2019-10-21 22:50:23 更新

概要




寂れた鎮守府の提督と艦娘たちの裏の物語


前書きを見てから読んでね



前書き



どうも初めまして、かむかむレモンです。そうでない方は、いつも見てくださりありがとうございます。


今回はイベで溜まりに溜まったストレスと某氏のTwitter絵を見てゲス思考を巡らせまくったSSになります。なのでキャラ崩壊しまくります。


また長くなりそうですが、何卒宜しく御願いします。

登場艦娘については、更新し次第タグに入れておきます。










プロローグ








護送車内…








憲兵(新人)「いやーラッキーすね。ダブった艦娘を引き取る鎮守府なんかあるんすねぇ」


憲兵「ふん、それしか増やす方法が無いからな、あそこは」


新人「へ?どういう…」


憲兵「お前が向かう鎮守府は、少し前に敵から本土強襲され、廃墟同然となった場所だ」チラッ






陽炎「…」







憲兵「まあ、あそこに着任したっていう提督も、お前同様使い捨てだろうがな」フン


新人「え、あそこって、例の?」


憲兵「そうだ。重複した艦娘は普通待機から解体だが、生き延びて使命が全うできると有難く思うんだな」


陽炎「…」


憲兵「それにお前は運がいい、解体される前に食い物にされずに済んだからな。その幸運、どこまで続くかな」ククク


新人「え、その噂マジだったんすか?」


憲兵「さて、どうかな…着いたぞ」ガチャ


新人「はぇ~すっごいボロボロ…」


陽炎「…どうも」スタスタ


憲兵「待て待て、錠を外すぞ」


陽炎「要らない」バキッ


新人「ファッ!?」


陽炎「生まれたてとはいえ、艦娘を舐めない事ね」ポイ


壊れた手錠「あーもうめちゃくちゃだよ」


憲兵「提督となる奴は既に来ている。探しておけ。ただし、逃げようと思わんことだな」


陽炎「…」スタスタ


憲兵「…よし、帰るぞ。後は知らん」


新人「おかのした」









陽炎「…ったく、襲撃されてから何も片付けて無いみたいね。これじゃ探すどころじゃないわ」


陽炎「…っと、あれは人影?ちょっと!あんたが…ってうわぁぁ!?」シュルルル


陽炎「ちょ、何これロープ!?罠!?は、離してよ!誰か!」ジタバタ







「何だ、ガキか」スタスタ







陽炎「あ、あんた!ちょっと助けてよ!切れないんだけど!」


「…ん?お前、艦娘か。という事は…」


陽炎「んぇ?」


「…失礼したな。下ろすぞ」シュルシュル


陽炎「え、ええ…って、何なのよこれ!それとあんた誰!」


「俺か?俺はここの提督を任された者だ。お前は?」


陽炎「か、陽炎!陽炎型駆逐艦一番艦の陽炎よ!」


提督「…一番艦でもカブったらポイか」


陽炎「な、何でそれを…」


提督「…まあいい、陽炎って言ったな。悪いがお喋りする時間は無い。早速仕事に取り掛かるぞ」


陽炎「へ?あ、そうね。撤去作業ね」


提督「何言ってんだ。そんなん業者に任せりゃいいんだよ」


陽炎「業者って…そうだろうけど、こんな有様だと費用は…」


提督「だから今から稼ぐんだよ」


陽炎「へ?」


提督「今時まともに稼ぐなんて馬鹿らしい。副業の一つや二つ持ってたってバレなきゃ構いやしねぇ。そっちのが手っ取り早いだろ」


陽炎「??」


提督「…お前は今回は見学だ。次はお前にも実践させるからな。着いてこい」ヨイショ


陽炎「な、何それ」


提督「商売道具だ。お前も持て」


陽炎「っ!こ、これって…」


提督「落とすなよ」スタスタ


陽炎「ちょ、待ってよ!」






***







陽炎「ず、随分歩いたけど、ここどこ?」


提督「…よし、時刻通り」カチャカチャ


陽炎(や、やっぱり、狙撃銃!しかも手慣れてる…)


提督「…ばーん」パシュッ


陽炎「…」


提督「…依頼完了。残りの金も明日中に」ピッ


陽炎「あ、あんた…」


提督「終わりだ。帰るぞ」ガサガサ


陽炎「…殺ったの?」フルフル


提督「ん?そうだが?」


陽炎「…何で、こんなこと…」


提督「…だから言ったろ、これが稼ぎだ」


陽炎「っ…」


提督「ちょうどいい。ここでハッキリさせようか。こっから先は裏の世界だ。お前はまだ片足突っ込んだとこだが、まだ後戻りできる」


陽炎「…」


提督「このまま先に進むなら、次の依頼は俺同伴だがお前にやらせる。一人前になるまでは補助してやる」


陽炎「…嫌と言ったら?」


提督「絶対に口外しない事を条件に、大本営に送り返す。もし破ったら…わかるな?」


陽炎「…あんた一人で何が出来るのよ」


提督「何でも出来る。俺なら」ギョロ


陽炎「っ!」ビクッ


提督「決めな」


陽炎「…あんたの名前、まだ聞いてなかった」


提督「名前…名前か。忘れちまったよ」


陽炎「…どういう事よ」


提督「ずっと使わねぇと忘れちまうもんだ。だから好きに呼べばいい。俺はそれを名とする」


陽炎「…それじゃ、一応あんたは鎮守府の司令だから、司令にする。本名もわかんないなら、役職でいいでしょ」


提督「…司令は初めてだな。いや、そんなものか」


陽炎「そんなものよ」


提督「…さ、帰るぞ。金が入ったら業者呼んどけ」スタスタ











こうして、解体待ちの私は生き延び、司令と出会った。



私にとっては刺激が強すぎた日だったけど、何より覚えてるのは…



司令の瞳は、底知れぬ闇を喰らって生きているように見えた。











その名も裏稼業鎮守府







私は生まれながらに要らないものとして扱われた。困惑する暇すら与えられず、待機として大本営に送られた。



私以外にも同じ境遇らしい艦娘が艦種問わず居た。皆落胆の色を隠せないが、まだ希望に縋りつける気力は残っているようだった。



だが現実は残酷だった。憲兵に呼ばれ、一人ずつ待機部屋から出ていく。解体されるのだ。



解体を告げられた艦娘は心が折れたのか、全てを諦めたのか、妙にスッキリしたような表情をしながら出ていった。



勿論そんな強い子だけじゃなかった。泣き叫び、ごねる子も居た。見てるこちらも泣きそうになった。



しかし、それとは別の異質な叫びがあった。憲兵からの耳打ちを聞いてから、狂ったように逃げ出す艦娘が居た。恐らく、あの憲兵が言ってた慰安目的だろう。



彼女の悲鳴は死への恐怖ではなく、陵辱への恐怖、そして拒絶を含んでいた。今もその声は忘れられない。



ごく稀に、引き取る鎮守府が見つかる艦娘が居るらしい。例外なく涙を流し、その鎮守府と司令に忠誠を誓うようだ。その後どうなるかはそこの司令次第だが、悪く扱われない事を願うばかりだ。



入れ替わるように艦娘が出入りする待機部屋。それはこの世の闇にも思えたが…私は生きて逃げ出せた。しかし、逃げ出した先もまた、闇の世界だった。



まだ一度も砲弾を撃ったことの無い私を後目に、彼は軽く引き金を引き、人の命を奪った。躊躇いも無く殺す姿は、極めて異質ながらも、人の本質、司令の生き様を見たかのようだった。



でも、今思えば見知らぬ男共に食い物にされるよりも、ただ死を待つだけよりもマシだったと思う。生きているだけで儲け物、その後の生き方は私が決めるものだ、と。





あれから、私は司令と共に『依頼』を遂行した。依頼は殆ど殺しだった。どの人間も邪魔な人間は居なくなって欲しいようだが、ここまで極端な例ばかり見ていると感覚が麻痺してしまうらしい。



その内、私は単独で依頼をこなせるようになっていった。司令からすればまだ半人前だろうけど、司令から教わった基本的な技術を覚え、痕跡を残さないヒットマンとして育っていった。



何の皮肉か、練度に見合わない命中精度も手に入れた。深海棲艦も見方を変えれば命ある者たち。艦娘はそれを殺すだけ。やってる事はあまり変わりなかった。



依頼で貯まった金、依頼で支払われる金を見ていくうちに、標的となる者が金に見える時がある。スコープを覗くと、悪意を向けられた人間の価値として見えるようになった。



司令もどうやら同じらしい。その能力を駆使して、依頼の選別をしているようだ。もう気にもしない様子から、狂っていることも忘れてしまっているみたいだ。無論私も似たようなものだけど。



誰しも一度は特定の人に殺意、もしくはそれに近いものを向けるだろう。だがそれを自分でやる度胸も無ければ、力もない。だからこそ司令のような、狂った人間に手を出させるのだ。



表の社会では経歴に傷を付かせたくないのだろうが、私には依頼主が臆病に見えてしまった。司令があの時言った言葉が今だから判る気がする。



一人で何が出来る、と疑問に思っていたが、一人だからこそ何でも出来る、と思うようになった。ここまで力を付けたからこそ、司令はそう思ってたんだろう。







そんな日々を送り続けて数ヶ月、外面だけは寂れたままの鎮守府だが、艦娘は増えていった。業者に頼んで瓦礫は撤去してもらったし、口止め料という名のチップで業者には色々と世話になった。



司令は時折大本営に向かう。その時に引き取る艦娘を選別し、連れてくるようになった。どうやら、自分と同じ波長?を直感で感じ取るらしい。



私の時もそうらしく、待機部屋に向かう途中で私を見たとの事。私は全く気づかなかった。と言うかその時からそんな気があったのか私は…



そんなこんなで、司令ははぐれ者となった艦娘たちも裏の仕事を教え込むようになった。連れて来られた艦娘は司令の選別通り、拒むことは無かった。



二人でやってた時よりかはかなりスムーズになったけど、それでも依頼は絶えない。金には困らないが、足がつかないように質素な生活を心掛けている。



司令もそれを皆に耳にタコができるくらい言ってる。多分バレても今なら何とか対処出来ると思うけどね。



…ま、そんな感じでこの私、陽炎は昼は艦娘として、夜は裏の世界の住人として生きている。その私と他の艦娘を率いる司令、そんな闇の集団の潜む鎮守府を、私だけ『裏稼業鎮守府』と心で呼ぶようになった。











***








提督「…」パチッ


陽炎「司令、朝よ」


提督「分かってる。昨日はご苦労だった。金は」


陽炎「確認したわ。過不足無しよ」


提督「よし、そんじゃ提督業開始っと…」ヨイショ


陽炎「…今日の当番は司令だから」


提督「そうだっけ…いや、そうだ。待ってな」






昨晩も依頼を遂行した。ターゲットは大企業の幹部で、機密情報をマスコミに漏らそうとした所を始末した。



正義感の強かった幹部が会社に消されるというありがちな話だった。ただクビにしても機密をバラしてしまえば会社が炎上してしまう。その為の口封じらしい。



死体も速やかに回収、処分し、会社の用意したシナリオ通りになったわけだ。



世間からしたら私のやった事は悪だろうが、私たちにとっては商売。顧客の要望に応え、対価を受け取っただけ。







提督「…はー全員分作んのめんどくせぇ」ブツブツ


陽炎「給糧艦雇えばいいのよ」ペラペラ


提督「あいつらみんな『綺麗』だから合わねぇよ」


陽炎「…ま、そうよね」ペラッ







初雪「司令官、ご飯」ガチャ


提督「その前に」


初雪「お得意さんから2、一見さんから8」


提督「増えてんな…」


初雪「身元はご飯の後にやるから」


提督「あーわかったから、勝手に取ってけ」


初雪「…どっから漏れてんだか」モグモグ






この子は初雪。主に情報処理や諜報を担当してる。最初に任された依頼は確か…大手検索エンジンのクラッキングだったかな?



