2019-12-14 09:01:36 更新

概要

遠征ぐらしの天龍は遠征のない日には何をしているのか。
その疑問を解明すべく、私・重巡青葉は彼女の寝室へと飛んだ――


前書き

2019/12/13 二〇四四 艦娘居酒屋・鳳翔 三番個室 より先を投稿し、完結とします。
      ご愛読ありがとうございました。
2019/12/14 誤字・脱字を一部修正しました。

たぶん初投稿です。
登場人物について独自の設定があります。が、説明は極力入れないフロム脳スタイルでいきます。
また、世界観や独自設定については他の艦これ拙作と同一です。

基本は台本形式ですが、別な書き方をすることがあります。
「www」や「……」などイメージしやすい表現を無限に使用します。
方言はエセです。



〇五三〇 自室




PPPP PPPP


天龍「んぁ……」モソモソ


PPPP P カチ


天龍「ふゎ…」ノソノソ シャーッ


天龍「っく~……今日も暑くなりそうだな」サンサン



天龍「…で、アンタは何で居んだよ」


青葉「いえ、おかまいなく」



天龍「逆だろ。オレに構ってくれ…あー、配慮?してくれよ。駆逐艦のやつらだったら二度寝しちまうぜ」


青葉「天龍なら大丈夫かなーって」


天龍「せめてアポぐらい取ってくれねぇかな…」ハァ


青葉「そのほうがリアルな記録になるかと思いまして。」


天龍「自由だなぁ…それで?夜這いまでして記録って、どういう話なんだ」


青葉「密着取材です!」ビシィ


天龍「……は?オレの?」


青葉「はい!」


天龍「ずっとアンタと一緒に居ろって?」


青葉「ええ!」


天龍「アポなしで今から?」


青葉「そうです!」


天龍「いつの間にか部屋に侵入してくるようなヤツと?」


青葉「その通りです!」


天龍「ダチじゃなかったらぶん殴ってるとこだぜ」


青葉「恐縮です★」


ゴン



青葉「ぶつことないじゃないですか…」サスサス


天龍「どうせ何言ってもやるっつーんだろ?それはいいからよ、なんでオレなのか聞かせてくれ」キガエ


青葉「最近読者から言われちゃいましてね?」


天龍「何を」ソックス


青葉「青葉の記事は刹那的なものばかりで、面白いときとつまらないときの差が激しいと」


天龍「そうだな。ネタがないときはいつも古鷹とか衣笠にちょっかいかけてるもんな」ブラウス


青葉「そこで、長期連載みたいなのを考えてみたわけです」


天龍「なるほど?それで読者を増やそうってわけだ。面白さも安定するだろうし」スカート


青葉「そうなんです!」ビシィ


青葉「さしあたってどのような記事がいいか考えてたら、青葉早速閃いちゃいました!」


天龍「密着取材なら連載するぐらい大量にネタは取れるし、取材の中で別なヤツにアプローチもかけられるってか」ネクタイ


青葉「流石察しが早いですねえ」ニコニコ


天龍「アンタとも長い付き合いだからな」ソデマクリ


青葉「そーですねぇ…。それにしても見事なネクパイ。一枚撮ってもいいですか?」


天龍「…先に断るようにはなったみてぇだな」グローブ


天龍「あとこれネクパイって言わねーだろ」


青葉「いいんですよぉ細かいことは」カシャ


天龍「カシャじゃねえんだオイ、叩き出すぞ」


青葉「断らなかったので」


天龍「せめて念を押してくれねえかなあ」ガンタイ


青葉「そうしたら撮らせてくれないじゃないですか」ブー


天龍「オレが悪いとでも言いたそうな顔だな…。それでどうしてオレなんだ?」


青葉「適度に忙しそうだからですね」


天龍「ほぉ?」


青葉「例えば足柄さんとか電さんはいつもてんやわんやで、密着取材なんかできないでしょうし?」


天龍「二人とも優しいから手伝ってはくれるだろうけどな」


青葉「かといって初雪さんとか、山風さん、秋雲さんみたいな、もっぱらインドアな子だとネタがないですよね?」


天龍「オレの前でガキどもの悪口を叩くとはなかなかの度胸だな」ソード


青葉「インドアは悪口じゃないですよ?」


天龍「言葉に裏を感じたんでな」


青葉「それは失敬、失敬」


天龍「フン…」


青葉「冗談はさておいて。天龍なら、ほどよーく忙しそうでほどよーくネタがついてきそうだなって思いまして」


天龍「まあ今日は遠征の予定はねえし、アンタの言う通り、ほどよく忙しいだろうな」


青葉「皆さんのスケジュール管理も青葉にお任せください!」エヘン


天龍「…厄介な先輩だぜ」フゥ


青葉「ちなみに取材に関しては司令官に許可とってますからね。ちゃんと」


天龍「OK。その調子で次は相手にもしっかり許可とってくれ」




〇六三五 朝食後 食堂



天龍「……」ズズ


青葉「食器、戻してきましたよ」


天龍「悪ぃな」ガサ


青葉「いえいえ。…新聞ですか?」スワル


天龍「ああ。海軍広報とこっちの新聞だ。英語はあんまり読めねぇがな」


青葉「…気になる情報はありますかね」ノゾキ


天龍「また違法輸送で一人摘発されたらしい。佐世保の若手だそうだ」


青葉「ほえ~。相手は中国企業ですかね?」


天龍「みたいだな。どうも日本海軍にコネを作りたいというか、艦娘が欲しいみたいだな」


青葉「アジアの船舶輸送はほとんど日本海軍が独占してる状態ですからねえ」


天龍「民間企業はほぼ全滅、今のところ艦娘はいない、日本に借りは作りたくない…となればモグリしかない。理屈はわかるけどな」


青葉「そうまでする必要があるんですかねえ。素直にお願いしますと言えばいいでしょうに」


天龍「……」ジー


青葉「何ですか?」


天龍「何でもねえよ」フン


天龍「まあ、6年も経ってんだ。どこのエリアの利権ももう固まっちまってる」


天龍「新米の提督にしたって、今更まっとうに出世して稼ぐにしても、先輩が多すぎるってところだな」ズズ


青葉「それで闇営業ですか」


天龍「バレなきゃチョクで金がもらえるんだ。相場より安くたって相当な額のはず」


青葉「機密漏洩に艦娘の私物化に国家反逆罪その他もろもろ。良くて一生塀の中でしょうに、よくやるもんですね」


天龍「それだけ稼げるんだろうな…。だからいつまでたっても似たようなのが出る」


青葉「とはいえ、船舶輸送に関しては日本海軍に非難の声もありますからねえ」


天龍「まあな……この戦争はもうビジネスだ。みんな平和ボケしちまってんのさ」


青葉「青葉たちも、あまり人のことは言えそうにないですけどね」フフ


天龍「ははっ、違いねえ」


青葉「ところで、天龍はいつもここで新聞読んでるんですか?」


天龍「……は?」


青葉「?取材ですよ」


天龍「ああいや、アンタも知ってるだろ?オレがいつもここに居んの」


青葉「『いえ。初耳です』」


天龍「…あー、うん。オレ遠征で大体居ねえからさ。ガキでも誰でも、相手できるのこの時間ぐらいなんだよ」


天龍「だからこの席でさ。飯食い終わったら時間つぶしてんだ。新聞はオマケ」


青葉「ふむふむ。どうりで遠い席を選ぶと思いました」メモメモ


天龍「ああ。オレに用があるヤツが分かりやすくなるからな」


青葉「あんな風にですか?」チラ


皐月「……」ジー


天龍「んなっ…早く言ってくれよ。おはよう皐月。悪ぃな気づかなくてさ」


皐月「おはよー。気にしてないよっ。今、大丈夫かな?」


天龍「いいぜ。こいつは気にしないでくれ」


皐月「えーと…」チラ


青葉「お構いなく。マ〇オ64のジュゲムみたいなものですから」メモ


天龍「…伝わんのか、それ」


皐月「うー、わかるけど…」


天龍「すげーな…」


皐月「初雪といっしょに遊んだ時に……じゃなくって!」フルフル


皐月「この間の漫画、全部読んじゃったんだ。続き、借りたいんだけど…」ガサ


天龍「そっか。じゃあいつも通り龍田か五十鈴に開けてもらって、適当に持ってってくれ」ニコ


皐月「うんっ、ありがとー」


青葉「皐月さん、どんな本を借りられたんですか?」


皐月「え?『ムサシのケン』ってやつ」


青葉「ムサシのケン…初めて聞きましたねえ。どんなジャンルですか?」


天龍「剣道漫画だよ。いい本だぜ」


青葉「ほーほー、武蔵の剣、なるほどなるほど」


皐月「ボク、剣道はそんなに詳しいわけじゃないけど、それでもすっごく面白いんだよ!」キラ


青葉「ふむふむ…。どういうお話なんですか?」


皐月「えーと、タイトルからいったほうがいいかな。ムサシっていうのは武蔵さんのムサシじゃなくって――」




〇七三〇 自室



皐月「じゃあ天龍さん、借りていくねー」


天龍「おう。読み終わったらまた来な」


皐月「はーいっ」トテテ パタン


青葉「すっかり話し込んじゃいましたねえ」


天龍「アンタが根掘り葉掘り聞くからだろうが。まさか皐月が今読んでるところまでいくとは思わなかったぜ?」


青葉「アナタだって楽しそうに皐月さんの補足してたじゃないですか」


天龍「そのほうが記事も盛り上がるだろ?」


青葉「版権の関係がございますので」


天龍「そういうとこは控えるのな」


青葉「失礼な。蛇のいる藪はつつきませんよ」


天龍「ネタバレのレビューなんて今日日誰でもやってることじゃねえか」


青葉「そういうのは口コミのほうが信ぴょう性が高いんですよ。新聞なんかでやったらヤラセくさくなりますし」


天龍「ステマか」ドッコイセ


青葉「その言葉も聞かなくなりましたね~」


天龍「まあちょっと宣伝すればなんでもステマステマと言ってればそうなるわな」


青葉「宣伝はステマじゃないですけどね」


天龍「そうだな。こいつは失礼」ガラ


青葉「おや?何かするんですか?」


天龍「ん?書き物だよ」


青葉「…書き物?天龍にもそんな趣味があったんですね。これはいいネタになりそう…」メモメモ


天龍「つっても遺書だけどな」


青葉「……え?」



青葉「ええええええええっ!?」



天龍「……そんな驚くことかよ」キーン


青葉「いやっ、驚きますよ!?なんで遺書なんて…どうしたんですか!?そんなに私と一緒に居るのが嫌で」


天龍「ヘイヘイ落ち着いてくれ。ちゃんと話すから」フサギ


青葉「むぐ」


天龍「遺書とは言ったが、これは日記みたいなもんだ」ハナス


青葉「ぷぇ…日記?」


天龍「そう。オレはアンタも知ってのとおり、遠征でほぼ毎日出張ってる」


天龍「出撃任務に比べたらはるかに安全だが…それでも万が一ってことがある」


天龍「だからいつ死んでもいいように遺書書いてんだよ。毎日な」スラスラ


青葉「…縁起でもないですね」


