2020-05-21 01:59:34 更新

概要



『___ふん、所詮は小娘。 もうよい、連れていけ』
「 、___っ!!」
「来ちゃだめっ!」
「っ!」

 赤き騎士は、紅蓮の弓をしまい、竜の脚に鎖で縛った少女を付けた。
 翠色の瞳を持つ少年は、縛られた少女に近づこうとするとその少女に止められ、身体が動かなくなる。
 そして、今まさに騎士が乗った竜が飛び立とうとしたその時、竜が突然固まった。
 否、竜だけではない。竜に乗った騎士も、同伴していた騎士も、連行の様子を傍観していた村人も、縛られた少女も、翠眼の少年も、動物も、植物でさえも時が止ったかのように固まる。
 全員が己の身に感じているモノ、それは”殺意”。全てを無へと還さんとばかりの気を纏う殺意。
 紅蓮の騎士がそれが放たれている場所に振り向く。

「_____」

 そこには、先ほど弓矢で目を貫いて無力化させたはずの、白銀髪の少女が立っていた。
 その少女は、鎖に繋がれている少女と瓜二つだった。
 しかし、幼いにもかかわらず、彼女から放たれる殺気は、神をも殺さんとしている勢いだ。

「繧ェ繧、縲∝?譚・謳阪↑縺?ココ蠖「・・・・・・」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 その少女が発した言葉は、最早人の物ではなかった。
 ””少女/化物””が左目を開ける。

「!? おねえ、さま・・・・・・?」

 開かれた其の眼は、かつての透き通った色ではない。
 どす黒く、光もなく、ただただ暗い闇。眼球が無くなった空洞の目からは血が流れ落ち、地面に触れると同時に蒸発する。

「そノ豎壻シ手オ離繧サ]]]]]]]]]]]]]]]

 不可解な言葉が混じりながら、言葉は続く。

「こ繧後o繝サ繝サ繝サ繝サ縲?豕ィ諢剰ュヲ蜻願у縺ではない     ]]]」」」]]」」
]]]]

 そして、幼い”帝王”は、狂気に染まった剣の切っ先を騎士に向け、言葉を放つ。

縲 命莉、ダ・・・・」」」

『っ!!?』

「も縺一度、 言縺ゥゥゥゥ         縺昴?縺阪◆縺ェ縺?※繧?ソ?ソ繧「繝ェ繧ケ?ソ?ソ縺九i繝上リ繧サ
          これ繝ッ命莉、ダ





    


































「うにゅ・・・・・・もう、朝か・・・・・・」
 目を覚ますと、見慣れた鉄の天井ではなく、見慣れた木製の天井が目に入る。彼女、『ヴォルグリム』は『様々な世界』を彷徨い『現実』を巡り渡り、《人の心》を知った少女だ。《機密機関 ラース》の一員でもある彼女は《真世界干渉実験》という実験で仮想世界にダイブ。
 しかし、ログインには成功したが彼女はログアウト不可な状態で覚醒した。

 朝になり、いつものように決まった時間に碧色の瞳を持つ少年が起こしてくれる。
「ヴォル、早く起きないとまた怒られるよ?」
 この世界の住人は全て『NPC』___しかし、目の前にいる少年は人間と何ら変わりない感情を持っている。

 そして、”彼女”はある目的を持っている。この世界から出るために必要な装置__《システムコンソール》を探しだし、この世界の自分の双子の妹を救い『連れ』だすという目的を。
 妹の名は、《アリス》。”とある計画”の最重要人物であり、彼女/彼らが絶対に忘れてはならない少女である。






※このssは、原作の九巻目から、最新巻に沿って物語が進んでおります。
 では、【ソードアート・オンライン《鬼煉機》~インフェルノ・アリス~】、お楽しみください!
 あ、最初らへんに性的描写が書かれているのと、オリジナル能力があるのでご注意ください。←!!要注意!!


前書き



 「黒大樹ぅ、お前は簡単に壊れないでクレヨォ?」
      ヴォルグリム § 全身を包帯で覆っている少女。黒炎を司る剣《煉獄の剣》を華麗に操る。
             【彼女たちが歩んだ戦場は幾年の時が経とうとも、消えることのない劫火で覆い尽くされる。】

 「さて、僕達も行くよ!」
      ユージオ § ヴォルグリムと幼馴染の心優しき少年。氷を司る剣《青薔薇の剣》を扱う。
           剣の腕はまだ未熟だが、ヴォル曰く『修練を積めば、最高の剣士になる』らしい。



 「《剣の誓い》ってやつだ」
 「誓い・・・・・・なにを、誓ってくれたの?」
      セルカ § 太陽のような輝きの笑顔を持つヴォルグリムの妹。神聖術の成長性が凄まじく、料理は天下一品。
          いつも姉の自由化ってな振る舞いにユージオと手を焼かされている。



 「男の方はさっさと殺しちまおうぜ!」
 「女のほうは俺が一番にもりゃう・・・・? あぇェ、おらノかリらGA・・・・・・
 「あん?どうしt、ッッ!!?」
      蜥蜴殺しのウガチ § 果ての山脈に通じる北の洞窟に潜んでいたゴブリン族の隊長。
               彼がみたモノ、それはただの《肉塊》であり、血肉を貫き、貪る《剣》だった。





蒼氷と業火



 朝の 起床の鐘の音により自分は”左目”の重い瞼を上げる。

 今日の天気は快晴。雲一つとしてないよくある天気だが、素晴らしい日だ。

 UndertailのSansの台詞を借りるとすれば【今日はいい天気だ。 鳥は歌い、花は咲き誇っている。】かな?

 自分はいつものように夜更かしをして、重くなっている身体を起こし朝食をとるため一階へ向かう。


「ふぁ~・・・・おはよ~」(´ぅω=`)ネムイ

少年「おはようヴォル」

少女「ヴォル姉様おはよう!」

「おぉう、いつも朝っぱらから元気なことで」


 そういや名前言ってなかったな。自分・・・・・俺の名前はヴォルグリム。ヴォルグリム・ツーベルク。愛称は『ヴォル』だ。

 朝食の準備をしていて、翠色の瞳と甘栗色のくせ毛のあるショートヘアの少年は幼馴染の《ユージオ》。そして朝食を作っており長い金髪を後ろで結って、修道士の服を着ている少女は《セルカ・ツーベルク》、俺の妹だ。


 俺の特徴は、自分で言うのもなんだが美少女の部類に入るのではないか、と思うくらいだ。セルカの髪色とは真逆の白銀色であり、その長さは膝裏にまで達するほどだ。何故かアホ毛付。瞳は血を表したような深紅である。

 そして、今はしてないが、風呂に入るときと寝るとき以外は頭部を除いた全身と右目を包帯で覆っている。これは、かなり前に大火傷を負い右目を失ったからだ。なお、左目の視力は悪いので、右目がないとなると視界が少々ぼやける。

 ちなみに、回復術で目の修復や皮膚を治そうとを試みる者がいたが、俺の体がソレを受け付けないので、包帯を巻いている。

 最後のはいいとして、ここまでの特徴から、正直セルカとの共通点はあまりない。


 それに俺は女だが、完全な男の性格をしている。ユージオや、他の男に裸を見られても別に何も感じないくらいに、___いや、そもそも表裏合わせて同姓、つまり女にしか興味ないが・・・・・・___性格が”とあるきっかけ”で最初のころと真逆になってしまった。

 まだ六年前の出来事だ。俺はその”とあるきっかけ”から何もかも変わった。そもそも俺は”多重人格者”なのだが、俺はどちらかというと裏人格のため表に出ることはあまりない。

 しかし、”とあるきっかけが”で表の方の人格と裏人格である”俺”が入れ替わっちまった。そして、こうなった原因は、はっきりと覚えている。だが、その原因を今言ったところで意味はない。

 さらに当時のことを思い出そうとすると、眼球のない右目が、身体が熱くなる。例えなどない。例えるものがないくらいの熱さだ。加えて、どす黒い感情が心身を蝕んでいくのも感じる。だが、不快な気分ではない。むしろ、心地いい。四年前に洞窟の奥でこの感情に身を長時間委ねた時は、強大な快楽に襲われ、絶頂をこれでもかというほど連続で起こし、地面を粘液質の透明液で大きな水たまりができたことがある。気づけば数週間が経過していたということもあった。

 ____話がそれたな。まぁ要するに、とある”出来事”が原因で俺は包帯を全身に巻き、女なのにこんな性格になったってこった。


ヴォル「お、今日もうまそうだな」

セルカ「その前に顔洗ってきてください」

ヴォル「うい」(=_=)


 俺は、重い足取りで顔を洗いに洗面所へと向かう。

 洗面所へ着くと、まず目に入るのが鏡に映っている自分の姿だ。映っている自分は、寝間着代わりの黒いキャミソールを着て、ぼさぼさになっている銀色の長髪。キャミソールの薄い布からは、体のあちこちに皮膚が焼け、赤茶けた生傷が浮かんでいる。そして顔には、右目に縦に走る”一本の短い黒い傷”と体にあるのと同じ赤茶けた焼けた肉がある。

 六年間毎日その顔を見ているので傷など気にせずに、セルカが朝継いできた井戸水を台に流し入れ、ばしゃばしゃと音を立てながら冷水で顔をまんべんなく洗う。終えると、洗面台の付近に取り付けられている棒からタオルを取り、顔をふく。


ヴォル「・・・・・・ふぅ」スッキリ


 拭き終えると、次は髪の手入れへと移る。180㎝とちょっとの身長に、その膝裏まである長すぎる髪をストレートにするのにどれほど苦労することか。しかし、この世界には『神聖術』という魔法に似たものがある。それを使い、両手で髪の毛を挟み、整えていく。

 ちなみに、今使っている整髪の神聖術はオリジナルなので、ヴォルにしか使えない。

 

 ___余談だが、この術は女性に非常に人気であり、ヴォルが早く起き、散歩をすれば、村の女性子供からかなりの頻度で整髪をさせられる。

 そのおかげ(せい)で、この(裏の性格)はめんどくさがりにも関わらず、このような面倒ごとを頼まれるので、わざと夜更かしをして遅く起きるようになったのだとか。


 朝一番に大事なことを終わらせ、セルカとユージオが待つ居間へと向かう。


ヴォル「洗ってきたぞ~」

ユージオ「ちょうど良かった。もう朝食の準備終わったところだよ」

セルカ「冷めないうちにいただきましょ?」

ヴォル「うい」


 三人はまず食事をとる前に、日本で言う『いただきます』の合掌をしながらステイシア、ソルス、テラリアといった神に感謝の言葉を言った。


 ___しかし、ヴォルグリムという異端者は知っている。その”世界に”神など存在しないということを。


 三人は朝食をすまし、ヴォルは寝間着から私服に着替える・・・・・・の前に、傷を隠すのとたまに出血をするので止血対策で包帯を巻く。なお、包帯を全身に巻くので、セルカに手伝ってもらいながら巻き終える。そして、箪笥から青と黒のストライプシャツに黒の長ズボン、そして裾がくるぶし辺りまである黒のロングコートを着る。しかも、ヴォルの黒を基準とした同じ型の服は、箪笥の中にいくつもあり、季節によって分けられている。この服たちは季節に適した素材などで作られており、同じに見えるが、季節別で快適に過ごせるのだ!

