2018-11-23 09:24:50 更新

概要

バグで消えたので再投稿

艦これとりっく・じ・あーすの世界観をレッツらまぜまぜしました。
苦手な方はまぁ頑張って下さい←


 かつて人類はマグマ軍と呼ばれる謎の生命体に侵略されていた。

日本陸軍本部はそれに対抗する為、人型でありながら戦車や戦闘ヘリと同等の戦闘力を持つ『武器娘』の開発に成功。彼女らを用いてマグマ軍に占領されていた地域を次々と解放していった。

 武器娘による反撃から約2年後、一部マグマ軍が人類側へ亡命した事件を切っ掛けに戦況は大きく傾き、人類とマグマ軍の戦争は人類側の勝利。そしてマグマ軍と和平を結んでこの戦争は終結した。……だが人類に牙を向いたのはマグマ軍だけではなかった。

 戦争終結から約1年後、海から突如として現れた深海悽艦と呼ばれる生命体によって人類は再び窮地に追い込まれた。

深海悽艦が現れて間もない頃武器娘とマグマ軍による攻撃が行われたが、こちら側の攻撃が通用せず一方的に攻撃され壊滅。人類は制海権を奪われた。

 その後制海権奪回の為に軍部が下した決断はマグマ軍襲来の際解体していた海軍の復活と海戦に特化した武器娘の開発であった。

それから数日後陸軍の約半分と一部マグマ軍によって再編された新生海軍が発足。更に数ヵ月後、海戦専用の武器娘の開発に成功。海軍は彼女らを『艦娘』と名付けた。

 そして艦娘の手により、海沿いの地域とその周辺の海域の奪還に成功、人類の反撃が始まろうとしていた……。



艦娘が運用されはじめてから数日後、とある場所の鎮守府の門前


「ここが今日から俺たちの駐屯地か……」


海軍の軍服を着た青年が目の前にある鎮守府を眺めながら呟く。

その隣には黒いドレスを着た四つ足の女性も佇んでいた。


「閣下?駐屯地ではなく、鎮守府というらしいです」

「ぬ……それを言うなら俺も閣下ではなく提督?だぞアルマータ。…それ以前に閣下呼びは止してくれ。ほら、行こう」


アルマータと呼ばれる四ッ足の女性と青年が門をくぐる。建物に向かって歩きながらも、物珍しそうに辺りを見回す二人。

ある程度建物に近づいて行くと入り口の前に誰かが立っているのが見えた。女性だ。

女性も此方に気付きこっちに向かってきた。


「今日付けで鎮守府に着任される提督とその副官殿、ですね?大本営から派遣されました。大淀と言います」


提督「元陸軍第3紅蓮部隊司令の提督だ」

アルマータ「同じく元第3紅蓮部隊副官のアルマータと言います」


大淀と呼ばれる女性は海軍式の、提督とアルマータは陸軍式の敬礼をとる。


大淀「では、これから執務室の方へ案内しますね」


大淀の案内で執務室へ通される二人。


大淀「こちらでお待ち下さい。今他の者も呼びますので」


提督に敬礼をし、執務室から出る。

それを見届けた後、提督は提督用の椅子に腰掛け、アルマータは執務室に飾ってある絵画や本棚に収納されているファイルを眺める。

数分後ドアがノックされ、入るように促すと二人の少女とピンク髪の女性と割烹着姿の女性、そして大淀が入ってきた。


暁「暁型一番艦、暁よ!」

響「暁型二番艦、響」

明石「開発、建造任務担当の工作艦、明石です!」

間宮「ここでの食事を担当しています。間宮です」


提督「提督だ。今日からよろしく頼む」

アルマータ「副官の重戦車014號アルマータです」

提督「…それにしても、まさかこんな小さな子が艦娘とはな」

暁「私は一人前のれでぃーなんだから子供扱いしないでよね!」


提督の呟きに怒る暁。その顔はプンスカという擬音が似合う可愛らしい顔だった。


提督「あはは…すまんすまん」

暁「うぅぅ…撫で撫でするなぁ~…///」


あまりにも微笑ましかった為、思わず暁の頭を撫でる。だがアルマータの刺さるような視線を感じすぐに止めた。


提督「ご、ごほん!顔合わせは一先ず済んだな!では、明日から本格的に運営を開始する。では解散!」


艦娘たちは敬礼をし、執務室を後にした。


アルマータ「閣下…?まさかあんな子供に手を出したりなんて、しませんよね?性的に」

提督「あ、当たり前だ!俺はロリコンじゃないし、お前とケッコン済みだろ」

アルマータ「うふふ、そうでしたね♪では閣下、一緒に施設を見て回りましょ?」

提督「お、おう(相変わらず嫉妬深いやつだな…そこが良いんだけど)」


二人は執務室を後にし、鎮守府を見て回った。

艦娘が住む寮、食堂、娯楽室、訓練所、酒保…

そして工房へと向かった。


明石「あ、提督とアルマータさん!何か御用ですか?」

提督「ちょっとした見学だよ。で、これが建造機か……武器娘の頃より少しデカイな」


明石に軽く挨拶し、建造機を眺める。


アルマータ「あら、投入する項目が1個多いのね。ボーキサイト?」

