2020-02-24 05:01:33 更新

概要

応援+評価+オススメ=作者のやる気と更新頻度。

いつもたくさんの応援ありがとうございます。
これからも頑張りますね!


前書き

親潮と提督の関係は祥鳳の理想通り優しく作られていった。

しかし親潮にはまだ隠された過去があり、提督はそのことを知らない。
最初は親潮の過去編から始まります。












第三部 ガラスの残骸
























【鎮守府内 親潮の部屋】




親潮「ん…」



いつも通り目覚ましが鳴る前の朝5時少し前に目が覚める。



今日も深い眠りが取れて前日の出撃の疲れが無くなっていました。





私はベッドから出てある日課を行います。




親潮「今日で…60日か…」




カレンダーの昨日の日付にバツ印を入れる。




親潮(もうやめようかしら…)



こんな変なことを日課にする必要が無くなったと心の中が軽くなった気がします。



















あの日…



司令が祝勝会場のホテルで私を助けてくれたあの日から



私は悪夢を見なくなりました。






以前は色んな悪夢にうなされました。





司令を殺す夢


司令に殺される夢


司令の家族を殺した過去の夢


黒潮さんが目の前で轟沈する夢





その悪夢を見た朝は一人で泣いたり、あまりの苦しさに吐いたりもしました。





それはあの日、司令の家族を手に掛けて…黒潮さんを喪った日からずっと続いていた



永遠に続く悪夢、それが私の罪なのだとずっと思っていたのに…






親潮「さあ!今日も頑張りましょう!」





自分で自分を発奮させる言葉を放って私は部屋を出ました。




【鎮守府内 演習場】





親潮「おはようございます祥鳳さん!天城さん!」


天城「おはようございます」


祥鳳「おはようございます親潮さん」



演習場に行くといつも通り祥鳳さんと天城さんが訓練をしています。


私はお二人に挨拶をしてから演習場の掃除の準備に取り掛かりました。




本当は私も早朝訓練をしたいのですけど…大井さんから『夜も追加訓練しているでしょ?勝手に朝練してオーバーワークになったら絶対に許さないから』と言われたので大人しく従います。


