2020-03-22 01:03:04 更新

概要

オリジナルss ジャムと新しい出会い


冒険者の街 バルロッサ


食事を終えて、俺たちは目的である冒険者ギルドを目指していた。


なんでもギルドは首都を移した際に使わなくなった王城をまるごと改装し使っているみたいなことを話で聞いた。そのため街の中心地に行かねばならないのだが、元首都なだけあって無駄に広い。


そのまま直行するのもなんかあれなのでギルドを目指すついでに軽い散策もしていた。


街並みはリーネとほぼ変わらないのだが冒険者の街なだけあってか、一般王民が多かったリーネよりもちゃんとした装備をした者が目立っていた。冒険者の街と考えれば普通のことなのだがまるっきり印象が違うので中々おもしろい。


それに皆等しく200年前と比べて覇気がある。カルが戦い方を広めたおかげなのか各々が王国騎士と同等かそれ以上の力を持っているようにみえる。


まぁ実際には戦わないとわからないのだが少なくともそこらの一般人には引けを取ることはないだろうということだけはわかる。


なんだかこれだけ強そうな人たちを見るとわくわくしてくる。決して戦闘狂などではないが、戦場にでてた故の癖だろう。もしかしてこの時代にはまだとんでもない強さのやつがいるんじゃないかと、そう思ってしまう。


ナル「なにニヤニヤしてるのだマスター」


グレン「ばっ、してねーよ!」


いけないつい頰が緩んでしまった。この街は俺にとっては良い意味で悪いかもしれない。自粛しなければ。


ナル「ふーん、もぐもぐ」


グレン「ていうかナル、見かけた先から出店で食べ物買うのやめない?どんだけ食べてんだよ」


ナル「まだまだ!わたしの胃袋はこんなものではないのだぁぁごほごほっ!!?」


グレン「あーもうだから言っただろうに…ほら水」


ナル「げほげほ…すまないのだマスター…」


背中をさすりながらポーチから水を出し飲ませてやった。この神様さっき山盛りの肉を食べたはずなんだがなぁ…せっかくもらったお金がどんどん無くなっていく。


グレン「ナルはもう買い食い禁止。さっさと冒険者ギルドいくぞ」


ナル「えー…」


唇を尖らせて拗ねているがそんなものは知らない。いくらなんでも食べ過ぎだ、反省してほしい。


グレン「ほら、いつまでも拗ねてないでとっとと…」


「ちょ、ちょっ君あぶなーい!!?」


グレン「は?」


なにやら女性が走ってきて大声をあげたと思ったらいきなり目の前で派手に転けた。


その際手に持っていた瓶がこちらに飛んできて…ちゃんと蓋がしまっていなかったのだろうか、中身を撒き散らしながら最後に俺の服へとぶつかり落ちていった。


グレン「……」


「いったたー…はっ、私のジャムっ!?」


グレン「じゃ、ジャム?」


「じゃなかった!君大丈夫!?怪我は、ってきゃー!!?」


なんだこのテンションの高い人は…ていうか転んだこの人の方が怪我してないか心配になる。


「ご、ごごごごめんなさい!服汚しちゃって!!」


グレン「いいよべつに、こんなの拭けば落ち…なんだこれ、べとべとするな。それに甘い匂いがする…?」


ナル「ぺろっ…ふむ、たしかに甘いのだ」


グレン「ひゃっ!?てめっナル!なに舐めてんだ!?」


ナル「む…?マスターの指についたそれを舐めただけなのだ」


まるで常識ですけど?みたいな平然とした顔で言われてしまった。この神様はほんと常識を知らなすぎる!普通舐めないだろ!!


「それはジャムっていって果物を砂糖と煮詰めて作るんだよー…じゃなくて!!」


グレン「ひっ、なんだよ…」


いちいち過剰な反応をしてくる。この人はあれだ、カルと同じ脳筋な匂いがする。


「ほんとごめんなさい!私がもっと落ち着いていたら…」


グレン「それはいいけど…なんでそんなに急いでたんだ?」


「それは…その…早くジャムの味を見たくて…てへへ」


訂正、この人はナルと同系統だ。


グレン「まぁいいや…次からは気をつけてくれよ」


「ちょっぉぉっと待ってください!」


グレン「ぐえっ!?」


立ち去ろうと振り向いた瞬間襟元を引っ張られて止められてしまった。首絞まるって!


