2019-04-19 01:58:13 更新

概要

前任の提督に暴行したため反逆罪に問われ、処分待ちしていた横須賀鎮守府に新たな提督が着任するという話。
彼は見た目も評判も恐ろしい男だった。
果たして彼は艦娘達にとって敵か味方か…。


前書き

どうも。SSを読んで自分も書いてみたくなったので始めてみました。
初めてなので何かと変かも…。SSというよりどっちかというと小説よりになってしまいました。
一応、長編になる予定です。最後までできるかわかりませんが、何卒よろしくお願いします。


第一章 出会いと始まり


蛇目の男




???「ここが、そうか…。」


車の運転席から降りた海軍服の男は鎮守府の門の前でそう言った。

見た目だけ見れば、年齢は20代半ばといったとこか。

帽子を目深にかぶり、帽子の前のつばの部分がちょうど目を隠していたためどんな表情をしているか読みづらい。

そして、黙ったまま鎮守府の敷地内へと入っていくのだった。



龍田「来たようですわね。」

扶桑「そのようです。」



初霜「皆は…私が守ります。」

暁 「レディーはどんな時も動揺しないものよ」オロオロ

電 「あの人が……なのです。」

雷 「…」

響 「…」


鎮守府の門から歩いてくる男を窓から眺める艦娘達の姿があった。

彼女たちはこれから訪れる男を不安やまたは怒りがこもった瞳で見つめるのだった。



―艦娘のとある部屋―


加古「もうそろそろだよね…。」

衣笠「そうね。」

加古「私たちどうなっちゃうんだろう。」

衣笠「わからない…。」

衣笠「(青葉の言ってたことが本当なら私たちにまず良いことはないよね。)」

衣笠「(なんせこれから来る男は艦娘を自分のために平気で沈ます最悪の男。

…牢に入っていたのになぜ…。)」



―鎮守府正面入り口前―



古鷹「よ…ようこそ。お待ちしていました。私は重巡洋艦、古鷹です。」

龍驤「うちは、軽空母、龍驤や。」


???→男「私が大本営からの使者として遣わされた○○だ。」ギロッ


古鷹、龍驤「「ひっ!!」」


彼女たちがおびえてしまうのも致し方なかった。

大本営から来たというその男は、帽子で隠れていたその目を二人に向けた。

その目は非常に鋭く、蛇のような目をしていた。彼女たちは蛇に睨まれた蛙のようになっていた。


男 「執務室に案内してくれたまえ。それとここの鎮守府にいる艦娘をすべて執務室に集合させろ。」


古鷹「…は、はい。では執務室に案内します…。」

龍驤「じゃ、じゃあ…うちは皆を集めてくるよ…。」

古鷹「はい…。お願いします。」



駆け引き




その数分後、執務室に艦娘達がやってきた。

男は提督用の机のところで椅子に座っていた。

艦娘達は規則正しく並んだ。前の列に龍田や扶桑、龍驤、古鷹が、真ん中の列から後ろにかけて他の重巡の二人と夕張、駆逐艦の艦娘達というような順序で並んでいる。

艦娘達はそれぞれ自分の艦名を一人ずつ名乗り始めた。



夕張「(この人が…。)」

衣笠「(青葉の情報どおりの外見ね…。)」

雷 「(目つきが…。)」

電 「(こ…怖いなのです。)」ハワワ

暁 「(怖くない…怖くない…怖くない…。)」ブルブル

響 「(…)」ビクビク

加古「(噂通り怖い人だ…。古鷹は大丈夫かな…。)」

古鷹「(加古が震えてる…。無理もないよね。私も…。)」

扶桑「(山城…。あなたは…。)」

龍田「(天龍ちゃん…。)」

初霜「(どうにか皆を守れないでしょうか…。)」

龍驤「(うちらのためにも、解体だけは…。)」



誰かが艦名を名乗っている間、それぞれの艦娘達は、ただこちらをじっと見ているだけの、これから自分たちの処分を言い渡す男の顔を見ながら、ただただ不安と緊張が増していくのであった。


龍驤「以上がここの鎮守府に配属している者達です。」


男 「全員いるようだな。早速だが、これから大本営からのおまえ達の処分を…。」


龍田「待ってください。」


男 「何だね。」


龍田「その前に天龍ちゃんと山城さんのことを教えてください。」


男 「…。」


龍驤「龍田、それは…。」


龍田「二人が捕まった後、どうなったのか聞かされていないのです。扶桑さんも聞きたいのでは?」


扶桑「ええ…。私も…。」


男 「いいだろう。」

男 「彼女たちは今も艦娘専用の牢に拘禁している。ここから、そう遠くないところだ。まだ解体の処分は言い渡されていない。」


龍田「(まだ、生きてるのね。)」

扶桑「(山城…。)」ホッ


初霜「(あの二人はまだ…。)」

龍驤、古鷹「(良かった…。)」

夕張「(でも…。)」

衣笠「(まだ…というだけの話…。)」


男 「拘禁している彼女たちの先行きはある意味おまえ達にかかっている。」


龍田「それはどういう意味で…。」


男 「これから大本営からの命令を伝える。」

男 「おまえ達には二つの選択肢が与えられている。」

男 「私をここの新任の提督として迎え従うか、従わないか。」


艦娘達「!!。」


男 「おまえ達のことは聞いている。前任の提督を、拘禁している二人が暴力を振るい切りつけ執務ができなくなるほどの重傷を負わせた。だ が、そんな二人を見ていたあるいは後から見つけた他の者はすぐに止めなかったそうではないか。おまえ達全員が謀反の罪に問われている。」


扶桑「あれは! 二人は私のために…。」

龍田「前任の提督は扶桑さんに手を出そうとしたんです。優しい扶桑さんの性格を利用して…。もっと早く私も気づいていれば…私も…。」


龍驤「前任の提督はうちらのことをひどい扱いしててん。最近は日を重ねる毎にますます…。皆の気持ちを考えてしまったら止めることが出来んかった…。」


男 「理由はどうであれ、直属の上司に対して危害を加えたことに変わりはない。」


龍田「(くっ…。)」

他、艦娘達「…。」


男 「だがおまえ達はそれから武装蜂起するわけでもなく、事の発端となった二人は抵抗せずおとなしく投降。そして他の者は今日私が来て処分を言い渡されるまで逃げることなく残っていた。」

男 「その点を考慮された上での元帥の計らいだ。」


古鷹「もし…従わなかったらどうなるのですか…。」


男 「後に他の鎮守府などにおまえ達に引き取り手がいないかどうかの公布がされるだろう。運が良ければ申請があった所に転属だ。」


夕張「(そんなのあり得ない。どこの鎮守府も自分のところの艦隊運営をするだけの資材と資源をギリギリに賄っているのが現状。度重なる連敗で資源の確保だってままならい。新しい娘の建造どころか兵器の開発だって無理。大本営だってそれに悩まされているはず。)」


龍驤「(それに前任の提督に暴行した鎮守府の艦娘を誰が引き取るというねん…。)」


男 「引き取り手がいなかった場合は、解体だ。まあ、引き取り手がいたとしてもそれは他の鎮守府の提督ではないかもしれないし、引き取る理由も艦娘としてではない可能性もあるがな。」


艦娘達「…!」


男 「拘禁している二人はどのようにするかは元帥から決定を聞いてないが、もしかしたら引き取り手を探しているのか、はたまた利用価値がありそうな場所を検討しているのかといったとこだろうな。」

男 「解体するのにも資金はかかる。解体したところで大した資材にはならない。」


龍田「あなたは!!」

龍驤「やめるんや!龍田!」

龍田「くっ…。」


今にも飛びかかりそうな龍田を龍驤が止めた。

だが、そんなことに気にもとめず、何一つ態度が変わらない男は、


男 「さあ、どうする!? 従うのか、従わないのか!」


艦娘達「…。」


艦娘達は黙り込んでしまった。

解体はされたくない。それはもちろんの事だ。

だが、目の前にいるこの男を提督として従うという事は解体される以上の苦しみが待っていることでもある。


ここの鎮守府の艦娘達は元帥付きの秘書官である大淀から内密に大本営から遣わされる男の情報を手紙で知らされていた。

ある事件を起こして5年前から服役中の男だ。無期懲役の刑を言い渡され、もはや死んだも同然の人間だったはずだった…。

だが、わざわざ元帥がその男を解放し、直接対面してからその男を鎮守府に派遣するというのだから、もしやと思った大淀の勘は的中したようである。大淀の手紙にも『元帥のお考えがわからない。』と大淀も動揺しているようだった。


この事は大淀から別の鎮守府にいる青葉にもその知らせは伝わっていた。

他の鎮守府の艦娘達にも伝えるためだ。警戒しておくことに越した事はない。

青葉も独自に、男が服役する以前の経歴や当時の事件を知っている者などに聞き込み取材をした。


その内容はあまりよろしくないものだった。

男の養成学校時代では外見もあってかその時から他の訓練生から恐れられていた。噂程度のものであるが彼がある訓練生を貶めたらしい。

艦娘を沈ませたというのは5年前の事件がきっかけらしい。自分が生き延びるために艦娘をだましている。そのせいで沈んだ艦娘がいたのだ。その時の艦娘の指揮官も戦死している。


青葉からもたらされた情報は、最悪だった。

その男が自分に従えというのだから、彼女たちも決めかねてしまうのであった。



初霜「…それならば、あなたに従うために条件を要求したいのですが。」

重い空気の中、初霜が意を決したように前に出てきてその口を開いた。


男 「条件だと?」


初霜「はい。拘禁されてる山城さんと天龍さんを釈放してほしいのです。」

龍田「初霜ちゃん…。」


男 「この状況でそれをいえる義理があるのか。」


初霜「…私たちは艦娘です。海の上で戦って沈むのならば本望です。」

初霜「でも、それ以外のところで、艦娘としての命と誇りを失うのは屈辱でしかないのです。山城さんと天龍さんがしたことは、私たちを守るためにしたこと。私たちは見捨てることが出来ないのです。」


男 「私がその条件を呑まなければ従わないと?」


初霜「皆が従わないわけではありませんが、今後の艦隊士気に関わると思います。」

初霜「あの二人は助けられず、私たちはただ従って生き延びたとしても、不満と禍根を残したままになって以前とは何も変わらないのです。」

初霜「ですから、私たちが従うことに納得できる理由が欲しいだけなのです。」


男 「…。」


龍驤「うちからもお願いします。」

扶桑「私からもお願いします。」

龍田「私からも…。」

他、艦娘達「「「お願いします!!」」」


そうしてその場の艦娘達全てが頭を下げた。


男 「…。」


男は提督机の上に置かれた電話の受話器に手をかけ、何やらどこかにかけ始めた。


男 「鎮守府の○○だ。元帥はおられるか。」


……………


男 「元帥殿ですか。折り入って話が……そう……であるため……拘禁している二人の面会を…。」


ガチャッ 受話器を下ろした。


男 「元帥と話した結果、私だけならば面会を許すと言っていた。」


初霜「それでは…。」


男 「元帥殿は艦娘達がおとなしく従うというのであれば、二人の罪を不問までには出来ないが拘置所からの解放なら考えるそうだ。」


艦娘達の間に小さな歓声が上がる。


男 「だが、二人が従わないという場合もあるだろう。」


艦娘達「…。」


男 「ここに私が戻ってきたら、もう一度従うのか従わないのか問うことにしよう。」

男 「二人の結果次第で返答が変わる者もこの中にいるということだからな。」


艦娘達「…。」


男 「では、面会に行くとしよう。おまえ達は私が戻ってくるまで待機だ。」


古鷹「えっ…。もう行くのですか?」


男 「この案件に手間取ってる暇などない。大本営も私も。」


龍田「(まるで他人事ですわね。)」


男 「では、行ってくる。以上、解散。」


そう言って男は、艦娘達よりも先に執務室を後にしていくのだった。

艦娘達は呆気にとられていた。

あまりにも早く出て行く男に驚いたのか、それとも極限の緊張状態から解放されたからなのか、艦娘達は男が出て行った扉を見つめながら、皆が静まりかえっていた。


龍驤「それにしても、初霜が条件を突き出したときはどうなるかと思ったわ~。」

静けさに耐えかねたのか龍驤が少し気の抜けた声で話し始めた。


衣笠「ほんとだよ~。私ヒヤヒヤしちゃった。」

夕張「よくあの場で言えたよね。」

加古「かっこよかったぜ!」

暁 「立派なレディーだったわ!」

電 「すごかったなのです。」

雷 「頼れるお姉さんって感じだったわ!」

暁 「(ハッ…。)」ガーン

響 「ハラショー」


初霜「そんな…私は…。」

皆からの思わぬ賞賛に戸惑っている。


龍田「ありがとね。初霜ちゃん。あなたが切り出さなかったら私、我慢できずに切ろうとしてたわ~。」

龍田は左手を頬に添えながら穏やかな顔をしながら笑うのだが、艦娘の何人かはそれを見て一瞬背筋が凍る者もいた。


扶桑「私からもお礼を言わせてください。」

古鷹「うん。初霜ちゃん凄かったよ。あの人を前に堂々と。」

古鷹「(私も見習わないと…。)」

初霜「私はただ皆を守りたいって思っただけですよ。私だってあの人を見たとき凄く怖かったです。」


龍驤「あー、うちもあれには驚いたわー。」

加古「私も…。」

電 「怖かった…なのです。」

響 「…。」コクコク

雷 「世の中にはあんな人もいるのね。」

暁 「わ、私は大丈夫だったわ。」

夕張「(その割には体がまだ震えてるわね…。)」

古鷹「(よっぽど怖かったんだね。)」アハハ…

衣笠「青葉の情報通りだったわね。」

龍驤「『蛇』というのはよく言ったもんやわ~。」

扶桑「あの方が新たな提督…。」

龍田「天龍ちゃん大丈夫かしら~…。」



彼女たちが執務室で話している間、既に鎮守府を出て門のそばまで来ていた男は、先ほど男が乗ってきた車にすぐさま乗り込み、車を目的地へと走らせた。




中傷と脅し




―××拘置所―


二人が監禁されている拘置所は鎮守府からそう遠くないところにある。

規模もそれほど大きいわけではなく古い建物であるが、拘置所に地下が存在し、いくつかの部屋が用意されてる雑居房がある。

艦娘は人間より身体能力が遙かに高い。それにより、雑居房は壁が厚いため、艦娘を監禁しておくにはちょうど良い場所であった。


天龍と山城は同じ部屋に監禁されていた。

二人は部屋の壁にもたれるように座り込んでいる。

手や足に錠がされており、壁に鎖をつなげられていた。

最低限の食事は取っていたが、それでも少しやつれているようである。


山城「私たち、いつまでこうしているのでしょう…。」

天龍「俺に聞かないでくれ…。」

山城「ここに来てからずいぶんと日が経った気がするわ。」

天龍「すぐに解体処分されると思っていたんだがな。」

山城「解体するなら早くすればいいものを…。不幸だわ…。」


その時、足音が聞こえてきた。数人いる。

昼の食事は少し前に済ませた。夜の食事まではまだ時間があるはずだった。


山城「いやな予感がするわ…。」


彼女の口癖に等しい言葉だが、この時は正解と言えるだろう。

足音は部屋の厚い扉の前で止まった。


「おまえ達に面会だ。」


扉の格子のかかった隙間から監視の男が言ったあと、扉の錠が開く音がした。


???「一人で大丈夫だ。」


聞き慣れない男の声が聞こえた後、見慣れない男が部屋に入ってきた。


天龍、山城「…!!」


その男が海軍服を着ていることに驚きはしない。いつか来ると思っていたからだ。

それよりも、彼女たちを驚かせたのは、まるで蛇のようなかなり鋭い目。

睨まれた者は大抵たじろぐであろう。二人を驚かせるのには十分だった。


天龍「あんたは?」

天龍が威圧に負けまいと平静を装い、その男に質問した。


男 「私は大本営からの使者だ。」


山城「やっと来たわね。解体するのなら早く連れて行けばいいじゃない。」

ため息をつきながら、投げやりに言う。


男 「いや、おまえ達には選択肢が与えられている。」


天龍「はっ?」


男 「私を新たな提督として迎え従うか、従わないか。」


天龍と山城は一瞬呆気にとられるが、すぐに、


天龍「従うわけないだろう!」

山城「私たちがどうしてここにいるのか知らないわけではないでしょう!?」

山城「私たちはあいつにひどい扱いをされてそれに耐えかねたのよ!あろうことかお姉様に手を出して…!」

天龍「もう、あんな思いをするのはごめんだ。俺たちは解体されるのを覚悟でやったんだ!」

山城「だからもう、私たちを早く解体してしまいなさいよ!」


彼女たちは己の怒りを目の前の男にぶつけた。

錠と鎖がなければ、すぐにでも食ってかかりそうな勢いだった。


だが、男はひるむこともなければ何も動じなかった。

それよりも、先ほどよりもさらに不気味にも思えてくる冷たい視線を彼女たちに浴びせる。


男 「そうか。解体を望むか。ならば、あの鎮守府の艦娘達も全員解体だな。」


天龍「はっ!?何でだよ!?」

山城「そうよ!やったのは私たちだけ。姉様や他の皆は何もしなかったわ!」


男 「何もしなかったことが問題なのだ。おまえ達と同じ謀反の罪に問われている。」


山城「そんな…。」

愕然とする山城。


だが、男は追い打ちをかけるように

男 「あの鎮守府の艦娘達はかわいそうだな。おまえ達のせいで終わるのだから。」


天龍「何だと!?てめえっっ!!」


男 「だってそうであろう?

