2019-08-28 07:59:13 更新

概要

時雨と夕立が出撃中、敵の奇襲に遭い消息不明となり・・・


前書き

キャラ紹介、

提督:元提督、今は村雨と海風と一緒に店で生活している。

鬼提督:提督と同期、最近大将に昇進したばかり。

村雨:元駆逐艦、店の女将として切り盛りしている。

海風:提督の2人目の奥さん、提督と村雨の補佐的役割。

白露:白露型の長女、明るく元気いっぱいな女の子。

時雨:白露の妹、出撃中に敵の猛攻に遭い、消息不明になる。

夕立:白露の妹、時雨と同じ出撃中に消息不明になる。


提督が突然、鎮守府との関わりを一切断ち切った。


「オレは提督を辞めた一般人であって、鎮守府事情に関わる理由が無い。


 それに、後は嫁さんと余生をゆっくり過ごしたいんだ。」


・・・と、言ってました。


村雨さんも提督の意見には賛成で、


「そうですね、提督業を辞めた旦那様がそもそも鎮守府に行く理由なんてありません。それに出張手当だって貰ってもいない、


 あくまで旦那様のボランティアみたいな物。上手く事が済んだから何度も依頼する鎮守府の方が異常ですよ。」


と、鎮守府関係の人間と仲間に意見をした村雨さん。


その結果、提督と村雨さんは鎮守府の関りを断ち切りました。


でも、それは”白露さんたち含む姉妹艦には二度と会えない事”を意味しています。


村雨さんも提督と一緒に悩み抜いた末に出した苦渋の決断かと思います。



今は提督と村雨さんは同じ店で変わりなく生活しています。


私、海風も”提督の奥さん”としてこの店にいますが、私は江風や白露さんたちと今でも会っています。


白露さんたちから、


「お願い、提督と村雨を見守ってあげて。」と皆心配されている様子で、


私も仕事の空いた僅かな時間や、休日に白露さんたちに会って今の現状を伝えています。


・・・


提督と村雨さんが鎮守府との関係を断って1か月が過ぎた頃、


白露さんが血相を変えて店にやって来ました。


「提督はいる?」


呼吸が荒く、急いで店に来たのか汗を掻いていて、


「は、はい。 店の中にいますよ。」


「会わせて! 今すぐに!!」


白露さんは提督に会いたいと言ってきた。


「で、でも白露さん! 提督は鎮守府と関係を断った身です・・・今更相談なんて。」


私は説得しようとしましたが、


「お願い! 店に入れて! 提督に会わせて!!」


「・・・」


これはただ事ではない、そう思った私は白露さんを店の中へ入れてしまいました。



「提督!!」


白露が店に来たことで2人は驚く。


「どうした白露、何でここに来た?」


鎮守府と関わりを断つ条件として、白露や時雨を含む他艦娘たちとの接触を禁じられた提督。


白露が店に来たため、すぐに帰るように促すも、


「時雨と夕立が・・・」


そこまで言い掛けて白露は突然泣き出す。


「どうしたの白露? 時雨と夕立がどうしたわけ?」


村雨が白露の肩に手をやり、落ち着かせて改めて尋ねる。


「時雨と・・・ゆ、夕立が・・・」


白露は叫んだ。


「出撃中に消息を絶ったの!!」


白露の口から発せられた予想外の事態。


「時雨と夕立が皆と一緒に出撃して・・・敵の奇襲に遭って、時雨たちが皆を撤退させるように時間を稼いだんだけど、


 仲間の話では時雨たちが敵の猛攻を受けたらしく、それから一切連絡が出来なくて・・・」


白露は泣き通しである。


「そうか、それは大変だな。」


提督はそれを聞いて驚くことも心配する様子も無い。


「お願い提督! 時雨と夕立を助けて・・・2人を見つけて、お願い!!」


白露は藁をもすがる思いで提督に願うが、


「無理だ、オレには関係ない。」


提督は白露の願いを却下する。


「どうして・・・どうして、提督!? 時雨と夕立と連絡が取れないんだよ!? もしかしたら負傷して


 どこかで隠れて救援を待っているかもしれないのに! それなのにどうして?」


白露の言葉に、


「じゃあ白露が行けばいいだろ? 白露型の長女として妹たちを助けに行けばいい。」


「・・・」


白露は急に無言になる。


「何だ、どうした? 大切な妹と連絡が取れないんだろう? なら姉であるお前が、助けに行くのが筋ってもんじゃないのか?」


「そ、それは・・・あ、あたしじゃ無理だよ!」


白露は反論して、


「偵察隊からの情報だと、時雨たちが消息を絶った場所は、敵の戦艦と空母がたくさん滞在しているって!


 本当はあたしだって助けに行きたいよ! でも、駆逐艦のあたしが1人で何が出来るって言うの?」


白露の訴えに、


「別に白露1人でなく、戦艦と空母の艦娘を引き連れて救援に行ってこい、と言っているんだけど?」


「・・・無理、だよ。 提督に頼んだけど・・・駆逐艦2人のためにこれ以上の損害を出したくないって。」


「そう、じゃあ諦めな。 白露には同情するけど、今回は運が悪かった事と、提督が損得の事しか考えていない。


 恨むなら出撃させた提督を恨みなさい。」


そう言って、提督はその場から離れる。


「! 待ってよ提督! お願いだから・・・村雨! 提督に頼んでよ! 何で、時雨たちと連絡が取れないのに


 どうしてそんな冷静でいられるのよ!!?


