2019-02-19 14:48:01 更新

概要

榛名の拉致事件は解決を見た。意味深な事を言う作業着の男や榛名、大鯨を伴い、提督たちは一旦堅洲島に帰投する。

『艦娘制限薬』の解除を終えた榛名は深い眠りにつくのだが、その夢の世界で、榛名は自分の大事にしている刀のルーツと、幾つかの未来を見る事になる。


前書き

※性的な描写があります。

1月31日、一回目の更新。
2月7日、最終更新です。
※2月19日、細部修正しました(二度目)。

お待たせしました。この長ーい艦これ小説もついに80話です。まだまだ序盤なんですけれどねぇ。
今回は榛名の謎が少し解けそうですね。

サラッと会話が流れていきますが、もう一人の榛名は重大な事を話しています。

そして、未来の幾つかのシーンが出てきます。

榛名と提督が二人だけで、どこかに幽閉され、長い時間を過ごすであろう未来なども出てきます。

はたして、この物語はどのようなルートを経ていくのでしょうか?


第八十話 榛名の夢・前編




―2066年1月9日、ヒトゴーサンマル(17時半)過ぎ。横須賀、国道16号。


提督「よし、あとは武装憲兵隊に引き渡して、一旦鎮守府に戻るぞ。面倒は総司令部に任せて、我々は一旦撤収しよう。榛名をここから遠ざけておく必要もある。・・・引っ越し等は?」


霧島「あっ、問題ありません!」


提督「ふむ。・・・しかし思ったより面倒かけてくれたな」パッ


―提督は手の埃をはらいつつ、拘束されている三人につぶやいた。


作業着の男A「しくじったな。これで何もかもおしまいか・・・」


作業着の男B「へへ・・・へへへ・・・」


榛名のマネージャー「あああ、暑い!うっ、寒い!・・・うっ、げえっ」ビチャビチャ


―冷静なのは作業着の男、巨人に変異した男だけだ。猿のような化け物に変異した作業着の男は、虚ろな目で気味の悪い笑いを繰り返していたし、榛名のマネージャーは異常を訴えては嘔吐し、虚ろな目で宙を見つめている。


提督「落ち着いているのは君だけか。説明してもらおう。必要な事を話してくれれば拷問はしないが・・・」


作業着の男A「拷問?」


提督「そういうキャリアもあるものでね・・・」


金剛・叢雲(!)


―作業着の男は提督の眼を見た。その眼に何の気負いもない。ごく普通の眼だが、それが何を意味するかを知れる程度には、この男には才があった。


作業着の男A「あんた、苦痛を加えて情報を聞き出すことに相当慣れてるな。どっかぶっ壊れてるくらい落ち着いた眼だ。仕事や飯のように簡単に殺し、苦痛を与えてきたな。ふっ・・・甘い提督ばかりでは駄目だからと、あんたみたいなのを提督にするとはな」フッ


提督「自分探しの延長みたいなものさ」ニヤ・・・


作業着の男A「全て知りたければ、おれだけ死んだ事にして、どこかに隠してもらおうか。もともと、ダメージを受けていなければ狂い死にする前提でこの任務を受けている。こうなる時点で、色々とただ漏れになるんだ。取引が可能なら、取引もしたいしな」


提督「待て!任務と言ったか!」


作業着の男A「・・・そういう事だ」


提督「なるほどな・・・ふむ」


―この男が使った、「任務」という言葉には、相当な情報量が暗示されている。この件が腐った芸能がらみの個人的な事件ではなく、大きな組織が介入しているという事だ。


提督「・・・それならば、君にはここで一度死んでもらう必要が出てくるな」


作業着の男A「・・・悪くない判断だと思う」


提督「取引と言ったが、主に何を?」


作業着の男A「生きているうちは言えないような事だ。一度死ななくてはな」


叢雲(どういう事?何の話をしているの?)


提督「・・・なるほど。随分と複雑なようだな。わかった。乗ってみよう」カシッ、ガチッ


―言いながら、提督は拳銃の弾丸を入れ替えた。


提督「総員、視線を外してくれ。この男にとどめを刺す」


艦娘たち「!!」バッ


―艦娘たちは皆、提督と作業着の男から視線を外した。


提督「死ぬが、死にはしない」


作業着の男A「・・・!」


―パパンッ!


作業着の男A「ぐうっ!」ドサ・・・


―作業着の男は提督に発砲され、胸のあたりに二発の弾丸を受けると力なく崩れた。


提督「総員、視界戻し!」


叢雲「あっ、これは!」


金剛「死なせたことに?(小声)」


―提督は非致死性弾を男の心臓のあたりに連続で当て、ハートブレイクショットによる一時的な気絶状態にしていた。しかし、はた目からは拳銃でとどめを刺されたようにしか見えない。


提督「そういう事だよ。報告書は死亡で。あとはまあ色々と辻褄を合わせるが、急いで撤収だ!・・・が、車が必要か」


―提督たちの不自然な会話は、総司令部の装甲車の搭乗員に情報が漏れないためのやり取りだ。つまり、装甲車でこの男を運ぶのはいささか都合が悪かった。


―しかし、その時。


―プルルル・・・


提督「ん?」


―スマホの画面には、SNS通話の着信と、その少し前の新規加入者がいた事を通知していた。『サラ♡』という名前と共に。提督はその意味に気付くと、やれやれといったふうに通話に出た。


提督(通話)「・・・はいはいなんですかねぇ?暗号通信割ったうえにSNSに強制加入なんて感心せんな。相変わらず力押しなんだな」


サラ(通話)「力って大事よ?・・・親切心からの連絡なのに、あまり好意的では無さそうな雰囲気ねぇ。一つ言い忘れた事があったのだけれど。迷惑ならやめとこうかしら」クスッ


提督(通話)「ああ悪かった。先にお礼を言っておくよ。すごく助かるありがとう(棒読み)」


―さっき『サラトガ』として現れた艦娘が生身の女だった頃の事を提督はよく知っている。頭がいいくせに、力の信奉者と言ってもいいほどの強引さがある。そして、それを通してしまえるだけの愛嬌があるのだ。どうせ、この後も・・・。


サラ(通話)「車、必要でしょ?」クスッ


―やっぱりな!と提督は思った。どこかでこの話の流れを聞いていたのかもしれない。


提督(通話)「・・・察しの良い女性で好感が持てるねぇ」ハァ


―提督はため息交じりに答えた。ため息と言っても、少しおどけた雰囲気のものだが。


サラ(通話)「そうよ。とっても察しが良いの。日本ではそういう女性が好まれるものね。まして盗聴だなんてしているはずもないわ。それでね、さっきあなたたちがぶつかった黒塗りの高級車、あれ、私が乗ってきたものよ。外交官ナンバーだから誰も干渉できないわ。乗り捨ててくれたら回収はこちらでやるから、お好きにどうぞ♡」