 着替え終わったヴォルは、自室のベッドの横に立てかけられている”愛剣”を持ち、玄関へと向かう。そこには、すでに支度を終わらせていた親友のユージオがいた。

 その手には木こり用の斧の柄をもっており、腰には青い剣が携えられていた。


ユージオ「あ、支度終わったんだね。それじゃあ行こっか」

ヴォル「おう」

セルカ「お姉さま、ユージオ、はい、今日のお昼ごはん!」っ籠

ユージオ「いつもありがとうね、セルカ」

ヴォル「今日の中身はなんだ?」

セルカ「ひみつー!」

ヴォル「ユージオはいいとして、身内に秘密はなしだぞー!」ワシャワシャ


 ヴォルは、セルカが作ってくれた昼食が入ったビスケットを受け取ると、セルカの頭をわしゃわしゃと撫で繰り回す。


セルカ「お姉さま、いつも髪をわしゃわしゃするのはやめてください! 一人で髪を整えるのは大変なんですからね!」プンプン+トローン

ヴォル「つーても嬉しそうな顔してんじゃねーか。説得力ねぇぞ?」

セルカ「うー」

ユージオ「あはは・・・・・・」


 この光景は毎朝見られるので、見慣れたユージオは姉妹のやり取りを見ながら苦笑いをしている。

 ヴォルが撫で繰り回す手を止め、すこしはねたセルカの髪を整髪神聖術で整えなおす。そして、「んじゃ、行ってくる」と言い、玄関の扉を開ける。


ユージオ「それじゃあ、行ってくるね」

セルカ「行ってらっしゃい!」


 ユージオも後に続き外へと出て、扉が閉まる。


セルカ「よし!今日も一日頑張るぞー!」オー


 心配性で、世話好きで、優しい少女は、姉と親友に『怪我をしませんように。姉が無茶をしませんように』と心の中で祈り、今日も修道女見習いとして頑張るのである。




 一方で、自分の天職__因みにヴォルは天職が無く、ユージオのお手伝い__を全うするために、職場へと足を運ばせているユージオとヴォルは、着くまでに歩くだけなので時間つぶしに駄弁っている。


ヴォル「さぁて、今日はいよいよあの黒大樹を斬れる日かもな」

ユージオ「でもさ、そんなことできるの?」

ヴォル「お前なぁ、ここ最近の見てなかったのか?」

ヴォル「こいつらは俗に言う《神器》だ。さっきもみたが天命値は一切減ってない」

ユージオ「確かにそうだけど・・・・・」

ヴォル「それに俺達の剣は《樹》とは属性の相性がいい」

ユージオ「属性?」

ヴォル「あぁ。俺の《煉獄の剣》は火属性。自然にとって火は最悪の敵だ。次に、ユージオの《青薔薇の剣》は氷属性だ」

ユージオ「自然と氷って相性がいいの?」

ヴォル「ああ。自然であれ、生き物でアレ凍らせれば生命は死ぬ(例外は在るが)。 植物はその中に水が流れているのは知ってるな?」

ユージオ「勿論だよ」

ヴォル「水は気温が零度になると凍り始めるんだ。《青薔薇の剣》にはあたりの気温を下げる能力がある。

    気温が零度に達した時、黒大樹の中の水は徐々にだが、最終的に凍結する。すると生命維持機能が停止し、弱体化するってこった」

ユージオ「な、なるほど・・・・・流石はヴォル、博識だね」

ヴォル「ふつうに一般常識なんだがなぁ~………ま、今日こそは本気(マジ)中の本気(マジ)で行きますか」

ユージオ「うん!」


 そうして二人はセルカが用意してくれた昼食を___ユージオは普通サイズのを、ヴォルはかなり大きなビスケットを___揺らしながら、ヴォルが黒大樹と呼ぶ悪魔の樹《ギガスシダー》を斬り倒すため自然あふれる草原へと足を進める。




Nowloading~~(少女&少年移動中)




ヴォル「さぁぁて、今日は絶ッテェーぶっ倒す!」

煉獄の剣《キィィィン!!》

ユージオ「まぁまぁ、ギガスシダーは逃げないんだから」


 ___ヴォルは意気揚々としながら剣を抜く。剣の刀身が現れるのと同時に《煉獄の剣》が静かだが、しっかりと金属音を放った。この現象は最初こそ驚いたものの、毎日この現象が現れていたため何時しか慣れていった。まぁ、十数年も見ていたらそりゃなれるわ。

 彼女曰くこの現象は、『え?相棒としてだけでなく、自分自身、命、魂としてずっと一緒に居れば出てくるぞ?』と何故か、当り前じゃない? って感じで疑問形で答えた。


 逆にどういう意思をもてばそこまで会話っぽく出来るの・・・・・・。と思ったが、試しにそういう感じに接してみると少しだが意思疎通のようなものがいつの間にかできていた。___本当にどういう原理?


ヴォル「っと、ドーピングしとくか」


 『ドーピング』。ヴォルが言うには競技や試合の前に自分自身を薬などで強化しておく、正々堂々の行為の場では違法として禁止されている行いらしい。しかし、ヴォルが言う今のドーピングは神聖術による身体強化だ。普通に身体強化と言えばいいのでは?と言ったが、『言いやすい』と言い、こういう時はいつも使っている。

 それに、たまに衛兵の人たちとの特訓や訓練、決闘の時とかでもこっそりとそのドーピングをしている。そのことを以前指摘したのだが

『バレばなきゃ犯罪じゃないんですよ』と、何故かどや顔で言ってきて少々イラッと来たのは言うまでもない。でもヴォルの強さならドーピングする必要はないのに・・・・・・。


ヴォル「『煉獄の炎をその身に宿し』」ゴォォォォォォ・・・・!!

ユージオ「っ!」


 ヴォルが神聖術としては短く、神聖語でもなく通常の言語でその術を唱えた。その直後、彼女の足元から紅蓮の炎が噴き出し、詠唱者もろとも剣を包んだ。そしてその炎は徐々に彼女の持つ《煉獄の剣》に吸収され、剣は噴き出した炎を吸い終えると刀身を赤黒く発光させる。

 ヴォルはこのような術を幾つも持っている。しかしそのすべての術名が恐ろしいのだ。一部は術名だけでなくその行動もだ。

 ある術は神聖語で言っているが、手の甲から謎の模様と光の陣が現れ、いつの間にか手には《心臓》が握られていた。そしてそれを強く握ると目の前にいたゴブリンが左胸を抑え苦しみだし、握りつぶされた瞬間絶命した。その直後のヴォルの姿は血塗られながら恍惚の笑みを浮かべている。しかし、ユージオの目に映ったのは、不気味さ、気味悪さをも忘れさせるような、美しい少女だった。

 これもかれこれ八年以上も見続けているので慣れている。正直ユージオも頭が狂ってるんじゃ、と思うことがしばしばある。のだが、気にしてもしょうがないと思っている。


ヴォル「黒大樹ぅ、お前は簡単に壊れないでクレヨォ?」煉獄の剣《____!》

ユージオ「さて、僕達も行くよ!」青薔薇の剣《_!》


 その日、少女・少年は何世代にもわたりこの地に根付き、生き続けている悪魔の樹/黒大樹こと《ギガスシダー》に今まで特訓し続けてきた剣術を叩きこむ。


ヴォル「燃えろっ!」ゴォォォ!

ユージオ「せぁっ!」


 まず最初に、ヴォルが炎を纏っている煉獄の剣で既にある傷口に【水平四連撃秘奥義《ホリゾンタル・スクエア》】を叩きこむ。

 次にユージオが単発斜め斬りの【ザッカライト流《蒼風斬》】を発動させる。これも傷口に命中する。

 二つの秘奥義は黒大樹の切口のど真ん中に命中したので、ユージオの言う『いい音』が__ヴォル四回、ユージオ一回、計五回__した。


ヴォル「お?いい線いってるぅ?」

ユージオ「そうだね。二つの秘奥義でニメルくらい削れてる・・・・・・このままいけばっ!」

ヴォル「っしゃぁぁっ!!ガンガン削り取ってやろうぜぇぇ!!」WRYYYYYYYY!!!

ユージオ「うん!」


ヴォル「ラァァ!!」

ユージオ「はぁぁ!!」


 ヴォルは再び、ユージオも【ホリゾンタル・スクエア】を放つ。この二つの秘奥義も傷口に必中するが、黒大樹の傷口が削られ《当たり》の場所が変わったため、ヴォルが二回、ユージオが一回外した。


ヴォル「チィ!二回目は流石に全弾命中しないか・・・・」


 そう悪態付きながら既に次の秘奥義を放とうとしている。

 【ノルキア流《雷閃斬》】こと【単発垂直斬り《バーチカル》】だ。黒大樹に一本傷が走る。ヴォルは休むことなく次の攻撃を放つ。縦横無尽に剣を振り、黒大樹の圧倒的耐久度に嫌気がさしたのかコートの内側から二本目の得物を抜く。短剣だ。

 ヴォルは片手直剣の使い手でありながら短剣も使いこなせ、右手に直剣、左手に短剣を装備した時の攻撃は凄まじい。まるで、得物自体が意思のあるように動いているように見える。


ヴォル「これで五メルは削ってやるよォ!!」キラーン!!


 ヴォルは絶技を見せた。右手の直剣、左手の短剣の秘奥義を同時に繰り出したのだ。片手直剣で【レイジ・スパイク】、短剣で【ミスティ・エッジ】を放つ。

 《レイジスパイク》と《ミスティ・エッジ》の突進で凄まじい速度が生まれた。黒大樹へ超高速の突進が撃ち込まれたので爆風生じ、土煙が発生する。

 煙が晴れたあと、目の前にいるのはギガスシダーに直剣の切っ先を傷口に刺していて、短剣の刃をめり込ませたまま硬直しているヴォルの姿だった。


ヴォル「ぐっ・・・・おうっ!?」


 いや、硬直していたのではなく樹に刺さっている短剣を抜こうとしているようだ。短剣は刃の背がところどころギザギザしているため、それが挟まって抜けないのだろう。

「うにゃっ!」

 剣が抜け、尻もちを勢い良く着いたヴォルがその容姿に似合う可愛い悲鳴を漏らす。因みに剣が抜けた傷口はかなりひどく抉れている。それに、抉れた部分を除くだけでもヴォルの言った(奥行だが)五メルは削られている。


ユージオ「す、凄いよヴォル!五メル削れてる!僕が一生かけて削る分をもう超えたよ!!」

ヴォル「そうか。あぁ~しっかし、ほとんどが外しているからな・・・・・全部当たってれば、最低でも七、八メルは行ってたかな?」

ユージオ「よぉしっ!僕も負けてられないな! そうだヴォル、どっちが先にこの樹を切り倒せるか競争しようよ!」

ヴォル「お、いいぜ!で、何を賭けるよ?」

ユージオ「賭け?」

ヴォル「おうよ。勝負すんならなにか賭けた方が面白いだろ?」

ユージオ「う~ん、そうだね・・・・・・負けた人は勝った人の命令を何でも聞くってのはどうかな?」

ヴォル「いいなそれっ!」

ユージオ「でもこの数百年かけて斬り倒すものを斬ったわけだから一週間でも足りないし・・・・・」

ヴォル「いやよ、一日で良くね?」

ユージオ「それだったら割に合わないよ」

ヴォル「んなもんより体第一。そう簡単に人の人形にはなりたくない。だから一日で十分だ」

ユージオ「そう?ヴォルが言うんならそうするけど・・・・」

ヴォル「うっし。そうと決まったら早速斬るぞ~。 先手頂きっ!」

ユージオ「あ、ズルいぞ! せあぁっ!!」


 二人の競り合いは昼食を挟み、その後水分補給を忘れてまで夜まで続いた。夕食時になっても帰ってこない二人を心配したセルカとヴォルとセルカの父・ガスフトが様子を見に来た時、視界に移ったのはギガスシダーの根元でうつ伏せになり、何故か左手を上へと伸ばし人差し指を伸ばしている(オルガ状態の)姉と、同じくうつ伏せになっている兄のように慕っている親友の姿であった。

 ガスフトは荷台を大急ぎで持ってきて、二人と二本の愛剣を乗せ、家に着いた途端顔に水をぶっかけた。それで起きた二人は充分な水分補給と大量のご飯を食べさせ、風呂にゆっくりとつからせ寝るようにさせた。その夜は二人のいびきがひどかったという。

 次の日、昼頃に起きた二人はガスフトにこってりと叱られた。


 しかし、夜で暗かったと言え、セルカとガスフトは見ていなかった。悪魔の樹と呼ばれ続けられてきた《ギガスシダー》の支える幹が、傷口を通し横に切られており、幹が残り十メルになっていたことに。

 この事は、ギガスシダーでユージオとヴォルが木こりをしていると思っていた友達が見に行き、ツーベルクの家に大急ぎで報告しに行ったことで発覚、張本人たち以外驚愕し、この事はすぐに村全体に広がった。



***



 木こりの少年と、無天職の少女がぶっ倒れた三日後、黒大樹/悪魔の樹こと《ギガスシダー》の周りには樹が切り倒される瞬間と、木こりの美しい剣技を見ようとする者で__村の人の約4割弱が__集まった。特に子供と老人が多く、その子供全員が二人が携えている《蒼い剣》と《黒い剣》に向けて目を輝かせていた。


 大樹に最後を与えるべく、生命の死を表す深紅の瞳の少女は黒い剣を、自然を表した翠色の瞳の少年は蒼い剣を同時に抜く。

 炎が燃え盛るような轟音と共に抜かれた黒い剣の刀身は黒く、その刃には巡るように蠢く深紅の歪な筋が、脈打つように点滅を繰り返している。対して蒼い剣は、静かに鞘からその濁り無く澄んだ刀身を現し、剣全体が氷のように冷たく光を反射する。


