2019-09-18 17:08:52 更新

概要

陛下の側近であるウォースパイトが体調を崩し、彼女の代わりに任された人間が・・・


前書き

キャラ紹介、

提督:元提督・・・だったのだが、再び鎮守府に着任した提督。

村雨:提督の嫁さん、今は鎮守府で給仕をしている。

海風:提督の嫁さん2、村雨と同じ鎮守府で給仕を行っている。

白露:提督の鎮守府にいる元気な白露型長女。

ウォースパイト:ロイヤル所属戦艦で陛下の側近、過労の影響で体調不良で倒れる。
        提督と面識があり、提督の事を「給仕殿」と呼んでいる。

陛下(クイーンエリザベス):ロイヤル拠点を統括する戦艦であるが、見た目は子供。
              そして超偉そう!(偉いのだが・・・)

ロドニー:ロイヤル所属戦艦、ウォースパイトが倒れた事により、提督に相談を持ち掛ける。

ベルファスト:ロイヤル所属軽巡且つメイド長。

イラストリアス:ロイヤル所属装甲空母、優しく丁寧な口調で初対面の人間にも好意的印象を与える。

ユニコーン:ロイヤル所属軽空母で、イラストリアスとよく一緒にいる女の子。


ここはロイヤル拠点、


「こんにちは! あたしは白露です! 今日から短期間ですがお世話になりまーす!!」


白露型の長女である白露が元気よく挨拶をする。


・・・


事の発端は、2日前の事。


「提督、鎮守府外に不審者らしき人間が2名います!」


門番をしている艦娘から報告があり、様子を見に行く提督。



「・・・不審者と聞いたから、来てみれば。」


提督は2人を見て、


「ロドニーとそれからウォスパ・・・見るからに体調が悪そうに見えるけど?」


ロドニーに抱えられているウォースパイト、表情も酷く疲れているに見え、


「お久しぶりです、指揮官。 今すぐに事情を説明したいのですが・・・」


ロドニーは何度もウォースパイトを見ては、心配そうな顔をする。


「・・・分かった、ウォスパを休憩所へ連れて行こう、話はそれからだ。」


そう言って、提督とロドニーでウォスパを担ぐと、鎮守府内へと入る。


・・・


「これでいいだろう・・・」


ウォースパイトを寝かせ、点滴を付け額に氷枕を乗せる。


「ありがとうございます、指揮官。」


ロドニーも安心したようで提督に礼をする。


「・・・それで? 一体ウォスパの身に何があったの?」


「はい・・・早朝から突然倒れてしまって。」


ロドニーは早朝での出来事を説明して行く。


・・・

・・



少し遡って、


「おはようございます、ウォースパイト様!」


早朝、廊下でウォースパイトと会い挨拶をするロドニー。


「ああ、おはよう・・・ロドニー。」


ウォースパイトは挨拶を交わすが、何か表情が暗い?


「大丈夫ですか? 顔色が悪そうに見えますが?」


「ええ、少しね。 でも、こんなのいつもの事よ。 今日も朝から陛下をお連れしてそれから・・・(ぶつぶつ)」


「そうですか、あまり無理をなさらないように。」


「分かってる・・・それじゃあ。」


そう言って、ウォースパイトと別れたロドニー。



・・・しかし、その1時間後、


「ふぅ~、陛下を会議室へと連れて行って、と。」


ウォースパイトはメモ帳を開き、次の作業に取り掛かろうとする。


「次は、ロイヤル幹部との会議・・・私が先導して拠点内の出費等の削減案について説明し、その後2時間後に


 陛下をお迎えして・・・それから。」


彼女は今日も忙しい、休む暇もない程に。


「うっ・・・少しめまいがする。 でも、少し休憩すれば良くなるわよ!」


そう言って、気合を入れ、歩を進めた瞬間、


「んっ・・・あれっ? ・・・うっ(どさっ)」


ウォースパイトはその場で倒れ、意識を失う。



「!? ウォースパイト様! どうしたのですか、しっかりしてください!」


通りかかったイラストリアスが倒れているウォースパイトを見つける。


・・・


すぐに休憩所へと寝かされ、意識は戻るも、


「行けません、ウォースパイト様! 今はまだ休んでいてください!!」


休む間もなく再び、動こうとする彼女をひたすらイラストリアスが止めに入る。


「私は休んでいる暇は無いの! 今日も予定がたくさんあるんだから、こんな場所で寝ている訳には!」


「ウォースパイト様! 先ほど廊下で意識を失っていたのですよ、それなのに急に動いて!


