2019-01-08 10:00:25 更新

概要

整備士のいる鎮守府の物語… 

今回は『問題艦娘がやってきた 2』『整備士の過去』などをお送りします。
謎多き整備士。ある出来事で、その謎が少しづつ明らかになり整備士になった理由もわかってきます。


前書き

新年あけましておめでとうございます。
お待たせしました。整備士と鎮守府の物語 4の続きになります。

整備士と鎮守府の物語 1・2・3・4の続きです。
整備士と鎮守府の物語 1.2・3・4を読んでない方はそちらから読んでいただくと話が分かりやすいかと思います。もちろんこの回からの読みはじめでもOK!


[問題艦娘がやってきた 2]

ー整備士は3人を案内する。


整備士「ここが食堂。あそこが夜だけやってる居酒屋 鳳翔。」


整備士「あのでっかい建物が、執務室とか会議室とか入ってる。」


整備士「出撃・帰投港から一番近い建物が工廠だ。その隣に最近完成した『整備艤装試験場』がある。」


曙「『整備艤装試験場』って何よ。」


整備士「整備した艤装を、君たちに返す前にチェックする場所だ。」


整備士「整備は俺と明石がやってる。ただ、艦載機は妖精さん任せだけどな。」


整備士「案内は以上だ。最後に、もし出撃で気づいたことや整備不良を見つけた場合は速やかに俺に連絡をくれ。いつでも掛け合う。」


霞「わかったわ。」


ー一通り案内を終えた整備士は3人を各部屋に移動させた。


ーーー


漣「お!ぼのぼのじゃん!」


潮「わー!久しぶり曙ちゃん!」


朧「曙ちゃん久しぶり!」


曙「みんな久しぶり。漣、あんたぶん殴るわよ。」


漣「へい。ぼのぼのは相変わらず冷たいね~。」


ーーー


朝潮「霞!元気にしてた?」ヌクヌク


霞「朝潮姉さん。ええ。元気にしてたわよ。」


満潮「ねえ。そんなとこ突っ立てないでこたつ入りなさいよ。」ヌクヌク


大潮「そうですよ!小さな体に大きなこたつ!ぬくぬくです!」ヌクヌク


霞「あんたたち、だらけ過ぎよ。」


ーーー


大井「北上さん!」


北上「ん?大井っちじゃん。久しぶり~」ヌクヌク


大井「はい!お久しぶりです!あの…こたつ入ってもいいですか?」


北上「ん?いいよ~。入りなよ~。」ヌクヌク


大井「はい!」


ーーー


ー整備士は案内が終わると、工廠に戻り3人の艤装の図面化とセンサー取り付けを行うのであった。


[工廠]

整備士「冬の艤装は冷たいね~。手が震えて効率よく整備できないや。」ブルブル


整備士「それにしても3人分か…今夜は徹夜だな……」


明石「私も手伝いますから!頑張りましょう!」


整備士「明石は元気だな…」


明石「そういえば、3人はどんな感じの子でした?」カチャカチ


整備士「ん?まあ、口が悪い。としか…」カキカキ


明石「口が悪い?」カチャカチ


整備士「初対面で、クソ・クズ・魚雷打つ だからな。びっくりだよ」カキカキ


明石「なんか、すごい子が来たんですね。」カチャカチ


整備士「まあ、元は素直な子だと思うよ。多分…」カキカキ


ーーー


明石「できた~。」


整備士「こっちも終わった。」


明石「では!さっそく『整備艤装試験場』にもってて試験しましょう!」


[整備艤装試験場]

整備士「なんかすごいな。」


明石「どうです!どうです!1編成分の同時試験に艦種の違うテストまでで同時にできちゃいます!」


整備士「この狭い空間によく収まったな。主砲のテストはどうするんだ?」


明石「この先の海上に円形の輪があるんです。その中に入るとこの制御室のモニターにランプがつきます。輪は自由に移動可能なので各艦の射程内に移動が可能です。」


明石「後は、動きながらの主砲発射も再現できるので、前よりもかなり正確に目標に当たるか確認できるようになります。」


ー2人は制御室に移動し、多数のモニターを前に試験を開始する。


整備士「どうやって始めるんだ?」


明石「えっと…夕張の取説によると……

1.制御室内のモニターにある艤装をセットした番号台に、艦種と艦娘の名前を入れる。

2.全て入れ終わったら、どの順でテストするかを選択する。(例 タービン→主砲→魚雷)