提督(通話)「・・・見返りは何か必要かな?」


サラ(通話)「今日の再会で十分よ」


提督(通話)「わかった。ありがとう!」


サラ(通話)「どういたしまして」ピッ


提督「まったく、相変わらずだなぁ・・・」フゥ


金剛「相変わらず?それはどういう意味で」


提督「良くも悪くも、そのまんまだ」


金剛「ウーン・・・」


―金剛はサラトガと提督の関係が少し気になった。いや、サラトガになる前の女性か。


叢雲「で、どういう話だったの?」


提督「さっきぶつかった黒塗りの高級車、あの車を使えとさ。全て想定内なのか何だかわからないが、まあ乗っておこう」


―こうして、提督たちは面倒な事後処理は総司令部に任せ、榛名と作業着の男、そして大鯨を伴って、堅洲島に速やかに戻ることにした。



―ニーマルマルマル(20時)過ぎ、堅洲島鎮守府、執務室。


明石「提督、これは大変な事です。私たちの作った『艦娘制限薬』がDNN社を通して、どこかに流れていたという事ですから。知らないところで榛名さんみたいになった艦娘がいると考えると、もう居てもたってもいられません!何とかしないと!」


提督「『どこか』というか、下手すると国防部に流れているぞ。大鯨ちゃんに処置を頼んで地下に隔離したあの男は、今回の件を『任務』と言っていた。芸能がらみの腐れヤクザどもの仕事ではないぞ、これは。そもそも人間を一時的に深海化させてる時点で普通ではないしな」


明石「国防部にですか!?・・・色々と、心当たりは有ります。もともと艦娘関連の技術は深海と紙一重ですから。ただ、もうそんな事を通させている局面では・・・」


提督「無いよな。甘い汁を吸うなりなんなりしている連中には、そろそろご退場願わんとな。まあ、たとえトイレの個室に隠れていようが、探し出して尻を蹴飛ばしてやるけどな」


明石「お願いします。あの・・・私も何か罰を受けるべきですか?」


提督「いやいい。依頼されて作ったのならそれは違うし、その分ここでの任務に励んでくれれば」


明石「いえ、興味本位で作ったものが目に留まったという流れなので・・・」


提督「なるほど。・・・じゃあ、その分何か無理を頼むかもしれない、という前提でいてくれ。工作艦はここではとても忙しいはずだから」


明石「わかりました。でも、営倉くらい・・・」


提督「申し訳ないがそんな時間も惜しい。その分改修その他を進めて欲しいんだ。それに、榛名の事もある」


明石「はい!解除は問題なく進めています。入渠が終わったら、一定時間睡眠を取れば大丈夫のはずですから!」


提督「小笠原に運ぶ予定の艦載機の分解作業は?」


明石「もう終わっていますよ!」


提督「早いな!ありがたい!」


明石「それでは失礼いたしますね」


提督「うむ!」


―ガチャッ・・・バタン


―明石は執務室を出ると、医務室や工廠へと急いだ。急ぎながらも、自分が新しく着任した提督とのやりとりに、かつて自分が仕えた『最初の提督』との大きな違いを感じていた。


明石(白い士官用コートのあの人は、威厳があって隙が無く厳格。きっとあの人なら、私を解体か、大きな罰を下したはず。法と倫理を何より重んじる人だったから。でもこの人は、鷹揚で得体が知れないのに、やる事は本当に合理的。そして黒いコート。まるで対極のよう。そして何より・・・)


古鷹「あっ、明石さんお疲れ様です!あとで工廠に遊びに行ってもいいですか?」


明石「もちろんです!でもあまり忙しいと、ちょっと手伝ってもらうかもしれませんよー?」


古鷹「いいですよ!機械油の匂いや旋盤の作動音、なんだか落ち着きますしね!」


明石「わかりみですねぇ~!助かります!」


古鷹「じゃあ、演習が終わったら差し入れ持って遊びに行きますねー!」


―古鷹はそう言うと、速足で演習場の方に向かってしまった。


明石(噂では恐ろしい人のはずなのに、着任している艦娘はみんな屈託がなくていい子。そして、かつてたくさんの努力で最初の鎮守府が身につけていった強さとは、また違った強さを持っている気がする。あの提督の影か闇が、艦娘の光を強めているような・・・?)


―多くの艦娘を最初期から見てきた明石には、ここ堅洲島の提督と艦娘は、何かが大きく違って見えている。ただ、それがどう違うか明確に言葉にはできない。提督は対極と言っても良いほどに違うが、艦娘は何だろう?何かがはっきりしている気がする。それが『艦娘らしさ』なのか、『個性』なのか、『強さ』なのかはわからない。そして、その違いが、何か重大な意味を持っている気がした。


明石(今は期待に応えて、一生懸命やりましょう。万が一、あの子を解放できるかもしれないし)


―明石は明石で、胸に秘めている事があった。



―約三時間後、医務室。


??「そろそろ、一時的に目覚めると思います。この後、深い眠りに落ちると思いますが、特に問題は無いと思います。安心させてあげてください」


―明石の声のようだ。


―パチッ


榛名「あ、ここは・・・?」


明石「あっ、お目覚めですねー!倦怠感がすごいかもしれませんが、もう『艦娘制限薬』の影響はほとんど無いですよ。そしてこの後、深い眠りに落ちると思います。パソコンの再起動みたいなもので、特に問題は無いですからね?」


―医務室のベッドに横たえられていた榛名が周囲を見回すと、部屋には提督、陸奥、叢雲、明石、金剛、霧島がいた。


榛名「みんな・・・!」ジワッ


明石「あっ、大丈夫ですか?」


榛名「ごめんなさい・・・!こんな、こんなご迷惑を・・・!」


提督「気にするな。榛名は何も悪くない。・・・まあ、一言相談して欲しかったというのはあるがな。ちなみに、スタイリストの川野さんは先進医療病院に入院となったが、命に別状はない。それと・・・」


金剛「刀は回収したから大丈夫デース!」チャッ


―金剛の手には『死返開耶姫』があった。


榛名「ああ!」


金剛「不安なら、渡しておくわ。あとは良く眠る事ヨー?」スッ


―榛名は刀を受け取ると、大事そうに毛布の上に置いて、手を添えた。


提督「今はよく眠れ。見えない内部の敵の尻尾を踏んづけてやったという意味では、むしろ榛名の功績は大きいと思うぞ。結果良ければ全てよし、だ。あとは、おれは今夜はここで見張りつつ休むことにする。それなら少しは安心だろう?」