大井さんだけは絶対に怒らせたくありませんから…。

普段私の夜間訓練も見て頂いてますし…贅沢は言えませんよね。



親潮「準備良し!」



私は掃除道具を持って演習場の掃除を始めました。




















祥鳳「親潮さん」


親潮「あ、はいっ」



私が掃除を終えた時、訓練を終えて艤装を外した祥鳳さんと天城さんがやってきました。



祥鳳「これ…」


親潮「あ…」



祥鳳さんが私に何かを差し出す。



それは…


私の大切な…



祥鳳「最近の技術はすごいですよね、ここまで復元できました」



黒潮さんとの…思い出の写真…



以前私がクシャクシャにして捨てようとしていたものを…祥鳳さん…




祥鳳「天城さんが直してくれるお店を教えてくれたのですよ」


親潮「…」


天城「親潮さん?」


祥鳳「あの…私もしかして余計なことを…?」




私は嬉しさから涙を堪えることができませんでした。




親潮「祥鳳さぁぁぁんっ!!」


祥鳳「うわぁ!?」



その溢れんばかりの気持ちのまま祥鳳さんに抱き着いてしまいます。



親潮「うぐっ、えぐ…あ、ありがとう、ご、ございます…ありがとうございます…!うっ…うあぁぁぁぁ…」


祥鳳「良かった…」


天城「ふふ、紹介した甲斐がありました」



そんな私を祥鳳さんは抱きとめただけでなく優しく髪を撫でてくれました。









私と黒潮さん


そしてもう一人の大切な仲間




その3人が写った写真を持ちながら



私はいつまでも泣き続けました









【過去 艦娘訓練所】






新人艦娘としての訓練を終えた私達は最初の配属先を与えられました。




黒潮「これからも一緒やな、よろしく頼むで」


親潮「こちらこそ!よろしくお願いします!」


黒潮「あはは、相変わらず親潮はかったいなぁ」





私、陽炎型駆逐艦4番艦親潮は訓練所についてからずっと姉妹艦である黒潮さんと一緒でした。


辛いときは励まし合い、嬉しいときは共有し仲を深めていきました。


そんな彼女と同じ配属先を与えられて私はまた嬉しさで胸がいっぱいになりました。




舞風「あれー?二人とも配属先は決まった?」


親潮「舞風、野分も」


黒潮「うちらは択捉泊地やね、そっちは?」


野分「私と舞風は佐伯湾に決まりました」


親潮「そっか…離れ離れですね」



同じくこの訓練所でずっと一緒だった姉妹艦の舞風と野分は別の所へと決まったみたいです。



舞風「こらー、そんな暗い顔してちゃダメだぞー!」


野分「きっと…いえ、必ずまた会えます。だからそれまで…」


黒潮「元気でな!」



私達はお互いの手を出して握り合います。







親潮「はい!必ずまたお会いしましょう!」







その再会は私達が思っていた以上に早く




あんな最悪な形になるなんて誰が予想したでしょうか…











【択捉泊地 執務室前廊下】





※以降、提督の父を『提督父』として表記します。









??「どうぞ~」




廊下で待機していた私と黒潮さんはその声を合図に執務室に入ります。




黒潮「お邪魔するでー」


親潮「親潮、入ります!」




執務室に入ると机に座ったこの鎮守府の司令


そして傍には秘書艦が控えていました。



??「それじゃ自己紹介して」


黒潮「陽炎型3番艦、黒潮や。よろしゅうな」


親潮「陽炎型4番艦、親潮です!どうぞよろしくお願い致します!」



秘書艦に促されて私達二人はこの鎮守府の司令に挨拶しました。




提督父「ははは、同じ陽炎型なのに随分と違う二人だな。俺はこの鎮守府の提督を務める…」



私達の挨拶に対し、彼はすぐに笑顔を見せて挨拶を返してくれた。


そして直感しました、私達はとても良い司令官の下へと着任できたのだと。




衣笠「私は秘書艦の青葉型重巡の衣笠よ。よろしくねっ!」



隣に控える秘書艦の衣笠さんも挨拶をしてくれました。

明るくてハキハキしていてとても好感の持てる印象でした。


ただ衣笠さんは私達と同じように若く、『こんな若いのに秘書艦を?』と思ってしまいました。



衣笠「まあ秘書艦っていっても見習いみたいなものだけど…」


親潮「見習い…ですか?」


衣笠「そう、着任して1年経った艦娘はこうして順番に1ヶ月だけ秘書艦を務めるの」


提督父「改めてこの子にはどんな適性があるのか見定めるためだな」


黒潮「へえ~そうなんや」


親潮「なるほど…」



何だかしっかりと艦娘のことを考えてくれている司令官なのだと嬉しくなりました。



黒潮「うちはてっきり司令はんが若い女の子好きだから秘書艦させてるのかと思ったわ」


親潮「ちょ!?黒潮さん!」



黒潮さんも司令官に安心したのかいつものからかい口調でものを言っている。


本当…黒潮さんのこういうところって真似できないな…。



衣笠「だ、ダメよそんなこと言っちゃ!スイッチが…!」






スイッチ?





