2020-10-25 21:04:27 更新

概要

元海兵が海軍に復帰。提督として歩んでいくお話し第捌話です。


前書き

佐伯湾泊地から出発する東雲。赤城と榛名にとっては寂しい別れとなった。
そして、その頃の芹沢たちは……


全てが終わり……




 あの後、赤城は加賀と一緒に空母の仲間たちに会いに行った。


 榛名にも会ってきたが、仲間と会って嬉しかったみたいだった。


 榛名に後ろから抱き着いて来た娘は『金剛』と言って、榛名のお姉さんらしい。


 今日は皆と過ごすよう2人に伝え、俺は青葉、衣笠、江風と一緒に摩耶たちのところに戻った。


 摩耶たちは特警隊が建てたテントに待機していた。



江風「戻ったぜー!」


海風「お帰り江風……えーっと……どちら様でしょうか?」


東雲提督「調べは終わったみたいだな。俺は東雲征野。赤城と榛名、此処にいる2人の提督だ」


海風「提督!?」



 東雲の口から『提督』という言葉を聞いた途端。艦娘達は立ち上がり、東雲に向かって敬礼をした。



長良「提督!? ってかちょっと待って!! 青葉と衣笠はここの艦娘だよね!?」


青葉「転属しちゃいました!!」


衣笠「巻き込まれました!!」


東雲提督「……そう言う事だ」


山風「ど……どういう事……?」


摩耶「……あ……あの……」



 摩耶が東雲の方へと歩み寄ってきた。



東雲提督「……どうした」


摩耶「……助けて頂き、ありがとうございました」

  


 摩耶はそう言って、東雲に深々と頭を下げた。



東雲提督「礼を言われるようなことはしてない。君達を助けたいから助けた。それだけだ………それに」


摩耶「……何でしょうか」


東雲提督「…………敬語が似合ってねぇな。お前、普段敬語なんて使ってねぇだろ」


摩耶「なっ/////////」


青葉・衣笠「「ぶっ!!」」



 彼女を見ていると普段使っていないだろう、無理して『敬語』を使っているように東雲は見えた。


 東雲の言葉に摩耶は顔を真っ赤にして、青葉と衣笠は堪えきれずに吹いてしまった。



青葉「確かに摩耶さんが敬語なんて!! 天地がひっくり返っても似合わないですぅ!! あはっ!! あははははは!!」


衣笠「しかも初対面で即見抜かれてるし!!! あはははは!!!」  


五十鈴「確かに今のは……ぶっ!……違和感しか無かったわね」


海風「別にそんなことッ………くすっ……ごめんなさい」


摩耶「謝んじゃねぇよ!! そんでそこのアホ姉妹笑い過ぎだ!! クソがっ!! 似合わねぇ事するんじゃなかったぜ……」


東雲提督「素でいいんだよ。『敬語』を普段使ってる奴なら別だが、普段使ってない奴が使うと違和感あるし、似合ってねぇし」


摩耶「ったく………それで、此処には何の用なんだ?」


東雲提督「あぁ。お前らの今後についてだ」



 東雲の言葉に、周囲から一気に笑い声が消えた。



名取「軍令部の所属になるのでしょうか……それとも矯正施設………もしそうだとしたら………」


涼風「涼風達は別々になるかもな……」


山風「皆と離れるの……嫌………」


東雲提督「あー………それは無い。お前ら全員。俺の所に配属になる」


摩耶たち「「……え?」」


東雲提督「俺の所は最近新しく出来たばかりでな。まだ基地も完成していないし、艦娘も何人か配属してるがまだ戦力は万全じゃない。戦力

    補強って面もあるし、俺の所に来れば少なくとも皆がバラバラになることは無い……どうだ? 俺んとこ来ないか?」


青葉・衣笠「「ぶっ!!」」



 静まり返った空間に、再度笑いが起こった。



青葉「静まった雰囲気を和らげるためにってw……いくら摩耶さんがヤンキー娘みたいだからってwww」


衣笠「そこ合わせること無いじゃないですかwww 雰囲気ぶち壊しwww」


摩耶「はぁ!?」


東雲提督「……………テッテッテッテッ、テレテッテレ~♪」


青葉・衣笠「「アフゥ~!!」」


摩耶「あ! そういう事か!! てめぇこの野郎!!!」



 ふざけ笑う青葉と衣笠、それに怒る摩耶。


 その様子を見て笑っている長良や海風達。


 その雰囲気を見て、東雲は懐かしさに浸っていた。


 『105部隊』時代、部隊の皆が集まって団欒になると、鞍馬総長や東雲が雰囲気を良くしようと騒ぎ始め、度が過ぎると芹沢が止めに入る。そしてその姿を見て大笑いする部隊の連中……


