2019-04-14 19:13:59 更新

概要

給仕のために赴いた自称指揮官とエリザベスに仕えるウォースパイトの奇妙な関係の物語。


「陛下を寝室へ連れて行ったわ・・・ふぅ~。」


ロイヤル戦艦のウォースパイト、陛下の側で常に仕え陛下が起床から就寝まで仕えるのが彼女の役割だ。


「明日も早い、寮舎に戻って私も就寝するとしよう。」


そう言って、彼女は寮舎へと向かう。



「ちょっと、あなたは誰?」


真っ先に彼女の目に止まったのは、


「オレ? 今日からこの拠点の給仕をする事になった者だ、よろしく。」


1人の人間が寮舎でくつろいでいる光景。


「こんな遅くにここで何をしているの?」


「何をしているのかって? ここで休憩をしているんだけど?」


給仕は何の躊躇いも無く答える、


「ここは艦船専用の寮舎・・・人間のあなたがここで休む場所ではないわ。」


彼女は出て行くように促すも、


「いや、メイドのベルさんからこの寮舎に入ることを許可されたんだけど?」


「メイドのベルさん? ああ、ベルファストの事か。」


彼女は納得するも、


「いや、そうじゃなくて・・・ここは女性専用の寮舎よ! 男性は進入禁止と言いたいんだけど!」


彼女は口調を荒げる。


「あ、そう。 別に君の着替えを見たいとかそう言うわけじゃないから、気にしないでくれ。」


そう言って、給仕は再びくつろぎ始める。


「今すぐ出て行かないなら・・・高角砲の的にでもしようかしら?」


彼女が副砲を構えて、


「お~怖っ! でも、ベルさんがいいって言ってるし。」


給仕が説明している所へ、


「ウォースパイト様、副砲を下ろして下さい。」


ベルファストが2人の間に入る。


「ベルファスト! 一体どう言う事? 女性専用の寮舎にこの給仕を通すなんて!」


彼女は怒り心頭だ。


「申し訳ありません、ただいまどこの部屋も混み合っておりまして・・・それで、急遽給仕様にこの寮舎を


 案内したのでございます!」


ベルファストによると、どの部屋もいっぱいで給仕に設ける部屋が無く、止むなくこの寮舎の入室を許可したようだ。


「期間は3ヵ月、せめてこの期間だけは給仕様の入室をお許しください。」


ベルファストの必死の願いに、


「わ、分かったわ! でも、変な真似をしたら許さないわよ! それに給仕なんだから、身分は最下層。


 それは分かっているわよね?」


ウォースパイトの言葉に、


「ああ、それは当然知ってる。」


給仕はきっぱりと答える。



・・・この日から、給仕とウォースパイトの奇妙な生活が始まる。


・・・・・・


「ふぅ~、陛下を無事寝室までお送りしたわ。」


疲れているのか、彼女は肩を押さえる。


「肩が凝ったわね・・・誰かに頼んで、マッサージでもして貰おうかしら。」


そう思うが、時計を見ると、


「今の時間は23時・・・皆はもう寝ている時間ね。」


就寝時間はとっくに過ぎている、これでは頼もうにも頼めない。


「仕方がない、明日も早いしすぐに戻って体を休ませよう!」


そう言って、彼女は寮舎に戻って行く。


「おかえり、今日も仕事ご苦労様。」


寮舎に着くと、給仕が労いの言葉を掛けて来るが、


「私に話しかけないでくれる?」


何故かウォーパイトは給仕を嫌う。


「あ、そう。 それじゃあおやすみ。」


給仕は布団に入って就寝し始める。


「全く・・・どうして私が身分最下層の給仕と一緒に暮らさないといけないわけ?」


彼女はとても不機嫌である。


「どうして高貴である私が、給仕・・・しかも男と! ふん!」


彼女は給仕から離れた場所に布団を敷き、


「明日も早い、入浴は明日の朝でいいわね。」


そう言って、彼女も就寝する。


・・・・・・


翌朝、2人の朝は早い。


最も、朝が早いのは給仕・・・毎朝、5時に目を覚ましてすぐに食堂へと向かう。


「まぁ当然よね、出撃と委託が始まるのが7時から・・・2時間前なら別に当たり前な話!」


起きていたようで、給仕が去るまで見届けていたウォースパイト。


「ふぅ~、やっとこれで残りの時間はゆっくり寝られるわ。」


そう言って、また寝息を立てる。



「陛下、おはようございます。」


朝8時に陛下を起こすウォースパイト。


「う~、まだ眠い。 後5分だけ!」


エリザベスは布団から出ようとしない、


「なりません! 早くお目覚めを! 早朝から会議ですので。」


