2020-06-12 23:37:56 更新

概要

元海兵が海軍に復帰。提督として歩んでいくお話し第参話です。


前書き

赤城と榛名が帰れない理由………『佐伯湾の裏』が明らかに。


提督として…(中)






 伊勢と日向は皆を集めるために現場を周っていた。



 2手に分かれて伊勢は駆逐艦、軽巡の娘がいる海岸沿い。日向は重巡、空母、工作艦がいる場所へと向かった。






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 伊勢が、海岸まで行く途中……





  ?「およ? 伊勢さんじゃないですか? どうかしました??」





 ピンク色の髪をしたツインテールの娘が声をかけてきた。





  伊勢「漣! 丁度良かった。皆をプレハブ小屋に集めてくれない? 大淀が話があるてさ」



  ?→漣「了解!」




 

 漣は伊勢に敬礼した後、周りにいた娘達に声をかけてプレハブ小屋へと向かった。


 




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 日向も重巡、空母の娘達を合流することができた。



 彼女達にもプレハブ小屋に集合するよう伝えた。



 だが、この場所にいる筈だった娘が見当たらなかった。  





  日向「明石はどこだ? それに、夕張もここにいた筈だが?」



  妙高「夕張さんなら、重機を操作してみたいって言って海岸沿いに行きましたよ」



  日向「なら伊勢と合流できてるだろうな」



  足柄「そう言えば、明石のスマホに電話がかかってきてたわね。電話が終わったと思ったらすぐ里山の方に走って行ったわよ」




  

 足柄が里山の方を指さした。



 その方向には東雲の家がある。




  

  日向「あそこか?」



  足柄「おそらくね。さっき大淀もあっちの方に行ってたみたいだけど、戻ってきたのは大淀だけだったから明石はまだ残ってるのかもし

    れないわね」



  日向「わかった。ありがとう」



  飛鷹「そう言えばさ。さっき零戦が飛んでなかった?」



  隼鷹「え? マジ!?」



  日向「私も見たぞ。大淀がそれを含めて話があるらしい」



  飛鷹「わかったわ」





 日向は妙高、飛鷹たちを別れて東雲の家へと向かっていった。






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 しばらく歩くと東雲の家についた。



 ここが東雲の家で、ここの住人が新しい提督になることについては、大淀からはここに来る前に聞いている。





  日向「ここに明石がいるのか……ついでに新しい提督になる男を一目見れると有り難いが……」




  

 東雲の家周辺を探していると、家の方から明石の声が一瞬聞こえた。




 

  日向「家の中か……」





 日向は正面玄関のインターホンを押した。



 家の中から「はーい!」と言う声が聞こえた。




  

  日向「む?女だと……それに、どこかで聞いた事がある気が……」





 聞こえた声に日向は聞きおぼえがある。





  榛名「はーい。どちらさ……ま……」



  日向「……榛名か」



  榛名「はい……榛名です……」





 冷静を装っているが、日向はかなり困惑していた。



 人間の男が出てくると思っていたからだ。



 家からは女性……しかも艦娘である榛名が出てきたのだ。誰だって困惑するだろう。

 




  日向「…ここで何をしてるんだ?」



  榛名「色々ありまして……東雲さん…ここでお世話になっています」  



  日向「そうか……まぁ色々あるだろうから、聞かないでおこう」



  榛名「いえ……ありがとうございます」



  日向「ところで、明石を見てないか?」



  榛名「明石さんなら家の中にいますよ。呼んできますね!」





 榛名は家の中に戻って明石を呼びに行った。



 少しして榛名が明石を連れて戻ってきた。





  明石「日向さんどうかしました??」



  日向「大淀が皆を集めて欲しいって言われてな。呼んできた」



  明石「私もですか? 一体何が……」



  日向「あぁ。さっき零戦が飛んでただろ。それを大淀に聞いたら話があるって言われてな……」



  明石「あー……」



  榛名「さっきの事ですね……」





 榛名と明石が苦い顔をした……




  

  明石「私大丈夫です。大淀が今から言おうとしてるの私知ってますから」



  日向「そうか。ならいいが……では私は戻るぞ」




  

 日向は東雲の家を後にした。






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  日向「大淀。全員集合したぞ」



  大淀「ありがとうございます」




 

 プレハブ小屋の外には新基地に配属となり、建設作業を手伝っていた明石を除く艦娘が集まっていた。





  妙高「あの……大淀さん。話とは……」



  大淀「……この新基地に着任する予定の提督についてです」


  

