2020-10-25 16:44:06 更新

概要

元海兵が海軍に復帰。提督として歩んでいくお話し第弐話です。


前書き

新しい基地の建設が始まった。

東雲は自分の正体について赤城達に打ち明ける。

その赤城も『佐伯湾の裏』について東雲に打ち明ける。



提督として…(前)




 翌日……東雲たち3人はいつものように畑の整備や収穫、昨日採ったみかんの加工作業を行っていた。


 昼頃からか、海岸部からトラックや重機らしき音がするようになった。


 倉庫から顔を出して様子を見ると、沿岸部で基地の建設が始まっていた。しばらくその様子を見ていると、向こうから見覚えのある人が歩いてきた。


 ……大淀だ。



大淀「昨日ぶりです。大佐」


東雲「建設作業、始まったのか」


大淀「えぇ。完成は半年後かと」


東雲「わかった。それまでは…」


大淀「はい。農作業の合間で基地運営に関する書類に目を通していただきます」



 うげぇ…と東雲は思った。デスクワークが大の苦手だからである。


 まぁ…やるからには仕方ないかと腹をくくる。



東雲「まぁ……お手柔らかに頼む」


大淀「はい」



 大淀がくすっと笑った。すると倉庫から榛名が顔を出してきた。



榛名「あ! 大淀さん、こんにちは!」


大淀「こんにちは……今日は何を?」


榛名「はい! ポン酢を箱詰めしています!」


大淀「ポン酢…自家製ですか?」 


東雲「そうそう。この後、出荷の予定があって……あ、大淀。実は見て欲しいものがあるんだけど……今いいか?」


大淀「見て欲しいもの…ですか?」


東雲「こっち来てくれ」



 東雲は大淀を倉庫2階に案内して、赤城と榛名の『壊れた艤装』を見せた。  



大淀「これは……お2人のですか?」


東雲「ここには艤装を整備する道具や部品がないからな……こびりついてた苔とかは落とせたけど、修復はお手上げ。俺にはそんな知識や技

  術は無いし」


大淀「そうですよね………明石と夕張さんがいて丁度良かったです」


東雲「明石? 夕張?」


大淀「工作艦の艦娘と、工作艦並に機械いじりが好きな軽巡洋艦の艦娘です。今呼びますね」



 大淀は軍用スマホを取り出して、電話をかけた。


 10分程して、倉庫の1階から大声がした。



?「失礼しまーす!! って、うわっ! みかんがいっぱい……って赤城さん!? 榛名さんもいるし!? え、なんで!?!?」


榛名「明石さん!?」


赤城「あら! 明石さんじゃないですか」

  


 大淀もだったけど……基地が無い場所に艦娘がいて、さらにポン酢の瓶詰めをしていたら誰もが驚くわな。



大淀「明石! こっちですよ!」


 