3.選択が終われば、スタートボタンを押し待機。

4.各艦娘艤装の数値がモニターに表示され、合格ラインはグリーン 再整備が必要な数値が出たらレッドで表示される。

5.すべての検査が終わると、クールダウンのため5分待つ。

6.待っている間に、試験データが紙やモニターに表示・出力される。

7.艤装を固定代から外し終了。

って書いてます!」


整備士「つまり、艤装を固定すればすべての検査は自動で行ってくれるのか。」


明石「はい!そう言うことらしいです!試験時間も6台すべて使っても、長くて30分で終わるので整備士さんの負担もグッと減ります!」


整備士「なんか、すごい発明だよなこれ。」


明石「関心してもいいですが、とりあえず試験やってみません?」


整備士「おう。そうだな。まず1番台 駆逐艦 曙。2番台 駆逐艦 霞。3番台 軽巡 大井 入力っと。」


整備士「そんで、すべての番台に タービン→主砲→魚雷 選択っと。」


整備士「んで、スタートボタン ポチっとな。」


ウゥーーーー(サイレン音)

ウィーーーーーーーーーーン ゴンゴンゴン キュイーーーーーーーン


整備士「おお!すげー!」


明石「今のところオールグリーンですね!」


ーーー

ーー



ーケッカハッピョーーーーーーーーー!


整備士「………………うん。数値も問題なし。全部合格だよ。」


明石「よかった!」


整備士「これって、俺が一人でやってた時とのデータと変わらないか?」


明石「それなら、ご安心ください!夕張が今回の本格運用前のテストで全ての艤装を様々なパターンで試験したみたいですが、整備士さんが行っていた試験とほぼ同じだそうです。」


整備士「まじか…そこまでやってくれるとは………」


整備士「よし…明石。夕張を呼べ。今夜は俺のおごりだ!」


明石「わかりました!」




ーーーーーー

[整備士の一日 始まり]

ー整備士は勤務(08:00~18:00)前に趣味である自転車(ロードバイク)に乗って、島の中をサイクリングするのが日常だった。しかし今日は昨日から降り続いた雨の影響で、路面状況が良くない。そのためあるものを引っ張り出して自転車をこいでいた。


-06:30‐

大鳳「はっはっはっはっ」スタスタスタスタ


ードッシャーン! イッテーーー!