  日向「悪い大淀。もう一つ聞きたいことが増えた………さっき里山の麓にある家に行ったんだがな」



  大淀「……東雲大佐……提督にお会いしましたか?」



  日向「いや、会えなかった……だが、榛名に会ったぞ」



  天霧「おや? 榛名さんがいるのか?」



  大淀「……それについては私も聞いていないんです。ちなみに赤城さんもいます」



  飛鷹「そうなの!?」


 

  隼鷹「赤城さんまでいんのかよ!」



  大淀「それについてはご本人達に聞くとして、私からは提督となる『東雲征野』という方についてお話しします。日向さんすいません。

    それでもいいですか?」



  日向「仕方ない。後で本人達から聞くとしよう」





 大淀は東雲が元海兵だということ。かつては深海棲艦と戦う部隊にいた事と、その部隊について。東雲が関わった『あの戦い』について。東雲が海軍内で最早伝説となっている『英雄』と呼ばれる男、張本人であること。先ほど飛んでいた零戦は赤城が装備していた艦載機であるが、実際に飛ばしたのは東雲であること………東雲について大淀が知っている全てを打ち明けた。





  艦娘’s「「・・・。」」



  大淀「……無理もありませんよね。いきなりこんな話」



  漣「いや~…ちょっと実感が湧かないってゆーか……どうする? ぼのー」



  曙「はぁ? 何がよ?」



  漣「ぼのってさー、今まで数々のご主人様のこと『クソ提督』って呼んでるけどさー。マジモンの『クソ提督』……『クソヤバい提督』

   の下に来ちゃったですぜ……『クソ』って呼んだ暁にはやべーことになりますよこれ」



  曙「何言ってんのよ! どうせここの提督もクソよ!」



  朧「曙…多分それ『死亡フラグ』……」



  曙「はぁ!? 所詮人間よ! 私達艦娘に勝てるわけないじゃない!」



  潮「曙ちゃん……所詮は言い過ぎだよ……」


 

  曙「潮まで何言ってんの!」



  綾波「貴方達~、少し黙りなさぁい」




 

 綾波が曙たちに笑顔を向ける。只の笑顔ならいいものだが…笑顔が伴う『怒り』程怖いものはない。





  曙「もう…怒られたじゃない!」


  

  漣「めーんご」



  足柄「でも確かに漣の言う通りよ? 大淀の話を聞く限り実力はかなりあるんじゃない? 深海棲艦と戦ってたんでしょ? 腕が鳴るわね…

    後で手合わせ願えないかしら」



  天龍「へっ! 提督になる奴に俺様の恐怖を教えてやらねぇとな!」


  

  那智「全く足柄は……まぁ私も足柄と同じ意見だがな」



  龍田「あら~天龍ちゃ~ん…」



  妙高「那智…足柄…」



  龍田・天龍「「黙りなさい」」





 龍田と妙高も綾波と同じ様な顔をする。あまりの恐怖に3人は大人しくなった。



 普段冷静でいる者程、怒った時の顔は怖い。


 

 それに綾波と妙高はネームシップ。いわば長女だ。



 妹たちにとってはいい意味で逆らえない。



 龍田に関しては……妹だが、姉の天龍に原因があるのだろう……





  大淀「ごほん……」





 大淀が咳き込む。





  大淀「えぇ……まだ辞令が交付されている訳ではありませんので確定とは言えませんが、ほぼ恐らく東雲大佐がこの新基地の提督に着任

    すると思います。私含め、皆さんはこの新基地の着任になりますので上司となる提督……東雲大佐がどういう人間か知っておいて欲

    しかったので、この場を設けさせていただきました」

 



 

 大淀の話を受けて驚いた者、話を信じない者、興味を示す者……反応は様々だった。


 

 しかし、大淀は1つだけ……東雲に関する事を伏せていた。



 …………東雲は深海棲艦の力は持っているが……それが『姫級』の力だということを。






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 時を少し遡る。倉庫では赤城が『佐伯湾の裏』について東雲に打ち明けようとしていた……

 




  赤城「実は……私と榛名さんは佐伯湾泊地には帰れない理由があるんです」


 

  東雲「理由?」



  赤城「えぇ……東雲さんは佐伯湾泊地の事はご存知ですか?」



  東雲「まぁ……テレビで見るくらいかな。まだ出来て間もないだろ?」



  赤城「今年で2年目になります。まず佐伯湾泊地の特徴についてご説明しますね」




 