天龍「はっ、死にたがってるように見えるか?」サラサラ


青葉「いいえ」ケロ


天龍「まあ、こんなことやってんのはオレぐらいだろうな。轟沈なんてもう何年も見てないし」


青葉「ん~、平和ボケですかね」


天龍「いいことさ」


青葉「でも、遺書って要は遺言ですよね?どうして毎日書く必要があるんですか?」


天龍「遺言なら普通は書き直さねぇが…そうだな、引継ぎっていうほうが正しいかな」


青葉「引継ぎ…ああ、なるほど。いざというときのために、ですか」メモ


天龍「駆逐艦ってさ。今じゃもう100人ぐらいいるだろ?そいつらほぼ全員の事情知ってるの、オレぐらいなんだよ」


天龍「誰と誰が仲良くて、仲悪くて、軽巡重巡の誰とコネがあって、どいつの言うことなら聞いて、みたいなさ」


天龍「そういうの把握してないとさ。なかなかうまくいかねえんだ」


青葉「…遠征ご苦労様です。天龍『さん』」


天龍「駆逐艦だけじゃねえさ。オレは古参も古参、鎮守府開いて1週間ぐらいのときからいたからさ。」サラサラ


天龍「いろんな奴が相談してくるワケさ。ガチなやつからしょうもない世間話まで色々な」トントン


青葉「すっかり丸くなりましたねえ」


天龍「あん?」ピタ


青葉「昔はもっと、オラついてたというか。グイグイ行くタイプだったじゃないですか」


青葉「最近は保護者役がすっかり板についちゃって」


天龍「…そうだなあ」フゥ


天龍「電とか、那智サンと一緒さ。ずっと同じ場所で暮らしてたら、そこの環境にあった性格になっちまう」


青葉「あはは。電さんは変わりましたねえ。かわいいワンちゃんが今じゃオオカミさんに」フフ


天龍「あそこまで大げさに変わっちゃいないが、6年だからな。オレもちったあ身の程を知ったってことさ」


青葉「……ふーん」


天龍「で…さ。その日その時、心配してることを書いてるわけさ。なるべく詳しくな」サラサラ


天龍「いくら大和魂が宿ってるっつったって、あいつらは精神的には子供…。出来るなら心に傷はつけたくねえ」


青葉「お姉さんしてますねえ」


天龍「お姉さんは保護者に入るかな」フ


青葉「いいんですよ細かいことは」クスクス


天龍「…お姉さん、ね」


青葉「気に入りませんか?」


天龍「いや。まだまだ気を許してくれねえ子もいるからさ。怖がっちゃってしかたねえ」


青葉「……」エート


天龍「アンタが何を言いたいかはわかる」フッ


青葉「別にいいですよわざわざ」


天龍「…いい先輩をやってきたつもりなんだけどな。まだまだ難しい」


青葉「それは……全員に好かれるのは、さすがに難しいと思いますよ?」


天龍「そりゃあな。だが好かれるのと信頼されるのとはまた違う」


青葉「なるほど」


天龍「提督がいい例だ。提督どころか人間として欠けてやがる」


青葉「んー……好き勝手やらせてくれるいい人じゃないですか?」


天龍「…だがウチの鎮守府はなんだかんだ6年目。ただのダメ男じゃぁない」


青葉「ノってくれなかったからってそのまま進めないでくださいよ」


天龍「とにかく…まだまだ遠征番長としていろんな顔を見せてかなきゃならないってわけだ」


青葉「それは言い換えればあの手この手で、ですよね。なかなかアナタもやり手になりましたね」


天龍「言っとくがこれ仕事だからってわけじゃねえからな。ガチだぜガチ」


青葉「わかってますよ」フフ


天龍「あ、この辺は記事にしないでくれよ。それで警戒するやつもいるから」


青葉「もちろんです。それぐらいの良識はありますよ」


天龍「……」ジト


青葉「気が変わりました。来週号は楽しみにしててくださいね」サラサラサラ


天龍「悪かった。謝る」




〇九一五 提督執務室


足柄「あら、いらっしゃい」キラキラ


天龍「……なんだ、その顔…」


青葉「うわぁ…」


足柄「あら冷やかしね?ならさっさと出てって頂戴な」ピキ


天龍「ちょっと待てって… なんつーか、どうした?すげーテカってるけど」


足柄「……」ゴゴ


青葉「そこは輝いているとか、言葉を選んでくださいよ…!」ハラハラ


足柄「本当に冷やかし?叩き出すわよ」ギラギラ


天龍「違う違う悪かったって! いつものやつ渡しに来たんだよ。提督いるだろ?」


足柄「む……わかったわ。ちょっと今日は調子悪いみたいだから、あんまり騒がないでね」


天龍「ん?…おう」


足柄「青葉は?」


青葉「天龍の密着取材中です☆」ニコ


足柄「あら、そうなのね。次の艦隊新聞、楽しみにしてるわ」フフ


青葉「恐縮ですっ。期待しててくださいね!」



天龍「……なんだ、そのツラは」


提督「……気にしないでくれ。で、今日のやつか」ゲッソリ


天龍「ああ。頼む」ホイ


提督「ん…」ピラ


青葉「…いつも読んでもらうんですか?」


天龍「いや。こいつが勝手に読む」


青葉「ほほーぉ」


提督「他の誰にも読ませてないけどな」ヨムヨム


天龍「まあ、さっきも言ったけど、提督一人で100人の面倒みられるわけじゃないからな」


天龍「ざっくりでもどういう状況か知っておいたほうがいい」


提督「そういうことだ」シレ


青葉「んふふwww」


天龍「な?ひでぇやつだろ」


青葉「全くです」


提督「お前ら当人目の前にしてよく言えるなあ…」ヨム


天龍「で?那智サンはどこよ」


提督「今日は非番だよ。さっき試射場の使用許可とってったから、また誰かのコーチじゃないかな…」


青葉「熱心ですねえ」


提督「天龍のコレと同じで、最近はみんなの様子も見てられないからなあ。サポートしてくれるのはありがたいよ」


提督「まあ那智の場合、小さい子の世話が好きだというのもあるだろうけどな」


天龍「…そうだな。駆逐艦にやけに人気あるもんな。あの人」


青葉「不思議ですよね。普段はいつもムッツリ顔で眉が斜めになってる人なのに」フフ


提督「おいおい悪口言うのは俺だけにしてくれよ」ガサ


天龍「悪い悪い」


青葉「『どーして那智さんは駆逐艦の子たちから人気があるんでしょうね?』」


提督「優しいからな。彼女が他の子を叱ってるところ見たことないだろう」


天龍「まあな」


提督「イメージだと休みの日でもキリキリ真面目に過ごしてそうだが、実際は間宮の縁側で茶飲んでずっと空を眺めてる人だ」


提督「堅物軍人気質っぽい見た目から、のんびりゆったりが好きな気のいいお姉さん」


提督「そういうギャップもあって、好意的な子が多いんじゃないかな…」ペラ


青葉「恒例のノロケ、ありがとうございますっ」


天龍「…何回もやってんのか、これ」


提督「毎回毎回一言一句同じとは言わないけど、結構やってる」


天龍「そんな記事、読んだ覚えがないんだが…?」


青葉「しませんよ。新しく入った方に聞こえるよーにやるんです」


天龍「どうして?」


青葉「んー、那智さんってさっき司令官が言った通り、第一印象怖い人なんですよ」


天龍「ああ、まあ…」


青葉「だから新入りさんに敬遠されちゃうんです」


天龍「それで一芝居打ってんのか」


提督「まあ、そんなところだな」トジ


提督「じゃあ天龍、これは預かっておくから」


天龍「おう。あと今日はなんかあるか?」


提督「いや、予定通りだよ。一〇三〇から海上訓練の教導艦…覚えてるだろ?」


天龍「もちろん」


提督「それ終わったら今日は…。そうだな、青葉の世話でもしてやってくれ」


青葉「おぉ~」


天龍「…忘れてた。提督さぁ、こいつ朝起きたら部屋に勝手に上がり込んでたんだぜ。どう思うよ?」


提督「何やってんだお前…。ちゃんと事前にアポは取れって言ったろーが」


青葉「そこはホラ、勝手知ったる仲ですし。それに、用意がない相手に突撃すれば本音が出やすいじゃないですか」


天龍「聞いたかよ。これが新聞記者のあるべき姿だとさ」ヤレヤレ


提督「新聞記者というか、もはやパパラッチだな…」ハァ


青葉「あっ、次は司令官もどうです?この青葉、念を込めて徹底取材しちゃいますよっ」


提督「念じゃなくて気合いを込めてくれ。呪術みたいになるだろ」


天龍「ンフ…w」


青葉「では、猛威をふるいましょう!」ブンブン


提督「腕をふるえ」


天龍「はははww」


足柄「ちょっと二人ともー?」キラ


天龍「あ」


青葉「あ」


足柄「執務時間中でしょ~~?そうじゃなくても提督今日は調子悪いからほどほどにって言ったわよね…?」ギラギラ


天龍「わ、悪ぃ!じゃ、提督、訓練終わったらまた来っから」


提督「ああ、よろしく」


青葉「青葉も失礼しまーす!」


タタタ バタン



青葉「またまたおしゃべりが過ぎましたね」エヘヘ


天龍「どうも調子が狂うっつーか、アンタのペースに乗せられちまうなぁ」ハハ


青葉「雰囲気掴むのも取材に必要な能力ですよっ」フンス


天龍「へいへい…。あ、そういえば…」


青葉「なんですか?取材料の交渉なら後でゆっくりと」


天龍「違ぇよ。足柄サンがやけにキラキラしてたのはなんだったんだろうなあ」


青葉「そうですねえ…」


天龍「んで提督はなんかやつれてたしよォ」


青葉「……ああー」ナルホド


天龍「あん?」


青葉「まあ、そういう日もあるってことですよ」//


天龍「おい、熱でもあんのか…?」


青葉「あ、あはは、ちょっとおしゃべりに熱が入っちゃったからかな?あははっ」


天龍「ならいいけどよ…」




一一〇四 鎮守府正面海域


早波「はあっ、はあっ……くっ!」ドォン


天龍「……」←標的艦


ドバシャアン…


早波「また、外れちゃった…!」


天龍『どうして外れるかわかるか?』


早波「あたしの、狙いが…甘いから!」ジャキ


天龍『それじゃ50点だ。ちょっとストップ、そこでじっとしてな。オレが早波と同じことをやる』


早波「えっ…?」


天龍『よく見てろ。目ぇ閉じんなよ』


早波「う、うん…」


天龍「」バァン


早波「あ!撃っ――」ヒルル


ズバシャアアアッ


早波「――はあっ、はあ……手前に、外れた…?」ビショヌレ


天龍『当たったと思ったろ』


早波「……うん。来るって、思った…」ヘナ


天龍『答えから先に言おう。波の高さを忘れてる』


早波「波の…高さ…」


天龍『ああ。今日は近海にしちゃ風が強い。南南西の風9メートルってとこだ』


天龍『お前の撃った弾は確かに全部外れたが、ほとんどオレの真ん前か真後ろ…この条件ならかなりいい精度だ。自信もっていい』


早波「あ、ありがとう…ございます」


天龍『さて、普通の艦船なら多少の波の高さは関係ないが…オレ達はそれよりはるかに小さい。影響をモロに受ける』