大鳳「!!?」


ー大鳳は音の聞こえた方に向かう。大きな音が聞こえたのは工廠であった。そこに、自転車と整備士が転がっていた。


大鳳「だっだ、大丈夫ですか!整備士さん!」


整備士「いてって~。ん?大鳳じゃないか。おはよう。」


大鳳「あ!おはようございます。」


大鳳「じゃなくて!どうしてこうなったんですか!」


整備士「いや~。日課のサイクリングしようと思ったら、路面がまだ湿気ってて代わりに3本ローラーでもするかと思って、やってたらこけた。」


大鳳「3本ローラー?整備士さんの横にあるやつですか?」


整備士「そうそう。前輪が1つの回転式ローラー。後輪が2つの回転式ローラーで、陸上でも進まずにその場で自転車がこげるんだ。」


大鳳「見るからにバランス悪そうですね。」


整備士「まあね。乗り降りの時によくバランス崩すんだ。速度が出てないから安定しないんだよ。俺もこれに乗って1年以上たつが未だに乗り降りは怖い。」


大鳳「今回も乗り降りでこけたんですか?」


整備士「いや、普通に漕いでるときにこけた。水を飲もうとしてドリンクホルダーに手をかけてら、バランス崩してそのままドシャン。」


整備士「こける準備もしてなかったから、盛大に行っちゃった。」


大鳳「そんなこともあるんですね。」


整備士「あるんだよ。大鳳も乗ってみるか?」


大鳳「え!いいんですか!」


整備士「ああ。乗って悪いもんじゃないし。体幹も使うから、大鳳が日ごろの朝練を試してみる価値はあるよ。」


大鳳「乗ります!乗ります!」ピョンピョン


整備士「じゃあ、1回自転車またいで(かわええなぁ~)。」


大鳳「こうですか?」


整備士「そうそうそんな感じ…… ん~。あれぐらいかな。  大鳳降りて。」


ー整備士は大鳳にあった自転車のセッティングを行った。


整備士「大鳳もっかい乗って」


大鳳「はい!」


大鳳「え?整備士さん足があんまりつかないんですけど…」


整備士「基本はそうだ。足はついてもつま先ぐらいで、今回のセッティングはかなり低めに設定してるぞ。」


大鳳「これで低いんですか!」


整備士「慣れだよ。慣れ。一回それで走ってみて。」


整備士「シフトは右がリア(後ろ)左がフロント(前)。ギアを上げるときはシフトレバーの後ろを横に押し込んで、戻す場合は2つのシフトレバーを同時に横に押し込めば変わる。ブレーキはシフトレバーを握ればブレーキが利くから。」


大鳳「はい!やってみます!」


整備士「気をつけろよ~。」


大鳳「確かに、タイヤも細いしスピードが出ないと不安定ね。でも、漕げばこぐほどスピードが上がって楽しい!風と一緒になってる感じがする!」コギコギ


整備士「あれならいけそうだな………」


大鳳「凄い楽しいわ!整備士さん!」キラキラ


整備士「そうか、じゃあローラーに乗ってみよう。はじめの乗り降りは俺がサポートするし。」


大鳳「はい!」


ーそう言うと整備士は3本ローラーの上に自転車を乗せ、大鳳もその自転車に乗った。


大鳳(案外狭いのね………  !!!)


整備士「じゃあ説明するぞー………………」


大鳳(整備士さんがこんなに近くに!しかも、ハンドルと一緒に私の手も握ってる////)


大鳳(あ!そういえば朝、ランニングしてたんだった…汗のにおいとか大丈夫かな////)


整備士「ってな感じだ。大鳳わかったか?」


大鳳「えっ!?あっ!はい!」////


整備士「それじゃあやってみよう。安定するまで俺が少し支えておくし、大鳳も俺の肩を杖代わりに持ってもいいからな。」


大鳳「はい!////」コギコギ


整備士「そうそう。ある程度スピードが出たら放すからな~。」


大鳳「えっ?ちょっとまだ放さないでくださいよ!」コギコギ


整備士「大丈夫。大丈夫だ。ほれ、放すぞ~」ヒョイ


大鳳「ちょっと!あっ!」コギコギ


整備士「そうそういい感じ。前見ろ大鳳。自転車は下向いてたら走れないぞ~。」


大鳳「はい!」コギコギ


整備士「いいね~。初めてにしては良く乗れてるよ。」


大鳳「ほんとですか!  あっ。」ガックン!


ー次の瞬間。前輪がローラーから外れ、大鳳が前へ放り投げられた。


整備士「危ない!」ダッ!


ーーー


大鳳「いてて……あれ、痛くない。そういえば整備士さんは?」


整備士「フゴゴ~ フンゴゴゴ~(大鳳~ どいてくれ~)」


大鳳「え?」


ー大鳳が下を見ると、整備士は大鳳の下敷きになっていた。そして、顔は大鳳のお尻らしきところに埋まっていた。


整備士「フゴ! フンゴオゴ~(死ぬ! 死ぬから~)」ペシペシ


大鳳「………………。キャー!」


整備士「あ~。死ぬかと思った…  ん?」


ーベチーーーン!整備士の頬には見事なモミジが出来上がっていた。


ーーー


大鳳「すみません…恥ずかしさのあまり叩いてしまって…」


整備士「いいって。俺も不可抗力とはいえこんなことになったのは事実だし。」ヒリヒリ


整備士「そろそろ。勤務時間だ。大鳳も着替えて朝飯食って来いよ。」ヒリヒリ


大鳳「はい。」


整備士「あ!そうだ大鳳!自転車乗りたくなったらまたいつでもこい。待ってるからな!」ヒリヒリ


ー二人は着替えを急ぎ勤務するのだった。




ーーーーーー

[整備士の長い戦い 幕開け]

