2020-08-01 22:13:28 更新

概要




深海棲艦大侵攻から数十年経った後の、子供提督と大井っちの物語


いい子は前書きと後書きも読んでね


前書き




どうも、かむかむレモンです。初めての方は初めまして。そうでない方はいつも見て頂きありがとうございます。



今作はTwitterのアンケートで見事選ばれた、大井っちが主人公の物語です。


しかし残念ながらシリアスで、変態糞提督である私がだいぶ前から温存していたテーマです。


脱線しないよう、頑張りますので宜しくお願いします。






















言葉とは、感情を表す手段の一つである。喜怒哀楽は勿論の事、息遣いや声の大きさで更に細かい感情まで相手に感じ取らせることが出来る。



言葉を発さなくとも、視線や、その場の雰囲気によって、我々は秘めたる感情や気配を感じ取ることが出来る。




言葉はコミュニケーションにて最も使われる手段だが、善悪問わず人を騙す手段としても最適である。人を楽しませようとする悪戯心もあれば、純粋な悪意によるものもある。



故に、言葉とは人と人を繋ぐ手段でもあれば、その繋がりを切り離す、若しくは傷つける凶器ともなる。
















***









数十年前、一度世界は深海棲艦に敗れた。日本は人口が半数を下回り、海外も甚大な被害を受け、破壊の限りを尽くした深海棲艦は海へと帰っていった。



その時も艦娘は存在したが、深海棲艦の方が幾重にも上手であり、為す術もなかったらしい。



生き残った人類は、後にこれを『深海棲艦大侵攻』と呼称し、人類同士の争いよりも優先すべき敵と認識した。







大井「…耳にタコができるくらい聞いたんですけど」イライラ


北上「仕方ないよねぇ、配属前の恒例行事みたいなものらしいし」


大井「アホらし…」


北上「確かに昔あった事蒸し返して刷り込みさせんのは頂けないね」


大井「本当ですよ全く!」





憲兵「軽巡北上!大井!配属が決まった。直ぐに向かえ!」


大井「ふん、偉そうに。行きましょうか、北上さん」


北上「ほーい」ヨイショ


憲兵「待て。お前らは別の鎮守府だ」


大井「はぁ!?」


北上「あれま、残念だね」


大井「北゙上゙ざん゙ん゙ん゙」


北上「まあ寂しいけど仕方ないよ。通信とかって鎮守府同士なら制限されてないよね?憲兵さん」


憲兵「そうだが、詳しい事は鎮守府に着いてから説明を受けろ」


北上「なら大丈夫だって~」


大井「北上さんがそう言うなら…クソッ、絶対許さないわ配属決めた奴…」ブツブツ


憲兵「早くしろ!」







***








大井「…来たのはいいけど、誰もいない…ん?」


少年「…」


大井「…仮にも軍の施設なのに子供?」


少年「…」


大井「…ボク~?ここは入っちゃいけないのよ~?」ニコォ


少年「…やっと来ましたか。軽巡大井」


大井「へ?」


少年「私はこの鎮守府の提督です」


大井「…は?」


少年(提督)「これからあなたのように艦娘が数人配属されますので、それまで自室で待機しているように」


大井「ちょ、何かの冗談でしょ!あんたみたいな子供が提督!?その服も…コスプレでしょ!?」


提督「…」スッ


大井「ぐ、軍歴証明…に、偽物じゃないわね…」


提督「…初めに言っておきますが、これからあなたはこの鎮守府の管轄、つまり私の道具同然ですので、命令には従うように」


大井「…何よこのガキ、口調だけはそれっぽくして」ボソッ


提督「…尤も、私も本部の道具のようなもの。お互い似た者同士、宜しくお願いします」スタスタ


大井「…はぁ?」







こうして、私の物語は始まった。



今思えば、もっとまともな挨拶をすれば良かった。








着任初日







あれから、駆逐艦5隻が着任した。手違いで北上さんが来てくれたらと思ってたけど、そんな事はなかった。



そしてあのガキは私と同じ挨拶を5人に向かってしていた。皆お通夜のような雰囲気になっていた。






大井「…あんたね、私はまだしも駆逐艦には少しぐらい言葉遣いってもんを」


提督「必要ありません」


大井「は?」


提督「必要なのは揺るがぬ事実のみ。気休めの希望など…」


大井「…いけ好かないガキ」チッ


提督「言葉遣いを気をつけるのは、寧ろあなたの方では?あなたは私の見た目で判断しているようですが、それは愚かと言っておきます」


大井「あーはいはい」ドタドタ!


提督「…」






大井「全く、何なのよあのガキ!」ムキ-ッ!


大井「…イラついてる余裕は無いわね。あの子たちのケアを…」スタスタ







叢雲「何なのよアイツー!私より背がちっちゃい癖にぃぃぃ!!」ゴゴゴゴ


吹雪「さ、流石に憤りを隠せません!」ゴゴゴゴ


電「電は…道具なんかじゃないのです!」ゴゴゴゴ


五月雨「が、頑張るしかないですよ!」ゴゴゴゴ


漣「あープッツンしちゃいましたー。あのクソガキ絶対見返してやりますわ!」ゴゴゴゴ







大井「おぉう…その必要は無かった」チラ


叢雲「んぐぐ…あ!大井さんね!?」


大井「え?え、ええ」


叢雲「あの生意気なガキんちょ見返しますよ!大井さんもそうでしょう!?」ズイ


大井「そ、そうね。私もイラついてたし…」


叢雲「聞いたわね!?みんな、やるわよ!」




『オー!』




大井(…反骨心のある子だけを向かわせた訳じゃないのに、この統一感…)


大井(…やるわね、この子たち…よーし、覚えてなさいよクソガキ!)








私が思ってた以上に、この子たちは逞しかった。そして、この日は特に何も無く終わってしまい、正直拍子抜けだった。



『見た目で判断するな』とは、今思えばどちらにも言えている事だった。でもこの時の私は、駆逐艦の子たちにだけ言えていると思っていた。



…イラつかせる言動以外では、提督は子供にしては、無機質過ぎる。そう言った印象を持った初日であった。









着任2日目








数十年前、深海棲艦大侵攻によって世界は壊滅的な打撃を受けた。それにより技術の進歩が滞り、現在に至っても数十年前とほぼ同じような生活をしている。



しかし私たちに課せられる責務は増えるばかりであり、正直割に合わない。例えば…








大井「はぁ!?大成功してんのよ!だ!い!せ!い!こ!う!資源は当初の量より多いのよ!」


提督「そうなるようにこちらで調整したのですから、当然です。何か勘違いしてるようですね」カキカキ


大井「くっ…!このガキ…!」


提督「資源を全て持ち帰ってきた事は評価しましょう。しかし、遠征中に少なからず被害を受けているのも事実。これにより修理に使う予定の資材を差し引きすると…ふむ、普段から獲得出来る資源量と変わりありませんね」カキカキ


大井「そ、それは…」


提督「つまり、今回の遠征は完全に大成功とは言えません。『期待されている獲得量を上回り、尚且つ被害を受けず、全ての資源を貯蔵に回す』事が出来てこその大成功なのです」ハンコ


大井「あ、あんたねぇ、百歩譲ってそれはいいとしても、労いの言葉を掛けても良いでしょうが!」


提督「それはあなたの役目では?」カキカキ


大井「っ…!調子乗んなクソガキ!」ゴツン


提督「」カキカキ


大井「痛った!何て石頭なの…!」ヒリヒリ


提督「…上官に盾突くその勇気に免じてその無礼を許しましょう。ですが、次はありません」キッ


大井「っ…!」ビク


提督「報告が済んだなら、次の指令まで各自修練に励みなさい」


大井「…ふん!」ドタドタ








…提督は、異様に厳しく、完璧主義だった。そして、私が拳骨を喰らわせた後の目が、奈落に続くように暗く、恐ろしかった。



恐怖を感じたのはその時だけだったけど、直ぐに怒りが込み上げ、修練場のダミーをボロボロにしてしまった。後から来た駆逐艦の子たちと一緒に直したけど、結局一人ずつ壊していた。



冷静になってから皆で話し合い、試し合い、笑い合った。そして、改めて団結した。



あの子供提督に必ずぐうの音も出ないぐらいの成果を上げて謝らせる、土下座させる、等という目標を定めた。



それも…今思えば…










着任 一週目







艦娘は大本営でのみ建造される。これは現在では周知の事実であるが、数十年前は各鎮守府でも建造が出来たらしい。



深海棲艦大侵攻の引き金になった要因として、『バグ』と呼ばれる生まれながらの故障があったようだ。現在でもごく稀にあるらしいが、厳しいチェックの後、発見次第即解体される。