入った金はPC関連に注ぎ込み、最近はゲームにも手を出してるみたい。暇つぶしに付き合ったけど手際がヤバいの一言に尽きるわ。



依頼の選別や顧客管理も任されているけど、ここ最近顧客認定していない『一見さん』が僅かだが増えてきている。初雪に限って漏洩はしないだろうけど…






提督「そういやスパコン発注したいらしいな?」


初雪「うん。望月も言ってる」


提督「どこ置くんだよ。冷却装置は?」


初雪「地下」


提督「まーた業者に頼むんか。あんまりやると憲兵どもにバレるぞ」


初雪「…司令官、今なら憲兵買収出来るんじゃないの」


提督「できるがそんなんで金使いたくねぇよ」


初雪「…じゃ、いい。いつか自作する」


陽炎「あんたね…」


初雪「あたしなら、出来る」


陽炎「作ってもいいけど全部自分の金にしてよね」


初雪「借りないし」


提督「そっちの話は定時迎えてからにしろ」








潮「いいじゃないですか。誰に聞かれてる訳でもありませんし」スッ


提督「飯なら取ってけ」


潮「頂きます」


初雪「…これ、潮用の依頼の詳細」ペラッ


潮「はい、了解」







この子は潮。担当は主に私たちと同じ暗殺。私たちと違って彼女専用の窓口が存在する。そして、たまに一人で出歩いては通り魔をする問題児。



こうなった原因は例の慰安によるものだ。潮の場合は特に反応や豊満な身体が災いして、嫌な話だが飢えた輩には人気らしい。吐き気を催す程の行為をされてきたとの事。



好き放題犯され、嬲られ、解体される寸前に、司令に拾われた。潮は極度の男性恐怖症になっていたが、その恐怖を憎悪に変え、解消する方法を徹底的に教え込まれた。



お陰で潮は男性恐怖症を事実上克服する事ができた。だがその湧き上がる衝動を制御する術を彼女は習得し切れていない。



ちなみに潮用の依頼とは、調査した上で男有責に限る性犯罪者の抹殺である。時折女の人が性犯罪を犯す場合があるが、こちらは尽くスルーしている。通り魔も男性のみを狙っている。



潮の手口はどれも巧妙かつ残忍だが…まあこれは別の話ね。私も正直引くレベルだから。








潮「わざわざ調べてくれてありがとうございます」ニヤァ


初雪「暇だったし」


潮「…最近は報酬に期待出来なくなりましたね」ペラッ


初雪「万札すら出し渋るのは論外」


潮「そういう時はね、初雪ちゃん。ターゲットの中身を売ればいいの」


初雪「足着かない?」


潮「大丈夫!」エヘヘ


陽炎「あんま派手にやらないでね」


潮「大丈夫!バレても皆殺しにするから!」ニヘラ


提督「血の気が多くてこの先安泰だなっと」モグモグ


潮「あ、提督も解体してみます?案外面白いですよ?」


提督「正直専門外というか、肌に合わなかったんだよな。疲れるし汚れるし」


潮「残念です…」








…潮は、『自分にされた事を返してるだけ』と言っているが、その言葉だけで壮絶な体験をしてきたと容易に想像出来る。しかし人間は艦娘と違って高速修復剤を浴びせられても直ちに元通りにならない。膜も復活しない。



故に、潮にとって司令との出会いは運命的だと思った。拾われるタイミングも、その時だったからこそと思った。






提督「おい、『仕事』の話は後だ。俺はまた大本営行くから、後は任せたぞ」スタスタ


陽炎「はーい、いつも通りね」


初雪「ん…」フリフリ


潮「…フフッ」ユラッ


陽炎「おーっと潮ちゃん?」ガシッ


潮「…はい」






…全く、朝っぱらから通り魔なんてさせられないわ。






***






大本営






提督「…」チラッ


提督A「おいおい、またゴミ漁りか?」ニヤニヤ


提督「…」チラッ


提督A「いやー『ガラクタ山』は建造出来ねぇって聞いてるが、まだ修復できてねぇのか?貧乏くんは大変だねぇ」


提督「…」チラツ


提督A「ククク、何も言えないか。汚らわしい寄せ集めはとっととおうちに帰んな」スタスタ


提督「…」チラッ






憲兵「また来たか」


提督「ああ」


憲兵「他の提督と仲良くやったようだが、話は弾んだか?」


提督「誰か居たのか?」


憲兵「…ふふ、さて、今日は居るのか?」


提督「…あいつ、艦種は」スッ


憲兵「戦艦だな。あいつなら…そうだな、お前からは随分と貰ってるからサービスだ」手のひら広げ


提督「5か。随分と良心的だな」バサッ


憲兵「おっとっと、軽く払いやがるなぁ。こんな額、俺の年収分なのにな」


提督「俺にとっちゃ端金だ。つか今までの『小遣い』併せれば辞めたって生きていけるぞ」


憲兵「…ま、こっちにも世間体ってもんがある」


提督「そうか。艦娘の引き取りはしばらく休む」


憲兵「引き取りたくなったらいつでも来な。金さえ払えばまた俺が手配しといてやる」


提督「じゃあな」


憲兵「…ふむ、今日はカミさんに外食でも誘ってやるか」






憲兵「…戦艦榛名、立て」


榛名「…はい」


憲兵「お前の引き取り手が見つかった」









***








初雪「一見さんの特定どう?」カタカタ


望月「んー、このお得意さんから漏れた感じか」カタカタ


初雪「やっぱそうかー」カチ


望月「漏らしたであろう奴も正直お得意さんって程金くれないけどね」カタカタ


初雪「切っていいかな」


望月「いいんじゃない?漏らしたら基本切るって言ってたし」


初雪「始末は?」


望月「やりたそうな子に」


初雪「あいよ」


望月「…あたしは一見さんでも金次第ならやっていいと思うけどね」カチ


初雪「…司令官に言ってみれば」


望月「今送った」


初雪「…寝よ」






陽炎「ちょっと待ちなさい、初雪は今から訓練。それと望月は掃除」


初雪「あたし実行部隊じゃないから訓練必要無くない…?」トボトボ


望月「この部屋の掃除って言ったらダメ。散らかってるように見えて整ってるから」


陽炎「そのスナック袋も?」


望月「へい…」ガサガサ


陽炎「…それで、一見さんはわかった?」


望月「殆どね。でも一人だけ上手く隠してたね」


陽炎「…」


望月「依頼なら隠れる必要無いし、ネズミかな」


陽炎「…分かり次第連絡して」スタスタ


望月「へーい」ガサガサ







この鎮守府に依頼を出す方法は当然ながらかなり特殊だ。まずスタート地点は常に海軍のホームページからだが、当然依頼窓口なんてポンと置いてあるはずがない。



司令はそのページに特定の暗号を散りばめ、それを解読できた者のみ次のページに進め、また開いたページにも暗号が隠されている。それを繰り返していくと、提督への依頼窓口に繋がる仕組みだ。



オンラインでの窓口はバレやすいと思ったけど、まず暗号自体がどこに潜んでるかすら分からず、普通の人間ならわからないという。



仮に運悪く見つかったとしても、ミス無く解読出来ないと最初のホームページに戻されるという仕組みだった。



そんな中、ごくたまにハッカーが運良く辿り着いたとしても、毎度暗号は変えられていく仕組みらしい。ここまでしなくても電話でいいと思ったが、盗聴されやすいとの事で却下されていた。



依頼人が情報を漏らす事は禁忌で、破れば知らぬ間に世界から消える事になる。いつも司令が言ってるが、舐められてるのか、それとも…






「お悩みですか?」


陽炎「…青葉さん」


青葉「やだなぁ、青葉は後から来たんですから呼び捨てでいいんですよ」


陽炎「…なんかそんな気分じゃなくてね」


青葉「例の漏洩ですか?そういうのは青葉にお任せ!」スッ


陽炎「あっ、今は…ってもう居ない」ヤレヤレ







青葉…担当は主に諜報だけど、時折始末も請け負っている。望月も担当は諜報だけど、青葉の場合は実際に現場に向かっている。望月はドローンやパソコンからの追跡が主だ。



…職務時間に勝手に抜け出すのは考え物だが、最低でも何か手掛かりだけは掴んでくる。普段は獲物も仕留めてくるけど。







「元気あっていいじゃないですかー」


陽炎「…那珂さん」


那珂「那珂ちゃん、でいいって」


陽炎「…いえ」


那珂「訓練終わったから、早めのオフ頂きまーす」


陽炎「…まだ外出しないで下さいね。せめて司令が戻るまで」


那珂「了解~」







那珂さん…初めて連れて来られた軽巡。ぶっちぎりでかぶりやすいらしく、私も何度か見てきた。



この人は運良く司令に拾われた那珂さん。皆は那珂さんを軽く見すぎているが、この人のポテンシャルは司令も驚く程だ。



そんな那珂さんの担当は戦闘。どちらかと言うと那珂さんは暗殺のようにコソコソ殺すのではなく、派手に殺る仕事が多い。依頼主は裏社会組織の幹部かボスばかりで、助太刀して欲しいとの事。



艦隊のアイドルを自負してるが、ムードメーカーなことに変わりなく、他の鎮守府と同じ雰囲気を醸し出してくれている。お陰で変に怪しまれてはいないが、夜は『解体のアイドル』となるらしい。だから潮と仲が良かったりする。