 大淀が2階から大声を出した。


 すると、ドタドタと階段を駆け上がる音がしてきた。



明石「はぁ…はぁ…大淀? 今すぐ来いって何事??」  


東雲「君が……明石?」


明石「はい! 工作艦『明石』です! 貴方が新しい泊地の提督になる東雲大佐ですね! よろしくお願いします!」


東雲「あ、よろしく」


大淀「明石。早速なんだけど……これ見てくれる?」



 大淀が明石の前に壊れた艤装を置く。


 明石はこれをどうして欲しいのかを理解したのだろうか……艤装全体をくまなく観察している。



明石「これを直せって事でしょ。うん……なるほどね…………これなら今持ってる道具でどうにかなると思うよ!」


東雲「直せるのか!?」


明石「この明石にお任せください!」



 すると明石は自分の艤装を展開して、クレーンを操作しながら持ってきた工具箱から工具を取り出して修理に入った。



明石「そんじゃ、始めますね!」


大淀「えぇお願い。あと………改造はダメだからね」


明石「わかってるよぉー」



 大淀が明石に釘を刺した。明石はそれを聞いて少し残念な顔をした。


 東雲は思った。こいつ…トラブルメーカーなのではと……



大淀「そう言えば、夕張さんは?」


明石「夕張ちゃんなら建設現場にいるよー。工廠施設の内装に追加して欲しいのがあるみたいで、業者の人と話してるよ。あと、間宮さんと

  伊良湖ちゃんは炊き出し中。他の娘達は変わらず作業の手伝いかな」


東雲「他?」


大淀「はい。軍令部から建設作業の助っ人として艦娘に数名来てもらっています。ちなみに艦名は特Ⅱ型駆逐艦『綾波』『敷波』『天霧』

  『狭霧』『朧』『曙』『漣』『潮』。天龍型軽巡洋艦『天龍』『龍田』。夕張型軽巡洋艦『夕張』。妙高型重巡洋艦『妙高』『那智』

  『足柄』『羽黒』。伊勢型戦艦『伊勢』『日向』。飛鷹型軽空母『飛鷹』『隼鷹』。給糧艦『間宮』『伊良湖』です」


明石「そして私、工作艦『明石』と大淀で全員です」


東雲「23人もいるのか?」


大淀・明石「「!」」



 東雲の発言を聞いた大淀と明石がはっとした顔をする。



東雲「ど…どした?」


大淀「いえ…」


明石「へぇ~……私達の事を『人』って数えてくれるんですねぇ」


東雲「違うのか?」


大淀「いえ…そういう訳ではないんです」

  


 海軍には東雲のように艦娘を『人』と同等に扱ってくれる者もいれば、『物』として扱う者もいるらしい。後者は特に高齢層や高齢層から指導を受け、そいつらの思想に感銘を受けている若者に多いらしい。