そして、人の整備員を雇わず、全て妖精任せにしてあるという。これも同じ過ちを繰り返さない為と言われているが…本当にピンと来ない。





それよりも、私たちは提督に一泡吹かせる為に各々が高め合う日々を送っていた。その効果は…








提督「…ノルマ達成ですね」ペラ


大井「…」イライラ


提督「報告が済んだら演習まで待機」カキカキ


大井「…はいはい」ドタドタ








叢雲「…で、今日もダメですか?」


大井「まあね」


漣「つくづく生意気なガキんちょですねぇ!ここはやはりヤキ入れた方が」


大井「…やめときなさい。私がやってもビクともしなかったんだから」


漣「マ?」


大井「…子供とはいえ、割と力入れてたんだけどね。艤装も展開状態のままだったし」


五月雨「それ、本当に大丈夫だったんでしょうか…」


大井「表情一つ変えなかったんだから多分束で掛かっても無駄。ならアイツのプライドを折るしかないのよ」


吹雪「…そういえば演習ありましたよね?」


大井「そうねぇ、まあ勝っても負けても褒めやしないだろうけど…そろそろ行くわよ」







***








大井「はっ!?」


電「どうしたのです?」


大井『北上さぁぁぁぁぁぁぁぁんんんん!!』






北上「んー?あ、大井っちだぁ」フリフリ


大井「まさかこんなにも早く会えるなんて!これは運命!?そうとしか考えられないわ!神に感謝!」ド-ン


北上「やだなぁ大袈裟だよ。と言うかスマホ配られたんだし連絡先交換しとこうよ」


大井「スマホ…?」


北上「…あー、配られてない?」


大井「…おいクソガキィ!スマホ配られるなんて聞いてない…あれ?」


北上「ん?」


大井「…あの、あれが北上さんの鎮守府の?」


北上「うん。子供だね」


大井「…最近のトレンド?」


北上「さぁね~。でもそっちの子よりはちょっと年上?」


大井「…よく分からないです」


北上「あはは、そうだね。まあお手柔らかに頼むよ。まだろくに海出てないから」


大井「…」








私のいる鎮守府以外でも、子供が提督を務めているらしい。偶然私と北上さんの鎮守府の提督が子供であっただけなのか、それとも…






その後、演習はお互い勝利と敗北を繰り返し、練度の向上を肌で感じ取る事が出来た。まあ当然ながら提督は褒めもしなければ責めもしなかった。



どうやらこっちが上に出なければそこまで害にはならない事がわかった。あまり怒りに近い感情を持ち続けるのは良くないと理解していたので、これはこれで良い発見であった。



これは…良くも悪くも、間違ってはいない判断だった。











着任10日目








艦娘は大本営でのみ建造される。これは先日述べた通りだが、この辺りで少し疑問が浮かび始めた。



新たな艦娘が着任しないのは何故なのだろうか。この鎮守府は駆逐艦と私を含む軽巡しかいない。航空戦力が無いのだ。



こう思ったきっかけは、先日の演習後に提督にスマホの配布について問い質した所、『忘れていた』という。軽い謝罪が見られたので拍子抜けしてしまったが、これで念願の北上さんとの連絡が取れるようになった。



その翌日、北上さんの鎮守府に新しい艦娘が複数着任したとのこと。まあそれだけならいいが、連日着任して来るらしいので、少しおかしいなと思ったのだ。







提督「新たな戦力?」カキカキ


大井「そうよ。申請すれば新しい子、来るんでしょ?」


提督「ここには来ません」カキカキ


大井「…何でよ」


提督「ここは支援を重点的に置いた鎮守府だからです」


大井「…は?」


提督「この鎮守府は特殊作戦時に哨戒、資源輸送、護衛、夜戦支援を担当する鎮守府です。あなたが言わんとしているのはもっと大型の艦娘の配備を希望しているのでしょう?」ハンコ


大井「…」


提督「そのような艦娘はここではなく前線に投入されます。以上です」


大井「き、北上さんの鎮守府は…」


提督「あなたの姉妹艦のいる鎮守府は、大型の訓練施設のようなものです」


大井「?」


提督「ある程度艤装の練度がついたら、適切な鎮守府に配属させる為の養成所と言えば理解出来ますかね」カキカキ


大井「そんな…」


提督「他にないなら下がりなさい」


大井「…」チラ


提督「」カキカキ








大井「…はぁ~、そんな訳で近海警備とか資源輸送ばかりだと思ったらそういう事らしいですよ」ズ-ン


北上『そうだったんだ。じゃあ私が配属される時は大井っちの鎮守府希望しよっかな』


大井「北上さんんんんんんん!!!!!」パァァ


北上『こっちの提督は鉄仮面だから希望通るか分からないけどねぇ』


大井「そ、そっちもですか…必ず通して下さい!」


北上『了解~そんじゃまたね~』ピッ








正直、私はそんな事実を聞きたくなかった。後方支援とは聞こえが良いが、最悪弾除けとなる可能性がある部隊だと言うのだ。



ましてや支援なら尚更航空戦力が必要だと思うが、何を考えているのやら…








提督『初めに言っておきますが、これからあなたはこの鎮守府の管轄、つまり私の道具同然ですので、命令には従うように』


提督『私も本部の道具のようなもの』








ふと、提督の言葉が脳裏をよぎった。私たちが提督にとって道具であるなら、提督は大本営の道具のようなもの。道具の意見具申は聞き入れられない、という事だろうか。



そんな一方的な指針でこれから先の戦況は良くなるのだろうか、私は不安を抱かざるを得なかった。










その頃…








北上「…」コソッ










着任15日目








この日は、特別作戦に向けて泊地に資源輸送をする任務をしている時だった。私たちはそれなりに練度を上げていたが、正直作戦に参加できるほどではない。



やはり提督の言った通り、そういった事は最前線の艦娘たちに任せるべきなのだろう。でも…私も前線に出てみたい。昔のあの頃とは違い、私はもっと戦える。もっと伸び代がある。



そう思っていた矢先だった…








大井(…何だろう、潮風がいつもと違って嫌な感じ)


吹雪「遠いですね…」


漣「大井パイセ~ン、あとどれぐらいですか?」


大井「…」


漣「パイセン?」


大井「…え?何?」


漣「大丈夫っすか?」


大井「…念の為警戒しながら行くわよ」


漣「マ?」


五月雨「て、敵ですか!?」アワアワ


電「はわわ!?」


叢雲「落ち着きなさい、まだ敵が見えたわけじゃ…」


大井「そうよ。少し気を引き締め…っ!?」







私は視界の隅に、黒い人影を見た。直ぐに振り向くが、そこには誰も居なかった。



私は見間違いだろうと言い聞かせたが、妙な違和感だけが残り、気の所為に済ませられなかった。






『…愚かな』







大井「っ!?全員全方位確認!」


吹雪たち『!?』


大井「早く!」






まるで耳元で発したのかと思うぐらい大きな声だった。全員で周囲を確認したが、何も見当たらない。皆の反応を見る限り、私だけが聞こえたようだった。



駆逐艦の子たちに恐怖感だけを残してしまった。これは私の失態だった。これでは万全とは言えず、咄嗟の急襲に対応しきれるわけもなく…







大井「痛っ…敵襲!」ボンッ


吹雪「大井さん!交戦しますか!?」


大井「…敵の把握が出来ていないわ。それまで回避行動!補足し次第牽制!」


吹雪たち『了解!』


大井(どこから撃たれたの…!?敵影が全く見えないじゃない!)コツン


大井「今度は何…これ」ヒョイ


大井(…艤装の一部?かなり錆び付いてもうボロボロだけど…)







漣「パイセン!敵っぽいの発見!」


大井「!」


漣「あの人影から!」


大井「あれは、さっき見た…はっ!」








私は、ハッキリと見た。その人影は、明らかに艦娘だった。



しかし艤装は深海棲艦のものに酷似した、異形と化していた。資料には無い、新たな深海棲艦が、私たちに狙いを付けていたのだ。






大井「っ!」ゾクッ


漣「パイセン!あの距離じゃ漣たちの射程外っすよ!」


大井「…逃げるわよ!」


五月雨「も、目的地まであとどれぐらいですかー!」


大井「それほど遠くないから!回避行動しつつ、全速前進!」


叢雲「…!敵から何か飛んでくるわ!」


電「逃がさない気なのです~!」


大井「厄介な…あ、あれは!?」







敵から飛び立ったのは…一度だけ見た事のある型の水上偵察機だった。着任前にふと武装の資料を手に取った時に目にした、弾着観測に長けた偵察機だ。



それが今私たちに向かっているという事は…後は言うまでもなかった。







大井「弾着観測射撃が来るわ!総員退…」


吹雪「っ!大井さん危ない!」ドンッ


大井「ちょっ…!」







目の前で、吹雪が爆炎に包まれた。辛うじて耐えた彼女を素早く回収し、担いでその場を離れた。



漣たちは追撃を試みようとする偵察機を何とか退け、私に追いついた。ふと後ろを向くと、炎に揺らめく敵の姿が、異様なまでに鮮明に瞳に焼き付いた。



そして、また耳元で大きな声が聞こえた。その時、遠くにあった敵の顔が、まるで目の前に飛び込んできたかのように、ハッキリと見えた。







主の元へ帰ってきた偵察機『紫雲』を格納し、暗い瞳の奥に青白い炎を宿し、私を睨みつけていた。







私たちを襲った敵は、利根であった。








着任20日目








提督「…そのような報告は、過去にありませんが」


大井「本当なのよ!確かに決定的な証拠は残せなかったけど、会敵してるメンバーも…」


提督「それでは全く意味がありません。皆が口裏を合わせて吹雪を庇っているようなものじゃありませんか」


大井「そう思われても仕方ないけど!でも!」


提督「何故、通信を寄越さなかったのですか?それ程までに苛烈な攻撃だったのですか?あなたが言うように、敵は弾着観測射撃1発のみだったのなら、通信ぐらいは入れるでしょう?」