提督父「ふふ、ははははは!残念だったな!俺は既婚者で3人の子持ちだ!」


黒潮「いっ!?」



いきなり人が変わったように司令が笑い始めました。


隣では衣笠さんが『あちゃー…』と言った感じに顔を覆っています。






提督父「それじゃあまずは俺の妻から紹介してやろう!出会いは父の友人からの紹介でな、初デートは…」



司令は写真を取り出して私達に家族の紹介を始めました。



提督父「これが自慢の長男だ!成績は普通くらいだが頭の回転が良くていずれ俺の跡を継いでくれるって言って嬉しくて…」



その後は



提督父「こっちが少し歳が離れた次男坊だ!まだまだ甘え盛りで可愛いんだこれが!」



遠征部隊帰投の連絡が入るまでの2時間



提督父「これが可愛い可愛い娘だ!まだ小さいが俺が帰ると『パパ~』って言って抱っこをせがんでくるんだ!これが可愛くて仕方なくってなぁ!」



司令の家族自慢は続きました。



私も黒潮さんも衣笠さんも苦笑いで聞いていましたが…本当に家族想いの素敵な司令なのだと胸が暖かくなりました。








【鎮守府内 正門】




衣笠「ほんっと…家族の話になると止まらないんだから」



司令に呆れながら正門に連れて来てくれた衣笠さんはそう言いますが笑顔を見せています。

きっといつもあの調子なのでしょう。



黒潮「あはは、あの調子やと苦労しそうやけど…でも楽しそうやね」


衣笠「ええっ!提督のためならって逆に気合が入るわ!しょっちゅう落ち込んだりして大変だけどね」


親潮「司令が落ち込むのですか?」


衣笠「そうなのよ。ここから提督の家まで結構距離あるからね。簡単に帰れないのよ」


黒潮「ああー…ホームシックか」


衣笠「正解。会えない期間が3ヶ月を過ぎると段々と元気がなくなってきて…」


親潮「あはは…」



容易にその姿が想像できて苦笑いが止まりませんでした。




衣笠「ねえねえ、鎮守府の案内の前に着任の記念撮影しない?」



そう言って衣笠さんがポケットから使い捨てカメラを取り出した。



黒潮「お?ええね!」


親潮「ぜひお願いします!」


衣笠「りょうかーい、あ、高雄さーん!お願いします!」



てっきり私と黒潮さんのツーショットを撮るのかと思ったら衣笠さんはカメラを通りすがりの高雄さんに預け、私達の間に入ります。



高雄「それじゃあ撮るわよ」



衣笠さんが両手で私と黒潮さんの肩を掴み引き寄せます。


その物怖じしない強引さとすぐに打ち解けようとする彼女の姿勢に私も黒潮さんも自然と笑顔になりました。




衣笠さんが笑顔でウインクをして



私と黒潮さんが笑顔で写っている写真





それは私の大切な一歩目であり、思い出に残る大切なものだったので





私は少しラミネート加工をして御守り代わりにいつも懐に入れていました。






















その後、約2ヶ月間



司令は無理な任務を私達に与えることなく艦娘としての仕事を覚えさせてくれて



徐々に慣れ始めた頃…







黒潮「司令はんの家に?」


親潮「私達が…ですか?」


提督父「ああ」



私と黒潮さんが司令の家へと招かれることになりました。



私と黒潮さんは迷うことなく頷き、司令の家へと連れて行ってもらうことになりました。







黒潮「現地に行ったらどんな自慢話が始まるんやろうなあ…」



そう言う黒潮さんでしたが楽しみにしているのがハッキリとわかるような笑顔を見せていました。



親潮「ふふ、そうですね」



そして私も…楽しみに胸の中が躍っていました。




















それが…



あんなことになるなんて思いもしなかったから…









提督父の家】




提督父「ただいまー」



そう言って玄関のドアを開けると家の中からドタドタと走る音が聞こえます。



妹「パパおかえりなさい~」


提督父「ただいま、良い子にしてたか?」


妹「うん」



以前司令が言っていた通り娘さんが抱っこをせがんで走って来て司令が抱き上げていました。

その暖かい光景に思わず笑顔になってしまいます。



提督父「紹介するよ。最近うちの鎮守府に来た艦娘だ」




司令の言葉に私と親潮さんが前に出て挨拶をします。




黒潮「陽炎型駆逐艦 3番艦の黒潮や、よろしゅうな」


親潮「陽炎型駆逐艦 4番艦の親潮です!よろしくお願いします!」



顔をしっかりと前に向けて挨拶をすると司令のご家族は私達に笑顔を見せて迎えてくれました。



提督父「こちらが妻、娘と次男坊、そして…」





『始めまして、いつも父がお世話になっています』




小さい息子さんと娘さんと違い、私達よりも年上なその男性。



それが私の…



今の佐世保鎮守府提督、司令との出会いでした。







父「まだ着任したてで慣れないこともあるだろうから交流のためにも連れてきたんだ。話し相手になってやってくれよ?」




『え?俺が?』



いきなりの提案に彼は戸惑っています。




黒潮「まぁまぁ、そんなに固くならんでええからね。よろしゅうな」


親潮「どうかよろしくお願いします!司令には…お父様には日ごろ…」



すかさず黒潮さんがフォローを入れたので私もそれに続きます。

それに対し彼は少し苦笑いをしながらも『よろしくな』と返してくれました。



























街に出かけると私達は他の人と違った目で見られます。


艦娘という特殊な存在を珍しいものとして見る目、危険な存在だと認識している目や正体不明の化け物だと畏怖する目と様々です。


択捉泊地周辺でもそのような目で見られていましたから私は気にしてないように振舞っていたのだけど…




『彼女達をそんな目で見ないでもらえますか?』



彼は堂々と私達の前に立って一から艦娘というものを説明し、誤解を解くよう努めてくれました。


最初は私も黒潮さんも「なにもそこまで…」と遠慮気味でした。

しかし誤解されることに慣れ、どこか冷めていた私達にとって彼のその行動を嬉しく思ってしまいます。



黒潮「…」



いつもは「あんなの気にしてもしゃーないよ」と諦めていた黒潮さんが戸惑いながらもジッと彼を見つめていました。















その後は司令が家に居る3日間、彼と一緒に色んな所へ行き、色んなことをしました。




彼の知る町のレストランで美味しい食事を頂いたり



可愛らしい動物の居る博物館に連れて行ってもらったり



ゲームセンターなどで色んな物を持って帰ったりしました。






あっという間に3日間が過ぎ



最後に彼の一番好きな町が見渡せる景色の良い丘へと連れて来てもらいました。








本当に楽しい3日間でした。



自分達が艦娘であることを忘れさせるほどの幸せな時間でした。





黒潮「おおきに、な…」


親潮「本当に…ありがとうございました!」




そんな幸せな時間をくれた彼に私と黒潮さんは深々と頭を下げてお礼を言いました。





これが終わったらまたいつもの日常…


戦いの日々…



そう気持ちを切り替えるよう言い聞かせながら…




『またいつでも来てくれ、待ってるからな』




そんな私達に対し彼は笑顔でそう答えてくれました。



その答えは『また会いたい』という彼の気持ちが伝わって来て私の胸の中がとても暖かくなり



黒潮「ええよ、約束や」


親潮「私も!必ずまたお会いしましょう!」



返事が自然と大きくなってしまいました。




黒潮「えへへっ、ほな帰ろうか」


『うぉっ!?』



黒潮さん彼の腕に自分の腕を絡める。


黒潮さんの大胆な行動に私はとにかく驚くばかりでしたが



彼女の初めて見せる花の咲いたような最高の笑顔につい私もつられて笑ってしまいました。











幸せな時間でした




本当に…




幸せ…












だったのに…







【提督父の家 客間】






明日の出発に備え、私と黒潮さんは客間で荷物の整理をしていました。




黒潮「なぁ、親潮」


親潮「はい?」


黒潮「また絶対…ここに来ような」



黒潮さんは楽しそうに、そしてどこか照れを見せながらそう言いました。



黒潮「うちな、もう一回来て…その時は…」





その時は『兄さんと…』と最後は小声で聞き取りづらかった。



兄さんとは私達に思い出を作ってくれた彼のことでしょう





