2019-05-18 23:03:07 更新

概要

今回はホラー系です。天霧を探しに芝生島へと向かった狭霧達一行。徐々に明らかになって行く島の謎とは?吹雪達が示す点と点が線となる時、狭霧達はどうなってしまうのか?


前書き

前回と同じく
特Ⅰ型(吹雪型)、天霧、離島棲姫
今回は更に
綾波、敷波、狭霧
以上のキャラが好きな方
また今回はホラー系(風味)となりますので
そちらが苦手な方は
ブラウザバックをお願いします
また、長めな本編となりますので
読まれる場合はご注意を


芝生島シリーズ(続くとは言ってない)
第2弾となります
前作は↓になります
吹雪「きっと解り合える」


それでは本編をどうぞ




また特型がやって来た


それは新しい島へやって来る


今年は芝生島が出来た年だった


TOKUOは特型で作られる…





叢雲

「天霧…?」

秘書艦専用の机で梱包を解きながら

叢雲が訊き返した

狭霧

「はい

 秘書艦代行の叢雲さんならご存知かと」

叢雲

「そりゃ知ってるけど

 心配いらないわよ、元気にやってるわ」

包みの中の書状を確認しながら

面倒そうにあしらってくる

狭霧

「天霧さんはどこへ行ってるのですか?」

その態度に少し苛立ちつつ訊くと

知らないの?