 今日は無理をなさらずにゆっくり体を休めてください!」


「うるさい、イラストリアス! その手を離しなさい!!」


休憩所で言い合う2人、そして、


「ううっ・・・まためまいが。 ・・・くっ。(ばたっ)」


ウォースパイトがまた意識を失う。


「!? ウォースパイト様、しっかりしてください!!」


イラストリアスがまた叫び出す。



その後、すぐ仲間たちに報告。 ウォースパイトは絶対安静とし、代役(特に陛下のお守り)を立てることになった。


「ウォースパイトが倒れた? 一体何をやっているのよ!」


ウォースパイトの代わりが陛下のお迎えをするが、事情を説明するや否や陛下は怒り心頭だ。


「体調管理を怠ったウォースパイトが悪い! ただでさえ、今月は忙しいのに勝手に倒れるなんて・・・


 私の負担が増えるだけじゃない!!」


陛下は心配する様子も無く、今月の予定だけしか気にも留めていない。


「それで? 貴方がウォースパイトの代わり? じゃあちゃんと代役を務めてよね!」


陛下は不満そうに叫ぶ・・・その場は、何とか治まったものの、


「何をしているのよ! 私の靴はまだ出せないの!」



陛下の身の回りの世話はいつもウォースパイトが行っていた、もちろん陛下の私物の位置、予定も全て把握した上で。


当然ながら代役を命じられた人間に、陛下の私物の位置や今後の予定など分かるはずも無く、


朝から陛下の怒声が響き渡る。



「ウォースパイトの代わりなんでしょ! 何でもっと早く行動できないのよ!!」


陛下は怒りが治まらない、それでも代役はただ「申し訳ありません」と謝るしかない。


「全く・・・こんな忙しい時に勝手に倒れて・・・ふんっ!」


以降も陛下はずっと不機嫌なままで過ごしていた。


・・・

・・



そして、ウォースパイトはその後も意識を失ったままで、仮に目覚めてもまた動き出すことを恐れて急遽ロドニーが


提督の鎮守府へ連れて来たと言う物。


「成程、状況は分かった。 しばらくここで寝かせておけばいい。」


「ありがとうございます・・・ですがまた意識が戻ったら・・・」


イラストリアスからの報告で、再び無茶をするのではないかと不安になるロドニー。


「大丈夫大丈夫、もし目覚めたら無理やりにでも寝かせるから(笑)」


提督の横に、海風が待機していて、


「お任せください、その時は海風が丁寧に、そして絶対安静にさせますので♪」



満面の笑顔で口調は丁寧であるが、手には何故か金属バットを所持している・・・


「(怖)・・・そ、そうですか。 では、ウォースパイト様をお願いします!」


ロドニーは安心するも、彼女の表情はまだ暗い、


「どうした? ・・・もしかしてだけど、陛下のお守りにも困っているとか? 今の話を聞いた限りではね?」


提督の質問に、


「察しがいいですね・・・まさにその通りなのです。」


ロドニーが説明する。


「ウォースパイト様が倒れてから、急遽違う人間が代わりをしておりますが・・・ウォースパイト様のように、


 陛下の身の回りの世話を出来る人間はそうはいなく、代役である人間が陛下から朝から叱責を受けています。」


「・・・」


「代わりの方も、手を焼いておりまして・・・出来れば、”陛下の世話役”も依頼したいのですが・・・」


ロドニーは提督を見るも、


「悪いね、オレはこの鎮守府の提督として着任した身、勝手気ままにあちこち旅行できる身分じゃなくなってね~。」


「そうですか・・・それでは仕方がありません。」


ロドニーは諦めて、拠点へ戻ろうとすると、


「そうだなぁ・・・オレの代わりに行かせられる人間ならいるけど?」


提督の言葉に、


「! 本当ですか? 可能なら是非お願いします!!」


「分かった、じゃあちょっと待ってて。」


そう言って、無線機を取り誰かに連絡を入れる提督。


・・・


そして、ロイヤル拠点へと帰還、


「こんにちは! あたしは白露! 短期間ですがお世話になりまーす!!」


提督が指名した人間、それは白露型の長女”白露”。


「・・・」


ロドニーは心配である。


「本当にこの子で大丈夫でしょうか? 指揮官の指名ですから疑うつもりはありませんが、


 ・・・事もあろうに駆逐艦の子に。」


提督は何故陛下のお守りを駆逐艦に任せたのかが理解出来ないロドニー。



・・・しかし、ロドニーはまだ知らない。


白露の姉力の前では、陛下ですら凌駕することになろうとは・・・


・・・


「え~っと、白露ちゃんと呼べばいいかしら?」


「はいっ、お任せします!」


白露は元気よく答える。


「分かりました、それでは今日からロイヤルを束ねる陛下のお世話を担当して貰います。」


そう言って、ロドニーは白露に鍵を渡す。


「こちらが陛下の部屋の鍵です、今はもう就寝していると思います。 いきなりで大変かと思いますが、明日から


 陛下のお世話をお願いします!」


ロドニーは白露に礼をすると早々に立ち去る。


・・・


「うわぁ~、ここが陛下の部屋~♪ あたしの部屋より断然大きくて豪華だぁ~♪」


陛下の部屋に入るなり、白露は部屋の大きさと部屋中の装飾を見て驚く。


「陛下って言うんだから、一体どんな高貴な人なんだろう~♪」


白露の脳裏には、「とっても美人で何でも出来て、非の打ちどころの無い完璧な女性」と思っていたが、


「さっきからうるさいんだけど・・・ふぁ~あ。」


白露の声が聞こえたのか、陛下が不機嫌そうに目覚める。


「・・・と言うか、貴方は誰? 誰の許可で私の部屋に入っているの!」


白露を見た陛下は怒り心頭だ。


「ロドニーさんに案内されて・・・ほら、陛下の部屋の鍵も預かってるよ♪」


そう言って、白露は部屋の鍵を見せる。


「ロドニーが? つまり、今度の私の世話役が・・・貴方って事?」


陛下は理解するも、


「何よ、どこの馬の骨か分からない人間を連れて来て・・・ロドニーは一体何を考えているの!」


陛下はまた不機嫌になる、


「・・・と言うか、質問だけど。」


白露は陛下に向かって一言。


「あなた誰? あたしは陛下の世話係を命じられたんだけど?」


