2019-03-21 21:58:48 更新

概要

殲滅艦の息抜きに、提督のちょっとシリアスなお話。出雲は出てきません。そして提督はカッコいいままです。
これから少しグロテスクな描写が出てきます。苦手な方は御注意下さい。





「…………」ゴポッ



 ……ここは、どこだ?



 体がどんどん沈んでいる。……水の中、か?



「…………」



 苦しくない……けど、声が出ない。体も動かない。目は……見える。でも、動かせない。しかも暗い。



 ……何もわからない。



『…………けて……』



 ……?



 どこからか、声が聞こえる。下からか、上からか、あるいは横からか。



『……すけ…………て……』


 

 所々声が掠れていて、何を言っているのかよくわからない。けど、それは何かにすがるような、そんな悲しみに溢れていて……。



 とてもじゃないが、聞いちゃいられない。



「…………ぅ」



 未だ沈み続ける中、俺は微動だにしない右腕を、力ずくで振り上げる。全身に得体の知れない力が掛かっていて、少しでも力を緩めれば押し戻されてしまいそうだ。



 でも、それでもーー。



『…………たす、けて』



 この声を、どうしても無視できない。



「ぐ…………ぉ……」



 どこから聞こえるかもわからないその声に、俺は手を差し伸べる。



 姿の見えない君の手を、俺は握れない。だから、掴んでくれ。



『……あ…………』



 深海のような暗闇の中、ふいに目の前に光が現れた。



 そしてそれは、俺を包むように徐々に大きく広がってーーーー。





       *     *     *





提督「ーーーーは、」



 ……気が付くと、ベッドの上にいた。見上げると、そこには見慣れた天井がある。



提督「……夢、か…………」



 フー……と深く息を吐き、目を閉じて腕を額に当てる。夢を見るなんて久し振りだが……妙にリアルな夢だった。あの声の主は、一体誰だったのか。



 ……それはともかく、おかげで身体中汗びっしょりだ。風邪を引く前に、早く着替えを済まさねば。



提督「……ん?」



 ベッドから立ち上がり、部屋を見回した直後……違和感を覚えた。



提督「……俺の部屋じゃ、ない……?」



 ここはまるで、物置部屋のような場所だった。



 部屋の隅に置いてあるいつものクローゼットはなく、机や本棚、果てはカーテンすら存在しない。



 それに今気付いたが、ベッドには布団も枕もなかった。俺はそんな状態で寝ていたのか。



提督「……卯月らへんのドッキリか? いや、でも流石にここまでするとは考えにくいし……」



 異常な光景に停止した頭をフル回転させて、状況を把握しようと試みる。



提督「……取り敢えず、一旦外に出てみよう。何か分かるかもしれない」



 ひとまずそう決心すると、汗に濡れた服もそのままに扉へと向かう。ギシギシと床が鳴っているが……俺の部屋ならこんなことはなかった。本当にここは俺の部屋ではないらしい。



『…………』ヒソヒソ



『…………』ヒソヒソ



提督「……む」



 扉の前につくと、何やら話し声が聞こえた。……さては明石が空間物質転送装置でも作ってやらかしたな?



 前例がありすぎて困る。何か起きたらまず明石。これはもう俺の中での常識だ。



提督「全く……その技術を他に活かしてくれればいいものを……」



 嘆息しつつ、扉のノブに手を掛ける。そして、頭をガシガシと掻きながら、軋む扉を開けた。



提督「おい明石、勝手に俺で実験するなと言っているだろう。全く、何度言えばお前は……」



 そこまで言って、目の前にいるであろう明石に目を向ける。……が、そこにいるのは明石などではなく。



睦月「……!?」



如月「……っ!」



 先月【改二になった】筈の睦月と如月が、俺の姿に驚いたように目を見開いて、そこに佇んでいた。



提督「……は?」



 またしても、一瞬思考が停止した。それに、その反応は何だ。



提督「何で、お前達……改二じゃないんだ…………?」



 事態の異変に気付き、俺は屈んで睦月達と目線を合わせる。



睦月「……ぁっ……ぅ……!」ビクビク



如月「…………っ」フルフル



提督「……?」



 ……何だ? 何でこんなに怯えてる?



 というか、二人共、小破のままだ。入渠はまだしていないのか?



