2019-10-22 17:52:42 更新

概要

1度死んで、魔王に転生した主人公 ・ 東雲 悠耶は、仲間の魅力的なモンスターの女の子と共に、時に他所の魔物と戦ったり、時に勇者の一行と戦ったり、時に他所に出かけたり、または拠点でゆるゆる過ごす。のんびり異世界ライフを満喫していく


前書き

どうも!前回ぶりです、柔時雨です。

『第2の人生は魔王スタートだったので、人外の女の子達とハーレム作ります。 』の後書きにも綴らせていただきましたが
個人的に 『 15 』 とキリの良い数字になったので、続きをこちらから始めさせていただこうと思います。

前作の続きになりますので、この回から読み始めて 『 シルヴィアって誰? 』『 悠耶の持っている武器って、どんなの? 』 という事態を未然に防ぐためにも
前作の( ついでにキャラ紹介の ) URLを張っておきますので、宣伝するつもりはありませんが、悪いことは申しません。
まずはそちらを覗いていただいた後、こちらを読み始めてください。

それでは……改めまして、どうぞゆっくりしていってくださいね。


キャラクター紹介


第2の人生は魔王スタートだったので、人外の女の子達とハーレム作ります。Prologue ~ 15話




No.16 拠点を作ろう!Ⅱ


先日、転生の神様から 『 俺意外の皆が各々、拠点のカスタマイズができるようになった 』 的な知らせを受けてから、皆はすぐに各々の居城……マーレは水族館を、シャロンは砦の内装のアレンジに取り掛かった。

( ちなみに、俺には 『 完成してから見せる 』 とのことなので、現状彼女達の城の内装がどうなっているのか知らない )


気分的には、衣替え?テスト勉強に集中できずに始めてしまう大掃除?


たぶん、おそらく城の外もアレンジ……装飾する子も出てくるんじゃないか?と思い、城壁と濠を更に拡張。今では元々あった不毛地帯の半分を占める広さになった。

今後のことを考えて、この最西端の拠点を中心に、南北にある緑が残っている場所も、不毛の土地にして領土拡張することも考えておく必要があるかもしれない。



拠点 ・ 玉座の間


悠耶 「そうだ。今のうちに召喚符の内容を確認して……もう、召喚もやってしまうか。」


俺は玉座に腰かけたまま宙に画面を表示し、アイテムストレージに入っている神様からの贈り物 ・ 【 魔獣の召喚符 】 の 【 説明 】 をタッチした。



【 魔獣の召喚符 】

使用すると以下のモンスター Lv 1 を1匹召喚することができる。

召喚対象モンスター : ペガサス ・ ユニコーン ・ スレイプニル ・ ケルピー ・ ナイトメア ・ 麒麟



悠耶 「麒麟って……おい、霊獣!( ; ゚ Д ゚) とりあえず、使用……っと。」


選択の過程を 【 はい 】で終えると、ケルベロスの時と同じように魔獣の召喚符は俺の手から独りでに離れ、玉座の間の中心まで飛んでいくと、床に魔方陣を展開して……眩く光り輝きながら、小さく爆発した。

魔法陣の上に白い煙が立ち込め……魔法陣の中心に1匹のモンスターが立っていた。


全身が真っ黒の馬で、頭から背中……お尻にかけて不気味な装飾のされた紫色の布を被っていて、布からは数ヶ所、鋭利な白い……骨?触手?のようなモノが剥き出しになっている。

紫色の布から出ている鬣と尻尾は青白い炎で、怪しく冷たく揺らめいている。


悠耶 「このモンスターは……?」



【 ナイトメア 】

中世ヨーロッパ圏が発祥の悪夢を見せる悪魔で、日本語訳は『 夢魔 』。

夜中、人の枕元の現れて悪夢を見せる夢魔の一種。

メア 【 mare 】 とは、古代英語の 【mera 】 ・ 【 mære 】 に由来する語で、『 (女性の)霊 』 や 『 悪魔 』、『 鬼 』 を意味し、サンスクリット語の 【マーラー 】( 魔羅。悪魔の一種 ) が語源とされる。

更に語源を遡れば、ゲルマン祖語 【 *marǭ 】、印欧祖語 【 *mor- 】、【 *mer- 】 となり、『 すりつぶす 』、『 傷つける 』或いは更に直接的に 『 死 』 を意味する語であった。

従って、【 Night-mare 】 とは、語源的には『 夜に現れる、恐るべきもの 』 という意になり、後にキリスト教が布教すると、悪魔と同一視され『 夢魔 』( リリス、リリンなど ) と見なされた。

『 悪夢を見せる 』 というと、一般には魔術的なものを連想するが、ナイトメアが見せるそれは外的要因によるものだった。

例えば、寝ている人に馬乗りになって首を絞めるなどで、圧迫感や恐怖感を与えることにより悪夢を見せるというもの。

死者が夜中に墓を抜け出し、寝ている人間の首を絞めて回ったとされるものがナイトメアの起源であるとも言われている。そういう意味では、悪魔ではなくアンデッドの部類に入ることもある。

睡眠中の赤ん坊の上に何かがかぶさるなどで窒息死してしまう事件が起きると、当時はこれはナイトメアの仕業とされていた。

今日のナイトメアというと黒馬の姿で描かれているが、その姿については定かではなく、これは【 mare 】 という単語には 【 牝馬 ( めすうま ) 】( 古英語では 『 Mere 』 ) という意味もあり、『 夜の雌馬 』 と誤解されてしまったことにより、馬に乗った悪魔、もしくは馬の姿をした悪魔として描かれたことによるものである。


悠耶 「なるほど、これがナイトメア……えっと、能力は……」


【 ナイトメア 】

レベル : 1

種族 : 魔獣

クラス : 夢魔

【 ステータス 】

HP 7900 / 7900 MP 6500 / 6500

攻撃力 3750 ・ 守備力 4000 ・ 魔法攻撃力 3500 ・ 魔法防御力 3800 ・ 素早さ 350 ・ 運 30

【 スキル 】

〇 徘徊する悪夢 Lv Ⅰ : 戦闘中、味方の誰も騎乗していない間、3秒ごとに敵のHPを10分の1ずつ奪う毒の霧を散布しながら戦場をゆっくり徘徊する

〇 駿馬 Lv Ⅰ : 味方の誰かが騎乗した場合、素早さが2段階上昇する

〇 :

〇 :

〇 :

【 装備武器 / アイテム 】





【 魔法 】

〇 Poison Plain 消費MP : 10 属性 : 闇

魔法使用後、敵の素早さを2段階下げつつ5秒ごとにHPの10分の1を奪う毒の霧を戦場に展開する


【 飼い主 】 ユーヤ ・ シルヴィア ・ アンネリー ・ マーレ ・ フレデリカ ・ シャロン



悠耶 「なるほど、どうやら俺はガチャ運が良いのかも……まぁ、そんなことより!今日から宜しくな、ナイトメア。」


俺が語り掛けると、ナイトメアはブルル……と鼻を鳴らして、すり寄ってきた。


悠耶 「とりあえず……まずはケルベロスと対面させるか。間違って食べられたりしたら、目も当てられないし……」

シルヴィア 「失礼します、ユーヤ様。」


玉座の間の重い扉を押し開け、シルヴィアが入ってきた。


シルヴィア 「あら?そのモンスターは……」

悠耶 「新しく召喚したナイトメアだ。今日からケルベロスと同じように、この敷地内で放し飼いにするから、そのつもりでいてくれ。」

シルヴィア 「了解しました。これからよろしくお願いしますね、ナイトメア。」


シルヴィアの呼びかけにもコクン……と、ちゃんと頷く。うん、うん。素直で良い子だ。


悠耶 「そういえば、シルヴィア。何か問題でも起きたのか?」

シルヴィア 「え?あっ……いえ、その……皆より先に私の拠点の内装がある程度完成したので、報告を……」

悠耶 「おっ!そうか。それじゃあ、ナイトメアを外に出すついでに、見せてもらおうかな。」


*****


拠点 ・ シルヴィアの居城


シルヴィア 「先に言っておきますが、私の所には何も面白いものはありませんよ?」


そう言いながらシルヴィアが開けた扉の奥には……左右、正面の本棚にビッチリと本が整頓された状態で収納されており、空間の真ん中にある螺旋階段で2階、3階へと行けるらしい。

天井のシャンデリアや、本棚と本棚の間に取り付けられたランタンが、中々お洒落。


悠耶 「おぉ……すげぇ。図書館みてぇだ。」

シルヴィア 「HPが 0 にならない限り、時間はたっくさんありますから。世界中のありとあらゆる本を集めてみました。」

悠耶 「ありとあらゆる…………春画本のスペースはどの辺りだ?」

シルヴィア 「なっ!?あっ、ありません!そんな……ですが、ユーヤ様が御望みなら、用意を検討しても……」/////

悠耶 「冗談、冗談。それより、シルヴィアの個人的な部屋は……最上階か?」

シルヴィア 「はい。それ以外は本棚と……あとは……」


1階の正面奥、本棚と本棚の間にある扉をシルヴィアが開けて、中を見せてくれた。

この空間も本棚に囲まれているが、部屋の中央にはそれなりに大きな台が設置されており、床には魔法陣が展開されている。


悠耶 「この部屋は?」

シルヴィア 「ユーヤ様や他の皆の武器に、特殊効果を1つ付与……エンチャントすることができる部屋です。侵入者の中に魔法の才がある者が居た場合、その者も使用できる恐れがあるので、後程鍵を取り付けるつもりでいます。」