ー朝の運動も終えた整備士は、午前も整備にテスト順調にこなし昼食を食べて午後の作業に備えるのだった。


[工廠]

整備士「今日は、曙・霞・大井の3人で出撃任務か…もうそろそろ帰投の時間だな。」


曙「艦隊が戻ってきたって…ふんっ!」


整備士「お。お帰り。どうだっ『このクズ整備士!』」


霞「あんたが整備した主砲。まともに当たんないんだけど!どういう整備のしかたしてんのよ!私たちを殺す気!」


大井「同感です。なんですかこれは?魚雷発射管からグリス漏れがあるんですけど?」


曙「私もよ。タービン周りがおかし過ぎよ!ホント、冗談じゃないわ!」


整備士「すまん。」


霞「謝って済む問題だと思ってるの?」


曙「クソ整備士は私たちを沈ませる気なんでしょ!」


霞「ほんと死ねばいいのに。」


整備士「すまん。」


大井「で?どうするんですか?」


整備士「とりあえず。君たちの艤装をもう一度見てみる。そこから対応は考えるが原因が分かれば報告する。次の出撃は?」


大井「明日の午前です。」


整備士「了解。それまでにもう一度整備をしてみるよ。」


ーそう言って整備士は、整備を行うのであった。しかし、今回の整備はオーバーホールになるため、通常業務に支障のない業務外での整備となり、整備士の長い戦いが幕を開けたのであった。


ーーー

漣「ぼのぼの。初出撃はどうだった?」


曙「どうも何も。クソ整備士のおかげで散々だったわ。」


潮「整備士さんなんかミスでもしたの?」


曙「ミスも何も、あいつが整備したタービンがおかしいのよ。思った出力は出ないしコントロールはきかないし。」


朧「そうかな?私はこの前の出撃では何ともなかったし、そんな事例聞いたことがないよ。」


曙「あんたがおかしいだけよ。あいつに整備させたらいつ沈まされるか……」


漣「……………」




ーーーーーー

[整備士の長い戦い 2]

-18:30‐

ー勤務を終えた整備士は、まず3人の出撃から得たデーターに目をつけていた。しかし、整備士は疑問に思う。


整備士「なんでだ、データでは全員とも出力も火力も規定数値に収まってる。振動から見ても敵を撃破した砲弾や魚雷の発射は適正数値だ。」


整備士「あの子たちが嘘をつくはずもないし、現場の意見が最優先だ。だとするとセンサーの故障?もう一度いちからつけなおしてみるか。」


‐21:00‐

整備士「これで3人の艤装のセンサー付けは完了だな。」


整備士「次は…各艤装のメンテナスだな。オバーホールだから…今夜は徹夜だな。」


明石「あの…整備士さん?私も手伝いましょうか?」


整備士「気持ちだけ受け取っておくよ明石。これは俺自身の問題なんだ。俺の技量に問題があるなら、明石を巻き込ませるわけにはいかない。」


明石「そうですか…夕食ここ置いときますね。」


整備士「おう!ありがとな!」カチャカチ


-22:00-

整備士「まずは霞の主砲か……」カチャカチ


-01:00-

整備士「次は曙のタービンっと」カチャカチ


-03:00-

整備士「大井の魚雷………… ん?なんでここのナットが緩んでるんだ。」


ー整備士は一目でわかった。すべての整備後に整備士はボルトナットに白線を引いている。これで緩んだ時も一目でわかる。テストを行った後もそのボルトを見ればゆがみやずれが一目でわかるので、ボルトの確認も楽になるのだ。

今回は、ありえない部分が緩んでいた。しかも、グリス漏れとは関係ない場所だ。


整備士「ここが緩んで、グリスが漏れることはまずない。となると……」


整備士「いや、やめておこう。多分、深海棲艦のオイルがここに飛び散っただけで、大井はそれをグリス漏れと判断しただけだ。」


整備士「うん。そうだ。」


-05:00-

整備士「さてと、これでオバーホールは終わった。最後にテストをして終わりっと。」


[整備艤装試験場]

整備士「セットして…スタート。」


ウゥーーーー(サイレン音)

ウィーーーーーーーーーーン ゴンゴンゴン キュイーーーーーーーン


ーケッカハッピョーーーーーーーーー!


