2019-08-22 23:53:00 更新

概要

本SSは親潮「あ、朝潮型艦…訓ひとーつ」の裏側で起こっていたもう1つのお話です。気になる方はそちらもどうぞ
*注意*
このSSにはコメディ要素はほぼ無いです


前書き

*注意*
このSSにはコメディ要素はほぼ無いです

概要にも書いてありますがこのSSは
龍驤「皆幸せwinwinwinやん?」の続編
親潮「あ、朝潮型艦…訓ひとーつ」の裏側
となります

親潮「あ、朝潮型艦…訓ひとーつ」
→龍驤「皆幸せwinwinwinやん?」
→青葉「愉しませて下さいよぉ?」(本SS)
の順で読むのをお薦めします

そこそこ黒い(?)内容、キャラ
となりますので
コメディを読みたい方はブラウザバックを
お願いします
それぞれのSSは単品でいける様に
してますので本SSを見なければ
他SSが分からないと言う様な事も
特にないと思いますので(^^;

それではどうぞ


龍驤

「なんやて?」

青葉

「だから〜、せ・ん・で・ん

 宣伝ですよ」

大淀との協定を結び

数々の準備を忙しなく手回しするさ中

龍驤は青葉に呼び止められていた

青葉

「どんなイベントだって誰も知らなければ

 無いのと同じですからね♪」

手持ちのカメラを玩びながら

隙だらけの姿勢で青葉は言い放った

この青葉と言う艦娘、伝え聞く処に拠れば

ジャーナリストの真似事をしている

只の出歯亀と言う認識であった龍驤だが

事、今回の件を嗅ぎ付けた嗅覚を鑑みると

どうやら認識が甘かったと言わざるを得ない

何故なら今回の件は事が事だけに

龍驤も大淀も情報漏洩にだけは

細心の注意を払っていたのだから

龍驤

「自分、どこでそれ聞いた?」

青葉

「ヤだな〜、記者がソース(情報源)を

 話す訳ないじゃないですか〜」

(ニコニコ

警戒心を緩めてしまうであろう笑顔

物怖じしない気さくな態度

どうやら表情や仕草から青葉を

読み取るのは無理のようだ

龍驤

「チッ…で、ビラ配りでもするんか?」

青葉

「ワオ!流っ石龍驤"さん"〜

 話しが早くて助かります♪」

少々声色を落として言ったのだが…

表面上は変化が見えない

いや…余計に嬉々とした様にさえ見える

例え真似事とは言え聞屋なのだ

気付かない訳は無い

ならば単に図太いだけか…?

青葉

「ビラ配り…いいですよねぇ

 号外とか憧れちゃいます!

 けれど…ネタが無いですねぇ〜」

顎に手を添え考えるポーズを取る青葉

青葉

「何か皆の関心を集める"いいネタ"が

 有ると良いんですがね〜」

大仰にそう言う青葉は、まるで

何かを待つ様に楽し気に龍驤を横目で見る

龍驤

「…有るんやな?」

龍驤がそう問い青葉を睨む

青葉

「有りませんよ〜"今はまだ"」

望んだ答えが聞けた事に気を良くする青葉

だがその言葉はまるで要領を得ない

龍驤

「謎掛けでもやりたいなら他当たり」

イラつきを隠さず、これで話は終わりと

龍驤が通り過ぎようと青葉の脇に出る

その時、青葉がボソリと呟いた

青葉

「"無い"から"創る"んですよ」

(ニヤ

龍驤

「創る?」

龍驤は思わず振り返ってしまう

それを待っていたかの様に

青葉は両手を拡げ

くるりとターンして見せた

青葉

「具体的にはもう"お一方"を

 交えてからにしますが…」

そこで一旦区切ると両手を伸ばしたまま

人懐っこい笑顔で龍驤を見据えて言う

青葉

「青葉、"直接"は何もしません」




大淀

「はぁ…」

龍驤

「まぁ、そう言うこっちゃ

 一応お伺いを…な?」

大淀

「そうですか…ありがとうございます」

ここは執務室

現在この部屋の主、提督は不在である

元々、大本営直属の大淀であったが

異動により本鎮守府へと正式に着任

提督や各部署、隊員とも

初期より交流が有り

事務能力にも秀でていた為

そのまま常任事務艦へと収まっていた

龍驤

「で、どうする?