大淀「私達は人間とはかけ離れた存在ですから。『人』としてではなく深海棲艦と戦う為の『道具』としか思っていない者も少なくないんで

  すよ」


東雲「なるほど…」 


明石「ちなみに私達がどうやって生まれるか知ってます?」


東雲「海から現れるんじゃないのか?」


明石「それもありますけど、、他にも方法はありますよ。建造だったり、最近は『普通の人間』でも適性があれば艦娘になれますよ。ちなみ

  に私は『元人間』で~す!」


東雲「そうなのか!?」


大淀「はい。最近の研究で適性があれば『人間』から『艦娘』になれるようになりました。まだ公には発表されていませんが…軍の人間が養

  護施設にいる孤児や軍学校に入隊してきた女性軍人と会って、適性があれば艦娘になるかどうか話を持ち掛けています」



 人間から艦娘になれるとは知らなかった。だがそれだと……



東雲「……それだと元の自分から姿がまるっきり変わるんじゃないか?」


明石「はい。少し面影が残る娘もいますけど…私はまるっきり変わりましたよ」


東雲「……良かったのか?」


明石「何がですか?」


東雲「いや……姿が変わったことへの後悔とかさ……親の反対とか……無かったのかなーって……それに人間じゃなくて艦娘になるのに抵抗

  とかなかったのかなって……」


明石「……ぷっ、あはははっ!!!」



 急に明石が大声で笑い始めた。


 それに、俺が心配したことになんだが嬉しそうにも見えた。



大淀「明石! 笑い過ぎよ!」


明石「いや、ごめんごめん。そういう風に言ってくる人初めてだったからさ……まぁ私は施設育ちで親とかいないし。ぼーっと生活してたか

  らさ、ただ機械いじりが好きで、いつかそういった職に就けたらなぁって思ってたら、施設に海軍の人が来たんだよ。そしたら適性があ

  るから艦娘にならないかって言わてさぁ。その時は普通に生きてたらこんな経験味わえないし面白そうだったから承諾して今に至るって

  ところかな。それに工作艦『明石』の適性があるってお陰で、今みたいに好きな機械いじりが出来てるし…後悔はないかな…」 


東雲「そうか……お前も施設育ちか……」


大淀「そう言えば。大佐も施設育ちでしたね」


東雲「あぁ……施設の前で捨てられていた所を施設の人が保護したらしい。親の顔なんて知らん」


明石「へぇー……」


東雲「あと、この先解体された時は…このままの姿なのか?」


明石「元人間の艦娘は解体した時に元の姿へ戻れますよ。なんで一生この身体で生きるって訳じゃないしね。まぁ…轟沈したら話は別だけ

  ど……東雲さんはそんな事させないだろうし、ここなら楽しくできそう」


東雲「ここならって……いかにもここに住むって言い方だな」


明石「え?」


東雲「え?」



 東雲と明石はお互いに顔を合わせた。両者『何言ってんの?』と言う顔で……



大淀「……そうでした。その件を東雲さんに話す為に伺ったんでした。まず、辞令がまだ下っていません。辞令が各所へ通達されると同時に

  東雲大佐にも連絡がいくと思います」


東雲「分かった」


大淀「それと今日、こちらに来ている艦娘は全員、ここに出来る『新基地』の所属になります。つまり、東雲さんの部下になります。もちろ

  ん私と明石もです」


明石「よろしくお願いしま~す!」


東雲「……マジか」


大淀「マジです」


明石「良かったじゃないですか~! 私が言うのも何ですけど、私や大淀、間宮さんと伊良湖ちゃんの4人は希少ですよ。所謂『レア艦』って

  やつです!」


東雲「……いいのか? それ程の人材を俺の所によこして……」


大淀「構いませんよ。むしろ逆です。帰還された『英雄』が指揮を執る基地なんですから、それなりの待遇でお迎えしないと…と総長が言っ

  てました」


東雲「マジか…………」



 すると明石は手を止めて背後にいた俺と大淀の方を向いた。



明石「はい! 修復できるところまでは修復したよー。後は工廠が完成してからだね」


大淀「お疲れ様」


東雲「ありがとう」


明石「それで……今、面白い話聞いたんだけど……東雲さんがあの『英雄』なんですねぇ……」



 明石はニヤリと笑顔った。



明石「東雲さん、『英雄』ってことは深海棲艦と戦ってたんですよね。『あの力』が使えるってことですよね」


東雲「あぁ……まぁ……そうだが……」


大淀「それがどうかしたの?」


明石「いやぁ…鞍馬総長って『あの力』があるお陰で艤装を装着した大和型戦艦とも互角なレベルで怪力じゃないですか。そしたら東雲さん

  にも同様の力があるんじゃないかなって思って……」


