2018-10-24 01:27:22 更新

概要

メブに勝った弥勒さんのお話


「......勝負ありましたわ」


訓練用の木刀が芽吹の眼前に突きつけられる


「今日はこの辺にしておきましょう」


息を整えながらタオルを取り部屋を出た芽吹を見送る

負けたのにも関わらずあっさりと悔しさも滲ませず

立ち去る姿は勇者を目指していた楠芽吹の面影すら感じさせなかった


「おかしいですわ」


目標としていた人物に勝った

けれど、達成感ではなく違和感を感じずにはいられなかった


弥勒夕海子は平凡だ。だから誰よりも積極的だ

だから、今の芽吹にも違和感を感じている


なにかがおかしい


動きはいつもと変わらなかった

自分が強くなっているのもあるが

それでも、いつもの芽吹はあれを防ぐだろう


何故、私は勝てたのか


ただ、その違和感を抱えたまま息を整え自室に戻った


「聞きましたよ弥勒先輩!ついに芽吹先輩から1本取ったんですね!」


朝食の時間に国土さんが話しかけてくる


「ええ、ついにわたくしの強さが芽吹さんを超えましたわ」


そんなはずはない、楠芽吹という人間はそんなに弱いはずがない


「......芽吹先輩のことで何かありましたか?」


「国土さんに隠し事はできませんわね」


「私でよければ話してみてください。きっと楽になると思います」


昨日のことを話した。芽吹さんに勝ったこと。訓練に違和感があったこと。芽吹さんの行動にも違和感があったこと


「それは、弥勒先輩が強くなったからではないでしょうか?」


「それもあるでしょうけれど、それでもあっさりしすぎですわ」


「芽吹先輩の行動がですか?」


「ええ、いつも勝てていた相手に突然負けてしまうというのは存外ショックなことですのよ」


「そういうものなんですか?」


「そういうものですわ」


「そういうことなら、今日も芽吹先輩と訓練をして確かめてみたらどうでしょう?お互いの思いをぶつけ合えば案外解決するかも知れませんよ?」


「国土さん、貴女もしかして脳筋ではなくて?」


「そういうものでしょうか?」


「そういうものですわ」


ともあれ、国土さんの言うことにも一理ある

芽吹さんを呼び出して訓練をする


「よろしくおねがいしますわ」


「よろしくおねがいします」


芽吹さんの隈が酷い。これは問いただす必要がある

そう思い、木刀を構えると同時に


「勝負あり」


芽吹さんの木刀が首元に置かれていた


「なっ」


「今日の訓練はここまでにしましょう」


「まだ始まったばかりですわ!」


「まだやりますか?」


「当然ですわ!」


それから20本程度訓練を行った。1時間も経っていないのに全て負けた


「もういいでしょう。今日はこの辺に」


「どうしてですの」


「何がですか」


「どうして昨日はわたくしを勝たせたんですの」


「あれは実力ですよ」


「そんなわけありませんわ!今日は1本どころかまともに打ち合うことすらできていませんわ!そんなっ!」


「そんな人が1本取れるはずが無い。ですか?」


「その通り、ですわ」


では何故、どうして、手を抜いた?一体何が?

全くわからない。悔しさと違和感で息苦しい


「取れますよ。あの時の一振りは全く見えませんでした」


「いつもならあの程度いなしていましたわ!」


「いいえ、あれはどうあがいても無理です」


「芽吹さんふざけるのもいい加減にしてくださいまし!」


「ふざけていませんよ。こういうことです」


不意に芽吹さんの木刀が消えた。目線を動かすと眼前に木刀があった


「どういう、ことですの?」


「盲点を利用しました」


「盲点......!」


思い出してみると確かにあの1本は突きだった

似たような位置から出していた

ありえる。確かに盲点なら芽吹さんでも止められない

わたくしの勝利......!!!


「ふふ、ふふふ、おーっほっほっほっほ!楠芽吹敗れたり!わたくしは貴女を越えましたわ!さ、早く隊長の座を譲ってくださいまし?」


「いえ、私の方がまだ強いので譲りませんよ。それに今さっき全敗していましたよね」


「ぐっ!?た、確かにその通りですわ」


けれどわからないことが1つある


「しかし、何故負けた後すぐに帰ったんですの?」


いつもの芽吹さんなら原因の研究と対策をすぐに試すはずだ


「ああ、気になっていたお城のプラモデルが発売日だったので」


「お城?」


「厭離穢土城です」


「おんり......なんですの?」


「厭離穢土城です。このお城は」


「そんなこと聞いていませんわ!では、その目の隈は!」


「キリのいいところまで組み立てるつもりが徹夜になってしまって......」


「つまり、わたくしに負けたことを引きずっていたわけではなく」


「ええ、負けたしキリが良かったので切り上げたのといいところまで組み立てるつもりが徹夜になっていただけです」


なんてくだらない。けれど


「んもぉーー!!なんなんですの!!!」


まだ、芽吹さんには及びそうに無いですわね


後書き

ギャグ時空を取り払った弥勒さんを書きたかった。私の負けらしい


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