 呼ぶか?それとも…」

龍驤が大淀に決断を促す

少し考え込む素振りを見せる大淀だが

直ぐに龍驤へと向き直り決定を下した

大淀

「彼女の言う事も一理有ります

 餅は餅屋…とも言いますしね」

龍驤

「なら…」

大淀

「その"お話し"を受けましょう」

(ニコリ

"何時もの"笑顔で大淀が言った

龍驤

「意見する気は更々ないけど

 アイツ…信用していいんか?」

大淀

「ふふふ、貴方がそれを仰いますか?」

珍しく貼り付いた笑顔では無く

大淀の本当の笑顔を見たと龍驤は思った

龍驤

「かぁー、そう言われると悲しくなるなぁ

 ウチら一蓮托生を誓った仲やろ?」

大袈裟に嘆いて見せる龍驤だが

大淀に釘を刺す

大淀

「まあ、そう言う事にしておきます

 でも、元々協力者は探していましたから」

龍驤

「立候補してくれるんなら渡りに舟

 って訳か」

大淀

「そう言う事です

 流石にもう少し人手は欲しいですからね」

龍驤

「まあな、パシリがウチだけやと

 そろそろ限界やで、過労死してしまうわ」

大淀

「まぁ!人聞きの悪い

 あくまで担当する所の違いなだけですよ」

龍驤

「物は言いようや…」

ガチャ

提督

「お、龍驤じゃないか来てたのか」

唐突に扉が開くと部屋の主が戻って来た

龍驤

「お〜、お邪魔してるでぇ〜」

片手をヒラヒラと提督に振る

提督

「お前が執務室(此処)に

 来るなんて珍しいじゃないか

 茶でも飲んで行くか?」

そう言うと備え付けのポットに

手を伸ばす提督であったが

龍驤

「今日はええわ

 用も済んだし、茶しばくんはまた今度な」

龍驤がそれを遮った

提督

「そうか?じゃあまた今度な」

龍驤

「あいよ、ほな大淀ヨロシクな〜」

密談していた等微塵も感じさせない

まま龍驤は執務室を後にした

 



