2015-04-23 21:52:03 更新

概要

とある雨の日の一幕。2年生組のまったりとしたお話です。




さーっ、さーとゆるやかな雨が降っていますね。そんな微かな雨音ですが、私は目が覚めてしまいました。


時刻は朝5時を回ったところでしょうか。


朝の稽古の時間には少し早い気もしますが、せっかくなので起きてしまいましょう。


「雨、止むといいですね」


気が付いたら私は、ぽつりとそんなことを呟いていました。


誰に聞かせるわけでもないですが、思っていたことが、口から自然とでてしまいました。これじゃまるで穂乃果みたいです。


そういえば昨日は穂乃果が、張り切っていましたっけ。明日は6月入って最初の休日練習だから、気合いれていこーって。


…しかし、今日のこの調子では、穂乃果はむくれてしまいそうですね。私は袴に着替える中で、そんなことを思います。


後々のメールを楽しみにしておきましょうか。




「まだ、お父様は来ていないようですね」


道場に着いて一礼した後、中をぐるっと見回してみましたがお父様の姿はありませんでした。


まぁもう少ししたら来るでしょう。先に一回雑巾がけをしておきましょうか。


梅雨の時期になると、道場は滑りますからね。感謝を込めて、床を拭き始めます。


「ふう・・これで大丈夫ですね。さっそく初めていきましょう。」


奥に立てかけてある、竹刀に手を取り、私はいつもの場所へと立ちます。


素振りを始める前のこの静寂が、とても好きですね。凛と心を研ぎ澄まして、私は一心に竹刀を振ります。


「おう、早いじゃねえか」


「あ、お父様。おはよう御座います。雨音で目が覚めてしまいまして」


「なるほどな。素振りが終わったら久々に打ち合いでもやるか?一本勝負だがな」


「ええ、是非お願いします」


ひとしきり素振りが終わった後、防具を身に着けました。


こうしてお父様に、見てもらえる機会はなかなかないので、身が引き締まりますね。


お父様も準備が終わったようです。お互いに向き合い、立ち上がります。




ドンっと踏み込む音と、私達の声が道場に響き渡ります。


激しい鍔迫り合いの繰り返し、お互いに引けをとりません。


ですが、私は一瞬の隙を見逃しませんでした。


「やぁっ!めぇぇんっ!」


「むぅ…面ありだな」


重く鈍い音をたて、お父様から一本取ることに成功しました。


一礼し、これで打ち合いは終わりです。


「強くなったな。これからも精進するように」


「はい、お父様」


「さてと、疲れたろ?朝飯を食いにいくぞ」


「わかりました。着替えてから向かいます」


お父様と共に道場を雑巾がけし、私はシャワーを浴びに行きました。


シャワーから上がると、良い匂いがしてきました。この匂いはおそらく、肉じゃがでしょうか。


密かに心が躍りますね。少しわくわくとしながら、食堂へと向かいます。




「最近、新しく部活をはじめたんだって?」


ふいにお父様に尋ねられました。どうやらお母様から、μ'sのことを聞いたようです。


ただ、お母様も世間には疎いですから、私達の活動をただのダンス部か何かだと思っているみたいです。


厳密に言えば違うのですが、それはこの際置いておくとしましょう。


「ええ、穂乃果やことり達と一緒にやっています」


「ああ、あの娘達か」




お父様はそれだけ言うと、どこか納得した様子でした。穂乃果とことりは、昔からの幼馴染ですからね。


その二人とやっていることならば、きっと別段口を出すことでもないと判断したのでしょう。


「まぁよくはわからないが、楽しんでいるのであればそれでいい。悔いだけは残さないようにな」


「はい」


そう言って、お父様は一足先に食べ終わり、食堂を後にしました。


「ご馳走様でした」


朝食を済ませた私も、後に続くように自室へと戻りました。




しかしまだ、8時手前ですか。時計を確認し私は悩みます。さてと、どうしたものでしょうか。


昨日出た宿題もわずかに残っていますし、読みたい本もありますね。


手持ち無沙汰気味だった私は、なんとなく携帯を見てみました。そこには2通のメールが届いていました。


一つは、絵里から全体あてへ、今日の練習は中止の旨が書かれたメール。残りは、穂乃果からでした。


『もうっなんで今日は雨なの!?』


『すっごく楽しみにしてたのに! 穂乃果の昨日のワクワクを返してよっ>A<』


ふふ、やっぱり私の想像通りですね。相変わらず、わかりやすいんですから。




『仕方ないじゃないですか。降ること自体は昨日の予報でも言っていましたし』