整備士「眠い時にこれ聞くと、目が覚めるな……」


-05:45-

整備士「よし。テスト整備の結果問題なし。」


整備士「後はあの子たちがどんな感触を得るかだな……」


-06:00-

[工廠]

整備士「ふぁ~。ねむ…」ノビー


大鳳「あの~」


整備士「お!大鳳か。おはよう。」


大鳳「はい。おはようございます。今日、自転車いいですか?」


整備士「………………。(どうする。昨日の件で一睡もしてないが…まあ、大鳳もせっかく来てくれたしいいか。なんとかなるだろう。)」


整備士「いいよ。ちょっと待っといて。自転車とローラー出してくるから。」


大鳳「はい!」ニコ!


整備士(天使がここにおる……)


整備士「今度はこけないでね?びんたは嫌だし。」


大鳳「こっ!こけません!////」


整備士「ハッハッハ!」




ーーーーーー

[整備士の長い戦い 3]

ー整備士は徹夜で作業した艤装を3人に預けそれぞれ出撃を見送った。彼女たちが帰るのは11:00それまで整備士はいつも通り、ほかの子の艤装をメンテナンスするのであった。


整備士「今回の出撃メンバーは、大井・霞・曙・漣・朝潮・北上 か。教育ってところだろうな。」


大井「艦隊が帰投しました。みんなお疲れ様。」


曙「クソ整備士!なんて整備してんのよ!」


整備士「ん?なんかトラブルか?」


曙「なんかじゃないわよ!こんな艤装2度とつけたくないわ!」


霞「同感ね。あんた整備士辞めたら?」


整備士「せめて原因を教えてくれ。」


大井「自分で考えたらどうですか?あなたは戦わずにこんな生ぬるいところで整備してるだけなんですから。」


北上「ちょっと、大井っち言い過ぎだよ~」


漣「そうですよ~みさなん落ち着いて。」


朝潮「霞もなんでそんなこと言うの。」


整備士「みんないいんだ。これは俺の技量不足からくるミスだ。俺の責任だ。」


整備士「ただ、ひとこと言わせてくれ君たちの出撃や戦闘データを見てみたが、おかしなところはなかっ『なに!』」


霞「私たちが嘘をついてるっていうの!」


整備士「いや、そういうわけじゃなくて、このデータは誤りでいいんだよなってこと。」


大井「さあ?整備士さんが私たちを信じるかどうかですよ。」


整備士「いや。君たちを俺は信じるよ。会議室より現場の意見だ。君たちが認めるまで俺は整備を続ける。」


霞「好きにすれば。」


ーーー


[廊下]

北上「ちょっとみんなあのいい方はないんじゃないかと思うわけですよ~」テクテク


漣「ただ、整備士さんも頑固ですからね。」テクテク


朝潮「そういえば、今更ですけど整備士さんってなんでうちにいるんでしょうか?」テクテク


北上「確かに言われてみれば、そうだね~」テクテク


漣「なんででしょうね。」テクテク


ーーー


[執務室]

ー整備士は執務室を前にしていた。


整備士「失礼します。」ガチャ


提督「よ!整備士さん。吹雪ちょっと席を外してくれ。」


吹雪「はい!」


整備士「実は提督。相談事がありまして…………」


整備士「全艦娘艤装のオバーホールを行いたいのです。」


提督「例の3人の件か。」


整備士「いえ…自分自身の技量向上のためです。もちろん出撃に支障がないように行いますので、提督はいつも通り執務していてもらっても構いません。」


提督「ダメだといってもお前は勝手にやるだろう。艤装はすべて任せてある。好きにしていいよ。」


整備士「ありがとうございます。では『整備士さん』」


提督「………あんたはまた一人で重い十字架を背負う気なのかい?」


整備士「……………なんの話ですか?」


提督「いや。何でもない。」


整備士「では、失礼します。」バタン


ーーー


整備士「………………。」


整備士「提督は何でもお見通しですね。」フゥー


ーーー


提督「整備士さんは、嘘が下手だ。」


提督「青葉。この話は記事にするなよ。」


ーーー


青葉『了解です!』




ーーーーーー

[整備士の長い戦い 4]

