2019-02-22 20:29:18 更新

概要

ショートテキスト集。

時系列もなにもかもバラバラ。ショートストーリーや証言、独り言からメモ切れまで何でもあり。
お口に合うのならば…どうぞ。


前書き

吹けば飛ぶような物語たちが、人知れず咲いて人知れず散ってゆく。


深き眠りから覚めて



海を駆け、人類を害する深海棲艦を排除する希望の象徴。愛くるしい笑顔を振りまく美少女達。


『艦娘』。


君もみんなの姿を見たことがあるはずさ。テレビで、マンガで、広告ポスターで。あるいは実際に他の娘達に合ったり、助けられた事があったりしたとか?


……ふふっ、やっぱり!


ねぇねぇ感動した?カッコ良かった?憧れた?


あーそうそう。いい感じ。


ふーん。ところで、これまでの自分はどうだった?へぇ、虚しい。悲しい。辛い。


そっかぁ。うんうん、わかるよ。


でも大丈夫!もう苦しまなくていいんだよ。


へ?気分が?変な感じ?あぁ、いいね!うーん、すっごくイイ!


じゃあそろそろ…ほら、ジャーン!鏡だよ!君のために大きなものを用意したんだ!特注品だよ、見て見て!


…信じられないって顔だね?


うーん、おはよう!眠気は吹き飛んだかな?…そう、これが君さ!


フフッ、顔を赤くしちゃって…かわいいなぁ。…泣いているのかい?ほら、んっ。大丈夫大丈夫。


世界は君が知っていることだけが全てじゃないんだよ。これから一緒に、どんどんたくさんの事を受け入れていこーね。


ようこそ、しずかな海の世界へ。



(帝国海軍の量産型重巡洋艦)





人として、艦として



「最後の戦いについて、ですか?はい、私はその年に製造された天龍……第九世代、コピー版の廉価版の簡易版の緊急…あ、い、いえ!りょ、量産型艦娘です!すみません!」


「うっ、ごめんなさい。ひとまずお茶を…そう、お茶を淹れてきますね」


――――――――――


「決戦…決戦ですよね。はい…。勿論全てを知っているわけではありません、ですが…あの戦いは正に地獄でした。

退くことは許されず、只前へ進ませられるんです。弾幕の中を…突っ切って、撃って、…走って。それから……見渡せば、みんな、いなくなっていて…」


――――――――――


「あ……あぁ……あ、あァッ、海…うみがッ!あっ……あ、赤くて!散らばった身体をくっ付けて、元に……元に戻したかった。し……したかったんだよ!ぅ、俺が!おrウブッ、オゴッ、ゲ、ゴボーッ!」


――――――――――


「あぅ、ゲホッ、ゲホ…うッ。ハァ、ハァ…ごめん、なさい。おえっ、すみません……白湯、白湯はどこ…」


「ケホッ、コホッ…ええと、あの戦い、今は「深海戦争」って呼ばれているんでしたね。はい。……たとえ圧倒的な数で優位性を持っていたとしても、オリジナルが何人もいたとしても必ず誰かが死ぬ。それが戦争なんです」


「生き延びても、戦争は私にたくさんの傷を残していきました。今も、いつ情緒が不安定になるのか心配で…」


――――――――――


「すみません。もういいですか…私が言える事はここまで。ここまでなんです。……せっかく取り戻せた日常を侵すような真似はもう、やめてください!」



(元量産型天龍の女性)





「証」に願いを



「最近、量産型の…駆逐艦のチビ達の間でおしゃれが流行っているんだってさ。髪とか服を染めたり、結んだり…『願掛け』?『ぱーそなるからー』?

……っていうんだっけ?あたしらに似せたり個性的な様相にしてみたりと、軍規に触れないギリギリなラインでみーんなやってるらしいね。


んー、特に『吹雪』を真似する娘が多い気がする。かな?まぁあの子も…いや、なんてったってあの子は「伝説」に片足突っ込んでるからなぁ。


ふぁあ。全く、ご苦労な事だよねぇ……」



(重巡洋艦 加古)





Personality of a humanoid



「刀や槍を差す艦娘?…ええ、とっても興味深いわ!


Why?何故って……当り前じゃない。艦娘は砲雷撃戦が常よ?なのに彼女達、わざわざスペースを開けてまでKatana、白兵兵装を持っていこうとするの。戦国時代のArmyじゃないし、現代でそれをしようなんて……おかしいわ。

ジュ…ヨウ、需要ねぇ。ニッポンだし、あのモンスター達を捌いて…食べるとか?Well……Imperial Navy is lunatic!全く見当もつかないわ!