明石「ボーキサイトは主に空母を建造したいときに投入する物です。他にも空母に搭載する艦載機の開発、補充にも使われます」


アルマータの疑問に丁寧に答えていく明石。アルマータも興味津々に聞いている。


アルマータ「あと最後に1つ……艦娘の装備を武器娘や我々マグマ軍が使用する事は出来る?」


その問いに提督も思わず食い入るように明石を見つめる。


明石「現段階では無理ですね…。私達艦娘と陸軍の武器娘では根本的な違いがあってどうしても運用出来ないんですよ……」


やはりかと落胆する二人。だが提督はある事を思い付いた。


提督「じゃあ、今武器娘達の装備を艦娘の装備に近付ける事は出来ないかな?」

明石「うーん……どうなんでしょう……そちら側の装備の仕組みは解って無いので何とも言えませんね……。ただ可能性としてはありかもしれませんね」


明石の答えを聞いて提督とアルマータは顔を見合わせた。


アルマータ「閣下…!」

提督「あぁ!アイツを呼んでみるか…!」


二人のやり取りに戸惑いを隠せない明石。


提督「俺がいた部隊に科学者気質のやつがいたんだ。彼女を呼べばもしかしたらと思ってな」

明石「本当ですか!?是非会ってみたいです!」

提督「わかった。アルマータ、彼女に連絡を入れてくれ。あと向こうに保管してある装備も幾らか持ってこさせよう」

アルマータ「わかりました」


二人は明石に礼を言って工房を後にし、アルマータは件の人物に連絡をとる為に執務室へ戻り、電話をかける。


プルルル…プルルル…ガチャ


『こちら市ヶ谷駐屯地、第3紅蓮部隊』


アルマータ「お久し振りです市ヶ谷さん。アルマータです」

市ヶ谷『ア、アルマータさん!』


アルマータが電話を掛けた相手は、かつて提督と共にマグマ軍と戦った軍人『市ヶ谷愛』。

市ヶ谷はアルマータの声を聞くや否や、驚きと喜びが混ざったような大声をあげていた。


市ヶ谷『司令官もそちらにいるのですか!?いきなり二人が海軍に編成されたんですから皆混乱してたんですよ!!』

アルマータ「ごめんなさいね。こっちもごたついてて、今朝ようやく鎮守府へ着任出来たの。閣下も今他の所へ見廻りをしているわ。それで、本題なのだけれど…」


軽く近況報告した後電話を掛けた経緯を説明。


市ヶ谷『成る程…1日程時間を頂けますか?彼女、一時的に古巣の方に居ますのでこのあと連絡を入れて、そちらの方へ向かわせます』

アルマータ「ありがとうございます。閣下に伝えておきますね」

市ヶ谷『司令官によろしく伝えておいて下さいね。では…』


通話が切れたのを確認すると受話器を戻し、アルマータは執務室を後にした。

一方提督は食堂で暁と響と話していた。


提督「成る程、艦娘にも色々種類があったんだな」


二人から艦の種類や運用について聞いている。


響「陸の方じゃ違ったのかい?」

提督「こちらも似たような感じだったかな。歩兵から始まって戦闘車・中戦車・重戦車に戦闘ヘリ…」

暁「アルマータさんは重戦車だっけ?」

提督「そう。艦で例えるなら…重巡や戦艦ってとこかな?彼女には助けられっぱなしだよ」アハハ…

暁「でもあの人ちょっと恐いのよね……」


気まずそうに手を弄る暁。提督はそんな彼女の手をそっと握り、微笑みながら話す。


提督「確かにアルマータは元々マグマ軍だっただけあって冷酷で俺でも未だにヒヤッとする所もある。……でも彼女は仲間を文字通り身体を張って守ろうとする素敵な人だよ。今は会ったばかりで恐いかも知れないけど、少しずつ彼女の事を理解してくれると嬉しいな」


暁の目を見て優しく語りかける。暁は顔を紅くし、モジモジしながらも頷いた。


暁「わ、わかったわ…が、頑張る///」

提督「ありがと、暁」



響「それより司令官」


空気を変えるように響が話しかける。


提督「ん、なんだい?」

響「言うタイミング逃して言えなかったけど、さっきからアルマータさんが後ろに……」

提督「……」


場の空気が凍りつくのがわかる。恐る恐る後ろを向くと、アルマータが殺気の篭った笑顔を提督に向けながら立っていた。


アルマータ「閣下……?私がいない間に何をしているのかしら?」

提督「ま、待てアルマータ……これは親睦を深める為であってだな……」

暁「う…ふぇ…グスッ」


冷や汗を流しながら説明する提督と半べそをかいている暁。

その時だった。


間宮「皆さーん!今日のお昼はボルシチにしましたぁ!」


厨房から香しい香りと共に間宮がやってくる。


アルマータ「まぁ!良いわね!」

響「ハラショー。こいつは良い」

アルマータ「あら貴女、ボルシチの良さを分かるなんて素晴らしいわ」

響「ボルシチもそうだがピロシキなんかも好物だ」

アルマータ「気に入ったわ!貴女とは仲良くなれそうだわ♪」


アルマータと響が談笑しながら間宮からボルシチを受け取りに向かう。


提督(間宮さん…助かった…!!)