提督「なぁ、睦月……」スッ



睦月「ひっ!!」



如月「……っ!!」



 睦月を宥めようと手を差し伸べると、睦月が過剰に反応し、逃げるように後ずさる。その次の瞬間、俺の頭の横で何かガチャリと重たい音が鳴った。



如月「睦月ちゃんに、近づかないで……っ!!」



提督「!?」



 見ると、如月が艤装を展開し、手に持った単装砲で俺の頭に照準を合わせていた。



提督「き、如月……?」



如月「早く、離れて……! いくら駆逐艦の砲撃でも、人の頭くらいなら簡単にっ……!」



 そう言って、如月は砲口を俺に向け続ける。しかし、その手はふるふると震え、瞳は涙で潤んでいる。



 ……俺の知っている如月はこんなことはしない。



提督「……わかった。すまない、今離れる。だから如月も砲塔を下ろしてくれ」



 如月の訴えに、大人しく身を引く。しかし、如月は俺から照準を下ろしてはくれない。



 間違いなく警戒されている。一体何故……?



 如月達が豹変した理由が分からず、頭はあくまで冷静に、俺はただただ混乱してしまう。……が、その直後、如月が放った一言で、その冷静さはいとも容易く打ち砕かれた。

















如月「……貴方は誰……? 何で、こんなところにいたの……?」

















提督「…………」



 ……言葉が出ない。



提督「きさ、らぎ……?」



如月「答えてっ! ……貴方は誰なの? ……ここで何をしていたの?」



 覚えていない……いや、忘れているのか? 昨日の今日で?



 ……待て、少し頭の中を整理しよう。取り敢えず冷静になれ。



 まず、如月と、おそらく睦月もだが、俺のことを覚えていない……というより、知らない、と言った方がいいか。



 この目を見る限り、冗談で言っているようには見えない。そもそも、如月は冗談でこんなことを言うような娘じゃない。睦月もそうだ。あれは、本気で何かに怯えている目だ。



 それに、改二の件もおかしい。レベルアップはできても、レベルダウンなんてことはできない筈だ。する意味もない。



 ……レベル…………錬度、か。



提督「……すまない、君達の錬度は今いくつだ?」



如月「……? それがどうーー」



提督「いいから。教えてくれ」



如月「っ…………17……」



提督「……なるほど、わかった。ありがとう」



 ……あぁ、これで確信した。



 それだけ聞くと、俺は立ち上がり、二人の横を通り過ぎて廊下の奥へと進もうとしたーーその時。



長門「何者だ貴様ぁっ!!」



提督「っ!?」



 突然、正面から尋常じゃない速さの拳が飛んできた。



 俺は咄嗟に体を横に避けギリギリで回避するが、不意を突かれたこともあり、拳は頬を掠め、頭の横を突き抜けた。いきなりの出来事に体のバランスが崩れそうになるも、すぐさま体勢を立て直し、次に来るであろう追撃に備える。



 しかし、追撃が来ることはなかった。



長門「大丈夫か!?」



 俺に殴りかかってきた張本人である長門は、睦月と如月に詰め寄り、二人の安否を確認している。



提督「この様子だと、長門もか……!」



 見ると、長門も改造を受けていない。長門は、うちで最古参の艦娘の一人だ。そんな奴を改二へと改造した日のことを、俺が忘れるはずがない。



 ……ここにいては駄目だ。とにかく、今は艦娘と顔を合わせない方がいい。



 俺は身を翻し、急いで廊下の奥へと足を運ぶ。



長門「! おい、待てっ!!」ダッ



 後ろを振り返ると、こちらの動きに気付いた長門が走って追いかけてくるのが見えた。それも、向ける相手を間違えていると言いたくなるほどの殺気の籠った目をこちらに向けて。