青葉

「どうも〜青葉でっす

 今夜はお招きに預り、恐縮です♪」

時刻は21:30

この時間になると

当直を除いた艦娘は就寝準備に入る為

軍関係の建屋からは人気が引く

そんな人気の無くなった建屋の

とある部屋に3つの人影が在った

大淀

「こんばんは、早速ですが青葉さん

 提案が有るとの事ですが…」

青葉

「ええ、そうなんですよ

 聞いてもらえますか?」

大淀

「勿論、その為に時間を取りましたから」

ニコリと笑う大淀

一見、人の良さそうな人物に見える

だがその実、先程の大淀の発言…

態々時間を割いたのだ

もしつまらない事ならば…

訳を付けるならこうなるのだろう

そしてあの笑顔である

並の頭と度胸であるならば、逃げ出すだろう

そういった重みがあの笑顔には有った

だがそれを向けられた当の青葉は

どこ吹く風と言った様子である

龍驤

「(よっぽどの阿呆か

  もしくは絶対的な自信が有るか…か)」

龍驤が態度から青葉を値踏みしていると

青葉が口を開いた

青葉

「どもども、では説明させて頂きますね」

愛用のカメラから手を離し

やや改まった姿勢で向き直ってくる

青葉

「さて…では大淀さん

 青葉は商売をするに当たって重要な物が

 3つ有ると考えます」

青葉

「1つ目は商品…これは説明するまでも

 有りませんね

 2つ目、人…これも当然…」

説明しながら天井の1点…

本人以外には知りようもない所を

見つめる…が視線を此方に戻すと

真面目な顔で告げた

青葉

「青葉がお2方に売りたいのは3つ目

 すなわち"情報"です」

青葉

「ご存知かと思いますが不肖青葉

 青葉新聞と言う物を発信しております」

青葉

「手前味噌では有りますがそれなりに

 読者は居てくれていると自負しております」

鼻高々と言った様子の青葉に

龍驤が口を挟む

龍驤

「その読者とやらに宣伝する…それだけか?」

つまらなさそうに言う龍驤だが

少し前傾姿勢になった青葉が

人差し指を左右に揺らしながら

諭す様に窘める

青葉

「チッチッチ、龍驤さん

 せっかちは良くないですよぉ〜」

コホンと咳払いの真似をしてみせると

青葉は続けた

青葉

「先程も言った1つ目です

 いくら媒体が有っても

 心を掴む商品が無いと商売にはなりません」

そこ迄言うと

青葉の笑顔が突如 "歪" になった

青葉

「そうです!読者の心を鷲掴みにする

 そんな"センセーショナル"な

 情報(商品)が必要なんですよぉ」

(ニヤァ




大淀との付き合いを始めてから

龍驤には化物に対する免疫が出来たとの

自信が有った、だが

龍驤

「(鎮守府(家)の中に

  まだこんなんが居たなんてな…)」

(ゾクリ

この青葉の笑顔を見た瞬間に走った怖気

龍驤は自分が小さな蛙なのだと

改めて認識させられたのだった

大淀

「簡単にセンセーショナルと仰いますが

 具体案は有るんですか?」

対して大淀には先程から

変わった様子は何も無い

だが、"この"青葉を前に何も変化が"無い"

それはつまり大淀自身の異常性の

証明に他ならない

青葉

「モチロン!それを売りに来たんですから

 いい情報(ネタ)ありますよぉ」

先程から青葉が発する狂気めいた雰囲気

そしてそれを隠す様子も無い青葉

片やそれを気にする素振りすら見せない大淀

龍驤

「(虎どころか龍の口に

  飛び込んでしまったな…)」

龍の名を戴く自分が

名前負けをしていると龍驤は痛感した




大淀

「なるほど…

 "商品"を得る為に"状況"

 を用意しろ…と?」

青葉

「ええ!ええっ!そうです!

 話しが早くて助かります!」

青葉が身を乗り出しながら悦んでいる

青葉が提案したのはこうだ

今現在、鎮守府のお騒がせ隊

すなわち朝潮達である

…が行う朝潮型限定集会に

"ある人物"を送り込む

後はそこで何かしらの騒動が起こり

それを元に開催されるであろう

"反省会"を大々的に喧伝する

龍驤

「非道い自作自演やな…」

青葉

「何を仰いますか龍驤さん!

 こちらはちょ〜っと視察員を派遣する

 ただそれ"だけ"なんですよ?」

青葉

「放った弾がストライクを弾き起こすのか

 はたまた、逸れてガーターに終わるのか

 全てはあの子達"次第"なんですからぁ」

(ニマァ

身振り手振りを交え

まるで指揮者の様に語る青葉

いや、もしこれを実行して

朝潮達が上手く踊ったのならば

青葉は本物の指揮者となる

大淀

「ですが青葉さん、ガーターで終わると

 私達は困るのですよ?」

納得しつつも更に保険を要求する大淀

伊達に長年裏方をやっている訳ではない

青葉

「ふふふ、その辺は抜かりありませんよ

 そもそも"あの子"を送り込む時点で

 ネタは出来上がる訳ですが…」

青葉

「ですが!大淀さんの言う事も

 これまた、ごもっとも…」

そう言うと鞄からタブレット端末を取り出し

ある人物のファイルを開くと大淀に手渡した

青葉

「そこで保険に

 この子を少しばかり調べたんですが…

 どうです?中々面白いでしょう?」

龍驤

「どれどれ、あーコイツかぁ」

大淀

「使命感に生真面目さ、そして強硬さ

 …ですか」

青葉の用意した報告書

そこに書かれた内容を吟味する

なるほど、よく調べ上げている

青葉

「ええ…ええ!そうです!"この子"なら必ず

 "あの子"に目を付ける事でしょう!」




青葉が加入して3日

龍驤は候補者の選別に追われていた

龍驤

「はぁ…確かに自分で探すより

 遥かに手間は省けてるけど

 ホンマにパシリになった気分やわぁ」

両腕を伸ばしながら背伸びをする


出店を出すに当たって必須なのが料理の腕

こればかりは1から調べると骨が折れる

何故なら鎮守府内での飲食で

自炊する事はまず無い

食堂が完備されているのだから当然ではある

必要が無いのだからその腕前を知る者は少ない

只、料理をする艦娘は確かに居る

龍驤とてまるで作らないでは無いが

寮では精々ツマミ程度である


話しが逸れたが

要は逐一聴いて回るとなると

何時終わるか分かった物ではないのだ

だが青葉は事も無気に

このリストを持って来た

青葉

「腕前と性格、後は得意料理の分野を

 リストアップしときましたんで

 採用の方はお願いしますね」

そう言い敬礼する青葉は至って普通であった

龍驤

「うへぇ…結構居るんやなぁ」

(ヒキ

青葉

「まあ、一口に料理と言っても

 ピンキリですから…と、と」

龍驤

「なんや?まだ何かあるの?」

リストに少々ゲンナリとしていた龍驤は

微塵も隠す事なく顔と口に出した

青葉

「それは酷くないですか?