ー整備士は工廠に戻っていた。今、この鎮守府にいる艦娘は約90名。オバーホールに掛かる時間は艤装1セットにつき2時間~5時間。それをすべて勤務時間外で行おうとしている。平時は通常業務。それ以外の時間はオバーホールと整備を進めていった。


-18:30-

整備士「さて。やるか。勝負の時間だ。今日は戦艦組をやるぞ。」


-21:00-

整備士「艤装はでかいな~やっぱり」


-22:30-

整備士「軽食いただきます。」


-01:00-

整備士「主砲の整備よし。」


-03:00-

整備士「タービンよし。」


-04:00-

整備士「さて、仮眠。」


-07:00-

整備士「大鳳すまん。当分運動は出来そうにないわ。さみしい顔すんなって!俺は大丈夫だから!」


-07:30-

整備士「明石、先に工廠行ってるぞ~」


-08:00-

整備士「さて、今日も頑張りますかね。」


ーそんな生活が何日か続くと、艦娘たちも当然心配する。ただ、整備士はそれをはねのけてオバーホールを行うのだった。艦娘には『これは俺自身のためなんだ。大丈夫!やばくなったら休むって!』といって落ち着かせていた。ただ、その間でもあの3人の罵声はやまない。逆にひどくなっていく一方だった。それでも、整備士はめげずにオバーホールを行うのだった。


ーーー


霞「あのクズ根性強いわね。」


曙「あたしもそう思う。いつもだったら見捨てられて終わりなのに。あのクソ整備士はなんで見捨てないのよ。」


大井「あの人には強い信念があるんでしょう。勝手にすればいいのよ。」


霞「でも…あんたも気づいてるでしょ。」


曙・大井「……ええ…」


ーこの3人はわかっていた。敵に弾丸が当たっていても。タービンが正常に稼働していても整備士に嘘をつくのは、前からそうしてきたからだ。言動の悪さで他の鎮守府から追い出され、今回もそうすれば追い出されてまた別の鎮守府へたらい回し。そう思っていた。そうするために整備士を標的にし罵声を浴びせた。いつものことだった。ただ、整備士は決して他人の責任にせず、自分に非があるとそう思い整備を続けた。


ーーー




ーーーーーー

[整備士の長い戦い]

ーそうした日々がとてつもなく長く続いた。


整備士「さ…て…次の…オバーホール…は…………………(あれ?目の前が暗く……)」フラフラ


ドシャーン!


ー工具が散乱した横に整備士は倒れていた。時刻は03:00。艦娘寮などの居住施設から遠く離れたこの工廠では、その音に誰も気づくことはなかった。工廠の明かりだけが整備士と辺りを照らしている。


‐06:00‐

大鳳「はっはっはっはっ」スタスタスタスタ


ー大鳳は日課のランニングをしていた。冬の時期でありまだ辺りは薄暗い。しかし、いつもと違ことはあった。工廠の電気がついていたのである。


大鳳「(ん?あれ?整備士さん起きてるのかな?最近だったらこの時間は、電気ついてないんだけど……)」スタスタスタスタ


‐06:30‐

大鳳「(あれから一度も工廠で音がしなかった…なんか胸騒ぎがする………………)」


ー大鳳は工廠に向かった。


[工廠]

大鳳「整備士さん~いますか。」コンコン


工廠「………………」


大鳳「失礼します」ガチャ


大鳳「整備士さんいますかー。大鳳です。」


ー大鳳は工廠に入り整備士を探した。工廠には整備しかけの艤装がいくつか置いてあった。その間を歩いていく、そうすると何かの液体を大鳳は踏んだ。


大鳳「これは……オイル?」ピチャ


ー黒いような液体の先に目をやると、物陰に隠れた人の手が見えた。大鳳は誰なのかすぐに分かった。


大鳳「! 整備士さん!!」ダッ


大鳳「整備士さん!大丈夫ですか!整備士さん! 起きてください!」ユサユサ


ー大鳳の呼びかけに整備士はびくともしない。


大鳳「誰か!誰か!」


ーそう呼びかけるが居住区から離れた場所の工廠の声など届くこともなく、大鳳はとっさに工廠の火災非常ベルを押した。


ジリリリリイリリ!