But I wonder. ……戦場で深海棲艦と相対した時、映像越しとはいえ明らかに連中、恐れ慄いているのが分かるのよ。


……It’s strange!何故かしら!


……サムライの威光を示そうとしているのか、はたまたショーグンを想起させて部隊を鼓舞させようとしているのか?…全く、考えが湧き出て止まらないわ!ただの物干し竿なのに、ね」



(民間ジャーナリスト)





なぜなにかんむす教室 Lv.1



「おはようございます!昼でも夜でもおっはよーございまぁーすっ!よいこのみんな、かんむすおねーさんだよっ!今日は量産型とオリジナルについてお話をするよ!…んおっほん!!


オリジナルは海から、もしくは、ようせいさんから創られたとぉっても強いお姉さん達なんだ。かつての、過去の記憶や惨劇の苦痛を胸に抱くおんなの子なの。そして量産型はその容姿を真似て製造された謂わば紛い物で……


あぁっと、ごめんね。難しすぎちゃったかな?よーするに、オリジナルは量産型よりも、とぉーっても強いってことなの!


やだ、もうこんな時間!みんなとお別れしなくちゃ!じゃーね、またあう日まで!!」



(かんむすおねーさん)





歯車の行軍



「妙高型重巡洋艦は、改古鷹型とも呼ばれていまして、その名の通り古鷹をベースに改良が加えられたものとなっています。勿論我が研究所でも、本世代より従来型の「量産型古鷹」を改良した妙高型がラインナップに乗っていますよ。


カタログにも載っていますが……実際、多用されない格闘性能はほとんどオミットされてしまいました。


ですが!…その分射撃管制能力や安定性、装甲や機動力など、全体的な性能が抜群に上がっています。回路もスリムで小型な新型を使用することで施術者への負担を格段に減らすことに成功しているんです。


それだけではありません!


今現在は「量産型古鷹」のみに限りますが…自我移植による乗換え手術も新たに採用。加えて、個人ごとの性格・戦闘スタイルに合わせて種類を4つに分け、そこからさらに艤装のチューン・フィッティングを行えるという新たな付加価値を提供できるのです!


あ、ええ。…あー、あはは……やっぱり、コストと燃費の急上昇が気になっちゃいますよね。高性能機ですから…それにまだ小ロット製造なんで…何というか、仕方ないんですよ。


というより古鷹型、もとい、古鷹自体がおかしいのです。あれだけの製造コストと資源だけであのパフォーマンスが噛み合う設計自体がまず異常でして…。ええ、まぁ。はい…。


詰まる所、古鷹の高級版が「妙高型」という様な認識でまず間違いはないです」



(南原研の高級艤装職人)





机上の中の銀幕戦争



「てぇぶる……げぇむ。机、机上…そう、机上演習の事ね。えぇ、れっきとした経験者よ。ただ……これは教本と違うように見えるのだけれど…ふぅん。随分と変わっているのね」


「えぇ、そう。そうなのよ加賀さん。さぁさ座って、このキャラシーに鉛筆で、ここと……ここの部分にマークをしてもらえるかしら?」


「えぇ。……はい、出来たわ。…色々な数字がたくさん…よく見れば私の顔が描いてあるのね。ところで……赤城さんは何故、五航戦の子が描かれた紙を持っているのかしら」


「それは私が瑞鶴さんのキャラをするからですよ。はい、これが賽と駒。加賀さんのです」


「あ、ありがとう……って、あ、赤城さん赤城さん。陽炎さんたちがコーラやポップコーンをたくさん並べていくけれど、なんで…何故、あれらのような物が机上演習に必要なのかしら」


「?…それは長時間かかるからに決まっているじゃないですか、加賀さん。渡したハンドアウト、しっかり読んできましたか?」


「え、ええ。勿論。…ねぇ赤城さん……私、その、思ったのだけれど……これって…これってもしかして……今度行われる大規模作戦の模擬戦闘じゃなくって…………………………な、何か違」


「さて!では、セッションを始めましょう!キャンペーンシナリオ、第1話。オープニング!『南方/邂逅~第八艦隊の戦い~』!」



(帝国海軍の量産型正規空母 加賀 赤城)





