2015-05-02 18:37:29 更新

概要

某ゲームのパロディです。殺害トリック等のクオリティはご容赦ください。一部キャラが死亡するので苦手な方はご注意。


前書き

矢吹可奈【超アイドル級の幸運】
歌が好きという事以外、これといって特徴のない少女。
人より少しだけ前向きなのが取り柄。


 薄暗い廊下を道なりに歩いていくと、ややあって人の気配がした。

 誰かがいる。その事実に私はほっと胸をなで下ろし、歩く速度を速めていく。

 やがて、広い空間に出た。そこは———

「…体育館?」

 最初に抱いた感想がそれだった。壇上にはよく校長先生が喋っているような演台があって、壇の手前の床には赤い絨毯が敷かれている。

 絨毯の上には椅子がたくさん並んでいた。その光景はまるで、

(入学式みたい…)

 体育館(仮称)の中に一歩踏み出すと、部屋中に散らばっていた気配がいっせいにこちらに注目したのが分かった。

「えーっと……」

 全員女の子だ。私と同じくらいの子もいれば、ずっと年上っぽい人も、年下に見える子もいる。

 誰も彼も、椅子にも座らずにこっちを見ている。全員が不審の目を向けているけど、それは近くにいる人たちに対しても同じなようで、私が急に体育館に入って来たから怪しんでいる訳じゃなさそうだった。

 どうしようか、と迷ってきょろきょろしていると、一組の女の子達がこちらに声をかけてきた。

「お前も…ここの新入りか…?」

「お前も、って…じゃああなた達も…!?」

「うん。今日からこの劇場に所属する予定の…新入りだよ」

 1人はショートの髪で目つきがちょっときつめのボーイッシュな子、もう1人は本を胸に抱えた編み込みヘアの子だった。

「これで16人か…。キリもいいし、これで揃ったって所かな」

 ボーイッシュな子がつぶやくのを聞きながら、私はちょっとドキドキしていた。

 なぜなら、

(この人達が…765プロに選ばれた『超アイドル級』のアイドル候補生達…)

 正確に言えば私もその1人なんだけど、私はたまたま、本当に運がよかっただけでこの劇場に入れたに過ぎない。

 でも、この人達は違う。それぞれが何らかの得意分野を持っていて、その分野においてその人に並ぶ者はいないと言われるほどの才能の持ち主達なのだ。

(……うーん、やっぱり雰囲気からして違うなぁ)

 なんというか、『超アイドル級』のオーラが見える気がする。あらためて思うけど、私って本当に場違いなんじゃないのかな…

「どうかした?」

「あ、いえ!なんでもないです!」

 いけない。心配されてしまった。

 今更思い悩んでもしょうがない。気分を切り替えて、まずは自己紹介から始めよう。

「えっと、あの…はじめまして。私、矢吹可奈っていいます。趣味は歌う事です。

劇場に入ったと思ったらいつの間にか寝ちゃってて…それで遅れちゃって…」

「え?あなたもそうなの?」

「あなたも、って事は…?」

「オレらもそうなんだよ。いつの間にか気を失ってて、目が覚めたら見覚えのない教室の机で寝てたんだ」

 見知らぬ教室の中で目が覚める。さっきの私とまったく一緒だ。

「それとなく聞いてみたけど、皆同じような状況だったみたい」

「私達全員が…!?それって変じゃない?」

「そう、どう考えてもおかしいんだよ。って言っても原因なんか思い当たらないしなあ…」

「それに、私達の携帯とか、私物も無くなっちゃってるの」

 言われて、今更のように鞄が無くなっていた事に気付いた。そしてふと違和感を覚える。

「…?でも、その本は…?」

「ああ、これは私の私物。これだけは残ってたんだ。外部と連絡の取れそうなものだけ無くなってるんだよね…」

「そんな…。いったい何がどうなってるの…?」

 髪をがしがしと掻いて、ボーイッシュな子がひとつため息をつく。

「…ま、答えの出ない事を考えても仕方ねーし、とりあえず自己紹介と行こうぜ。

オレは永吉昴。よろしくな!」

 ”永吉昴”…って、確か……

「地元の高校野球部を抜群のプレーで甲子園まで導いた、ってウワサの…!?」

「や、やめてくれよ。あれは先輩にしつこく頼まれてしょうがなく助っ人に出ただけだって」

 中学生で、しかも女子が男子高校野球の助っ人に出るって時点で充分おかしいと思うんだけど…

「野球は楽しいし、好きだけど、オレはアイドルになって可愛くなるのが目標なんだ!」

「えっと、もう充分可愛いと思いますけど…?」

「はは、ありがと。でもまだまだ全然だよ。オレの目指す『可愛い』ってのはこんなもんじゃないぜ!」

 うーん、何と言うか…

(『超アイドル級の野球選手』永吉昴さん…思ってたよりずっと爽やかな人だなぁ)

「そうそう、敬語とか別にいらないからな。気安く名前で呼んでくれ。オレも可奈って呼ぶからさ!」

「うんっ。よろしくね、昴ちゃん!」

「ち、ちゃんは止めないか…?」

 照れてる。やっぱり昴ちゃんはもう充分可愛いと思う。

「次は私かな?