私はこの時まだ幼く、黒潮さんがどんな感情を持っていたのかはわかりませんでした



でも今ならわかります



黒潮さんはきっと彼に恋をしてしまっていたのでしょう





親潮「ええ。絶対にまた来ましょうね!」




そんな黒潮さんの感情には気づけなかったけど


私は大きな声でハッキリとそう答えました。







しかし…




黒潮「あ、メールや」





黒潮さんのところに届いたひとつのメール





黒潮「な…!?」




それが私達の幸福を奪い去りました










黒潮さんのあまりの驚きに私は彼女のタブレット端末を覗き込みます




親潮「え…」




そこにはある画像が映し出されていました








親潮「舞風…と…野分…」








私達の姉妹艦、舞風と野分が両手を後ろに縛られ、冷たそうな床にうつぶせに倒されていました。















黒潮「な、なんやのこれ!?」



黒潮さんが送り主にすぐ返信しようとしましたが、立て続けにもう一通メールが送られてきました。



そこには『言う通りにしないと殺す』と書かれていました。


そのシンプルなのに冷酷さが伝わる内容に私も黒潮さんも黙るしかできません。




そしてすぐにまたメールが送られてきました。


そこにはこの周辺の地図と『ここへ行け』という指定でした。




私と黒潮さんはこの家の人達に気づかれないよう部屋を出て外へと向かいました。








指定された場所はこの町の少し外れたゴミ置き場。



そこに着くと今度は『黒いゴミ袋を開けろ』と指示がありました。





黒潮「あ…」


親潮「なんで…」



ゴミ袋の中には艦娘用の艤装がありました。

ネームプレートを見ると舞風と野分の艤装だということがわかります。



先程の画像が本物であるの証拠なのだと言わんばかりのものでした。



親潮「うわっ!?」



いきなり私の持っていた携帯電話が鳴ってビックリしてしまい落としそうになりました。


ディスプレイには非通知と書かれ相手が誰なのかわかりません。





親潮「もしもし…」





少しの間の後



??『動画を送った』


親潮「え…?」




聞こえてきたのは知らない男性の声。


その内容もいまいち掴むことができませんでした。




黒潮「あ、また…!」



どうやら黒潮さんのタブレット端末に動画を送ってきたみたい。



黒潮さんが恐る恐るそれを再生すると










『キャアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』






聞こえてきたのは金切り声の悲鳴と嫌な感じのする機械の音




『やめて!やめてやめて!殺さないでえええぇぇ!!!』




恐怖に泣き叫ぶ舞風の姿だった。





動画には舞風に対し見たいことも無い機械で彼女を傷つけようと…いや、殺そうとしている姿が映し出されていた。




親潮「な、なんですかこれは!!」


黒潮「二人を解放せえや!!」



舞風『やだよぉ!!ぐすっ、た、助けて!誰か助けてぇぇ!!』


野分『舞風を放せ!やめろ!やめろぉぉぉ!!!』




動画からは変わらず二人からの悲鳴が聞こえ続けていた。





??「助けるかどうかはお前ら次第だ」


親潮「なにを言って…!」


??「お前らの司令官を殺せ」


黒潮「え…!?」






殺せ…?



あの人を…?




??「その艤装を使って司令官を殺せ。それができなければこの駆逐艦を殺す」


親潮「そ、そんなこと…!」


??「10秒以内にやると言え。答えなければまず一人殺す」


黒潮「な…ん…」


??「いいか?人質は二人いるんだ。その意味がわかるか?」



そう言って男は私達の逃げ道を塞いできました。

考える間すら与えずに私達にやると言わせるよう囲い込んできたのです。




親潮「ま、待って…」


??「あと5秒だ」





舞風『いやあああぁぁぁぁぁぁっ!!!』


野分『ま、舞風ぇぇぇぇ!!!!』




動画の二人の悲鳴が大きくなってきて…




親潮「や、やります!!」


黒潮「お、親潮!?」


親潮「やりますから!!お願いします!二人に手を出さないで下さい!!」



私は司令を手に掛けることを約束してしまいました。



??「…」





電話の相手が見えないはずなのになぜかニヤリと笑みを深めた気がしました。




??「この駆逐艦達の捕えている場所を送っておく、殺し終えたのなら後は好きにしろ。目撃者も残すな、全員殺せ。本日の深夜4時までに必ずやれ」


黒潮「…」


親潮「…」


??「お前らはこの艤装を用意した者に既に監視されている。逃げられると思うな」



冷たくそう言い捨てて男は電話を切りました。



そしてすぐに黒潮さんのタブレット端末に二人の居場所が送られてきました。


この時点で居場所を送って来るなんて…舞風と野分を殺す用意も自分達が逃げる準備も終わっているのだろう…。







親潮「…」


黒潮「…」





私も黒潮さんも黒いゴミ袋を抱え、無言で司令の家へと戻り始めました。




ゴミ袋は家の近くの目立たない場所に置いてきました。





さすがにこんなものを持って家に入ると怪しいからです。





『お、おい大丈夫か?』


親潮「え…?」



家の玄関に入ると彼が心配そうに私を覗き込んでいました。

何度も声を掛けられていたみたいですが全く気づきませんでした。



親潮「な…なんでも…」


『しかし…』


親潮「失礼します…」



私はそのまま彼の隣をすり抜けるように部屋に向かって行きました。


これからのことを考えるとまともに顔を合わすことなんてできませんでした…





【提督父の家 客間】




親潮「…」


黒潮「…」




私達は一言も話さずにジッと時間が過ぎるのを待っていました。




時刻は深夜1時



残る時間は3時間



こんな時間なのだから既に皆さんは眠ったはずです。




黒潮「親潮…」


親潮「は、はい…」


黒潮「あんたはここに居た方がええ」


親潮「何を…」


黒潮「うちが一人でやる」


親潮「く、黒潮さん…!?」



私の言葉を無視して黒潮さんは立ち上がり、艤装を置いた場所へと向かい始めました。



きっと黒潮さんにも私の言葉が届かない程に余裕が無かったのでしょう…




私は黒潮さんをそのまま一度見送ります。


そしてすぐに別の出口から外に出て艤装のある場所へと時間差で向かいました。





親潮(黒潮さんだけに…こんな罪を背負わせたくない…!)




それだけが私の思考を支配していました。





私はこの時…


既に司令を手に掛ける覚悟を決めていたのです。






【提督父の家 寝室】




黒潮「…」




司令が眠る部屋のドアが既に開いていました。


黒潮さんは艤装の機銃を構えようとしていますがその手は大きく震えていました。




親潮「黒潮さん…」


黒潮「…!?」



小声で話しかけると張りつめた表情の黒潮さんが私に機銃を向けました。



黒潮「親潮…なんで…!」


親潮「私達はずっと一緒です」




私は黒潮さんの向けた機銃にゆっくりと手を置いて下げるよう促しました。



黒潮「親潮…」


親潮「これからも…ずっと…」




私の言葉を受け入れてくれたのか、黒潮さんが少しだけ頷いてくれました。


同時に…彼女の目から涙が零れました。









提督父「ん…?」


親潮「…!?」

黒潮「…!?」



私達のやり取りに気づいたのか、司令がゆっくりと目を覚まそうとしていました。





そんな司令に対し…




黒潮「…あぁっ!!!」




黒潮さんは反射的に機銃を放ちました。

弾丸は連射で飛び出したのか司令の全身のあらゆる場所へと当たりました。


サイレンサーがついていたのでしょうか?音はバスンバスンと聞いたことの無いような変な音だったことは覚えています。



提督父「…っぐ!?おごぉ…!!」



苦しそうな呻き声を上げながら司令が悶えているのが布団の上からでもわかります。





私も…気づいたら黒潮さんと同じように機銃を放っていました。





しかし覚悟不十分だったのか、その照準は定まらずに大きなベッドに散らばり






司令の奥様



司令の娘さん



司令の二人目の息子さんを貫きました。





親潮(も、目撃者も殺せと言われた…!考えるな、考えるな考えるなぁぁ!!!!)