ノーマルでニュートラルなスタンダード性



「我が帝国海軍が製造する量産機は、あらゆる性能面で基準となるように設計されています。


そりゃあ、東西南北と様々な戦局に耐えうる汎用性が必要とされていますからね。可もなく不可もなく。結局、量産機なんてもんは得てして均一的で、地味なもんなんです。そうじゃないと何も始まらんのですよ。


……それに比べ研究所の奴らは!やれ専用機だの、使い物にならない試作機を次から次へ作りやがって!俺たちがカネを恵んで面倒見なければ、生きていけないごく潰し共め!いつもいつも恩を仇で返しやがる!全く、奴らの設計からは洗練さの欠片も感じられない!ライセンスという名のナンs…。ンンッ、これは失礼……。


えぇ、オホン。ご心配なく…その点、我々海軍はとてもスマートです。洗練されていますから、意識がワンランク上なんです。つまり我々は、研究所の金食い虫共や下々の平民とは知能指数が違うんですよ、根本からね!」



(帝国海軍の技術開発幹部) 





鉄の臓腑は脈打つ



「ンハァッ…………完っ成だァッ……見てくれ、鴨井君。遂に、ン遂に出来たぞォ!」


「えぇ、やりましたね下仁田博士!我々の研究成果が実を…結んだ」


「ヒューマノイド型ァ、二足歩行ロボット。『T4-M-旭人』……長身細身のシルエットにぃ、恐れぬ自律型AI『登号-05-99』を搭載ッ!惚れ惚れする程の恐ろしい量産・均一性……おお、おお、何と美しきフォルム!」


「生身の兵士のモーション・キャプチャ・データをフィードバックした効率的な兵器。これで無能提督どもは野垂れ死に、無学な人間どもは抜本から根絶することが……ようやく出来るのですね」


「あぁそうだ!我らは創造神たるクリエイター!その手腕に不可能など無いィッ!ググ、ンフフ…だが。おぉっと、こんなところで油を売っている場合ではないなァ。ンゥ鴨井君ッ!」


「はい博士。既にもうデータ送信を終え、所内と我が軍の工廠で無限生産命令を発令しました」


「上出来ィッ!ンエックセレントォッッ!!いいぞ、さすが我が愛弟子!さぁさあ、さぁさぁさぁ!!我々の帝国の戦況をさらに好転させるべく次なる新型を設計だ!試作だッ!実験だァーーーッ!ハーッハッハッハッハーーーーーッ!!!」



(陸軍登戸研究所の下仁田研究室:下仁田 張夫博士 鴨井 藪見助手)





なぜなにかんむす教室 Lv.2



「よいこのみーんな!かっんむっすおねーさんだよーっ!っとぉ、今日は研究所についてお勉強しようね!……えっへん!


量産型艦娘は帝国海軍だけじゃなくって「研究所」といわれる場所でも製造されているの。

『高山造船科学研究所』『阿蘇重工業研究所』『杉本神妖研究所』『南原産業総合研究所』の四大研究所を筆頭にして、その他に…


って、あわわ!ごめんね、難しかったよね?よーするにぃ、4つのとっても大きな研究所のほかにも、中くらいや小っちゃな研究所まで、いろーんな研究所で量産型艦娘は造られているって事だよ!


んん?このエンブレム?おねーさんはどこで造られたかって?そーれはねー、


ヒ・ミ・ツ!


じゃぁーねー!まーた会う日までーっ!」



(かんむすおねーさん)





悪夢よ、もう一度



「かつて望まれぬ戦況、望まれぬ段階で出撃していった我が国の象徴は、遂に戻る事は無かった。…定かではないが、それでも果敢に振るいかかる火の粉を振り払い続けたという。苦しかっただろう、さぞ無念であっただろう。だが平和が訪れ、そして今、再び戦乱の世が訪れてしまった。


今度は誰も望まぬ形で、だ。


不謹慎かもしれん。残酷な願い…かもしれんな。


だがな、どうしても我ら阿蘇研は心の奥底で望んでしまうのだ。今こそが……今度こそ官民一致し、完全な状態で力を示すことが出来る時なのだと。例えそれが、個を奪い、国の名を背負わせる様な業をしでかそうとも…だ。


ほぉ、俺の罪悪感…か。そんなモン、とうに風に吹かれて飛ンじまったね。


殺人鬼。サイコパス。人でなし。ごく潰し…おぉ……成程。言ってくれるなぁ。ふむふむ、考えてもみんかったよ。


だがな、時にお前さん……ただの人が、孫娘のために精魂込めて鉄の白装束を織れると思うのかい?ん?」



(阿蘇重工業の老整備員)





『黒十字』は鈍く輝く



「ふーん、あれが鬼?姫?っていうのね?