「わ、私が誰かって・・・し、失礼ね! 今の発言は死刑に値するわよ!」


陛下は怒り出し、


「私がこのロイヤルを統括する陛下のクイーンエリザベスよ! よぉく覚えておきなさい!!」


白露に自分が陛下と名乗るも、


「ええっ、貴方が陛下なの? 嘘でしょ、まだ子供じゃん! 冗談は止めてよ~!」


白露は笑い出す。


「なっ、なっ、この庶民! 私を侮辱するなんて許さない! 貴方は即刻死刑よ、し・け・い!!」


初対面だと言うのに、死刑と言われる始末の白露だが、


「もうっ、子供の分際で死刑って言葉なんか使っちゃ駄目だよ、子供なんだからもっと丁寧な言動を使いなよ!」


白露がムッとして陛下に言い寄る。


「子供!? 子供って・・・私を子供扱いしないで!! 私はこのロイヤルを統括する陛下だって何度言えば!!」


陛下の怒りが頂点に達するも、


「だ~か~ら! もっと丁寧な口調で言いなさいよ!! さっきから死刑だの許さないだの、言って来て。


 じゃあやって見なさいよ、ほら早く! あたしを死刑にしてみなさいよ!!」


白露が言い寄ると陛下は急に引っ込む。


「しょ、庶民の分際で、この私に抗議するなんて・・・」


手をわなわなと震わせる陛下に、


「だから、あたしを死刑にしてみなさい! 今すぐに、早くやって見せてよ!!」


白露は陛下の意見に動じず、それどころか怯まず陛下の前に立つ。


「い、いいわよ。 じゃあ今からベルとロドニーを呼んで今すぐに貴方を死刑に・・・」


陛下の言葉に、


「はぁ? 何で人に頼ってんの? 貴方があたしを死刑にするんじゃないの?」


「なっ、私は陛下よ! そんな野蛮な行為を私はしないわ、やるなら部下のベルやロドニーたちに!」


「だからぁ! 自分で喧嘩売って置いて、人に押し付けるわけ? 君ってさぁ、陛下って言うけど本当はただの


 口だけ達者で1人じゃ何も出来ない役立たずなんじゃないの?」


白露の遠慮のない言葉に、


「や、役立たず? 私に向かって役立たずって!? どこまで無礼なの貴方は? あんたは死刑! 今すぐ死刑よ!」


陛下は負けじと白露に言い張るも、


「じゃあ何でも出来るんだよね? じゃあ、見せてよ! 陛下の名に恥じない働きを今すぐ見せて!!


 ちゃんと出来たら、その時は貴方を陛下として認めて、何でも言う事聞くから!」


白露の挑戦とも言うべき内容に、


「・・・ふ、ふん。いいわよ! 私は陛下よ、何でも出来るに決まってるじゃない!!」


そう言って、自信満々に答える陛下。


・・・


「ねぇ、まだ着替え出来ないの?」


白露が「まだぁ~?」と口を酸っぱくする。


「わ、私の服と・・・靴下は、どこ? どこだっけ?」



身の回りの世話を全てウォースパイトにさせていた陛下、当然どこに置いてあるかなど知るはずが無く、


着替える時点で苦戦する始末の陛下。


「やっぱり君さぁ~、散々偉そうに言ってたけど結局、口だけ達者じゃん!」


白露の言葉に、


「うう~・・・で、でも、私は陛下よ! この拠点で一番偉いの!


 だから身の回りは全てウォースパイトやベルに任せておけばいいのよ!!」


説得力の無い言い訳をするも、


「だからぁ~、つまり貴方は”自分1人では何も出来ない”ってわけだね!」


「・・・」


白露のとどめとも言える言葉に最早陛下は何も答えられない。


この日から、陛下にとって最悪な世話役が就いたと思ったのは言うまでもない。


・・・


早朝5時、


「朝だよ~起きて!」


白露が陛下を起こそうとする。


「う~ん・・・もう朝?」


陛下は時計を見る。


「・・・まだ早朝の5時よ! 早すぎるわ! まだ寝かせてよ!」


そう言って、再び床に着こうとする。


「起きなさい! 皆はもう既に起きて食事の準備や、出撃・遠征(委託)に行く準備をしてるんだよ!


 寝ているのは貴方だけ、早く起きなさい!!」


白露は強引に陛下の布団を取り払う。


「な、何をするのよ! 私はまだ寝たいと言ってるでしょ! 


 私は陛下よ、陛下なんだからもっとゆっくり寝かせてくれたって・・・」


「陛下だから早く起きるんだよ! それとも何? 陛下って言う肩書を使って甘えているだけなわけ、君は?」


「・・・」


白露の言い分にムッと来たのか、陛下は素直に起きる。



「おはようございます陛下! 今日は珍しくお早い起床ですね?」


メイド長のベルファストが陛下に深く礼をする。


「私だってもっと寝たかったわよ・・・それなのに、私の世話役が無理やり起こすから・・・」


陛下は欠伸をしながら食堂へ、白露はベルファストに元気よく挨拶をして一緒に食堂へ向かう。



「わぁ~すごぉい! 朝食も鎮守府と違って豪華だぁ~♪」


白露は出された食事を見て目を輝かせる。


陛下を軸に幹部たちが座って行き、陛下の号令後に幹部たちが食を始める。


「いただきまーす!!」


その中で一際元気いっぱいに声を出す白露。


「珍しいわね・・・陛下がこんな朝早くに起きるなんて。」


ネルソンが不思議そうに思っている。


「はい、陛下の世話役である白露ちゃんの影響かと思われます。」


そう言って、ロドニーは陛下の隣で座っている白露の紹介を行う。


「あらぁ、とても元気があっていい子ですね♪」


イラストリアスは白露を見てくすくすと笑う。


「ユニコーンともしかしたら話が合うかもしれませんね~♪」


「後でユニコーンを紹介してみようかしら?」と思うイラストリアス。


「・・・」


陛下の食が何故か浅い、


「どうなさいました陛下、お口に合いませんでしたか?」


メイド長のベルファストが陛下に近寄る。


「冷めてて美味しくないわ! 新しいのを持って来て!」


「・・・かしこまりました、今すぐに!」


そう言って、陛下の皿を下げようとしたベルファストだが、


「待ったぁ! だったらあたしが食べる!」


何と、白露が横から乱入し、陛下の皿を取り上げる。


「はむはむ・・・お、美味しい~! とっても美味しいじゃんこれ!」


白露は夢中で食べ続ける。


「・・・」


白露の行動に陛下とベルファストは呆然とする。


「冷めてて美味しくないって・・・全然温かいし凄く美味しいじゃん!