たまーに海外遠征する時があるが、これは専ら…いや、これは後にしよう。








鳳翔「うふふ、私も訓練終わりましたよ」


陽炎「鳳翔さんも?」


鳳翔「夜が楽しみで仕方ないんですよ…」ゾクゾク


陽炎「あー…」


鳳翔「…ね、見てくださいよ。震えが止まらないんですよ」フルフル


陽炎「…」


鳳翔「早く暴れたい…そう身体が叫んでるんです。早くあの子と一緒に行きたいです」


陽炎「夜まで抑えててくださいね。多分司令ももうすぐ戻ると思うんで」


鳳翔「了解です…」







鳳翔さん…最初は暗殺担当だったけど、最近はもう戦闘ばかり担当している。空母が夜に暴れ回ると聞くと変な話ではあるけど。



鳳翔さんもまた那珂さんと同じく、軽く見られて捨てられた艦娘だった。そこを司令に拾われ、私たちのようにこの世界へ足を踏み入れた。



空母は私たちよりも目が良く、中でも小柄な鳳翔さんは重宝された。そしてある時、大規模な戦闘を承った時、自分の持てる力全てを解放した感覚が忘れられず、やみつきになったらしい。



…後処理が大変だけど、実力は確かだ。普段とのギャップにいつも驚かされるけどね。







陽炎「…ほんと、血の気が多いわ」


提督「そうだな」


陽炎「…今戻ったの?」


提督「ああ。新入りが来る。今日の依頼に同行させろ」


陽炎「了解」






新入りかぁ。また教える日々が始まるのね。








***







榛名「せ、戦艦榛名、着任しました…」


陽炎「戦艦が待機させられてたの?」


提督「ああ」


榛名「あ、あの!精一杯頑張ります!」フルフル


提督「…成程、こういうパターンだったか」ボソッ


榛名「あ、あの…」


提督「はいはいはい、そんな固く無くて大丈夫。我が鎮守府はボロいながらもみんなフレンドリーだから」


榛名「り、了解です!」ビシッ


提督「…まあもう夜だし、『通常業務』は明日から。我が鎮守府はここからメイン。つーわけで、陽炎」


陽炎「はいはい。それじゃ着いてきて」


榛名「は、はい!」


提督「俺はクライアントと内容確認しに行ってくる」






まさか戦艦を連れてくるとは思ってなかった。まあ司令が見つけてきたんだし、仲間入りは決定か。



どの担当にさせようかな。戦艦だから戦闘がいいかな。実際依頼をさせてからかな。ちょっと楽しみに感じてる私も私ね。







陽炎「初雪、今日の依頼は?」


初雪「これ。調査書をよく見といてね。期限は今日の0:00まで」


陽炎「了解」


榛名「あ、あの、初めまして!本日着任しました、戦艦榛名です!よろしくお願いします!」


初雪「」キ-ン


望月「イヤホン越しでも凄い声量だわ…」


陽炎「…今から行くとこは極力音を出さないようにね」


榛名「ハ、ハイ」ボソッ






…いつもと代わり映えの無い依頼だ。目障りな幹部の始末、どこも現状維持に必死って事ね。



それだけ依頼主が何かやらかしてるんだろうけど、金を持つほど傲慢になるものか。






榛名「」


陽炎「…別に息止めてまで静かにならなくていいからね」


榛名「は、はい」プハ-


陽炎(…ちょっとおかしいわね、この人)








***







某所にて…








提督「本日はお越しいただきありがとうございます」


「たまにはこういうスリルを味わっておかないと退屈だからな。気にしちゃいないさ」


提督「…では、海軍中将殿。依頼内容を確認しておきます」


中将「ああ」


提督「…海軍大将Aの抹殺、で宜しいですね?」


中将「そうだ」


提督「了解。殺し方に指定はありますか?」カキカキ


中将「…そういえば、大将Aの息子も提督だったはず。その息子の前で大将Aを殺してやれ」


提督「了解」カキカキ


中将「自分が死ぬ時は決して家族の前でなく、戦場だと言っていたが、それでは家族も悲しかろう。私なりの気遣いだ」ククク


提督「…他に何か指定はありますか」


中将「特に無い」


提督「了解。ではいつもの事ですが、注意事項です。まず身辺調査、行動調査の為に少なくとも一週間掛けます。依頼遂行日は前日に連絡します」


中将「ああ」


提督「今回の前金で2000万円、遂行後に2000万円となります。尚、ターゲット殺害後に連絡するので、連絡後12時間以内に指定の口座に納金を」


中将(やはり今回は少しばかり値が張るか。まあ払えなくはないがな)ゴトッ


提督「…はい、確かに2000万円確認しました。もし失敗した場合は、いつも通り前金の二倍支払います」


中将「そんな事はないと思っているよ。それでは」ガタッ


提督(…家族の前で殺す、か)








***







提督「2000万は安くし過ぎたかなぁ」ブツブツ


陽炎「…戻ったのね」


提督「ああ。商談は成立だ。青葉はどこだ」


陽炎「戻ってない」


青葉「戻ってますよぉ」ヒョッコリ


陽炎「いつの間に…」


青葉「残念ながら尻尾すら掴めませんでした。何か周到という感じでしたねぇ」


提督「何の話をしてる」


青葉「一見さんの特定してたんですけど、殆どはお得意さんからの漏洩だったんですが、一件だけ誰も関わってない何者かからのでして…」


提督「…今は泳がせとけ。それよりもお前は調査だ。これは前金」ゴトッ


青葉「りょーかいです!」






陽炎「…ちょっといいかしら」


提督「何だ」


陽炎「今日連れてきた榛名って人、何なのよ」


提督「何かあったのか」


陽炎「あいつ、見学のつもりだったのにめちゃくちゃ殺りたそうにしてた」


提督「ふむ」


陽炎「だから試しに二人目やらせてみたら、ノータイムで殺ったわ。鼻歌なんかも歌ってね」


提督「ふむ」


陽炎「適正あるにしても少し異常だわ」


提督「…疑い、躊躇うことを知らず、か」ククク


陽炎「は?」


提督「わかった。俺もあいつから話を聞く。他は」


陽炎「潮はいつものでまだ。鳳翔さんと赤城さんは海外遠征。他はいる」


提督「よし。報酬は」


陽炎「過不足無し。即入金して来たわ」


提督「わかった」


陽炎「…」








***






数十分前







陽炎『…あんた、中々やるわね』


榛名『そうですか?褒めて頂いて、榛名、光栄です!』


陽炎『…ところで、引き金引く時、迷いとかなかったの?』


榛名『迷い?何故ですか?』


陽炎『何故って…』


榛名『これがこの鎮守府のお仕事なのでしょう?それなら、榛名はそれを全うするだけじゃないですか』


陽炎『…』


榛名『何より、解体される所を救ってくれた提督がやってる事ならば、榛名はそれに従うだけです』


陽炎『…そ』


榛名『もし気分を害されたなら申し訳ありません』


陽炎『いえ、そうじゃなくて、これなら他の依頼も大丈夫かなってね』


榛名『そ、そうですか!』


陽炎『じゃ、帰りましょ』


榛名『了解です!』


陽炎『入金確認っと…』ピッ


榛名『…』ボソッ







***






『嘘つき』





私が確認している間、榛名さんはそう呟いた。私の誤魔化しは見破られていたみたいだった。



私とて初めて人を殺した時は少しばかり躊躇したが、それが全く無い事に多少の嫌悪感を感じた。それが普通だと思っていたから。



でも、皆が皆、私と同じ感性を持つ訳じゃない。艦娘の性なのか、それとも生まれ持った『それ』に、まだ気付いていないだけなのかはわからない。



司令がどう話を付けてくれるかは分からないが、少なくとも暴走だけはさせないようにしてくれる事を願う。














巨悪









視点が低い…ガキの頃か?周りは大きな黒い人影ばかりだ。



人影から手が伸びる。無理やりじゃない。優しく手を引いてくれている。ふと振り向くと、二人の人影が立ち尽くしている。



小さな手に冷たい筒を持たされた。覗き込もうとするとやめさせられる。肩に止め、人影に向かわされる。指に力を入れると、大きな衝撃に耐えられず転んでしまった。



筒から煙が出て、人影に小さな穴が空いている。人影が俺の肩を持ち、こう言った。『これが仕事だ』と。



人影のどこかに穴が空くと、視点が徐々に高くなり、紙切れを沢山貰った。いつしか、視点は見慣れた高さになっていた。時には自分の手で人影を刺し、絞め、ねじ伏せた。



そして、気付いたらどこか懐かしい雰囲気の建物の中にいた。歩き回ると、人影を見つけた。



何か話しかけてるのか、訴えかけているのか分からないが…その先は…








***








提督「…っ!」パチッ


潮「アハッ」ビュッ!


提督「潮か」ガシッ


潮「…あ、おはようございます」グググ


提督「仕事帰りか」ポタッ


潮「…あ、そうです。ごめんなさい、また…」パッ


提督「仕事帰りはハイになりやすいからな。俺もそういう時があった」イテテ


潮「手当てしますね」


提督「必要無い。得物の手入れをしていればいい」


潮「…はい」


提督(…ようやく目が正気に戻ったか、寝起きにはちとキツいぜ)フキフキ








「ねぇ、そろそろちゃんとした寝室で寝たら?」ユラッ


提督「…おはよう、五十鈴」


五十鈴「おはよう」


提督「…俺はこっちのが休まる」


五十鈴「座って片膝立てて手に得物握ってないと?随分ユニークね」


提督「ふふ、ずっとこれだと、ベッドで寝る方が恐ろしく思っちまう」


五十鈴「…そ。ならこれ以上は何も言わないわ。でもいつか本当に殺られても同情出来ないわよ」


提督「死なんよ」


五十鈴「ふふん、なら頑張るのね」






五十鈴…待機部屋で他より練度が高かった艦娘で、元の主をかなり憎んでいたっけな。俺も初めのうちはかなり手を焼いたな。



だがその憂さ晴らしをさせたら思いの外優秀だったな。故に五十鈴のターゲットは主に海軍関係者…中でも提督が多い。今回の依頼も五十鈴に任せようか…?