私は自分にそう言い聞かせながら弾薬が無くなるまで機銃を放ち続けました。
























どれだけそうしていたのかわかりません。



長かったのか、短かったのか思い出すことはできません。







しかし、司令の頭を撃ち抜かれているのだけは覚えています。


家族の方達が生きているのかは確認していません、でも出血量と穴だらけになった布団の状態を見ると生きている可能性は無いと思いました。






親潮「はっ…はっ…はっ…!」


黒潮「う…ぐ…」




徐々に私達のしたことを自覚し始めると、呼吸が乱れ、胸が痛くなり、吐き気がこみ上げてきました。














提督父『今日からよろしくな』



提督父『大丈夫、俺がしっかりと守ってやるからな』



提督父『二人は本当に仲が良いな、あはは』






私達に優しくしてくれた司令の命を奪い





提督妻『美味しかった?本当に?良かった、頑張った甲斐があったわ!』




息子『ねーねー、遊んで遊んでー』




娘『おままごとしようよー。私がおかーさん役ねー』






私達を優しく迎えてくれた司令の大切な家族の命を奪ってしまいました









親潮「…」





身体が震え、立っていられるのがやっとの状態です。


寒気がして口元も震え始めました。






黒潮「終わったで…」




黒潮さん…?



親潮「う…あ…」



返事をしようと思ったのに口から出たのは変な呻き声だけでした。



黒潮「親潮、早う行かんと…!」



行く…


どこに…



そっか…私は舞風と野分を助けるため…



親潮「は、はい…」



そう、だから…




これは仕方の無かったこと…





そう自分に言い聞かせ、思考を取り戻して歩き始めようと思った












『ぅぁ…っ!?』











その時でした。





黒潮「だ、誰や!?」




後ろから誰かの声がして





親潮「く…っ!!」







『目撃者も殺せ』という思考に支配された私は








反射的に『それ』に機銃を放ちました















『うぐっ!?ぐあああぁ!!うぎゃあああああ!!』







私の放った機銃の弾丸が彼の腹を貫きました。




彼はその痛みからか絶望的な断末魔を上げながら腹部を抑えのたうち回っていました。





黒潮「親潮!な、何をしとるんや!?」



親潮「あ…ああ…」






私は…



私達に大切な思い出を作ってくれた彼にまで…





黒潮「早う逃げるで!さっさと報告せんと!」



親潮「あ…は、はい…!」




茫然自失としていた私を黒潮さんが引っ張り部屋から連れ出そうとしてくれました。











『ま…待て…』









部屋を出る時




彼の最後の消え入りそうな言葉を背に受けながら…






【どこかの海】






親潮「…」



黒潮「…」






舞風と野分が捕らわれているのは小さな島だったということもあって、私達は艤装の力を借りて海を走っていました。



しかし疲れからか速度は出ずに徐々に落ちてきました。





親潮「…」


黒潮「…」




やがて二人とも足は止まり




親潮「う…うぁ…うあああああああああああああああぁぁぁぁ!!!!」



私は耐え切れず悲鳴のような泣き声を出してしまい




黒潮「うぐ…ォェ…ゲェェ…」




黒潮さんは受け止めきれない現実の重みに泣きながら吐いていました。












どれくらいそうしていたのかわかりません。







舞風と野分の所へと再び走り始めた私達に









もうひとつの悪夢が襲い掛かってきました









親潮「あ…」


黒潮「なん…で…」





私達が走っている方角のやや右から探照灯が見えます。



艦娘が使用するものではありません。

あれは深海棲艦の探照灯のものでした。


光の数は6つ。


遠目には何がいるのかはわかりませんでしたが、着任間もなかった私達にどうにかできる相手ではないことは確かでした。








どうやって迂回して行こうか考えている時…





黒潮「親潮ぉ!危ない!!」


親潮「え!?」




私の前を庇うように黒潮さんが立ちはだかりました。







黒潮「うあああぁぁ!!?」


親潮「く、黒潮さんっ!!」






いつの間にか私に向かって魚雷が放たれていたようです。


黒潮さんは私を庇って大破してしまいました。





黒潮「う…ぐ…!」


親潮「掴まって!」




私は黒潮さんをすぐに抱え、その場から逃げようと走り出しました。


しかしその速度は遅く、私達に深海棲艦の6隻が迫ってきているのがわかります。




黒潮「もう…あかんよ…」


親潮「え…」



諦めたような黒潮さんの言葉に私は耳を疑いました。



黒潮さんは私を突き飛ばすようにして離れます。





黒潮「うちを…置いて行って…」


親潮「な…!?」




黒潮さんは囮になって私を逃がそうとしてくれました。




親潮「だ、ダメですそんなの!私もここで!!」


黒潮「頼むよ親潮…」


親潮「黒潮さん!」


黒潮「でないと…うちらのしたことが全部無駄になってまう!!」





私達のしたこと


司令とその家族を皆殺しにしたこと…




黒潮「頼むよ親潮…舞風と野分を助けたって…」


親潮「黒潮さん…っ…ぅ…で、でも…」




泣いてその場に留まろうとする私に黒潮さんが痛む身体をおして抱きしめてくれました。



黒潮「生きてな、親潮…必ず…ええことあるから…絶対に…死んだらあかんよ」




そして慰めるような優しい言葉を私に遺してくれました。











「生きてさえいれば…きっとええことあるからね…」










それが…黒潮さんの最後の言葉になりました










黒潮さんは私を離すと背中を強く叩いて走るように促しました














親潮「う…うあああああああああああああああぁぁぁぁ!!!!あああああああああああああああ!!」













私は泣きながら、そして耳を塞ぎながら走りました










私の後ろで沈んでいく黒潮さんのことを考えないよう









必死に、必死に、








死に物狂いで舞風と野分の待つ島へと走り出しました
















____________________









黒潮「ごめんなぁ…」







泣き叫びながら走り出した親潮を見送りながら黒潮は独り呟いた







黒潮「うちな…あんなことして…兄さんまで手に掛けてしまって…」






寂しさと悲しさ、これから迫りくる死の恐怖に涙が零れ、全身が震える






黒潮「生きていられるほど強うない…から…」















涙を拭い、黒潮は6隻の深海棲艦と対峙する





大破状態の黒潮が敵うはずも無く






深海棲艦の一斉攻撃を受けて








黒潮(あ…)