 ___静寂。 そして二人が神聖術を紡ぐ。


ヴォルグリム「『煉獄の炎をその身に宿し』」

ユージオ「『オフェンシブ』!」


 ヴォルグリムは紅蓮の炎を剣に纏わせ切っ先を大樹に向ける。ユージオは蒼き輝きを一段と放つ蒼き剣の柄を両手でしっかりと握り、右斜めに構える。

 ヴォルグリムが腕を水平に移し、剣を一回転させると宿る炎は一段と勢いを増す。それに合わせユージオの青薔薇の剣も輝きを増す。


ヴォルグリム「『イフリート』!!」

ユージオ「『カイザー・ハック』!!」


 漆黒の剣士が《業火》の剣を、翠青の剣士が《蒼氷》の剣を、ギガスシダーの傷口に沿うようにして残りの幹を削らんとする。


 限界までに強化された、二つの膨大な力がぶつかり混ざり合ったことで爆風が起こり、見ていた者は全員目を瞑り両手でかばう。十数秒後、暴風が止み土煙が落ち着いたころ、傍観していた者達が見たのは黒大樹/悪魔の樹《ギガスシダー》を支えていた残りの幹が、文字通り木っ端みじんに粉砕され、幹の上部に大傷を付けられた大樹が地に倒れ、二人の剣士が互いの剣を交差させている光景だった。











『人間』の愚行と、『人間』の憤怒



 黒大樹が切り倒され、その樹を回収しガリッタのおやっさんに武器にできないか頼んだ。数百年にも渡り、枯れ朽ちることなく神聖素因を吸収し続けた樹だ、武器や防具、道具にして用いたりすれば凄まじい耐久度のものになるだろう。その分、加工が大変なので《鍛冶スキル》で鍛えて、《スキル》なしでも出来るように練習してきた俺ことヴォルグリムも手伝おうとしたが、この世界では《サポートスキル》など意味をなさないので、出来るはずがなかった。

 ガリッタのおやっさんの提案で、黒大樹の先端の枝を、央都のサードレという細工師に預けることにした。おやっさん曰く『美しき青銀の剣に優るとも劣らぬ剣になる』らしい。


 剣にすれば、ヴォルグリムの攻撃パターンが増えるのと同時に、また一段と強さの高みへと登れる。加え、使わないもの余った物は彼女が持つ武器の強化素材として使い、強化を図っている。

 因みに、ギガスシダーを切り倒した日の深夜、ヴォルがギガスシダーの根元で何かをしていたらしい。


ヴォル「さて、っと。今日は何する?」

ユージオ「今日は神聖術の練習をするって言ってたじゃん・・・・・」

ヴォル「あ、そうだったそうだった。場所は~・・・・・・いつもの場所でいいか」

ユージオ「うん。村からそんなに離れてないし、それにお昼をとるには絶好の場所だよね」

ヴォル「そんだな~。んじゃ、行きますか。 親父~、行ってくる~」

ガスフト「いってらっしゃい。特訓はいいが怪我だけはするなよ?」

ヴォル「へいへい」

ユージオ「はい!いってきます!」

セルカ「お昼は私が持っていくから、一緒に食べましょ?」

ヴォル「お、ありがてぇ」

ユージオ「いつもありがとうね、セルカ」

セルカ「えへへ。こちらこそ、いつも残さず食べてくれてありがとね♪///」

ユージオ「う、うん!セルカの作るご飯はすっごく美味しいからね!///」

セルカ「えへへ~///」(n*´ω`*n)


ヴォル「親父ぃ・・・・」※

ガスフト「なんだぁ?」※

ヴォル「にやけが止らんな」(・∀・)ニヤニヤ

ガスフト「そうだな」ニヤニヤ

ヴォル「明日辺りに赤飯にするか?」(・∀・)ニヤニヤ

ガスフト「ははは、まだ早いだろ。 ほら、行ってこい」

ヴォル「へいよ。 おいユージオ、イチャイチャしてないで行くぞ~」

ユージオ「な!?いちゃついてなんかないよ!!」

セルカ「そ、そうですよお姉様!」

ヴォル「はいはい」┐(ー∀ー )┌ヤレヤレ


 ヴォルとガスフトはユージオとセルカのやり取りを、にやにやしながら見ていた。外へ出るときに、ヴォルは後ろで座っているガスフトに向かって二人に見えないように親指を立て、それに対しガスフトも親指を立てた。

 「あれ?そういやなんで親父、リアルの『伝説の26ネタ(※)』知ってんだ? ま、いいか」

 彼女はいつものように眠そうな左目をあけ、腰に煉獄の剣をさし、木剣を二本肩に担いで外へと向かう。

 外に出て少し経たないうちに、二人が出るのを待っていたのか村の子供たちがいた。ヴォルと特に仲がいい『レウス』と『レイア』の兄妹が、ヴォルに抱き着く。


兄妹『姉貴/ヴォルお姉さん!』

ヴォル「ん~、お前らどうした?」(´ぅωー`)?

レウス「今日は神聖術の練習するんだろ?」

ヴォル「うにゅ」(ーдー )))ウン

レイア「あのね、わたし達見に行ってもいいかな・・・・・?」

ヴォル「まぁ、いいが・・・・ユージオはどうだ?」

ユージオ「うーん・・・・・練習だから大丈夫だと思うけど、何かあるかもしれないからなぁ。お母さん達には言ってきたの?」

子供たち『言ってきたー!!』

レウス「母さんたちは、姉貴と兄貴が一緒なら大丈夫だって言ってた!」

ヴォル「んじゃ、問題ないか」

レウス/レイア「「それじゃぁ・・・・」」

ヴォル「ついてきてもいいぞ。だが、何かあったら俺達の傍に絶対来いよ?そんときは守っちゃる。な、ユージオ?」

ユージオ「あぁ!」

子供たち『ありがとう!!』

ユージオ「それじゃ、歩きながら行こうか!」

ヴォル/子供たち『(う~い)はーい!』




Nowloading~~~ 少年・少女・子供たち移動中~~




ユージオ「じゃぁ、僕たちは特訓するから離れててね?」

子供たち『は~い!』

ヴォル「退屈になったら言えよ? 遊んでやるから」

レウス「ありがと!」

レイア「ありがとうございます!」

ヴォル「んじゃ、ちゃっちゃとやりますかぁ。ちょいとばかし力入れるからな?」

ユージオ「うん」

ヴォル「よい子のみんな、よぉく見ておけ! 『煉獄の炎をその身に宿し』」ゴォォォォォォ!!


 今日は神聖術の練習日なのに、子供たちを前にかっこいいところを見せたいのか、無意識に剣の鍛錬へと予定を変更した。


子供たち「わぁ!」「かっこいい!」「燃えてる!」「ひゃっはーー!」 ←ヴォル「おい誰だ今の!?」

レウス「・・・・・・すげー」

レイア「熱くないのかな?」

ヴォル「大丈夫だ、問題ない!」サムズアップ

レイア「ならいっか~」ノホホ~ン


 実はレイア、かなりののんびり屋である。


ヴォル「さぁ来い、ユージオ! 今のお前の実力、試させてもらおう!」ブン!


 ヴォルは剣を右斜め下へと振り、左手先を上にあげユージオに手招きする。


ユージオ「わかった! 『オフェンシブ』!」バッ!


 ユージオは剣先を空へと掲げ、ヴォルと同じように自身を強化する。

 そして、最高の相棒へと駆けてゆき、お互いの剣を交わせる。




特訓割愛~~  すまない、戦闘描写は難しいので割愛させてもらうにゃし (´・ω・`)




「・・・・・!・・・きて!」

ヴォル「ん・・・・・・んん~~」セノビ

セルカ「お姉様、やっと起きましたか。みんなと遊ぶんでしょ?」

ヴォル「・・・・・・セルカ? 他のみんなは? あ、おはよう」

セルカ「おはようございますお姉様。みんなはもう鬼ごっごして遊んでいますよ?」

ヴォル「マジカ・・・・・・ん、っしょと。ニュア~~」;つД`)≪あくび

セルカ「寝起きですが、遊ぶのです?」

ヴォル「まぁね。 さて、眠気覚ましの運動でもしましょうか。さ、セルカも行くわよ?」

セルカ「・・・・・・」( ゚д゚)

ヴォル「セルカ?どうした~?」

セルカ「( ゚д゚)ハッ!い、いえ!なんでもありません!」

ヴォル「そっか。 んっじゃお前らぁぁ!俺もまぜろぉぉぉ!!」


ヴォル!? ホントウノオニガキタゾーー! オイレウス、ドウユウイミダァ?!! オニイチャン!シツレイダヨッ!タシカニオコッタラオニミタイデコワイケド・・・・・ レ~イ~ア~?オ・ハ・ナ・シ、シヨウゼ♪ ハニャーーー!!!


セルカ「ふふふ♪」


 セルカは、子供たちと遊んでいる姉の表情をみて安心した。先ほどまで、寝ているときの姉の顔は、何処か苦しんでいるような表情だったからだ。

 しかし、今の姉は口では怒っているが内心は楽しんでいる。ヴォルは子供たちに《鬼ごっこ》や《かくれんぼ》という様々な不思議な遊戯を広めた。このことでいつもは退屈だった時間が減り、みんな楽しんで遊んでいる。その証拠に、村が一段と明るくなったからだ。


セルカ「・・・・・・」

ヴォル「お~~い!セルカーー!お前も来いよー!!」


 ヴォルはレウスを肩車し、レイアを抱えてセルカを呼んでいる。レウスとレイアはいつもより興奮しているようだ。恐らくレウスは、高いところから見る光景に、レイアは、大好きなお姉ちゃんにお姫様だっこさせられているからだろう。


セルカ「はい!今行きます!」タッタッタッタッタ・・・・・・


 せっかくの休日だから、楽しまなきゃね♪♪




Nowloading~~ 二人の剣士と子供たちが遊び終わり、その後・・・・・・




 ヴォルとユージオが子供たちと遊び終わって二時間後。村は騒がしくなった。


ライア「西は駄目だっ、生き物の影すらねぇー!!」

ユージオ「東もダメだった!あとは・・・・・・」

ガスフト「南と北、だけか・・・・・・」


 ツーベルク家では別の意味で騒がしかった。地図を取り囲んでユージオ、友人のライア、ヴォルの父親ガスフトが、円状のテーブルを囲んでいた。

 ガスフトが唸った直後、家の扉が勢いよく開けられた。


「ハァ、ハァ・・・ハァ・・・・・!」


 現れたのは村の衛士隊の一員である青年、『ガイア』。ヴォルとも仲がよく、ユージオの兄の一人である。ガイアはルーリッドの村の南近くにある村に、馬に乗って走って全速力で探しに行っていたのだ。


ガスフト「どうだった!!」

ガイア「ハァ、ハァ・・・・・・い、いません!街の人も、誰一人として『セルカ』ちゃんを見てないと・・・・・!」

ユージオ「なんだって!!?」


 一家が騒然としている理由。それは、ヴォルの妹セルカが遊び終わった後から姿が見えないからだ。


ライア「西も東も、南もいない・・・・・・となると、残るは北だけだ」

「「「っ!!」」」


 考えたくもない、想像もしたくないことが突き付けられる。


ガスフト「しかし、ならなんでセルカは北になんか・・・・・・」

ユージオ「ガスフトさん、まだセルカがあそこに行ったって決まったわけじゃ・・・・・・」

ガイア「・・・・・・! なにか飛んでくるぞ!!」


 ユージオがガスフトの言葉を否定しようしようとしたとき、窓が割れ何かが入り床に突き刺さった。


ライア「これは、短剣?」

ガスフト「まさか、ヴォルのか?!」

ガイア「なぁ、柄に紙が括り付けられているぞ!」

ユージオ「紙?」


 床に突き刺さっている大型の短剣の柄には紙が結ばれていた。文字のようなものが赤く透けて見えている。どうやら手紙のようだ。


ガスフト「何が書いてある?」

ユージオ「えぇーと・・・・・・っ!」


《手紙》

『 北 洞窟 』


 手紙に書かれていたのは三つの文字。しかし、この三文字は場にいた全員を絶望へ堕とすには十分だった。


ユージオ「そ、そんな・・・・!」

ライア「くそっ、まさか北にいたのか!」

ユージオ「行ってくる!!」

ガイア「まてユージオ!」


 ユージオが青薔薇の剣を持ち、外へと飛び出そうとしたところで兄のガイアに止められる。


ユージオ「なんで止めるんだ!!?」

ガイア「聞け!ここ最近北の洞窟にゴブリンがいるという報告があった。それに、あそこまではかなりの距離がある!」

ユージオ「こうしてる間にもセルカが危険な目に遭ってるのかもしれないんだぞ!!」

ガイア「考えてみろ!何故ヴォルが一人で、ゴブリンがいるあそこに行ったと思う?これ以上被害を出さないためだ!」

ユージオ「で、でもっ!」

ガスフト「ユージオっ!!」

ユージオ「っ!! ガスフト、さん・・・・・・?」

ガスフト「まずは落ち着け。ヴォルが何時も言っているだろう?【ステイ・クール】、『冷静に』と」

ユージオ「っ・・・・!!」

ガスフト「・・・・・・ガイア、ライア、念のため真面目な衛士をこっそりと集めておいてくれ」

ガイア・ライア「「はいっ!!」」ダッ!