 これでも青葉、お役立ちになる様

 頑張ってるんですよ?」

憤慨気味にそう言い頬を膨らませると

更に別のリストを龍驤に手渡す

龍驤

「これは?」

青葉

「出店に有用そうなデータですよ

 例えば大和さんのラムネ等ですね」

龍驤

「…自分…ホンマに何モンやねん?」

サラっとそう言ってのける青葉に

龍驤は呆気にとられていた

青葉

「ポ○モンではないのは確かですね」

そう言って白い歯を見せて笑う青葉は

天使の様にも見えた


 


矢矧

「出店?」

龍驤

「そそ」

時刻は12:50

11:30〜、12:00〜、12:30〜13:00

30分刻み3交代制の食堂

その最後の組で先程昼食を終え

食後の休憩を取る矢矧に

龍驤が接触していた

矢矧

「なんで私なんですか?」

龍驤

「単純に大和と交渉し易いからやな」

龍驤は大和を落とす為、親交のある矢矧に

交渉を試みていた

矢矧

「…呆れた、なら大和に

 直接交渉すればいいでしょ?」

少し腹立たし気に矢矧は答えた

龍驤

「あ〜、でもなぁ考えてみ?

 大和が売子なんかやると思うか?」

矢矧

「それは…まぁ…確かにそうだけど」

艦の時は秘匿扱い

艦娘となった今は消費資源の節約

2度の艦生(?)において

皆が華々しく戦う様を見やるだけの自身に

徐々に自信を無くしてしまった大和は

今やすっかり引っ込み思案になっていた

周囲は大和のその強力さから避ける

対する大和は自信喪失から

他者との交流を避ける

両者が関わりを持たない様に行動すると

それは悪循環を呼ぶ

前世の経緯から現世で親交のある矢矧は

常々どうにかしたいと胸を痛めていた

龍驤

「でもな?大和のラムネは皆知ってる

 ラムネが人気になれば皆が大和に感じてる

 心理的障壁みたいなモンが

 少しは和らぐかもしれないよ?」

矢矧

「!」

(ピク

矢矧が僅かに反応を示したのを

見逃す龍驤ではなかった

更に餌を追加する

龍驤

「それに大和も自分の作ったモンが

 人気になれば、少しは周りと

 話し易くなるんと違うかな〜?」

頭の後ろで手を組み視線を外す

さも関心の無いかの様に装う

ガツガツ行けば

矢矧の性格上却って警戒され兼ねない

だが、大和を商売に引込むのは

矢矧にも利が有る

そう思わせる事が出来れば…

矢矧

「…分かったわ」

龍驤

「(掛った!)」

だが直ぐに竿は上げない

糸が切れない様に少し弛める

龍驤

「そうか〜?でもまぁ無理せんでええよ

 ラムネならなが…」

矢矧

「駄目よ!」

矢矧の語気に周りが一斉に此方を見やる

龍驤

「あ〜悪い悪いチョッチ怒らせてもうたな

 皆、気にせんといてなぁ」

龍驤が軽いノリでそう周りに説明すると

特に気にする者も無く

各々のお喋りへと戻って行った

矢矧

「ごめんなさい…

 でもその話、他には回さないで」

龍驤を見る矢矧は真剣だった




龍驤

「ラムネはOK…と」

リストに書かれたラムネに○を付ける

龍驤

「しかしあのリスト、怖い位正確やな…

 青葉のヤツどうやって調べたんや?」

先程大和攻略の為に大和をダシにした戦略は

青葉のリストからヒントを得たものだった

多少心が痛むが目的の為には仕方がない

龍驤がそう自身に言い聞かせている時だった

スマホ

〈ジリリリリン…ジリリ…〉

龍驤

「はいはい、こちら龍驤さんやで〜」

大淀

〈どうも大淀です、進捗の方はどうですか?〉

龍驤

「9割方は埋まったからもうチョイ」

大淀

〈そうですか、では1週間後に

 決行でいいですね?〉

龍驤

「おけ、おけ、発注の方はどない?」

大淀

〈青葉さんが一晩でやってくれました〉

龍驤

「はぁっ!?いくら青葉でもそんな…」

大淀

〈冗談ですよ

 一度言ってみたかったんですこのセリフ〉

事務屋のそれを絵に描いた様な

大淀がよもやこの様な冗談を言う等

考えもしなかった龍驤は

まんまとしてやられてしまった

龍驤

「大淀ぉ〜、お前そう言うキャラやったか?」

大淀