先程の修羅場のような空気を吹き飛ばした間宮にひっそりと感謝する提督であった。

その後大淀も合流し、5人で食事をすることになった。


提督「そうか。あいつ向こうへ戻ってたのか」

アルマータ「ええ、明日改めて連絡がある筈です」


ボルシチを頬張りながら、市ヶ谷と話した報告を聞く。


暁「そういえば司令官とアルマータさんってどういう経緯で一緒になったの?」

大淀「確かに。確かマグマ軍って元々人類の敵だったんですよね?」


アルマータとのやり取りを見て改めて不思議に思った暁が首を傾げながら提督に聞く。


提督「俺が駐屯地の司令になりたての頃の話になるな。当時まだ武器娘の量産が充分じゃなくてね。マグマ軍の兵器を鹵獲、運用するっていう作戦が本部から送られて来たんだ」

大淀「随分無茶な作戦ですね…」

提督「俺もそう思ったさ、しかも上はご丁寧に鹵獲用の鎖を送ってきてな。半ばやけくそになりながら仲間達と鹵獲作戦を決行したんだ」

アルマータ「それで捕まったのが私ってわけ」

暁「よく司令官に味方しようって思ったわね」

響「確かに。敵側に運用されるなんて屈辱だった筈」

アルマータ「えぇ。最初は抵抗したり運用されるふりをして後ろから撃とうとすらしたわ。でも閣下と接している内に…」

響「惹かれた?」

アルマータ「そうなるわね」

提督「その後も色んなヤツを鹵獲しては仲間にして、今じゃ武器娘より多くなってな。部隊名も紅蓮部隊に変更されたんだ」

アルマータ「閣下の人柄のせいか、他の連中も閣下になついて…」

暁「そのうち深海悽艦とも仲良くなったりして!」

提督「あはは!そうだと良いんだけどなぁ!」


その後も5人で楽しく食事を過ごし、暁達と別れた提督とアルマータは再び工房へ向かった。


アルマータ「何故、また工房へ?」

提督「戦闘に出られる艦娘が二人と考えるとやはりどうしても不安でさ。実験も兼ねて建造しようかなって」


建造機の前に立ち、備え付けられているタブレットに必要資材量を入力していく。


提督「これで良しっと……どうやら夕食頃に出来そうだな。それまでは書類仕事としよう」

アルマータ「はい、閣下」


その後執務室へ戻り、夕方まで執務をこなしていった。

そして夕食時間の少し前、執務室の扉がノックされる。


提督「どうぞ」

「おう、入るぜ」


扉が開く。そこには眼帯をし、刀をもった少女が。


天龍「オレの名は天龍。天龍型軽巡洋艦の一番艦だ」

提督「おぉ、軽巡洋艦か。提督だ、よろしく頼む」

アルマータ「アルマータと言います」


お互いに挨拶を済ますと天龍が怪訝な表情をする。


天龍「アルマータ?そんな艦いたか?」

提督「彼女は元々マグマ軍だ」

天龍「マグマ軍ってあの深海悽艦みてーなヤツじゃねえかっ!?」


刀に手を掛け、警戒する天龍。

アルマータは少し呆れ気味だが提督は動揺し立ち上がった。


アルマータ「はぁ…一緒にしないで欲しいわ」

提督「とりあえず彼女は敵じゃないから刀を下ろしてくれ!これから一緒にやっていく仲間だ」


アルマータに敵意を向ける天龍に説明する提督。天龍も納得したのか警戒を解いた。


提督「やれやれ…そういえばこのあと夕食なんだ。他の皆への紹介も兼ねて一緒に行かないか?」

天龍「そうだな。じゃ、案内頼むぜ!」


3人は食堂へ向かい暁達に紹介し、夕食を済ませた後、明日の予定を確認。

その後解散し、執務室へ戻った。


提督「明日から忙しくなるな」

アルマータ「そうですね。でも、私達には閣下がいますから」

提督「はは、期待に応えられるよう頑張るよ」


そして夜が更け、提督とアルマータの着任初日は終わった。




翌日、食堂にて


提督「皆おはよう。昨日確認したように天龍旗艦に暁、響は鎮守府周辺の警戒任務。そして先程連絡があって1230に来客がある予定だから大淀は彼女の案内。明石は電探の開発を頼む。以上」


今日の予定を伝え、朝食を食べ終え提督とアルマータは執務室で仕事を開始する。


それから数時間経ち、12:30になった。

扉がノックされ、入室を許可すると大淀と彼女が入ってきた。


提督「久し振りだな。急に呼び出してすまない。ミーシャ」

ミーシャ「なに、気にするな。貴様と私の仲ではないか」


ミーシャと呼ばれた単眼の女性と握手を交わす。


ミーシャ「話は粗方聞いた。私で良ければ是非協力しよう!それと私の護衛ついでに彼女達も貴様に会いに来たぞ」

提督「彼女達?」


『失礼します』


入室したのは3人の女性。


提督「鯖江!大和!それに歩兵も!久し振りじゃないか!!」


メガネが特徴の鯖江静香。金髪の長い髪と大きな胸が特徴の大和雪子。そしてミーシャ同様単眼の少女、歩兵。

彼女達との再開に喜ぶ提督。


鯖江「久し振り司令官。良いメガネの部下を持ったね」

大和「会いたかったわ司令君……この日をどれだけ待ち望んだか…!」

歩兵「ギギュギュ!(お久し振りです司令官!)」


笑顔で敬礼する鯖江と歩兵。

一方大和は胸を押し付ける様に提督に抱き付く。


アルマータ「おい。閣下に気安く抱き付くな!」

大和「は?司令君はアンタだけのモノじゃないでしょ。ねー司令君♪」



我慢出来ず大和と提督を引き離そうとするアルマータに挑発的な笑みを浮かべ、薬指に嵌められてる指輪を見せ付ける。


アルマータ「キィキキキキ…!ギュギュギャァ!!」

歩兵(アルマータ様、マグマ語に戻ってる…)


悔しさのあまりマグマ語を叫ぶアルマータ。

そこへ警戒任務に就いていた天龍達が戻ってきた。


天龍「今戻ったぜ!お?誰だそいつら?」

暁「きゃぁぁぁぁあああ1つ目オバケェェエエエェェエエエ」

響「ハラショー。個性的なお客さんだね」

提督「お帰り。彼女達は陸軍時代の俺の仲間だよ」


任務帰りの3人に説明し、ミーシャと歩兵を見て泣き出した暁を慰める提督。


天龍「駆逐級と2回位戦闘になったが、被害なく殲滅。補給もさっき済ませたぜ!」

提督「お疲れ様。じゃ、皆で飯にしようか」


天龍やミーシャ達を引き連れ、食堂へ向かう。

道中明石と合流し、開発結果の報告を聞く。


提督「開発出来た電探は2つか。じゃあ暁と響に装備させよう」

暁「分かったわ!」

響「任せてくれ」


食堂へ到着し、間宮から今日の昼食をもらい席に着く。


ミーシャ「ほう、和食か。どれ…っ!」

鯖江「驚いたね…駐屯地の食堂より美味しいよ…!」

大和「司令君の胃袋を掴むには、これくらいしなきゃダメね…」

歩兵「ギュム!…ギュム!(うま…うま…!)」


間宮の手作り料理に思わず顔を綻ばせる。

その後も食事をしながら報告や談笑が続く。


提督「えっ!?鯖江達が憲兵!?!?」

鯖江「市ヶ谷さんが根回ししてくれてね。全員はまだ無理だからとりあえず私達4人を異動させてくれたんだ」

大和「またこれからも一緒よ♪ずっとね♪」


ーーーーー

鯖江「大淀さん…貴女、良いメガネね」

大淀「鯖江さんこそ。よく手入れされていますね。メガネ愛を感じます」


数秒間の沈黙の後、固い握手を交わす2人。


ーーーーーー


明石「貴女が開発に協力してくれる方ですね?明石と言います!」

ミーシャ「ミーシャだ。共に頑張ろうぞ」


明石とミーシャも握手を交わす。


提督「そういえば地下で何をしていたんだ?」

ミーシャ「人間達同様深海悽艦に関して研究をしていたのだ。行き詰まった所に市ヶ谷から連絡を受けて今に到るといった所だ。丁度対人型深海悽艦用の装備を試作してな。よかったら」


その瞬間、鎮守府中にサイレンが鳴り響く。

深海悽艦の侵攻を報せるサイレンだ。


提督「第一艦隊は抜錨、敵を迎撃!ミーシャ達は念のため避難してくれ」

天龍・暁・響「了解!」

ミーシャ「私達も司令室へ連れて行ってくれ。もしかしたら手伝えるかもしれん」

提督「…わかった!」


天龍達は出撃し、提督達は執務室へ戻る。

執務室へ戻ると提督は無線機を手に取り迎撃に向かった天龍に連絡を入れる。


提督「聞こえるか!?状況は!?」

天龍『ヤベェぜ…!軽巡級1、駆逐級2…あと空母が居やがる!』

提督「空母だと!まさかこの海域に出てくるとは…!」

提督(まずいな…彼女達の錬度では危険だ…!)