天龍『さっきオレが撃った時、早波のすぐ近くに高いうねりが来てた。一時的に海面が上がって手前に着弾したんだ』


早波「あ…!そっか……わかった…!」


天龍『そうだ。波で足元が高くなったら低く、逆に低くなったら高めに微調整するんだ。ただし波は気まぐれ、即興で対応しな』


早波「うん…」


天龍『みんなここでつまづくもんだ。さ、立ちな。昼飯までに一発…いや、二発ぐらいキメようぜ』


早波「うん…!」スク


青葉『頑張ってくださいね、早波さん。弾着観測は、青葉におまかせです!』


早波「あ、ありがと…」


天龍『うし、じゃあ…撃ってきな!』


早波「よぉ~っし…負けないもん!」ズドォ


…ザバァァン……


早波「…うー、また外しちゃった…」


青葉『いえ、夾叉ですっ!すごいです、一発で掴んできましたね!』


天龍『スジがいいな。さ、あと一発だ』


早波「ううん、夾叉弾でも、外れは外れ…ちゃんと、二回、当ててみせる…!」


青葉『おぉ~…』


天龍『OK、いい覚悟だ。こうなりゃ二回当たるまでやってもらうぜ。昼飯抜かれたくなかったら、気合い入れろよ!』


早波「大丈夫…あたしだって、お姉ちゃんみたいにできるもん!」ジャカ



一三一四 提督執務室


天龍「邪魔するぜ」


青葉「青葉、参上しました!」


早波「し、失礼します」


足柄「あら、久しぶりね」クス


電「……お疲れ様なのです」カリカリカリカリ


天龍「……」ヤレヤレ


早波「お疲れ様、です…!」ケイレイ


天龍「おう、お疲れ。午前の報告に来た。提督は?」


足柄「ええ、空いてるわ」


天龍「ん。じゃ、いくぞ早波」


早波「はいっ」


青葉「緊張してますか?」フフ


早波「それは…うん。だって…その、うちで一番、えらい人だし…」


天龍「ハハハ、ビビるこたない。何も悪いことしてないんだ、堂々としな」ポン


早波「う……はい」スーハー



早霜「あら…お疲れ様です。姉さん」ペコ


早波「あっ、早霜!お疲れ様ー」トテテ


天龍「……」フフ


提督「天龍、ご苦労さん」


天龍「あ、おう。消費資源の報告書は霞に投げといた」


提督「早いな…明日でもよかったのに」


青葉「青葉は?」ズイ


提督「ああ、お疲れ。サポートありがとな。弾着のこと、すっかり忘れてたよ」


天龍「助かったぜ。一応カ号でできなくもないが、水偵のほうがずっとやりやすいからな」


青葉「恐縮です。航空写真も白黒ですけど何枚か…ご覧になりますか?」


提督「うん、弾着時のものだけでいいかな…あー、早霜」


早霜「はい」クル


早波「あっ、ごめん」


提督「お茶を淹れてくれないか。えーと…」ヒノフノ


早霜「ええ、承りました」フフ


早霜「早波姉さん、手伝っていただけませんか」


早波「えっ、でもわたし、報告が…」


早霜「大丈夫ですよ、天龍さんがやってくださいますから」グイグイ


早波「大丈夫かなあ…」


提督「構わないよ。お喋りしといで」


早波「は、はい!その…ありがとうございますっ」ペコ


トタタタ


提督「で、どうかなあの子は」ペラ


天龍「なかなかいいカンをしてる。さすが夕雲型ってところだな」


青葉「ええ。早波さんのクセに天龍が気づいて、指摘してから…」ピラピラ


提督「おー、見違えるようだな……うん、いい感じだ」ミクラベ


天龍「だがまあ、まだお互い停止状態での砲撃だ。もう少し鍛える必要はあるが、そんなに時間はかかんねぇだろうな」


提督「そうか。ありがとう。他には?」


天龍「あとは、そうだな……若干、独りよがりっつーか、責任感が強いみてぇだ」


天龍「ちょっと人見知りする感じだし…海域に出すときは、気の許せる姉ちゃんや妹と一緒のほうがいいだろう」


提督「ん、わかった…」メモメモ


天龍「人見知りに関しては、真面目だし、本音を出すのにちょっと気後れしてる感じもするな…」フム


提督「元気で愛らしい子だと夕雲たちからは聞いてるが」


天龍「だから、そういうとこを上手く引き出したり、何だ…信頼感ってやつかな。そういう奴がいるといいって話だ」


天龍「カリスマのある木曽、包容力のある由良、勢いで引っ張っていく長良や那珂…その辺りと相性が良さそうだ」


提督「ふんふん…お前は?」カリカリ


天龍「上手くやれると思うが、時間はかかる。もっとわかりやすい奴のほうがいい」


提督「なるほどな…」


青葉「……」


提督「ん?」ピタ


天龍「『楽な仕事ですね』だってよ」


青葉「なっ…!そんなこと思ってませんよぅ!」


提督「まぁ…事実だな」ハハ


提督「お前らの知ってる通り、俺は何にもできねぇからな…働かなくてもいいようにここまで頑張ってきたわけさ」


提督「俺がこうして生きてられんのは間違いなくお前たちのおかげだよ。事務にしても現場にしてもな」


天龍「…ま、アンタはよくやってるよ。下手なりにな」


提督「どうも」


青葉「いや、違いますからね?」


天龍

 「「何が?」」

提督


青葉「だから、その…ほんとにお二人は仲いいなあって思いまして…」


天龍「……はあ?」


青葉「だって、天龍の言うこと、疑いもしないじゃないですか」


提督「だっても何も、青葉も居るのにわざわざウソつかんだろ」


青葉「……え゛」


天龍「なんだ絞めたニワトリみたいな声出しやがって」


青葉「そ、それは…あのー…」シドロ


提督「それともなんだ、二人して俺をハメようってのか?」


天龍「だとよ」ハッ


青葉「しませんよそんなことっ」


提督「ほら。お前らは俺に冗談は言っても、嘘の報告するような奴じゃない。だから頼りにさせてもらってんだ。天龍は?」


天龍「…オメーを貶めたってオレの暮らしが今までより良くなるとは思えねえからな」


天龍「まあこれまでずいぶん色々やらされてきたし?それなりに修羅場もあったけどさ…」


天龍「提督のおかげで、いい思いも随分してきた。だから、あー…信頼はしてる。期待はしてねーけど」


提督「手厳しいね」ハハ


天龍「それによ、オレ、今のポジションもさ。それなりに気に入ってんだぜ?」ヘヘ


青葉「……」


天龍「どうしたよ」


提督「今日は表情がコロコロ変わるな」


青葉「天龍は、それで――」


早波「あ、あのっ!」



提督「……」フリムキ

天龍「……」ジー

青葉「……」ジー



早波「え、えーと、お茶が、入りましたっ!…けど…」オボン


早霜「一息つきませんか」スス


提督「…おう。ありがとうな、早波。とりあえず、かけてくれ。さ、二人も」


早波「は、はい」カチコチ


天龍「平気だよ、取って食いやしないから」ヨット


青葉「とはいっても、ワルいオトナ三人に囲まれては、緊張も致し方なしですかねぇ」ヨイショ


早霜「司令官、今日は――」コト


提督「はは、そんな野暮なことは言わないさ」アチチ


早波「?」


提督「さて、せっかくだし早波の今後について簡単に打ち合わせでも――」


<提督ー、淀ちゃんから電話~


早霜「私が出ましょうか」


提督「いや、いいよ」セイ


提督「回してくれ」オオゴエ


<はあい


提督「スマン天龍。ちょっと頼む。早霜、来てくれ」PRRRR ガチャ


早霜「はい」メモ


天龍「あいよ」


提督「あーもしもし――」



天龍「さて、早波」


早波「あ、はい」


天龍「敬語じゃなくてもいいよ」ハハ


早波「は…えーと、うん」


天龍「どうだ?ここの生活には慣れたか?」


早波「うん、大丈夫…平気ー」


青葉「早波ちゃんは藤波ちゃんと同じ部屋でしたね」


早波「うん。そうだよ。お姉ちゃんと一緒ー」エヘヘ


天龍「……」フム


青葉「お姉さんとはどうですか?」フフ


早波「んー、お姉ちゃん遠征で忙しいから、あんまりお喋りできないんだけど…」


早波「でもごはん用意してあげると、頭なでてくれてー、いっぱいおかわりしてくれてー」


早波「太るよーなんて言ったらほっぺたつねられたりして…」エヘヘヘ


天龍「いいきょうだいなんだな」


早波「うんっ!優しくって、頼りになって、かっこよくて…わたしの自慢のお姉ちゃんなんだ」フンス


青葉「いいですねえ、身近に頼りになる人がいる…」ウンウン


天龍「ああ。藤波がついてりゃ安心だ――」


天龍「と言ってやりたいのはやまやまだが」ズズ


早波「?」


天龍「うちに来た艦娘たちがどういう過程…あー、なんだ…」チラ


青葉「着任してから、大まかにこれからどういうことをしていって、みたいなのは司令官から聞いてますか?」


早波「えーっと、予定表みたいなのは、もらった気がする…」


天龍「まあ部屋にあるだろうからそれはいいとして。今早波がどの辺まで予定を終えて、」


天龍「その予定が全部終わった後、どうするかって話をすると思うんだ」


早波「えと、多分まだ半分も終わってないと思うんだけど…」


青葉「今のうちに聞いておきたいんですよ」


早波「聞くって、何を…?」


青葉「うちの鎮守府はかなり特殊です。司令官以外の人間は、一人も所属していません」


早波「そういえば、見たことないかも…」


天龍「ああ。ウチの艦娘はほとんど、何かしらの役職についている」


天龍「早霜みたいな事務仕事か、オレみたいな現場担当か…色々さ」


早波「?うん」


青葉「これから先、早波さんがどんなお仕事をするかはわかりません」


青葉「訓練だけじゃなく、ここの皆さんの仕事を手伝うプログラムもあるでしょう」


青葉「ともすれば誰と仕事がしたい、どんなことに興味がある、はたまたこういう体制をよく思わない、とかとか」


早波「トカトカ…」クス


青葉「そう、エトセトラです」フフ


青葉「これまで早波ちゃんが過ごしてきた中で、感じたこと、やってみたいこと、苦手なこと…」


青葉「早いうちから聞いておきたいんですよ。うちでやっていく云々にしても、ね」


早波「ふ~ん…??」


天龍「ま、何にも無きゃ無いでいいさ。今思ってること、いいことでも悪いことでも伝えておいたほうがいいってだけだ」


早波「今思うこと……うーん…」カシゲ


早波「あっ、そういえば早霜は何て言ったんだろ?」ポン


早霜「事務のほうが性に合っているとお伝えした覚えがあります」



早波「…ふわあ!?」ガタ


天龍「…相変わらずだな」ハハ


青葉「あ、もう終わったんですか」


提督「ああ。待たせてすまない」


天龍「構わねぇよ。提督のせいじゃねーし」


提督「さて、早波。どうだ、ここの生活には」