 東雲にとってそれは懐かしく、そしてどこか寂しい思い出である。


 次こそ……次こそはこの光景を一生守らねばと、心に決める東雲だった。



東雲提督「それじゃあ、明日まではここでゆっくりしてな。明日の0900には出発するから、それまでには準備しといてくれ」


海風「了解しました」


摩耶「……ほんと、ありがとな」


東雲提督「……それは赤城と榛名に言ってやれ。彼女達が動いて、俺に話してくれたお陰で行動に出ることが出来たからな」


摩耶「あぁ……わかってる」



 東雲はテントを出て、自分の車に戻って、トランクから寝袋を取り出して就寝に入った。

 



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 一方、東雲の家にいる芹沢たちは、食事を終えて皆それぞれ自由な時間を過ごしていた。


 生活用品は一式全て支給されているので、布団や雑貨には困らなかった。


 部屋問題も、東雲の家が広いお陰で、2階の部屋すべてが使われずに空き部屋になっていたので解決した。

 

 駆逐艦や軽巡の娘達は、空き部屋の1つに布団を敷いてトランプゲームを始め、重巡の娘達も空き部屋に移動して身辺整理をしていた。


 戦艦や空母の娘達は居間でテレビを見ながら団欒中。間宮と伊良湖は台所で調理道具と調味料の確認と、明日の献立を考えていた。

 

 明石は『最終調整してきます!!』と言って部屋にこもった。


 芹沢は戦艦と空母らと一緒にいたが、鞍馬総長からの電話が鳴ったので、家の外に出ていた。


 芹沢は鞍馬総長から、佐伯湾泊地について東雲が佐伯湾提督及び、特警隊を確保した事。不法労働させられていた艦娘を保護して、その娘たちは東雲が引き取る事について聞いた。