無理やり布団を取って陛下を起こすウォースパイト。



「では、今日の会議の資料です・・・私は外で待機しておりますので。」


陛下に資料を渡してウォースパイトは会議室の外で待機する。


「ふぅ~・・・これで朝の仕事は終わり、次は昼からの日程を。」


メモを取り出して、スケジュールを確認する。


「いたたた、まだ肩が凝ってる・・・でも、今はそれどころではない! 会議が終了後に今度は陛下を無事に拠点へお送りして・・・」


ウォースパイトの仕事は毎日忙しい。


「いつつ・・・や、やはり少しだけ、少しだけ、誰かにほぐしてもらいたい!」


悩んだ末に彼女はその場から離れる。


・・・・・・


「肩を揉んで欲しい、ですか?」


急に頼まれたベルファストは困惑する、


「ええ、数日前から凝ったままで・・・今も痛くて。」


ウォースパイトは経緯を説明するも、


「申し訳ありませんが、私はマッサージ師ではありません、それにむやみにほぐして


 悪化でもされたら困りますので・・・」


ベルファストが考えていると、


「そうですね、少しお待ちください。」


そう言って、ベルファストが調理場に入る事、数分後、


「ウォースパイト様が肩を凝っておられる旨を伝えたら、給仕様が揉んでくださるそうです。」


ベルファストが連れて来たのは、事もあろうにウォースパイトが嫌っている給仕。


「い、いやその・・・え~っと。」


一緒の寮舎で生活している給仕を指名されてかなり困惑する。


「いや、ベルファスト! 貴方が揉んで頂戴! こんなどこの馬の骨かもわからない人間に


 私の体に触れさせるのは許しがたい事だわ!」


そう言って、そっぽを向くウォースパイト。


「ウォースパイト様、そんな不機嫌になさらずに。 それにこちらの給仕様は男性、力も私たちよりも強く、


 肩の凝りも私が行うよりも一層改善されるはずなのでは?」


ベルファストの言葉に、


「ううっ・・・わ、分かったわ。 じゃあ手短にやって頂戴! いい事? 余計な部分に触れたら


 容赦しない、いいわね!」


ウォースパイトは給仕を睨む。


「はいはい、分かってるよ。」


そう言って、給仕は彼女の後ろに立つと背中をぐいぐいと押して行く。


「うん・・・ああそこ。 うう~・・・痛いけどああ~・・・気持ちいい♡」


ウォースパイトの口から声が漏れる。


「ふむ、相当血流が悪いな・・・どれ、ここをもう少し押して、っと。」


給仕は”ここだ”と思う箇所に一層の力を込めると、


「お、おほぉっ!? ・・・な、何かほぐれた気がするわ。」


揉み終えると彼女は立ち上がり、


「ありがとう・・・べ、別にお礼位言えるわ! 勘違いしないで、ふんっ!」


そう言って、ウォースパイトは立ち去る。


・・・・・・


その後、会議を終えた陛下を拠点に連れて行き、陛下の側で仕えるウォースパイト。


「今日の仕事も無事に終了・・・疲れたぁ~。」


彼女は伸びをする・・・だが、


「・・・お腹が空いたわ、今日は忙しくて食堂へ行く時間が無かったもの。」


そう言いつつ、お腹を押さえるウォースパイト。


「食堂の閉店時間は10時、1時間越えてる・・・今日は食べられない、か。」


空腹の上に多忙、寮舎に戻る途中でもお腹は鳴り続け、彼女は苦しそうだ。


「すぐに入浴してすぐに寝る! 早く起きて朝食を食べればいいわ!」


そう言って、寮舎に戻る。



「おかえり、今日も大変だったな。」


給仕が布団の中で労いの言葉を掛ける。


「・・・・・・」


相変わらず彼女は給仕を嫌っていて、言葉を返さない。


「はいはい、じゃあおやすみ。」


給仕は布団を被って就寝し始める。


「やっと寝た、じゃあ私はすぐに着替えて入浴を・・・」


そう言って、浴室に向かおうとして、



ぐぅ~



ウォースパイトの腹の音が寮舎内に響き渡る。


「・・・何だ? 今の腹の音は?」


寝掛かっていた給仕が目を覚ましてウォースパイトを見る。


「・・・・・・」


あまりの恥ずかしさに彼女は顔を真っ赤にする。


「・・・少しオレに付き合え。」


そう言って、半ば強引に彼女の手を掴んで寮舎から出る。


「は、離して! 何をするつもり!?」


ウォースパイトは抵抗するも、給仕の腕力には勝てない。


「・・・・・・」



”まさか、日頃の扱いに対しての報復? 空腹で弱った私に仕返しをするつもり?”