東雲「鞍馬総長とは元上司部下だったが…確かにあの怪力は凄かったな…」



 俺や鞍馬総長がいた部隊の皆は全員、個人差はあったが『ある力』を持っていた。


 その力のお陰で深海棲艦との戦闘においては通常の重巡洋艦級までであればほぼ互角に戦える程の実力は持っていた。


 その中でも当時の鞍馬総長はとびきり強く。当時は唯一戦艦級の深海棲艦とも戦える力を持っていた。



明石「それに私一度、鞍馬総長にお会いしたことがあって…面白い話を聞いたことがあるんです」


大淀「何を?」


明石「『英雄』は、髪の色が『白』で眼の色は『赤』だって……」


赤城「え………」



 急に背後から赤城の声がした。後ろを振り返ると階段から顔をのぞかせている赤城と榛名がいた。


 2人共驚いた表情をしていた。



赤城「すいません……2階で話が盛り上がってましたので……つい気になって……」


榛名「今……『英雄』って言葉が聞こえましたけど……」


大淀「えぇ…今私達の目の前にいる東雲大佐こそ…あの『英雄』と呼ばれてる張本人ですよ」


榛名「えっ……」  


赤城「やはり、そうでしたか……」


大淀「赤城さんはご存じだったんですか?」


赤城「いえ…ですが、鳳翔さんから『英雄』について話を聞いてましたので…もしかしたら東雲さんが『英雄』なのではと思ってはいまし

  た…ですが、髪の色が『白』で眼の色が『赤』っていうのは初耳でした」


東雲「…………鳳翔と会った時は力を鎮静剤で強制解除してたからな。知らないのも無理ないさ」


大淀「だとしても……総長は力を使った時にはそんな事……」


提督「……榛名」


榛名「は、はい! 箱詰めでしたら終わりましたけど……」


提督「なら丁度いい。話が長くなるから、俺の家で話そう。お茶用意してくれるか?」


榛名「すぐに準備します!」



 榛名は階段を駆け下りて自宅の方へと走って行った。



東雲「俺達も行こう。そこで話す」


大淀「わかりました」




===============================================================




 家に戻って居間に向かうと、榛名が人数分の湯吞みを台に出して待っていた。



榛名「お茶の用意が出来ました!」


東雲「あぁ。ありがとう。皆座ってくれ」


明石「失礼しまーす」



 皆席に着くと、榛名がそれぞれの湯吞みにお茶を淹れてくれた。



大淀「ありがとうございます」


榛名「いえ……」


東雲「さて……どっから話すべきか」


赤城「全てです」



 赤城の言葉を聞いた東雲は一度お茶を啜って一息ついた。



東雲「……確かに俺は鞍馬総長と同じで深海棲艦と戦う部隊にいた。それと、聞きたいんだが…お前たちは『あの力』についてどこまで知っ

  てる?」


榛名「榛名は知りません……」


大淀「薬物投与による肉体強化としか……東雲さん達がいた部隊の記録は全て廃棄されてますので……」


赤城「私も大淀さんと同じです」


明石「私もです。総長に聞こうとしたんですけど……話を逸らされて聞けませんでした」


東雲「……まぁ、過ぎた話だし話してもいいだろ……まず、俺たちに投与されていたのは薬物じゃない」


大淀「薬物でないのなら……一体なんですか?」


東雲「……『深海棲艦の血』だよ」


4人「「!?!?」」



 東雲の言葉に4人は絶句した……



東雲「深海棲艦との戦闘が始まってすぐの頃に運よく倒した深海棲艦から採取した血をアンプルに保管してたらしいんだよ。それを深海棲艦

  と戦うために結成された鞍馬総長率いる特殊部隊。通称『105部隊』結成の時、隊員全員に投与された。皆は『あの力』の事は『深淵

  状態』って呼んでた」


大淀「『深淵状態』ですか………」


明石「それって……かなり危険なんじゃ……」


東雲「あぁ。深海棲艦の血を投与されて、自分の血液に混ざり合って溶け込めばいいんだけどな。うまく反応すれば自分の肉体がかなり強化

  される。だけど中には拒絶反応を起こして肉体や精神が崩壊。心身症や鬱病、植物人間になった奴、最悪の場合だと死んだ奴もいる」


榛名「そんな……東雲さんは……大丈夫だったんですか?」


東雲「まぁ…なんとかな。深海棲艦の血の投与にも段階があって……最初は皆、『駆逐艦級』の深海棲艦の血が投与されるんだ。そっからは

  肉体や精神の状態を見ながら軽巡洋艦、重雷装巡洋艦級、重巡洋艦級と投与される血のクラスが上がっていく」


赤城「東雲さんはどこまで投与されたんですか?」