大井「それは…」フルフル


提督「それさえあればまだマシでしたが、無ければ話になりません」


大井「…」


提督「今回の輸送支援は最低評価です」


大井「…評価評価って、アンタには人の心ってモノが無いの!?」


提督「心?何ですかそれは」


大井「!」ブチッ







あの敵に吹雪が重傷を負わされ、輸送先の泊地で治療を受けた。吹雪は数日目を覚まさなかった。



そして今日、吹雪が目を覚ました。艤装も体調も万全に戻ったけど、そしたらこの始末だった。



確かに通信をしなかったのは私の落ち度だった。未確認の敵の対処としては最悪だ。でも、それでも私はその前に、一言でもいいから安否を気に掛けている、たった一言が欲しかった。



幼い子供は悪意を自覚していないと言うが、これは別だ。こいつは不気味で、無慈悲で、生まれながらの化け物だと確信した。







大井「分からなきゃ教えてやるわよ!まずは死の恐怖からね!艤装展開!」ブォン


提督「?」


大井「喰らえ!」グシャ!


提督「っ」ビタ-ン!


大井「ふ、ふふ、あはは!どうよ!流石のあんたでも死を覚悟したんじゃないの!?」


提督「」シ-ン


大井「吹雪もそれを感じてるのよ!何も知らないアンタが偉そうに決めつけんじゃないわよ!」


提督「…」ググ


大井(…え、動けるの?)


提督「…」パラパラ


大井(…ま、いいか。私は言いたいこと言ったし、ここで終わっても)


提督「…道具が恐怖する?」


大井「…は?」


提督「意味が分かりませんね。道具が恐怖感など抱くはずが無い、壊れれば換えるだけ。私はそう教わったのですが、あなた方は例外だと?」


大井「あんた、何言って…」


提督「…死の恐怖、というのはよくわかりまそんでしたね。しかし、艦娘と言うのは宿命以上の何かを秘めていると分かりましたよ」


大井(…コイツ、なんなの)


提督「ふむ…いくつか直すべきところがある、という所でしょうか。面白い」


大井「…」


提督「艦娘はどうやら道具としての範疇を超えている。大本営は見落としていたようですね」







…提督が憎くて憎くて、それしか頭に無かったけど、そう言えばこいつは大本営が送り込んできた奴だった事を忘れてた。となると、こんなふざけた認識を持たせた大本営が諸悪の根源だと思わざるを得ない。



しかし、こいつ自身も何かがおかしいのも事実。多感な少年が感情が欠落したかのような事務的な対応をするのは、こっちが恐怖する程だ。



それに私は艤装展開状態で、全力で提督を殴った。練度がまだ低いとは言え、瀕死は免れないと思っていたが、何でこんなに丈夫なのだろうか。



流石に重傷だったのか、ふらついて出ていったが、私は益々疑問を抱くばかりだった。あの利根によく似た敵、無機質な提督、大本営の刷り込み。謎は深まるばかりだった。









…とまあそんな事があって、私は騒ぎを聞き付けた憲兵に拘束され、数日間謹慎処分となった。正直解体を覚悟してたけど、運が良いのか悪いのか…








着任1ヶ月目









だいぶ日が空いたが、私は謹慎が解けた。私が居ない間は北上さんが派遣されてたみたい。







大井「北上さぁぁぁぁぁん!」


北上「おかえり~」フリフリ


大井「すいません、私が居ないばっかりにこんな激務を…」


北上「大袈裟だよ~。めちゃくちゃ暇だったよ」


大井「よかった…もし馬車馬の如くこき使ってたらあのクソガキ…って、そういえば提督はいるんですか?」


北上「いるよ」


大井「はぁ、気が重いわ」トボトボ


北上「私も任期満了だから報告行かなきゃ」


大井「え」


北上「大井っちがいない間の枠だからね」


大井「そんな…」ズ-ン


北上「まあまあ」








北上「軽巡北上、任期満了の報告です」


提督「了解です」ポン


大井「…軽巡大井、謹慎処分より復帰します」


提督「了解です」ポン


北上「それじゃ、またね~」スタスタ


提督「…どうしましたか?あなたも他に用がないなら行きなさい」


大井「…ふん、ガキのくせにしぶといわね」


提督「私もヤワじゃないので」


大井「ちっ」


提督「…今回の件で、私個人としても学ぶ点が見受けられたので、謹慎を早く解除したのです」


大井「は?」


提督「あなた方がそれぞれ持つ特徴…それは艦娘として固定された個性なのか、人間と同等の感性なのか、それを見定める必要があると思いました」


大井「…ガキのくせに小難しい言葉並べてんじゃないわよ。つまりプログラムか感情かの違いでしょ?」


提督「そうです」


大井「…腹立つけどね、あんたが教わったものは全部否定出来ない。でもね、私たちにも喜怒哀楽はあるのよ。それだけは譲れないって覚えときなさい」


提督「…ふむ、面白い」


大井「ったく、大本営はホントにろくな事しないわ」


提督「…あなたは私を殺そうとしましたね?」


大井「…な、何よいきなり」


提督「殺そうとしたのに、その感情が今も続いてないのか疑問に思いましたので」


大井「…あれから10日ぐらい?経ってるのよ。流石に頭も冷めるわ」


提督「…今は欠片も無いと?」


大井「どうかな。でもまたあの子たちの命を軽んじるなら、今度は絶対に殺してやるから」


提督「あなたはいいのですか?」


大井「そんなのあの子たちに任せるわ」


提督「ふむ」


大井「とにかく!アンタは反省と謝罪の心を持った方がいいわ」


提督「…面白いですね。あなたから学ぶ事は他にもありそうだ」


大井「…?」


提督「軽巡大井、あなたを秘書艦に任命します」


大井「は、はぁぁ!?」ガタッ


提督「…秘書艦とは言っても、書類は全て私がやるので、肩書きだけです。私がその時疑問に思った事を答えるのがあなたの仕事です」


大井「…馬鹿らしい」


提督「嫌なら降りて構いません。他を当たります」


大井「…あーわかったわよ!ったく、他の子はピリピリしてんだからちっとは考えなさいよ!」


提督「それでは、宜しくお願いします」








…復帰早々、私は秘書艦に任命された。なんでこんな目に…




…遅かれ早かれ、こうなる運命だったのかもしれない。この時まで、私以外は提督と殆ど話していなかったし。







***








扉の裏






北上「…」


叢雲「…あ、北…」


北上「おーっと駆逐艦、そこまで」


叢雲「?」


北上「今提督と大井っちが取り込み中だからね」


叢雲「…文句の1つでも言ってやろうかと思ったんですけど」


北上「その心配は無さそうだね」


叢雲「…了解」スタスタ


北上「…これは、どうなるんだろ」ボソッ









着任35日目







私が秘書艦となって最初に提督にやらせた事は、駆逐艦たちへの謝罪だった。まあこれは私以外に未だ蟠りがあるから、多少なりともケジメを付けさせるべきと思ったからだ。



また、その後駆逐艦の子たちは私の暴挙の要因である言動の謝罪を求めた。これは別にどうでもよかったが、提督は素直に謝ってきた。相変わらず無機質さが目立つが、これが第一歩と信じて受け入れた。