彼女は真っ先に自分の安否を心配する。



”ひ、卑怯者! いくら私の扱いが酷かったからって・・・何も、こんな空腹で動けない状態でなく、正々堂々と


正面から意見すればいいじゃない!!”


そう思っている内に連れて行かされた場所は、食堂。


「ここで座って待っていろ。」


給仕が椅子を出して、ウォースパイトは素直に座る。


「・・・・・・」


給仕が厨房内に入っていき・・・数分後、


「ほら、今日のメニューは終わったから・・・翌日のメニューな。」


彼女の前に翌日の食事を差し出す。


「・・・・・・」


食事を見て彼女の口から涎が出掛かる。


「ほら、スプーン。遠慮しないで食え。」


給仕の言葉に、


「・・・い、いただきます。」


スプーンですくって口に運んで行く。


「はむはむ・・・ガツガツ、んぐんぐ。」


早いペースでがっつく、余程お腹が空いていたようだ。


「食器は棚に置いておいてくれ、明日も早いからオレは先に寝るよ・・・おやすみ。」


「食堂の鍵は開けたままでいい」とだけ言って、給仕は立ち去る。


「・・・・・・」


ウォースパイトは給仕を見ていた。


「・・・・・・」



実を言えばウォースパイトは給仕の事を嫌っているわけでは無い。


高貴の生まれである彼女は、庶民に対して”どのように接すればいいのか分からない”だけなのだ。


逆に馴れ馴れしく会話などしてしまえば、それこそ高貴の気質が下がる・・・そう思って敢えて貶しているのだ。


「ご馳走様・・・助かりました、ありがとう。」


彼女は給仕が去った静かな食堂内で感謝の言葉を発した。


・・・・・・


翌日、


給仕はいつものように朝の5時には起きて食堂に向かう。


「・・・毎日早朝で大変ね。」


来た当初は「給仕は早く起きるのが当然!」と言っていた彼女だが、


「労いの言葉位、言ってあげてもいいかしら?」


給仕に対する考えが変わってきたのか、急に悩み始める。



「ベル、あの給仕は上手くやっているのかしら?」


普段はベルファストを含む、エディンバラやニューカッスルも厨房に控えている。


当然、彼女たちの足手まといにならぬように、働くのが給仕としての仕事だが・・・


「はい、ウォースパイト様! むしろ給仕様は毎日お1人で作業しておられますよ。」


「! たった1人で作業をしていると?」


ベルファストから聞かされた衝撃の事実。


「一応私たちメイド隊が側で待機しておられますが・・・給仕様は私たちメイド隊よりも素早く、的確に調理をしていき、


 全く無駄のない効率的な仕事を行ってくれています。」


「そ、そうなの。」


給仕の仕事ぶりに驚きを隠せないウォースパイト。


「はい、今では私1人が側で待機していて、残りの皆様には前から実行したかった倉庫の整理に向かわせています。


 いつ始めるか悩んでいたのですが、給仕様のおかげで事が済みそうです。」


そう言って、ベルファストは皿の用意を始める。


・・・・・・


給仕が働きに来て1か月が経過する中、


この日、ウォースパイトにとって最大の危機が訪れる。


「えっ、頼んでいた品物が届いていない!?」


ベルファストから聞かされた予想外の事態、


「申し訳ありません! 相手側の予約の手違いで準備が出来ていないそうです。」


「・・・・・・」


「何度か検討してみましたが・・・今からの予約で、今日はとても無理だそうです。」


ベルファストは何度もウォースパイトに向かって謝罪する。


「ふ、ふざけないで! 今日は陛下があの品を今かと待ち詫びていた大切な日! それを「無い」と言って


 済まされると思っているの!!」


ウォースパイトは普段と違ってベルファストに怒鳴り散らす。


「申し訳ありません、こちらの不手際で・・・」


ただただ彼女に頭を下げるベルファスト・・・そこに、


「何を怒っているんだ? お前の声が食堂内にも聞こえるんだが?」


給仕が2人の間に入って来た。


「貴方には関係ない、さっさと消えなさい!」


怒った彼女は給仕にも容赦しない。


「いや、だから食堂内にも聞こえているんだって・・・ロドニーやレパルスたちも驚いていて、


 もう少し静かにして欲しいんだけど?」


給仕の言い分に、


「わ、分かったわよ・・・」


ウォースパイトは急に静かになり、重い足取りで陛下の元へ戻る。


「お騒がせして申し訳ありません、給仕様。」


今度は給仕にも謝るベルファスト。


「いや、いいけど・・・一体何があったんだ?」


給仕の質問に、ベルファストが答える。



「ウォースパイト! 今日のデザートの準備は出来てるのかしら?」


「は、はいっ! 昼食後のデザートとして用意しております!」


「ふふ、昼食後・・・日頃頑張る私のためのデザート、今日は何が出るのかしらね♪」


エリザベス陛下は心を躍らせている。


「今すぐに食べたいわ。 ウォースパイト、すぐに用意して!」


陛下の願いに、ウォースパートは一瞬驚きつつも、


「!? な、なりません陛下! 昼食後のデザートとしてベルに用意させておりますので!」


咄嗟にごまかして陛下の要望を却下するウォースパイト。


「むぅ・・・でも、昼食後なら後数時間・・・お楽しみに待つのも悪くないわね♪」


そう言って、軍法会議のためにウォースパイトと拠点から出る支度をする陛下。


「どうしよう、この危機的状況をどう乗り越えれば・・・」


ウォースパイトは不安でいっぱいである。



「本当にどう致しましょう?」


厨房で陛下に出すためのデザートを用意できずに、悩むベルファストたち。


「それならいっその事、食堂で出している艦船たちのデザートを出してみてはどうでしょう?」


ニューカッスルからの提案に、


「最悪、その手を打つしかありませんね。 他の営業所も予約がいっぱいで・・・はぁ、今日は陛下のお叱りを


 覚悟致しますか・・・」



陛下のお叱りは怖いらしい・・・ベルファストですら、深いため息をついてしまう程だ。



「昼食後のデザートに悩んでいるのか?」


またも給仕が間に入って来て、


「それならオレに案があるけど、オレに任せて見ないか?」


給仕の言葉に、


「何か案があるのですか? 言っておきますが、相手は陛下です・・・庶民が食べるデザートをお出ししようものなら、


 長い説教が待っておられますよ?」


ベルファストの警告に、


「大丈夫大丈夫、オレはこれでもデザート専門だから。 子供の好みは熟知しているよ。」


そう言って、厨房で準備を始める給仕、


「・・・子供とは、陛下の事を言っているのでしょうか?」


思わずぼそっと口に出すベルファスト。



「会議が無事に終わったわ!」


陛下とウォースパイトが帰還する。


「もうこんな時間! ウォースパイト、早く昼食を持って来て!」


「はっ! お待ちください!」


彼女は食堂に向かうが、


「後それから! デザートも一緒に持って来て! 食後のデザートなんだから、往復するのは大変でしょ?