五十鈴「何?依頼?」ペラ


提督「どうだ」


五十鈴「…別段屑みたいな事はしてないようだし、これじゃ気が乗らないわ。悪いけどやらせるなら他にして」


提督「そうか」


五十鈴「依頼主の中将…名前分かる?」


提督「悪いが守秘義務だ」


五十鈴「…ああ、そうだ。私からも依頼を出していいかしら?」


提督「は?」


五十鈴「報酬払えばどんな依頼でも受けてくれるんでしょ?」


提督「…内容を聞こうか」









***









青葉「調査報告書です~」バサッ


提督「ご苦労」


青葉「依頼人から遂行の催促はありましたか?」


提督「一回だけな。俺は『少なくとも』と言ったんだが、頼む側はどうも自分の都合の良いように記憶を書き換えちまう」ペラッ


青葉「調査する側になって欲しいものですよ」


提督「…とりあえず、実行日は決まった」パタン


青葉「りょーかいです。それでは」








…どいつもこいつも都合の良いように話を変えやがる。それが汚れ仕事になればなるほど、人は本性を表す。同じように見えて、質の違う悪意が。



力を持っていると勘違いした人間がそうなりやすい。だが上に立つ者はそういった輩が多い現実。



皆が思い描くような正義感を持って上に立とうとする奴は、どいつもこいつもろくな最期を迎えちゃいない。そいつらを消してるのは結果的に俺らなんだがな。



反吐が出る話だが、最早これが世界の均衡を保つ手段と分かると笑えてくる。誰も綺麗な世界なんざ実現させたくねぇのさ。



悪意無しに人の世は成り立たない。この世界に身を投じてから、常々思い知らされる。








提督「…初雪、望月。例のやつは」ピッ


初雪『出来てる』


望月『誰が見てもバレないと思うよ~』


提督「ご苦労」


初雪『…前送ったあれ、どうする?』


提督「…一応見ておいた。初めてでも面談するなら、俺以外にもやらないと依頼が溜まる一方になる」


初雪『…私たちじゃダメかな』


提督「艦娘である事、女であることがバレないようにする必要がある。自力で調達するならお前たちに一任する」


望月『りょーかい』


提督「ただ相手は見極めろ。金払いだけで選ぶと痛い目を見るぞ」


初雪『…やっぱ司令官も一回目を通して』


提督「出来る時と出来ない時がある。俺無しでもやれるように場数を踏め」ブツッ








陽炎「一見さん解禁、か」


提督「…お前か」


陽炎「鳳翔さんと赤城さん戻ってきたよ」


提督「わかった」







鳳翔「戻りました」


提督「ご苦労」


赤城「報酬も滞りなく」瞳孔全開


提督「おい」指パチン


赤城「あっ…あは、すいません、余韻に浸ってました」


提督「持たせた武装は」


陽炎「しまっておいた。またかなり無茶したように見えるけど」


提督「おいおい、メンテすんの俺なんだぞ」


赤城「こ、壊してはいないかと」アセアセ


提督「前そう言ってボロボロだったじゃねぇか。壊れてたら報酬から天引きな」スタスタ


赤城「あぅぅ…」シュン








***








提督「…やっぱり壊れてるじゃないか」


赤城「す、すいません」


提督「こりゃもう総とっかえした方が早い。発注しとけ」パラッ


赤城「あの、どのぐらい…」


提督「…今回は報酬から半分だな!」


赤城「そんなぁ!」


提督「やかましい!特注の装備だぞ!調整も全部俺がやってんだからな!」


赤城「せ、せめてもう少し…」


提督「お前今回の仕事で億貰ってんだからそんぐらい我慢しろ!」


赤城「(´・ω・`)」ショボ-ン







赤城…昔はこんな表情を出すことは無かったがここまで変わるとはな。だが俺のお古とは言え貸した武装を壊すのは相変わらずだ。



今回の依頼は海外のマフィアからだ。あっちは深海棲艦の騒ぎに乗じて縄張り争いしまくってるから依頼がよく来る。



泥沼化を避けるために代理戦争をさせるつもりだったらしいが、お相手は最新鋭の兵器をふんだんに揃えて、依頼人側はうちの鳳翔と赤城だからなぁ…



赤城は拾ってきた時からおかしな奴だと気付いていた。雰囲気は榛名と似たような感じだったかな。あいつほど表情が豊かじゃなかったが。



苛烈な戦場に好んで向かう戦闘マシーンみたいな奴だ。戦争を起こしたがる連中からしたら喉から手が出る程の逸材だろう。ストッパーとして鳳翔と組ませてるが、最近はそれも怪しい。








提督「…まあ、壊しちまったもんは仕方ない。次はすぐ壊すなよ」


赤城「はい…」


提督「直に日が暮れる。俺は準備するからお前は上がれ」


赤城「了解です…」









…赤城が落ち込んでるのは俺に叱られたからじゃない。新たな武装ができるまで依頼がお預けになる事に気を落としているんだ。



こいつは前の職場から自ら解体を望んで待機部屋に移った訳だが、その理由が『退屈だったから』だったな。ただの欲求不満で、自分を捨てる選択をするおかしな奴だった。



だから初めてあった時、全てのものに興味を示さず、表情が無かったのだ。それが人間同士の小さな戦争に放り込んでみたら、思いの外どハマりしちまったようだが。



本人曰く、『悪意の質が段違い』と言ってはしゃいでいるが、俺は深海棲艦と戦ってねぇから分からんが、どうやら人間の方がタチが悪いらしい。



こいつは戦闘欲さえ満たせれば普通の艦娘と変わりない。満たせればの話だけどな…幸い『遊び場』と『遊び相手』はまだある。こう見りゃガキとあまり変わらん。



…俺がガキの頃も、こんな感じで遊んでいたか?もう思い出すのすら難しい。




…あれ?そもそもガキの頃の記憶が…







***








夜になり、仕事が始まる。全身を黒に染め、夜の闇に溶け込み、標的へと歩を進める。



ここ最近は艦娘の指導で同伴していたので一人は久しぶりだ。持たせていた得物も久々で少し重く感じるか?



…今日のターゲットは大将A。中将からの依頼だったが、今思えばもう少し高くしとけばよかった。



名実共に優れ、定例会での発言力は元帥に次いで高い。また、艦娘からの評判も頗る良い。軍人の鑑のような人間を始末して欲しいと企むとは、中将もだいぶイカれてる。



大将Aは週に一度、必ず家族と過ごす日を設けている。それが、今日という事だ。







提督「目標地点、到達…風向き良し」コトッ








風向、風力共に問題無し。殺すにはうってつけの日だ。大将Aからしたら最悪だろうがな。



スコープから覗く大将Aの家族団欒は、軍人とは思えないほど朗らかで、家族の理想とも言えるだろう。



だが…俺にはそんな光景を見ても、揺さぶられる良心など存在しない。既に得物は組み立て終わった。後は、狙いを定め、仕留めるだけ。








提督「…~♪」鼻歌







いつからか、人を殺すときに鼻歌を歌うようになった。鼻歌の旋律はとても穏やかで、安らぎを覚える。



いつ、どこで聞いたのか分からない、ずっと昔の記憶からの贈り物だろうか。それとも、せめて死後は安らかにあれという俺の心遣いだろうか。







提督「…」






『やめてくれ!』『何でこんな事するの!』『助けて!』『私は何もしてない!』『俺は悪くない!』








…また、フラッシュバックだ。殺された者たちの無念が俺に付きまとうように、殺す直前に立ちはだかる。



まあ…それも、引き金を引くと同時に消え去るんだがな。







提督「…ばーん」パシュッ!









大将A「はは、それじゃそろそろ風呂にで…も…?」ブシャッ


提督A「はっ!?血!?」


大将A妻「あ、あなた!?」


大将A「な、何が…」バタッ


提督A「そんな…親父!」










提督「…依頼完了、速やかに入金を」ピッ


中将『おお、やってくれたか!待ちくたびれたぞ!』


提督「…」


中将『ああ、今入金に向かわせた。ご苦労』


提督「それでは…」ブツッ








…要望通り、家族の目の前で殺した。金が振り込まれ次第、次に移るが…






『入金確認』


提督「…良し、早いな。やっていいぞ」


『了解』ブツッ










中将「く、くく…これで遂に私が大将の席に…クハハハ!」


五十鈴「…失礼します」


中将「ん?ああお前か。何の用だ?」


五十鈴「実は、お願いがありまして…」スタスタ


中将「あ?」


五十鈴「あんたを皆が呼んでるから、来て欲しいんだって」


中将「??」


五十鈴「地獄にね」ユラッ


中将「…はっ!?」


五十鈴「捕まえた♪」グイッ


中将「なっ、お、お前は何だ!?」


五十鈴「…さ、ゆっくり眠りなさい」ドゴッ


中将「がふっ…」


五十鈴「…捕獲。今からそっち行く」ピッ














提督『ああ。お前の依頼を遂行しようか』ブツッ










今日は一人だけじゃない。本当の夜はここからだ。









***










中将「んぁ…」パチッ


五十鈴「目を覚ましたわね」


中将「い、五十鈴!ここは…な、何だこれは」ガタガタ


五十鈴「見てわからない?拘束されてんのよ」


中将「どういうつもりだ」


五十鈴「…そろそろ始めようかしら。まず『家畜』に言葉は要らないわ」スッ


中将「な、それは…」ピクッ


五十鈴「何で家畜が喋ってるの?話さないで頂戴」カチンカチン


中将「そ、それは…まさか…」









五十鈴『喋るなと言ったろうが家畜の分際でぇ!』ガチン









中将「うがぁぁぁ!!!」


五十鈴「あら、似合ってるじゃないその鼻輪。まるで牛ね」クスクス


中将「いで…」


五十鈴「あ、そうそう。家畜って私の知ってる限りじゃ四足歩行ね」カチッ


中将「ぐえっ!」バタン


五十鈴「さ、家畜らしく歩き回ってみなさい」カチッ


中将「こ、このアマぁ…あ!?」ググググ


五十鈴「どう?勝手に四つん這いの姿勢になっていくでしょ。五十鈴の提督が調整して作ってくれた矯正器なのよ」フフン


中将「ひ、膝が!膝が折れる!」ググググ


五十鈴「…喋るなって言ってんの、わからないかしら。あ、家畜だから分からないか」ポチッ


中将「いぎゃぁぁぁぁぁあああ!!!!」ボキッ


五十鈴「うんうん、そうよね。確か脚も四足歩行だとこんな感じよね」


中将「」ブクブク


五十鈴「…ほら、起きなさいよ。家畜なら主の為に働くのよ」ビリビリ


中将「ギャッ!?」ビク-ン


五十鈴「全く、これなら本物の家畜の方が有能だわ」


中将(立ち上がろうにも折れた膝が痛む!体重を掛けたら痛む!何だこれは!)ズキズキ


五十鈴「さ、それじゃまずは家畜転身記念に五十鈴の提督にご挨拶しないと」


中将(だ、誰なんだ…)