グレン「なんだよもう」


「その、服!どうするんですか!?」


グレン「え?あーこれじゃあ一回洗うしかないしなー…適当に服屋で買って着替えるけど」


「それじゃあ!お詫びに私が服を仕立て上げます!」


グレン「仕立て上げ…?」


「そう!私の家、武具屋なんですよ!着衣の作成もお手の物です!」


そういって女性は自慢げに大きな胸を張る。ふむ、大きい…


ナル「マスター…」


グレン「え!?なんだよ…」


何故かナルにジト目で見られてしまった。女性は視線に鋭敏と聞くが本当なんだろうか…


シルヴィ「そういえば自己紹介がまだでしたね!私はシルヴィ。さっき言った通り家が武具屋です、よろしくね!」


グレン「俺はぐれ…んんっ、レンだ、よろしく。でこっちがナル」


ナル「うむっ」


軽く2人は名を告げ自己紹介する。


シルヴィ「へー、女の子で俺って一人称珍しい!男っぽいの目指してるとか??」


グレン「そ…ソウデスネ」


男っぽいというか男なんですけどね。ややこしくなるから言わないけど。


シルヴィ「それじゃあこっち!着いてきて!」


グレン「ああ…行くか、ナル」


ナル「……あのじゃむとかいうの、もっと食べたいのだ」


グレン「…まだ食べる気なのか」


俺はそろそろナルに自制の仕方を教えなければいけないみたいだ。



バルロッサ 路地 武具屋


シルヴィに言われるがまま着いていくと商業区域だろうか、宿屋や道具やなどといったところが並んでいる場所に着いた。


シルヴィ「さっ、ここだよ!入って入って!」


ドアの上の看板に武器と盾の武具屋を印すマークがあった。疑ってはなかったが家が武具屋というのは本当みたいだ。


グレン「お邪魔します」


中に入り小さな席に案内される。依頼したものを作ってもらうときにここで待つためのものなのかな。


シルヴィ「とりあえず即行で仕上げて来るから!待っててね!」


彼女はそういうとカウンターの奥に引っ込んでいってしまった。おそらくあそこが工房なのだろう。


しかしただ待っているだけなのも退屈なのでせっかくだしこの店の武器や防具でも見てみるか。


店内を見渡すと数々の装備が充実していた。剣、棍棒、槍、戦斧、弓と矢、防具は軽い小手から全身鎧まで揃っている。しかもどれも完成度が高い…並の鍛冶師ではここまでのものを作れないだろう。


片側はそんな感じでいかにも冒険者御用達って感じだった。次にもう片側についてなんだがここは服が飾られていた。


普段着からインナーウェアまで数々のものが標本として飾られていた。隣の棚には服に使う布がしまわれていて多分この布の中から選んで服作りを依頼するんだろうな。


しかしこの服達もすごい。縫い目がキチンとしていて綻びもない。技術力が高い証拠だ。


グレン「ここの武具屋なら期待しちゃうな」


しばらく店内を眺めていると作業を終えたのか、奥からシルヴィが満足げに出てきた。


シルヴィ「おまたせしましたー!ささっ、こちらへどーぞ!」


グレン「おう」


店の奥へと案内される。中は鍛治に使う高炉と服を作るための作業場があった。なんだかよくわからない魔道具があるがそこはまぁいいだろう。


シルヴィ「それじゃあこれに着替えて!」


作ったであろう服を試着室みたいなところと一緒に押し込まれた。


しかしこんな短時間で服を仕上げるなんてすごいな、後でなにか作ってもらうのも悪くないかも。


そんなことを思い汚れた服を脱ぎ捨て新しい服に身体を通す。ストールを腰に巻いて、後これはアームカバーだろうか、それも腕に通しそして……


そして…あれ?おかしいな、もう布がない。ははは、シルヴィめ。ズボンがないじゃないかまったく。


グレン「なぁシルヴィ、後ズボンが足りないんだけど…」


試着室のカーテンを開けてそうシルヴィに問いかけてみたが何故かシルヴィは俺の姿を見てドヤ顔をしていた。


シルヴィ「ふふふ、思った通り…めっちゃかわいいね!」


グレン「…はい?」


意味がわからない。というか無視しないでほしいな。聞こえてなかったのかな?