おまえ達がこんなことをしなければあの者達もこのような目に遭うことはなかった。」


天龍「だけど…!くっ…。」

それ以上は言えなかった。男の言うことにも一理あると天龍は思ったからだ。

それを考えるだけの理性を残してはいたが、この理不尽に対する怒りとこんなはずではなかったという苛立ちが彼女の体を駆け巡る。


男 「あの者達にもおまえ達と同じ質問をした。そしたら、おまえ達を解放して欲しいと言ってきた。」


山城 天龍 「「…!。」」


男 「おまえ達を解放すればおとなしく従うそうだ。そんなことを言える立場ではないはずなのによく言えたもんだ。」


山城「そんな…。みんな…。」


男 「元帥からも許しはもらっている。なるだけ穏便にこの案件を早く済ませたいそうだ。次の大規模な作戦の準備にも取りかからなければならないしな。」

男 「不問まではいかないが、私におとなしく従うというなら解放してもいいというお考えだ。」


天龍、山城「…。」


わかるようで疑問も多くなるこの処分だが、従えば全員解体されずに済む。

だが、果たしていいのだろうか。元帥はこの男に一任しているようだが、先ほどの少しのやりとりでわかる。

こいつは、クズだ。

従えば前と変わらない、いや、それ以上にもっと悪く扱われるかも。

犯罪を犯した艦娘として、むしろそれをネタに俺たちを脅してくるかもしれない。

それなら、いっそ…。

だが、龍田や扶桑、他の皆を守るために罪を被ってでもやったことなのに、逆に皆を追い詰めてしまった。

そればかりか、自分たちの身も顧みず、私たちを助けるために解放しろと条件を言ってきた。

私のために…。姉様…。


そんな思いや考えが二人の頭を駆け巡った。


男 「さあ、どうする…!従うか、従わないか。」


男が催促するが、答えが決まらない。


しばらくの沈黙がその場を支配した。重くて息が詰まりそうな空気だ。




山城「わかったわ…。」

山城が声を震わせながら答えた。


山城「姉様の命には代えられない。…あなたに従うわ。」

天龍「ああ…。俺もだ…。」

それはまるで、人質を取られ、為す術がなくなった被害者そのものだった。


心が折れた二人を見た男は、冷たい表情を変えず、

男 「ならば、今すぐ錠を解いて私とともに来い。車を用意してあるからそれに乗って鎮守府に戻るぞ。」


山城「今から行くのですか?」


男 「言ったはずだ。時間がないと。…監視の者に錠を解くように伝えてくる。」


山城「不幸だわ…。」

天龍「…。」

その後、二人は男が言うことすること、ただ聞きただ眺めるだけだった。


男に連れられ、車に乗り込んだ後は鎮守府に着くまで誰も一言も話すことはなかった。

天龍と山城は、男がどうとか大本営は、元帥は何を企んでいるのかなどを考えることより、鎮守府の皆とどのような顔で何を言って再会すればいいのか、それだけで頭がいっぱいだったからである。


こうして、追い詰められた艦娘達は蛇のような目の男を新たな提督として迎え、彼らの新たな物語が始まるのであった…。




第二章 新たな提督の着任



再会




三人を乗せた、車は鎮守府に着いた。

空は暗くなり、既に夜になっていた。


山城「(ああ…。姉様…。)」―

天龍「(こんな形で戻ってくるとは…。)」


二人は生きて再会できることの喜びと自分たちが迷惑をかけてしまった罪悪感が彼女たちの胸で複雑に絡み合っていた。


車は鎮守府の門を入ってすぐの少し空いたスペースに置かれ、三人は車から降りた。


鎮守府の入り口から入り少し廊下を歩いていると


扶桑「山城!」


三人が声のした方に振り返ると、廊下の向こうに扶桑がいた。その隣には龍田もいた。

目に涙を浮かべる扶桑と夢ではないかというような顔の龍田は天龍と山城の元へと駆け寄ってきた。


龍田「天龍ちゃん!怪我はしてない?何かされた?」

扶桑「山城…。良かった…。生きてて本当に良かった…。」


山城「姉様…。私…。」

扶桑「いいのよ。何も言わなくて…。無事に帰ってきてくれただけでうれしいから。」

山城「姉様!」

扶桑姉妹は涙を携えながら抱き合っている。


天龍「おう…。ただいま…。俺は大丈夫だ…。」

龍田「もう!天龍ちゃんはカッとなるとすぐ周りが見えなくなるんだから。」

天龍「でも、あの時は…。」

龍田「わかっているわ。どうしてあなたがそうしたのか…。」

龍田「でも、取り残されるというのは辛いものよ~。」

いつもの調子で話しているのだろうが、目に浮かべる涙は隠せないようであった。

それを見た天龍は、

天龍「ごめん。悪かった。」

彼女もつられるように涙を流していた。

龍田「もういいのよ。おかえりなさい。」

ヨシヨシ~、っと天龍の頭をなでる龍田であった。


龍驤「おお~!二人とも帰って来たんやな~。」

後から龍驤がやってきた。


山城「龍驤さん。この度はご迷惑をおかけしました。」

龍驤「いいっていいって~。二人とも無事で何よりや。」


再会の喜びに浸る彼女たちだが、それに水を差すように、

男 「再会を喜び合ってる暇はないぞ。もう一度、全員執務室に集まるように招集をかけろ。」


龍驤「わ、わかりました…。」

男の言葉に皆が黙り込んでしまった中、なんとか返事をした龍驤。

そして、そのまま男は執務室へと一人先を行くのであった。



再び執務室に艦娘達が集まった。

全員が集まったのを見計らって、提督用の椅子に座っていた男が立ち上がり話し始めた。


男 「では、今朝話したとおりもう一度おまえ達に問おう。」

男 「ここにいる者は全て私を新たな提督として迎え、従うのか? もしそうでない者がいるのなら前に出ろ。」


艦娘達「…。」


男→蛇提督「よし…。では、本日をもってこの鎮守府の提督として着任する。」


言葉が終わるとともに蛇提督は敬礼をした。

艦娘達もそれに合わせるように敬礼で返した。


蛇提督「今後のことについて話したいところではあるが、もう夜も更けてきた。明日話すことにしよう。」

蛇提督「全員、明日の07:00、執務室に集合だ。」


古鷹「て…提督はどうするのですか?」

古鷹は恐る恐る聞いてみた。


蛇提督「私はこれから自分の荷物を整理せねばならない。部屋に運んでおきたいし確認しておきたいこともあるからな。」


古鷹「手伝いましょうか…?」


蛇提督「いや、大した荷物の量ではない。一人で出来る。皆、明日に備えてよく体を休めておけ。」

蛇提督「これにて解散だ。それと、龍驤はここに残れ。話がある。」


龍驤「えっ…。あ、わかりました。」

龍驤「(なぜ…。うちが…。)」


古鷹「では…私たちはこれで失礼します…。」

そうして、龍驤以外の艦娘達は執務室を出る。そのうちの何人かは心配そうに龍驤の顔を見ながら執務室を後にするのだった。


蛇提督「龍驤、こちらに来い。」


龍驤 「はい…。」


龍驤を呼ぶとともに提督用の椅子に座った蛇提督。その机の前に恐る恐る近寄り立つ龍驤。


龍驤 「話とは何でしょう…?」


蛇提督「ここに来るまでにここの鎮守府のことに関して元帥から少しは聞いて来ているが、まだ詳しいことはわかってはいない。だからおまえにわからないことを聞こうと思ったのだ。」ギラッ


龍驤 「ああ、そういうことですか…。でもそれなら、うちより古鷹に聞いた方がいいですよ。あの娘、ここの鎮守府の初期から配属されていますから。」


龍驤はやはり蛇提督の目が怖いのか反射的に目を逸らしてしまう。

そんな龍驤の姿を見て、察したのかそうではないのか帽子で目を隠すように少し俯いた姿勢で蛇提督は話を続ける。


蛇提督「ああ、書類では古鷹と加古が一番ここの配属歴が長いな。」

龍驤 「それなら…。」

蛇提督「だが、今日見ていて思ったのが、おまえはここの鎮守府の艦娘達のまとめ役をしていると思ったのだ。」

蛇提督「とびかかりそうな龍田を一声で止めていたし、戦艦の山城からは敬われているようだった。初霜が条件を突きつけたときは冷静にその話を聞いていた。必要あれば初霜を助けるつもりでいたのではないか? まぁ、こればかりは私の推測だがな。」


龍驤 「(こいつ、今日のやりとりだけでそこまで見てたんか…。)」


蛇提督「書類を見る限り、実戦経験も他の娘に比べ多い。そういった意味でも皆から敬われているのかもな。」

蛇提督「それにおまえの方が私の質問に率直に答えてくれそうだ。最初は古鷹にしようかと思っていたが私を怖がりすぎて話が進まなさそうだったからおまえに聞くことにした。」


龍驤「そ…それは、どうも…。」

龍驤「(なんや…、うちが思うていたのと違うけど…。でも、油断させといてってのもあり得るから用心に越したことはないな。)」

龍驤は青葉からもたらされた情報のこともあるので、この提督の質問することには注意して答えようと思った。

普通の質問に見せかけて、こちらの弱みを探るつもりなのかもしれない。それなりの観察力があるとわかったのなら尚更だった。


蛇提督「単刀直入に聞いていこう。ここの鎮守府の資材や資源はどうだ?」


龍驤 「細かいことは古鷹の方が覚えていますけど、正直よろしくないです。」

龍驤 「出撃や遠征に出るための弾薬や燃料がないわけではないけど、その時の艦娘の被害状況によっては入渠に使うための資材や弾薬の補給が足りなくなる可能性もあります。高速修復材も大本営から支給されなくなって今は底をついています。」


蛇提督「では、足りない資材や資源はどのように賄っていたのだ。」


龍驤 「前の提督の時は十分な弾薬と燃料の補給、修復もされないまま、立て続けに遠征に行ってた娘もいます。命からがら帰投したときでも十分な資源を獲得してこなかったらひどく怒られました。」


蛇提督「…そうか。秘書艦はいつも古鷹がしていたのか?」


龍驤 「ほとんどがそうでしたけど、古鷹ばかりでは大変だったのでうちや初霜が折を見ながら交代してやっていました。」


蛇提督「工廠や入渠施設の管理もか?」


龍驤 「いいえ。それは軽巡洋艦の夕張が担当しています。機械に強いので…。艦娘達の艤装や兵器の整備、点検、管理も任せています。」


蛇提督「ならば、工廠や入渠施設の事や兵器の事も夕張に聞けばいいのだな?」


龍驤 「一番詳しいのは夕張で間違いないです。」


蛇提督「食料はどうだ? 管理や毎回の食事の担当とか。」


龍驤 「本部からの支給でなんとか回しています。十分な量とはいえませんが、なんとかやりくりしています。」

龍驤 「料理の担当は皆で交代でやっています。昨日は衣笠と古鷹がカレーを作りました。」


蛇提督「そうか…。食料のことも考えておかないといけないな。」

その後、蛇提督は腕を組んで少し考えているようだ。他に聞きたいことがなかったか考えているのかもしれない。

龍驤はそんな蛇提督を未だに緊張した面持ちで見ていた。


蛇提督「そうだ。おまえから私に何か聞きたいことはあるか?」


唐突だった。質問がないかと逆に聞いてきたからなのか、それとも再びあの鋭い蛇目で睨まれたからなのか、龍驤は、えっ…と言いながら少したじろいでしまう。


龍驤「あー…えっと…今回の件で提督に従うだけでは私たちの罪は不問というわけではないのでしょう? また後に大本営から新たに処罰の命令がされるんですか?」


やはり気になるところはそこだ。これだけの事件を起こしてこのような結果で終わるとは思えない。

それとも何か裏でもあるのか。この男がわざわざ牢から出したのと関係があるのか。

それを探るための質問だった。


蛇提督「いや、処置については今日伝えたことだけだ。その後に新たな処置が下るのか私もわからない。」

蛇提督「前にも言ったが、この案件に大本営も手間取ってる暇はないのだ。」


龍驤 「それは、なぜですか?」


蛇提督「詳しいことは明日話すのだが、大本営草案の大規模作戦が近いうちに行われる。その作戦にすべての鎮守府が参加する。」


龍驤 「えっ? うちらもですか?」


蛇提督「無論だ。これ以上深海棲艦どもに好き勝手されないために反攻作戦に出るようだ。私たちもそのために準備をしていかなくてはならない。」


龍驤 「(本土の防衛という名目で実質前線から外されてろくな出撃の命令もされなくなって…。正直、使えない艦娘の溜り場のような鎮守府になっていると思っとったのに…。)」

龍驤 「(ほな、その作戦を行うために私たちの処置は後回しになったってことかいな…? これはなんや、きな臭くなってきたな…。)」

龍驤 「では、その作戦指揮をするために前任の提督の代理としてきたということですか?」


蛇提督「まぁ、そういうことだろうな。ここ最近提督の素質を持った者がいないのが、私を呼んだ理由の一つだろうな。」


龍驤 「提督は妖精が見えるので?」


蛇提督「ああ、見える。」


提督の素質、それは単に艦娘たちのお手伝いをしている小人のような妖精が見えるかということである。

見えればそれなりの意思疎通もできるため、提督が妖精に直接命令を出すことも可能である。

だが見えないからといって、決して提督になれないわけではない。艦娘が提督と妖精の橋渡し役をすればいいだけのこと。不自由なことはない。

だから、いくら人材不足とはいえ、大罪を犯して服役をしていた男を牢から出す理由にはならない。

龍驤は聞けば聞くほど疑問が残ることに頭を悩ませていた。


蛇提督「他に質問は?」


龍驤 「いいえ。うちはもう無いです。」


蛇提督「そうだな。このくらいにしておくか。これ以上は遅くなる。明日のために体を休ませておけ。」


龍驤 「わかりました。失礼します。」


龍驤は敬礼をしてそのまま執務室を出て行った。


蛇提督「さて俺も身支度をせねばな…。」

そう言って彼は、執務室とつながっている提督用の部屋へと入っていくのだった。



龍驤「…。」

先ほどの蛇提督とのやりとりを思い出しながら考え込むように廊下を歩いていた。

その時、龍驤の前に龍田が現れた。待っていたという感じである。


龍田「何を話されたのですか?」


龍驤「それが…。」


龍驤は先ほどの蛇提督との会話のことを龍田に話した。



龍田「それは、妙な話ですわね~。」


龍驤「そうやろ。」


龍田「まぁ…明日になってみればわかるのでは~?」


龍驤「そうやな。今ここでうちらが考えても意味ない。」

龍驤「今日はもう疲れたで~。うちはもう早めに寝ることにするわ~。」


龍田「そうですね~。ではまた明日~。」


龍驤「ほな。お休み~。」


その夜、天龍と山城が無事に帰ってきたことを互いに喜び合った艦娘達だったが、しばらくその後はやけに静かになった。

鎮守府の艦娘達はそれぞれの思いを秘めながら床につくのであった。



無謀な作戦と戸惑い
 



07:00 再び艦娘達は執務室に集合した。

最初の何人かが入ったときには既に蛇提督は提督用の机で椅子に静かに座っていた。

顔の前に両手で橋を作るように組みながら、机に肘をつけている。


夕張「あ、あれは…! 碇ゲン○○!」

アニメ好きの彼女だからこそわかる某有名ロボットアニメの司令のあのポーズ。

帽子を被っていることとサングラスをかけていないこと以外はほぼポーズは同じ。

だが、帽子と手の間から覗き見える細く鋭い蛇目がさらに恐さを増す。



蛇提督「では早速、今後のことについて話していくぞ。」

全員が揃ったのを確認した蛇提督は話を切り出した。


蛇提督「近々、大本営草案の大規模反攻作戦が行われる。その作戦に我々も参加する。」


古鷹 「反攻作戦ですか?」


蛇提督「そうだ。そしてその作戦の内容はこうだ。」

蛇提督「製油所地帯として不可欠である南西諸島方面を奪回するために佐世保鎮守府、呉鎮守府が合同でこの作戦の指揮をする。そして、以前の輸送ルートの拠点で会ったマニラ、レイテ周辺海域、またブルネイ泊地を経由しつつインド洋からの支援物資輸送ルート確保のためにシンガポール周辺海域を制圧することが今回の作戦の最終目標である。」


龍驤 「では、うちらはその後方支援ですか?」


蛇提督「いや、我ら横須賀鎮守府は敵の前線基地があると思われる硫黄島海域の攻略だ。」


夕張 「確か硫黄島はここから南に約1200㎞離れた無人島でしたよね?」


蛇提督「そうだ。本土の襲撃をする深海棲艦が集まる拠点であるとされているところだ。近くまで遠征していたこちらの艦隊の偵察機の報告でいくつかの深海棲艦の艦隊が目標の周辺海域に出没していることと、泊地棲鬼らしき姿も確認されている。我らでこの拠点を叩き、海域を制圧することが我らの目標である。」


衣笠 「その情報は聞いたことあります。その時の遠征艦隊は索敵の最中、会敵して応戦したものの敵は予想以上の数で、命からがら撤退してきたと聞いております。」


龍田 「そうなると、かなりの艦隊規模で攻略しないといけないですわよね~? 私たちの他にこの硫黄島攻略に参加する鎮守府は?」


蛇提督「いや、我々だけだ。」


初霜 「そんな!?まだ、大湊警備府と舞鶴鎮守府がいるじゃないですか?」


蛇提督「その二つは我々が作戦を遂行している間、本土の防衛ということで我々の留守を守る任務に入る。」

蛇提督「ほとんどの海域を深海棲艦の制海権となっている今、留守を狙って襲撃されることは簡単なことだ。それに新造艦を作れる呉鎮守府と佐世保鎮守府の工廠、及び陸路を通じての海外からの支援物資を輸送する唯一のルートである対馬海域の防衛は必須だ。」

蛇提督「よって硫黄島海域攻略の作戦は我々だけだ。あと、南西諸島方面攻略組より先に仕掛けなければならない。この作戦は資源確保が優先される作戦なので、南西諸島方面攻略組が挟撃されるのを防ぐためにこちらになるだけ引きつけなければならないからな。」


天龍 「それじゃあ俺たちは囮ってことかよ!?」


蛇提督「そういうことだろうな。」


天龍 「てめぇぇ!! 最初から俺たちを捨て駒にする気だったのか!?」


龍田 「天龍ちゃん! 落ち着いて!」


蛇提督「現状況を打開するためにはこれしかない。やらねばならないことだ。」

蛇提督「それに意味の無い作戦ではない。硫黄島海域の制圧をした後はさらに南のマリアナ諸島沖を目指しつつ、制圧に成功すればさらに南西諸島方面を東側から仕掛けられるようになる。敵の輸送ルートも探れるようにもなるので、作戦の幅が広がるのだよ。」


衣笠 「でもそれは制圧に成功すればの話ですよね? 硫黄島海域の深海棲艦の数が予想以上に多かったなどの理由で作戦が困難になった場合はどうするのですか?」


蛇提督「それでも硫黄島に潜む泊地棲鬼の撃滅を優先。それがかなわずともより多くの敵艦隊を撃滅しなければならない。南西方面に少しでも多く援軍を行かせないようにするためにもな。」


天龍 「つまり俺たちが死ぬまで敵を倒し続けろ…。そういうことでいいんだよな!?」


龍田 「だから天龍ちゃん! 落ち着いて!」

もう我慢できそうにない天龍は蛇提督につかみかかりそうだが、それを龍田が止めている。


二人がそうしている間に他の艦娘達も隣の者と何かを話したり、不安な表情を浮かべてただ立ちつくしていたりと妙に騒がしい雰囲気となっていた。


初霜 「て…、提督は…。」

初霜が言葉を発したとき、全員がそちらへと耳を傾ける。


初霜 「提督は、この作戦が成功できるものと信じているのですか?」

初霜の質問に今度は艦娘達が質問を問いかけた相手を見る。


蛇提督「成功するもしないもその結果はこれからの我々の取り組み次第だ。」

蛇提督「だが、この作戦を任された身である以上私は最後まで責任を持ってやるつもりだ。」


龍驤 「作戦決行の日はいつなんでしょうか?」


蛇提督「具体的な日付はこれからだが、三ヶ月後が目安だ。」


龍驤 「さ、三ヶ月後? ちょっと先のようなすぐのような…。」


蛇提督「ああ、出撃に使う必要な資源や資材を用意する期間が必要だからな。」

蛇提督「どちらの方面も海域の制圧に成功した後のことも考えればそれだけの蓄えが必要となる。」


龍驤 「でもそれは本部から必要な分の供給がされるんですよね?」


蛇提督「いや、我々の方はほとんど無いに等しい。」


龍驤 「えっ?」


蛇提督「硫黄島海域に出撃する艦隊の必要な片道の燃料の供給はされることになってはいるが、それだけだ。」


衣笠 「そ、そんな!? それじゃまるで帰ってくるなと言わんばかりに…。」


蛇提督「だからこそ、三ヶ月の猶予がある。攻略する方法、決行日などはこちらで戦力の把握をしつつ最適な戦いができるようにするための自由が与えられてる。」


龍驤 「せめて…、空母の一隻を他の鎮守府からこちらに応援として回せないのですか? 航空戦力がうちだけでは辛いのでは?」


蛇提督「それはできない。全ての航空戦力は南西方面の早期攻略のために使われる。ミッドウェーでの敗北で一航戦と二航戦を失っている今、こちらに回せる航空戦力は無い。」


龍驤 「…。」


蛇提督「それで具体的に何をしていくかいうことだが、まずはおまえ達の力量がどれほどのものか見極めていくためにも演習場を使ってのこの鎮守府内だけで演習を近々していきたいと思う。」