とでも言わんばかりの顔で叢雲は言った

叢雲

「芝生島よ」





穏やかな波を掻き分け

3つの航跡が海上を進む

狭霧は叢雲とのやり取りの後

綾波、敷波と連れ立って

芝生島を目指していた

狭霧

「芝生島迄あと少しですね」

綾波

「ここからならそんなに離れてないから

 急がなくても大丈夫だよ」

 ポワポワ

敷波

「狭霧、焦り過ぎ〜

 島も天霧も逃げないって」

 ケラケラ

綾波と敷波がそれぞれ狭霧を宥める

狭霧

「いいえ

 早く無事な姿を確認しないと!」

 フンス

綾波と敷波は互いに見合うと

苦笑いで妹を見守った

波は凪いでおり陽も穏やかな青空である

だが、視線を島の方へと向けると

遥か彼方の空は怪しげな様相を呈していた…





吹雪

「いらっしゃい、皆」

芝生島に到着すると吹雪が出迎えてくれた

吹雪

「他の皆は作業が有って…

 ごめんね私だけで」

狭霧

「いえ、こちらこそ急に

 押しかけてしまってすみません」

日本人らしい挨拶の応酬が終わると

吹雪を先頭に島の家屋へと歩み始める

綾波

「へぇ〜、初めて来ましたけど

 結構広い島なんですね〜」

吹雪

「畑となるとそれなりに土地が要るからね」

敷波

「じゃあ、いい物件だったわけだ」

吹雪

「そうそう、正に願ったり叶ったりだよ」

 アハハ

何故だろうか、直系の自分よりも

遥かに本物の姉妹の様に見える

そんな得体の知れない疎外感を

3人から感じつつ歩いてると

良く手入れされた芝生が

彼方此方にあるのが目についた

吹雪

「あれね

 この島の名前の由来なんだ…芝生」

吹雪が視線に気付いて語り出す

吹雪

「最初は処分しようとしてたんだけど

 白雪ちゃんがとても気に入っちゃってね」

吹雪

「自分が面倒見るから〜って聞かなくて」

 フフフ

綾波

「それわかります!妹が言うと

 つい折れちゃうんですよね〜」

 ウンウン

敷波

「綾波が折れた事あったっけ?」

 ン~

考え込む振りをする敷波に戯れつく綾波

そんな2人を見ている吹雪は

とても幸せそうだった





吹雪

「天霧ちゃんはこの時間だと

 動き回ってるから、ここで待ってれば?」

あれから暫く歩いた後

吹雪に島の小屋(?)へと案内された

狭霧

「ここに住んでいるのですか?」

 キョロキョロ

建屋としては狭い

と言っても私は艦娘である

一般的な住居の知識に乏しく

どうしても比較対象が鎮守府の寮となる

この建屋でも6、7人の生活拠点としては

不自由無いのかもしれない

吹雪

「うん、建材がしっかりしてたから

 中だけ掃除して使ってるんだ」

敷波

「2人1部屋の寮に比べると

 開放感がスゴイね!」

吹雪

「深雪ちゃんと同じ事言ってるよ?」

 クスクス

そんな話をしていると

磯波と浦波が背負子を背負って戻って来た

磯波

「あら?お客さん?」

浦波

「珍しいね…狭霧ちゃんか、いらっしゃい」

浦波が小さく手を振ってくるのでそれに返す

狭霧

「姉共々お邪魔してます」

 ペコリ

磯波

「そんな畏まらないで

 特型仲間なんだから、ね?」

磯波が気を回してくれた

鎮守府では新参者となる私は

今まで古株の吹雪型の面々とは

あまり接点が無かった

それ故、接し方を気にしていたのだが

どうやら杞憂であった様だ有り難い

吹雪

「天霧ちゃんの様子を見に来たんだって

 2人共、天霧ちゃん知らない?」

吹雪が全員分のお茶を持って来る

磯波

「午前中は一緒に畑に居たけど

 その後は何処かに行っちゃって…」

浦波

「私も磯波姉さんと居たから

 分からないなぁ、ごめんね」

狭霧

「あ、いえそんな…」

どうやら活発に彼方此方動き回っている様だ

元気が有り余っているのも

少々考えものである

吹雪

「そっかぁ、う〜ん

 天霧ちゃん一度出掛けると

 長くなる時があるんだよね…」

随分と考え込んでいる

吹雪さん達でも把握しきれないのか…

天霧さんに会ったら言っておかないと

吹雪

「狭霧ちゃん悪いんだけど

 夕飯迄適当に時間を潰しててくれる?」

どうやら狙って捉えるのは至難の業の様だ

狭霧

「あ、はい了解です。

 それじゃあ、折角なので島内を

 見せて貰っても良いですか?」

流石に只待つというのは

暇を持て余すだろう

折角戦いの無い所に来たのだ

少しくらい自然の中でのんびりしてみたい

それに島内を散策していれば

天霧と会うかもしれないし丁度いいだろう

吹雪

「勿論!地図を描くから

 のんびりして来てよ」

そう言うとメモに何やら描き始めたが

直ぐにその手が止まる

吹雪

「あ、ただ危ない所もあるから

 そこには立入らないでね?」

吹雪が数ヶ所を○で囲み

こちらに視線を戻して注意してくる

狭霧

「分かりました、ありがとうございます」

丁寧な対応に笑顔で礼を言うと

再び地図に目を落とした

吹雪の視線には気付かずに…


〈●〉〈●〉ジー





お茶を飲みながら改めて屋内を見回すと

奥の壁に写真が飾られていた

狭霧

「この島の昔の住民の写真なのかな?」

白黒の写真だったのでそう考えたが

よく見ると写真の中の人物は吹雪達であった

磯波

「お芋畑の写真…素敵でしょ?」

 スゥッ

狭霧

「ひゃっ!」

 ビクッ

普通に話しかけられただけの筈なのに

妙な感覚を磯波から感じ

少し距離を取る

先程、挨拶した時には無かった

何かを感じる…

狭霧

「…今の時代に、何故白黒なんですか?」

確か敷波姉さんから聴いた…

この人は写真が趣味で

月収の何回か分に相当する

カメラを所持していると

なのに何故、態々白黒で撮るのか?

磯波

「…魂がね…安らぐんだ…しろくろは」


〈●〉〈●〉


目の錯覚だろうか?

磯波の目の奥に何かが揺らめいて見え

戦慄する

深海棲艦…とは違った凄み?怖さ?