天龍「それさっき聞いた。オレが」


提督「…そういえば藤波と」


青葉「それもです。問題ないということでしたよね?」ニコ


早波「えっと、はい。そうです」ニコ


提督「……じゃあこれからの話だな。えーと早波」


早波「はい」


提督「もうわかってると思うが、ウチはよそと違って――」


天龍「それも説明した」


青葉「ました」


早波「です」


提督「……優秀な部下を持つと楽でいいな」ハァ


早霜「立つ瀬がありませんね」ウフフ


天龍「な?早波。こんなのエラくなんてねえ、名札と服だけ立派なオッサンだよ。気にすることねえって」カカカ


早波「…ふふっ」クスクス


青葉「どうします?このままじゃ面目丸つぶれですよ司令官っ」


提督「……で、どこから聞きゃいいんだ」


天龍「オレらに聞くなよ……今後のプログラムと希望調査だろ?」


提督「へいへい悪かったねダメ提督で」


天龍「いじけんなよ」ハ


早波「えーっと……」


青葉「早波さんも困ってるじゃないですかホラぁ」


提督「うっせぇ、お前らが俺イジってるからだろうが。…気を取り直して、これからの流れだけど――」




一四五九 トレーニング・フィットネスルーム


青葉「ひーっ、きつい……!」ハァハァ


天龍「…はーっ、はーっ」シャカシャカ


大鳳「ラスト1分全力!回転数上げてっ!」シャカシャカシャカシャカ


青葉「 ふ ぬ う う う う う う ! ! !」キコキコキコキコ


天龍「……っ!」ガリガリガリガリ


大鳳「お腹に力を入れない!呼吸はしっかり!」シャーーーーーーッ


青葉「はいいいぃ」ゼーハー


大鳳「あと10秒! ……3、2、1、はい、終わりです」


青葉「はあああっ、もう、ダメ……」ドタッ


大鳳「ああ、青葉さんっ。ちゃんとクールダウンしないといけないわ。もう一度乗って、5分間ぐらいゆっくり漕いで」


青葉「わ、わかりました」ヨッコイショ


天龍「ふーーっ……」キコキコ


大鳳「凄いわ天龍さん。久しぶりなのに全然平気そう」


天龍「ちょっとだけ…抑えたからな…」フゥ


青葉「これっ、毎回やってるんですか…?」ヒィハァ


大鳳「ええ。天龍さんは遠征続きで、訓練もトレーニングもあまり出来ていないから、遠征がない日はね」


天龍「ああ。ずっと海の上ってのも、神経使うし、体にストレスかかるからな…」


青葉「体に…ストレス…??」


天龍「思いっきり体を動かしてやるのも逆に休息になるってことだ」


大鳳「アクティブレストね。ちょっと意味合いは違うかもしれないけれど」


青葉「アクティブ…?」


大鳳「アクティブ・レスト。そうね、積極的休息…といったところかしら」


青葉「……お休みなのに、積極的…?」


天龍「体を休ませるっていうと、ゴロゴロしたり、寝てたりってイメージがわくだろ?」


青葉「はい。」


天龍「そういうのを消極的休息っていうらしい」


大鳳「反対に、散歩をしたり、スポーツで汗を流したりして、体に軽い負荷をかけることをアクティブレストと呼ぶんですよ」


青葉「…なるほどなるほど。負荷をかけることがどうして休息になるんです?」


大鳳「フフ…クールダウンついでに、説明しましょう」ウインク


天龍「はは、よろしく先生」フフ


大鳳「アクティブレストは近年注目された概念なの」


大鳳「疲労を感じるのは体に乳酸がたまっているから、といわれているわ。乳酸は筋肉を緊張させて、再生を悪くするの」


大鳳「この緊張を軽い運動でほぐして乳酸を取り除けば、寝ているだけよりも体の回復が早くなるという理屈ね…」


青葉「よく、一日中寝っぱなしはよくないなんて言われますけど、そういうことなんですね」


大鳳「ええ。でも、運動していて疲れた、という人でなくても、アクティブレストは有効だと言われているわ」


青葉「さっき天龍が言ってたような?」


大鳳「そうね。長時間ずっと同じ姿勢が続くような人にも効果的なの。天龍さんはちょっと違うかもしれないけど…」


大鳳「例えば事務仕事が多い人。色んなところが凝っていて、いっぱい頭を使って、疲れているのに眠れない」


大鳳「これも体に緊張があるからほぐしてあげるのと…」


天龍「単に体を疲れさせるのがいいってことか」


大鳳「ええ。私たちはあまり覚えがないけれど、現代人は体と脳の疲労のバランスが取れなくなってきているの」


青葉「…つまり、スマホやパソコンの業務がメインになって来て、体をあまり動かさなくなった、と?」


大鳳「その通りよ。一日中パソコンに向かって作業して、帰ってきたらスマートフォンやまたパソコンをいじって…」


大鳳「そういう生活だと、脳は疲れたと思っても、体は元気だから、疲れていないと勘違いして眠れなくなってしまうのよ」


天龍「…ちょっと極端なモデルだが、まあ、そうだろうな」


大鳳「フフ、ごめんなさいね。だから体に負荷を与えることで、脳の勘違いを正してあげると寝つきがよくなるのよ」


青葉「ほぇ~~……」


大鳳「流石に今回のような高い負荷をかける運動じゃなくても、ウォーキングやサイクリングのような簡単な有酸素運動でいいわ」


天龍「ああ。アクティブレストが必要になるとしたらむしろ明日だな」ハハ


大鳳「フフッ、そうね。じゃあ、クールダウンはおしまい。次はプランクを5セットやりましょうか」


青葉「まだやるんですか!?」


大鳳「まだって、30分しか経っていないじゃない」キョトン


青葉「それは、そうですけど…!」


天龍「密着取材なんだろ?体張りなよ、編集長」


青葉「ぐぬぬ…わかりました。今のお話も、いい記事になるかもしれません。全力で取り組みましょう!」メラメラ


大鳳「その意気よ。じゃあ、プランクに移る前に、バイクを拭いておいてね」タオル


天龍「ういー」


青葉「プランクとはどういったトレーニングなんでしょうか」フキフキ


大鳳「簡単よ。腕立て伏せの要領で、肘を肩と直角になるように床につけて、頭から足まで一直線になるように姿勢をキープするだけ」


大鳳「1分に30秒のインターバルを5セット…10分もかからないわ」


青葉「なんだ、それならできそうですね」


天龍「…編集長よ」


青葉「はい?」


天龍「ことトレーニングに関して、大鳳サンの『簡単』とか『大丈夫』はアテにしたらダメだぜ」


青葉「そうなんですか?今の話だとそんなにキツそうに思えませんけど…」


天龍「…ま、やりゃわかるか」


大鳳「そうね。早速やってみましょうか。マットを出すから、手伝ってくれる?」



一六二三 甘味処・間宮


青葉「っ゛あ~~~~……」フゥゥゥ


天龍「ひでぇ声だなw」


青葉「五臓六腑に染みわたりますね…」


天龍「コ〇・コーラが?」


青葉「コ〇・コーラが」


天龍「…アンタも随分現場から離れてるだろ。トレーニングぐらいしておいたほうがいいぜ」


青葉「お恥ずかしい限りです…」イタタ


天龍「で、何が一番きつかった?」


青葉「プランクですね。まだ腹筋に熱が残ってます」


天龍「だろ?ああいう簡単そうなやつが一番辛いんだ」


青葉「取材であちこち歩いてはいるんですが、こうも腹筋がユルくなっているとは思いませんでしたね…」サスサス


天龍「まぁ短い時間で、疲労もなく負荷がかけられるからな。続けてみたらいいんじゃねぇか?」


青葉「はェ゛っぷ」ビク


天龍「汚ったねwゲップで返事すんなお前www」ベシ


青葉「あイタっ、わざとじゃない!わざとじゃないです今のは!」


天龍「ウソつけお前あんなクソ真面目な顔でゲップするやつがいるかよwww」


青葉「しょっ、しょうがないじゃないですか答えようとしたら急に来たんだもの!」


天龍「急にゲップが来たのでってか…誰だっけそれw」ヒキズリ


青葉「駒〇選手でしたっけ?」


天龍「駒〇はPK外しちまったやつだろ?ありゃしょうがねえって」


青葉「ああ思い出しました!柳…ガェ゛っ」ケプ


天龍「ぶっwwww」フキダシ


青葉「……」/// ←両手で顔を覆っている


天龍「ハッハッハッハッハwwwwおま、お前器用なことしやがってwww」ケラケラ


クスクス フフフフ


天龍「みんな笑っちゃってんじゃねーかよwwwどうすんだwww」フキフキ


青葉「ホント恥ずかしい…」///


天龍「フフフwwwあーおっかしい、お前のそんな顔初めて見たwww」


青葉「………ようで…」ボソ


天龍「なんだって?w」


青葉「他言無用でお願いします」モゴモゴ


天龍「無理だってww何人聞いてると思ってんだww」


ウフフフ ハハハハ


天龍「見ろお前、伊良湖も顔真っ赤にしてるぞ?」


青葉「ホントにわざとじゃないんです…勘弁してください…」///


天龍「それはわかったからwwかん口令でも布くかいww」


那智「楽しそうだな」


荒潮「こんにちわぁ」ウフフ


天龍「え?あ…悪ぃ、うるさくしちまって…フッフww」


那智「まあ、賑やかなのはいいことだ。…座ってもいいか?」


天龍「いいよw あー腹痛て…」


那智「ん…では失礼する」


荒潮「お邪魔しまぁす」ニコ


那智「さて、縁側でくつろいでいたら爆笑が聞こえたわけだが?」チラ


青葉「……」ジー


クスクス


天龍「言わないでくれとさ」


那智「そうか。一昔前のサッカー選手は関係ないらしいな」


天龍「んグふっ…w」


青葉「……どこから聞いてたんですか」


荒潮「『急にナントカが来たので』あたりかしら~」


那智「ああ。珍しく誰かの馬鹿笑いが聞こえて、気になってな」


天龍「なんだよ、オレまで恥ずかしくなってくるな…」ケホ


那智「青葉もそうだが、たまにはそういうところも見せてくれないと、可愛げがないからな」チィン


青葉「……恐縮です…」グッタリ


天龍「…オレ、いつもそんな堅苦しい顔してるか?」


那智「どう思う?」


荒潮「んー……」


那智「沈黙は肯定か」フフ


天龍「マジか~…そういうのは那智サンの領分だと思ってたのに」


那智「今でも割とそうだよ…おっと」



綾波「ご注文お伺いします」スマイル


那智「わらび餅と…緑茶を。荒潮は?」


荒潮「メロンフロート♪」


那智「じゃあそれを。二人も何か頼むか?」


天龍「ん…コーラもう一杯」


青葉「……ウーロン茶とバニラカップの小」ツップシ


綾波「うふふ、かしこまりました。少々お待ちください」ペコ




※当鎮守府の荒潮は極めて特殊な設定を付与されています。



天龍「コーラはいいのかよ」ニヤニヤ


青葉「金輪際飲みません」


天龍「じゃあサイダーは?」