ミーシャ「提督、早速手伝えるかも知れんぞ」

提督「…どういうことだ…?」

ミーシャ「人間達が開発した捕縛鎖をベースに我々マグマ軍で試作した対深海悽艦用の捕縛鎖がある。これで空母級を捕獲する」

提督「なんだと!?」

ミーシャ「まだ深海悽艦相手に使用していないから正直効果は不明だ。だがその表情を見る限り今回の戦闘は此方側が不利なのであろう?試してみる価値はある」

提督「だが艦娘は全て出撃している!大淀と明石には武装もない!」

ミーシャ「我々が行くのだよ。まだその鎖は艦娘用に調整してなくてな。使えるとしたら我々だけだ。そして今回持ち込んだ装備の中にヘリが2つある」

提督「だが待て!奴等は通常の武装は効かないんだぞ!!」

ミーシャ「あぁ。奴等の目を、特に空母級の意識を彼女達に向けてくれれば我々が何とかしてみせよう。…どうだ?」

天龍『こちら天龍!駆逐級は沈めたがこっちは響が大破!正直ヤバい…!』

ミーシャ「提督!」


少しの間考え込み葛藤する提督、そして


提督「ヘリはすぐ出せるのか…?」

鯖江「5分あれば出発出来る」

提督「3分だ…これより、深海悽艦空母捕獲及び第一艦隊の援護を行う!第3紅蓮部隊、出撃!!」


ミーシャ、鯖江、大和「はっ!」

歩兵「ギュッ!」


執務室を出て、鎮守府の外に停まっているヘリへ向かう。


ミーシャ「歩兵は私と共に来い!鯖江と大和は向こうを頼む!」

鯖江「わかったわ」


歩兵と鯖江がそれぞれヘリの運転席に乗り込む。

ミーシャはヘリの近くに停まっているトラックの荷台から深海悽艦用の捕縛鎖を取りだし半分を大和に渡す。


ミーシャ「使い方はあれと一緒だ」

大和「だったら簡単ね。さて、さっさと終わらせましょう」


2人はヘリの後部席に乗り込み、ヘリは天龍達がいる海域へ出発した。



鎮守府正面海域にて


大破した響を守るように砲撃する天龍と暁。

しかし、軽巡から放たれる砲撃と敵艦載機からの爆撃とじわじわと追い詰められていく。


提督『第一艦隊聞こえるか!?』

天龍「提督!」

提督『今から空母捕獲作戦を決行する!第一艦隊は残った軽巡の撃滅と艦載機を出来るだけ減らしてくれ!!』

天龍「捕獲ってお前正気か!?」

提督『このまま夜戦へ持ち込んでも勝てる可能性は低い!…正直一か八かだか頼む!』


空母を捕獲するという提督の指示に驚きを隠せない天龍達。

その時、鎮守府方面からヘリの音が聞こえてきた。


天龍「はは…マジかよ…。ならやってやるぜ!暁と響は艦載機の相手を頼むぜ!!」

暁「暁の出番ね!」

響「大破しててもこれくらいは…不死鳥の名は、伊達じゃない…!」


ミーシャ「見えてきたな…。鯖江達は右から回り込んでタイミングを測れ!私達は左側から責める。歩兵!」

歩兵「ギュギュッ!」


戦闘海域の手前でヘリは左右に別れる。

その頃天龍は軽巡目掛けて突撃、撃破に成功したものの彼女も中破してしまう。


暁「天龍さん!」

天龍「心配すんな!この天龍様がこの程度でやられるかよ!」

響「残るはアイツだけだね」


その時ミーシャから通信が入る。


ミーシャ『3人共に聞こえるか!?』

天龍「ミーシャ!」

ミーシャ『今からヤツに突撃する!お前達はヤツに威嚇射撃しつつ後退を!』


指示を聞きすぐさま後退する。


歩兵「ギュギュッ!(第一艦隊の後退を確認!)」

鯖江「…行くよ!」


ヘリは海面すれすれまで高度を下げ、空母を挟み込むように突撃する。


ミーシャ「やるからには全力だ!これに限る」

大和「司令君見ててね…!」


空母の真正面、真後ろまで接近した瞬間、後部席から深海悽艦用捕獲鎖を射出する。


空母「!?」


鎖の先端に付いている針が空母の身体に突き刺さる。


ミーシャ「刺さった!今だっ!!巻きつけろぉ!!!」


ミーシャの言葉を合図にヘリは反時計回りで空母に鎖を巻き付けていく。

空母は予想外な出来事に状況を飲み込めていないのか困惑している。


天龍「す、すげぇ…」

暁「あんな至近距離でお互いのヘリがぶつかってない…」

響「…ハラショー…としか言いようがないな…」


4人の洗練されたコンビネーションに思わず立ち止まる天龍達。


そして2つのヘリは互いの距離を空け、上昇し始める。


空母「ッ!」


空母の体が浮き上がり始めた瞬間、空母は自分が何をされてるのか察し、力いっぱい暴れ始める。


大和「きゃぁ!」

ミーシャ「くそっ!ここまで力があるとは…!」

歩兵「ッギギ!ギャギャアッ!(ミーシャ様!このままでは海面に墜落してしまいます!)」


暁「あっ!ヘリが!!」

天龍「…流石にすんなりいかねえか……けど」


単装砲を暴れている空母に向ける。

その数メートル周辺には空母の力でふらついているミーシャ達のヘリもある。


天龍「そのお陰で天龍様の見せ場が出来たぜぇっ!!」


天龍が撃った砲弾は空母の頭部、艦載機が発着陸する艤装に着弾。