目の前の普通の少女が何故だか怖ろしい

吹雪

「狭霧ちゃん地図できたよ」

そこへ吹雪が注意書きを入れた

地図を持って来た

狭霧

「あ、ありがとうございます

 じゃあ私ちょっと行ってきますね」

これ幸いと地図を受け取ると

そそくさと小屋から出た

………

……



狭霧が小屋を出た後

呑気にお茶を啜る綾波達から

少し離れた所で

磯波が吹雪に小声で話しかける

磯波

「狭霧ちゃん…勘の良い娘だね」

吹雪

「特型だからね…ふふふ」





小屋から少し離れると

心に少々ゆとりが出来た

スマホを見てみるが当然こんな孤島で

携帯が繋がる訳も無く

だが例え繋がったとしても

天霧の事だ…

狭霧

「天霧さんが電話に出る様な性格なら

 ここ迄来る必要…ないのよね」

やはり本人と直接会う以外には

方法が無い…か

情報端末の急速な普及と高性能化で

田舎気味な鎮守府の近くでさえ

連絡に事欠く等無かったのだが

狭霧

「まるで艦だった時代に

 タイムスリップでもした気分…」

呟く私の目に入るのは

土と木と石だけだった


畑に通じる道には立札が有りそこを進む

狭霧

「あらためて見ると

 彼方此方に芝生が在るのね」

空き(隙)あらば芝生

と、でも言う様に小さくとも

平地でさえあれば芝生が敷き詰められていた

白雪

「芝生に興味が有るの?」

 ヌッ

狭霧

「ひっ!?し、白雪さん?

 いきなり後ろから声掛けないで下さい」

突然、白雪が話しかけてきたので

思わず声が出てしまった

…いつから後ろに?