東雲「俺は『重巡洋艦級』まで投与された。重巡洋艦級まで投与された奴は部隊の1割ぐらいだったな……まぁ、唯一『戦艦級』の血を投与

  されて平気だった人もいたけど……」


大淀「もしかして……」


東雲「そう。105部隊の隊長だった男で、今は海軍軍令部総長の『鞍馬翔平』」


明石「だからあの怪力なんですね……」


赤城「あの……東雲さんは、鳳翔さんと会ったような事をおっしゃっていましたけど…」


東雲「鳳翔が『あの戦い』の後に戦闘海域で発見されたのは知ってるだろ?」


赤城「はい。そのように聞いています」


東雲「その鳳翔を保護したのが鞍馬隊長と、芹沢と都崎っていう女性兵士……そして俺の4人だ」


赤城「そうだったんですね…」


大淀「4人ですか?……確か『あの戦い』で生き残ったのは5人じゃ……」


東雲「あぁ…本来は5人だ。だが1人は戦闘開始直後に逃亡したよ。戦闘が終わり、鳳翔を保護して本土に戻る際にしれっと合流してきた。

  それでも生き残った者として賞賛されてるけどな」


明石「うわぁ~……最低ですね…」


大淀「ってか……その人もしかして…」


東雲「大淀は気づいたか。そいつは『新しい基地』の提督候補だった奴だよ」


大淀「だから東雲さんと総長はあの時に電話で『腰抜け』とおっしゃっていたんですね……」


東雲「そゆこと」


榛名「あのー...」


東雲「どうした?」


榛名「倉庫で明石さんが言ってたのって……」


東雲「髪と眼の色か?」



 榛名が静かに頷いた。



大淀「先程言った通り……総長が力を使うときは、肌は白くなりましたが、髪や眼の色に変化は見られませんでした……」


東雲「まぁ。そうだろうな……そんな変化が起こるのは俺だけだ……」



 東雲は眼を閉じて全身にグッと力を入れる。



艦娘’s「「えっ!?」」


 

 東雲の雰囲気が一気にガラッと変わった。その瞬間だった。

 

 普段の農作業で日に焼けた小麦色の肌が一気に『白』へと変化。それと同時に髪の色も『白』へと変化した。

 

 東雲が眼を開けると、眼の色が黒から『赤』へと変わっていた…



艦娘’s「「!!!」」



 その場にいた艦娘は全員警戒態勢に入る。大淀と明石は咄嗟に艤装を展開した。


 無理もない。東雲が発しているオーラ。それと変化した容姿。


 皆、最低でも一度は同じオーラをした奴と一戦交えたことがあるからだ…



東雲「……そんな警戒せんでも」


赤城「東雲さん……貴方は一体……」


東雲「まぁ…話すから……大淀と明石は艤装を解いてくれるか?」


大淀「……はい」


明石「わかりました…」



 2人は艤装を解いて座った。同時に赤城と榛名も警戒を解いた。



東雲「……大淀」


大淀「はい」


東雲「『あの戦い』における死者。相手の深海棲艦の事は聞いてるか?」


大淀「詳細なデータは処分されてますので、総長から聞いた事しか……確か、海軍兵約150が戦闘に参加。5人が生還し、他は全員戦死。

  その戦いにおける深海棲艦は駆逐艦級が30隻、軽巡洋艦級及び重巡洋艦級が各20隻、戦艦級が10隻、空母級が6せ……き……」



 話の途中で大淀が黙り込む。



明石「大淀?」


大淀「…………まさか」



 大淀の顔が一気に真っ青になる…



東雲「何となく大淀が考えてることは分かる。そのまさかだ…」


榛名「大淀さん?」


大淀「確か…………私の記憶が正しければ……深海棲艦の大艦隊を仕切っていたのは…………姫級『空母棲姫』」


榛名「えっ!?」


明石「マジ!?」


大淀「……はい」


東雲「知らなかったのか?」

 


 榛名と明石、赤城は首を縦に振った。2人は深海棲艦の大軍勢ということは知っていたものの、姫級がいたことは知らなかったらしい。



東雲「そんで、大淀はどう考えた?」


大淀「…大佐は、もしかして……その空母棲姫の血を……」


東雲「あぁ。空母棲姫の血を飲んだ」


艦娘’s「「!?」」


東雲「まぁ…色々あってな……」


榛名「そうだったんですか……」


明石「…東雲さんは身体が変化するだけですか?? 総長みたいに怪力になったりとか?」


東雲「姫級の血だからな。正直怪力勝負だったら総長より遥かに上だろうな。あと……これはあくまで推測だが……赤城」


赤城「はい?」


東雲「赤城の艤装貸してくれないか? さっき明石が修理してくれてるから使えるだろ」


赤城「えっ……はい……いいですよ」


榛名「どうして艤装を??」


赤城「東雲さん……まさかですけど……」


東雲「まぁ…ものの試しだよ。外に出ようか」


明石「なんか面白い事になりそう!!」



 