ガスフト「ユージオ、これを使え」

ユージオ「こ、これは・・・・・・?」

ガスフト「ヴォルが『緊急の時に使え』と言っていた」

ユージオ「・・・・・・まさか!」

ガスフト「使い方は、わかるな?」

ユージオ「・・・・・・」


 ユージオが受け取った物、それは一枚のカードだった。それには文字が刻まれている。


ユージオ「・・・・・・行ってきます!必ず、セルカを連れ戻してきます!」

ガスフト「あぁ、頼んだ!」

ユージオ「『ディメンションワープ』!」


 ユージオの足元に不思議な光の陣が現れ、ユージオの身体を通り頭を通った直後、彼自身も発行し光陣と共に消滅した。

 この術式は『転移』の術式であり、使用者が強く願ったものの所まで瞬時に移動させることが出来る。なお、ヴォルグリムのオリジナル術式だ。

 家にはガスフト・ツーベルクだけが残された。


ガスフト「ヴォル・・・・・・何故お前は、危険なことに自分から突っ込んでいくのだ・・・・・・」


 呟いたその言葉に、答えてくれる者はいなかった。しかし、床に突き刺さっている禍々しい短剣が一瞬だけ、ほんの一瞬だけ刃に、歪な光を通らせた。






ヴォルグリムside~~~


ヴォル「来たか、ユージオ」


 俺は以前、緊急時の時の脱出手段で父・ガスフト・ツーベルクにあるカードを渡した。そのカードは俺の血を媒介にして造った物だ。

 そして今現在、俺の目の前にはワープで来たユージオが立っていた。


ユージオ「あれは、やっぱり君のだったんだね・・・・・・」

ヴォル「そうだ。因みに、さっきのはまだ試作品だからそれが最初で最後の一枚だ」

ユージオ「そうなんだね」

ヴォル「ユージオ、簡潔に言う。セルカはこの洞窟の奥だ」

ユージオ「!!? それなら早く行かなくちゃ!!」

ヴォル「俺に作戦ある。走りながら言うからよぉく聞いとけよ?」

ユージオ「分かった!」


 ヴォルとユージオは洞窟の奥へと走って行った。


ヴォル「いいかユージオ。恐らくセルカはゴブリン共に捕まり暗黒領域に連れて行かれる」

ユージオ「な、なんで!」

ヴォル「ゴブリンってのはRPGじゃぁ雑魚だが、本来、心ん中は女を犯す事しか考えてない屑中の屑どもだ。例外はいるが」

ユージオ「そんな?!」

ヴォル「だが、どんな馬鹿な奴でも敵がいる領域で犯るはずがない。洞窟内、おそらく奥にまだいるはずだ」

ユージオ「・・・・・・どうすればいい?」

ヴォル「さっそく作戦について質問か? 作戦は簡単、お前がセルカを救い出せ」

ユージオ「なっ!?ゴブリンたちの間を縫って助けろって!!?」

ヴォル「安心しろ、助ける隙は作る」

ユージオ「その後は!?」

ヴォル「俺があいつらを一匹残らず、灰すらも残さぬよう燃やす」

ユージオ「殺すだって?! ヴォルの強さは僕が一番知っている。でも相手は一人じゃないんだろ?!」

ヴォル「言ったろ? ゴブリンはゲームじゃ雑魚中の雑魚。チーターを除いて、LV1の初期装備のPYがLV999の怪物に勝てるとでも思うか?」

ユージオ「何を言ってるのか全く分からないけど、危険すぎる!!」

ヴォル「ユージオッッ!!!」

ユージオ「!!?」

ヴォル「俺は今気が立ってるんだ・・・・・・なるべくいう通りにしてくれ。さもないと・・・・・・」


『お前を殺しちまいそうだ』


ユージオ「っ!!」


 その時、ユージオは心臓を鷲掴みにされるような感覚を覚えた。そして本能がこう叫んでいる、「逆らうな」と。


ユージオ「わ、わかった」

ヴォル「それでいい。 さぁ、ゴブリン共ぉ、貴様らは屑で腐っていても生物だァ。動くのなら肉がある、血が流れている・・・・・・」

  「貴様らの肉で腹を満たし、血で喉を潤すことが出来るかァ? いや、満たしてくれよぉ?!」

ユージオ「・・・・・・」


 ユージオは途中からヴォルから目を背けた。ヴォルは怒ったりすると狂い、このような恐ろしい台詞を吐くからだ。

 以前、手に持った心臓を潰し、一匹だったが脅威となるゴブリンを殺した時だって、ユージオを助けるために殺したのだ。しかし、ユージオは怖かった。血で染まったその少女が、指や手、腕に着いた血を長い舌で舐め、顔を赤らめ恍惚の笑みを浮かべているその少女が。だが、逆にそこに惹かれた。その美しさに惹かれてしまったのだ。その時からユージオはヴォルの狂気的行いを見ても忌避感を感じることはなくなった。それはつまり、自分自身も狂ってしまったからだ。


 走り続け、気が付けば周りの光景は岩だけではなく、辺り全体が青く光っていて、氷の結晶が目立ってきた。


ヴォル「いるんだったらここら辺だと思うんだがなぁ」

ユージオ「もう少し奥に進んでみよう」

ヴォル「そうだな」


 二人はさらに奥へと進む。進んだ先は広い空洞になっており、地面だけでなく壁や天井にも大きな氷の結晶が付いている。

 ふと、ヴォルが足を止めユージオを手で静止させる。そしてその手を下に動かした。この動作は「しゃがめ」という意味だ。それに従いユージオはしゃがむ。


ユージオ「どうしたの?」

ヴォル「話し声が聞こえる。恐らく、いや絶対にゴブリン共の声だ」

ユージオ「!」

ヴォル「・・・・・・このまま近づくぞ。  おぅぇ・・・・・・」

ユージオ「だ、大丈夫?」

ヴォル「チィッ・・・・・・大丈夫だ。いいか、作戦通りに行くぞ?なるべく身体発火しないように火力は抑えるから、我慢してくれ」

ユージオ「わかった」


 ユージオには聞こえないが、ヴォルにはゴブリンたちの話し声が聞こえるらしい。

 ヴォルが口元を抑えているのは、多分ゴブリンたちの話で吐き気を催したのだろう。ユージオはヴォル自身から、強姦などの強制的な性行やそういう話を聞くと吐くと聞いたことがる。そして、だからこそ殺さなければならないという事も。ヴォルはそういう人間を極度に嫌い、それを頻繁に行っているらしいゴブリンを殺している。


ヴォル「セルカのバカ妹がぁ、帰ったらもみくしゃの刑だぁ」

ユージオ「それは止めたげなよ。アレ、やられてる側が可哀そうになるから・・・・・・」


 ヴォルが言う「もみくしゃ」とは、くすぐりの刑である。それも敏感帯と言う敏感な部分をずっとくすぐり続ける。ヴォルが相手の反応をみてくすぐる場所をちょくちょく変えるので、耐性が付きにくい。しかもエスカレートすると、秘部まで弄ってくる。以前、女の子にした後のヴォル曰く『いやぁ~、反応が可愛すぎてついヤちゃった☆テヘッ♪♪』だ。それに兄のライアも前に被害に遭った。ライアは結構女顔なので、麦わら帽子をして、女物の服を着れば完全な女子になるだろうという容姿持ちだ。それに声も少し高い。被害直後のライア曰く『もう、ね。されたくない、アレ。気を抜いたりしたら女にされてた・・・・・・』。結論・・・・・・ヴォルのくすぐりはヤバイ。


ヴォル「止れユージオ・・・・・・」

ユージオ「どうした?」

ヴォル「奴等だ。 ヒィ、フゥ、ミィ・・・・・・取り巻き4体、親玉らしき奴が1体、計五体」

ユージオ「そ、そんなに・・・・・・」

ヴォル「少ないってことは、恐らく偵察部隊かもしれん。だがつい最近ってことはまだ村への入り口は見つかってないだろう」

ユージオ「じゃぁ・・・・・・」

ヴォル「一石三鳥。セルカを助けるのにあいつらを殺し、村への被害が減る。それに、俺とコイツの餌にもなる。まさにこの言葉が似合う」

ユージオ「・・・・・・」

ヴォル「んじゃ、大きい隙を作っから見逃すな。セルカを頼んだぞ?」スゥゥゥ・・・・・・

ユージオ「わかった!」


 ヴォルとユージオは、腰に差している愛剣を同時に抜き、氷の結晶の影から飛び出し、ゴブリンたちの前へと姿を出す。

 二人の姿を視認したゴブリンたちが一斉に口を開け、汚い言葉を出す。


「おいおい、どうなってんだぁ、また白イウムの餓鬼が二匹も転がり込んできたぜぇ!」

「どうする、こいつらも捕まえるかぁ?」

「男のイウムは殺せ。女の方は捕まえろ」


チッ・・・・・・


 隣のヴォルから舌打ちの音が聞こえた。ふと彼女の顔を見ると右目の包帯から血が滲み出ていた。額に血管がくっきりと見えるほど、頭に血が昇っているのが分かる。相当怒っているようだ。

 追加事項。ヴォルは怒ると右目から血が出てくる。これについては頭に血が昇るからだとか。そして、こういう時に限って____


ヴォル「すまんユージオ、作戦変更だ」

ユージオ「・・・・・・どんな作戦?」

ヴォル「こいつら先に《斬り》殺す。そっちの方が早い。炎は使わん」

ユージオ「・・・・・・わかった。下がっておく」


 怒ってるときに限り、急な作戦変更が来るのだ。

 ユージオはヴォルの後ろに下がる。対してヴォルは二歩前に出て剣を下に下げる。下げた剣の切っ先が結晶に当たり甲高い音が響く。


「男の方はさっさと殺しちまおうぜ!」


 一匹のゴブリンがそう言う。


「女のほうは俺が一番にもりう・・・・?」


 二匹目のゴブリンが言葉を発する。しかし、その声は途中から呂律が回っていない。


「あん?どうしt、ッッ!!?」


 他のゴブリンよりも一回りでかいゴブリン、恐らく隊長ゴブリンが、二匹目のゴブリンの話し方に疑問を覚えそちらを見る。隊長ゴブリンの口から出たのは悲鳴にも似た声だった。


「あぇェ、おらノかリらG・・・・・・  ドグチャ・・・・・・


 何故なら隊長ゴブリンがみたモノは、頭から下にかけて文字通り真っ二つとなり、傷口が綺麗なため死にきれずに今だ立っているゴブリンの姿だった。そして、その目の前には黒すぎる剣を掲げている、剣を振り上げた後のヴォルグリムの姿だった。

 それと同時に、ヴォルが先程いたはずの結晶の地面に、血が滲んだ包帯が舞降りてきた。


莨贋サ」鄒?飴鮴「小鬼風情が、大妖鬼である我を捕らえる、だと?」ギロッ


 ヴォルの右目は黒い。ただただ黒い。例えるのなら『虚無』、それは怒り、憎しみ、悲しみ、嘆き、絶望が混ざり合った《混沌》の、どす黒い感情を表したかのような《虚無》そのもの。


「ひ、ヒィィィィィ!!!!」


 目の前にいた仲間が殺されたと視認したゴブリンが、悲鳴を上げて逃げていく。≪敵に背中を向けて≫。

 ヴォルが言った、どんな状況でも敵がいるのなら背を向けるな。それが、人を殺せる力があるのなら絶対に背を向けてはいけない。もし逃げたのなら、、、、ソレは殺す側にとって、ただの格好で絶好の的だ。


莨贋サ」鄒?飴鮴「逃げるなよ屑共。貴様らはただただのプレイヤー様方に殺され、プレイヤー様方の経験値・・・・・・そして、」シュッ!

「ひぃぃぃあぁぁああああ・・・・・・」ドグチャァ・・・・・・

莨贋サ」鄒?飴鮴「敵MPCや敵MOBは、殺され、経験値になることが役目であり、それこそが貴様らにとっての至高なのだから」


 逃げていたゴブリンの悲鳴が途中で止まる。そして、その体が縦に先ほど死んだ同族と同じように裂ける。こちらもやはり完全には死に切れないのか、倒れた後でも動いている。


「」ピクピク、ピ・・・・・・


 そして、絶命した。


莨贋サ」鄒?飴鮴「さて、次は貴様だ♪」ニコッ


 そのときのヴォルの笑顔はすさまじく可愛らしかった。しかし、その笑顔はゴブリンたちにとっては死を表すモノであり、全員が洞窟の奥の出口へと全力で走り逃げるのは一秒とかからなかった。

 しかし、狂った《凶人/ヴォルグリム》がそれを許すはずがない。最後尾のゴブリンの後ろに一瞬で着けば、片手で持っている、かなりの刃渡りを持つ長剣を振り下ろす。その数秒後にゴブリンが裂け始める。斬りつけた瞬間に凶人は、次の最後尾にいる獲物へと、剣を斜めに振るう。そのゴブリンも真っ二つに綺麗に裂ける。残るは隊長ゴブリンだけとなった。


「な、なんなんだぁ、あの餓鬼はァ・・・・・・!!?」


 いけない!ヴォルが取り巻き達を潰していたせいで隊長の方は出口付近に到達していた。あの先はダークテリトリーが広がっている。例えヴォルでも、『禁忌目録のダークテリトリーに侵入してはいけない』此れは守るはずだ。


ユージオ「ヴォル!!」

莨贋サ」鄒?飴鮴「逃亡とは・・・・・・暗黒領域人、いや・・・・・・種族さえも失格だ」


 ヴォルは投球の体勢に入る。引かれている右手には前方に切っ先を向け、逆手で持っている煉獄の剣だ。まさか剣を投げるのか?!


「抜ければ、俺様の勝ちだっ!!次は千人連れて殺してやるぞ!!貴様らの村のイウムもなぁ!!」


 ゴブリンが勝利を確信した声で叫ぶ。


莨贋サ」鄒?飴鮴「次、か・・・・・そんなものを与えると思うておるのか?」ブンッ!!


 ヴォルがその体が霞む速度と勢いで、黒炎を纏う大剣を投げた。直後に、耳をつんざく轟音が洞窟内に鳴り響く。思わず両耳をふさぎ、目を強く瞑る。


 ザシュッ!!  パァァン!!


 肉を貫く音が聞こえ、直後、何かがはじける音が聞こえた。目を開けると、ゴブリンの首に剣が突き刺さっているが走っている。___【首から上が無い状態】でだ。数秒後、ゴブリンの身体がダークテリトリー側の地面に着いたと同時に剣の重さで、背中から倒れた。そして、頭が無くなった首の切口から血を噴射させ、刺さっている煉獄の剣をまた一段と赤黒く染め上げた。


ヴォル「さてユージオ、バカ妹を頼んだ」

ユージオ「ん、了解」

ヴォル「・・・・・・」


 ___俺がユージオにセルカを任せた理由はいくつかある。一つは、前の作戦で俺がゴブリン共を殺すからその間に救出もあるが、なにより『もみくしゃの刑』を宣言してしまった。俺がおぶると、いつの間にかだっこして脇やら脇腹やら敏感帯等を刺激しまくるかもしれないからだ。

 ・・・・・・一応、アレが危ないということは自重しているぞ?


ユージオ「ヴぉ、ヴォルっ、大変だよ!!」

ヴォル「あぁ?どうしたぁ?」

ユージオ「せ、セルカが怪我して血を流してる!!」

ヴォル「んだと!!?」バッ!

ユージオ「ここ!脇腹部分!!」

ヴォル「これは・・・・・・傷が深い!それに長時間の治療なしの出血だ。・・・・・・正直、ここまで生きているのが奇跡だ」


 荷台に縛られて気絶しているセルカは、脇腹に深い傷があり、顔が青を通り越して白くなっている。出血しすぎている証拠だ。


ユージオ「ど、どうする!?」

ヴォル「ユージオ、修道士の姉ちゃんが言った高位神聖治癒術こと、覚えてるか?」

ユージオ「そ、それって・・・・・・他の人と手を繋いで天命を削って怪我している人に天命を移すやつ?」

ヴォル「そうだ。それをやる」

ユージオ「で、でも!あれは・・・・・・!!」

ヴォル「それに、術式を組み唱えるのはお前だ、ユージオ」

ユージオ「な、なんで?!」

ヴォル「いいかユージオ。この治癒術は天命値が多い方から優先的に天命を削る」

ユージオ「で、でもっ!」

ヴォル「それに俺は”治癒系の神聖術は一切使えない”。 もう時間がない、すぐに始める。俺が術名を言うから、お前が復唱して唱えろ」

ユージオ「・・・・・・わかった!」


 ヴォルはユージオの左手を繋ぐ。ユージオは右手を広げ、セルカの胸に触れる。


「『システム・コール』!」


 術式を唱えるにあたり必要な前術式を唱える。ユージオには意味は分からないが、不思議な響きに聞こえた。しかし、ヴォルは違う。この世界で言う『外の世界』からやってきた彼女は、この世界を創った《神》の一人である彼女は、外の世界からの迷い人は、その意味を理解している。だからこそ、この世界が《仮想世界》だということを認識させられる。

 ヴォルとユージオがほとんど同時に唱え、復唱する。


「___『トランスファー・ヒューマンユニット・デュラビリティ、ライト・トゥ・レフト』!!」


 きーんという音が洞窟内に反響し、耳に刺さる。直後、ユージオを中心とし、青い光の柱が屹立した。

 かの『聖なる光』と同等の眩しさだ。巨大ドーム内の隅々までライトブルーで染め上げている。俺は眩しさになれているため目を開いたままだったが、ユージオに握られた手が異様な感覚を覚えたので、左目を細める。

 まるで、身体が、魂そのものがその光に溶け、右手からユージオに流れていくような感覚だ。

 歪な目と普通の目で、握り握られている手を見る。実際に、俺の身体から光の粒子がユージオの左腕を通り、右腕へと伝わり、セルカの身体へと入り込んでいっている。

 『トランスファー/デュラビリティ』、この単語とこの現象と合わせれば、人から人へと天命を移動させる神聖術ということが一目で分かる。左手で『ステイシアの窓』こと『ウィンドウ』を出す。天命値を見ると、結構ある天命値が数千減っていた。

 数千、結構多いな。そう思っただろう。しかし、俺だけはこの世界でのHP、つまり天命値は『干渉用』に設定されているので、ぱっと見9桁は超えている。この世界の平均天命値は30000・・・・・・。俺は、HPを管理していたをした同僚にやりすぎだ馬鹿、と心の中で叫んだ。9桁、100000000以上は本当にやりすぎだゴラァ!!帰ったらもみくしゃの刑じゃぁ! あ、彼奴ドⅯだったわ・・・・・・意味がネェ(#^ω^)

 だが、そんな数値を見られると怪しまれるので、他人の目には、この年齢に合った天命値が表示されるように、事前にシステムを弄っておいた。

 そんなことを思っていると、セルカの出血が止まり、傷口が治りつつあった。治癒を始めて数十秒でほぼ治ってきた。流石膨大な天命値を移しただけはある。しかし、傷口を塞ぐにあたり、傷口から流れ込んだ天命が空に散ったのだろう。傷は小さくなってきたが完全な治癒にはなっていない。しかも、内臓近くまで達していた傷だ。遅いのは当然。

 だが、詠唱者のユージオの負担が心配だ。どんな術式でも、詠唱者には負荷がかかる。それが高位術だったらなおさらだ。


ヴォル「大丈夫か?」

ユージオ「あ、あぁ・・・・・・何ともない・・・・・・」

ヴォル「そうか。あまり無理はするな。きつくなったら、すぐにやめろ。セルカが目ぇ覚ました時親友の死体を見たくはないだろ?」

ユージオ「・・・・・・わかった」


 「なんともない」。その割には結構息が上がっている。俺が止めなければ疲労死するLEVELだ。

 直後、ユージオの身体がぐらりと揺れた。 マズイ!無理をさせ過ぎた! ユージオには、俺の持つこの世界ではあり得ないほどの膨大な天命が直接流れている。それが現在の天命値21000の身体という器に耐えられるだろうか。その答えは、否だ。どんな器でも、容量には決まりがある。それを超える物を入れてしまえば、溢れ出し、器に負荷がかかる。ユージオを止めるために俺は動く。

 しかし、動くよりも早く、ユージオが俺を見た。その眼を見た俺は動きを止めた。何故か身体が動かない。


ヴォル「ぐおっ・・・・・・!?」


 その時、俺の身体が悲鳴を上げた。おそらく、ユージオがセルカの傷を早く治したいあまり、その想いが治癒術の速度を速めたのだ。そしてその天命の急速な消費で、俺自体に備わっている防衛機能が作動したのだ。

 今俺の体は、急速に消費された天命の穴を埋めようとして、天命が急ピッチで”生成”されている。消費と生成、まったくもって真逆の性質が体の中でエンドレスを繰り返している。そのため、身体のあちこちが軋み、まったく動かないのだ。


ヴォル(クソッ!クソッ!クソっ!!クソがァっ!!こんな時にィィ!!)


 動こうにも動けない。これじゃ【あの時】と同じだ。”あの時”の光景と今の光景が重なった。俺の心に恐怖がが生まれた。俺が、死よりも恐れているもの、《__への恐怖》・・・・・・。



 ___ふと、両肩に、誰かの手を感じた。

 暖かい。まるで、太陽の光が全身を包み込んでいる感覚に似ている。心の中で凍りついていた《恐怖》がゆっくりと溶けてゆく。

 俺は、この手を知っている。小鳥の羽のように華奢で、触れてしまえば壊れてしまいそうな・・・・・・しかし、誰よりも力強かった手。


 ・・・・・・だれだ、お前は・・・・・・?


 声ではなく、心の中で呟いた言葉だった。

 しかし、俺は知っている。だからこそ問うていた。自分と最も近い存在の彼女に・・・・・・。


『お姉様、ユージオ・・・・・・待っているわ、いつまでも・・・・・・セントラル・カセドラルのてっぺんで、ずっと、待ってる・・・・・・』


 ・・・・・・お前は・・・・・___、なのか・・・・・・?


 黄金の光が太陽のように煌き、俺の内部を満たす。その光の圧倒的エネルギーは、俺の背中を押すには十分すぎるほど輝いた。俺は体を動かし、小さな声でオリジナルの神聖術【天命急速逆流遅延術】を発動させる。セルカを助けるために暴走気味の親友のうなじへと口を近づけ・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・


・・・・・・











祭りの余興に舞い降りる満月



 あの誘拐事件から数日が立った。

 ここはツーベルク家のユージオの部屋。俺は、ベッドの上で上半身を起こしているユージオの隣に座り、持ってきた果物の盛り合わせの中から、真っ赤な林檎を一つ取り出し、常備している無数の短剣の中から、切り分け用の小さめの短剣を取り出し、林檎を切る。


ヴォル「体調はどうだ?」

ユージオ「寝てたらよくなってきたよ。迷惑かけてごめんね?」

ヴォル「ならよかった。次に無茶したら《甘噛み》じゃすまさんぞ?」レロ

ユージオ「わ、わかったよ。あれは本当にびっくりしたんだから///」

ヴォル「いやぁ、うなじが敏感帯で助かったわ!あそこ狙いやすかったし!」


 ヴォルは暴走気味のユージオに、彼の敏感帯の一つである『うなじ』を甘く噛むことで暴走を止めたのだった。


ユージオ「うー、思い出しただけでも恥ずかしいよ~・・・・・・///」

ヴォル「くっはっは! ほれ、りんご」つリンゴ

ユージオ「あ、ありがとう///」


 ユージオは、ヴォルから食べやすいように切られた林檎を受け取った。しかも、そのリンゴはウサギ型だ。


ユージオ「あ、かわいい。この形はうさぎ?」

ヴォル「おうよ。皮を半分取って、もう半分をその半分まで切り取らないように浮かして、その浮かしたところを三角に切れば耳ができる」

ユージオ「それでウサギの出来上がり、ってわけだね。こういうところは器用だよね」

ヴォル「これでも習得するのに苦労したんだぜ?」


 『この世界ではないところで』だが、嘘は言っていない。 ちなみに、作者は皮ごと食うのでやったことはあまりない。


ユージオ「セルカの様子はどう?」

ヴォル「お前が無茶してくれたおかげで、天命値の容量上限がOverしたから、元気が有り余って逆に困ったもんだよ」

ユージオ「おー、ばー・・・・・はよく分からないけど、元気そうでよかったよ」

ヴォル「そうだな。ま、困りもんだが、夜の準備の手伝いで徐々に消費していってるよ」

ユージオ「そう・・・・・・」

ヴォル「ところで、俺達には祭りが待っているが、大丈夫か?」


 そう。本来はセルカが洞窟にさらわれた日の夜のは、ギガスシダー倒木の祝いとして村全体で祭りを行う予定だった。しかしセルカが失踪したため、親父がこの件が漏れないように色々と理由を付けて延期にさせてもらった。ツーベルクとしての我が父、村長としても父親としても頼りになる。


ユージオ「うん。さっき剣を持ってみたけど、普通に持てたよ」

ヴォル「それなら大丈夫そうだな。 ほい二個目」

ユージオ「ありがと・・・・・・」ス・・・

ヴォル「なぁ~んてな♪♪」ヒョイッ パクッ

ユージオ「あぁー!なんで食べるの!?」

ヴォル「シャクシャク ひゃにいってんらぁ?ゴクン 俺がとってきたもんなんだから、食ったって問題なかろう?」

ユージオ「まぁ、確かにそうだけどさ・・・・・・」ムスー

ヴォル「拗ねるな拗ねるな。 んじゃ、俺は手伝いがあるけん、行ってくるさね」

ユージオ「うん。気を付けてね?」

ヴォル「ああ」スク・・・・・・


 ヴォルは椅子から立ち上がり、扉を開ける。そしてユージオは驚く。なぜならあれほどあった果物の山は、食べやすいように均等に切られていて、ヴォルの手に乗っている皿に綺麗に盛られているからだ。

 そして、ユージオの前にある机の上の皿にも、何時の間にか切ったのであろう、一口大の果物が盛られている。


ユージオ「ほんっと・・・・・・刃物の扱いはすごいんだから」


 ヴォルの事だ、多分林檎を切っているときに、ついで感覚で全部切り分けてしまったのだろう。


ユージオ「さて、っと。・・・・・・ん~~!準備は後でしとこっと」


 祭りの主役の一人であり、一応病人のユージオは、夜まで安静にしとけとの事で横になっている。てな訳で暇なのだ。だから、また寝ようと思う。






【ルーリッドの村___???】



  俺は、ユージオの様子を見て外に出た後、お気に入りの場所で夜までのんびりすることにした。手伝い?なんのこっちゃ。あるとは言ったが、するとはいってない( ・´ー・`)ドヤァ


「あ゙ん? なんか飛んできたな。飛ぶってこたぁ、飛竜くらいしかいねぇから整合騎士か。・・・・・・赤の奴じゃねーな」


 木の影で休んでいたら、上空で何かが通った気配がしたので影から身を出し、空を見上げる。

 この世界で飛べるのは飛竜くらいしかいないので、それを従える整合騎士が飛び通ったのだと考える。


「はぁ・・・・・・もしかして、ゴブリン侵入の件かぁ? ま、あそこに来た奴にサプライズ置いてあるし、喜んでくれると嬉しいなぁ」ニタリ


 セルカの治癒で倒れたユージオと、眠っているセルカを家で寝かした後、俺はもう一度洞窟の奥地へと赴いた。次に来る人達へのサプライズ兼メッセージを残すためだ。

 その内容は、巨大ドームの人界側の出入り口側の壁に、顔が無くなった隊長ゴブリンの身体を、耐久値無限の__しかし、俺登録した者/物以外がその剣に振れれば、消滅する__予備の剣で突き刺し、固定する。加え、殺した取り巻きタチの身体をさらに解体し、惨殺現場に見せ、放置することで、次に来る奴に恐怖と、『お前もこうなるぞ』という無言の忠告を与えるためだ。

 ついでに言うと、ゴブリンの血で、天井や壁や床に神聖語(英語)と日本語、その他さまざまな国の文字で同じ意味の分を書いた。


「『次は、お前だ』・・・・・・。はっ、書いてる時に気づいたが、暗黒領域の人間だけでなく、奴等にも向けたメッセージになるとは」


 俺は、”奴等”が憎い。特に、この身体を燃やし、俺の愛しい彼女を連れ去った《紅蓮の弓使い》が。そして、それを黙って見ていた大人たちが。勿論、ユージオもそれに含まれてはいる。しかし、当時は、まだ幼かった彼は、整合騎士のその覇気と、禁忌目録を破ることを阻止するための謎のErrorの痛みに耐えきれなかったので、仕方ないともいえる。


「ま、何時かは剣を交えるんだし、お互いに首を洗って待っとこうぜェ?」


 剣を交える。其れ即ち、争いを起こすという事。なぜなら、この世界から脱出するためにはこの世界に2,3個あるシステムコンソールという装置を必要とする。___因みに、その装置も場所は大雑把にしか分からない。というか、設計に関わっているのだが、あいにくと管轄外なのだ。こういうことの運には見放されている。

 一つは、このルーリッドの村から南にある都《セントリア》の中央に聳え立つ白亜の塔、教会《カセドラル・セントラル》に。一つは、暗黒領域の荒野のどこかに存在する、らしい。 教会の装置に関しては、そこの管理人や整合騎士との話し合いが絶対と言っていい程無理なので、突撃して、強行突破で塔内をくまなく散策する必要がある。だから、何人いるかもわからない最強の”自称”騎士達と闘わなくてはならないのだ。


 ___アンダーワールド創設当時は、あんなに高くはなく、十階建てのマンションくらいの高さだったのだが、今や東京スカイツリーをはるかに超える高さなので、場所も恐らく変わっていると考えていい。


 ま、争いはべつにいいとして、まずは外の連絡手段として、場所が一応は特定していてなにより近いところにある《カセドラル・セントラル》を目指すことにしただけだが。

 《全人類の希望》の奪還は、連絡が取れた後でも行えるし、何より、確実な方法を聞けるからだ。


「待っていろよぉ、教会の駒犬共ォ・・・・・・。たかが人形(NPC)如きが、最強だとおもいあがるなよ」ニタァ


 彼女は右手にもっている、この世界に来る前に密かにダウンロードしていた超アルコール度数の酒___スピリタスを飲みながら、口と目を歪ませ呟いた。

 右目に巻いてある真っ白な包帯が深紅に滲み、溢れすぎた深紅の涙は包帯を抜け出し、頬を伝い、地面に落ちた。


 数十分後、洞窟がある場所から南に向かって、大きな影が彼女の頭上をかなりの速度で通り過ぎた。その影を背に酒をもう一度口に含み、飲み込んだ彼女はもう一度空を仰いだ。

 ___その口に、歪な弧を取り付けて。






【ルーリッドの村《夜》___中央広場】



ヴォル「・・・・・・十数年よぉ、この村で暮らしてきたがぁ・・・・・こんなに人がいたんだな」


 俺は、ジョッキに入った清酒を飲み干し、そう呟いた。十数年といったが、その間の記憶はあるが俺はまだ六年だ。

 ___てか、なんで清酒がこの世界にあるんだ? そういやぁ~、清酒好きの奴がなんか入れとったっけか・・・・・・。酒豪の俺としちゃー、有難いが・・・・・・。あいつ怒られても知らんぞ? 俺が言える口じゃねーが・・・・・

 ルーリッドの村中央広場では、松明の光が集まった人々を赤く照らしていた。噴水の傍らでは、ドラムやバグパイプのような楽器や、長笛による即興の楽団が音楽を奏で、それに合わせて踊る人々の靴音や、手拍子が響き渡っている。

 そんな中、祭りのどんちゃん騒ぎの場から少し離れた場所で座っている自分は、また__今度は瓶ごと清酒を飲んだ。

 

ユージオ「僕も、村の人がこんなに集まるのを見たのは初めてかもしれないなぁ。 年末の大聖節のお祈りよりも多いよ~」


 そう言うのは、俺の向かい側の椅子に座っているユージオだ。右手に持った林檎酒__酒というより林檎ソーダ__を少しずつ飲みながら顔をほころばしている。・・・・・・少し酔ってるな。

 この林檎酒は好みの味ではあるが、一番弱いアルコール度数の酒なので、ウォッカをがぶ飲みする俺にとってはジュースと同じだ。しかし、弱かろうが酒だ。まだ未成年であるユージオは一杯飲んだだけで顔を赤らめている。

 俺は、ユージオの顔を見ながら可愛いなと思いつつ、傍らの皿に盛られてある肉を頬張る。


ヴォル「肉か・・・・・・一応この祭りの主役とはいえ、こんなに盛りだくさんでいいのかね・・・・・・」


 俺の目の前には、平らな丸皿にこれでもかと盛り盛りにされている肉の塔だった。


ヴォル「まぁ全部食うが・・・・・・」パク・・・・・・


 ___!!?


ヴォル「・・・・・・」パクパクパクパクパクパク・・・・・・


 ___・・・・・・。


ヴォル「・・・・・・うめぇ!」キラキラ


 やべー、この世界に来てから肉を食ってねーからめっちゃくちゃ嬉しい。

 肉か・・・・・・。肉と言えば向こう、リアルの方を思い出すな。リアルでは、仲間たちと一緒に同じ屋根の下で同じ釜の飯を食い、同じ床で寝起きし、共に戦場へ赴いたころを………。


 この世界は、リアルの方で時間の加速を設定できる。それに、本物の肉体が朽ちない限り、この世界で死ぬことはない。

 分かりやすいように例を出そうにも、”俺”は『戦い』しか知らないので説明のしようがない。GGOでスキル名の意味を知るために英語をちょっとだけかじっていて良かったとつくづく思う。

 ___まぁ、『STL(ソウル・トランスレーター)』を使用していればの話だが、つまりこの世界では、現実世界からの訪問者は、ある程度までは年を取り、それ相応の見た目になるが、実質『不老不死』となのだ。俺はこの世界でかれこれ16年は過ごしている(その内十一年は女帝の生)。向こうの世界では、アラサーになる前だったと記憶していたので、今世も含めて、もう魂年齢は四十を超えた。結婚は~・・・・・・寿命は無いにも等しいし、考える必要性皆無だな。


ヴォル「あっちの世界じゃ、まだ一週間・・・・・・もしかしたら一日しか経ってないのかね~?」


 そう小さく呟きながら、最後の焼き肉を口に入れる。皿には肉が山ほどあったのだが、向こうのことを想っているうちに全部食ってしまったようだ。

 一応、向こう側と情報を共有したい。俺がログインし、覚醒した時点でアリスはもう生まれていた。そして俺が、アリスの双子の姉として生まれたこと。これは彼奴らを驚かすには十分なネタになるだろうからな。

 いろいろ考えていたことが纏り、親友を見る。ユージオは渡された骨付きの厚すぎる肉を一生懸命頬張っている。俺はふと気になったことを聞いてみることにした。


ヴォル「なぁ、ユージオ~」

ユージオ「なにぃ?」

ヴォル「お前さ、セルカのこと・・・・・・」


 少し酔い気味の親友にセルカのことを聞こうとしたとき、俺は何者かの影に覆われる。


セルカ「こんな所にいた! お祭りの主役二人が何やってるのよ」


 その影の正体は、椅子に立ち、俺を上からのぞき込んでいる妹のセルカだった。

 いつも三つ編みにしている髪を解き、紺色のドレスを纏っていた。・・・・・・はっきり言おう、


ヴォル「天使だ・・・・・・。 天使がおるぞぉ・・・・・・」


 天使や。天使がおるんや。可愛い。まじで可愛い。結婚しよう。

 『いやアンタ、さっき結婚する必要皆無っていってたじゃん』。・・・・・・そうでした。


ユージオ「どうしたの、セルカ?」

セルカ「どうしたもこうしたも・・・・・・。 なんで主役がこんな端っこにいるのよ!」

ユージオ「あ、いや・・・・・・僕、ダンスは苦手だから・・・・・・」

ヴォル「人、大勢いる場所、嫌い・・・・・・。 てなわけで此処にいる」ドヤァ

セルカ「なにどや顔してるのよ! それに、やっていれば何とかなるわ!」

ヴォル「いやいや、俺さっきまでこれ(清酒)飲んでたし、パs・・・遠慮するわ」

セルカ「だめよ。 お姉様はそのくらいじゃ酔わないってことは知ってますから! だから、踊るわよ!」

ヴォル「ウァッツ!?」

ユージオ「えぇと・・・・・・。 拒否権は?」

セルカ「ないわ!」

ユージオ「・・・・・・ですよねー」


 そして、俺とユージオは天使に手を掴まれ、椅子から引きはがされた。セルカは俺達を広場の真ん中まで引っ張り、どーんと勢いよく突き飛ばした。途端に周りからうるさい歓声が上がり、俺たちは一緒に踊らされる。

 幸い、俺はリアルの方で円舞をしている仲間がいて、暇なときや、宴会の場でともに披露していたのですぐに踊る事ができた。

 何故か俺は女の子からのアプローチが多く、その娘たちと踊り、今はレイアと踊っている。レイアは、健康的な赤い頬で無邪気に笑い、ダンスになれてないのか、こけそうになりながらも俺に合わせようとする。俺は、その姿を見て微笑む。俺がエスコートしながら、ちょっとずつ教えながら、レイアと踊る。だんだんとレイアもこけそうにならなくなり、息が合って綺麗に踊れている。その姿に俺は、懐かしさを覚えた。

 ___こう踊っていると、キリトやアスナ、仲間たちとALOで空中円舞をしたことを思い出す。妖精との円舞、まさに『フェアリーダンス』だ。その光景を思っていたら、頭の奥が少々痛む。

 唐突に音楽の音が鳴りやんだ。楽団の方を見ると並んだ楽器の隣にある演台に、父のガスフトが立っていた。村長は両手をぱんと叩く。


ガスフト「みんな、宴もいいが、聞いてくれ!」


 村人たちは、火照った身体を林檎酒を一気に飲んで冷やす。空になったジョッキに林檎酒をなみなみ注ぎ、村長の次の言葉を待つ。


ガスフト「___ルーリッドの村を拓いた先祖たちの大願は、ついに果たされた!