物音1つすら聴き取れなかった…

普段から物静かな艦娘ではあったが

これは"静か"のベクトルが違う

白雪

「…ごめんね

 狭霧ちゃんが見入ってるものだからつい」

 アハハ

そんなに気を取られていた訳ではないが

可愛い笑顔でそう言われると

過敏に反応した自分に

なんだか罪悪感が湧いてくる

狭霧

「…ふぅ、その、私もすみませんでした」

先の磯波の事があったばかりとは言え

大人気無かった、謝っておこう

白雪

「ああ、気にしないで

 それより、島に来てるなんて

 鎮守府で何かあったの?」

両手を振り白雪が尋ねてきた

寄り付く者等いない島

そこに急な来訪者

ましてそれが艦娘となれば

何かあったと考えるのが当然だろう

狭霧

「ああ、いえ、そうではありません

 天霧さんから連絡が無くて心配で…」

誤解が無い様、島に来た目的を説明しておく

白雪

「そっか、確かに

 天霧ちゃんそういところ大らかだからね」

 ハハハ

狭霧

「ええ、困ったものです」

 ヤレヤレ

白雪の意見に同意する

無沙汰は無事の便りとは言うが…まったく

白雪

「でもこめんね

 私も天霧ちゃんが居る所は

 見当がつかないの…」

白雪が考え込むが出て来る答えは

他の吹雪型の皆と変わらない

狭霧

「ああ、いえ

 今は散策しているだけですので…」

簡単に小屋での経緯を説明すると

白雪が案内を買って出てくれたのだが

白雪

「そうだ、島を見て回るのなら案内するよ?」

狭霧

「いえ、お構いなく

 突然訪問したのにお邪魔になる訳には…」

磯波の目を思い出し、やんわりと断る

白雪

「そう…それじゃあ、建物には入らないでね

 放棄されてから長い物もあって

 何時、崩れるか判らないから」

なるほど吹雪の言っていたのはそう言う事か

気を付けるとしよう

狭霧

「はい、そうします

 それでは私はこれで…」

白雪と別れ、道なりに歩きだした

………

……



白雪

「…」


〈●〉〈●〉ジー


狭霧の姿が完全に無くなるまで

白雪は狭霧を見続けていた、ただじっと…





畑から浜辺へと降りて来ていた

狭霧は時計を見た

そろそろ日も沈み始める頃合だ

小屋へと引き返そうとしたその時


ズッパーーン


突如近くから大きく波が立つ音がした

狭霧は無意識の内に

音の方へと走り出す

浜辺から2〜30m程の所に

大きな人型のシルエットが見える

が、逆光となり姿を判別する事が出来無い

手を翳しなんとか確認しようとした瞬間

大きな水柱がそこに現れ

収った時には人影は消えていた





狭霧

「海坊主(妖怪の方じゃないよ)みたいな

 人影を目撃したんです」

深雪

「またまた〜」

あれから小屋へと急ぎ戻ると

既に夕餉の支度は終わっていて

中では全員が揃って私を待っていた

当初の目的の天霧をさて置き

すぐに先程の謎の人影を

皆へ報告したのだったが…

狭霧

「深海棲艦かとも思い

 正体を突き止めようとしたんですが

 水柱が上がると消えていたんです」

ありのまま先程見た光景を話す

深雪

「狭霧って

 見た目に似合わず冗談も言うんだな」

 ケラケラ

狭霧

「冗談なんかじゃありません!」

 ガタンっ

深雪の人を小馬鹿にした様な物言いに

つい反応してしまう

天霧

「わっ!?狭霧落ち着けって、な?」

浦波

「でも、実際に住んでる私達が

 見た事が無いんだし…ね」


あれは確かにいた


磯波

「見間違いじゃないのかな

 逆光だったんでしょう?」

初雪

「大きな魚が跳ねたのを見たんじゃ?」


いいや、人型だった


敷波

「狭霧、ここのところずっと

 天霧の心配してたから

 疲れてるんだよ、きっと」

天霧

「ありゃ、そうなんだ?ごめんな狭霧

 心配させちまったみたいでさ」

綾波

「狭霧ちゃん疲れてるの?」


心配はしていたが疲れて等無い


吹雪

「それはいけないね、なら

 芝生島でゆっくりしていくといいよ!」

吹雪

「叢雲ちゃんには私が無線で伝えておくから」

白雪

「そうだね、それがいいよ!」

誰一人として

私の報告を信じる者は無かった

天霧さえも…


狭霧

「(何故皆こうも危険性を否定するの?)」

狭霧

「(無人島だった訳だし

  深海棲艦が居ても不思議はないのに…)」

狭霧

「(皆、何か隠してるの…?)」

私の中で小さな疑問が芽生えた





お芋尽くしの夕餉を終えると

皆は就寝の準備を始めた

結局謎の人影は見間違いとして

強引に結論付けられた

狭霧

「(艤装を置いてある

  浜辺の小屋までは距離がある…)」

狭霧

「(何事も無ければいいのだけど…)」

念の為、有事の際の行動を

頭でシミュレートしておく

灯りが消されると

小屋の内も外も真っ暗闇となった


暗闇プラス警戒心から

なかなか寝付く事が出来ずにいると

天霧がコッソリと

小屋から抜け出して行くのに気付いた

狭霧

「(こんな夜中に何処へ?)」

寝付けずにいたのもあって

後を追う事にした





狭霧

「此方は小さな山になっているのね」

月明かりに目が慣れた頃

山の麓の岩場へと着いていた

そこには坑道の様な木枠が組まれた

入口が有り、明かりが点されていた

あれは天霧の艤装?

どうやら艤装を発電機代わりにしている様だ

狭霧

「天霧ったら

 こんな夜更けにどうしたのかしら?」

坑道へと入ると中は少しひんやりとしていた

狭霧

「少し冷えるわね

 上着を持って来るんだった」

1人愚痴を溢し少し進むと

木箱が幾つも並んでいた

その1つを覗き込む

狭霧

「お芋…?」

木箱にはお芋がたくさん詰められていた

どうやらここは貯蔵庫の様だ

狭霧

「それにしてもたくさんあるのね

 市場にでも出す気なのかしら」

 ハハハ

その農家の様な獲れ高に呆れていると

奥の方から何やら掘る音が聴こえてきた

木箱から更に奥へ進むと

曲り角の奥の明かりが岩肌に

天霧の影を大きく映し出していた

角からそっと奥を覗き込む

狭霧

「なっ!?」

思わず声が出る

何故なら其処に居たのは日中に見た


謎の海坊主だったからである


天霧

「ん?何だ狭霧か」

先程、影が大きかったのは

明かりのせい等では無かった


実際に天霧が大きいのである


坑道は天井が190cm程あるのだが

天霧の頭は天井スレスレにある

天霧

「さては後を付けて来たのか?

 狭霧もイケナイなぁ」

私の太腿より太い腕が

此方へと伸ばされる

狭霧

「ひ、ひぃっ!?」

訳が解らずとにかく逃げ出した





狭霧

「綾波姉さん達と合流して脱出しないと

 …天霧ごめんなさい」

小屋の近くまで戻ると

篝火が灯され

松明を持った吹雪達が警戒していた

慌てて藪へと身を隠す

吹雪

「皆、狭霧ちゃんは

 島内にはまだ不慣れだから

 直ぐに見つけるよ!」

白雪

「かの者を島から出しては為らぬ!」

初雪

「身内を疑うのは良くない…」

深雪

「狭霧ぃ、近くにいるんだろォ?