 だから一緒に持って来なさい!」


陛下の指示に、


「陛下・・・じ、実はデザートなのですが。」


この際素直に打ち明けようか、と思ったウォースパイトだったが、


「とっても楽しみにしてるわよ♪ さぁ今日のデザート・・・一体何が食べられるのかしら♪」


そう言って、ワクワクしている陛下の姿が見て流石に「無い」とは言えないウォースパイト。


「はぁ~。」


重いため息をついて彼女は食堂へと向かう。


・・・・・・


「えっ、あの給仕がデザートを用意してくれたって!?」


食堂に着き、ベルファストから告げられたウォースパイト。


「はい、「オレに任せて置け!」と自信満々に言って、昼食とセットで今調理しておられます。」


そう言っている内に給仕が厨房から出て来て、


「お待たせ~、ではこれを陛下に持って行ってくれ。」


給仕が用意したのは、いつもの昼食とそして・・・


「・・・ちょっと待って! このデザートは何?」


ウォースパイトが見たデザート、どう見ても売店で売っているゼリーやムースにしか見えず、


「何って、ムースとゼリーだけど?」


「ふ、ふざけないで!! 今日は陛下が日頃の頑張りとして待ち望んだ大切な日、それを事もあろうに


 そこらの売店にあるゼリーを用意するなんて!!」


ウォースパイトは怒りを露わにする。


「給仕様、ウォースパイト様の言う通りです。 流石に庶民のデザートはいかがなものかと・・・」


ベルファストも説得し始める。


「やれやれ、これだから高貴だとか庶民だからとか、下らない所しか見ていないんだなお前らは。」


給仕は呆れて、


「いいよ、オレが直接陛下に届けてくる。 お叱りが怖いならオレが代わりに受けてやるよ。」


そう言って、給仕は陛下の元へと歩いて行く。


「ちょっと・・・待ちなさい!」


ウォースパイトは給仕の後を追う。


・・・・・・


結局、陛下の元まで来てしまった給仕、


「あら、貴方が最近来た給仕かしら?」


給仕と陛下は今日が初対面、給仕は陛下の前で跪き昼食を差し出す。


「お待たせ致しました陛下殿、こちらが今日のメニューと日頃の頑張りを懸念して用意した特別なデザートでございます!」


そう言って、陛下に昼食を差し出す。


「ふむ、今日の昼食も中々美味しそう・・・そしてデザートは・・・」


陛下はゼリーとムースを見て一瞬目を見開く、


「・・・・・・」


陛下の無言に、


「まずい、非常にまずい展開だわ。」


給仕の側で腰掛けるウォースパイトは不安でいっぱいだ。


「「何で庶民のデザートなのよ!」と言って激怒するに違いない・・・給仕も何を思って陛下にお出ししたのか分からないけど、


 昼食後に陛下のお叱りが来るのは避けられないわね。」


ウォースパイトは覚悟するも、


「はむはむ・・・もぐもぐ。」


陛下は何も言わずに昼食を食べ始める。


「もぐもぐ・・・んぐんぐ。」


昼食を食べ終わり、次はデザートを手に取り、何も言わず食べ始めた。


「なっ!? 陛下が庶民のデザートに文句を言わずに食べるなんて!」


その光景を見てウォースパイトは驚き、


「うむ、中々美味ね♪ 給仕、これは一体何かしら?」


陛下の問いに、


「はっ! 陛下の大好物であるチョコレートを溶かしてムース上に仕上げ、もう1つは果物をすりつぶして


 ゼリー状に固めた”特製ゼリーとチョコレートムース”でございます。」


給仕の言葉に、


「ふむ・・・いいわね、見た目は少し貧相に見えるけど味は悪くないわ。」


どうやら陛下は満足したようで、


「ご馳走様、夕食も楽しみにしているわ♪」


「ははっ、お褒めの言葉・・・ありがたき幸せにございます!」


そう言って、食器を持って立ち去る給仕。


・・・・・・


「ちょっと待って!」


ウォースパイトが給仕を止める、


「何だよ、オレはこれから皆の夕食の準備で忙しいんだけど?」


「あの、その・・・」


彼女は少し落ち着きそして、


「ありがとう、陛下はとても満足していたわ。」


素直に礼を言うウォースパイト。


「ああ、別に気にするな。」


「いつもの事だよ」と軽く流す給仕、