提督「くっ……! 今、捕まるわけにはいかないっ……!」



 捕まれば、確実に殺される。例え殺されなくとも、拷問レベルの拘束を受けるに違いない。あの目は、そういう目だ。



 早く、ここから離れなければ。





       *     *     *





提督「はぁ……はぁ…………ふぅ。……よし、撒いたみたいだな」



 あれからかれこれ5分程度、俺は全速力で鎮守府内を走り回った。どうやら後を付いてきてはいないようだが……長門が低速艦で助かった。



 とはいえ、まだ追ってきている可能性もない訳じゃない。一刻も早く、この事態に収拾をつけなければ。



提督「……ん?」



 頬を垂れる汗を腕で拭ったその時、どこかで声が聞こえた。しかもそれは、最近になって聞いた覚えのある声だ。



提督「何だ……?」



 俺は耳を澄ませ、声の出所を探る。するとその声は、廊下の更に奥から聞こえてきていた。



 俺は息を潜め、側の階段に空いた空間の壁の陰に身を隠す。しかし、声が一向に大きくならない以上、近づいてきている訳ではなさそうだ。



提督「……艦娘だろうな。他に人間がいるとは思えん」



 ……行くか。顔を合わせずとも、覗くくらいなら大丈夫なはずだ。



 意を決して、その声を辿るようにゆっくりと歩き出す。すると、だんだん声の発信源に近づくにつれて、声の重なりが大きくなっていく。



 それも、話し声ではない。呻き声のような、何か……。



提督「…………」



 ……嫌な予感がする。



提督「……ここからか」



 辿り着いたその先、そこには真っ白な両開きの大きな扉があった。扉には装飾が一切施されておらず、ただ金属製の取っ手が付いているだけの簡単な作りだ。



 ……にも関わらず、ここから滲み出る得体の知れない圧迫感は、一体何なのだろうか。



提督「鍵は掛かっていない……か」



 知れず、ごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。



 腕を伸ばし、取っ手を握る。掴んだ取っ手を捻り、手前に引くと、キィィィ……と音を鳴らして、扉がゆっくりと開かれていく。



 ……この時、一瞬でも俺がこの扉を開けることを躊躇していれば、どれだけ良かったかわからない。



 少なくとも、こんな惨状を目の当たりにする事は、なかったのだから。



提督「ぅぐっ……!?」



 まず初めに飛び込んできたのは、耐え難い程の異臭だった。



 だが俺は、この臭いを知っている。軍人なら、誰もが既知であるこの臭い。



提督「これはっ……!!」



 ……それは、紛れもなく血の臭いだった。それも、かなりの密度でこの部屋に充満している。



 背筋に戦慄を覚え、俺は手で口元を塞ぎながら、部屋の中に足を踏み入れる。中は電気がついておらず、見渡す限り暗闇で先が見えない。この部屋がどれだけ広いのかはわからないが、それなりに大きな部屋だということはわかった。



 それは何故か。……ここに来る前から聞こえていたあの唸り声が、今なお木霊するように部屋中に響いているから。



提督「っ…………!」



 ふと、廊下から洩れる光の先に、何か床に置かれていることに気付いた。



 薄暗さゆえに、最初はそれが何なのかわからなかった。しかし段々と目が暗闇に慣れていくと、徐々にその輪郭が明確になってくる。……そして、見たことを後悔した。



 ーー床に転がっていたそれは、二の腕半ばで千切れた人間の腕だった。




提督「ーー!!」



 動悸が疾り、心臓が堰を切ったように脈打つ。息を荒げるどころか呼吸さえも忘れて、俺はただ立ち尽す。



提督「…………」



 次の瞬間、俺は無意識に顔を上げていた。見ない方がいいと、顔を上げるなと、本能が訴えてくるのが嫌でもわかる。だが、もう遅い。



 ーー今度こそ、息が、止まった。



提督「ーーーー」



 部屋の中は、傷を負った艦娘達で溢れ返っていた。



 床に寝ている者、壁に寄り掛かっている者。見渡す限りその全員が、体のどこかしらが包帯で巻かれている。そしてその包帯からは、必ずと言っていいほど血が滲んでいた。



 中には、体の一部を欠損している者までいる。おそらく、処置の仕方がわからなかったのだろう。欠損した箇所は無造作に包帯が巻かれているだけで、応急処置などはとられていない。これがもしも人間なら、傷口から腐食が始まり、命を落としていてもおかしくないくらいだ。



