪の娘が攻撃されるかもわからないのだ。

そのため、鎮守府の外周の壁には数十メートルおきに見張りの兵隊が付いている。

壁を乗り越えてくる不審者がいたら即刻撃つように言われている。

この者たちは綾のことを特段差別していない、どころか逆に好いているこの世界では物好きに入る部類の人間たちだ。


鈴谷と綾がワイワイ話しているときに扉がノックされる。

綾「入っていいよ」

明石「失礼します…」

少し遠慮がちに扉を開けて入ってくる。

綾「どうかしたの?明石」

明石「実は…」

ためらいつつ口を開く。

明石「翔鶴さんがまた例の人々に物を投げられて軽いけがを…」

綾「また…?」

明石「はい…。もう手当はしたので大丈夫ですが…」

綾「精神的ケアがいるね…」

明石「はい…やはりショックだったようで。瑞鶴さんと今は部屋にいます」

綾「あとで私も行ってみるね」

明石「お願いします」


外で構えてる者たちは時折、休日外出している艦娘(特に銀髪)に絡んでくることが多々ある。

ここ最近その回数は増えている。

守ってきた人々の中からそのように好意的でない絡み方をされて思い悩む娘も増えている。

やはり繊細な年ごろなのだ。

戦働きをしているうえにさらに心労をかければ、いつ心が壊れてしまうともわからない。


綾「はぁ…どうにかならないかなぁ」

鈴谷「表のアレ邪魔だよねぇ…」

綾「アレとか言っちゃダメよ」

鈴谷「優しいね…やっぱてーとくはさ」

綾「優しくあれるのは皆がいるからよ」

鈴谷「本当…?辛くない?」

綾「大丈夫よ」

そういって鈴谷を軽く抱きしめる。

鈴谷「無理だけはしちゃだめだからね、てーとく!」

綾「わかってるわ」


その後、執務室を鈴谷に少し任せて翔鶴の元へ向かう。

綾「翔鶴の部屋は…ここね」

扉をノックすると中から声が聞こえてくる。

瑞鶴「はーい」

綾「私よ」

瑞鶴「てーとくさん!入って入って!」

綾が入ると翔鶴と瑞鶴がベッドに座っていた。

綾「翔鶴…大丈夫だった?」

翔鶴「提督…はい。傷は大したことありませんから…」

少し寂しげな表情を浮かべながら答える。

綾「…ごめんね。翔鶴」

翔鶴「提督…!謝らないでください。提督は別に悪いんじゃないんですから…」

綾「でも私があの人たちを鎮められてないからこんなことに…」

翔鶴「気にしないでください…。そういう人がいることは…わかってますから」

綾「ごめんね…」


暫く話した後、綾が部屋から出てくる。

綾「じゃあ…あとはよろしくね」

瑞鶴「わかってるよ」


執務室に戻った後、今後どのようにするか対策を鈴谷と少し考えていた。

綾「どうしようかなぁ…」

鈴谷「下手に手出したらまずいよねぇ…」

綾「そうなんだよね…めんどくさい…」

鈴谷「大本営…」

綾「ダメね…私じゃ顔利かないもの」

鈴谷「きれいな髪なのに…」

綾「…もう慣れたわ」

鈴谷「なんかごめんね…」

綾「大丈夫よ…問題ないわ」


綾「鈴谷は今日正門のほう行った?」

鈴谷「朝少しだけ見に行ったけど…いつも通りにぎやかだったよ?」

綾「そっかぁ…」

鈴谷「てーとく近づかない方がいいよ?」

綾「そんなつもりはないよ」


綾「はぁ…八方塞がりね…」

鈴谷「どんなに厳しくても鈴谷はずーっと一緒にいるからね」

後ろからかぶさるように抱き着く。

綾「嬉しいわ…」

鈴谷「だから、悩みがあれば鈴谷に言ってね?全部受け止めてあげるから」

綾「うん…」


綾「少し気分が楽になったかも…ありがとね」

鈴谷「いいってことよー!」


綾「強制的に退去させることできないんだよね…」

鈴谷「でも、不法侵入未遂も少しずつ増えてるみたいだよ」

綾「いつかなだれ込んできてもおかしくないわね…」

鈴谷「そうなると…追い払うのが一番いいんだけど…」

綾「私たちの立場がつらくなるのよね」

鈴谷「でも…思い切ってやっちゃった方がみんないい気がする…しない?」

綾「お上は及び腰ね…ただでさえ戦いが長引いているもの」

鈴谷「そっかぁ…」

綾「私ももっと頑張って皆にいっぱい資源使わせてあげないと…」

鈴谷「無理しないでね…?てーとく。」

綾「わかってるけど、やっぱり必要なときはするわ」

鈴谷「鈴谷たちがいるってことは忘れないでね」

綾「はいはい」


綾「なんか少し気が楽になったわ」

鈴谷「ほんと?よかった」

綾「なんか食べに行きましょっか」

鈴谷「まじで!?じゃあ間宮いこーよ!」

綾「わかったわ」

鈴谷「やったぁ~」

小躍りしそうな感じで鈴谷が綾を間宮に引っ張っていく。


間宮に入ると、あまり人がいなく閑散としていたので間宮がすぐに声をかけてくれた。

間宮「あら、提督に鈴谷さん。いらっしゃいませ」

丁寧にあいさつしつつ席を案内する。

綾「ありがとね」

鈴谷「どれにしようかなぁ」

早速鈴谷がメニューを見てどれを頼もうか悩む。

綾「値段は気にしなくていいからね。好きなものを」


鈴谷「よし!パフェにする!」

綾「ん。わかったわ。じゃあ私はあんみつに」

間宮「畏まりました」

間宮が厨房の奥に消えていく。


暫くしたところで間宮がパフェとあんみつを持ってくる。

間宮「ごゆっくりどうぞ」

