2015-04-12 12:58:31 更新

概要

艦これ小説「陽炎、抜錨します!」の二次創作です。


前書き

ss描くの久しぶりです。


「…遅いわね。自分から誘っといてなに人のこと待たせてんのよ。あのクソ嚮導」


うららかな春の陽気にはそぐわない、ふてくされたような口調で曙は独り言ちる。


とはいっても、陽炎との今日の約束を曙は決して億劫に思っているわけではない。それどころか、陽炎と二人で過ごす初の休暇である。曙は昨日からどこかそわそわして落ち着かず、普段見ない曙のそんな姿に他の駆逐艦娘たちは大いに気味悪がった。


今日だって、遅い遅いと文句を言いながらも集合時間よりずっと前に来てしまったのは曙なのだ。


時計をちらちら見るふりをしながら、曙は服装の乱れがないか、汚れがないかとチェックに余念がない。


今朝鏡の前で何度もチェックをしたが、やはりこの花柄のワンピースは自分にどうしてもそぐわない気がする。


「変に思われちゃうかな…」


潮みたいになれたらいいのになと曙は思う。彼女の優しくておっとりとした性格は誰からも好かれるし、この可愛らしいワンピースだって似合うに違いない。もしくは皐月でもいい。少々元気すぎるのが玉に瑕だが、彼女の思ったことを素直に言える性格が曙には羨ましかった。それは陽炎のかつてのパートナー不知火と同じで、不知火も言葉は少ないが、自分の想いを言葉にできる強さがあった。


私はどっちにもなれない。可愛げがないし、不器用だし、感謝の言葉のつもりがついつい憎まれ口をたたいてしまう。そうじゃなかったら、陽炎だって自分のことをもっとすいてくれるに違いない。


「言いたいことはいろいろあるのにな…」


艦隊のつまはじきものだった自分に温かく接してくれたこと、仲間の輪に加えてくれたこと、何度も何度も助けてくれたこと、そして…


「ごっめーん曙―!まったー!?」


向こうから、陽炎が額に汗を浮かべながらかけてきた。曙と同じ横須賀鎮守府第14駆逐隊所属の駆逐艦娘であり、寄せ集めとまで言われた第14駆逐隊を横須賀のエースにまで成長させた嚮導艦である。


「遅いなんてもんじゃないわよ。いつまで待たせる気?のどが渇いて干からびちゃうところだったじゃない!」


…またやってしまった。今日、本当に大丈夫なのかしらと曙は胸の内で大きくため息をついた。


曙はペットボトルのお茶を飲みながら電車の椅子に腰を掛けている。待たせてしまったお詫びにと陽炎が買ってくれたものだ。今日は隣町の大型商業施設にまで足を延ばすつもりだ。


「…なによ。なんか用?」


曙は隣からこちらをじっと見つめる視線に気づいた。


「いやー。あんたがそういう格好してるの初めて見たけど、曙ってやっぱりかわいいわよねー」


感心したように陽炎が言う。


「…なによそれ。ばっかじゃなの」


どうしてこの駆逐艦はそういうことを平気な顔して言えるのだろうか。曙は熱をもって赤く染まったほほを気付かれないようにとそっぽを向く。


「あたしたちは艦娘なのよ。普通の女の子みたいに、そんなこと気にしてる暇なんかないわ」


普通の女の子。自分が言った言葉が心に刺さるのを感じた。薄い装甲で、死の気配を絶えず背中に感じながら深海棲艦と戦うのが曙たち駆逐艦の役目なのだ。硝煙の匂いこそが日常であり、こうして二人並んで買い物に行く…何てことが非日常なのである。


「そうかなー?私たちだって艦娘である以前に女の子よ?女の子らしいことしたっていいじゃない」

なら…曙はのど元まで出かかった言葉を飲み込んだ。


艦娘だって、恋をしていいのかしら。


ショッピングモールにつくと、陽炎たっての希望で服屋にむかった。


「本当にここはいるわけ?」


甘め、というのだろうか。店内はフリルの付いた服、ピンクや赤のかわいらしいファンシーな服でいっぱいである。


「あんたに似合うと思うの!」


抗議の言葉を、曙は陽炎の手の温かい温度に遮られた。ドキッととしながらも、ほんのちょっと、気付かれないギリギリまで力を入れて握り返し、曙は陽炎に引っ張られ店内へと入っていく。


疲れた…買い物がここまで疲れるものだとは知らなかった。何十着と陽炎に着せ替え人形のように扱われ、最後には普段のように悪態をつく元気もなくなっていた。


反対に、陽炎はどこかつやつやとしている。


「いやーいい買い物ができたわねー」


大きな袋をもってご満悦である。


「そういえばあんたあたしに試着させた以外にも何着かかってたわよね。それ自分の分?」


「いや、これは不知火のよ。あの子に似合うと思って」


また不知火か。あのお邪魔虫は、二人きりでいる時まで邪魔してくるのだ。


「ほんっと仲が良くてよろしいことね」


「14駆逐隊の皆が仲間なら、あの子は家族みたいなもんだから」


仲間と、家族か…で、あんたはどっちが大事なの?