提督「…みっともない姿になりましたね、中将」


中将「そ、その声…まさか!」


提督「ええ。要望通り大将Aを家族の前で始末した私ですよ」


中将「き、貴様ぁ!私をハメたのか!」


提督「いえ?まさか。貴方が運悪くターゲットになってしまっただけです。彼女の依頼でね」


五十鈴「ま、その為に調査期間増やさせたんだけどね」


中将「うぎぎ…」ズキズキ


提督「…貴方がターゲットとなった理由、お分かりですよね?」


中将「は、はぁ!?知るか!それよりこれを…」


五十鈴「…あ、そっか。何人の『五十鈴』を始末したかわからないか」


中将「っ!?」


五十鈴「私も何人目かは知らないけど、元はあんたの鎮守府に居たのよ」


提督「…改装による持参品を剥奪した上、便器にして壊れたら解体。それを長年繰り返してきたらしいですね?」


中将「し、知らん…!」ビクビク


提督「…だそうだが、五十鈴?」


五十鈴「…残念だけど、全て事実。その調査資料はまだ氷山の一角だけど」


提督「…ふむ。殺されるだけの条件は整えてあるわけですね、中将」


中将「だから知らんと言ってるだろう!」


五十鈴「…そう。なら、鼻に着けた輪も、家畜扱いの言葉も五十鈴の勘違い?」


中将「っ…」


五十鈴「…ふざけんな!全てお前がやってきた事だ!今更何とぼけてんのよ!」


中将「ぅ…」


五十鈴「この鼻輪も!家畜が喋るなとか!お前が『五十鈴』にも、他の艦娘にもしてきた事だ!何が『牧場』だ!五十鈴は家畜じゃない!」


中将「そ、そうだ…お前!私はお前に金を払っただろ!だから助けろ!依頼人の言う事は絶対なんだろ!?」ズキズキ


提督「申し訳ございませんが、貴方の依頼を遂行し、入金確認が済んでいるのでその関係は解消されています」


中将「な、何!?お、お前に何度も金をやっただろ!得意先だぞ!」


提督「申し訳ございませんが、報酬さえ払えば私は誰の依頼でも受ける所存ですので。それが例え、あなたにとって『家畜』と見える者たちでも」


中将「そ、そんな…」


五十鈴「…話は済んだ?それじゃ、家畜に戻った貰うわ」


中将「なっ…」


五十鈴「さーて、何からやろうかしら」ワクワク


中将「…悪魔め」







提督「…何?」クルッ


中将「こ、この悪魔め!金さえあれば心も捨てるのか!」


提督「…悪魔、か」スタスタ


中将「わ、私が憎いなら一思いに殺せばいいだろう!こんな苦痛を味わわせる為に馬鹿げた機械まで付けやがって!」


提督「…俺、いつもクライアントのリクエスト聞いてたよな?それを叶えてるだけ」


中将「だからって…こんな…」


提督「お前も大概だ。大将Aの時は家族の前で殺せだっけ?他は…確か人の形を留めさせるなとか結構リクエストしてたよな?自分が危なくなりゃ棚上げかい?」


中将「うぐっ…」


提督「…初めっから、俺は悪魔になる道しか無かっただけだ。尤も…」


中将「…?」


提督「今ではそのお陰で標的の断末魔が心地よい子守唄になってるがな」クルッ


五十鈴「…」


提督「五十鈴、今回は社割という事で残りの金は半分でいいぞ」スタスタ


五十鈴「…じゃ、始めましょうか」


中将「い、いやだ、やめて…」


五十鈴「家畜としての生活の始まりよ」ガチャン












***








五十鈴「あんたの家畜としての記念すべき最初の仕事は掃除よ」


中将「うぐぐ…」


五十鈴「雑巾がけが4足でも出来ていいものね。早くやりなさい」ベチョ


中将「く、クソ…」ズルズル


五十鈴「ちんたらやってんじゃないわよ。5分でこの廊下終わらせなさい」


中将「くっ…」ズルズル


五十鈴(それまで遊んでよ)スマホ出し


中将(う、動きたくない!膝が…痛すぎる!ダメだ、力が入らない…)


五十鈴「~♪」トトトト


中将「うぎぎ…」


五十鈴「…とっとと終わらせてくれない?亀みたいにちんたらやらないでよ」チラ


中将「んなっ!?」


五十鈴「何を驚いてるの?あんたよく言ってたじゃない。隅っこにある小さな埃一つで酷いことされてたっけ」


中将「うぐっ…」


五十鈴「さっさとやりなさいよ。埃一つ落ちてたらもっと痛い目見せるから」ギロッ


中将「くっ…」ズルズル


五十鈴「もうすぐ5分経つんだけど」


中将「む、無理だ!」


五十鈴「…あんたそろそろ気付かないの?五十鈴が言ってることにやらせてる事、全部五十鈴にやった事よ。それとこれからやる事もね」


中将「な、何故今更…全て終わった事だ!むしろアレがあったからこそ私の鎮守府は発展したんだ!お前らは必要な犠牲だったんだよ!」


五十鈴「…百歩譲って、装備を取るだけならまだしも、肉便器にする必要あったの?」


中将「最後に女としての価値と快楽をくれてやったんだ!感謝して欲しいぐらいだ!」


五十鈴「…そ。ならもう遠慮無しでいいって事ね」グシャ


中将「うぁぁぁあ!!!」ズキズキ


五十鈴「五十鈴はね、他の『五十鈴』たちの思いを受け継いだあの子たちの最後の希望なのよ。恨み、苦しみ、悲しみを全て五十鈴に乗せて、死んでいったの」グリグリ


中将「ぁああぁああァあぁぁぁあアア!!!」


五十鈴「家畜としても使えないのなら、いっそ五十鈴を楽しませてから死になさいよ。あんたが『五十鈴』たちや他の子たちを嘲笑ってたように!」ブチッ


中将「ギャッ!!!」


足首「」ゴトッ


五十鈴「早く歩きなさい。言うこと聞けば、楽に死なせてあげるかもね」フフッ


中将「」ビクッビクッ


五十鈴「…見てんでしょ、潮」


潮「…うふ」チラッ


五十鈴「このゴミが死んだらいくらでもバラしていいわ。それまで待ってて」


潮「…はい」ウズウズ


五十鈴「早く起きなさい」バキッ


中将「うぎゃっ!!」


五十鈴「チッ、鈍臭いわね」ガシッ


中将「ぁぁぁ…」ズルズル


五十鈴「最期に命乞いの時間でもあげるわ」ポイ


中将「ゆ…許して…くれ…」ビクッビクッ


五十鈴「…皮肉なものね。『五十鈴』たちが一番言ってた言葉か」鉞持ち


中将「こ、殺して…」ズキズキ


五十鈴「…『五十鈴』たちが待ってるのよ。早くしろってね」ヨイショ


中将「んぁ…な、なんだ…」


五十鈴「全く、大して面白くもなかったし、玩具にもならないなんて、存在価値無かったわね、あんた」振りかぶり


中将「ひぁ…」


五十鈴「地獄に堕ちて永遠に苦しみなさい」ジャキン!


中将「がっ…」


五十鈴「…」ウエムキ











提督「終わったか」


五十鈴「…ええ。終わったわ」


提督「そうか。ご苦労」


五十鈴「…みんな、やっと終わったわ」


提督「鉞とはまた古風だな」


五十鈴「…たまにはいいものよ。飛び道具ばっかりじゃなくて、こういうのも」


提督「はいはい」ズルズル


五十鈴「潮!もう良いわよ!」


潮「はーい」ウキウキ


提督「お前の事だから、もう少しいたぶるのかと思っていた」


五十鈴「…あいつ、頭が死を選んだみたいで続けても意味なさそうだったのよ。現に反応もそれっぽくて興醒めだったし」


提督「ふーん」


五十鈴「ま、多少スッキリしたからいいけど」











提督「それで…お前は目的を果たしたな。これからどうする」


五十鈴「どうって?」


提督「まだここにいるか?それとも記憶を消して、自由に生きるか?」


五十鈴「バカね。そんなの決まってるじゃない。まだ殺し足りないわ」


提督「そうか」


五十鈴「五十鈴の巨悪は消えたけど、まだ全部片付いたわけじゃない。ゴミ掃除は始まったばかりよ!」


提督「ふむ、仕事熱心な事で」


五十鈴「…そういえば、提督はどうするのよ。まだ裏稼業続けるの?」


提督「何を言ってるんだ?」


五十鈴「もう島いくつか買えるぐらい貯まってるんでしょ?まだ稼ぐの?」


提督「そうだな」


五十鈴「…そう。ま、死ぬ前に使い切るぐらいしなさいよね」


提督「…どうかな」ボソッ

















潮「~♪」グチャッグチャッ


肉塊「」










***








翌日








憲兵隊長「失礼する」ガチャ


提督「はい」


憲兵隊長「昨晩、大将Aが殺害された。それはもう知っているな?」


提督「大本営から通達があったし、ニュースにもなってますね」


憲兵隊長「それで、我々は貴様ら提督が当時どこで何をしていたかを調べている。協力してくれるな?」


提督「ええ。隅々までどうぞ」


憲兵隊長「よろしい。お前たち!」


憲兵たち『はっ!』ドタドタ


提督(昨日の今日で、わざわざ同じ海軍関係者からか。上同士のいざこざは当然あるみたいだな)


憲兵「監視カメラの記録は」


提督「案内させます。初雪」


初雪「ん…」


憲兵「個室も全て調べ上げるぞ」


提督「どうぞ。お前たち、構わないよな?」


艦娘『はい』


憲兵隊長「…随分潔いな」ジロッ


提督「我々としても身の潔白が証明できるなら協力致しますよ」


憲兵隊長「…ふん」


陽炎(司令、大丈夫なんでしょうね)ボソッ


提督(問題無い)


陽炎(もしバレたら?)