黒潮は海に沈み始めた













「ごめんなぁ…親潮…」












独り、罪を背負って遺された親潮を想いながら














艦娘 黒潮の短い生涯は幕を閉じた















____________________






親潮「着い…た…」








黒潮さんが私を逃がしてくれた数時間後



空が青くなり始め、陽が差そうとしている時間帯





ようやく舞風と野分が捕らわれている島へと辿り着きました







親潮「舞風…!野分…!!」






私は陸に乗り、指定された建物へと走り始めました





もう私には二人を助け出すことだけが救いでしたから































後に…




司令は私に言いました










『艦娘が、同型艦が、姉妹艦が人質にされた?だったら俺の家族を殺しても良いってのか?』



『俺の家族を殺したのも、俺を撃ったのもお前』


『ほかの選択肢を選らばず、戦わず、抵抗もせず、相談もせず、一番楽で簡単で確実な方法を選んだのはお前だ』


『お前が殺したんだ、お前が殺す選択肢を選んだんだ』



















あなたの言う通りです、司令…




私は…選択を間違えました

























指定された建物に行った時



舞風「あ!親潮!!」


野分「親潮…!?どうしてここに…」



二人は私に駆け寄ってきました







縛られてもいませんでしたし





命の危険に晒されてもいませんでした






親潮「え…」












舞風と野分は既に…









親潮「どうして…あなた達は捕まっているって…」


舞風「それだったら…」


野分「あの人達が助けれくれました」












助けられていたのです












視線の先にはどこかの年老いた提督らしき人物とその部下達が映りました。

















親潮「そ…んな…」






私は自分のしたことの大変さをまた自覚し始め、全身が寒気に包まれました







親潮「私は…なんのために…」








なんのために司令を手に掛け


家族を皆殺しにして






黒潮さんを…















親潮「い…いやああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

































耐え切れないショックに私はこの後意識を失いました
































どこかでガラスが割れるような音を聞いたような気がしました































私はこの事実を





まだ司令に話せていません…





























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【過去 ラバウル基地 医務室】








司令とその家族を手に掛け



黒潮さんを喪ったショックで倒れた私は



舞風と野分を助けてくれたラバウルの基地長に保護されました







親潮「…」





保護されてしばらくは医務室のベッドで過ごしたそうです。



私はこの時期のことはよく覚えていません。



記憶に残っていることと言えば『泣き叫んだ』ことと『苦しんだ』ことくらいでしょうか?



救出された舞風と野分は無事に元の鎮守府へと帰され



黒潮さんはその後どうなったかわかりません。





そんなことが立て続けにあったことで私はしばらく立ち直ることなんてできませんでした。






自分で自分の命を絶ってしまいかねない程の発狂ぶりだったというのに、私は死のうとしなかったと後で教えてくれました。




黒潮さんの最後の言葉を守ったのか




私自身が元々死に対して臆病だったのか





今でもそれはわかりません…。













私がようやく自我が保てるようになるまで




約2年の月日を要したと、後に基地長が教えてくれました。









壊れて戻らないと思っていた私の心は




本の少しずつだけど元に戻ろうとしていたのです。
















ここ、ラバウル基地は以前は深海棲艦との戦いに於ける前線基地として使われていました。



しかし今は数人の艦娘と基地長だけの小規模の運営となっているそうです。






運営と言えば聞こえはいいけれど…



その本質は精神治療の病棟みたいなものでした。







私のように…立ち直れなくなった艦娘を保護する場所だそうです…。





あれだけのことをしてしまったというのに私に何の処分も与えられなかったのは




基地長が私の存在を隠してくれたからでした。





私だけじゃありません、ここには似たように存在を隠された艦娘達が入れ替わり来ていたのです。



















私の最初のリハビリは『黒潮さんの死を受け入れる』ことから始めました。




少しずつ話せるようになった私から基地長は何があったのかを聞き出してくれていました。




事情を知った基地長は大切な黒潮さんを喪った私に対し、『死を受け入れろ』という余りにも辛いリハビリを与えました。








最初はそのことに触れられるだけで叫び、暴れ、取り押さえられ、そして泣き喚くのを繰り返しました。




しかし基地長とこの鎮守府の艦娘達は根気よく私のところに来てリハビリをしてくれました。




基地長が『反抗できる元気があるならまだ立ち直れる可能性がある』と言っていたのを覚えています。








そんなリハビリを3ヶ月程繰り返して、少しずつ黒潮さんの死を受け入れ始めた私は





ラバウル基地の外に黒潮さんの墓を建てました




墓と言っても簡易の気休め程度の物ですが




そのお墓を作った時、これまでとは比べ物にならないほどの悲しみが訪れました








私は黒潮さんのお墓の前でしばらく大泣きしていました






微かな希望を捨て




もう黒潮さんは帰ってこないのだと自分に言い聞かせて…









大泣きする私の頭に基地長が優しく手を置いてくれました











黒潮さんの死を受け入れる








それが私の立ち直りの第一歩となり






それだけで2年と3ヶ月の時間を要しました



















ようやく第一歩目を踏み出した私が最初にしたこと





それは私達が手に掛けた司令とその家族の調べることでした。





基地長にそのことを聞くと彼は『いつか聞かれるだろう』と予想していたみたいで




当時の新聞記事を取ってくれていました








親潮「な…んで…」







そこには『殺害された』とは書かれておらず




『一家心中』と事実が歪曲されて書かれていました。




私と黒潮さんの名前なんてどこを探してもありません。








その記事の中で私達の司令だった人は様々な人にこき下ろされ




名誉を傷つけられていました。







親潮「なんで…よぉ…っぐ…っ…」








基地長が『上の人間達によって事実は闇に葬られた』と言っていました。




私のようなちっぽけな艦娘が何をしても、どう動こうとしても




何の影響も与えることなんてできないのだと絶望しました






そして…





≪家族5人の死亡が確認される≫






5人…





私が最後に撃ったあのお兄さんも助からなかった






親潮(もう…謝ることなんてできないんだ…)