曙は、ペットボトルの中身を一気にのどに流し込んだ。


そのあとも楽しい時間を過ごした。感動系の映画で思わず泣いてしまったことを陽炎にからかわれたり、ペットショップで犬や猫を見て癒された。


駅を降り、鎮守府へ戻るときも曙は上機嫌だった。緊張はしたけれど、陽炎と一日過ごせてとてもうれしかった。きっと、陽炎だってそう思ってくれているはずだ。


「ね、ねえ」


「ん?なーに曙?」


「きょ、今日は楽しかったわね」


精一杯の勇気でいってみた。普段ならこんなこと、自分からは絶対言えない。


「そうねー。いつもと違った曙も見れたし。映画も面白かったわね。ただ…」


「前に不知火と来たときのほうが楽しかったかな」


え?


「前に不知火と来た時はね、ちょうど那珂ちゃんが来てたのよ!それで特設ステージでライブやってて、不知火とすごく盛り上がってね、それでね…」


「…なによそれ」


思った以上に大きい声が出た。


「え?」


「あたしなんかより、不知火といたほうが楽しかったってこと?」



「ちょ、そんなこと言ってないじゃない。ただほら、前にきたときは那珂ちゃんが…」


「もういい!」


言った時には走り出していた。陽炎の言葉も聞こえなかった。


どのくらい走ったかわからない。曙はその場に膝を抱えて座り込んだ。


「馬っ鹿みたい…あたしだけ舞い上がっちゃって…」


自分だけが舞い上がってたのだ。陽炎に一人だけ誘われて、自分が陽炎の特別になったつもりだった。それでも、陽炎の心にはいつも不知火がいたのだ。


「知ってたはずじゃない…家族って言って…」


「呉からの、あたしなんかよりずっと長い付き合いだもん…」


「ひぐ…ひぐっ…っ…うっ…!」


涙が止まらなかった。


どれくらいたっただろうか。突然、温かい感触が曙を包んだ。知っている温かさだった。


「…ごめんね。別にあんたと不知火を比べていったわけじゃないのよ」


「うっ…ひぐっ…うるさいクソ陽炎っ」


「はいはい。わたしはクソ陽炎よ」


陽炎が曙の背中をゆっくりとさする。愛おしいけれど、壊れやすいものを扱うように。


「でもね、曙。あんたがわたしにいくらクソクソ言おうとも、わたしは、あんたのことが大好きよ」





「…っ!」


「で?あんたはどうなの?」


「…きよ」


「ん?聞こえないわよ?」


「…きなのよ!」


声を振り絞った。今まで伝えられなかった気持ちを。


「…あんたのことが好きなのよ!おせっかいで、熱血馬鹿で、仲間思いなあんたが!横須賀じゃ誰もがあたしを煙たがったわ!何かされてもお礼も言わない、口が悪い、人に合わせる気がない…こんな娘嫌われて当然よね。なのにあんたは…こんなあたしを受け入れてくれて、独りだったあたしに14駆逐隊っていう居場所をくれた。駆逐艦娘としての誇りを取り戻させてくれた。仲間だってみとめてくれた。時には命がけで守ってくれた…こんなの…っ!こんなの好きになって当然じゃない!あんたが好きなのよ!あたしだけを見てほしいのよ!あんたが他の娘といるのが嫌なのよ!むかつくのよ!あたしを…」


「あたしをこんなのにしたのはあんたなんだからぁ…」


泪も、言葉も止まらなかった。


ぎゅっと、陽炎の腕に力がこもる。


「よく言えました」


泣きはらした顔で見上げると、陽炎が笑っていた。この笑顔に何回だって助けられた。この笑顔を好きになった。


「…あたしを一番にしてよ。もう陽炎にクソなんていわないから…」


一番言いたかった言葉がやっといえた。胸を締め付けていたつっかえが、とれた気がした。



「あんたが、曙が好きよ。世界で一番。素直になれなくて、不器用で、でも本当は誰よりも優しくて、頑張りやな曙が好き」





陽炎が曙の顎を引いて、そのまま自分の口元へと引き寄せた。


「…ん…っ!」


胸が高鳴って痛かった。それでも、嫌な痛さではない。


「…しょっぱいでしょ。いっぱい泣いたから」


「曙の味がするわ」


「…このクソ陽炎」


また言ってしまった。この癖はしばらく治りそうにないなと曙は思う。それでもいいや、とも思った。あたしが好きになった人は、こんなあたしを受け入れてくれた人なんだから…





そんなこんなで、あたしと陽炎の恋は始まった。


あたしたちは艦娘だから、きっとこの先のり超えなきゃいけない障害はいっぱいある。でもきっと大丈夫。あたしの陽炎は、世界一優しくて、世界一強い人なんだから。


「ねえ皐月―陽炎どこいったかしらないかしら?」


「鵬翔さんのお店に行くって言ってたよー。いいなあイチャイチャしちゃって」


「あげないからね」


「はいはいお熱いことで」


「すいませーん陽炎がここに…」ガラガラ


「で、こないだ曙がビールでよっちゃった時なんですけど、陽炎いっちゃやだぁーって。もううちの曙は本当可愛くて…」


「不知火もぜひ見てみたかったですね」


「お姉ちゃんにも言ってほしいわぁ」


「ぼのぼのは本当可愛いデース!でも提督、浮気はNOなんだからネ!」


「わかってるよ…しかし想像しただけでくるものがあるな…」


「あらあら。今度はお店で飲んでいってね」


「…ちょっと陽炎」ピキピキ


「「「「「「あ…」」」」」」


「こんの…!クソ陽炎―――!!!」


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2017-10-16 23:16:38

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2016-03-13 04:17:59

AQさんから
2015-04-15 08:36:25

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2018-09-13 13:27:54

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2017-10-16 23:16:41

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