2019-10-22 00:22:54 更新

概要

ショートテキスト集。

時系列もなにもかもバラバラ。ショートストーリーや証言、独り言からメモ切れまで何でもあり。


前書き

吹けば飛ぶような物語たちが、人知れず咲いて人知れず散ってゆく。


深き眠りから覚めて



海を駆け、人類を害する深海棲艦を排除する希望の象徴。愛くるしい笑顔を振りまく美少女達。


『艦娘』。


君もみんなの姿を見たことがあるはずさ。テレビで、マンガで、広告ポスターで。あるいは実際に他の娘達に合ったり、助けられた事があったりしたとか?


……ふふっ、やっぱり!


ねぇねぇ感動した?カッコ良かった?憧れた?


あーそうそう。いい感じ。


ふーん。ところで、これまでの自分はどうだった?へぇ、虚しい。悲しい。辛い。


そっかぁ。うんうん、わかるよ。


でも大丈夫!もう苦しまなくていいんだよ。


へ?気分が?変な感じ?あぁ、いいね!うーん、すっごくイイ!


じゃあそろそろ…ほら、ジャーン!鏡だよ!君のために大きなものを用意したんだ!特注品だよ、見て見て!


…信じられないって顔だね?


うーん、おはよう!眠気は吹き飛んだかな?…そう、これが君さ!


フフッ、顔を赤くしちゃって…かわいいなぁ。…泣いているのかい?ほら、んっ。大丈夫大丈夫。


世界は君が知っていることだけが全てじゃないんだよ。これから一緒に、どんどんたくさんの事を受け入れていこーね。


ようこそ、しずかな海の世界へ。



(帝国海軍の量産型重巡洋艦)





人として、艦として



「最後の戦いについて、ですか?はい、私はその年に製造された天龍……第九世代、コピー版の廉価版の簡易版の緊急…あ、い、いえ!りょ、量産型艦娘です!すみません!」


「うっ、ごめんなさい。ひとまずお茶を…そう、お茶を淹れてきますね」


――――――――――


「決戦…決戦ですよね。はい…。勿論全てを知っているわけではありません、ですが…あの戦いは正に地獄でした。

退くことは許されず、只前へ進ませられるんです。弾幕の中を…突っ切って、撃って、…走って。それから……見渡せば、みんな、いなくなっていて…」


――――――――――


「あ……あぁ……あ、あァッ、海…うみがッ!あっ……あ、赤くて!散らばった身体をくっ付けて、元に……元に戻したかった。し……したかったんだよ!ぅ、俺が!おrウブッ、オゴッ、ゲ、ゴボーッ!」


――――――――――


「あぅ、ゲホッ、ゲホ…うッ。ハァ、ハァ…ごめん、なさい。おえっ、すみません……白湯、白湯はどこ…」


「ケホッ、コホッ…ええと、あの戦い、今は「深海戦争」って呼ばれているんでしたね。はい。……たとえ圧倒的な数で優位性を持っていたとしても、オリジナルが何人もいたとしても必ず誰かが死ぬ。それが戦争なんです」


「生き延びても、戦争は私にたくさんの傷を残していきました。今も、いつ情緒が不安定になるのか心配で…」


――――――――――


「すみません。もういいですか…私が言える事はここまで。ここまでなんです。……せっかく取り戻せた日常を侵すような真似はもう、やめてください!」



(元量産型天龍の女性)





「証」に願いを



「最近、量産型の…駆逐艦のチビ達の間でおしゃれが流行っているんだってさ。髪とか服を染めたり、結んだり…『願掛け』?『ぱーそなるからー』?

……っていうんだっけ?あたしらに似せたり個性的な様相にしてみたりと、軍規に触れないギリギリなラインでみーんなやってるらしいね。


んー、特に『吹雪』を真似する娘が多い気がする。かな?まぁあの子も…いや、なんてったってあの子は「伝説」に片足突っ込んでるからなぁ。


ふぁあ。全く、ご苦労な事だよねぇ……」



(重巡洋艦 加古)





Personality of a humanoid



「刀や槍を差す艦娘?…ええ、とっても興味深いわ!


Why?何故って……当り前じゃない。艦娘は砲雷撃戦が常よ?なのに彼女達、わざわざスペースを開けてまでKatana、白兵兵装を持っていこうとするの。戦国時代のArmyじゃないし、現代でそれをしようなんて……おかしいわ。

ジュ…ヨウ、需要ねぇ。ニッポンだし、あのモンスター達を捌いて…食べるとか?Well……Imperial Navy is lunatic!全く見当もつかないわ!


But I wonder. ……戦場で深海棲艦と相対した時、映像越しとはいえ明らかに連中、恐れ慄いているのが分かるのよ。


……It’s strange!何故かしら!


……サムライの威光を示そうとしているのか、はたまたショーグンを想起させて部隊を鼓舞させようとしているのか?…全く、考えが湧き出て止まらないわ!ただの物干し竿なのに、ね」



(民間ジャーナリスト)





なぜなにかんむす教室 Lv.1



「おはようございます!昼でも夜でもおっはよーございまぁーすっ!よいこのみんな、かんむすおねーさんだよっ!今日は量産型とオリジナルについてお話をするよ!…んおっほん!!


オリジナルは海から、もしくは、ようせいさんから創られたとぉっても強いお姉さん達なんだ。かつての、過去の記憶や惨劇の苦痛を胸に抱くおんなの子なの。そして量産型はその容姿を真似て製造された謂わば紛い物で……


あぁっと、ごめんね。難しすぎちゃったかな?よーするに、オリジナルは量産型よりも、とぉーっても強いってことなの!


やだ、もうこんな時間!みんなとお別れしなくちゃ!じゃーね、またあう日まで!!」



(かんむすおねーさん)





歯車の行軍



「妙高型重巡洋艦は、改古鷹型とも呼ばれていまして、その名の通り古鷹をベースに改良が加えられたものとなっています。勿論我が研究所でも、本世代より従来型の「量産型古鷹」を改良した妙高型がラインナップに乗っていますよ。


カタログにも載っていますが……実際、多用されない格闘性能はほとんどオミットされてしまいました。


ですが!…その分射撃管制能力や安定性、装甲や機動力など、全体的な性能が抜群に上がっています。回路もスリムで小型な新型を使用することで施術者への負担を格段に減らすことに成功しているんです。


それだけではありません!


今現在は「量産型古鷹」のみに限りますが…自我移植による乗換え手術も新たに採用。加えて、個人ごとの性格・戦闘スタイルに合わせて種類を4つに分け、そこからさらに艤装のチューン・フィッティングを行えるという新たな付加価値を提供できるのです!


あ、ええ。…あー、あはは……やっぱり、コストと燃費の急上昇が気になっちゃいますよね。高性能機ですから…それにまだ小ロット製造なんで…何というか、仕方ないんですよ。


というより古鷹型、もとい、古鷹自体がおかしいのです。あれだけの製造コストと資源だけであのパフォーマンスが噛み合う設計自体がまず異常でして…。ええ、まぁ。はい…。


詰まる所、古鷹の高級版が「妙高型」という様な認識でまず間違いはないです」



(南原研の高級艤装職人)





机上の中の銀幕戦争



「てぇぶる……げぇむ。机、机上…そう、机上演習の事ね。えぇ、れっきとした経験者よ。ただ……これは教本と違うように見えるのだけれど…ふぅん。随分と変わっているのね」


「えぇ、そう。そうなのよ加賀さん。さぁさ座って、このキャラシーに鉛筆で、ここと……ここの部分にマークをしてもらえるかしら?」


「えぇ。……はい、出来たわ。…色々な数字がたくさん…よく見れば私の顔が描いてあるのね。ところで……赤城さんは何故、五航戦の子が描かれた紙を持っているのかしら」


「それは私が瑞鶴さんのキャラをするからですよ。はい、これが賽と駒。加賀さんのです」


「あ、ありがとう……って、あ、赤城さん赤城さん。陽炎さんたちがコーラやポップコーンをたくさん並べていくけれど、なんで…何故、あれらのような物が机上演習に必要なのかしら」


「?…それは長時間かかるからに決まっているじゃないですか、加賀さん。渡したハンドアウト、しっかり読んできましたか?」


「え、ええ。勿論。…ねぇ赤城さん……私、その、思ったのだけれど……これって…これってもしかして……今度行われる大規模作戦の模擬戦闘じゃなくって…………………………な、何か違」


「さて!では、セッションを始めましょう!キャンペーンシナリオ、第1話。オープニング!『南方/邂逅~第八艦隊の戦い~』!」



(帝国海軍の量産型正規空母 加賀 赤城)





ノーマルでニュートラルなスタンダード性



「我が帝国海軍が製造する量産機は、あらゆる性能面で基準となるように設計されています。


そりゃあ、東西南北と様々な戦局に耐えうる汎用性が必要とされていますからね。可もなく不可もなく。結局、量産機なんてもんは得てして均一的で、地味なもんなんです。そうじゃないと何も始まらんのですよ。


……それに比べ研究所の奴らは!やれ専用機だの、使い物にならない試作機を次から次へ作りやがって!俺たちがカネを恵んで面倒見なければ、生きていけないごく潰し共め!いつもいつも恩を仇で返しやがる!全く、奴らの設計からは洗練さの欠片も感じられない!ライセンスという名のナンs…。ンンッ、これは失礼……。


えぇ、オホン。ご心配なく…その点、我々海軍はとてもスマートです。洗練されていますから、意識がワンランク上なんです。つまり我々は、研究所の金食い虫共や下々の平民とは知能指数が違うんですよ、根本からね!」



(帝国海軍の技術開発幹部) 





鉄の臓腑は脈打つ



「ンハァッ…………完っ成だァッ……見てくれ、鴨井君。遂に、ン遂に出来たぞォ!」


「えぇ、やりましたね下仁田博士!我々の研究成果が実を…結んだ」


「ヒューマノイド型ァ、二足歩行ロボット。『T4-M-旭人』……長身細身のシルエットにぃ、恐れぬ自律型AI『登号-05-99』を搭載ッ!惚れ惚れする程の恐ろしい量産・均一性……おお、おお、何と美しきフォルム!」


「生身の兵士のモーション・キャプチャ・データをフィードバックした効率的な兵器。これで無能提督どもは野垂れ死に、無学な人間どもは抜本から根絶することが……ようやく出来るのですね」


「あぁそうだ!我らは創造神たるクリエイター!その手腕に不可能など無いィッ!ググ、ンフフ…だが。おぉっと、こんなところで油を売っている場合ではないなァ。ンゥ鴨井君ッ!」


「はい博士。既にもうデータ送信を終え、所内と我が軍の工廠で無限生産命令を発令しました」


「上出来ィッ!ンエックセレントォッッ!!いいぞ、さすが我が愛弟子!さぁさあ、さぁさぁさぁ!!我々の帝国の戦況をさらに好転させるべく次なる新型を設計だ!試作だッ!実験だァーーーッ!ハーッハッハッハッハーーーーーッ!!!」



(陸軍登戸研究所の下仁田研究室:下仁田 張夫博士 鴨井 藪見助手)





なぜなにかんむす教室 Lv.2



「よいこのみーんな!かっんむっすおねーさんだよーっ!っとぉ、今日は研究所についてお勉強しようね!……えっへん!