 何を屁理屈言ってるの君は?」


白露はまた陛下に意見をする。


「う、うるさい! 私は陛下よ! 私が不味いと言ったら不味い、取り替えてと言ったら取り替えるの!!」


陛下は反論するも、


「出された食事は最後まで食べるのが人としての礼儀! 陛下と言う身分なら最後まで食べるべきじゃないの!!」


白露の言葉に、


「・・・」


陛下はまた口を閉ざす。


「白露様、全ては私たちが悪いのです、陛下のお口に合わない料理を作った私たちの責任です。」


ベルファストが口を出すも、


「ベルさん、甘すぎだよ! そんなに甘く接するから調子に乗るんだよ!!」


白露は猛反論する。


「世の中にはね、食べたくても食べられない人だっているんだよ。 それなのに、自分の口に合わないからって


 平気で残すなんて、そんなのは人じゃないよ! 貴方は陛下でも何でもない、人間のクズだよ!!」


白露の容赦ない言葉に、幹部たちは一瞬耳を疑い、同時にそれを聞いた陛下も、


「人間のクズ!? 私が人間のクズって・・・どこまで私を馬鹿にするのよ!!」


陛下は遂にブチ切れて、


「ネルソン・ロドニー!! もう我慢できないわ! この者を捕らえて即刻死刑にしなさい、今すぐに!!」


遂に陛下は白露に処刑命令を下す、


「ふ~ん、都合が悪くなったら今度は「死刑、死刑」って・・・どこまで行っても子供なんだね~。」


白露は呆れ返る。


「あのさ、まずはこれを食べたら? 貴方が残したこの料理、メイドさんが可哀そうだと思わない?」


「可哀そうって・・・ベルに対して何が可愛そうなのよ!」


陛下はまだ怒りが治まらない。


「食べて貰えなくてそのまま捨てられちゃうんだよ? せっかく食べて貰おうとメイドさんが一生懸命作って


 貴方に出したんだよ? それを「いらない」って言って、食べないって・・・人として最低だと思わない?」


「・・・」


「もし、貴方が皆のために一生懸命作った料理を「不味いからいらない!」って言われて捨てられたら、


 どう思う? 悲しくて泣いちゃうんじゃない?」


「・・・」


「どうなの? とても悲しいでしょ? でも、今は貴方がメイドさんにそれをやってるんだよ、分かるでしょ?」


白露の説明に、


「・・・う、うん。確かにそうね・・・」


怒りが治まり、急に大人しくなる陛下。


「だったら、ほら。 食べてよ? 冷めてても美味しいから、ね?」


白露が取り上げた皿を返す。


「・・・い、いただきます。」


受け取ると、静かに食べ始める陛下。


「んぐんぐ・・・もぐもぐ・・・」


「陛下、無理をなさらないでください。 お口に合わなければ、すぐにお取替えを致します。」


ベルファストが口を出すも、


「いいわ、食べるから・・・はむはむ。」


陛下は何も言わず黙々と朝食を摂る。


・・・


その頃、ウォースパイトは、


「駄目ですよ、今はゆっくり体を休めてください!」


無理やり起きようとするウォースパイトを海風が止めに入る。


「休んでいる暇は無いわ! 私がやらないと! 陛下の身の回りの世話が出来るのは、妹である私しかいないのよ!」


ウォースパイトが倒れた理由は、当然ながら多忙による”過労”である。


それでも自身の身の安全よりも陛下を優先するウォースパイトに、


「お気持ちは分かります、ですが倒れてしまっては元も子もないです。 お姉さんも心配なさっているはずですよ?」


海風の言葉に、


「心配? 陛下が心配するわけないでしょ! 陛下は自分が常に最高位であり、一番偉いの。


 側近が倒れた程度で心配する人間では無いわ、それが例え陛下の実の妹でもね!」


「・・・」



海風は思った・・・”姉妹ですら身分を最優先にするの?”と。


「とにかく・・・十分に休めたわ。 だから私を行かせて、この手を離して!」


ウォースパイトは海風の手を払おうとするも、


「駄目ですよ、提督と村雨さんには貴方を絶対安静させるように頼まれていますので・・・無理にでも♪」


そう言って、片手に金属バットを持つ海風。


「・・・」



流石のウォースパイトも殴られるのに恐怖を持ったのか、素直に従う・・・最も、既に数回殴られているが。


「分かったわ・・・だからその凶器を降ろして。 何度も頭を殴られたら嫌でも大人しくするわよ・・・」


このまま自分(の命)が永久に鎮守府から出られない事を考えると、素直に従う方が無難。 


そう思ったウォースパイトは言われたとおりに休息する。


・・・


「ほら陛下、今日は会議でしょ! 早く着替えて!」


早々白露の声が部屋内に響く。


「分かってるわよ・・・でも、外出用の服は・・・どこよ?」


相変わらず私物の位置が分からなくて困り果てる陛下に、


「そこのクローゼットの中の右から3番目のタンスの引き出しだよ!」


白露が指示をすると、


「・・・あ、あったわ! 私の外出用の着替え。」


陛下はほっとして着替えを始める。


「・・・と言うか、どうして知ってるのよ!?」



昨日来たばかりで、先程まで陛下と一緒に食事も同席していた白露。


休憩はあったがそれでも10分前後・・・その僅かな時間の間に陛下の私物の位置を覚えたのだろうか?


