2019-06-19 21:18:48 更新

概要

天に召されたはずの提督だが、悲しみに暮れる榛名の事がずっと気掛かりで成仏を断念する。
以降彼女には見えないが側で見守っている提督。 そんな中、近海に深海棲艦の襲撃が起きて・・・


前書き

キャラ紹介、


提督:死人、過労死で命を落とした。 成仏しようとするも、秘書艦である榛名が気掛かりで
   成仏できず、以降は彼女を見守るようになる。

榛名:鎮守府の秘書艦、提督が死んだのは自分のせいだと責め、今に至るまで自責の念に駆られていた。

死神:この世に彷徨う魂を本来の場所に連れて帰るための天の使い。
   死んだ事に気付かず、鎮守府に縛られていた提督を天に帰すために現れた。


死神の手によって天に召される提督。


しかし、秘書艦である榛名の事が気になり、成仏を断念して榛名の側で見守り始める提督。


ずっと彼女の側に提督が常に見守っているが、当然榛名には提督の姿は見えない。


もちろん提督も霊体であるため、榛名の顔に触れる事も物に触る事も出来ない。


提督の頼みで死神が榛名に自身の気持ちを綴った手紙を置いて貰ったものの、


榛名は立ち直ってくれるどころか、未だ元気が無く暗い表情のままだ。


”自分のせいで提督を死なせてしまったと後悔する榛名”と”自分のせいで榛名を悲しませてしまったと後悔する提督”


側にいるのに、会うことが出来ない2人・・・ただ時間だけが過ぎて行く毎日だ。


・・・・・・


「榛名さん、今日の資料をお持ちしました。」


駆逐艦娘が山積みの資料を持って来る。


「ありがとうございます、そこの机に置いてください。」


榛名は笑顔で対応する。


「・・・何かあればすぐに呼んでください、すぐに駆け付けますので。」


そう言って、執務室から出て行く。


「・・・・・・」


駆逐艦娘が去ると、榛名は再び表情を暗くして1人静かに執務に励む。


”榛名”


提督が隣で見守るも、彼女には提督の姿など見えない。


”・・・・・・”


提督は榛名の顔に触れようとするも、霊体であるため顔を貫通してしまう。


”やっぱり無理か。”


直接触れて安心させたい提督、しかしそれが無理である以上出来る事と言えば榛名を側で見守ってあげる事位だ。


「榛名さん、新しい提督の着任予定の報告が来ていますが?」



前提督が死んだ・失踪した場合、新たな提督が鎮守府に着任される。


しかし、榛名は新たな提督の着任を何度も見送っている、今回で10回目だ。


「分かりました、本営に報告しておきます・・・」


執務室から出ようとした手前、


「榛名さん、あの時は仕方がなかったと思います・・・榛名さんが悪くありません、だから元気を出して下さい!」


そう言って、駆逐艦娘は執務室から出て行く。



榛名が新しい提督の着任を断る理由・・・それは提督が死んだ事だ。


榛名が「少し席を外します」と執務室から出た僅かな時間に、提督が倒れ、息を引き取った。


榛名は「もっと早く提督の体調に気付いていれば・・・」と何度も自問自答を繰り返し、


提督が死んだ事は秘書艦である自分の責任と思ってしまった。


実際は、出撃・遠征で活躍している彼女たちに、これ以上の仕事を任せるのは申し訳ないと思った提督の


気遣いが裏目に出てしまい、疲労が蓄積され、遂に”提督の死”と言う最悪の結末になったのだが・・・


その結果、榛名は”秘書艦の身でありながら、上官の健康管理も出来ない自分が新たな提督を支える事など出来るはずがない”


と判断し、提督の再着任を拒んでいるのである。



「提督・・・ごめんなさい。」


執務中に何度も榛名は入るはずのない提督に謝る。


「榛名が・・・榛名がもっと提督の体調に気付いていれば・・・」


何度も悔やみ、何度も謝り・・・瞳からはぽろぽろと涙をこぼす。


「ごめんなさい・・・ううっ、ごめんなさい。」


悲しみに暮れる榛名、葬儀が終わった後も毎日のように執務室で泣き続ける。


”榛名・・・”


提督は榛名の側に寄り、


”オレが自分で無理をした結果なんだ、だから榛名は悪くないんだ!”