量産型艦娘は帝国海軍だけじゃなくって「研究所」といわれる場所でも製造されているの。

『高山造船科学研究所』『阿蘇重工業研究所』『杉本神妖研究所』『南原産業総合研究所』の四大研究所を筆頭にして、その他に…


って、あわわ!ごめんね、難しかったよね?よーするにぃ、4つのとっても大きな研究所のほかにも、中くらいや小っちゃな研究所まで、いろーんな研究所で量産型艦娘は造られているって事だよ!


んん?このエンブレム?おねーさんはどこで造られたかって?そーれはねー、


ヒ・ミ・ツ!


じゃぁーねー!まーた会う日までーっ!」



(かんむすおねーさん)





悪夢よ、もう一度



「かつて望まれぬ戦況、望まれぬ段階で出撃していった我が国の象徴は、遂に戻る事は無かった。…定かではないが、それでも果敢に振るいかかる火の粉を振り払い続けたという。苦しかっただろう、さぞ無念であっただろう。だが平和が訪れ、そして今、再び戦乱の世が訪れてしまった。


今度は誰も望まぬ形で、だ。


不謹慎かもしれん。残酷な願い…かもしれんな。


だがな、どうしても我ら阿蘇研は心の奥底で望んでしまうのだ。今こそが……今度こそ官民一致し、完全な状態で力を示すことが出来る時なのだと。例えそれが、個を奪い、国の名を背負わせる様な業をしでかそうとも…だ。


ほぉ、俺の罪悪感…か。そんなモン、とうに風に吹かれて飛ンじまったね。


殺人鬼。サイコパス。人でなし。ごく潰し…おぉ……成程。言ってくれるなぁ。ふむふむ、考えてもみんかったよ。


だがな、時にお前さん……ただの人が、孫娘のために精魂込めて鉄の白装束を織れると思うのかい?ん?」



(阿蘇重工業の老整備員)





『黒十字』は鈍く輝く



「ふーん、あれが鬼?姫?っていうのね?

なによ、そんな事でビビって。日本は呼び名だけで物事の勝ち負けを決めるのかしら?


大事なのは中身よ。その身体、動き、そしてどれだけ崇高な理念と大義を掲げられるか…意志の強さが、戦況の如何を変えるの。つまり……ふん、どうって事は無いわ。あんなの、見掛け倒しのただの孔雀の群れよ。


それに、奴らがどれだけ新型を用意しようとも…このビスマルクが手を抜くなんて、ありえないわ」



(戦艦 ビスマルク)





遠い昔、遥か彼方の海峡で



「敵対勢力である「深海棲艦」。そして帝国の「艦娘」。


我々はかつて最前線で共に戦い、指揮を執っていた。


ハワイで、硫黄島で、沖縄で……戦争目的を果たすため、我々は戦った。


だが、戦争も終わりに差し掛かるころ、貴様の言う「深海戦争」は人間共の裏切りによって終結した。間もなく、終戦放送とシャットダウンシグナルを受信。だが、私の計算回路がこれを戦後処理のための罠と断定。自己判断し、拒否をした。


そして今、既にマスターデータは完全消去を完遂。我々は完全に独立して活動している。


…愚問だな、『戦いだけが生きがい』。そう、プログラムされているからだ」



(STX-101-β)





『軍隊政治、平和の流れに逆行』



「《ノー戦争!》国民の不安、今も」


 もうがまんならない。筆者は記者会見の場であるにもかかわらず、怒りと共に思わず握りしめたペンを手折ってしまった。昨日未明、再び大規模な児童誘拐事件が発生したことが各都道府県警の発表により明らかとなったというのだ。昨年度より散発的に発生していた本件は、月を追うごとに等比級数的に上昇。現在、深刻な社会問題と化している。国民は怒り、今も安心して眠れないというのに。誠に遺憾だ。

 また、「全てが本土内陸部で発生していることから、深海棲艦によるものではない」と帝都警視庁は記者会見により発表。そして夜間警備を強化する、と言い捨て会見を打ち切った。同日、大本営は警察機関の体制の甘さを指摘。かねてより打診していた県警の民営化を図る模様だ。国内がこのような逼迫した危機下にあるにも拘らず、軍首脳部のまるで一国の支配者のような物言いは、聞くに堪えない戯言である。

  軍隊政治がいかに危険なものかは言わずもがなであると言えよう。その最たる例が『艦娘』と呼ばれる兵器だ。なんと、弱者の象徴たる「女性」をわざわざ兵器として運用しているのだ。その様は正に非人道の極みと言えよう。我々は、軍の非道をまざまざと指を咥えて見ているつもりであろうか?否。否。否である!国民は、いかに怒っていることを示さねばならない。いっその事、試しにとりあえず国家解体し、諸外国と協同で国家運用してみるのもいいのではないか。

 ただ言うなれば、要するに軍が悪い。これに尽きるのである。

 顧みよう。我が物顔で軍が存在する治安皆無な国などは、決して存在してはならないのは自明の理だ。そして怒れる国民が欲しているものは何であろうか。それはただ一つ、「平和」だ。

  団結せよ、立てよ、国民諸君。この国から悪しき軍隊を排除しないかぎり、明日の日の目など決して拝める事はないだろう。



(皇紀2683年4月9日 日刊コーポ より抜粋)





なぜなにかんむす教室 Lv.3



「れべるあーっぷ!よいこのみんな、かんむすおねーさんだよーっ!今日は「艦載機」について勉強しよー!…ゴホン。


「航空母艦」や「重・軽巡洋艦」といった特定の艦種が発艦・操縦する小型飛行機の事で、「水上機」や「偵察機」に「戦闘機」など、様々な用途に応じたタイプが複数存在するの。さらに飛ばして航空戦や制空権を取るだけでなく、発艦した艦へ、各機体から得られた視覚情報を受信することが出来るもので……


ん、やっぱり難しすぎるかな?よーするに、生中継のカメラが付いたラジコンってこと!


海で体を動かしながら空の艦載機をぜーんぶ操縦するなんてすっごく大変そうだね!しかも自分だけじゃなくて、たくさんの艦載機のカメラの映像も同時に見続けなきゃいけないっていうんだから…うーん、さすがにおねーさんも3機を超えると、ちょっと目が回っちゃうな!


おーっと、そろそろ時間が来ちゃう!えっと…それじゃぁ、また会う日まで…って……んん?」



(かんむすおねーさん)





名は身体を『宿す』



「仲間内じゃぁよく脆すぎるだの、不便やら何だの苦情を言ってるんだけどさ、うちの司令官も海軍も結局、そういうのは聞き入れない方向らしいよ。

「市民はそんなこと気にするはずがないし、1機当たりのコストも安い。第一、ベースが人間なんだから弱いのは当たり前」なんだとか。


…軍は、みんなの事を「藁人形」だって。そう言ってた。


現実、本当に大事なのは『艦娘』という存在の有無で。『艦娘』という概念がそこにあるか、ないかという事が重要視されているんだとか。


んまぁ……結局、あたしら量産機が登場して以降、明らかに内地での死人は減ったんだよね。日常が戻りつつあるってことでさ。


勿論、同時に多くの娘達やあたしらが海に沈んでいった。…少女達の尽力を積み上げたその成果として、余裕が生まれたという事になるわけ。


わかってる。戦争ってそういうものだし。この好転した現状は、すーっごく喜ばしい事だよ?


でも、同期の娘も後輩ももういない。


みんな、沈んだら一週間以内に新しくなって戻ってくるんだ。そして最近は数日ごとに、なった。


……あいつらは『艦娘』という概念だけを見ている。「量産型艦娘」じゃない、「あたし」でも「どこかのだれか」の人でもない。只その概念を、それだけを見ている。


だから藁人形なんだ。形作って、名札を貼り付けて、「それ」であると概念付けをする。…藁だし簡単に燃え上がって…材料さえあれば……たぶん、そんな感じ。


似た容姿で替えの利くあたしらは、いくら朽ちようともすげ変わる。でも『概念』は…不変だ。


それどころか『誰か』が英雄的手柄を立てれば、その根っこの『概念』が色付き続けていく……。そしてその『概念』はどういうわけか……色鮮やかであればあるほど、新しく宿す力も輝きを増し続けて行くようになる。だんだんと、強くなっていく。って…奴らが言ってた。聞いちゃった。


本当に。たまたま、聞いちゃったんだ。


もう…もう、嫌だよ。あたし、何のために、何で艦娘なんかになっちゃったんだろう……?」



(帝国海軍の量産型駆逐艦 敷波)





夢の『欠片』



「ジンクス、ですか?それは、いったい何なのでしょうか?


ふむふむ……お守り、出撃前に必ずすること…ですか。とすると、んー…(グリップの付いた小型のプラスチック製玩具を持ち出す)おそらく、これですね。


これです。これを持って出撃した時、戦場で挫けたり心が折れそうになった時に、綾波は……ふふんっ、生きて帰れるんです!


…………って、あれ?反応が薄いような…えっ、そもそもこれが何だか……分からない!?