〈どうでしょう?私自身変わったとの

 自覚は有りませんが…あなた方から

 少しは影響されてるかもしれませんね〉

龍驤

「そうかい、それだけならもう切るで

 こっちもスパートかけないけないから」

大淀

〈了解です、終わったら報告して下さい〉

スマホ

〈ツー、ツー、ツー、ピッ〉

龍驤

「影響…ねぇ」

同じ魂から生まれた複数の艦娘

その誰もが所属する鎮守府の影響を

少なからず受ける

先の大和が良い例である

資源を気にせずバンバン

出撃する様な所の大和は社交的であったし

逆に此処の大和は

他者との交流から逃げている

龍驤自身、他の鎮守府で見て来た"龍驤"も

自身とは随分と異なっていた

胸はいっs…外見は逸脱していなかったが

コホン…なら此処の大淀や青葉が持つ

異常性はこの鎮守府特有の…

そこ迄思考が及ぶと龍驤は頭を振った

龍驤

「そんな事はどうでもいいわ

 今は目の前の事からコツコツと!や」

リストに印の入っていない項目を埋める為に

龍驤は再度歩き出した




大淀

「失礼します、親潮さん

少し時間いいですか?」

自室で資料の整理をしていた親潮に

今回の"任務"を伝える

内容が内容だけに硬くなっていた様なので

軽い冗談で解してやる

…どうやら受けはイマイチの様だ

任務について説明し

スピーカー入りの峯雲の制服を渡すと

大淀は親潮の部屋を後にした

駆逐艦寮の出入口を出ると

親潮の部屋の方を見る

今は見る事が叶わない親潮に頭を下げる

大淀

「どうかあの子の未来に幸有らん事を」

まるで信じてなどいない神に

そう呟くと大淀は時計を見る

ここ迄は何もかも計画通りであった

偶々龍驤から持ち掛けられた今回の話

少しでも施設の修繕費の足しになれば…と

乗る事にしたのだが果してどうなる事か

大淀

「準備は入念に、行動は手堅く

 後は結果を待つのみ…ですか」

今回、唯一計算で計れないのは

朝潮を編入した隊の帰投時刻だけ

だが作戦行動なのだ

長引く事は日常茶飯事だが

早まる事はまず有り得ない

大淀は統計から一抹の不安を振り切り

自分の仕事へと戻るのだった




青葉

「事前に出来るレイアウトは

 こんな物でしょうかね〜」

自室で号外、つまり今回の宣伝ビラ

と言ってもいい新聞の草案を終える

見出しや内容の殆どは既に決まっている

事件はまだ起こっていないのに…だ

だが青葉にとって現実が面白いのは

予定は未定である事なのだ

自分の想像力を超える何か

青葉はそれを目にしたいのだった

用意したハードルが高ければ高いほど

それが超えられる瞬間

内より湧く悦びは大きさを増す

故に青葉は下調べに手を抜かない

青葉

「さあて…愉しませて下さいよぉ?」

(ニィ

机に置かれた、"ある"艦娘を模した

指人形を指で突っつき倒す

見えない因果律と称されるものに

青葉は不敵にも挑むのだった

超えられるものなら超えてみろ…と




吹雪

「いやぁ、初めて組んだけど

 朝潮ちゃんって凄いね!」

朝潮

「いえ、そんな事は…偶々ですよ」

MVPとなった朝潮が謙遜する

穏やかな海上、心地良い潮風を受けながら

朝潮は今日の戦いを振り返る

今日は身体のキレがとても良い

自身のみならず艦隊の皆もだ

そして…なにより"ツイ"ていた


選んだルートが良かったのか

特に抵抗も無く敵拠点に辿り着き


これまた放った魚雷は各々見事に

狙いがバラけ、更には命中多数


行き帰りの海原は穏やかで晴れ

と、宝くじにでも当たったかの様な

好条件が続きに続き

朝潮達は現在帰路の途上に在った

無論、各々が普段から鍛え上げた

技量があってこそなのだから

偶々と言うだけでは無い

半ば偶然、されど必然と言ったところか

朝潮

「急な配置変更でしたが

 これなら間に合うかもしれない」

吹雪

「朝潮ちゃん何か用事でもあるの?」

朝潮

「はい、今日は皆で会議が有りまして…」

朝潮型だけの会議が今日有る事を

朝潮が伝える

那珂

「そっか、なら

 早めに戻れる様に調整しよっか♪」

話を聞いていたのか