蛇提督「夕張、演習用の砲弾と艦載機、魚雷の製作は可能か?」


夕張 「えっと…妖精達と協力し合えばできなくはないですが、ただ資材がそれほど無いのでどれだけできるか…。」


蛇提督「ならば、この会議の解散後、工廠で資材の確認を。現在ある兵器や装備のいるものいらないものを仕分ける。後で私も工廠の様子を見に行こうと思う。」


夕張 「えっ!?あ、はい。(やばい!皆に内緒に作ってた私の作品、隠しておかないと!)」


天龍 「ちょっと待った。演習なんてやってる暇があんのか?」

天龍がけんか腰に質問をする。

天龍 「資材や資源の調達も考えるなら、そのための艦隊を編成してすぐさま出撃した方がいいんじゃねぇのか? 俺たちなら大体どこの海域で拾い物しやすいかわかってるしな。」


蛇提督「その艦隊編成のために演習でおまえ達の長短を見極めようというのだ。闇雲に出撃して何も獲得せずに帰ってきては時間の無駄だからな。」


天龍 「何だよ、それ? 俺たちが出来損ないとでも言いたいのか?」


蛇提督「太平洋のほとんどの制海権が奴らに奪われている以上、どのような艦隊がどのような規模でどのように哨戒、移動しているか索敵が困難な状態で情報が少ない今、出撃するのは危険だと言っている。」

蛇提督「それにもし出撃するのならば、硫黄島海域攻略作戦を想定しての艦隊を編成し鎮守府近海から徐々に索敵範囲を広めながら情報収集しつつ、その編成での実戦経験を積みながら行った方がより効率的であると思うがな。」


天龍 「…。」

龍田 「それなら出撃はすぐにしないとして…。工廠の仕分けでは足りなかった場合の資材の調達はどうするのですか?」


蛇提督「私が軽トラックを借りて近くの廃棄場や陥落宣言された鎮守府の跡地から使えそうなものを拾い集める。許可がもらえた公共施設の跡地からでも集める。」


古鷹 「それは大変すぎませんか? どれだけ集められるかもわからないのに…。」


蛇提督「出撃よりかはリスクが低い。」

蛇提督「古鷹、君にはこの鎮守府の倉庫に行って、資材と資源の在庫を調べて、その詳細を記した資料を私に提出してほしい。」


古鷹 「は…はい。わかりました。」


蛇提督「今日の料理担当は誰かね?」


扶桑 「私たちです。」

扶桑と山城が手を上げる。


蛇提督「そうか。すまないが私の分も作ってほしい。」


扶桑 「わかりました…。」


蛇提督「それと提督の補佐をする秘書艦だが、これは何日かおきに交代で皆に勤めてもらう。」

蛇提督「おまえたちのことは簡単な戦歴などが書かれた個人資料を読ませてもらってはいるが、それだけでおまえたちのことを理解できるとは思っていない。そのため、得意であろうとそうでなかろうとやってもらう。」


艦娘達「…!」


蛇提督「そして最初は…、龍驤、おまえが最初だ。」


龍驤 「あ…うちがですか?…了解です。(いや~な予感はしてたけどな…。)」


蛇提督「他の者は待機だ。」

蛇提督「既にしていると思うが、各自艤装の点検はしておけ。それ以外は命令されればすぐ動けるように待機。ある程度自由にしていてかまわない。」

蛇提督「何か質問がある者は…?」


艦娘達「…。」


蛇提督「無いようならば、これにて解散だ。」


古鷹 「失礼します。」

古鷹のかけ声と敬礼に合わせて、他の艦娘も敬礼をして龍驤以外は執務室を出て行った。



龍驤 「えっと…、よろしくお願いします…。」


蛇提督「昨日に続いてすまないな。」


龍驤 「いえ、うちは大丈夫です…。」


蛇提督「早速だが、ちょっとこっちの書類作業を手伝ってくれないか?」

そう言って彼は机の引き出しから書類の束を取り出し、机の上に置いた。


龍驤 「ぅえっ…。たくさんありますね。昨日来たばかりなのに多いんじゃないのでしょうか?」


蛇提督「私の分もあるが、ほとんどが前任の提督のやり残したものだ。事件の後、書類作業はしなかっただろう?」


龍驤 「はぁ…まぁ…そうなんですが…。」


蛇提督「私のわからないこともあるから教えてもらう。二人で協力してやればなんとかなるだろう。」


龍驤 「わかりました。」


蛇提督「さあ、ぼーっとしている暇はない。すぐに取りかかるぞ。」




――食堂――


天龍「チクショー! 上の奴ら最初から俺たちを捨て駒にする気だったんだ!」


執務室を出た艦娘達は朝食をとるために一同が食堂に集まっていた。


龍田「大方、あの提督も無茶な作戦の責任をとらせるためだけに雇われたというところね~。」


衣笠「それもだけど、この作戦を引き受けようとした人がいなかったのよ。他の鎮守府の提督も評判悪いって青葉から聞いているし。」


加古「しかも提督に暴行する艦娘がいるところにやってこようとする人なんていないだろうしね~。」


天龍「…。」


古鷹「加古!」

加古「あ!ごめん! 天龍や山城を責めてるわけじゃないんだ。」


龍田「毒には毒を、罪人には罪人を、っていったとこかしらね~。」


扶桑「皆さんお待たせしました。」

山城「さあ姉様特製カレーですよ。」


扶桑姉妹が朝食を持ってきた。


初霜「私も手伝いますね。」

雷 「初霜ちゃんがやるのなら私も手伝うわ。」

電 「わ、私も…、なのです。」

暁 「レ、レディーなら当然よ。」

響 「…。」


扶桑「あら、皆ありがとう。」


初霜たちが配り終え、皆で朝食を食べ始める。


扶桑「私、提督と龍驤さんに朝食を届けてきますね。」

山城「お姉様、それなら私も。一人で持って行くのは危険だわ。」

扶桑「じゃあお願いするわね。」

そう言って二人は食堂を出て行った。


古鷹「龍驤さん大丈夫でしょうか…。」

加古「昨日に続いて今日だからね。」

古鷹「変な意味で目をつけられてなければいいですけど…。」


龍田「昨日呼ばれた理由を龍驤ちゃんに聞いてみたけど、単に提督の質問を率直に返してくれそうだったからだそうよ~。」


天龍「どうだか。適当な理由つけて何か探ろうとしたのかもしれないじゃないか。」


龍田「聞いてきたことは現在の鎮守府の状況だけだったらしいわ~。」


夕張「今はそんなに心配する必要ないですよ。何か問題起こして都合が悪くのはあちらの方だと思いますし。」


加古「何でさ?」


夕張「仮にも彼は一生牢から出れなかったはずの人ですよ。それが決して良い条件ではないけど外に出て自由になれた。しかし、もし彼がまたは私たちの方で不祥事を起こしたとしても提督の管理責任ということで結局牢に戻ることになると思います。元帥もそれを見越して取引したのではないかと。だから、あちらも下手な動きができないと思います。」


衣笠「そうか、なるほど。だから最初は真面目に仕事するふりをするというわけね。」


夕張「そういうこと。演習を理由に出撃をしない理由もそのためである可能性もあるのよ。」


龍田「大規模な作戦の前に余計な損失や失態を避けたいということね。」


天龍「ふん。つまり奴はただの腰抜けということだな。」


初霜「でも、あの人は…。」


雷 「どうかしたのですか? 初霜ちゃん。」


初霜「作戦の指揮を任された以上、最後までやるって…。」


天龍「だからそれは嘘なんだよ。きっと今頃どう逃げるか考えているんだろうさ。」


初霜「別に何か特別なことをしてほしいとは言わないし期待してないけど、でも提督がいなければ私たちは作戦に参加するどころか海に出ることも許されない。一隻でも一人でも救うための戦いをする機会をくれれば私はそれだけで良い…。」


電 「初霜さん…。」

響 「…。」

暁 「わ、私は一人前のレディーとして見てもらえればそれでいいのよ。」

雷 「はいはい。」

暁 「何よ、雷。文句でもあるの?」

雷 「だって、唇の横にカレーをつけてる子が見てもらえるわけ無いでしょう!?」

暁 「えっ!? どこどこ!?」アセアセ


夕張「ごちそうさま。」


衣笠「ずいぶんと急いで食べてたわね?」


夕張「だってあの提督、後で工廠に来るって言ってたから、それまでにいろいろうと片付けないと。」

夕張「(見られるとまずい物も多いし…。)」

夕張は急いで自分が使った食器を洗い、食堂を出て行った。


古鷹「あっ、そうだ。私も早いこと倉庫に行って資材や資源の確認をしてこないと。」


初霜「それなら私も手伝いましょうか?」


古鷹「良いの?」


初霜「はい。特にやることもないので。」


電 「なら私も…。」

雷 「私も頼ってもらって良いのよ?」

暁 「妹たちが行くのならお姉さんである私も行くのが当然よね。」

響 「ハラショー」


古鷹「気持ちはありがたいけど、そんなに多く手伝う必要は無いよ。」

古鷹「そうだ。夕張さんの手伝いに行ってもらった方が良いかな。こちらには二人来てもらえれば大丈夫だから。」


雷 「わかったわ。それなら古鷹さんの方は初霜ちゃんと電に任せるわ。私と響と暁は夕張さんの方を手伝いましょう。」

暁 「ちょ、ちょっとなに勝手に仕切っているのよ。」

雷 「良いじゃない。これで良いと思ったことを言っただけよ。」

暁 「そういうのは一番の姉である私に権限があるでしょう!」モー!

雷 「暁じゃ頼りないし、私の方が適任だわ!」

暁 「何ですってー!」

電 「はわわ…。二人ともケンカはよくないのです。」

響 「…。」モグモグ


古鷹「え…えっと…。それじゃあ皆よろしくね…。」ハハハ…

古鷹「加古はどうするの?」


加古「私? う~ん…私は寝てようかな~。」


古鷹「もう加古ったら寝てばかり。いつも寝てるのを前任の提督にしょっちゅう怒られてたじゃない。」

古鷹「今回だって見つかったら、どうなるかわからないよ…。」


加古「大丈夫、大丈夫。今度はうまくやってみせるよ。」

古鷹「はぁ~…。」


食堂に扶桑と山城が戻ってきた。


扶桑「あれ? 夕張さんはいないのですか?」


衣笠「夕張なら今さっき工廠に行ったとこだよ。」


扶桑「あら、それでは行き違いになってしまいましたか…。夕張さんに伝えることがあったのに…。」


雷 「伝言なら任せて。私たち朝食終えたら工廠に行くつもりだから。」


山城「10:00に提督が工廠に行くと伝えておいてほしいわ。」


雷 「わかったわ。」


龍田「向こうの様子はどうでした~?」


山城「特にないわ。ただ黙々と書類仕事してたわ。ただ…。」


古鷹「ただ?」


山城「あいつが青葉のこと知ってたようなの。海軍養成学校にいたのなら当たり前かもしれないけど、青葉があいつのことを調べてることを知っているのなら青葉にも危険が及ぶかも…。」


衣笠「うそ!? は、早く青葉に伝えないと。」


天龍「あいつが今は何もしなくともいつか尻尾をだすさ。俺はあいつをなるだけ監視してるぜ。」


龍田「私や天龍ちゃんが秘書艦をやるときは良いとして、駆逐艦の娘達がやるときはよく注意しないといけないわね~。」


衣笠「とにかく皆で協力していきましょう。もう二人だけに辛い重荷を背負わせたくないわ。」


山城「衣笠…。」


衣笠「私もそろそろ自分の部屋に行こう。青葉に手紙を書きたいからさ。」


扶桑「私たちも朝食食べましょう。」

山城「はい。お姉様。」


そして、食堂にいた艦娘達は皆それぞれが自分のするべきことをするため、その場を解散した。


――― 時は少し遡り…… ―――



―――執務室―――


蛇提督「…。」カキカキ

龍驤 「…。」カキカキ


二人は無言のまま、書類仕事をひたすらやっていた。


龍驤 「(気まずい…。あれから一言も話していない。いやその方が良いんか…。)」

(グーーーー)

龍驤 「(あかん。お腹へってきてもうたわ。そういや朝食まだやったわ。)」


コンコンコン

ドアのノック音がした後、ドア越しに

扶桑 「提督、朝食をお持ちしました。」


蛇提督「そうか。入れ。」


龍驤 「(おお!ナイスタイミングやわ~)」


扶桑 「失礼します。」

扶桑姉妹が朝食を手に執務室へと入る。


蛇提督「そこの空いてるところに置いておけ。」


扶桑姉妹は提督机の書類が置かれていないところに朝食を置いた。

山城は警戒しているのかずっと蛇提督を睨みつけている。


蛇提督「それと君たちに伝言を頼みたい。」


扶桑 「何でしょう?」


蛇提督「夕張に10:00に工廠へ行くと伝えておいてくれ。」


扶桑 「10:00ですね。わかりました。」


蛇提督「龍驤、切りの良いところで中断して朝食を食べ始めておけ。」


龍驤 「提督はどうするんですか?」


蛇提督「私ももう少し書いたら切りが良いから、そしたら食べる。


扶桑 「…。」

扶桑は何か言いたそうである。


蛇提督「どうした? もう行っても構わんぞ?」


扶桑 「提督、少しお尋ねしてもよろしいでしょうか…?」


蛇提督「何だ?」


扶桑 「今度の作戦は提督が着任する前から案が出ていたのでしょうか…?」


蛇提督「ああ。そのようだ。本当は前任の提督が指揮を執るはずだったようだ。」


龍驤 「(せやから前の提督はあんなにイライラしてたやんな。作戦のために資源もほとんど支給されないのも同じやったのかも。)」


蛇提督「まぁそれができなくなったため、私が代わりに派遣されてきたということだろう。」


扶桑 「提督はこの作戦について疑問に思われなかったのですか? 他の鎮守府の協力を得られない以上、私たちだけの戦力で硫黄島海域を攻略できるのかどうか…。」


蛇提督「私もそのように考えたこともあったが、それ以外に方法がない。南西方面への進出も必要だが、すぐ目の前にある敵の前線基地を無視して通るのも不安がある。ならばいっそこちらからうってでるのが理にかなっているのだ。」


山城 「そんなこといって、自分が牢から出るためならば条件なんてどうでもよかったのでしょう?」


蛇提督「うん? ああ、そうか。私のことを知っているのだな。さしずめ、元帥付の秘書艦の大淀か取材好きの青葉あたりから聞いたのだな。」


山城 「(!? 大淀はともかく青葉のことまで知ってる。それなら青葉にも気をつけるよう衣笠から伝えてもらうようにしないと…。)」


蛇提督「今朝も言ったが作戦を任された以上は最後までやるつもりだ。たとえ勝利する確率が1割も満たないような作戦でもな。」


扶桑 「…わかりました。提督のそのお言葉を信じます。では失礼します。」


蛇提督「ああ。」


扶桑姉妹は執務室を出て行った。


蛇提督「さあ、朝食を済ませて書類仕事を片付けるぞ。」

龍驤 「は、はい。」



―――鎮守府廊下―――


山城「お姉様。さっきはなぜあのようなことを聞いたのですか?」

扶桑「えっ?」


扶桑は何か考えていたのか山城から聞かれた途端、扶桑は少し戸惑ったようにも見えた。


扶桑「前の提督も作戦については知っていたのか知りたくて…。」


山城「そうですね。きっと知っていたからあんなに遠征や資源確保に躍起になっていたのね。」


扶桑「でも、うまくいかずだんだん追い詰められていって…。」


山城「それでも姉様に手を出そうなんて言語道断よ。」


扶桑「…。」


山城「もしも今度のあいつも姉様や他の娘に手を出そうとしたら、その時私は…。」


扶桑「やめて。無茶はしないで。もう私のために山城を巻き込みたくないの。」


山城「姉様?」


扶桑「(もう誰かが傷つくのを見たくない…。)」


山城「姉様、どうかしたの? 具合でも悪いの?」


扶桑「平気よ。私たちも朝食がまだですわね。早く食堂に戻りましょう。」


山城「は、はい。」


山城は怪訝な表情で扶桑の後ろ姿を見ながら、その後を追いかけた。







龍驤の後悔



―――工廠―――


雷 「これをあっちに運べば良いのね?」

夕張「うん、そうよ。」


夕張の手伝いに雷、暁、響が来ていた。

工廠にいる妖精達も総動員して散らかったままだった資材やら何やらを整理していた。

そんなにひどい状況ではないのだが、あの提督のことだ、何を言われるかわからないからできる限り綺麗にしておいて損はないだろう。

夕張は以前に書いといってあった工廠の資材や武器のリストを見ながら確認作業をしている。

時間はそろそろ10:00になろうとしていた。


蛇提督「失礼するぞ。夕張はいるか?」

蛇提督と龍驤がやってきた。


夕張 「はい。私はここに。」


蛇提督「早速だが中を見させてもらうぞ。」


夕張 「あ、提督。こちらをご覧になってください。こっちの方がわかりやすいですよ。」


蛇提督「うん? おお、リストを作ってくれたのか。どれどれ…。」


蛇提督がリストを見ている間、夕張が龍驤にこっそり近づき、蛇提督に聞こえない程度の声で

夕張 「大丈夫でしたか?」

龍驤 「うちは大丈夫。今のところ特にないで。」

夕張 「そうですか。何かあったらとにかく大きな声で助けを呼ぶんですよ。」

龍驤 「おいおい。うちは子供じゃあらへんで…。」


雷 「夕張さ~ん。ゴミを捨ててきたよ!」

ゴミを捨てに行っていた雷、暁、響が帰ってきた。


雷 暁 響「「「…っ!!」」」

だが、既に工廠に来ていた蛇提督を見つけるなり、固まってしまった。


蛇提督「何だ、おまえ達もいたのか?」

至って普通の質問のはずなのだが、やはり目のせいもあるのかどこか威圧を感じて怯えてしまう駆逐艦の三人。


雷 「そ、そうですよ…。私はよく皆に頼られるのでこんな手伝いもお手の物なのですよ…。」

雷が声を引きつらせ、いつもの口調とはだいぶ違うがなんとか返事をすることができた。


蛇提督「そうか。」

雷の言動に一切触れず、一言言うだけでそのまま手に持っていたリストに再び目を戻した。


雷達は少し安堵の表情を浮かべていた。

そのやりとりを見ていてヒヤヒヤしていた夕張と龍驤も少し安心した。


蛇提督「夕張、これで全部なのか?」


夕張 「い、いえ。まだもう少しあります。あと少しで全ての確認を終えます…。」

少し慌てて答える夕張。


蛇提督「ならば、完成したらこの写しを私に提出しろ。」


夕張 「は、はい。」


蛇提督「現段階でわかる範囲でいらない物を廃棄して、そこからできた資材を使って演習用の武器を作ることは可能か?」


夕張 「可能です。どのくらいできるか資材を集めてみなければわかりませんが…。」


蛇提督「構わない。各艦の主砲の砲弾もだが演習用の艦載機もより多く作る必要がある。」


夕張 「それはどうしてですか?」


蛇提督「今度の作戦もその後も、対空戦闘の重要性があると踏んでいる。十分な航空戦力があればいいのだが今はそれを見込めないし、いつも空母を配備できるとは限らないからな。駆逐、軽巡、重巡の対空戦闘の練度を日頃から上げておく必要があるだろう。」