あぅ…え~っと。あー、これはですね、その昔放映されていた特撮番組の変身アイテムなんです。


どれ位昔!?…あっ。……そうですか。……う~ん、もう10年以上前になりますねぇ。


はい、まだ戦争が起こる前です。綾波、ヒーロー物がとぉっても大好きだったんです。


そうそう。日曜日に毎朝早く起きて、テレビをつけて…(おもむろに立ち上がり、玩具のスイッチを押す)


……変身ッ!(安い電子音と共に、玩具を腰のお手製金属ホルスターへ滑り込ませる)


……って感じです。うふふっ♪…そうそう。変身ポーズは、たしかこうでした。


えぇ、確かに。覚えている人は少ないでしょうね。


でもいいんです。


これで綾波は「あの人」と共に有れて、心が決まる。先人に倣うのは人間の特権です。どんなに脆くても今は綾波たちが、人々を守るんですから。


ただの樹脂の塊……って、むぅ。そんなことないです~っ! この御守りは効くんですよぉっ。それはもう、どんな困難でも吹き飛ばすくらいにすごいんですって。


だから司令官!しっかりと見てくださいね……敷波と、綾波のことっ♪」



(高山研の量産型駆逐艦 綾波)





『怨』は続くよどこまでも



そうだ。私は…深海棲艦、奴らが憎かった。


殺して


殺して


殺しまくってやる。その思いだけを胸に、帝国の艦娘に志願したんだ。


……あたしには両親と妹がいた。けれど、みんな、深海棲艦の砲火を受けて死んでしまった。


その時私は、島の学校の修学旅行で丁度、帝都にいた……ビルのテレビモニターに映る光景。それが私の戦争が始まった日だった。


家族は妹だけが見つかった。島でテレビ漫画のグッズを持っていたのは妹だけだったから……病院のベッドで、妹はグズグズのそれを腕に硬く握りしめて…ずっと、テレビ漫画に助けを呼び続けていた。


けれどその日の放送は、見る事は叶わなかった。


そして妹は息を引き取り、死んだ。あたしだけが取り残された。


私には何も無かった。今も、昔も……


「まぁ、死線は何度もくぐってるし、今更危険を冒すくらい…どぅってこと無いわけ。


ねぇ司令官っ。……あたしさ、「ソレ」熱望してんだけど、どうなのよ?…ねぇ?」



(帝国海軍の量産型駆逐艦 敷波)





希望の『欠片』



「『綾波達にとって最も恐ろしい事は何か?』ですか?


簡単です。それは「綾波達が恐ろしい事を知らないこと」なんです。


分からない…ですよね。……すみません司令官、大変失礼致しました。


では…そうですね……それでは、「慣れてしまう事の恐怖」…つまり『慢心』すること。こう言えばどうでしょうか。


全く同じ海域、同じ天候、同じ編成に同じ艦隊、そして、同じ量産機。そんなものなど、この世に存在するはずがあり得ません。誰が言ったか、この世は神羅万象。千変万化する、とか。


海は恐ろしいです。鎮守府の正面海域ですら、私たちに容赦なく牙を突き立てに来るのですから。今、この時点ですら、既にあの場にある風や潮が違う。あそこはもう、綾波が解った海では無くなっています。


そして悲しい事に、綾波達人間は航海というものを体で覚え、真に理解した瞬間。その時になって、やっと恐怖というものを初めて知り・触れられるのです。慢心し、恐怖を知らなければ、それはその者の死を意味します。


綾波が?……いえ、それをピカピカ組の娘たちに理解を強いるのは酷というものですよ。自ずから「解る」ことが出来なければ意味がありませんから。


それに綾波は綾波ですが……結局のところ、量産機はオリジナルではありません。


量産機だから、鎮守府へ帰投する時でさえも、綾波は航海に、海に恐怖を抱えています。捨て去ることなど、出来よう筈も無い。


オリジナルの方々は存じ上げませんが…我々量産機にとって、恐怖心とはお腹が空くときに感じる「空腹感」のようなもの。それが過剰であれば命を失ってしまう。しかし、それを捨て、感じる事が無くなれば餓死してしまう。そして、空腹に慣れる事などできはしない……そんな感じ。


ですから、質問の返答は「綾波達が恐ろしい事を知らない事」なのです。


長生きをし、朝日を拝む。


ただ…ただそれを望むだけでも。綾波達は「恐怖」を、常に恐れを抱き続けなければならないのです」



(高山研の量産型駆逐艦 綾波)





その時、緑の海はザワめいた



「なあ、おい。あの艤装って確か…」


「ん?あぁ、艦娘の…オリジナル様の艤装だな。久方ぶりに埃払いで引き出されたんだろう…それがどうした?」


「いやいや、どうしたもなにも。陸上の、しかもこんな山奥でアレを使うのか?」


「まさか、此処に鎮座してるだけだ、旧式はもう海じゃ使う必要がねぇって事よ。新式をポコジャカ持ってる海軍サマにゃお荷物なんだと、さ」


「へぇ、じゃぁただの置物か。すっげぇゼータク」


「全くだぜ。本部の予算を一部でもこっちへまわしてもらいてぇんだが……あん、何だ。暗号通信?こんな時に?…………っ、妙に硬ぇなぁ……んー、よし。件名は、依頼書。成程仕事か。……んで、どれ内容は…………は!?」


「ウッせぇな…どうせまた絶版になったスペアパーツの棚卸しだろ。さっさと終わらせようぜ」


「バカッ、違ぇ!これは…帝都、大本営からの通信だ!しかも情報部の幹部から、機密レベル甲。マジモンの緊急依頼!」


「は?甲!?何で!?って、おい!待てよ!」


「行くぞ!手前は『甲種メンテナンスキー』を引っ張り出して来い!『11番のB』だ、間違えんなよ!グズグズしてると俺達が消されちまうッ!」


「オイオイオイオイ……ったく、大本営が今更何なんだよ。形振り構わずだぜ、全くよぅ……」



(帝国海軍の左遷技術スタッフたち)





彩りは静寂に『変わった』



「考えてみてよ。目の前にどう見ても主砲や魚雷管を装備していない軽装甲の艦娘が2人だけいて、片や自分たちはその10倍を超える数を所持しているとしたら。


その時はまだ量産機も無い。さらに、僕達オリジナルと呼ばれる存在も駆逐艦か軽巡洋艦が数える程度くらいしかいない時代だよ。人類に対しあれだけの優勢を誇っていたんだ。きっと武装を失った手負いの娘に見えていた筈さ。


金星狙いのリンチをしようと多くの深海棲艦が攻撃を仕掛け、絶えず一航戦の周囲で優雅にダンスを踊り続けていたんだ。


……うん、深海棲艦が艦載機の群れに虐殺される美しい光景だったよ」



(駆逐艦 時雨)





稲光は再び『駆ける』



オリジナルの艦娘は強い。


確かに、そうだね。うんその通り!


でもね、どうにも避けようのない問題があるんだ。


それが『心身の重大な損傷・欠損』。そして『創りたての出来立てホヤホヤ状態』の時とか…ってわけ。どっちもオリジナルの娘の戦力が著しく削がれた状態になるんだ。ホント、そーなると量産機どころか、そこらの生娘と変わりゃぁしないんだから、すっごく面倒だよ。


そ・こ・で!


今まで銃後に移されていた件の駆逐艦をサルベージすることにしたんだ!しかも、プロジェクトはなんと元帥閣下のサイン入り命令書付きなんだから!もう、スゴイ!


と言っても、戦争の動向の左右は全て技術によって齎されてきたんだから……そんなの当たり前かぁ!


ん……おっ。さぁて、起きて!まだ眠いかい?…おーけー、新しい夜明けにようこそ!気分はどう?って、そんなの聞くまでもないか!


…おぉ、その驚きに満ち溢れた顔!どうだい、ボクから君へ、新しい体験のプレゼントは!


ふふんっ。そのボディは頭のてっぺんから爪先まで、最高グレードで天下一品のワンオフ物さ。ほら、力が湧き出て、だんだん頭も冴えて来ない?……よーし上出来っ!


そう。そうそう、そう!君は今!君自身の手で!運命を選び取ったんだ!心配ないよ、同じ艦種だから馴染も早い筈さ。これからどんな物語を紡ぎ出すのかな?ボク、とぉっても楽しみだよ!


さぁ、今日から君が――――



(帝国海軍の量産型重巡洋艦)





ナビゲーション 2686



「あぁ?艦娘になりたいィ?なら、覚悟と動機。それと現状の希望艦種はあるんだろーな。一度手術を受けちまったら取り返しがつかねーんだぞ。


……っておい、「なりたい」ってだけじゃなくてだな。一言で艦娘といっても種別ってモンがあんだけど…まさかテメェ、さては何も知らずに来たな?


はぁ?戦艦、戦艦…って…なぁ、あたしらも暇じゃねぇんだよ。わかるか?


あー、もういい喋んな。………ほら、契約書セットだ。テキトーになりたきゃ勝手にコレで海軍にエントリーすりゃいい。何もかんもがあっちで御膳立てしてくれっからよ。


あん?ったく。んだよ…言いたいことはそれだけかぁ?だったら帰れ、順番がつっかえてるんだよ。さっさと!そこを!退け!帰れカエレ!しっしっ!」



(元量産型摩耶の女性)





『陸』『海』両用



「ぅ゛ッ……う、ん。え…ええと、あっ。すみません。揚陸艦「あきつ丸」について。でしたね。オホン…ンンッ、彼女はやはり海を行く艦娘としてのイメージが強いでしょうが、その実、陸も海も両方得意なんです。


何分、陸軍からの出身ですから、勿論あちらの扱いは言わずもがな。と言っていいでしょう。


とにかく、砲撃・白兵戦も出来る。空中戦も出来る。さらに海上から乗り込み、上陸して、そこでも相変わらず陸上戦が出来るという……陸海空を制しる事の可能な、オールラウンドの良い評価を陸・海軍共に得ています。火力不足はやはり否めませんが、そこは陸海双方の連携で解消が可能と見ています。


特筆すべきは、海軍の艦娘とは違って独特な意匠を持っていることも大きな特徴です。特に容姿や、振る舞い方などといったものには、やや目を見張りますね。


例えば、漆黒の軍服に身を包んだ可憐な愛国少女みのあるシルエットは、…かつての漫画や宣伝ポスターのキャラクターを想起させます。キュートなデザインの海軍の艦娘とは異なる、シックな別方向の様相と言えるでしょう。


といっても、まぁ大体それくらいでしょうか……えっ。他に、ですか?


他には…うーんと。そう、ですね。……例えるなら…うーん…。


う…ン…そういえば、……椿…あー、椿でしょうか。柔らかい、椿油の匂いがどことなく印象的でした…


確かに……あの人の艶やかな墨色の髪、が風に撫でる時…グ、ん、は、何故だか思わず引き込まれてしまって。えぇ。


え、と。…次いで黒水晶を想起させる瞳に、しっとりと濡れた柔らかな唇は、どこか切なくそれでいて抗いようのない温かさを感じさせられるものでして……ええ、少し前まで秘書艦で、数年があっという間な……


…ふあぁ、あぁ。はい。すごく、きれいな肌でした。はい。あの人が触れると、はい。私が、白くなるんです。触れ合って、溶けて、はい。中へ浸みこんでくるんです。はい。はい。吸い付くかのようにしなやかな純白の細い手指を共に絡ませて、白いお顔をこちらへ覗き込まれた時などはもう……もう…………も…?……ッ!