「違うよ、昨日陛下が眠った後、部屋内のタンスやクローゼットを全部開けて中身を見ただけ~。


 1時間位でほとんどの位置を覚えられたよ!」


白露は自信満々で答える。


「・・・」


陛下は驚きつつも着替えを済ませ、


「後、バッグはその棚に置いて置いたからね・・・書くもの(ペンとメモ用紙)は、はいこれね。


 それと後は何がいるかなぁ~・・・」


白露は既にウォースパイトと同じ働きを見せている。


「・・・」


陛下も白露の予想以上の働きに何も言えないでいる。


もちろん白露にとってはいつもの事なのだが・・・同じ鎮守府にいる妹(時雨や夕立)に対して、


普段から世話をしている事であり、ここでは”妹”が”陛下”に変わっただけなのだ。


・・・


「ああ~♡ この椅子気持ちいいわね~♡」


ウォースパイトが休憩所に置かれたマッサージ椅子に座って、くつろいでいる。


「私ってよく肩がこるのよ、誰でもいいから揉んで貰いたくても中々ね・・・


 いいわねこれ~♡ この椅子貰ってもいいかしら?」


「駄目ですよ、このマッサージ椅子はこの鎮守府の私物です、勝手に持って行けば提督から怒られますよ。」


「・・・それはそうよね。」


ウォースパイトはがっかりするも、久しぶりの休息を満喫している。


・・・


「おかえりなさい陛下、はいっ! 就寝用の着替え♪」


外出から帰って来た陛下に就寝用の着替えを出す白露。


「あ、ありがとう。」


素直に受け取るも、陛下の表情は暗い。


「? どうしたの? 何か元気ないね?」


白露は「ちょっと話でもしようか?」と言って、2人で一緒に座る、


「初めて会った時は庶民のくせに陛下である私に抗議して来て、内心苛立ったけど・・・」


「・・・」


「貴方の働きぶりを見て、貴方の言う通り私が一番何も出来ない人間だって今更分かったわ。」


そう言って、陛下は悲しい表情を見せる。


「最低でしょ? こんな最低な人間が陛下なのよ? 口では偉そうに言ってるけど、実際は1人じゃ何も出来ない、


 自分の着替えも私物すら探せない、全部ウォースパイトやベルたちに任せっきりの口だけ達者な最低な陛下でしょ?」


顔を手で覆い、「ぐすっ」っと泣き出す陛下に、


「そんな事無いよ、あたしは立派だと思うなぁ~。」


白露は明るく返す。


「だってこの拠点を統括してるんでしょ? 凄い事じゃん! 誰にも出来る事じゃないし、あたしだって無理だよ!」


「・・・」


「それに出来ないのは恥ずかしい事じゃないよ、出来ないのに出来る振りをするから駄目なの!」


「・・・」


「分からなければ誰かに聞けばいいじゃん! 聞いて覚えて次から自分で行動すればいいんだよ。」


「そ、そんなこと言ったって、今更誰かに聞くなんて・・・」


今の今まで人任せにしていた陛下にとって、”誰かに尋ねる”事はとても抵抗があるようだ。


「じゃあ今日から聞けばいいじゃん、大丈夫♪ あたしも一緒について行ってあげる♪


 2人なら恥ずかしくも無いし、怖くも無いでしょ、ね?」


白露の言葉に、


「う、うん・・・そうね。」


涙を手で拭い、白露に笑って返す陛下。


「じゃあまずは着替えの場所を覚えようか? はいっ、ペンとメモ帳!」


白露は立ち上がって、陛下に筆記用具を渡す。


「??? 一体何をするの?」


陛下は首を傾げる。


「まずはここ! このクローゼットの中に陛下の靴下と下着が入っているから! はいっ、メモして!」


白露の声に陛下はすぐにメモする。


「そしたらここ! そう、壁に紙を貼って・・・これで、ここに靴下と下着があるって分かるね! 