そう。私はこの少年がここまで感情の無い成長に尋常ではない違和感と…そう、悲壮感を感じたから、私なりに矯正しようと思ってしまった。



この時点で、私は怒りとは別の感情を抱いていた。怒りを向けるなら大本営か、この子の両親であろうか。この歳で提督になるには相当複雑な事情があるに違いない。



そう思うだけで、今は聞かなかった。聞くなら、もっと感情を出して話して欲しかったから。もっと子供らしく、人間らしくなってから話して欲しかったから。



…まあここまでは今日の出来事ではなく、これからだった。ほんの数日だが、提督について分かったことをまとめてみた。








大井「…間違い、無しね」ペラ


提督「当然です」カリカリ


大井「…そういえば書類なんかも全部一人でやってたわね」






士官学校の模擬試験は当然全教科満点、何なら大学の模擬試験も同様だった。彼曰く、覚える事は苦じゃないとのこと。



次に、運動面を見たが、これは意外にも同じ年代の男子とほぼ同じ運動能力だった。異常なまでにタフなだけっていうのも正直変だけど。



そして、一番肝心な私生活についてだが…







提督「ありません」


大井「は?」


提督「趣味なんてありません」カキカキ


大井「…予想はしてたけど、改めて聞くとね…」


提督「そもそも、趣味の定義とは?」


大井「は?そんなのやってて楽しい事でしょ」


提督「…楽しい事など、必要ですか?」


大井「当たり前でしょうが」


提督「楽しい事をする時間、ありますか?」


大井「そりゃ今は無いけど、ちょっと空いた時間に出来るものもあるわよ」


提督「このご時世、そのような事をする許可は出ているのですか」


大井「…はぁー!とことん仕事人間になるよう仕込まれた訳ね」


提督「…」


大井「いい事?趣味は誰に何言われても譲れないもんなのよ!というか、趣味が無かったらどう息抜きするのよ!」


提督「知りませんよ」


大井「あんたは知らなくてもね、私たち艦娘には必要なの!ただでさえ輸送任務でも神経使ってんのに…」ブツブツ


提督「…」






まあ、改めて言われるとやっぱり異常と思った。子供が一つも趣味を、楽しいことを知らないなんて。



人手が足りないのか知らないけど、大本営はこんな子供にそこまでする必要があるのか。それとも、妖精に選ばれる人間が少なすぎるのだろうか。







提督「…あなたは、どうやって楽しいと感じる事をするのですか」


大井「え?そんなの…そうね、趣味って言ったら違うかもだけど、北上さんと連絡を取る時とか、好きな音楽を聴く時とか」


提督「…」


大井「後は、案外トランプとかボードゲームも捨て難いわね。子供っぽいとか思って敬遠してたけど、食わず嫌いは良くないわね」ウンウン


提督「…それが、あなたの趣味ですか」


大井「趣味ってほどのめり込んで無いわ。そういう意味ではまだ私も趣味は無いから、そこはあんたと同じよ」


提督「…」


大井「そうね、あんたは何が楽しいのか分からないみたいだし、手始めに音楽とか歌でも聴けばいいんじゃないの?一番手軽よ」


提督「歌…音楽…」


大井「まさか、それも知らないなんて」


提督「知りません」


大井「…なら軍歌でも聴いてなさいよ」ヤレヤレ


提督「…」


大井「私は給与が出たから駆逐艦たちと買い物してくるわ。じゃあね」スタスタ


提督「…音楽、歌…」










…今日はそんなわけで、買い物に行った。私たち艦娘にも一応休暇はあるし、その日は何着か服を買った。駆逐艦の子たちはゲームとかアクセサリーだったかな。



ふと、提督と話してた時の言葉を思い出して、私も音楽や歌を聴いた。それと、店内のBGMを注意深く聴いたりした。



あの子に必要なのは感情。あの子の感情を揺さぶるものが音楽であるなら、それともそれ以外なら何があるか。そんな事を頭の片隅で考えていた。









着任40日目









あれから特に進展は無く、提督は特にこちらの気に障るような事も言っていない。恐ろしい程に平凡であった。



やはり音楽系では何も得る事は無かったみたいだった。なら今度はどうしようか…







北上『…ほーん、大井っち凄いねぇ。提督に感情を持たせたいなんて』


大井「そ、そこまでは言ってませんよ!ただ、こっちとしては最低限の人間味が無いと…」


北上『いや、分かるよ。アレみたいだよね。アニメとかでさ、モニター越しとかモノリス?的な奴から一方的に命令貰うみたいな?』


大井「…?よく分かりませんが、アニメなら時間がある時に必ず見ますね!」


北上『オススメのアニメ教えるよん』


大井「…アニメかぁ」


北上『なになに?提督に見せようって?』


大井「ち、違いますよ!どうせあいつの事だから、アニメなんて時間の無駄とか、絵が連続して流れてるだけみたいなつまらない事を言うに決まってますから!」


北上『うーん、それはそうかもねぇ。残念だよね』


大井「それじゃ、また後でオススメ教えてくださいね!」ピッ







…聴覚でダメなら、次は視覚よね。








***







提督「…風景?」


大井「そうよ。何か記憶に残るようなのは無いの?」


提督「ありません」


大井「…まあそうよね。それならほら、今ならネットで手軽に風景画像とか見れるから」カタカタ


提督「事務用のPCなので勝手に」


大井「いちいちうるさいわね、大人しくしなさい」カタカタ


提督「…これですか」


大井「そうよ。適当に見て気になるのがあったら教えなさい」


提督「業務に支障が出ますので」


大井「あーもううるさいわね!適当に見て何かあったら教えるだけでいいのよ!無かったら無いでいいわ!」


提督「…」サッ


大井「だからページ戻そうとするな!」


提督「…」






多少私が強引にすれば聞くようになった。まあそれしか方法が無いと悟ったからだろうけど、そこら辺は前と変わったかな。






提督「…特にありません」


大井「…そう」


提督「気は済みましたか?」


大井「…ええ」


提督「…あなたは、どうですか」


大井「…え?」


提督「あなたは気になるものがあるのですか」


大井「…これかな」


提督「…桜の木が1本だけの画像ですか。何故?」


大井「…こう目に止まったものってのはね、言葉で説明したくても出来ないのよ」


提督「語彙力が無いだけでは?」


大井「うぐっ」


提督「業務に戻ります」


大井「…ダメか」







結局、視覚というか、画像では特に良い反応は見受けられなかった。戦術的敗北ではなく、文句無しのD敗北だ。



なんと言うか、今回ばかりは自分も予測が出来た結果だと思った。しかし、試さない訳にもいかないのだ。



今回は画像だけだったし、機会があれば外へ連れ出すという案もある。今はそんな事しても上手くいく気が全くしないから、もっと何かしらの変化があってからかな。









着任45日目







五月雨「大井さん、今日の訓練終わりました!」


大井「お疲れ様。報告は私がやっとくから先にお風呂行ってきなさいな」


五月雨「はい!みなさーん!」スタスタ






変わり映えのない日々が続いている。資源を輸送し、訓練し、一日が経つ。それだけでなく、あの少年の変化も窺えない。



提督には何が響くのかを考えるのも些か面倒になりつつあるが、そこで折れては本当に道具になってしまう。それだけは避けなければならなかった。



しかし他に何があるのか?あの子には何をすればいいのかさっぱり分からなかった。






吹雪「大井さん!たまには外食に行きませんか?」


大井「え?えぇ…どこに行くのよ」


吹雪「それはこれから決めます!どうですか?」


大井「うーん、私はいいけ…あ」


吹雪「?」


大井「そういえば…吹雪、私も行くから決めといて」スタスタ


吹雪「あ、あの、どこに行くんですかー?」







そういえば、全く気にしていなかった。提督は普段何を食べているのか。



私たち艦娘と提督は主に別々に食事している。普通は鎮守府に給糧艦という給仕さんが居るものだけど、それは普段海戦をしてるような鎮守府出会って、私たちのような輸送ばかりの後援は担当から外れるらしい。



だから食料、食材だけ支給され、後は好きにしろというスタイルだ。だから私たちはある程度自分で料理を作れるけど、提督がそう言った事をしてる所は全く見てない。



私たちの後に使っている痕跡は全く見られていないが、恐らくきちんと使った場所に戻してるのだろうと思っていた。しかし食料が全く減ってないから、提督は別のものが支給されてるのだろう。