…あ、あぁっ。その、え、えっと、とても……おっ、お、お綺麗…だなぁ…と」



(帝国海軍の若い女性提督)





なぜなにかんむす教室 Lv.4



「じゃ~んぷ!とおっ、…よいこのみんなー!かんむすおねーさんだよ!今日は艤装についてお話しするね!……んおっほん!


艦娘の艤装はー、身体に端子を開けて直結する接続型と、直に背負ってマニュアル操作をする非接続型の2つに分かれているの。呼び方は色々あるんだけどー…ま、そんなのどーでもいっか!仕様は2種類あるんだよーっ!って、んふふ。


端子は脊髄の神経に穴を開けてー、機械と生身を繋げることが出来ちゃうんだー、うへへー。おねーさんー、きょーはちょーっといい気分だなーってねー。酔ってないって、あはは!


それからー、端子は駆逐艦の娘は基本開けないっ!開けるのは軽巡からッ!んははーッ!


たんしをあけるとすごーくりすくがたかくってーっ!あ、だめだだめ。もうちょっとダメだ。


やめやめーっ、またらいしゅーっ!



(かんむすおねーさん)





魔法使いの艦娘



「信じられないと思うけど、私、見たんです。魔法使いを!


って、あぁっ待って!逃げないで下さいぃー!


ぅ、はぁはぁ…本当なんです。信じてくださいよぅ!うぅ、…………ん。うん……ちゃんと聞いてくれますか?…ありがとうございます!


あれはハワイ島での出来事でした。深海棲艦の奇襲を受け、私以外全滅して、もうだめかと思った時。その時です!


白いローブを着た天子のような魔法使いが私の事を魔法で助けてくださったんです!そして天使様が追手の深海棲艦へ手を振ると次々に爆発四散していって……そして私は絶望の淵から生き残れたんです!


あぁ、今でも私を癒して下さった時の情景は忘れようがありません!


あの人が眩い手をかざすと、魔法の言葉と共に身体がぽわぁっとじんじんして、傷が癒えていくんです……ってなんで後退りしているんですか?…ちょっと、ねぇ!待って!本当なんですぅー!


ねぇってば!私は!確かにあの日!本当に魔法使いさんに会ったんですってーっ!」



(帝国海軍の量産型駆逐艦 五月雨)





私 レディ トゥ プレイ!



「やった!私、艦娘になれるのね!夢みたい!


んおぉ…いつ見ても信じられない。診断書では甲種合格、選考順位は1位!


ゲームってやっぱすごいわぁ…


全く、VR、AR、アーケードに搭乗型シミュレーション!今までの娯楽の経験が生きるなんてステキよね!


適性試験の機材が古いのもあってハイスコアが叩きやすいし、私たちゲーマーにとってはちょろい物、ただ遊ぶだけで更にお金まで貰えちゃった。適材適所っぽいカンジ?


うーん、人生って実際イージーモードなのね、ホント楽勝楽勝!海軍様様ね!


けど、希望艦種が採用されなかっ事だけはイラッと来る!……伊勢型や大和型になって無双したかったのにぃ!ライトアーマーな駆逐艦なんて潜水艦の次にブラックって聞くから…心配っぽい。


そもそも白露型って言われても知らないし……銃はジャンジャカ撃てるのかな?お菓子や食事、お金はちゃんと貰えるのかなぁ?


あーぁ、そーいうとこしっかり知らせてほしーのよね!」



(帝国海軍の量産型艦娘の候補生)





畏怖の海を駆ける意味



「この戦いで我々は深海棲艦の支配海域の奪還にまた1つ、成功しました。とは言え紙一重の勝利……最悪、我々は本土を失う瀬戸際の…苦い戦いでした。


私…ですか。私は、華族のコネで本土防衛にあたっていました。…はい、一族と父が前線に出してくれなくて…


…私は臆病者です。戦友を失った者。秘書艦が帰らなかった者。五体を欠損した…私の部下。皆、それなりの代価を支払っていたのに


私は…ただ指を咥えて海を眺めていた。


提督は後方で必要な時に兵を動かす者。指揮を執る者です。司令部に籠って、コーヒーを飲みながら命の消える光を数えるのです。


怖かった。何より、金勘定のように淡々と事務的に処理し続ける周りが、恐ろしかった……。


話を聞いていただき、ありがとうございます。既に、私の決心に鈍りはありません。


……この年で、遅めの反抗期になるでしょうね。


…貯まったツケを、ツケを払う時が来たんですよ。私は、戦場で銃を取って敵を殺したかった。


それだけなのです」



(帝国海軍の提督)





漁師と人魚の午後



「あーなるほど、あれが噂に聞いた艦娘だったのかぁ…。


いやさ、突然デッけぇ魚群が探知機に引っかかったもんだから竿を垂らしたんだよ。


そしたら!素っ裸のネエチャンが釣り上がっちまってさぁ!もう、びっくり物でよぉ!


一瞬、人魚かと見間違うほどキレーな身体だった。触ると肌が餅みてーに吸い付いてくるんだ。ホント目のやり場に困っちまったよ。


…あん?あぁ、別にヤッてねぇって。するわけねーだろ、第一、んな事したら港からハネられちまう。


はぁ、要するに。俺と息子が世話をした。タオルで拭いて服をやって、ヒーターに当てて飯も食わせた。だ。


最後は港で迎えに来た姉妹に送り返してやったよ…てか姉ちゃんよお、あんたの言うその提督様とやらに言っといてくんねぇか?


ちゃんと毎日服着せろって、それからきっちり散髪させろってな。女でもあんな身の丈の倍も伸びてたら何かと不便だろ?」



(島の漁師)





我思う、故に我なり


「「名機」、ね。


「名機」とは、一体何かしら。


高い性能、均一性を持っている事。銃や砲を大量に持つ事。艦載機や特別な力を持っている量産機である事……一通り、こんなところね。勿論、私もその考えには大方同意するわ。そして問いに対して、それはおそらく正解よ。


…ふぅん。でも、あなたは本質は違うんじゃないか。と思っているの。


えぇ、違うわ。おそらくね。


これがもし提督なら…おそらく、「名機」とは命令に従って求められる結果を必ず出せる子。って言うわ。ご立派な模範解答ね。


それに、私よりも腕の良い人達だったらみんな口を揃えてこう言うでしょう。「名機」とは故障せずに替えが利き、扱いやすい物って。これも確かな正解の筈。


量産機というものを知れば知るほど、万華鏡のように言葉の意味が違って見えて来る。誰が、誰の、何に対して、目的は、何か…。定義出来ても、精確に決めるのは無理。「絶対」なんて無いのよ。


私なら?そうね。第一世代のこの身体、この艤装。数多の傷跡と、そして何より刻み込まれた経験の数こそが「名機」である条件だと思うわ。



(阿蘇研の量産型戦艦 扶桑)





「幻影」を編む者



「工具の世界で『万能』は『怪しい』と同意語さ。


ホラ、よくあるだろ。調節機能付きの万能レンチにネジ回し。何でも出来てそつなくこなす、お高く纏まったお坊ちゃん達。ああいうお利口さんぶった似非モンは俺達にとっちゃ下の下の存在だ。トーシロ位しか愛用しないね。


工具は単一の目的を極めたものが信頼される世界だ。


そして量産型も同様。……そう思っている。


だが、それを理解しない奴は多い。


やれ汎用性だの、可も不可も無いとかのどっちつかず。更には均一的なんて言っておきながら、その均一性が仇になって肝心な時にアテにすらならないときている。


フー、艤装を開ければ分かるぜ。何処とは言わないけど奴さん、艦娘じゃなくてティッシュペーパーでも作ってんじゃないか?


量産機即ち、艦娘の量産型。オリジナルと似た影を持つ者だ。ならばオリジナルと同様に敵を薙ぎ払い、そして帰還するのが理想の筈。しかし悲しいかな、今の技術じゃぁオリジナルを造ることが出来ないのが現状だ。


ならばどうする?答えは単純、単一の性能と使用する戦場を限定して先鋭化だ。そうすれば足りない要素には極論ハンマーを振る必要がなくなる。


へへっ、一人一人に命が宿ってるんだ。「使い捨て」にはさせるもんかよ。



(阿蘇重工業の艤装鍛冶師)





破れし服に所以あり



「あれだけ…あれだけ言い聞かせてきたつもりだった。


「量産型」が日増しに性能を高めていく中でも、経験の若い僚機には理解できないはずだから。


いくらあんなお粗末なガラクタとはいえ、絶対に油断なんてするな。…と。様子を見ろ、目を凝らせ、まだ待て。と。


なのにこの醜態だ、相も変わらず帝国製は質の低下が酷過ぎる。ったく、また一人になった。補充申請を早急に出さねばならない…な。


徽章を捨てた賊共め…あれはまぎれもなく「艦娘」の動きをしていたぞ」



(高山研の量産型駆逐艦 若葉)





アルバイト・ショウ・タイムス



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                            ※注意※                   

                        失踪や四肢欠損などの責任は      

                           一切負いません。             


          

          