提督は榛名に訴えるも、霊である提督の声は榛名に届かない。


・・・・・・


「榛名さん! 息抜きに一緒の食堂で食べませんか?」


執務室に何人かの艦娘が入って来て、食事の誘いをする。


「・・・そうですね。 では食堂へ行きましょう。」


仲間の言葉に普段と同じ明るい表情で答える榛名。



「昨日の遠征は大変でしたよ~、曙が転倒してずぶ濡れになって・・・」


榛名と一緒に食事を摂りながら、遠征でやらかした失敗談を話し始める漣。


「まぁ、それは災難でしたね。」


その時は榛名はいつも通りに言葉を返すも、時間が空けばすぐに思いつめた表情になってしまう。


「それでね、榛名さん! 次がもっと面白い事件が起きてね・・・」


榛名に話しかけるも、


「・・・えっ? はい、どうしましたか?」


少し遅れて言葉を返すも、また思いつめた表情になってしまう。



「ご馳走様です、お皿ここに置いておきますね。」


食事を終え、榛名たちは食器を棚に戻す。


「それでは、執務の続きを行って来ますので。」


そう言って、榛名はそのまま執務室へと向かう。


”榛名・・・”


漣たちが見守る中、提督もまた彼女たちの隣に立って見守っている。


・・・・・・


「提督、まだあの子に未練があるのですか?」


提督の元に死神が現れ、


「提督のお気持ちは分かります・・・ですが、いくら訴えても彼女の耳には届きません。


 もう諦めて、提督は早く成仏してください。」


”・・・”


「この状態がずっと続けば、次第に自我が失われて行き、最終的に地縛霊となってしまいます。そうなれば提督は


 二度と成仏は出来なくなりますよ?」


”・・・”


「提督!!」


死神が声を荒げ、


”・・・分かったよ。いくら話しかけても榛名には届かないよね? それは分かっているけど・・・”


提督は立ち上がり、


”でも、最後に伝えたかったなぁ・・・「榛名、今までありがとう」って。”


「提督・・・」


提督の言葉に、死神も顔を逸らす。


”うん、出来ないのは分かってる・・・でも、伝えたかった・・・さぁ行くとするか。”



いくら話しかけても、訴えても榛名には決して届かない・・・


せめて”彼女がこの先幸せに生活出来たら”、と願い成仏することを決心した提督・・・しかし、



「大変です榛名さん!! 鎮守府近海に深海棲艦を確認! 大群です!!」


血相を変えた駆逐艦娘からの報告に、


「!? 分かりました! 直ちに迎撃部隊を編成します!!」


榛名は立ち上がり、


「鎮守府に在住の艦娘たちに艤装の装着をするよう指示します! 装着が完了した艦娘から出撃、


 敵部隊を殲滅してください!!」


そう言って、榛名も出撃のために工廠場へと向かう。


・・・・・・


「こちら迎撃第1部隊! 敵の猛攻が激しい! すぐに援軍を求む!!」


敵の攻撃は苛烈、鎮守府の主力である部隊は苦戦を強いられる、しかも敵の中心には・・・


「!? あれは防空棲姫!!? あんなやつまで来てるなんて!!」


かつて、艦娘たちを恐怖に追いやった防空棲姫までもが近海に出没し、


「くっ! 各個撃破しつつ、防空棲姫に向けて集中砲火を掛けるぞ!!」


主力の旗艦である長門が味方に指示をして行く。



「報告! 敵の中に防空棲姫がいます!!」


「!? そんな。」


報告を聞いて榛名は体を震わせる。


”・・・”