提督「な……んだ……これ、は…………」



 惨状を目にして、やっとの思いで開いた口から出た言葉は、語彙力の欠片もない陳腐なものだった。しかし、たったそれだけの言葉で、この事態を形容するには事足りる。



提督「……ッ!?」



 ふいに、右の大腿から伝わった謎の振動が、手放す寸前だった意識を強引に現実へと引き戻させた。



 慌ててポケットの中を漁ると、身に覚えの無い交信機のようなものが入っていた。そしてそれは、今なお振動を続けている。



 恐る恐る交信を示すマークの入ったボタンを押し、それに耳を傾けるとーー。



明石『あー、あー、……はいはい、提督ですか? すみません、聞こえます?』



提督「っ…………明石っ……!」



 そこから聞こえてきたのは、明石の声だった。



明石『あ、良かった繋がった。もー、さっきから結構かけてたんですけど、一向に出てくれないから焦りましたよ! もしかして壊れちゃったのかなー、なんてーー』



提督「明石」



 能天気な明石の声を遮り、静かに奴の名前を呼ぶ。いつもは聞いていて明るい気持ちになる明石の声が、今はいやに煩い。



提督「……答えろ。これはお前の仕業だな? ここはどこだ? 一体ここで何が起きてる?」



明石『ちょっ、そんないきなり捲し立てられても! 一個ずつ説明しますから、少し落ち着いてください』



提督「……わかった」



 正直、とても落ち着いていられる心境ではないが、無理やり負の感情やら困惑やら怒りやらを押し込んで、明石の説明を聞き入ることにする。



明石『えっとですね、まず始めにそこがご自身の鎮守府でないことはわかっていますよね?』



提督「あぁ」



 長門に追われ、鎮守府内を走り回っていた時、周りの景色に違和感を覚えた。それは、ここの部屋の数だ。



提督(俺の鎮守府には、あそこまで扉の数はない。それに、扉の上にあるネームプレート……艦種も何もかもバラバラだった。あんな組み合わせにした覚えはない)



明石『あ、流石です。とはいっても、私からはそこの座標しかわからないので何とも言えないんですが……提督がそんな取り乱すなんて、一体そこはどうなってるんですか?』



提督「……惨状だ」



明石『え?』



 聞こえづらかったのか、明石が聞き返してくる。それが、やけにもどかしい。



提督「……俺が今いる部屋は、重傷の艦娘たちが大勢寝かされている。ここに来るまでの道中、廊下を歩いている艦娘にも何人か遭遇したが、入渠はできていないようだった。おそらく、入渠設備が死んでいるんだろう。」



 なるべく簡潔に、そのままの状況を説明する。わざわざ事を大きくして伝える必要はないだろう。



明石『…………』



 交信機から明石の声が途絶え、一瞬もの間静寂が訪れる。こちらの状況を察知して、明石も言葉を失っているのだろうか。



 ……しかし、次に返ってきたのは、俺の予想を裏切る言葉だった。



明石『……やはり、そうでしたか』



提督「!?」



 知っていたといわんばかりの明石の返答に、思わず目を見開く。



 それを言及するよりも先に、明石は続ける。



明石『先月、ある鎮守府の提督が、そこに所属している艦娘に対する過剰な暴力行為、抑圧行為で逮捕され、強制解雇されたという話を覚えていますか?』



提督「……あぁ」



 思い出すのも腹立たしい。過剰なまでの出撃、遠征は日常で、疲弊して使い物にならなくなったら即解体。少しでも反抗しようものなら暴力を振るい、恐怖を植え付け従わせる。艦娘をモノとして扱う、クズと呼んでも差し支えない男だった。



提督「……まさか、ここがその鎮守府だというのか?」



明石『はい。座標を確認したときに、妙に最近見覚えのある場所だなと思って調べてみたんですが……まさしくドンピシャでした。そこの提督がクビになってから、特に後任が就くこともなく、事後処置もされていなかったので、艦娘はそこに放置されていたみたいですね……。まさか、そんな事態になっているとは思いませんでした』



提督「……」











後書き

のんびりと書いていきます。


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2019-03-21 23:07:16

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2019-03-10 21:59:29

謎提督さんから
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このSSへのコメント

5件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2019-02-24 21:06:04 ID: S:y3OhFR

お、いい振りやん。期待してる。

2: SS好きの名無しさん 2019-02-24 23:25:46 ID: S:00lu5b

応援してるで

3: SS好きの名無しさん 2019-02-27 15:47:15 ID: S:cr-byV

こーゆーのめちゃ好きやねん
待っとるで
一応沖縄の人です

4: SS好きの名無しさん 2019-02-28 19:51:57 ID: S:CS6FQb

ええやん、おもろいやん

5: SS好きの名無しさん 2019-03-02 23:29:38 ID: S:FTpTML

期待


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