 赤城の話では、佐伯湾泊地の提督はかなりの『空母好き』らしい。艦隊運用も空母が中心。開発も艦載機が主らしい。



 もちろん秘書艦も空母。東雲の目の前にいる赤城も元秘書艦だ。



 だが別に空母好きとは言えど他の艦娘を運用しないという訳では無いらしい。



 そして、佐伯湾提督は空母運用について右に出る者はいないと軍では評判とのこと。


 

 たった一年で頭角を現し周囲からは偏見もあるが、評価は高いそうだ。






  赤城「東雲さんは艦載機の開発、空母の運用で欠かせない資材ってわかりますか?」




 

 東雲は考えた。そして少し前にたまたまテレビを見た時に、報道番組がやっていた艦娘の特集を思い出す。



 その特集は『空母』についての話だった。



 横須賀鎮守府の『龍驤』が説明していたのを思い出す。





  東雲「……ボーキサイトか」



  赤城「正解です。国内各地にある基地において、ボーキサイトの入手方法は3つしかありません。海軍省からの物資支援、ボーキサイト

    採掘場への調達及び同所の警護任務。ボーキサイト輸送任務です」



  東雲「……なぁ。俺から質問良いか?」




  

 東雲はある疑問を持った。





  赤城「どうぞ」



  東雲「もしかしてだけど……演習は?」



  赤城「もちろん空母中心です」



  東雲「演習に哨戒任務、遠征……それらにおいて空母中心の運用……艦載機の開発…………なぁ。それだけやってたら……ボーキサイト

    が不足しないか?」



  赤城「………その通りです。しかし、佐伯湾泊地ではボーキサイトが不足することは一度もありませんでした。これは佐伯湾泊地に初め

    て着任した空母『蒼龍』が言ってましたので間違いないかと。嘘はつかない娘なので」



  東雲「……ボーキサイトの管理が行き届いてたとか?」



  赤城「それについては分かりません。秘書艦業務の一環で『資材管理』というものがあります。しかし、佐伯湾提督は資材の管理を提督

    自ら行っていました。私達艦娘には資材管理を一度も任せたことがありません。あの時は何故かと思っていましたが……今はその理

    由が分かっています」



  東雲「それって……まさか」



  赤城「えぇ。そのまさかです……正規外………つまり非合法によってボーキサイトを入手していたんです。それがバレないために私達秘

    書艦には資材管理をさせなかったのです」





 赤城は非合法の入手方法について説明してくれた。



 現代では『艦娘運用法』という法律が制定されており、海軍省や軍令部、各鎮守府や泊地等に所属する提督らはこの法律に基づいて艦隊運用を行っている。



 その法律には艦娘の運用に欠かせない『燃料』『弾薬』『鋼材』『ボーキサイト』について、製造場所や調達方法、支給量等について定められている。



 佐伯湾提督にとって、それだけではボーキサイトは賄えないらしい。



 となるとボーキサイトの採掘場の管理者に賄賂を渡し、定められた支給量を大幅に超える量のボーキサイトを受け取ったり、密輸船を利用して監視の目が届かない無人島等で艦娘を向かわせて合流し、ボーキサイトを受け取っていたらしい。



 しかし、またそこで疑問が浮上する。





  東雲「なぁ赤城……それだと軍の奴らは誤魔化せても……採掘場に行った艦娘の娘達にはバレてるんじゃないか?」



  赤城「その通りです…………そもそも、佐伯湾泊地は艦娘の運用について1つバレたらいけない事実があるんですよ」



  東雲「疑問?」



  赤城「……佐伯湾提督は艦娘の着任数を誤魔化していたんです………詳しく言うと、所属している筈の艦娘数名を『轟沈』及び『解体』

    といった扱いにしていたんです」



  東雲「はぁ!?」



  榛名「……艦娘が轟沈した場合、補助として資源や資金が支給されます。解体した場合も同様です。それを裏でボーキサイトを入手する

    ための賄賂に充てていたんです……つまり、一部の娘達が裏で無賃労働させられていたんです」



  東雲「…マジか」


 



 榛名がお茶を持ってきた。





  榛名「遅くなってごめんなさい。お客様がいらっしゃいましたので…」



  東雲「客?」



  榛名「はい。日向さんです。明石さんを呼びに来たそうですが、明石さんが断ったので建設現場に戻って行きました」



  東雲「日向…あぁ、艦娘か……よし、榛名も来たことだし続けてくれ」



  赤城「はい……」






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 現在から1年半程前……赤城と榛名がまだ佐伯湾泊地にいた頃