===============================================================




 外に出た後、赤城は倉庫から自分の艤装を取りに行った。



東雲「悪いね」


赤城「いえ、大丈夫です。甲板と弓、それと艦上戦闘機『零式艦戦21型』の矢です。装着手伝いますね」


赤城に艤装の装着を手伝ってもらい、東雲は艦娘の艤装を装着した。


東雲「へぇ……これが艦娘の艤装か。これを付けるなんて中々無い体験だろうからな」


大淀「普段、艤装には持主しか扱えないように制限がついてますからね」


赤城「権限は解除していますので、東雲さんでも扱えるようしてありますけど……」


榛名「普通の人が艦娘の艤装を装着したとしても、何も反応しない筈です…」


東雲「言ったろ? 試しだって……」



 そう言うと東雲は『深淵状態』に入った。


 そして、矢を右手に取って弓にかけて矢を空に向けて弦て引く。


 その様子を艦娘たちはじっと見ていた。


 東雲は一度、深呼吸をした。



東雲「………いくぞ」


 

 バシュッ……と矢が放たれる音と同時に空へと矢が放たれた。


 すると矢からは火花が散った。その瞬間『ブーン』という羽音と共に、赤いオーラを帯びた5機の零式艦上戦闘機が空を駆け抜けた。



東雲「……やっぱりか」



 東雲は『深淵状態』を解除する。


 後ろを振り向くと赤城たちは唖然とした表情をしていた……



東雲「…どした?」


赤城「いえ……その……驚きました……」


榛名「榛名……実は夢から覚めてなくて、ベッドでまだ寝ているのでしょうか……」


大淀「いえ榛名さん。現実です……」


明石「ほほぉ!!!!!」



 ………1人を除いて。



明石「凄いですよ!!! 艦娘でないのに艦娘の艤装を扱えるなんて!!! 大発見です!!!」


大淀「まさか……こんな事が……」


東雲「俺もまさかとは思ってたが、やっぱり使えたな。じゃ、赤城返すわ」


赤城「え……あ、はい」



 東雲は身体から艤装を外して、全て赤城に返した。



明石「東雲さん! もしかしてですけど……これ見えてます?」



 明石は艤装を展開して、自分の右肩あたりに指をさした。


 指の先を見ると、制服を着た小人が敬礼をしていた。



東雲「……その小さい人のことか?」


艦娘’s「「!?!?」」


 