「しかし、驚いたわ・・・まさか最初からゼリーとムースを作るなんて、想像もつかなかったわ。」


給仕の発想に関心するウォースパイトだが、


「んっ? ああ、あのゼリーとムースか・・・あれは売店で売っていた物を出しただけだけど?」


給仕の口から発せられた驚くべき事実。


「なっ!? じゃあどうして陛下は何も疑わずに喜んでいたの!?」


売店で売っているものなら陛下も気づくはず、それなのに何の疑いも無く食べて喜ぶなんて・・・


「別に、事前に陛下の好物を調べてそれに合うゼリーとムースを用意して、後は「陛下のために最初から調理した」と言う


 旨を本人の前で伝えた・・・ただそれだけだけど?」


「・・・・・・」


「つまりは”話術”だ、案外陛下も庶民の食事で満足出来そうな気がするけどね。」


そう言って、給仕は食堂へと戻る。



「今日の作業も無事終わった、と。」


翌日の仕込みをし終わり、寮舎に戻る給仕。



「おかえりなさい、仕事ご苦労様。」


先に戻っていたウォースパイトが給仕に労いの言葉を放ち、


「珍しいね、いつもは言葉すら返してくれないのに。」


布団を敷いて、就寝する準備を始める給仕。


「今までごめんなさい。 なんと言うか・・・男性である貴方にどう接すればいいか分からなくて。


 それで貶していて、でも貴方が真面目で不埒な人間で無いのは理解出来たわ。」


ウォースパイトが説明して行き、


「ははは、オレには嫁さんがいるから他の女に手を付けるようなことはしないよ。」


給仕は笑って返す、


「・・・もし、私に出来る事があれば遠慮なく言って頂戴、力になるわ。」


「そうか・・・なら早速頼みを聞いて欲しいんだが。」


給仕は彼女に一言、


「君の名前、長くて言いづらいから・・・オレがここにいる間だけ、”ウォスパ”と呼んでもいいかな?」


「なっ!? まだ日が浅いのにそんな馴れ馴れしく!」


流石のウォースパイトも怒り気味、


それでも給仕の願いに彼女も心が折れ、


「わ、分かったわ、好きに呼んで頂戴。」


給仕が働く期間中は”ウォスパ”と呼ばれることになった。


・・・・・・


「はぁ~。」


ウォースパイトには悩みがある、それは・・・


「後輩たちにはあって何で私だけ・・・胸が無いの?」


ネルソン・ロドニー・はたまたイラストリアスには豊満な胸部があるのに対して、


ウォースパイトはすらっとしたスタイル、そのため彼女は自身にコンプレックスを抱いていた。


「ううっ、後輩たちに会うたびに感じるこの謎の敗北感・・・私の考え過ぎかしら?」


そう言い聞かせている物の、やはり彼女たちに会う度に、自身のスタイルを気にしてしまうウォースパイト。



「はぁ~。」


深いため息をついて寮舎に戻るウォースパイト。


「ご苦労様・・・と言うか、そんな深いため息をついてどうしたんだ?」


給仕の質問に、


「別に・・・」


一言呟き、寝る準備を始めるウォースパイト。



「お~いウォスパ、さっきはどうしたんだ?」


明りを消して、暗闇の中で給仕はウォースパイトに話しかける。


「別に何でもない・・・私の問題だから、貴方が気に掛ける事では無いわ。」


そう言いつつも、


「そうか、これ以上の言及はしないけど・・・言えば少しは気が晴れる事もあるんだぞ?」


「・・・・・・」


給仕の言葉に、


「・・・私の個人的な悩みだけど。」


ウォースパイトは思いのたけを話して行く。



内容は、後輩たちにはあるのに、自分には豊満な胸部が無い事。


彼女にとっては深刻な悩みなのだが、給仕は何故か笑い出し、


「何だ、そんな事で悩んでいたのか! これはお笑いだな。」


笑う給仕に、


「私にとっては重大な悩みなの! それに貴方だって、男からすれば胸がある方がいいでしょ?」


ウォースパイトの言葉に、


「オレは全然気にした事が無い、大事なのはここ! 心だからな。」


「・・・・・・」


「じゃあ聞くけど、ウォスパにとって、ネルソンやロドニーたちはただ胸が大きくて、


 それ以外何の取り柄のない女だと思っているのか?」


給仕の質問に、


「なっ、そんなわけないじゃない! 後輩たちはロイヤルの艦船としてきちんと責務を果たしている!