グレン「あのシルヴィ、ズボン…」


シルヴィ「え?そんなのないよ?」


グレン「…え?」


シルヴィ「これが完成系だもん!はぁー私いい仕事したなぁ!」


グレン「……」


いや、いやいやそれはおかしい。というか今更気づいたけどこの服装って女っぽくないか??え?あれ??


グレン「ちょっと待ってくれ…これは流石に恥ずかしい…」


シルヴィ「え?かわいいよ?」


グレン「そんなことは聞いてない!」


なんか下スースーするし、スパッツ以外履いてないから当たり前だけど!まじでこれ、は、恥ずかしい…!


スカートとか、ワンピースとか側から見る分にはなんとも思わなかったけどいざ自分が来てみるとこれ…尋常じゃないくらい恥ずかしいんだけど!!?てか渡された時なんで気づかなかったんだ俺!?


ナル「ふーむ…」


ナルが観察するかのように凝視してきた。


グレン「な、ナル…あんまじろじろ見るなぁ…!」


ナル「ふむ…かわいいマスター、悪くないのだ」


グレン「ふざけんな!!」


もう無理だ!これ以上は耐えられない!!汚れててもいいから元の服装を返してもらおう!


グレン「シルヴィ、さっきの服返してくれ!どこにある!?」


シルヴィ「え、あそこだけど?」


シルヴィが指差す方向には鍛治に使う高炉があった。そこの奥でなにやら勢いよくものが燃えていた。いやあれって…


グレン「お、俺の服!?」


シルヴィ「そう、その服着るからいいかなーって」


グレン「あ、ああ…」


俺はショックで膝から倒れてしまった。は、ハメられた…退路を絶たれてしまった…


ナル「受け入れるのだマスター。いつかは慣れるのだ」


肩に手を置いて悟ったような目でナルはそう呟く。違う…そんなものに慣れたくない…慣れちゃいけない気がする。


シルヴィ「私、なにかまずいことしちゃった?」


グレン「いや…大丈夫…大丈夫だ…」


こうして俺は初めて女の子っぽい服を着させられ、しばらく放心状態に陥ってしまった。


ーーーーー

ーーーーー

ーーーーー



バルロッサ シルヴィの武具屋


グレン「……はっ!」


なんだか悪い夢から覚めたような感じがした。そうかさっきのは悪い夢だったんだな、そうだよな俺があんな格好するわけ…


グレン「そんなわけないか…」


そう、そんなわけはない。さっきと光景が変わらないし服装も一緒。これが現実だ。


ナル「戻ったかのマスター、もぐもぐ」


対面の席に座っていたナルがなにやらジャムのついたお菓子をもぐもぐ食べていた。こいつまた食べてるのか…


グレン「はぁ…まぁいい…ひとまずはこれで我慢しよう」


残り金額を考えるととても服に金を使う余裕などない。次の稼ぐ手段を見つけるまではこれで行くしかないだろう。


シルヴィ「おー目覚めたー?」


グレン「お、おお。なんとかね」


シルヴィ「…余計なことしちゃった?」


シルヴィは罰が悪そうにこっちをみてくる。そんな顔をされるととても嫌だなんて言えない。


グレン「いや全然。服ありがとな」


シルヴィ「てへへ、どういたしまして。どこかキツイところか緩いところはない?採寸しないでも大体は見るだけで測れるんだけど、どうかな?」


グレン「今さらっととんでもないこと言ったな…」


そういえば体の採寸しないで作ってたんだよなシルヴィは。それなのにこのフィット感、天性の才能ってやつなのか?