 なぁ、なぁ?」

磯波

「狩ノ時間ダ」

 アハハハ

浦波

「芝生山登レ、獲(ト)レ獲レ獲レ」

あれだけ展開されていては

中の姉さん達を1人で連出すの無理だろう

ここは堪えるしかない

狭霧

「直ぐに助けを連れて来るから

 待っていて下さい…姉さん」


バキッ


そっと離れようとしたその時

足元の枯れ木を踏んでしまう

最も近くに居た深雪が直ぐに気付く

深雪

「いたぞー!いぃた〜ぞーっ!」

特殊部隊員が異星人でも

見つけたかの様な声で

深雪が皆に発見を伝える

深雪

「出て来い、狭霧ィーッ!」

バキッバキッバキィッ

周囲の木々が荒々しく薙ぎ倒される

狭霧

「ひっ!?」

深雪の元に続々と集まる浦波達が

更に嬉々として木々を薙ぎ倒す中

無我夢中で暗闇を駆け抜けた

最後に背後を確認した時

松明の灯りは徐々に此方へ進み始めていた

そう…狭霧(私)と云う獲物を狩る

山狩は始まったのだ





狭霧

「早く逃げないと、でも何処へ…」

そう考えると日中貰った地図に

"危険"と書かれてあった場所を思い出す

狭霧

「危険でも追跡を振切るには彼処しかない」

決心して歩を進める事にした

狭霧

「ハァッハァッ」

慣れない山道、それも夜間

思った以上に消耗が激しい

振り返ると松明の灯りは遠くにあった

狭霧

「これだけ離れていれば少しなら…」

一息入れようと立ち止まったその時

???

「…来なよ…」

???

「狭霧…此方へ来なよ…」

聴き覚えのある声が狭霧を誘ってくる

狭霧

「この声、敷波姉さんなの?」

声のする方へと進むと

突如口を手で塞がれる

狭霧

「!?」

敷波

「シィ〜…」

静かにする様にと合図してきたので

首肯いてみせると敷波が手を離す

振り返ると敷波と共に綾波もそこに居た

狭霧

「綾波姉さん敷波姉さん!

 良かった、無事だったんですね…」

自力で逃げ出してくれていた

冷静に判断して小屋を離れて良かった

気付かれてはしまったが…

綾波

「皆が小屋から離れた隙になんとかね」

綾波が何時もと変わらぬ

呑気な顔で応えてくる

安否不明だった2人が無事だった事に

胸を撫で下ろしていると

敷波が遠くを指差し訊いてきた

敷波

「狭霧、あの松明が見える?

 何故か此方へは近寄って来ないんだ」

敷波が指差すのは吹雪達の松明の灯りだ

先程も確認したが言われてみると

あの位置から動いてはいない様だ

狭霧

「ええ見えます、ハッキリと」

吹雪達の位置を改めて確かめる

姉さん達と合流出来たし

追手からも離れている

やはり此方へ来て正解だった様だ

狭霧

「此方には危険な廃屋があるらしくて…」

吹雪や白雪とした話を2人に伝える

敷波

「なるほどね、じゃあそこへ行こう」

逃避行は3人組となった





綾波

「皆、あそこに隠れよう」

綾波が指差した近くの小屋へ皆で滑り込む

当然だが中は真っ暗闇である

狭霧

「暗くて良く見えない

 綾波姉さん?敷波姉さん?」

スマホを取出し周囲に翳す

バッテリーは温存しておきたいが

外と違い月明りが無い屋内では

頼らざるを得ない

壁際を探る手に何かが触れた

そこには写真が飾られてあった

狭霧

「写真か…ん?

 この壁の手触りは…?」

灯りを向けて壁をよく観察してみる

狭霧

「変ね?この壁は補修されてから

 そんなに経ってないわ…」


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


白雪

「そう…それじゃあ、建物には入らないでね

 放棄されてから長いのもあって

 何時崩れるか判らないから」


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


日中の白雪の言葉を思い出す

改めてこの建物を見てみるが

しっかりしているうえに補修までしてある

よくよく考えてみると

廃屋なのに外の月明かりが

完全に妨げられているのだ

長年放置された廃屋では有り得ない

では何故"危険"なのか?

その疑問が湧いた時

間近の写真に目を奪われる

写真の中で作業服姿で畑を耕す人物

その髪型には見覚えがある

長いサイドテール…

狭霧

「この写真、畑に…いるのは?

 あ、綾波…姉さん!?