その衝撃で脳震盪を起こした空母は気絶、ヘリも態勢を直し再び上昇する。


鯖江「あの状況から鎖を巻かれていない頭部へのピンポイント射撃…。しかも私達のヘリへの被害も最小限に抑えて……あの娘、ただ者じゃないわね」

大和「あれが、新しい武器娘の……艦娘の力……」

ミーシャ『2人共無事か?』

鯖江「ええ、もちろん」

ミーシャ『今提督に連絡を入れた。このまま帰投するぞ』

鯖江「了解」


空母をぶら下げたヘリは鎮守府の方向へ飛び去る。


暁「天龍さんすっごい!かっこよかった!!」

響「一緒の艦隊で良かったと感謝している……スパスィーバ」


先程の砲撃を見て興奮気味の暁達。


天龍「ふっふーん!ったりめーだろ!世界基準軽く超えてっからな!!」

提督『皆、無事か!?』


誇らしげに胸を張っている所に提督からの通信が入る。


天龍「おう!俺も中破しちまったが航行に支障はねぇ!このまま帰港するぜ!」

提督『わかった。損傷した天龍、響は補給後入渠。必要ならバケツも使っていいぞ。あと、ミーシャ達から聞いた……天龍、良くやったな…ありがとう』

天龍「おう、了解。にしても提督、お前のいた部隊ってすげぇんだな…」


先程の自信に満ちた表情が曇る。


提督『あぁ、自慢の部下であり大切な家族だ。…そしてお前達もその一員だ』

天龍「っ!……そうか、そうだな!」


提督のその言葉を聞いた瞬間ハッとし…思わず笑顔になる。その表情は何処かふっ切れた様子だった。


翌日08:45。

天龍、暁、響、間宮、明石、鯖江、大和、歩兵の8人は食堂に設置されたモニターを見ていた。

そこには鎖でしっかり拘束され、椅子に座らされた空母。そしてその正面に椅子に腰掛けた提督、彼の左右にアルマータ、ミーシャ、大淀が立っている。


独房の一室にて


提督「さて、これより尋問を行う」

アルマータ「抵抗しようと無駄だ。艤装も無い、ましてや陸上で私に勝てると思わない事だ」


アルマータの高圧的な態度を前に、表情どころか身動きひとつ取らない。


提督「さて、先ずは君の名前を聞こうか」

ヲ級「……ヲ級……」


提督の問いにポツリと呟くように答える。

その声は何処かエコーがかかったような声だった。


提督(言葉は通じるようだな…)

大淀「ヲ…級?」

アルマータ「おそらく認識番号のようなものかと……014號と同じような」

提督「ふむ、では君達深海悽艦の目的は?」

ヲ級「目的ナンテ無イ……タダ憎クテ…冷タクテ…暗クテ…殺シタダケ…………ナンデ私ダケ…オ前達モ同ジ目ニアエ……タダ、ソレダケ…」

大淀「…何よ……それ……」

ミーシャ「かつての我々のような目的をもった侵略ではないのか…只の純粋な憎しみだけで……」

提督「……深海悽艦を束ねている存在は?」


ヲ級の発言に動じず、冷静に尋問を続ける提督。


ヲ級「知ラナイ……頭ノ中デ声ガシテ、ソレニ従ッタ…………デモ、今ハモウ聞コエナイ…応エテクレナイ……」


ヲ級の表情が少しずつ曇る。

提督はそれを見て何かを感じ取った。


提督「……最後に1つだけ答えてくれ。今でも俺達人間が、憎いか?」


その問いを聞いて更に表情が曇っていく。


ヲ級「ワカラナイ……憎イノカ…違ウノカ…………ソモソモ何ガ憎イノカ、ナンデ憎カッタノカ…!……ワカラナイ……わからないわからないわからないぃ!!」


泣き叫び、椅子をガタガタと激しく揺らし始める。

それを見て危機感を感じたアルマータとミーシャは武器を構えるが、提督はそれを阻止した。


アルマータ「閣下何を…!?」


提督はアルマータの問いにただ無言で首を横に振り、再びヲ級を見た。


ヲ級「わからない……!暗い…!寒い…!!恐い…恐い恐い…!!!」


体を震わせ、怯えるヲ級。

それを見て何かを確信したのか提督はヲ級の後ろに回り鎖を外した。


大淀「提督!?」

アルマータ「閣下!!」


思わず叫ぶ2人。ミーシャは観察するようにその光景を見つめる。


ヲ級「っ!」


拘束が解かれた瞬間、四つん這いで部屋の隅へ移動しうずくまるヲ級。


大淀「提督!拘束を解くなら一言仰って下さい!!何かあったらどうするんですか!?」

提督「すまない…。だけど、もうあの娘は大丈夫だと思うよ」

大淀「何を根拠に」

アルマータ「…はぁ」


怒る大淀の肩に手を置くアルマータ。


大淀「なんですかアルマータさん!」

アルマータ「閣下が大丈夫と仰ったなら、もう安心ですよ。……この状況、何度も経験しましたから」


複雑そうな笑みを浮かべるアルマータ。

大淀もそれが何なのかを察し、怒りを鎮めるがまだ納得出来ていないといった表情。


提督「尋問は終わりだ。執務室で報告書を纏めるから大淀とアルマータは手伝ってくれ」

アルマータ「はい閣下♪」

大淀「…わかりました」


独房を後にする3人。だがミーシャだけその場に残っていた。


ミーシャ(こいつの声…エコーがかかっていた筈なのに怯えた辺りからエコーが消えた……何故だ…?)