 皆、驚いたという表情をした。



明石「やっぱり…妖精さんが見えるんですね!」


東雲「凄い事なのか?」


大淀「普通の人は見えないんです」



 小人は『妖精』と呼ばれる生き物で、艦娘の艤装や装備に宿っているらしい。


 妖精の姿は艦娘と一部の人間にしか姿が見えないらしい。



東雲「とりあえず…艦娘の艤装が使えるということがわかったんだが……そこで大淀と明石に提案があるんだが…」


大淀「はい?」


明石「なんですか!」


東雲「まず明石。いきなりで悪いが俺用の艤装を作ってもらえないか?」


明石「東雲さん用の艤装って……まさか、東雲さんも海に出るおつもりですか!? 深海棲艦と戦うって言うんですか!?」



東雲「半分正解で半分不正解。一緒に戦うけど、海に出るつもりは無い。じゃないとこの場所を守れない。君たちは海で戦って、俺は本土で

  何もしないってのは嫌だしね」


榛名「それはどういう……」


赤城「………基地航空隊」


艦娘’s「「!!」」


東雲「大正解。なんかのテレビ特集で横須賀鎮守府の施設を見たことがあって、そこに基地航空隊ってのがあったのを思い出した。俺がここ

  から陸上戦闘機や局地戦闘機、艦載機を使って皆の戦いを支援する。ここにも基地航空隊を設置するんだろ?」


大淀「はい……いずれは…」


東雲「俺用の艤装に資材と資金はかかってしまうが、基地航空隊の設営にかかる費用や土地は浮く。その土地と費用は艦娘の娘達が住む居住

  区の増設と設備の充実に充てればいい」


大淀「……総長に聞いてみます」



 大淀は俺達から離れたところで鞍馬総長に電話をかけた。


 電話はすぐに終わって大淀が戻ってきた。



東雲「…総長はなんて言ってた?」


大淀「……あっさり許可が下りました。それと総長が大笑いしてました」


東雲「……だろうな。目に浮かぶ」


大淀「……私、現場監督と話してきます」


明石「それじゃあ私、東雲さんの艤装について考えたいので部屋をお借りしてもいいですか!」


東雲「あぁ。1階廊下の奥に応接部屋があるから、そこを使ってくれ」


明石「了解!!」



 大淀は建設現場へと戻って行った。


 明石は俺の家にあがって、応接部屋へと向かっていった。



明石「……昔から変わってないなぁ……『お兄ちゃん』……」



 明石は部屋に入る手前で小声でつぶやいた。もちろん東雲や赤城達には聞こえていない。


 東雲は建設現場に赴いて、現場監督に挨拶でもしようかと思っていたが、赤城に止められた。



赤城「東雲さん……話があります」

 