青葉「炭酸なんてクソくらえです」


那智「こら、汚い言い方はよさないか。子供がいるんだから」


荒潮「……」クスクス


青葉「気にしていられる心境ではありません」


那智「やれやれ、おとなしくなったと思えば…」


天龍「…荒潮さ」


荒潮「はい~」


天龍「オレ、そんなに怖いか?」


荒潮「いいえ?」フル


天龍「じゃあ何だ…不機嫌そうに見える?」


荒潮「そんなことないわよぉ」フル


天龍「ん~…?」


那智「どんな匂いがする?」


荒潮「そぉねぇ……冬のにおい。」スンスン


天龍「冬?」


荒潮「冬」ウフフ


那智「なるほど」フフ


青葉「抽象的ですね」


天龍「お、復活したか」


青葉「冬の匂いっていうのは、どんな香りなんでしょうか…」


荒潮「ええっと……」


スタスタ


綾波「お待たせしました~」ドサ


天龍「おっと」


綾波「えーとお飲み物が…天龍さんがコーラ、青葉さんがウーロン茶で、那智さんがお茶。荒潮ちゃんがメロンフロートですね」テキパキ


綾波「あと那智さんにわらび餅と、バニラの小が青葉さん。お間違いないですか」スマイル


那智「ああ。笑顔も含めて完璧だ」ニコ


荒潮「凄いわぁ」パチパチ


綾波「ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ~」デンピョウ


スタスタ


天龍「…なに口説いてんスか」


那智「ただ『合ってますよ』じゃ趣がないだろう」キリワケ


那智「褒めるときは大げさでも褒めてやるほうがいい」キナコ


青葉「那智さんの人心掌握術ですねっ」


那智「別に気に入られようと思ってやっているわけではないが…」クロミツ


荒潮「……」キラキラ


那智「ほら、あーん」


荒潮「はむ」パク


那智「美味しい?」


荒潮「~~♪」アムモム


天龍「ナチュラルにイチャついてんな…」


青葉「いつものことですからね」


荒潮「んふふ」ニコニコ


那智「それで、何の話だったかな」キリワケ


天龍「オレからは冬の匂いがするってやつだ」


青葉「どっちかっていうとイメージ的には夏ですよねえ」


那智「そうだな」チラ


荒潮「……」モニュモニュ


那智「飲み込んでからでいい」


荒潮「」ウン


天龍「…荒潮の言うことには間違いがねえからな…」ノビ


青葉「そうですね…上手く言語化できないから曖昧な表現になるってことでしたけど」シャク


那智「荒潮が言わんとしているところはわからないでもないがな」


天龍「マジで?」


那智「なんとなくだぞ。それに私もあまり舌が回るほうじゃない」アム


天龍「ケチだな」ゴク


青葉「自分で考えろって言ってんですよ」シャク


天龍「ぁんだとー?」


荒潮「おいしー」ニパ


天龍「んでマイペースだなお前も…」


青葉「それで荒潮さん、冬の匂いっていうのはどんな匂いなんですか?」


荒潮「ん~っとね~ぇ…」エート


荒潮「薄いの」


那智「……」ズズ


天龍「薄い?」グビ


青葉「ハゲってことですか?」


天龍「んグっ」


那智「よさないか…」ハァ


荒潮「あんまり匂わないの。あと~…う~ん…」


那智「思ったまま言えばいい」ズズ


荒潮「……寂しい感じ」


天龍「寂しい?」ケホッ


青葉「やっぱりハゲじゃないですか」


那智「茶化すなって…」


天龍「だいいちハゲてねえだろオレ」


荒潮「あと、落ち着くっていうかー、静かって感じねえ」


青葉「えーと……」


那智「無理やり頭髪に結びつけようとしなくていい」


青葉「悪いおみくじを引いたときみたいに?」


那智「そうじゃない」


荒潮「うふふふww」


天龍「…あ~~~」


青葉「あっ、何かわかりましたか?」


天龍「うん、いや、わかんねえんだけどさ」


青葉「なんでわかんねえんだよ」


那智「サン〇ウィッチマンか…?」


青葉「おお、よくわかりましたねぇ」


荒潮「うふふふwww」パタパタ


天龍「まあ、そいつらは置いといて、なんとなくわかるんだよ。だけど…うまく言えねえんだ」


那智「…な?」


天龍「おう」


青葉「もっとこう、例えがあるといいんですけどね。何の匂いに似てるとか」


荒潮「う~ん」


那智「冬の匂いと言ってただろう」


青葉「冬って、概念的なものですし…こっちに来てからは随分ご無沙汰ですよ」


那智「少しは覚えがあるだろう。冷たく澄んでいる空気。枝だけになった樹。落ち葉を隠す雪。軒先に垂れ下がる氷柱。吐く息も白く尾を引いて」


那智「そういうのをひっくるめて冬の匂いと言ってるんじゃないか?」


荒潮「そうかも」ウフフ


天龍「見事に匂いのしない風景ばっかりだな…」


青葉「…ああ」


天龍「あ?」


青葉「だから薄くて静かなんですよ」


天龍「……そうか」


那智「まあ、すぐ答えを出す必要もないだろう。冬というと、冬の時代とか、ナントカ氷河期のように否定的な代名詞として使われるものだが…」


那智「荒潮の様子からすると、そういうわけではないようだ」ナデ


荒潮「~~♪」ニコニコ


青葉「いい笑顔ですねえ」サ


那智「一枚1,000円」


青葉「ボってません?」


那智「あまり共有したくない」


青葉「親バカですねぇ」


那智「親バカ大いに結構。久々に二人でのんびりしてるんだ。あまり野暮なことはしないでほしいな」


青葉「相席してきたのは那智さんでしょうに」


那智「何か言ったかな?」ニコ


青葉「バニラじゃなくてチョコにしておけば荒潮ちゃんと食べさせっこできたかなーって」ニコ


荒潮「あらぁ残念」ウフ


天龍「……」フム



一八〇二 工廠・改修施設


明石「あら、お疲れ様です」


天龍「おう。お疲れ。メンテに来たぜ」


青葉「お疲れ様ですっ」ケイレイ


明石「えーと、天龍さんは…28番28番…っと。はい」カギ


天龍「サンキュ。青葉、行くぜ」


青葉「あ、はぁ~い」



青葉「艤装は自分でメンテしてるんですね」


天龍「ああ。最近は整備班の子たちがやってくれるんだが…」


天龍「オレ頭固ぇから。自分でやんねえと落ち着かなくってさ」


青葉「…そうでなくても、随分年季が入ってますからね…色々クセもあるでしょうし、他の方の手には余りそうです」


天龍「それもあるけどさ……他の奴に任せててさ、トラブったら、イヤだろ?」


青葉「…まあ、整備不良はちょっと…怒りたくもなりますよね」


天龍「はは、違ぇよ。オレが整備しときゃ、事故ってもオレのせいになるだろ」


青葉「…あ~、そうですねえ…」


天龍「まあ、自分で整備してる奴なんて珍しくないし…青葉はいつもどうしてんだ?」


青葉「んー、ほとんど出撃しませんからねえ…。任せっきりですよ」カタスクメ


天龍「最近出たのいつぐらいだ?」


青葉「半年前ぐらいにMO作戦で使ったきりです」


天龍「重巡の枠か…」


青葉「たまたまイタリア重巡のお二人の都合が合わなかったんです」


天龍「ああ…あの二人は瑞雲で単艦哨戒が安定して出来るからな」フ


青葉「…最近発見される艦娘は何かしら特殊な部分がありますからねー」


青葉「青葉の改二改装案も早く固まるといいんですが」


天龍「残念ながら、今のところ音沙汰はないみたいだがな」ハハ


天龍「……それに、改二だっていいことばかりじゃない」


青葉「…そうでしょうか?」


天龍「艤装が変わるってことは、砲塔の位置なんかも変わるし、重心もズレる。感覚がリセットされるってことだ」


天龍「オレもこいつに慣れるまでは苦労したよ」


青葉「…ほほ~、どのあたりに?」


天龍「軽いんだ。前のより」コンコン


青葉「軽量化ですか」


天龍「そう。金剛型とか扶桑型の艤装とか見れば分かるが、改二艤装はだいたいデカくなる」


天龍「なのに総重量はむしろ軽くなったりってことがままある」


青葉「へぇ~……。材質でも変わってるんですかねぇ」


天龍「さあな。で、軽くなるとさ。海上で体動かしたりすると違和感がそりゃもうすごいんだわ」


青葉「あー……。聞いたことありますねえ。ビスマルクさんが試験運転ですっ転んだ話とか…」


天龍「実際他人事じゃなかったぜ」


天龍「いつもみたいにちょっと踵に力入れてフッて後ろ向こうとしたら危うく転びそうになってよ」


天龍「着地ミスったフィギュアスケーターの気分だったぜ」


青葉「…まあ、下が硬い分、スケーターのほうが若干動きやすくはあるでしょうけど…」フム


天龍「ひょっとしたらオレ達みたいに航行できるかもしれないな」ハハ


天龍「さて、ちょっと火入れるか…悪い、明石を呼んでくれねぇか」


青葉「あ、はーい」



明石「うん…問題なさそうですね」


天龍「おう。サンキュー」キカンテイシ


青葉「いつもご苦労様ですっ」


明石「いいんですよ、ちょっと趣味みたいな部分もありますから」エヘ


青葉「明石さんはいつも楽しそうですね」


明石「あら、そう見えますか?」


青葉「何と言いますか、キラキラして見えるんですよ。自信があるというか…」


明石「んー…多分、天職なんだと思う」


天龍「天職?」


明石「機械をいじるのが好きなの。溶接で真っ白になった金属とかも、見ててワクワクするし、暑いのも忘れちゃうし」


明石「顔じゅう煤だらけ、油まみれになっても、終わるまで気が付かないなんてよくあることだもの」


青葉「それで、趣味みたいなものだ、と」


明石「うん。それは、忙しいし、バリさん以外にお手伝いも欲しいけど…私にしかできないことだから」


明石「楽しくてやりがいもあって、提督もちゃんとお手当出してくれるし……不満はないかな」フフ


天龍「明石の密着取材も面白そうだぜ」


青葉「かもしれませんね」フフ


明石「え、えぇ~?私なんて、ずっと艤装いじったりしてるだけですし、面白くないですよ」ワタワタ


青葉「そこはホラ、整備のプロの流儀っていうか。こだわりみたいなのありますよね?」


明石「それはまあ、ある程度は信念持ってやってますけど…」


青葉「それですよ!艦娘たちの艤装と装備のメンテ、彼女たちの命ともいえるマシーンを齟齬無く機能させるためのプロセス!」


青葉「装備改修のプロフェッショナル・工作艦明石の熟練の技と…情熱!面白そうじゃないですか」


明石「あ、あはは…」


天龍「おいちょっと引いてんぞ」


青葉「おっと、失敬失敬」


明石「ま、まあ、取材とかそういうのは、ね?提督に許可を取っていただかないと」


青葉「意外と乗り気ですね?そうこなくては。取れ次第お邪魔しますよ」