それなら、ここで少しばかり贅沢をしてもいいだろうと思い、私は提督も連れていこうと思った。







提督「食事なら済ませました」カキカキ


大井「え」


提督「外食なら自由にして構いません」


大井「いやいや、何食ったのよ」


提督「わざわざそれを答える必要はありますか?」ポン


大井「あるから聞いてんのよ」


提督「何故?」


大井「つーか先に質問したのは私よ。質問に質問で返さないで」


提督「…やれやれ、これですが」ガサッ


大井「…戦闘糧食じゃない」


提督「私にはこれで十分です」ガサガサ


大井「…まさか、これしか食べてないの?」


提督「何か問題でも?栄養はバランス良く含まれてますので問題無いはずですが?」


大井「いや、そうじゃなくて…」


提督「質問には答えましたので、下がりなさい」カキカキ


大井「…あんた、やっぱおかしいわよ」


提督「大本営からの支給物資です。これで済ませろと言う事です 」


大井「こんなのしか食べてないなんて…家畜同然じゃないの!飽きとかないの!?ずっと同じもの食ってんでしょ!?」


提督「家畜…成程。言い得て妙ですね」


大井「感心してる場合じゃないでしょうが!」


提督「用件は済んだでしょう。約束を控えてるのでは?」


大井「っ…」


提督「…一つ教えておきますが、これが大本営の価値観ですよ」カキカキ


大井「…」ドタドタ







提督は、戦闘糧食しか食べていないと言った。外食より、大本営が寄越した餌で十分と言うような口ぶりでもあった。頭がおかしくなる。



戦闘糧食にも様々な種類があるのだろうけど、所詮は野戦食だ。私たちの作る料理はそれよりも美味い自信があるし、外食なら尚更だ。



あの少年は気遣いとかそういうのとは無縁だから、決して私たちの為を思って言ったのではないと分かる。彼の口から出るのは、紛れもない事実しかないのだ。



ここからは私の偏見だが、提督は私たち艦娘よりも上等な料理を食べているものだと思っていた。だが事実を目の当たりにされて良くも悪くも驚愕を隠せなかった。







叢雲「あ、大井さん、やっと見つけた」


大井「…」


叢雲「外食の件ですけど、ファミレスでいいですか?」


大井「…ええ」


叢雲「…どうかしたんですか?まさかあいつに」


大井「…違うの」


叢雲「他のところが良かったですか?」


大井「…うぅん、行きましょ」


叢雲「…?」







…その日の夕食は、あまり美味しいと感じられなかった。駆逐艦の子たちには悪いけど、恐らくどこに向かってもあまり味が楽しめなかっただろう。



提督は戦闘糧食で、私たちは自作の料理か外食でいいのかという卑下の感情は全く感じなかった。しかし、このままではいけないという思いだけは募るばかりだった。







着任55日目









私がこの鎮守府に着任してからもう55日が経った。私を含め駆逐艦の子たちもある程度の練度に達し、改装の準備が出来た。



これを提督に告げるが、改装も大本営に向かわなければ出来ないとのこと。鎮守府に設けられている工廠はハリボテか何かかと思ってしまった。








提督「…丁度いいです。私も大本営に向かう用事がありますので、その日に改装も行います」


漣「キタコレ!皆に伝えてきますぞ~!」ドタドタ


大井「用事って何ですか」


提督「定例報告会です」


大井「…?」


提督「月に1度大本営に集まって戦況報告と意見交換を行います」


大井「いやそうじゃなくて、それって…いや、何でもないわ」


提督「各自持参品は不要ですので」カキカキ


大井「わかったわ」








定例報告会なんてあったのかと思ったが、先月は私は謹慎中だったから知らないのも当然だった。




それはそうと、大本営内での提督の動向に着目するのは確定だが、他にも色々と気になることが浮かんでいるのだ。その答え合わせは5日後。







大井「…という訳でやっと改装ですよ~」ウキウキ


北上『おめでと~』


大井「それにしても律儀なものですねぇ。月一とはいえ大本営にまで出張って他の提督と会議だなんて」


北上『電話とかだと盗聴の可能性が~とか言ってた気がするから仕方ないかな』


大井「そうだとしても、あの子供たちが一堂に会しておしゃべりできるんですかね?睨めっこしか出来ない気がしまして」ウフフ


北上『それは言えてるねぇ』アハハ


大井「あと、建造は話に聞いてましたが改装ぐらいは各鎮守府でも出来るようにした方がいいと思うんですよねぇ」


北上『そうだよねぇ。改装する為だけに大本営行くのもねぇ』


大井「え、もしかして、北上さん」


北上『ありゃ、言っちゃった。あはは』


大井「一緒に行きたかったのにぃ~!」


北上『いやいや、こっちは訓練だけでなったペーパー的な感じだからさ。実質大井っちの方が見合ってるって』


大井「うーん…」


北上『まあこれからは頑張ろうよ』


大井「そうですね!」


北上『ああそうだ、会議終わるまでは一応自由らしいから』


大井「そうなんですね、わかりました」


北上『それじゃね~』ピッ


大井「…自由、か」









着任2ヶ月目









提督「それでは、私はこれで」


大井「はいはい」







5日後、私たちは大本営に着いた。当然だが2ヶ月前とは全く変わらない内装だった。



改装も滞りなく終わり、妖精さんたちがウキウキしている。ただ、思いの外早くて時間が余ってしまった。



ものの数分だったので、本当にやったのか疑問に思ってしまったが、どうせ提督を待たないと帰れないので少しうろつくことにした。







大井「…しっかし、大本営とは言えないぐらいこざっぱりと言うか、殺風景というか…」


漣「パイセン、漣たちは食堂に居ますから」


大井「はいはい。お金は」


漣「◆ もんだいなし」


大井「…?」スタスタ






大井「…ここ会議室か。何の話をしてんだか…ん?」







誰もいないのか、会議室からは音一つ聞こえない。この部屋ではやっていないのだろうか、それとも…







提督「大井さん」


大井「ひぇっ!?」


提督「空き部屋の前で何をしてるのですか」


大井「な、何でも…って、報告会終わったの?」


提督「終わりました」


大井「そ、そう…って、早過ぎない?だってほぼ同じ時間に」


提督「報告を済ませただけですので」


大井「…」






先日言ってた意見交換とやらはどこへ行ったのか、報告だけ済ませて帰ってきたらしい。決められたタスクは全部やると思っていたが、意外であった。



それにしたって早すぎる。報告だけにしたって相手の反応も込めるともっと時間が掛かるはずだ。一方的に話して戻ってきたとしか思えないが…









提督「帰りますよ」


大井「…ん?」


提督「何ですか」


大井「あんた、さっき、大井さんって」


提督「それが何か」


大井「…何でもないわ」







…呼び方一つ変わったぐらいでちょっと浮かれた私が馬鹿だった。こいつはこんなやつだった。



でも、これは小さな変化に見えて、とても大きな進歩だと思った。この子にも、ちょっとだけ人間味が出てきたのだから。






提督「帰ります」


漣「まだメニュー見てたのに…」


叢雲「あーあ、帰るのかぁ」


提督「嫌なら結構です」


叢雲「は、はぁ!?」








着任65日目









漣「パイセン、最近あいつ変わりましたな?」


大井「…そうね」


漣「いやぁ何したんすか?まさかそのダイナマイトボディで」


大井「沈みたい?」


漣「ジョークです…」ブルブル


大井「…まあ、最初よりかマシでしょ。いちいち報告でイラつく事は無くなったし」







あれから数日経った。帰ってからもさん付けは続いていた。私以外の駆逐艦たちにもしていた。



一体何があったのだろうか。それとも私たちには見えないぐらいで僅かに変化し続けていたのだろうか。








提督「…不備無し。いいでしょう」


五月雨「やったぁ!」


提督「以降は緊急以外自由時間です」


五月雨「了解!」パタパタ


電「…あの、電のは」


提督「今見ていますので休んで待っていなさい」


電「あ、はい」


吹雪「まさか五月雨ちゃんがノーミスだなんて…」カキカキ


叢雲「有り得ない…」カキカキ


漣「御二方はまだいいっすよ。漣の量見てくださいよ」


大井「あんたはふざけて書いたからでしょ」


漣「うごっ…」


提督「たかが書類、されど書類です。守らなければ私たちの境遇が左右されますので」


大井「…」


提督「…しかし、些か時代遅れのようにも感じますのでオンライン上での記入と提出も検討しましょう」


漣「マ!?」


提督「私はどちらでもいいですが」


漣「ご、ご主人様頼んますよ~」


大井「…」






やっぱり、前よりかなり変わってる。自分の意見を言うようになっていた。電子上だとハッキングで情報が盗まれかねないとか言うと思ったけど、意外だ。



自分の為か私たちの為か。恐らく前者だろうけど、どっちでもいい。私は顕著な変化が見られて内心心躍っていた。



きっかけは何であれ、こんな可愛げのない子供でも変われるものだと分かった。年相応とまで行かなくていいから、もっと人間味を出して欲しいと思い始めた。








***








北上『へぇ~、凄いじゃん』


大井「ま、まあまだ一歩目って感じですかね」


北上『こっちは相変わらずだよ。息苦しいことこの上ないや。何やったの?』


大井「うーん…正直これと言える手段が分からないんですけど、音楽聴かせるとか絵を見せるとかやりましたね」


北上『ほーん…』


大井「北上さんもやるんですか?」


北上『どうかなぁ。まあ堅い空気が直るならみんなに試させるかな。ありがとねぇ』


大井「いえいえ!北上さんの力になれるなら!」


北上『相変わらずだねぇ。それじゃね』ピッ


大井「ふぅ…北上さんの所も上手く行けばいいな」









北上「…」







着任75日目







提督「…何故私があなた方と食事を?」


大井「別にいいじゃない。何か問題でも?」


提督「食事は一人でも事足りてますので、メリットが見当たらないです」


大井「食事なんて二の次よ。あんたと腹割って話したいってあの子たちが言ってんのよ」


提督「…」


大井「ま、嫌なら来なくていいわ。もし来るなら夕食時に皆で待ってるから」スタスタ


提督「…」








着任から2ヶ月半が経った。もう踏み出してもいい頃だと思い、提督と食事を共にしようと試みた。



発案は吹雪。目的は食事しつつ話がしたいといったところ。本当は皆があまり乗り気では無かったらしいが、私の動きを見ていくにつれて勇気が出てきたとのこと。少し気恥ずかしかった。



