2019-11-13 08:21:27 更新

概要


海軍と艦娘に全てを奪われた提督のお話、
その③です。


皆様の応援が・・・作者を強くする!


前書き

家族を奪った張本人である親潮と再会した提督。
提督は親潮にある償いの仕方を教える。
しかしそれは償いというにはあまりにも酷な時限爆弾を抱えさせるものだった…

①→http://sstokosokuho.com/ss/read/15389

②→http://sstokosokuho.com/ss/read/16974


※本作で唯一名前のあるキャラ

《白友提督》 提督の同期で横須賀鎮守府の提督。
       艦娘に優しいホワイト鎮守府を運営している。
       提督の同期だったのが彼にとって最大の不運。







秘書艦の覚悟







【鎮守府内 親潮の部屋】





祥鳳「親潮さん、これからどうするのですか?」


親潮「え…」




私の言葉に親潮さんがようやく顔を上げる。



目は涙を流し続けた影響か真っ赤に腫れ、顔はクシャクシャなってに疲れ切っていた。




親潮「どう…するって…」


祥鳳「ここに残って…提督のために働くのかどうか、です」


親潮「そん…な…の…」



再び顔を伏せて嗚咽を漏らし始めました。




親潮「む…無理…です…そんなのっ…ぅっ…」


祥鳳「…」


親潮「どんな顔していればいいのか…わかりません…あんなこと…して…」


祥鳳「では…いつまでもここに閉じこもっているつもりですか?」


親潮「…!!」



私の咎めるような言い方に親潮さんが顔を歪めて睨みつけてきました。



祥鳳「提督への償いもせず、力になろうともせず、何もしないままいつまでも引き籠っているつもりですか?」


親潮「…さい…」


祥鳳「提督がこの10数年、どれだけ苦しんだか、あなたなら…」


親潮「うるさいいいいいぃぃぃぃっ!!!」



いきなり親潮さんが私に平手を頬にぶつけてきた。


私は避けようともせずそれを受け入れる。




バチン!という高い音が耳の奥に響き、衝撃で少し目が眩んだ。




親潮「あなたに何がわかるんですか!!私だって…私達だってあんなことを強制させられて、ずっと…ずっと…」


祥鳳「それは提督にとって何の関係もありません。今、あの人にとってあなたに全てを奪われたとしか思っていませんから」


親潮「だ、だったらどうすればいいんですか!!私、ずっとずっとどうすればいいのかわかんなくって…もう死ぬしかないんだって何度も何度も考えたのに…!でも…でも…」



辛そうに涙を零し震える親潮さん


少しずつ激昂した勢いが無くなっていく




親潮「黒潮さんが…最後に『生きろ』って…生きていれば絶対に良いことあるって、言って…わ、私は…うっ…ひっく…」





深海棲艦から逃がしてくれた姉妹艦のために親潮さんは生きてきたのでしょう。


それを生きる原動力として今まで過ごしてきたのでしょうが…




親潮「うっ…っ…わ、私…どう…すれば…っ…」




これまでずっと心の奥底では罪の意識を持っていたのでしょう。



隠し続け、目を背け、逃げ続けてきた分、その当事者に会って…いきなり過去のことに向き合うことを余儀なくされて親潮さんの心は滅茶苦茶に荒れています。


冷静になって考えろというには無理がありますが…



今は少し冷静さを欠いているくらいがちょうど良いのかも知れません。






祥鳳「どうするのですか?」




もう一度同じ質問をします。




祥鳳「ここで提督のために働きますか?」


親潮「…っ!」



親潮さんはきつく目を閉じて首を横に振ります。




それはそうでしょう。


提督は先程『罪を忘れた頃に全てを奪い取って裏切り、捨ててやる』なんて言ってたのですから。


そんな彼の下に居たいと思うはずがありません。




そうなると親潮さんに残された選択肢は一つしかありません。





祥鳳「それとも…ここから逃げ出しますか?」


親潮「え…?」




私の言葉に再び親潮さんが顔を上げます。




親潮「そんなこと…できるわけ…だって司令は…」




そう、提督は親潮さんが逃げ出した場合も『その瞬間に姉妹艦を全員殺す』なんて脅しをしていました。


言葉だけの脅しではありません。


もしも親潮さんが本当にこの鎮守府から逃げ出したら…今のあの人ならばそれを実行してもおかしくはありません。





祥鳳「させません」


親潮「え…」









ですから…私は覚悟を決めました。







祥鳳「もしも…提督が無関係の艦娘にその矛先を向け始めたのなら…」







そんなこと…本当は望んでいなくても…やるしかありません。



























祥鳳「提督を…殺します」

























親潮「え…?」



親潮さんが信じられないものを見るかのような顔をしています。



親潮「なん…で…そんなこと…」


祥鳳「艦娘に対してそんなことをする提督はもう必要ありませんから」


親潮「で、でも…そんなことしたら…」




通常であれば艦娘が提督の命を奪うようなことがあっては連帯責任でその鎮守府の艦娘は全員解体を余儀なくされます。



過去にそんな鎮守府があったことはどの艦娘も知っていることです。


艦娘の暴走を抑制するために訓練所や鎮守府でもよく耳にする話です。




祥鳳「心配しないで下さい。私はこの鎮守府に配属となった日にその権利を与えられていますから」


親潮「そ…そんな…」




その権利を誰に与えられたかは彼女に言うつもりはありません。


それが今の、そしてこれからの親潮さんにとっての逃げ道になるような気がしたからです。












私はこの鎮守府に来た翌日


提督から遺書を託されました。



この時は提督が『運悪く命を落とすこともあるからその時のために』と言っていましたが…




本当は提督は気づいていたのかもしれません。



自分が復讐に囚われた時、自分で自分を抑えることができずに制御不能に陥ってしまうこと


自分でも何をするかわからずに道を踏み外してしまうことに





それに…あの時提督は言っていました。






『もしも俺が復讐のために大きく道を外れるようなことをしたら…』


『事故に見せかけて俺の命を奪え』




それがどういうことなのか


どういう意味だったのか、今なら理解できます。






私は提督から託された




彼の本当の目的のために道を踏み外さないよう見張る監視者としての役割を





祥鳳(でも…本当は…)