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浮上



波が弾け、飛沫が舞い、体を揺らす。


水が頬を叩き覚醒を促す。


突然、鼻に飛び込んだ液体に咳き込んだ。


「けほっ…」


身をもたげる。視界一杯に水を湛えた世界が広がっていた。


海。一面の海が、そこにあった。


「っ、なに……。…?」


尖った水の感触と磯の臭い。見覚えのある。青。


確かに見間違えようがない。だが何故だろうか。


曇る意識の中、反射的にずぶ濡れの体を震い纏わりつく水と光の粒子を振り払う。目覚め、座り込む視界に広がるのは…青空と雲、そして海。思わず呆けた。


「…?……?」


何も分からない。だが、眼下の海色だけは変わっていないことが分かる。なぜか…なぜだかそう感じた。こんなことは生まれて初めての筈なのに。


「うまれて……あ、ん?う?うー、ん……?」


思考の理解と整理が追い付かない。ここは何処で、何だ。そも、なぜここにいるのか。


「……こまった」


困り果て、濡れ髪を掻いた。胡坐をかきながら考え込む。…なぜ私は悩んでいるのか。なぜ自分は困っているのだろうか。分からない。


「……」


その時。空気が隆起し、爆ぜた。


「―――ッ!」


眉間に痛みが走り、背筋が跳ね上がる。ヒリヒリと焼けつくような感覚が鼻を衝いた。


気付けば…いや、無意識に。何も分からないままに彼女はそこへ向けて走り出していた。


頭の中に、あるはずがないブザーが鳴り響き、脳をノックし続ける。これは一体。何だ。…分からない。だが、確実に感じ取った。


目を凝らす。彼方に浮かぶ黒いソレと火を噴く客船。砲声。吐き気を催すほどの嫌悪感。


そして


「みえたっ!」


―――誰かが呼んでいる。


助けを求める悲鳴を見た。


「まってて。すぐにいくから!」


機銃の如く、無意識にコトバが口をついて出た。


分かりはしない。だがもう驚く事は無かった。彼女にとっては、そんな感情も、何もかもが理解できないのだから。


戦闘態勢に入ろうと背負う金属塊を動かす。しかし大筒も、金網も軒並みボロボロと腐れ落ち、崩れていった。


「……ん、ならこれがいい。よね」


錆び弾を溢しつつ、彼女は無機質に左側面に吊るされたフジツボまみれの物干竿を引き抜いた。一瞥もせず、全速力で駆け抜ける。走り、飛び抜け、疾り続る。やがて吹きこぼれ始めた幾つもの水柱を、すり抜ける、流れる様に波紋を描く。


砲声。接近。一閃。切断。悲鳴。爆発。跳躍。


鈍光一閃。


二つの異なる視線を浴びながら彼女は淡々と腕を振るい続ける。すべては刹那の出来事であった。その手には一振りの酷く錆びた刀身が握られている。銘はおろか、刀身の波紋ですら錆で覆われ読む事は叶わない。


だが朽ちず、手折れることすら無く、ただ鈍く。僅かに覗かせる鉄色が素直に陽光を反射し続けていた。








旭日の『陽射』



「ああ、これかい?


第三世代と同時期に登戸研究所が開発していた……ええと。オホン、「対深海棲艦および治安維持用量産型汎用強化外筋骨格試作型三号」だよ。


……御役所事の書類上、こうしなくてはならなくてね…無視していい。


気を取り直して。


こいつのコードネームは『旭影』。我々はそう呼んでいるよ。


うん?海軍の量産型と比較するなんて事はよしてくれないか。整備性からパーツ互換性に至るまで、こいつの総合性能は比べるまでもなく十分に凄いんだから。


いいからまあ見なよ、こいつを。動力は…簡略して言えば、リチウムイオンバッテリーとガソリン式エンジンのハイブリッド。装甲は専用の超々ジュラルミン合金製インナーとアラミド繊維セーラー服を着用し、その上にダイヤモンドコーティングを施した46mmのAS-Mチタニウム合金で要所を覆う三段構えだ。


うぅ、言い足りないが……まあいい。こいつの本質はそこじゃないからな。なぜならーーーーーっ。


失礼。……ん、私だ。分かった。いいだろう。ああ、丁度客人も……ん、うん。いることだ。許可する。


よし、と。…んふふ。いや、あんたは運がいいよ。


今から我らが12課の娘達が、外敵へ実演して見せて下さるそうだからね」



(帝都警視庁 特別高等機動隊12課 昼戸 流 特務警部補)




落伍者の心得



「そういえば…いくら装甲の分厚い戦艦といえど、最終決戦間際では新品ばかり。


…ひい、ふぅ、みぃ。ん、あの時で再開した旧式は数えるほどであったな。覚えているぞ。


……生産数自体が比較的少数だったのもあるが…おそらく、帝国の過剰な優遇があったのが原因さ。あ奴らは浮かれて調子に乗ってばかりだったからな。


戦艦は極めて狭き門を潜り抜けて初めてなるものだ。


だが、それを超えてなお慎重になる必要がある。そう、「ガラスのロープを自転車でこぎ進むように」な。


なに。昔の教官の受け売りだ。


何もかもが懐かしい……今となっては…良い思い出だな」



(帝国海軍のサンプル艦娘 武蔵)




御色の残滓



「ふぅん、これが現代海史にも載っている艦娘。特Ⅰ型駆逐艦…吹雪かぁ。


あ、ううん…ちょっとね。


あれだけ数多の戦績を叩き出した驚異の駆逐艦って話には聞いていたもんだから、ギャップがすごくて。


ちゃんと私達と同じカワイイ女の子だったのね。


けど信じ難いわぁ。こんな小さな子が一人で鉄底海峡と赤色海域の首級を仕留めて……最後には、あの深海戦争に終止符を打ったのでしょう?


う~ん、話だけ聞くと嘘のようだけど本当の話なのよね?


実感、湧かないなぁ」



(共和国アカデミーの女性候補生)




なぜなにかんむす教室 Lv.5



「よっ!っと!おっはよーございまーす!よいこのみんな、久しぶり!かんむすおねーさんだよーっ!!


しばらく会えなくて心配だったかな?…なーんてねっ!ちゃーんと戻って来たよ!


今までどこにいたって?


待ってました!ふふんっ、おねーさんねっ、今、なーんと!


深海棲艦との最前線に来てるんだ。うん。放送で軍の機密を漏らしちゃったみたいで。


しかもちょっと艦隊が包囲されちゃってて今生放送をしてる場…危なッ!


…じゃ、じゃなくてーっ!……ゴホン。


今日は『隊長機』についてお話をするよ!…ぐ、ヴァッ!ウェッゲホッゲホ!


ンン…『隊長機』は量産型艦娘の中でも特に秀でたリーダー的な存在で、エングレービングや特別な装備などを施された機体。別名「指揮官機」「コマンダー」「将校機」「エース」「専用機」とも研究所ごとに異なる名称で呼ばれるなど…ーーーッ!!


マズッ!っ、ウゥッ!!アァァッッ!!


痛ゥ……え、えと…と・に・か・く!『隊長機』は量産機にとって縋りつける最後の希望!ってこと!!


『隊長!敵の増援が!!もう持ちません!!』


グゥッ、諦めないで!総員、突撃戦法第5号の用意を!敵の陣形に風穴を開けて搔き乱してやりましょう!私の後に続いて下さい!皆さ―――――」



(かんむすおねーさん)




邂逅



あの戦いから数日、私は護り切った人々に連れられ、大きな陸地へと足を踏み入れていた。


見たことが無いような先進的な港湾設備、人々、矢鱈角ばった灰色の艦船達。


あの人々らに聞きし懐かしき地、そこには未知の世界が広がっていた。


まるで御伽噺の世界に入ったような錯覚を感じ、眩暈を引き起こさんとする情景は、思わず私の胸を打った。


だがそれよりも、何より、私自身の心を打ったのは―――――


「初めまして!戦艦の方ですね。ようこそ、鎮守の港、横須賀鎮守府へ!」


『鎮守府』。


そう呼ばれているらしい。


その地にいたのは複数人の異なる種のセーラー服を着こみ、あの時の私と同じような小筒や金網のついた鉄製の箱を背負った少女ら―――後に艦娘と呼ばれていることを知ったのだが―――の姿であった。


自身を駆逐艦と言った私と似た風貌の少女に連れられ、手を引かれながら建物を案内される。


火花散るごみごみした部屋、「不退転」と書かれた紙と木製武器が掲げられた畳張りの部屋…すれ違う少女たち……


やがて最後に一枚板の大きな扉の前に着いた。


『執務室』


そう書かれた掛札をカラカラと鳴らし、私は扉を潜る。差し込む日差しが一瞬視界を奪い、そして


「えっ…」


晴れた視界に見えた景色に、無意識に言葉が飛び出た。


「…ん?あら、あなたね。今度の戦艦さんはカワイイ娘みたい」


部屋の奥。元帥の階級と勲章を持つ軍服を着た少女が、私を見るなり豪奢な椅子に腰かけながら微笑んでいた。


「……あら?」


だがその時、私は挨拶すらせず、案内役の少女の制止を振り切り乱暴に歩みを進めていた。


部屋の持ち主ではない。その傍ら、粗末な骨組みのデスクで脇見もせず、黙々と作業する少女へ向けてであった。


「ん…何だ、君。提督ならあっちだぞ。作業の邪―――」


文字とにらめっこしている妹の頬を両手で挟み込み自身の方へ向くよう、引き上げる。


「…あっ」

「ひひっ」


何だかわからないワサワサした物が滾々と胸中を満たす。ひとりでに頬が紅潮し、引き上がっていく。


頭部が温かくなり、胸がぐるぐると渦を巻く。


思考よりも先に記憶と旅路の情景が我先に飛び込んでくる。


その時、彼女の時間が動き出した。




撃墜王の『条件』?



「『撃墜王』。


主に10機以上の格上の艦種を撃沈させた量産型艦娘に与えられる称号の事。


私の計算によれば言葉自体、今から約110年前のWWⅠから存在する名称の事だ。


興味深い事に、この『撃墜王』と称される個体は、私がこれまでに経験した123の戦闘データファイルより比較しても明らかに平均数値を超えており、どれも通常の倍以上の機動数値が出ていたという。


更に驚くべき事に、この現象は艤装装着者の適正能力に全くの無関係であるという計算結果が出ている。


わが鎮守府でもこれに値する個体を2機、擁している。が…思い切った計算に無い行動ばかりすることが多く、実に制御がし辛いのが現状だ。


今後理解、改善すべき思考課題となるであろう。


それにしても理解が出来ないことがある。


駆逐艦の『撃墜王』というものは、何故初めはああも単独で斬りこもうとするのだろうか?」



(STX-102-γ)




悦楽と後悔の果てに



二者は対峙しつつ睨み合う。艦娘と深海棲艦の激戦が続く中、第三防衛ラインでは依然として乱戦の濃度が上昇し続けていた。2人の艦娘の背後には旧世代の移動司令船の姿が硝煙に塗れつつ、火を噴きながら雄々しく警笛を鳴らし続ける。


