2019-02-01 09:00:38 更新

前書き

誤字・脱字は脳内で変換してくださると幸いです。


「もう少しで着く」


「ここなら僕はーーー」




いつも通りの昼休み。


一人で昼食を摂るのが僕の日課になっていた。


学年が上がってからもうすぐ2か月が経とうとしていた。


しかし、魔が差したのかもしれない。


”ガラノスアスター”


その本の表紙にはその文字が印刷されていた。


まさかこの時代に未だにガラノスアスターを知っている人間が存在しているとは夢にも思わなかった。


いつも教室に一人でいる男の子。


僕と同じだ。


彼もまた一人だった。


僕は彼に話しかけた。


「...僕に何か用かな?」


僕はその本についての話題を振った。


「...あはは。君は面白い人だね」


言っている意味がよくわからなかったが、話を続けた。


「...こんな僕に興味を持つだなんて。なるほど」


「君が僕の世界に足を踏み入れることでどのような変化があるのか見てみるのも悪くはないのかもしれない」


彼はいつも僕とは違う世界を見ている。


寂しそうな、つまらなそうな、虚しい瞳だった。


僕はそんな彼に憧れていたのかもしれない。




「...ん?これかい?これはおにぎりだよ」


「具?具は鮭さ」


いつもコンビニのご飯を食べているのはなぜか聞いてみた。


「...ははは。君は面白いことを聞くね」


「僕の両親は仕事が忙しいだけだよ」


「僕ももうわがままを言っていられる年齢でもないしね」


彼はいつも笑顔を絶やさなかったが、目の奥底には得体のしれない寂寥があった。




時の流れは早いもので、もう冬だった。


あれから毎日のように一緒に昼ご飯を食べている。


たまに一緒に帰ることもあった。


「もう冬だよ。早いね」


「僕は四季の中で冬が一番好きなんだ」


「この冷たさと暗さはまるで僕を形容しているようじゃないか」


僕はこの有害な関係を持つことで気を紛らせていたのかもしれない。


彼の周囲に跋扈する何か。


それが何かは判断できなかった。


「...ん?友達?」


「...」


一瞬黙ったのでまずいことを聞いてしまったかもしれないと思い謝ろうとした。


「...はは、僕には君以外に友達なんて居ないよ」


「今まで人と関わることを避けて生きてきたんだ」


「人と関わるのは怖いことだから」


「知らないということは怖いことだから」


そこまで言って、彼は口を閉ざした。




「え?旅行かい?」


僕は彼に一緒に旅行に行かないかと誘った。


「いいよ。僕自身、旅行に行ったのは随分と前の話だからね」


目的地は彼の好きな海岸線。


この時期に行くのはどうかと思ったが、彼は構わないらしいので行くことにした。


「忘れ物はないよね?」


僕は忘れ物がないのを確認して頷く。


「...ーーーーーー」



彼が何か言ったような気がしたが、何も言っていないというのであまり気に留めなかった。


ここから電車で二時間近く離れた場所なので、二人で寝てしまった。


「...ん」


「...起きて。もうすぐ着くよ」


彼に起こされてようやく目が覚めた。


「...ふう。やはり寒いね」


それもそうだろう。


12月の下旬に海岸線にいるのだ。


風が痛い程寒かった。


「とりあえず旅館に向かおうか」


僕らはその辺のタクシーを捕まえて目的地まで向かった。




着いた旅館は想像よりかなり良かった。


彼も心なしか、幸せそうな顔をしていた。


けれど、相変わらず彼に蔓延る何かは纏わりついたままだった。


有害で有害で有害で有害で堪らなかった。


蜷帙→??セ難セ??橸セ√↓縺ェ繧後※濶ッ縺九▲縺。




「中々良い景色だね」


その日が晴れていたということもあり、景色は良かった。


「...ああ、お風呂かい?もう入る?」


僕は頷いた。


長いこと電車に揺られていたのもあり、体のあちこちが痛む。


「わかったよ。じゃあ先に行っていていいよ。僕は後からすぐに行くから」


この旅館は露天風呂と大浴場がある。


今日は休日でもなんでもない、ただの平日なので客は殆どいない。


まるで貸し切っているような気分に浸れた。




「...広いお風呂だね」


暫くしてから彼がやってきた。


「眺めも素晴らしいね」


「この旅館で正解だったね」


旅費は普段からバイトである程度収入のある僕の出費だった。


最初は彼は相当嫌がっていたが、僕の根気に負けて受け入れた。


「...今日はありがとう」


いきなり言われると照れるというような素振りを見せると、彼は少しだけ笑った。


「ははは、君は本当に興味深いね」


「思えば、こうして君と僕が仲良くなってからもう半年以上だね」


「誰が予想できただろうか。まさか君と僕が仲良くなってしまうなんて」


少しその言い方に違和感を覚えたが、あまり気にはしなかった。


彼は浴槽に入ってもタオルを決して外さなかった。


注意して見ると、胸部が不自然に膨らんでいるようにも見えた。


気のせいかもしれない。




けれど、彼の中に跳梁する何かが遂に顔を見せた。


僕がなぜ湯船に入ってもタオルをしているのかと聞いた。


「...」


彼は変えず言葉がなかったらしく、沈黙していた。


「...あまり、人に見せるようなものじゃないからね」


「じゃあ、僕は出るよ」


「先に部屋で待っているからね」


彼が湯船から出ようとしたのを見計らい、タオルを剥ぎ取った。


まるで引き剥ぎをしている気分だったがお構いなしに剥ぎ取る。


「ちょっ...君はっ、何をっ」


やっとのことで剥ぎ取った。


やはりそうだった。


彼は完全な男ではなかった。


かと言って完全な女性でもなかった。


世の中とは残酷なもので、このようなものが存在してしまう。


「くっ」


そして僕は彼に突き飛ばされた。


そして頭を強く打った。


視界が歪んでいくのが認識できた。


「...君なら大丈夫だと信じていた」


「君を信用した僕が愚かだった」


そんな意味のことを言って足早に部屋に戻っていった。


僕が目を覚ましたのは小一時間程あとのことだった。


慌てて部屋に戻るが、彼の姿はなかった。


ガラノスアスター。




その後、学校にも家にも彼の姿はなかった。


両親に聞いた話はこうだった。


「ガラノスに逢いに行く」


意味は皆目見当もつかなかった。


しかし、彼の中に弥漫していたものは現実だった。


僕はそれを受け入れることができなかった。


承認できなかった。


僕は、愚か者だ。




「もう着くよ」


「...ガラノス」


後書き

僕のSS作品としましては、これが二作品目となります。相変わらずオリジナルSSです。今作は前作よりも1,000字ほど短いSSになっています。とても短いです。僕の暇潰しの作品ですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。では、また機会があればお会いしましょう。


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