今度は村雨に叫ぶ白露。


「だって私と旦那様は・・・もう鎮守府との関わりを断った身だから、それなのに、


 時雨たちが消息を絶ったからって、今の私たちに出来る事は何も無いわ。」


「村雨!!」


「・・・もう一度提督に頼んで救援部隊を編成するように頼んだら? もしそれで却下されれば残念だけど・・・


 時雨たちは鎮守府に必要のない存在って事よ。」


村雨の口から放たれた残酷な言葉に、


「ぐすっ・・・ひっく・・・もうっ! いいよ!! 提督と村雨のバカぁ!!!! うわぁぁぁぁ~ん!!!!」


白露は号泣しながら店から出て行った。


「白露さん!!」


側で見ていた海風が白露を追う。



「待ってください、白露さん!!」


白露に追いつき、声を掛ける海風。


「・・・何? あたしはこれから鎮守府に帰るんだけど?」


海風に対して睨みつける白露。


「白露さんの心中はお察しします、ですが提督と村雨さんはそれらも含めて鎮守府との関係を断ったのです。


 村雨さんの言う通り、今更相談に来るのは間違っていますよ、白露さん!」


海風の説得に、


「そんな事、分かってる! 分かってるって!! ・・・でもさぁ。」


白露はまた泣き出し、


「時雨たち、ううん。 提督はあたしや皆よりも・・・決められたルールの方が大事なの?」


「・・・」


「どうなの? ルールや規律が優先って・・・それじゃあ、鎮守府にいる提督達と全く変わらないじゃん!!」


「白露さん。」


海風は白露に手をやるも、


「触らないでよ海風!!」


白露は手を振り払い、


「どうせ海風もあの2人と同じ意見なんでしょ? 時雨たちが救援を待っているかもしれないのに、長女のあたしが


 助けに行かず誰かに助けをすがって・・・とても惨めで完全に人任せだって、そう思っているんでしょ!!」


「違います、そんな事は思っていません!」


海風は反論するも、


「さようなら! もう店には行かないから! 時雨たちの件はこっちで何とかする!!」


そう言って、白露は歩き去った。


・・・


先程のやり取りを包み隠さず報告する海風、


「・・・それで、結局「自分たちで何とかする」かぁ・・・じゃあ最初からそうすればいい。


 何故わざわざ店に来てお願いをしに来るかなぁ?」


提督は心配している訳でなく、ただ呆れている。


「提督、私は白露さんの気持ちが痛いほどに分かります・・・お願いです、白露さんのお願いを、聞いて頂けませんか?」


海風の願いに、


「海風、その必要は無いわ。」


横から村雨が口を出す。


「村雨さん・・・どうして? 白露さんも時雨さんも皆、村雨さんの姉妹艦ですよ? いくら関係を断ったからって


 あんな言い方は酷いのではないですか?」


村雨に反論する海風に、


「じゃあ聞くけど、海風は白露に同情しているならどうして、時雨たちの救援に行ってあげないの?」


「・・・そ、それは。」


「ほらね、白露もそうだけど「誰かが行ってくれれば自分は危険な場所に行かなくて済む」って思ってるわけでしょ?」


「・・・」


「結局人任せじゃない、口では妹たちが心配でと繕い実際は、「勝てない戦いに行く気が無い」と思っているだけじゃない!」


「・・・」


言っていることが正しいだけに、海風は何も言えない。


「それを数々の鎮守府の問題を解決した旦那様にすがるなんて・・・そんなのはただの言い訳よ!


 自分では何もしない、口だけ達者なただの役立たずなだけじゃない!」


村雨はそう言い放つ。


・・・


「コチラル級、逃ゲタ艦娘ノ行方未ダ見ツカラズ。」


戦艦ル級と空母ヲ級がある島を巡回している。


「了解、引キ続キ艦娘ヲ見ツケ次第、沈メル。」


深海棲艦たちはその場から離れる。


「・・・もう行ったかな?」


草むらの陰から顔を出す時雨。


「夕立行こう、早く離れないと! ここもいずれ見つかるから!」


そう言って、夕立を起こそうとする。


「はぁ・・・はぁ・・・」


「夕立? 大丈夫かい、夕立!」


時雨は夕立の損傷具合を見る。


「・・・くっ、出血が思っていたより酷い、待ってて夕立!」


時雨は自分の着ている服を千切って、夕立の患部を覆う。


「さぁ、夕立。僕に掴まって・・・急いでここから離れよう!」


そう言って、夕立を何とか担ぐと敵とは反対方向へと進んでいく。



「・・・コレハ、血カ!」


巡回から戻ったル級が夕立の血痕を見つける、


「血ガ垂レテ・・・向コウニ逃ゲタカ!」


ル級は地面に着いた血を辿って時雨たちの追う。


・・・


時雨と夕立が消息を絶ち2日が経過しようとする、


しかし、未だ救援部隊の編成も行っていない。


白露は何度も提督に頭を下げ続けていたものの、意見は通らず部屋で1人閉じこもる。


「どうして・・・何で助けてくれないの?」


白露は部屋で1人うずくまり、


「提督も「2人のために余計な損害を出したくない」って言うし・・・皆だって「もう諦めて、白露ちゃん」って言うし、


 何で? 何で提督と皆は時雨と夕立を見捨てるの? ねぇ何で・・・」


ずっと思い詰める白露、


「何で・・・なん・・・」


その瞬間、白露の中で何かが壊れた。


「・・・ああ~、そっか。」


白露は立ち上がり、部屋から出る。



着いた場所は、艤装を装着する工廠場。


白露は出撃指示も無いのに何故か艤装を装着し始める。



工廠場での突然の爆音、提督と艦娘たちが何事かと工廠場に向かうと、


「やめて下さい白露ちゃん!!」


負傷した明石と主砲を乱射している白露の姿が、


「あっはは~、皆壊れてしまえばいい!! 皆死んでしまえばいいんだぁ~!!」


白露の瞳には人としての理性は無く、狂気に支配された目だった。


「白露! お前、一体何をしているんだ!」


提督の怒号に、


「あ~提督ぅ~・・・あっははは~♪」


白露は笑いながら主砲を提督に向け発砲する。


「危ない!!」


咄嗟に1人の艦娘が庇い、提督は無傷で済むが、艦娘は腕に損傷をしてしまう。


「白露、お前一体何をしているのか分かってるのか? これは反乱だ、おい、あいつを今すぐ地下牢へ連れて行け!!」


提督の指示で複数の艦娘たちは白露を捕縛するも、


「あははは! 皆死ねばいいんだよ!! あははは~! 鎮守府にいる提督も仲間も全員、死んでしまえ~!!!!」


白露は微動だにしない、もう正気を無くしている。


そして、地下牢に入るまでずっと狂気の声を発していた白露だった。


・・・


白露が地下牢に幽閉された事は村雨の耳にも届く。


「そんな・・・どうして白露が?」


村雨は困惑する中、


「白露さん、提督にずっと救援をお願いしていたそうです。」


「・・・」


「でも、提督は白露さんの意見に耳を貸さず、仲間の皆さんにも「諦めて」と諭されて続けて、


 その後、白露さんは急に工廠場に行き、狂ったように工廠場で主砲を乱射をし始めた・・・と。」


海風の説明に、


「そう、つまり白露をここまで追い詰めたのは提督と皆って事ね? それは良かったわ。」


村雨は安心したのか、作業を再開する。


「それはどう意味ですか、村雨さん?」


海風の言葉に、


「私と旦那様が白露の意見を却下して発狂したと思っていたから。 でも、原因は鎮守府の人間にあると分かって


 安心しただけよ。」


村雨の言い分に、


「それでも、白露さんを追い詰めたのは提督と村雨さんにもあるのではないですか?」


海風が反論して、


「何ですか村雨さん? 白露さんには散々「押し付けないで」、と言っていたのに、今度は村雨さんが鎮守府の皆に


 全ての責任を押し付ける気ですか?」


「海風、一体何を言っているのかしら? そもそも約束を守らなかったのは白露の方でしょ?