 東雲は急な赤城の発言と、真面目な表情を見て何かあると察知した。



東雲「……わかった。誰にも聞かれない方が良いだろ? 倉庫の2階でいいか」


赤城「はい」


榛名「私、湯吞みを片付けてから行きます」



 東雲と赤城は倉庫へと向かっていった。




===============================================================




 東雲と赤城は倉庫1階に置いていた椅子を2階に持って上がった。


 2人は向き合う様に座って、少し静かな空気になる……



赤城「あの……」


東雲「いや、俺から話させてくれ。まず…黙っててすまなかった。『英雄』じゃないって嘘もついたし……」


赤城「いえ、それは良いんです。言いたくない事の1つや2つ…誰にだってあります」


東雲「そう言ってくれると助かる。いつかは話そうとは思っていたんだが……」


赤城「予感はしていましたが、本当に東雲さんがあの『英雄』だとは思いませんでした」


東雲「分かっていたのか?」


赤城「私たち空母は皆、一度は鳳翔さんの指導を受けることになっているんです。その時に『英雄』だった方の話を聞いた事があるんです。

  それで、その時に聞いた人物像が東雲さんと似てるなと思ってまして…それに鳳翔さんが『英雄と呼ばれた人は、名前に方角が入ってい

  る』ともお聞きしましたので……」


東雲「そうか? 鳳翔には名前を言った覚えはないんだが……」


赤城「どこかでお聞きしたのでしょう。 鞍馬総長とか……」


東雲「あー...…その可能性はあるな。あと……」


赤城「なんでしょうか」



 東雲は一呼吸置いて切り出す。



東雲「榛名もだが……お前ら、もとの泊地に戻らない理由教えてくれないよな。話せ」


赤城「……どうしてもですか」


東雲「どうしてもだ。俺は元海兵だって話してるし、今日で俺の素性もほぼバレた。だけど、お前らは『元佐伯湾泊地所属』の艦娘ってだけ

  で、それ以外は何も教えない。何か隠してるだろ? 不公平だから話せ。俺でよければ話を聞くし、力が必要なら貸す」



『力が必要なら貸す』……この言葉を赤城は待っていた。


 自分や榛名が置かれている状況……一海兵が力を貸してくれた所で解決はしないだろう。


 だが、目の前にいる東雲は違う。元海兵で現総長『鞍馬 翔平』の元部下。『英雄』と呼ばれた男。


 そしてさっき目にした東雲の実力……赤城は自分たちの状況を東雲なら打破してくれるのではと期待した。


 話があると切り出したのは、『佐伯湾泊地の裏』を東雲に話す為だ……



赤城「実はその事でお話が………」




===============================================================




 東雲たちと別れた大淀は建設現場へと戻って、現場監督と基地内の施設について変更がある事を伝えて、休憩も兼ねてプレハブ小屋で話をしていた。



現場監督「なるほど……いいんだな。基地航空隊の滑走路とか格納庫は必要ないんだな」


大淀「はい。そこで、建設予定だった場所とそれにかかる費用については、居住施設の拡張及び設備の向上に充てたいのですが……」


現場監督「わかった。幸い基地航空隊の施設には手を付けてなかったから丁度良かった。それにしても居住区の充実ね……ここの新しい提督

    は良い奴なんだろうな」


大淀「はい。私達艦娘を『人』で数えた方ですから」

 

現場監督「ほぉ…そいつは面白いな。日本にあるほどんとの基地の建設に関わってきたが、艦娘を人として扱ったり、待遇を良くしようとし

    た人間なんてごく僅かだったな……舞鶴の嬢ちゃんもここの提督と同じような感じだったな」


大淀「えぇ。そうですね」


現場監督「あと……これは俺の経験と憶測だが……佐伯湾泊地の提督は気を付けてた方が良い」


大淀「佐伯湾提督ですか? 私、一度お会いしたことがありますけど、そう警戒するような人では……」


現場監督「いや、あいつは何か匂う。あくまで俺の勘だけどな。裏があると思うぞ。それじゃあ俺は作業に戻るから」


大淀「は…はぁ…」


  

 現場監督がプレハブ小屋から出ると、入れ替わりで和装姿の艦娘2人が入ってきた。



?「あ、大淀! 戻ってたんだ」


大淀「お疲れさまです。伊勢さん」


伊勢「どうだった? ここの提督になる人はどんな感じ?」


大淀「とても面白い方ですよ。私達艦娘に対してとても優しい方です」


伊勢「ほんと!? そんな場所に着任できるんだ! ラッキー!」


?「大淀。さっき零戦が飛んでたのを見たんだが、あれはどういうことだ?」


大淀「あ……見られてました」



 東雲は空に向けて矢を放ったが、その先には建設現場があった。


 気づかないのも無理はない。



伊勢「えっ日向? あれって飛鷹や隼鷹じゃないの?」


日向「恐らく違うな。あの2人はまだ改になっていないから、『零式艦戦52型』は持っていない。それに……私が見た時は零戦が赤いオー

  ラを纏っていた。あれは艦娘ではなく、深海棲艦に近いオーラだった」


大淀「・・・。」


日向「無理にとは言わん。だが、話せるのなら教えて欲しい。あれは何だ?」


 

 大淀は、新しい泊地の提督…東雲の事について話してもいいのかと躊躇った。


 しかし、伊勢や日向、他の艦娘達もここに着任することが決まっている。


 ならば東雲の事について知っておくべきだと大淀は判断した。



大淀「……伊勢さん、日向さん。一度皆をここに集めてもらえますか? お話があります」


伊勢「りょーかい」


日向「わかった」



 伊勢、日向の2人は皆を集めに行った。






ー続ー


後書き

次回。赤城と榛名が佐伯湾泊地に帰れない理由が明らかに。

大淀も伊勢達に東雲について打ち明けます。


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2020-10-25 15:30:30

ぴぃすうさんから
2020-03-20 03:42:14

SS好きの名無しさんから
2020-01-09 01:44:08

SS好きの名無しさんから
2020-01-08 22:30:52

SS好きの名無しさんから
2020-01-08 18:40:44

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