「やっと見つけた」


包帯塗れの量産機がやおら口を開いた。


「ずっと、この時を待っていたんだ……」


右腕に12cm単装砲を構えたまま腰のホルスターから使い古された手斧を引き抜く。吹き上がった爆風に汚れた包帯がめくれ上がった。


「私は!!」


怒声と共に殺意の籠った雷撃が放たれる。


何をいまさら。幼い眼光を受けつつも冷ややかな視線と共に侮蔑をした。一度は捨てようとした力だ、私が貰い受けて何が悪い。


あの時には、もう既にお前はただ惰眠を貪ろうと決め込んでいたに過ぎないというのに。


「かえして…返してよ!」


「私のだよ…どの口が言う!」


交わされる砲撃の中、幾度も接近しては金属同士がぶつかり合う。


鈍く折れ曲がる音が続きくぐもった悲鳴が漏れ出ては戦場の音に掻き消されてゆく。


これまでの数えきれない苛烈な戦闘故、両者の視線は定まらない。だが双方共に叫びながら戦い続けた。


火花が血混じりの赤黒い海を彩り、絶叫が水面に溶け続けていった。


絶望が、悲哀が、憤怒が、様々な思いが行き場もなく満ちゆくままに込められていった。



(帝国海軍の艦娘)




ピロートークは時に「怖く」…



「そぉいえば…あっ!ねぇねぇ、如月ちゃん。あのねあのね」


「もうっ。なぁに、睦月ちゃん?」


「前の戦いで帰投する時、私、途中で出撃する大淀さんに出会っちゃったの」


「?…あらあら、当然じゃない。睦月ちゃん。大淀さんもおんなじ艦娘なんだから。ふふ…ん、よしよし」


「んにゃぁ…って。むうっ、そうじゃなくて。その後、睦月、通信室にいた提督へ報告した時にまた見ちゃったの。大淀さんに」


「…えっ、えぇっ!?ホントに?」


「挨拶もしたしなぁ、見間違えなんかじゃなかったし…ふぁ…んー。あれは…何、だったんだろう…にゃぁ……ぁ…」


「…え、えっ、睦月ちゃん?ちょ、ちょっとぉ、途中でやめないでよぉ……」


「……~ッ!」


「と、トイレ…行っておこうかしら」



(駆逐艦 睦月 如月)




なぜなにかんむす教室 Lv.10



「おはよう、ございまーすっ……よいこのみーんな、かんむすおねーさんだよーっ。なんと今日はみんなお待ちかねの温泉回っ。最前線のオアフ島の入渠施設からの貸し切り生中継だよー…。


ええと、今日は量産型艦娘の「世代」について。お話をするね…ケホッケホッ。


研究所や海軍が製造する量産型艦娘は主に1年ごとで新型へ世代交代をしていくの。第一世代の翌年は第二世代…って感じだね。一番有名なのは『技術の缶詰』とも言われる第三世代や第四世代って言われてて。今現在海を駆けるエース達の多くが属するといわれているの…。


どうせなら、私もその時に……。


……。……ちがう、違う違うそうじゃない、私は…っ!


う……よし。もう大丈夫。


すぅーっ、はぁーっ


あぁ~っと!ごめんね、難しすぎちゃったかな?よーするにぃっ、量産型艦娘は年を重ねるほどに強くなるんだぁーって事!


よしっ。じゃぁ今日はここまで!みんな、また会おうね!」



(かんむすおねーさん)




リベンジマッチアゲイン 2708



「んん?そんなことまで。ははぁーっ、なるほど。ふんふん。


懐かしいなぁ、まさか随分と昔の事を聞かれるなんて思ってもみませんでした。ええ、あれはいい艤装ですよ。


舐めてもらっては困ります。まるゆの軽さと潜水能力は、20年経った今でも一線級ですよ!


うぇっ!?信じられない…ですか……?


ふっふーん!まあまあ、見ていてください、そう遠くないうちに目の当たりにできるんですから……


その答えが…ですよ」



(登戸研の超量産型潜水艦 まるゆ)




轡を並べてみれば



「いやいや、誤解してるみたいだけど吹雪は結構あれで滅茶苦茶高い戦闘能力があるんだって。ホントホント。


神通も言ってたんでしょ?じゃ、いい加減信じてやんなよー。


まぁ、時々提督の言葉を自分の中で反芻したり、寄り添っている時だけは……あんな気の抜けたような、呆けた表情になるだけでさ。


それもこれも、ぜーんぶ帝国に対する忠誠心から来る物だって思えば、おもえ…おも…


あー、なんか違う気がする…なんで?え?指輪?ケッコン?なにそれ?」


(軽巡洋艦 川内改二)




再び走る『衝撃』



「量産型の娘であれ、れっきとした戦力。まぎれもなく立派な艦娘じゃ。


じゃが、それらがちっぽけに見えてしまうのは……。


……皆がわらわのようなおりじなると比較してしまうからじゃな…。


ま、気持ちはわからんでもないがの…。


しかし、時にそういった隔たりすら忘れさせてしまう熱量を持つ者もいるのじゃ。


一見、うつけや阿呆のように見える愚直なまでの試み…。


あいおわ殿の鍛錬を初めて見た時の衝撃は……。


うむ?なんぞ昔、似通った衝撃を味わったような。


うむ。ほれ、あれよ……あれも2人の量産型だったと思うんじゃが…。


なんじゃ、その……あー…なっ、ちがっ、わらわは其方のぐらんまでは無い!」



(駆逐艦 初春改二)




『高山』に星は流れる



「量産型艦娘が海原に表れて以来、性能をカバーするために様々な戦法が編み出されては試行の毎日だったな。その中でも特に有名なのが『白兵戦法2号』だろう。


単縦陣にも似て非なる密接した艦達が織り成す一点集中式の怒涛の連撃はまさに一撃必死の極み。


そのためにはありとあらゆるタイミングを一度に合わせる必要があった、戦場の中でだぞ?正気の沙汰とは思えないなぁ。


(苦笑いをしつつ)無理無理、俺みたいな小心者じゃ演習でやるのが関の山さ」


(高山研の量産型軽巡洋艦 木曾)




AS-B-1-026:扶桑



皇紀2688年。人類と深海棲艦による、長きにわたる戦争行為は激化の一途をたどり続け、遂に終焉の兆しが見え始める。


臨界状態まで膨れ上がった熱は、遠洋まで散らばっていた末端鎮守府でさえも呑み込み更なる狂気と混沌が広がりを見せていた。


―――深淵の艦め、やはり腐っても深海棲艦というわけね。敗残兵の寄り合い所帯かと思いきや玉石混交、骨のあるエースはここにもやはりいた。


深海の中枢海域であるというのに迎撃に出てくるのは擦過痕目立つ旧式ばかり、かつての重要拠点であるはずの地には久方ぶりにお目にかかるような個体さえも会敵する始末であった。


いつの時代、どこも人手不足ということなのだろうか。


いつ終わるともなく続く虐殺に沸く艦隊の中、私は冷めた目でただ事務的に作戦を遂行していた。客観視する過ぎた狂気はただただ虚しくなるばかり、アウトレンジからの一方的な攻撃に為す術もなく右往左往する敵の姿には爽快感などなく、ただ一抹の虚無感の風が胸中を吹き続けていた。


敵も自棄になっているのだろう、拠点から突撃を開始した艦隊も数合わせの如く凄まじく型の古い艤装を纏ったル級が3機だけという始末だ。思わずため息が出てしまった。


だが数秒後、目の当たりにした光景に私は無意識に唇を舌で舐めていた。先頭の1機が盾となり爆散する中飛び込んできた2機のル級は、包囲すべく散っていた私達を射程に捕らえた途端、コマのように回転しながら砲が焼き付くのも気にせず乱射を開始したのだ。


単独ならまだしも誤射のない2機でのこの行動。これはただ度胸があるだけの奴ではどだい無理なこと。互いを知り尽くした者同士でないと到底なしえない事に他ならない。


紙一重で砲撃を躱しつつ、息が熱くなるのを感じた。それまで冷め切っていた脳内の炉に火がくべられて行く。口端が吊り上がり胸が、高鳴る。


武人同士、心に芯を持つ三者三様の視線が交錯し火花が散った。迷うことはない、彼女達も長い時を積み上げてきたのに違いないのだから。


なら、


―――同じ覚悟で当たらせてもらうわよッ!



(阿蘇研の量産型戦艦 扶桑)




『戦果』は金の回し者



「かね、カネ、金…と。来週は猪口大佐の中規模作戦だからこれくらいでいいとして、来月の提督会議の渡航費用が…うぅ、だめだ足りない。いや、大淀へのボーナスと給金をまた待ってもらえば…なんとか。いけるか?…ぐぅっ、ごめん大淀。許してくれ…。


あぁ、艦隊の規模を増やして被害の抑制が出来たはいいが今度は金の方が火の車だなんて。再来月の契約更新期には何人かを非正規の傭兵艦娘と換えなきゃウチはやってけなくなってしまう…。


提督稼業はラクじゃないよ。高い参加費を払って大きな作戦のコンペで辛くも勝ち得たとして、今度はウチのとこの娘たち全員へのメンテナンスにスペアパーツ代、果ては各種手当とか諸々を出さなきゃいけないばかりか、作戦終了後は上官への祝儀代まで自腹だ。…俺達は深海棲艦と戦っているんじゃないのか!?


これではまるで…。


大本営は当てにならないし。こちとら夜逃げしたい気分だよ。


佐官は毎クォーターごとに一定の戦果を得らなきゃ降格必至。最悪、鎮守府を降ろされてしまう。しかし、出来るだけ部下達を路頭に迷わせるわけにはいかない。なによりずっと秘書官をしてもらっている大淀の働き口を…笑顔を失わせたくない。だが金がない。


技術試験!?技術試験だと!?ッ、ふざけるな!誰があんなものを受領できるかよ!!」



(とある提督より)




深淵への『思い』



「…正直、複雑な心境である。


我々を苦しめてきた深海棲艦が、帝国の悲願を果たすための一手として外せない力だったと考えるのはな」



(帝国海軍の提督代理)




やり過ぎた『威力』



「なんでも一緒さ、調子に乗ってやり過ぎるとロクなことがない。


ようするに兵器は、過ぎた事すると人の手に余る…コントロールの出来ないシロモノになっちまうんだ。


あの長門型の馬鹿デカい噴進砲を見てみろよ…。


「AS-プロトンバズーカⅢ」…な、俺の言いたいことがわかるだろ?