提督の命を奪うようなことはしたくありません




このまま彼の傍で秘書艦として支え続けたいというのが私の望みだからです





もしも…本当に提督の命を奪うようなことになってしまったら…








私はきっと…その後を…









親潮「ダメ…です…そんな…こと…絶対に…」





膝を抱え、泣きながらも親潮さんは首を横に振ってくれました。



その回答に少しホッとしつつも罪悪感も湧いてきました。





私はこう言ったことで親潮さんの逃げ道を塞ぎ、提督の下に居るようにさせたからです。




親潮「でも…私…私は…っ…」




今度は過去のことに向き合い、提督のために償っていかなければなりません。


彼女にとって想像以上の恐怖と戦っていかなければならなくなりました。





祥鳳「親潮さん、良い方に捉えればこの再会はチャンスだと思います」


親潮「え…」



どういう意味なのかわからず親潮さんが視線を投げかけてきます。




祥鳳「親潮さんはずっと独りで罪の意識を抱えてきたのでしょう?」


親潮「…」


祥鳳「ですが…今は独りではありません。あなたのことを知り、想いを共有できる提督がいます」


親潮「そんなの…」


祥鳳「償って…許されるチャンスは必ずあると思いますよ」


親潮「…」




『そんなことは無い』と親潮さんは言い掛けたけれど…言いませんでした。




きっと…親潮さんも心のどこかではそう思っていたのかもしれません。


そんな重い罪を背負わされて楽になりたくないわけがありませんから…










祥鳳「これで良し…っと」




大人しくなった親潮さんの手の応急処置を終えて私は明るい声を絞り出して立ち上がります。



祥鳳「お部屋、キレイにしましょうか。このままですと天津風さん達が帰ってきたらビックリしますからね」


親潮「…」





その後は壊れた家具を廊下へ運び出したり、辺りに散らばったガラスの破片等を片付けました。


しばらくは何もせず私を見ていた親潮さんも途中から手伝ってくれました。





親潮「どうして…」


祥鳳「はい?」


親潮「どうして祥鳳さんは…そんなにもあの人のことを信じられるのですか…?」


祥鳳「…」



親潮さんからの質問に、以前天城さんから言われた言葉を思い出しました。






『祥鳳さんは提督を信じたいのですね』






そう、信じたい。



提督の中には復讐以外の道を選んでくれるという想いが存在していることと…



いつか親潮さんを許してくれるのではないかという希望…






甘いのかもしれませんが…今は…







祥鳳「どうしてなのかは…説明するのは難しいです」




親潮さんには自信を持ってこう答えます。





祥鳳「でも…私は…提督を信じています」























その後、親潮さんと共にお部屋を片付け



彼女を私の部屋の布団で寝かせた後







再び提督の下へと向かいました。













【鎮守府内 提督の私室】





祥鳳「失礼します」




先程と同じようにノックもせずに提督の部屋に入ります。




提督「…」




提督は先程と同じように椅子に深くもたれ掛かり天を仰いでいました。






まるで抜け殻です。



祥鳳「提督」



そんな提督の姿を見ていられなくて私は彼に近づきました。




祥鳳「親潮さんはこの鎮守府に残ることを決めてくれました」


提督「…」


祥鳳「提督への償いのために…明日からもこの鎮守府に残って働いてくれることを誓ってくれました」


提督「そうか…」



投げやりな返答でした。


何もかもどうでも良い


どうなっても知ったことではないというような力の無い返事でした。



提督「今日はもう寝ろ…」




そう言って提督は机の引き出しを開けました。



あの中には確か精神安定剤と鎮痛剤が入っています。



以前熱にうなされて暴れ回っていた提督が飲んでいたものでした。








祥鳳「…」









私は提督と距離を詰めて







そっと机の引き出しを閉めて







提督「おい…」






椅子に座ったままの提督の顔を自分の胸に引き寄せ






提督「やめろ…」






強く抱きしめました。
























提督…












私は…自分がどうしてこの鎮守府に残ることを決めたのか思い出しました










愛でもなく



恋でもなく





あなたに惹かれ、導かれ、あなたの行く末を見たいというのは…表向きの理由







本当は…













提督「やめてくれ…」












胸の中で提督は弱々しい声を出しつつも私から離れませんでした。
















本当は…










私がここに残った本当の理由は…
















過去を話し、復讐に憑りつかれているあなたが…















可哀想で…















見ていられなかったから…




















祥鳳「提督…」







提督はどこまで計算していたのか



私がそう思うことで離れられないようにしていたのかはわかりません









でも…







祥鳳「私が傍にいますから…」







今はそれ以上は必要ありません…







祥鳳「私がずっと傍にいますから…ね…」



提督「…」






今はこの感情を否定することなく、想いのままに提督を抱きしめ続けました









祥鳳「…」


提督「…」








しばらくそうしていると





提督から静かな寝息が聞こえてきました





親潮さんがこの鎮守府に来ると知り



体調を崩し、悪夢にうなされ続けた提督にとって



『久しぶりの休息となりますように』と心から願います。










私はゆっくりと提督をベッドに運び






提督が、そして親潮さんが悪夢にうなされないようにと心の中で祈り






ベッドで眠る提督の手を握りながら私も眠りにつきました



































長かった一日が




ようやく終わりました…

















____________________



償いの単艦







【遠征部隊 作戦海域】



風雲「沖波、大丈夫?無理してない?」


沖波「大丈夫です、風雲姉さん」


風雲「そう…」






天龍を旗艦とした遠征部隊は遠征先から物資を受け取り帰り道を進み始めていた。



天津風「天龍って遠征に慣れているわね」


天龍「万年遠征部隊だったからな…ちきしょう…」


天津風「褒めてるのよ。みんなが安心していられるってことよ」


天龍「そ、そうか?ふふん、凄いだろう」



調子の良い天龍に天津風達は苦笑いするしかなかった。



時津風「風雲も慣れているよね」


風雲「ええ。私も下積みが長かったからね」


雪風「それが今では改二艦ですね、羨ましいです!」


時津風「演習見てたけどさ、すっごく頼りになりそうだよね」


風雲「そ、そんなに期待しないでよ」



雪風と時津風の誉め言葉に風雲は少し顔を紅くして照れ臭そうにしていた。













沖波「…」








そんな風雲を見ている沖波の胸の奥で嫌な疼きを感じていた。







沖波(嫌だな…こんな感情…)







沸き上がってきそうなある感情から逃れるように、沖波は首を横に振って遠征に集中した。







_____________________





【鎮守府内 提督の私室】






提督「…」








ベッドで目が覚めた。




祥鳳「すー…」



祥鳳が床に両膝をつき、ベッドに顔を埋め俺の手を握りながら寝息を立てていた。








提督(嘘だろ…)







ここ数日、親潮のこともあってか毎日悪夢にうなされろくに睡眠が取れていなかった。



今日も必ず悪夢にうなされると覚悟していたのだが…


自分でも驚くほどにぐっすりと眠れて頭がスッキリとしている。




提督「…」





風邪をひいた時や過去のことに関わってしまった時、必ずと言って良い程に悪夢にうなされてきた。


昨日の親潮とのやり取り、あれだけ深く過去に関わったのなら悪夢は避けられないはずだった。




しかし…本当に驚くほどよく眠れた。





それがなぜなのか…?








『私がずっと傍にいますから…ね…』








まるで夢の中で聞かされたような祥鳳の言葉







彼女が傍に…








俺は手を伸ばし祥鳳の頭を撫でる。






祥鳳「ん…んぅ…」


提督「あ…」




頭を撫でたせいか祥鳳が起きてしまった。




提督「起きろコラ、いつまで寝てんだ」


祥鳳「あぅっ…」




急に恥ずかしくなって祥鳳の頭を軽く叩いた。



祥鳳「あ…提督…おはようござ…いまぅ…」


提督「…」




まだ寝ぼけているのか微妙に呂律が回っていない。



祥鳳「だ、大丈夫ですか提督…?あの…眠れましたか…?」


提督「ああ」


祥鳳「本当ですか…?」


提督「本当だ」


祥鳳「良かった…」





心底嬉しそうにホッとしている祥鳳を見て何とも言えない気持ちになった。




提督「涎の痕がついているぞ」


祥鳳「え…えええ!?」


提督「おまけに髪もボッサボサだ」


祥鳳「う、うそ!?」



慌てて立ち上がり部屋にある鏡で自分の顔を確認する。



祥鳳「あ、あれ…?」


提督「嘘だ」


祥鳳「て、提督っ!!」



ようやく騙されたのだと気づいたみたいで顔を紅くしながら怒ってきた。



提督「腹減った」


祥鳳「ちょ、ちょっと…!?」


提督「何か作ってくれ」


祥鳳「もう…少し待ってて下さい」





俺に話が通じないことに観念して部屋にある冷蔵庫から簡単な朝食を作ってくれた。





祥鳳「それでは私は親潮さんと食堂で朝食を済ませますね」


提督「ああ…」



親潮のことを考えると腹部の銃傷が嫌な疼きに襲われる。


祥鳳に気取られないよう取り繕っているが彼女は気づいているのか心配そうな目をしていた。




祥鳳「提督」




気を取り直して、と言った感じに祥鳳が真剣な表情になる。




祥鳳「あなたにはもっと大きな目標があるはずです」


提督「…」


祥鳳「こんなところで立ち止まっているつもりはありませんよね?」






大きな目標…か…。



こいつの言う通りだな。







提督「お前に言われなくてもわかっている」


祥鳳「はい…」


提督「遠征部隊の出迎えを頼む。全員が集まったら教えてくれ」


祥鳳「わかりました、それでは失礼します」




深々と頭を下げて祥鳳は部屋を出て行った。





提督(大きな目標…)



それは海軍のトップに昇りつめて海軍を叩き潰すこと。


俺にとってのもうひとつの復讐…




だが…お前はそれを望んでいなかったんじゃないのか?