グレン「特に変なところはないな、むしろこれしっくりくるな…いつもより動きやすいかも」


シルヴィ「よかったぁ!それはね?レンが剣持ってたし冒険者なのかなーって思って、動きやすいような形にしたんだー!」


グレン「冒険者ではないけど…まぁ近いかな」


それにしても服装がショックでよくわからなかったが本当に動きやすい。案外この格好もバカにはできないのかもしれない。


シルヴィ「ふーん…なら一緒に防具とかどう?」


グレン「あー悪いけどいらないかな。俺の場合防具は足枷にしかならないんだよ」


シルヴィ「へーそうなんだ!」


付加術で身体が強化できる俺のスタイルでは防具はあまり意味を成さない。逆に防具をつけることで機動性が落ちかねないのだ。


グレン「そういえばここの店はシルヴィが1人で経営してるのか?」


シルヴィ「え?そーだよ!」


それはすごいな、年は俺より上みたいだがまだまだ若いって印象だ。それなのにこんな立派な武具屋を経営しているのは並大抵のことではない。


シルヴィ「正確にはここのお店は、だけどねー。元々はお父さんのお店だったんだけどお父さんに鍛治師の修行つけてもらってね、それでこのお店をもらったんだー!」


シルヴィは嬉しそうにこの店のことを語り始めた。そうかそういう事情だったか。


シルヴィ「私もねー、最初は全然だめだったの。剣なんて真っ直ぐ打てないし防具なんてガタガタ…よくお父さんに怒られてたよーあはは」


グレン「最初から上手くはいかないだろ、特に鍛治みたいな技術がいる作業だとな」


シルヴィ「そうそう!それで必死にお父さんの動きとか見てね、すっごく勉強して認められたんだー!」


グレン「この完成度だもんな…並の努力じゃないのはわかるよ」


シルヴィ「えっへへー、照れますなー」


努力が報われない辛さも知っているが報われる嬉しさも知っているから尚更共感できる。出来ないものが出来ることになるのは素直に嬉しい。


グレン「てか修行ってどんくらいしたんだ?」


こんだけ若ければ幼少期の頃からやっていたとかかな?精々5、6年…とかか?


シルヴィ「うーんとねー…きゅう…いや10年かなー?」


グレン「じゅ、10年!?」


職人の技術継承は数十年掛かると言われているがどうやら本当みたいだな。そういうのは疎くてわからなかったけど。


グレン「シルヴィ…いまいくつなんだ?」


率直な疑問を投げつける。するとシルヴィは指で数えながら口にする。


シルヴィ「えーっとねー…さんじゅ…ってー!私の年はいいでしょー!?」


流れるように答えたと思ったら何故か怒られてしまった。てか今さんじゅうって…


え、えええ!?この人この見た目で30いってんの!?どう見ても20代…下手したら俺の一個上とかでも全然ありえる見た目だぞ!?


…女ってわからねー。


ナル「マスター、女子に年齢を聞くのは失礼なのだ」


グレン「そ、そうなのか?てかなんでナルがそんなこと知ってんだよ…」


ナル「そんな会話を聞いたことあるのだ」


グレン「そうか…気をつけよ」


歳くらい別にいいと思うのだが…まぁ女には女の世界があるんだろう。


シルヴィ「もう…仕返しにこのリボンつけてもらおうかな?」


グレン「すみません俺が悪かったです!?」


シルヴィ「そんなに嫌がんなくても…」


ダメだ、これ以上女っぽくなったら俺の尊厳っぽい何かがなくなる気がする!それは断固拒否だ!


グレン「さ、さてー、そろそろ行かなきゃなー」


シルヴィ「あー逃げたなぁ…冒険者ギルドに行くんだっけ?」


グレン「そう、元々の目的地だしな」


とんだ時間を食ってしまったがここに良質な武具屋があるのを知れただけでもいい収穫かもな。


グレン「ナル、行くぞー」


ナル「わかったのだー」


ナルに呼びかけ店の出口に向かう。


シルヴィ「また機会があったらうちに来てね!」


グレン「ああ、また今度来るよ」


シルヴィ「次はもっと可愛い服作ってあげるね!」


グレン「結構です」


シルヴィ「ぶーぶー」


隙あらばかわいい服着させようとしないでくれ頼むから!


シルヴィ「まぁいっかぁ…それじゃ、気をつけてねー」


グレン「またな」


ナル「うむ、またじゃむさんど食べに来るのだ!」


シルヴィ「うちはお菓子屋じゃないんだけどなー…あはは」


こうして新しい服を手に入れ、武具屋を後にした。


後書き

前に書いてたものをss風に直して書きました。ほぼ思いつきです、ご了承ください


このSSへの評価

このSSへの応援

このSSへのコメント


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください