2020-02-24 05:00:11 更新

概要


だって君ら人様のプロポーズを断るから・・・。

艦娘を利用して復讐するお話(ガラスの絆)の息抜きに書いてます。

いくつになっても怖いもんは怖い。


前書き

運営さんは早く彼女達のケッコンボイスを更新してくれ。






【鎮守府内 執務室】





龍田「お手紙が届いています~」


提督「ありがとう」



秘書艦の龍田が大本営からの手紙を持ってきた。

手紙を受け取っても龍田は下がろうとせずじっとしている。


そんな龍田の頭を撫で撫でしてあげると



龍田「うふふ~」



嬉しそうな声を漏らしていた。

この鎮守府に来た頃は『その腕、切り落としますよ?』とか脅してきたくせに変わったものだ。


さて、大本営からの手紙はというと・・・



提督「・・・」


龍田「どうかしましたか~?悪い知らせかしら~?」



悪い知らせではない、それは確かなのだが・・・

笑顔ではあるが心配そうにこちらをみている龍田に大本営から来た書類を見せる。



龍田「ケッコン・・・?」


提督「ああ・・・」



大本営から届いた書類は早期に『ケッコン艦』を決めるよう促すものだった。



龍田「おめでとうございます~これで独身生活ともおさらばですねぇ~」


提督「・・・」



横目に龍田の反応を伺うがその反応はまるで俺を遠ざけるようなものだった。



提督「焦って決めることじゃないさ、こういう、大事なことは・・・」


龍田「あら残念ねぇ~。今回のは期限付きみたいよ~?」


提督「ぬぁ!?」



龍田の容赦ない宣告に変な声を出してしまう。

よく見ると本当に期限付きだった。

しかも期限内にケッコンしなかった場合・・・



提督「降格も有りうる・・・嘘だろ?」



目を疑う内容が書かれていた。



龍田「どうするの~?」


提督「・・・」



縋るような目で龍田を見るが相変わらず微妙な距離感がある。



提督「なあ龍田・・・」


龍田「あ、そうだ。私この後天龍ちゃんと出掛ける約束をしていたわ~」


提督「そ、そうか・・・」



縋る自分を躱すかのように天龍は俺から目をそらしてしまった。




提督「少し頭冷やしてくる・・・」


龍田「いってらっしゃい~」



沈みがちな表情のまま提督は執務室を出て行った。












龍田「・・・」




主のいなくなった執務室で


龍田はひとり誰にも聞かれないような小さなため息をついた。




【鎮守府内 廊下】



比叡「あ!司令!探していたんですよ!」


提督「ん・・・?」



ふらふらと力無い足取りで廊下を歩いていたら比叡が元気な声で声をかけてくれる。



比叡「どうしたんですか司令?なんか元気がないような・・・」


提督「ん?少し疲れているだけだ、気にするな」


比叡「だったら新しいメニューに挑戦したんです!どうぞ!これで元気を出してください!」



見ると比叡は手にサランラップに包んだ大皿を持っていた。

どうやら俺に食べてもらうために執務室に向かっていたらしい。



正確には食べてもらう、ではなく試食なんだがな・・・



提督「では遠慮なく・・・」



いつものことなので皿にあるメンチカツらしきものを手づかみで口に入れる。

見た目はあちこち焦げていて正直見栄えは良くなかったが・・・



比叡「ど、どうですか?」


提督「んまいぞ、大変良くできました」


比叡「あ、えへへ・・・」



褒め言葉とともに頭を撫でてやると比叡は嬉しそうに顔を綻ばせた。



提督「あんな劇薬毒物刺激物しか作れなかったのに・・・本当に成長したなあ・・・」


比叡「な、なんですかそれ!」



初めて比叡の料理を試食した時、俺は意識を失い病院に運ばれた。

三日間も生死の境を彷徨うこととなったのだ。


意識を取り戻したとき、真剣な顔で心配して泣いていた比叡に対し俺は『次はもう少し上達してからな』とめげないように励まし、その後も料理を試食するようになった。


その後は胃腸炎→強烈な吐き気→胃もたれと徐々に良くなっていき、今では一通りの料理を人並みに作れるようになるまでに上達したのだった。



比叡「これならいつ金剛お姉様が来ても大丈夫ですよね!司令、ありがとうございました!」



嬉しそうな笑顔を見せた後、比叡は料理を片手に元気よく走り去って行った。



提督「はは・・・」



思わず苦笑いがこぼれてしまう。


あいつがいつも俺のところに料理を作って持ってきているのはただ単に自分の愛する姉に渡す前の実験台に過ぎない。

そう思うとモヤモヤとした嫌な感情が湧いてきてしまう。



提督(こんなことでいちいち嫉妬していたらきりがないのにな・・・)



そう自分で自分を言い聞かせて俺もその場を離れ歩きはじめた。



【鎮守府内 提督の私室】



筑摩「あ、お帰りなさい提督」


提督「お帰りなさいって・・・筑摩・・・」


筑摩「あら、私ったら…」


俺が呆れた返事をすると筑摩は恥ずかしそうに顔を赤らめた。



筑摩「お部屋のお掃除とベッドのシーツ替え終わりました」


提督「本当にいつもすまないな」


筑摩「良いのですよ、これは私がやらせてほしいと頼んだことなのですから」


提督「そうだな・・・」




筑摩が俺のところに世話を焼きに来るようになった理由。

それは現在他の鎮守府へ一時異動中の利根のためということらしい。


『利根姉さんは私がいないと何にもできなくて』と筑摩は常々言っており、その習慣が抜けないよう自主的に俺の世話を焼きたいと言ってきた。


最初は『筑摩の気が済むのなら』『俺も助かるよ』と快く受け入れていたのだが・・・



筑摩「ふふ、いつか利根姉さんが来てもこれで大丈夫ですよね」


提督「はは、そうだな…」



その想いが自分に向いていないことに虚しい気持ちでいっぱいになってしまった。



筑摩「提督?どうかしましたか?大丈夫ですか?」


提督「ん?ああ、何でもないよ。いつもありがとうな筑摩」


筑摩「うふふっ」



心配しないよう筑摩の頭に手を置いて撫でてやると彼女は嬉しそうに顔を綻ばせた。



提督「今日もありがとうな」


筑摩「はい、それでは失礼致します」



笑顔を作って筑摩を見送ってひとり部屋のベッドに倒れ込んだ。




提督「はぁぁぁ・・・」



深い溜息をついてしまう。



どうして俺が好きになる女性というのは・・・



頭の中で過ぎるのは



龍田


比叡


筑摩


彼女達の笑顔だった。


彼女達の好意は自分に向けられることは無い

そう思うと胸が締め付けられるような気持ちになった。



実は以前彼女達を休みの日に誘ったことがある。

つまりデートの誘いだった。


返ってきた言葉はどれも似たようなもので




「ごめんなさいね~天龍ちゃんと約束が~」



「金剛お姉様と外で会う約束が・・・」



「ごめんなさい、今日は利根姉さんと・・・」




と、どれも予想通りのものだった。


面と向かって『あなたには興味が無い』と言われなかっただけマシだと思っていたが、逆を言えば未練を引きずる原因にもなっているような気がする。




提督「腹を括るしか無いか・・・」



大本営よりケッコンの話を聞いたとき、この三人以外の顔は浮かばなかった。

俺はやっぱり彼女達に惹かれている。



一番付き合いが長く、言葉はきついことがあっても俺を支えてくれる龍田。


その天真爛漫さで日々の疲れを忘れさせてくれる比叡。


優しさと気遣いと笑顔で俺を癒してくれる筑摩。




その三人のうちの誰かに絞り、俺はケッコンを申し込む覚悟を決めた。





提督「・・・」






でも・・・


念には念を・・・





【鎮守府内 執務室】



青葉「どうもー!青葉ですー!大本営より派遣されて来ました!一言お願いします!」


提督「力を貸してください!」


青葉「おおう!?」



間髪入れずに返事をすると青葉が驚いて変な声を上げた。



青葉「一体どうしたんですか?」


提督「実はだな・・・」




俺は青葉にケッコンの事と想っている艦娘の事を伝えた。



青葉「あー・・・」



一通り話すと青葉が苦笑いをしていた。



提督「わかるだろ・・・俺の言いたいこと」


青葉「はい・・・そりゃあ慎重にもなりたくなりますよねぇ・・・」



相手が龍田、比叡、筑摩ということで青葉も納得せざるを得なかった。



青葉「実は他の鎮守府でも同じような調査がありましてね…結果は…まあ想像通りです」


提督「うぐ…」



青葉は資料を取り出して他の鎮守府でも同様の調査をした結果を読み上げる。



青葉「他の鎮守府の司令官も『俺ならいけるはず!』と意気込んで…皆さん華々しく散って…」


提督「だぁぁ!!聞くんじゃ無かった!」



青葉の容赦ない言葉に提督は頭を抱えて嘆いた。



青葉「どうしますか?このまま聞かずに帰っても…」


提督「いや…ここまで来て引き下がれるか!お願いします!」


青葉「そんな敬語を使わなくても…!わかりました!青葉、司令官のために頑張っちゃいます!」



崖っぷちに立たされてもなお艦娘との関係を深めたいと意気込む提督に青葉はやる気満々といった表情で仕事を引き受けた。









提督「…」



青葉が執務室を出て調査に向かった後







提督「…っぐ!?」




提督はある痛みにその場にうずくまってしまう。





提督(もう…誤魔化している時間は無いな…)





彼は痛みを堪えながら執務室の電話機に手を伸ばした。












それから数日後…





【鎮守府内 執務室】




龍田「提督~、お手紙が届いています~」


提督「ありがとう」



龍田から渡された手紙、中身はわからないがそれは恐らく青葉からの報告書だった。



龍田「あら~?ラブレターかしら~?」


提督「…」



他の艦娘から送られたものだというのに龍田の無関心っぷりに少し悲しくなった。



提督「なんか意気投合しちゃってさ、今度一緒に出掛けようって約束したんだ」


龍田「そうなの~良かったわね~」


提督「はは…」



それでも龍田は全く動じることは無く、青葉から送られた報告書も期待できないなと暗い気持ちになる。



提督「少し出てくるよ」


龍田「いってらっしゃい~」



この場で報告書を見るわけにもいかず執務室を出ることにした。






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龍田「…」






主のいなくなった執務室で…







龍田「…っ!!」




龍田は感情に身を任せて執務室の机をバンッ!と叩いた。




龍田「…」




大きな音と対照的に龍田の胸の中は虚しさが響いた。



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【鎮守府内 廊下】



部屋へと戻る途中、比叡と霧島が話しているのを見掛けた。



霧島「あ、司令」


比叡「司令!聞いて下さい!金剛お姉様が来週この鎮守府に来るって連絡がありました!」


提督「そうなのか?」


霧島「はい、少し長めの休暇が取れたので遊びに来ると手紙が」


比叡「ついに練習の成果を見せる時が来ました!」


提督「…」



心底嬉しそうにはしゃぐ比叡を見ると素直に喜べない。


ずっと練習台になっていたのは自分で、やはり比叡にとっては金剛が一番なのだと改めて事実を突きつけられたような気がしたからだ。



提督「これで俺も料理の実験台にならずに済むかな?」


比叡「え!?司令、酷いです!」


霧島「ひ、比叡姉様…司令にまで食べさせてたのですか?」


提督「もしかして霧島…お前も…」


霧島「はい…」


提督「ご愁傷様…」


霧島「司令も…」


比叡「もー!何ですか二人してー!!」



つい霧島とお互いの苦労を分かち合ってしまった。



提督「それじゃ失礼するよ」



足早にその場を離れて自分の部屋へと向かった。



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比叡「…」


霧島「よろしいのですか?もう司令に食べてもらわなくって」


比叡「…」



霧島の質問に比叡は何も答えることはできずにただ俯くだけだった。



そんな姉の様子に霧島は小さくため息をついた。





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【鎮守府内 提督の私室】




筑摩「あっ、おかえりなさい」


提督「ああ…」



少し落ち込んだ気持ちで私室に行ったため、筑摩が居ることをすっかりと忘れていた。

彼女はいつも通り提督の世話焼きのため部屋で掃除をしていた。



提督「あ、悪い、掃除中だったか」


筑摩「いえ、もうすぐ終わりますから提督は休んでいて下さい」


提督「すまない…」



気を遣ってか、筑摩が笑顔で応えてくれた。


この笑顔の裏にはいつも利根を意識しているのかと思うと先程と同じように少し寂しくなる。



提督「…」


筑摩「どうしました?」


提督「なあ筑摩…」



嫉妬めいた感情が顔を覗かせたせいか、意地悪な質問をしてしまう。



提督「利根が帰ってきた後…俺と利根が同時に家事で困ってたら…お前はどっちを優先するんだ?」


筑摩「え…」



俺の質問に筑摩が固まってしまう。


何やってるんだ俺は…こんなこと言って筑摩を困らせてどうする…!



提督「はは、冗談だよ。それだけ筑摩の家事が完璧だったから今後が少し不安でな」


筑摩「そ、そういう意味でしたか…。大丈夫ですよ、呼んで頂ければ私はいつでも来ますから」


提督「そうか、頼りにしてるよ」


筑摩「はい。それでは失礼しますね」






掃除を終えた筑摩が部屋を出て行った。








提督「『呼んでいただければ』…か…」




先程筑摩の言った言葉が頭を中で再生される。



まるで筑摩が利根を最優先にしていることを表していたみたいで胸の奥が嫌な疼きを感じる。




提督(これまで世話になっていて…俺は何を…)



頭を振って悪い考えを振り払い、手に持っていた書類を開ける。




提督「…」



祈るような気持ちと諦めの気持ちを持ちながら青葉の報告書を確認した。





そこには…





提督「はは…」




見たくもない、想像通りの結果が書かれていた。





龍田『姉の天龍のこと以外は今は考えたくない』


比叡『どんな時でも金剛お姉様を最優先にしたい』


筑摩『利根姉さんのことが何よりも一番』




提督「…」




覚悟はしていたけど…


改めて現実を突きつけられると辛い…





ガックリと両膝をついてしまい、気が抜けた時だった






提督「っぐ!?うぁぁ!!」




強烈な痛みが襲い掛かって来る




その痛みはまるでこれまで自分が目を背け、逃げ続けた報いだと言わんばかりのものだった




提督「う…ぐ…!…!」




声を出すことができない程にジンジンと痛む




提督(もう時間が無い…!腹を決めるしか…だが…)





覚悟を決めて携帯電話で病院に居る友人の医師に連絡を取ることにした













「死にたく…ない…」

















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【鎮守府内 食堂】




龍田「…」



食堂でキョロキョロと龍田が配膳された食事を持ちながら視界を彷徨わせている。



天龍「提督なら来てないぞ」



先に座って食べていた天龍が龍田に声を掛けた。



龍田「何言ってるの~、私が探していたのは天龍ちゃんよ~」


天龍「…」



素知らぬ顔で隣に座る龍田に天龍が訝し気な視線を送る。



天龍「なあ龍田、いい加減俺をダシにして提督を避けるのをやめねえか?」


龍田「え…」



天龍の言葉に龍田が固まった。



龍田「何言ってるの~?私はいつだって天龍ちゃんが一番よ~?」


天龍「あのなぁ…」



すぐにいつもの笑顔を作って言葉を返してきた龍田に天龍は心底呆れた。



天龍「そんなことだとコンビに油揚げを攫われるぞ」


龍田「それを言うならトンビ…」






比叡『間宮さーん!厨房借りてもいいですか!?』





龍田が間違いを指摘しようとした時、食堂に比叡の大きな声が響いた。



霧島「ひ、比叡姉様…今は食事中ですよ…」


間宮「今料理中で立て込んでて…後でいいですか?」


比叡「はい!ありがとうございます!」



元気良く返事をして厨房に入りかけた比叡が霧島に引っ張られながら出てきた。



霧島「落ち着いて下さい、どうしたのですか?」


比叡「なんか…司令の元気が無いような気がして…前に司令が最高って言ってくれたチーズケーキを作ろうかと思って…」



提督のことを真剣に考えている比叡を目にして龍田に複雑な感情が湧いてくる。



天龍「ほら、噂をすれば、だぜ?」


龍田「…」



更に天龍に煽られてしまい、龍田は比叡のところへと近づいて行った。



龍田「きっと提督も喜びますよ~」


比叡「え?」


天龍「お、おい…」



天龍の止める間もなく龍田が比叡に釘を刺してしまう。。



龍田「以前は比叡さんの料理を食べるたびに倒れたり苦しんだり、その後の執務に支障をきたしたり大変でしたから~」


比叡「そうかもしれないけど…でも今は司令は喜んで食べてくれますよ?秘書艦さんがな~んにも差し入れしようとしないから、比叡が代わりに用意させてもらっています」


龍田「…」


比叡「…」


天龍「二人ともよせよ…」


霧島「比叡姉様、何もそんなムキにならなくっても…」



一触即発の空気に天龍と霧島が一応止めようとする。



そこに…



筑摩「お二人とも落ち着いて下さい」



筑摩が止めに入ったかと思えば…



筑摩「こんな不毛な争いをしても仕方ないですよ」


龍田「こんな…」


比叡「不毛…?」



微妙に棘のある言い方で二人を煽ってしまった。



龍田「押しかけ女房気取りは黙っていてくれるかしら~?」


比叡「司令が何も言わないことを良いことに部屋まで押しかけて…」


筑摩「あなた達にそれを言われたくないですね、何の進展もない秘書艦さんと提督を実験台にした料理人さん?」



3人の静かな言い争いに冷え切った食堂の空気が一層張り詰める。



筑摩「何でしたら秘書艦を代わりましょうか?」


龍田「ごめんなさいね~?私はに秘書艦に『選ばれた』から代わることはできないわ~。だって選んでくれたのは提督ですもの~」


筑摩「比叡さんも提督を実験台にするのはもうやめたらどうですか?」


比叡「私が料理下手だったのは認めます。でも司令が『ずっと付き合ってくれた』からこそここまでできるようになりました。今更止めるつもりはありません。そっちこそ司令の部屋にまで押し掛けるのは止めたらどうですか?」


筑摩「提督もお忙しい方で家事をする暇が無くってお困りの様でしたから私が自主的にやっていることです。提督は快く『部屋に迎えてくれました』よ?」



一部を強調し、それぞれが牽制をしながら棘を交わし合う。


険悪な雰囲気に入りそうなのに誰もそれを止めようとしない。



龍田「だったら私が提督のお世話までしっかりと…」


比叡「それなら比叡が秘書艦を…」


筑摩「でしたら提督に料理を出すのは私が…」



次第に…



龍田「…」


比叡「…」


筑摩「…」



3人とも勢いを失っていき…



龍田「ごめんなさいね~…」


比叡「すみませんでした…」


筑摩「大変失礼いたしました…」



お互いが謝り合ってこの場は収まってしまった。






天龍「やれやれ…」


霧島「本当…毎度毎度…キリがありませんね…」




3人の言い争いはいつもの光景なのか、誰も止めようとはしなかった。




龍田も比叡も筑摩もこんな不毛な争いをしても何もならない、何も進展しないことなどわかっている。


何も変えられず、変わることを恐れていて前に進めない自分の苛立ちをぶつけても何もならないことなどわかっているのだ。













しかしそんな提督と3人を取り巻く環境が



少しずつ変わり始めることになる…







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【鎮守府内 執務室】





龍田「提督~、大本営からお手紙です~」



いつものように龍田が提督に書類を持って来た。

差し出す前に少し頭を下げて撫でて欲しいとアピールをする。



提督「ありがと…」


龍田「…?」



しかし提督は小声でサッと書類を受け取ると視線を机に戻してしまった。



龍田「…」



いつものような元気のない提督に龍田が心配になってしまう。



龍田「どうしたの~提督?どこか調子が悪いのかしら~?」


提督「別に…」


龍田「…」



やはりいつもの元気がない。

増々心配になった龍田は…



龍田「失礼しますね~」



手袋を外し、手の平を提督の額に当てる。



提督「っ!?」


龍田「え…!」



しかしそんな龍田に対し提督は一瞬身体をビクつかせた。

その表情は驚きよりも何かを堪えるような辛そうな顔に見える。



龍田「ど、どうしたの~…?」


提督「なんでもない…」


龍田「でも…」


提督「席外す…」



龍田が止める間もなく


辛そうな顔をした提督は早足で執務室を出て行ってしまった。





龍田「…」





あのような提督を見たことは無い


独り残された龍田は自分の態度に何かまずかったことは無いか思い返していた。






【鎮守府内 廊下】




比叡「あ!司令!」



廊下を歩いていた提督が比叡に声を掛けられて振り返る。


比叡は手に大き目の皿を持っていてその上には見た目も美味しそうなチーズケーキが乗っていた。



比叡「前に司令が美味しいって言ってくれたチーズケーキが完成しました!見て下さい、美味しそうでしょう?」


提督「…」


比叡「はいどうぞ!」



比叡が提督の顔近くにチーズケーキを差し出した。



提督「…」


比叡「司令…?」



しかし提督は辛そうな顔をするだけで中々食べようとしてくれない。



比叡「あ、あの…自信作なんですけど…」


提督「ああ…」



比叡が不安そうな顔をしたので提督は意を決してといった顔でチーズケーキを口へと運ぶ。



提督「っぐ…ぅ…」


比叡「し、司令!?」



しかし提督は美味しそうな顔を見せず、辛そうに顔をしかめているだけだった。



提督「ありがと…比叡…」


比叡「え…」



提督はそれだけ言うと足早に比叡から離れ歩いて行ってしまった。

















比叡「司令…」



最近元気のない提督のためにと張り切って用意したチーズケーキを持ったまま、比叡は暗い顔で俯くことしかできなかった。






【鎮守府内 提督の私室】




筑摩「おかえりなさい提督」


提督「ああ…」



私室に戻るといつものように筑摩が部屋の掃除をしていた。

最初は『おかえりなさい』に照れていた筑摩だったが、最近は自然と言えるようになったらしい。



提督「…」


筑摩「…?」



甲斐甲斐しく世話をする筑摩を横目に提督はキョロキョロと何かを探している。



筑摩「何かお探しですか?」


提督「健康保険証…どこやったっけ…?」


筑摩「あ、はい、それでしたら確か…掃除している時に一度見掛けて…」



筑摩は提督の探し物に付き合い棚にある入れ物から健康保険証を取り出した。



筑摩「どうぞ。どこか具合が悪いのですか?」


提督「いや…そういうわけでは…大丈夫だよ」


筑摩「そうですか…?」



筑摩の疑わしい視線から逃れるように提督は目を逸らした。



筑摩「提督、もしよろしければ私にもっと何かさせてもらえませんか?」


提督「…?」


筑摩「私、料理にも書類整理にも自信があります。できることがあるのならもっと頼って頂きたくって…」


提督「いや…いいよ」


筑摩「え…」



筑摩の献身的な提案に提督は即座に断った。



提督「ただでさえ筑摩には身の回りの世話をしてもらっているんだから…これ以上迷惑は掛けられないよ」


筑摩「迷惑だなんて…私は…」


提督「利根が来た時のためのって言ってただろ…?」


筑摩「あの…それは…」


提督「今日もありがとうな…」


筑摩「あ…ぅ…」



これ以上話すことは無いという態度が提督から感じられ、筑摩は部屋を出るしかなかった。






筑摩(罰が当たったのでしょうか…)




あわよくば龍田、比叡のしていることを自分が奪ってしまおう


そんな打算的なところを見抜かれたのかと筑摩は行動を起こしたことを後悔していた。












提督の体調が悪い、気分が悪い、または機嫌が悪かっただけだと彼女らは結論付けたが




その翌日…状況は悪化の一途を辿ることとなる。











【鎮守府内 執務室】




提督「…」


龍田「…」



執務室ではただ書類を整理する音だけが聞こえる。


この日、提督は一切口を利かずひたすらに書類を整理しようとしていた。




龍田「あの~…提督?」


提督「…」


龍田「そんなに急いで書類を片付けようとしなくっても~…もう少しゆっくり…」


提督「…」


龍田「…」



まるで龍田が見えていないような態度で提督は書類に向かい続けた。


そんな気まずい空気を何とかしようと龍田は色々と考えを張り巡らせる。



龍田(今までこんなことなかったのに…)




…もしかして自分は知らず知らずのうちに提督を怒らせていた?


そんな不安が過る。



身に覚えがないわけではない。


龍田はずっと提督を避けるようにしてきたのだから。




龍田「…」



この空気を変えるべく、意を決して龍田は行動を起こすことにした。




龍田「提督~?そんなに気負わないで~」


提督「…」



一旦提督の視線を机から自分に向けさせようと…



龍田「そんな怖い顔で仕事してたらダメよ~」



龍田は両手をゆっくりと提督の顔に手を伸ばした。



提督「…っ!!」









バチンッ!!







龍田「え…」



そんな龍田の手を提督は強く振り払ってしまい、静かだった執務室に大きな音が響いてしまった。



龍田「…」



そのショックに龍田は言葉を失う。



提督「…な…ぃ…」






提督は小声で絞り出すように『すまない』と言って龍田の視線から逃げるように執務室を出て行った。











龍田「…」



あまりのショックに龍田はしばらく一人で立ち尽くし




龍田「ぅ…っ…」



提督の戻らぬ執務室でたくさんの涙を零した。







【鎮守府内 廊下】





比叡「司令…」



提督が廊下に出ると待っていたと言わんばかりに比叡が駆け寄ってきた。


手には大皿、一見昨日と同じようなチーズケーキを乗せているように見えるが…



比叡「あ、あの…!昨日作ったのがお気に召さないと思いまして、間宮さんに相談しながら改良してきました!」


提督「…」


比叡「ど、どうぞ…!最高傑作です!」


提督「…」



前日の遠慮がちだった提督に少し不安になりつつも比叡がチーズケーキを差し出した。


見た目も香りも良く比叡の言った通り最高傑作なのは間違いなさそうだ。




提督「…」



しかし提督はそのチーズケーキに手を伸ばすことなく



比叡「司令…?大丈夫ですか?なんか顔色が…」


提督「…」



提督は比叡に手の平を見せて『いらない』と示すとそのまま足早にその場を離れて行った。













比叡「なんで…ぐすっ…ぅ…」









冷たさすら感じてしまう提督の態度に胸を痛めた比叡の涙が皿の上のチーズケーキにポトリと落ちた。








【鎮守府内 提督の私室】





筑摩「…」




部屋の掃除を完璧に終えた筑摩が部屋でずっと提督を待っている。


その部屋の綺麗っぷりは尋常なものではなくチリひとつ見当たらない。



少しでも提督に褒めてもらいたい、そして昨日のことを振り払いたいという気合の表れであった。




しかし…




筑摩「遅い…ですね…」




夜遅くなっても提督が帰ってくることは無かった。


『もしかして自分が居るから帰りづらいのではないか』という不安が過る。


そんな考えが浮かび振り払うというのを繰り返したが、もう限界だった。





筑摩「お邪魔しました…」





誰もいない部屋に静かに呟くと筑摩はゆっくりとドアを開けて部屋を出て行った。









筑摩(そういえば聞きそびれましたね…)






いつものように提督の洗濯物をタンスに入れようかと思った時、いつもより多めに着替えが無くなっていることに気づいた。


出張でもあるのかと思ったが、それにしては減っていた着替えの量が多かった。




筑摩「明日聞いてみましょう、うん」



そう気持ちを切り替えるように自分を言い聞かせ、筑摩は歩き出した。













龍田も


比叡も


筑摩も



この時は思いもしなかった。






翌日から提督が姿を消すことになろうとは…










【鎮守府内 廊下】





廊下に艦娘達が集まりざわざわとしている。


集まっているのは廊下にある掲示板の所だった。

鎮守府に所属する全艦娘向けの連絡事項などが貼られているのだが…





龍田「…」


天龍「龍田…」




いくつも貼られている案内の中で注目を集めたもの






『秘書艦龍田の任を解く』





龍田が秘書艦から外れるというものだった。






『どうしていきなり…』


『何かあったのかな…』


『提督、最近なんか元気なかったよね…』




天龍「おい!」



ひそひそ話をする他の艦娘達に対し、天龍が声を上げて睨む。



龍田「天龍ちゃん…いいのよ~…」


天龍「でもよぉ!」


龍田「仕方のないことだからね~…」



諦めたように俯く龍田の目から涙が零れた。





天龍「くそっ!」




そんな龍田を見て天龍が執務室の方へと走り出した。





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比叡「ねえ…あれって…」


霧島「どういうことですか…」




その龍田の秘書艦解任の文章の一番最後にはこう書かれていた。




筑摩「提督…」






『提督代理』と。





その文を見て比叡も筑摩も執務室へと走り出した。




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【鎮守府内 執務室】






天龍「おい!提督!どういうことだよ!龍田を秘書艦から外すって!!」



ノックもせずに天龍は執務室へと怒鳴り込んだ。



天龍「あいつがこれまでどれだけ…」



しかし天龍はそれを目にしてすぐに言葉が詰まってしまった。






??「ダメですよ?今後は執務室に入る時はちゃんとノックして下さいね」




執務室に提督の姿はなく、誰かが机に座っていた。




比叡「司令!え…」


筑摩「一体どういう…」



同じように執務室に入ってきた比叡と筑摩も固まってしまう。




天龍「誰だよ…お前…」



天龍が震える手で指を差す。




彼女はスッと立ち上がり3人に頭を下げる。




??「提督さんの代理として大本営より派遣されてきました…」




そして顔を上げて不敵な笑みで見つめ返した。




鹿島「練習巡洋艦、鹿島です。よろしくお願いしますね、うふふ」






その逆らえない雰囲気に天龍も比叡も筑摩も背筋が冷たくなるのを感じた。







【鎮守府内 執務室】




鹿島「秘書艦さんを呼んでいただけますか?」


天龍「え…」


鹿島「お願いします」


天龍「わ、わかった…」



いくつか質問をしようとしていた天龍だったが鹿島からの要望に素直に応えてしまった。




しばらくして執務室に龍田が連れて来られた。




龍田「提督…は…?」



提督のいない執務室に入った龍田が彼を探して視線を彷徨わせた。



龍田「提督はどこなの…」


鹿島「お答えできません」


比叡「どうしてあなたが代理を…」


鹿島「お答えできません」


筑摩「提督はいつお戻りになられるのですか…」


鹿島「お答えできません」



鹿島が3人の質問を一蹴する。


全く答える気の無いあざ笑うかのような態度に龍田がしびれを切らす。




龍田「答えろって…」


天龍「た、龍田!?やめろ!」


龍田「言ってるのよっ!!」




龍田はいつも装着している薙刀を持って鹿島の首につきつけた。



鹿島「うふふ」


龍田「な、何…」



しかし鹿島は驚くこと無く不敵に笑ったままだ。



鹿島「どうぞ、首を落として下さい」


龍田「え…」


鹿島「そんなことをしたらもう提督さんに会えなくなりますけどね、ふふっ」


龍田「そんな脅しに…!?」


鹿島「どうぞ」



平然としている鹿島は手を伸ばし柄の部分を掴む。




龍田「は、放してっ!!」



そして刃で自分の首を落とそうと引っ張り始めた。



鹿島「どうしました?この薙刀は飾りですか?」


龍田「や、やめ…!」


天龍「っく…!」



戸惑う龍田を助けようと天龍が龍田の薙刀を掴み、二人掛かりで鹿島から引き離した。



鹿島「それでは元秘書艦さん、提督さんの代理として命じます。資料を準備して下さいね」


龍田「…」





刃を向けていたはずなのに自分に刃を向けられているような恐怖を感じてしまった龍田は鹿島に恐怖し、言われた通りにするしかなかった。






その日、鹿島が提督代理をすることとなった鎮守府は



多少の混乱が起こることにはなったが、鹿島が上手く艦娘を収め



しっかりと提督の後を引き継いで鎮守府運営を始めたのだった。







【鎮守府内 食堂】




提督が行方不明になり、鹿島が秘書艦代理を務めて2日目、相変わらず提督の姿は見えず連絡も無いままだった。



龍田「…」


天龍「龍田…ちゃんと食わないと…」


龍田「ええ…」



龍田は元気なく俯いているだけだった。



筑摩「龍田さん…少しよろしいでしょうか?」


龍田「え…」



そんな龍田に声を掛けたのは筑摩、



比叡「お聞きしたいことがあるのですが…」



そして比叡の二人だった。




天龍「俺は少し席外すぜ、自分なりに動いてみるわ」



その張りつめた空気を察してか天龍が席を離れた。







比叡「司令がいなくなる前、少し様子がおかしくありませんでしたか?」


龍田「え…」


比叡「元気が無かったとか…顔色悪かったりとか…」



何かの当てがあって話す比叡に龍田が不安になる。



龍田「えっと…元気が無いというか…何かを我慢するような辛そうな顔してたような…」


比叡「やっぱり…そうですよね…」


龍田「何かあったの…?」


筑摩「あの…提督がいなくなる前にですね…」




筑摩が提督がいなくなる前、健康保険証を探していたことを伝えた。



龍田「どうして…」


筑摩「理由は教えてくれませんでした…あの時しっかりと聞いておけばよかったのですけど…」



理由がわからないことにもどかしさを感じるが、悔しそうに俯く筑摩を前に追及することはできなかった。



筑摩「それに…提督のお着替えが一式無くなっていて…」


龍田「な…」


筑摩「もしかして…ですけど…」



暗く俯いた筑摩の顔が一層暗くなる。



筑摩「提督は…治療のためにどこかへ入院したのではないのかって…」




その筑摩の言葉に龍田の胸が苦しくなった。


吐き気と眩暈に襲われ、座っていなければ倒れているところだったかもしれない。





比叡「あの…ですね、それを確かめるために調べようかなって思ってます」


龍田「調…べる…?でも…執務室は…」



執務室は鹿島の管理下となっており、とてもではないが何かを調べられるような状況には無い。



筑摩「調べるのは…」



筑摩がポケットから何かを取り出す。



筑摩「提督のお部屋です」



いつも提督の部屋に行っていた筑摩が部屋の合鍵を見せた。







龍田「…」





主のいない部屋で家探しをするなど気が引けたが…




このまま何もせずにいると頭がおかしくなりそうだったので、龍田は行動を共にすることを決めた。









【鎮守府内 提督の私室】





比叡「お邪魔しまーす…うわ…!」



部屋に入った龍田が変な声を上げる。



龍田「きれいすぎるわね~…」


比叡「埃ひとつ落ちてない…」


筑摩「提督に喜んでいただけると思って…」



戻ってきた提督を驚かせようと思って徹底的に掃除したが二人を驚かせてしまった。



筑摩「いつも掃除しているのは…」



筑摩は龍田と比叡にいつも掃除している場所を伝える。

これからそれ以外の場所を一緒に調べてもらうためだ。



3人は別れてそれぞれの場所を調べ始めた。









比叡「ゴクリ…」



提督のプライベートに触れる家探しに比叡が緊張から唾を飲み込む。

少し手を震わせながらも机の引き出しを調べようとした。



比叡「鍵…掛かってないですね…」



恐る恐る比叡が引き出しを開ける。




比叡「あ…」





引き出しの中ですぐに目に飛び込んできた物。


それは3枚の写真だった。




龍田「どうかしたの~…?」


筑摩「え…」



固まっている比叡の様子が気になって二人が近づいた。



比叡の手に持っている写真に気づくと同じように固まってしまう。



写真に写っていたのは笑顔の龍田、比叡、筑摩だった。




龍田「…」


比叡「…」


筑摩「…」



その写真が何を意味しているのか、何となく感じ取ってしまう。




3人の胸の中の後悔の念が一層強くなっていく。





『どうしてもっと素直になれなかったのか』





そんな想いがずっと胸の中を支配してしまい




この後、何の情報も得られずに提督の部屋を後にするしかなかった。







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天龍(提督の様子がおかしくなったのは確か…)




何か変わったことが無かったか天龍は様々な考えを巡らせていた。



天龍(そういえば龍田と提督の関係を根掘り葉掘り聞こうとした奴が大本営から来てたっけ…)





ひとつの思い当りに辿り着き、天龍は行動を開始した。




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【鎮守府内 執務室】




龍田「あの~…提督の連絡先は…」


鹿島「お答えできません」


比叡「それじゃあ…連絡はありましたか?」


鹿島「お答えできません」


筑摩「お休みを頂きたいのですが…」


鹿島「許可できません」



相変わらず鹿島は3人の意見に一切答えようとせず受け入れようともしない。


そんな鹿島に対し苛立ちが募り3人は勝手に行動してしまおうかという気持ちが湧いてきてしまう。



鹿島「言っておきますが勝手な行動は慎んで下さいね?執務室とか提督さんのお部屋とか勝手に調べたりしないようお願いします」


筑摩「…!?」


鹿島「うふふっ」



内心ドキリとしながら鹿島を見てしまう。

彼女は不敵に笑い余裕のある表情で見つめ返していた。



龍田「何の事かしら~…?」


鹿島「いえ、そんな不届き者がいたら提督さんも悲しむかな~って思いまして」


比叡「わ…私達はそんな…」


鹿島「そんなこと、してないって神に誓えますか?」



全てを見透かしたような鹿島の言葉に3人は絶句してしまう。


戦闘力が低めの練習巡洋艦だというのに…彼女には絶対に逆らえない威圧感を感じてしまっていた。




鹿島「そうですね…ひとつだけ教えて差し上げます」



そんな鹿島から意外な言葉が聞こえてきた。



鹿島「提督さんからの忠告…言伝ですが…」


龍田「え…」


比叡「し、司令から!?」


鹿島「はい」



『提督からの言葉』というのに3人が嫌でも反応してしまう。




鹿島「提督さんからは『何があっても3人だけには教えるな』と言われています」


筑摩「え…」


鹿島「そして『鎮守府から絶対に出すな』とも言われました」


龍田「それってどういう…」


鹿島「以上です」


比叡「も、もう少し詳しく…!」


鹿島「お答えできません」



中途半端な言伝だっただけに真意が掴めず、3人は鹿島に詰め寄ろうとする。


そんな慌てる3人を見て鹿島は薄く、そして冷たく笑った。



鹿島「そうですね…ここからは私の予想ですが…」



鹿島がわざとらしく考えるような仕草をする。



鹿島「提督さんは皆さんに余程知られたくないことがあったのではないでしょうか?」


筑摩「知られたくない…?」


鹿島「例えば…異動しなければならないとか?」


龍田「そ、そんなことは…」


鹿島「それに…お見合いが決まったとか、海軍提督を辞めなければならないとか」


比叡「や…やめて下さい…」



鹿島の言葉はあくまで予想だというのにどうしても耳を傾けてしまう。













鹿島「なにか…重い病に罹ってしまったとか?」











龍田「…!?」


比叡「あ…」


筑摩「そ、それは…」





思い当たる節があって心臓の鼓動が強くなってしまった。






鹿島「話は以上です」


龍田「ま、待って…」


鹿島「大丈夫ですよ、後2、3日もすればわかりますから」


比叡「え…」


鹿島「嫌でも…ね。うふふふっ」


筑摩「…」





これ以上何も聞くことはできず、3人は力無く執務室を出るしかなかった。









【鎮守府内 談話室】




霧島から少し時間を取れるかと聞かれ3人は翌早朝、誰もいない時間に談話室に集まった。


『何もこんな時間に…』と思ったがそれほどまでに大事な話なのだと思い何も言わずに談話室に来た。




霧島「実は…司令の行方を探偵を使って調べました」


比叡「え…?」


筑摩「探偵?」


霧島「はい、この監視下の元では自由に動くことはできませんので外部に頼むことしかできないかと思って…」



霧島は探偵事務所に提督の写真と最低限の情報を与え行方を調べさせた。



霧島「その結果…」


龍田「…」


霧島「…」


比叡「霧島…?」



霧島が言い辛そうに唇を噛み締める。


その雰囲気に3人に嫌でも冷や汗が流れた。




霧島「司令は…病院に向かう途中、救急車で運ばれたって…」


筑摩「な…!?」


龍田「ぶ、無事なの!?」


霧島「生きてはいるみたいです…入院しているみたいですし…。ただ、どのような症状なのかまでは…」


比叡「そ…んな…」



自分達が想像していた以上の話に言葉を失い寒気を感じる。



そんな寒気から逃げ出すように3人は立ち上がり同時に動き出した。



霧島「ちょ、ちょっと!こんな時間にどこへ行くのですか!?」


龍田「行かなきゃ…!」


筑摩「急がないと…!!」


比叡「霧島!あとは任せました!!」


霧島「後は任せたって!待って下さい!」



霧島が止める間もなく3人は走って出口の方へと向かって行った。


本当は言うべきかどうか迷っていた霧島だったが3人の様子を見て居ても立っても居られなくなり現状の情報を与えてしまった。

まだ中途半端な情報なのに話してしまったことを霧島は悔やんだ。



























「あらら、やっぱりこうなりましたね。うふふっ」











その様子を見ていた者は楽しそうに笑みを見せていた。
















【鎮守府から離れた病院】




3人はタクシーを使い、鎮守府からかなり離れた病院へ向かった。



鎮守府の近くにいくつも病院があるというのにどうしてこんなにも遠い病院に…?

そんな不安が3人の頭を過る。



病院の受付に着くと早速面会を希望した。


看護師が提督の名を調べ、部屋を確認しようとするが…




龍田「既に…退院…?」



提督は少し前に退院し、病院を出ていたということだ。



比叡「入れ違いになったってこと…?」


筑摩「でも…退院できたというなら…」



少なくとも重病ではない、そう思うことができた。



看護師にどこへ向かったのか聞いたがさすがにそこまでは把握しておらず、提督の行方はわからなくなってしまった。



筑摩「あっ」



途方に暮れていると筑摩の携帯が鳴る。


表示された連絡先は鎮守府からだった。



筑摩「もしもし…」


鹿島『お仕事をほっぽリ出して、みなさんどこへ行っているのですか?』


筑摩「…!」



相手は攻めるような口調の鹿島だった。

筑摩は手を震わせながら携帯をスピーカーに切り替え、龍田と比叡にも聞こえるようにした。



鹿島『残念ながら提督さんはもう病院にはいませんよ?』


龍田「どこに居るのか知っているの…?」


鹿島『もちろん知っていますよ?』


比叡「お、お願いします!教えて下さい!」


鹿島『教えるも何も…ねえ提督さん?』


筑摩「え…!?」




電話の鹿島の声が遠ざかり…




提督『おい、お前達今どこに…』






一瞬携帯から提督の声が聞こえたと思ったら



龍田「て、提督!?」


比叡「も、もしもし!?」


筑摩「ご無事なのですか!?」






『…』





すぐに提督の声が聞こえなくなり、電話が切れてしまった。





一体どういうことなのか?と3人は顔を見合わせるが何も思い浮かぶことは無い。



今わかっているのは鎮守府に提督が居るということのみ。





3人は神妙な面持ちのまま急いで来た道を戻り始めたのだった。














【鎮守府内 執務室】




龍田「提督っ!!」




ドアを破壊しかねない程に勢いよく開けて執務室に3人がなだれ込む。



鹿島「あら、お帰りなさい」



3人を出迎えたのは鹿島、そして…



比叡「司令!大丈夫ですか!?」


提督「あ、ああ…どうしたんだそんな血相変えて…」



提督は執務室の机に座り書類を片付けていた。

いつもの光景と思えるその姿に思わず胸がきゅっと締め付けられた。



筑摩「提督…少しやつれてませんか…?」


提督「まあ…しばらく食事を摂れていなかったからな…」


比叡「そんな…」


龍田「…」



食事を摂れない程に酷い病なのだと3人は血の気が引いてしまった。



龍田「ダメよ…」


提督「何が?」



龍田が提督の手を引いて立ち上がらせようとする。



龍田「病院に戻りましょう…ね」


提督「ど、どうして…」



泣きそうな顔で執務室から連れ出そうとする龍田に提督は戸惑ってしまう。



比叡「龍田の言う通りです!司令!病院に戻りましょう!」


提督「ひ、比叡まで、何言って…」


比叡「ご飯もまともに食べられないのにお仕事なんかしないで下さいっ!!」



大きな声を出した勢いと共に比叡が涙を零した。


そんな比叡を見て提督がぎょっとする。



提督「ちょっと…俺はもう何とも…」


筑摩「嘘言わないで下さい…」


提督「ち、筑摩…?」


筑摩「提督は…この鎮守府が心配で無理をして帰ってきたことはわかっています」


提督「い、いや…そうじゃなくて…」


筑摩「ごめんなさい…提督が…っ…ぅ…重い病をずっと隠していることに…気づけなくて…」



心底申し訳なさそうに筑摩が涙を零し謝罪する。



提督「ちょ、ちょっと鹿島…」




『これは一体どういうことなのか』と提督が鹿島を見る。




鹿島「提督さん、治療は無事に終わりましたよね?」





提督「か、鹿島、それは…!」






それは言わないで欲しいと提督が鹿島を止めようとする。


しかし龍田、比叡、筑摩に捕まっていて身動きができなかった。








鹿島「〇〇の治療♪」










龍田「は…」


筑摩「は…!」


比叡「はぁ!?」






提督が恥ずかしそうに顔を伏せた。











それは遡ること3日前





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提督「うぉ…っぐ…!!」



青葉から龍田、比叡、筑摩に関する報告書を見て気が緩んだせいか、俺の奥歯が異常な痛みを訴えた。


前々から痛いとは思っていたが今回の痛みは尋常じゃない。



これまでは鎮痛剤を飲んで誤魔化してきたが、徐々に効き目が薄くなり痛みでしばらく苦しむことになってしまった。




少し前に口腔外科に勤める友人の医者に予約の連絡をしたが『今は予約でいっぱい。来週なら』と無慈悲な返事が返ってきた。


鎮守府から少し離れた友人が勤める病院ならば艦娘達に知られる可能性も低いはず…



そう思い、いつもより多めに鎮痛剤を飲んで眠ることにした。








深夜、痛みが再発しほとんど眠れなかった。








翌日…












龍田「どうしたの~提督?どこか調子が悪いのかしら~?」


提督「別に…」



龍田が心配して声を掛けてくれたが必要最低限の返事しかできなかった。

少しでも口を動かすと歯と歯茎に激痛が走る。いや、動かさなくても痛い。




龍田「失礼しますね~」



龍田が手袋を外し、手の平を俺の額に当ててきた。

た、龍田…!なんで今日に限ってこんなに優しいんだ!?



提督「っ!?」


龍田「え…!」



そんな龍田に対し、俺は頬を触れられるのかと思い一瞬身体をビクつかせてしまった。




龍田「ど、どうしたの~…?」


提督「なんでもない…」


龍田「でも…」


提督「席外す…」



龍田への申し訳なさ、そしてこれ以上勘づかれないよう逃げるようにその場を離れた。








比叡「あ!司令!」



廊下に出ると比叡が手に大き目の皿を持っていて駆け寄ってきた。

その皿の上には見た目も美味しそうなチーズケーキが乗っていた。



比叡「前に司令が美味しいって言ってくれたチーズケーキが完成しました!見て下さい、美味しそうでしょう?」


提督「…」


比叡「はいどうぞ!」



確かに美味そうだ。

歯の状態が万全なら喜んで噛り付いただろう。



提督「…」


比叡「司令…?」



しかしこんな状況でとてもではないが食べることなどできない。



比叡「あ、あの…自信作なんですけど…」


提督「ああ…」



比叡が不安そうな顔をしたので俺は覚悟を決めてチーズケーキを口へと運ぶ。



提督「っぐ…ぅ…」


比叡「し、司令!?」



味を判別する前に激痛が走る。

比叡の手前吐き出すわけにもいかず気合で飲み込んだ。




提督「ありがと…比叡…」


比叡「え…」



俺はそれだけ言うと足早に比叡から離れ歩いて行ってしまった。


比叡の反応を見る余裕も無く、龍田の時と同じように逃げるようにしてしまった。









【鎮守府内 提督の私室】




筑摩「おかえりなさい提督」


提督「ああ…」



部屋で一息つこうと思ったが筑摩が居るのをすっかり忘れていた。

そんなことを忘れるほどに余裕が無かったのもあるだろう。



提督「…」


筑摩「…?」



とりあえず無理かもしれないが医者の友人に痛みが酷いから何とかして欲しいと連絡を取ってみようか…

そんなことを思いながら健康保険証を探すが見つからない。


どこにやったっけ…



筑摩「何かお探しですか?」


提督「健康保険証…どこやったっけ…?」


筑摩「あ、はい、それでしたら確か…掃除している時に一度見掛けて…」



筑摩は棚にある入れ物から健康保険証を取り出した。

すぐに見つけてくれたのはありがたかったが…できれば自力で発見して見られないようにしたかった。


筑摩が居る内に探してしまう短絡的な行動を悔やむ。



筑摩「どうぞ。どこか具合が悪いのですか?」


提督「いや…そういうわけでは…大丈夫だよ」


筑摩「そうですか…?」



やっぱりこうなるよな…。



筑摩の疑わしい視線から逃れるように俺は目を逸らした。



さて、何と言って部屋から出てもらおうか?と考えていると…



筑摩「提督、もしよろしければ私にもっと何かさせてもらえませんか?」


提督「…?」


筑摩「私、料理にも書類整理にも自信があります。できることがあるのならもっと頼って頂きたくって…」



筑摩が甲斐甲斐しくもっと何かできないかと聞いてきた。

いつもだったらその提案に迷うのだが今はそんな余裕はない。


それに…筑摩が俺に興味が無いことは青葉の報告書にしっかりと書かれていた。

その事実が俺の口を軽くしたのかもしれない。



提督「いや…いいよ」


筑摩「え…」



筑摩の献身的な提案を俺は即座に断った。



提督「ただでさえ筑摩には身の回りの世話をしてもらっているんだから…これ以上迷惑は掛けられないよ」


筑摩「迷惑だなんて…私は…」


提督「利根が来た時のためのって言ってただろ…?」


筑摩「あの…それは…」



筑摩が何とか追いすがろうとするがそれをサッと躱す。

少し胸が痛んだが今後の事を思えばこれくらいは我慢しなければならない。



提督「今日もありがとうな…」


筑摩「あ…ぅ…」



これ以上話すことは無いという態度を見せると筑摩が少し落ち込んだ顔で部屋を出ていった。




提督(これで少しくらいは俺から離れてくれるだろうか?)



筑摩の残念そうな顔を振り払うようにそんな考えを頭の中に思いながら携帯を取り出す。

耳に当てると歯が痛むので正面において友人に連絡をした。






友人『…だからまだ予約状況に余裕はないって』


提督「頼む…!お前しかいないんだ!助け…痛た…」


友人『…ったく』




渋々ながら友人が明後日に予約をねじ込んでくれた。

俺は礼を言いながら電話を切って準備を始める。


『下手をすれば歯茎を切る手術をする可能性があるかもしれないから入院の準備をしておけ』と言われたので早速着替えを揃え旅行カバンに詰め込んだ。




提督「あ…」




俺が居ない間はどうしよう…



秘書艦の龍田にこんなことを言いたくない。

というか歯の治療くらいでこんな大事になってしまったことを艦娘に知られたくない。


そんな浅ましい気持ちが湧いてきた俺は大本営へと連絡をする。





提督「あの…すいません、治療のために鎮守府を空けることになって…」



大本営に連絡をしたのは鎮守府を空けなければならなくなったこと、そして…



提督「はい…できれば皆が混乱をしないよう代理を…」



代理の提督を派遣するのを依頼する為だった。



提督「え?ベテランの艦娘を?それは助かります、ぜひ。い、痛たた…ええ、大したことありません。それでは…」



大本営の役員からは後で診断書を必ず送ることを言われた。

内容が内容だけに叱られるかもしれないが、この痛みから解放されると思うと些細なことだった。








しかし翌日…



提督「っぐ…!?っ…ぅぅ…」




口の中の異常な痛みによって目が覚めた。


腫れていた歯茎がさらに膨れ上がり口を閉じると激痛が走るようになった。


おまけに腫れた歯茎が邪魔になり口を閉じるのも難しく、無理やり閉じるとしかめっ面になってしまう。

とてもではないが食事など摂れる状態ではなかった。




提督(今日さえ乗り越えられれば…!)



今日は病院も行けず、大本営からの代理提督も明日しか来ない。

そう思うと執務室へと向かうという選択肢しか残されていなかった。






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龍田「それじゃあ辛そうな顔でお仕事をしていたのは~…」


提督「歯が痛いのを我慢していただけなんだ…それに仕事を引き継げるよう必死に資料を揃えていた」


龍田「私の手を振り払ったのは…」


提督「あの状態で頬に触れられたら激痛で悶えていたかと…」


比叡「私の作ったチーズケーキを食べてくれなかったのは…」


提督「食べなかったんじゃなくて、食べられなかったんだ…」


比叡「それじゃあ少しやつれて見えるのは…」


提督「最近まともに飯を食っていない…病院でも点滴中心だった…」


筑摩「お部屋から着替え一式が無くなってて…その日部屋に帰ってこなかったのは…」


提督「部屋の外の旅行カバンに着替えを入れてすぐにでも出られるよう準備していたんだ。そして…」



提督の視線が鹿島に送られる。



提督「代理提督として派遣されることになった鹿島から『外で会いませんか』と連絡があったんだ」


鹿島「うふふっ」



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【鎮守府外 とあるレストラン】




鹿島が指定したのは鎮守府近くのレストランだった。


客の入りが多く、逆に目立たないと思い鹿島が選んだのだった。




鹿島「…大丈夫ですか?」


提督「…」



この時提督は痛みが酷すぎて鹿島の問いにまともに答えることはできなかった。


話すことができないので提督はスマホを取り出してそれで会話をすることにした。




鹿島「提督代理として大本営より派遣されてきました、練習巡洋艦鹿島です。宜しくお願い致しますね」


『よろしくお願いします』


鹿島「病気治療のためにお休みを、ということでしたがもしかして…」



鹿島が頬を指差す。



『歯です』


鹿島「痛そうですね…」


『痛いです』



見ていられないと心配そうな顔で鹿島が提督を覗き込む。



鹿島「えーっと…引継ぎ用の資料は…」


『執務室の机の中に、鍵はこちらです』


鹿島「現在の秘書艦さんは…」


『軽巡洋艦龍田です。何かあったら彼女に聞いて下さい。長いこと秘書艦をやってもらっていますから知らないことは無いかと』


鹿島「わかりました」



鹿島は聞き取った内容をメモに一通り書いていく。



鹿島「それにしても…」



鹿島がメモを閉じて提督をチラリと見た。



鹿島「どうしてこんなになるまで放っておいたのですか?」





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筑摩「本当です!どうして教えてくれなかったのですか!」


比叡「別に隠すようなことじゃないでしょう!」


龍田「どうして…ずっと黙って…隠してたの…?」


提督「ぅ…それは…」



いつの間にか3人から責められるような構図になっていた。




提督はしばらく言い辛そうにしていたが、やがて観念したようで口を開いた。




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『艦娘達の手前言い出せなかった』



鹿島「どうしてですか?」



『海上で命を懸け、戦っている艦娘達に…こんなこと言えないさ』



鹿島「でも…」




だからといってこんな酷くなるまで我慢しなくても、そう鹿島は思ったが…







『歯医者が…怖いなんて』





鹿島「え?」





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龍田「怖い?」


比叡「歯医者が、ですか?」


提督「ああ…」



提督は恥ずかしそうに顔を伏せた。



筑摩「ど、どうしてですか…?」


提督「かなり前の話だが…」






親知らずを抜こうと歯医者に行った時のこと。

その歯医者は腕が悪く、どれだけ抜こうと引っ張っても抜くことができなかった。


その間に口の中をズタズタにされ、傷口が化膿し腫れあがって地獄を見たとのことだ。

その出来事が提督のトラウマとなってしまい、中々歯医者へ行くという決断をすることができなかったのだという。





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鹿島「では…その他、注意事項等何かございませんか…?」




半ば呆れながらも鹿島が話を先に進めてきた。



『艦娘達には上手く誤魔化して欲しい…特に秘書艦の龍田と比叡、筑摩には…』


鹿島「わかりました」




念を押すように提督が3人に隠すようにして欲しいと頼み、そのままよろよろとした足取りでレストランを後にした。










鹿島(さて、と…)




一通りの情報を整理した鹿島がこれからのことを考えながらひとつの書類を取り出す。




それはある人物からの依頼が書かれたものだった。






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提督「以上がこれまでの経緯だ…心配掛けてすまなかった…」