彼女にそんな気を遣わせたことに自分を恥じた。








腹の銃傷の疼きはいつの間にか治まっていた。




_____________________




【鎮守府内 廊下】





祥鳳「ふぅ…」




廊下に出て一息つきました。



提督は本当に眠れたようでここ最近のどこか疲れたような表情ではなくて安心しました。




この調子ならいつもの提督に戻ってくれるはずです。







でも…





祥鳳(皮肉なものですね…)





あの人に前を向かせ、親潮さんへ刃を向けないようにするためとはいえ…



もうひとつの大きな復讐に向かって進ませようとするなんて…




祥鳳(私は…それを望んでいなかったはずなのに…)




油断をすると気持ちと共に顔も沈んでしまいそう。




祥鳳(いけない…!こんな気持ちでは…!!)




これから親潮さんと共に遠征部隊を迎えるというのにこんな暗い顔で、暗い気持ちでいてはみんなに不安が伝染する。


秘書艦としてそんなことにはならないようにと自分を発奮させる。




祥鳳「今日も…いつものように頑張ろう!うん!」





そう声に出して私は親潮さんの待つ自分の部屋へと歩き始めました。











【鎮守府 港】




天龍「戻ったぜ、無事遠征終了だ」


祥鳳「お疲れ様でした」




ドラム缶に資源をたくさん抱えた天龍さん旗艦の遠征部隊が港に戻りました。



親潮「み、皆さん…お疲れ様でした」


天津風「ただいま…って親潮、どうしたのその顔。すごく疲れてない?」


親潮「え…いえ…これは…」


祥鳳「少し馴れないことがありまして…無理させてしまいました」


天津風「そっか…まだ来たばかりだものね、あまり無理しちゃダメよ?」


親潮「は、はい…すみません…」



せっかく迎えに来たというのに親潮さんが顔を暗く俯いてしまいます。

気晴らしにと思ったのが裏目に出てしまい彼女に申し訳なく思いました。




時津風「…」




時津風さんが港に着くなりキョロキョロしています。



雪風「しれぇ…来てませんね」


時津風「別にー…あんな奴どうでも…」



そういう時津風さんですがつまんなさそうに、そしてどこか残念そうに口を尖らせています。



祥鳳「大丈夫ですよ時津風さん。今提督はこれからの予定を組んでくれています。後で全員集合させて欲しいって言っていましたから」


時津風「し、心配なんかしてないったらっ」


雪風「そうは言いますけど時津風は遠征中もずっと…」


時津風「あーーーー!疲れたなー!工廠行って艤装外そうっと!」




恥ずかしそうに時津風さんが工廠へ逃げるように走って行きました。





祥鳳「お疲れ様でした風雲さん。初めての遠征任務でしたが大丈夫ですか?」


風雲「はい。前の鎮守府でも遠征中心でしたからこれくらいなんともありません。わざわざのお出迎えありがとうございます」



深々と頭を下げる風雲さんに彼女の真面目さが伺えます。


さすがに改二艦ということもあって彼女の表情からは疲れを感じさせませんでした。

今後の活躍に期待が持てそうです。





沖波「…」


祥鳳「沖波さん…?」


沖波「あ!すみません祥鳳さん!沖波、戻りました!そちらはお変わりありませんか?」


祥鳳「ええ、大丈夫よ。こちらのことは心配せずに休んでいてね」





しかし一緒に戻ってきた沖波さんの様子が少し気になりました。


チラチラと風雲さんを見ているような…



祥鳳(これは本人の問題ね)