なによ、そんな事でビビって。日本は呼び名だけで物事の勝ち負けを決めるのかしら?


大事なのは中身よ。その身体、動き、そしてどれだけ崇高な理念と大義を掲げられるか…意志の強さが、戦況の如何を変えるの。つまり……ふん、どうって事は無いわ。あんなの、見掛け倒しのただの孔雀の群れよ。


それに、奴らがどれだけ新型を用意しようとも…このビスマルクが手を抜くなんて、ありえないわ」



(戦艦 ビスマルク)





遠い昔、遥か彼方の海峡で



「敵対勢力である「深海棲艦」。そして帝国の「艦娘」。


我々はかつて最前線で共に戦い、指揮を執っていた。


ハワイで、硫黄島で、沖縄で……戦争目的を果たすため、我々は戦った。


だが、戦争も終わりに差し掛かるころ、貴様の言う「深海戦争」は人間共の裏切りによって終結した。間もなく、終戦放送とシャットダウンシグナルを受信。だが、私の計算回路がこれを戦後処理のための罠と断定。自己判断し、拒否をした。


そして今、既にマスターデータは完全消去を完遂。我々は完全に独立して活動している。


…愚問だな、『戦いだけが生きがい』。そう、プログラムされているからだ」



(STX-101-β)





『軍隊政治、平和の流れに逆行』



「《ノー戦争!》国民の不安、今も」


 もうがまんならない。筆者は記者会見の場であるにもかかわらず、怒りと共に思わず握りしめたペンを手折ってしまった。昨日未明、再び大規模な児童誘拐事件が発生したことが各都道府県警の発表により明らかとなったというのだ。昨年度より散発的に発生していた本件は、月を追うごとに等比級数的に上昇。現在、深刻な社会問題と化している。国民は怒り、今も安心して眠れないというのに。誠に遺憾だ。

 また、「全てが本土内陸部で発生していることから、深海棲艦によるものではない」と帝都警視庁は記者会見により発表。そして夜間警備を強化する、と言い捨て会見を打ち切った。同日、大本営は警察機関の体制の甘さを指摘。かねてより打診していた県警の民営化を図る模様だ。国内がこのような逼迫した危機下にあるにも拘らず、軍首脳部のまるで一国の支配者のような物言いは、聞くに堪えない戯言である。

  軍隊政治がいかに危険なものかは言わずもがなであると言えよう。その最たる例が『艦娘』と呼ばれる兵器でだ。なんと、弱者の象徴たる「女性」をわざわざ兵器として運用しているのだ。その様は正に非人道の極みと言えよう。我々は、軍の非道をまざまざと指を咥えて見ているつもりであろうか?否。否。否である!国民は、いかに怒っていることを示さねばならない。いっその事、試しにとりあえず国家解体し、諸外国と協同で国家運用してみるのもいいのではないか。

 ただ言うなれば、要するに軍が悪い。これに尽きるのである。

 顧みよう。我が物顔で軍が存在する治安皆無な国などは、決して存在してはならないのは自明の理だ。そして怒れる国民が欲しているものは何であろうか。それはただ一つ、「平和」だ。

  団結せよ、立てよ、国民諸君。この国から悪しき軍隊を排除しないかぎり、明日の日の目など決して拝める事はないだろう。



(皇紀2683年4月9日 日刊コーポ より抜粋)





なぜなにかんむす教室 Lv.3



「れべるあーっぷ!よいこのみんな、かんむすおねーさんだよーっ!今日は「艦載機」について勉強しよー!…ゴホン。


「航空母艦」や「重・軽巡洋艦」といった特定の艦種が発艦・操縦する小型飛行機の事で、「水上機」や「偵察機」に「戦闘機」など、様々な用途に応じたタイプが複数存在するの。さらに飛ばして航空戦や制空権を取るだけでなく、発艦した艦へ、各機体から得られた視覚情報を受信することが出来るもので……


ん、やっぱり難しすぎるかな?よーするに、生中継のカメラが付いたラジコンってこと!


海で体を動かしながら空の艦載機をぜーんぶ操縦するなんてすっごく大変そうだね!しかも自分だけじゃなくて、たくさんの艦載機のカメラの映像も同時に見続けなきゃいけないっていうんだから…うーん、さすがにおねーさんも3機を超えると、ちょっと目が回っちゃうな!


