2018-11-23 22:54:48 更新

概要

陽炎のss書きたくてがさがさ書きました。


前書き

初投稿。短いので軽く読みながすくらいでちらっと読んでやってください。


今日も今日とて書類の山に追われる毎日。しかして敵がこの書類しかいないのならば、それほど幸せなことも無いのだと自分に言い聞かせながら、ぽんぽん判子を押していく。


「最後は艦娘達からの意見要望か。ある種一番面倒な仕事だな」

「素直やないねぇ。一番楽しそうにしとるくせに」

「言うな。そうでも思わんと判子が軽くなって仕方ないんだ」

「司令はんのそゆとこ、ウチは好きやわぁ」

「そりゃどうも」


本日の秘書官である黒潮と軽口を交わしながら、多少頬が緩むのを感じながら一枚目を手に取る。

これは鈴谷からの意見……というよりは要望か。間宮のスイーツメニューの種類を増やして欲しいと。……保留にしておこう。間宮の性格上喜んで取りかかりそうでもあるが、負担が増えてしまうのはあまり喜べることではない。

伊良湖共々、人員的な面でも相談を重ねて、実現出来そうならやってみようではないか。


二枚目……。川内か。さっと目を通して黒潮へと渡す。あいつも半分ダメ元で出してきているんだろうな。受け取った黒潮は苦笑しながらシュレッダーへと紙を入れた。


「川内姉さんは相変わらずやねぇ」

「まぁ、戦力維持の面では無下にも出来ないんだが」


本人はともかくとして、引っ張られて睡眠不足になる他の艦娘達が不憫である。鎮守府屈指の実力者である彼女の夜戦に付き合えば嫌でもレベルは上がるにしろ、過去に苦情がきたことを考えればほいほい許可は下せない。今より更に夜戦演習を増やせば夜型の鎮守府になってしまう。


さて、三枚目は――


「お疲れ様。ちゃんとやってる?」


そこで、執務室の扉が開いた。快活な声と共に部屋に入ってきた彼女は、此方を見ると朗らかに笑った。


「陽炎。ノックはどうした」

「ちゃんとしたわよ。気付いてないようだから入ってきたんだから」

「……そうだったか?」

「ウチと話してたから気付かなかったんかな?」

「まぁ、堅苦しいことはいいっこなし、ってね。昔の貴方なら厳重注意ってところかしら」


どうする? と姿勢を正し始める陽炎に、息を吐いて手を振ってやる。そもそもノックに気付かなかったのは此方であるし、今は肩肘張るような状況でもない。

勿論、彼女とて時と場合を見て態度を変える柔軟性を持ち合わせているし、何よりこの鎮守府では最古参の古株である。自分と共に酸いも甘いも噛み分けてきた生き字引だ。


「姉さんはどしたん? 様子見にでもきた? 愛しの司令はんが浮気してないか~、なんて」

「そーそー、なんだかんだ言ってひとたらしだから心配で仕方ないの」


背後に回られ、最近肩凝りがひどい自分の肩を揉みながら言う陽炎。ふわりと香る彼女の匂いと、肩に感じる体温に顔が弛みそうになるのを耐えながら、改めて三枚目の書類に目を向ける。

同時に、耳元で囁かれた。


「それ、叶えてくれる?」


『夫婦の時間』。

ただそれだけが書かれた紙をしばし見つめる。黒潮はそんな自分を肘をついてニヤニヤと見るばかりで、いつの間にか首に回されていた

陽炎の両腕は、何時もよりも熱く感じた。

自分で言うのも何だが、愛妻家な自分ではこんなことをされては叶わない。

わざわざこうして書類で出すようなものではないような気もするが、口に出すのも気恥ずかしい。なので、無言で書類に判子を押すことを返事とする。

気持ち、抱かれる腕に力が籠ったような気がした。







「うおおおおおお!」

「はいお疲れー!」

「っぽい!」


勝手に止まろうとする脚を奮い立たせる為に、声を張り上げながら走り抜ける。

提督という職業柄、デスクワークが多くなってしまう。が、それに甘んじていては年と共にだらしない身体になってしまうだろう。

提督としてこの鎮守府に着任した頃は鍛え上げられていた肉体も少しずつ衰えてしまう。それを防ぐ為にも、時間のある日はこうして身体を動かしているのだ。

……切っ掛けは、陽炎に腹の肉を摘ままれて笑われたことだったのだが。


「もう終わりっぽい?」

「そう、だな。こんなものだろう」


切れる息を整えながら、ぽいぽい隣をついてくる夕立に返事をする。自分がトレーニングをする時は必ずと言っていいほどついてくる彼女だが、どうにも散歩のように感じてしまうのは気のせいだろうか。

ちなみに自分の全力疾走にも彼女は嬉々として並走してくる。一度競争してみたこともあるが、本気の彼女は四つ足で激走する。ぼろ負けしたのは言うまでも無いだろう。


「はいタオル。よく頑張るわね。そんなにショックだった?」

「勿論ショックだったが」

「アハハッ! 気にしないでよー、冗談だって言ったじゃない」

「人の腹をつまんで大爆笑しておいて何を言うのか……」


陽炎から渡されたタオルで汗を拭く。夕立は既に迎えに来ていたらしい時雨と共に帰っていったようだ。


「私は気にしないのに。今更恥ずかしがることもないじゃない」

「同じ事を言われてお前はどう答えるんだ?」

「……私、太った?」

「そういうことじゃなくてだな」


はっとした顔で腹回りを気にし始めた陽炎に苦笑する。確かに、此方としても今更多少彼女の体型が崩れたところでどうしたものでもないが。


「好きな相手に見せる身体だから、と言えば伝わるか?」

「……そういうとこ、ずるいんだから本当」

「はは、効かんな」


ドスン、と腹に一撃。ギリギリ耐えられるような威力に多少身体がずれるものの、なんとか笑って返してやる。


「……じゃあ、今日の夜にでも成果を見せてもらおうかしら?」

「お手柔らかに頼む」

「どうしようかしら」

「……いや、本当に。この間は腰が」

「ちょっと! それじゃ私が無茶苦茶してるみたいじゃない! むしろ貴方が私に無茶苦茶しなさいよ!」

「落ち着け。言動を省みろ」

「誰にも聞かれてないんだから平気よ」

「だと良いんだがな」







「今日も平和っぽい」

「……こっちが恥ずかしくなるよもぉ……」


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