提督(少なくとも資料関係は別のアジトに移してある。初雪と望月のPCは移してないが、まあ見つかりはしない)









憲兵「隊長、怪しい物は特に見当たりません」


憲兵隊長「ふむ…」


提督「…どうでしたか?」


憲兵隊長「…まあ、いいだろう。協力感謝する」


提督「ご苦労様です」


憲兵隊長「…行くぞ」


憲兵『はっ』ゾロゾロ







提督「…行ったか?」


陽炎「ええ」


提督「よし、もういいぞ」


艦娘『はー!』タメイキ


提督「仕事は早いが、もの探しは下手くそだな」ククク


陽炎「あんたの敬語、気持ち悪いわね」


潮(血の匂い…勘づかれなくてよかった)ホッ


榛名「あら?お客さん帰ったんですか?」


陽炎「…そういえばあんた、どこに居たの?あんただけ執務室に居なかったし」


榛名「自室で読書してました!」


提督「憲兵が来ただろう」


榛名「はい。でも見回るだけでした」


提督「…クク、そうか」


潮「あ、もしかして貸していた本ですか?」


榛名「はい!」


陽炎「何を読んでたのよ」


榛名「えっと、解剖学の本ですね」スッ


陽炎「…そのドス黒いのって」


潮「それ、その教本見ながらバラしてた時のですね」


提督「…もう一人居ないが?」


陽炎「…あの子はまだ寝てるわよ」


提督「そうか。それならいい」


榛名「提督、そろそろ榛名も『お仕事』がしたいです!」


提督「…お前は隠密がなってないから暫くは戦闘だ。鳳翔、赤城、お前たちに任せる」


鳳翔「了解です」


赤城「はい」


提督「那珂と五十鈴、次の暗殺はお前たちに任せる」


那珂「暗殺かぁ…ま、頑張りまーす」


五十鈴「了解」


提督「初雪と望月は面談を続けろ」


初雪「ん」


望月「りょーかい」


提督「陽炎は…そうだな、あいつを起こしてこい」


陽炎「仕事は?」


提督「非番だ」


陽炎「はいはい了解」


提督「…それじゃ、夜まで通常業務」スタスタ








…あれから、各鎮守府に査察が入り、行方不明になった中将が疑われる事になったが、奴はもうこの世に居ない。



残された艦娘の状況を把握している途中、複数の同一艦娘の監禁が暴露し、中将のしていた悪事が芋づる式に発見されていった。これにより、中将の築いてきた表向きの信頼は地に堕ち、更に嫌疑を掛けられた。



本格的に指名手配をした大本営だったが、当然だが中将は見つからない。事実上中将の陰謀という事で本件は収まりそうだが、空いた大将Aの席を巡ってまた一悶着あるようだが、俺の知ったことでは無い。



…大将Aの死亡により、海軍は大きな打撃を受けた。確保した制海権の引き継ぎに多数の鎮守府が追われている。艦娘たちもかなり悲しんでいるようだった。



俺にとっては金が全てだ。やはりたった4000万で始末する人材では無かったと後悔した。残りの小銭稼ぎは潮に任せるか。そうでもしないと割に合わん。



俺もまだまだ未熟、ということか。









***







陽炎「…ほら、起きなさい。もう午後よ」


「…」zzZ


陽炎「全く、あんたはずっと寝坊助のままね」


「…」パチッ


陽炎「あ、起きた」


「…」ムクッ


陽炎「司令から起こすよう言われてんだから、早くしてよね」


「…おはよう、陽炎」


陽炎「…おはよう、いやもうそんな時間じゃないわ」













陽炎「暁」


暁「…こんにちは、陽炎」











暁の物語












『暁!早く起きなさい!もう朝よ!』


暁『んぅ…』


『暁ちゃんはお寝坊さんなのです。司令官に怒られますよ?』


『暁、布団に立派な地図が出来てるな。またおねしょかい?』


暁『ふぇっ!?う、うそ!』


『暁はいつもこれで起きるから助かる』


暁『だ、騙したのね!ひ(ノイズ)…』ザザザザ…







名前を呼ぼうとすると、大音量のノイズに掻き消される。だから、名前を思い出せなくなってきた。






『え?なんテ言っタの』


『ホラ、早…朝ご…を…』


『あかつ…急…ス』






名前を呼ぶと、顔が無くなる。のっぺらぼうが、私を見つめる。



のっぺらぼうは、穴だらけ。カタカタと無機質に動き、崩れるように倒れる。



周りは真っ赤っか。髪の毛や金属の破片がちらほら転がってる。




ああ、いつもの夢か。まだ私は夢見てるのか。




そう思うと、現実に引き戻される。今日は…陽炎が起こしに来たみたい。







***








陽炎「…また同じ夢?」


暁「うん」ウトウト


陽炎「…司令に相談したら?」


暁「いい。前よりはマシになったし、苦しい訳じゃないし」


陽炎「…」


暁「名前も顔も思い出せなくなってきたから、慣れてはきてるんじゃない?」


陽炎「あんたはターゲットがねぇ…」


暁「大丈夫、もし同じ子が来ても、容赦しないから」


陽炎「…」







暁…私の次に連れてこられた艦娘。望月と並んでかなり幼い部類に入るけど、精神面は同艦がよく言っていたレディーより更に成熟している。



暁の担当は暗殺のみ。一度戦闘に向かった事があるらしいが、司令は暗殺一筋にさせると言った。まああの緊張感は私にも慣れそうにないし、体力も続きそうにないだろう。






問題は彼女の標的が…艦娘である事。






提督「起きたか」


暁「司令官、ご機嫌ようです」ウトウト


提督「…仕事は暫くなさそうだから、ゆっくりしておけ」


暁「え、そうなの」


提督「ああ。最近人間ばかりだ」


暁「そう…」シュン


陽炎「…」








そして…暁はそれを自ら望んで受けているという事。嫌がったのは一番最初の依頼だけ。








提督「…ま、たまには休め」


暁「ん…了解」トボトボ


陽炎「…」


提督「…陽炎、暁を見とけ」スタスタ


陽炎「…了解」









暁「休みかぁ…」


陽炎「暁」


暁「陽炎?あなたも休み?」


陽炎「そ。たまには外に出ましょ」


暁「ん…わかったわ」








***







暁「…日が登ってると人が多いものね」


陽炎「そりゃそうよ」


暁「…人の顔を見たくないわ」


陽炎「わかる」


暁「とりあえず飲み物が飲みたいわ」


陽炎「ファミレスがあるから行きましょ」


暁「ん…」






暁がすれ違う人の顔を見たがらないのは…恐らく職業病による幻視ね。私も皆の額に穴が空いてるように見えるから。顔だけじゃない、人体の急所だけありもしない血痕が見えてしまう。



休みと決まってる時はとことん休まりたいけど、それすらも許されないのが辛い。







暁「ファミレスなんて久しぶりね」


陽炎「とりあえずドリンクバーでいいよね?」カチッ


暁「いいわ」


店員「いらっしゃいませ~、ご注文どうぞ」ポチポチ


陽炎「ドリンクバー2つ」


店員「かしこまりました~」パタン


暁「ふー、それじゃゆっくりしましょ」


陽炎「はいはい」






人間から見たら私たちはどう見えているんだろう。ただの少女2人か、それとも艦娘と分かっているのか。



その実、表では決して明かせない事を平然とやってのける悪魔の子とは誰も思わないだろう。







暁「ん~、シュワシュワするわ」


陽炎「それがいいのよ」ゴクゴク








ふと見せる、年相応の振る舞い。まだ暁の中に残っている、僅かな子供の心。それは無意識に自分を保つ為の最後の抵抗なのか、艦娘として据え付けられた素振りが出ただけなのか。



そんな姿を見て、少し安心する私がいた。あの出来事の後から、ここまで戻れたんだ、と。暁にとっては、むしろ以前の居場所の方が地獄だったのだろうから。









***









その鎮守府は、実力が全てだった。



その鎮守府は、無力こそ悪だった。



だから、悪には何をしても許された。








下克上を目指す者、そのまま心が折れ、自沈や解体を望む者、そして…逃げ出す者が居た。



暁は、それのどれにもなれなかった。ただ、お荷物とならないように着いていくしか出来なかった。



そんな彼女を待つのは、非情な現実。繰り返される叱責といじめだった。








暁が過酷な日々に耐えられたのは、味方をしてくれた人が居たからだった。その鎮守府の中で、一人だけ暁の心の拠り所となった人がいた。









暁「うぅ…今日も疲れた…」トボトボ


武蔵「おい、駆逐艦」


暁「ひゃ、ひゃい!」


武蔵「しまっておけ」ポイ


暁「うわっ!」ゴトン


加古「おーい駆逐艦、これもね」ポイ


暁「ひゃっ!」ズシン


加古「鈍臭いなぁ」


暁(大口径主砲と中口径主砲をいっぺんなんて無理よ!)


霞「…」チラッ


暁「あ、ちょ、ちょっと、手伝っ…」


霞「!」ビクッ


暁「て…」


霞「」ササッ


暁「あっ…」









響「…何をしてるのかな」


暁「あ、響!ちょっとこれ運ぶの手伝っ…」


響「やだよ。君が上の者に頼まれたんだから、遂行しなきゃね」スタスタ


暁「ひ、響…」グスン


暁「…重い」ガチャガチャ





電「…また荷物持ちですか?それなら業者で間に合ってるのです」


暁「…」ガチャガチャ


電「無視は行けませんね」足掛け


暁「あっ!」ドテッ


電「あらあら、そんな乱暴に下ろすと艤装に傷が付くのです。戦場ではそれが命取りになるのに…」


暁「っ…!」キッ


電「何を睨んでいるのですか?電は間違った事は言ってないのです。未だ荷物持ちをされるような実力しか持ち合わせていない者が悪いのです」


暁「私の方がお姉ちゃんなのに…」


電「ここではそんなこと関係無いのです。全ては実力の有無なのです」








「なら、私が手伝います」


暁「えっ」


電「…神通教官、その必要は無いのです」


神通「ええ、あなたたちは不必要でしょう。ですが私は必要だと判断しました」ヨイショ


暁「あっ、その…」


神通「さ、片付けましょう」スタスタ


暁「は、はい」ガチャガチャ


電「…」ボソッ


神通「…」







神通「ふぅ、重たかったですね」ガチャ


暁「あ、あの、すいません…」


神通「いいんです。こういうのは助け合いですよ」


暁「で、でも…」


神通「…電さんの言っていた事は、全て否定出来ません。今は戦争中、確かに実力がある方が重宝されます」


暁「う…」シュン


神通「ですが、それに付け上がり、力に酔いしれるのは間違っています。正しき力の持ち手は、誇示するのではなく、制御する術を知る者です」


暁「…?」


神通「…えぇと、分かりやすく言うと…」


暁「ち、違うわ!わかってるんだから!」プンスカ


神通「そ、そうですか」


暁「その、神通さんもとっても強いのに、みんなと違ってて、その…」


神通「…褒め言葉として受け取っておきますね」


暁「あ…」


神通「また何か辛い事があったら、出来る限り力になります。それでは」スタスタ


暁「…あ、あの!ありがとうございました!」ペコ









神通「…」


電『そのお人好しが災いしなければいいですね』ボソッ


神通「…災いなど、するものですか」










神通は鎮守府の古株で、軽巡や艦隊内でも随一の実力を持っていた。当然鎮守府内カーストは上位にあり、発言力も強かった。



ただ、他のカースト上位たちと違い、彼女は酷使されているカースト下位の艦娘たちにも分け隔てなく接し、真摯に向き合っていた。その姿に救われ、神通を心の支えとする艦娘が少なからずいたのだ。