 それを平然と破って店に来た挙句にお願いして来て、嘘をつくにも程が・・・」


言い終える前に、


「そんな事は分かっています! でも・・・それでも白露さんのお願いは聞くべきだったと思います!」


海風が口を出す。


「・・・あ、そう。 じゃあ海風は何で代わりに助けに行こうとしなかったわけ? 海風だって結局逃げた事に


 変わりはないでしょ?」


「はい・・・でも、出来るのにやろうともしない村雨さんの方が遥かに酷いと思います!」


2人の睨み合いが続き、


「何? 私とやり合う気? いいわよ。」


村雨はエプロンを脱ぎ捨て、


「前から海風の態度は気にいらなかったし、丁度いいわ。改めて礼儀と言うのを教えるのも悪くないわね!」


村雨の挑発に、


「そうですか・・・では、私も。 村雨さんの日頃の態度にはずっと嫌気が差していた所ですから。」


両者腕を前に出し、今にも殴りかかりそうな2人。


「さぁ、来なさい海風!」


「言わなくても行きますよ!!」


2人の手がお互いに顔にぶつかりそうになった瞬間、


「止めろ。」


提督が海風を掴んで難を逃れる。


「は、離して下さい提督!!」


海風は必死に抵抗し、それでも村雨に殴りかかろうとする。


「だから止めろ、女同士の殴り合いなんか見たくない。」


「提督には関係ありません! これは私と村雨さんの問題です!!」


海風は手をわなわなと震わせる。


「・・・」


村雨は何故か急に戦意喪失し、構えを解く。


「・・・何で構えを解くんですか? まだ殴り合っていませんよ! 急に戦意喪失するなんて何なんですか!!」


海風は怒りを露わにする。


「・・・提督。」


村雨は小さな声で、


「海風を離してあげてください。」


「どうして? そんな事をしたら村雨が・・・」


「いいんです、お願いします。」


村雨の願いに、提督は海風を離す。


「さぁ、いいわ。 好きなだけ殴って頂戴。」


村雨は構える事も逃げる事も無い・・・海風に殴られる気でいた。


「はぁ・・・はぁ・・・」


海風は手を挙げて、



パァン!



村雨に平手打ちをする。


「はぁ・・・はぁ。」


「一発だけ? もっとやらなくていいの?」


「はぁはぁ、何で、どうして? どうして抵抗しないんですか? どうして海風に当たって来ようとしないんですか?」


海風の言葉に、


「じゃあ聞くけど・・・何で海風は、”泣いている”のかしら?」


村雨が見た光景、それは海風の瞳からポロポロと涙が止めどなく溢れている光景。


「・・・何でって? それは。」


海風は涙を腕で拭う。


「・・・悔しいんでしょ、本当は?」


村雨が口を開く、


「白露と同じ、自分1人で助けに行く力があるなら最初から相手にすがらない、そうでしょ?」


「・・・」


「白露が発狂しても、それでも自分は何も出来なかった・・・無力な自分が悔しくて仕方がなかった、


 そうでしょ?」


「・・・」


「私だって本当は時雨たちを助けに行きたいわよ、でも分かるでしょ? 私1人の力では時雨たちを助けに行く事が


 出来ない位、今の白露と海風の状況から見て分かるでしょ?」


「! 村雨さん。」


海風ははっとして顔を上げる。


「白露の事だって、もちろん手を貸したかったわ。 でもね、一度決めた鎮守府でのルールを破るって事は


 白露が思っているほど単純なわけじゃない、下手をすれば厳罰になるくらいに厳しいのよ。」


「・・・」


「確かに、提督と私はね・・・新しい生活を過ごしたくて鎮守府との関係を断ったわ、でも白露たちとの関係まで


 絶たなければ行けないと言われて、私はどれだけ悩んだか海風には分かる?」


「・・・」


「提督は「姉妹の所に戻っても構わない」と言ってくれたけど、私にとって提督と白露たちは同じくらいに大切な存在なの、


 そのどちらかを捨てなければ行けない気持ち、海風に分かるの!?」


村雨もポロポロと涙を垂らしていく。


「村雨さん・・・」


「白露たちの所に戻れば、提督はまた1人孤独に。 提督の所に戻れば、白露たちと二度と会えなくなる・・・


 ずっと悩んで悩み抜いた結果、私は提督と新たな生活を選んだの、海風なら白露と会えるし、いつも元気かどうか


 海風に聞くことも出来たから・・・それなのに、ずっとずっと・・・悩み抜いた私の気持ちが海風には分かるの?」


「・・・」


村雨の心境を知った海風、白露の事も時雨の事も捨てたと思っていた海風、


でも実際は海風以上に白露たちを心配していた村雨の本当の気持ちに、


「ご、ごめんなさい・・・村雨さん。」


海風はまた泣き出し、今度は村雨に許しを請う。


「何よ、また泣いちゃって? 今度は私が怒ったから怖くて泣いたわけ?」


村雨は冗談ぽく海風に言い寄る。


「いえ・・・全て海風の勝手な思い込みで村雨さんを傷つけてしまって・・・村雨さんの本当の気持ちを知らずに、


 勝手な事ばかり言って、ごめんなさい、本当にごめんなさい!!」


何度も何度も謝り続ける海風に、


「もういいから、顔を上げて。 全く、そんなに泣きじゃくって綺麗な顔が台無しじゃない!」


村雨がタオルを海風に渡す。


「・・・そう言う村雨さんだって、お顔が台無しじゃないですか。」


お互いに同じことを言って、笑う・・・そして、いつもの2人に戻る。


・・・


「大分落ち着いたかしら、海風?」


顔を洗うように勧め、タオルと水を差し出す村雨。


「あ、ありがとうございます。 はいっ、大丈夫です・・・落ち着きました。」


海風は顔を拭いたタオルを洗濯籠に入れる。


「ふむ、やっぱり村雨と海風は似た者同士だなぁ~。」


「? 似た者同士、ですか?」


村雨と海風は首を傾げる。


「姿・性格は違うけど、誰かを思いやる気持ちは同じ・・・これが姉妹の絆かぁ~、うん、いいね。」


そう言って、提督は立ち上がり、


「海風のおかげで村雨の本音が聞けたことだし、これでオレも遠慮なく行動に映せそうだな。」


「えっ? 行動って何ですか?」


海風の質問に、


「決まってるだろ? 時雨たちの救援だよ。」


提督は躊躇いも無く答える。


「時雨さんたちの救援に行くのですか?」


海風は驚き、


「うん、他に誰か行ってくれるなら、オレはそれで助かるけど?」


「・・・」


村雨と海風は無言になる。


「でも、鎮守府との関係を断つと言って結局、窮地に立った仲間を気に掛けてしまう。


 我ながら何とも・・・でも、それが人間としての気持ちなのかもしれないね。」


提督は電話を取り、


「もしもし・・・もしもし・・・オレだ。 久しぶり。」


提督は誰かと連絡を取る。


「早速だけど、時雨と夕立が消息を絶った地点を大よそでいいから教えて欲しい・・・ん? 何でって?