独房の隅で怯えているヲ級を改めて眺めた後、彼女も独房を後にした。


場所は変わり食堂にて、一部始終を見ていた8名。


天龍「暴れるだけ暴れて捕まったら恐怖に怯えやがって……ガキかっつーの」

間宮「なんだか複雑です……あの感じ、本当に怯えてしまってます」

暁「なんだか可哀想になってきた」

響「でも油断は出来ないよ。艤装が無いとは言え、用心するべきだと思う。そしてこれからも深海悽艦と戦っていかなきゃいけない」

鯖江「あの空母は私達憲兵側で監視をしようと思う。何かあったら連絡するわ。それじゃ私達は一度司令官の所に行って監視の許可を取ってくる」


鯖江、大和、歩兵の3人は食堂を後にする。

それを機に他の者達も各々の持ち場に着いた。


それから約1時間後、工房で明石とミーシャはヲ級が装備していた艤装と中に入っていた艦載機の解剖を行っていた。

2人が見ているのは顔のように見える艤装前面部。天龍の砲撃で右目付近が吹き飛んでいるがその他は無事であった。


明石「これは…!?」

ミーシャ「ふむ、生物的な見た目だと思ってたが……」


正面より少し上、人間で言うおでこの部分を解剖した結果、出てきたのは手のひらサイズの脳であった。

艤装が生きて活動していた。その事実に驚く2人。

その後も解剖を続けていく。


明石「…消化器官が無い事以外は生物となんら変わりませんね…。艦載機の方はそれに加えて弾薬を生成すると思われる臓器も」

ミーシャ「いや、もう1つ特徴がある…艤装裏面、ヲ級の頭部と触れていた所だ」


裏面を見るとヲ級の頭部が触れていた部分に数本の縫い針の様な細長いトゲが付いている。


ミーシャ「このままヲ級のように装着したらどうなると思う?」

明石「トゲが刺さってしまいますね。この長さだと脳にまで達して…ちょっと待って下さい!」

ミーシャ「あくまで仮説だが、こいつは寄生生物の類い…。トゲを介して宿主を操っていた。ヲ級が言っていた声とはこの艤装の信号だった……そう考えられないか?」

明石「ではヲ級は…ヲ級本体は何なのです!?」


ミーシャの仮説に動揺し、思わず大声を出してしまう明石。


明石「…スイマセン、つい熱くなって」

ミーシャ「構わんさ。話を戻そう。ヲ級自身だが…明石はドロップ艦という現象を知っているか?」

明石「な…ん……」


ミーシャの問いで答えを理解してしまい、明石は声を失った。

彼女の頬を冷や汗が伝っていく。


ミーシャ「鎖を開発している時にこことは違う鎮守府へ訪れた事があってな、そこの提督から聞いたのだ。戦闘後、気が付いたら所属不明の艦娘が倒れていて保護したという事例が相次ぎ、RPGゲームに例えてドロップ艦現象と呼ばれていると」

明石「……じゃ、じゃあヲ級は……」

ミーシャ「試験運用中に襲われたか、はたまた何処かの鎮守府で運用されていた艦娘なのだろうな…。もう今となっては艦種の特定も難しいだろう。あの体つきだと軽巡以上…もしかしたら戦艦という可能性もある」

明石「…」


思わずその場にへたり込む明石。

一方仮説を立てたミーシャも多少の動揺をしていた。


ミーシャ「…あくまでも仮説だ…あまり真に受けないでくれ……。とりあえず艤装の解析結果とこの仮説を提督に報告しに行ってくる」

明石「…は…い」

ミーシャ「……今日はもう休め。明日から、改めてこいつの解剖と鎖の調整、艦娘以外でも使用出来る対深海悽艦兵器の開発しよう。…私も報告したら休みをとる……私も、疲れた…」