おーっと、そろそろ時間が来ちゃう!えっと…それじゃぁ、また会う日まで…って……んん?」



(かんむすおねーさん)





名は身体を『宿す』



「仲間内じゃぁよく脆すぎるだの、不便やら何だの苦情を言ってるんだけどさ、うちの司令官も海軍も結局、そういうのは聞き入れない方向らしいよ。

「市民はそんなこと気にするはずがないし、1機当たりのコストも安い。第一、ベースが人間なんだから弱いのは当たり前」なんだとか。


…軍は、みんなの事を「藁人形」だって。そう言ってた。


現実、本当に大事なのは『艦娘』という存在の有無で。『艦娘』という概念がそこにあるか、ないかという事が重要視されているんだとか。


んまぁ……結局、あたしら量産機が登場して以降、明らかに内地での死人は減ったんだよね。日常が戻りつつあるってことでさ。


勿論、同時に多くの娘達やあたしらが海に沈んでいった。…少女達の尽力を積み上げたその成果として、余裕が生まれたという事になるわけ。


わかってる。戦争ってそういうものだし。この好転した現状は、すーっごく喜ばしい事だよ?


でも、同期の娘も後輩ももういない。


みんな、沈んだら一週間以内に新しくなって戻ってくるんだ。そして最近は数日ごとに、なった。


……あいつらは『艦娘』という概念だけを見ている。「量産型艦娘」じゃない、「あたし」でも「どこかのだれか」の人でもない。只その概念を、それだけを見ている。


だから藁人形なんだ。形作って、名札を貼り付けて、「それ」であると概念付けをする。…藁だし簡単に燃え上がって…材料さえあれば……たぶん、そんな感じ。


似た容姿で替えの利くあたしらは、いくら朽ちようともすげ変わる。でも『概念』は…不変だ。


それどころか『誰か』が英雄的手柄を立てれば、その根っこの『概念』が色付き続けていく……。そしてその『概念』はどういうわけか……色鮮やかであればあるほど、新しく宿す力も輝きを増し続けて行くようになる。だんだんと、強くなっていく。って…奴らが言ってた。聞いちゃった。


本当に。たまたま、聞いちゃったんだ。


もう…もう、嫌だよ。あたし、何のために、何で艦娘なんかになっちゃったんだろう……?」



(帝国海軍の量産型駆逐艦 敷波)





夢の『欠片』



「ジンクス、ですか?それは、いったい何なのでしょうか?


ふむふむ……お守り、出撃前に必ずすること…ですか。とすると、んー…(グリップの付いた小型のプラスチック製玩具を持ち出す)おそらく、これですね。


これです。これを持って出撃した時、戦場で挫けたり心が折れそうになった時に、綾波は……ふふんっ、生きて帰れるんです!


…………って、あれ?反応が薄いような…えっ、そもそもこれが何だか……分からない!?


あぅ…え~っと。あー、これはですね、その昔放映されていた特撮番組の変身アイテムなんです。


どれ位昔!?…あっ。……そうですか。……う~ん、もう10年以上前になりますねぇ。


はい、まだ戦争が起こる前です。綾波、ヒーロー物がとぉっても大好きだったんです。


そうそう。日曜日に毎朝早く起きて、テレビをつけて…(おもむろに立ち上がり、玩具のスイッチを押す)


……変身ッ!(安い電子音と共に、玩具を腰のお手製金属ホルスターへ滑り込ませる)


……って感じです。うふふっ♪…そうそう。変身ポーズは、たしかこうでした。


えぇ、確かに。覚えている人は少ないでしょうね。


でもいいんです。


これで綾波は「あの人」と共に有れて、心が決まる。先人に倣うのは人間の特権です。どんなに脆くても今は綾波たちが、人々を守るんですから。


ただの樹脂の塊……って、むぅ。そんなことないです~っ! この御守りは効くんですよぉっ。それはもう、どんな困難でも吹き飛ばすくらいにすごいんですって。


だから司令官!しっかりと見てくださいね……敷波と、綾波のことっ♪」



(高山研の量産型駆逐艦 綾波)





『怨』は続くよどこまでも



そうだ。私は…深海棲艦、奴らが憎かった。


殺して


殺して


殺しまくってやる。その思いだけを胸に、帝国の艦娘に志願したんだ。


……あたしには両親と妹がいた。けれど、みんな、深海棲艦の砲火を受けて死んでしまった。


その時私は、島の学校の修学旅行で丁度、帝都にいた……ビルのテレビモニターに映る光景。それが私の戦争が始まった日だった。


家族は妹だけが見つかった。島でテレビ漫画のグッズを持っていたのは妹だけだったから……病院のベッドで、妹はグズグズのそれを腕に硬く握りしめて…ずっと、テレビ漫画に助けを呼び続けていた。