那珂は朝潮達の所までやって来ると

真面目な朝潮には取りえぬ選択肢を

あっさりと提案してきた

朝潮

「那珂さん?そんな!私の為に

 艦隊行動を乱す訳にはいきません!」

有り得ないと朝潮は拒否するが

賛成票は更に増える

深雪

「なーに言ってんだよ、海上にいれば

 いるだけ会敵のリスクは上がるんだぜ?」

深雪

「シュバっとやってシュパっと去る!

 これなんだよなぁ…ウンウン」

深雪が持論を披露し自分で納得する

初雪

「それ…ただ深雪が早く帰りたいだけ」

深雪

「なんだよ、じゃあ初雪はゆ〜っくり

 海の上に居たいってのかよ?」

初雪

「私は布団が恋しいだけ」

それみろと言った顔で初雪に舌を出す深雪

哨戒に出ている訳ではないのだから

目的を終えた今、皆反対する理由は特に無い

那珂

「ふふふ、じゃあ旗艦の那珂ちゃんから

 皆に提案がありまーす!」

那珂

「逸早く鎮守府に帰りたいかー?」

一同     朝潮

「「オー!」」「ォー///」

那珂

「速力上げていけるかー?」

一同     朝潮

「「オー!」」「おー///」

那珂

「よーしっ!皆ー、那珂ちゃんに続けー!」

一同

「「「オー!!」」」

かくして那珂が率いるこの部隊は

記録的な早さで任務を終えた

計算と言う歯車では及ばぬ

運命と言う加速装置(アクセル)が

朝潮を会議に間に合わせてしまうのだった




〜医務室〜


大淀

「親潮さんの容態は?」

(ハアッハァッ

明石

「心配要らないから…

 少し落ち着きなさいって」

親潮が会議室から医務室へ運ばれたとの

知らせを受けた大淀は

慌てて医務室へと駆け込んだ

明石

「なんでも急に失神したらしいのよ…

 精神的なストレスが限界を超えたのね」

大淀

「彼女と…話は出来る?」

明石

「今は落ち着いてるから大丈夫よ」

明石はそう言うと親潮に確認しに行った


親潮

「すいません大淀さん

 任務…失敗してしまいました」

ベッドで力無く笑う親潮は

先日、任務を伝えた時より弱々しかった

大淀

「いえ、無事で良かったです…

 一体何が有ったんですか?」

親潮

「あの…それが…」

親潮は話すのを少し躊躇っていたのだが

真剣な様子の大淀を見て観念したのか

ゆっくりと話始めた

……… 

…… 



大淀

「なるほど…

 危害を加えられた訳ではないんですね」

(ホッ

親潮

「ええ…霞ちゃん達本当に迫力満点で…

 とは言え…お恥ずかしい限りです」

大淀

「…」

親潮

「…」

大淀

「…朝潮型の反省会に参加する…と

 報告を受けましたが?」

親潮

「はい、私の潜入と大潮ちゃん達の悪ノリ

 両成敗らしいです」

(ハハハ

力無く笑う親潮

大淀

「そう…そう言う事なら私が代わりましょう

 今回の責任は全て私に有ります」

罪悪感から身代りを申し出る大淀だったが

頭を振り、親潮はそれを断った

大淀

「何故ですか?

 貴方がそこまでする必要は有りませんよ」

今の弱々しい親潮を見ると

"あの"反省会に親潮が耐えられるのかと

どうしても心配になる

親潮

「そう…なんでしょうけど

 私としても任務失敗のケジメを

 着けたいんです、我侭を言ってすみません

 それに…」

困った様な笑顔で大淀に告げると

親潮は窓の外を見た

親潮

「朝潮ちゃんと約束してしまいましたから」




〜練習場〜


ここは鎮守府にある練習場

その中央にある大きなグラウンド

バリケードで隔絶されたその中央に

3人は居た


龍驤

「ホンマにやんのんか?大淀」

手渡された自分の爆雷を玩びながら

龍驤は大淀に確認した

大淀

「管理責任者としては安全性を確認する

 義務が有りますから」

青葉に爆雷を手渡しながら大淀は答える

言葉にも表情(顔)にも迷いは無い

大淀

「それに…私達は

 一蓮托生を誓った仲でしょう?」

いつぞやの龍驤が使った喩えを用いると

龍驤はしてやられたと言う顔で

自らの額を叩いた

青葉

「いや〜、青葉、誤解してました!