そう言い残し、工房を後にするミーシャ。

明石は動く気になれず、へたり込んだまましばらく動かなかった。


執務室にて、提督達は艤装の解析結果とミーシャの仮説を聞いていた。


大淀「そんな…!」

ミーシャ「あくまで仮説だ…」


動揺を隠しきれない大淀。

提督とアルマータは動揺こそしていないが何か考え込んでいる。


提督「……この事は天龍達には伝えないでくれ」

ミーシャ「そのつもりだ。確証はないし、何より前線で戦う彼女らを不安にさせたくないからな」

提督「うむ、じゃあ今日はもう休んでいいぞ。大淀、明石にも伝えてきてくれ」

大淀「わかりました」

ミーシャ「では、失礼する」


大淀とミーシャが執務室を後にする。


提督「……寄生された艦娘か。それが本当なら闇堕ちより質が悪いな……」

アルマータ「閣下…」


考え込む提督が心配になり、寄り添うアルマータ。

提督はそんな彼女の頭を優しく撫でる。


提督「大丈夫…敵として立ちはだかったなら、撃破するだけさ…。それよりも、そろそろ飯の時間だ。行こう」

アルマータ「はい」


昼食を取りに食堂へ向かう。


間宮「あら、提督。今日はカレーです♪」

提督「おぉ、良い匂いだ」

間宮「あの、そう言えば提督…あの深海悽艦は食事をとるのでしょうか?」

提督「…確かに」


ふと、視線を動かす。天龍達がテーブルでカレーを美味しそうに頬張っている姿を見つける。


提督「…食べるかもしれませんね。持っていってみます」


間宮からヲ級用のカレーを受け取りアルマータの方を見る。


アルマータ「…私はここで閣下のお帰りを待ってます」

提督「えっ?」


アルマータの意外な発言に驚く。


アルマータ「私がいると、きっとあの娘怯えてしまいますから…」

提督「…わかった。戻ったら一緒に食べような?」

アルマータ「…はいっ!」


笑顔で提督を見送るアルマータ。

提督はヲ級がいる独房へ歩きだした。


独房にて


朝と変わらず部屋の隅でうずくまっているヲ級。

そんな彼女を部屋の外で歩兵が彼女を監視していた。


提督「…監視お疲れ様」

歩兵「ギュイ!(司令官!)」


カレーを持って現れた提督に敬礼をする。

その時歩兵のお腹からグゥっと大きな音が鳴った。


歩兵「ギュピッ!」

提督「あはは!こんな良い匂い嗅げばそりゃ鳴るよな!そろそろ交代が来る筈だ。もうちょっと頑張ってくれ」


恥ずかしそうにお腹を抑える歩兵の頭を軽く撫で、部屋の中に入る。

入った途端、ヲ級がビクッと反応するのが見えた。


提督「腹、減ってないか?良かったら食べな?」


怯えるヲ級にカレーを差し出す。

ヲ級もカレーの匂いに釣られたのか、顔を上げてカレーを凝視する。


提督「大丈夫。毒物なんて入ってないよ」


それを聞いてもやはり不安なのか恐る恐るカレーを手に取るヲ級。

そして震える手でスプーンを持ち、カレーを一口食べる。

その瞬間ヲ級の目から大粒の涙を流し始めた。


ヲ級「っ!……うっ……うぅ……!!」


泣きながらカレーの頬張るヲ級。提督はその様子を少し離れた所で眺めていた。

そしてヲ級はカレーを残さず完食し、泣いて腫れ上がった目で提督を見た。


提督「旨かったか?また夕飯の時間に持ってくるよ」


そう言って空になった食器を持つと部屋を出る。


ヲ級「あっ……あうぅ…」


部屋を出た提督を呼び止めようとしたが、上手く声が出せず部屋の扉をただ見詰める事しか出来なかった。


食堂にて


間宮「提督!そのっ…どうでした?」

提督「よほど旨かったのか泣きながら食べてたよ」

間宮「そうですか…良かった」


空になった食器を見て安堵の笑みを浮かべる間宮。

その後、アルマータや交代で戻ってきた歩兵と共にカレーを食べ、アルマータは執務の為に執務室へ、提督は戦力を増やすために工房に訪れた。


提督「…少し多めに投入するか。……お?2人か」


タブレットに2つ建造時間が表示される。

誰が来るのか思いを馳せているとアルマータがやって来た。


アルマータ「閣下」

提督「ん、どうした?」

アルマータ「市ヶ谷さんから電話です。また憲兵として紅蓮隊メンバーが来ると」

提督「ほう!わかった、行こう!」


小走りで執務室へ戻り、受話器を手に取る。


提督「市ヶ谷か!?」

市ヶ谷『司令官!お久し振りです!!』


市ヶ谷の嬉しそうな声を聞き、提督も思わず笑みを溢す。


提督「アルマータから聞いたぞ!根回ししてくれてありがとう!」

市ヶ谷『…………』

提督「ん?どうした?」


急に黙ってしまった市ヶ谷。

そして先程とは違い、少し震えた声で話し始めた。


市ヶ谷『…実は近いうちに第3紅蓮隊が解体されることが決まったんです…』

提督「なんだって…!?」


様子外な報告に呆然としてしまう。

市ヶ谷は今にも泣きそうな声で報告を続けた。


市ヶ谷『それで皆がバラバラになる前に司令官の元へ送ろうと…。それでも数名、別の鎮守府へ異動になってしまいました……』

提督「…そうだったのか……すまない…」

市ヶ谷『いえ、司令官が謝る事ではありません!……それで今回そちらに行くメンバーはですね……』

提督「ふむ、わかった。到着時間は0900だな」

市ヶ谷『はい。では失礼しますね……』


市ヶ谷からの通話を終わり、アルマータに紅蓮隊解体の件を伝える。


アルマータ「そう、ですか……残念です」

提督「こちらの方でも何とか出来れば良いんだがな……」


その後も何処か暗い雰囲気の中執務を続け、夕食の時間になった。


アルマータ「閣下、またヲ級の所へ?」

提督「あぁ、そのつもりだ。もしかしたら何か話してくれるかもしれないしな…そうだ」


何か思い付いた提督はパソコンを操作し、何かをプリントアウトする。


アルマータ「これは…艦娘が使う武装の写真?」

提督「ミーシャの仮説を完全に信じる訳じゃないけど。何かしら反応してくれるんじゃないかと思ってさ」


写真をポケットにしまい食堂へ向かう。

そして間宮から料理を受け取ると、単身独房へ向かった。


独房にて


部屋の扉を開けるとヲ級が部屋の隅にいるのが見えた。

だが昼とは違いうずくまっておらず、怯えた様子もない。


提督「ほら、夕飯だ」

ヲ級「……あり……がと…」

提督「っ!お、おう、どういたしまして」


礼を言った事に思わず驚く提督。

ヲ級は食器を受け取ると無言で食べ始め、瞬く間に完食した。


提督「ん、食い終わったか。少し聞きたいんだが……これを見て何か思い出さないか?」


ポケットから数枚の写真をヲ級に渡す。

そこには駆逐艦や軽巡が使用する連装砲と魚雷の写真、重巡や戦艦が使用する主砲の写真、空母が使用する弓と艦載機の写真の3枚。


ヲ級「…………」


1枚1枚じっくり眺めるヲ級。

そして最後の1枚、弓と艦載機の写真を見た途端大声を出した。


ヲ級「あぁぁっ!あぁぁああああああああ!!!」

提督「っ!?どうした!?」

大和「司令君大丈夫!?」


危険を察知して外で監視していた大和が部屋に入る。

ヲ級は写真を両手で持って、涙を流していた。


大和「何があったの!?」

提督「…もしかしたらと思って試してみたが……まずったか…?」


状況が飲み込めない大和と予想以上の反応に困惑する提督。


ヲ級「はぁ…はぁ……驚かせてしまって…ごめんなさい……」


先程とは違い、落ち着いた様子のヲ級。

だが俯いたままで表情が見えない。


ヲ級「……1人にさせて下さい…………何かしたら沈めても…構いません…お願い…します」


震える声で懇願するヲ級を見て、唖然としている提督と大和。


ヲ級「それと…ごはん……ありがとうございました…………」


そう言って食器を提督の前に移動させる。

提督は食器を手に取ると大和に目配せをし、2人は無言で部屋を後にした。


ヲ級「南方……インド洋…………そしてミッドウェー…………思い出した……私は……」


大和「司令君大丈夫!?何かされてない?」

提督「だ、大丈夫だから。落ち着けって」


不安そうに体をまさぐる大和をなだめる。


提督「驚かせてごめんな?あの娘は……いや、とりあえず引き続き、監視を頼む」

大和「任せて。あ、そうだ。今日司令君のお部屋に行っても良い?」

提督「アルマータと喧嘩しなければな」


苦笑いしながらそう言い残し、食堂へ向かう。

食堂に着くと天龍達に混じって見慣れない2人が居ることに気が付いた。


提督「ん?君達は?」

「おぉ!お主が提督か!」

「執務室にいないから探し回ったんですけどー」


2人は敬礼をし、自己紹介を始めた。


利根「利根型重巡の一番艦、利根である!」

鈴谷「最上型重巡、鈴谷だよ。これからよろしくね!」

提督「提督だ、重巡洋艦が2人とは心強い。よろしく頼む!」


その後明日の日程を伝え利根達と食事をしていると、少し離れた席でミーシャの姿が見えた。


提督(さっきの出来事を言うべきかな)