  赤城「ふぅ………提督。書類終わりましたよ」





 秘書艦として赤城は書類仕事を手伝っていた。




  

  佐伯湾提督「ごめん助かるよ。俺の机の上に置いといて」



  赤城「はい」





 赤城が提督の執務机に書類を置くと、佐伯湾提督は資料を持って執務室を出ようとしていた。





  赤城「資材の確認ですか? 本来は私の仕事ですから、私がやりますよ」



  佐伯湾提督「いやいいんだ。俺がやりたくてやるんだから。赤城はしばらく休んでていいよ」



  赤城「……わかりました」





 赤城は少し前に海域で迎えられた。泊地に来てすぐに提督から秘書艦を命じられ、前秘書艦の『蒼龍』から引き継いだ。



 秘書艦業務にはある程度慣れて来ていた。



 そして、自分の仕事もあるのにも関わらず、秘書艦業務の1つを佐伯湾提督が自ら行うという事に少し不満を持っていた。



 自分の仕事だってあるのに……身体を壊されたら元も子もないからだ。



 そんな日々が続いたある日の夜だった……





  赤城「はぁ……たまにはこうするのもいいですね」




 

 赤城は泊地内の波止場を散歩していた。



 いつもなら加賀と一緒にいる事が多いが、今日は加賀が出撃から帰投途中で1人だった。



 波止場にはベンチが設置されている。このベンチに佐伯湾提督は座って出撃していった艦娘の帰りを待っている。



 秘書艦になってからは赤城も一緒に座って帰りを待つようになった。



 佐伯湾提督は皆に優しい。特に空母には特別と言ってもいいぐらい優しかった。



 赤城も、この後に待ち構えていた出来事が起こるまでは……佐伯湾提督の事を良く思っていた……



 ベンチに座って、自分で作っていたおにぎりを頬張ろうとしていたその時だった……





  カラーン!!!!!





 突然何か大きい音がした。



 赤城は驚いて周囲を見渡した。




 

  赤城「一体何が……あそこから?」





 佐伯湾泊地の外…すぐ近くに海に接した洞穴がある。恐らくそこから音がしたと赤城は判断した。





  赤城「一体何かしら……」




 

 万が一深海棲艦が潜んでいたら一大事だと思った赤城は警備員として泊地に配備されている特警隊(海軍特別警察隊)の監視をくぐって泊地外へと飛び出した。



 そして洞穴へと向かっていった。



 少しして洞穴の入り口に差し掛かると洞穴の奥から人の声が聞こえた。




 

  ?「バカ、何バケツ落としてんだ!! 見つかったらどうする!」



  ?「ごめんなさい!!!」





 赤城はこの会話でさっきの音はバケツが落ちた音が響いて聞こえてきた音だと言う事が分かった。





  赤城「誰かいますね……」





 赤城は恐る恐る洞穴の奥へと進んでいった。



 洞穴はかなり奥へと通じていて、しばらく奥へ進んでいくと人が1人入れるぐらいの穴を見つけた。



 その穴からは明かりが見えた。





  赤城「そこにいるのは誰ですか!」





 赤城はその穴に向けて大声をあげる。



 万が一に備え、艤装を展開している。


 



  ?「チッ……誰かに見つかったな。おい……お前こそ誰だ?」





 穴の方から女の子の声が聞こえた。





  赤城「私は佐伯湾泊地所属。航空母艦『赤城』です」



  ?「赤城!…………佐伯湾泊地所属と言ったな?」



  赤城「はい…(この声と口調……以前どこかで聞いたような?)」



  ?「……赤城。悪いことは言わねぇ……ここから早く立ち去ってくれ」



  赤城「何故です」



  ?「いいから早く! でないと……」




 

 その瞬間。穴の方から『ビーッ』というブザー音がした。





  ?「チッ! タイミングが悪すぎる!......仕方ねぇ。赤城!今すぐ穴に入れ!!」



  赤城「えっ?」



  ?「いいから早く!!」



  赤城「わっ、わかりました!」





 赤城は訳も分からず言われた通りに穴に入った。



 入った途端、背後から何者かにタオルで目隠しをされた。



 そして手を引っ張られた。




  