自分で解決しなければならない問題と判断してこれ以上踏み込まないようにしました。














大井「戻ったわ」


祥鳳「お疲れ様でした」



遠征部隊が工廠へ向かって行くのと入れ替わるように他の鎮守府へ派遣されていた大井さん率いる支援部隊が戻ってきました。



大井「戦果は上々よ。3人が自分の役割をしっかりこなして本隊を勝利に導いたわ」


祥鳳「そうでしたか。それは何より…」


大井「ただ…」


祥鳳「?」




視線を雲龍さん、天城さん、葛城さんに送ると雲龍さんだけが暗い顔で何かを呟いています。






雲龍「物足りない物足りない物足りない物足りない物足りない…」


天城「もう…雲龍姉様ったら」


葛城「いい加減切り替えてよ。作戦攻略中の相手が演習なんかしてくれるわけないでしょ」



何となく何があったかわかりました。



大井「見ての通りよ…」




やはり雲龍さんは支援先の艦娘に演習を挑んだようでした。

海外艦の正規空母が配属されていたそうで戦いたくて仕方なかったようです。




祥鳳「お疲れ様でした、後で提督が全員に集合を掛けますからそれまで休んでいて下さい」


大井「わかったわ」


親潮「お疲れ様でした…」



私の隣の親潮さんも同じように労いの言葉を掛けます。









大井「祥鳳」


祥鳳「はい?」




そんな親潮さんの様子を見て大井さんが私を手招きしました。


親潮さんに聞こえないようにと小声で話しかけてきます。





大井「提督と親潮の間に何があったのか…何となく予想がついたけど…」


祥鳳「…」




大井さんは提督の家族が殺されていることを話しています。


そのことから予想すればある程度の結論に辿り着くのは仕方ありません。



大井「でも…私は関わらない方が良いのよね?」


祥鳳「はい…これは当人達の問題で…」


大井「わかったわ」



そう言って大井さんがポンと軽く私の背を叩きます。



大井「色々と大変でしょうけど…力になれることがあればいつでも言うのよ?」


祥鳳「はい、ありがとうございます」


大井「それじゃ工廠に行ってくるわ。後でね」




全て察してくれた大井さんの言葉に元気づけられて心の内が少し楽になりました。





祥鳳「私達は食堂で皆さんの昼食を用意しましょうか」


親潮「はい…」




しかし親潮さんは暗い顔を隠しきれていません。

無理もありません、親潮さんにとってこれからの生活は不安でいっぱいでしょうから。



祥鳳「そんな暗い顔でいては美味しい料理は作れませんよっ」


親潮「は、はいっ。すみません」




私は彼女が下を向かないよう発奮させることくらいしかできません。





でも…これから親潮さんが行動することが


少しずつでも前進するのだと信じて前を向いて歩き始めました。







_____________________





【鎮守府内 執務室】





祥鳳『提督、遠征部隊と支援部隊の皆さんが戻りました』



内線で祥鳳が艦隊帰投の連絡をくれた。


時間を見ると昼の12時を過ぎている。



提督「14:00に会議室へ集合するよう言っておいてくれ。こちらはもうすぐ準備が終わる」


祥鳳『わかりました。間宮さんがいないからといってカップ麵を食べてはいけませんよ?』


提督「たまには良いだろうが」


祥鳳『ダメです、こちらの準備が済み次第提督の所へ持って行きますので待っていて下さいね』


提督「おい、あ…」




俺の返事を聞かず祥鳳が内線を切ってしまった。


祥鳳らしくない強引さに思わず苦笑いをしてしまう。




彼女に気を遣わせっぱなしなのは少し申し訳なく思うが今はそれに甘えることにした。







俺は手元の資料に目をやる。





大本営からきている『合同演習』の案内だ。




その相手とは…











提督「悪いな白友。俺の同期だったのが最大の不運だと諦めてくれ」







横須賀鎮守府に着任した同期の白友だった。





_____________________




【鎮守府内 会議室】




祥鳳「提督が来ました。全員敬礼っ!」



14:00。


私の声に全員が立ち上がり提督の方を向いて敬礼しました。




提督「遠征に支援、皆お疲れだったな」



提督の労いを合図に全員が着席します。


会議室の空気はいつもと違い少し緊張感に包まれています。




時津風「…」


雪風「…」



時津風さんと雪風さんが上目遣いで提督の様子をチラチラと伺っています。



『いつも通りなのかそうでないのか』



そんな心配をして見ているのがわかります。




親潮「…」




親潮さんは私の隣に座って視線を下に向けています。


顔を上げて提督を見るようにするように言うのは今はまだ酷だと思い特に何も言いませんでした。





提督「近々横須賀鎮守府との合同訓練、そして合同演習が行われることとなった」




提督が手元の資料を私に寄越します。


全員分あるようでその資料を皆さんに配りました。





葛城「うわっ」


天城「これは…」


天津風「凄いわね…」





資料を見て何人かが声を上げています。



無理もありません、相手である横須賀鎮守府に配属されている艦娘を見たら誰だって驚きます。






横須賀鎮守府に配属されている艦娘



【戦艦】



長門改二 陸奥改二


金剛改二丙 比叡改二 榛名改二 霧島改二



【空母】



大鳳改


翔鶴改二甲 瑞鶴改二甲


隼鷹改二



【重巡洋艦】



鳥海改二



【航空巡洋艦】



熊野改二



【軽巡洋艦】



阿武隈改二


五十鈴改二



【駆逐艦】



吹雪改二 白雪 初雪 深雪 叢雲改二 磯波


三日月 望月





…以上が横須賀鎮守府に配属されている艦娘でした。




提督「葛城、どう思う?」


葛城「え…?相手がこのメンツだと相当厳しいわよね…」



いきなり話を振られた葛城さんでしたがしっかりと答えました。



提督「では天津風はどう思う?」


天津風「私も…かなり厳しいと思うけど…?」


提督「まあそれが戦う側の普通の意見だな」



その意見を予想していたように提督が頷きます。

『何が言いたいのかな?』と思っていると次に提督が意見を聞いたのは…



提督「では大井、お前はどう思う?」



同じ質問を大井さんに問い掛けました。




大井「そうね…」




資料が配られてからずっと手を口元に当てて考えていた大井さんが口を開きました。




大井「明らかな戦力過剰ね。こんなにも主力になれそうな艦娘が多かったら自分なら見る余裕が無いと思う」


提督「うむ」




大井さんの意見に提督は満足そうに頷きました。



天城「でもどうしてこんなにも強力な艦娘が配属されているのですか?横須賀鎮守府の白友提督は確か提督と同期のはず…」


提督「あいつは同期の中でも期待の星なんだ。上からも期待されているのか強い艦娘が優先的に配属されているらしい。おまけにあいつは艦娘に優しくてな、他の鎮守府で酷い目に遭っている艦娘を助けて自分の艦隊に迎え続けたからこんなにも膨れ上がったんだろう」






白友提督は艦娘に対する穏健派の方から有望視されている提督らしく将来海軍のトップに立つ男だと以前提督が言っているのを思い出しました。


その時の表情はなぜか自慢げで楽しそうにしていたのを覚えています。


そして…悪だくみをするときの笑顔をしていたのも…





時津風「ふーん、誰かさんとは大違いだねー」


雪風「と、時津風…?」



その話を聞いていた時津風さんがまるで挑発するように提督に言ってきます。



時津風「あたしも優しい提督さんのとこに行っちゃおうっかなー」


天津風「ちょっと…やめなさいよ…!」



挑発をやめない時津風さんに天津風さんがやめさせようと肩を掴みます。




提督「なんだコアラ、お前異動したかったのか?」


時津風「え…」


提督「よーし、では後で異動願を書いてやる。今までお疲れだったな、向こうでも頑張れよ」


風雲「な、なんてことを…!」


時津風「な、なんでそうなるんだよ!冗談だってば、しれー!」




平然と異動させようとする提督に時津風が慌てて首を横に振りました。






時津風「…あれ?」






時津風がハッとして提督を見ます。




今の一連のやり取り



それはきっと





時津風「へへっ」




時津風さんが望んでいた、いつもの提督でした。


嬉しそうにはにかんでいる時津風さんを見て私も嬉しくなります。



祥鳳(ずっと心配してくれていましたものね…時津風さん)



その時津風さんの様子に他の皆さんの緊張が解かれ場の空気が和らいだような気がします。




提督「さて沖波」


沖波「は、はいっ」


提督「大型の艦娘を鎮守府に迎える条件は?」


沖波「え…えっと…」



あ…


なぜこの話をしたのかがわかりました。




沖波「大本営に大量の資源を納めて申請するのと…」


提督「もうひとつは?」


沖波「双方の鎮守府の提督、そして艦娘の間で異動するかを話し合って…」


提督「そうだな」





大型の艦娘を私達の鎮守府に迎える方法



それは他の鎮守府から異動させるというものでした。





提督「これだけ戦力過剰の鎮守府なら必ず持て余している者、活躍の機会を与えられずあぶれているものがいるはずだ」



提督は楽しそうに笑みを見せています。



提督「あぶれた艦娘を白友のところからぶん捕ってやる、お前ら、そんな感情を持っていそうな奴を炙り出せ。異動でこの鎮守府に来るのなら無駄に資源消費しなくて済むからな。あははははは」



いつもの…野望に燃えている楽しそうな提督でした。




風雲「ちょっと…何てこと言うのよ!…そんな人だと思わなかったわ!」




風雲さんが立ち上がって抗議しようとします。




風雲「あ、あれ…?」



しかし誰も賛同しません。




葛城「そっか…風雲は来たばっかりだったもんね」


天龍「早く慣れておいた方が良いぞ、こいつはいつもこんな感じだからな」


風雲「うそ…」




諦めたような葛城さんと天龍さんの言葉に風雲さんががっくりと肩を落としました。





提督「話は以上だ、詳しい合同訓練と合同演習の内容は後日伝える。解散」




提督の号令に皆さんが立ち上がりそれぞれ会議室を出て行きます。







雲龍「…」


提督「わかってるよ、お前の望みそうな演習を組んでやる」



その言葉に満足して雲龍さんが訓練所へ向かいました。




時津風「しれー、演習に勝ったらなんか買ってよねー」


提督「てめえコアラ!調子こいてんじゃねえ!汚ねえ手で服を掴むな!汚れるだろうが!!」


時津風「なんだよー」



時津風さんが嬉しそうに提督の服を引っ張っていました。




天津風「全く…名前で呼ばれない方が嬉しいなんてね」


雪風「でもいつものしれぇが戻って来て本当に良かったです!」





昨日あれだけのことがあったのです。


提督もどこか無理をしていつも通りに振舞っているのでしょうけど…




祥鳳「そうです…ね、いつも通りですよね」




今はこの久しぶりに感じられた暖かい空気にいつまでも浸っていたい気分でした。
























_____________________




親潮「…」






ずっと下を向いていた親潮は何かを決意したかのように顔上げて




訓練所の方へと走って行った。










大井「…」










そんな親潮を見て大井も彼女の後を追って訓練所の方へと向かった。








_____________________





【鎮守府内 工廠】





沖波「ふぅ…」



演習を終えていつものように義足の整備をしている。



沖波「だいぶ消耗してきたなぁ…」



整備している義足を見て沖波が溜息をつく。


この鎮守府に来た時に他の艦娘達がお金を出し合って買った義足に限界が近づいていた。



艦娘用の義足は特注品で値段も高く、今の自分の給料では中々新しいものに手が出せなかった。


提督からこの鎮守府に着任する際に『そんなことに金は掛けられない』と言われたことに対し『自分で何とかする』と言ってしまったため、今更お願いすることには気が引けてしまう。