 大淀さんって、案外熱い方なんですね?」

受け取った爆雷を隅々まで確認しながら

青葉が大淀を誂う

大淀

「褒め言葉と受け取っておきます」

龍驤

「まぁ、今回裏で糸引いたんは

 ウチらだから反対は出来ないわ」

特に反対する事の無い両名を見て

大淀が2人に手を伸ばす

龍驤と青葉は無言でその手を取った

青葉

「フヒッ、ミイラ取りがミイラに…流石に

 青葉もこの展開は予想できませんでしたよ」

青葉の自嘲を合図に龍驤と青葉が手を繋ぐ

…3人が輪となった


3人より離れた位置、バリケードの外

綺麗な文字で

[最終安全確認]

と書かれたのぼりが風にたなびくのを

見ながら大淀は始めた


大淀

「安全管理組合心得その壱」

龍驤・青葉

「「そのいーち」」

大淀

「最終確認は自分で!」

龍驤・青葉

「「最終確認は自分で!」」

大淀

「投ー下ー!」

龍驤・青葉

「「投ー下ー!」」

キレイに揃って上がる爆雷が

轟音を上げると3人は白煙に包まれる

立ち込めた煙が次第に晴れてくると

アフロになった3人が煙を吐いた


龍驤・大淀・青葉

「「「悪企みは良くない…」」」

  (バタリ


ひゅー

風が地面に残った煙を運び出す

地面には唯横たわるアフロ姿の3人…

しばらく何の動きも無かったのだが

誰からともなく笑い声が漏れ出してくる

龍驤

「ぷっははは気ぃ済んだか?大淀…ゲホッ」

(ゲホッ

大淀

「ゲホッ…結構キますね?コレ…ふふふ

 ですが…安全性の確認は取れましたゴホッ」

(ゴホッ

青葉

「フヒゲホッ…ヒヒヒ

 "禊"になりますかねぇ?…これ…ゴホッ」

(ゲホッ

地面から空を見上げ、3人は暫し笑っていた




〜エピローグ〜


提督

「大淀、お前イメチェンでもしたのか?」

怪訝な様子で提督は訊ねた

いつもストレートの大淀がその日は何故か

髪全体にパーマをかけていたのである

……… 

…… 



大淀

「ハイ、確かに…」

提督から許可印を貰うと大淀は踵を返す

だが何かを思い出したのか振り返ると

提督に告げた

大淀

「そうそう、今度の反省会(コレ)ですが

 親潮さんが出るそうですよ」

笑顔で先程印が押された書類を見せる大淀

心なしか今日の笑顔は

随分と柔らかいと提督は感じていた

提督

「親潮がぁ?あの優等生タイプが

 この手の騒ぎに首を突っ込むかよ」

にべもなく即座に断定する提督

どうやら提督は信じていない様だ

提督

「どこ情報だよ?それ」

大淀

「守秘義務がありますので」

そう言って青葉新聞を手渡す

提督

「なんだ、青葉かよ」

ニヤニヤと笑い手に在る青葉新聞を一瞥する

提督

「どうせ青葉のヤツの"飛ばし"だろ」

提督は受け取った青葉新聞を軽く弾くと

そのまま机に置いた




おまけ


提督

「青葉と言えば、この前そこの木の上に

 青葉が登っててな

 いや〜子供の頃を思い出したよハハハ」

龍驤

「そんなローテクやったんか…」

大淀

「注意不足でした…」

青葉

「あはは♪きょーしゅくです」





艦?


後書き

お気付きの方もおられるかと思います
前回の龍驤編と今回の青葉編
そう、おまけ3が無いのです!
ですが…一応お約束は盛り込んでいますので
本編がおまけ3とも言えるのです!(錯乱)
前回は強引にねじ込みましたが
今回は比較的自然に
溶け込ませられたと思います


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