綾「ありがとね」


鈴谷「いっただきまーす!」

綾「いただきます」

先に鈴谷が口にパフェを運ぶ。

鈴谷「ん~!おいしい!」

綾「ん。おいしいわね」

鈴谷「クリームの甘みがなんとも…」

綾「こっちのあんみつもいいわよ」

鈴谷「ひと口ちょーだい!」

綾「はいはい」

ひと口分だけあんみつを取って鈴谷の口に運ぶ。

綾「あーん」

鈴谷「あーむっ」

綾「どう?」

鈴谷「おいしい!私のパフェもひと口あげる!」

綾「ありがとね」

鈴谷が先ほどと同じように一口とって綾の口に運ぶ。

鈴谷「おいしいでしょ」

綾「ええ。おいしいわ」

たまにしか見せない微笑みを見せる。


鈴谷「ごちそーさま!おいしかった~」

綾「ええ。おいしかったわね」

口を拭いて、飲み物に口をつけて少し店内を眺める。

綾「さて、そろそろ行く?」

鈴谷「だねぇ」

綾が席を立ってお会計に行く。

鈴谷は先に間宮を出て店先で待っている。

間宮「ありがとうございました~」


鈴谷「奢ってくれてありがとうね!てーとく!」

綾「いいのよ」

鈴谷が綾の腕に自分の腕を絡める。

綾「鈴谷?」

鈴谷「たまにはこうやってもどろーよ」

綾「いいけれど…」

鈴谷がテンションを上げていっしょに執務室へ戻る。


執務室に戻っても特に仕事は残ってないのでお出かけでどこに行くかを相談したりただ駄弁ったりしていた。

鈴谷「だんだん暗くなってきたねぇ…」

窓の外を見ればもう空が茜色になっていた。

綾「ほんとね…いつの間に」

鈴谷「そろそろてーとく帰る?」

綾「もう少ししたらね?」

鈴谷「バッグ持ってきておくね」

綾の持ち歩いてる小さな肩掛けバッグを持ってくる。

綾「ありがとう」

鈴谷の頭を撫でながら言う。

書類と電子機器をバッグに詰めて机上に横に置く。

鈴谷「おしゃれだよねぇ…てーとく」

綾「そう…?鈴谷の方が女子高生みたいで可愛いしおしゃれよ?」

鈴谷「嬉しいこと言ってくれるねてーとく!」

肘で綾の脇を小突く。

綾「もう…」


三十分ほどしたところで綾が帰ろうとする。

綾「そろそろ帰るわね…鈴谷」

鈴谷「はいはーい!見送るね!」

綾「ありがとう」


正面の門にはまだ人がいるため裏口の方からこっそりと出る。

鈴谷「なんで鈴谷達が裏口から…」

綾「しょうがないわね…正門から行っちゃったら私どんな目に合うか…」

鈴谷「そうなっちゃうもんねぇ…」

綾「早急に何とかしなきゃね…」


鈴谷「じゃあ、また明日ね!てーとく!」

裏口を出たところで鈴谷が綾に手を振る。

綾「ええ。また明日ね」

手を振り返して家路につく。

正門の方からはいまだに集団の声が聞こえる。


それを避けるように鎮守府に近い自宅に向かう。

その前に家で待つ妹とご飯を作るためにスーパーへ向かって材料を買っていく。

綾「さぁてと。お家に帰りましょ」


家の門の鍵をぎぎっと開けて、家に入りまた厳重に鍵を閉める。

そうしないと、何されるか、誰が入ってくるかがわからないからだ。

綾「はぁ…いちいち鍵いっぱい締めるのめんどくさいなぁ…」

ぶつぶつ言いつつ家に入る。


綾「ただいまー」

「おかえりなさい!お姉ちゃん!」

元気な声が会談の上から響いてくる。


綾「いい子にしてた?」

「うんっ!」

綾「じゃあ急いでおいしいご飯作るからね」

「お手伝いする?」

綾「うん。お願いね」

「わかった!!!」

元気に妹が返事をしてさりげなく綾の荷物を持っていく。

綾「重くない?大丈夫?楓」

楓「大丈夫大丈夫!おっとと…」

大丈夫と言った瞬間にぐらりとよろける。

綾「ほら…言わんこっちゃない…」

楓「だ…大丈夫!」

体勢を立て直して頑張って台所まで持っていく。


この娘は、綾の妹の楓。

天真爛漫といった性格で、綾との中がとてもいい。

高校生活をそれなりには楽しんでいるようだが、一部の者からは疎まれている。

その人たちに何かしたわけではないが銀髪の身内を持っているだけで疎まれているのだ。

しかし、楓は姉のせいとは全く思ってもいないしその者たちの嫌がらせはほぼ無視している。


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2018-10-24 20:05:55

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SS好きの名無しさんから
2018-10-24 20:05:55

戦国小町さんから
2018-10-23 20:58:09

このSSへのコメント

2件コメントされています

1: 戦国小町 2018-10-23 21:00:16 ID: S:NENPVU

続き気になります。
どんな展開になっていくのか楽しみですね

-: - 2018-10-24 20:06:55 ID: -

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-: - 2018-10-24 20:07:49 ID: -

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