だが、それをよく思わない者もいるのが事実、神通も流石に全員をカバーしきれる訳では無く、彼女の目を盗んだ所で、艦娘への虐めは執拗に行われていた。








暁「あうっ…」ドサッ


加賀「何をしているの、認められたいのでしょう?」


暁「何すんのよ!」


島風「あはっ、おっそーい」スカッ


夕立「無様っぽい」


暁「な、何よ、あんたたちなんか…」


加賀「身の程を弁えなさい。弱者は強者に従う事こそ存在価値があるんだから」グリグリ


暁「いたっ!」


島風「同じ駆逐艦とは思えなーい」ピュ-









神通「何してるの!」


加賀「…ふっ、丁度いい。見せてもらいますか、仲良しごっこ」


神通「どいて!」ドッ


加賀「っ…」


神通「暁さん!大丈夫!?」


暁「だ、大丈夫…」


神通「他の子にも同じ事をしましたね」


加賀「…あなたは何故庇うの?」


神通「暁さん、手当てしますから」グイ


暁「ひゃっ、あ、歩けるから!」


加賀「…興醒めね」








神通「…痣だらけですね」


暁「こ、これぐらいへっちゃらよ!」エッヘン


神通(…痣以外にも怪我の痕が…)ギリッ


暁「ふ、ふん!暁も早く神通さんみたいに強くなれれば、あんな…」


神通「…いいですか、そんな事のために私は皆さんを指導してるんじゃないんです」


暁「あ、そ、そうね…」


神通「…でも、時折、私も思います。私の持つ力で、暁さんや他に虐められてる子を脅かす人たちを叩きのめす事が出来たら、どんなに楽か、と」


暁「神通さん…」


神通「でも、そんな事したらこの鎮守府は決定的な亀裂を生んで、戦争どころじゃなくなります。だから、提督に再三申し立ててますけど、改善するどころか、むしろ…」


暁「…あ、あの、神通さん!それなら、暁が強くなったら神通さんを守るわ!それなら大丈夫でしょ?」


神通「…」


暁「今は仕方ないけど、いつかきっと神通さんを守るぐらい強くなるわ!それまで暁を強くして!」


神通「…うふふ、ありがとう」


暁「あ、もちろん他の子たちも守るわ!…できるなら」


神通「そこはもっと自信を持って、ね?」


暁「あぅ…」


神通「…ありがとう、私、少し行ってきます」


暁「え?う、うん」









神通「提督、失礼します」ガチャ


提督B「何だ」カキカキ


武蔵「…ふっ、お山の大将のお出ましか」


神通「提督、以前から申し上げてる艦娘間の差別の改善は、どこまで進展がありましたか?」


提督B「武蔵、取り組んだか?」カキカキ


武蔵「勿論」


提督B「聞いての通り、私が忙しい間に武蔵がしてくれてる。話はそれだけか?」


神通「私は進展を聞いているのです。私から見たら、むしろ後退していますけど」


武蔵「…おやおや、ならどうしろと?是非とも教えて貰いたい」


神通「艦娘の虐め、雑用の強要を止めなさい」


武蔵「…そうか。だが…」


神通「…」


武蔵「誰か一人でもやめて欲しいと願い出た者がいないから、別段気にしていないものかと思っていた」


神通「は?」


武蔵「以降やめろと言われたならやめよう。これでいいか?」


神通「言われてからでなく、今すぐ止めなさい、と言ってるんです」


武蔵「…私がやめた所で、慣れきった環境の変化を嫌う者はやめようとはしないぞ?」


神通「…そうですか、それなら」


武蔵「お前は力を持つ側の癖に、何をそこまで弱者に拘る?私には理解できん」


神通「艦隊内に軋轢を生むより、皆と手を取りあい、協力した方がいいに決まっているでしょう」


提督B「…お前の言う、理想に付き合えと?」


神通「そもそも、提督が皆に言えば済む話だと思うのですが、何故行動なさらないのですか?」


提督B「いいか、俺は忙しいんだ。お前たちは命令される側だからわからんだろうが、作戦の立案や艦隊運用、指揮はお前ら以上に労力が要るんだよ」カキカキ


神通「それは重々承知していますが、声を掛けることすら渋るのはどういう事ですか?それに、武蔵さんに伝えて動かせばいいのでは?」


提督B「…はー、うるせぇな」カタッ


神通「っ!」


提督B「あのさぁ、お前のお飯事に付き合うとろくなことねぇの。仲良しこよしで戦争勝てたら苦労しねぇんだよ!」


提督B「戦争は強い方が勝つんだよ。弱い奴らの微塵にもない奇跡を信じてたらキリがねぇよ。お涙頂戴なんか要らねぇんだよ」


提督B「強けりゃ戦争に勝つし、俺の評価も上がる。それなら強いヤツらを優遇しなきゃ損だろ。弱い連中が強くなるまで気は長くねぇの」


提督B「それに軍じゃ虐めなんか良くあることだ。主力のご機嫌取りできるだけ有難く思えよ!」


神通「…そうですか」


提督B「わかったらとっとと持ち場に戻れ」


神通「ここまで腐ってるとは思いませんでした。それでは」


武蔵「…」








神通「…はぁ」


暁「」コソコソ


神通「…暁さん、バレバレですよ」


暁「ふぇっ!?べ、別に心配なんかしてないんだから!」


神通「まだ何も聞いてませんよ…」


暁「あっ」


神通「…やっぱり、ダメでした。提督自身が直す気が無いみたい」


暁「そ、そう…」


神通「…暁さん」


暁「な、何?」


神通「…この鎮守府から逃げなさい」


暁「に、逃げ…」


神通「私は何度も改善を求めましたが、提督自身が直す気が無いみたいなので、もうこの手しかありません」


暁「…」


神通「ずっとここにいたら、暁さんや他の子はもっと悲惨な目に遭います。恐らく、私にも同様の態度を取るでしょう。あなたたちを守りきれない」


暁「でも、逃げるって言っても…」


神通「心配しないで。私、結構他の鎮守府にも知り合いが多いんです。あの人たちなら、事情を察して受け入れてくれますよ」


暁「…神通さんも行きますよね?」


神通「…その事については、また後で話しましょう。とりあえず、夜に訓練場に来て」スタスタ


暁「は、はい」









その後…











暁(訓練場に来てみたけど…)


霞「…」


皐月「」オロオロ


文月「ねむい…」


暁(…これだけ?)


神通「皆さん、居ますね。これからこっそりとメモに書いてある鎮守府に向かってください。話は通してありますから」


暁(い、いつの間に…)


霞「…あの、神通さん」


神通「はい」


霞「ここにいる子って、皆、そういう事なんですよね」


神通「…はい」


霞「…あなた、暁よね」


暁「え、ええ」


霞「…あの時は、逃げてごめん」ペコ


暁「あ、あの時って?」


霞「…覚えてないならそれでいいわ」


神通「…さ、これを」ペラ


暁(…地図まで用意してくれてた)


神通「…どうか、無事に辿り着いて下さい」


文月「…え?神通さんは?」


神通「…私はここに残らなくてはなりません。まだ他の子がいますから」


文月「そっかぁ…」ウルッ


神通「大丈夫、また会えますよ。それまで寂しいけど、精一杯頑張ってね」ナデ


文月「うぅ」グスン


皐月「…僕、神通さんみたいに強くなるから!」


暁「そ、そうよ!そしたら今度は神通さんを守るわ!」


神通「…うふっ、楽しみにしてますね…それじゃ、もう行く時間です」


霞「…さようなら」


皐月「またね!」


文月「ばいばーい」


暁「…また!」












神通「…ふう」


武蔵「勝手な真似をしてくれたな」


神通「遅かったですね」


武蔵「残念だが、ここまでしたからには…」ガチャン


神通「…望むところですよ」ガチャン











霞「…それじゃ、私はここまでね」ザ-


皐月「元気でね!」


文月「じゃあね~」


暁「ま、またね!」


皐月「僕もそろそろ…って、文月も一緒だったよね」


文月「そうだよ~」


暁「ふぇ!?じゃ、じゃあ暁はここから…?」


皐月「ま、まあ大丈夫!近海だから敵も出ないだろうし…」


暁「こ、怖くなんかないわ!」プンスカ!


文月「あ、暁ちゃん、そんなに振り回すと紙が…」


暁「え?あ、あっ!」ヒラッ


メモ『』ピチャ


暁「あー!」ビチャビチャ


皐月「あらら…インクが滲んで読めないね」


文月「…た、多分暁ちゃんももうすぐだと思うよ。チラって見てたけど…」


暁「ふ、ふん!レディーは地図が無くても行けるわ!」


皐月「…じゃ、気をつけてね」


文月「またね~」







暁「…どうしよう…と、とにかく陸を目指さなきゃ…」ザ-









---









暁「な、何とか上陸したけど…」


暁「…鎮守府はどこ?」キョロキョロ


暁「…というか、ここどこなのよー!」


男「ねぇ君一人?こんな時間に何してんの?」


暁「ひゃっ!?」ビク-ン


男「夜遅くに出歩いちゃダメだよ。お兄さんが交番まで…」


暁「っ…」


男「怪しまなくても…」ジリジリ


暁「い、いやー!」ピュ-


男「あ、おい!逃げんな!」ドタドタ


暁(あ、怪しさ全開!妖精さんも凄く怪しんでる!絶対捕まっちゃダメ!)スタタタ










暁「んぎゃっ!」ドシ-ン


黒コートの男「ん…」


暁「あっ…!ちょ、ちょっと匿って!」ササッ


黒コートの男「…」


男「あ、あんた!その子渡してくれよ!金ならやる!」


黒コートの男「…額は」


男「じ、10万でどうだ!?」


黒コートの男「話にならん。俺を金で靡かせようってんなら最低でもその100倍は出せ」スタスタ


男「ま、待ちやがれ!」ガシッ


黒コートの男「おっと、不用意に触らん方が…」


男「いてぇ!」ザックリ


黒コートの男「…ふん」スタスタ









暁「あ、ありがと」ペコ


黒コートの男「…お前、艦娘か」


暁「え、えぇ。なんでわかったの?」


黒コートの男「…さぁな」


暁「…あら?あなたにも妖精さんが…って事は、司令官なのね!?」


黒コートの男「…」


暁「はーよかった!司令官なら鎮守府があるわよね?連れてって!」


黒コートの男「…他を当たれ」クルッ


暁「ちょ!そ、それじゃあせめて最寄りの鎮守府を…」


黒コートの男「最寄り?ああ、そういやこの近くにあったが、そこはもう閉鎖だ」


暁「えっ!?な、何で!?」


黒コートの男「…お前には関係無い」


暁「お、お願い!司令官の鎮守府に連れてってよ!何がダメなの!?」


黒コートの男「俺のとこに来るってんなら…普通の生活は送れねぇぞ」


暁「そ、それなら…問題無いわ。暁は逃げてきた身だし、普通が何なのかも…」


黒コートの男「…さっきみてぇな人攫いに会いたくなきゃ着いてきな、暁」スタスタ


暁「わ、わかったわ…って、何で名前…」


黒コートの男「自分で言ってたろ…行くぞ」








これが、暁の未来を大きく変える出会いだった。






***








暁「…」ボ-


陽炎「何か頼まないの?」


暁「…え?ああ…何か前の事思い出してて…」


陽炎「何を?」


暁「司令官に出会うまで…かな」


陽炎「…そっか」


暁「あれから…色々あったなぁ」







***








黒コートの男(提督)「…着いたぞ」


暁「ぼ、ボロボロじゃない!」


提督「陽炎、いるか」バサッ


陽炎「…何よ」


提督「新入りだ。腹減ったし飯行くぞ」ゴトン


陽炎「…ふーん」


暁「よ、宜しくお願いするわ!」


提督「さーてどうすっかなぁ…金も入ったし多少奮発するか」


陽炎「私はどこでもいいわ」


提督「着いてきな」


暁「ま、また歩くの?」


提督「嫌なら留守番してな」


暁「い、行くわよ!」







そして…







暁「え、何ここ…」


提督「個室で」


暁(や、焼肉…?焼肉って…凄く高いっていうあれ?)