防空棲姫・・・イベント海域で出現するボスで、艦娘なら誰でも知っている。 


多くの艦娘を大破撤退させ、多数の艦載機を墜落させる凶悪な攻撃力と対空性能を持ち合わせる深海棲艦の上位種である。



「・・・防空棲姫を撃破します、私たちに出来る事は敵を殲滅させる! それだけの事です!!」


榛名は皆に指示、”主力部隊と合流し援護せよ!”と。


「提督・・・」


出撃前に榛名は提督の名を呼び、


「榛名を・・・そして皆を、守って!!」


心に叫んで榛名は仲間と一緒に出撃をする。


・・・・・・


鎮守府の艦娘たちが主力部隊と合流し、迎撃を開始する。


駆逐艦~重巡クラスは防空棲姫周辺にいる援護部隊の殲滅、戦艦~空母クラスは防空棲姫に向けて一斉砲火の準備に掛かる。



”あれが、防空棲姫か・・・”


敵の姿を初めて見る提督、防空棲姫は艤装らしき装備に座っている状態で、さも自信たっぷりな表情で艦娘たちを見下している。


「来タンダァ? ・・・ヘェ、来タンダァ・・・アハハ。」


必死に抵抗する艦娘たちをあざ笑うかのように、主砲の砲撃準備を行う防空棲姫。


「!? 防空棲姫からの砲撃が来る! 各員! 回避の準備を!!」


長門が皆に号令を掛けるが、


「遅イワ! 艦娘共ヨ、海二沈ンデシマエ!!」


防空棲姫から多数の砲撃が発射、周辺にいた駆逐艦娘たちの大半が大破に追いやられる。


「アハハハ!! ソウヨ、モット苦シムノ! アハハハ!!!!」


艦娘たちが傷だらけで撤退する様子をさぞ楽しむ防空棲姫。


「!? クッ!」


突然、防空棲姫に砲撃が命中・・・それは榛名からの砲撃だった。


「貴方の相手は私です、さぁ掛かって来なさい!!」


榛名は主砲を構える。


「痛イ・・・私二傷ヲ追ワセテ、タダデ済ムト思ウナァ!!!!」


防空棲姫が榛名に向けて突撃する。


「榛名! 主力部隊全員榛名を援護しろ!!」


長門達も榛名と合流、防空棲姫との激戦が始まる。


・・・・・・


「はぁ・・・はぁ・・・」


激戦の末、榛名を含む長門達は中破に追いやられる。


「ハァ・・・ハァ・・・フフフ。」


対する防空棲姫も、艦娘たちとの戦闘により半壊に追いやられるも、


「ソウヨ、モット! モット楽シミマショウ!! ドチラカガ沈ムマデネ!!!!」


防空棲姫が叫び、残りの砲台を榛名たちに向ける。


「・・・・・・」


榛名は何故かその場から動こうとしない。


「・・・沈ム覚悟ガ出来タ? アハハハ!!」


防空棲姫は迷うことなく榛名に標準を合わせる。


「ココマデヨク頑張ッタワ! デモ惜シカッタワネェ!!」


防空棲姫の砲撃が榛名に降り注ぎ・・・榛名は大破する。


「・・・・・・」


それでも、榛名の表情は変わらない。


「・・・何デ? 何ヨソノ表情?」


榛名はただ防空棲姫を睨んでいる、被弾した直後でもその表情は変わらない。


「・・・?」


防空棲姫は気づく。


「他ノ艦娘共ハ・・・ドコニ?」


榛名に気を取られていて、長門達を見失っていた矢先。


「全門斉射ぁ!!!!」


背後から長門の叫び声がし、防空棲姫は振り返るも、


「ガッ・・ハァッ!!!!」


長門達が放った砲撃が防空棲姫に降りかかる。


「・・・貴方ハ囮? フフ・・・ヤル・・ジャナ・・・イ・・・」


防空棲姫は活動を停止、榛名たちの勝利である。


「報告! 防空棲姫を撃沈! 我らの勝利だ!!」


長門の号令で、艦娘たちの歓喜の声が挙がる。


「残りの敵部隊は僅かだ!! 戦闘続行可能な艦娘は殲滅を続けろ! 負傷した艦娘は鎮守府に帰還するんだ!!」


長門の指示で僅かに残った敵の残存部隊の殲滅に掛かり、大破した艦娘たちは順に鎮守府へと帰還する。


「榛名さん! やりましたね! 後は長門さんたちに任せて私たちは鎮守府に戻りましょう!!」


仲間たちは榛名を担いで、鎮守府へと戻って行く。



”無事でよかった、榛名。”


戦闘の一部始終を見ていた提督。


”・・・不安だったけど、榛名は大丈夫かもな。”


ずっと悲しみに暮れて笑顔を失っていた榛名・・・しかし、戦闘になれば仲間たちと共に全力で戦っている。


”榛名はまだ心の整理が出来ていないだろうけど、いずれは立ち直ってくれる・・・今回の戦闘を見て確信したよ”



”仲間のために戦う” ”提督のために頑張る” それが榛名の信念であり、提督が死んでもその信念は残っている事に気付いた提督。



”安心したよ、じゃあオレはそろそろ行くかな・・・”


