2019-04-14 20:09:25 更新

概要

中学二年生の卒業式。憧れ、淡い恋心を抱いていた先輩に告白しようとして、放課後に教室へ向かうと、そこには先輩が知らない男子と肩を寄せ合い、俺に見せたことがない表情をしていた。
しょうがない。俺みたいな日陰者に接してくれていた先輩のことだ。しょうがないことだと、当時は不思議と納得できた。

事実上の失恋から一年後のとある高校の入学式。

そこには、俺が好きだった先輩が居た。いや、偶然ではなく俺が故意にこの高校に入学したのだ。諦めきれなかったおれはこの日の為に、ダサかったもやし頭から今時のさっぱりとした短髪のヘアスタイルに変え、眼鏡も取ってコンタクトにした。ヒョロかった体も鍛え直し、マシな男に成長を遂げていた。


——これは、下克上だ。

一度失恋した恋は、一年の期間を置いて又動き始める。

果たして、無事に先輩を堕とすことが出来るのだろうか。



俺「——……!」


















俺は、一人の先輩に恋していた。


その先輩は有山(えりやま) 愛梨(あいり)という名前で、俺は躊躇や淡い恋心が邪魔をしてか、卒業まで有山先輩と呼んでいた。


あの人は人気者だ。特段勉強や運動が得意な訳ではなく、愛嬌もありながら整った容姿と、俺みたいな日陰者にまで分け隔てなく接してくれるその人間性の面で学年を超えて人気だったのだ。


そんな人と俺の関係性は、唯の同じ部活の先輩後輩というものだったが、部活以外の事……他愛の無い、下らない話をしょっちゅうしていたので、友好な関係も築けていたと思う。


話した内容は至って普通なものだ。昨日のテレビの話から、最近の出来事とか、今時の女子の恋話に付き合わされたりとか、あと部活が文芸部だったこともあり、新しく発売された本の話なんかもした。因みに、その先輩目当てで部室に来る奴も多かった。


有山先輩と過ごす日々が楽しかった。普段は必ず誰かと居る先輩。だが放課後の時の部室、他の部員が談笑する中で人気者の先輩と俺の二人で交わし合う心地いい言葉のキャッチボールが、日陰者に風当たりが強い学校生活で日々蓄積されていた疲れを大いに癒していた。


最初は、人と余り話せない俺に話題を振ってくれ、当時はどんな相手でも一言二言交わす程度で終わってしまっていた会話も、一年経った今、有山先輩と放課後に話しているお陰で、他の人と問題なくコミュニケーションを取れるようになっていた。


引っ込み思案だった性格も——


余り動かさなかった表情筋も——


他人に興味を示すことが出来なかった他への関心も——


全て、有山先輩のお陰で人並に成長することが出来たのだ。


果たして、そんな人生の恩人のような人と接していて惚れない男が世界に居るだろうか。


それまでの俺の中の何もかもを変えるきっかけを、モノトーンで不鮮明な道筋をその無垢な笑顔で照らし、与えてくれた人に惚れない男が居るのだろうか。


否。少なくとも俺は、いつからか有山先輩のこと時間さえあれば考えてしまっていた程惚れてしまっていた。



と言っても、片想いだったのだろう。


それは分かっていた。俺のような、もやしみたいな髪型に、如何にもヒョロそうで背が高いだけの眼鏡オタクを異性の対象として見るなんて有り得ないだろう。

今時の女子は爽やかで、勉強がそこそこのスポーツが出来る男子に好意を抱くのだ。


しかし、それでも見つけては目で追ってしまう。届かぬ想いだとしても、本心に抗うことなんて出来る筈がない。



——だからこそ、届かぬ想いだとしても。


今日の卒業式の放課後。二度と会えないかも知れないこのチャンスを、逃す訳にはいけなかった。


きっと、俺と同じように玉砕覚悟で告白しに来る奴がいる筈だ。何せ、先輩は人気者なのだから。俺とは違い、いつも周囲から注目されて、持て囃された人だ。


それでも、俺はこの——ここまで自分を変えてくれた有山先輩への溢れんばかりの感謝の気持ちを込めて、願わくば、最近やっと気付き始めていた淡い気持ちを受け入れなくとも良いから、伝えたい思いで一杯だった。


途方もなく長く感じられた卒業式が終わり、直ぐに有山先輩の教室を目指した。


今頃、最後のホームルームが終わり、仲間たちと談笑し合っている頃だろう。


注目を浴びるだろうが、人目がない、あの部室に呼び出して、 この思いを、この想いを伝えるんだ。




しかし今——有山先輩の教室に来たはいいが、冒頭のように、俺は瞠目し、絶句していた。



神の悪戯かのように、少し隙間が空いた教室のドア。その隙間の先に






有山「……」


???「……」











俺「——」


名も知らない、同じ卒業生なのか証書を持っている名も知らない一人の男子と肩を寄せ合って——俺には見せたことの無い綺麗な笑顔で笑っている、有山先輩がそこには居た。


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