    肥沃な南の土地からテラリアとソルスの恵みを奪っていた悪魔の樹が倒されたのだ!

    我々は、新たなる麦畑、豆畑、牛や羊の放牧地を手に入れるだろう!」


 ガスフトの声を、歓声がかき消す。村長は両手を上げて歓声を静まらせると、続けた。


ガスフト「それを成し遂げた若者たち__私の娘ヴォルグリム、オーリックの息子ユージオよ、ここに!」


 父が、広場の真ん中でそれを見ている俺とユージオ二人を手招きする。ユージオを見ると、緊張した顔の親友がいた。その隣には、やや小柄な壮年男性がいた。たしか、ユージオの父親だったな。

 さて、俺も呼ばれた理由は自分も黒大樹を切り倒したからだろう。しかし、人前に出るのが嫌なので、ユージオにこの場は預けるとしよう。


ヴォル「悪いが、俺は遠慮する。そもそも俺は木こりじゃないしな~」


 めんどくさと思いつつ、腰のベルトに結びつけていた酒の入った携帯瓶を抜き、飲みながらその場から去ろうとするが、それは二つの手に両肩を掴まれたことによって止められた。

 後ろをちらりと見ると、ちょっとつま先立ちして右肩を掴んでいるユージオと、どこからもってきたのか、椅子に立って左肩を掴んでいるセルカがいた。何故か顔をにこにこさせながら。


ヴォル「おい、何故止める? 我が妹にして天使セルカ。そして、我が幼馴染にして親友ユージオよ」

セルカ「何処に行こうとしてるのですか~?」ニコニコ

ユージオ「そうだぞ~。僕だけに任せるのは、いけないなぁ~」ニコニコ

ヴォル「・・・・・・くそったれ」


 ちくせう、ダメだったようだ。俺は酒瓶の中の酒を飲み干し、ユージオとともに演台に立つ。


ガスフト「掟に従い___」


 村の人たちは口を閉じて耳を澄ました。


ガスフト「見事天職を果たしたユージオ、そして彼を導き、共に切り開いたヴォルグリムには、自らの天職を選べる権利が与えられる!

    本来、天職が無いヴォルグリムは自由に天職を選べるが、この際意思を聞いておきたいと思う!

    ユージオはこのまま森で木こりを続けるもよし、父親の仕事を継ぐもよし、牛飼いになろうと、商売をしようと、

    なんなりと己の道を選ぶといい!」


 天職の選択か。俺はもう決まっているが、ユージオはどうするか・・・・・・。一応このことに関しては事前に話し合っている。その時は、まだユージオは『考えさせて』が答えだった。

 だが、あれから何週間もたっている。もう決めたのだろうか?

 俺がユージオの覚悟について考えてると、父が続きを言う。


ガスフト「まず、私の娘ヴォルの答えを聞きたい。 だが、今でなくてもいい。じっくり考える時間はある」


 答えはあの日、《結晶》が連れて行かれた六年前のあの日に決定している。父を見て、次に村人の輪を見回し、セルカを見る。セルカの目にはなにかを悟ったような眼をしていた。


ヴォル「俺は剣士になる。 脅威になる障害を全て排除し、世界を・・・・・・この村を守る」


 静寂の後、村人の間にざわめきが走る。ある者は哀れみ、ある者は夢物語という。ガスフトは娘の言葉に__否、その覚悟に驚いている。ユージオも目を開いている。事前に言っておいたのだが、やはり驚いたようだ。

 セルカはそれを見越していたようだが、どこか悲しそうな顔をし、俺を見ている。


ガスフト「ヴォル、お前はまさか___」


 そこで言葉を切り、一瞬悲しそうな顔をしてまた続ける。


ガスフト「・・・・・・いや、理由は聞くまい」


 理由を聞かない。それはつまり、剣士になる本当の理由が理解したという事だろう。


ガスフト「さて、次はユージオだな・・・・・・」

「待ってもらおう!!」


 人垣を割って壇の前に飛び出したのは、他とは少し大柄な男だった。

 朽葉色の短髪といかつい造作、そして左腰に吊られたシンプルな長剣に見覚えがあった。確か、いつも南の詰め所に立っている衛士のジンクだったはず。

 その男は、壇上にいる俺と張り合うように胸を張り、太い声で叫んだ。


ジンク「ザッカリアの衛兵隊を目指すのは、まず第一にこの俺の権利だったはずだ! ヴォルが村を出ることを許されるのは、

   俺の次じゃないとおかしいだろう!」

「そうだ、その通りだ!」


 ジンクが叫び声を発した後、中年のデブ男が進み出た。

 はぁ、一人でもうるさい奴が二人になった・・・・・・。めんどくさ、と思っていると、二人の言い分を聞いた親父が言った。


ガスフト「しかしジンクよ、お前はまだ衛士の天職に就いてまだ六年だろう。

    掟では、あと四年経たなければザッカリアの剣術大会に出ることはできんぞ」

ジンク「ならばヴォルもあと四年待つべきだ! 剣の腕が俺より下で、それに女であるヴォルグリムが俺を差し置いて

   大会に出るのはおかしい!」

ヴォル「・・・・・・」ブチッ

ユージオ「? !?ぼ、ヴォル・・・・・・?」


 ___何か張ったものが切れるような音が左隣から聞こえたので、そちらを見てみると、額に血管を浮かせながらニコニコしているヴォルがいた。

 あ、まさかさっきの『剣の腕が俺より下・・・・・・』『それに女で・・・・・・』というジンクの言葉が逆鱗に触れたのだろう。頭に血が昇っているので、右目の包帯が赤くなっている。


ガスフト「ふむ。ならばどうやってそれを証明するのだ? お前の方がヴォルより腕が立つことを?」

ジンク「なっ・・・・・・」


 ガスフトさんの方を見ると、この人もヴォルと同じで額に血管が浮き上がっている。娘を馬鹿にされて怒っているのだろう。こういうところはやっぱり親子だ。ヴォルはガスフトさんの事を、避けているが、馬鹿にされると怒る。

 それに、怒ったときに浮き出る血管の場所が、同じ位置にある。


「ルーリッドの長と言えど、その先の言葉は聞き捨てなりませんな! 息子の剣が、木こりの真似事をしている無天職、ましてや小娘に遅れをとると申すのなら、この場で手合わせさせてみてはよいでしょう!」

ガスフト「いいだろう! こっちは、娘の事を馬鹿にされて聞き捨てならんのだよ!」


 ドイクだけでなく、他の村の人たちも驚いた。それはそうだ、いつも温厚な村長が初めてと思うほどに本気で怒っているのだから。

 しかし、村人たちは、思いがけぬ祭りの余興を楽しめそうだと見て、ジョッキを掲げ、足を踏み鳴らし、決闘だ決闘だとわめく。


ヴォル「勝手に決めんなよ、親父ぃ」グキグキ(首鳴らし)

ガスフト「すまん。どうしても我慢ならなかった・・・・・・」

ヴォル「ま、いいさね。暇つぶし程度には・・・・・・にもなりそうにないが、軽く遊んでやらぁ」ニタァ

ガスフト「お前の強さは俺もよく知っている。加減はしろよ?」

ヴォル「安心しろい、剣は使わなねーよ。 正直剣と剣の斬りあいは見飽きたろ?」

ガスフト「ん? ならどうやって試合するんだ?」

ヴォル「くはっ、あいつには世界がどれ程デカイのか教えてやらんとな」

ガスフト「・・・・・・やりすぎるなよ?」

ヴォル「はぁ~い♪」ニコッ


 ___ヴォルは争いの場では何故か素直な笑顔になる。普段も普通にあの笑顔をしてくれればいいのに・・・・・・。と、言っても馬の耳に念仏、か。

 ヴォルは壇から降り、少し離れた場所にいるジンクに向かって踵を揃え、綺麗に一礼した。

 壇の上でガスフトさんが両手を叩き、静粛に!と叫んだ。


ガスフト「それでは__予定にはなかったが、これより、この場で衛士長ジンクと、ヴォルグリムの立ち合いを執り行なう!

     剣は寸止めにて、初撃決着制にする。互いの天命を損なうことを能わず! よいな!!」


 その言葉が終わるや否や、ジンクがジャリンと音を立てて腰の剣を抜く。それに対しヴォルは、祭りが始まってからずっと気になっていたのだが、腰にさしてあるもう一つの剣の様なものの柄に手をかける。『剣の様なもの』と言うのは、直剣にしては細いし、垂直ではなくすこし反っているいる。しかも目を引くのは、長剣よりもはるかに長いからだ。その長さは《煉獄の剣》よりもある。あの剣は今まで見たことない。ガスフトさんなら何か知っているのだろうか?


 場が騒然とする。セルカも目を見開いていた。しかし、ガスフトさんだけは平然としていた。僕はガスフトさんに聞いた。


ユージオ「ガスフトさん、あの剣のこと知っているのですか?」

ガスフト「あぁ、ヴォルが生まれてきた夜に、どこからともなく現れた剣だ。詳細は一切わからんが、これだけは言える。

    あの『刀』は、ヴォルの物だと」

ユージオ「え! ヴォルの武器って煉獄の剣だけじゃなかったの!? それに、かたなって?」

ガスフト「ああ。ヴォルがそう呼んでいたからな。正確には《太刀》という種類に分類されるそうだ」

ユージオ「そう、なんですか・・・・・・」


 幼馴染であり一番の親友であると思っている僕も、いまだに彼女の事はよく分からない。


ジンク「ヴォルグリム、その剣は本当にお前の物か!? もし借り物なら、俺には使用を拒否する権限が・・・・・「無論我のだ」 なに?」

ヴォルグリム「聞こえなかったのか? なら致し方ない。もう一度言おう。”こいつ”は我の所有物だ。故に、貴殿に拒否する権限はない。

       それでも嘘と申すのなら、我が父上に確認すればよいではないか」


 ジンクはガスフトの方を見る。それに対し、ガスフトは首を縦に振る。肯定の意味だ。村長の肯定に、村人たちが低くざわめき、ジンクは言葉を詰まらせる。


 ___それにしても、先ほどのヴォルの口調が気になる。あのような口調は今まで聞いたことがない。


 ジンクは何も言わず、両手で自分の直剣を大上段に構えた。

 対してヴォルは、鞘からその長剣ならぬ長刀を抜く。その刀の刃が現れたと同時に、おおぉという感声が聞こえた。僕やセルカ、村のみんながその刀身に目を奪われていたからだ。その理由は、ルナ・・・ヴォルが言う『月』の光を受け、白銀の刃が美しく輝いているからだ。


ヴォル「今宵は、曇り無き満月の夜だ。 貴様のような小童には、勿体無いくらいの美しき景色だな」

 

 ヴォルは力を抜いたのか、腕を、全身を脱力した。その証拠にフラフラと、今にも倒れそうな雰囲気を出している。

 百人もの村人が息をつめて見守る中、ガスフトさんが右手を高く掲げ、「始め!」の声とともに振り下ろした。


ジンク「ウオオオオオッ!!」


 ジンクはヴォルに向かって、野太い気合を放ちながら、寸止める気はあるのか?と思わすぐらいの勢いをつけ、真っ向から唐竹割を___


ユージオ「・・・・・・あっ!」


 僕は思わず声を漏らしてしまった。ジンクの剣が、空中で大きく軌道を変えたのだ。上段からの斬り下ろしと見せかけての右水平斬り。しかも、ヴォルはいまだに脱力した状態でその場から動いていない。あのままでは、水平斬りが左横腹に入り一本取られてしまう・・・・・・


ヴォル「・・・・・・」ス・・・・・・


 ヴォルは少し体を動かした。そして、僕はほんとうに息が詰まった。ヴォルが動きを止めた後、彼女が立っていた場所は、剣を振りかぶった後のジンクの背後だったからだ。

 異変に気付いたジンクが後ろを振り向く。その直後、剣の刃が粉々に砕けた。__否。破片をよく見ると、全ての破片の形が綺麗に整っている。砕かれた、というよりは《斬られた》と言ったほうが正しいだろう。

 ジンクが、村人の全員が、何があったのか分からない風に唖然としていると、またしても新たな驚き。ジンクのシャツが破れ、地に落ちた。これも、剣の刃同様に何かに斬られたような跡がある。

 そのような技、神業ともいえる行為をしたのは一人しかいない。彼女にしかできない。そう確信した。


「で、誰が貴様より剣の腕が下だと? 申させてもらうがユージオ殿も貴様よりはるかに強い」

ジンク「な・・・・・・」


 その神業を見せた彼女ヴォルグリム・ツーベルクは、背後で体を小さく震わせているジンクを見て、驚くべき台詞を言う。

 彼女は姿勢を正すと同時に、刀を右斜め下に振り、刃を鞘の穴の縁に沿わせ、刃を収める。やはり、直剣とは何かが違う。


ヴォルグリム「たかが詰め所の入り口で立っているだけの餓鬼が、何時も剣をふるっている者に勝てるわけないだろ?」


 いつもの口調に戻り、その言葉に、僕も含め村人の半分以上が、確かにと頷いた。


ヴォル「それに、今のお前じゃ『ガイア』にすら及ばねーんじゃねーの?」

ガイア「ヴォルちゃん!? なに俺を巻き込んでんの?!」

ヴォル「くはは!今度暇なときに手合わせすりゃーえぇ。 それに衛士長だと思わず敵としてみろ、手加減はするな」

ガイア「で、でもさぁ!!」

ヴォル「こいつは、”無天職”であり”小娘”にも負けた、敗北者じゃけぇ クスクス」m9(^Д^)プギャー

 

 あえてなのか、無天職と小娘のとこを強調し、ジンクを敗北者と嘲笑った。

 そして親友と兄のやり取りが終わり、村のみんなは、誰も予想だにしなかったが、しかし見事な剣技、驚きの決着にわっと湧く村人たち。そして、それに交じって彼女に向かって両手を叩きながら、僕は本当に彼女を追えるのだろうか、一緒の高みへと上れるのだろうかと思ってしまった。


 その時、ふと、背中に人の気配を感じる。その次に、両肩に誰かの手を感じた。

 暖かい___まるで、ソルスの光に包まれているみたいな感覚だ。


 ・・・・・・・・・きみは、誰・・・・・・・・・?