 いつも感謝しているわよ!」


ウォースパイトの言葉に、


「そうだろ? 今ウォスパが言った内容から、胸に関する言葉は出なかっただろう?」


「・・・・・・」


「じゃあ大丈夫だよ、もちろん後輩であるネルソンもロドニーたちも、普段から君の行いに感謝している。


 胸の事なんて一切気にもしていないはずだよ。」


「そ、そうかしら?」


「ああ、もし気になるなら直接聞いて見ればいい。 オレは多分、皆気にもしていないと思うけどね~。」


そう言って、布団を被って就寝する給仕。


「そう・・・うん、そうかもね。」


安心したのか、彼女も就寝する。


・・・・・・


給仕とウォースパイトに休日は無い。


そのため、会話が出来るのは就寝する直前にしか行えない。


「質問があるけど、いいかしら?」


「どうぞ。」


「貴方の奥さんはどんな人?」


ウォースパイトは給仕の奥さんが気になるようだ。


「とてもいい人、綺麗で優しくて頼りになり、いつもオレの背中を押してくれる、全く非の打ち所がない嫁さんだよ。」


「そうなの・・・貴方は奥さんの一体どこが気に入ったのかしら?」


「どこがか・・・う~ん、目と髪かな。」


「? 目と髪?」


「うん、全く濁りの無い純粋で宝石の様に輝く目に、長くて足まで届きそうなあの長髪・・・オレは好きだね。」


「ふ~ん、そうなのね。」


いつの間にか、給仕とウォースパイトはよく会話をする仲になっていて、


「後は・・・そうだ、プリッとしたお尻が好きだな。」


「・・・・・・」


「この前なんて、思わずお尻にかぶりついたら思いっきり殴られて・・・いやぁ~痛かったな(笑)」


「・・・・・・」


給仕の言動に呆れるウォースパイト。


・・・・・・


給仕が来てから3か月が経過して、


「長くも短くも感じたけど、楽しく仕事が出来たよ。」


給仕の契約期間が終わったのだ、当然本人は更新する気は無いようで寮舎で1人荷造りを始めていた。


「陛下やベルたちが「期間延長」を望んでいるのだけど・・・」


ウォースパイトはそこまで言い掛けて、


「帰るのね?」


「ああ、嫁さんも心配しているだろうし、ずっと1人にはしていられないからね。」


そう言いつつ、給仕はまた荷造りを終えて門の外に出る、


「もし・・・私が「残って欲しい」と言っても、駄目かしら?」


彼女の質問に、


「何だ、オレの事を好きになったか?」


「なっ!? そんなわけないじゃない! でも・・・」


何か言いたそうだが、それ以降が言えないウォースパイトに、


「なら、これを渡して置くよ。」


そう言って、給仕から渡された物・・・それは、


「何これ? ・・・地図?」


渡された紙には、何やら赤丸で囲んだ場所の行き方が書かれていて、


「この囲んだ場所、オレはここに入るから、何か用があればその紙に書いてある番号に掛けてもいいし、


 直接来てくれても構わないよ。」


給仕の言葉に、


「そう、分かったわ。 恐らく行く事は無いでしょうけど・・・一応、貰っておくわ。」


「そうか・・・じゃあ、短い間だったけど、世話になった・・・ありがとう。」


そう言って、給仕はロイヤル拠点を後にする。


「・・・さようなら、そして・・・ありがとう。」


門の前で彼女は給仕を見送る。


・・・・・・


給仕が去り、ロイヤル拠点はいつも通りの生活に戻る。


食堂ではメイド隊が料理を作る光景に戻り、ベルファストたちの忙しい時間が始まる。



ある日の事、


「陛下、今何と?」


陛下の口から思いもよらない言葉が、


「今日の私の予定は特にない、会議も無ければ特別な用事もないわ。」


「は、はぁ。」


「私は今日は部屋でずっとくつろいでいる予定だから、ウォースパイトには特別に休暇をあげるわ!」


「・・・・・・」


普段休日がない彼女にとって、”休暇”を与えられる事に違和感を持つ。


「どうしたの、嬉しくないの?」


「い、いえ! 有難き幸せにございます!」


「そう、じゃあ私は寝室に戻るからウォースパイトは好きに行動しなさい!」


そう言って、陛下は1人寝室へと戻る。



「休暇を貰えたのは良いけど・・・何をすればいいの?」