  ?「いいか。あたしが良いって言うまでこのドラム缶の中にいてくれ。絶対に声を出したり、姿を出すんじゃねぇぞ!」



  赤城「え……あ……はい……」





 赤城は未だ状況を掴めずにいた。



 すると声の主は赤城が身を潜めているドラム缶の蓋を占めて立ち去った。



 一体何が起きているのか分からなかったが………しばらくして足音が聞こえてきた。



 さっきの声の主では無い…違う足音だった。





  ?「おい、何ださっきの音は」





 外から男の声が聞こえた。





  ?「…何でもねぇよ」



  ?「何でもない訳ないだろ! 俺の部屋まで音が聞こえてきたぞ!!」




  

 すると『バシィッ!!』という乾いた音とともに『ガッシャーーン!!』という物音が響いた。



 赤城は驚いて、すぐに目隠しとして使われていたタオルを取る。すると目の前に直径2cm程の穴が開いていた。



 赤城は外で一体何が起きているのか…穴を覗く。



 外の光景をみて赤城は絶句した。




  

  赤城「えっ……」





 穴の向こうには少し開けた空間が見え、そこには直立している男と、突き飛ばされたのか…物置にすがっている女の子の姿があった。





  赤城「嘘……」




 

 直立している男……赤城には見覚えがあった。傍に使えていたからこそ、見間違えることは絶対に無い。



 しかし、普段聞くことが無い口調だった為に声だけでは気づけなかった……





  赤城「(どうして佐伯湾提督が…………それに、あの娘……鳳翔さんの研修を受けた時に岩川基地で会った娘と同じ……)」





 男……それは赤城が秘書艦として仕えている佐伯湾提督。物置にすがっている娘の制服……それにさっきの声の主……岩川基地に行った時に一度会っていた。



 女の子は……艦娘。高雄型重巡洋艦3番艦『摩耶』だった。




 

  ?→摩耶「うっ……チッ……クソが!!」



  ?→佐伯湾提督「ほう……俺に逆らうのか? 別に逆らってもいいんだぞ……まぁその時はどうなるか……分かってるよな?」



  摩耶「チッ……」



  ?「ごめんなさい! 私が悪いんです!! 私が穴の外でバケツを落とした所為で……」



  佐伯湾提督「お前か!!」





 さらに『バシィッ!!』と佐伯湾提督の横からすがってきた女の子を蹴飛ばした。



 最早、赤城が知っている佐伯湾提督とは正反対だった。これが佐伯湾提督の裏の顔なのだろう。



 突き飛ばされた娘は小柄で水色の髪と目をしていた。




 

  ?「キャッ!」



  摩耶「五月雨!!」



  ?→五月雨「だい……じょう…ぶ……です……」





 五月雨は腹を抑えて地面に伏せていた。





  ?「五月雨ちゃん……大丈夫?」



  五月雨「名取さん……大丈夫です……」



  佐伯湾提督「お前らもこうならないよう気を付けるんだな。それで、今日の分はどこだ?」



  摩耶「あぁ……既に倉庫に持ってったよ」



  佐伯湾提督「そうか。もしこの状況がバレたら……覚悟しておくんだな」



  摩耶「わかってるって……」



  ?→名取「申し訳…ありませんでした……」


 



 名取は頭を下げ、佐伯湾提督は足早に去って行った。



 佐伯湾提督が去って少しして摩耶が起き上がって、赤城が入っているドラム缶に近づいた。





  摩耶「おい……もういいぞ。蓋を開けたら見つからないうちにすぐここから出ろ」



  赤城「いえ……どうやらそういう訳にはいかなくなりました。この状況を説明してもらえますか…………摩耶さん」



  摩耶「………なぜ分かった」



  赤城「岩川基地の摩耶さんと一度お会いした事があるんです。それに……ドラム缶に開いていた穴から一部始終見させていただきまし

    た」



  摩耶「……盲点だったな。穴が開いていたのか………仕方ねぇ。あたいらの事を教えてやる。その代わり……後戻りは出来ねぇぞ」



  赤城「えぇ。構いません」




 

 蓋が開くと、摩耶が顔をのぞかせた。





  摩耶「今出すから待ってな」




 

 摩耶はドラム缶に梯子をかけて、赤城は梯子を伝ってドラム缶から出た。



 ドラム缶からは一部しか外が見えなかったが……改めて見たものは壮絶な光景だった。



 開けた場所には摩耶を含む艦娘らしき女の子が6人。その内2人は腕や足を欠損して壁にすがっていた。幸い死んではいない様だった。



 そして周囲からは異臭がする。血の臭いに加え、彼女達は風呂に入っていないのだろうか…身体からも少し臭う。


  