沖波(あ、でも…この前…)



熱で提督が休んでいる時に『ちゃんと仕事したら買ってやる』と言っていたのを思い出した。




沖波(よしっ、次の合同演習先で…)





新しい義足パーツを買って貰えるように頼もうかと思っていた時だった。




風雲「沖波」


沖波「あ、風雲姉さん」




姉である風雲が沖波に声を掛けた。



風雲「何か手伝えることは無い?」


沖波「あ、大丈夫ですよ。もう終わりますから、ありがとうございます」



慌てて整備を終えて沖波が立ち上がる。


そんな沖波に対し風雲は心配そうな視線を送る。



風雲「ねえ沖波…無理してない?大丈夫なの?」


沖波「え…」


風雲「ただでさえその…沖波はケガしているのに…第二秘書艦まで…私が代ろうか?」


沖波「…っ!」



風雲の提案に沖波が身体を震わせる。



沖波「そ、そんな…無理なんて…」


風雲「もしかしてあの提督に無理強いさせられているんじゃないの?もし言い辛いなら私から…」


沖波「私が自分からやるって言ったんです!!」


風雲「お、沖波…!?」




心配する風雲に対し沖波が口調を強くして答えた。




沖波「お願いですから…私の仕事を取らないで下さいっ!!」


風雲「あ!沖波っ!」





逃げるように沖波は工廠を後にした。






走っていると涙が零れる。




風雲が心配して言ってくれているのは頭ではわかっている。



しかしそんな風雲に対し嫉妬めいた感情を持った自分



そしてこんな拒絶するかのような言い方をしてしまった自分を恥じながら沖波は何度も零れる涙を拭っていた。







_____________________









【鎮守府内 執務室】




翌日、俺は秘書艦を集めてあることを頼んでみた。




祥鳳「ほ、本気ですか…?」


提督「ああ」


天城「な、なんでそんなことを…」


沖波「…」



俺の提案に祥鳳、沖波、天城が信じられないような顔をする。



天城「良いんですか?本当にそんなことして…」


提督「確実に演習に勝つためだ。それと…俺が楽しいからだな」


祥鳳「もう…本当は楽しむ気持ちの方が強いのでしょう?」


提督「まあな」




これから俺のすることで白友の奴がどんな反応をするか想像するだけで笑みが零れてしまう。


あいつには本当に申し訳ないが今回の合同演習を戦力増強とストレス解消にさせてもらおう。




後は…




提督「大井、手が空いたら執務室に来てくれ」




演習の作戦を練るために大井を呼び出した。



祥鳳「合同演習の種目は何があるのですか?」


提督「ああ…今回は…」



合同演習は艦隊同士の戦闘という場合が多いのだが今回はいくつかの種目がある。




①駆逐艦4隻によるリレー



②空母2隻による対空戦



③艦種指定無し2隻による戦闘



④軽巡1隻、駆逐艦4隻の水雷戦隊による戦闘



⑤艦種指定無し6隻による艦隊戦




以上の5種目だった。



提督「これから大井とメンバーを選ぼうかと思ってな」


祥鳳「提督」


提督「なんだ?」


祥鳳「2種目目の対空戦ですが…」




祥鳳が一度視線を天城に送る。


天城はそれに対し真剣な表情で頷いた。



祥鳳「私と天城さんに出させてもらえませんか?」


提督「ほぉ?」



珍しいな、祥鳳と天城がこういうことに自分から意見するのは。



提督「大丈夫か?相手は百戦錬磨の装甲空母か改二艦だぞ?」


祥鳳「必ず勝ちます」


天城「よろしくお願いしますっ!」



少し脅すような口調で言ったが祥鳳も天城もそれに負けることなく言い返してきた。


この二人が最近ずっと一緒に居残り演習をしているのは知っている。

そんなこともあってかどうやら自信もあるらしいな。



提督「良いだろう。だが必ず勝てよ。負けたらどうなるかわかっているな?」


天城「なにするつもりなんですか…」


祥鳳「天城さんに手を出したら許しませんよ?」


提督「そんな危ないことできるか」


天城「あ、危ないって…酷いです…」




天城に手を出そうものなら後でどんな報復が待っているか想像できないのでやめておく。


その分祥鳳をベッドの上で徹底的にいじめてやろう。






提督(さて…)





そんな俺達のやり取りを前に辛気臭い顔をしているのが一人。



沖波「あの…司令官…」


提督「なんだ?」


沖波「風雲姉さんは…どうですか?」


提督「どうって…何がだ?」



辛気臭い顔しながら沖波がマゴマゴとしている。

その雰囲気に苛立ってメガネを取り上げようかと思ったが祥鳳と天城の手前やめておいた。



沖波「改二艦ですし…今回の演習も…活躍しますよね…?」


提督「…」




上目遣いで不安そうな顔で聞いてくる。


聞く内容と表情が全く一致しておらず『どういうことだ』と祥鳳に視線を送ると彼女は心配そうな視線を返してきた。




提督(そういうことか)



大方風雲の実力を目の前で見せつけられて居場所を失うとか面倒なことを考えているに違いない。


それを中々言い出せないのは相手が姉妹艦ということで自分がそう思いたくない、そんなこと思っていないと必死に否定して抑え込んでいるのだろう。



提督(最上の時と同じだな。やれやれだ)



以前海軍提督になるための最終試験で会った最上のことを思い出した。


あいつも妹二人に改二改装を先に越されて極度のスランプに陥っていた。




その時のことを思い出させるような今の沖波の状態。


艦娘の姉妹艦同士の絆は強く仲が良い。

その反面負の感情が生まれた時はこのように悩み解決の糸口を見いだせにくくなってしまうのだ。



自力で解決したり這い上がったりする者もいるが、沖波はそういったタイプには見えない。





ここは…





俺は一旦ペンの蓋を閉じて胸ポケットに差した。





提督「俺は使えない奴を傍に置くほど暇じゃない」


沖波「…っ!!」




俺の言葉に沖波が肩を震わせた。




提督「お前が使えないと判断して風雲が使えると思ったら容赦なく切り捨てるぞ」


沖波「そう…ですよね…」



俯いた沖波の目から涙が零れた。




沖波「っ…ごめんなさ…!っ!」



弾かれるように執務室のドアへと走り執務室を出て行った。




天城「沖波さん!」




すぐにその後を天城が追いかけて行く。



祥鳳「…」



対照的に祥鳳は落ち着いた表情で執務室を出て行った。























大井「なんか沖波が泣きながら走って行ったけど…どうしたの?」



3人が出て行った後、先程呼んでいた大井が執務室に来た。



提督「別に大したことではない、気にするな」


大井「そう」



大井も大して気にする様子を見せなかった。

きっとすれ違う時に祥鳳にも会っているのだろう。



大井「要件は合同演習のメンバー選びかしら?」


提督「ああ。まずはリレーのメンバーなのだが…」








【鎮守府内 工廠】




沖波「ぅっ…ぐすっ…」


天城「沖波さん…」



工廠の奥で膝をついて涙を拭っている沖波さんを見つけました。



祥鳳「不安なのですね」



私に声を掛けられた沖波さんが涙顔のままこちらを向きました。



沖波「わ…私なんて…っ…風雲姉さんの…足元にも…何しても…ひっく…」



足を失うという大きなハンデを乗り越えて、自分だけの仕事を与えられ始めた沖波さんでしたが、風雲さんという姉妹艦の着任により自分の居場所を奪われたりしないかという不安でいっぱいなのが手に取るようにわかりました。



祥鳳「気持ち、わかりますよ」


沖波「え…」


祥鳳「少し前…妹の瑞鳳から手紙が来ました」




手紙に書かれた内容



近々行われるレイテ沖海戦のメンバーに選ばれたこと


そして…



沖波「改二改装…ですか…?」


祥鳳「ええ…」




その下準備のために瑞鳳の改二改装が決まったと書いてありました。



手紙を読んだ時、私に沸き上がってきた感情




出撃する瑞鳳への心配より、改二改装が決まった瑞鳳への喜びよりも強く感じたものは…





祥鳳「妹に対して…強い嫉妬と焦りを感じました」


沖波「祥鳳さん…」


祥鳳「同時に寂しくもありました。瑞鳳が遠い所へ行ってしまったようで…」




恥ずべきことではあるのだけど…包み隠さず沖波さんに伝えます。



祥鳳「そこで自分を見つめ直したの。今、私は秘書艦という立場を与えられてはいるのだけれど…本当にこのままで良いのかって」



私はこのことを天城さんに相談しました。



天城「ふふ、私もね、色んな鎮守府をたらい回しにされてまたいつ異動させられるのかって危機感がありました」


祥鳳「二人で決めたの。実力でこの立場を確立させて見せるって」


沖波「だから今回の…」


祥鳳「はい、合同演習の対空戦に立候補させていただきました」


天城「雲龍姉様と葛城には申し訳ないけど…譲るわけにはいきませんから」


沖波「…」



相手を考えるとかなり厳しい戦いになることが予想されますが…私も天城さんもこの日のためにずっと特訓をしてきました。

自分のためにという自己満足めいた戦いではありますが…絶対に負けるわけにはいきません。



祥鳳「沖波さんはどうするのですか?」


沖波「…」


祥鳳「このまま与えられた立場に甘え、いつ奪われるかという恐怖に怯えて生活するのですか?」



少し挑発めいた言い方になってしまいましたが…



沖波「嫌…です…」



沖波さんは涙を自分の袖で拭いながら顔を上げます。



沖波「私…負けません…!風雲姉さんにだって、せっかく得られた生きがいを…奪われたりしません…!」


天城「その意気ですよっ」



沖波さんが立ち直ってくれそうで少しホッとしました。


正直私はそんなに心配はしていませんでした、だって…



祥鳳「足を失うというこの鎮守府で誰よりも大きなハンデを持っていても立ち直れた沖波さんなら…このくらいどうってことないですよね!」


沖波「はいっ!!」




沖波さんはもう自分の力で立ち直ったことがあるのですから。




天城「ひとつ良いことを教えてあげましょうか。提督が沖波さんに任せている事務仕事はね、本来艦娘に任せられるようなことではないのですよ?」


沖波「え…それってどういう…」


天城「私は渡り歩いてきた鎮守府でも秘書艦をしたことがあるのですが…提督は沖波さんにこの鎮守府の資金管理もさせていますよね。それって凄いことなんですよ?」




沖波さんを更に勇気づけようと天城さんが色々と話してくれている傍で私は少しの達成感を味わいながらその光景を眺めていました。






















天城「それにしても…」



沖波さんが演習場の方へと走って行った後、二人で執務室に戻ろうとしている時天城さんが話しかけてきました。



天城「前は『提督に利用されていることが悲しい』みたいなこと言っていたのに…今日はやけに落ち着いていますね」


祥鳳「え…」



鋭い天城さんの指摘に思わず言葉に詰まる。



天城「お二人の間に何かあったのですか?」


祥鳳「えっと…」















少し前、大井さんが着任して間もなかった頃



知らず知らずのうちに提督に利用され、彼の復讐を後押ししたような形になってしまい、そのモヤモヤした気持ちを提督にぶつけてしまったことがありました。



その数日後、提督がこう提案してきたのです。





『もし俺がペンの蓋を閉じて胸ポケットに入れたら…』





それは何も言わずフォローに回って欲しいというサイン



私と提督の間で決めた二人だけのサインでした





『自分では動かない方が良い場面で祥鳳に動いて欲しい』という提督からのお願いでした。



そして…私がこれ以上不安にならないようにしてくれる配慮にも思えました。






今回はそれがピタリとはまったような気がして…





祥鳳「ふふ、秘密ですよ」





私は嬉しさを噛み殺すのに必死になってしまいました。




_________________ 




【鎮守府内 執務室】



提督「艦隊戦の勝機はあると思うか?」


大井「正直厳しいと思う。相手の編成次第では隙を見つけることすら困難ね」


提督「相手の提督の考えそうなことは大体わかるんだが…如何せん戦力差がこれではな」


大井「今回はできる限りのメンバーで行くしかないんじゃない?」


提督「だな…」




大井のアドバイスを基に5種目目の編成案を書き出した。




提督「これで全種目決まったな」


大井「意外ね」


提督「何が?」


大井「風雲を出撃させないことよ。あんたが本気で勝ちにいくのならあの子を出しても良いんじゃないの?」


提督「まあな…」



大井の視線は一種目目の『駆逐艦4隻によるリレー』に注がれている。



大井「相手に改二艦がいることを考えれば風雲を出すのがベストだと思ってはいたのだけど…」


提督「普通にやるのなら大井の意見が正しいのだろうな」



しかし今回の相手が白友の艦隊ということで、ある構想が俺の中で浮かんでいた。



提督「心配するな、必ず勝てるステージを作りだしてやる。くっくっく…」


大井「あんまり無理するんじゃないわよ…」



これからのことを思うと俺は楽しくなって笑いを堪えることができなかった。








大井「あのさ…」



大井が執務室を出ようとした時に真剣な表情でこちらを見た。



大井「祥鳳…あまり無理させないでよね」


提督「なに?」


大井「あんたと親潮の間に何があったのか知らないけど…その間に立っている祥鳳のことを考えてあげてね」


提督「…」




『お前には関係ない』と言おうと思ったがその言葉を呑み込む。


それほどまでに大井が真剣で心配な顔をしていたからだ。



大井「祥鳳はさ…自分がどれだけ無理をしてでもあんたの力になろうと動くはずよ、だから…」


提督「無理させないように…余分な負担を与えないように気を付ける」


大井「…」



提督「忠告感謝するよ」


大井「お願いね」



少し頭を下げて大井はそのまま退室していった。




提督(大井の言う通りだな…)



俺は自分のこと手一杯で祥鳳のことをしっかりと考えてやれなかった。

今でも親潮のことは頭の中で整理がついていない。

少しでもあいつのことを考えると嫌な痛みを感じるからだ。


考えないようにしているだけで何も向き合えていないのが現状だった。



提督(どうしたものか…)