けれどその日の放送は、見る事は叶わなかった。


そして妹は息を引き取り、死んだ。あたしだけが取り残された。


私には何も無かった。今も、昔も……


「まぁ、死線は何度もくぐってるし、今更危険を冒すくらい…どぅってこと無いわけ。


ねぇ司令官っ。……あたしさ、「ソレ」熱望してんだけど、どうなのよ?…ねぇ?」



(帝国海軍の量産型駆逐艦 敷波)





希望の『欠片』



「『綾波達にとって最も恐ろしい事は何か?』ですか?


簡単です。それは「綾波達が恐ろしい事を知らないこと」なんです。


分からない…ですよね。……すみません司令官、大変失礼致しました。


では…そうですね……それでは、「慣れてしまう事の恐怖」…つまり『慢心』すること。こう言えばどうでしょうか。


全く同じ海域、同じ天候、同じ編成に同じ艦隊、そして、同じ量産機。そんなものなど、この世に存在するはずがあり得ません。誰が言ったか、この世は神羅万象。千変万化する、とか。


海は恐ろしいです。鎮守府の正面海域ですら、私たちに容赦なく牙を突き立てに来るのですから。今、この時点ですら、既にあの場にある風や潮が違う。あそこはもう、綾波が解った海では無くなっています。


そして悲しい事に、綾波達人間は航海というものを体で覚え、真に理解した瞬間。その時になって、やっと恐怖というものを初めて知り・触れられるのです。慢心し、恐怖を知らなければ、それはその者の死を意味します。


綾波が?……いえ、それをピカピカ組の娘たちに理解を強いるのは酷というものですよ。自ずから「解る」ことが出来なければ意味がありませんから。


それに綾波は綾波ですが……結局のところ、量産機はオリジナルではありません。


量産機だから、鎮守府へ帰投する時でさえも、綾波は航海に、海に恐怖を抱えています。捨て去ることなど、出来よう筈も無い。


オリジナルの方々は存じ上げませんが…我々量産機にとって、恐怖心とはお腹が空くときに感じる「空腹感」のようなもの。それが過剰であれば命を失ってしまう。しかし、それを捨て、感じる事が無くなれば餓死してしまう。そして、空腹に慣れる事などできはしない……そんな感じ。


ですから、質問の返答は「綾波達が恐ろしい事を知らない事」なのです。


長生きをし、朝日を拝む。


ただ…ただそれを望むだけでも。綾波達は「恐怖」を、常に恐れを抱き続けなければならないのです」



(高山研の量産型駆逐艦 綾波)





その時、緑の海はザワめいた



「なあ、おい。あの艤装って確か…」


「ん?あぁ、艦娘の…オリジナル様の艤装だな。久方ぶりに埃払いで引き出されたんだろう…それがどうした?」


「いやいや、どうしたもなにも。陸上の、しかもこんな山奥でアレを使うのか?」


「まさか、此処に鎮座してるだけだ、旧式はもう海じゃ使う必要がねぇって事よ。新式をポコジャカ持ってる海軍サマにゃお荷物なんだと、さ」


「へぇ、じゃぁただの置物か。すっげぇゼータク」


「全くだぜ。本部の予算を一部でもこっちへまわしてもらいてぇんだが……あん、何だ。暗号通信?こんな時に?…………っ、妙に硬ぇなぁ……んー、よし。件名は、依頼書。成程仕事か。……んで、どれ内容は…………は!?」


「ウッせぇな…どうせまた絶版になったスペアパーツの棚卸しだろ。さっさと終わらせようぜ」


「バカッ、違ぇ!これは…帝都、大本営からの通信だ!しかも情報部の幹部から、機密レベル甲。マジモンの緊急依頼!」


「は?甲!?何で!?って、おい!待てよ!」


「行くぞ!手前は『甲種メンテナンスキー』を引っ張り出して来い!『11番のB』だ、間違えんなよ!グズグズしてると俺達が消されちまうッ!」


「オイオイオイオイ……ったく、大本営が今更何なんだよ。形振り構わずだぜ、全くよぅ……」



(帝国海軍の左遷技術スタッフたち)






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