 じゃあ次はこっちだよ!!」


白露は次々に場所を指定して、陛下にメモを取らせて行った。


・・・


「おっ、海風。これから外出するのか?」


廊下で提督と海風が出会い、


「はいっ、これから駄菓子屋に行って、江風と私のお菓子を買って来ようと思いまして。」


「そうか、せっかくだからウォスパも一緒に連れて行ってくれる? きっと気に入ると思うからさ。」


そう言って、海風にお駄賃として菓子代を渡す。


「分かりました、それではウォースパイトさんと一緒に行って参ります!」


海風は彼女がいる部屋に向かう。



「こ、これは何かしら? 食べ物がいっぱい陳列してあるけど?」


ウォースパイトは普段は1人で外出をしない(陛下の側近である)ため、駄菓子屋と言う店に来たことが無い。


そのため、目の前にお菓子がたくさん並んでいる光景は彼女にとって、とても興味があったに違いない。


「これは食べてもいいのかしら? 見た事が無い物ばかり・・・」


当然ながらロイヤルの人間にとって日本の菓子など初体験だと思われるが。


「まだ食べては行けません、お会計を済ませてから初めて食べられます。」


海風が買い物の説明をする。


「そう・・・でも残念、私は日本のお金を持ってないわ。」


ウォースパイトはしょんぼりするも、


「大丈夫です、提督がからお駄賃を頂きましたので♪」


そう言って、海風は大きな籠を渡して、


「この籠に食べたい物を入れてください、全然余裕で買えますので♪」


それを聞いたウォースパイトは大興奮、


「こんなに大きな籠に入れてもいいの? じゃ、じゃあこれとこれに・・・そうね、後は陛下と後輩たちへの


 お土産として、これとこれも!」


お菓子を必死に選んでいる姿はさながら駆逐艦のように見えるウォースパイトである。


・・・


「白露~! どこに行ったの!」


陛下が白露を探している。


「私の世話役でしょ! 勝手にいなくならないでよ!」


不満になりつつ、食堂へ立ち寄る陛下。


「あっ、いたいた・・・って何してるのよ?」


陛下が見た物、それは白露がイラストリアスに肩揉みをしている光景。


「・・・」


陛下は気づかれないように陰で様子を伺う。


「ああ~うん、そこ。 気持ちいいです♪ 白露ちゃんは肩揉みが上手いのですね♪」


揉まれているイラストリアスはうっとりしている。


「えへへ~♪ いつも妹の肩を揉んであげてるから得意なんだぁ~♪」


白露は得意げに語る。


「お、お姉ちゃん! イラストリアス姉ちゃんが終わったら、ゆ、ユニコーンも!」


羨ましかったのか、ユニコーンも揉んで貰う事を切望する。


「はいはい、順番だからね~♪」


白露は笑顔で言葉を返す。


「・・・」


陛下は何と言うか、羨ましそうな表情で白露を見つめる。


「陛下、こんな所で何をしているのですか?」


「!? べ、ベル!?」


ベルファストに声を掛けられ、驚く陛下。


「申し訳ありません陛下、通らせていただきます・・・イラストリアス様、少しよろしいでしょうか?」


ベルファストはイラストリアスに用があったようだ。


「あら、白露様。 成程、イラストリアス様に肩揉みをしているのですね。」


「うん、これには自信があってね~♪」


「白露ちゃんの肩揉みはとてもお上手ですよ、ベルも揉んで貰ったらどうですか?」


「イラストリアス姉ちゃん! 次はユニコーンの番!」


白露がイラストリアスたちと仲良く振る舞っている姿を見て、


「お心遣い感謝致します、ですが私の様なメイドの身にそのようなご厚意をして貰うわけには・・・」


メイドは身分的に低いのか、白露の施しに抵抗がある模様。


「いいじゃん、メイドでも誰でも関係ないし・・・あれぇ、陛下じゃん! そこで何してるの?」


白露が陛下の存在に気付く。


「べ、別に。 貴方は私の世話役でしょ! 勝手にいなくなると困るんだけど!」


「あ~ごめんごめん。 いやぁ、色々回ってたらイラストリアスさんとユニコーンちゃんと会って意気投合しちゃってさぁ~♪」


既にフレンドリーな光景に見え、白露の人柄の良さに関心する陛下。


「あ、そうだ。陛下がベルさんの肩を揉んであげたら? いつも料理を作ってくれるんだから労いとしてさぁ。」


白露の提案に、


「白露様!? それは駄目です! 私如きに陛下の手を煩わせることなど!」


メイドは断るも、


「わ、私はやって見てもいいけど・・・やった事がないの。」


恥ずかしそうに顔を赤くする陛下に、


「大丈夫、上手いとか下手とかじゃないから! 気持ちの問題だよ、ベルさんに気持ちよくなって欲しい!