大井にはああ言ったがどうすることが解決の道なのか、考えを巡らせても糸口を見いだせなかった。










【鎮守府内 会議室】




提督「合同演習の種目内容は以上だ」



再び艦娘達を会議室に集合させて合同演習の打ち合わせをする。



提督「次に各種目のメンバーだが…」



手元の資料を持ち替え大井と決めたメンバー表を見る。




提督「駆逐艦4隻によるリレー、沖波、時津風、雪風、天津風の順だ」


沖波「え…!?」



先頭に選ばれた沖波が驚きの声を上げ全員の注目が集まる。



風雲「あ…あのっ、提督、沖波は…!私、いつでも…」



風雲はこう言いたいのだろう。

『沖波には足にハンデがある、だから私が…』と。


姉妹艦を心配しての発言だが沖波に気を遣ってかハッキリとは言い出せないようだ。



…そんなお前の反応は予想済みだがな。




提督「どうするんだ沖波」


沖波「やります…!やらせてください!!」



俺の問いに沖波は即座に反応して答える。

どうやら先程祥鳳と天城に励まされたのが効いているようだな。



提督「期待してるぞ」


沖波「は…はいっ!!」



嬉しそうに沖波は笑顔を見せながら大きな声で返事をした。




せいぜい頑張ってくれ、お前の頑張りは全員に良い影響を生んでくれるからな。くくくっ



風雲「…」



お前に心配な眼差しと俺に懐疑の視線を送ってくる風雲のためにも頑張れよ。



時津風「しれー、あたし達には期待してないのー?」


提督「いつも通りやれば勝てる。余計な事したら溶鉱炉に放り込むぞ」


時津風「なんだとーーー!」


天津風「まったく…」


雪風「いつも通りですね、よしっ!頑張ります!」








提督「次に空母2隻による対空戦。祥鳳と天城」


祥鳳「はい!」

天城「はい!」



二人仲良く息ピッタリの返答だった。



提督「特に指示は無い、勝てるもんなら勝ってみろ」


祥鳳「必ず勝ちます!」


天城「特訓の成果、見せてあげますね!」



普段大人しい祥鳳と天城の自信に会議室の空気は驚きに包まれていた。






提督「艦種指定無し2隻による戦闘は…雲龍と葛城」


葛城「よぉし!やってやるわ!」


雲龍「…」



やる気満々の返事をする葛城と対照的に雲龍は不満そうにこちらを睨む。



提督「…だったのだが…葛城、悪いけどお前は休んでくれ」


葛城「はぁ!?なんでよ!!」


雲龍「よし」



『よし』じゃねえよ…ったく…。



葛城「ちょっと!話はまだ…ムググ!!」


天城「はいはい会議中はお静かに、ね」



喧しい葛城を天城が黙らせてくれたおかげで先に進めることができそうだ。



提督「では軽巡1隻、駆逐艦4隻の水雷戦隊による戦闘は…天龍」


天龍「おっしゃー!」


提督「それと天津風、時津風、雪風と沖波だ」


風雲「…」



いつも通りのメンバーだが風雲が納得いってなさそうな顔をしている。



提督「風雲と…親潮は今回出番は無い。お前達は着任して日が浅いから艦隊の連携は難しいだろうからな」


風雲「そう…」


親潮「はい…」



二人の暗い返事をほとんど無視しながら先へと進む。



提督「最後に艦種指定無し6隻による艦隊戦だが…旗艦に祥鳳、そして雲龍、天城、葛城、天龍と雪風だ。しかしこのメンバーは仮で当日のコンディションを見ながら変更するかもしれないので他の者も心の準備はしておいてくれ。相手との戦力差を考えると現状で勝つことは難しい。この艦隊戦に関しては勝てなくても…」