悠耶 「なるほど、エンチャントの……それじゃあ、後日改めてロンパイアに効果を付けてもらおうかな。」

シルヴィア 「はい!いつでも御申しつけください。」ニコッ


◇◇◇


シルヴィアの居城から出て、拠点内の施設をふっと見渡して……あることに気付く。


悠耶 「あれ?もしかして、建物の配置場所……変わってる?」

シルヴィア 「あっ……はい。勝手に配置し直してしまい、申し訳ありません。」

悠耶 「いや、俺も人数が増えてきたから、皆の要望を聞いて変えようかなぁ……とは思っていたんだ。言い出す前に、皆が自主的にやってくれて……それで皆が納得しているんなら、俺からとやかく言うつもりはないよ。」ニコッ

シルヴィア 「ユーヤ様……ありがとうございます。」

悠耶 「それで?具体的には今、どうなってるんだ?」

シルヴィア 「まず、ユーヤ様の居城とシャロンの居る火山の場所は変わっていません。変わったのは、ユーヤ様の居城の土台となる地面を少し高くして……向かって右前方に私の居城を、左前方に新たに高台を作り、そこにフレデリカの居城と神殿を配置しました。」


そう言いながらシルヴィアが指差す方を見ると、確かに少し丘になっている場所に、黒曜石造りのノートルダム大聖堂やパルテノン神殿、更には追加でサグラダファミリアみたいな建物も新たに築かれていた。


悠耶 「おぉう……あの中、どうなってるんだろう?見せてもらえる時が楽しみだ……ん?あれ?そういえば、闘技場はどうした?確か、皆の自主トレーニング用に造ったような覚えがあるんだけど……」

シルヴィア 「あっ、それでしたら、シャロンが新しく火山付近に作り直すそうで、撤去を……」

悠耶 「そっか。それなら後で、ちょっと火山の麓辺りの空き地をもう少し確保しておくか。」

シルヴィア 「わかりました。シャロンには後程私から伝えておきます。それで、説明の続きに戻らせていただきますが、城壁と私の居城との間にアンネリーの居城、そして反対側にマーレの居る水族館があります。」

悠耶 「なるほど。つまり、侵入者が城壁の内側に入った時、1番手前に見える建物がアンネリーとマーレの居城になったってことか。」

シルヴィア 「はい。あとは城壁の内側入り口付近をケルベロスが、そこも含めて全体的にナイトメアが自由に歩き回っています。」


シルヴィアが指差す先の場所で、2匹の動物型モンスターが悠々自適に過ごしている光景が見える。


悠耶 「説明ありがとう、シルヴィア。おかげで現状がよく解ったよ。」

シルヴィア 「勿体なきお言葉です。ユーヤ様……皆、思い思いの居城を作っています。内装が完成したら、私の所のようにちゃんと見てあげてくださいね。」

悠耶 「あぁ、もちろんだ。」


シルヴィアと共に、拠点全体を見渡して……ふっと、フレデリカのように新しい建造物が増えるのではないか?また先の未来、まだ見ぬ味方が増えるかもしれない。なら、その味方の居城も必要になるな……

そう思ったと同時に、やはり領土拡張が必須事項になったことを確信した。



No.17 大陸の外へ行く手段


拠点 ・ 玉座の間


俺は玉座に深々と腰を下ろし、先日転生の神様が 『 めっちゃ頑張った 』 成果によって、この世界の此処とは別の大陸に勇者として召喚された、元 ・ 同級生達の様子を映画鑑賞のように眺めていた。


現状、連中は 『 カダー 』 という土地の王都の庭で、近衛兵達の手によって武器の扱いを学んでいる。


悠耶 「ん?俺みたいに手にした武器は、プロ並みに扱えるんじゃねぇのか……ここはちょっと意外だな。」


人数が多すぎたから、転生の神様も1人1人の要望を聞いていられなかったのかもしれないな。

俺からしてみては、この情報は嬉しくて美味しいモノだけど。


シルヴィア 「失礼します。何を見ておられるのですか?ユーヤ様。」


玉座の間の重い扉を押し開け、シルヴィアとアンネリーが入って来た。


悠耶 「例の勇者として転生された連中の動向をな。けどまぁ、もうしばらくは動き出しそうにない。」

アンネリー 「あら?そうなの?じゃあ、戦う前に……良い精気を持ってそうな子が居ないか、チェックさせてもらおっと♪ 」


そう言いながら、俺の左隣りからアンネリーが映像を覗き込んでくる。


悠耶 「……良い機会だ。2人には先に、どいつが俺を死に追いやったのかを教えておくよ。」

シルヴィア 「そうですね、お願いします。いざ戦闘になった時、真っ先にその者達を射抜けますから。」


シルヴィアが右隣りから映像を覗き込んできたのを確認し、戦闘訓練の場から少し離れた石造りの階段の陰でサボタージュしている4人を見つけたので指差す。


悠耶 「この金髪のチャラ男と、茶髪のチャラ男、あとはこの金髪のビッチギャルと黒髪のビッチギャルだ。」

シルヴィア 「ユーヤ様の言葉の意味は存じ上げませんが……いずれにせよ、性格が悪そうな者達だということは解りました。」

アンネリー 「ねぇ、この状態で彼等のステータスって見れないのかしら?」

悠耶 「どうだろう?試してみるか。」


とりあえずダメ元で金髪のチャラ男のステータスを見てやろうと画面を弄ってみると、割と簡単に表示することができた。



【 カイル 】

レベル : 1

種族 : 人間

クラス : ???

【 ステータス 】

HP 500 / 500 MP 200 / 200

攻撃力 100 ・ 守備力 200 ・ 魔法攻撃力 10 ・魔法防御力 10 ・ 素早さ 120 ・ 運 20

【 スキル 】




— 

【 装備武器 / アイテム 】

武器 : 鉄の剣

アイテム :






こいつ、こんな名前だったのか……俗にいうキラキラネームってヤツか?前世では痛いだけだったろうが、こっちの世界じゃ違和感ねぇな。

良かったな、すぐにこの世界に馴染めて。痛々しい名前をつけてくれた両親に感謝しろよ。


いや……今はそんな情報よりも、気になることが


悠耶 「クラスが判らねぇのは、これから適性を見つけていくって感じなのかな?」

シルヴィア 「おそらくそうでしょう。勇者として転生されたとはいえ、最初からクラスに 『 勇者 』 と表示されるわけではないのですね。」

アンネリー 「1つ確かなことは、このステータスじゃ、魔法使いは絶対に無理だ!ってことかしらねぇ。」

悠耶 「確かにな……」


あと……俺が転生された時 ・ Lv 1 だったときに比べると、能力が全体的に低い。

転生失敗……ってワケではないだろうし、連中の居る大陸ではこれが最上級能力なのだろうか?それとも……転生する前に何かやらかして、転生の神様に嫌われたのか……


真相はマジで神のみぞ知るってトコか。


アンネリー 「ねぇ、御主人様。この様子だと、彼等はまだまだ動き出しそうにないし、東の連中の動向は私が探っておくから、今のうちに味方を増やしておくべきじゃないかしら?」

悠耶 「仲間の増員か……あっ、そうだ。2人に訊きたいことがあるんだけど」

シルヴィア 「はい、何ですか?ユーヤ様。」

アンネリー 「私達の3サイズを知りたいの?えっとね、シルヴィアは……」

シルヴィア 「何故、私からなのですか!?そういうのは、まず御自身のを申告して……いえ、それ以前に!味方増員の話との関連性が無いではありませんか!」/////

悠耶 「シルヴィア、気持ちは解るけど落ち着いて……こほん。それで、話を戻すけど……2人は鵺や麒麟ってモンスターを知っているか?」

アンネリー 「ヌエにキリン?聞いたことないわね。」

シルヴィア 「申し訳ありません。私も聞いたことないです……」

悠耶 「ふむ。やっぱりそうか……」


魔物の召喚符に候補として名前が表記されていたけど、やっぱりこの大陸には居ないみたいだな。


シルヴィア 「……あっ!ユーヤ様。地図を表示していただけますか?」

悠耶 「ん?地図?」

シルヴィア 「はい。この大陸のものではなく、世界地図をなのですが……」

悠耶 「そういや、世界地図ってのは、まだ見たことなかったような気がするな……わかった、すぐ表示する。」


俺は同級生達の映像を表示していた画面を消し、代わりに地図を……世界地図を表示する。


シルヴィア 「ありがとうございます。では、ユーヤ様。お勉強の御時間です。」

悠耶 「うっす。よろしくお願いします、シルヴィア先生。」

シルヴィア 「はい。まず、この世界には4つの大陸が東西南北に存在します。私達が居るのは、西の『 コンバテール大陸 』。そして、南には 『 ジャンナ大陸 』 、北には 『 カダー大陸 』 が存在します。先程の勇者達が召喚されているのは、この北の地の王都ということになります。」

悠耶 「なるほど。カダーってのは町の名前じゃなくて、大陸の名前だったのか。」

シルヴィア 「そして、ここからが本題なのですが……先程ユーヤ様が述べられたモンスター達はおそらく、東の 『 ショウカ大陸 』 に居るのではないかと思われます。この大陸の建物は他の3つの大陸のものとは異なり、かなり独特なものだと聞きます。これは憶測ですが……そこに住むモンスターもかなり風変わりな姿をしているのではないでしょうか?」

悠耶 「ふむふむ。それで?そのショウカって大陸には、どうやって行くんだ?」

シルヴィア 「基本的に大陸間の移動は船になります。確か、コンバーテルからショウカまでは船で片道半月……」

アンネリー 「ちょっと、ちょっと、ちょっと!いくら私達の能力が他より少し高いからって、半月も御主人様不在で此処を守るのは厳しいんじゃない?」

シルヴィア 「私もそう思いますが、他に移動手段が無いのでこればかりは……人間の中には恐れ多くも、海洋モンスターを手懐け、それに乗って移動する者が居るという御伽噺のような話を聞いたことはありますが……」

悠耶 「海洋モンスター……マーレが居るけど、流石に上に乗って移動するわけにはいかねぇよな。」

アンネリー 「確実に沈むわね。でも、御主人様がマーレにお姫様抱っこしてもらったら、ワンチャンいけるんじゃない?」

悠耶 「それは絵面的にどうなんだ?あと、マーレに俺を抱きかかえられるほどの筋力があるとは思えないし……」

シルヴィア 「だからといって、ユーヤ様の飛行スキルで移動できる距離ではありませんし……いっそのこと、購入しますか?船。」

悠耶 「はっはっは。貯蓄してある金品が、一気に吹っ飛ぶな。」

フレデリカ 「失礼します。」


目的地は定まったのに、そこへ移動する手段の打開案が見つからないこの場に、フレデリカが扉を押し開けて入って来た。


悠耶 「おぅ、どうした?フレデリカ。」

フレデリカ 「先程、居城で休んでいた時に、最高神様から信託があったのですが……」

アンネリー 「フレデリカ。あなた……自分を神界から追放した張本人と、連絡のやり取りをしてるの?」

悠耶 「まぁ、ちょっとした諍いはあったものの、元々フレデリカは最高神様の1番のお気に入りだったんだし、最高神様も苦渋の決断で、やむなくフレデリカを堕天させたわけだし……いろいろと心配なんだろう、きっと。」

フレデリカ 「本当に……これほどまでに慈悲深い最高神様に、私は何という事をしてしまったのでしょう……」

シルヴィア 「フレデリカ。貴女の心中は御察ししますが、本題の方を……」

フレデリカ 「あっ、失礼しました!こほん……それで、最高神様の信託によって知ったのですが……ユーヤ様、東のショウカ大陸へ行くおつもりなのですか?」

悠耶 「そのつもりなんだけど、そこへ行く手段が無くてな……とりあえず、『 半月費やして船で移動する 』、『 船を買う 』、『 海のモンスターを手懐ける 』 という3つの案が出ている段階だ。」

フレデリカ 「そうでしたか。でしたら、ユーヤ様。最高神様からの御告げです。ステータスから魔法の 【 Crazy Black hole 】 の処を見ていただけますか?」

悠耶 「ん?Crazy Black hole を?」


フレデリカに言われた通り自分のステータス画面を開き、魔法の覧のトコロを見ると、【 Crazy Black hole 】 に新しい効果が追加されていた。



【 魔法 】

〇 Crazy Black hole MP消費 : 20 属性 : 闇

黒い球体を地面に投げつけて攻撃。 地面で展開された黒い渦が周囲のあらゆるものを吸引する / 吸引した敵をあらかじめ指定した場所に放出することができる / 魔法使用者とその仲間が黒い渦に入った場合、あらかじめ指定した場所へ移動することができる



悠耶 「おぉ!Crazy Black hole でワープができるようになってる。」


っていうか、『 吸引した敵をあらかじめ指定した場所に放出することができる 』 って、じゃあ今までこれで吸い込んだ敵や物はどうなってたんだろう?


シルヴィア 「良かったですね、ユーヤ様。これでどこでも好きな場所へ行きたい放題ですよ。」

悠耶 「あぁ、そうだな。ありがとう、フレデリカ。Crazy Black hole の技効果が増えていることを教えてくれて。最高神様にもよろしく御伝えしておいてくれ。」

フレデリカ 「はい!皆様の御役に立てたようで、私も嬉しいです。」

アンネリー 「それで、御主人様。今からさっそくショウカ大陸に行くの?」

悠耶 「ん~……いや、今日はとりあえずCrazy Black hole で俺達が行ける場所と、敵を放出する場所の指定だけしておいて、明日行ってくるよ。」

シルヴィア 「承知しました。マーレとシャロンには私から伝えておきますね。」


フレデリカが提供してくれた情報のおかげで、活動できる範囲が一気にグローバル化した。


異国にはどんな奴が居るのか……そして、願わくば俺達の仲間になってもらいたい。


そんな期待や好奇心が、Crazy Black hole の行き先や出口を指定する俺の胸を高鳴らせていた。



No.18 和の国の微笑女


拠点 ・ 玉座の間


悠耶 「それじゃあ、ちょっと行ってくる。」

シルヴィア 「はい。留守は私達にお任せを。ユーヤ様、確かにユーヤ様の実力や能力は、この大陸では最上級ランクに位置します。ですが、他の大陸ではどうなのか……判断材料が足りません。少しでも御身の危険を感じましたら、すぐにこちらへ戻って来てくださいね。」

悠耶 「そうだな……うん、わかった。肝に銘じておくよ。」


俺はシルヴィアと約束し、あとのことは彼女達に任せて、行き先をショウカ大陸に設定してから床に展開した Crazy Black hole に足を踏み入れた。


◇◇◇


黒渦を抜けると、そこは雪国だった……なんてことはないが、建物は全て絵本などで見た日本の昔ながらの家屋だった。

明らかにさっきまで居た大陸の建物とは異なる。きっと、たぶん此処がショウカ大陸……で合っているハズ。

場所が変われば、大阪城や姫路城みたいな城や、寺や神社があったりするのだろうか?


悠耶 「とりあえず、ワープは成功したみたいだし……ここで仲間になってくれそうな奴を探してみるか。」


しかし……日本の妖怪で人型なのって、何が居たっけな?


悠耶 「(鬼……ぬらりひょん?あとは……子泣きジジイ?あれ?でも、子泣きジジイって、あの猫の女の子と同じで某妖怪アニメのオリジナルキャラじゃなかったっけ?)」※子泣きジジイは徳島県の山間部などで伝承される妖怪です


けどまぁ……できることなら、そんな爺さんばっかりじゃなくて、女性の姿をしたヤツがいいなぁ……


悠耶 「(女性だと、山姥……奪衣婆?あとは砂かけババアか……いや、でも砂かけババアもオリジナルじゃなかったか?)」※砂かけババアは奈良県や兵庫県、滋賀県に伝わる妖怪です


っていうか、さっきから爺さんだったり婆さんだったり……日本の妖怪は年寄りしか居ねぇのか?


悠耶 「(そういえば、トイレの花子さんなんて話もあったけど……あれは妖怪なのか?幽霊?)」


腕を組みながら、自分の妖怪に関する知識を脳内でグルグル掻き回していたときである。

村……なのか、町なのか?とにかく、自分が居るこの場所の広場のような処で、地元の方と思われる人達が数名集まっていたのを見つけた。


悠耶 「あの……すいません。何か遭ったんですか?」

村人 A 「ん?あぁ、いやな……昨日、山に芝刈りに出かけた村の者が、まだ帰ってきてねえんだよ。」


山に芝刈りに……その人の奥さんは、川に洗濯しにでも出かけていたのだろうか?


村人 B 「そんでな、今から村の者でその山へ行って、捜索がてら山狩りでもしようっつう話になってよぉ。」

村人 C 「あそこにはおっかねえ妖怪が住み着いてるっつう話だしな。」

悠耶 「なるほど……ふむ……その山の場所を教えていただけませんか?俺がその人の様子を見て来ますよ。」

村人 A 「いや、でも何処の誰かも知らねえあんたを、こんな厄介事に巻き込むわけには……」

悠耶 「大丈夫ですよ。武芸の腕にはそれなりに自信がありますので。それに……もしかしたら、俺が山に行っている間に行き違いでその人が戻って来るかもしれない。その場合は、それでめでたし、めでたし!俺は山に居るという妖怪を退治して、次の旅先へ急ぎますよ。」

村人 B 「……そうだな。そしたら旅人さん、おら達に変わってどうかお願いしますだ。」

悠耶 「おうよ。任された。」


自分の素性を隠して行動するとき、【 旅人 】 って言葉は便利だな。

俺は村の人達に見送られながら、教えてもらった山に向かって足を踏み出した。


****


ショウカ大陸 ・ 荒山


教えてもらった山は、確かに麓付近には芝草が生い茂っている場所があったが……少し登ると、そこはもう岩肌が剥き出しの荒山で、山頂付近には雪が少しだけ残っている。


悠耶 「……教えてもらった場所は、この山であってるよな?確かに芝刈りできそうな場所はあったけど……こんな荒れた場所で、どう行方不明になるんだよ?」


とりあえず、それっぽい人を探しながら登山していると、1人の女性を見つけた。

そういえば……勝手に芝刈りに出かけたのは男性だと思ってたけど、性別を聞いてなかったな……もしかしたら、女性が力仕事する風習があの村にあるかもしれない。そして、目の前にいる女性が御目当ての人物かもしれない。


いや、でも……そこに居る女性は若く美しく、髪もどこも乱れていない綺麗な黒色のロングストレート。青色の着物の上からでも判るくらい胸は大きく、華奢な身体付きで、とても力仕事ができるようには見えない。


とりあえず、歩み寄って女性に声を掛けてみた。


悠耶 「すまない。ちょっといいか?」

女性 「……私に何か御用ですか?」

悠耶 「人を見なかったか?麓の村の……昨日、芝刈りをしにこの山へ来たそうなんだが……」


この訊き方は失敗したかな?この女性が昨日からずっとこの山に居るハズないだろうし……山の向こう側から来た人なら、直の事。

有力な情報は得られないだろうな……と思っていた時、女性がその小さな口を開いた。


女性 「あぁ……その方でしたら……」

悠耶 「おっ!知っているのか。」

女性 「はい。存在は存じ上げているのですが……残念ながら、その方はもう、この世には居られません。」

悠耶 「この世に居ないって……死んだのか?」

女性 「はい。この山に住み着いている余所者に……ですが、確かに彼はお亡くなりになられましたが、その怨念は見ることができますよ。」

悠耶 「……ごめん、ちょっと言ってる意味がわからない。」

女性 「すぐに解るります。ほら……出てきましたよ。」


女性が指差した山膚……地中から、巨大な人間の腕と手の骨が出現し、同時に曇天になったかと思うと、地中から見上げるくらい巨大な骸骨の上半身の部分だけ出現した。


悠耶 「おぉ!でっけぇ。」

女性 「現れたましたね……がしゃ髑髏。」


【 がしゃどくろ 】

日本の妖怪。戦死者や野垂れ死にした者など、埋葬されなかった死者達の骸骨や怨念が集まって巨大な骸骨の姿になったもの。

夜中にガチガチという音を立てて彷徨い歩き、生きている人を見つけると襲いかかり、握りつぶして食べると言われる。

昭和中期に創作された妖怪であり、民間伝承由来の妖怪とは出自が異なる。

1960年代後半に刊行された児童書の類において創作されており、最初に書籍に登場したのは、山内重昭 『 世界怪奇スリラー全集2 世界のモンスター 』 に収録された斎藤守弘による妖怪記事。

そして、同時期に水木しげるや佐藤有文にも取り上げられ、1970年代以後も両者の著書によって紹介され続けて広く知られるようになった。

佐藤有文の著書 『 日本妖怪図鑑 』 の図版や、水木しげるが描いた妖怪画では、いずれも 「 がしゃどくろ 」 の姿として歌川国芳の浮世絵 『 相馬の古内裏 』 に描かれた巨大な骸骨の絵が参考にされている。

原作では等身大のたくさんの骸骨が現われるところを、歌川国芳は1体の巨大な骸骨として描いている点に工夫と特色がある。

創作物でも、とにかく大きな髑髏として描かれ、刃を通さない程強固な骨など様々な設定を付けられていることが多い。


悠耶 「こいつが、ガシャ髑髏……」

女性 「私がこの世に生を受けるより以前の話です。本来、このがしゃ髑髏は山向こうの平地……古戦場に現れていたそうなのですが、とある旅の高僧様と当時の里の長の手により、激戦の末……この山に封印されていたのですが、最近……どこかの人間が、己の功名欲しさにがしゃ髑髏の封印を解いてしまったのです。」

悠耶 「そいつはまた、どうしようもねぇバカが居たもんだな。それで?そのバカは?」

女性 「がしゃ髑髏を目の当たりにした途端、逃亡されました。もう少し上方にあった私の住んでいた里で、仲間が実際にその光景を見ていたのを、後で聞きました。」

悠耶 「あった?」

女性 「私の住んでいた里は……」


表情1つ変えない女性と、俺の前方から巨大な骨の掌が迫って来ていた。

俺はすかさずロンパイアを構えたが、女性がガシャ髑髏の掌に触れた瞬間……その動きがピタリと止まった。


女性 「私の住んでいた里は、復活したこのがしゃ髑髏によって滅ぼされました……里に居た家族や仲間と呼べる存在も、このがしゃ髑髏に殺され、その妖力の贄にされてしまいました。」


そういう女性の髪は黒色からガラスのように透き通る綺麗な水色へと変色していき……先程まで女性が着ていた青い着物は白装束へと変わり、女性の手とガシャ髑髏の右掌が触れている部分がピキッ……ピキッ……と小さく澄んだ音を立てながら凍り始めていた。


女性 「私はその時、嫁に出ていて里を離れていたのですが……旦那に裏切られ、正体を明かした後に村に戻って来てみれば……先程話した事は、その時微かに息のあった仲間から聞きました。」

悠耶 「あんた……もしかして……」


ガシャ髑髏の右手から肘にかけた部分が完全に氷の中に包まれたのと同時に、本来の姿に戻った女性がチラリと俺の方を振り返る。


女性 「はい……私は本来この山の山頂付近にあった雪原の里に住んでいた雪女の唯一の生き残りです。申し遅れまして、すいません。」


【 雪女 】

日本の雪の妖怪。別名として 『 雪娘 』 や 『 雪女郎 』、『 つらら女 』 など様々な呼び名があるが、いずれにせよ氷柱に結びつけて呼ばれることも多い。

起源は古く、室町時代末期の連歌師 ・ 宗祇法師による 『 宗祇諸国物語 』 には、法師が越後国 ( 現 ・ 新潟県 ) に滞在していたときに雪女を見たと記述があることから、室町時代には既に伝承があったことがわかる。

呼び方は違えど、常に 『 死 』 を表す白装束を身に纏い、男に冷たい息を吹きかけて凍死させたり、男の精を吸い尽くして殺すところは共通しており、広く 『 雪の妖怪 』 として怖れられていた。

伝承では、新潟県小千谷地方では、男のところに美しい女が訪ね、女は自ら望んで男の嫁になるが、嫁の嫌がるのを無理に風呂に入れると姿がなくなり、男が切り落とした細い氷柱の欠片だけが浮いていたという。

吹雪の晩に子ども ( 雪ん子 ) を抱いて立ち、通る人間に子を抱いてくれと頼む話も伝えられており、その子を抱くと、子どもがどんどん重くなり、人は雪に埋もれて凍死するという。頼みを断わると、雪の谷に突き落とされるとも伝えられる。

岩手県や宮城県の伝承では、雪女は人間の精気を奪うとされ、新潟県では子供の生き肝を抜き取る、人間を凍死させるなどといわれる。

雪女の昔話はほとんどが哀れな話であり、子のない老夫婦、山里で独り者の男、そういう人生で侘しい者が、吹雪の戸を叩く音から、自分が待ち望む者が来たのではと幻想することから始まったといえる。そして、その待ち望んだ者と一緒に暮らす幸せを雪のように儚く幻想した話だという。

雪女の正体は雪の精、雪の中で行き倒れになった女の霊などと様々な伝承がある。

山形県小国地方の説話では、雪女郎 ( 雪女 ) は、元は月世界の姫であり、退屈な生活から抜け出すために雪と共に地上に降りてきたが、月へ帰れなくなったため、雪の降る月夜に現れるとされる。



悠耶 「別に謝ることじゃねぇよ。あんたにだって隠しておきたい理由があったんだろうしな。」


俺は歩きながらそう語り掛け、同時に振り上げていたロンパイアをガシャ髑髏の肘の関節目掛けて振り下ろした。

刃の当たった関節は砕け、ガシャ髑髏の氷漬けの腕と、肩から肘にかけての部分が分離する。


同時にガシャ髑髏は野太い断末魔の叫びを上げながら、大きくしなりながら仰け反った。


雪女 「がしゃ髑髏の……関節とはいえ、強固な骨を砕かれるとは……貴方様は一体?」

悠耶 「ん?あぁ、まぁ……その、後でちゃんと話すよ。今はとにかく、この骨のバケモンを倒そうぜ。あんたも、仲間の仇討ちしてぇだろ?」

雪女 「……はい。すいませんが、この妖怪を討伐するため、貴方様の御力を貸していただけませんか?」

悠耶 「もちろん、そのつもりだ。覚悟しやがれ、骨格標本野郎。お前の背骨をダルマ落としみてぇに下から順番に砕いてやるからな。」


ロンパイアをバットのように構え直し、勢いを付けて振り抜くと同時に、地面から出ていた1番下の背骨を1つ打ち抜いた。

地中に埋まっている部分と、打ち抜いた骨より上の部分にある骨全てとの間に一瞬だけ空間ができ、それを埋める様に重力に従って巨大な骨が落ちる。

その衝撃で、パキンッ!という音がしたと同時に、残りの腰骨や背骨の幾つかに小さな皹が入った。


悠耶 「やっぱり、1本1本が太くて重いんだな……こりゃ、あと2、3本打ち抜いたら、残りは勝手に砕けそうだな。」

雪女 「それはおそらく、攻撃されたがしゃ髑髏自身解っているはずです……残りの背骨を攻撃されまいと、攻撃がより過剰になるでしょう。御気をつけください。」

悠耶 「……ありがとう。あんたの忠告を無駄にしねぇよう、ちゃんと注意しながら攻めるつもりだ。」


骨に皹が入り、悶絶していたガシャ髑髏の口の端や歯と歯の隙間から黒煙が上り、青と紫が混ざったような色の炎が揺らめきながら吹き出す。

そして案の定、前かがみになる勢いに任せてどす黒い色の炎を吐き出してきた。


本来なら目玉があったはずの空洞の奥で怪しい光が揺れ動き……頭蓋骨が見据える場所には雪女が立っている。


悠耶 「危ない!」


俺は咄嗟にロンパイアを構え、2つ目の背骨を攻撃した。

今回は先程のように打ち抜きはしなかったが、既に入っていた皹はより酷くなり、衝撃で上を向いたガシャ髑髏の口から真上に、垂直に炎を放出した。


最初の方に放たれた炎も、雪女が自分で回避することによって当たらず仕舞いで終わっていた。


悠耶 「今のうちに頼む!」

雪女 「お任せください。これで……砕きます。」


雪女は瞬時に日本刀を模した氷を作り出すと、そのまま皹が入って脆くなった背骨に向かって振り下ろした。

氷の刀と背骨が当たった瞬間、パキィィィンッ!と済んだ乾いた音が周囲に響き渡り、氷の刀とガシャ髑髏の腰骨が同時に砕け散る。


再び地面との間に空間を作ってしまったガシャ髑髏は、上を向いて炎を放出していた姿のまま仰向けに、背後の山膚に倒れた。


骨が山に触れた瞬間、ガシャ髑髏の残りの腰骨と背骨が砕け、剥き出しの肋骨以外の全ての骨に皹が入った。

ガシャ髑髏は何とか起き上がろうと、皹は入ったものの残っていた左腕をジタバタ、モジモジ動かして何とか起き上がろうとしている。


雪女 「させません。貴方は今日、此処で果てるのです。」


そう言いながら雪女はガシャ髑髏が動かしていた左手に息を吹きかけ、みるみるうちに氷漬けにした。


悠耶 「チェックメイトだ……骸骨野郎!」


俺は動けなくなったガシャ髑髏の開きっぱなしになっていた口に、ロンパイアを深々と突き刺した。


ガシャ髑髏は背骨と残りの腰骨を弓なりに反らし、断末魔の野太い悲鳴を上げ始めたが、しばらく叫び続け……やがて声が完全に途絶え、弓なりにしならせていた骨も砕け、完全にその動きを停止させた。


悠耶 「ふぅ……やれやれ。けど、念には念を押して、完全に消滅させるか。」


俺はガシャ髑髏の口からロンパイアを引き抜き、肋骨の1本を引き抜くと、Crazy Black hole で残りの残骸を吸い込ませた。


悠耶 「これでよし……」

雪女 「ありがとうございます。貴方様のおかげで、がしゃ髑髏を討伐することができました。これで仲間も浮かばれるでしょう……」

悠耶 「そうだといいな。なぁ……あんたはこれからどうするつもりだ?雪女の里を再建でもするのか?」

雪女 「そうですね……私達は雪が降ると生まれ変わることができます。なので、今、私が無理に再建せずとも、次の冬の雪が降った時に新しく産まれてくる雪ん子達が自分達で作ることでしょう。」


雪女はそう言いながら、山頂付近をジッと眺めていた。


悠耶 「そっか……まぁ、あんたがそれで良いなら、俺からグダグダ言うつもりはないよ。」

雪女 「ありがとうございます。貴方様は……そういえば、まだ御名前を訊いていませんでしたね。私は雪女の 【 垂氷 】( たるひ )と申します。」

悠耶 「あっと、すまん。忘れてた。俺は悠耶……東雲 悠耶だ。本名をちゃんと名乗ったのは久々だな……けどまぁ、垂氷の好きなように呼んでくれ。」

垂氷 「承知致しました。では、改めまして……悠耶様は何をしにこちらへ?まさか先程申された人間を探しに来た……というだけではないのでしょう?」

悠耶 「ん?あぁ、実はな……俺は西の大陸から、仲間になってくれるモンスター……妖怪を探しに、この大陸に来たんだ。」

垂氷 「西洋の方でしたか。道理でこの大陸の人間や妖怪とは異なる戦い方をされていたのですね。しかし、妖怪を仲間にしたいとは…………あの、もし悠耶様さえ宜しければ、私を御傍に置いていただけないでしょうか?」

悠耶 「あんたを?」

垂氷 「はい。心配なさらずとも、寝込み中に精気を吸うような真似は致しません。ただ、御傍に置いていただければ……」

悠耶 「いや、そういう心配はしてなかったんだけど……でも、まぁ、ありがとう!垂氷が仲間になってくれるなら、俺は純粋に嬉しいよ。」

垂氷 「そうですか……ありがとうございます。不束者ですが、どうか今後とも末永く宜しくお願いしますね。」


荒れた山の山膚にチョコンと正座をした雪女が、三つ指を立てながら深々と丁寧にお辞儀をした。

あら、やだ!古風!


悠耶 「こっちこそ、宜しくな。あっちの大陸には他にも仲間が居るから、あんたに寂しい思いをさせることはないハズだ。」

雪女 「はい……それはとても良いことを聞きました。」クスッ……


今まで表情を一切変えなかった垂氷がほんの僅かだけ微笑んだ。

あと……Crazy Black hole の説明をして、いざ!中へ入って拠点に戻ろうとした時、相変わらずクールで何事にもまったく動じないという表情をしておきながら、おっかなびっくり黒渦に足を踏み入れようとしている姿はちょっと可愛かった。

( 村の人達にはちゃんと探していた人の訃報と、村人の命を奪った妖怪を討伐したことを伝えました )


何はともあれこうして6人目の人外……と言っていいのだろうか?まぁ、種族はどうあれ頼もしい味方が1人増えた。

彼女はどれくらいで西洋風の皆と馴染めるか……そこだけ少し心配だが、何とかなるだろう。たぶん、きっと……



No.19 召喚されちゃった系魔王


垂氷を拠点に居た皆に紹介した時、マーレが移動するために造った水路の水が少しずつ……しかし、確実に凍り始め、誇り高きドラゴンの血を引くシャロンが『 冬眠したい 』と言い出した時は少しだけ焦った。


まぁ、そんなことがあり、垂氷の居城はマーレの居る水族館から最も遠く、水路を挟みシャロンが生活している火山の反対側……フレデリカの居城の隣に、白鷺城のような純白な和風の城が設立された。

同時に黒曜石の通路がフレデリカの居城と垂氷の居城を、垂氷の居城と俺の居城とを瞬時に繋ぐ。


拠点 ・ 玉座の間


悠耶 「ん~……今後のことも考えて、やっぱり背後に聳え立つ岩山を消して、更地にしておくかな……」

シルヴィア 「そうですね。私達以外の生命がこの辺りには居ないですし、岩山の向こう側はすぐ海になっています。更地にして、水路を作ればマーレも活動範囲が広まって、喜ぶでしょう。」

悠耶 「そっか……よし!それじゃあ早速、Crazy Black hole で…………ん?」


玉座から立ち上がり、外に出ようとした俺の足元に巨大な魔方陣が展開された。

同時に、俺の体が少しずつ透け始めていく。


悠耶 「え……?なっ、何だこれ?」

シルヴィア 「ユーヤ様っ!」


傍に居たシルヴィアが咄嗟に手を伸ばしてきたが、目に見えない結界のようなもので弾かれてしまう。


シルヴィア 「くっ!」

悠耶 「シルヴィア!」


弾き飛ばされた彼女の名を呼んだ瞬間、俺の視界から住み慣れた玉座の間の光景が消えた。


***


???


老人 「お……おぉ!やったぞ!魔方陣が反応している……我々の術は成功した!!」


そんな声が聞こえ、ふっと目を開くと……そこは薄暗い空間で、周囲を流れる水は緑色に濁っており……俺の目の前には、黒か紫かよく判らない色のフードを身に纏った集団が騒いでいた。


俺は自分が立っている台座のような場所から下りると、俺から見て1番手前に居た人間の胸倉を掴み上げる。


男性 「ぐぁ……っ!」

悠耶 「てめぇ等は何者だ?此処は何処だ?」


俺のその問いに答えるためか、連中の代表のような老人が1人前に出てきた。


老人 「これはこれは、魔王様。此度は我々の召喚に応じてくださり、誠にありがとうございます。」

悠耶 「俺は応じたつもりはなかったんだが?まぁいい……」


俺は男性の胸倉を掴んだまま、左手でステータス画面を表示できるか試してみた。

そして、結果は大丈夫らしく、ヴンッという小さな電子音の後に画面……目の前の老人のステータスが表示された。


【 邪教集団長 】

レベル : 32

種族 : 人間

クラス : 魔法使い

【 ステータス 】

HP 4200 / 4200 MP 730 / 730

攻撃力 120 守備力 100 魔法攻撃力 750 魔法防御力 680 早さ 20 運 800

【 スキル 】

〇 :

〇 :

〇 :

〇 :

〇 :

【 装備武器 / アイテム 】

宝杖 : 魔法攻撃力 + 500




【 魔法 】

〇 Fire Ball 消費MP : 10 属性 : 炎

5つの炎の玉を飛ばして攻撃する、炎系の初期魔法



悠耶 「(レベル32で邪教集団の長にもなっておきながら、使える魔法が炎系の初期魔法だけって……)」


たぶん、修行もしないで、面倒なことは配下に任せて自分は安全な場所でふんぞり返っていたんだろうなぁ……もしかしたら、後ろに居る連中のほうが強い魔法を使えるんじゃないか?


まぁ、こいつのことはどうでもいいんだ……何よりも気になることを質問しよう。


悠耶 「俺を勝手に此処へ召喚して……俺は元の世界には帰れるんだろうな?」

老人 「は?いえ、それは……」


あぁ……これは駄目なパターンですわ。

現に、フードを被っていなかった老人の死んだ魚のような目が、活き活きと左右に泳いでますもん。


何が目的かは知らねえけど、自分達の目的のために俺を勝手に呼び出しておいて、事が済んだ後の俺の戻し方がわかせんときたか……うん。こいつ等の末路は決まった。


老人 「あっ……あの、魔王様。我々に協力していただけるのでしたら、必ず元の世界への戻し方も突き止めますので、何卒……」

悠耶 「いや、その必要はない。」

老人 「え……?」


俺は胸倉を掴んでいた男性を汚い緑色の水へと投げ捨て、続いてロンパイアを取り出す。


悠耶 「さっきから聞いてりゃ、上っ面で塗り固められた聞こえの良い言葉で俺を崇拝し、懇願するだけ……てめぇの言葉からは誠意ってモンが感じられねぇ。」

老人 「そっ、そんな……!誠意とは、具体的に何を……?」

悠耶 「解んねぇのか?生贄を差し出せっつってんだよ。」

老人 「おっ……おぉ!そうでしたか。それならすぐ、要求されるもの……を……?」


ロンパイアを横一閃に薙ぐように振り、自分の背後へ視線を向けた老人の首を跳ねた。

首より上を失った胴体は断面から噴水のように血を吹き出しながら、ヨロヨロと足場をしばらく歩き……そのまま緑色の水へ音を立てて落ちた。


悠耶 「仮にも魔王である俺を呼び出した対価なんだぜ……?此処に居る全員の命を捧げるくらいでもねぇと割りに合わねえんだよ。」

男性B 「ひっ……ひぃぃぃぃ!!」


邪教集団の長を目の前で失い、殆どの人間がその場から逃げ出そうとする動きを見せたので、俺は背中の翼を展開し、連中の頭上を移動して唯一の退路の前に舞い降りる。


悠耶 「逃げられると思うなよ?下等な人間共……」


見た目は俺も普通の人間のままなんだけど……圧倒的な力の差からか、目の前の集団全員に対して負ける気がしない。


退路を塞がれた連中は、各々呪文の詠唱を始め、炎や氷、電撃を俺に向かって放って来た。


悠耶 「…………」


俺は敢えて避けずに連中の攻撃を全て受けきってみた。

今後のことも考え、連中の本気でどこまでHPが減るのかを試してみたかったからだ。


結果は……


HP 1249350 / 1250000


悠耶 「(連中の全力をもってしても、この程度か……なら、反撃といくか……)」


ロンパイアを構え、目の前で魔法を放ち続けている連中を始末していく。

1人につき多大なる経験値が俺の糧となっていく。


男性V 「た……頼む!見逃してくれ……」

悠耶 「見逃せだぁ?俺を此処に召喚した時点で、てめぇ等の命運は決定しちまったんだよ。」

男性V 「そんな……ちょっ、待っ————」

悠耶 「永久- とこしえ - の悪夢に沈め。」

男性V 「ぎゃあああああああああああああああ!!」



それからどれだけの時間が経過しただろう?



倒れた男性の顔面を踏みつけたと同時に、連中の断末魔の叫びが聞こえなくなったので、ふっと辺りを見渡してみると……集団に属していた人間達は足場の上に倒れ、緑色の水は落ちた人間が流した血と混ざり合ってより不気味に濁っており、いつの間にか俺以外の生存者が居ない状態になっていた。


悠耶 「…………清々した。」


俺は足の下に居た男性を水の中に蹴り落とすと、壁に連中の血で 『 この者共、魔王により正当な裁きを受ける 』 と綴り、床にCrazy Black holeを展開する。


悠耶 「この魔法が何の支障をきたすことなく使えて良かった……とりあえず、玉座の間に帰るか。」



◇◇◇



コンバテール大陸拠点 ・ フレデリカの居城


シルヴィア 「フレデリカ!最高神様は、ユーヤ様のことについて何か仰ってますか!?」

フレデリカ 「落ち着いてください、シルヴィア様。集中して信託ができません。」

アンネリー 「そこまで心配しなくても良いんじゃない?御主人様もCrazy Black hole での移動に慣れてきたんだし……」

シルヴィア 「その魔法が使えない環境下に強制移動させられていたら、どうするつもりですか!?」

垂氷 「先程から、私達にも分配して経験値が入っているようですし……心配せずとも、悠耶様は生きておられますよ。」

シルヴィア 「当たり前です!ユーヤ様が生きていることは当然のこと、何よりも最優先されなければいけないことなのです!」

フレデリカ 「あっ、転生の神様……はい、はい……まぁ、そうなのですか。流石、ユーヤ様です。」

アンネリー 「何か判ったの?」

フレデリカ 「はい。どうやら、ユーヤ様は、神様でさえも対処に困っておられた、ジャンナ大陸で勢力を伸ばしつつあった邪教集団によって強制的に召喚されたそうです。」

シルヴィア 「不届き者共め……成敗してやらなくては……!」

フレデリカ 「あっ、それには及びません。」

垂氷 「どういうことですか?」

フレデリカ 「そちらに強制召喚されたユーヤ様が大層ご立腹なされて……その者達を1人残らず始末したそうです。」

アンネリー 「それじゃあ、さっき入って来た経験値というのは……」

シルヴィア 「事情は解りました。それよりもです!ユーヤ様はそこからちゃんと戻って来られるのですか!?」

フレデリカ 「そちらも御心配には及びません。全てやり終えたユーヤ様が、先程Crazy Black hole で玉座の間に戻って来られたそうです。」


悠耶 「おっ、シルヴィア……此処に居たのか。」


シルヴィア 「ユーヤ様!」


玉座の間に帰って来たものの、誰の姿も居なかったのであちこち探し回っていると、俺の姿を見つけたシルヴィアが駆け寄って……抱き着いてきた。


シルヴィア 「事情はフレデリカの信託によって伺いました。あぁ!怪我をされているではありませんか!さぁ、すぐにマーレに回復してもらいましょう!」

悠耶 「おっとっと!そう急かすなって……すまん、シルヴィアにも……皆にも心配をかけた。」

フレデリカ 「いえ、こうしてちゃんと戻って来てくださり、嬉しく思います。」

垂氷 「悠耶様……いきなりのこととはいえ、大変でしたね。シルヴィア殿ほどではありませんが、心配しましたよ。」

アンネリー 「みんなに無駄な心配をさせないためにも、もう私達の前から急に居なくなるような真似はしないでよね。御主人様。」

悠耶 「そればっかりは……俺の意思でもねぇんだし……」


召喚の着信拒否みたいなのってできねぇもんかな?今度神様に聞いておこうと思った。



No.20 闇を這う足音


よく分からない組織に強制召喚され、そのまま流れで件の組織を壊滅させて居城に戻り、ゆっくり休んだ翌朝…………城壁の外側に、そこそこの規模の森が広がっていた。


普通の樹木と異なり、幹はやや淡い紫色で葉は黒色……そんな木々が拠点の前方180度を覆うように、1夜にして幹と幹を押し合うほどの大きさに自生し、成長しているのだ。


悠耶 「何だこりゃ!?( ; ゚ Д ゚) 」

アンネリー 「あら、おはよう。御主人様♡」


城壁で眼下に広がる景色に驚いていると、アンネリーが背後から声を掛けてきた。


悠耶 「アンネリー……コレは一体……?」

アンネリー 「あぁ。これはシルヴィアの魔法よ。」

悠耶 「魔法?」

アンネリー 「えぇ。先日、御主人様が変な奴等を相手した時の経験値が自動的に私達にも振り込まれたみたいでね。そのときに、シルヴィアが新しい魔法を使えるようになったのよ。えっと……技名は……」

シルヴィア 「【 δάσος λαβύρινθος ( ダソス・ラヴィリンソス ) 】。直訳すると、『 森迷宮 』 です。」


少し離れた場所から声がしたので振り向いてみると、シルヴィアが弓を携えた状態でこちらへ歩いて来ていた。


悠耶 「森迷宮……確かにこれは迷うな……」


木々の色は薄暗く、それらが迷路のように入り組んでいるとなると……


シルヴィア 「今までは荒野から第1の城壁までは、何の障害も無く一直線に接近することができましたが、今後はそうはさせません!私達と対峙する者達には、事前にこの自然の迷路で疲弊してもらいましょう。」

アンネリー 「ちなみに、あの森の迷宮……魔法なのに発動したら自然に枯れて朽ちるまで解除できないことに加えて、この拠点の建物と同じく 『 建築物 』扱いになるそうだから、私も肉食植物とか、棘のある太い蔓とか……障害になりそうな物を勝手に配置させてもらったわ。」

シルヴィア 「ユーヤ様。この拠点を守るためとはいえ、貴方様に何の相談も無しに勝手な行動を取ったこと……どうか、お許しください。」

悠耶 「うん、許す!確かに驚いたけど、防衛手段として機能するのは普通に良いことだし、何より……こっちの方が雰囲気が出て、前より良い感じになったと思うからな。」

シルヴィア 「ユーヤ様……ありがとうございます!」

悠耶 「っていうか、前に言ったかどうか忘れちまったけど……『 この拠点のためになるだろうな 』と思ったことは、自主的にやってくれて良いんだぞ?今回みたいに、事後報告でもちゃんと報告してくれるならな。」

アンネリー 「でもまぁ、今回のコレは……また各地で話題になるでしょうね。何せ、今まで私達の居城があるだけで不毛の土地だった場所に、一夜にして薄暗い森の迷宮ができたんですもの。」

シルヴィア 「それは確かに……少し時間を掛けて、ゆっくり築くべきでしたね。」

悠耶 「ルーデンベルクの人達なら 『 あそこの連中なら、それくらいやらかす 』って笑って済ませてくれそうだけどな。とりあえず、アンネリー。一応情報収集を頼んでも良いか?」

アンネリー 「もちろん♡ ついでに有益な情報も仕入れられたら、仕入れて来るわね。」

シルヴィア 「アンネリー、いつもありがとうございます。戻って来るまでにどれだけの日時を費やしても構いません。今回も宜しくお願いしますね。」

アンネリー 「はぁい♡」


そう返事をしたアンネリーは城壁の縁を軽く蹴り、そのまま北の方へ飛んで行った。


悠耶 「さてと……それじゃあ、今は特にすることも無いし、試しに森の迷路を体験してみるかな。」

シルヴィア 「そうですね。私としても、体験した人の感想を聞きたいところです。とりあえず、貯蔵している食料から1週間分を……」

悠耶 「え?ちょっ、待っ……1週間って……突破すんのに、そんなに掛るの?」

シルヴィア 「大丈夫です。ユーヤ様なら3日で戻って来られますよ。」ニコッ

悠耶 「お……おぅ……(((( ; ゚ Д ゚)))) 」

シャロン 「あっ、ユーヤ。此処に居たんだね。」


俺の姿を確認したシャロンが小走りで駆け寄って来た。


悠耶 「ん?シャロン、どうした?何か遭ったのか?」

シャロン 「うん。あのね、マーレからの伝言なんだけど、何かスイゾクカンの屋根裏から変な音が聞こえるから、確認して欲しいんだって。」

シルヴィア 「侵入者ですか?しかしそれなら、私達より先にケルベロスやナイトメアが気付いて交戦になるはず……一体どこから?」

悠耶 「確かに気になるな。よし、マーレの所に行ってみるか。」


マーレの居城( 水族館 )


マーレ 「あっ、ユーヤ様、シルヴィア様。御足労頂き、ありがとうございます。」

悠耶 「シャロンから話を聞いた。何か変な物音がするんだって?」

マーレ 「はい。今は聞こえませんが、時折……キチキチと何かが軋むような音が聞こえまして……」

シルヴィア 「軋むような……もしかして、この施設のどこかが脆くなっているのではありませんか?」

悠耶 「でも、確かその物音って屋根裏から聞こえたんだよな?床下とかなら、水の流れで少しずつ摩耗している可能性もあるけど……とりあえず、屋根裏を確認して来るよ。」

マーレ 「よろしくお願いします。」


俺は現実世界なら飼育員さんしか利用しないような業務用通路や階段を通って、施設の天井裏へと足を踏み入れた。


そこは日の光を微かに感じるものの、全体が黒曜石造りなのでそこそこ暗く……少し目が慣れてきたとき、視線の先で何か大きなものが動いたのが判った。


悠耶 「そこに誰か居るのか!?」


俺は咄嗟にロンパイアを取り出し、刃の先端を物陰に突き付ける。


??? 「あら?冒険者……じゃないわね。もしかして、此処の所有者かしら?」


前方の闇の中で赤い目……だと思うものが光ったと同時に、キチキチと何かが軋む音が左右の耳に同時に入り込んできて

ようやく肉眼で判明できる距離で相手と対峙した時、全てを理解した。


目の前に居る相手は上半身は美しい女性で、下半身は大きな蜘蛛の姿をしていた。

ギリギリまで気付かなかったのは、その蜘蛛の部分が黒色で周囲に溶け込んでいたからである。


悠耶 「お前の種族?は知ってるぞ。確か、『 アラクネ 』 だったか?」

??? 「あら?私のことを知っているの?ふぅん……それに、私をアラクネだと、下半身を蜘蛛だと判別して尚、逃げないところもポイントが高いわね。」



【 アラクネ 】

ゲームや漫画等では上半身が女性、下半身が蜘蛛の姿で描かれている、ギリシャ神話に登場する女性。

元は美しく、機織りが得意な女性だったのだが、性格は傲慢で、日頃から 『 私の機織りの技術は、芸術の女神アテナをも凌ぐ 』と豪語していた。

それを聞いて怒った女神アテナは老婆の姿へと変身してアラクネと対峙し、機織りの勝負をすることになる。

アテナは自身が海神ポセイドンとの勝負に勝ち、アテナイの守護神に選ばれた物語をタペストリーに織り込み、アラクネはアテナの父にして最高神ゼウスのレダ、エウロペ、ダナエー等との浮気を主題にその不実さを嘲ったタペストリーを織り上げた。

アラクネの腕は非の打ち所のない優れたもので、アテナでさえアラクネの実力を認める程であった。

しかし、アテナはそのタペストリーの出来栄えではなく、織り込まれた神々を嘲笑うような内容に激怒し、最終的にアラクネの織機とタペストリーを破壊してアラクネの頭を打ち据えた。

これによりアラクネは己の愚行を認識し、恥ずかしさに押しつぶされ逃げだし、最終的に自ら命を絶った。

アテナは彼女を哀れんだのか、死後も機織りができるようにと、トリカブトの汁を撒いて彼女を蜘蛛に転生させたのだった。


悠耶 「まぁ、俺は蜘蛛を見ても嫌悪感が湧かないからな。害虫を喰ってくれる良い奴等ってコトも知ってるし……それより、俺がお前に訊きたいのは、どうやって此処に入ったのか?ということと、此処で何をしているのか?ということだ。」

??? 「お前だなんて……私にも一応、『 ラフィス 』という名前があるのだけれど……まぁ、これは先に自己紹介しなかった私の落ち度だから、仕方ないわね。」

悠耶 「あっ、すまん。俺はユーヤ。この居城の主だ。」

ラフィス 「あら?1番の権力者だったの。知らなかったとはいえ、私ったら……あっ、ごめんなさい。質問の返答がまだだったわね。まず、どうやって入ったか?という質問に対する答えは、地下水路からと言っておきましょうか。」

悠耶 「あぁ、なるほど。そうだよな……下半身が蜘蛛だもん。その気になれば、どこだって登れるよな。」

ラフィス 「えぇ。まぁ、その後は此処の皆が寝静まった後に、屋根伝いに……ね。」

悠耶 「そこまで警戒していたのに、何で今日は皆が起きている時間帯に?」

ラフィス 「……先に此処で何をしていたかを答えさせてもらう……というより、見てもらった方が早いかしら?ねぇ、ユーヤ。もう少し、私に近づいて。大丈夫!いきなり頭からかじるなんてことしないから。」


クスクスと笑うラフィスに、俺はすこし警戒しながら歩み寄る。

そして、ラフィスが左腕を怪我していることが判った。


ラフィス 「此処から少し離れた場所で昨夜、冒険者達と対峙してしまってね。何とか応戦してたんだけど、戦況が不利になって……何とか近場にあった洞窟に逃げ込んで、壁伝いにあちこち歩いていたら、この拠点の地下水路に出て、それで……」

悠耶 「なるほど。」

ラフィス 「それで、此処まで辿り着いて安心したらお腹が空いちゃってね……エサを探しに別の場所へ行こうとして動き出した音を、下の住人さんが聞いちゃったみたいね。」

悠耶 「事情は解った!ラフィス、もし行く宛が無いなら、此処に住まないか?」

ラフィス 「此処って……この屋根裏に?」

悠耶 「違う!違う!俺達の仲間として、この拠点に住まないか?って訊いてるんだよ。」

ラフィス 「…………魅力的な御誘いだけど、遠慮させてもらうわ。あなたは私の蜘蛛の体を受け入れてくれたけれど、此処に居る他の女性の方々が何て言うかしら?きっと、受け入れてもらえないわ。」

悠耶 「いや、大丈夫だと思うぞ?」

ラフィス 「………え?」

悠耶 「ちょっと、此処で待っていてくれるか?皆を呼んで来たら、改めて呼びに来るから。」

ラフィス 「え……えぇ。わかったわ。」


~ 数分後 ~


俺はシルヴィアとシャロンに頼んでフレデリカと垂氷を水族館に呼んで来てもらい、全員集まったところでラフィスを皆と対面させた。


ラフィス 「え……?これって……」

悠耶 「見ての通り、此処には人間は1人も居ない。普通の人間に見える垂氷も、雪女っていう異国のモンスターだ。」

垂氷 「悠耶様の紹介で納得していただけないのでしたら、私と握手してみますか……?それで納得していただける筈です……」

シルヴィア 「ユーヤ様が皆を集めてくれと仰ったときは何事かと思いましたが……大変でしたね、ラフィス。」

フレデリカ 「ラフィス様は御自身の下半身のことを気になさっているとのことですが、そのような事で嫌悪感を抱き差別する者は、此処には誰一人として居られません。ですので、どうぞ御安心ください。」

ラフィス 「貴女達……」

悠耶 「ちなみに、あと1人所用で出かけてもらっている仲間が居るんだけど、そいつもサキュバス……人間じゃないから、安心してくれて良いぜ。」

ラフィス 「そう…………今まで他のモンスターとの交流というものを極力避けて生きてきたけど、此処なら……私も気兼ね無く過ごせるかもしれない。ユーヤ……貴方達の御言葉に甘えて、私も此処の一員にしてもらえないかしら?」

悠耶 「おう!もちろんだ。」

シャロン 「仲間が増えた……ボクも嬉しい。」ニコッ

マーレ 「これから宜しくお願いしますね、ラフィス様。」

ラフィス 「こちらこそ、その……よろしくね。」/////


この日、俺達に新しい仲間が増えた。

蜘蛛のパーツ……個人的に凄く格好良いと思うんだけどなぁ。

ラフィス本人に面と向かって言わないけど。



No.21 動きだす勇者達


ラフィスが仲間になり、彼女自身にどのような居城にしたいのか選んでもらった結果……この拠点内に、俺の居た世界でもよく見かけた廃ビルや廃工場が建設された。

流石に今回は黒曜石ではなく、鉄筋コンクリート等実際に使われている……おそらくこの世界には存在しない、この世界に存在する鉱物よりも硬い素材で本格的に建築されている。

まぁ、施設と他の居城とを繋ぐ通路は相変わらず黒曜石なんだけど。


拠点 ・ 玉座の間


悠耶 「ん~……今後のことも考えて、皆の居城の配置を考え直さないといけないな。」


何も無い空間に、この拠点の建物の配置図を表示して、頭の中でいろいろと思案してみる。


悠耶 「まぁ、それは今度皆揃って話し合うとして……」


俺は続けて画面を操作して、遥か異国……北の大陸に居る元同級生にして、勇者として扱われている39人の様子を見ることにした。


シルヴィア 「失礼します。ユーヤ様……何を見てらっしゃるのですか?」

悠耶 「ん?あぁ、ほら。異国に召喚された勇者様達が今、どうなってるのかを確認してたんだよ。」

シルヴィア 「あぁ。ユーヤ様と同じ世界から来たという例の者達ですね。」


扉を開けて入って来たシルヴィアが俺の隣まで来て、そのまま同じように画面の向こうの光景を観察し始める。

画面の向こうでは、39人の勇者が玉座の間に集められているところだった。


シルヴィア 「これが、あちらの王城の玉座の間ですか。」

悠耶 「おそらく、こらから軍資金やら何やらを支給するんだろうな。」

ラフィス 「その画面に映っている39人全員に?王族っていうのは凄い大金を有しているのね。」

悠耶 「まさか。多分、この後何人かのグループに分かれる……って……」


声がした方へ顔を向けると、玉座の間の天井にラフィスが逆さまの状態で張り付いていた。


悠耶 「うおぉぉっ!?ビックリしたぁ!Σ( ; ゚ Д ゚) 」

シルヴィア 「全然気づきませんでした……何をしているのですか?ラフィス。」

ラフィス 「何って……自分の住む拠点にどんな物があるのか、見て廻っていただけよ。」


ラフィスはそう言うと俺達の前方に着地し、そのままシルヴィアと同じように俺の傍まで来て画面を覗き込む。


シルヴィア 「あっ……ユーヤ様が仰ったように、何名かのグループに分かれるようですよ。」

ラフィス 「……4人組が1つに、あとは5人組が7つね。」


察しの良い方は気付いているかもしれないが、この4人グループが俺を苛めていた連中のチームである。


シルヴィア 「やはり、1番脅威になると思われるのは、ユーヤ様を奴隷のように扱っていたという、この4人組でしょうか?」

ラフィス 「あぁ。ユーヤが前に居たとかいう世界で……そう、コイツ等が……」

悠耶 「いや。そいつ等とはいずれ対峙するつもりではいるけど、脅威にはならない。厄介になると思われるのは…………こいつ等だ。」


俺は画面に表示された、言い方は悪いかもしれないけど 『 いかにもオタクです! 』 といった感じの男女で構成されたチームを指差した。


ラフィス 「彼等が?こう言っちゃ悪いかもしれないけど、ユーヤを苛めていたとかいう連中に比べると、あまり強そうには見えないんだけど……」

悠耶 「見た目はな。ただ、こいつ等は、この後どう行動すれば良いのか……それを1番理解している……と思われる連中だ。」


現実世界ではスクールカーストの底辺に居た連中だったはずだが、状況が変わればそれも一変する。

連中の中に1人でもRPGをプレイしたり、異世界転生物の漫画を読んだりしている奴が居れば……この後はおそらく、他の連中とは違う行動を取るだろう。

他の連中が他の町へ移動するというのに、この王都周辺で雑魚モンスターを倒してLv上げしたり、Lv上げに関しても他の連中より効率良く行うかもしれない。

いずれにせよ、この世界で難なく生活できるのは

例の不良グループでも

スポーツ系の部活で青春の汗を流していた野郎連中でも

お洒落に力を入れて可愛さに磨きをかけたギャルでも

俺が一目惚れしたクラス委員長の女の子でもない。

こういう 『 普通でない状況 』 のことをよく知っている連中だと俺は思っている。


悠耶 「とりあえず、俺が注意して観察するのはこの4人組だけど、数日……数ヶ月後、こいつ等の実力にどれだけの差が出るのか楽しみだな。」

シルヴィア 「そうですね。今、ユーヤ様の魔法であちらへ出向き、全員射貫くことも可能ですが……楽しみは後に取っておきましょうか。」

ラフィス 「なかなか良い度胸してるわね、貴方達……」


引き続き画面に視線を向けると、王様のありがたい御高説が終わったのだろう。

8つのチームが順番に謁見の間からゾロゾロと出ていくところだった。


悠耶 「さて……遅かれ早かれ、連中が此処に来るだろう。いや、西の連中を始末して満足するかな?いずれにせよ、いつでも連中を 『 歓迎する 』 準備はしておこうな。」

シルヴィア 「はい。重々承知致しております。」

ラフィス 「えぇ。やらせてもらう以上、徹底的にやるつもりよ。」


フレデリカ 「失礼します、ユーヤ様。」


鉄の扉を押し開け、フレデリカが玉座の間に入って来た。


悠耶 「ん?どうした?フレデリカ。」

フレデリカ 「先程、アンネリー様が御戻りになられました。詳しい報告は後程改めてアンネリー様にしていただくとして、先に悠耶様の御耳に入れていただきたい知らせがございます。」

悠耶 「何だ?」


その後続いたフレデリカの報告に、その場に居た全員に少しだけ緊張が走った。


フレデリカ 「西方より魔物の群れが、この居城へ向けて進軍中とのことです。」


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Us2さんから
2019-10-15 13:43:38

SS好きの名無しさんから
2019-03-27 01:28:55

SS好きの名無しさんから
2019-03-17 00:57:13

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2019-03-17 00:57:08

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2019-03-16 00:36:19

黒星さんから
2019-03-15 14:07:03

このSSへのコメント

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1: SS好きの名無しさん 2019-03-17 00:57:06 ID: S:TSUY0H

4円
ゆっくり頑張れ

2: 柔時雨 2019-03-17 18:42:28 ID: S:juxNXG

SS好きの名無しさん

おぉぉ!コメントありがとうございます!
これは 【 支援 ( しえん ) 】 と解釈して……大丈夫ですか?だとしたら、改めてありがとうございます!

はい。ネタが思いつき次第、ぼちぼちと更新させていただきますね

3: SS好きの名無しさん 2019-03-28 00:00:59 ID: S:EQSOrP

この作品好きです。
続き、待ってます。

4: SS好きの名無しさん 2019-03-31 08:55:03 ID: S:2RfI6z

とても面白いです。
飽き性の自分が、小説等ではまることは少ないのですが、
このssはとてもワクワクしながら更新を待っています。

5: SS好きの名無しさん 2019-03-31 09:02:47 ID: S:aPSdeM

4です。
大事なこと忘れてました。
これからもゆっくりと、無理しないよう、体調に気をつけて、更新を頑張ってく
ださい。

6: 柔時雨 2019-03-31 10:27:35 ID: S:uRmXNx

>>3
SS好きの名無しさん

コメントありがとうございます!
ちょっと、スマホゲームにうつつを抜かしていました。また、随時更新していこうと思います。

7: 柔時雨 2019-03-31 10:32:58 ID: S:Uoxm9g

>>4
SS好きの名無しさん

コメントありがとうございます!
この作品に少しでも興味を持っていただけたのでしたら、これ幸い……何よりも嬉しく思います!
今後も不定期ですがボチボチ投稿していきますので、気が向いた時にでも覘きに来てやってくださいませ。

8: SS好きの名無しさん 2019-04-21 11:15:12 ID: S:-aJlWz

続き、楽しみなり。

9: 柔時雨 2019-04-27 09:34:40 ID: S:dffWAG

>>8
SS好きの名無しさん

コメントありがとうございます!
今後も少しでも皆さんに楽しんで頂けるよう、精進させていただきます。

10: SS好きの名無しさん 2019-04-29 17:59:24 ID: S:UtCXp1

無理せず更新頑張ってください。
応援しています。

11: ヌベスコの化身 2019-08-02 16:34:54 ID: S:xWVWxK

やりますねぇ! 更新待ってるゾ^〜

12: 柔時雨 2019-10-05 01:02:40 ID: S:-KU0N5

>>10
SS好きの名無しさん
はわわわわ……!他のことにうつつを抜かし、返事が遅れて申し訳ありませんでした!
また少し、思いついたので少しずつ綴らせていただこうと思います。

>>11
ヌベスコの化身さん
コメント変身、遅くなって申し訳ありませんでした!からの、ありがとうございます!
また少し思い浮かんだことがあるので、スローペースですが、綴らせていただこうと思います。


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