  摩耶「驚いたか?」



  赤城「貴方たちは……まさか……」





 彼女達を見た瞬間。赤城はある事を思い出した。



 佐伯湾泊地の艦娘の着任記録を整理していた時に、『轟沈』又は『解体』と記載されていた娘達……ほぼ全員が赤城の目の前にいた。





  赤城「貴方たちは轟沈……解体された筈じゃ……」 


  

  摩耶「あたいらってそういう扱いになってんのな。まぁ少し臭うだろうが我慢してくれ。訳は話すからよ」



  赤城「はい……」





 赤城は摩耶から自分たちが何故ここにいるのか。そして、佐伯湾提督がボーキサイトの非合法的入手に手を出していることを知ってしまった。





  赤城「なんと……嘘でしょ……」



  摩耶「正直な話、あんたらがボーキサイトに困らずにいられるのは、あたしらのお陰でもあるんだぜ」



  赤城「・・・。」



  ?「うっ……痛い………」




 

 壁にもたれていた娘の1人が声を上げた。彼女は両足を欠損しており、両足の欠損場所や額から出血していた。



 横にいる娘も左腕を欠損し、腹部から出血しているのか……服に血が滲んで、白い制服が真っ赤に染まっていた。





  摩耶「わりぃ。ちょっと待っててくれ……痛いか? 海風?」



  ?→海風「ま……や…さん……」



  摩耶「我慢出来るか?」



  海風「私……このまま……だと足手纏い……だから……摩耶…さん………私を…撃って……」



  摩耶「出来る訳ねぇだろ!」


  

  ?「海風姉……だったら摩耶さん。あたいも一緒に頼むぜ」



  摩耶「涼風……お前まで何言ってんだよ!」



  ?→涼風「えへへ………」



  ?「嫌……海風………涼風………いなくなっちゃ嫌だ…」



  名取「山風ちゃん……」



  江風「海風の姉貴……涼風……畜生……なんで江風達がこんな目に遭わなきゃいけねぇんだ……」





 名取は山風を自分の胸に抱き寄せた。



 2人とも目から涙が頬を伝って流れる。



 摩耶と江風も我慢しているのだろうか……目が赤い。



 赤城はこの光景を見てはいられなかった。





  赤城「……少し時間をください」



  摩耶「やめろ……今更この事を直談判したところで無駄だ。ここにいる特警もグルだからよ」



  赤城「……まずは彼女達の修復が先です。大破・中破の娘はこの2人だけですか?」



  名取「……奥の方にもう2人います……『長良』と『五十鈴』……私のお姉ちゃんです……」



  赤城「4人ですね! すぐ戻ってきます!!」




 

 赤城は外へと走って行った。




  

  摩耶「ちょっ! おい!!」




  

 赤城は摩耶の制止を聞くことなく立ち去った。


 




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 10分後……赤城は摩耶たちがいる穴に戻ってきた。



 両手にバケツを2個ずつ持って……




 

  摩耶「おいそれ……いいのか?」



  赤城「大丈夫です。遠征班に無理にお願いして頂いてきました……あ! もちろん摩耶さん達の事は言ってませんから!!」



  摩耶「すまねぇ……恩に着るぜ」





 摩耶は赤城からバケツ……高速修復材を貰って、バケツ2つを海風と涼風にぶっかける。


 

 すると2人の傷がみるみる癒えていく。そして欠損していた場所が再生を始めた。





  摩耶「よし……しばらく寝てな」



  海風「はい……」



  涼風「助かったぜ……」



  摩耶「名取! 残りを長良と五十鈴にぶっかけろ!」



  名取「は…はい!」


 



 名取はバケツを両手に持って奥の方へと走っていった。





  赤城「これで…ひとまず大丈夫ですね」



  摩耶「あぁ…ありがとな」



  赤城「万が一、この事が提督に見つかってはいけません。4人は奥の方へと移動した方が良いと思います」



  摩耶「だな。まぁ、あいつはあたいらがどうなろうと興味ないからな。そう簡単にはバレんだろうさ」



  赤城「……それで、摩耶さん達はどうしてこのような事に…」



  摩耶「あぁ……最初は駆逐の娘4人と軽巡の娘3人だけだったんだ。あたいも赤城と同じでこの場所を妹の『鳥海』と見つけちまったん

    だ」



  赤城「そうだったんですか……」

 