天龍「何言ってんだよ!勝つに決まってんだろ!」


提督「3日後に出発する。それまで合同演習のための訓練に取り掛かってくれ」


天龍「こらぁ!ムシすんな!」



他の艦娘達は天龍を苦笑いで見ながら演習場へと向かって行った。




提督「間宮、留守は頼んだぞ。他の鎮守府から防衛用の艦娘が一時派遣されてくるから存分に腕を振るってやれ」


間宮「あ…はいっ。お任せ下さい」


提督「使えそうな艦娘がいたらちゃんと餌付けしておけ。後でそいつも…」


間宮「なんですって?」



俺の言葉に間宮が冷たい視線を返す。



提督「冗談だよ…」


間宮「本気のくせに…でも…」


提督「なんだ?」


間宮「元気な顔が見れて良かったです。最近提督食堂にいらしてくれませんでしたから…」


提督「…」



言われてみれば親潮が来て以来体調を崩したりなんなりしていたら間宮の飯から遠ざかっていたようだ。



提督「…肉じゃがが食いたい」


間宮「わかりました!今日のお夕飯楽しみにしていて下さいね!」



鼻歌を歌いそうなほどに上機嫌になった間宮に内心苦笑いをした。






_____________________




【鎮守府内 演習場】





親潮「はぁっ!はぁっ!っぐ…」







祥鳳「…」



夜遅く誰もいない演習場で親潮が一人訓練をしていた。


その様子を心配そうに祥鳳が物陰から見守っている。




親潮の息は荒れ、フォームはバラバラになっていて見ていられない程に疲れ切っている。



祥鳳「親潮さん…」



止めるべきかどうか祥鳳が悩んでいると後ろから誰かが近づいてきた。




大井「彼女のことは私に任せてもらえるかしら?」



両手に書類を抱えた大井だった。

その恰好はいつもの指導用の制服を身に纏っている。



祥鳳「大井さん…」


大井「あなたは少し休むべきよ。最近大変だったでしょう?」


祥鳳「…」



少し悩むような顔をして親潮に視線を送った祥鳳だったが大井の厚意に甘えその場を離れることにした。



祥鳳「お願いします…」


大井「ええ」









祥鳳が離れて行ったのを確認して大井は息を乱し疲れ切って水上に倒れている親潮のところへと向かう。




大井「満足かしら?」


親潮「え…」



大井の冷たい声に汗で濡れた顔を上げる。



大井「くたくたになるまで疲れた訓練ができて満足かって聞いているのよ」


親潮「…」



まるで挑発するような大井の言い方に親潮は目を逸らす。



親潮「放っておいてください…私はもっと…強くなって皆さんに追いつかないと…」


大井「そのやり方に無駄が多いって言ってんのよ」


親潮「で、ですから…」






大井「こっちを見ろっ!!!」


親潮「ひっ!?」




いきなりの大井の怒号に親潮が背筋を伸ばして顔を向けた。


そこには…




親潮「これは…」


大井「あんたのこれまでの戦歴、過去の実戦データ、最近の演習を見て私が見つけておいた課題と訓練内容よ」



大井が持ってきた資料を親潮に手渡す。



大井「どうせ居残り訓練するなら少しでも早く強くなれる方があんたにとっても良いでしょう?」


親潮「…」



大井の言う通りだがそれでも親潮の表情には放っておいて欲しいという態度が見え隠れしている。




大井「…あんたと提督の間に何があったのか…私には関係ない」


親潮「…っ!」



大井の言葉に親潮が表情を硬くする。



大井「でもね、私は練習巡洋艦として一切手を抜くつもりは無いから。無駄な訓練をやっているあんたを放っておくわけにはいかないのよ」


親潮「…」


大井「それにね…」


親潮「いっ!?」



大井は親潮の胸倉を掴んで引き寄せた。



大井「無茶苦茶な訓練して疲れ果てて出撃中に他の子達を巻き込むようなことはして欲しくないわけ!わかってんの!?」


親潮「も、申し訳ありません!」


大井「ふんっ」



大井の勢いに圧された親潮が顔を引きつらせながら謝った。

そんな態度に満足したのか掴んだ胸倉を離してやる。



大井「早く強くなりたいのなら私の言う通りになさい。あんたがみんなに早く追いつけるように私がちゃんと見ててあげるから」


親潮「大井さん…」



親潮の頭を優しく撫でながら今度は諭すように言う。

大井なりの飴と鞭の使い分けだった。



親潮「はい…!正直自分では…どうすればいいのか、わかっていなくて…どうかよろしくお願いします!」


大井「よし…それじゃ早速…」












この後、親潮は大井の指導の下に訓練を続けた。







それは親潮が個人で行っていたものとは比較にならない程に厳しい訓練内容ではあったが







親潮の感じたその疲労感はいつもとは違うどこか達成感のようなものが混じっていた











_____________________




【鎮守府内 提督の私室】




祥鳳「提督、祥鳳です」


提督「ん…?」



私室でこれからの作戦を見直しているとノックの音と祥鳳の声がした。



提督「夜這いか?」


祥鳳「ち、違います!」



からかうと恥ずかしそうに顔を赤らめる。


何度も抱いたというのにこいつのこういうところはちっとも変わらんな。



祥鳳「あの…親潮さんですが…」


提督「ん…」



まあ…こいつがわざわざ来たのはこんな理由だろうな。



祥鳳「あなたのお役に立てるように居残り訓練をしています、本当にその…真剣で頑張って…」



不安そうな表情を見せながらチラチラとこちらを覗き込んでいる。




提督(やれやれ…俺はどれだけこいつに気を遣わせているんだか…)




そんな自分を恥じるとともにさっさと楽にしてやりたいと思った。



提督「俺のことは良い。今日はもう休め」


祥鳳「で、でも…あの…提督、眠れますか?もしよろしければ私が…」


提督「…」




俺が悪夢にうなされて眠れないかもしれないと心配そうに見ている。



確かに一人で眠るとそんな不安があるといえばあるのだが…




今はそんな自分のことよりも…




『祥鳳…あまり無理させないでよね』





大井に言われた通り彼女を休ませることを優先させる。




提督「…」


祥鳳「提督…?」




しかしそのための言葉が出ない。


いや、出せない。



自分の言うべきことはわかっているのだが…なぜか恥ずかしくなって言うことができない。



以前グラーフ教官に言われた『言うべきことはしっかり言え、相手が察してくれるなどと甘ったれるな』という言葉が思い出される。



わかってはいる、わかっているのだが…






祥鳳「あ…あの…どうしましたか?何か…その…不快な思いを…」





これ以上何も言わずにいると祥鳳が不安に押しつぶされそうなので意を決して言うことにした。




提督「祥鳳…」


祥鳳「あ…」




祥鳳の頭に手を置いて優しく撫でる。




提督「俺のことは心配しなくても良い」


祥鳳「提督…」


提督「その…な…」



この先を言うのがとても恥ずかしい。



提督「お前のおかげで…俺は…大丈夫だ。親潮のことで何かしたりしない、約束する」


祥鳳「…」


提督「だからお前はもう休め、これまで無理させてすまなかったな」


祥鳳「いえ…」



嬉しそうに少し笑顔を見せる祥鳳をまともに見れなくて視線を逸らす。



祥鳳「それでは失礼します、早めに休んで明日に備えて下さいね」


提督「ああ…」




嬉しそうに笑顔を見せたまま祥鳳が部屋を出て行った。








提督「くそっ…!」




言葉で艦娘を利用するのにこれまで何の躊躇も無かったはずなのにこんなに心苦しくなることはなかった。




机に座って合同演習の作戦のことを考えようとしたが全く集中できない。




提督(やめだやめだ、さっさと寝よう)




服を着替え電気を消す前に鎮痛剤と精神安定剤を飲もうかと考える。


だが今は必要ないと思いそのままベッドで眠ることにした。



















その日は自分が驚くほどによく眠れた。






_____________________




【鎮守府内 廊下】





祥鳳(いけない…こんなことでは…)




夜の廊下にある窓に自分の顔が映る。



自分じゃないと思えるくらいに頬が緩んでいました。




今…私の胸の中を支配する感情



嬉しいという心からの気持ち。それが胸いっぱいに広がっています。





祥鳳(だめ…今日はもう何も手につかない…)





空いた時間で天城さんと作戦会議でもしようかと思ったけど今日はもう無理です…





祥鳳「提督…私…もうひとつ、覚悟を決めましたからね」





提督の私室に視線を向けて独り言を呟き、自分の部屋へと歩き始めました。











その足は…ここに着任してから一番軽かったような気がしました。









_____________________




【横須賀鎮守府 白友提督の執務室】





白友「な…なんだこれは!!」




書類を持つ白友の手が怒りに震えていた。




長門「どうかしたのか?」


白友「あいつ…やっぱりこんなことを!!」



ダンッ!と白友の手が机を叩く。



いつもの優しい提督の姿じゃないことに秘書艦の長門が心配そうに書類を覗き込む。




そこには…




長門「駆逐艦に対する暴言…罰として地下牢への監禁…演習中の折檻…」




あの鎮守府からの内部告発と思える手紙だった。




白友「あいつ…!!少しは改心したと思っていたのに…!!くそぉ!!」


長門「落ち着け提督。この鎮守府とは3日後の…」


白友「ああ!合同演習で会う!しっかり問い詰めて…場合によっては…!!」


長門「無茶はするなよ」


白友「わかってる!」




そうは言っても落ち着かない白友に長門は浅いため息をついた。





3日後の演習に合わせ『助けて欲しい』とあの鎮守府の誰かが書いて送ってきた物だとわかるが…




長門(しかしなぜこの鎮守府に送ってきた…?)





長門はその妙なタイミングの良さに少し違和感を覚えていた。













【三日後 横須賀鎮守府】






合同演習が始まる横須賀鎮守府に到着した。





到着早々に合同訓練を開始するため全員で一旦工廠へ移動し艤装の準備をしている。




長門「横須賀鎮守府の秘書艦をしている長門だ」


祥鳳「佐世保鎮守府の秘書艦、祥鳳です。本日よりよろしくお願い致します」



長門が差し出した手を祥鳳がしっかりと握り挨拶をしている。



長門「…」


祥鳳「…?」



長門の視線は祥鳳だけでなく周りの艦娘、そしてさりげなく俺にも注がれていた。



提督(ああ、そういうことね)



大方白友の奴に『様子を探ってきてくれ』とでも言われたのだろう。

全く…あいつの秘書艦だと色々苦労しそうだな、原因作ったのは俺だけど。



陸奥「こちらは今日からのスケジュール表になります」


提督「ああ、どうも」



長門ばかりに目がいっていたがもう一人来ていたらしい。


長門の姉妹艦の陸奥で、彼女は俺に書類を持って来てくれた。




書類を見ると予定通り今日の午後から合同訓練が行われるようだった。




長門「それでは午後から」


陸奥「13:00に演習場で。待ってるわね」




二人がこちらに頭を下げて工廠を離れて行った。





提督「集合してくれ」




二人が離れたのを確認してから艦娘達を集める。




提督「今日が合同訓練、明日からが合同演習だ。早速だがお前達に命令がある」




俺の『命令』に緊張感のある面持ちに変わる者がいる。

命令違反の罰の恐ろしさを身をもって体験したからだろう。




提督「今日の合同訓練だが…向こうの鎮守府のペースに合わせろ」


時津風「へ?」


雪風「それって…」


提督「わかりやすく言うと本気を出すなってことだな」


時津風「あー…」


天津風「そういうことね」


大井「全く…あんたらしいわ…」



すぐにその意図を理解した者



風雲「え?え?どういうこと?」


天龍「なんだよそれ…」



意図を理解できずに戸惑う者と反応は様々だ。