 そう考えて揉んであげればいいの!」


「そ、そう・・・じゃあ、ベル。 そこに座りなさい。」


「か、かしこまりました。」


陛下の指示で座るベルファスト、陛下は後ろに立って肩を揉み始める。


「最初はゆっくり掴んで、相手の反応を見ながら揉み揉みするの。」


「こ、こう?」


陛下は不器用ながらベルの肩を揉む。


「・・・どう、ベル? 気持ちいい? それとも痛い?」


陛下の申し訳なさそうに聞くと、


「・・・いいえ、陛下に肩を揉んで頂いて、このベルファスト、とても幸せにございます!」


「そ、そう? 良かったわ。」


気持ちが伝わった様で、陛下も思わず笑みがこぼれる。


「でしょ? 案外簡単なものでしょ? そしたら今度はベルさんが揉んで欲しい場所を正確にお願いする!」


白露が号令すると、不思議と皆は素直に従う。


「・・・で、ではもう少し左側をお、お願い出来ますでしょうか?」


「う、うん。 これでいい?」


「はい、とても気持ちよくございます。」


ベルファストは大変満足し、陛下も達成感を得て満足していた。


・・・


「・・・」


部屋で1人悩むウォースパイト。


「後数日で楽しい時間は終わり・・・」


どうやら本来いるべき場所に帰る時間が迫りつつあるようだ。


「・・・」


しかし、ウォースパイトは何故か表情を暗くしており、


「帰ったら陛下からどんな説教が待っているかしら・・・」


ウォースパイトは思う、


「恐らく「過労は貴方の体調管理不足でしょ! そんな理由で長期間休養を取るなんて言い身分ね!!」って言われそう。


 後は「それでも私の側近なの!! この愚妹!!」とも言われそうね・・・」


ウォースパイトの口から深いため息が出る。


「どうする私? 今はまだこの鎮守府で生活出来るから、いっその事ここで生活したい旨を伝えようかしら・・・」


ウォースパイトは拠点に戻るより鎮守府で生活したい気持ちを持っていた。


・・・


そんな事をよそに、陛下はと言うと・・・


「ウォースパイト、いつになったら帰って来るのよ・・・」


陛下は部屋で不満そうに呟く、


「過労で倒れたのは、私のせいだから。 帰って来たら「ごめんね。」って言いたいわ・・・それに、ずっと1人だと


 心細いし・・・私にとってウォースパイトは一番頼りになる実の妹なのよ。」


自分以外の人間を下僕扱いしていたのが、白露との生活により自分勝手な行動をしなくなり、


そしてウォースパイトの事を「妹」と思うようになった。


・・・


「何? この鎮守府で生活したいって?」


ウォースパイトから「鎮守府に残りたい」と相談を受ける提督。


「ええ、陛下の事よ。 側近が1人いなくなった所で心配するはずが無いし。」


「・・・」


「どうせ帰っても陛下からの大説教は免れないだろうし、またこれから重労働をさせられるくらいなら・・・


 いっその事、違う環境で生活する事も悪くないかな、と思って。」


「そうか、まぁ気持ちもわからなくも無いが。」


提督は少し考え、


「一度拠点に戻って見ろ、それでもし、ウォスパが思った通りの予想ならこの鎮守府で生活してもいいぞ。」


「・・・」


ウォースパイトは思った、「戻ったからって誰が出迎えてくれるのよ?」、と。



それから2日後、


ウォースパイトは帰る時が来た。


「お世話になりました、おかげですっかり疲れが取れたわ。」


ウォーパイトは提督に礼をする。


「ああ、オレはこの鎮守府にいるから、何かあれば連絡してくれ。」


「ええ、ありがとう・・・ぞれでは、私はこれで。」


皆への土産と荷物を持って帰ろうとする、


「おっと・・・一応これを渡して置くよ、あくまでオレの気持ちだが。」


提督がウォースパイトに何かを渡す。


「これって・・・指輪、よね? どうして私にこれを?」


指輪を渡されて不思議そうな顔をするウォースパイト。


「何だ、覚えてないのか? 嫁さんから聞いたんだけど・・・」


提督は彼女が鎮守府に運ばれてすぐの出来事を説明する。


・・・

・・



過労により倒れ、ロドニーに担がれて鎮守府で休養することになったウォースパイト。


初日は面識のある村雨が看病をしていたのだが、


深夜になり、突然ウォースパイトがうなされる。


「大丈夫ですか、ウォースパイトさん。」


村雨はタオルを濡らして、彼女の顔に乗せる。


「わ、私はもう・・・駄目、かも。」


夢の中だろうか、ただ苦しくて言葉を発しているのか、彼女の口から苦悩の声が出る。


「大丈夫ですよ、過労で死んだ艦船は今の所いませんから♪」


聞こえているか定かではないが、村雨はウォースパイトに語り掛ける。


「私はもう、助からない・・・なら、貴方に・・・ずっと伝えたかった事が・・・」


そう言って、呼吸が荒く苦しそうな状態に関わらず、


「きゅ、給仕殿! わ、私は・・・私は!!」


一度深呼吸をして、叫ぶ。


「給仕殿! あ、貴方の事が・・・好き、好きでした!! (どさっ)」


明らかに告白とも言える発言をした後、そのまま気を失うウォースパイト。


「あらぁ~、まぁ~♪」


側で聞いていた村雨は思わず顔を赤くした、らしい。


・・・

・・



「・・・(恥)」


「とまぁ、そんな事を言っていたらしい・・・よりによって嫁さんの目の前で。」


「・・・」


ウォースパイトは途端に顔を赤くする。


「いや、私はただ・・・その、つまりは・・・あの。(照)」


ろれつが回らない位に動揺し始めるウォースパイト。


「まぁ、お前の気持ちは分かった・・・だから、オレなりの気持ちとして、それを渡して置く。


 うん、あくまで”気持ち”だからな!」


提督も恥ずかしいのか、顔を赤くする。


「・・・で、ではまた! 給仕殿!!」


「ああ、また今度、ウォスパ!」


互いに挨拶をし、ウォースパイトは自身の拠点へと帰って行く。


・・・


「陛下の扉の前まで来たけど・・・はぁ~。」


ウォースパイトは深くため息をつく。


「どのくらいの時間、説教を受けるかしら?」と思いつつ、意を決して扉を叩く。


「陛下、ウォースパイト! 今帰還しました!!」


ウォースパイトが叫ぶと、


「ウォースパイト!? ・・・少し待って。」


陛下は一瞬驚き、彼女に待つように指示をする。


「怒っていない? でもまだ分からないわ、開けた瞬間激高する可能性も・・・」


今の彼女には、陛下に叱られる事しか頭に入っていない。



・・・数分後、


扉が開き、陛下が彼女の前に立つ。


「陛下、申し訳ありません! このウォースパイト! 自己管理不足で倒れた上に、


 陛下と皆に多大なご迷惑を掛けてしまって・・・」


ウォースパイトはすぐに謝罪するも、


「あっ、うん。 その件はもういいわ。」 


「はい? 陛下、今何と?」


「だから、その件はもういいと言ったの。 だから謝る必要も、弁明する必要も無いわ。」


そう言って、陛下は歩いて行く。



「今日のメニューはこちらになります。」


ベルファストが手際よく、陛下と幹部たちに食事を提供する。