誘い出すのは…これは私だった。まあ適任といえばそうだが、果たして来るかどうか…








大井「…」


吹雪「…来ないですね」


漣「パイセン、飯冷えちゃいますぞ」


大井「…ま、こんなもんよね。食べましょうか」


五月雨「やっぱりダメでしたか…」


叢雲「ふん」


電「…あら?足音が聞こえるのです」


叢雲「…侵入者かもしれないから、一応警戒」








提督「…」ガチャ


大井「!」


叢雲「あ、あんた…」


漣「おー!パイセンやりますねぇ!」


提督「…それで、私はどこへ?」


大井「…そこ」


提督「…」ガタン







なんと、来た。正直諦めかけていた。夕食も冷えかけていたし、もう食べようとしたところだった。



私は驚きと僅かな嬉しさを感じた。順調に事が進んでいるように思えて浮かれた。







提督「…これが、夕食ですか」


大井「そうよ」


漣「ほいじゃ、いただきます!」バクバク


提督「…」パク


大井「…」


提督「食べられますね」


大井「っ…そりゃどうも」


叢雲「あんた、なんて事を」


提督「それで、話があるのでしょう?」モグモグ




吹雪「は、はい…じゃあ、司令官の誕生日は?」


大井(うーん、話の切り出し方が下手ねこの子)


提督「わかりません」


五月雨「じゃ、じゃあ次行きます!提督は、男の子ですか!?」


大井(この子は…)ヤレヤレ


提督「男です」パク


叢雲「…何で司令官になろうと思ったの」


提督「それが与えられた道だからです」モグモグ


叢雲「もっと具体的に」


提督「大本営に集められ、教育を受けたからです。私たちは選ばれたものたちだと」パク


電「…ということは、他にも司令官さんみたいな子たちが?」


提督「居ました」モグモグ


漣「…んじゃー、ご主人様ってどこ出身?」


提督「大本営です」


漣「いやいやそーじゃなくて、集められたんだから大本営で生まれた訳じゃないっしょ?」


提督「わかりません」


漣「??」


提督「私は孤児院の出なので、生まれた場所はわかりません」


漣「おっふ…」


大井「…」


提督「ご馳走様」カタン










私は駆逐艦の子たちの質問の答えを聞いていくにつれ、自分の用意した質問が言えなくなった。



思っていたよりも重い答えだった。私は、嫌いな食べ物はあるか、という軽い問いだったけど、あの空気では言い出し辛かった。



…ただ分かったのは、あの子はあの歳でかなり複雑な人生を歩んでいる。そして、そうさせた大半は大本営であることも。



私たちの初めての会食は、酷く重たい雰囲気を残したまま終わってしまった。








着任85日目








あの日から私たちと提督の間は一向に埋まっていない。というか、また離れてるような気がした。



無理もないと思う。嘘か本当か分からないけど、あの子の口から発せられた情報なのだから。



そう悩んでる時でも、私たちの任務は絶えず続く。特殊作戦に向けてまた備蓄と輸送を任された。



…2ヶ月ぐらい前を思い出す。あの時は酷い目に遭った。







大井「…」ザァァ


吹雪「大井さん?」


大井「…あ、ごめんね。ちょっと考え事してたから」


漣「パイセン資源落とさないようにしてくださいね~」ニシシ


大井「へぇ、どうやらお仕置きされたいのかしら?」


漣「すいません許して下さい!」


大井「全く…ん?」







この時も、人影を見た。今度は見間違えない。



あの時と同じだ。艦娘ではなくなった重巡洋艦、利根だ。






大井「総員交戦準備!」


『!』


大井「深海棲艦利根がいるわ。今回は前みたいな遅れは取らせない!」







利根『…』


大井「…?」


利根『…』チラ


大井(…油断するな、ノーモーションでも何かあるかもしれない)


利根『…またか』


大井「…みんな、警戒は怠らないで。何もなさそうだけど」






利根『何故まだ足掻こうとするのか、理解に苦しむ…』


利根『こんなことなら、吾輩は…』







大井(…独り言?)


利根『全てを滅ぼし、朽ちるべきだった…!』


大井「ッ!」ゾクッ


利根『そうは思わんか!艦娘!』ギロ


大井(目が合った!あの目はまずい!)








利根『逃げたら殺す』ザパァ


大井「っ!?」


叢雲「なっ!いきなり何よ!」


電「はわわ…ピンチなのです!」


利根『主らに問う。人間とて種として残すべきだと思うか?』


大井「…な、何よいきなり」


利根『答えろ!』


大井「わ、わかんないわよ!」


利根『…そうか、分からんか』ズズズ


大井(…さっきの勢いが嘘みたいに大人しくなった)


利根『…これも、時が経ちすぎた影響か。何故吾輩が残されたのか…皆が羨ましい…』


大井「…何を言ってるの?」


利根『…吾輩は、何時になったら提督の下へ行けるのか…』サァァ


大井「…」








…深海棲艦となった利根と接触し、会話と言えるものではないが言葉を交わした。何の事かよく分からなかった。



でも、何となくだけど、利根はあの状態で居ることを良く思っていないみたいだった。皆と言っていたが、ずっと昔に一緒だった仲間のことだろうか。



提督の下へって事は、恐らくもう亡くなっているんだろうけど、早く成仏したいと言うことだろうか。



…でも、それを聞く前の鬼気迫る問いは、やはり世に仇なす者としてみるしかない。



利根は…いや、深海棲艦は、人の根絶を目的としているようだ。あれは、深海棲艦の本能が出たとでもいうのだろうか。




…嫌な胸騒ぎがする。









着任89日目









『こちら突入部隊!手応え無し!』


『支援射撃、航空射撃、爆撃共に損害軽微!』






北上「…てなわけで無駄弾使っちゃったってオチよ」


大井「そんな…」


北上「いやぁ恐ろしいねぇ深海棲艦となった艦娘ってのは」


大井「…」


北上「あちらさんはしばらくボーッとした後にワンパンして本土に向かってるってさ」


大井「北上さん!どこかへ逃げましょう!いっその事駆け落ちと言う手も…」グヘヘ


北上「多分即解体されちゃうって」アハハ





吹雪「…よく笑ってられますね、こんな状況にあるのに」ガクブル


五月雨「本隊の攻撃が効かないってもうダメじゃないですか~!」







大井「…そういえば、そっちの提督は?」


北上「相も変わらず鉄仮面のままだよ」


大井「…こっちもですよ」


北上「なんかね、効いてないわけじゃないからこのまま弾幕戦法になるっぽいかな。あたしらは大した火力にならないって判断されたみたいだけど」


大井「ということは物資輸送ですか?」


北上「多分ね」


大井「北上さんと一緒!百人力!」


北上「百人力じゃ艦娘としては心許ないねぇ」アハハ


大井「あら、そうでした。とりあえず指示を仰いできます」スタスタ










提督「…なるほど。ダメージは確実に蓄積しているらしいですね」


大井「失礼します」


提督「何でしょうか」


大井「私たちは何すればいいの」


提督「前線へ物資を届けてください。深海棲艦利根の目的はどうやら本土らしいので、それまだに撃退、もしくは撃沈させるように」


大井「はいはい、それじゃあ行くわ」スタスタ


提督「…あなた方は利根に接触しています。出来る限り情報を集めて欲しい所ですが、今回は少し厳しいでしょう」


大井「…何が言いたいの」


提督「通信は切らないように」


大井「なら最初からそう言いなさいよ。全く…」スタスタ







***










日本近海







漣「うへぇ、もうここら辺まで来てるんすか」


大井「らしいわね。というか、水平線見てみなさいよ。爆煙が見えるわ」


漣「ドンパチやってますねぇ」


大井「さ、もうすぐよ!」ザァァァァ






ーーー






大井「…ふぅ、輸送完了。戻るわよ」


電「…あれ?何だか爆炎が近付いて…」


叢雲「い、いくら何でも早すぎるわ!」


大井「…まずい、早く撤退するわよ!」








『無駄じゃと言うておろうが!』ビリビリ






大井(っ…空気が震えてる…利根!)


吹雪「はっ!?声が!?」





『いつまでこの茶番を続ける気なのか!この戦いは不毛だと何故理解せん!』





大井「ちゃ、茶番…?」





『何故大人しく生きることが出来ない!?何故海を統べようとする!?何故吾輩らを呼び戻そうとする!?』


『人間!どうせ艦娘の通信機越しに聞いているのだろう!?なぜ学ばぬ!あの侵攻でありもしない希望でも見出したのか!?』






大井(何て声量なの…!頭に直接響いてるみたい…)ビリビリ






『芽は摘んだつもりだったが、人間は結局同じ過ちを繰り返した!最後の監視者として、粛清せねばならない!』





大井(監視者…っ!?あの光!)


大井「みんな早く退避!撃ってきたわ!」


五月雨「ひゃあ~!」ザバッ


電「五月雨ちゃんが転んだのです!」


叢雲「全く世話の焼ける…!」


漣(海上で転ぶなんて器用だなぁ)





ドォォォォン!!