『それに楽しみにしていたのは、穂乃果だけではありませんよ?』


『私も楽しみでしたから』


返したメールはそんな内容でした。不思議なものですね。


自分には、縁のない世界だと思っていたアイドル。その活動をやりたい自分がいる。


人間何が起こるかわからないものです。おそらく、以前の私がみたらびっくりしてしまうかもしれません。




そのあといくつかのやりとりを得て、ことりと一緒に私の家に集まる流れになりました。


練習が出来なかった不満を解消するために、穂乃果はどうしても、じっとしていられなかったのでしょう。


二人が来るまでには、まだまだ時間がありますね。ひとまず部屋の掃除を、済ませておきますか。


特にこれといって、散らかってはいないですが、まぁこういうのは気持ちが大事です。


親しき仲にも礼儀あり。人を呼ぶときには、環境は最低限に整えておくものだと私は思います。




掃除も終わり、読書をしていたときでした。視界の隅で、携帯が明るくなるのを感じました。


『海未ちゃーん。おはよ~』


『そこの公園で綺麗な紫陽花が咲いてたから、画像送るね♪』


『あ、あと少しで着くから待っててー』


ことりからのメールですね。添付されてきた紫陽花は確かに、綺麗に色づいています。


とてもカラフルで、見ていて飽きがこない、素敵なものです。心が自然と穏やかになった気がします。


…っとそれよりも、もうそんな時間ですか。つい読書に没頭して、時間を忘れてしまいそうになりました。


二重の意味で、ことりに感謝をしながら私は、短く返事を返しました。




ぴんぽーんと、少し間の抜けた電子音が響きます。下で待っていた私は、すぐに玄関へと向かいました。


戸を開け、目の前のことりと穂乃果に、入るように促します。


「二人とも、どうぞ上がってください」


「「おじゃましまーす」」


「そうそう、今日はたくさんお菓子を作ってきたんだよ♪」


「本当!?わぁいっ楽しみっ!」




ふわっとした甘い薫香がするのは、ことりがお菓子を作ってきたからだったんですね。


シナモンの匂いでしょうか。やさしい香りです。


「ありがとうございます。ことりの手作りはとても美味しいですからね。私も楽しみです」


「えへへ、ことり張り切っちゃいました」


「私の部屋はわかりますよね?先に行っててください」


「うんっ。いこ、ことりちゃん!」


「あ、待って引っ張らないでぇ~」


傘を立てかけ、靴を揃え、奥へ進もうとしていた時でした。くぅ・・と小さく私のお腹が鳴りました。




私としたことが、うっかりしていました。普段であれば、人前でお腹を鳴らしたりはしません。


今の微笑ましいやりとりで、無意識に気が緩んでしまったのでしょう。すかさず穂乃果に、指摘をされました。


「あれ?海未ちゃん、もしかしてお昼食べてないの?」


「う・・はい。先ほどまで、読書をしていたもので」


ええい、こうなってしまったら恥はかき捨てです。


「二人はもう済ませました?まだでしたら、一緒にご飯を作りませんか」


と、思い切って尋ねてみると、大げさにお腹をさする穂乃果に、はにかんで照れくさそうにしていることり。




「いやー、実は穂乃果もまだなんだ。さっき時間あるからって、つい二度寝しちゃったんだよねー」


「私もお菓子作りに夢中になってて、気付いた時にはもう、ご飯食べてる時間がなかったの」


そんな偶然に、たちまち可笑しくなってきて、三人で笑い合います。


「一緒ですね私達。ふふ、じゃあメニューは何にしましょうか」


とは言ったものの私は、にこや、絵里のように特別、料理が得意というわけではないですけどね。


しかし、料理で大事なのは、自分の腕前よりも、食べてくれる人のことを思うことと、お母様が言っていました。


大したものは作れないかもしれない。けれど二人のためならば、私もきっと、お母様のように美味しくできる気がします。


ああ、また一つ楽しみが増えました。小さな情熱を胸に、食堂へと足を運びます。




「さて、この食材だと、ことりはなにがいいと思いますか?」


「うーんっとね・・・あっ回鍋肉なんていいかもっ」


流石はことりです。私の得意と言える料理は炒飯なので、合うものをぴたりと提示してくれました。


回鍋肉であれば、穂乃果たっての希望である、肉が主役のおかずですから、一石二鳥ですね。


「ありがとうございます、ことり。穂乃果はそれで構いませんか?」


「ピーマンをいれないなら大丈夫だよ!それに、海未ちゃんが作ってくれるんだもん、全然オッケーだよ!


 あ・・・もっ、もちろん待ってるだけじゃなくて、私もちゃんと手伝うからねっ!?」




なにもそこまで、動揺しなくてもいいと思うのですが。


もしかして、私に何か言われるんじゃないかと、焦っていたのかもしれませんね。


「それでは、お願いします。私と一緒に材料を切りましょう」


「うんっ、まかせてよ!」


「ことりには回鍋肉を頼みます」


「りょーかいです♪」


それぞれ分担し、私達は作業に取り掛かります。




私が炒飯に取り掛かる頃には、食堂いっぱいに、オイスターソースのいい香りが広まっていました。


「はぁい、完成だよ。ことり、お手製の回鍋肉ですっ♪」


「なかなか美味しそうですね。すぐ炒飯を作りますので、もう少し待っていてください」


「えへへ。海未ちゃんの炒飯楽しみにしてるね」


「くぅ~っ、私もうっ待ちきれないよ!海未ちゃん、なるべく早くね!」


「ふふ、善処しますよ」


待ってくれている二人のためにも、全力で臨みましょうか。




煙が出るほど熱した中華鍋に、材料を加え、しっかり芯まで空気が入るように炒めていきます。


私がフライ返しをするたびに、小さな歓声があがります。これ、実は結構得意なんですよね。


まあそれもそのはず、なんせお父様直伝の技ですから。


お父様から教わった、餃子と炒飯だけは誰にも負ける気がしないです。


卵を軽くぱらっとさせたら完成です。小気味よく皿に盛りつけ、私の役目はこれにて終了。


「お待たせしました。さぁ、出来ましたよ」




「わぁ・・まるでお店で見るような炒飯だね。流石は海未ちゃん♪」


「おお、すごいよ海未ちゃん、ことりちゃんも!とーっても美味しそうだよっ」


出来上がった料理を前に、穂乃果は興奮を隠しきれない様子です。


「二人とも、ありがとうございます。では、冷めないうちに頂きましょう」


「「「頂きます」」」


「…!おいしいっ。二人は料理上手で羨ましいなぁ」


「ありがとう穂乃果ちゃん。でも、ことりはそこまで料理得意じゃないんだよ?作れるのは、本当に簡単なものだけだから」


「私もですよ。実際のところ、炒飯と餃子くらいしか誇れるものはないですし」


別に謙遜しているわけではなく、これは事実です。ことりも、本当のことを言っているのでしょう。


しかし、穂乃果は納得がいかなかったようです。




「えーっ?これで得意じゃなかったら、穂乃果なんてだめだめじゃんっ。おまんじゅう包むくらいしか出来ないよ!」


高らかに言う穂乃果に、思わず吹き出してしまいました。


「ふ、ふふ…っ、そんなに自信満々に…い、言わなくても……っ」


「ううぅ笑わないでよーっ。はぁ、どうしたら穂乃果も出来るようになるのかな」


「穂乃果ちゃん家も御夕飯、当番制にしてみたらいいんじゃないかな?ほら、ことりはお母さんたちが忙しいから。

 

 自然とやることが増えて、出来るようになったって感じかなぁ」

 

「結局地道にやるのが一番ってこと?そっかぁ…じゃがんばらなくっちゃね」


「その意気です穂乃果。きっとおば様も喜びますよ」




やると決めたことは、しっかりとやる、穂乃果のいいところですね。現に今、料理についてことりに聞いています。


私はそのひたむきさが、好きですよ。ただそれが、勉強にも適応されれば文句なしなんですけれど…。


「ようしっ、燃えてきた!次は私が二人に、とっておきをふるまっちゃうんだから楽しみにしててよっ」


「うん、頑張って穂乃果ちゃん♪」


心に火が灯されたようです。ふふ、私も負けられません。次こういった機会があるときまでに、お母様から学んでおきましょう。


そしたら炒飯だけでなく、もっと他のメニューも二人に、喜んでもらえるかもしれないですね。


新たな決意を胸に、緩やかなお昼が過ぎていきます。




「「「ご馳走様でした」」」


「さてと、片づけて部屋に行きましょうか」


「そうだね。あ、今度は海未ちゃん手作りの餃子を、ご馳走して欲しいな♪ そのときは、μ'sのみんなで集まりたいよね」


「おおっ、いいんじゃない?穂乃果は賛成だよっ」


「なるほど。確かに集まって料理を作るのも楽しそうですね。是非、みんなに聞いてみましょう」


思っていたよりも早く、ふるまう機会が来そうです。お母様から、いろいろ学んでおきましょうか。


「みんな喜んでくれると思うよ。海未ちゃんの料理、すごく優しくて美味しかったもん!」


「ことりもそう思うな。きっと楽しいパーティーになるね」


「ありがとうございます。次までに腕を磨いておきますよ」


こうして常に楽しいことで、私を満たしてくれる、二人とならいつまでも、幸せが尽きないような気がします。


なんて考えているうちに、洗い物も終わり、私達は部屋へ向かいました。




「海未ちゃんの部屋、昔と全然変わってないね。あ、ことりの作ったぬいぐるみがある! えへへ、大切にしてくれてありがとう」


「せっかくことりが作ってくれたものですから。それに、見ているとなんだか落ち着くんですよね」


私の机に置いてある、ことりお手製のぬいぐるみ。確か小学生の頃にもらったものでした。


小さなベレー帽を被った、可愛らしい小鳥。今でも、裁縫が下手なりに努力して、ほつれたところを直しています。


「…そうだ、ことりちゃんことりちゃん、今度穂乃果にもなにか作ってよ!」


「いいけど…時間かかっちゃっても大丈夫?」


「全然オッケーだよっ。穂乃果待ってるから」


ぬいぐるみが羨ましくなったのでしょうか、穂乃果が目を輝かせています。




ところで、私は穂乃果が来た時からずっと気になっていたことがあります。それは、穂乃果の寝ぐせです。


跳ねた毛先は、あっちこっちに向いていますね…。ふふ、湿気の所為もあるのかすごい有様です。


自分のことには割と無頓着で、根っからの跳ね返り娘といいますか、小さなことは、目もくれないまっすぐな性格。


だからこそ、そばにいて支えたくなるんですよね。


「穂乃果、酷い寝ぐせですよ?整えてあげますから、ちょっとこっちへ来てください」


「ありがとう、海未ちゃん。本当は二度寝するつもりはなかったんだよ?ただ、やることないなぁって、

 

 ぼーっとしてたら、なんだか眠くなってきちゃって、つい寝ちゃってた」


「ことりもなんとなくわかるかも。ただじーっとしているのって、あんまり得意じゃないから。


 あっそうだ、せっかくだから、三人で髪型を変えて遊んでみない?」




穂乃果の髪をすいているのを見て、ことりがふいに思いついたようです。


髪型変更ですか、私はなにやら嫌な予感しかしないのですが…。


「いいねっ!海未ちゃんの髪って、さらさらつやつやだから、いろいろいじってみたかったんだ」


「うんうん♪きっと海未ちゃんの長さなら、いっぱい試せるよね。やーんっ、どきどきしちゃうっ」


ああ、予感的中です。二人のスイッチが入ってしまいました。


こうなってしまったらもう止められません。はしゃぐ二人を横目に、私は若干顔がひきつるのを感じました。


「もう、しょうがないですね。あんまり派手なのは勘弁してくださいね?」

 

「大丈夫だよ~。海未ちゃんなら、なんでも可愛いって思うな♪」


ことりの笑顔が、いささか不安です。…なるように任せましょう。




「やっぱり、ことりが思った通り♪海未ちゃんはこういう髪型も似合うねっ。ほら、鏡見てみて。」


差し出された鏡に映っていたのは、絵里を全体的にボリューミーにした私でした。


なんというか、ことりの技術のおかげなのか、普段の私とはまるで違いますね。


「海未ちゃん、いつもより色気倍増だね。絵里ちゃんの色気は、やっぱりこの髪型が原因なのかな…。


 穂乃果もこうしたら色っぽくなるのかなぁ」


「いや、絵里の場合はおそらく雰囲気だと思うのですが。穂乃果ももう少し、おとなしくすれば近づけるかもですね」


「うぐっ、それは厳しいね…」


「まぁまぁ、穂乃果ちゃんはそのままが一番だよ」


ふふ、ことりの言うとおりですね。


こう言ってはなんですが、天真爛漫な穂乃果が艶っぽくなったところは想像できないです。




「あー、穂乃果も絵里ちゃんみたいになりたい!よし、今度秘訣を教えてもらわなくっちゃ。

 きっと絵里ちゃんの色気には、なにか秘密があるはずだよっ。それが分かれば穂乃果も…」


「あはは…聞いてどうにかなることじゃない気がするけど」


流石に今の発言には、ことりも苦笑いしてますね。聞いて解決することなら、誰も苦労しないと思いますよ。


「別に絵里みたいにならなくても、十分ですよ」


「海未ちゃん、なんか余裕だね。そっか、いつもモテモテだもんね」




あれ?私に飛び火しました。


「穂乃果知ってるよ。この間も、一年生からラブレター貰ってたのを!」


「えぇっ、海未ちゃんまた貰ったんだ。流石だね♪」


「なっ、み、見ていたのですか!?」


私としたことが、迂闊でした。てっきり、あの日は誰も居ないものだと思っていたのに。


「そりゃあもう、ばっちりとね」


くっ…不肖、園田海未。もう一度、注意力の鍛錬をし直す必要がありそうです。


「あれはなかなか、すごい光景だったね」




一部始終を見ていたらしい穂乃果が、身振り手振りでその光景の、再現を始めました。


それをことりが嬉しそうに聞いていますね。本当、この類の話が好きなのは相変わらずです。


まったく、二人は昔から私に浮ついた話があると、すぐこうやって盛り上がるんですから。


おかげで、だんだん恥ずかしくなってきました。これ以上は私の身が持ちません、早めに二人を止めておきましょう。


「もうっ、やめてください!その話はなしです!」


「はぁい♪」


「えーっ!?これからが一番いいところじゃん!」


素直なことりに対して、穂乃果からは不満の声が上がりました。




「さぁ、私の話は置いておいて、次は穂乃果の髪をアレンジする番ですね。ことり。手伝いお願いします」


「うんっ、ことりのおまじないでもっと可愛くしちゃうから」


そう言ってことりは、鞄から一冊の雑誌を取り出しました。


「じゃ~ん、この間にこちゃんから借りたヘアカタログです!これで、どんな髪型もお任せあれ♪」


「にこちゃん、こういうのも持ってるんだ。μ's1のオシャレ番長は伊達じゃないねっ」


オシャレ番長って、なんだか物騒な呼び名ですね。にこが聞いたら可愛くないって、抗議が飛んできそうです。


まぁ、このことは私達の秘密にしておきましょうか。




いろいろと夢中になっていたら、いつのまにか時間が経っていました。午後4時ですか…。丁度いい頃合いですね。


「ふぅ、一端この辺で休憩にしましょうか。では、お茶を淹れてきますので、ゆっくりしていて下さい」


「海未ちゃん一人じゃ大変じゃない?持ってくるの手伝おっか?」


「気持ちだけで嬉しいです、穂乃果。ただ、私がもてなしたいだけですので、待っていて大丈夫ですよ」


「そっか、ありがとう」


「はい、では行ってきます」


私は足早に下へと降りて行きました。前にいいほうじ茶を貰ったので、今日はそれにしましょう。


「…ねぇ、ことりちゃん。海未ちゃんあの髪型を気に入ったみたいだね」


「そうだねぇ。ポニーテール動きやすいって言ってたもんね」




温めた湯呑に、均等になるように注いでいきます。蒸らしたほうじ茶の香りが心地よいです。


淹れ終わって一息ついたところで、気が付きました。


「…そういえば、ことりが作ってきたものって洋菓子でしたね。紅茶の方がよかったかもしれないですね」


しかし、生憎ながら私の家は生粋のお茶派、紅茶は置いていないのが現実です。


「まぁ、二人がそこまで気にするとは思いませんし、なにより美味しいほうじ茶ですから、大丈夫でしょう」


無理やりですが、自分に言い聞かせ、上へと戻ることにしました。




「お待たせしました。すみません、扉を開けてください」


「うん、今開けるね~」


「ことり、ありがとうございます」


テーブルの上にお茶を置いて、私も席に着きました。


「全員揃ったし、食べよっか♪今日のお菓子はことりの自信作なのっ」


箱から出てきたのは色とりどりのお菓子。鮮やかな見た目は、見ているだけでも楽しいです。


「これって…もしかして」


「そう、まかま~かマカロ~ン?」


「「おいしーいっ。いえーいっ」」


ふふ、ことりと穂乃果は息ぴったりですね。


「というわけで、今回はマカロンを作ってきたの。味もいろいろだから好きなのを食べてね」




「このピンク色のは何?」


「ええとそれはねぇ、イチゴ味だよ。」


「じゃ最初はこれにしよっと」


「はい穂乃果ちゃん、あーんっ」


「あーん、…うんおいしいっ!」


幸せそうな二人を見てると、こちらも自然と頬が緩んできますね。


薄い緑色、おそらく抹茶でしょうか。とりあえずこれにしましょう。


「ことり、頂きます」


「召し上がれ♪」




手にしたそれは、予想通り抹茶味でした。甘さ控えめですごく食べやすいですね。


なんというのか、ことりの優しさが詰まっているような気がしました。


「流石ですね。とても美味しいです」


「二人ともありがとう。えへへ~、まだまだあるからいっぱい食べてね。そうだ、海未ちゃんもはいあーんっ」


「え?い、いや、それは…」


恥ずかしいので自分で食べますと、言おうとしたときでした。


「海未ちゃん、だめ?……おねがぁいっ」


うっ、いつものパターンですね。正直な話、ことりには勝てる気がしません…。


「あ、あーん…」


素直に応じてしまいました。しかし毎度のことながら、食べさせてもらうのってやっぱり恥ずかしいです。




「海未ちゃんもいい加減に慣れなよー」


にやつく穂乃果に茶化されてしまいました。


「慣れろと言われましても…恥ずかしいものは恥ずかしいんです」


「そこは本当昔から変わらないんだね。穂乃果は全然だけどなぁ」


「まぁ海未ちゃんは、意外と照れ屋さんなのが可愛いところだよねぇ」


「うんうん!普段はあんなにかっこいいのにね」


「からかわないでくださいっ。もう…」


この二人相手だと、私はどうしても後手に回ってしまいます。まぁでもこのやりとり、嫌いじゃないですけどね。




楽しい時間も過ぎて、ちょうど食べ終わったころ、私は部屋に光が射しているのに気が付きました。


「あ、二人とも見てください。日差しが出ていますよ。」


「本当だ。雨止んだんだね。ねぇ海未ちゃん窓開けていい?」


穂乃果はどこかワクワクとした様子です。


「ええ、大丈夫ですよ。」


「ようし、それじゃあっと…。おおーっ見て見て、虹が出来てるよっ!」


「わぁ、綺麗だね~」


「ですね。久々に虹を見た気がします」




目に映る景色に私達は心奪われていました。雨上がりの空って、どうしてこうも惹かれるものがあるんでしょうね。


単純には言い表せないですが、強いて言うならちょっとした魔法みたいですよね。


ありふれた光景ですけど、今こうして私達三人が見ているものは、私達だけの世界です。


まったく同じ景色を知る人は、私達以外には誰も居ない。


「今日が雨でよかったかもしれないですね。練習は出来ませんでしたが、みんなにお土産話は出来ましたね」


「そうだね。あー、でも次こそは雨降らないでね、絶対練習やるんだから!」


穂乃果が空に向かって叫んでいます。そんな穂乃果に私とことりは、笑いを堪えきれませんでした。


こんなときのためにも部室があったらと思ってしまいます。


そうすれば今度雨が降ったら、私達三人だけでなく、μ'sのみんなで同じ景色が見れるかもしれませんね。


後書き

ラブライブss2作目になります。
友人の依頼で書いていたものを再編成し、投稿しました♪
個人的にはマカロンのシーンがお気に入りです。
まだまだ拙いかもしれませんが読んでもらえたら幸いです。ではで、これにて失礼します。


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