 でも…今日上陸した時…」


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


綾波

「へぇ〜、初めて来ましたけど

 結構広い島なんですね〜」


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


危険だから近付くなと言った吹雪


崩れるかもと嘘をついた白雪


天霧の変わり果てた姿を"皆"揃って否定した


合流した際、2人は天霧について訊かなかった


そして写真に写る"初上陸"のはずの綾波


狭霧

「あ、ああ…」

 ヨロヨロ

全てが繋がってしまった…


ガシッ!


狭霧

「ひっ!?」

急に強い力で身体を押さえ付けられる

綾波

「私はここだよ…」

敷波

「私も居るよ、狭霧…」

綾波・敷波

「…」

 ニコォ

狭霧

「ぐっ、なんて力!?姉さん達やっぱり!?」

見た目ぷにぷに、感触もぷにぷに

なのにビクともしない…

坑道での天霧が頭を過ったその時

吹雪

「狭霧ちゃん…」

 ユラ~リ

吹雪が闇の中から突如現れる

その顔には感情が無かった

吹雪

「ここは危険だから…来たら駄目って

 私…教えたよね?」

狭霧

「なっ!?吹雪さんが何故ここに?」

吹雪達はこちらには近付いてなかった筈

あの距離をこの時間で詰める等不可能だ

そんな私の顔を見て、吹雪が語ったのは

"前提"が間違っていたと言う事実だった

吹雪

「松明の灯りが途中から

 動いてないのに気付かなかった?」

その吹雪の言から直ぐに察する

狭霧

「まさかあの灯りは…

 位置を誤認させる為…なの?」

山中で敷波が"篝火"を"松明"と言って

私に確認させたのは

灯りの下に吹雪達が居ると

思い込ませる為だったのだ

まんまと術中に落ちた悔しさから

吹雪を睨む

いつの間に点けたのか

数本の蝋燭に火が灯っている

そして揺らめく光と影の中

吹雪の深緑の瞳が瞬きせず見詰めてくる

吹雪

「逃げられるとちょっと面倒なんだ

 私達には朝から畑仕事が有るし…」

吹雪

「それに狭霧ちゃんが慣れない夜の山で

 怪我をしたらいけないし…ね?」

吹雪

「だから穏便に此処に"来てもらう"為に

 2人には一芝居打ってもらったの」

吹雪

「結果はこの通り、狭霧ちゃんは無事で

 私"達"は時間を節約出来た

 ありがとうね、綾波ちゃんに敷波ちゃん」

漸く何時もの柔和な"吹雪の顔"になる

私を捕らえるだけに留まらず

吹雪は私の安全まで考慮していたのだ

完敗だった

終始私は、吹雪の掌の上だった訳だ…

抵抗する気力が失せたが謎はまだ有る

狭霧

「吹雪さん、姉さん達に何をしたの?」

率直に訊ねる

同型とは思えない程の力の綾波と敷波

そして天霧のあの姿…

吹雪

「綾波ちゃんや敷波ちゃんは

 "天然"(元から)だよ?」

未だ力を緩めず押さえ付けてくる2人に

小さく手を振る吹雪

吹雪

「天霧ちゃん…は少し"調整"したけどね」

 ニコニコ

狭霧

「調整ですって?

 そんな事…許されると思うんですか?」

 ギリッ

天霧の姿を思い出して怒りが込み上げる

吹雪

「でも天霧ちゃん幸せそうだよ?」

 ニコニコ

狭霧

「あなたは…」

 キッ

吹雪はまるで悪びれない

確信犯の浮かべるその笑みに

一時は萎えた気力が再び蘇ってくる

吹雪

「怒ると綺麗な顔が台無しだよ?」

とても残念だと言わんばかりに

哀しげな顔をする吹雪だったが

直後、一変して

晴れやかな声で語り掛けて来る

吹雪

「でもね悲嘆する事は無いんだよ?

 だって狭霧ちゃん"も"特型!

 TOKUOに入る資格があるからっ!」

吹雪とは思えない身振り手振りを使った

大仰な言い回し

段々とヒートアップしていく語り声

そして狂気を思わせる、狂喜する深緑の目…

鎮守府での静かで大人しい感のあった

秘書艦姿からは想像もつかない

何がここまでこの艦娘(人)を

"こう"させるのか…

吹雪

「うふふふ、"これで"TOKUOのメンバーが

 また増えるよ!あははははははは」

狂喜する吹雪の異様が

先程再燃した怒りを瞬く間に掻き消す

そして私の本能が訴えて来る

ココニイテハイケナイ…と

狭霧

「トクオ?何ですか?…それは」

少しでも考える時間を稼ぐ為に

疑問を口にする

吹雪

「ふふふ、直ぐに解る…

 いいえ、解り合えるんだよ私達は」

はぐらかされた

吹雪をここ迄させるトクオとは一体?