龍驤 「…。」


蛇提督「最初は魚雷も爆雷も作って対艦、対空、対潜全てを想定しておまえ達の練度を確認していく。資材が足りず全てできずとも資材の集まり具合などを見ながら、訓練の優先順位をつけて順番も考えていく。」


夕張 「わかりました。」


蛇提督「あとそれと…。」

そう言うと何やらあたりを見渡す蛇提督。


蛇提督「そこにいたか。」

艦娘達と蛇提督のやりとりをずっと見ていた妖精達を見つけ、近づいていく。


妖精達「ヒャアーー」

小さな物陰に隠れてしまう妖精達。


蛇提督「昨日着任したばかりの提督だ。よろしく頼む。」


妖精達「ワーイ!」


夕張 「(あ、あれ? 妖精さんが喜んでる?)」


前任の提督の時は彼がいやだったのか皆が避けるような感じだった。前任の提督が荒れ始める以前、初めて会ったその時からだ。

もしかしたら、妖精と言うだけにその人間の気質を感じ取る能力を持っているのではないかと夕張は考えていた。

それならば、今度の提督は…。

いやいや、妖精達すら騙せるほどの凄腕かもしれない…。

どちらにしろ今のところなんともいえないこの状況では今後の彼の動向を見ているしかないと、夕張は思った。


蛇提督「よし、次は倉庫の方へ行くぞ。様子だけ見ていく。」

龍驤 「は、はい。」

二人は工廠を出て行った。


二人の姿が見えなくなった後

雷 「ふぅ~、怖かったわ。 響、大丈夫だった?」

響 「…。」コクコク

暁 「さすが、響ね。我が妹ながら誇りに思うわ。」

雷 「そういう暁は怖くなかったの?」

曉 「と、当然よ!」

雷 「とか言って、立ちながら気絶でもしてたんじゃないの?」

曉 「そそそ、そんなことないわよ! あ、あるはずないじゃない!」


夕張「(すごい動揺してる…。)」


雷 「もうしっかりしてよ! ああいう時こそレディーの見せ所じゃないの?」

曉 「わ、私が出る幕では無いと思っただけよ。」

両手を腰に当てて、えっへんと言わんばっかりの強気な態度ではあったが、顔が心なしか引きつっているようにも見える。


夕張「あはは…。」



―――――資材倉庫―――――


古鷹「えっと…こちらの確認は終えたのでこれはあちらに片付けて今度はこれの確認を…。」

電 「はい、なのです。」

初霜「古鷹さーん。こちらの確認終えましたー。」


古鷹達が資材や資源の確認をしていた。


蛇提督「少し邪魔するぞ。」


古鷹達「「「…!!」」」


突然、蛇提督と龍驤が資材庫へやってきた。

来るとは聞いていなかったので三人は驚いた。


古鷹 「あ、提督に龍驤さん…。どうしたのですか?」


蛇提督「資材庫の様子を見に来ただけだ。鎮守府に来てからまだゆっくり見回っていなかったからな。」

蛇提督「龍驤に頼んで案内をさせてもらっている。」


古鷹が龍驤の方をチラリと見る。

古鷹の視線に気づいた龍驤は首を縦に少し振って、そうやでっと無言で告げた。


蛇提督「資材庫の整理はどこまで出来たのだ?」


古鷹 「八割方終わったといったとこでしょうか…。」


蛇提督「仕事が早くて何よりだ。」


古鷹 「前から私が管理していたので…。」


蛇提督「整頓も兼ねてやっているようだが、資材庫の中は全体的に綺麗だ。普段から管理が行き届いている証拠だな。」


古鷹 「私にはこのぐらいしかできませんから…。」


蛇提督からは何ともいえない圧を感じて、怯えながらもなんとか答えている古鷹。

それを同じように怯えながら見ている電と心配しながら様子をうかがう龍驤。

だが、初霜だけはただジーっと蛇提督を見続けている。


蛇提督「おまえ達も手伝いご苦労。」


初霜 「はい。」

電  「あ、はい…。なのです。」


二人の返事は対照的だった。

初霜はすぐさましっかりとした返事だったが、電は後から合わせるように慌てて返した。


初霜 「あ、古鷹さん。お昼の時間ですね。」


その言葉に近くにあった時計を皆が見やる。

時計の針は12:00を回っていた。


古鷹 「あ、もうこんな時間…。提督、一度休憩してお昼にしても構わないですか…?」


蛇提督「ああ、構わんぞ。龍驤も休憩がてら昼食を食べに行っても良いぞ。」


龍驤 「そ、そうですか…。ではお言葉に甘えて昼食を取ってすぐに戻ります。」


蛇提督「いや、急ぐ必要は無い。14:00に執務室に来ればいい。」

蛇提督「さて、自分の分の昼食を取りに行くとするか。ついでに食堂も見ていこう。」



―――鎮守府内廊下―――


蛇提督の後ろを少し離れて歩く龍驤、古鷹、初霜、電。

蛇提督に聞こえないようにしながら話をする。


龍驤「古鷹、さっきは大丈夫やったか?」

古鷹「はい…。」

電 「私も怖かったのです…。」

龍驤「まぁ、特に何も起きなくて良かったんやけどな~。」

初霜「皆さん大丈夫です。もし何かあったら大きな声で助けを呼んでください。すぐに私がかけつけますから。」

電 「頼りになるのです。」

古鷹「初霜ちゃんは強いですね…。」

龍驤「お、おう。(あれ?これうちも入っとる?)」


そんなことを話してるうちに食堂にたどり着いた。


―――食堂―――


蛇提督「ふむ、食材は先ほど言ったところで全てか?」


古鷹 「はい…。そうです。」


蛇提督が食材を確認していた。


蛇提督「カレーしか作れない材料しかないな。これでは他の料理を食べる余裕もなかっただろう。」


古鷹 「前任の提督が節約のためだと言って料理してもカレーだけだと言われていたので…。」


龍驤 「そんな提督も私たちの見てないところで違うのをどこかで買って食べてましたけど。」


蛇提督「鎮守府の資金も確かに多いと言えんが、食材のことも考えておこう。」


古鷹 「わかりました。お願いします。」


蛇提督「では、私は執務室に戻る。」


龍驤 「了解です。」


そう言って蛇提督は昼食であるカレーを手に食堂を出て行った。

それを見送った龍驤達はふぅーっと息を漏らした。


龍田「ひとまず安心したと言ったところだわね~」

天龍「そのようだな。」

龍驤「うわぁっ!?」


龍田と天龍がどこからか湧いて出てきた。


龍驤「二人ともいつからそこにおったん!?」


龍田「提督と龍驤ちゃん達が工廠へ行くときからずっと様子を見てたんですよ~。」

天龍「何かあればあいつをぶっ飛ばしてやったのによ。」

龍驤「そうだったんか…。」


龍田「近くで見ていてどうでした~?」


龍驤「どうにもようわからん…。」


天龍「というと?」


龍驤「見た目も声も怖いんやけど、見てる分には真面目に仕事をしている風にしか見えへんし…。最初に会ったときのように何か脅してくるっちゅうわけでもなく、むしろ必要最低限なことしか話さんしな…。」


天龍「それがあいつの狙いさ。最初は俺たちを安心させといて油断させるのさ。前のあいつだってそうだった。」


龍驤「そうかもしれへんけど…。」


龍田「何はともあれ、もうしばらく様子を見ましょう。龍驤ちゃん、何かあったら大きな声で助けを呼んでね。」


龍驤「あ、ああ。(うち…、皆にどう思われとんのや…。)」



―――鎮守府内廊下―――


その後、皆で昼食を済ました龍驤は14:00の時間が近づいていたため執務室へと歩いていた。

龍驤「はぁ~。うちは皆から頼りない奴って思われとんのかな~。ま、うちは確かに赤城や加賀のような正規空母じゃあらへんし…。見た目も強そうに見えへんし…。」


独り言をしながら執務室のドアの前にたどり着く。


コンコンコン

龍驤「龍驤です。失礼します。」


だが、ドアの向こうから蛇提督の声がしない。


コンコンコン

もう一度、ノックをしてみる。

だがやはり、返事がない。


龍驤「(まさか、皆が言っとったように逃げた?それとも怪しいことを…?中に入るのが怖いけどとにかく早く中を確認せんと…。)」


龍驤「失礼します。」


龍驤はドアをおそるおそる開け中を覗いてみた。

だが、蛇提督は提督用の机の座席に座っていた。

何やら考え込んでいるような雰囲気である。


龍驤 「あの。どうかしたんですか?」


蛇提督「うん?ああ、もう来ていたのか。すまない、少し考え事をしていてな。」


龍驤が机に近づいてみると、机の上に太平洋を中心にした世界地図が広げられていた。

西はインド洋がありインド半島の東海岸までが、北はアリューシャン列島などの北方海域、南はオーストラリア大陸北陸沿岸の海域、東はアメリカ大陸の西海岸までの地図であった。

そして、地図の上には何やらおはじきのような白い石と黒い石を各所に所々置かれていた。


龍驤 「何をしてたんですか?」


蛇提督「これか?これは深海棲艦と艦娘の戦争が始まってこれまでの索敵による報告や会敵した場所の記録を見ていたのだよ。」


そう言って地図に横に置かれていた本を手に取り龍驤に見せた。


龍驤 「なぜそのようなことを?」


蛇提督「敵を知り己を知れば百戦危うからず。深海棲艦の動きや狙いが少しでもわかれば今後の作戦の計画を立てやすくなるからな。」


龍驤 「それはそうなのですが、それを見て何がわかるというのですか?」


蛇提督「まだざっと見ただけで断定はできないが、ミッドウェーでの戦いを機に深海棲艦側の動きが違う気がする。」


蛇提督「ミッドウェー以前では、艦隊運営に必要な資源豊富な海域や輸送船をかぎつけるような形で出没することが多かった。だが、ミッドウェー以降はこちらの作戦目的や進攻ルート、輸送ルート、及び撤退するルートまで立ちはだかるように先回りされてることが多い。」


龍驤 「そ、それはつまり…。」


蛇提督「こちらの動きがほとんど読まれているということだ。」


龍驤 「そんなまさか…。確かに深海棲艦と戦ってきた数々の中で、あちらにも感情のような何かを感じたこともありましたし、艦隊決戦などのノウハウもわかりながら攻撃してくるとは思っていましたけど、そんなことまでできるとは…。」


蛇提督「深海悽艦との戦いが始まってから今年で10年だが、我々は彼らの事をまだまだ知らない事が多い。」

蛇提督「姫や鬼級と呼ばれる深海悽艦が現れたのも数年前からだ。奴らも戦いを経ながら進化しているのかもしれない。」

蛇提督「そのうち、人間並みの頭脳を持った奴が生まれても何ら不思議な事ではない。」


龍驤 「ミッドウェー以降、私たちが負け続けた理由がそこにあると?」


蛇提督「ああ、私はそう踏んでいる。」


龍驤 「(この男…。そんなことまで考えとったんか。ホンマにあの無謀な作戦をやろうってことかいな…?)」


提督「そういえば、おまえはミッドウェー攻略の作戦に参加していたのだったな。」


龍驤 「…!」


蛇提督「良かったらその時の話を聞かせてくれないか?」


龍驤 「え、えっと…。」

龍驤 「(どないしょ。話しても大丈夫やろか…。)」


蛇提督「もし話したくなければ、それでも構わない。話したくない思い出もあるだろう。」


龍驤 「い、いえ。大丈夫です。」


そうして龍驤は一呼吸置いてから語りだした。


龍驤 「私はその時はミッドウェー攻略部隊ではなく、アリューシャン列島攻略部隊である第五艦隊に配属されました。本当は赤城や加賀達と同じくミッドウェー攻略部隊として第一機動部隊に参加したく志願したのですが、当時は北方領域の方にも深海棲艦の艦隊が頻繁に現れるようになった報告もあり、ミッドウェー攻略に支障が出ないようにミッドウェー攻略部隊よりも先に出撃して陽動の意味も含めて海域の制圧に当たれと命令されました。」

龍驤 「そうしてその日はやってきて重巡洋艦の那智を旗艦に第五艦隊が出撃。北方海域に進入してまもなく会敵。軽空母ヌ級などもいましたが大した戦力ではなかったため、こちらの損害もほとんど無く順調に進んでいました。でも……。」



―――5年前 北方海域―――



那智『よし、目的の海域に到達した。水上機を発艦させて周辺の海域の索敵をさせつつ、こちらも哨戒任務に就くとしよう。』


漣 『最初の方はよく出てきたけど、もうあまり現れなくなりましたわね。』

潮 『もう全部倒したのかな…?』

曙 『まだわからないわ。』

摩耶『ふん、歯ごたえねぇな。ま、この摩耶さまがいるから当然だけどな。』

隼鷹『いやいや、あたしの艦載機運用能力が良いからさ~。』


龍驤『…。』


電 『どうしたのですか、龍驤さん?』

雷 『お腹でも痛いの?』


龍驤『いや、うちらが勝っているのはいいんやけど、なんやその度に胸騒ぎがしおってな…。』


高雄『胸騒ぎですか?まだここら辺に敵が潜んでいると?』


龍驤『いや…、それとはまたちゃう気がして…。』


那智『久しぶりにMVPを取ったから、信じられなくて不安になっているのでは?』


龍驤『MVPを取ったのは嬉しいんやけどな…。』


那智『そういえば、ミッドウェー攻略部隊もそろそろ作戦を成功させる頃ではないか? その知らせがあってもいい頃なんだがな。』

高雄『あちらはわが海軍の主力である第一機動部隊。一航戦、二航戦が揃っているのですよ。早々に負けたりしないですわ。』


龍驤『…!! そ、それや!』


龍驤は途端に急に南へと走り出す。


那智『お、おい!急にどうしたんだ!?』


龍驤『はめられたのは、うちらの方かもしれへん!!』


隼鷹『おい!待てよ! 一人じゃ危ないって!』

摩耶『あ、こら!この摩耶さまを置いていくな!』

曙 『私たちも行くわよ!』

潮 『えっ?あ、うん。』

漣 『もう仕方ないわね。』


那智『こら!おまえ達も勝手な行動を…。』


ツツーツーツー

その時、高雄に電報が来た。


高雄『……! そ、そんな…。』

那智『どうした!?』

高雄『第一機動部隊が…。』


―――現在 執務室―――


龍驤「その後、私は走り続けたんや。嫌な予感を振り払おうとするように…。でも、第一機動部隊の護衛部隊に合流できたときにはもう遅かった。既に艦隊はボロボロでしかも一航戦二航戦は全滅、轟沈してしまったんや。」


龍驤「悲劇はそれだけで終わらなかった。うちら第二機動部隊が第五艦隊を抜けた後、どこから現れたかわからない潜水艦の奇襲と艦載機の攻撃によって那智たち第五艦隊が被弾。撤退することになったんやけど、その時、同じく北方攻略部隊として参加していた初霜の姉である子日が轟沈…。」


龍驤「うちが勝手な行動をしたせいで艦隊に大きな損害を被ったんや。いや、もっと早くに異変に気づいていれば第一機動部隊も失わずにすんだかもしれへんし第五艦隊も無駄な戦いをせんで良かったかもしれへんし子日も沈まなかったんやないか!?」

龍驤「そもそも、うちが赤城たちのように正規空母並の力があれば最初から第一機動部隊として参加してミッドウェーの結果も変わっとったかもしれへん!」


龍驤は語っているうちに感情的になり、目に涙が浮かび始めていた。


蛇提督「龍驤もういい。おまえの話はよくわかった。」


龍驤 「あっ…。」


蛇提督の声を聞いて我に返った龍驤。


龍驤 「(しまった…。うち、つい感情的になって…、いらんことまで話してもうた…。しかも関西弁になっとったし…。)」


気まずくなった。

蛇提督は何やら考えているのか沈黙したままである。

一時の静寂の後…、


蛇提督「残念だが改修などにおいて、おまえを正規空母に改造するという話は聞いたことないし、それだけをする資材もない。」


龍驤 「(そりゃあそうやな…。)」


蛇提督「ミッドウェーの結果は文章と数字の記録でしか見ていないが、悲惨な結果だったという事はおまえの話も聞いてよくわかった。」


龍驤 「…。」


蛇提督「あえて聞くのだが、それで戦えるのか?」


龍驤 「……うちは。」

龍驤 「うちは…死んでいった仲間のためにも戦わないといかへん。」


蛇提督「…。」


龍驤 「一航戦や二航戦の仇を討つためにも、ここのみんなを守るためにもうちは戦わなあかん。そうじゃなきゃ、うちは本当に盆暗になってしまうねん。」


蛇提督「…。」


龍驤 「だけどうちは、あの時もそうやったし、今回のここの事件も止めることができへんかった。…やっぱりうちは頼りなくてダメなんやろか…。」


蛇提督「…そのような事はない。」


龍驤 「えっ?」


蛇提督「少なくとも今回の作戦ではおまえは必要な存在だ。」


龍驤 「それはどないして…。」


蛇提督「軽空母でありながら高速艦であることだ。」

蛇提督「今回の作戦では目的海域に到達するために突破口を開く艦隊が必要になる。その艦隊は小回りしやすく足の速い水雷戦隊などが好ましい。」

蛇提督「だが、直掩機が無いのではさすがに不安が残る。だから足の速い艦隊でもついていけるおまえの力が必要という事だ。」


龍驤 「(この男、そこまで考えとったんか…。)」

龍驤 「それなら高速艦である正規空母を一隻なんとかこちらにまわしてもらえるようにしてもらった方がええんじゃないですか? なんならうちと交換、または解体してでも…。」