 そりゃあ今から助けに行くからだよ。」


提督は言葉を続け、


「そんな事したらどうなるかって? 大丈夫、オレも嫁さんも腹を括ることにしたから。 


 やはりルールより仲間の命の方が大切だと一致したんだよ。」


提督は一方的に会話をし続け、


「そんなこと言っても、お前に従う艦娘たちはいない? 知ってる、はっきり言って出撃したくない役立たず共に


 力を借りようとは思っていない、オレが直々に出向くまでだよ。」


提督が電話をして数分が経ち、


「まぁそう言う事で・・・後、先に白露に会いに行くので、あっちの提督に地下牢に通じる扉を解放しておくように


 伝えてくれ、まぁ無理ならオレが無理やりこじ開けるから。」


そう言って、電話を切る提督。


「よし、では準備するかな。」


そう言って、提督は着替えを始める。


「あ、あの提督・・・今、誰とお話をされていたのですか?」


海風の質問に、


「うん? 中将殿とだよ。」


「ちゅ、中将殿とお話をされていたのですか!?」


提督の会話で仲の良い友人と話しているように見えた海風、しかし、電話の相手が中将と聞いて、


提督の電話対応に驚く海風。


「着替えも済ませた・・・それじゃあ行ってくるよ。 後、時雨たちを迎えに行くだけだからお土産は買って来ないからね。」


そう言って、店から出ようとした提督。


「提督、私たちは何をすればよろしいですか?」


村雨が気になって尋ねると、


「そうだなぁ~、店が無くなるかもしれないから、今の内にたくさん働いてくれ!」


意味ありげな発言をした後、提督は店から出る。


・・・


「ほぇっ? 誰だっけ?」


ここは白露たちがいる鎮守府の、地下室。


その地下牢の中に、白露が入れられている。


「え~っと・・・そうだそうだ、あたしの妹の旦那じゃん! あっははは~♪」


提督を見て笑いながら声を出す、


「白露。」


提督は白露を見つめる。


「あっはは~♪ 何々、あたしを見て何悲しんでの~? 意味分かんない!」


白露は変わらず発狂したままである。


「・・・」


提督はおもむろに牢屋に手を入れる。


「? 何~? 握手したいの~、いいよ。してあげる♪」


白露は躊躇う事も無く提督の手を握る。


「白露。」


隙を突いて、白露を抱きしめる。


「ほぇっ? 何、どうしたの? 何で抱き着いてくるの?」


抱き着かれた白露は訳が分からない。


「オレがもっと早く、決断していれば白露は牢屋に入れられることは無かった、本当にすまなかった。」


提督は謝り、


「・・・何で謝るの? 提督は悪くないって、本当だよ。」


「・・・」


今の白露の発言から、発狂した口調では無い事に気付く提督。


「提督は悪くないって、それに村雨も悪くないよ。 ただ、あたしに助ける力が無かっただけ・・・」


また白露が普通に口を開き、提督は確信する、


「白露、もしかして今まで”発狂した振り”をしていたのか?」


提督の質問に、


「・・・うん、これくらいやれば提督が必ず来てくれると思ってさ。」



何と言う事だろう、白露は提督が来ることを予想した上で発狂した振りをして、工廠場で暴れたのだ。


「提督、ごめんなさい。 本当は提督と村雨が悪いわけじゃないのにね。」


「・・・」


「あたしが、長女であるあたしが助ける力が無いのに、提督と村雨に頼って、しかも理不尽に当たっちゃって・・・


 本当は白露が悪いのに・・・ごめんなさい。」


「・・・」


「村雨にも伝えて、お姉ちゃんが悪かったって・・・」


「・・・」


「村雨は提督を選んだ、あたしはそれでいいと思ってる。 だからもう行って、あたしの事も時雨と夕立の事も


 もう忘れて! もういいから! 2人はこれから先の新しい生活を送って、お願い!」


そう言いつつも、白露の瞳から涙がこぼれる。


「・・・何を言ってんだ、白露? 相変わらずお前は物事を早く決め過ぎだよ。」


そう言って、白露のおでこにデコピンを入れる。


「い、痛い! 何すんのさ提督!」


痛かったようで、おでこを押さえる白露。


「結果を決めるのはまだ早い、少し待ってろ白露。 用が終わったらここから出してやるからさ。」


「ここから出すって? 無理だよ、工廠場でやらかしちゃったし、あたしは処刑確定で数日後には


 提督と皆の前で射殺されるんだよ?」



提督は既に白露の処刑日時を決めていた、時雨たちの救援もしない無計画な無能提督が何故処刑を速める必要があるのか?