ーけたたましい音が鎮守府に鳴り響く。その音に驚いて起きてくる艦娘も大勢いた。


ーーー


提督「なんだ!火災か!場所は…………工廠……」


提督「吹雪!お前は艦娘の安全確保と誘導だ。グラウンドに集合させろ!俺は現場を確認してくる!」ダッ!


吹雪「はい!司令官!」


ーーー


提督「整備士さん!大丈夫か!」バン!


ー提督が勢いよく工廠のドアを開けると、そこには泣きじゃくる大鳳と倒れたままの整備士がいた。


大鳳「でいどく……ぜいびしざんが……」グスグス


提督「大鳳一回落ち着け。そしてその場所から離れろ。」


提督「心臓は動いてるが意識がない。でも一番厄介なのは………」


ー提督は黒い液体を触った。


提督「間違いないこれは血だ。口にもついてるってことは、吐血したのか……」


大鳳「血………………」グスグス


提督「大鳳。今すぐ医務妖精さんを連れてこい。ここで見てもらう。」


ーーー


医務妖精「脈は打ってますけど、弱いです。多分大量に吐血して体の中の血が足りないんでしょう。でも、何とかします。任せてください。大鳳さんついてきてください!付き人をお願いします!」


ーそう言うとレッカー車に乗せられ整備士は運ばれていった。大鳳も走って後を追いかけていった。


ーーー


[グラウンド]

ーグラウンドにはすべての艦娘がそろっており、点呼も済んだ状態で待っていた。


天龍「さみーよ!朝早くに起こされるし何だってんだほんと。吹雪はなんか知らないのか」ザワザワ


吹雪「もうすぐ司令官が来るからわかりますよ。」ザワザワ


天龍「さっきからそればっかりじゃないか。」ザワザワ


ーそこに提督が現れ、今回の件について話し始めた。


提督「みんな全員いるな。今回の火災ベルは工廠で押されたものだった。」


霞「あのクズ整備士はどんだけ迷惑かけるんだか。」


曙「ほんとよ。」


大井「北上さんの休みを邪魔させたあいつは許さない。」


提督「それで、火災は発生してなかったので安心してくれ。ただ一つみんなに重要なことを伝えておく。」


提督「整備士が倒れて、意識不明の重体だ。」


霞・曙・大井「え?」ザワザワザワザワ


提督「原因は不明。現在、医務妖精さんが懸命に治療してくれている。詳細が分かればまた掲示板に張り出す。」


提督「あと、吐血もしていたので工廠は一時的に封鎖とする。その間の出撃・遠征はなし。以上。解散。」




ーーーーーー

[整備士の過去]


[医務室]

医務妖精「応急処置は済んだけど、意識は戻るとは限らないから。」


大鳳「はい。」


整備士「………………」


提督「大鳳お前寝てるのか?最近ずっと整備士さんに付きっきりだぞ。無理すんなよ。」


大鳳「いえ。出撃もないですし暇ですから。」


大鳳「整備士さんはなんでそこまでして、自分を追い込むんでしょうか。私にはわかりません。」


提督「………これは、誰にも言ってない話だ。俺と整備士さんしか知らない。」


提督「………………整備士さん……彼は一度、死んでることになってるんだよ。」




ーーーーーー


整備士と鎮守府の物語 6に続く


後書き

さて皆さん。いかがでしょうか?
出来れば評価・応援やコメントしていただければありがたいです。

次回は『整備士の過去 2』などをお送りします。

更新は2週間後をめどにしています!それではまた!


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暗闇(くらや)さんから
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