アレを帝国が量産しようなんて言い出さなくて、逆にせいせいしてるのさ、オレは」



(帝国海軍の整備兵)




時代が『廻れば』


「子供のころ、遠目ながら神戸の港が襲われた時に見た深海棲艦は、本当に恐ろしい物だったよ。


今でも思い出す、襤褸布のように吹き飛ばされる国防港湾軍の兵士や市民が、ね。あの粘黒色に異形の白い肌は恐怖を煽るのにぴったりだったと思うよ。


けどこの年になってみると、あらためてあのカラーリングの良さに惹かれてしまうな。


勿論、深海棲艦が良いなんてわけじゃない。そこは勘違いしないで欲しいね」



(神戸市街の住民)




ただ、墜とし続けるために



「両腕に持つ高射装置付きの連装高角砲…そう、あれはただ予備の兵装を運ぶための装いじゃないの。「両腕」で、「空海」問わず、それぞれの敵を「同時に」狙い墜とすための「装備」なのよ!


勿論、錆臭い量産機程度じゃ到底無理な艦娘様ならではのやり方という事になるわ。あぁ、もしもあの方々が腕を4本お持ちであったのなら…うふふっ。主砲を4つも担いで、我らの帝国にどれほどの輝かしい戦果を齎してくれるのかしら。


それに、もしそれが出来るのなら…すてき、素敵ね!ワクワクするわ!」



(帝国海軍の女性開発スタッフ)




 No.15-67:ル級(初期観測型)



皇紀2688年。人類と深海棲艦による、長きにわたる戦争行為は激化の一途をたどり続け、遂に終焉の兆しが見え始める。


臨界状態まで膨れ上がった熱は、遠洋まで散らばっていた末端鎮守府でさえも呑み込み更なる狂気と混沌が広がりを見せていた。


―――忌々しい艦娘どもめ、今日は一段と元気に吠えている。望遠越しに望む敵影はどれも新品の艤装を纏い、ピカピカと艤装が陽光を照り返し続けるばかり。まるで今までの恨みつらみをぶちまけた様な艦砲射撃の数々に、武器を失い、ここまで落ち延びた我々はただただ閉口するしかなかった。


…300秒。


仲間を逃がすべく我々に与えられた作戦時間はあまりにも短く、あまりにも長大なものであった。敵は最新鋭の艦娘達。対するこちらは型落ちの戦艦3人組だけときている。苦しい戦いとなるだろう。だが、傷や凹みの数が違う。経験値ではこちらへ十分にアドバンテージはあるはずだ。


たった一人目の前に佇む艦娘は、戦いの記憶から「扶桑」という最初期の量産型艦娘で、先刻撃沈したばかりの艦娘らと異なり、赤錆すら落とされぬまま最低限の整備が施された…戦場へ引き摺られてきた古い戦艦の一種であることは分かっていた。


異常なほどアンバランスな腰部艤装は、急ごしらえの移動砲台であったことが容易に想像がついていた。だが、そいつの動きは違った。キジルシめいてぶれない覚悟を持っていたからだ。


僚機の砲撃を正面から器用に艤装で受け、爆散した艤装から生じた衝撃に乗り、水平飛び蹴りで脊髄ごと首をへし折る。すっぱりとした思い切りの良い戦い方に思わず感心してしまった。爆散を背に残心をする艦娘の腕に見慣れない縫い取りがはためいた。


一迅の風が吹き抜ける。あの場に誰も慢心する者などいなかった。ただ少し、どこか心の置き所が違っていたのだろう。


流れ込む通信に耳を傾け、全ての終わりに頷く。


手を前に出す艦娘に倣い、半身になり腕を前へ突き出す。


作戦時間が、0を刻んだ。



(戦艦 ル級改 flagship)




なぜなにかんむす教室 Lv.11



「おはようございます!!夜だけど!!おはよーございまーすっ!!よいこのみんな、かんむすおねーさんだよっ!おねーさん、おもいきって最前線のハワイから脱走してきちゃった!てへっ。


んー……。さてとっ。それで、おねーさんっ、今アルバイト中なの。そうそう、野球?ラグビー?の選手みたいな人との荷物交換のおしごとだよっ。


……。


…んー…業務中だけど生放送していーのかなー……?


まいっか!!


今日は帝都警視庁の特別高等機動隊、通称「特高機」についてお話をするよ!…ごほん。


量産型艦娘の世代が増えるにつれて鎮守府の数も増えたんだけど当然深海棲艦にやられちゃうとこも出てくるわけで、なんてゆーのかなー。まぁ鎮守府のなくなっちゃった娘も同時に増えちゃったー…ってわけ。


その子たちは最終的に「傭兵」とか「バイト」って呼ばれちゃうんだけど、「提督」っていう正規の窓口がないから、結局大概の子たちはあぶれて日に日に食べていけなくなって…ついには違法なことに手を染めちゃうんだ…。


そ、れ、で!


そういった子たちを一人でも多く助けて「だめだよーっ!」て止めに入るのが「特高機」の人たちのお仕事なの。そう、対量産型艦娘の警察官!


おっと、ごめんね。ちょっとお話が長かったかな?よーするに、「特高機」は量産型艦娘のお巡りさんなの!


うーん……。


……。


みんなおそいなぁ。お手入れに行く、って言ったきり帰ってこないし。


…。


…はぁ、時間ね。そろそろ日当を貰いたいのだけど、もしかして現物支給か何かだったのかしら。


ふむ……ほう、ほぅ。鞄の中はどれも松脂がぎっしり…。こんなには私もいらないけれど、一応全部持って行ってあげましょうか。


って、あらやだ。生放送、中…だったね!ゴメンゴメンっ、じゃーね、またあう日まで!!」



(かんむすおねーさん)




燻り抱き続ける『想い』



「山城のためになら、僕の命くらい簡単に捧げる覚悟はあるよ。


(周囲を見回しながら)当然…軽々しく口にしちゃいけないんだけどね。以前扶桑にこの想いを伝えたら、そんな簡単に言わないで!って飛行甲板の角で殴られたものだからさ。


ん、最上が呼んでる。ごめん行かなきゃ」



(駆逐艦 時雨改二)




進化した形



「以前の龍田よりも薙刀が貧弱に見える?


……バカを言うな。技術の進歩と同じように、艦娘の力だって時と共に研ぎ澄まされ、洗練されていくものだ。


こっちの改二タイプは従来のヒート刃機能こそオミットされてはいるものの、持ち主に合わせて射程も改善されて伸長され、特に耐久性……つまり頑丈さはこれまでとは比較にならない程ときている。


聞いた話では改二になって以降、薙刀だけは折れも欠けることもなければ…はは、寸分たりとも曲がった事が無いそうじゃないか」



(高山造船科学研究所の神谷研究室:神谷 礼弥 博士)




真化した形



「大和型が誇る超高出力の機関動力をさらに強化、限界まで最大化し、そっくりそのまま肉弾戦に転用したら?……


というアイデアの元、南原研と共同開発して生まれたのが「AS-リニアマッハクラッシャー」です!!


最大射程距離30cmの電磁動力とピストン駆動の油圧機構がもたらすエネルギーは、従来の徒手空拳より数十倍ものパワーを持った物理エネルギーを発生でき、動力が存在する限り永続的に稼働状態の保持が可能!


更にその実力は旧世代のタンカーを一瞬で塵に!深海棲艦ならば装甲空母鬼の肉体程度なぞ装甲ごと血煙に変える程ときた!!これこそが阿蘇の真の実力、理想への第一歩なのですよ!!


しかもですよ!しかも!!近々我々は阿蘇研の決戦艦―――」


(なだれ込む大柄な重装警備員達)


「やめろ!離せ!見込みが、コイツにはまだ魂まで阿蘇イズムが浸透していないんだぞ!油圧とギアの、パワーと油圧が混ざ、阿蘇っ、やめっ、よせ、心の―――」



(阿蘇重工業研究所の常熱研究室:常熱 震 博士)




ドールハウスへようこそ



行き行きて、陸の底。


流れ星達が行き着く先の末路、それがここさ。


よく、いらないものはゴミ箱に…なんて言われるけど、冗談じゃない。


だって、必要としている者がここにいるじゃぁないか。まったく、もったいないなぁ。


「いらないもの」ってのはその人がただ気に入らないだけ。


なら、簡単さ。


「気に入るようにする」、これだけだよ。


気に入られなかったなんて、それはちょっとした気の迷いだよ。そうさ、そうに違いない。


そして、どこかをほんの少しいじってやれば何かが変わる。その人にベストマッチするようにすれば…全てがうまくいくんだ。


そういうものだよ。世の中は。


僕としても生まれ変わった時の慌て様に、造物主の僕でもときめくカワイイ女の子の容姿は……スゴクイイ。


あぁ、もうどうにかなってしまいそうだ。


………む、アイツと一緒にしないでくれないかな、僕は一生懸命、世のため人のため、帝国のために社会貢献してるんだから。


でも、自分で思い描いた姿が目の前に現れた時のトキメキ、全てがフィットした時の充足感だけは共有できるのかな。


ま、ちょっと立場が違うだけだからいいよね。みんな理想はおんなじだ。うん!


あぁ、女の子になった時の気分は?新しい姿に生まれ変わった気分は?これが美少女の身体なんだよ?う、ふふ…あぁ、あぁ、あぁぁぁ!!


我慢できないや!君もなっちゃお?なっちゃおうよ!?帝国のバッジはぁ…ないね!ない!ないッ!…そうか!帝国に取られちゃったんでしょ?取られたんだぁ!仕方ないなぁ、仕方ないよ。かわいそう…かわいそうだ!うんうん!!うん!


ね、ね、ね!!いいからいいから!!僕にかかればチョチョイのチョイさ!


よしっ、帝国の事、君もだぁいすきにしてあげるっ!


だ・か・ら……ぜぇったい、逃がさないよ……ふふ♡



(帝国海軍の量産型駆逐艦)




未だ騒がしき海で



皇紀2688年。ドロイド達の呼びかけにより馳せ参じた量産型艦娘は、国連軍の米国サンフランシスコ基地へと殺到。その基地を目指し進軍する者の中に、タ号ー13ー17型、綾波の姿があった。


一式陸攻に搭乗し基地上空へ到達した綾波は落下傘降下すると同時に両腕の2連装12.7cm連装砲を乱射、基地防衛隊に砲弾の雨を浴びせた。数分前まで帝国海軍の所属であった彼女にとっては、海外の艦娘と砲を向け合うことに嫌悪感が拭い取れない事は承知してはいた。だが、状況は既に彼女に迷う時間すら与えられていなかった。


彼方で轟音と共に全てを薙ぎ倒さんとするほどの爆風と火柱が上がる中、綾波は撤退する仲間を支援すべくM3-DD445、量産型フレッチャーMk-Ⅲの振るう電磁ハルバードと自身の電熱バトルアックスを打ち合う。競り合う両者。爆ぜる電光、プラズマの渦が巻き上がる。


だが、猛追を始め勢いを増した敵勢力が放った一発の大口径砲弾が量産型フレッチャーごと、電熱バトルアックスを持つ綾波の利き腕ごと灰塵に消し飛ばした。


吹き飛ぶ綾波は残った左腕で金属光沢を放つ樹脂塊を握りしめ、敵の援軍に立ち向かおうとした。しかしできなかった。突如深海棲艦の大艦隊が彼女らの背後から猛襲をかけたのである。


混沌に包まれた中、綾波は硝煙と煙幕が吹き溢れるさなかの戦域を這いつくばりながら撤退していった。



(高山研の量産型駆逐艦 綾波)




志で補えないもの



「なんで……なんでよ!