そう決意し、その場から消えようとした直後、


「大変です!! 長門さんたちが苦戦しています!! 今すぐに救援をお願いします!!」


残りの敵部隊殲滅に向かった方向から傷だらけの艦娘が1人戻って来る。


「どうしたのですか、その傷は?」


大破であるにも関わらず、榛名は対応する。


「榛名さん!! 敵部隊の中にもう1人、姫がいます!!」


「!!?」



異常事態である・・・防空棲姫をやっとの事で倒した後に新たな上位種が出現したのだ。


「貴方は鎮守府に帰還して! 榛名が長門さんたちと共に迎撃します!!」


そう言って、大破で主砲も半壊したままの状態で榛名は進軍する。


「榛名さん! 無茶です! 戻ってきてください!!」


仲間たちは必死に叫ぶも、榛名は歩を止めなかった。


・・・・・・


「くそっ! よりによってもう1人姫がいたとは・・・」


応戦するも、長門達は中破状態で戦闘を開始している・・・火力が大幅に減っており、敵の攻撃で更に損傷していた。


「・・・死ネ。」


姫の攻撃が容赦なく降り注ぐ。


「くっ!」


長門は間一髪で回避した物の、


「長門さん、報告です! 主力部隊の大半が大破、戦闘続行不能です!!」


今の攻撃で主力の大半がやられてしまった・・・残りは長門を含めて数人しかいない。


「すぐに撤退をしろ、ここは我らが食い止める!!」


長門の指示で、負傷した艦娘たちは撤退を開始・・・残るは長門を含む4人だけ。


「・・・ソノ程度ノ戦力デ、私二勝テルト思ッテイルノカ?」


姫が装填を開始する、


「させるか! 全員斉射!!」


残された火力で応戦するも、小破にすら至らない。


「くそっ、ここまでか・・・」


抵抗を続けて来た長門達にも、撃沈は無理だと悟る。


「諦メタカ? ・・・ソウダ、ソノ顔ガ見タカッタノダ!!」


姫はあざ笑うと、方針を長門達に向けた。


「死ネ、イマイマシイ艦娘共メ!!」


砲撃しようとした・・・その時だった、


「こっちよ!!」


榛名が現れ、砲撃する。


弾は命中し、姫が放った砲撃は長門達をギリギリに逸れる。


「無事ですか、長門さん! それに皆!!」


長門達と合流する榛名。


「ああ、助かった榛名。」


長門は感謝を述べるも、


「・・・榛名、お前は大破しているじゃないか? 何故戻って来たんだ!?」


長門の言葉に、


「長門さん・・・先ほど、防空棲姫に対して行った作戦を、もう一度行いましょう!」


何と榛名は防空棲姫に対して行った囮作戦をまた行おうと案を出す。


「・・・無理だ、火力がほとんど残っていない。 それに誰が囮をするんだ?」


「・・・・・・」