「では・・・頂きます。」


陛下の声と共に幹部(ネルソン・イラストリアス達)も食事を始める。


「・・・」


ウォースパイトは不思議そうに周囲を見回す。


「いつもなら陛下から何か話題を出すはずだけど・・・陛下は何も言わない。」


いつもの食事では陛下が口を開き、幹部たちが頷いたり、回答をしたりするが、今日は何故か話題すら出さない。


「・・・」


「もしかして怒っているのでは?」と心配になるウォースパイトだが、


「陛下、今日の夕食はいかがでしょうか?」


ベルファストが陛下の前に立つ。


「・・・そうね、悪くないわ。 いつも作ってくれてありがとう。」


「いいえ、勿体なきお言葉にございます。」


「えっ!? いつもなら、「味が濃い!」「美味しくない!」と言って、突き返すのに、今日は素直に食べるなんて!」


2人の会話を見てウォースパイトは驚く。



驚いたのは食事の時だけではない、部屋に戻った時も陛下の行動に驚かせる。


「へ、陛下! ご自分で着替えたのですか!?」


いつもならウォースパイトに服や私物を持って来させるのだが、陛下はある所全てを把握していた。


「陛下! 一体どうしたのですか! 何があったのですか?」


陛下の激変に思わず尋ねるも、


「別に・・・いつもウォースパイト、いいえ。 妹に任せっきりも良くないから、自分で覚えようと思っただけよ。」


陛下は恥ずかしそうに答える。


「妹・・・確かに、私は陛下の妹です。 でも、妹である以上に私は陛下の側近であってそんな情けなど。」


「私が覚えたいと思ったから覚えたの! 本当にそれだけよ。」


「・・・」


「でも本当は・・・それを私に教えてくれた子がいたからよ。」


そう言って、陛下は「おやすみ」とだけ言って、明かりを消す。


・・・


「お疲れ様です、提督。」


海風が緑茶を注いで提督に出す。


「ありがとう、海風。」


提督は出された緑茶をすすぐ。


「そう言えば、ウォースパイトさんはどうなったのでしょうね~。」


海風は彼女の話題を出し、


「”この鎮守府で生活したい”、と言ってましたが戻って来ません・・・何かあったのでしょうか?」


「そうだなぁ~、あっちでの生活に満足しているんじゃないか?」


「成程、ではウォースパイトさんの望んだ環境になったわけですね?」


「そう言う事、流石白露だね。 鎮守府に留まらず、外の陣営でも見事な活躍ぶりだよ。」


2人は白露の活躍に感服する。



※因みに白露は、ご褒美に2泊3日の温泉旅行に行っている。


・・・


数か月後、


鎮守府に意外な人物が現れる。


「ウォスパ? どうした、また陛下と喧嘩でもしたか?」


来た人間はウォースパイト・・・しかし、今回は体調不良で来たわけでは無い様子。


「いえ、陛下との関係は均衡を辿っているんだけど・・・」


口では言うも、ウォースパイトは何故か不満そうで、


「陛下が自ら行動してくれて、私的には負担が無くなって良かったと言えば良かったのだけど・・・


 逆に私が動かなくても良くなって・・・何と言うか、頼られなくなって、少し寂しいと言うか何と言うか・・・」



ウォースパイトによると、白露のおかげで陛下の態度が変わったまではいいが、


激変し過ぎて逆にウォースパイト自体の居心地が悪くなったらしい。


「いえ、給仕殿の提案に文句を言っているわけでは無いの。 給仕殿には感謝をしているし、その・・・白露ちゃんだったわよね?


 女将さんのお姉さんで、陛下にマナーを指導してくれたのは?」


「うん、そうだよ。」


「もちろん白露ちゃんにも感謝している・・・いえ、皆には感謝してもしきれないわ・・・だけど。」


ウォースパイトは再び寂しそうな顔をして、


「まぁ、言いたいことは分かる。 要するに”頼られたい”って事ね?」


「・・・」


ウォースパイトはこくんと頷く。


「じゃあ、しばらく鎮守府で生活してみる? そんな気持ちはすぐに払拭されるぞ、忙しすぎて(笑)」


提督の提案に、


「せ、精一杯頑張るわ。」


こうしてウォースパイトは提督の鎮守府で生活する事になった。



1か月後、


「陛下、ウォースパイト様から荷物が届いております。」


ロドニーが陛下の前に届いた荷物を差し出す。


「待っていたわ、どれどれ~♪」


陛下は楽しみのようで箱の中身を見る。


「うんうん♪ 頼んだチョコレートとポテトチップス・・・だったかしら? 帰って来た時にお土産と言って


 持ち帰った駄菓子って言う食べ物・・・ロイヤルでは絶対に味わえない美味だったのよね~♪」


陛下は日本の駄菓子を気に入った様子。


「ウォースパイトは別の拠点で修行中って聞いたし・・・私も陛下としてこの拠点をきちんと統括しないとね。」


陛下は自立し、今ではロドニーたちも安心して陛下に仕えている。


・・・


「ウォースパイトさん! この皿を持って行ってください!」


「はいっ、ただいま!」


海風に言われてウォスパは急いで盛られた食事皿を持って行く。


「ウォスパさん! こっちも急いで!」


今度は村雨から頼まれる始末。


「はい、すぐに~! ・・・ふぅ、陛下のお守りも大変だったけど、給仕の仕事も同じくらい大変ね。」


「ベルファストは凄いわね~」と思うウォースパイト。



現在ウォースパイトは村雨と海風の下で働いている。


一応陛下には「この鎮守府で修行をしたい」と申し出て、それを受理して貰っている。


月に1回、駄菓子屋で購入する大量の菓子と手紙を送って交流を続けている。


「ウォスパさん! 休憩にはまだ早いですよ! これとこれを蒼龍さんの所に持って行って!」


鎮守府の食堂はとても忙しい、店と違って着任艦娘の分を調理しなければ行けないのだから。


「はい~! 今すぐ持って行きます!!」


額の汗を拭って、再び仕事に戻るウォースパイト。 多忙だが、彼女の表情はとても明るく笑顔である。


今では鎮守府内の艦娘たちにも打ち解け、会話も弾んでいる。



彼女は完全に別世界の艦船だが、皆はそれを気にも留めずに交流を深めている。


最初は不安だったが、これからの生活に取り組む姿勢を見せるウォースパイトの姿があった。









「白露とエリザベス」 終










後書き

因みにウォースパイトは戦艦ですが、幼児体型なため駆逐艦たちから「同じ駆逐艦だぁ~♪」と
思われているのが悩み・・・らしい(笑)


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SS好きの名無しさんから
2019-09-06 02:41:52

このSSへのコメント

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1: SS好きの名無しさん 2019-09-05 22:58:43 ID: S:N0hDlW

良かったな陛下。
これが村雨なら…終ってるぞ。
それはともかく、この白露なら
村雨の…白露型の長女に相応しいのでは?


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