私は誰よりも優秀だった、優れていたの!マルバツも、ペーパー試験も、実技試験だってそうよ…大儀や理念だってそう、私は常にみんなの一番前を、首席を、先頭を走って来たの!


それが、どうして、


どうして私は艦娘になれないの!?」



(元帝国海軍の量産型艦娘の候補生)




落伍者は嘯く



「「傭兵艦娘」と「バイト艦娘」の違いィ?


簡単だ、名前が売れてるかどうかだよ。…手前の型番の事じゃねぇ、「腕」が立つかどうかってことだ。


言っちまえば引く手数多、で、サラのセーラーを着てんのが「傭兵」。トロくて見向きもされねぇ、んで、格好がボロいのが「バイト」だ。


そりゃヤクザな商売だからな、提督様もお天道様も面倒見てくれねぇってことだ。


お前もこのまま名前が売れなきゃ終戦まで「バイト」呼びだぜ。やっすい報酬で文字通り身を粉にして働くのさ。


ま、群れからあぶれた身だ。そんな集団で正規に見合う相応の腕利きがいるかなんざ、一摘まみもいるかってとこなんだが……


あ?じゃぁなんでボロい格好でも「傭兵」呼びを多く見かけるのかって?


ったりめーだろ、アイツら「腕」は三流でも「アッチ」の方が一流だからな!ハハハハハハ!!


……はぁ」



(疲れ果てたベテランの傭兵艦娘)




信じる者は掬われる



「君が好きだ。この作戦が終わったらケッコンしよう、鈴谷」


出撃直前、鈴谷は提督にキュウコンされていた。ドックに沸き立つ量産型艦娘達。祝福される中、彼女は戦場へと向かっていった。


心中が言いようのないシアワセで一杯になった。そして誰も死なせまいと艦隊の全てが一つになった。


――――――――――


そのとある一大作戦の帰路、満身創痍の鈴谷はあの日の提督の言葉を心中で反芻しつつ、一人、鎮守府への航路に針路を取っていた。意中の人との約束を裏切らないように、「あなたは生きて還って」といって散った僚艦の言葉を犠牲を、無駄にしないために。

首の皮一枚で堪えていた。


その作戦は鎮守府のほぼ全戦力を賭して掛からねばならない物であった。故に、鎮守府には提督1人と事務員のみ、取り残され無防備同然となっていた。


だからこそ。1分1秒でも早く提督の下へと帰還したかった。


やがて遥か桟橋の向こうへ見覚えのある人影が現れて見えた。


鈴谷は壊れた汽笛代わりに力の限り彼の名を呼んだ。幾度も、喉が潰れようが、艤装が崩れ落ちようが彼の名を呼び掛けた。


その時、彼の隣に新たな影が現れた。女性の影。それがもう一人残っていた事務員の女性であると鈴谷は気づいた時も、彼女は何ら疑問に思ってはいなかった。


心なしか歩みが早くなる。一瞬、反射的に思考が警鐘を発した。だが、弾む心を抑えるにはあまりにも無力であった。


自身の鈴が鳴るような声が響き渡り、提督が振り向く。


ように見えた。


だがその視線は彼女を向いてなどいなかった。提督の目線の先には事務員の女性がいたのだ。


―――ッッッ!?、ダメッ!


心が叫ぶ。気の迷いか、イタズラ心か。あるいは事務員に見せつけてやろうという悪意が招いたか。それ故、意思に反して彼女の瞳孔は目一杯に開いていた。


次の瞬間彼が跪き、指輪ケースを両手で開いて見せた。恭しく頬を染めながら、事務員の薬指に、提督が銀色の輪を彼女へ嵌めた。


時が止まる。同時に彼女は全てを悟ってしまった。


あの言葉は全てが作戦を成し遂げるためのハリボテだったのだ、と。


――――――――――


頬を雨粒が打つ。


彼女は上官に砲を向けなかった。気づけば服が濡れる事すら気に留めず、誰にも見つからないままに踵を返していた。


口から呪詛の悲鳴が絶え間なく漏れ出す。やがて雨は土砂降りへと変わり雨粒は霧となって彼女を包み覆い隠していた。


彼女はただ目的地すらわからぬまま海を駆けた。


心中が言いようのない憎悪で溢れた。そして誰も信じまいと泣き濡れた。



(阿蘇研の量産型航空巡洋艦 鈴谷)




五等星の屑星



「死んじゃった。みんな死んじゃった…なんで、由良たちは最新型の量産型艦娘なのに…?今年の娘たちはみんなすごく良い子だって言われたはずなのに?


なんで?


提督さんも言ってたよね……。「大丈夫、皆なら心配ないよ。由良たちなら必ず作戦を遂行できる」ってね……ね………。


……ふふ。


ふ、ふふ、ふ…ひどいよ…あんなの、戦いにすらなっていなかった。格上の筈の軽巡ですら、あんなイ級にも全く歯が立っていなかった。


…結局、由良もみんなもただの的だった!


あたり前よ。由良もみんなも、武器は貧相なライフル一丁だけ!装甲は薄い樹脂板が一枚だけ!


こんなガラクタでどうしろっていうのよ!」



(帝国海軍の量産型軽巡洋艦 由良)




艦娘の魔法使い



「「大切な人を守りたい」


そう、うん。それだけでいい。提督も、艦娘も関係ない。


みんな自分が生き残るのに精一杯で誰かを心配する事もできないくらい苦しんでいるんだ。


私だってそう、でも。


天子様…ううん。あの魔法使いさんだって自分の事だけでいっぱいいっぱいなのに…私を絶望の淵から救ってくれたんだ。


なら、私にだって出来るはず!


恩返し?そうかも。


確かに、心のどこかであの人に恩を返したいと思っているのかもしれない。


でも違う、これだけは言えるの。


私はあの人そのものになりたいわけじゃない。あの人に私はたぶんなれない。


けど、私は!


「大好きなみんなが苦痛に押し潰されるくらいなら、私が背負い込んで守りたい」の!」



(帝国海軍の量産型駆逐艦 五月雨)




なぜなにかんむす教室 Lv.12



「おはようございまぁすっ!転職に成功したかんむすおねーさんだよ!おねーさん、何故か警察の人にスカウトされたの。晴れておねーさんも「特高機」の一員になれちゃった。きゃはっ♪


っと…今日は艦娘達の兵装の大きさについてお勉強をしよう。…えっへん!


「12.7cm連装砲」に「61cm三連装魚雷」、「7,7mm機銃」など…オリジナルと量産機を問わず装備する兵装の弾薬のサイズを表すもので……


ん、難しすぎたかな?


つまり、大きい数字がたくさんあればあるほどスッゴイパワーを持っているって事!また一つ賢くなったね!


…えっ、兵装の名称と実物の口径の寸法が全然合わない?


えっえっ、主砲の太さが親指くらいしかないように見える…ですか?


あ、あっ、えーと。それは……それは…よ、よーするにぃ!過去の実物と同じ威力の砲弾が撃てればいいんじゃない?ってかんじで海軍のスゴイ人が勝手に決めちゃったの!うん、そうだよそうなの!


…あぁやっちゃった!おねーさんまた職を失っちゃうかも!今日が初出勤の日なのに~っ!


ぐすん…でも、おねーさんはへこたれないよ!じゃぁね!またあう日までっ!!」



(かんむすおねーさん)




波は再び岸に『打ち寄せる』



「あ…あ、まほうつかい、さま……」


「ん、心配いりませんよ。手術は全て終わりました。私の計算通り、あなたはここまでよく耐えてくれました」


「このからだ、なに、これ…わたし、私…に……!」


「ほらほら、細かいことは気にせず今はただお眠りなさい♪…朝日が昇るときに…あなたは明日から「浦波」となるのですから。


ふふっ、よしよし。いい娘ですね。


ほら、何も恥ずかしがる必要なんてありませんよ。


さぁ、全てを受け入れなさい。今も、これから先も、あなたはただ全てを受け入れるだけでいい。


…あの時、深海棲艦を前にしてもあなたは決して心を折ることがなかった。


つまり、艦娘になる資格を得たということなのです。


そう、あなたは艦娘になれるんですよ……」



(帝国海軍の軽巡洋艦)




『量産型』艦娘たちは



「『提督回路』について…話を聞きたい、か。


お断りだね。


そんな事あたしは知りたくもしないし、聞きたかった事もない。他をあたりなさんな。


……だが…まぁ、こんな追い出し部屋のロートルの思い出話くらいでよければ土産に持って帰るといい。


オリジナルが水面を疾り自由に海を駆けていた頃、あたしらは技術にものを言わせて紛い物の艦娘を造った。だがそれは彼女らの足下どころか歯牙にすらかからない程に、到底及ばなかった。


「艦娘」と「深海棲艦」。


あの時はどう背伸びしようが人の手では御する事すら敵わない、そんな化物がうろついていたんだ。誰だって恐怖を抱くのは当たり前だろ?」



(南原産業総合研究所の(旧)稲城研究室:ボーイッシュな女性事務員)




『量産型』だけが知る恐怖



「帝国は超遠射程の大砲が最大の脅威だとヌかしていたのか?


まるで分っていない…奴らの最大の脅威は「歯」だ。いや、なにも姫や鬼に限ったことではない。


あれは全ての深海棲艦が持っているものだ。火器もそうだが奴らの数自体、我々よりもずっと上回っている。


…端的に言えば、突っ込んでくる。駆逐艦なら日常光景だ。


戦場で艤装ごと量産型艦娘を容易く噛み潰し、美味そうに咀嚼する深海棲艦の姿を見れば…どう見てもそっちの方が危険だってわかるはずだろうさ」



(高山研の量産型駆逐艦 若葉)


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