休暇ならばどこかへ遊びに行ったり、買い物に行ったりするものだが・・・


「う~ん。」


彼女はふと、給仕から貰った地図を広げて見る。


「・・・・・・」


今日は特に出撃も無ければ、特別な用事もない・・・完全に暇な時間、彼女は悩んだ末に、


「試しに行って見ようかしら、確かここに給仕が住んでいるのよね?」


そう言って、外出準備を済ませると彼女は外に出て行った。


・・・・・・


「確かこの辺りのはずよね・・・」


目的の場所は詳細に書かれているものの、街中を歩くことが初めての彼女は少し困惑気味である。


「! 店名が同じ、ここね。」


ウォースパイトは扉を開けて入る。


「いらっしゃいませ~♪」


店の女将が席に案内する。


「! えっ、何で?」


ウォースパイトの目に見覚えのある光景が、


「! ウォースパイト様! どうしてこちらに?」


畳の上にロドニー・ネルソン・ベルファストが座っているを見て、


「どうしても何も、皆が何故ここに?」


ウォースパイトの言葉に、


「これでも私たち、この店の常連客なんですよ。」


「そ、そうなのね。」


”常連客”と言われてウォースパイトは少し困惑する。


「私は今日が初めてですが、ネルソン様からのお勧めと聞きましてこの店に赴きました。」


メイド姿のままで来店したベルファストが事情を話す、


「・・・・・・」


「ベル・・・せめて外出時位は私服にしたら?」と心に思うウォースパイト。


「あら、お客様ネルソンさんたちのお知り合いですか? でしたら席がメイドさんの隣が空いていますので、


 そこにどうぞ~♪」


女将の元気な声に若干の抵抗を持ちながら渋々座るウォースパイト。


「むむ、後輩と席を交わすのは私には初めての経験ね。」


普段は陛下の側で仕えている身、後輩であるネルソンたちの側でしかも、一緒の席に座ることは今日が初めてである。


「大丈夫ですよ、そこまで緊張なさらなくても。」


そう言ってロドニーはウォースパイトに、飲み物を注ぐ。


「庶民や高貴な身分なんてすぐに忘れます、この店では皆平等に扱われますから。」


「・・・・・・」


注がれた飲み物を静かに口に運ぶウォースパイト。



彼女が来店して少し経ち、


「だ~か~らぁ! 陛下の態度が気に入らないって何の!」


酒が入り、酔って本音を吐露するウォースパイト。


「ウォースパイト様、落ち着いて下さい!」


ベルファストが止めに入るも、


「何よ~、私は別に! 普通よ普通! うぃ~っく。」


顔を赤くして、今度はネルソンに寄り添い、


「ネルソン、貴方はどう思うの? 陛下のあの子供じみた~駄々こね、側で永遠聞かされたらイラつかない?」


酔った影響で睨みつけて来る彼女に、


「そ、そうですね・・・頭には、来ますね(困惑)」


彼女の酔いぶりに驚くネルソン、


「でしょ~! もう、今日はとことん飲むわ! ほらロドニー! グラスに注いで! うぃ~。」


後輩に注いでもらい、酒を飲み干して行くウォースパイト。


・・・・・・


「すかぁ~・・・ぐかぁ~・・・」


一番騒いで、一番先に爆睡してしまったウォースパイト。


「やっと静かになってくれました。」


ベルファストは安堵の息を漏らす。


「ウォースパイト様も結構ストレスを溜め込んでいたようですね。」


いつもは皆を気遣っているからか、自身の気持ちを表に出さないウォースパイト、


「こんな所で眠っていては風邪を引いてしまいますよ、起きてください。」


ロドニーは起こそうとするも、


「そっとした方がいいですよ~♪ どうぞ、枕と毛布です♪」


女将が親切にも、枕と毛布を支給してくれる。


「ありがとうございます。」


受け取ると、彼女を起こさないようにそっと枕と毛布を設置するロドニー。


「その内、目が覚めるでしょう。後は私が見ておきますのでロドニーさんたちはお戻りになって下さい♪」


女将の言葉に、


「そうですか、ではお言葉に甘えてウォースパイト様をお願い致します。」


そう言って、勘定を済ませロドニーたちは拠点へと戻る。


・・・・・・


「う~ん・・・はっ!」


ウォースパイトは目を覚ます。


「・・・・・・」


辺りを見回すが、暗闇で何も見えない。