「どうやら、今回の時雨たちの出撃命令は、提督の無計画さによる問題だったわけだな。」


「えっ、どゆ事?」


白露は言っている意味が分からない。


「救援を要請しなかったのは、自分の誤命令により出撃させた事。 結果、時雨たちは情報に聞かされていない


 敵戦艦と空母たちと遭遇し、消息を絶つことに。そして、間を置かずして白露が工廠場で暴れたため、


 証拠隠滅で白露を口封じに処刑する計画・・・提督にとっては白露が暴れた事はある意味運がいいと


 思っただろうな・・・」


「・・・」


「あくまでオレの予想だが、中々いい線言ってるだろう? オレの予想が外れてくれればいいんだが、


 とても嫌な予感がする、こんな時は特にね。」


「・・・それでも、もういいよ。 あたしはそれだけの事をしたんだし、時雨たちだってもう帰って来ないし。」


白露は顔を下に向ける。


「安心しろ、時雨と夕立はまだ生きている。」


「! 嘘、何で? どうして分かるの?」


白露は顔を上げる。


「ちょっと静かに・・・そうか、時雨は損傷は少ないが、夕立の方は・・・1人で歩けない程に衰弱している、か。


 早く助けないとまずいな。」


そう言って、提督は白露が入っている牢屋の鍵を掴み、腕力で破壊する。


「白露は村雨に店に行ってろ・・・階段を昇ったらすぐに左に向かって進め、いいか? 左だぞ、左!」


「・・・う、うん。階段を昇ったら左ね。」


白露は2つ返事をする。


「よし、じゃあオレは時雨たちを迎えに行くから。」


そう言って、提督は先に地下から出て行く。


・・・


「いらっしゃいませ~・・・あら白露じゃない?」


白露が来店する・・・提督の言った通りに進み、無事村雨の店に着けたようだ。


「村雨・・・あのさ・・・その。」


怒っていると思った白露、どうやって謝ろう・・・そう考えていたが、


「もういいのよ、提督から全部聞いたわ。」


「提督から? いつ? 提督は時雨を助けに行くって言って・・・」


言い終える前に、村雨が白露の前に何かを出す。


「・・・それって?」


「うん、盗聴器の音を聞く機器。」


「・・・」


「提督は白露に会いに行く前にあらかじめ、自分に盗聴器をセットしていたの。」


「えっ? じゃ、じゃあ提督とのやりとりを全部・・・」


「うん、全部聞いていたわ。 ここで私と海風の2人でね♪」


意地悪な表情で笑う村雨、


「むむむ・・・ぷ、プライバシー侵害だよぉ!」


急に恥ずかしくなり、顔を赤くする白露。


「・・・白露、謝るのは私の方、本当にごめんなさい。」


村雨は改まり、深く頭を下げる。


「本当は白露の力になりたかった・・・でも、私は提督と新たな生活を選んでしまった。


 そして二度と会わないルールまで鎮守府と交わしてそれで・・・」


そこまで言い掛けて、


「もういいって、分かってるから! あたしはお姉ちゃんだよ! 妹の考えてる事なんか全部分かってるって!」


「白露・・・」


「提督がさ、時雨たちを迎えに行ってくれるって! もちろんルールを破るわけだからどんな厳罰を受けるか分からないけど、


 提督とは長い付き合いだからね~、あたしも一緒に罰を受ける気でいるから。」



白露はルールを破れば、厳罰に処されることもあらかじめ知っていた。


そして提督がそれを破った時は、原因を作った自らも償おうとも思っていた白露・・・これには流石の村雨も驚く。


「白露、じゃあ最初からそれを計算した上で?」


「もっちろ~ん! どう、凄いでしょ! 褒めてくれたっていいんだよ~♪」


白露の得意げな態度に、


「はぁ~お調子者だけは相変わらずよね~。」


白露の無謀さに呆れ、思わず苦笑いをする村雨。


・・・

・・



「はぁ・・・はぁ・・・」


あちこち負傷し、時雨は苦しそうだ。


何とか上手く逃げたつもりだが、惜しくも敵に見つかってしまう。


「ホウ、マダ立テルカ・・・ダガ今度コソコレデ終ワリダ。」


戦艦ル級が時雨に向けて主砲を構える。


「・・・」


時雨はその場から動こうとしない・・・時雨の後ろには負傷して倒れている夕立がいる。


敵の砲撃を回避すれば、夕立に当たる・・・だが、回避しなければ時雨に命中する・・・最早、生存は絶望的だ。


「もう駄目、かな。 救援が来ない時点で覚悟していたけど・・・」


救援は望めない、それでも時雨は敵に背を向けない・・・艦娘として、海を護る戦士として。


「・・・死ネ!」


敵が砲撃しようとする。


「・・・」


時雨は覚悟を決めて目を閉じた・・・だが、



バン!



「グガッ!!? オアウ・・・(ドサッ)」


突然目の前の敵の体に風穴が空き、その場に倒れこむ。


「・・・何? 一体何が起きたの?」


ずっと逃げ回り、疲労が蓄積された状態での戦闘での負傷・・・時雨は意識が朦朧としていた。


「・・・」


意識が朦朧としている時雨が見た光景は、


「・・・辺り一面・・・火の・・海?」


燃え盛る炎、敵が次々に焼かれ、断末魔の後消えていく深海棲艦たち。


「? き、君は・・・誰?」


意識を失う直前に見たのは、誰かの人影?