そして冷静になればなる程

これから何をされるのか?

と言う恐怖が頭を擡げてくる

吹雪

「さて、帰投予定迄はまだたっぷり有るし

 皆で狭霧ちゃんの歓迎会をしようね」

 指パチン

白雪

「芝生(神)を讃えよ…」

 ロウソクぼや〜

狭霧

「ひっ」

初雪

「お芋がひと〜つ、お芋がふた〜つ…」

 ポツリポツリ

狭霧

「は、初雪さん?」

深雪

「狭霧はモチロンお芋が好きだよなぁ?

 なぁ、なぁ?」

 ハァッハァッ

狭霧

「あ、あの…」

磯波

「嫌いなら好きにしてしまえばいいじゃない」

 アハハ

狭霧

「き、嫌いなんかじゃないですから」

浦波

「資本主義からお芋主義へ

 カイシュウしましょう?」

 ネッ?

狭霧

「カイシュウって

 な…何をするつもりなんですか?」

綾波

「心配しないで狭霧ともきっと

 解り合えるから」

 お目々ぐるぐる

狭霧

「綾波姉さんお願い、目を覚まして!」

敷波

「目を覚ますのは狭霧だよ、お芋食べよ?」

 蒸かし芋グイグイ

狭霧

「熱!ちょっ、それ蒸かしたて?あっつ!

 お芋熱い!熱いってノォーッ!?」

天霧

「見ろよ狭霧?畑耕してたら

 こんなに力付いたぜHAHAHA」

 狭霧の艤装ぐにゃり

狭霧

「あ、ああ…」

 グッタリ

吹雪・綾波・敷波

「さあ、お姉ちゃん"達"とお話しよ?」

 ニコニコ・ニコニコ・ニコニコ


狭霧

「いやぁあああああ」


その夜

芝生島に1人の艦娘の絶叫が響いた

………

……



瀬戸内海には


艦娘を狂わせる島があるらしい


そんな都市伝説が


各地の鎮守府で囁かれる様になった





おまけ1

白雪の我儘編


吹雪

「自分が面倒見るから〜って聞かなくて」

 フフフ


〜当時の光景〜


磯波

「えいっ」ドスッ

良い踏み込みの突きが白雪にヒットする

白雪

「ぐほぉっ…」

 バタッ

乙女が上げてはならない声を上げ

白雪はその場へと崩れ落ちた

吹雪

「それじゃあ先ずはここか…」


ガシッ


芝生に手を掛けようとした

吹雪の脚を白雪が掴む

少女とは思えない力だ

僅かだが吹雪が顔を顰める

吹雪

「白雪ちゃん、我儘が過ぎるよ?」

 ニコリ

吹雪の手刀が白雪の首へと

落されようとしたその時

白雪

「うぐぐぐ、この白雪

 例え今ここで死んだとしても

 この手を離すわけにはいかぬ!」

口の端から唾を垂らし

土塗れになりながらも手を離さず

尚、抵抗する白雪に吹雪の手が止まる

吹雪

「ふぅ…何んでそこまで芝生に拘るのか

 お姉ちゃんサッパリだよ」ヤレヤレ

吹雪

「いい?白雪ちゃん

 私達はお芋を育てにここへ来たんだよ?」

幼子を諭す様に白雪へと語り掛ける吹雪

白雪

「だが芝生は神の御使い、神に不敬など

 あってはなら…」

 ゴホゴホ

息も絶え絶えながら必死に縋り付く白雪に

皆が少し考え込む

深雪

「とは言えここ以外となるとなぁ」

 ウーン

初雪

「畑には広い場所が必要だし…」

吹雪

「う〜ん?」


ポクポクポク、チーン!


如何にも良い閃きがあったかの様な

効果音と共に吹雪が妙案を思いつく

吹雪

「そうだ!なら小分けにして移設したら?」

吹雪

「ここは畑、芝生は無くさない

 どう?白雪ちゃん」

足元の白雪へ屈み込んで訊いてみる

白雪

「芝生に手を出さぬなら

 この白雪抵抗はせぬ、世話もし…よう」

 ガクッ

吹雪の脚を掴んだ手から力が抜けると

白雪はそのまま気を失った

地面に横たわる白雪の周囲の土は

身悶えによって掻き乱されていた

吹雪

「ふふふ、安心したのか寝ちゃったね

 カワイイ寝顔」

 ホッペタプニプニ

気絶した白雪を芝生の上へ移すと

吹雪が皆に言う

吹雪

「じゃあ皆悪いけど先ずは芝生の移設からね」

初雪・深雪・磯波・浦波

「「「「リーダー!」」」」


こうして芝生島には

芝生が点在する事になったのである





おまけ2

海上での出来事編


離島棲姫

「クソッ、アレダケ丹精込メテ育テタノニ

 諦メテナルモノカ」

離島棲姫が島の奪還に上陸しようと

海岸付近へ近付いたその時

ズッパーーン

突如大きな水柱が目の前に起こる

離島棲姫

「ナンダ?」

慌てて戦闘態勢を取る離島棲姫の前に

筋肉モリモリのマッチョウーマンが

立ちはだかる

天霧

「あーたーしーがー来たー!」

 HAHAHA

離島棲姫

「ナンダオマエハ!?」

まるで海坊主(妖怪の方だよ)だなと

離島棲姫が知り合いを思い出したその時

天霧

「東〜北ぅ、スマーッシュ!」

天霧がそう吼えると

離島棲姫に強烈な一撃が放たれる


グシャアッ! (っ`∀´)=○☆)3 `)・∵.


離島棲姫

「へバァーーッ!?」

ダンッダンッダダッ

その動きを目で捉える事すら

叶わなかった離島棲姫は

水面を水切りの石の様に何度も跳ねた後

離島棲姫

「ノォーッ!!」

ドボォーーーン

最後に一際大きな水柱を上げて

水底へと還って行った

その後、その離島棲姫が浮上する事は

二度と無かったという


〜深海〜


離島棲姫

「地上コワイ」

 ガクガクブルブル





おまけ3

酒匂は むしろ 得意な方編


阿賀野

「瀬戸内海に浮かぶ…とある島にはね」

阿賀野

「1度入ったら2度と出られない

 謎の監獄があるらしいのよ」

能代

「ちょっと阿賀野姉

 酒匂が怖がったらどうするのよ?」

酒匂

「酒匂は平気だよ?能代ちゃん」

 ワクワク

阿賀野

「そもそも私達、艦娘!

 力尽くで出られる!

 でしょ?」

能代

「それ言ったら怪談なんて

 無くなっちゃうじゃないの!」

阿賀野・能代・酒匂

「「「アハハハ」」」

矢矧

「…」


〜数日後ミーティング中〜


提督

「…で、ルートなんだが瀬戸内海を抜けて…」

矢矧

「意見具申します(SMT)

 瀬戸内海は 猛烈に とても危険です」

 早口

提督

「…いきなりどうした?矢矧」

矢矧

「予定日は天候が荒れそうなんですよ?」

提督

「外海じゃないし

 そこ迄荒れる予報ではなかったが?」

矢矧

「万が一にでもかの島に流れ着いたら

 どうするんですか!?」

 必死

提督

「…天候が落ち着くまでそこで避難してたら

 いいんじゃないのか?」

 クビカシゲ

矢矧

「出られなくなったらどうするのよっ!?」

 青ざめ

提督

「おい阿賀野、矢矧どうしたんだ?」

 ウタガイノマナザシ

阿賀野

「それが〜」

 メソラシ


イヤダーセトナイカイカイダケハー!アバレナイデ-?ハナセー!


それからこの鎮守府では怪談は禁止となった





艦?


後書き

青葉
「芝生島に行った者は
 帰って来ない(事もある)」
青葉
「これは事件の予感(臭い)がしますね」

「なんで漣が連れてかれるんですか?」
青葉
「曰く付きの場所に1人で行くの
 怖いじゃないですか!」

「だったら止めればいいのでは?」
青葉
「バイト代はちゃんと出しますよ?」

「レッツゴー!」
青葉
「そうこなくっちゃ!」
青葉・漣
「「アハハハ」」


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