提督が3人に対し深々と頭を下げた。



龍田「本当よ…!どれだけ心配したと…っ…ぅ…」


提督「え…」



龍田の涙声に思わず顔を上げる。

見ると龍田の目から大粒の涙が零れていた。



比叡「わ、私…司令に嫌われてしまったのかと…えぐっ…」


筑摩「で、でも…本当に無事で…よ、良かった…ぅ…ひっく…」



龍田だけじゃなく、比叡、筑摩も泣いていた。



ここまで自分のことを心配してくれて嬉しいと思う反面




提督「はは…」




彼女達の気持ちが自分に向くことは無いのだと思うと提督は少し悲しくなった。












鹿島「ところで提督さん?お見合いパーティーのことですが」






提督「は…?」


龍田「え…」


比叡「お見合い…」


筑摩「パーティー…?」





そんな空気を鹿島の一言が変えてしまった。




提督「何を言って…」


鹿島「このままではいつまでも独り身だって参加を希望されましたよね?来週開催されるパーティーの参加が決まりました」


提督「お、おい…それは断っ…」


鹿島「ご安心ください、相手は艦娘ですよ?向こうに提督さんの写真を見せたらとても乗り気でした、ぜひともお会いしたいと」


提督「鹿島、ちょっと待っ…」


鹿島「提督さんが気に入ったらこの鎮守府に連れ帰って貰っても構いませんよ。そうです!早速秘書艦に据えましょう!龍田さんの秘書艦の任は解かせてもらってますから」




提督の言葉を無視して鹿島が言葉を続ける。


確かに大本営からお見合いパーティーの話は来ていた。

しかし提督はそれを断ったはず…





龍田「ダメよっ!!」


比叡「そんなとこ行っちゃダメです!」


筑摩「参加なんてしないで下さい!!」




それに対し3人は大きな声で阻止しようと提督に詰め寄った。





鹿島「どうしてですか?」




しかし鹿島は驚くこと無く平然と言い返した。



鹿島「別に良いでは無いですか、せっかくの提督さんのチャンスですよ?部下として、艦娘として喜んで送り出してあげるべきでは?」



刺しかねない程に鋭い視線と指摘に場の空気は増々冷たくなり、3人は言葉を失い俯くことしかできない。



提督「おい…鹿島…」


鹿島「…」


提督「…?」



鹿島は提督だけにわかるよう、人差し指を立てて笑顔を見せた。


その表情は『ここは任せて下さい』と言っているように見えた。




鹿島「ある報告書を見ました」


龍田「報告書…?」



そう言って鹿島は机に置いてある書類を手に取る。



鹿島「大本営からケッコン艦を早く決めるよう促す指令が来ていました」


比叡「ケッコン…?」


筑摩「それって…?」


龍田「あの…」



比叡と筑摩が龍田を見る。

どういうことなのかという視線から逃れるように顔を伏せたが、どのような話があったのかをしっかりと伝えた。


艦娘との特別な絆と聞いて比叡も筑摩も胸に熱いものを感じながら提督を見てしまう。




鹿島「そして…提督さんはケッコン艦を選ぶ前に提督さんが調査を行いました」


龍田「調査って…そんなこと…」


提督「すまない…」



提督の申し訳なさそうな表情が事実なのだと物語っていた。




鹿島「その調査の対象は龍田さん、比叡さん、筑摩さんです」


龍田「え…」


比叡「わ、私も!?」


筑摩「ほ、本当ですか…!?」



調査対象が自分達と知ると色めきだった声を上げてしまう。



提督「…」



しかしそんな3人の反応とは対照的に提督の顔は暗い。



鹿島「調査結果は…『3人とも脈無し。姉を優先して断る可能性大』ですね」



そして鹿島が容赦なく事実を突きつけた。



比叡「う、嘘です!」


筑摩「そんなはずありません!!」


龍田「何かの間違いよ…!」



すぐに3人は反論した。


躊躇なく『断る』ということを否定したのだった。



提督「え…?」



提督は驚きを隠せず顔を上げて3人を見る。

顔を赤くしながらもその目が嘘を吐いている様には見えない。


そして彼女達の否定が何を意味しているのかわからないはずが無かった。




提督「で、でも…青葉の報告書には確かに…」








??「それに関しては…」






執務室の入り口から声がした。




そこには…



天龍「こいつの口からちゃんと説明してもらおうぜ」



天龍と



青葉「うぐ…えぐっ…」



泣き顔になっている青葉がいた。




龍田「天龍ちゃん…どこ行っていたの?」


天龍「ちょっと大本営までな、こいつがすぐに見つかって良かったぜ。おらっ」



そう言って天龍は首根っこを掴んでいる青葉を放す。



青葉「じ、じれいがぁん…ひっく…」


提督「青葉…一体どうしたんだ?」


青葉「ご、ごべんなざぃぃ…」



青葉が泣きながら何かを差し出してきた。






青葉「司令官に渡す報告書…えぐっ…ま、間違えてましたぁ…」


提督「…」







提督「はぁ!?」





青葉の渡してきた書類を見る。



その報告書にはこう書かれていた。






『3人とも司令官に惚れているのは間違いありません!恐れることなく指輪を渡して下さい!』







青葉の確信が伝わって来るかのような簡潔で力強い文章が書かれていた。




提督「え?え?どういうことだ!?」



提督は青葉から以前送られてきた書類を鹿島から受け取る。



提督「あ…!!」



そこには確かに『3人とも脈無し』とは書かれている。


しかしそこに書かれていた鎮守府名は別の所で、日付はかなり前のものになっていた。




青葉「あ、青葉…送る書類を間違えていました…」


提督「嘘だろ…」



提督はこの事実に混乱してしまい頭を抱える。



彼は『青葉の調査結果』を最優先で見てしまい、宛先や日付を一切見ていなかった。


合否発表等の書類で真っ先に合否を確認するようなもので他に目がいかないのは仕方なかったのかもしれない。



天龍「てっきり提督はこれで落ち込んじまって倒れたんじゃないかって思ってたけど?」


提督「いや…ショックを受けたのは事実だけど入院は歯の治療のためだからこれが原因ってわけじゃ…」


青葉「うぐ…ぐすっ…し、司令官…ごめんなさぃぃ…」


提督「ああ、もう、そんなに泣くなって」




その後、何度も謝る青葉を慰めた。


落ち着いたところで天龍が『いやー、これで一件落着ってやつかなー!』と青葉を引っ張って執務室から出て行った。






龍田「…」


比叡「…」


筑摩「…」




提督「は、はは…」




お互いの胸の内、想いを知り合ってしまい何とも気まずい空気が流れる。




比叡「あ、あの…!」



そんな空気の中、最初に動いたのは比叡だった。




比叡「わ、私…!最初は確かにいつか金剛お姉様が来た時のためにって料理の練習をして…司令に付き合ってもらっていました!」


提督「比叡…」


比叡「みんな…私の試食を避けていたのに…司令は根気よく付き合ってくれて…いつしか…」



顔を真っ赤にしながらも比叡が言葉を続ける。



比叡「いつしか司令のためにって、司令が喜んでくれることだけを考えて作っていました!司令のためならどんなことだってできます!だって司令のこと、大好きですからっ!!」



恥ずかしさを我慢し、勇気を振り絞って比叡は自分の想いを伝えた。



筑摩「私も…」



それに続き筑摩も動く。



筑摩「利根姉さんが一時異動となってしまって…提督は私が寂しくならないようずっと気を遣ってくれましたよね」


提督「ああ…」



利根が離れてしまった筑摩は日に日に元気を無くしていった。

提督はそんな筑摩が心配となり、常に気を配っていた。

声を掛けるだけでなく、食事を同席したり少しの時間でも一緒にいるようにした。



筑摩「利根姉さんをダシにして提督のお世話をさせて頂きましたが…少しでも傍に居たいっていう気持ちがそうさせてしまったのです」



筑摩も比叡のように恥ずかしそうに顔を赤くしていた。



筑摩「提督が好きです…これからもずっと御傍に置いて頂きたいって…あなたの傍にいたいって…思っています」



顔を上げ、しっかりと想いを伝えた。





龍田「提督…」



そして龍田は…



龍田「私…天龍ちゃんを言い訳にして避けてきたのは…ずっと怖かったからなの…」


提督「怖かった?」


龍田「せっかく提督が秘書艦に選んでくれたのに…もしも受け入れてもらえなかったらって…でも…それよりも…」



龍田の表情には恥ずかしさより悲しさの方が見えている。



龍田「それよりも怖かったのは…もしも受け入れてもらったとしても…私…私達はいつ命を落としてもおかしくはない毎日だからって…残された提督はどうなるのかって…考えてしまって…」


提督「龍田…」


龍田「ごめんなさい…これも言い訳ね…でもね…でも…」



ここから龍田はしっかりと顔を上げて提督を見る。



龍田「もしも提督が病気で…このままいなくなってしまったらって思ったら…すごく、すごく後悔したわ。どうして自分の想っていることを伝えなかったんだって…」



結局はすれ違いと勘違いに終わったが…3人は本当に提督が瀕死になっていると勘違いしてしまった。

だがその出来事が3人の目をしっかりと提督に向けさせ、勇気を奮い起させた。



龍田「だから…私はもう、後悔したくない…」



龍田は提督に近づき両手を握る。






龍田「愛してます、提督…」









比叡「司令…」






筑摩「提督…」






龍田「提督…?」






提督「…」





龍田、比叡、筑摩の告白を聞いた提督。



彼の胸中は…




提督(ど、どうしよう…こんなことは…)




混乱と戸惑いでいっぱいになっていた。




提督(全く予想していなかった!!)





3人にフラれ、忘れよう忘れようと言い聞かせていたというのに今になって3人が自分の返答を、誰とケッコンするのかを待っている。


どうしたらいいのかわからずに固まってしまっていた。