そんな罪の意識に私はしばらく涙が止まりませんでした…





その後、司令の運営していた択捉泊地は間もなく解体され




所属していた艦娘は散り散りとなってしまいました






彼女達が今どこでどうしているのか




過去に目を向けようとしなかった私にはわかりませんでした…










黒潮さんと司令とその家族の死を受け入れた私に対し、基地長が与えた任務





それは演習でも遠征でも出撃でもなく





新しくこのラバウル基地に送られてきた





傷ついた艦娘のお世話でした













慣れないうちは本当に大変でした





何を話しかけても相手にされなかったり





理不尽な罵倒を浴びせられたり





せっかく作った料理をぶちまけられたりして





正直腹が立って『どうして私がこんなことを』なんて思ってしまうことは少なくありませんでした









基地長がどうして私に艦娘の世話をさせたのか





それは傷ついた艦娘の世話をすることで自分を見つめ直す、という意図がありました





少しずつお世話にもなれてくると『どうしてこんなにも彼女は塞ぎ込んでいるのだろうか』とか





『何が彼女を苦しめているのだろうか』などと考える余裕が出てきて





『私もきっとこのような感じで皆さんに苦労を掛けたのだろうな…』と思うようにもなりました











そんな余裕が出てくると自然に傷ついた艦娘への対応も優しくなってきたのか





徐々に私に心を開いてくれるようになりました




彼女達の話を聞いてあげたり




逆に彼女達に話を聞いてもらったり




そんな日々の繰り返しは少しずつ私自身を苦しめていた心の傷を治してくれていました










もちろんそう簡単に癒えてしまうほど簡単な傷ではありませんでしたが





それでも少しだけあの日のことを忘れることができたり





悪夢を見る頻度が少しだけ減ってもくれました











『幸せっていうのはね』




ある時基地長は私に言いました




『全てを忘れている時こそ幸せ、なんて言葉もあるんだよ』




この時は意味の分かりづらい言葉だと思っていましたが




基地長は私が少しずつ前を向けるようになったのだと言ってくれたような気がしました
















そんな日々はとても長く続き




私より後に来た艦娘が立ち直って新たな鎮守府へ行くのを何度も見送ったというのに




いつまで経っても私がどこかへ着任することはありませんでした




なぜなのかと基地長に聞いたことはありますが、『君を利用した奴らが君のことを忘れるまで…』とはぐらかされました




当時はどういうことかわかりませんでしたが、




きっと私を利用した者達が私のことなどどうでも良いと思えるくらい出世するまで、ということだったのでしょう




その月日はとても長いもので




私が看ていた艦娘達を何人も見送りっている間に





10年もの月日を送ってしまいました

















気が付いたらこのラバウル基地の艦娘は私だけとなった頃





基地長が病に倒れました









【病院内】





救急車を呼んで運ばれる基地長に付き添い、私も一緒に病院に行きました。




基地長の身体は既に病魔に侵されていて手の施しようが無いとのことでした。




心配する私をよそに基地長は…






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基地長「仕方ないよ…私はあの時、死んでいたはずだからね…ここまで生きられただけで充分だ…」


親潮「え…」


基地長「…」



基地長は私に心配をさせまいと笑顔を見せてくれましたが



その笑顔は酷く寂しいものに見えました。











病室に大本営の役員達がやって来て基地長にラバウル基地の解散を伝えに来ました。




事務的で優しさのかけらも感じさせない言い方に私は文句を言おうとしましたが基地長に止められました。








廊下に出た役員達は『臆病者の末路だな』と吐き捨てるように言ってその場を離れて行きました。






親潮(臆病者…?)