榛名は長門に対して笑顔で接する。


「まさか・・・駄目だ! そんな事をすれば榛名! 間違いなく沈むぞ!!?」


長門の訴えに、


「榛名は大丈夫です、それに全員で沈むよりも・・・1人だけの犠牲なら被害は最小限に抑えられます!!」


榛名は既に轟沈する覚悟でいた。


「駄目だ榛名! それだけは! お前が沈んだら提督に何て言えば・・・」


そこまで言いかけたところで、


「これしか方法はありません、榛名の事は気にせず敵を倒すことに集中してください・・・では、お願いしますね!」


そう言って、榛名は姫の前に1人で立つ。


「榛名ぁ!! くっ!!」


長門は何も言えず、榛名の指示通りに敵の視界から消えていく。


「・・・驚イタ、マサカオ前1人デ私ト戦ウツモリカ?」


姫の前に佇む榛名、しかし、彼女は大破で砲身はほとんど歪み、次弾装填も難しい。


「大人シク撤退シテイレバイイ物を・・・バカナ女ダ。」


そう言って、容赦なく砲撃を榛名に向ける姫。



”榛名、逃げるんだ榛名!!”



その場を見ていた提督は榛名に必死に叫び続ける。



”次の砲撃を受けたら間違いなく沈む!! 榛名まで死ぬ必要は無いんだ・・・早く逃げるんだ・・・榛名ぁ!!”



提督は何度も叫ぶも、霊体である提督の声は榛名には決して届かない。



”どうすればいいんだ・・・一体どうすれば!!”



提督は必死に考える、



”どうすれば榛名を守ってやれる? どうすれば榛名にオレの想いが伝えられる?”



提督は悩み続ける・・・その時、目に映ったのは、



”・・・”



提督が見た物・・・それは、激戦の末、活動を停止した防空棲姫。



”・・・”



提督は何を思ったのか、防空棲姫の前に立つと・・・


”動け、動けぇ!!”


提督は防空棲姫に触れようとするも、霊体である提督に触ることが出来ない。


”動け・・・このままでは榛名が死んでしまう・・・これ以上犠牲が出る必要は無いんだ・・・


 動け・・頼むから動いてくれ!!”



提督が狂ったように防空棲姫に念を入れる・・・そして、



「!? 何だ? 僅かだが、防空棲姫が動いた気がする?」



ほんの僅かな微動・・・提督が念を入れると、防空棲姫が動いたように見える。



提督は再び防空棲姫に念を入れようとした直後、


「提督!! 危険です、今すぐ止めて下さい!!」


死神が突然現れ、


「今すぐ止めてください、このまま続ければ提督の魂はこの敵の中に取り込まれます!!


 そうしたら、提督は二度と成仏が出来ません! それに榛名さんたちだって、復活した防空棲姫に殺されるかもしれませんよ!!」


”・・・”