 そして、鳥海の事も………



鞍馬総長『……ってな訳でな。鳥海の事頼めるか?』


芹沢副司令「うーん……今の鳥海ちゃんの状態でどうなんですか?」


鞍馬総長『彼女の真面目な性格のお陰か、真面目にカウンセリングを受けてくれててな。まだしどろもどろではあるが、男性と会話は出来る

    ようにまでは回復したぞ。ただし………』


芹沢副司令「……1対1は無理……とか?」


鞍馬総長『その通り。あと、直接触れられるのも駄目だ。トラウマが消えてないんだろう』


芹沢副司令「……しばらくは『職場復帰訓練』という形になるでしょうね……」


鞍馬総長『そうだな……幸い東雲はそういう所はしっかりしてるし、摩耶もいる。彼女的にも君達に預けるのが1番だと思う』


芹沢副司令「ですね……私も責任もってサポートしていこうと思います。鳥海ちゃんには……摩耶ちゃんのこと……」


鞍馬総長『すでに話しておる。『摩耶がいるところに配属させてください!』と言っておった』


芹沢副司令「そうですか。ならより一層彼女が復帰できるようサポートしないといけませんね……」


鞍馬総長『…………そうだな』


芹沢副司令「歯切れが悪いですね」


鞍馬総長『いや……まぁな。彼女だけではないが、仕事復帰って言い方したが、本当の言い方だと『戦線復帰』だもんな。彼女たちがいるお

    陰で深海棲艦という脅威から守られている。逆に彼女達がいないと何も守れないのがな………何か不甲斐なくてな………』


芹沢副司令「そうですね………でも、だからと言って私達みたいな人間を再び産むのも……………」


鞍馬総長『それは分かってる。俺や芹沢みたいに生き残った奴もいれば、力に耐えられなかったり、深海棲艦に撃たれて死んだ奴もいる。あ

    の頃はそれが最善だと思っていたし、仕方ないと思っていた。でも今は違う。今後一生、俺達のような存在は生まれてはいけない

    し、生んではいけない。だから俺はこの地位にいるんだけどね』


芹沢副司令「だからこそ、私達の代わりに戦ってくれている艦娘たちには感謝しても、足りませんよ………一刻も早く終わると良いですね」


鞍馬総長『そのために、俺たちは全力で彼女達のサポートをするだけだ』


芹沢副司令「そうですね」


鞍馬総長『では、鳥海の事は頼む。もう夜も遅いからもう寝るわ』


芹沢副司令「おやすみなさい」



 芹沢は電話を切った。すると背後から微かに足音が聞こえてきた。

 

 芹沢が振り返ると、そこには大淀がいた。



芹沢副司令「………さっきの話聞いてた?」


大淀「はい。『鳥海さん』という言葉が聞こえましたが…………職場復帰ってまさか………矯正施設にいた………」


芹沢副司令「そう……その『鳥海』で間違いないよ。明日からウチの所属になるから。大淀ちゃんもサポート頼むね」


大淀「かしこまりました。東雲提督は……」


芹沢副司令「明日帰るってさ」


大淀「そうですか……」


芹沢副司令「大淀ちゃんは?どうしたの?」


大淀「少し夜風に当たろうかと思って………そしたら副司令を見かけたものですから…………」



 すると大淀は周囲を見回し始めた。



芹沢副司令「大淀ちゃん?」


大淀「………1つお聞きしてもいいですか?」


芹沢副司令「なに??」


大淀「……副司令……貴方の事です。私『大淀』は艦娘ですが、軍令部や海軍省からの任務や所属において提督の執務補助を行う『任務娘』

  という立場でもあります。鞍馬総長からこの泊地に着任するよう命じられてから、お2人の事について調べさせていただきました。孤児

  で高校を出るまでは施設で育った事。芹沢副司令もその施設で育った事…………学生時代での2人の事……海軍士官学校に入った後、提

  督が幹部としてエリートコースを進まずに、『105部隊』へと入隊した事……その半年後に副司令が『105部隊』に突然転属した事

  も………」

 

芹沢副司令「…………そっか。で、本題は?」


大淀「…………当時の貴方は軍医少尉として軍医科としては若手のホープだったと聞きました。士官学校時代には薬剤科や歯科医科、衛生科

  からも声がかかっていたそうではありませんか。なのに何故軍医科に入って半年で『105部隊』へと転属されたのですか……言い方が

  悪いかもしれませんが、どうして自ら命の危険がある場所へと向かっていかれたのですか? それに、副司令や提督も入隊試験の成績はか

  なり優秀だったそうではありませんか。だとすれば2人とも海軍以外の道もあったのではありませんか?」

  

芹沢副司令「………別に大したことじゃないんだけどね。ほら、深海棲艦が現れ始めた頃、私達は高校3年で就職するか進学するかって時だ

     ったの。施設出の私達じゃ進学ってのは少し難しいと思ってね。施設の人達には迷惑をかけたくなかったし、だから就職かなって

     思ってたんだけど………深海棲艦の所為で多くの企業が採用試験どころじゃなくなってね………」


大淀「はい。聞いた事があります。確かその年は、ほとんどの企業が採用試験を行わなかった為に進学や就職に失敗した浪人生が溢たとか」


芹沢副司令「そう。そんな時に政府が緊急事態宣言を発令して憲法改正を断行。当時『自衛隊』って呼ばれてたのを『軍』と改称して、世界

     と同様に深海棲艦との徹底抗戦を始めたの。そのお陰で陸・海・空の3軍……特に海軍は人材確保として採用人数をかなり引き上

     げたの。ただでさえ就職難だったからね………2人とも就職できるならばって感じで、海軍に入隊した訳。当時の私達って、別に

     元々海軍への入隊志願者では無かったの」



 孤児で施設出身という事情で、会社への採用が厳しく、偏見を持つ会社も少なくない。


 実際、成績が良くてもこれらの理由で数社落ちていた。


 だから、東雲は採用人数が跳ね上がった海軍への入隊を志願した。


 芹沢も同じ理由だった。


 2人は入隊試験の成績が男女別でそれぞれ歴代の記録を全て塗り替えて最優秀の成績で入隊した。すると、当時の海軍上層部が人材確保の為に高卒ながら特例として士官学校へと2人を入校させ、2人は士官候補生として学校生活を送ることになった。