 摩耶は偶然にこの洞穴に入っていく海風を見つけ、妹の『鳥海』と後を追った結果、この場所を見つけてしまう。



 この状況と事実を知ってしまった摩耶は、佐伯湾泊地に常駐している特警に通報した。



 しかし、特警隊がグルだったせいで結果的には何も出来ず、佐伯湾提督に知られてしまった。



 しかも………摩耶は佐伯湾に所属する艦娘全員の艤装にある細工がされている事を知る。



 そして摩耶は妹である『鳥海』を人質に取られ、摩耶は鳥海には一切手を出さない代わりに非合法的なボーキサイトの採取を手伝う事を約束した。それを経て摩耶もこのような仕事をしているらしい。





  摩耶「赤城気を付けろ。あたいら……佐伯湾泊地にいる艦娘全員の艤装には爆弾が仕込まれてる」



  赤城「!?」



  摩耶「まぁ……明石や夕張がいれば、こんなことに怯える事は無いんだけどよ……運が悪い事にあたいらの泊地に明石と夕張はいねぇ…

    今日の事をあいつに悟られないよう気を付けるんだな」



  赤城「……分かりました。私は佐伯湾提督の秘書艦です。必ず何かしら突破口を探してみます」



  摩耶「……無理すんなよ」



  赤城「はい……では私はこれで失礼しますね」





 赤城は穴を出て泊地に戻った。




  

  赤城「(何か……方法は無いのかしら……特警はグルだとおっしゃっていましたね……うーん……)」





 まずは書類やボーキサイト採掘場に関する全てを洗ってみることにした。






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 数日後……



 赤城は進捗状況を摩耶に伝えようと洞穴を訪れていた。





  赤城「皆さん……無事でしょうか……」





 赤城は洞穴の奥へと向かった。



 しかし……赤城は気づけていなかった……赤城の背後を追跡してきた者がいる事を……





  ?「あれは……赤城さん? 一体何があるんでしょうか……」






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  摩耶「ありがとな。お陰で4人とも元気になったぜ」



  海風「赤城さん…ありがとうございます…」



  長良「赤城さん! ほんとありがとう!!」



  赤城「いえ…」





 赤城は現段階で調べたことすべてを摩耶に話していた。





  摩耶「そっか……進展無しか………」



  赤城「えぇ……申し訳ありません」



  摩耶「何とか尻尾を掴めねぇかな……」



  赤城「はい……それと摩耶さん。1つ伝えなければならないことが……」





 赤城はこの件とは別で、摩耶にも関係するある事を知ったのだ。





  赤城「……鳥海さんですが」



  摩耶「鳥海?…………まさか沈んだなんて言うんじゃねぇだろうな!!!」





 摩耶は動揺して怒り、赤城の胸倉をつかむ。




  

  名取「摩耶さん!!」


 

  赤城「摩耶さん落ち着いてください! 鳥海さんは沈んではいません!!」


  

  摩耶「そうか……わりぃ。早合点だった」



  赤城「いえ……ですが……佐伯湾泊地にはいません……転属しております」



  摩耶「なに!? どこだ?」





 赤城は鳥海に関して調べたことを全て摩耶に話した。



 鳥海は摩耶が自分の所為でこうなったと自分自身を恨んでいたらしい。



 その後、自分の部屋に引き籠ってしまったらしい。



 その際、部屋で首を吊って死のうとしていたのを、部屋にご飯を運んできた娘に見つけた。幸い命は助かったそうだ。



 この状況を知った佐伯湾提督は万が一を懸念して、鳥海が何も出来ないように監視役を付けたらしい。



 それでも、鳥海は何度か自殺を試みては監視役に止められるという事を繰り返したらしい。



 佐伯湾提督はこれらの状況を見て、鳥海は『戦闘の意思無し』『戦力にならず』と判断。鳥海を転属させたらしい。



 そこで『解体』はしないのは、摩耶との約束を守ったのだろう。



 鳥海の転属先は軍令部が管理する『艦娘養護施設』。



 この施設には様々な艦娘が入っている。鳥海の様に『戦闘の意思を失った者』『犯罪に手を染めて危険と判断された者』『提督に従う事を嫌い、自ら鎮守府や泊地を離れた者』それぞれだ。



 鳥海も今はその施設に入っているらしい。





  摩耶「そっか……まぁ、何にせよ無事ならそれでいい」



  赤城「鳥海さんは今、心身ともに疲弊しているそうです。人間でいう鬱状態と同じだそうです。私達艦娘も人間が飲む薬は効果があるみ

    たいで、養護施設で抗うつ薬の投与を受けながら治療を行っているそうです……」



  摩耶「そっか……教えてくれてありがとな」



  赤城「いえ……」





 その時だった……





  ドスッ!!!!