「・・・」


時雨は確認できずにそのまま意識を失う。


・・・

・・



「う~ん・・・はっ!」


時雨はベッドの上で目を覚ます。


「・・・」


時雨は周囲を見渡す。


「ゆ、夕立。」


隣には、体を包帯で巻かれて寝息を立てる夕立の姿が・・・


「た、助かった、んだ・・・僕と夕立は。」


当然時雨は自分でこの場所に来た覚えはない・・・恐らく誰かが運んでくれたのだろう。


「・・・」


時雨は安心したのか、再び床に着いてしまう。




傷がある程度治りかけた時、時雨は鬼提督から召集を受ける。


「駆逐艦時雨、そして・・・この場にはいないが夕立も含め、無事にお前たちが帰還出来て良かった。」


鬼提督は、時雨たちが無事だと確認した後、


「早速だが、お前に聞きたいことがある。」



鬼提督が聞きたかった事、それは消息を絶つ前の編成状況・その後の帰還までの経緯を詳しく報告して欲しいとの事。


「うん、僕たちは提督の命令であの海域に出撃したんだ・・・でも、提督から聞かされていない敵戦艦と空母がたくさん現れて・・・」


時雨は事件の全貌を少しずつ話して行く。


「僕は辛うじて小破で済んだけど、夕立は大破で1人で歩くことも出来なかった。その後は草むらに隠れるとかして 


 何とか敵を振り切ったけど・・・結局見つかって、僕も大破まで追い込まれて・・・」


もう助からない、時雨は死を覚悟したが、


「突然、急に目の前の敵が倒れて・・・それから辺り一面火の海が見えて・・・その後は、


 誰か、人影が僕の前に僅かに見えた・・・そして僕はそのまま気を失ったんだ。」


時雨の説明に、


「そうか・・・もう一度聞くが、気を失う寸前に”火の海”と”人影”を見たのだな?」


「・・・うん、本当に火の海だった・・・敵がどんどん焼かれて沈んで行って。 後、人影は誰か分からなかったけど・・・」


「そうか・・・よい、それだけ分かれば十分だ。 後は戻って傷を治せ。」


鬼提督は礼を言い、時雨は夕立がいる休憩室に戻る。


「やはり、あの提督の無計画な作戦指示だったか。」


時雨の説明から、提督のミスだと発覚し、


「そして・・・辺り一面、”火の海”、か。」


時雨が意識を失う直前に見た光景、”火の海”。


それを聞いて、鬼提督はある可能性が脳裏に焼き付いた。


・・・


ルールに反して勝手な行動を起こし、鎮守府からの報告を待つ提督。


「旦那様、鎮守府から召集の電報が来ています。」


「そうか、では行こうかな。」


遂に来たか、とばかりに提督は行く準備をする、


「白露も一緒に行くよ、元はと言えばあたしが原因だし・・・」


提督がルールを破った背景には白露と時雨の事があり、責任を感じている白露。


「いや、オレ1人で行くよ。 結果が分かればすぐに知らせるから。」


「・・・」


「白露にはやり残した事があるだろ? 無事に帰って来た時雨たちの心のケアをしないとな。」


「・・・」


「じゃあ行って来る。」


提督は身だしなみを整え、店から出る。


・・・

・・



「まさかあんたに尋問されるとはね・・・」


執務室に案内され、提督の前に座るのは・・・同期である鬼提督。


「大将に昇進したんですね? おめでとうございます。」


最初に昇進した事を祝う提督。


「ふん、貴様に祝ってもらっても嬉しくないわ!」


鬼提督に「座れ!」と指示され、素直に用意された椅子に座る提督。


「それで? オレの処遇は何ですか? 公開処刑ですか? それとも世界永久追放ですか?」


規律を破ったのだから、相応の刑罰を受けることを覚悟していた提督、


「ふむ、既に覚悟をしている口か。 いいだろう、では貴様に今後の処遇を言い渡す!」


鬼提督は「ふぅ~」と息を吸った後、


「貴様には・・・」


鬼提督は今後の処遇を伝える。



「・・・」


店で待つ村雨と海風。


白露は時雨たちに会いに行くため、店を離れていた。


「あっ、提督お帰りなさい。」


提督が店に戻って来た。


「ああ、ただいま。」


提督の表情は、何と言うか・・・困ったような悩んでいる様な、そんな感じの表情だ。


「それで、どんな刑を言い渡されたのですか?」


心配な村雨と海風に、


「うん、それがね・・・」


提督は困った顔で、2人に打ち明ける。


「鎮守府に着任しろと言われた。」


「えっ? 一体どう言う事です?」


村雨と海風は首を傾げる。


・・・


少し遡って、


「それでは貴様に今後の処遇を伝える!」


「・・・はい、どうぞ。」


既に覚悟をしている身、処刑でも追放でも正直どちらでもよかった提督、


「貴様にはまた鎮守府の提督として着任してもらう!」


しかし、鬼提督が言い渡した内容は、”刑罰”では無く”鎮守府着任”と言う指示だった。


「・・・一体どう言う事です?」


訳が分からず、提督は質問を投げかける。


「まずは貴様に報告したい・・・時雨たちが消息を絶った原因は、何の計画も立てず、ロクな情報も得てない状態で


 出撃させた時雨の提督のミスであった。」


「・・・」


「そして、白露が何度も意見しているのに耳を貸さなかったのも、自身のミスを隠蔽するために時雨たちを見捨てようと


 していたことも分かった、工廠場で運よく暴れた白露も、後に口封じで処刑するための計画もしていたと聞いた。」


「・・・」


「以上から、今回の事態は時雨の提督が全ての原因と判断し、即刻左遷と言う形にした。」


「そうですか、それで? 何故オレが鎮守府着任に? その無計画提督がいなくなったから代わりにやれという事ですか?」


「まぁ、そう言う事になるな。」


「・・・」


「確かに貴様は規律を破った、しかし、事の原因はあの無計画提督が起こした結果だ、貴様はただ嫁の姉妹艦を


 助けようとして動いただけ、ならば刑を言い渡す必要は無いと判断したのだ。」


「そうですか、大将殿にしては珍しいですね? 規律を破ったオレに、刑を言い渡さず鎮守府着任を命じるとは。」


「・・・」


「本当にそれだけですか? オレに鎮守府着任を言い渡すのは何か別の狙いがあるのではないですか?」


提督の質問に、


「そうか、既に気づいていたか。」


鬼提督は急に改まり、


「まず最初にオレの質問に答えろ・・・貴様はまさかではあるが。」


「・・・」


「煉獄、なのか? 昔、本営を襲撃した多勢の深海棲艦共を一瞬にして壊滅させ、それと時を同じくして街中にも襲撃が


 起き、救援も間に合わず絶望的とまで言われた状況を覆したのは・・・貴様か?」



昔、深海棲艦の大部隊が本営と街中を同時に襲撃すると言う前代未聞の事態が起きる。鎮守府側はこの事態を重く受け止め、


本営側の救出を優先とし、全艦娘たちを本営を行かせ死守させる作戦だったのだが、艦娘たちが本営に辿り着いた時には、


敵は何者かの攻撃によって全滅しており、同時に襲撃されたと思われた街中も無事と言う、予想外の結果が起きたのだ。



「見た者の情報によると、”上空を無数の艦載機(爆撃機)が飛び交い、敵の対空攻撃をいとも簡単に躱し、


 高高度からピンポイントで敵を狙い撃ちにし、辺り一面火の海と化していた”、とある・・・


 それで、本営と鎮守府側はこの謎の勢力を地獄を連想させる”煉獄”と呼称し、日々警戒をしていたが・・・」


鬼提督は再び尋ねる。


「貴様なのか? 貴様が煉獄なのか?」


鬼提督の質問に、


「・・・ああ、あの時か。」


提督は否定することなく、口を開く。


「久しぶりの休日に街に顔を出していた時だな・・・そしたらいきなり、サイレンが鳴り、「深海棲艦が出現した!」


 と、報告があり、近海に武装した黒い集団がいたな・・・オレはその時はまだ深海棲艦と言う名前すら知らなかったけど。」


提督は話を続け、


「せっかくの休日を台無しにされたくなかったのでな、ただ応戦しただけの事。 別に大した事ではない。」


提督は軽く返答する。


「ならば何故本営も同時に守ったのだ?」


「う~ん、そうだなぁ。 特に理由は無いが、同じ軍事関係だし拠点が潰されては下っ端共が路頭に迷うのも不便だと


 思ってな・・・それで、ついでに護衛した。」


提督の意見によると、あくまで本営と街を救ったのはたまたまだと言う。


「まぁ同じ軍事関係と言っても、あっちは海軍、オレは空軍の違いはあるがね。」


提督はゲラゲラと笑う。


「貴様の事は調べさせてもらった・・・貴様は空軍で最高位の存在らしいな?」


鎮守府の最高階級は元帥である、提督は空軍内で元帥と同様の地位のようだ。


「その空軍最高階級の貴様が何故に新米提督として中途着任したのだ?」



空軍の最高位と言う肩書きを持ちながら、どうして海軍の新米提督として着任したのか?