食事を済ませ、ミーシャの元へ向かう。


提督「ミーシャ」

ミーシャ「ぬ、提督…」

提督「例の説について話がある。あとで執務室に来てくれ」

ミーシャ「うむ、わかった」

提督「ありがとう」


ミーシャから了承を得て、自分の食器を片付け始める。


鈴谷「提督食べるの早いね~!」

提督「あはは、このあともやることがあるからさ」

利根「秘書艦とやらは付けんのか?」

提督「普段はアルマータと2人でやってるから今のところは大丈夫かな。それに前線で戦う君達に余計な負担をかけたくないってのもあるかな」

アルマータ「それに私がいる限り、執務の方は大丈夫よ。さ、閣下、行きましょう」

提督「あぁ、それじゃ」


アルマータと一緒に食堂を後にする提督。

鈴谷はその後ろ姿を不思議そうに見つめている。


鈴谷「ねーねー、あの2人ってデキてんの?」

天龍「あぁ、ケッコンってやつしてるんだとさ」

暁「あと大和さんと歩兵ちゃんともしてたわね」

利根「ジュウコン、というやつじゃな」

鈴谷「ホヘー?誰それ?」


辺りキョロキョロ見回す。


暁「ほらあそこで食べてる子」


暁が指差す方向を見ると歩兵が少し離れた席でちょうど、夕食を食べようとしていた。

鈴谷は彼女を見るなり立ち上がる。


鈴谷「なにあの娘ちょー可愛いんですけど!!」

歩兵「ギュイ?」

鈴谷「チィーッス!私、鈴谷って言うんだ!よろしくね!!」

歩兵「ギュ、ギュギュ…(よ、よろしく…)」


歩兵の元に駆け寄り挨拶する。歩兵もそのテンションの高さに少し困惑しながら返事をすると、その姿がさらに可愛く見えたのか、歩兵に抱き付く。


鈴谷「あぁー可愛いなぁーもう!!!」

歩兵「ギャギュァーー!!(なんだこいつはーー!!)」

利根「やれやれ…」




数十分後、執務室にて扉がノックされる。

入って来たのはミーシャだ。


ミーシャ「来たぞ」

提督「すまないな。実は夕食前に独房に行って、この写真を見せたんだ」


ミーシャに新しくプリントアウトした弓の写真を渡す。


ミーシャ「ほう、それで彼女は?」

提督「一時的に錯乱したけどすぐに沈静化。その後1人にさせてくれと頼まれたんだが…その姿はとてもじゃないが深海棲艦には見えなかったんだ…」

ミーシャ「…まるで、1人の女性と話しているようだったと…?」


ミーシャの問いに無言で頷く。


ミーシャ「……わかった。明日、彼女に朝食を持っていく時は同行させてくれないか」

提督「もちろんだ」

ミーシャ「うむ、では失礼する。また明日」

提督「あぁ、おやすみ」


翌日07:00

独房へ向かった提督の代わりにアルマータが日程の確認をする。


アルマータ「第一艦隊は天龍旗艦に艦隊、砲撃演習。午後は鎮守府周辺の警戒。明石はミーシャと共に開発。そして0900に新たに憲兵が配属予定です。以上」

天龍「なぁ、あの空母はどうなるんだ?」

アルマータ「おそらく本日中に処遇が決まるかもしれないわ」

利根「なんのことじゃ?」

響「2人が来る前の戦闘で、空母級を捕獲したんだ」

鈴谷「まじぃ!?」

天龍「ま、おおかた大本営で実験動物になるか解剖だろうけどな!」

アルマータ(元々貴女達と同じ艦娘と知っても、同じ事が言えるのかしらね…)


同時刻、提督、ミーシャ、そして大淀の3人はヲ級のいる独房にいた。


ヲ級「おはよう、ございます…」

提督「おはよう。さて、覚えている事を話してくれるかな?」


ヲ級は深呼吸した後、意を決して話し始める。


ヲ級改めヒリュウ「私の本当の名前は、第二航空戦隊、飛龍」

大淀「…っ!そんな…」

ミーシャ「…予想していたが、なんということだ……」

提督「ヒリュウ……君に何があった?」

ヒリュウ「生まれてすぐ大本営の指示で艤装の試運転を行っていました」

大淀「大本営って事は…貴女は飛龍として初めて建造された個体って事じゃないですか!?」

ヒリュウ「…そう、らしいわね」

ミーシャ「どういう事だ?」

提督「武器娘もそうだったが、建造機から生まれるから全く同じ娘が何人も存在しているんだ。そしてこのヒリュウは飛龍として世界で1番最初に建造されたってことだ」

ミーシャ「初期モデル、という事か」

ヒリュウ「そこで補給ワ級に会って、ヤツに補食されたんです」

大淀「補給級って武装が無い筈じゃ」

ヒリュウ「私が会ったのは武装を持ってたんです。建造されたばかりの私は瞬く間に大破して」

提督「喰われた、と?」

ヒリュウ「はい、その後の事は覚えていません……」

提督「空母ヲ級に改造されて今まで戦ってきた、か」

大淀「提督…どうしますか?天龍さん達に伝えるべきなのか……」


全員の視線が提督に向かう。


提督「……すまん。こればかりは今決める事が出来ん。だが情報提供者として制限付で鎮守府内での生活を許可しようと思うのだが、どうだろうか?」

大淀「そうですね…艤装も無く、無力化したと他の艦娘達に伝えれば納得して下さるかと」

ミーシャ「鯖江達憲兵にだけ説明して、監視の名目で付き添わせるのもどうだろう?」

ヒリュウ「あの…」


様々な案を出して盛り上がっている3人に、オドオドと声をかける。


ヒリュウ「私……深海棲艦ですよ…?もう艦娘じゃないのに…」

ミーシャ「提督はおかしな人間でな。敵だった異種でも保護し、守ろうとする人なのだ。私もそうだった。かつて味方だった者に謀られ、殺される運命だった私を保護したのだ」

提督「懐かしいなぁ。ま、そういうことだ。今までマグマ軍だったのが深海棲艦に変わっただけ。敵意が無いなら保護、協力してくれるならもう仲間。それが第3紅蓮隊のやり方さ」


ミーシャと提督の言葉に瞳を潤し、涙を流すヒリュウ。


提督「ヒリュウ……君は、どうしたい?」

ヒリュウ「私…この部隊に入りたいです……!ヲ級じゃなく、飛龍として生きたい!!」

提督「決まりだ。ようこそ……第3紅蓮隊へ…!」


微笑みながら敬礼する提督。ミーシャと大淀もそれに続く。

ヒリュウも涙を拭うと、笑顔で敬礼仕返した。


大淀「それでは部屋に案内しますね。憲兵用の寮でよろしいですか?」

提督「あぁ、そこで大丈夫か?」

ヒリュウ「えぇ、問題ありません。よろしくお願いします」


各々独房から出てそれぞれの持ち場へ向かう。

提督も執務室へ歩き、そして執務室の扉を開ける。


提督「待たせたな。皆、久し振り」

「このあたいを待たすなんざ、良い度胸だなおい?」

「お久し振りです。こうしてまた会えたのも、神のお導きですね」

「元気そうで何よりだ。また貴君の指揮下に入れて嬉しいぞ」

「…ギュイ(…久し振り)」


来賓用のソファに腰掛けている4人。

スケバンの様な服装の飯塚椿。

シスターの格好の仙台智香。

凛とした佇まいの目達原楓。

グレーのボディスーツが特徴の重戦車72號、ウラール。


後書き

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2018-12-24 20:02:46

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-: - 2018-11-21 12:39:08 ID: -

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