「・・・・・・」



それもそのはず、彼女は店の閉店時間を過ぎても眠ったままで、そのまま寝かされていたのだ。


「あら、お目覚めですか?」


通りかかった女将がグラスに水を注いでくれて、


「どうぞ~。」


「あ、ありがとう。」


受け取って水を飲み干す。


「お知り合いの方々は先に帰られましたよ。」


女将の説明に、


「そう、それじゃあ私も帰るとしようか。」


そう言って、立ち上がるも、


「行けません! 今は深夜ですから、今日は店でゆっくりお休みください。」


「えっ、いやそんな。」


女将の気遣いに困惑するウォーパイト。


「今日は特別に宿泊料金はサービスし・ま・す・ので~♪」


女将は指を彼女の口に当てて、小悪魔みたいな態度を取る。


「は、はぁ。 では、お言葉に甘えて。」


ウォースパイトは素直に従う。


「お~い村雨、どうしたんだ・・・ってああ、起きていたか。」


聞き覚えのある声が聞こえてウォースパイトが振り向く、


「ひ、久しぶりね給仕殿。」


軽い挨拶をする。


「うん、久しぶり。 まさか本当に来てくれるとはね~。」


そう言って、ウォーパイトと元給仕が会話を始める。


「この店の大将をやっているの?」


「うん、でないと”給仕”としてお呼びが掛からないだろう?」


元給仕はゲラゲラ笑う。


「・・・その女将さんは?」


ウォースパイトは女将を差して、


「ああ・・・紹介するよ、オレの嫁さんの”村雨”だよ。」


「よろしくお願いしますね~♪」


「・・・・・・」



確かに・・・全く濁りの無い宝石のような瞳に、足まで届く長髪そして、プリッとした・・・いえ、そこは言わないでおこう。


「ウォースパイト事”ウォスパ”はね、ロドニーたちの先輩にあたる艦船なんだよ。」


「そうなんですね! 確かに初めて会った時に気品が漂っていたわけですね!」


「そ、そんなに褒めたくれたって・・・何も出ないわよ。」


恥ずかしいからか、そっぽを向くも、すぐに打ち解け、


「ロイヤルネイビーの歴史を聞きたいかしら? 私を従えた将軍の話とかはどう?」


「はいっ、是非お願いします~♪」


真夜中だと言うのに、3人で会話が盛り上がっていた。


・・・・・・


翌朝、


「お世話になったわ、給仕殿。」


ウォースパイトは改めて礼をする。


「ああ、また時間があれば来てくれ。 嫁さんはウォスパの事が気に入ったようだから。」


「そうね、時間があればまた来るわ・・・今度はロドニーたちと一緒にね。」


そう言って、お互い会う約束をして、彼女は自分の拠点へと戻って行く。


・・・・・・

・・・



ロイヤル拠点に戻ると早々に陛下の元に向かうが、


「遅いわよ、ウォースパイト! 一体私を何時まで待たせる気かしら!」


「申し訳ありません! 以後気を付けます!」


休暇を与えられたのは、昨日の事である。


店で一夜を開けてしまった事は流石に言えなかったようだ。


「まぁいいわ、じゃあ今日もこれから忙しくなるわ! すぐに準備しなさい!」


「はっ! そのように!」


また忙しい生活に戻る・・・ウォースパイトは気を引き締めて今日の責務に取り掛かるのだった。












「指揮官とウォーパイト」 終













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2019-03-07 16:12:07

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2019-03-16 01:57:33

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2019-03-07 16:12:09

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1: SS好きの名無しさん 2019-03-07 16:13:46 ID: S:VlHZw6

ウォースパイト…!
読んでて楽しいです


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