蛇提督「前にも言ったはずだ。他の鎮守府がこちらに回す戦力の余裕などないし、解体してこちらに正規空母を回させるなど取引きする以前の問題だ。」

蛇提督「それに今のこの鎮守府の資源や資材の備蓄量では、正規空母に充分な航空戦力を持たしてやれない。軽空母がちょうどいいのだ。」


龍驤 「そ、そうですか…。」


蛇提督の言葉には怒気がこもっていた。同じ事を何度も言わせるな、龍驤にはそう言っているように感じた。


その後蛇提督は、はぁーっと息を吐き一呼吸置いたあと


蛇提督「だから自分を卑下する必要は無い。誰にでも長所と短所はある。むしろそれを把握しどのように運用するかは提督である私の仕事だ。」


龍驤 「はい…。」


蛇提督「私にとって、戦う意思があるのならばそれで十分だ。うまくおまえを使えるように努力しよう。」


龍驤 「(運用、使う、か…。この提督も艦娘を兵器として見てるんやろな。でもそれも当然なことか…。)」


蛇提督「…でも、おまえが感じたという胸騒ぎと嫌な予感。その感覚は忘れるな。」


龍驤 「えっ…?」


蛇提督「その感覚がまたしたとき、その時は私に言え。おまえが思うとおりに行動できるように最善を尽くそう。…今度はきっと誰かを救えるはずだ。」


龍驤 「は…、はい!」

龍驤 「(あ、あれ? うち、励まされた?)」


蛇提督「ふむ、話が長くなってしまったな。すまないがまた書類作業の方を手伝ってくれないか?」


龍驤 「ええですよ。」


蛇提督「ああそれと…。」


龍驤 「…?」


蛇提督「やはり関西弁の方が良いな。私と話すときは関西弁でも構わないぞ。」


龍驤 「んじゃあ、そうさせてもらうで…。」


その後はというと、やはり蛇提督が無口なのかほとんど会話をしなかった。

だが、龍驤は今まで胸に突き刺さっていた何かが少しとれたような気持ちを黙々と書類作業をしてる間一人感じていたのであった。





初霜の信念と償い




龍田「とりあえず、何もなくて良かったですね~。」

龍驤「(何もなかったわけではないんやけど…、言えへんな…。)」


あれから数日後。

これまで艦娘達が心配するようなことは特になかった。

変わったことと言えば夕張が演習用の実弾や艦載機などの開発ができたというとこだろうか。


龍田「次の秘書艦は誰ですって~?」


龍驤「ああ、次は初霜なんやと。」


龍田「あらあら~今度の提督は小さい娘が好みなのでしょうか~?」


龍驤「(ち…小さい子…。)」


古鷹「そうではなくて、前任の提督の時に秘書艦を務めた経験のある艦娘が選ばれてるのではないでしょうか?」


龍田「それなら古鷹ちゃんはその次ね。」


古鷹「そうだと思います…。」


龍驤「でも、古鷹はここの鎮守府に一番長くおる。秘書艦になったらもっと何か色々と聞かれるとちゃうんか?」


古鷹「そうですね。可能性はあります。」


龍驤「とりあえず、初霜を探してくるわ。引き継ぎもせんとあかんし。」


龍田「初霜ちゃんは強い子だけど、心配だから見守っていることにするわ~。」


―――翌日 7:00 執務室―――


コンコンコン

初霜 「初霜です。」


蛇提督「入れ。」


初霜が執務室のドアを開け、中に入る。


初霜 「失礼します。」

初霜 「おはようございます、提督。よろしくお願いします。」


蛇提督「ああ。」


初霜 「今日はどのようなスケジュールでしょうか?」


蛇提督「午前は私だけ書類仕事だ。午後からは全ての艦娘の砲撃演習をしていこうと思う。」


初霜 「砲撃演習ですか?」


蛇提督「ただの的当てだ。決まったルートを航行しながら砲撃による的当てで艦娘達の練度の具合を確認していこうと思う。」


初霜 「わかりました。龍驤さんもするのですか?」


蛇提督「いや、彼女は艦載機の運用能力だ。艦載機自体の練度も確認していかないといけないからな。」

蛇提督「駆逐艦、軽巡洋艦と艦種別に演習用のルートと的の位置を考えた資料を作った。これを元に演習を行ってほしい。」


初霜 「えっ?提督お一人で考えたんですか?」


蛇提督「安心しろ。ちゃんと前例にならって作った物だ。」

蛇提督「悪いのだが、これから皆に演習のことを伝えてきてほしい。昼飯を早めに済ませ12:00に開始する。それまでに演習の準備を夕張にも手伝いを頼みながら進ませるといい。」


初霜 「私は書類仕事を手伝わなくて良いのですか?」


蛇提督「手が空けば手伝って構わないが、おまえも演習の準備で忙しくなるだろう? できたらで構わない。」


初霜 「わ、わかりました…。」



―――鎮守府内廊下―――


初霜「……だそうです。」


龍田「そう~。」


天龍「ちぇっ、めんどくせぇ…。」


蛇提督に言われ、演習のことを伝えに執務室を出た初霜はちょうど様子を見に来ていた天龍と龍田に廊下で会っていた。


天龍「だいたい意味ないんだよ。演習なんかやってないで少しでも多く戦果を上げて資源だって取ってこないといけないのによ。」


初霜「その出撃のための編成を考える材料として、私たちの練度を確かめるそうです。編成に偏りがないようにするためだとか…。」


天龍「ちぇっ…。まぁ確かに無理矢理出撃させられるよりかはましだけどよ。」

それでも納得できない、という風に舌打ちする天龍。


龍田「まぁまぁ~。それでは私たちが演習のことを他の子達に伝えてくるわね。初霜ちゃんは工廠に行って夕張ちゃんと準備を進めてて~。」


初霜「いいのですか? では、お願いします。」


ペコリ、と龍田達に頭を下げて工廠へと急いで走って行く初霜だった。



数時間が経過し…。


―――執務室―――


蛇提督は黙々と書類仕事をしていた。


コンコンコン

初霜 「初霜です。失礼します。」


蛇提督「入れ。」


ゆっくりとドアを開け、蛇提督におそるおそる歩み寄る初霜。


蛇提督「準備の方はどうした?」


初霜 「…順調です。古鷹さんや衣笠さん達が手伝ってくださっているので。」


蛇提督「そうか。」


初霜 「何かお手伝いしましょうか?」


蛇提督「いや、大丈夫だ。書類仕事にも大分慣れてきたからな。」


初霜 「そうですか…。」


初霜が戸惑いながら何かないかと少し考え、


初霜 「では、お飲み物でもいかがですか?」


蛇提督「…そうだな。では頂くとしよう。」


初霜 「あ…、提督はもしかしてコーヒー派ですか? 今、コーヒーは切らしていまして…。」


初霜がそのようなことを気にしたのは前任の提督のことがあったからである。

その時その時で、お茶、コーヒーと気分に応じて変わった。味は濃いめ薄め、甘くしろと言えば今日はブラックだと言ったはずだと、何かと注文が多かったからである。


蛇提督「私はお茶派だ。」


初霜 「そうですか…。ほうじ茶があったと思ったのでそれでよろしいですか?」


蛇提督「問題ない。」


初霜 「お味はいかがいたしましょう? 濃いめとか薄めとか…。」


蛇提督「任せる。」


初霜 「わかりました。では、お持ちしますので少々お待ちください。」


蛇提督「ああ。」


今度の提督は細かい人ではなさそうだ、と内心ほっとする初霜だった。

だが、今は書類仕事でそのようなことに構ってられないのか、それとも艦娘とのこのような会話は本人にとってはどうでもいいことなのか、提督が自分との間に妙な距離を置かれているような気がした初霜であった。



そんなこんなで演習の時間がやってきた。

蛇提督の支持されたとおり、駆逐艦→軽巡→重巡→戦艦→空母の順に行われた。

蛇提督はというと演習の様子が見てとれる場所にずっと立ちながら艦娘達が一人一人演習を終える度に何か紙に書き留めているようだった。

その隣で夕張も艦娘達全員のデータを取っていた。

これは夕張が、こういう機会はなかなかないのでお願いします、と自ら蛇提督に申し出たのであった。

蛇提督は、構わんの一言でそれを受けた。

ただ、夕張が演習の順番になったとき、


蛇提督「夕張、おまえの番ではないのか?」


夕張 「えっ?やっぱり私もやるのですか…?」


蛇提督「当たり前だ。」


夕張 「わ…私はその…ここの鎮守府の工廠担当と兵器の試し撃ちをする実験艦みたいなもので長らく実戦には出てませんし…。」


蛇提督「それでも、今度の作戦にはおまえも例外なく参加だ。つべこべ言わず、さっさと始めろ。」


夕張 「は、はい!」


蛇提督に圧倒され慌てて行く夕張。


蛇提督「古鷹。」


古鷹 「は、はい…。」


順番待ちしながら演習の成り行きを見守っていた古鷹が呼ばれる。


蛇提督「夕張の代わりに彼女自身のデータも取ってやれ。」


古鷹 「わかりました。」


その後、演習は続けられた。

駆逐艦の子達などをはじめ何人かは、練度不足なのかあるいは蛇提督の見ている緊張感の中だからか、動きはどこかぎこちなく、的にうまく当たらずミスをしてしまう艦娘もいたが、蛇提督は何かを言うこともなくただ黙って演習の様子とその結果だけを見ていた。




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初霜『子日姉さん!しっかりしてください!』


海上で初霜は姉妹艦である大破した子日を抱きかかえながら何度もその名を呼び続けていた。

周りからは仲間が深海棲艦に対して迎撃しているのか爆音と砲撃音が鳴り響いていた。


子日『ごめんね、初霜…。先に逝くね…。』


初霜『そんなこと言わないでください! 一緒に帰りましょう!』


子日『あなたもここにいたら、狙われるわ。私をおいて早く…。』


初霜『そんなことできません!』


那智『初霜! 何をしている! この海域から撤退だ!』


初霜『でも子日姉さんが!』


子日『那智さん…。初霜をお願いします…。』


那智『わかった…。いくぞ!』


初霜を強引に引っ張り、連れて行く那智。


那智『私たちが全員ここで共倒れしては意味がない。それに子日はもう…。』


那智の顔は苦痛に耐えようとするような顔であった。

初霜は那智に引っ張られる手に無意味な抵抗をしつつも、静かにこちらを見て笑っている子日がゆっくり沈んでいく様を見ることだけしかできなかった。




若葉『初霜!ぼーっとするな!右から来るぞ!』


初霜『えっ?あ、はい。』


場面は変わる。

姉妹艦の若葉と初霜はただ二人、激しく襲い来る深海棲艦の艦載機を迎撃していた。


初霜『味方とはぐれちゃった。このままじゃ私たち…。』


若葉『弱音を吐くな。この場を乗り切って味方と合流するぞ!』


二人は背中合わせになりながら艦載機の攻撃をかわしつつ、なんとか撃ち落とす。

攻撃の隙があれば味方が進んでいるであろう進路に早く動きつつ艦載機が来れば迎撃、これの繰り返しだった。

二人の弾薬も尽きかけた頃、


初春『若葉―!初霜―!』


二人の進路方向の先から姉妹艦の初春の声が聞こえた。

そちらに目をやれば初春の後ろ、さらに遠いが味方と思える艦娘の影も見えた。

味方の艦隊に追いついたのだ。


初霜『若葉姉さん!助かりました!あと少しです。』


若葉『ああ。』


二人は一瞬、安堵の雰囲気に包まれた。しかし、


若葉『っ!! 初霜! 後ろだ!』


初霜『えっ?』


初霜が振り向いたときには二、三機の艦載機が爆弾を投下した後だった。

そしてその後すぐに初霜の視界は海面へと勢いよく移った。

見上げる初霜を若葉が勢いよく押しのけたのだ。


ドォォーーーン


大きな爆発と爆音がした。あたりは黒い煙に包まれる。


煙が風で流れ視界が晴れる頃に、傷だらけの体で怪我した左腕を押さえながら初霜は立ち上がっていた。

辺りを見回し驚愕する。煙の中から大破して倒れていた若葉を見つけたのだ。

若葉姉さん!と叫びながら若葉に近づき抱きかかえる。

若葉の傷からして直撃だ。自分をかばってしまったがために…。


初春『若葉!初霜!』


初春が来た。


初春『二人とも動けるか!?またすぐに敵の攻撃が来るぞよ!』


その時、敵の艦載機の音が聞こえてきた。まるで確実に仕留めるとばかりに大群でこちらに押し寄せてくる。


若葉『初春…、初霜を頼む…。』


その時、初霜に抱きかかえられていた若葉が傷だらけの体にかかわらず無理矢理に起き上がった。


初霜『若葉姉さん…。何を言って…。』


若葉『このままじゃ皆やられる…。今回の任務は輸送物資を持って、一人でも多く撤退することだ。だからここはこの若葉が食い止める…!』


初春『何を言っておるのじゃ! 若葉も共に逃げれば良いだけのことじゃ! わらわが二人を守る!』


若葉『駄目だ! 先ほど受けた攻撃で推進力を失ってほぼ動けない。傷だらけの二人を一人が守るのは無理だ。だが初霜はまだ動けるはず。初霜を連れていくんだ!』


その時、敵の艦載機の先頭にいた何機が三人に機銃を放ってきた。

若葉が二人の盾になるように迎撃する。


若葉『行け!行くんだ!!』


その言葉の勢いに押されるがごとく、初春は初霜の腕を掴んで走り出す。


初霜『初春姉さん! 何を!?』


初春『行くぞ!初霜! 振り向くでないぞ!!』


若葉姉さんを置いていかないで、と言おうとするが初春の後ろ姿を見た時には初霜はそれ以上何も言うことができなかった。歯を噛みしめて若葉の方を見る。


若葉は敵の攻撃による大きな水しぶきの中、こちらに少し振り向いていたようだった。わずかに見えるその顔は目に涙を浮かべながら笑っていたように見えた。そして、敵のさらなる攻撃で爆煙と水しぶきの中に消えていった…。


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初霜「ああっっ!!!」


目を開ければベッドの上だった。

辺りを見回し、時計を見つける。時間は03:00だった。

この初霜がいる部屋は初霜しかおらず他は誰もいない。


初霜「また…あの夢ですか…。」


ため息をつきながらベッドから降り、部屋のドアを開けて廊下に出る。

廊下の突き当たりにはお手洗いがある。


用を済ませた後、廊下から見える窓の景色を初霜はしばらく眺めていた。

鎮守府とその窓から見える海は月明かりに照らされ幻想的だった。


ここ、横須賀鎮守府は深海棲艦との戦いが始まってからすぐに作られた建物であり、建てられてから年月はそれほど経っていない。

建物の外壁はレンガであるが、内装はほとんどが木造による建築で外見からは古い建物に見える。

それでも本土の中でもここの鎮守府は要衝の一つとして多くの艦娘が収容できるようにそれなりに大きな敷地と必要な設備が整っていた。


初霜が今いる建物は南棟で初霜が見ている窓からは右に海が、下には運動場があり、左には執務室や食堂がある北棟が見える。向かい側はちょっとした森林があるが、その先には工廠や入渠施設がある。

南棟はいわば艦娘達の寮である。

現在、この鎮守府に所属している艦娘達は全てこの南棟の部屋で寝泊まりしている。

北棟と南棟の他にも艦娘達を収容できるよう別棟がいくつか点在している。


初霜はしばらく月明かりに照らされていた海面をどこか憂いを帯びた表情で見ていた。

ふと北棟の方に目を向けると、あることに気がついた。


初霜「こんな時間に明かりが…。あそこは確か…。」


間違いなければ執務室の窓である。その左隣の窓は提督の私室であるが、明かりはついていない。

提督が?それとも他の誰かが忍び込んで?

気になった初霜は北棟へと向かった。


執務室の前までやってきた初霜はドア越しに耳を当ててみる。

だが、音は聞こえるはずもなく仕方がないのでドアを開けて覗いてみることにする。

息を呑み、ドアノブに手をかけて、音を立てないように回し、ゆっくりと押す。

そこからできたわずかな隙間から部屋の中を覗いてみる。

中を覗くと蛇提督が提督用の机で何やらやっているようだった。もう少し開けて様子をうかがおうとしたが、


蛇提督「部屋に入るのならノックぐらいしろ。」


初霜 「う、うわぁ!」


びっくりしてつい声を上げてしまう。それを誤魔化すためか「失礼します!」と部屋に少し入ったところで慌てて敬礼をしてしまう初霜だった。

その様子をちらっと見ていた蛇提督は「うむ。」と言うだけであった。


初霜は恥ずかしそうにしながら蛇提督の前へとやってくる。

蛇提督は書類仕事をしているようだった。


初霜 「て…提督はこんな時間に何をしてらっしゃるのですか…?」


ばつが悪いのか、とりあえず話しかけてみる。


蛇提督「見ての通り、書類を片付けている。」


初霜は昨日の夜のことを思い出していた。

皆の演習が終わり夕食を済ませた後、夕張と共に今日の演習の結果と分析を報告していた。

それがなんだかんだと長くなり、時計は22:30となっていた。

明日は対空戦闘を想定しての演習であることを告げられ、そのまま解散となった。


初霜 「就寝されてないのですか?」


蛇提督「いや、23:00過ぎには寝たはずだ。今、起きたばかりだ。」


初霜 「それでも少ししか寝てないじゃないですか。お体に触ります。」


蛇提督「大丈夫だ。」


初霜 「それに書類作業なら私に言ってくださればお手伝いします。」


蛇提督「いや、必要ない。演習のためにおまえは体をよく休めておけ。」


初霜 「ですが…。」


距離を置いている、いや、昨日はそう思ったけど違う。

壁だ、この人は壁を作っている。初霜にはさきの一言でそう感じた。


蛇提督「そういうおまえこそ、なぜこんな時間に起きてる? まだ起床時間まで時間があるからもう少し寝ていればいいだろ?」


初霜 「今は…寝れそうにないので、ここにいます。ですから少し手伝わさせてください…。」


どこか重みのあるその言葉を聞いた蛇提督はその気持ちを察してなのか、


蛇提督「わかった。…では、こちらの書類に目を通して間違っていないか見てくれ。」


初霜 「わかりました。」


初霜は机の横に来て、蛇提督に使えと言われた椅子に腰掛けて作業を始めた。


しばらく二人の間に無言の時間が続く。

聞こえる音は蛇提督の筆を動かす音と判を押す音。初霜が次の書類へと目を通すために手元の紙を動かす音のみだけだった。だが、意外にもその沈黙を破ったのは蛇提督の方であった。