  赤城「!?」



  摩耶「誰だ!?」



  長良「五十鈴! 名取!! 艤装を展開して!!」



  五十鈴・名取「「了解!」」



  五十鈴「海風たちは赤城さんを囲って」



  第24駆逐隊「「了解!!」」





 摩耶と長良、五十鈴、名取の4人は艤装を展開。物音がした方へと砲塔を向ける。



 海風達は赤城を守るように包囲して艤装を展開。



 赤城も艤装を展開し矢を構える。





  ?「うぅ~……足を滑らせてしまいました……」



  摩耶「ん? この声……あいつじゃねぇぞ」



  赤城「………榛名さん?」



  ?→榛名「榛名です……赤城さんがここに入っていくのが見えたので……」



  摩耶「後を付けられてたって事か……」



  赤城「気づきませんでした……私も油断していたようです」



  榛名「あれ? 摩耶さんですか!? 解体された筈じゃ………それにこれって……一体………」



  長良「あー………まぁ。見つかっちゃったらもう……しょうがないね……」



  摩耶「はぁ……」





 摩耶は赤城に話したのを同じことを榛名にも話す。




 

  榛名「そんな………」





 榛名は佐伯湾泊地にいる戦艦の中で最古参であり。戦艦のエースでもある。



 空母好きの佐伯湾提督が唯一、親切に接している娘である。





  赤城「私は佐伯湾提督を止めようと調べています。榛名さん……知ってしまった以上……私を手伝って頂けますか?」



  榛名「まだ信じられません………ですが、この状況からして嘘では無いみたいですね……分かりました。榛名お手伝いします!!」





 こうして榛名が協力してくれるようになった。






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 榛名が加わってから1週間後……



 佐伯湾泊地にある書類全てを洗ったが、徹底的な証拠はつかめなかった。


  



  赤城「うーん……」



  榛名「泊地の防犯カメラを精査するのはどうですか?」



  赤城「恐らく無理ですね。防犯カメラは特警隊が管理しています。特警隊もグルだと言う事が分かっている以上……難しいかと……」



  榛名「でしたら! 防犯カメラの映像をハッキング出来る人に協力依頼をすればいいですよね!!」




 

 榛名がサラっと怖い事を言ったので、赤城は唖然とした…





  榛名「榛名。心当たりがあります! それに信用できますよ!」



  赤城「……分かりました。賭けて見ましょう」






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 榛名と赤城はとある娘の部屋を訪ねていた。




  

  榛名「こんばんはー……」




 

 榛名は静かにドアを叩く。するとドアの向こうからピンク色のショートヘアーの娘が出てきた。





  ?「おや? 榛名さんじゃないですか!! こんな時間にどうしたんですか??」



  榛名「実は……青葉さんにお願いがありまして…………」



  ?→青葉「私にですか?」



  赤城「青葉さん。無理にとは言いません。これ以上、巻き込みたくはないので……あくまで協力要請です」



  青葉「えー……なんですかその面白そうな含みは…………何が何だか分かりませんが、良いですよ! 青葉も協力します!!」





 榛名と赤城は青葉の部屋に入った。





  青葉「それで……私は何をすればいいんでしょうか?」



  榛名「はい! ここの防犯カメラをハッキングしてもらえますか?」




 

 榛名がサラっと言い切るので、赤城は彼女の度胸に感心した。





  赤城「あの……いくらなんでもそれは……」



  青葉「ハッキングですか?……出来ますけど?」



  榛名「出来るんですか!?」



  赤城「えぇ……」





 赤城は困惑している。



 すると青葉は自前のパソコンを立ち上げ始めた。





  青葉「ちょっと待っててくださいね……確かこれで………」





 青葉がキーボードを颯爽と打ち始める。





  青葉「…………………はい! オッケーです!!」



  榛名「ありがとうございます!!」



  青葉「それで? どこの監視カメラを確認します?」



  赤城「……資材庫の前。それと執務室、特警隊の待機室をお願いできますか?」



  青葉「期間はどうします?」



  赤城「1か月前からはどうでしょう?」



  青葉「お任せください!」





 防犯カメラを精査して証拠が掴めるだろか……  






-続-


後書き

赤城と榛名の過去を知った東雲。

そして東雲はある行動に出る。


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