明石「うーん、提督は許可出さないと思うけどなあ…」


天龍「あー…そっか。機密に関することだもんな」


明石「内部広報とはいえ、天龍さんのように自分で艤装のメンテをする人だっているわけだし」


明石「そういう人のメンテも結局私がこうやって立ち会って、仕上げてるんだから…」


明石「どこまで言っていいのか書いていいのか、その線引きが難しいじゃないですか」


青葉「ふむぅ…」


明石「逆を言えば、プライベートな調整の部分についての情報はほとんど私が握っているわけなんだけど…」


明石「取材に応じたら、それだけで信用しなくなっちゃう人もいるかもしれないから」


天龍「工作艦は今のところ明石しかいないもんなあ」


明石「ええ。北上さんとか秋津洲さんとか、心得がある艦娘は何人かいるけど、メインでやれるのは私だけだから」


明石「あんまりそういうことはしたくないですし、提督もそう言うかなーって」


青葉「そうでしたら…やめておいたほうが良さそうですね」ハァ


明石「そんな声出さないで下さい、オフの日なら付き合いますから」


青葉「…あ、そうですね!では早速スケジュールの調整を……」ペラペラ


天龍「テンションの上げ下げが激しいな…」


明石「落ち込んでもすぐに立ち直れるのが青葉さんのいいところですよ」


天龍「…そうだな」


明石「そういえばもう7時だけど、ご飯は大丈夫?食堂閉まっちゃいますよ?」


天龍「ああ、いいんだ。メシの約束があるから」


明石「そう、なら良かった」フフ



一九二二 艦娘居酒屋・鳳翔 三番個室


龍田「お待たせ~…って、あら?」


天龍「悪ぃ龍田。密着取材っつって離れてくんねえんだコイツ」


青葉「どもー青葉ですっ。お疲れ様です!」ビール


龍田「…ええ、お疲れ様」スワル


天龍「……」フゥ


龍田「それで、天龍ちゃんに密着して面白い記事は書けそうなのかしら?」グラス


青葉「ええ。いろいろと面白い話も聞けましたし、それなりに火傷…もとい、体も張りましたからね」トクトク


龍田「火傷ね」


天龍「ああ。大火傷したんだよ」


青葉「さあ、乾杯しましょう乾杯!」


天龍「…」


龍田「…」フフフ


青葉「えーっと…とりあえず今日もお疲れ様でした。かんぱーい!」


天龍「乾杯」


龍田「乾杯」フフ


青葉「ンッンッ……ぷっはーっ!!効きますねぇ!」


龍田「それで、火傷って何のこと?」


天龍「ああ。夕方ごろ間宮に行ったときにさ」


青葉「ちょっとちょっと…!」グイ


天龍「ん?」キョトン


青葉「すっとぼけ顔やめてくださいよそんなキャラじゃないでしょアナタ」


天龍「え?だってやめろとは言わなかっただろ」


青葉「言ってるも同じじゃないですかあんなに露骨に行ったのに!」


龍田「ということは…面白そう。何があったのかな~?」ニコニコ


青葉「う」


天龍「青葉よ」


青葉「はい?」ウワズリ


天龍「取材料は今日の飲み代で勘弁してやろう。間宮の時は結局那智サンが奢ってくれたからな」


青葉「え、ええ。その代わり例の件は…」


天龍「龍田も最近はオレとスケジュールが合わなくてさあ…」


天龍「今日も一緒に食事すんの一週間ぶりぐらいなんだよ…」ポン


青葉「う゛…嫌な予感が」


天龍「それでも密着取材の一環ですからって言うヤツがいるからさあ…」


青葉「わ、わかりましたよ。お、お暇すればいいんでしょう」


天龍「いやあそんなこた言わない。なあ龍田?」


龍田「そうよぉ。いつも天龍ちゃんがお世話になってるんだから~」ニコォ


青葉「……」ダラダラ


天龍「な?龍田への迷惑料ってことで。諦めな」


青葉「じゅぇっ…!いゃ、いややめてくださいよ!私帰りますから!お二人でどうぞ姉妹水入らずの時間を…」


龍田「わかってないわねえ」


青葉「はっ!?」


天龍「もうな、ここまで来たらオレが龍田に話すことはもう決まってんだ。オマエの居る居ないに関係なく」


青葉「……どうしろとおっしゃる?」オズ


天龍「肴になるか、どんな言われ方をしているのかわからんまま風呂入って寝るか、どっちか選べ」ニコ


青葉「……」エ、エート


龍田「そうねえ、あんまり悩んでると私酔っぱらっちゃって…」グビ


龍田「いつもより声がおっきくなっちゃうかもしれないわあ」ウフフ


青葉「わ…わかりました。肴になりましょう…」ガックリ


龍田「そうよね。一緒に居ればいざとなったとき止められるもんね。自分の知られたくない部分を一番近くでバラされることになるけど」


天龍「まさにまな板の鯉か」


龍田「あら、上手~♪」


青葉「好きにしてくださいよもう…」グッタリ


天龍「うし。じゃあまずはメシ頼もうぜメシ。オレ昼早かったから腹減ってんだよ」メニュー


龍田「そうね。青葉さん、ごちそうさまです~♪」フリフリ


青葉「必要経費…必要経費…」ブツブツ



二〇四四 艦娘居酒屋・鳳翔 三番個室



青葉「だいたい司令官もシモ半身がだらしないんですよ。那智さんって人が居ながらいろんな人をとっかえひっかえ…」


青葉「夕べだって足柄さんとニャンニャンしてたみたいですし。節操ないんですよあの人は!」ドンッ


天龍「…ニャンニャンって…マジで?」


龍田「それ本当~?」


青葉「ええ間違いありませんよ。足柄さんツヤッツヤでしたし。司令官は調子悪そうでしたし。電さんは不機嫌で」


天龍「あー、そうだったのか…」


龍田「あらぁ天龍ちゃん…まだこういう話苦手なのぉ?」ニジリヨジリ


天龍「嫌いじゃないけどよ、酒も入ってねえからさ」オシノケ


青葉「あ~あ。天龍も昔はイジり甲斐があって楽しかったのに。今じゃすっかり硬派気取っちゃって」


天龍「気取ってねえよw」


青葉「龍田さんはどう思います?」


龍田「ん~?そんな変わってないと思うけど」


青葉「あー言っちゃいますそういうこと。天龍と一緒にいるからゆっくり変化してるのがわからないんじゃないですか」


龍田「そうかも」ウフ


天龍「どう変わったよ?」


青葉「もっとギラついてましたよ」


龍田「メラついたりイオついたりはしないの?w」


青葉「全盛期はベギラマついてましたね!」


天龍「そこはゴンまで行ってくれよww」


青葉「『ゥおい!オレを第一線から下げるなっての!』って毎度噛みついて那智さんにシメられてた天龍がいまやw」ハッ


龍田「あらぁ似てる~」ウフフフ


天龍「腹立つなw」


青葉「兄貴分だかお姉さんだか知りませんが自分よりちっちゃい子に気い使ってばっかりで」


青葉「覇気がないったらありゃしませんよ」ヒック


天龍「なるほど?」


青葉「司令官も司令官ですよ。確かに阿賀野さんとか川内さんたちと比べたら性能は低いかもしれませんけど、実力あるんですから」


青葉「燃費がいいからってずーっと遠征遠征で…。天龍の強さがわかってないんです」


龍田「それは私にも言ってるのかしら?」クス


青葉「ンえぇ。龍田さんは対潜能力があるようですから、たまに哨戒にも出されてるみたいですけど。」


青葉「お二人とも艤装の性能だけじゃわからないところに強さがあるってのにあの人はデータしか見ないんだから」ハァー


天龍「そりゃあしょうがねえだろうよ青葉」


青葉「当たり前でしょう?デザートにしょうがはないですよ」パク


天龍「違ぇよゲップ女ww 性能で選ぶのは仕方がねえっつってんだ」


龍田「ゲップ女ですってwwうふふww」


青葉「別府だか下呂だか知りませんがね、データデータじゃただの七並べ、何のロマンもありゃしませんよ」


龍田「それは温泉でしょ~?w」


青葉「こう、数値に現れない強さをちゃんと理解して艦隊を組んで、ピシッと任務完了っていうのが!カッコいいんじゃないですか」


青葉「適当に性能の高い子で組んでできるまでやってハイ終わりって味気なさすぎますし、司令官の技量も感じられませんよ」


天龍「だから仕方ねえっつってんだ司令官は素人なんだから」


青葉「5年も提督やってるのに素人だなんて甘々のア〇ゾンプライムですよ月々およそ400円」


龍田「よく出てくるわねぇペラペラとw」


青葉「特別海域だって他のエッrrrrリートな鎮守府がガツガツ行って有用な情報が出てから一段劣る海域に行くでしょういつも」


天龍「いいだろ別に。任意なんだし、ブルネイには4つしか鎮守府ないんだから留守にするわけにもいかんだろ」


青葉「だとしてもですよ。勝って当たり前の勝負して勝ってえらいねすごいねってマヌケな話だと思いません?」


龍田「一応優良鎮守府ってことでいくらか賞状はもらってるみたいだし、評価されてるみたいだけどねぇ」


天龍「勝って当たり前の勝負をするのが提督ってもんじゃねえのか」


青葉「そうかもしれませんけど… 天龍も言ってたように、ビジネスというか、ワンパターンなのが不満です」


青葉「ウチの艦娘だって練度はそりゃ凄いもんです。なのにやってることは性能の高い子を適当に組んでできるまでやって…」


天龍「さっき聞いたぞそれ」


青葉「サツキだかカンタだか知りませんがね、性能だけ見てたんじゃわからない強さってのに目を向けてほしいんですよ」


青葉「天龍にしても艤装の性能だけ見てたらわからない優秀なところいっぱい…そうですよ天龍の話してたんじゃないですか」


天龍「ずっとしてるだろw」


龍田「うふふふwww」


青葉「何で笑ってるんですか!?私は真剣に話してるんです、真面目に聞いてくださいよ!」


天龍「めんどくせえwww」


龍田「何に怒ってるのかわからないわww」




二二一一 重巡寮・玄関



衣笠「二人ともごめんね、青葉が迷惑かけちゃったみたいで…」


青葉「うーっ……??」ポケボケ


天龍「いいっていいって。色々たまってたみたいだからさ」


龍田「そうね。結局私たちずっとツッコミに回ってたわ」


衣笠「ほ、ホントにごめん…二人で食事したかったよね?」


龍田「いいのよ衣笠さん。面白い話も聞けたし、楽しかったわぁ」


天龍「ああ。飲み代もそいつ持ちだしな」


青葉「何ですって…!?聞いてませんよそんなのぉ」ウー


龍田「もうお会計終わってるけど~」


衣笠「あーもうこんなに酔っぱらっちゃって…」


青葉「酔っぱらっておかしいですか?ジュース飲んでたんじゃないんです、お酒飲んだら酔っぱらうにきまってるでしょ」ヘベレケ


天龍「一理あるなあ」フム


龍田「言いえて妙ね」


衣笠「屁理屈言ってないでホラ、部屋行くよ。…シャンとして!」


青葉「失礼な!あおばはいつだって公明正大、しゃんとしてますよ」フラフラ


天龍「……ホント、食えねえ先輩だぜ」


龍田「……」フフ


天龍「なんだよ」


龍田「なんでも」


衣笠「じゃ、二人ともありがとね。おやすみ!」


天龍「おう、お休み」


龍田「おやすみなさい」フリ


青葉「おやずェ……っプ」


衣笠「あ、コラ!もうちょっとガマンして!すぐトイレ行こう、ね!?」ワタワタ


天龍「…あーあ」


龍田「温泉女って呼んだら怒るかしら」ボソ


天龍「……ふふふっwww」



二二五二 自室



天龍「じゃ、乾杯」


龍田「乾杯」


天龍「……」フム


龍田「やっぱり美味しくない?」


天龍「味はいいよ。ただ、こう、カーッてしてさ。熱を飲み込んでる感じが好きじゃない」


龍田「…無理に飲まなくっても良かったのよ?」


天龍「せっかくお前が誘ってくれたんだ、一杯でも付き合わないとさ」


龍田「…天龍ちゃんはいつもそうね」


天龍「うん?」


龍田「誰かのために自分を押さえつけてる」


天龍「……」チビ


龍田「さっき青葉さんが言ってたこともね、よくわかるの」


龍田「天龍ちゃんは強いもの。対空だけじゃない、砲撃も雷撃も上手。当たり前よね」


龍田「ずっと駆逐艦のみんなと一緒に海に出てきたんだものね」


天龍「出撃つったって、9割以上遠征だけどな」


龍田「でも実力はあるでしょう」


天龍「怪しいもんだ」


龍田「今年の2月、BSBの小林中将の艦隊と演習したでしょ?」


天龍「懐かしい話だな…」


龍田「お互い重めの水雷戦隊に空母が1隻。戦形はあなたが先頭の、空母を守る輪形陣」


龍田「対空が一段落したとみるやあなたは肉迫攻撃をかけた」


天龍「…ああ、あれか」


龍田「ええ。一人突出して相手の注意を引き、残る艦娘への攻撃をそらし、気を取られた相手を狙い撃つ囮作戦」


龍田「あなたは見事に陽動を成功させ、砲撃戦は終わり」


天龍「中破だったけどな」


龍田「中破だったからこそ驚いたわ…」


龍田「あなた、相手の艦隊に背を向けて戻ってくるんだもの」


天龍「…ほとんどオレの役目は終わってたからな。あれ以上損傷しようがどうでもよかった」


龍田「…こちらが優勢だったけど、相手の雷撃が12本飛んできた。そのうち背を向けるあなたに向かって9本」


天龍「……」


龍田「よく計算された雷撃だったわ…。ちゃんと見えていても回避が難しいコースと速度」


龍田「でもあなたには当たらなかった」


天龍「違う。1発喰らって大破になっただろ」


龍田「いいえ。確信を持ってるわ。あなたは雷撃がどこにくるかを完全に読み切っていた」


龍田「あれはワザと当たりに行ったんでしょう?」


天龍「どうしてそう思う?」


龍田「いくら演習で、自分の役割が終わったからって、相手にお尻を向けるなんてふざけたことするわけないもの」


龍田「あの人にも怒られたわね。油断がすぎるって」


龍田「あなたは緊張して迂闊な行動をとったって言い訳していたけど、さっきの言い方からすると方便なのは明らか」クス


天龍「……」


龍田「あなたは試してみたくなったのよ」


天龍「よせよ」


龍田「自分は皆が思っているような遠征番長なんかじゃない」


天龍「やめてくれって」


龍田「一軍の連中よりももっと凄いことができるんだって」


天龍「……」


龍田「でも…やっぱりあなたは主役になれなかった」


龍田「ここで目立ってはいけない…そう思ってたまたま近いコースを通ってきたいちばん後ろの魚雷に当たりに行った」


龍田「あの回避は偶然だとみんなに思い込ませるために」


天龍「…聞けよ」


龍田「何?」


天龍「オレは今のままでいい。それがウチの鎮守府に必要なことなんだ」


龍田「…やっぱり自分を犠牲にするのね?」


天龍「犠牲だなんて、大げさだろ…。オレにぴったりな役割さ」


龍田「…この部屋にこぉ~んなに沢山の漫画本があるのだって、駆逐艦と仲良くなるために集めたものだし」


天龍「…もともとマンガは嫌いじゃなかったしな」


龍田「食堂で目立つところに座るのだって遺書を書くのだって全部誰かのため」


天龍「万が一のために必要なことだろ」


龍田「…あなたは提督から押し付けられた役割を全うすべきだと思っている」


龍田「そして自分より優れた艦娘が戦場に出るべきだと思っている」


天龍「間違っちゃいねえだろ」


龍田「あなたは戦いたくならないの?」


天龍「お前はどうなんだ?」


龍田「ウズウズするわ。時々どうしようもなく高揚するの」


龍田「夢の中でいろんな人を何度も何度も串刺しにするほど、血の衝動に焦がれるわ」


天龍「……」


龍田「安心して。そういうときは木曽さんに手伝ってもらってるから~」


天龍「…ほどほどにしとけよ」


龍田「それで?天龍ちゃんはそうやって、自分の力を限界まで発揮して、思うまま相手を蹂躙したいっていうのは無いの?」


天龍「…忘れちまったな、そんな感覚」チビ


龍田「うふふ、やっぱり」


天龍「…なに?」


龍田「あなたは諦めている」


天龍「…何だって?」


龍田「華々しく戦場を駆けることを」


天龍「……」


龍田「鎮守府のために必要ことだと言い聞かせながら」


龍田「まるで枯れた樹がゆっくりと朽ちていくように」


龍田「少しずつ戦意を無くしていっている」


天龍「……」


龍田「天龍ちゃんは優しいもの」


龍田「昔からずっとそう。誰かのためなら命だって惜しくない…」


龍田「そうやっていろんな子の面倒を見てきたんだものね」


天龍「……冬の匂い、か」


龍田「え…?」


天龍「夕方荒潮に言われたんだ。今のオレからは冬の匂いがするって」


天龍「なるほど、枯れて花も葉もつける気がねえってことか…言われちまったな」


龍田「……あら、そうかしら」


天龍「あん?」


龍田「私はね、天龍ちゃん。何も、第一線で活躍してほしいなんて言うつもりはないの」


龍田「ただちょっとワガママ言って、皆を困らせてもいいんじゃないかって…」フフフ


天龍「……そうかな」


龍田「きっとあの人だって聞いてくれるわ。今まで頑張ってきたあなたのお願いぐらい、なんてことないわぁ」


天龍「フフッ…そうだな」


龍田「ねえ天龍ちゃん」ヨリカカリ


天龍「ん?」ナデ


龍田「何かしたいことはない?」


天龍「…したいこと、ね」


龍田「……」コト


天龍「まいったな。思いつかねえや」


龍田「ゴーヤちゃんみたい」クス


天龍「ゴーヤ?」


龍田「あの子昔はオリョールに出ずっぱりだったから。お休みをもらっても何していいかわからないって言ってたのよ~?」


天龍「マジメなゴーヤらしい話だな…」ハハ


龍田「今の天龍ちゃんも似たような感じなのね」


天龍「…ずっと他のやつのことばっか考えて、いざ自分のことになってみると、まるでわからねえってか」


龍田「なんでもいいのよ?例えば可愛い妹と一夜を共にしたいとか」


天龍「してるだろ?」


龍田「まあそうだけど」ムー


天龍「そうだなあ… まあ、腕試しをしたいってのはあるかもな」


龍田「腕試し?」クス


天龍「お前の言う通りだよ。たまには…強ぇやつと限界まで戦ってみたい」


龍田「強い人ねえ。対抗演習にでも出てみる?」


天龍「演習か。確かに最近ご無沙汰だな」


龍田「少人数のほうがやりやすいんじゃないかしら?」


天龍「…そうだな。あんまり他のやつを気にしないでやれるほうがいいかもな」


龍田「……」ギュ


天龍「組んでみたいって?」


龍田「そ」


天龍「……まあ、構わねえよ。お前が一緒なら気が楽だ」


龍田「~♪」ウフフ


天龍「……」ヤレヤレ


天龍「さて、コンビか…。相手はどうする?大北か瑞加賀か…戦艦相手はちょっとキツイかな」ハハ


龍田「じゃあ、巡洋艦でいちばん強い人たちに挑んでみましょうよ」


天龍「はっ……ホントに相手になると思ってんのか?」


龍田「私はどうかしら。天龍ちゃんならいけるわ」


天龍「なんだよ、お前もオレ任せか」ハハ


龍田「たまには天龍ちゃんがメインになってもらわないとね」フフ


天龍「…そうだな。たまにはいいかもな」


天龍「お前は…そういうの、ないのかよ」


龍田「…鬱憤がたまってないかって話?」


天龍「オレのは鬱憤とは違う気もするが…まあ、そんなとこだ」


龍田「無いって言ったら信じるの?」


天龍「信じるよ?」


龍田「優しいのねえ」


天龍「信じるのは得意だからな」ヘヘ


龍田「…無いわけじゃあないの」


天龍「言ってみな」


龍田「んー……いじめられたい?」


天龍「…へえ」


龍田「天龍ちゃんには前から言ってたでしょ?私イジメるの好きなの」


天龍「『私を信頼しきった駆逐艦の子の手足を――』」


龍田「『切り落としたらどんな反応をするかしら』」ウフフフ


天龍「最初に聞いたときは耳か頭かどっちかおかしくなったかと思ったけどな」


龍田「一度も実行したことはないし、そのつもりもないけれど」


天龍「で?いじめられるってのは?」


龍田「よく言うでしょぉ?サディズムとマゾヒズムはコインの裏表」


天龍「ああ…どういじめられると快感になるかわからないと成立しないからって話か」


龍田「そう。だから私もひどい目に遭ってみたいなって」


龍田「磔にされるような激しい寵愛を受けてみたいの」ウフフ


天龍「随分と倒錯的だな」


龍田「憧れない?」


天龍「…必要とされたい、っていうのだけはわかる」


龍田「うふふふ、そうね。誰かとつながっていないと生きていけないものね」


龍田「私のつながりなんて、あなたぐらいのもの…」


天龍「お眼鏡にかなって光栄だな」フ


龍田「うふふふ、そうね」


天龍「とすれば…なあ龍田」


龍田「なぁに?」


天龍「してやろっか。激しい寵愛ってやつを」ギシ


龍田「…あら、もう回ってきたの?」クス


天龍「興奮してきた」


龍田「何でよww」


天龍「お前が誘惑するから」


龍田「私のせいなの?w」


天龍「なんつーかさぁ」


天龍「からかってるのか本気なのかわかんねーんだけどさあ」


天龍「この流れだしお前も溜まってるんだろうなぁと思って」


龍田「じゃあなあに?興奮したっていうのはタテマエなわけ?」ムー


天龍「いや?だってお前くっついてくるし」


天龍「なんかいい匂いするし」


龍田「それは…そうだけど…」モジ


天龍「何度かさ。したことあるだろ?いつも…その…さ。」


龍田「いいの。優しいほうが天龍ちゃんらしくて好きだから。」