蛇提督「怖い夢でも見たのか?」


初霜 「えっ?」


蛇提督が意外にも話しかけてきたこと、その予想が当たっていること、

初霜は驚きの表情を隠せないまま、蛇提督の方を見つめていた。


蛇提督「眠れそうにないって言っていただろう?」


初霜 「は、はい…。その通りです…。」


蛇提督「…。」


顔を俯いて答えた初霜を見て蛇提督は何を思ったのか席を立ち、部屋を出ようとする。


初霜 「あの…、提督どこへ?」


蛇提督「ここで待っていろ。すぐに戻る。」


そう言って部屋を出て行った。

その後、しばらくして蛇提督は執務室に戻ってきた。その手には急須と茶碗二つをおぼんにのせて持ってきていた。


初霜 「お茶なら言ってくだされば私が持ってきましたのに…。」


蛇提督「いや、これはおまえに飲ませてやりたいだけだ。」


初霜 「えっ? それはどういうことですか?」


まるで意味がわからないと言わんばかりに目を丸くする初霜。


蛇提督「これは私の持論なんだが、怖い夢を見た後は暖かい物でも飲めば少しは心が落ち着く。まぁ、昨日おまえが出してくれたほうじ茶だがな。」


初霜 「は、はぁ…、そうですか…。」


蛇提督「嫌だったか?」


初霜 「い、いえ、頂きます。」


そうして蛇提督が淹れてくれたほうじ茶を初霜はゆっくりと飲んだ。

その様子を見ていた蛇提督は自分にもほうじ茶を茶碗に淹れゆっくり飲み始めた。

ズズズー……。ほうじ茶をすする二人の音だけが静かな部屋に鳴り響く。

蛇提督は飲みかけの茶碗を置き、再びその口を開く。


蛇提督「…艦娘でも夢を見るのだな。」


初霜 「えっ?」


蛇提督「そういう所は人間と変わらないな。」


初霜にとっては夢を見るのは当たり前である。

だがそれを、人間と変わらないと言った人間は初霜にとって初めてであった。


蛇提督「少しは落ち着けたか?」


初霜 「はい。温かい飲み物を飲んで、ほっとしました。」


蛇提督「そうか。」


会話が終わり、少し間を置いた後、今度は初霜がその口を開く。


初霜 「あ、あの…。」


蛇提督「なんだ?」


初霜 「どんな夢を見たのか聞かないのですか?」


蛇提督「怖い夢を見たのだろう? 思い返したくない場合もあるだろうし、知られたくないことかもしれない。話すか話さないかはおまえの自由だ。話すのなら別に私でなくたっていい。誰にするのもおまえの自由だ。」


自由だ、その言葉に胸がドキンと鳴るのを確かに感じた初霜。

彼女は俯き、茶碗を両手で持ちまだ飲みかけのほうじ茶の水面をしばらく見ていた。


初霜 「ときどき…。」


蛇提督「うん?」


初霜 「ときどき見るんです。姉二人が死んだときの夢を…。」


蛇提督「…。」


初霜 「子日姉さんは北方海域の攻略の任務で龍驤さん達第二機動部隊がいなくなった後、どこから現れたかわからない敵の潜水艦の魚雷に直撃。」

初霜 「若葉姉さんは前線からの撤退のため輸送物資の護送任務で、私が後ろから来ていた敵の艦爆機に気づけなくて私をかばって被弾しました。どちらも私の目の前で起きたことです。」


蛇提督「…。」


初霜 「私がもっとしっかりしていれば、もっと強かったらきっとそんなことにはならなかった…。だから私は死んでしまった姉さん達の分まで強くなって戦い続けなくてはいけないのです。」


蛇提督「……初めて会ったときに、私に言ったあの言葉の意味がわかった気がする。」


初霜 「?」


蛇提督「艦娘は海の上で戦って沈むのなら本望だと。姉二人を亡くしたのは自分のせいだからその贖罪のためにおまえは戦っている。違うか?」


初霜 「…そうかもしれません。でも、私は戦って一隻でも一人でも多く救いたいです。それが、私が戦う理由ですから。」


蛇提督「…。」


初霜 「だから提督、お願いします。私たちを見捨てないでください。私たちに戦わせてください。どんな作戦だろうと私は戦います。一人でも一隻でも救いたいのです。それが艦娘の使命ですから。」


蛇提督「…。」


蛇提督は黙り込んでしまった。初霜はただまっすぐに蛇提督を見続ける。何を考えているのか、なんと答えるのか、蛇提督を試すようにその後の反応を見ていた。

しばらくの沈黙の後、蛇提督が口を開いた。


蛇提督「おまえの戦う理由については特に異論はない。むしろ、一人の兵士としてみたとき、それは素晴らしいことなのだろう。」


初霜 「…。」


「兵士」、確かに提督はそう言った。「兵器」と言わなかっただけこの人は艦娘を物扱いしているわけではないとわかっただけでも初霜にとっては収穫だ。


蛇提督「深海棲艦を倒すために誰かを救うために戦い続けることこそ艦娘の使命というのも、私も同じ考えだ。」


最初に会ったときから直感で思ったとおり、この人はちゃんと私たちを戦わせてくれる人だ。

前任の提督の指揮はむちゃくちゃだった。

資源、資材集めに躍起になって出撃するのもほぼ同じメンバー、出撃といっても余計な戦いはするな、被弾するな、資源の回収だけにしろ。

私はというと古鷹さんの手伝いでほとんどが雑務に追われる毎日。提督の御機嫌取りをする日々。海に出て戦う機会が減っていた。

私たちの気持ちなんて一度も汲み取ろうとはしなかった。ただ、自分の思い通りにするための「道具」でしかなかった。

だから、今度の提督はどんな過去があろうと私たちを蔑んでみていたとしても、ちゃんと戦わせてくれる人であればそれでいいと初霜は今まで、蛇提督の言葉を聞きながらそう考えていた。


蛇提督「だが…。」


初霜 「?」


蛇提督「戦うことで誰かを救うのが使命で、戦って沈むことは本望だったとしても、それが艦娘にとって…、おまえにとって本当に幸せなことなのか?」


初霜 「えっ?」


蛇提督「いや、今のは聞かなかったことにしてくれ。」


蛇提督はまたも黙り込んでしまった。


初霜は呆然としてしまっていた。

私にとって戦うことが使命で戦って沈むことは本望。それで一人でも多く救えるのなら、それが私にとって幸せである。

だが、この提督は一体何が言いたかったのだろう。私の思う幸せは必ずしもそうではないと、そう言いたかったのか。

この提督はどこか不思議な人である。

初霜は蛇提督の意外な一言に少し混乱していたが、不思議と悪い気はしなかった。


その後、二人は黙ったまま書類作業を続けた。気づけば時間は06:00となり、そろそろ艦娘達の起床時間である。


蛇提督「手伝いはここまででいい。これだけやれれば十分だ。」


初霜 「わかりました。私もそろそろ部屋に戻っても大丈夫ですか?」


蛇提督「別に構わない。そもそもおまえが手伝いたいと言うからここにいさせていただけだしな。」


初霜 「それもそうですね。失礼しました。お茶おいしかったです。ありがとうございました。」


蛇提督「ああ。」


初霜が立ち上がりドアの方へと歩き始めたが、何かを思いついたのかすぐに立ち止まり、蛇提督の方に振り返る。


初霜 「あの…。」


蛇提督「なんだ?」


初霜 「提督はどうして私が怖い夢を見たとわかったのですか?」


蛇提督「……なんとなくだ。」


初霜 「そうですか…。」


初霜 「あとそれと…。」


蛇提督「まだ何かあるのか?」


初霜 「おまえ、ではなくちゃんと名前で呼んで頂けると嬉しいです。私には初霜という名前があるのですから。」


蛇提督「わかった。極力、名前で呼ぶように努めよう。初霜。」


初霜 「私に限らず、他の皆さんにもお願いします。」


蛇提督「ああ、わかった。」


初霜 「それでは、失礼しました。」


初霜は執務室を出た。

出てからというのもずっと蛇提督のことを考えていた。

まだ夜中なのに書類作業を一人でしていること、お茶を持ってきたこと、自分の話を静かに聞いてくれたこと、罵声もなければ叱責もない、それと突拍子な質問。初霜はそんなことを思い返しながら、まだまだ彼を観察する必要があると考えながら自分の部屋へと戻るのであった。


蛇提督は初霜が出て行ったドアが閉まるのを確認した後、一人立ち上がり、窓から遠くを見るように眺めていた。

その顔はどこか憂いを帯びているようだった…。






届け物




その日の演習は朝早くから対空戦闘を想定しての演習、というより特訓が始まった。

蛇提督によって決められた順番に従い、一人ずつ演習が行われた。

昨日と同じく蛇提督が黙って演習の様子を見て、その横で夕張がデータを取っていた。

演習用の艦載機は夕張が急ピッチで作った。それを龍驤が飛ばして行われる。



――演習が始まる前――


龍驤「夕張、よくもまぁこの短期間で作ったなぁ~。」


夕張「提督に優先して作るようにと言われましたからね。大規模作戦では対空戦闘は避けられないし、いかにこちらの被害を減らせるかで作戦の成功率も変わってくるそうよ。」


龍驤「空母がうちだけじゃ、限界はあるだろうし、対空戦闘においての皆の練度を上げとくのは理にかなっているとは思うけど、それだけで本当にうまくいくんやろか…。あとは演習のために資材を使って大丈夫なんか?」


夕張「実際の戦いでうまくいくかはわからないけど、資材の方はまだ大丈夫よ。工廠で使わなくなって置き去りにしていた武器を廃棄しながら資材をかき集めたし、前任の提督の時に資材を極力使わないようにしてたのが、今は功を奏したところね。」


龍驤「その資材がこの演習に使われて良かったのかそうじゃないのかはさておき、うちが皆一人一人の演習に付き合わんといけないのは結構しんどいで~。」


夕張「空母が龍驤さんだけだからしょうがないわ。大変だとは思うけど皆の為だと思って頑張ってください。」


龍驤「仕方ないな~。まぁ、ほどほどにやっていこうか。」



そう言っていた龍驤だったが…、




龍驤「ほらほらっ!! ボサッとしてへんで次行くでー!!。」


電 「は、はいー、なのです~。」(>_<)

曉 「龍驤さんが怖い~。」ナミダメ

雷 「あんなキャラだったかしら?」

響 「ハ、ハラショー…。」

初霜「龍驤さんからすごい気迫を感じる。私も負けてられないわ。」


夕張「(あはは…。龍驤さんにあんな一面があったなんて…。何かに火をつけてしまったみたいね…。)」


夕張はちらっと隣にいる蛇提督の様子をうかがう。

蛇提督は相も変わらず黙ったまま演習の様子を見ているだけだった。


朝からの演習がいったん中断された。

昼時となったので昼飯を済ませ少し休んだ後午後からまた再開だ、蛇提督はそう言って一人執務室へと戻った。

艦娘達はそれぞれが昼休憩を取るためにその場で解散となった。


衣笠「青葉から手紙の返事来てるかしら。ポストに行ってみよう。」


衣笠は正門の側に置いてある鎮守府のポストの所へ向かっていた。

ここの鎮守府は電話が執務室にしかない。

艦娘は鎮守府外部との連絡をするときに電話の私的利用を禁じている。

しかし鎮守府間においての艦娘同士の手紙のやりとりは認められているため、衣笠と青葉は互いの近況と知り得た情報の交換をしていた。


鎮守府の門にあるポストに手紙を確認しに来た衣笠はポストの中を覗くが、何も入ってなかった。

ふぅ~っとため息をつき、中へと戻ろうとしたとき


???「この鎮守府の関係者であるか?」


そう呼び止められ振り返ってみてみると、そこには憲兵の服装をした二人の男が門の外に立っていた。

衣笠ははいと返事をした後、二人の男の片方がさらに話を続けた。


憲兵A「陸軍所属の憲兵Aだ。海軍元帥の頼みでこちらの提督に届け物を持ってきた。提督殿はおられるか?」


衣笠 「はい、いますよ。お呼びしましょうか?」


憲兵A「よろしく頼む。」


衣笠 「(一体、何の届け物だろう?)」


そう思いながら衣笠は執務室へと急いだ。

執務室のドアをノックし「入れ」という言葉を中から聞こえたのを確認しドアを開ける。

衣笠は失礼しますと言い部屋に入る。そして提督用の椅子に座っている蛇提督の前に進み出た。


衣笠 「元帥からの届け物を届けに来たと憲兵の方が門にいらしてます。」


蛇提督「そうか。やっと来たか。」

蛇提督「悪いが先に行ってすぐに伺うから少し待ってほしいと伝えてほしい。」


衣笠 「わかりました。」


敬礼をして部屋を出る。

再び門へと急ぎ、憲兵達の所へとやって来た。


衣笠 「提督はすぐに伺うとのことです。なので少し待っていただけますか?」


憲兵A「わかった。…ところであの蛇目は不審な動きはしていないか?」


衣笠 「えっ?あ…えっと…特にないですよ…。」


憲兵A「そうか。私達はいつでもここで見張っている。何かあれば知らせろ。」


衣笠 「は、はい。わかりました。…あの聞いてもいいですか?」


憲兵A「なんだ?」


衣笠が憲兵の言いつけを素直に聞いたあと、恐る恐る尋ねた。


衣笠 「あの提督のこと、何か知っているんですか?」


憲兵A「奴は大罪人だ。奴のせいで大勢の人間が死んだ。」


衣笠 「そうなんですか…?」


憲兵A「おまえも気をつけるんだな。奴に騙されて惨めな死に方をするかもな。」


衣笠 「あの、その大罪を犯した事件というのをできれば詳しく…。」


蛇提督「憲兵殿お待たせしました。…うん?衣笠まだいたのか?」


衣笠が憲兵に話している時に蛇提督が来てしまった。


衣笠 「あっ、えっと、提督が来られるまで待っていたほうが良いかと思いまして…。」


蛇提督「…そうか。もう下がっていいぞ。」


衣笠 「はい。」


憲兵との会話の内容を悟られないために何とか誤魔化せたと心の中で胸を撫で下ろす衣笠。


蛇提督「届け物はどこでしょう?」


憲兵A「門のすぐ外に置いてある。」


憲兵のそれを聞いて門の外へと届け物を見に行く蛇提督。

衣笠は戻ったと見せかけ、こっそり蛇提督の後を追いかけた。

門の壁の影から顔を少しだけ出して覗いてみる。

そこには普通の軽トラックがあった。いや、少しボロいようだ。

蛇提督は点検するように軽トラックの周りを歩いて見ていた。


憲兵A「何か不満でもあるのか?心配せずともそれはちゃんと走る。ここまで走らせてきたのだからな。」


憲兵が図々しい態度で蛇提督に言う。


蛇提督「そうですか。ではサインはどちらに?」


憲兵A「ここだ」


そう言って差し出された書類に内容を少しばかり目を通してから蛇提督はサインをした。


蛇提督「ご苦労様でした。」


憲兵B「あまり私達の手を煩わせるんじゃないぞ。変な気でも起こしてみろ、そしたらすぐに牢屋に戻してやる。」


先ほどまで口を開かずずっと睨み続けていたもう片方の憲兵の男が怒気を含んだ声で蛇提督に言い放ったあと、憲兵達は立ち去って行った。


衣笠 「(あの人は人間からでも嫌われているんだな…。)」


衣笠はその一部始終を見ていたが、立ち去って行く憲兵達をじっと見ていた蛇提督の顔は怒っているのかそれとも悲しんでいるのか、どっちとも言えない無表情なその顔を見ながら衣笠はそう思った。


蛇提督「まだそこにいたのか。下がっていいと言ったはずだぞ。」


衣笠 「えっ!? えっと…、その軽トラックは何なのですか?」


こちらを見ていないはずなのに何故か覗き見がバレていたので、慌てて話題を変えた。


蛇提督「これで資材になりそうなものを集めに行くのさ。」


衣笠 「ああ、なるほど〜…。」

衣笠 「でも資材集めはお一人で行かれるわけではないでしょう?誰かを連れて行くのですか?」


蛇提督「ああ、艦娘の中から一人連れて行くつもりだ。それと妖精も連れて行く。」


衣笠 「妖精さんも?」


蛇提督「うちの工廠の開発担当をな。瓦礫とゴミの山の中から使えそうな物を選別するためだ。」


衣笠 「そういうことですか。確かに現場で実際に見て選んでくれれば作業が捗りますね。」


蛇提督「それはそうと衣笠、さっきは憲兵と何を話していたんだ?」


衣笠 「え…えっと…憲兵のお仕事がどれだけ大変なのかを聞いていただけですよ。」


蛇提督「ほう。そうなのか。」


衣笠 「あっ、いけなーい。私まだお昼を食べてなかった。提督、失礼します。」


彼女の持ち前の明るさで話を誤魔化しつつ、敬礼してすぐさまその場を後にした。


蛇提督「…。」


蛇提督はそんな立ち去って行く衣笠をジーっと見ていた。


衣笠 「(危ない危ない。危うく提督に気づかれるとこだった。)」


食堂に向かって廊下を小走りで駆けながら衣笠は思っていた。


衣笠 「(でも資材集めに行く時、提督と二人だけになるのか。これはみんなに伝えないと。)」


連れていかれた艦娘は危険が及ぶかもしれない。何かしらの対策が必要かもしれないと衣笠は思ったからだ。




————食堂————


龍田 「ふぅ〜ん。なるほどねぇ。」


食堂には衣笠以外の艦娘全員が揃っていた。

衣笠は艦娘達に先ほどあった憲兵達の事と資材集めの事を話した。


古鷹 「人間からも嫌われてるのですね。」


加古 「あの目は怖いよ…。いつも睨んでるように見えるし…。」


夕張 「軍の人間ならみんなあの男の事を知ってるのかな?」


衣笠 「青葉や大淀さんが言うには、きっかけとなった事件を知っている者ならあの男の事を知らない者はいないと言うほどのちょっとした有名人みたいよ。」


龍驤 「前にも少し聞かせてもろうたよな。あの男に悪評が付いて回るそのきっかけとなったその事件。」


電 「その事件ってどんな内容なのですか?」

雷 「私もあまり聞いてないわ。」

暁 「れ、レディーとして聞いておく必要はあるわね。」

響 「…。」


衣笠 「ごめんね。あなた達には余計に怖がらせる事になると思ったから話さなかったけど…。」


扶桑 「事件に関わった艦娘はあの男に騙された。そう仰ってましたよね?」

山城 「そして沈んだ子もいるって…。」


衣笠 「そう。その艦娘の指揮官をしていた提督は名誉の戦死扱いになってるけど、それは表の話で本当はあの男に殺されたって話よ。」


古鷹 「えっ!?それは初耳ですね。」


衣笠 「これはあの男がここに着任した後に青葉から手紙が届いててそれに書いてあったの。」


天龍 「提督がいたのならその時の艦娘達は何か任務中だったってことか?」


衣笠 「ある泊地での極秘の任務だったらしくてその内容は知ることが出来なかったけど、なんでもその任務中に予期せぬ深海悽艦の襲撃にあったらしいのよ。」


初霜 「艦娘を騙したというのはその時ですか?」


衣笠 「うん。どうやらその時にあの男は提督を脅して、艦娘と戦闘員は戦えと命令するように言ったそうよ。大本営からは撤退命令が出されていて、応援部隊もすぐに来る手筈だったそうだけど。でもあの男は提督に命令させた後、緊急時に使われるボートの所へ行って、提督を口封じの為に射殺して一人その場を逃走したそうよ。」


天龍 「艦娘や戦闘員は囮にしたってのかよ。最低だな。」


山城 「撤退命令ならあいつだって脅したりとかせずにさっさと逃げてしまえばよかったじゃない。」


衣笠 「軍法会議によるあの男の証言によると、逃げきれるような状況ではなかったし、援軍の話も信用できなかったからそうしたのだと言っていたそうよ。」


龍田 「軍法会議? よくそんな情報が手に入りましたねぇ? 軍法会議で出された証言や内容は秘密で口外してはならないものなのにぃ。」


衣笠 「大淀さんが大本営の書庫に軍法会議などや今までの任務の内容などの重要機密を保存しておく場所があって、今の立場なら入れるってことで調べてくれたらしいのよ。」


扶桑 「今の大淀さんは元帥専属の秘書艦ですから忙しいはずなのに、わざわざそこまで調べていただけるなんてありがたいですわね。」


衣笠 「あの男の証言を見たらそれは最悪だったそうよ。軍は嫌いだ、無駄死にはしたくない、挙げ句の果てに艦娘というのは人間のために戦って然るべきだから、戦って沈むのは当然だろうとかね。」