 その後、卒業間際に海軍上層部が対深海棲艦の部隊を編成するという後の『105部隊』の結成を決定し、当時少将だった鞍馬が部隊編成を一任された。


 深海棲艦と戦う為、入隊志願者は少なかった。


 そんな中、『105部隊』に関する情報を1人の士官候補生が入手し、鞍馬少将の下へと赴いて入隊を志願した。


 それが東雲だった。


 芹沢は医学に興味を持ち、軍医科から声がかかっていたことから、芹沢は士官学校を卒業後、軍医科所属となった。



芹沢副司令「私が軍医科から『105部隊』に転属した理由はね…………いくつか理由があるんだけど……正直退屈だったの」


大淀「退屈……ですか……」



 大淀がポカンという顔をした。



芹沢副司令「なんて言うのかな………刺激が無かった。医学に興味を持って医学科に入ったけど、実際に入ってみたら特に何も感じなかっ

     た………そんな時にね。上層部から小笠原諸島にある硫黄島に衛生兵の派遣を命じられて、それに同行したの。そしたらそこは戦

     場で、倒したであろう深海棲艦の艤装や肉体の一部………海兵の死体がそこかしこに転がっていた………待機所に着いたら、そこ

     には怪我して動けなかったり、自分で包帯を巻いて戦場に戻っていく人達がいた。現代社会の中でそんな事が起きてたなんて考え

     られなかったし、流石にそれを見た時は戦慄が走った」


大淀「『105部隊』には医療班はいなかったのですか?」


芹沢副司令「いなかったよ。鞍馬総長が声をかけたみたいだけど、誰も入隊してくれなかったみたい。その所為で怪我しても適切に処置して

     くれる奴が誰もいなかった。鞍馬総長は大丈夫だって言ってたみたいだけど、大丈夫じゃなさそうだったから、心配した軍が私達

     を派遣させたって訳」


大淀「そうだったんですか………その時提督は……」


芹沢副司令「征野なら鞍馬総長と一緒に深海棲艦と戦ってたよ。並の深海棲艦なら2人は倒せるぐらい強かったから」


大淀「ほんと……化物ですか……」


芹沢副司令「それ。私にも言ってるのかなぁ」


大淀「………ある意味そうですね」


芹沢副司令「そんなことないよぉ。私は武器の扱いが苦手だったから、戦闘ではあまり役に立たなかったんだから」



大淀「まさか。嘘は良くないかと………『105部隊』には『医療班でありながら、拳1つで深海棲艦に立ち向かった女』がいたと。そし

  て、その女性は士官学校時代の武術訓練で同期の男共や教官を圧倒し、対等にやりあえたのは提督しかいなかったと………私言いました

  よね。調べましたって………」


芹沢副司令「げっ………そこまで調べてんの…………まぁ、話戻すけどさ。戦場の雰囲気に当てられてさ、こう……ビビッっときたの。私も

     戦いたいって。その後、戦闘が終わって戻ってきた鞍馬総長や征野とも色々話して、その気持ちが強くなった」


   

 その後、本土に帰還した芹沢は上層部に『105部隊』入りを志願。


 部隊に1人もいなかった医学科からの志願兵ということもあって、あっさり通った。



大淀「なるほど………そう言えば他にも理由があると言ってましたね………何だったんですか?」


芹沢副司令「うん………別に言ってもいいんだけど…………まず言う前に………出てきてもいいよ。怒らないから」



 芹沢は突然、倉庫に向かって手招きをした。


 咄嗟の事に大淀は状況が掴めていなかった。


 すると、倉庫の物陰から1人姿を現した。



大淀「明石!?」


芹沢副司令「明石ちゃん……いつからいた?」


明石「え~っと……あはは………明乃さんが『105部隊』に入ろうとした経緯を話していたことからです……」


芹沢副司令「別に出てきても良かったのに………聴かれたくない話をしてる訳じゃないのに」


明石「いやぁ~……案外入りづらかったですよ」


芹沢副司令「そう? まぁ。明石ちゃんも出てきた事だし、他の理由だよね?………………笑わない? 征野には絶対に言わないでよね」


大淀「言いませんよ」


  

 大淀がにっこりと笑う。


 それを見た芹沢は明石の方に顔を向ける。

 

 すると明石は『大丈夫です!』と言わんばかりに頷いた。



芹沢副司令「まぁ……その………なんて言うか…………小笠原諸島で征野と会った時に実感したんだけど……私、征野と一緒にいたいんだと

     思う」


明石「ふぅ~!!」


大淀「いきなり告白しましたね」


芹沢副司令「あっ! 別にそういう事じゃないの。征野に恋愛感情は今まで一度も持ったこと無いんだよね」


明石「へ?」


大淀「・・・。」



 明石はすっとぼけた顔をし、大淀は何やら深刻な顔をしていた。  



芹沢副司令「なんて言うのかな………征野の傍にいたい。支えてやりたいっていう気持ちは確かにあるんだよ。あいつ、普段は頼れるのに、

     時折見てて危なっかしい時があるというか、自分の為に、人の為なら危険を顧みない所があるからさ。だから、傍にいて支えてて

     あげたい。征野にとって信頼できる存在になりたい…………けど、なんだろうね…………征野の事は別に嫌いじゃないし、『好

     き』だけど………その『好き』ってのが『1人の男性』としてじゃないんだよなぁ………もっと近い存在としてというか………

     『弟が心配な姉』みたいな……………ごめん、よく分からないよね。あはは……」


明石「うーん……………明乃さんにとって提督は弟みたいに見えるってことですよね…………」


芹沢副司令「うん。そうだね………ほんと、おかしな話だよね。別に姉弟じゃないのに」


大淀「え?」


芹沢副司令「ん?」



 芹沢の発言を聞いた大淀は口をポカンとしていた。



芹沢副司令「……大淀ちゃん?」


大淀「……本気ですか?」


芹沢副司令「……え? 何が??」    


大淀「いや……だって………副司令とt」




  ジリリリリリリリ~♪




明石「あ。ごめんなさい、電話です…………もしもし、明石です………………………はい! 明乃さんなら今、私の目の前に……了解です!」



 明石は電話を切った。



芹沢副司令「どうしたの??」


明石「隼鷹さんが明乃さんを探してるみたいです! 用があるみたいですよ!」


芹沢副司令「え? 私? 何だろ……とりあえず行ってくるね!」



 芹沢は東雲の家に走って戻っていった。



大淀「………明石」


明石「なに?」


大淀「…………隼鷹さんが呼んでるの………嘘ですよね?」


明石「え?」


大淀「貴方の着信音って『黒電話』じゃなかったでしょ」


明石「あちゃ…………バレた?」


大淀「………どうしてこんな事したのかしら?」


明石「今、大淀が言おうとした事だけど………それを大淀が言うのは違うかな。明乃さんは知らなかったみたいだけど………多分、提督は知

  ってるんじゃないかな? でも、明乃さんに言ってないって事は、何かあるんだと思うし………」


大淀「………どうして貴方が知ってるの」


明石「まぁ……知ってるけど、どこで知ったかは秘密。さぁ、私達も家に戻ろ。もう夜遅いし」



 明石は、にこっと笑った。



大淀「……えぇ。そうですね……それで、『アレ』は完成しそう?」


明石「うーん………もう少しかな。調整がまだ必要かも」


大淀「でも………まさか、2人の為に『アレ』を作るなんてね」


明石「だって、面白そうでしょ!」


大淀「まぁ……否定はしません……」



 2人も東雲の家へと戻って行った。

 

 大淀と明石が知っている事とは? 芹沢と東雲の2人とどういう関連があるのか?


 そして、明石が作ろうとしている『アレ』とは………

 



==============================================================




 夜が明けた。


 佐伯湾泊地にいる東雲達は出発の準備をしていた。


 摩耶達は特警隊が急遽マイクロバスを用意してくれたので、それに少ない荷物を乗せている。


 榛名と赤城も、佐伯湾泊地に置いてあった荷物を選別して東雲の車に乗せていた。


 いざ出発するとなった時、佐伯湾泊地の所属艦娘達が出迎えに来てくれた。



蒼龍「東雲提督。赤城さんをこれからもお願いします」


東雲提督「任された」


飛龍「基地が完成して、私らの方もある程度落ち着いたらでいいからさ。演習やろうよ」


東雲提督「いいなそれ。全基地随一の航空戦力を持つ君達との演習は良い経験になるだろうな。その時は頼む」


翔鶴「負けませんからね」


赤城「ふふっ。それは楽しみね」


榛名「・・・。」



 ふと榛名を見ると、少し悲しい顔をしていた。



東雲提督「……榛名?」


榛名「・・・。」


東雲提督「……榛名」


榛名「ひゃいっ!」



 榛名が全く反応しなかったので、東雲は榛名の耳元に囁いた。



東雲提督「どうした? やっぱり名残惜しいか?」


榛名「それもない………とは言い切れませんが………金剛お姉さまの御姿が見えないので………比叡お姉さまも、霧島も……」


赤城「そう言えば………加賀さんの姿もありませんね………」


東雲提督「確かに………いないな」





 赤城にとっては相方の加賀。榛名にとっては姉妹にあたる金剛と比叡、霧島がこの場に居ないのは妙だ。


 加賀なら恥ずかしいって言って、この場に出てこないで遠くから様子を見ている可能性もある。


 比叡と霧島には会ってないが……金剛は違う。


 死んだと思われてた妹が、目の前にいて抱き着き………後ろタックルしてくる程に情熱的な娘だ。この場にいないなんて可笑しい。


 むしろ、一緒にいたいなんて言い出して、榛名から離れようとしないと思う。



瑞鶴「うーん………金剛さん達は分からないけど、加賀さんなら……別れを言うのが恥ずかしくて、遠くから見てるんじゃない?」


東雲提督「……あり得るな」


瑞鶴「全く……恥ずかしがらず、出てくればいいのに……」


蒼龍「まぁまぁ……それが加賀さんだからね…………」


東雲提督「榛名。金剛達に会いに行くか?」


榛名「……いえ、大丈夫です。少し寂しいですけど………いつまで金剛お姉さま達に、おんぶにだっこではいられませんから……」


東雲提督「……そっか」



 妹がいつの間にか姉の下から巣立っていくって感じ。この言葉を金剛が聞いたら嬉しい反面寂しい気持ちになるだろうな。


 蒼龍達と話していると、遠くから東雲を呼ぶ声がした。



青葉「しれいかーん!!」


東雲提督「荷物は全部積み終わったか?」


青葉「はい! 皆バスに乗って待機しています!」


東雲提督「わかった。それじゃ、出発しようか」


青葉「了解です!」



 皆各々乗車し、東雲の家に向けて出発した。


 正門前まで、佐伯湾泊地の艦娘達が列になって手を振ってくれた。


 でも………やはり、その中に加賀と金剛、比叡、霧島の姿は無かった。




==============================================================




 一方、東雲の家では……………



大淀「…………副司令」


芹沢副司令「………………なぁ~に」


大淀「……えーっと……その………大丈夫ですか?」


芹沢副司令「…………頭痛い。吐きそう………うっぷ…………」



 芹沢と大淀、明石の3人は居間にいる。


 大淀と明石は、明石が開発中の『アレ』について芹沢に相談しようと、芹沢を尋ねたのだが………


 居間にいた芹沢は、テーブルに項垂れていた。


 なぜこんなことになったのか。


 昨日、隼鷹と飛鷹の2人に酒に付き合わされたからだ。


 芹沢は別に酒に強くは無いが弱くはない。平均的である。


 しかし、飛鷹型2人のペースに付き合わされた結果………見事に頭痛をおこしている。



芹沢副司令「しかも、用事があるって話だったのに、隼鷹なんて『えっ? どういうこと?』って言われたし………そしたら『そんなことより

     酒に付き合ってくれよ!』って言われて……それが悪夢の始まりだった…………………明石ちゃん、よくも騙してくれたね!!」


明石「さぁー……何の事でしょう」



 明石は芹沢から向けられた視線から目を逸らした。



芹沢副司令「あー……頭痛い………」


大淀「幸い。仕事が無くて良かったですね」


明石「基地はまだ完成してないし、野菜の収穫とかは伊勢さんと飛鷹さんが中心になってやってくれましたしね………今日ってもう何もする

  こと無いですね」


芹沢副司令「隼鷹は?」


大淀「隼鷹さんなら明石から道具を借りて、装備点検してますよ………酒飲みながらですけど……………」


芹沢副司令「ほんと………あれだけ呑んだのに、なんであの2人平気なのよ………そしてまだ飲んでんの? ザルなの?」


大淀「まぁ………隼鷹さんはザルでしょうけど……………姉である飛鷹さんもお酒が強いのは、まぁ……妹が妹ですので………何か納得でき

  ますよね」


芹沢副司令「それにしては強すぎだよ………それで、相談って何?」

  

明石「これを見てほしいんです!」



 明石は『アレ』の設計図を芹沢に見せた。


 芹沢は胸ポケットに差していた眼鏡をかけて、設計図を確認した。



大淀「副司令。コンタクトは付けていないのですか?」


芹沢副司令「頭痛いからそれどころじゃなかったんだよ………へぇ…………なるほどね。これって私と征野で別々?」


明石「そうですね! 提督と明乃さんでは、それぞれ能力も使用する武器も違いますからね!」


芹沢副司令「ふーん………いいんじゃない。それってもう作ってるんだよね?」


明石「はい!完成してますよ!」


芹沢副司令「……それ、征野から許可貰ってる?」


明石「あ……はい!もちろんです!」



 一瞬詰まった。


 大淀は知っている。嘘であるという事を。


 そして、芹沢は頭痛の所為で気づいていない。それどころじゃない。



芹沢副司令「ならいいんだけど……ってか、よくこんなの作ろうと思ったよね?」


明石「あはは………」


大淀「まぁ……明石ですから………」


明石「ちょっと大淀。それどういう意味?」



 気に食わなかったのか。明石は両方の頬を膨らませ、ふくれっ面をした。



芹沢副司令「そんなことないよぉ~大淀ちゃんは褒めてるんだよぉ~。そうだよね?」


大淀「そうですね。そういう所が明石の凄いところですから」


明石「まぁ……褒めてんだったらいいんだけどさぁ~」



 芹沢と大淀に褒められたのがうれしかったのか、膨れていた明石の頬が段々と緩んできた。  

 

 それに気づいた芹沢がふと笑った。



大淀「どうされました?」


芹沢副司令「いや……なんかね。昔の事思い出してさ………私と征野がいた施設にね、『機械いじり』が大好きな女の子がいてさ。歳は私た

     ちより2つ下だけど…………その子………『優華ちゃん』と『明石ちゃん』が今一瞬重なって見えたよ。懐かしいなぁ………優華

     ちゃん今何してるんだろう? 高校卒業して以来会ってないからなぁ」


大淀「そんなに似てたんですか?」


芹沢副司令「そうだね………機械や工作の事になると目を輝かせてね。それに可愛くてさ~……私と征野には懐いてたのか、いつも私達にべ

     ったりでさ………私もだけど、征野も優華ちゃんのこと、すごく可愛がってたし。それにちょっかいかけたらすぐ拗ねるの。また

     それが可愛くてさぁ……」


大淀「まるで明石みたいですね。ねぇあk………」


明石「」プルプル



 大淀はその時の明石を見て気づいてしまった。


 芹沢の話を聞いて顔を赤くし、体を小刻みにプルプル震えている明石を見て………


 大淀は明石が元人間だったという事は知っている。


 つまり……彼女は『優華』さんで間違いない。 



大淀「そうなんですね……提督も可愛がっていたとは……彼女……優華さんの事、提督はどう思ってたんですか?」


芹沢副司令「確か………高校の時に聞いたことあるんだけど、その時は『可愛い『妹』』とか言ってたっけ? まぁ、私も同じだけどさ。ほん

     と可愛くてさぁ…………久々に会ったら思いっきり抱きしめたいな!」


大淀「妹ですか…………」



 大淀はすぐさま明石に目をやる。


 明石は嬉しいやら、悲しいやらで、感情がぐちゃぐちゃな様子だった。


 その様子を芹沢は見ていない……いや、見れなかった。


 何度かは大淀や明石の方を向いて話していた。しかし、彼女は頭痛に負け、視線を床へ落としている。


 明石の反応に、芹沢は気づいていない。



大淀「……明石?」


明石「へっ!? いや、何でもない!! 明乃さん、私はこれで失礼します!!」


芹沢副司令「え……あ………うん」


明石「大淀。ちょっと来て!」 



 明石は大淀の左腕を掴んで、芹沢がいる居間から早足で立ち去った。




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 明石は開発に使用した部屋に大淀を連れ込んだ。


 そして扉を閉め、大淀の両肩を掴んだ。



明石「はぁ……はぁ……お~お~よ~どぉ~(怒)」


 

 明石はかなりご立腹だった。



大淀「そんなに怒ってどうしたのですか?明石………違いますね。ゆ・う・か・さん♪」


明石「なっ!?」


  

 大淀は明石に向かってニヤリと笑った。


 その顔を見た明石は余計に顔を真っ赤にして身体をプルプルし始めた。


 大淀は納得がいった。


 何故明石が東雲と芹沢の関係性を知っていたのか。



大淀「……そんなに心配しなくても、言いませんよ」


明石「ほんと!?絶対に言わないでよ!!言う時になったら私の口から言う!!」


大淀「えぇ……言いませんよ。少なくとも『私の口から』はね……」


明石「……それどういう意味さ」


大淀「ボロは出さないでくださいねぇw」


明石「大淀ぉ~(怒)」




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芹沢副司令「………急にどうしたんだろう………あー………やっぱりっまだ、頭ガンガンするなぁ………さっきよりは楽になったけど」


伊良湖「明乃さん!」



 台所の方から伊良湖が、お椀と箸を持ってきた。



芹沢副司令「あー………伊良湖ちゃん。どうしたの?」


伊良湖「大丈夫ですか?」


芹沢副司令「うーん……だいぶ良くはなったよ。どうしたの?」


伊良湖「間宮さんが、シジミ汁を作ったので明乃さんに飲んでほしいと」


芹沢副司令「マジ!? ありがと!」



 芹沢は伊良湖からシジミ汁が入ったお椀と箸を貰い、シジミ汁を飲む。



芹沢副司令「あー……沁みるわぁ……ありがとう! 間宮さんにもありがとうって伝えて!」


伊良湖「はい!」




   ピロン♪




芹沢副司令「あ。メールだ………征野から?………………え? 早っ!?」


伊良湖「どうされました?」


芹沢副司令「もうすぐ征野………提督が帰ってくる! 総員、出迎え準備!!!」


伊良湖「わ……私、間宮さんに伝えてきます!」


芹沢副司令「ついでに、そのまま大淀ちゃんと、明石ちゃんにも伝えて!! すぐそこの部屋にいるから!!」


伊良湖「わかりました!!」



 芹沢は急いでシジミ汁を飲み干した。急いでいた為、殻についていたシジミの身は少し残した。


 伊良湖は、お椀と箸を回収して明石、大淀がいる部屋へと向かった。



芹沢副司令「さて……」



 芹沢は重い腰を上げて縁側に出た。皆を呼ぼうとした時、外から声がしたからだ。


 縁側に出て外を見ると、倉庫を出入りする綾波、敷波の姿が見えた。


 みかん箱を持っていたので、恐らく今日分の作業は終えたのだろう。



芹沢副司令「綾波ちゃん! 敷波ちゃん!」


綾波「副司令官?」


敷波「どうしたの? 何かあった?」


芹沢副司令「もうすぐ、提督が帰ってくるから皆をここに呼び戻してきて!」


綾波「わかりました!」


敷波「待って、L〇NEした方が早い!」



 走って皆を呼びに行こうとした綾波を敷波が呼び止めた。


 敷波はスマートフォンを取り出して、皆に連絡を取り始めた。



芹沢副司令「………さーて、色々と押し付けてくれた、あの野郎に一発入れるか。これで酔いも吹っ飛ぶってさ!」



 芹沢は右腕をブンブンと回しながら、玄関の方へと向かった。




―続―


後書き

次回。帰還。


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1: SS好きの名無しさん 2020-12-28 21:14:24 ID: S:Q9Llqj

続きをお願いしますo(^o^)o


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