「鎮守府に興味があったから・・・それに、その時新たに導入した”艦娘”と言うのも気になってね。」



深海棲艦は人間では到底太刀打ちできない・・・鎮守府側はそれに対抗して”艦娘”と言う女性であり、兵器である


彼女たちを投入、深海棲艦たちと死闘を繰り広げる。



「まぁ、オレの考えだけど、普通戦場は男が行く物で女を戦地に行かせること自体が異常だと思った。


 でも、実際に女のみが戦っているのは正直驚いたけど。」


「・・・」


「艦娘は戦士と言うわけだし、戦うのは戦士の役目だ・・・後はそれ以上の興味は無かったんだけど。」


提督は態度を改め、


「守ってもらう立場の人間共が、事もあろうに艦娘たちに非情な扱い・性的暴力・虐待をしていると聞いてね。」


提督は言葉を続け、


「自分たちでは何も出来ないくせして、部下である艦娘たちに好き勝手している人間たちの愚かな姿をどうしても見たくて


 鎮守府着任を希望したのはあるかな。」


「・・・」


「まぁ、冗談だが理由としてはオレに何度も依頼があったんだよ、本営にいる元帥のおっさんからね。


 「鎮守府に着任して、お主の力を貸して欲しい!」と何度もお願いされて、興味があったオレは中途着任したんだ。」


「・・・」


「後は、同期の大将殿も知っている様に、オレは司令レベル最下位のクズ提督としてずっと過ごしていた。


 元々空軍最高位のオレがわざわざ鎮守府で昇進する気も無かったからな。」


「・・・」


「司令レベル最下位でも結構楽しかった、肩書きのみで判断する人間や艦娘たちもいれば、オレと言う人間を正面から見てくれて


 一緒に頑張る人間もいてくれて、そして真に信頼できる艦娘たちが出来てオレは幸せだったよ。」


「・・・それが、白露たちの事か?」


「うん、鎮守府着任時に皆に必ず「居心地が悪かったらいつでも鎮守府を出て行って構わない」と言って、着任をさせた。


 最初は艦娘たちが多く去ったけど、次第に残るようになって特に白露たちとは長く付き合えたね。」


「そうか・・・貴様と白露たち、そして貴様を信頼している艦娘たちの間には、決して折れない深い絆があるのだな。」


鬼提督は全てを理解し、


「だが、何故だ? 鎮守府に着任した時点で貴様の空軍としての肩書きは隠し通していたのだろう?