天龍 「あいつ…。絶対ぶっ殺す…。」


龍田 「天龍ちゃん、どうどう。」

天龍 「俺は馬じゃねぇ!」


夕張 「それはそうと、よくあの男の企てが発覚したよね。当たり前の事だけど口封じするぐらいならバレないように行動していたと思うけど。」


衣笠 「なんでも生き残りの中に目撃者がいたんだって。」

衣笠 「たまたまあの男が提督を射殺してボートで立ち去る場面を見たのだとか。殺す前に提督とあの男が会話していたのを聞いて、脅されていた事もわかったみたいで。」


山城 「フッ、まあいい気味ね。それが決め手になってあいつは罪を認めたってこと?」


衣笠 「そんなところだと思うよ。特に言い逃れをしようとした証言は書かれてなかったみたいだし。もしかしたら省略されてるだけかもって。」


初霜 「その目撃者っていう人や事件で生き残った艦娘にその時の話を聞けば、もっと詳しい事がわかりそうなんですけどね…。」


衣笠 「目撃者の方は匿名でわからなかったみたいだけど、生き残った艦娘に関しては青葉が当時応援部隊として参加して彼女達を保護した事がある艦娘から、その子達が誰なのか聞く事ができたそうよ。」


初霜 「え? それは本当ですか?」


衣笠 「しかも聞いてすぐにその子達がいる鎮守府に聞きに言ったそうよ。」


加古 「早っ!? さすがは青葉だね〜。」


衣笠 「でも直接会えたけど、あの時の話はしたくないの一点張りで追い出されてしまったそうよ。その子達と同じ鎮守府の艦娘達も当時の話を誰一人聞いた子はいないんだって。」


雷 「よっぽど思い出したくない事だったんだろうね…。」

電 「可哀想なのです…。」

暁 「レディーの扱いがなってないようね。今回の司令官も。」

響 「…。」


衣笠 「憲兵さんも言ってたわ、『あいつに騙されて惨めな死に方をしないように気をつけろ』ってね。」


龍驤 「…。」

初霜 「…。」


龍驤と初霜は少し考え込んでいた。

二人には前に蛇提督との一件もあってか、先程の事件の内容には納得がいくようで、でも何か引っ掛かる感じがした。

あの時の会話から蛇提督はそんな非道な人間に思えなかったからだ。

だが皆が言うように今はまともな提督を装っているのかもしれない。

騙されたという艦娘も似たような事があったからショックのあまり他に言うこともできずにいる、そのような可能性もあった。

現に彼女達の提督は、今、執務室にいるはずのあの男に殺されたという事実があるのだから。


電 「初霜ちゃん、具合でも悪いのですか?」

扶桑 「それなら龍驤さんも顔色がよろしくないように見えますが?」


初霜 「え? 私は大丈夫。心配ないわ。少し考え事をしてただけよ。」

龍驤 「うちもちょっと考え事してたわ。大したことじゃない。」


龍田 「二人は秘書艦しているから何か思い当たる節でもあるのではないですかぁ?」


龍驤 「い、いや〜、別になんでも。あ、もうこんな時間やんけ。はよ午後の演習の準備せな。」


時計は13:00の時刻になろうとしていた。


夕張 「本当だ。私も工廠に行かないと。次の演習用の機材用意しなくちゃ。」


天龍 「おいおい。資材集めの件に関してはどうすんだよ?」


初霜 「それなら提督に携帯用の艤装の持ち出しを許可してもらえば良いのではないでしょうか?」


加古 「そっかぁ〜。それなら駆逐艦の子が行く事になっても大丈夫だね。」


龍田 「あの男がそれを許可するでしょうかぁ?」


龍驤 「案外、その条件は通るかもしれへんかもな。」


衣笠 「それはまたどうして?」


龍驤 「うん?ああ、まぁ、何事もやってみなくてはわからんということや。」

龍驤 「じゃあうちは先に行ってるで。」


そう言って食堂を出て行く龍驤。

龍驤のその不可思議な言動に訝しげな表情でその後ろ姿を見る艦娘達。


初霜 「(もしかして龍驤さんも提督と何かあったのでしょうか…?)」


ただ初霜だけはその理由に感づいていた。


その後、演習は再開された。

午前では一人一人であったが、艦隊編成も視野に入れて、六隻で一艦隊その中で何人かを入れ替えながら行われた。と同時に陣形の見直しも行われ休みなく続いていた。


山城 「こんな演習…。不幸だわ…。」

扶桑 「山城、頑張って。対空戦闘も重要なことよ。」

山城 「私はそんなことよりこの主砲で敵艦を思いっきり吹き飛ばしたいわ…。」


加古 「古鷹、大丈夫?」

古鷹 「私はなんとか…。加古は?」

加古 「私もちょっとヘトヘトになってきた…。」


天龍 「このっ!こいつっ!」

龍田 「天龍ちゃんそんなにムキにやったら、当たるものも当たらないですよぉ。」

天龍 「あのクソ男をやれないから、この艦載機に八つ当たりしてるんだよ!」


暁 「うう…。腕が痛い…。」

雷 「もう弱音を吐いてるのかしら?」

暁 「わ、私はまだ全然大丈夫よ!なぜなら一人前のレディーなんですから。」

電 「はわわ…、全然当たらないのです。」

響 「うう…。」

初霜 「響ちゃん大丈夫ですか?私がカバーしてあげますから安心してください。」

暁 「私がカバーするわ。だって私は皆のお姉さんなんだから!」

雷 「そんなこと言ってさっきから当たってないわよ!」

暁 「こ、これからよ!」アタフタ


夕張 「私は装備次第では対空特化に出来なくはないけど、専門じゃないのよね。」

衣笠 「私も飛行機はちょっと…。」

夕張 「それにしても…。」

龍驤 「おりゃあー!どんどんいくでー!気張ってけー。」

夕張 「(龍驤さんが鬼教官になってる〜。)(T_T)


そしてあっという間に時間は過ぎ、18:00になろうとしていた。

夕焼けに染まった空は今日という一日が終わることを告げるかのように、暗くなりはじめていた。


蛇提督「今日はここまでだ。片付けを済ました後、全員解散。夕食に行って構わない。」

蛇提督「それと夕張と初霜は20:00に執務室に来い。今日の演習のデータの報告を聞きたい。」


夕張 初霜「「了解です。」」


蛇提督はその後、執務室へと戻った。

艦娘達は片付けを済ませた後、各自解散となった。





初霜 「19:30になるわ。早めに執務室に行った方がいいわね。」


夕食を済ませ、初霜は執務室へと向かっていた。

しかし、ふと窓の外の何かに気づく。あたりはすっかり暗くなってしまったが窓の向こうは鎮守府の正門がある。

その正門に確かに車のライトと人影が見える。人影は門の辺りをうろうろしているようだ。


初霜 「あれは…宅急便屋さん?」


ライトの灯りを頼りに人影をよく見れば、宅急便のようである。荷物を抱え誰かを探しているようだった。

初霜は正門へと向かった。




初霜 「何の御用でしょうか?」


配達員「えっと君は…ここの関係者なのかい?」


初霜 「はい、そうです。届け物ですか?」


配達員「そうだよ。こちらに◯◯様はいらっしゃいますか?」


そう言って配達の青年は抱えていた荷物を初霜に見せた。

◯◯とは蛇提督の名前だ。

宛先を見れば確かに蛇提督の名前である。


初霜 「私が代わりに受け取ります。」


配達員「そうかい?じゃあこちらにサインをお願い。」


初霜はサインをして荷物を受け取る。


ありがとうございました、と言いその場を足早に配達員は去って行った。


初霜 「中身は何なのでしょう…?」


荷物を抱えながら鎮守府に戻り、執務室に向かった。

執務室に入ると夕張だけが先に来ていた。


夕張 「どこに行ってたの? 初霜ちゃんは先に行ったって聞いたから急いで来たのに誰もいないなんて。」


初霜 「ごめんなさい。…提督もいないのですか?」


夕張 「そうなのよ。もういると思ってたけど私が来た時にはあの男もいなくて。」

夕張 「というかその荷物は何? 届け物?」


初霜 「はい。提督宛に先程受け取りました。」


初霜は質問に答えながらその荷物を執務用の机の上に置いた。


夕張 「これ、民間の宅急便じゃない? 軍の関係なら普通、憲兵が届けに来るでしょう?」


初霜 「はい。その通りです。」


軍所属の人間に荷物の届け物をするのならば、昼間のように憲兵が届けに来る。

理由はもちろん軍の機密事項も含まれる可能性のある物を一般人には知られないようにするためである。

軍の人間に対する身内からのプライベートな手紙なども一旦それを担当する軍の部署に預けられその後憲兵が届ける。提督という重役なら尚更である。

にも関わらずその部署を介さず、民間の宅急便によって蛇提督個人に届けられたということは、大本営には内密にこの荷物を届けさせたという事を意味していた。


夕張 「差出人は誰なんだろう?」


初霜 「それが私も見てみましたが、送り主は書いてなくて…。中身も書いてないんです。」


ますます怪しくなってきた。届け物がある事を事前にこちらに伝えてないという事もあり、さらに怪しい。


夕張 「中身、見てみようか…。」


初霜 「えっ!? それはまずいのではないですか? そろそろ提督も戻ってくるかもしれませんし。」


夕張 「でも今見なきゃ、何だったのかわからないし、もしかしたら何か企んでるかもしれないじゃない。その証拠を手に入れればあの男を追い出すチャンスかもしれないのよ。」


初霜 「でも…。」


初霜はそれ以上反論ができなかった。


夕張 「初霜ちゃん、これは皆のためよ。皆を危険に晒されないために少しでもその可能性を潰すの。」


そう言って意を決したようにその荷物の包みを開けはじめた。

初霜は心配な眼差しでその様子を見ていた。


夕張は包みを取り、そして箱の蓋に手をやり開けようとした次の瞬間、箱の中から急に何かが飛び出してきた。

きゃあっと声をあげ、尻餅をついてしまう夕張。

初霜はそんな夕張より箱の中から飛び出したそれを目で追いかけた。夕張を踏み台に飛び越え、少し後ろで見ていた初霜のすぐ隣を通り床へと着地する。そこでその正体をようやく認識した。


初霜 「ね、猫!?」


それは全身真っ黒の黒猫だった。

毛並は綺麗で無駄な脂肪がないスマートな体型をしていた。

まだ外が少し寒いせいもあるのかフサフサな冬毛の部分も残っている。

そして鈴のついた赤い首輪をしていた。


夕張 「もう一体何なの〜?」


初霜 「ゆ、夕張さん! 猫です! 猫ですよ!」


早く見てと言わんばかりに夕張を急かす初霜。


夕張 「ホントだ。可愛い〜♪」


初霜 「そうなんですが、捕まえなくていいのですか?」


夕張 「そうね。あの猫に何か秘密があるのかも。初霜ちゃん捕まえるわよ!」


初霜 「は、はい!」


二人は協力して黒猫を捕まえようとする。

夕張が先に飛びかかり、猫が逃げた方向に初霜が捕まえようとしたり、またその逆もしたが二人とも地面にぶつかるだけで猫に触れることさえできなかった。

そして二人はアイコンタクトをして互いに頷いた後、先程のように無闇に飛びかからず二人で協力しながら猫を壁の隅っこにうまく追い込む。

猫は逃げ場が無くなり動きを止める。


夕張 「とうとう追いつめたわよ。猫ちゃん。」

初霜 「大人しく捕まってください…!」


二人が同時に飛びかかった。

と同時に猫の方も二人の間の隙間へと飛んだ。

二人はそれに反射して互いが猫の両側から捕まえようと手を伸ばし、猫の体に触れたが…。

すり抜けた。

二人は顔と顔がぶつかり、ドサっとものすごい音を立てて転んだ。

猫は何事も無かったかのように、ただ平然と二人が顔を抑えてうずくまる姿を眺めていた。


古鷹 「どうかしたんですか? 中から物凄い音が聞こえたのですけど…。」


古鷹が恐る恐る執務室のドアを開けて中に入ってきた。

その後すぐ猫は古鷹には目もくれずその足元を通り、開いたドアから部屋を飛び出していった。


古鷹 「えっ?な、何? 猫?」


夕張 「しまった!? 逃げられた!!」


古鷹 「一体どういう事なんですか?」


夕張 「詳しい話は後! 今の猫捕まえて!」


古鷹 「えぇっ!?」


夕張 「あの猫が提督の秘密を握っているかもしれないの! 私達も後から追いかけるから!」


古鷹 「わ、わかりました!」


古鷹は夕張の声に押されるように猫が走り去った方向へと追いかけて行った。


夕張 「あいたた…。私達も早く追いかけなきゃ。」


初霜 「夕張さん、ごめんなさい。私が不甲斐ないばかりに…。」


夕張 「気にすることないわ。私も動きが遅くて…。」

夕張 「私は先に行ってるわ。初霜ちゃんは無理しなくてもいいから。」


初霜 「いえ、私もすぐに行きます。逃してしまったのは私の責任ですから。」


夕張 「そう、じゃ行ってるね。」


夕張は執務室を出て行った。

初霜もその後を追いかけようとするが、


初霜 「そうだ、箱。」


机に置いた箱を思い出し、持っていこうとする。


初霜 「あれ? 箱の底に何かが…?」


一枚の紙が置かれていた。

それを手に取り何かが書いてあるのを見つけた。


初霜 「こ、これって!」




一方その頃…。


天龍 「ったく…。あの野郎のせいで今日は疲れたぜ。」


龍田 「そうねぇ。体のあちこちが痛いわぁ。」


鎮守府の廊下を天龍と龍田が歩いていた。


チリンチリン〜。


龍田 「うぅん?」


天龍 「どうした?龍田?」


龍田 「今、鈴のような音がしなかったぁ?」


チリンチリン〜。


龍田 「ほら、やっぱりぃ。」


天龍 「本当だ。どこから聞こえてくるんだ?」


二人が耳を澄まし聞いていると背後からのようだ。

振り向いて見ると黒猫が廊下の端をこっちに向かって走ってくる。

猫は一瞬二人を見て警戒したのか速度を落としたが、すぐに二人の横を通り、走り去って行った。


龍田 「あらあら〜。可愛いわね〜。」


天龍 「どうして猫なんかいるんだ?」


猫の姿が見えなくなった後、古鷹が慌てた様子で走ってきた。


古鷹 「あ、すみません。こっちに黒い猫が来ませんでしたか?」


天龍 「ああ、それなら今さっきそこを通ってたぞ。」


龍田 「あの猫がどうかしたのですか〜?」


古鷹 「なんでも夕張さんが言うには提督の秘密が隠されているから、早く捕まえてほしいと…。」


天龍 「何だって!? あいつの弱味を知るチャンスという事か!」


龍田 「どういうわけかはわからないけどぉ、見過ごせないわねぇ。」


天龍 「ならこの天龍様の出番ってことだな。よっしゃあー!」


龍田 「手分けして探しましょう。」


古鷹 「お願いします。」


そして三人は猫が走っていった方へと追いかけていった。





―――第六駆逐隊の部屋―――


南棟の二階に彼女達の部屋はある。

ちょうど四人寝泊まりできる部屋でお座敷タイプの部屋だ。


暁 「疲れたわ〜。」

電 「なのです…。」

雷 「もうヘトヘト…。」

響 「…。」ヨロヨロ


暁姉妹が今日の演習でくたびれ、自分達が共に使っている部屋でそれぞれが休んでいた。

暁と雷は部屋の真ん中に置いてあるちゃぶ台に倒れ伏し、布団を敷いて横になった響の隣に電がいる。


暁 「今度の司令官もレディーの扱いが荒いわね。」


雷 「こんなスパルタな演習やってたら出撃する前に沈んでしまいそうよ。」


電 「(スパルタな演習になったのは龍驤さんのせいな気がするのですが…。)」


響 「…。」


雷 「でも…前の司令官みたいに傷だらけのまま補給も少しだけのまま、遠征に行かせられるよりかはましなのかな…。」


暁 「雷…。」


電 「でも衣笠さんが教えてくれた今度の司令官の情報が本当なら、私達は使い捨てのようにこき使われて、最後は捨てられてしまうのでしょうか…。」


暁 「そんなことは…。」


雷 「そうよね。結局私達は今度の大規模作戦では無謀な囮作戦を担うんだよね。」

雷 「ここの鎮守府に転属が決まった時から察してたわ。私達は役立たずの烙印を押されたのだろうって…。」

雷 「でも大規模作戦の一端に参加できるだけましよね。だってそれは少しでも頼られているということよね。」

雷 「なら私はたとえあの司令官に騙されているんだとしても、やれるだけのことはやるわ。」


電 「雷ちゃん…。」


暁 「だ、大丈夫よ。妹達のことは一番の姉である私がなんとかしてみせるわ。」


雷 「なんとかするって、どうするのよ?」


暁 「そ、それは……。と、とにかく妹達を守るのは姉の使命。あの司令官から皆を守ってみせるわ。」

暁 「今までだってなんとかやって来れたじゃない。」


雷 「私達と変わらず、お子様のクセに何言ってるのよ。」


暁 「お子様言うな!」


雷 「暁なんかよりしっかりしている初霜ちゃんの方がよっぽどお姉さんって感じがするわ!」


暁 「うぐっ………」


電 「やめてください二人とも!」


普段、叫ぶことのない電に驚き、暁と雷は動きを止め電の方を見ていた。


響 「…。」


そんな中、響は遠い目で天井を見つめながら、三人のやり取りを聞いているようだった。


電 「ここで私達がケンカしたところで良いことは何も起きないのです!」

電 「むしろ…どんどん不安が増して…、うっ……。」グスッ


雷 「わ…わかったわ、ごめんね電。……暁にも言いすぎたわね、ごめん…。」


暁 「私も…その…ごめん。」


暁と雷が電の側へと来て、今にも泣き出しそうな電の背中を撫ぜたりしながら、暁と雷は互いに謝った。


チリンチリン〜。


鈴の音がした。

いち早く気づいたのは響だった。

横になっていた体をムクッと起き上がらせ、辺りを見渡す。


雷 「ど、どうしたの?響?」

急に動き出した響に驚き、尋ねる。


響 「猫…。」


暁 「猫?」


響が指を指した方に暁と雷、泣き止んだ電もその先を見た。

なんと壁際に黒猫がこちらの様子を伺うようにいるではないか。


電 「可愛いのです!」


雷 「可愛いというより美しいって感じよね。」


暁 「どこから入ってきたのかしら?」


暁の疑問はすぐに解けた。

響が「あれ」と言いつつ指さした方は部屋のドアが微かに開いていた。

どうやら誰かがしっかりと閉めていなかったようである。


四人は猫に近づいてみようと試みるが、一定の距離に近づくと猫が逃げてしまう。


暁 「逃げてしまうわね。」


電 「そもそもどこから迷い込んで来たのでしょうか?」


雷 「首輪をしているということは飼い猫って事だよね?」


響 「にゃあ〜。」


響が猫の手を作りながら、猫に話しかけるように言う。


暁 「ひ…響? 何をしているの?」


響 「どこから来たんだい?って聞いてみてる。」


雷 「わかるわけないじゃない。」( ̄▽ ̄;)