大井「危なかった…」


吹雪「何て弾幕…泊地が焼かれて…って、あそこの司令官は!?」


大井「分からない。多分…」


吹雪「そんな…」


大井「…私たちがどうこうできる相手じゃないわ。一刻も早く逃げるのよ」







ーーー





鎮守府・執務室




提督「茶番…侵攻…?」


提督「…何のことでしょうか」


提督「…深海棲艦…監視者…利根…」


提督「…」





大井『こちら大井。もうすぐ帰投します』ピッ


提督「…わかりました」


大井『…あんた、聞こえてた?』


提督「ええ」


大井『…そう』


提督「…今回の件について色々と調べる必要がありそうです。それでは」


大井『え?ちょ』ブツッ


提督「…何でしょうか、これは」ドクン








着任3ヶ月目








『…おい、定例報告日だぞ』


提督「承知しております」


『何故来ない』


提督「現在緊急事態ですので」


『だからこそ必要なのだ!』


提督「報告は通信で済ませます」ブツッ







大井「…いいのかしら?」


提督「…はい」


大井「あんたらしくないわね。上の駒とか自分で言ってなかったっけ?」


提督「…私にもよく分かりません」


大井「…ま、私にはどうでもいいけど。それにしても随分調べたようね」ズラッ


提督「利根の発言と関連しているものを探していたらこうなりました」


大井「ここ執務室なんだけど、まるで書庫ね」


提督「…探したはいいんですが、不自然に消された痕跡も少なくありませんでした。何か不都合なことでもあったかのように」


大井「…分かったことは?」


提督「数十年前、深海棲艦と人間の戦争があり、人間側の優勢が揺るぎないものとなったと思いきや、深海棲艦が攻勢に転じて一気に敗北。その後、深海棲艦大侵攻と呼ばれる厄災で人口は半減」


大井「それは散々大本営で聞いたとこね」


提督「当然日本も大打撃を喰らったが、唯一海軍関係者で生き残った者が居ました。その提督がいた鎮守府が、どうやらここらしいです」


大井「…は?」


提督「ここの提督…そうですね、Bとしましょう。Bと艦娘は深海棲艦と善戦したが力及ばず降伏し、奇跡的に殺されずに済んだとのこと。戦いに敗れていった艦娘の慰霊碑が埠頭付近に設置されていたらしいですが」


大井「…そんなの無かったわ」


提督「恐らく風化して崩れてしまったか、誰かが壊したか…と思いましたが、この理由は直ぐにわかりました」


大井「?」


提督「深海棲艦大侵攻から数年後、生き残ったBは艦娘と共に復興支援に従事していましたが、深海棲艦との交流を何らかの形で知られてしまい、事実確認の末に、戦ったのではなく、取引をした事を明らかにしました」


大井「取引…?」


提督「命を保障する代わりにこの鎮守府を地上侵攻の拠点とするものだったらしいです。裏切り者と世間から非難され、最終的に艦娘と共に自沈し、この鎮守府も廃棄される事になりました」


大井「…」


提督「死んだ艦娘の慰霊碑は本当はそのBの同期の友人と秘書艦の為のものだったらしく、怒りに満ちた人たちに壊されたらしいです」


大井(…この鎮守府で、そんな事が…)


提督「そして、人類は再び立ち上がり、深海棲艦に立ち向かう事となり、現在に至るということです」






定例報告をバックれてまで調べ物をしていたらしいが、聞いてる限りだと歴史を詳しくなぞっただけのようだった。



詳しい歴史研究家にでも任せればいい事だとも思ったけど、提督が珍しく自発的に調べ物をするようだったので、彼の好きにさせるようにした。



しかし、この鎮守府がそんな曰く付きだったとは…確かに色々と他とは違うと思ってたけど。






提督「ここまでなら別に私でなくても導き出せる情報ですが、ここからが少し問題なのです」


大井「?」


提督「ここで出てくる慰霊碑に載っていた提督…Aとしましょう。Aについては名前だけで他の情報が何処にも見当たらなかったのです。特に大侵攻後に発行された歴史書や記録には」


大井「…じゃあ、結局あんたでも見つけられなかったの?」


提督「いいえ、何とか見つけました。恐らくB、もしくは艦娘が誰にも見つからないように隠していたのでしょう。古びた日記が遺されていました」


大井「!」


提督「Bがまだ着任する前の士官学校時代から着任直後までの記録のようでした。その中でAとBがライバル関係で、尚且つ首席を争う程の実力だったようです。結局ダブル首席だったらしいですが」


大井「…」


提督「これ程の実力者の記録が残っていないのは流石におかしいと思いませんか。また、士官学校時代から日記を書くBの以降の記録が無いのもおかしい。こうして遺しているなら、どこかにまだあるはず」


大井「…で、探すの?」


提督「場所がわかりません。それに、ここまでAの記録が意図的に、しつこいぐらい消されてるのが気になります。禁忌とも呼べるぐらいです。歴代の着任記録からも、Aの名前だけ消されています。Bは恐らく見せしめで残っているのかもしれません」


大井「…」


提督「ならば、着任後のBの日記がまだ遺されているなら、そこにAの手がかりがあるはず。そして、Aが禁忌とされている理由がそこにあるのでしょう」


大井「…話が脱線しかけてると思うけど、利根はどうするのよ。私たちは歴史を紐解く為にやってるんじゃ…」


提督「…深海棲艦大侵攻には、特定の艦娘も関わっていたらしいです」


大井「…まさか、利根?」


提督「まあこれは利根の言葉をそのまま聞けば事実となるのでしょうが、裏付けがありました。深海棲艦側となるには、それなりの訳があったのでしょう」


大井「…?」


提督「ここからは仮説ですが…意図的に情報が消されているAと利根は、提督と艦娘の関係にあったのでは無いでしょうか」


大井「Bの艦娘では無かったの?深海棲艦側に寝返ったのはBも同じでしょ?」


提督「記録を参照しましたが利根は着任していなかったので、恐らくAかと。それに、Bらは降伏しただけで何もかもを深海に委ねた訳じゃないようです」


大井「そう…」


提督「海を守る提督が世に仇なす者となれば海軍としてはこの上ない汚名です。消したがるのも当然でしょうが…」


大井「じゃあ、Aの情報を掴めれば…」


提督「利根への対策が出来るかもしれません」


大井「…繋がっていたのね、あんたの行動」


提督「仮説ですので本気にしてはなりませんが、現状利根に対する有効打が核兵器しかない以上…」


大井「核!?」


提督「上層部は視野に入れてるはずです」


大井「そんなことしたら、それこそ世間から非難されるんじゃ…」






憲兵「失礼する」ガチャ


大井「え」


憲兵「提督殿、至急大本営に出頭せよ」


提督「…」


大井「ちょ、あんた」


憲兵「本日は定例報告。勝手な行動は慎むように、とのこと」


提督「…嫌です」カタッ


憲兵「仕方ない。連れていけ」


憲兵『』ゾロゾロ


提督「…嫌だ…離せ!」ジタバタ


大井「!」


憲兵「大人しくして下さい」







…突然の事で何も出来なかった。提督の仮説に聞き入っていたら、憲兵が提督を連れていった。その時、提督が荒ぶる姿を初めて見た。あの鉄面皮な子供が声を荒らげ、抵抗していた。




その時、私は思い出した。あの年齢なら、あの様子が普通なのだ。私は異常な提督に慣れてしまっていたのだ、と。年相応の言動を見て、改めて彼がまだ子供であると認識した。




そして、彼が連れていかれる直前に、机に積まれた本の物陰に何かを置いていた。見てみると、マイクロSDのようなデータチップだった。



ここに、あの子が調べた記録が残してあるのか…帰ってくるまで無くさないように隠しておいた。











着任92日目









提督が(恐らくだが)大本営に連れていかれてから、1日経った。帰って来ていると思ったが、そんなことはなかった。



私の所感だと、ほんの数分の為に大本営まで行くのは正直ストレスが溜まる。あの子とて例外でも無いはず。やはり上の悪習が原因であの子に無機質さが植え付けられたのか。








大井「…朝だけど、まだ帰ってないわね」


吹雪「定例報告でしたか?それをすっぽかすのも考えものですけど、何もここまでしなくてもいい気もします」


大井「そうだけど、まあ末端の意見なんか聞かないわよ。今日も支援任務よ」








…支援任務よりも、提督の仮説が頭に残っている。それと、感情を一瞬剥き出しにしたあの時の光景も。



提督が置いていったチップは私の部屋に保管されている。帰ってきたら、それについても色々と聞いておく必要がある。








提督「…」フラ


大井「…ん?あ!あんた!」


提督「…」スタスタ


大井「ちょ、待ちなさいよ!」








執務室







提督「…」キョロキョロ


大井「全く、返事ぐらいしなさいよ…」ハァハァ


提督「…」キョロキョロ


大井「…探し物はこれ?」スッ


提督「」ヒョイ


大井「ちょ」


提督「…」ゴソゴソ


大井「…何してんのよ」


提督「…ふう」







…全く、幽霊みたいにいきなり現れるなんて。まあ、見た限りは何もされていないようだった。少し安心。







提督「…チップの保管、ありがとう」


大井「んん??そ、そんぐらい…」


提督「…やはり、もう少し調べる必要がある」


大井「?」


提督「利根の事。それと、利根の提督だった者」


大井「…」


提督「大井さん。僕は利根を止める為に動く」


大井「ぼ…僕…?」


提督「何か?」


大井「…あんた、随分変わったというか…」


提督「…とりあえず、今日は支援任務を。明日以降に動きます」


大井「え、ええ…」







…色々と、いきなりすぎる。帰り方といい、雰囲気の変わり方といい、口調も。



でも、少年といえばこのようなものか。少し大人び過ぎだけど。



…無事にこの子か帰ってきて、安心している私がいた。








後書き



仕事×イベント(クソ長)=うんこ

というわけでお待たせしました








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1: TMネオ 2020-03-26 19:12:28 ID: S:F6f7Ti

新作お疲れ様です!タイトルから察したけど提督子供なのか。どんな展開になるか楽しみです。

2: サック 2020-03-26 21:04:49 ID: S:rOH0rA

大進攻… 艦娘が復讐されてそう(前世の記憶)

3: SS好きの名無しさん 2020-03-27 17:57:05 ID: S:-AeEKf

2>>あ…(察し)

4: 黒結愛 2020-03-28 02:33:23 ID: S:UixD3H

新作お疲れ様です。
見事に大井っちなので
完走まで見逃しません(´,,•﹃ •,,`) 

5: かむかむレモン 2020-04-02 20:00:16 ID: S:A_OYaE

1さん

ありがとナス!
読み手の皆さんが最後に驚くような展開を目指しています


2さん

過去作履修済みウレシイ…ウレシイ…


3さん

察しのいい読者兄貴は好きだよ


4さん

ありがとナス!
大井っちは作りやすくて好き

6: SS好きの名無しさん 2020-04-02 21:22:48 ID: S:RuCAyO

堤督石頭すぎない!?
俺だったら頭蓋骨粉砕しちゃうね。

7: SS好きの名無しさん 2020-04-03 21:35:03 ID: S:x4W5ZD

子供提督とバグ…何か関係してるのかな?

8: サック 2020-04-04 10:21:35 ID: S:PvAjqV

バグであんな事になったになったのにまだバグが出る事自体は直ってないのか…

9: SS好きの名無しさん 2020-04-04 16:46:47 ID: S:VtUufl

バグ大和はまだ地獄に居るのだろうか

10: SS好きの名無しさん 2020-04-07 19:58:24 ID: S:NfuVBQ

バグのパッチノートまだ?(妖精印)

11: TMネオ 2020-04-08 01:13:39 ID: S:CMctom

更新お疲れ様です。まさかあの利根は過去作のか?

12: せっかち提督 2020-04-08 12:35:56 ID: S:m22_A1

...ああ、そういえば利根も深海に引き込まれて提督と一緒に妹の『中身』を見たんだったね

バグが出た大和は元々大本営でのみ行われていた大型建造の産物なんだから鎮守府での通常建造は関係ないのでは?ボ訝

13: かむかむレモン 2020-04-08 14:56:53 ID: S:ZIaHVz

6さん

過激派怖い…アイアンマン!


7さん

これについては追追触れていきます


8さん

バグの謎についても今後触れていきます


9さん

それについてはかなり後に触れると思います


10さん

それについては前述の通り、今後触れていきます


11さん

ありがとナス!
そうだよ(便乗)


12さん

建造大本営限定制度については少し後に触れていくと思います

14: SS好きの名無しさん 2020-04-09 09:51:51 ID: S:BOf9zC

バグ…大侵攻…深海棲艦の利根…うっ頭が…

15: サック 2020-04-09 21:02:11 ID: S:cjNElZ

艦娘解体ショーの始まりや

16: SS好きの名無しさん 2020-04-17 20:40:23 ID: S:l9mqIg

提督がロボット並みに感情がなくて怖いゾ

17: せっかち提督 2020-04-20 16:28:05 ID: S:xV3Waq

 ドウグ            ドウグ
『艦娘』よりも『道具』らしい『提督』ですねクオレハ...

18: かむかむレモン 2020-04-25 03:09:52 ID: S:wpQ_Nj

14さん

鋭い兄貴嫌いじゃないし好きだよ


15さん

あ、おい待てぃ(江戸っ子)
解体展開は未定ゾ


16さん

(無感情は)怖いねぇ…


17さん

いい鋭さしてんねぇ!どうりでねぇ!

19: サック 2020-04-25 12:18:39 ID: S:AibZJj

異常にタフなのはどっかの筋肉ハゲゴリラも同じでしたね…(別世界線の記憶)

20: せっかち提督 2020-04-25 23:12:48 ID: S:c31Ky3

歌...歌かあ...

海の男の艦隊勤務♪(傷を抉る)

21: SS好きの名無しさん 2020-04-26 02:47:11 ID: S:VeOnHg

ちょとした考察まず例の復讐世界の後の話提督は感情の制御またはロボ前回の負けを提督が復讐に走った感情のせいだと判断提督に感情は必要ないという判断になった(語彙力なくてすいません)もう一つの原因の艦娘のバグは艦娘を大本営でしか建造できないようにして解決した北上(これは完全に想像だよ)セリフを誰に言ってるかによって変わる1大本営に言っているなら北上は大本営が何をしようとしているか知っていて提督が子供で感情を出さない理由も知っているまた大本営がなぜそのような提督に鎮守府を任せたか知っていて大井が秘書艦になるのが本来あり得ない・または時期が早すぎるからどうなるかわからなくなる可能性を感じどうなるんだろと言った(秘書艦について大本営の支持された時に使命・プログラミングされていた前提です)2深海側に言っている場合北上は深海側のスパイ(友提督の鎮守府の艦娘だったか深海側の誰かが北上変装している)で大本営がどういう計画か知っていて深海側が反抗作戦の決行をするのにあたりイレギュラーになる可能性があったのでどうなるんだろと言った3ただどうなるか気になった

22: SS好きの名無しさん 2020-04-26 02:49:51 ID: S:7OScEO

21の人です長文すいません考察コメント初めてなのに長くしすぎて文字数制限にひっかっかって詰めたりけずったりひたので分かりにくいとおもいますそれと…
追い付いた~!

23: サック 2020-04-30 21:24:51 ID: S:srutvf

レモンニキのリツイートの原因はこれかぁ(遠い目)

24: かむかむレモン 2020-05-01 01:59:55 ID: S:WvzC0o

19、23さん

また髪の話してる…


20さん

何で傷を抉る必要があるんですか(哀れみ)


21、22さん

すいません、読みにくくて途中から見てません

25: sei 2020-05-01 13:43:09 ID: S:gF9zTJ

この提督は量産型アンドロイドなのかな?

26: SS好きの名無しさん 2020-05-03 19:25:25 ID: S:sGD4IL

この提督にpixivであーんな絵やこーんな絵をみせるといいゾ

27: せっかち提督 2020-05-05 11:56:47 ID: S:lQ85eG

日本の...というか、自衛隊のレーションは味自体はまあまあ良いとは聞くけど、非常時でもない限り常食するものじゃないよなあ
でもMRE常食するよりはよっぽどマシだとは思う(比較対象の酷さから目を逸らしながら)

28: サック 2020-05-05 21:00:43 ID: S:QADDtN

提督くん感情無さすぎて怖い 目の前で糞喰漢見せてどんな反応するか見たい

29: SS好きの名無しさん 2020-05-08 10:47:23 ID: S:xy9O6x

バグ…深海棲艦の大進行…利根…あっ…(察し)

30: SS好きの名無しさん 2020-05-15 16:53:14 ID: S:9lsh9E

面白そうなSSだと思ったら過去作の続編?なのかな・・・?

どの作品だろう

31: SS好きの名無しさん 2020-05-17 10:02:25 ID: S:K01MZu

30>>作品のタイトルは
”裏切り者に復讐を”です。
ぜひ見てください。
(本人に変わって宣伝していくスタイル、迷惑だったらごめんなさい。)

32: SS好きの名無しさん 2020-05-17 10:06:29 ID: S:4Wcj3N

30>>作品のタイトルは
”裏切り者に復讐を”です。
ぜひ見てください。
(本人に変わって宣伝していくスタイル、迷惑だったらごめんなさい。)

33: SS好きの名無しさん 2020-05-17 10:07:17 ID: S:rexadV

すみません2回コメントしてしまいました。

34: DELTA ONE 2020-05-19 22:54:19 ID: S:0S-ufM

面白いです。
続きを楽しみにしております。

35: SS好きの名無しさん 2020-07-07 23:51:56 ID: S:3BhfMs

少しづつ謎が解き明かされていますね
大井っち大好きなので尚更続きが楽しみです

36: SS好きの名無しさん 2020-07-09 09:48:56 ID: S:4zNQlT

監視者で気が付いた、復讐するのと同じ人か!

37: うっすん 2020-07-12 18:29:51 ID: S:CGb44T

他のメンバーは提督のもとにいったのか・・・先に逝ったメンバーは複雑な気持ちで利根を見守ってるのかな?


このSSへのオススメ

3件オススメされています

1: 黒結愛 2020-03-28 02:34:04 ID: S:hJl7xL

先行きを楽しみにしております

2: DELTA ONE 2020-05-19 22:55:11 ID: S:msNrO1

可愛くない子供と可愛い大井と言った感じです!
(マンマやんけ)

3: SS好きの名無しさん 2020-07-07 23:53:37 ID: S:l3tuL3

これから提督と大井っちがどのように変わっていくのか楽しみですね


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