どうやら防空棲姫は活動を停止しただけで、”死んではいない”。


今は休眠状態に入っていて、海底からの怨念や周囲の地縛霊のエネルギーを取り込んで、生命エネルギーを確保しているらしい。



「防空棲姫が蘇ったら榛名さんたちは挟み撃ちに遭います! 榛名さんたちを沈めてしまってもいいのですか!!」


死神の叫びに、


「もちろん嫌に決まってるだろ・・・でも、このままでは榛名はもう1人の姫に殺されてしまう。」


提督は再び防空棲姫に体を合わせ、


「オレは榛名を助けたい、ただそれだけだ。 こんなやつに取り込まれてたまるか! オレは榛名を、榛名を助けたいんだ!!」


そう言って、提督は防空棲姫に念を入れた。


「!? 提督、やめて下さい!!」


死神が引き止めようとした直後、


「!!?」


提督の姿が消えてなくなり、代わりに防空棲姫が活動を再開した。


「遅かった・・・そんな。」


死神は目の前の事態を見て絶望する。


・・・・・・


「! 報告! 後方から何かが接近中!!」


長門が気づき、視線を向けると、


「あれは・・・防空棲姫!? そんな・・・まだ死んでいなかったのか!?」


もの凄いスピードで、自分たちの場所に駆け付ける防空棲姫。


「くっ、姫が2人・・・最早我らに立ち向かう戦力など・・・」


勝利は最早絶望的・・・長門は戦う気力を失い、諦めかけた・・・その時だった、


「!? 何だ・・・防空棲姫が通り過ぎた?」


防空棲姫は長門達を見ようともせず、前進を続け・・・向かった先は、榛名が対峙しているもう1人の姫だ。


「オオオオッ!!!!」


防空棲姫はもう1人の姫に襲い掛かった。


「何ダ防空棲姫!!? 一体何ノツモリダァ!!!?」


突然の事で混乱する姫、榛名もその光景にただ呆然とする、


「邪魔ダ! ドケ!!」


姫の砲撃が防空棲姫に直撃するも、


「オオオ・・・オアアアアッ!!!!」


怯むどころか、今度は拳で姫に殴りかかる防空棲姫。


「ゴハァッ!! オブッ!!? ヤ、ヤメロォ・・・グフッ!!!!」


姫はただ殴られ続ける。



「ハァ、ハァ、ハァ・・・」


叩きのめされ、虫の息の姫。


「オオオ・・・」


防空棲姫は何を思ったのか、姫を持ち上げ始める。


「ハァ、ハァ・・・ナ、ナニヲスル・・ツモリダ?」


訳が分からず、後ろから掴まれる姫。


「・・・・・・」


防空棲姫は榛名を急に凝視する。


「・・・・・・」


榛名に攻撃を仕掛けるつもりなのだろうか、構える榛名だが、


「オオオ・・アア!!」


防空棲姫は榛名を見た後、何故か自身の胸に腕を押さえるしぐさを何度もする。


「!? あれは、もしかして。」


榛名にはそのしぐさに見覚えがあった。


・・・・・・

・・・



それはまだ、提督がまだ生きていて榛名と休憩時間中に会話をしていた時の事、


「ジェスチャー・・・ですか?」


聞き慣れない言葉を聞いて榛名は首を傾げる。


「ああ、急な事態に声を出せなかったり、声を出せない人が腕を使って気持ちを表すんだ。」


そう言って、提督がジェスチャーの一部を榛名に教えて行く。


「そうなのですね! 確かに覚えて置けば急な事態にすぐ対応が出来ますね!!」


榛名は興味を持ってくれた様子、


「後、このジェスチャーは使う事は無いだろうけど・・・」


そう言って、提督は自分の胸に開いた手を何度も押さえるしぐさをする。


「? それはどんなお気持ちを表しているのですか?」


榛名の問いに、


「”オレに構わず撃て”って意味だよ。まぁ、このジェスチャーを使う事態なんてそもそも無いけどね~。」


そう言っている内に休憩時間が終わり、提督と榛名は執務に戻る。


・・・・・・

・・・



「間違いありません、あれは提督が私に教えてくれたジェスチャー・・・”自分に構わず撃て”と言う意味。」


何故防空棲姫がそのような動作をするのかは分からない、しかし榛名には


「てい・・とく、 !? 提督、まさか提督なのですか!!?」


榛名は防空棲姫に対して「提督」と叫んだ。


「アア・・オアア。」


微かにだが、防空棲姫が笑ったような気がした。


「て、提督・・・」


悟った瞬間、榛名の瞳から大粒の涙が溢れる。


「オオウ・・アアア!!」


再び自身の胸に手をやり、榛名に伝えようとする防空棲姫。


「・・・・・・」


榛名は何かを決意したように、長門達に指示をする。


「各員! 防空棲姫に向けて主砲を構えて!!」


榛名の指示に長門たちも主砲を向ける。


「ヤ、ヤメロォ!!」


防空棲姫に掴まれていた姫が必死に抵抗をし始める。


「離セ防空棲姫!! 離セト言ッテルダロウ!!」


拘束から抜け出そうと抵抗をする姫、


「提督・・・」


榛名はもう一度防空棲姫を見る。


「オオオ・・・アアア。」


防空棲姫は榛名の眼差しに、コクンと頷いたように見える、


「主砲構え・・・全門斉射ぁ!!!!」


榛名の叫びと同時に放たれた主砲が防空棲姫と姫に降り注ぐ。


「バ・・カナ。 我ガ艦娘共・・二負ケル・・・トハ。」


姫は撃沈し、防空棲姫はその場に倒れる。



「提督・・・提督!!」


榛名は防空棲姫に駆け寄る。


「オオオ・・・」


姫と同じ大量の砲撃を受けた防空棲姫・・・最早虫の息である。


「提督・・・」


榛名は泣きながら防空棲姫を抱きしめる。


「・・・・・・」


防空棲姫は榛名の頭に触れる・・・撫でているのか?


「提督?」


榛名は防空棲姫の顔を見る。


「・・・ハ・・ル・ナ・・」


防空棲姫は最後に「榛名」と名前を呼んだ後、静かに息絶えた。


「提督・・・」


榛名は泣き叫び、


「ありがとう・・・榛名と皆を助けてくれて、本当にありがとうございました。」


そう言って、動く事のない防空棲姫を強く抱きしめた。


・・・・・・

・・・



あれから1か月が経過し、


榛名のいる鎮守府に新たな提督が着任した。


「今日からこの鎮守府に着任する者だ、不慣れな事があるだろうけど今日からよろしくな!」


提督は艦娘たちに敬礼をする。


「そして、君がこの鎮守府の秘書艦か? 名前は何だったっけ?」


提督の質問に、


「金剛型戦艦3番艦の榛名です! 提督、今日からよろしくお願いします!!」


榛名は克服したのだろうか、普段と同じ明るく元気な表情で新しい提督を迎える。



「良かったですね、提督。」


鎮守府真上の空中で死神が様子を見ている。


「提督の願いが叶いました・・・榛名さんは元気を取り戻し、見事克服しましたよ。」


死神が手元でさすっている・・・何やら球状の様な物だが。


「後は提督・・・貴方を無事天に送り届けるだけです。」


死神が持っている球状の内部に光る物体がいる。



榛名を守るために防空棲姫を操った提督、それは本当に奇跡以外の何物でもない・・・しかし、その結果、


提督の元となる体は消失し、今は僅かに残っている”提督であった魂の欠片”しか残されていない。



「では、時間です・・・そろそろ行きましょうか、提督。」


死神は立ち上がり、


「榛名さんがこれから先もずっと・・・笑顔でいられますように。」


死神は提督の代わりに願い、そのままこの世界から消えてしまった。










「死んでも君を守りたい」 終










後書き

「提督が何故か皆に無視される」の続編です。


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2019-06-28 21:58:44

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2019-06-24 20:45:49

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1: SS好きの名無しさん 2019-06-24 20:46:25 ID: S:kcZiZY

提督「死んだら君を守れない」

2: SS好きの名無しさん 2020-02-08 01:00:54 ID: S:ljAIpM

死んででも大切な人を守るっていい人だなこの提督さん


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1: SS好きの名無しさん 2019-06-24 20:46:37 ID: S:RycN4q

すごくとてもオススメ!


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