一体どういうことなのかと視線を送ってしまった私に基地長はゆっくりと話し始めました。











私が基地長に助けられる数年前





基地長が所属していた鎮守府に深海棲艦の大群が押し寄せてきました。





艦娘達は必死に応戦しましたが、あまりの数の多さに形勢は不利となって




通信設備を破壊され、他の鎮守府への救援を呼ぶこともできなくされてしまい




このままでは鎮守府を、そして基地長を守り切ることができないと悟った艦娘達は




基地長に逃げて欲しいと言ったそうです。




基地長は『そんなことはできない、私がこの場にいなければ誰が指揮を執るのか』と残ろうとしましたが




艦娘達はそれでも基地長に生きて欲しいと首を横に振ったそうです。







悩んだ基地長は『必ず支援部隊を引き連れて戻る、それまで生きてくれ』と他の鎮守府へと行きました。
























基地長が他の鎮守府へ行き、支援部隊を引き連れて鎮守府へ戻ると





艦娘達も深海棲艦もいませんでした。





彼女達は死力を尽くして海上で戦い





深海棲艦を道連れにして全員が轟沈してしまいました…。












その後、基地長は『戦闘中に逃げ出した臆病者』というレッテルを貼られ




二度と前線に出ることの無いようラバウル基地で艦娘の療養に携わることになったそうです…












基地長「私はね…どうしてあの場に残らなかったのかと今でも後悔している…」


親潮「しかし…艦娘達はあなたに生きて欲しいと…」


基地長「こんな後悔を背負って生きるくらいなら死んだ方がマシだと何度も思ったよ…」


親潮「…」



その気持ちはわかる気がします…。


私も黒潮さんに『生きて』と最後に言われなければとっくに自分で命を絶っていたでしょうから…。




基地長「私が艦娘達の療養に携わったのはね…ただの罪滅ぼしなのだよ…」


親潮「罪滅ぼし…?」


基地長「私が亡くしてしまった艦娘達の分…少しでも多くの艦娘を救いたいと…そう思って…」



基地長の目から涙が零れました。

それはきっと…後悔の涙です。



基地長「でも…満たされなかった…虚しかった…こんなことをして何になるのかと自問自答してばかりで…私は…っぐ…ぅ…」





誰にも言えない、一人で抱えてきた深い悲しみを共感しながら私は基地長の涙をハンカチで拭います。





親潮「たとえ罪滅ぼしだとしても…基地長に救われた艦娘は大勢います」



後悔の涙を拭ってあげたかった。




親潮「基地長に助けられ、救われ、立ち直ることのできた艦娘達を代表して言わせてもらいます」




涙を拭った後、私は基地長の手を両手で包みます。




親潮「あなたにお会いできて本当に良かったです。基地長、ありがとうございました」


基地長「親潮…ぅっ…っ…」




このまま後悔を抱えたままでいて欲しくないと私なりの精一杯の慰めでした。


何とか基地長の心に届いてくれたようで、少し嬉しくなりました。











基地長は最後にこう言いました。




基地長「君にもいつか過去のことと向き合わなければならない時が来るかもしれない」


親潮「過去に…」



それはきっと司令とその家族を手に掛けたことでしょう。



基地長「その時はどうか逃げずに正面から立ち向かって行ってくれ」


親潮「…」


基地長「罪から逃げて…後悔して…私の様にはならないでくれ…」


親潮「…」





基地長の最後の言葉に私は返事をすることができませんでした。






だって…私が手に掛けた人達はこの世におらず



もう…償うことなんてできないのだから…













翌日




基地長は静かに息を引き取りました。









私は黒潮さんのお墓の隣に基地長の墓を作り




悲しみを受け止めながらたくさんの涙を零しました。



















その数日後



私のところに大本営の役員がやって来て



大本営の着任待機所へ行くようにと通達してきました。












十数年の月日は上の人間が私という存在を忘れ去られるには十分だったようで





大本営に行っても私は命の危険に晒されることはありませんでした。










大本営で訓練をして数ヶ月後




着任先が決まったと言われました。




親潮(佐世保鎮守府…)






この鎮守府の司令官はまだ新人ですが飛ぶ鳥を落とす勢いで戦果を上げ始めたと書かれています。


人手不足になりがちだったようで駆逐艦の私ともう一人が呼ばれたそうです。


きっと遠征部隊だろうと思いましたが、着任するからには絶対に手を抜かないと心の中で自分を発奮させます。





親潮(黒潮さん…基地長…行ってきます!)





私は心の中でそう言って佐世保鎮守府へと向かいました。

























そして…





償いの機会は私が想像した以上に早く訪れたのです…






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【佐世保鎮守府 執務室】






最初に挨拶をした時から違和感を感じていました。







提督「久しぶりだな、親潮」


親潮「え…?」





私の過去のことを知っているのかと内心ギョッとしましたが、ここは平静を保ち流すことができました。



私はこの人と面識はありません。


顔も声も名前も知りません。




それがあのお兄さんと同じ存在だなんて誰が気づくでしょうか…










次に司令と個別で面談した時…




提督「親潮の所属歴はラバウル基地以前のものが無いが…艦娘の新人として配属されたのはこの時からか?」


提督「同型艦・陽炎型3番艦の黒潮だが…彼女は今、どこで何をしているのか知らないか?」




その質問に心臓を握られたような苦しさを感じました。


私の逃げ道を潰していくような司令の質問に…私は恐怖から寒気を覚えました。








部屋に戻って私は黒潮さんと衣笠さんが写った写真を手に取ります。


司令から感じた恐怖から逃げるように…縋るようにその写真を見ましたが、私の中の寒気を取り払うことなんてできません。





祥鳳「提督は嘘を簡単に見破る人です。これ以上…提督に嘘を吐かないで下さいね」



私の様子を気づいてか、祥鳳さんが注意しに来てくれたというのに…



私は逃げたい気持ちが先行してしまいます。



親潮(私は悪くない…私のせいじゃない…脅されて仕方なくやってしまっただけ…そう、私は悪くない…)



そんな卑怯な言い聞かせで逃げることしかできませんでした…







そんな汚い私の逃げをして



償いのために何も動こうとしなかった私に



すぐに罰が与えられることとなりました…














天津風「それじゃ、行ってくるわね」


雪風「がんばります!」


親潮「お気を付けて!」




その後、他の皆さんが遠征や支援要請などで鎮守府から離れた時





司令は動き出しました。










親潮「一体どういうことですか!!」




私は怒りの感情のまま司令に大声をぶつけました。




しかし司令は薄く笑うだけで全く動じません。











少し前、執務室で書類整理を手伝っていた私に対し、



司令が『遠征部隊の補給物資に毒を仕込んだ』『今頃苦しみ悶えているだろうな』と言いました。




そのことを鵜呑みにして司令部施設へ行って遠征部隊に連絡を取りましたが、それが司令の嘘だったことがわかりました。








親潮「何のつもりですか司令!何がしたくてあんな悪質な冗談を言ったのですか!?」





せっかく会えた姉妹艦を喪うのかと思ってしまった私は怒りが収まりませんでした。






しかし…






提督「そうだよな。何も知らない大切な家族が理不尽に殺されるなんて…悪い冗談だよなぁ、親潮」





司令の返ってきた言葉に私の怒りの炎