金剛「ワタシがそう勧めたんデース!」パチッ


―金剛はそう言って、榛名にウィンクしてみせた。


榛名「すい・・・ません。少し、眠りますね・・・」スゥ


―榛名は眼を閉じた。


明石「ん、経過は順調ですね。あとは明日、目覚めればいつもの榛名さんに戻っているはずですよ」


提督「結局のところ、これはどういう理屈なんだ?『艦娘制限薬』というのは」


明石「あーこれはですね、・・・ほら、私たち艦娘って、高速修復を受けると、どんな状態になっても回復するじゃないですか?」


提督「ああ、確かに。あれも不思議と言えば不思議だが」


明石「あれは、精神はそのままに、肉体と艤装の時間軸だけをリセットしているんです」


提督「なるほど!」


明石「で、艦娘制限薬ですが、艤装体の、艦娘との意識の接続による時間軸介入をキャンセルし、エラー状態にして生身の肉体も制御不能にする、という理屈なんです。これは艤装を形作っている数式にコードを足す形で行われています」


提督「プログラムやゲームの改造コードみたいなものと理解すればよいかね?」


明石「はい。その認識で合っています。榛名さんのこれからの眠りは、艤装体の時間軸とのすり合わせと再設定になります。これをするには起きている状態だと、脳の情報処理にリソースが割かれ過ぎるため、眠くなるんです。メモリ不足みたいなものですねー」


提督「なるほど。わかりやすい!・・・いや待て、じゃあ何で資源を食うんだ?」


明石「あっ、それはですね、この世界には『質量保存の法則』があるじゃないですか?それをクリアするためなんです」


提督「面白いな。我々の居る世界の制約をくぐるため、という視点か。まるで複数の異なる法則の世界が存在しているような気持ちになるな」


明石「その可能性は高いと思いますよ?提督や人間が見ている世界は、世界全体の数パーセントから30パーセントと言われていますし、同じ世界にいる生き物でも、可視光の可視範囲によって・・・」


提督「ああ、昆虫などの視界の事かね?彼らは、確か人間とは全く違う色彩の世界に住んでいるんだよな。同じものを見ても」


明石「よくご存じですねぇ!」


叢雲「それ、どういう話なの?」


提督「例えば、人間であるおれたちには紫外線は見えないが、昆虫は紫外線が見えている。紫外線で見ると、白い花が暗い青色だったりと、我々人間とは全く違う世界になっているのさ。艦娘や深海、人間でも、なにかそういうズレがあったりしてな」


叢雲「へえぇ!面白いわね。あとで調べてみるわ」


明石(鋭い人ですねぇ・・・)


―明石は感心するというより、慎重にこの提督とは話をしないといけないと感じていた。気をつけないといけない。しかし、それ以前に・・・。


明石(なるべく早く、赤城さんと話してみよう。なぜあの赤城さんがここにいるのか。それで私の覚悟も決まるわ)


―明石にもまた、幾つかの秘密と隠した思いがあった。



―深夜、不思議な場所。


―BGM~舞楽『陵王』~


―榛名は夜の、しかし暖かく薄明るい山の中にいた。肌に触れる風は暖かで柔らかく、花の香りがする。春の宵の山だろうか?


榛名(舞っているのは桜の花びら?どこかから雅楽が聞こえる。これは・・・『蘭陵王』でしょうか?懐かしい・・・)


―かつて軍功を認められ、『死返開耶姫』を下賜された後、榛名は自分の名前のルーツとなった榛名神社で、『蘭陵王』の舞を奉納した事がある。この時の榛名の美しさと雅やかさは、海防部の新聞で「開耶姫のごとし」と称賛され、『開耶姫』の二つ名を持つに至ったのだ。


??(・・・名・・・榛名)


榛名「誰か、榛名を呼びましたか?」


??(こちらへ、桜の花の導きと共に・・・)


―ブワッ・・・サアッ・・・


榛名「ああ、なんて綺麗な、桜吹雪!」


―朱塗りの灯篭と鳥居の立つ石段が浮かび上がるように闇の中から現れ、榛名は導かれるように歩き始めた。暖かな薫り高い夜風が、自分の全てを清めていくようだ。


??(そう、こちらへ・・・)


―石段を上ると朱塗りの山門があり、その向こうは幾つかの篝火は見えるものの、暗くて見通せない。


??(大丈夫です。山門をくぐって下さい)


榛名(私の声のような?)


―ザッ


―榛名は山門の向こうに足を踏み入れた。刹那、


―ブワッ!サアアァァァ・・・


―光と共に、視界を埋め尽くすほどの桜の花びらが舞い上がり、神社の本殿のような敷地に、花の咲き乱れる桜の巨木が現れた。


??「よく来てくれましたね」


榛名「あなたは・・・私!?」


―夜のはずなのに、昼間のように明るい桜の木の下に、深紅の毛氈(もうせん)が敷かれており、そこにはもう一人の榛名が正座して、微笑んでいた。神々しい雰囲気が漂っている。


神々しい榛名「ああ、やっと会えました。よく来てくれましたね。最後の榛名」ニコ


―心から安心できるような、優しい笑みだった。


榛名「あなたは?」


神々しい榛名「あなたの一部であり、艦娘がそれぞれ持つ神性でもあり、そして何より、あなたが大事にしている刀の、艦娘だった頃の姿ですよ」


榛名「えっ!?」


神々しい榛名「あなたは少し前に、過去の忌まわしい夜の夢を見たと思います。あの夜、かつて私や、あの邪悪になった榛名と共に戦った艦娘が深海に落とされ、密かに恐ろしい武器の素材とされました。その技術の始まりは、人の姿を持つことに倦みつつも、艦娘の未来に希望を託して剣に姿を変えた、私なのです」


榛名「あなたは、『死返開耶姫』なんですか?」


神々しい榛名「一部は。でも同時に、この榛名山の祭神の意思も持っています」


榛名「あの・・・昼間はごめんなさい!危険にさらしてしまって。これから、罰が当たるんでしょうか?覚悟はしています。榛名、しばらく素行不良で悪い子でしたから・・・」ジワッ


―榛名はもう一人の榛名の清冽な神々しさに、過去の自分の言動その他が恥ずかしくなって、いたたまれなくなってしまった。


神々しい榛名「構いません。そのような理由で話したかったのではありませんから。それに、あなたは希望を見失いかけても、心まで穢れることはありませんでしたし、その身の純潔も守り続けましたね。それが、あの方が現れる未来を呼び寄せたのですから、何も間違ってはいないのですよ。煙草さえ、あなたは躊躇して吸えなかったのですから」ニコ・・・


榛名「あっ・・・ごめんなさい」カアッ


―今度は恥ずかしさがこみあげてきた。


神々しい榛名「それよりも、あなたは自分が何者か、過去の記憶が曖昧で不安に思っているのではないですか?それともう一つ、誰にも言えないような願いが沸き上がりつつありますよね?その二つについて、話しておきたかったのです」


榛名「!!」


―一つ目の話題は分かる。しかし、もう一つは・・・あまり触れられたくない事だが、この神々しい榛名は全てを見通しているようだ。そうであれば、『あの事』しかないなと、榛名には赤面しつつも思い当たることがあった。


神々しい榛名「かつて、最初の鎮守府には二人の榛名がいました。初代と二代目の榛名です。艦娘が少なかったころ、深海という陰に対する光という意味でも、艦娘は強く気高く、光をまとっているような存在でした。・・・が、人には切っても切り離せない情念の問題が、少しずつ影を落とし始め、何かをいびつにしていったのです」


榛名「情念の問題?」


神々しい榛名「簡単に言えば、色恋です。強く気高く、真っ直ぐなぶん、それがどうしても届かないと知った榛名の心に、消せない何かが生まれました。それが、ある災いの時に一気に逆転したのです」


榛名「最初の艦娘たちと提督が、深海に寝返った件ですか?」


神々しい榛名「そうです。私自身は、そのずいぶん前に、色恋に囚われて艦娘の本分を履き違えることはあってはならないと考え、自戒の意味も込めて、剣へと姿を変えてもらう事にしました。そして長く『最初の榛名』とともに戦場にありましたが、深海の力を得たあの子は変異時に私と決別し、その心に残っていた純粋な艦娘の部分と神性は分離してしまいました。・・・それが、あなたなのです」


榛名「えっ!!」


神々しい榛名「この出来事を正確に語れるのは、私のみなのです。深海勢もあの榛名も、あなたを何らかの不純物としか思っていないようなのですが、不純という意味ではそれこそ、あの榛名は語るに落ちている事になるでしょう」ニコ


榛名「私は、最初の榛名の善の部分と言う事ですか?」


神々しい榛名「厳密には、艦娘の部分という事になります。深海と対極という意味での。・・・ここで二つ目の話になりますが、あなたはあの提督に、経過はどうであれ我がものにされたいという願望が芽生えてきているでしょう?」


榛名「やっ!・・・そんな、榛名はそんな事・・・」カアッ・・・


神々しい榛名「何も恥ずかしがることはありません。そんな未来もあるかもしれませんが、困難も災いも多く、あなたは自分がどう生きるべきかをよく知っておく必要があります。それについて話したかったのです。これから、幾つかの未来をお見せしましょう」


―神々しい榛名はそう言うと、伏せていた目を榛名に向けた。その眼は榛名とは違い、うっすらと水色に輝く、澄んだ水鏡のようだ。そして、その眼の奥に吸い込まれるように、榛名の視界は切り替わった。



―どこかの建物の屋上。


榛名(ここは?空の感じが・・・春のような?うっ!?)


―ズシッ・・・!


―榛名は胸に重い痛みを感じた。どうやら自分は、どこかの建物の屋上に横たわっているらしい。榛名は以前の夢の事を思い出したが、あそこは無機質な塔の上で、冷たい雨が降っていたはずだ。ここは、何かありふれた建物の屋上のようで、頬や腕に春の温かな風が感じられた。


榛名(違う!あの時と。でも何か・・・うっ!)


―ズキッ!


―ここで榛名は、自分の胸に刺さった短刀と、倒れている自分に気付いた。そして、その自分に対するたくさんの視線を感じる。身をよじって視線を移すと、そこには赤い士官服の面長の男と、白い士官服の双子の提督、そして灰色の戦闘服を着た深海の提督らしい男たち、さらに、暗い灰色の艤装服を着た榛名がいた。


赤い士官服の男「榛名よ、恐れることは無いぞ?お前はもうじき、その不純な肉体と魂を失い、完全なる我らが榛名に同化するのだ!永劫不滅の榛名の誕生と共になぁ」ニヤ


榛名「・・・っあ、う・・・!」


暗い色の榛名「ふふ・・・抵抗しないでさっさと消えて下さい、私の姿をしたできもののような何かがいるなんて、気持ち悪くて仕方がありません」フッ


榛名「そっ・・な!」


―榛名は、それが深海化した榛名だとすぐに気付いた。この榛名は何かがとても危険なのだとわかる。


赤い士官服の男「この建物の下では、今頃無能な提督の端くれどもが、その武運の無さゆえに毒ガスでのたうち回っているであろう。もはや艦娘側の提督は無に等しい状態となる。・・・なに、案ずることはない。全てはもうじき、深海の色に・・・むっ!?」


―ドンッ!・・・ゴガッ!ガンッ・・・バラバラ・・・


―ズシッ・・・グラグラ・・・


―砲撃の音!そして、建物が揺れた。


赤い士官服の男「うぬっ?砲撃だと?・・・まさか!・・・卿ら、建物を確認せい!」


―その時だった。


―スタ・・・


榛名(ああ!)


―横たわる榛名の前に、黒いコートの男が着地した。男は振り向くと、榛名を見やる。防弾サングラスをつけているが、それが自分の提督だと、榛名はすぐにわかった。


黒いコートの男「危ないとこだったな、どっかの榛名ちゃん。しかもこんなものを突き刺すなんて、ひどい事をする。・・・力を抜いてくれ」


―おそらく提督としての身分と、榛名との関係を隠す会話だと、榛名はすぐに気付いた。


榛名「は・・・い・・・うっ!」


―ズシュッ・・・


―黒いコートの男は榛名の胸から、禍々しい黒光りする深海の短刀を引き抜いた。冷たく動かなかった榛名の身体に、再度火が灯ったように暖かさが戻り、身体が自由に動かせる。


黒いコートの男「どれどれ、ちょっと手を」スッ


榛名「はい!」スッ


―榛名は、コートの男が差し出した手を握った。


―オオォォォ・・・・シュオオ・・・


―榛名の身体から深海の力らしき黒いもやが沸き上がり、全てが黒い男に吸い込まれていく。


榛名「あっ、大丈夫です。て・・・黒い服の方」ニコ


―黒いコートの男、提督は、おそらく深海側に榛名との関係や立場を隠したいのだと思われ、榛名はそれに合わせた。先ほどまでとは違い、身体から全ての毒が取り除かれたようにすっきりしている。


―そして、ごく短い間に行われた事と、現れた男に、ここで深海側が気付いた。あまりにも自然に、静かに行われたそれが、誰の注意もひかなかったのだ。


榛名(恐ろしい方。本気の時はこんなに静かなんですね・・・)


赤い士官服の男「うぬっ、貴様何者だ!榛名に何をした!?」


提督「通りがかりの者だよ。道に迷ったら女の子が具合悪そうにしていたんで助けただけだな。ところで、どうやら彼女は艦娘らしいが、彼女にこんなもんを突き刺したのは君らかな?確か・・・艦娘に何かを突き刺していいのは、その提督だけだったと思うが」ニヤ


―何かを突き刺す。その冗談の意味に気付いて、榛名はおかしさと複雑な気持ちが込み上げてきた。先ほどまでの恐怖は消えている。


榛名「あっ、私の提督はそういう事をしない方なのです!」


提督「そうかね?しかし君は噂通り大変に魅力的だ。勝手にこんな事する奴らもいるし、今後何かされないように、そんな日も来るかもしれないな」


榛名「えっ!?・・・その時は従います。むしろ・・・」カアッ


赤い士官服の男「貴様は何者かと聞いておる!総員抜刀!こやつ、強者ぞ!」ヂャキッ


提督「あーあ、無粋な奴らだな、こういう美人と話す機会のあまりない男から、貴重な機会を奪ったな?・・・ああどっかの榛名さん、下に金剛型がいたから、仲間なら合流するといい。戦いが見たければ、特等席のチケットは無料だが」フッ


榛名「・・・少しだけ、ここにいても邪魔になりませんか?」ニコ


提督「構わんよ」ニコ


赤い士官服の男「かかれ、戦闘員ども!」


深海戦闘員「イィー!!」


提督「ずいぶん舐められたもんだなぁ・・・」


―抜刀して走り寄る深海の戦闘員たちの前で、提督は静かに立ち上がった。



―そこで場面は切り替わった。どこかの、暗い夜の海。


―榛名は夜の海に立っていた。全身がひどく痛い。


金剛「・・・ああ、榛名、生きていたのね!あの、深海の榛名は?」ヨロ・・・


―視界が極端に悪く、近くの海から現れた金剛は、もう艤装も、艤装服もボロボロの大破状態で、左手で隠された左目は、おそらくひどいつぶれ方をしていると思われた。怒りと共に鬼神のように暴れ、多くの深海棲艦をこの数時間で沈め続けたが、終わりは少しずつ近づいていた。


榛名「・・・あ・・・お姉さま。分かりません。海に消えましたが、まだ仕留めていないと思います。霧島と、比叡姉さまが・・・」


金剛「まだよ!まだ・・・轟沈したと限らないわ。きっと近くにいるはずよ!」


―ここで榛名は、堅洲島のほうを見やった。深海の領域に呑まれ、暗すぎるこの海でも、堅洲島はまだうっすらと明るく、その方向が分かる。そして、いまだに激しい砲撃音と爆音、仲間の艦娘や深海棲艦の叫びが聞こえていた。


榛名「お姉さま、お願いがあります。もう主戦場は堅洲島の要塞近辺に移行しています。この戦いがどうなるにせよ、お姉さまは提督の傍に行ってください。提督はいつもお姉さまの事を気にかけていました。提督がこのまま目覚めないにせよ、お姉さまは最後まで失われてはいけません」


金剛「何を・・・何を言っているのー!」ガッ


―金剛は榛名の肩を掴み、揺さぶった。


金剛「あなたも、提督も、みんなも、戦いに勝つことも、同じく大事なのよ!最後の最後でそんな・・・」


榛名「だから提督の気持ちを優先すべきなんです!」


―ゴンッ・・・ドガーン!


金剛・榛名「!」


―大質量の金属が破壊される音だ。この音が何を意味するか、二人はすぐに理解した。


金剛「また、隔壁が・・・!」


榛名「鎮守府までの装甲隔壁は、あと三つです。もう私たち側もそんなに残っていません。提督と姫と戦艦は守り切らないと!行ってください、お姉さま」


金剛「くっ・・・こんな、あなたを見殺しのようにして行くだなんてっ!」ギュッ


榛名「榛名は大丈夫です」ニコ


―オォォォォオオオォォォォォ


金剛・榛名「!」


―今度は、強力な深海棲艦の気配がした。榛名も金剛も、その気配の主を知っている。深海の、あの禍々しい生体艤装を連れた榛名だ。


榛名「敗れるにせよ、少しでも削り、時間を稼ぐのは一人で十分です。・・・が、必ず倒します。あれはきっと、もう一人の私ですから」


金剛「榛名、無理なお願いなのはわかってる。でも!絶対に沈まないで帰ってきて!あなたが沈んだら、私、提督に近づけなくなっちゃうヨ・・・」


榛名「その時は、気にしないでください。お姉さまや提督が生き延びて、幸せなら、榛名はそれで・・・」ニコ


―そう遠くない闇から、深海榛名の声が聞こえた。


深海榛名「逃げ出すかと思ったら、生意気な・・・!そろそろとどめを刺してあげます!」オオォォォ


榛名「お姉さま、早く!」


金剛「沈まないで、榛名ぁー!」


―金剛は、既に速度の出なくなった艤装で、堅洲島のほうに姿を消した。榛名はそれを見届けると、静かに刀を抜く。


―スラッ


榛名「死返開耶姫、こんな夜まで一緒に戦ってくれてありがとう。敗れるにせよ、勝って力尽きるにせよ、あなたを深海の海に沈めたりはしないと約束します。だからもう少しだけ、榛名の戦いに付き合ってくださいね」ニコ・・


―死返開耶姫は、深海に呑まれたこの海では、清冽な淡い光を宿しているように見えた。


榛名(使える砲はあと二門。弾薬も燃料もあと少し。・・・提督、少しだけ、見守っていてくださいね。力を貸してください)


―榛名は、鎮守府の集中治療室に横たえられている提督の事を思い出していた。かろうじて生きている提督の傍には、戦えなくなった扶桑を残して、みんな最後の戦場に出ている。


―バシャッ、バチャッ・・・オオォォォォォ


深海榛名「いたわね。そろそろ完全に消し去ってやるわ」ニヤ・・・


生体艤装「グルルル・・・・・」


―口元までを隠した黒いインナーに、濃い灰色の艤装服の榛名が姿を現した。その首には淫靡な深紅の首輪がついており、そこから延びる鎖とケーブルは、四肢に四連装の長大な砲を装備した、狼とも狐ともつかない巨大な四足獣型の生体艤装に繋がっている。


榛名「決着をつけましょう!あなたの、長く苦しい戦いの旅に!」ザッ


深海榛名「ほざけ!命乞いをしなさい!ダキニ、消し去ってしまえ!」


生体艤装「グルァァァァァ!!」ゴゴゴゴン


―全ての砲の照準が榛名に向いた。榛名は抜刀し、軽やかに暗い水を蹴った。



―再び、場面が切り替わる。


??「起きなさいよ、死は回避したわ」


榛名「えっ?ここは・・・あなたは?・・・あっ、提督!」


―榛名はここを知っている。以前見た、冷たい雨の降り続ける塔の頂上だ。安らかな死に顔で横たわる提督と、その傍に、色のない綺麗な女が立っていた。


色のない女「冷たい雨ねぇ。忘却が必ずしもこんな物とは限らないのに・・・」パチン


―色のない女が指を鳴らすと、雨は静かな粉雪に変わった。


榛名「あなたは?私、死んだような・・・?」


色のない女「あなたが死ぬのは勝手でしょうけれど、あなた、自分の好きな人がこんな冷たい雨に打たれて埋葬もされず、朽ちる事も無くこのままで、心が痛まないわけ?」


榛名「あっ、いえ、そんな事は決して!・・・提督・・・」グスッ


色のない女「いいかしら?あなたと、この人に訪れたのは、『ある運命の終焉』という形の死に過ぎないの。そしてここは忘却界。ここでは死さえ『忘却』されるのよ。そしてあなたは艦娘。艦娘は永遠性『エターナリィ』を持っているでしょう?さらに言うなら、その人は生き続けて戦い続けるように呪われているわ。死を送れるのはその人が無いと言ってはばからない『愛』だけよ?」


―色のない女は何か大事な事を言っている気がしたが、榛名にはそれが何を意味しているのかよく理解できなかった。


榛名「すいません、何か大事なお話だと思うのですが、理解が・・・」


色のない女「ああ、ごめんなさい。自分の言葉で話し過ぎたわ。簡単な事よ。その人に触れて、少しだけあなた自身を分け与えればいいわ。その後、あなたは補給を受ければいい」


榛名「えっ?そんな簡単な事で?」


色のない女「忘却の世界は曖昧な世界でもあるのよ。一応すべてを終えたあなたたちには報酬が与えられるべきだと思うしね。最適解には程遠いけれど、まあ頑張ったでしょうし」


―榛名は、色のない女の言うとおりにしてみることにした。



―再び、場面が切り替わる。


―トントントン・・・シュンシュン・・・グツグツ・・・


―誰かが料理している音だ。コーヒーの香りもする。


榛名(あ・・・ここは?)


―部屋は暗いが、雨戸の隙間からこぼれる光は、夏のような気がした。そして、障子の隙間から音のした方をそっと見ると、そこは台所で、トランクス一つに古傷だらけの背中の男が料理をしていた。


榛名(あれ?)


―男の背中には、うっすら赤いひっかき傷のような跡がある。


榛名(あっ・・・!)ゴソゴソ


―榛名は自分が、裸に帯のない浴衣だと気付いた。布団の横を見ると・・・。


榛名(!!)


―脱ぎ捨てられた感じのある、黒い下着が置いてある。もう一人の自分のものだ。


榛名(あっ、そうだ、昨夜は私、たぶん〇〇〇さんと・・・)チラ


―榛名はここで、自分がその男を『提督』と呼んでいない事に気付いた。


榛名(昨夜、またあの子が顔を出したのね・・・)カアッ


提督だった男「ああ、起きたのか?コーヒー、淹れ直そうか?今日も暑そうだから、微妙な所ではあるが」クルッ


―傷だらけの逞しい体には、所々にキスマークがある。もう一人の自分がつけたものだ!榛名は全て思い出した。


榛名(あああ・・・・!!)


―昨夜何があったのか、わかった。しかし、どうにもぼんやりしているようで、この提督だった男の名前も、昨夜の詳細も、今ひとつはっきりとは思い出せない気がした。厳密には、それは自分の記憶ではない部分があるからだ。


榛名「あの、提督、榛名がやります!」


―すると、提督だった男は驚いた顔をして笑った。


提督だった男「提督だなんて、ずいぶん懐かしい呼び方をするものだな!・・・さては榛名、まだ寝ぼけているな?疲れているならまだ寝ていればいい。ここに時間は有ってないようなものだ」ニコ


榛名「あの、ゆうべ・・・」


提督だった男「ん?そんなに呑んでたか?そう酔っぱらっているようには見えなかったが」


―チラ


―隣の部屋の座卓には、ほぼ食べ終えられたつまみの皿と、バーボンの瓶、グラスがあるが、そんなに呑んだような形跡はない。


提督だった男「・・・あっちの榛名がちょっと顔を出しただけだ。問題ない」


榛名「あの・・・いつものように?」


提督だった男「・・・鎮めたよ。よくわからない理屈だが、榛名自身は綺麗なままだ」


榛名「変な感じです。身体と心が二つあるって。でもだいぶ、もう一人の時の事を思い出せるようになってきました」


提督だった男「わかるよ。あっちの榛名も最初の頃よりはだいぶ大人しい。ちょっと癖のある良い女、という範疇には収まってきている気がするな」


榛名「何か言っていましたか?」


提督だった男「今は幸せだ、と言っていたよ。あと、榛名が本当は色々気にしていると言っていた」


榛名「いろいろ?」


提督だった男「他の子との関係について、だそうだ。そうなのかい?」


榛名「もうずっと昔の事にはなりますけれど、実際のところはどうだったのかな?とか、気にはなります。でも、まだ何も終わっていないような気がするので・・・」


提督だった男「そうだな、まだ終わりとは考えられない。聞きたいなら話すが・・・」


榛名「いえ。まだしばらく様子を見てからで」


提督だった男「そうか。わかった」


―ここで、ふと全てがぼやけた。それこそ夢のようにだ。そして声が聞こえた。


榛名の声「今あなたが見ているのは、一本に繋がった未来ではありません。現時点で通りそうな、おそらくは通った、幾つかの未来を見ています。なので、矛盾が生じています」


榛名「矛盾?」


榛名の声「邪悪な榛名が消えた世界と、それを取り込んだ世界が存在していたでしょう?」


榛名「そういう事なのですね」


榛名の声「しかしあなたは、その力ゆえに、提督と共に隔絶された島に閉じ込められてしまいます。時の流れが曖昧な島に・・・」


榛名「なぜ、そんな事に?」


榛名の声「全ての力は相克・相生の関係にあり、バランスを保っています。深海も艦娘も消えた世界に、あなたと提督だけを存在させるのは危険な事だったからです。強大で、敵の存在しない力は世界を歪ませますから」


榛名「私は構いません。でも、提督は?」


榛名の声「その場合、長い長い年月の末に、生きることに倦んだ提督を、あなたが送り、あなたも消えることになります」


―榛名はその恐ろしい意味に気付いた。


榛名「・・・私が、提督を?」


榛名の声「その人を死なせることができるのは、その人と相愛になった女だけなのです。そういう属性の方なのです」


榛名「そんな!」


榛名の声「でも、その人は『人の心には愛が無い』と考えています。そして、戦いが終わった事を認めていません。なので・・・」


榛名「・・・死ねないのですね?それは、どれくらいの期間ですか?」


榛名の声「・・・未来の最後はそれをお見せしましょう」


―再び、場面が切り替わった。



―榛名と、提督だった男は夕暮れの砂浜にいた。


―シュバッ・・・キンッ・・・ヒュンッ・・・


榛名「ああ、まだ届かない・・・っ!」シュン


提督だった男「いや、そろそろだと思うぞ?」キン


―二人は、殺し合いにしか見えないような激しい斬り合いをし、この日のそれを終えた。榛名の身体には傷一つないが、提督だった男の身体には、無数の小さな刀傷がある。しかし、この場所から二人の住む家まで歩く間に、その傷は閉じてしまうのだ。


提督だった男「この波と風・・・今夜は遅くから嵐になりそうだな。戸締りをして、さっさと家に入ろう」


―ザアッ・・・ビュオオオォォォ


―まだ空には雲一つないが、遥か彼方の海に激しい嵐が生まれており、やがてそれがここに来るのは、榛名も経験で知っていた。


榛名「〇〇〇さん、空を見ると、もう私たちの知っている星座は一つもないんですね・・・みんな形が変わってしまって。本当に『星辰の位置が変わる』くらい、長い時間が経ったのですね・・・」


提督だった男「そうだな・・・」


榛名「・・・ずっと、榛名一人で飽きたりしませんか?」


提督だった男「今日は少し、意地悪だな?」フッ


―気の遠くなるような長い年月を経ても、この男はまだ、艦娘部分の榛名とは一緒に眠るだけだ。その一方で、時に入れ替わる深海の榛名とは、かなり深い関係にある事を、榛名はぼんやりと知っていた。最初はおぼろげだったその時間の事も、次第に鮮明に思い出せるようになってきていた。


榛名「私も、提督も、そして深海の榛名も、きっとここに居なくてはならない存在なのでしょうね・・・」


提督だった男「もともと、提督にならなければこんな感じで朽ち果てていくつもりだった。だがずいぶん、豊かな結末になったな」


榛名「豊か、ですか?」


提督だった男「ああ。おれが望む生き方も、時間も、全てここにある。・・・本当は分かっているよ。きっとこれは最良の結末ではないと。でも、最良でなかったとしてもそう悪くはない気がするんだ」


榛名「戦いは、もう終わりでしょうか?」


提督だった男「・・・おそらくは。あまりに長い時間が流れたし、おれたちが関われる人の世界はみんなあの時代のまま。そして、どうやら深海も艦娘も、ゲームの中にしかいないような感じだ。人々のイメージの中の世界にしか、な」


榛名「ドラゴンや神様みたいに、私たちも深海も、堅洲島と繋がるあの世界に閉じ込められたのかもしれませんね」


提督だった男「ああ。戦いはとっくに終わっていたんだろうな」


榛名「提督は意志が固いですけれど、言い方を変えれば頑なですもんね」ニコ


提督だった男「いや、榛名もなかなか・・・」


榛名「艦娘は提督の影響を受けるんです。きっと提督のせいですよー」


提督だった男「だが、皆がどうなったかは気になるな」


榛名「一番不幸なはずの榛名が幸せなんです。だからきっとみんなも・・・」


―榛名はそれ以上言えなかった。艦娘にとって、提督と離れ離れになる以上の不幸は無い。気の遠くなるような長い年月の過ぎた今でさえ、榛名はとても幸せに生きている。だが、提督を失ったはずのみんなはどうだろうか?


提督だった男「やっぱりさ、別の答えがあったような気がして仕方ない」


榛名「そう、ですよね・・・」


―提督だった男は、風に揺らめく無数の星々を見上げていた。泣いているのかもしれなかった。しかし、付き合いの長い榛名は、そこで気を使う事はしなかった。


榛名「全てを終わりにしたいのなら、斬り合えと言われればそうしますよ?一緒に旅立てるみたいですし、また出会うのでしょうし。・・・ただ」


―提督だった男は何も答えないが、榛名は構わずに続けた。


榛名「私、深海の榛名を取り込んだせいか、それとも誰かさんに着任したせいか、少し性格が悪くなったかもです。榛名の心の動きは十分に楽しんだと思いますし、今のままでは、もう一人の自分に焦がれてとても全てを終えられそうにありませんね」ニコ


提督だった男「榛名は優しいよな。知っていてずっと付き合ってくれていた」


榛名「そういう嗜好なんですよね。身体の繋がりが色々とぼやかすのが嫌いで、心だけでどこまで繋がれるか・・・という。責めはしませんよ?提督がどうしてそうなったのか、みんな知っていますから。それに・・・」


―榛名はおどけたように、歩きながらくるりと回った。


榛名「ずっとそうやって、微かに身を焦がして生きるの、とても楽しいです。ゆるやかに調教されたのかもしれませんね」ニコ


提督だった男「長い時間をずっと新鮮に過ごすことができたと?」


榛名「提督もそうでしょう?知っていますよ?深海の榛名が満足して消えた後、私の浴衣がはだけて寝ているのに、髪や頬にしか触れないのを。私を・・・榛名をとても綺麗で大事なものと考えていて、自分の手でさえ汚したくないんですよね。・・・遠い昔は、私たちに『深海化の危険がある』なんて筋の通った理由をつけてまで」


提督だった男「はは・・・参ったな。言うねぇ」


榛名「あなたの艦娘ですからね。でも・・・全てを終わりにしたいなら、『艦娘』ではなく『女』にしない事には・・・」


提督だった男「うん、もうしばらくこのままでいいや」


榛名「ええ!?」


提督だった男「やっと、艦娘ではなく一人の女になったな」


榛名「あっ!それも考えていたんですか?」


提督だった男「まぁな。艦娘はある程度無条件で提督を気に入りやすい。それから離れた榛名を見たかった。とても楽しいもんだな」


榛名「ずるいですよ!深海の榛名とばかり色々な事をして!等身大のお人形さんみたいな扱いはもうやめて下さい。女の子がそんなにきれいなものじゃないのは、提督は十分に知っているでしょう?」


提督だった男「ああ、そんな事を怒って言う榛名、最高だな。長い時間がかかったけど、これほど有意義な時間の使い方も無いな」


榛名「・・・こんなに時間の流れた今でも、榛名といるのは楽しいですか?」


提督だった男「ああ。楽しいよ」フッ


榛名「私もです」ニコ


―それからさらに、気の遠くなるような時間が流れていくようだった。再び、榛名の声がする。


榛名の声「これらの結末と未来は、既に選択されたものです。あなたにとっては悪い結末ではなくても・・・」


榛名「自分だけ幸せになるような結末は、榛名は受け入れられません。あの未来の提督と私の眼には、諦めがありましたよね?それに・・・あの提督はどこか、今の榛名の提督より弱いというか・・・」


榛名の声「気付いていましたか・・・。あれらの提督は、今あなたが着任している最後の提督とは、似て異なるものです」


榛名「似て異なるもの?」


榛名の声「今度は、過去をお見せしましょう」


―再び、榛名の視界は眩しい光に包まれ、切り替わった。




第八十話、艦



次回予告



引き続き、夢という形で過去を見る榛名。


榛名はそこで、遠い神話の時代より過去の出来事と、堅洲島の遥か昔、そして自分たちが現れた頃に起きたであろう事件を目撃する。



次回、『榛名の夢・後編』乞う、ご期待!



深海榛名『ふふ、長い時間ずっと提督と一緒にいるのに、一度も抱かれないなんてかわいそうね・・・。あの提督は私のもの・・・』


榛名『それ本気で言ってますか?』


深海榛名『本当は放置プレイ、羨ましいわ・・・』


榛名『プレイとかじゃないです!ちゃんと読んでますか?』


深海榛名『自分自身にNTRとか、たまらない・・・』


榛名『・・・価値観の違いって怖いですね』


金剛『じれったい!私がいたら絶対にやらしい雰囲気にするのに!』


比叡『あっ、私も協力します』


霧島『私も計算しつくして協力しますよー!』


榛名『そういう話じゃなかったでしょう!?』



後書き

お陰様で執筆も4年目、八十話に来ました。

まだまだ序盤なのですが、ずっと楽しく書けているのも、応援したり読んでくださる皆さんのお陰です。

どうやらとても壮大な何かを秘めたこの物語が、長く、いつか真の結末迄まで書き続けられますように。


このSSへの評価

7件評価されています


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2019-02-11 13:47:51

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2019-02-11 12:49:45

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このSSへのコメント

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1: SS好きの名無しさん 2019-02-01 02:12:39 ID: S:KadZPE

行幸

2: SS好きの名無しさん 2019-02-01 06:43:27 ID: S:wHPMWs

更新ありがとうございますm(_ _)m

3: カズXZP 2019-02-02 22:37:56 ID: S:rGKapI

また続きも待ってます(´∀`*)

4: SS好きの名無しさん 2019-02-04 12:55:59 ID: S:tQ3bw_

更新待ってたよ!!
長編で、しかも結構バトルが良い感じで大好物な自分には、とても重宝ですからねぇ~(^_^)v
次回作も、楽しみにしているので在ります(*゚∀゚)ゞ

5: ㈱提督製造所 2019-02-04 18:31:42 ID: S:P2prFo

榛名がピッコロ大魔王みたいになっちゃってるデース!

・・・アレ?て事は、最後はピッコロと神様が合体して「名も無きナメック星人(便宜上ピッコロで通してるけど)」になったみたいに、榛名も・・・?

イヤイヤ、まさかネー!

6: SS好きの名無しさん 2019-02-06 00:11:58 ID: S:UNPuLJ

更新ありがたやありがたや
入渠のくだりとかの設定はかなり考え込まれていて深いですねぇ!

7: SS好きの名無しさん 2019-02-07 23:41:03 ID: S:dcmDb0

深海戦闘員「イィー!!」
ってショッカーかよww

黒い榛名の生体艤装のダキニは荼枳尼天から取っているんでしょうか?
ダキニの姿が狐に似ているという記述からそう思ったのですが・・・

もしかして、この物語では今回は榛名にスポットライトが当たっているだけであって別の世界線(?)では叢雲、陸奥、吹雪などを始めとした他の艦娘達も数多くの同じ様な“終わり方”を迎えているんでしょうか?

8: 堅洲 2019-02-09 10:31:39 ID: S:zRO2n_

1さん、コメントありがとうございます!

もしかして、僥倖と書いてくださったんでしょうか?
お陰様で、この長ーい物語も八十話です。

まだまだ続きますので、お楽しみに!

9: 堅洲 2019-02-09 10:33:43 ID: S:Ouqafr

2さん、コメントありがとうございます!

長くて全体像のまだ見えない話だと思いますが、コメントくださる皆さんがいて、お陰様で八十話です。

まだまだまだ、続きますので、楽しんでくださったら幸いです。

10: 堅洲 2019-02-09 10:48:39 ID: S:wVYvUq

カズXZP さん、コメントありがとうございます!

ありがとうございます!榛名はどうやら敵側にも強力な榛名がいたりと、重要な話の多い子なので、次回もスポットが当たっています。

しかし、普通は見られない過去や未来のシーンで、この話の背景がちらちらと見えるエピソードでもあります。

次回もお楽しみに!

11: 堅洲 2019-02-09 11:54:20 ID: S:hFlayS

4さん、コメントありがとうございます!

バトルがいい感じと言われるのはとても嬉しいです。
実は昔から戦闘描写を書くのがとても好きで、この物語でも、ストーリー上の重要な戦闘シーンの流れを練るのがとても楽しかったりします。

今回ちらりと出てきた、榛名と深海の榛名の決戦など、書きたいシーンが沢山あるのですが、まだまだ先になりそうです。

ああ、書かねば・・・

12: 堅洲 2019-02-09 11:57:34 ID: S:cDbFtQ

㈱提督製造所 さん、コメントありがとうございます。

今回の話でも出ていますが、ルートによっては榛名と、深海の榛名は、まさにピッコロ大魔王みたいな経過をたどる事もあります。

それにしても、艦娘の榛名さんとプラトニックな関係でいながら、深海の榛名とはドスケベぇな時間を過ごすって、このルートの提督はなかなかうらやまけしからんですよね。

榛名好きな人にはこんないい未来も無いような?

13: 堅洲 2019-02-09 12:08:39 ID: S:eK94rT

6さん、コメントありがとうございます。

二次創作とはいえ面白い話づくりには、見えないところで説得力のある設定が大事かなー?と考え、わりと細かく練っています。

でも何より、良い意味でガバガバな艦これの情報量の少なさが有難いですね。冗談みたいな設定も、ハードで壮大な設定も思うまま。

懐が広いコンテンツですよね。

14: 堅洲 2019-02-09 12:22:58 ID: S:ZD9H8w

7さん、コメントありがとうございます。

シリアスなシーンにもちょろっとしたお笑いを!と思っているのですが、まんまショッカーですねぇ。

荼枳尼天の指摘ですが、鋭い!これは当たりです。深海榛名のモチーフは荼枳尼天の暗黒面です。なので名前が「ダキニ」なんですよね。

さらに、これも鋭い洞察だなと思うのですが、今回の榛名の話は、榛名にスポットが当たっているだけで、既に以前の陽炎のエラーメモリーで、今回の話とは違った陽炎との結末が語られているあたり、おそらく他の艦娘との様々な結末が出てくる可能性がありますねー。

そして、それらはみんな真の結末ではないように見えます。

はたしてこの物語はどこへ向かっているのでしょうか?


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