 それが今になって何故正体をさらけ出す行動に出たのだ?」


鬼提督の質問に、


「・・・オレの大切な人が、泣いて悲しんだから。」


提督の口調が荒くなり、


「今回の事態・・・無計画の提督が起こした事で時雨と夕立が本来受けるはずのない傷を負う事になった事。


 助けに行きたくても提督の自己保身の結果、悲しみ凶行に走った長女の白露、それと同じ自分1人の力では


 到底時雨たちを救えない、そして白露すら救えなかった自分の無力故に悲しんだ海風。」


「・・・」


「そして・・・オレと新しい生活を望んだことで、白露たちと二度と会えないルールを言い渡された村雨。


 会う事も出来ず、助けに行く事も出来ず、更に狂った白露を止める事すら出来ず、ずっと悩んで悩んで悩み抜いた


 村雨、海風と同じ悔しくて悲しんだ・・・それだけで十分、オレが正体をさらけ出す事位造作も無いが?」


提督の説明に鬼提督は静かに納得する。


「うむ、そうか・・・それほどまでに白露たちを想っていたのだな。」


鬼提督は理解し、


「ではオレも本当のことを言おう、なぜ貴様に鎮守府着任を希望したのかを。」


鬼提督が順に説明する。


「今回の件は間違いなく、あの提督の無計画による事態で事が済んだ・・・だが、問題がいくつか残った。」


「・・・」


「白露の凶行・・・いくらあの提督が原因だとしても、艦娘が武器を持って鎮守府で暴れる行為は原則”反乱”として扱われる。


 よって白露に刑が適用され、最悪処刑か、良くて解体のどちらかとなる。」


「・・・」


「無事帰還した時雨と夕立も、あの提督の切り捨てにより戦力外と見なされ、彼女たちもまた白露と同じ


 今後の処遇に悩まされている。」


「・・・」


「他の鎮守府も「そんな危険(役立たず)な艦娘はいらない!」と言葉を返した、つまり白露、そして時雨と夕立には行く当てが


 無いという事だ、それで急遽貴様に・・・」


「・・・白露たちに居場所を与えるためにオレに鎮守府着任を希望したと?」


「ああ、それが貴様に鎮守府着任を命じた本当の理由だ。」


鬼提督の本音を聞いて、


「そうですか、あの短期で喧嘩腰な大将殿がそんなお考えを・・・成長しましたね。」


提督は立ち上がり、


「分かりました・・・白露たちのために、オレは鎮守府に戻ります。」


「そうか、よく決断してくれたな!」


鬼提督は着任書類を差し出し、


「では! 今日を持って貴様は〇〇鎮守府の提督、階級は元帥として着任を命ずる!」


「はい? 何故にオレに元帥の称号が?」


いきなり最高階級を言い渡され、困惑する提督。


「貴様は当たり前にやった事で気にもしていないだろうが、今回の時雨たちの救出作戦はほぼ不可能と判断され、


 誰も救援作戦を実施しなかった。」


「・・・」


「それを貴様が・・・艦娘を一切使わず、己の身1つだけで救援に向かい、無事時雨たちを救出した。


 これは名誉であり、同時に鎮守府側に恐怖を与えた。」


「? 恐怖、ですか?」


「うむ・・・生還した時雨の報告から、ほとんどの提督たちは貴様を煉獄と確信しているだろう、


 深海棲艦の群れを一瞬で壊滅させる程の実力、当然提督共は貴様を恐れ、敬うだろう。」


鬼提督の言葉に、


「はぁ、別にそこまで心配しなくても・・・まぁいいけど。」


提督は服装を正し、


「ご安心を、オレは別に世界を滅ぼそうと考えている訳ではありません、ただ大切な人が本当に窮地に陥った際の


 切り札として封を解くだけの話、むやみやたらに使う気はありません。」


「そうか、ならいいのだが。」


鬼提督は安心するも、


「でも、もし周りが意味も無くオレの大切な人たちを傷つけた場合、それ相応の対応は取らせてもらいますがね?」


提督の忠告に、


「うむ・・・肝に銘じて置こう。」


こうして、提督の鎮守府再着任が決まった。


・・・

・・



「そうですか。」


村雨は納得し、


「おめでとうございます、提督。」


同時に祝いの言葉を掛ける村雨。


「ありがとう・・・それで今後の生活でオレからの提案なんだが。」


「?」


「良ければ・・・」


提督は自分の決意を村雨に伝える。


・・・

・・



そして提督は鎮守府に再着任、白露たちはこの鎮守府に着任し、普段通りの生活が始まる。


「提督、おっはよーっ!」


白露が元気よく挨拶する。


「おはよう、白露。 ・・・所で時雨と夕立は?」


「うん、まだ部屋で寝ていると思う。」


「そうか。」


「この鎮守府に引っ越すために忙しかったからね~、2人とも疲れたんだよ~!」


白露もだろうが、彼女は疲れている様子は無く元気いっぱいだ。


「そうだな、まぁゆっくり休んでいるといい。 どちらにしろ今は出撃と遠征は出来ないからな。」



現時点で鎮守府にいるのは提督と白露・時雨・夕立の4人だけ。


提督が元帥として着任した事で、実力のある艦娘たちが何十人か着任希望をするも、


「肩書きに釣られて着任希望する艦娘などオレには必要ない!」


と、艦娘たちの着任を却下してしまった提督。


何度も着任拒否をし続けて、結果4人しかいないのだ。


「提督って相変わらずだね~! 前に鎮守府にいた時も皆の着任を余裕で却下してたし!」


実は着任却下は今回が初めてではない、前に鎮守府に務めていた時も新艦娘の着任希望を拒否していた。


「肩書きに釣られて来る人間なんぞ、たかが知れてる。それに、今いる艦隊で十分やっていけたから、


 それ以上の人員を求めなかった、ただそれだけの事だよ。」


提督の言葉に、


「・・・でも、今の人員じゃ出撃も遠征も出来ないよね?」


「ああ、でもこの生活していく分には心配はいらないよ。過度な贅沢をしなければ暮らせるだけの蓄えはある。」



前は司令レベルが低いために周囲から悲観が絶えなかったが、元帥として就任したため、


その心配すらなくなり、今は有意義な生活が出来る環境にある。


「安心して提督! あたしは提督に最後までついて行ってあげるよ!」


白露は腕を前に出す。


「ああ、頼りにしているよ。」


そう言って、提督も腕を出しお互いの腕を当てる。



数日後、


鎮守府に村雨と海風がやって来る。


「お待たせしました提督♪」


「うん、待っていたよ。でも本当に良かったの、店を閉めちゃって?」



提督は2人に鎮守府に来るように頼んでいたが、それは”店を閉店する”意味でもあった。


「はい、まだ心残りがありますが・・・でも、提督とならどこへでもついて行きます!」


村雨と海風はお互いに会釈する。


「そうか、ありがとう。」


提督は2人に感謝する。



「村雨と海風が来たって事は・・・これで白露型が5人揃ったね!」


「うん、そうだね。」


「という事は・・・出撃と遠征が出来るじゃん! うん、良かったね提督。」


白露は喜ぶも、 


「残念だけど、村雨と海風は艦隊のメンバーに適用されないんだぁ。」


「え~っ、何で? どゆ事?」


「2人は解体はしていないけど、一応艦娘を辞めた身だから・・・鎮守府では、食堂の給仕をやってもらうよう頼んでいる。」



提督は店を閉める代わりに、鎮守府の食堂の給仕として働いて欲しいと頼み、2人は喜んで承諾した。


「ちぇっ、じゃあ当分出撃と遠征が出来ないのかぁ~。」


急に不機嫌になる白露。


「ごめんごめん、でも今は余暇な時間が多い。忙しくなるとゆっくり出来る時間も無いから今の内に満喫しておきな。」


提督の説明に、白露は「うん、分かった!」と素直に返事をする。


・・・


村雨の店が閉店した事は、常連客である蒼龍やサラトガたちの耳にすぐ広まり、同時に提督が再着任した事も知る。



ここは、鬼提督がいる鎮守府。


「何、異動をしたい?」


突然蒼龍から渡された異動許可書。


「何故だ? それに異動場所は・・・あいつがいる鎮守府だと?」


鬼提督の質問に、


「提督とは前にいた鎮守府との付き合いです。 あの人が鎮守府を去り、私は艦娘としての役目を全うすべく、


 他の鎮守府に入り、今は大将の鎮守府で生活しております。」


「・・・」


「でも、あの人が提督として再び着任したのなら、私はあの人のために誠心誠意尽くしたい所存です!


 どうか私の勝手をお許しください! それでも、私はあの鎮守府で活躍していきたいのです!」


蒼龍の必死の願いに、


「そうか、白露たちでなく、お前もあいつと・・・」


鬼提督は怒るわけでも無く、呆れるわけでも無く、


「行け・・・どうせオレが断ってもお前は「行く!」と言い続けるのだろう? ならばオレは止める気は無い、


 さっさと荷造りして早くこの鎮守府から去れ!」


「! あ、ありがとうございます!!」


蒼龍は鬼提督に深く頭を下げる。


・・・


「提督ぅ~! 蒼龍さんが鎮守府にやって来たよ!」


白露の報告で鎮守府外に蒼龍が待機しているとの事。


「蒼龍が? 分かった、すぐに向かう。」


提督は書類を整理して執務室から出る。



「提督、お久しぶりです!」


「ああ、久しぶり・・・それで、どうした? 大将殿と喧嘩でもしたか?」


「いえ、そんなわけではありません。」


「・・・」


「私、蒼龍は・・・提督の元で再び活躍したく、ここに参上しました。 どうか、私が着任するのを許可していただけませんか?」


蒼龍の願いに、


「うん、いいよ。 じゃあ部屋の案内は白露に頼むから。」


提督は喜んで着任を許可する。


「あ、ありがとうございます! そして、今日からまたよろしくお願いします!」


こうして、提督が昔鎮守府にいた時、主力部隊で活躍中だった蒼龍が再び提督の鎮守府に再着任した。



蒼龍の再着任を知り、彼女と同じ提督と関わりのあった艦娘たちが次々と鎮守府着任希望を求める。


それに対し提督は喜んで彼女たちを受け入れる。 その結果、昔とほぼ変わらない(むしろ増えた)艦娘たちが戻って来た。


当然、周りの提督達から怒りを買う事になるも、最高階級の肩書きと、提督の昔の異名が相まって、


誰も異議申し立てをしなかった。



一度は提督を辞め、店に転職した提督だが、


大切な仲間を守るため、再び提督として着任する。


その結果、昔から付き合いの長かった艦娘たちが再び集まり、新たな生活が始まろうとしている。


これからの鎮守府生活を彼女たちと一緒に楽しく生活をして行きたい、と心に誓う提督の姿があった。














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SS好きの名無しさんから
2019-09-01 17:47:14

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SS好きの名無しさんから
2019-09-01 17:47:15

このSSへのコメント

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1: SS好きの名無しさん 2019-09-01 17:50:13 ID: S:zRexGU

陸軍が出ているSSは、見たことあるけど空軍は見たことなかったので新鮮でした!
なぜ、空軍は出ていないのでしょうか?


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