その時、部屋のドアが開き天龍が入ってきた。


天龍 「おい、こっちに黒い猫が来なかったか?」


電 「あっ、天龍さん。」


雷「猫ちゃんならそこにいるわよ。」


天龍が入ってきて、先ほどよりさらに警戒心が強くなった猫は、雷が自分を指で指したのを見てビクッと反応する。


天龍 「見つけたぜ! さっきは逃がしたが今度は逃がさねぇぞ〜。」

指を鳴らしながら猫に近づく天龍。


電 「猫さんに乱暴してはいけないのです!」

電が天龍の前に立ち、腕を広げて行く手を阻む。


雷 「猫ちゃんをいじめちゃダメよ!」

響 「ウラー!」

雷と響も電に続いて行く手を阻む。

暁も慌てて後に続き姉妹達の前に立ちながら、


暁 「い…いくら最近イラついているからと言って猫に八つ当たりするなんてレディーのすることじゃないわ!」


天龍 「俺はそんな器小さい奴じゃねぇ!」


そうこうしてるうちに、猫はわずかに開いていた窓から1、2メートル離れた木へと飛び移った。


天龍 「あっ! また逃がしちまったじゃねぇか!」


雷 「あんな所に飛び移れるなんて凄い身体能力ね!」

電 「凄いのです!」

暁 「無事に逃せられたわね!」

響 「ハラショー。」


天龍 「ああっ!もう! あの猫はあの男の秘密を握っているんだぞ!」


電 「えっ!? あの猫さんは司令官の猫なのですか?」


雷 「そもそも秘密って何よ?」


天龍 「それはあの猫を捕まえてみなきゃわかんねぇ。」

天龍 「だからお前たち、あの猫を早く捕まえるために協力しろ!」


暁姉妹達は互いに向き合って姉妹会議を始める。


暁 「よくわからないけど、早く捕まえないといけないみたいわね。」

雷 「しかも司令官の猫が行方不明とかになったら、私達怒られるのかな?」

電 「それはイヤなのです…。」

響 「…。」コクコク


雷 「わかったわ。あの猫を捕まえればいいのね?」

暁 「猫探しなんてレディーの私に比べたらあちゃめちまえだわ!」

電 「(カッコつけようとして噛んだのです…!?)」Σ(゚д゚lll)

響 「ハラショー。」


天龍 「おしっ!お前ら頼んだぞ!」

天龍 「見つけたら俺や龍田、あと古鷹でもいいから伝えてくれ。」

天龍 「くれぐれもあいつには悟られないようにな。」


電 「了解なのです!」


暁姉妹達は敬礼した後、一斉に部屋を飛び出ていく。

天龍もそれに続いて出ていった。




―――ー重巡型の部屋――――


加古 「ああ〜〜、疲れた〜〜。」


ここは古鷹と加古、衣笠の部屋。

こちらもお座敷の部屋で南棟の二階にある。

加古が布団に倒れるように横になり、その隣に衣笠が座りこんでいた。


加古 「マジで死ぬ〜、死ぬほど寝かせて〜。」


衣笠 「加古はいつもそのセリフ言ってるじゃない。」

衣笠 「まあ今回は私もそれに同意なんだけどね。」


こちらの二人もクタクタのようである。


衣笠 「それにしても古鷹、帰ってくるのが遅いわね。」


そう言って衣笠は立ち上がり、部屋の窓を開けた。

窓からは北棟が見える。


衣笠 「夕張が忘れてった資料を届けるって言って、それっきり帰ってこないわね。」


加古 「一緒に会議をしてるんだよ。古鷹、真面目だからさ。」


衣笠 「そうかもね。ちょっと鏡台借りるわね。」


加古 「どうぞ〜。」


衣笠 「髪とか大丈夫かな〜? 結構、激しかったけど…。」


衣笠が鏡台の鏡を見ながら、自分の顔や髪をチェックしていた。


加古 「うぅ〜。衣笠〜、イタズラするのやめてくれないか〜? 重いよ〜。」


衣笠 「私は何もしてな……って、えぇっ!?」


加古がおかしなことを言うものだから、振り返って加古の方を見ると、仰向けで寝てる加古の腹の上にその黒い猫は立っていた。


衣笠 「うそっ!? なんで猫が!?」


加古 「どうしたんだよ。急に大声で…って、うわぁっ!?」


加古が疲れで閉じていた重いまぶたを開けた瞬間、すぐ目の前、自分の腹の上にいた猫に気づき驚く加古。

猫はそんな加古の反応に驚き、腹から降り部屋の壁際に逃げた。


衣笠 「窓から入ってきたのかな?」


加古 「でもここ二階だよ。」


二人がそんなことを話しているうちに猫は部屋のドアの所まで歩み寄り、前足でドアノブに手をかけようとする。


衣笠 「外に出たいみたいだね。」


加古 「そうみたいだ。賢いんだな。」


その時、猫は何かに反応してドアから距離をとる。

ドアが開かれ入ってきたのは…、


古鷹 「加古、 ちょっと手伝ってほしいんだけど…!」


そして猫はまたもや古鷹に目もくれず、その足下を通り走り去る。


古鷹 「えぇっ!?うそ!?ここにいたの!?」


加古 「どうしたのさ?」


衣笠 「あの猫がどうかしたの?」


猫に逃げられがっかりしていた古鷹に二人が聞く。


古鷹 「それが…。」


古鷹説明中…。


衣笠 「秘密をあの猫が…。」


古鷹 「そうなの。だから手伝ってもらえないかな?」


衣笠 「いいよ!なんだか面白そうだもん!」


加古 「私はパスかな…。秘密なんて後から聞くよ。それより私はもう寝r…。」


衣笠 「加古も行くのよ!寝てる場合じゃないわ!」


加古 「えぇっ!?」


古鷹 「ごめんね、加古。でもお願い…。」


加古 「…わかったよ。手伝えばいいんでしょ…。」


衣笠 「猫探しならこの衣笠さんにお任せ♪」


古鷹 「二人ともありがとう!」


そうして古鷹と衣笠は猫の後を追いかけるように、その後を加古が眠たそうな顔で部屋を出ていった。




――――鎮守府北棟一階廊下――――


龍驤 「はぁ〜。今日はなんかごっつ疲れたで〜。」


食堂から南棟にある自分の部屋に戻ろうとしていた龍驤。

その廊下の先は北棟と南棟をつなぐ渡り廊下がある。

といってもそれは北棟と南棟をつなぐように敷かれたコンクリートの道と雨よけの屋根が備え付けられており、一旦外に出るようになっている。


龍驤 「(しっかし、あの司令官が人を殺していたとはな…。しかも同じ軍人を…。)」

龍驤 「(納得できるようでなんかそうじゃないようで…。)」

龍驤 「ああっもう!こんな考えすぎるのはうちに似合わへん!」


頭を抱えて叫んだ龍驤はふと窓の外を見て何かを見つける。


龍驤 「(うん?あれは司令官?)」


外は暗くなり、鎮守府のわずかな明かりしかない中で、蛇提督と思わしき人影が見えた気がした。


龍驤 「(そんなはずないか。もう20:00になるはずだから司令官は執務室にいるはずや。)」

龍驤 「(司令官の事を考えすぎて幻でも見たんかな。こりゃかなり疲れてるで〜…。)」


うな垂れながら渡り廊下を行くためのドアを開ける。

するとそこには黒い猫が座ってこちらを見つめていた。

龍驤 「おお? こりゃ可愛い猫やな〜。どこから来たんや?」


手が届かない距離で龍驤はしゃがみ込みながら猫に話しかける。

猫は少し警戒しているのかその場から動かず、じっと龍驤の様子を伺っているようだ。


龍驤がしばらく猫を眺めていたら、急に猫が龍驤とは反対の方向から何かを察し、とっさに動いた。

それと同時に龍驤の前にガキンっと何かが刺さり、龍驤はうわっと驚いて尻もちをついた。


龍驤 「な、なんや!?」


目の前で刺さったそれをよく見れば、龍田がいつも持ち歩いてる薙刀だった。


龍田 「あらあらぁ、惜しかったですわねぇ。」


龍驤 「危ないやんけ! 当たったらどうすんねん!?」


どこからともなく現れ、何事も無かったかのように薙刀を自分の手に戻す龍田に怒る龍驤。


龍田 「猫を捕まえようとしたのだけどぉ、逃げられちゃったわねぇ。」

頬に手を当ててわざとらしく困った顔をする龍田。


龍驤 「猫を狙ったんかいな!? 猫に何の罪があんねん!?」


龍田 「あらあらぁ、猫を捕まえようとして誤って龍驤ちゃんに当たっちゃったって言う絶好のチャンスだったのにぃ。」


龍驤 「って、狙ったのはうちかいな!? うちが何かしたんか!?」


龍田 「別にぃ、演習でかなりしごかれたからって根に持っていませんよぉ。ンフフフ〜♪」


龍驤 「がっ…。めっちゃ根に持ってるやんけ…。」


龍田の笑顔から漏れ出す負のオーラを感じて、青ざめながら後ずさりする龍驤。


雷 「こっちにいたよ〜。」

暁 「待て〜。」

天龍 「おりゃあ!」

電 「あっ!あっちに行ったのです!」

衣笠 「北棟の方ね!」

古鷹 「加古も早く!」

加古 「待ってよ〜。みんな〜…。」

夕張 「私も置いてかないでよ〜。」


遠くで皆の声が聞こえる。


龍驤 「一体、何の騒ぎなんや? あの猫がどうかしたん?」


龍田 「それがですねぇ…。」


龍田説明中…。


龍驤 「はぁ〜。秘密ね〜。」


龍田 「そういうことなの。天龍ちゃんも張り切っちゃてぇ。」


龍驤 「あの男の秘密と猫がどう繋がるのか、ようわからんけど…。」


龍田 「捕まえてみたらわかるわよ。じゃあ私はあの子達の後を追いかけるわねぇ。」


龍驤 「お、おう。」


そう言って龍田は走り去っていった。


龍驤 「うちも追いかけてみっかな。」


そう思った矢先、初霜が走って来た。


初霜 「あ、龍驤さん! 皆さんはどこに行ったかわかりますか?」


龍驤 「おお、初霜もあの猫を追いかけてたんか? どうやら北棟の方に行ったようやで。」


初霜 「早く皆を止めないと!」


龍驤 「えっ? それはどういう意味や?」


初霜 「とにかく皆を追いかけないと!」


そう言って初霜も走り去ってしまう。


龍驤 「お、おい。ちょい待ってや!」


龍驤もその後を追いかけていった。



――――食堂――――


山城 「ああ…。不幸だわ…。」

扶桑 「山城、大丈夫?」


扶桑と山城は食堂にいた。

山城が食堂の机に顔を突っ伏したまま、調子が悪そうなので扶桑が側で見守っていた。


山城 「これも全部、あいつのせいよ…。」

扶桑 「山城、そろそろ部屋に戻りましょう。ここで寝ていても体に良くないわ。」


その時、食堂の外に通じるドアの方から大きな音が聞こえた。


天龍 「待ちやがれ!」


扶桑 「一体何の騒ぎでしょう?」


音がした方を見た扶桑と頭を起こして同じくその方向を見た山城は天龍達が何かを追いかけているようだった。

食堂の机の下に何かがいるのだろうか。


扶桑 「あれは…、猫?」


逃げている何かをよく見れば黒猫のようだ。


天龍 「よし、皆で逃げ道を塞ぎながら徐々に囲って捕まえるぞ!」


電 「ラジャーです。」

雷 「ならこっちは任せて!」

暁 「こ、こっちは通らせないわ。」

響 「無駄だね。」

夕張 「さあ、これでどうかしら!」

衣笠 「逃げても無駄よ!」

龍田 「ンフフ、行かせないわぁ。」

古鷹 「これが重巡洋艦の力です!」



それぞれが猫の逃げそうな方向に先回りをして行く手を阻む。

そして猫は扶桑と山城がいる机の上に飛び乗ってきた。


天龍 「そいつを捕まえてくれ!あいつの秘密を握っているんだ!」


扶桑 「えっ!?」


山城 「何が何だかわからないけど、捕まえればいいのね。姉様、ここは私が!」


扶桑 「や、山城!」


山城 「はあっ!」


扶桑は止めようとしたがその前に山城は猫に飛びかかる。


ドオン!


だが、猫は真上とジャンプし山城をかわす。

山城は机にぶつかり、先ほどの突っ伏していた状態よりさらに体を少し乗り上げるような体勢となった。

そして猫は綺麗に山城の頭に着地する。


天龍 「今だ!スキあり!」


猫が着地すると同時に猫の後ろから飛びかかる天龍。

完全に捉えたと思ったが甘くはなかった。

後ろから飛びかかった天龍に猫は着地と同時に天龍の顔に飛び移り顔を引っかいた。


天龍 「いてぇぇぇっっ!!!」


天龍の顔を蹴ってまた山城の頭の上に着地する猫。


龍田 「あらあら、天龍ちゃんったらまあ(笑)」

古鷹 「だ、大丈夫ですか!?」


その光景を見ていた艦娘達は一人を除いて皆が天龍を心配していた。

皆がそちらの方に気を取られてる間、猫は食堂の端へと走り、物と壁の隙間に入って手が届かない所へと隠れてしまった。

衣笠や夕張がすかさず猫が隠れてしまった隙間の前まで来たが、これ以上は入ることができない。

他の艦娘も痛がる天龍と共に隙間の前までやってきた。


山城 「猫には二度も踏まれ…、そして誰からも私を心配する言葉がない…。不幸だわ…。」

扶桑 「山城、私はあなたを心配しているわ。」アセアセ


倒れたままの山城とそれを心配する扶桑は猫の事や天龍の事で騒いでる艦娘達の片隅で彼女達は話していた。


夕張 「奥に隠れてこのままじゃ捕まえられないわね。」


雷 「下手に手を伸ばそうとしたら、天龍みたいにまた引っかかれるわよね。」


天龍 「クソがっ…!このクソ猫絶対許さん…!」


龍田 「まあまあ、天龍ちゃん落ち着いて。フフフwwwww」


天龍 「おまえはいつまで笑ってんだ!」


衣笠 「それならこれを使うのはどう?」


古鷹 「それって…。」


電 「猫じゃらしなのです。」


衣笠 「猫探ししてる時にあまり使われていない部屋に入って探してたらたまたま見つけたの♪」


加古 「なんでそんなのがあるのさ〜」( ̄O ̄;)


暁 「それで猫ちゃんを誘き出す作戦ね!」


夕張 「早速、試してみましょう!」


衣笠 「やってみるね。」

衣笠 「ほらほら〜、おいで〜。」


衣笠が猫に見えるように猫じゃらしを振ってみる。

しかし猫は一瞬猫じゃらしを見るが、プイッとそっぽを向いてしまう。


衣笠 「あれれ、興味ないのかな〜。」


古鷹 「あれだけ追いかけ回したから警戒しているのよ。」


初霜 「あっ!皆さんここにいましたか!」


初霜とその後に龍驤もやって来た。


夕張 「あら初霜ちゃん、遅かったわね。」


初霜 「夕張さん!それと他の皆さんにも伝えないといけない事が!」


龍田 「あらあらぁ、そんなに慌ててどうしたのぉ?」


龍驤 「それがさっきからこの調子なんや…。」


扶桑 「一体どうなされたのですか?」


艦娘達全員が初霜に注目する。


初霜 「そ、それは…。」


蛇提督「おい!おまえ達!ここで一体何をしている?」


艦娘達「「「「!!」」」」


いつの間にか蛇提督が来ていた。


蛇提督 「20:00になっても初霜と夕張は来ないし、何やら鎮守府内が騒がしいと思って見に来れば…。」


怒りながらずいずいと艦娘達に近づいてくる蛇提督。


夕張 「え、えっと…、これはその…。」


夕張はなんとかこの場を乗り切る言い訳を探し、天龍と龍田、山城は身構え、他の子達はおどおどしたりビクビクと震えている。


蛇提督「さあ、どういうわけか説明してもらおうか。」


互いが見合い、一時の静寂のあと、


猫 「ニャア〜」


蛇提督「にゃあ?」


その時、猫が隙間から現れ蛇提督の下に真っしぐらに走った。


猫 「にゃあ〜〜」


蛇提督の足にすり寄り、これでもかというくらい自分の体を擦りつけている。


蛇提督「まさか…ユカリなのか?」


蛇提督は猫の頭を撫でて確かめるように見ていた。


蛇提督「でもどうしてここに…?」


初霜 「宅急便で送られてきた箱の中にその子がいたんです。」


蛇提督「宅急便だと?」


初霜 「あとその箱の中に紙が入っておりました。」


初霜から手渡された紙を蛇提督は受け取り、書いてある何かを読んだ。


蛇提督「あいつ…。」


静かに怒りを露わにして紙を握りつぶす。


龍驤 「そ…その猫は司令官の飼い猫なんか?」


蛇提督の怒った顔に艦娘達がビビる中、龍驤が質問をする。


蛇提督「うん?ああ、そうだ。」


初霜 「ユカリって呼んでましたよね?それがその子の名前なんですか?」


蛇提督「そうだ。」


初霜 「どうしてその名前に?」


蛇提督「こいつを拾った時、大きなユーカリの木の下にいたもんでね。」


龍驤 「拾ったって捨て猫やったんかい?」


蛇提督「そうだろうな。籠の中に入れてあったからな。」

蛇提督「あれは雨の日だった。大きなユーカリの木がなんだか印象的だったもんで近づいてみたら、その根本にまだ子猫だったこいつがいてな。」

蛇提督「見つけたときはかなり衰弱していたからな。急いで獣医に診てもらった。命に別状は無く、雌であるとも分かったので、この子の名前を拾った木の名前から拝借した。」

猫を抱え上げながら話す蛇提督。


龍驤 「名前、そのままやんけ。」

龍驤が少し微笑む。


蛇提督「名前を付ける時なんてそんなもんだろう。」

龍驤の視線から目を逸らしながら答える。


初霜 「でも提督が拾ってくれたおかげでユカリちゃんは命を救われたのですね。」


蛇提督「だがこいつ、俺以外の人間に全然懐かない。下手に触ろうとすると引っかかれるぞ。」


初霜 「そうだったのですか…。よっぽど酷い目にあったのですね。」

初霜 「そうだとは知らず、乱暴にしてごめんね。」


そう言いながら初霜はユカリの頭を撫でようとする。


蛇提督「おい!触ろうとすると引っかかれ…。」


だが、初霜の手は蛇提督に抱き上げられているユカリの頭に触れることができた。

ユカリは、別に問題ないというような顔をしている。