陽炎「入金は確認済み」


提督「良し」


暁「え、ちょ、ちょっと、お金大丈夫なの?」


提督「お前に心配されるほど貧乏じゃない」


暁「え、だって、鎮守府は…」


提督「あれは敢えて直さないだけだ」


暁「へ?」


提督「…好きなだけ頼め。だが残すなよ」


暁「あ、じゃあこれとこれとこれ!」ピピピ


陽炎「…そろそろ本題に入る?」


提督「そうだな」


暁「わーい!お肉だー!」


提督「焼きながらでいい。まずはお前を歓迎したい所だが…俺のとこは他の鎮守府とはだいぶ違う。メンバーも陽炎のみだ」


陽炎「ええ」


暁「初期艦だけってこと?」


陽炎「…初期艦っていうのは大本営が着任時に予め用意してくれた艦娘の事で、私は引き取られた艦娘。元は解体待ちだったのよ」


暁「え」


陽炎「それで、めでたく再着任して、司令の副業…いや、本業の手伝いしつつ、艦娘もやってる」


暁「ふーん…」


提督「…それで、俺がやってるのは、俗に裏稼業って呼ばれてる。簡単に言えば…人殺して金貰ってる」


暁「へ…」


提督「俺の鎮守府に来たならそれを一人でもやれるよう力を付けてやる。もちろん報酬もな。だが二度とまっさらな生活には戻れなくなる」


陽炎「言っとくけど、私は自分の意思で選んだわ。あなたがどちらを取るかは自由よ」


暁「で、でも、人を殺すって…そんな事…」


提督「許されない?ああそうさ。何も知らねぇ人間はそう思ってる。だがその実、世の中どうだ?このご時世、ニュースには取り上げられてない殺人事件がわんさかある。みんな深海棲艦とかいう奴らに夢中だからさ」


暁「そ、そうよ。司令官なんだからそっちを…」


提督「あのな、そういうのは意識の高い奴らに任せりゃいいんだ。俺らはあの鎮守府で真面目に働いてる素振りを見せれば何も文句は言われねぇ。それだけ俺のとこは期待されてねぇってことだ」


暁「…」


提督「どんなに真面目にやっても最後は悪意のあるやつに食われるのさ。こうやってな」ジュ-


暁「あっ!お肉!」


提督「真面目にやっても評価されねぇ、金も貰えねぇ、そんな理不尽の中生きるには金が要る。金があれば何でもできる、何でも手に入る」モグモグ


暁「…」


提督「金は力だ。だがそれを手にするためには、額に相応しい力が必要となる。俺はその力を与える」


暁「…力?」


提督「そうだ」


暁「…その力があれば、強い人に勝てる?」


提督「…殺しを前提とした技術だ。言うまでもない」モグモグ


暁「…暁、強くなりたい」


提督「…」


暁「強くなって、それで…」


提督「…殺したい奴でもいるのか」


暁「そうじゃないの!守りたいの!私は逃がしてくれたあの人を…」


陽炎「逃がして…?」


暁「…そうなの。暁は虐められてて、それを助けてくれた人に逃がしてもらって、本当は他の鎮守府に行くはずだったけど、司令官に連れてきて貰えて…」グスン


陽炎(…司令、もしかして)ボソッ


提督(ああ、今回のターゲットの帰りに拾った)ボソッ


陽炎(あちゃ~、運が良いのか悪いのか)


暁「あ、暁、強くなって、あの人を救いたいの!それで、今度は暁が守るって決めたの!だから、強くなりたい!」


提督「…そうか」


暁「…人殺しの技術でもいい、あの人を守れるなら!」


提督「…じゃ、俺の方針に従うって事でいいんだな?」


暁「う、うん」


提督「…詳しい事は帰ってからだ。今は飯を食おう」


陽炎「お先~」ヒョイ


暁「ま、まだ食べてないわ!」










その後、暁は提督の鎮守府に所属する事となった。金と信用が絶対である事を教えこまれ、力を得るために提督の訓練を受け続けた。



どんなに辛くても、苦しくても、神通を心の支えとして生き抜き、技術をその身に染み込ませた。殺さない程度に抑え込めば、その技術も守るために使えると思っていたから。



斯くして時は過ぎていき、遂に暁に実戦の時が訪れたが…












提督「…」ペラ


暁「あ、戻ったのね!」


提督「…依頼が来た」


暁「暁の出番?」


提督「…陽炎はしばらく外しているし、お前しか空いてない。俺は同伴するしかないが…」


暁「見せて」パサッ


提督「…そろそろお前の覚悟を改めさせて貰う」


暁「…えっ、こ、これ…」ピタッ


提督「依頼主は海軍関係者、提督B。内容は…」














暁「…神通さんの…抹殺…」








提督「そうだ。決行日は今日だ」


暁「えっ!?」


提督「神通は今日鎮守府の艦娘の殆どと交戦し、一人で鎮守府側の艦娘を凌いだが自身も大破。そして逃亡中という事だ」


暁「ば、場所なんて分かるの?」


提督「交戦中に玉砕覚悟で発信機を取り付けた奴が居たらしい。場所もここに」ピッ


暁「…そんな…神通さん…」


提督「クライアントは早く始末しろと言っている。まあここで蹴ってもまた鎮守府の艦娘が動いてターゲットを殺しに行くぞ」


暁「…どうしても殺すの?」


提督「ああ。俺はあの鎮守府の連中に殺られるぐらいなら、教え子に殺られた方が幸せだと思うがな」


暁「っ!?」


提督「お前と神通の関係も調査済みだ。知らないとでも思ったのか?」


暁「…私、どうすれば…」


提督「だからこの依頼でお前の覚悟を見させて貰う。そういう意味じゃこの件は非常に助かる」


暁「…司令官は、何とも思わないの!?暁にとっては命の恩人なのに!その人を殺すって!」


提督「俺が何とも思わない、だと?」ゾワッ


暁「っ…ご、ごめんなさい…」


提督「…その答えはお前がこれをやり遂げたら言ってやる。どうする、行くのか行かねぇのか」


暁「…」








---








神通「はぁ、はぁ、はぁ…ゲホッ!」ポタポタ


神通(流石に全員は凌ぎきれなかったですね…でもこれで時間稼ぎにはなったはず…)


神通(艤装は…ダメですね、もうまともに動かない。妖精さんもボロボロ…)


神通(ここまで…ですかね)ハァハァ







神通「…あら、もう来ましたか。早いですね」チラッ


神通「見ての通り、私は手負い…もう抵抗する力もありません。どうぞお好きに…」








暁「…神通さん」スッ


神通「…あら?暁さん…でしたか」


暁(ボロボロ…)


神通「…もう一人居ますね?出てきてもらって結構ですよ」


提督「…驚いたな」


神通「偶然にしても、暁さんがこのタイミングで来るとは思えませんし、あの人が寄越したとしか思えません」


提督「ま、それもそうか」


神通「…私を早く始末しろ、とでも言われてるのではないですか?」


提督「ご名答」


神通「なら、仕方ありませんね…ですが、一つだけお願いです。暁さんとお話させて下さい。殺すのはその後でいいですか?」


提督「…ごゆるりと」スッ


暁「こ、これ…」


提督「苦しむぐらいなら、楽にさせてやれ」ボソッ









神通「…暁さん、お元気でしたか?」


暁「…うん」


神通「実はあの後、武蔵さんに襲われましてね、その時も大怪我をしたんですけど、どうにか相討ちにまで持っていけまして…」


暁「…」


神通「…治療中に、暁さんの向かった鎮守府の提督が殺されたと聞きました。何でも、裏で艦娘の人身売買をしていたとあって、私はずっと悔いていました…」


暁「あ、あの、それは…途中でメモを落としちゃって、迷ってるところで攫われそうになって、それで、司令官に庇って貰えて、その…」


神通「…司令官という事は、あの人も鎮守府を…?」ゲホッ


暁「…うん。今の鎮守府は、虐めなんて無いわ。まだ数人しか居ないけど」


神通「そう…まだ一人も手を掛けてはいませんか?」


暁「…はい」


神通「…私が、あなたの最初の一人となるのですね」


暁「…」


神通「…私ももう長くありません。ですが、教え子の門出となるなら、喜んで礎となりましょう」


暁「神通さん…」


神通「…最期に、私からの言葉を手向けとしましょう」


暁「神通さん…!」ギュ


神通「あなたがこの先どのように生きるかを指図しません。あなたの人生はあなたのものです。あなたの提督の方針について行っても、私は何の文句もありません」


神通「私は、あなたがこの先悔いのないように生きて欲しいです。やってる事がとても表に言えないような事でも、暁さんが納得できるのなら…ゲホッ!」ポタポタ


暁「神通さん、もう…」


神通「例え心を闇に染めてしまっても、自分を見失わず、立ち止まらずに進み続けてください。一度踏み出したからには、最後まで…」


暁「…はい」


神通「…未熟な私でしたが、ちゃんと話を聞いてくれる教え子を持って幸せでした」


暁「…はい」








神通「…それでは、暁さん、『それ』を構えて」


暁「…」スチャ