龍田「だから…天龍ちゃんには難しいんじゃないかしら?」クス


天龍「ははっ… お前さっき言ったじゃねえか」


天龍「優しくても…人のためなら何でもできる、ってな」


龍田「…本気?」


天龍「マジだぜ?まあちょっと酒入ってるが」


龍田「明日早いんじゃないの?」


天龍「お前には関係ないだろ?」


龍田「……あら~私、どうなっちゃうのかしら…」アセ


天龍「明日、オレの服貸してやろうか」


龍田「…半袖にしたやつでしょ?」


天龍「イヤか?」


龍田「……だって…」


天龍「見えるから?」


龍田「」コク


天龍「やっぱり、そうしてほしいってことだな?」


龍田「……」///


天龍「スんのは久しぶりだな。正直あんまり得意じゃねえが」


天龍「お前を怖がらせるってなら…やぶさかじゃない」ニヤ


龍田「…ね、ねえ」


天龍「あん?」


龍田「カーテンぐらい閉めてほしいな…」


天龍「…そうだな。他のやつには見せたくない」


龍田「…もう」


シャッ





翌日 海上・スプラトリー諸島周辺




ザザ… ザー


鬼怒【あー、あー…。こちらタ号第3府鬼怒です。聞こえますか。どうぞ】


龍田「こちらム号龍田。感度五中五。概ね良好よ」


鬼怒【こちらも良好。予定通りそちらへ到着予定だよ】


龍田「了解よ。注意事項はあるかしら」


鬼怒【特にないかな。いい天気だし、波も穏やかで敵潜の反応もなし…】


鬼怒【このまま引継ぎできそうかな】


龍田「そうね。…ああ、今そちらを視認したわ。見えるかしら」


鬼怒【んー……?わかんないなあ…。ライトはある?】


龍田「ええ」カタ カタ― カタ カタ―


鬼怒【お、見えた。位置確認、到着およそ6分後。そこからは予定通りお願い】


龍田「了解」


鬼怒【では、交信終了します】ボツ


龍田「ふー…」タオル


皐月『暑そうだね、龍田さん』ヴン


龍田「そうね。今日は日差しも強いし…水筒二つで足りるかしら」


皐月『上、脱がないの?』


龍田「あらぁ、どうして?」


皐月『だっていつも上着羽織ってるよね?でも今日は着てるからさ。袖もまくってないし』


龍田「そういう気分なの」


皐月『ふ~ん…?』


龍田「そんなことより、そろそろ合流よ。何もなさそうだけど、一応対潜対空警戒はしておいて欲しいな」


皐月『了解だよっ』


龍田「よろしくね」プツ




龍田「…ふぅ」


龍田「脱げるわけないじゃないの、こんな歯形だらけなのに…」フフ





数日後・夕方 提督執務室



天龍「邪魔するぜ」


提督「おー、お疲れ。長い時間ご苦労さん。まあ座ってくれ」


天龍「おう。……ふ~~っ」カタマワシ


早霜「…」スタスタ


那智「最近は教導と対抗演習ばかりだな。現場仕事が増えそうで何より」


天龍「オレもアンタとやり合っただけでこうなるとは思ってなかったわ」


提督「那智と足柄相手に善戦しちまったら、そりゃ戦闘民族に目付けられるわな」


天龍「普段オレがどんだけ舐められてるかよくわかったぜ」ハハ


那智「ははは、イメージを払拭できるいい機会になったじゃないか」ニヤ


天龍「…ちっ」


那智「フフ、私に負けたのをまだ引きずっているのか?」


天龍「当たり前だろ。あの魚雷さえ当たってればこっちがS判定だったのに」


那智「そうだな。いい勝負だった…足柄も落とされたしな。天龍のポテンシャルのすべてを感じたよ」


天龍「次は絶対ぇ負けねえからな…!」ギラ


那智「いい度胸だ。やはり貴様はまだまだ伸びるよ」フフフ


提督「二人ともさ」


天龍「あ?」


那智「ん?」


提督「早霜が怖がってるから一旦そこまでにしてくれ」


早霜「…面目ないです」ムギチャ


天龍「わ、悪ぃ早霜、せっかく持ってきてもらったのに」


那智「珍しいな。早霜が怖がるとは」


早霜「い、いえ…その…」//


荒潮「ふわぁ…」ムク


天龍「あ、起きた」


荒潮「…あらぁ天龍さん…おはようございます」ペコ


天龍「もう夕方だぞ」


荒潮「…あら?」トテテテ


荒潮「……」スンスン


天龍「お、おい、よせって。軽くシャワー浴びてきただけだし、臭いぞ」


那智「どんな匂いがする?」クス


荒潮「…天龍さんの匂い」ウフフ


天龍「なんだそりゃ?」


提督「…なるほどなるほど。大体わかった」


那智「ああ。いい傾向だ」


天龍「…はぁ。まったく、少しはオレに分かるように説明しろってんだ、どいつもこいつも…」


提督「全部言ったら面白くないからな。それより天龍」


天龍「アんだよ」


提督「今日の府内新聞、見たか?」


天龍「いや、今朝はチビ連中の相手してたからまだ読んでねえ」


提督「…」チラ


早霜「こちらです。えーと…」パサ


天龍「おう……げ!アイツいつの間に…!」//


提督「部屋に忍び込んだのはこれが撮りたかったからだろうなあ」


天龍「あのヤロー……どうしてやろうかナァ~」バキボキ


提督「青葉は明日フリーだからな。対抗演習でも入れるか?」


天龍「頼むわ」


提督「青葉も最近のお前に何か思うところがあったみたいだからなあ。元気になったとこ見せてやれ」


天龍「…おうよ。この天龍様をコケにしやがって…ぶっ飛ばしてやるわ」コキコキ


那智「…どんな記事なんだ?」ヒソ


早霜「こ、こちらです」ヒソ


那智「……う、うむ」


荒潮「あらぁ~」//


天龍「聞こえてるぞ?」


那智「いや、すまない…これは、流石にダメだな。私からもキツく言っておこう」


提督「しかし、2面より先はいい記事書いてるのに、どうして1面でふざけるかな…」


那智「インパクトのある記事で惹きつけるっていう目的なのだろうな」


早霜「目を引く写真や印象に残るフレーズで購買意欲を煽るのはマーケティングの基本ですからね」


荒潮「ですって」


天龍「はいはいもういいから見るなってのそれを!」トリアゲ


提督「すまん。悪気はなかった」シレ


那智「同じく」シレ


早霜「だそうです」


天龍「こいつら…!」グヌヌ


提督「悪かったって。じゃあ…そうだな、お詫びといっちゃなんだけど、一つ許可を与えよう」


天龍「許可ァ?」


提督「今許可証を用意するからちょっと待っててくれ…」








♪~~♪♪~♪♪~~


青葉「んぅ~……」モソモソ


♪~~♪♪ ♪


青葉「………」ジカンカクニン


青葉「……ん暑っつい!」バサッ


青葉「……」




青葉「……」ヌボーーーーー ←起動中




青葉「……」ポリポリ ←お腹を掻いている


青葉「……」ボリボリ… ←本当にかゆいところが掻けてないっぽいので付近を捜索


青葉「…痛つっ」 ←発見


青葉「あー、蚊に刺されちゃってる…」コリコリ


青葉「…よっこいしょ」タチアガリ


テクテク シャーッ


青葉「ん゛ゎ゛……」サンサン


青葉「いい天気ですねえ……」


青葉「まさか、天龍から何の音沙汰もなく平穏無事な朝が迎えられるとは…」


青葉「これも青葉の人徳のなせるワザ… さて、準備しま」クル



天龍「……」ジー



青葉「どぅおおわぁぁ!?!!?」バターン


天龍「意外と気づかれねえもんだなあ…」ツカツカ


青葉「しっ、心臓止まるかと思った!なんで!じょ…なんでいるの!?」アトズサリ


天龍「オレの名は天龍」ゴゴゴ


青葉「知ってますよっ!!」





天龍「フフフ…怖いか?」ニヤァ


青葉「すごく怖いです!こゎ…正直ちょっと漏らしました!謝りますから!許して!許してえええええ!!」ガタガタ



                                            終わり


後書き

30000文字ぐらいで終わらせたかったです。
ヤマオチなしです。


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seiさんから
2020-05-06 23:30:23

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2020-05-03 10:48:52

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2019-12-11 18:08:45

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2019-12-09 21:48:16

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2019-12-02 15:16:51

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2019-11-29 22:16:30

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2020-05-06 23:30:23

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2019-12-02 15:16:52

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2019-11-29 22:16:31

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2019-11-28 17:29:08

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1: SS好きの名無しさん 2019-11-29 22:18:33 ID: S:fpbv6u

次に期待

2: SS好きの名無しさん 2020-06-14 09:41:31 ID: S:tLtNVx

武蔵の剣・・・もしかしてハダ○のゲンですかね(´∇`)ケラケラ面白かったです次も期待して待ってマース


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1: SS好きの名無しさん 2019-11-29 22:18:18 ID: S:6zSuCF

面白い。

元ネタがあるのかな?

天龍が天龍らしくない。中年の男性みたいな印象を受ける。

やはり天龍と龍田はセットだな。

二人一緒にいないとしっくり来ない。


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