 でも、僕はこの手を知っている。


 『ユージオ、あなたなら大丈夫よ・・・・・・あなたならできる。なんたって、あの人の最高の相棒なんだから・・・・・・』


 身体の内に黄金の光が入ってくるのを感じる。その光が落ち着くと、先ほどまでに思っていた不安などは綺麗に無くなっていた。

 さっきの現象について考えていると、ヴォルが僕を呼んだ。彼女に視線を向けると、彼女は笑顔で腕を伸ばしピースを作った。僕もピースして返す。そして、一番の親友のもとへと歩く。



 ___騒ぎが収まったあと、親父が先ほど中断されたユージオの天職選択権を再開した。

 ユージオは、その翠色の瞳に覚悟という炎が燃えていた。


ユージオ「僕は___僕も剣士になります。ザッカリアの街で衛兵隊に入り、腕をもっと磨いて、いつか央都に上がります。

     それに、ヴォルと一緒に高みを目指したいんです」


 更なるざわめきが起こると思ったが、村人の皆が逆に沈黙していた。

 ユージオが困惑していると、直後村全体に響いたのは歓喜の叫びだった。



*****



 ジンク親子がドンヨリとしたオーラを纏いながら引き上げていくと、すぐに音楽が再開された。祭りはさらに盛り上がり、お開きとなったのは教会の深夜零時を告げる頃だった。

 先ほどのつまらない余興__いや、戯れにもならない立ち合いの際に出した熱を冷ますため、氷水で冷やしておいたスピリタス瓶一本を飲んだ。しかし、自称だが超酒豪とは言え酔うものは酔う。酩酊状態で、比較的仲のいいおやっさんや姉さんたちと楽しく駄弁っていると、セルカに「帰るよ!」呼ばれたので、俺とセルカは教会へ、ユージオは久々に自宅に帰った。ユージオのお母さんが「立派になったね」と泣きながら息子を抱きしめ、その息子は照れ隠ししながら「ただいま」と抱き返しながら言ったのが聞こえた。

 俺は今酔っているので視界がぼやけている。ただでさえ視力が悪い左目がさらに霞み、右目が見えない状態なので、視界が完全にアウトになった。セルカに引っ張られるように寝室へ向かい、ベッドに座り込む。


セルカ「まったくもー、お祭りだからって呑み過ぎですよお姉様。 はい、お水です」

ヴォル「おぉう、あんがと」


 セルカは、俺の手にコップであろう容器を持たせ、手を包み、俺の口へと運んでくれる。コップの中身は井戸水だった。キンキンに冷えていたので、酔いも冷めてくる。

 俺はベッドに背を預け、隣で心配顔でベッドの端に座っている妹を、先ほどよりは晴れてきた目で見上げる。


セルカ「? どうしたの?」


 こちらの視線に気づいたのか、俺の方を向くセルカに謝罪した。


ヴォル「あ~・・・・・・悪かったな。もっとユージオと居たかっただろう?」


 途端に、まだドレス姿の天使の頬が、桜色に染まった。


セルカ「何言いだすんです、急に・・・・・・」///

ヴォル「だってよ~、明日の朝にはもう旅立っちまうんだぜぇ? 元凶俺なんだけどな。

    俺が推さなければ、もしかするとあいつは木こりを続けて、何時かセルカと結婚することになってたのによぉ・・・・・・」


 俺が言い終わるな否や、ぼんっという音が似合うほどに、セルカは顔を赤くした。


セルカ「け、けけけ、結婚って・・・・・・!!わ、わたしが、ユージオと!?」

ヴォル「そうだよ」(肯定)


 めっちゃ驚いているセルカ、可愛い。可愛い(迫真)。

 動揺しまくっているセルカは、深呼吸をして冷静になる。


セルカ「・・・・・・ふぅ。___それは、ユージオが村から出て行っちゃうのは寂しいけど・・・

   でもね、あたし、嬉しいの。アリス姉様がいなくなってからずっと、何もかもを諦めたみたいに生きていたユージオがさ、

   あんなに笑うようになったんだもの。自分からアリスお姉様を探してくれるって言って決めてくれた時にはね、本当にうれしかった。

   お父様も喜んでいたわ。ユージオが、アリスお姉様をずっと忘れないでいたことをね」

ヴォル「・・・・・・そうだったな」


 セルカは頷き、窓の向こうの満月を見上げ続けた。


セルカ「あたしね・・・・・・少しでもアリス姉様近くに行きたかったの。自分の行けるところまで・・・・・・これ以上進めないところまで行って、

    そして、確かめたかった。 でもね、分かっちゃったの、あたしはアリスお姉様の代わりにはなれないんだってことを・・・・・・」

ヴォル「いや、セルカはすごいさ。普通の子なら入り口近くでもう引き返してる。

    セルカは、お前にしかできないことをしたんだ。 流石は俺とアリスの自慢の妹だ。 お前は俺達の誇りだ」

セルカ「ヴォルお姉様と、アリスお姉様の・・・・・・自慢の、妹・・・・・・?」


 目を丸くし、涙目のセルカに大きくうなずく。


ヴォル「人は、決して人の代わりになる事など出来ない。 セルカ、お前には自分だけの才能がある。

    その才能をゆっくりと育て、開花させていけばいいんだ」


 セルカはアリスと同じで、神聖術の成長のスピードが速い。このまま積み上げていけば、美しい花が咲くと俺は確信している。

 それに、セルカは心の中ではやはりアリスを求めている。セルカ本人も、自分もダークテリトリーの地に触れれば一緒の場所へ・・・・・・と思っていることを自覚しているのだろう。


ヴォル「セルカ」

セルカ「・・・・・・なに?」

ヴォル「《剣の誓い》って知ってるか?」

セルカ「剣の、誓い・・・・・・?」


 俺は体を起こし、セルカの前で片膝を床につける。そして、目に涙を浮かべている妹の片手を持ち上げ、顔を近づる。そして、その白い手の甲に唇を付けた。

 セルカはぴくっと体を一瞬震わした。数秒後、俺が顔を離すと、耳まで真っ赤にし、目を真ん丸にして見下ろしている。


セルカ「な、なにしたの・・・・・・?」

ヴォル「言ったろ、《誓い》だって」


 この世界では、俺の覚えのない《謎のコード》によって口付けなどの行為が制限されている。

 誰に向かってか分からない説明を頭の中で浮かべていると、俺の顔を凝視しながら、セルカは自分の右手を左手で触ると、小さく呟いた。


セルカ「でも、手じゃなくて・・・・・・にしてたら、今頃整合騎士が飛ん来るのは分かってるのよね・・・・・・?」

ヴォル「もちノろん。 でも安心しろ、俺はお前を一人にしねぇヨ」

セルカ「・・・・・・ほんとう?」

ヴォル「ほんとうだとも」ニコッ

セルカ「っ!///」


 くはは、からかいすぎたかね。こういう時は、「どうした?」とか鈍感がいうようなベタなセリフがお約束なんだろうが、生憎と俺は鈍感に設定されたないのでな、セルカが照れていることも分かっている。


セルカ「///・・・・・・それで・・・・・・何を、誓ってくれたの?」

ヴォル「うん? 決まっているだろ。 俺はユージオと共にアリスを連れて帰る。この村に太陽を再び昇らせる。約束しよう・・・・・・」


 少し間を置き、かつて、ある世界で呼ばれ続けた懐かしい二つ名を口にする。


ヴォル「この俺、《帝王》の名に懸けて」




*****




 今日もいい天気だ。こんな日は、草原の丘の木陰でワインを飲むに限る。

 セルカが作ってくれた弁当が入った風呂敷を、俺は左手に、ユージオは右手に持って、南に向かって歩いていた。

 俺の背中には煉獄の剣と最低限の荷物、両腰のベルトにはそれぞれ二本ずつ、計四本の長刀を差している。ユージオは、腰に青薔薇の剣を差し、自分の荷物を背負っている。

 俺達は村を出るときに、各家庭に赴き挨拶をした。レウス、レイアを含む子供たちには泣かれたが、ちゃんと戻ってくると言ったら俺が教えた『ゆびきりげんまん』で約束をした。

 ゆびきりげんまん・・・・・・こうして約束事をしたのはかなり久しぶりの気がする。右手の小指だけを立て、それを見つめる。


ユージオ「さぁ、行こう、ヴォル!」


 ふいに声がしたので顔をを上げる。すると、未知の世界である村の外のへの期待に目を輝かせるユージオの笑顔が眼に入る。


ヴォル「・・・・・・そうだな。行くかぁ!」


 俺は、覚醒してからずっと一緒に居る幼馴染で親友で、最高の良きパートナーの少年と肩を並べ、南へ___この世界《アンダーワールド》の中心、全ての『核』、全ての謎の答えがある場所へ延びる道を、やっと歩き始めた。






インフェルノ・アリス 終



後書き



 この物語は【あるはずのない】、しかし【もしかしたら】の世界線のお話。
 【伝説の浮遊城】では、《悪魔》と共に、囚われの全人類に恐怖と絶望を与えた。
 【妖精の箱庭】では、《姫》と共に囚われ、処刑人と成りて、偽りの王に断罪の、断首の刃を振り下ろした。
 【銃声絶えぬ荒野】では、《死銃》とともに、荒野を駆ける人を、獣を駆逐した。
 【妖精の世界】では、《閃光》と《絶剣》、《眠れる騎士団》を導き、とある少女の最期を見届けた。。
 【仮想化された現実】では、全てを《削除》する最悪の敵として、《英雄》たちと死闘を繰り広げた。





【煉獄の剣】
 ヴォルが所有する黒い剣。通常の剣よりも長く重いが、ヴォルは片手で軽々と振るう。黒炎を自在に操ることが出来る。
 黒剣の秘密は、所有者・・・・・・否、【帝王】にしか解らない。

【青薔薇の剣】
 ユージオの愛剣であり、相棒の様な存在。洞窟の奥に住んでた竜の死骸から見つけた。ユージオの呼びかけに応えてくれる。

【獄雷爪 虚魂喰】
 ヴォルが所有する白銀に煌く刃を持つ刀。彼女が世界に生まれた満月の夜に、突如として現れた大太刀の一本。深紅の雷を纏っている。


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5件コメントされています

-: - 2019-12-06 16:54:34 ID: -

このコメントは削除されました

-: - 2020-02-04 12:07:51 ID: -

このコメントは削除されました

3: 虚無の獄卒 獄蟲 2020-02-04 12:12:30 ID: S:gT2orJ

ギガスシダーの大きさは、原作よりも大きく設定してます。

4: はるちょ 2020-04-28 07:19:05 ID: S:2nmpqZ

初コメ失礼するゾ〜これからも頑張って!Fight!

5: 獄都の憲兵 2020-04-30 11:52:14 ID: S:RRsIub

← はるちょ殿
コメントありがとナス!

二話を近々投稿予定ですので、そちらでも読んでくだされば光栄です!
コメントもお願いします!


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