私は七尾百合子。よろしくね、可奈ちゃん」

「よろしく!えっと、百合子ちゃんの才能って…?」

「自分で言うのも恥ずかしいんだけど…一応『超アイドル級の文学少女』って呼ばれてるよ」

「文学少女……って、何をするの?」

「私はだけど、エッセイや小説を書いて出版社や新聞社に投稿したり、とか」

「へええ…!」

「まあそっちは頼まれるからやってるだけで、いつもは本を読み耽ってばかりいるんだけどね」

 そう言って百合子ちゃんは手に持った本を顔の前に掲げる。

 すごく分厚い。いつもこんなのばっかり読んでるのかな…?

「百合子の小説って中高生に大人気でさ。売り切れ続出の売れっ子作家なんだぜ?すごいよなー」

「あ、ひょっとして『リリーナイト』ってペンネームの!?あれって百合子ちゃんが書いてたんだ!」

 『リリーナイト』。ここ数年でたちまち有名になった作家で、氏のジャンルは少女の淡い心境を表現した恋愛小説や王道的な冒険小説まで多岐に渡り、幅広い層、特に若年層から絶大的な支持を受けている。かくいう私もファンのひとりで、まったく表舞台に出てこない『リリーナイト』の正体が気になっていたのだが…

 その売れっ子作家は今、私の目の前で顔を赤くして天才野球少女に怒っている。

「ちょ、ちょっと昴さん!?何を勝手に…!」

「なんだよー、ホントは嬉しいくせに。減るもんじゃないしいいだろ?」

「そういう問題じゃないです!もう、恥ずかしいなぁ…」

 仲が良さそうだけど、2人は元々知り合いなのかな?

 なんだかちょっと羨ましいかも…

「っと、オレ達の自己紹介はこんなもんか。

まだあっちに何人もいるからさ、挨拶してくるといいよ」

「うん、そうするよ。2人とも、あらためてよろしくね!」


 手を振る昴ちゃんと百合子ちゃんに振り返して、私は次の人たちに挨拶に向かった。

 見ると、ほとんどの人は二人一組に分かれて固まっているようだった。

 誰に話しかけよう…と周りを見渡していると、いきなり声をかけられた。

「おはようございまーすっ!

私の名前は春日未来!よろしくねっ!」

「よ、よろしく…」

「もう、ダメだよっ。そんな暗い顔してたら気分も落ち込んじゃう。ほら、笑顔笑顔!」

 彼女は自分の口をにーっと広げて笑顔を作った。私も合わせるように、

「に、にこーっ………」

「うんうん、そんな感じ!笑顔は自分も周りの人も元気にしてくれるから、いつでも笑顔を大切にね!」

 そう言って笑う彼女の笑顔が眩しい。なんだか見ているだけで元気になれる人だ。

 と、そんな彼女の肩を近くにいたもう1人が軽く小突いた。

「はいはい、そこまでにして。彼女困ってるじゃない。自己紹介で笑顔を強要する人がどこにいるのよ」

「うぅ~…だってぇ~…」

 髪をリボンでサイドポニーにまとめて活発な印象を与える未来ちゃんに対し、黒髪のストレートで落ち着いた雰囲気のその子はとても大人びて見えた。

「ごめんなさいね。今が笑ってられるような状況じゃないって事は未来もわかってると思うんだけど…」

「ううん、おかげでなんだか元気が出てきたよ。ありがとう、未来ちゃん!」

「そう言ってくれると嬉しいな~。でへへ♪」

「未来といると、不思議と元気になるのよね。これも『超アイドル級のムードメーカー』の才能なの?」

「う~ん……あんまり難しいことは考えてないかな。私はただ、楽しく生きていきたいってだけだよ。

それで、私の楽しい気持ちが皆に伝わって、皆も楽しくたのしーく生きてくれれば最高だな~って思うんだ!」

 『超アイドル級のムードメーカー』…この人といれば、今のよく分からない状況でも何とかなりそうな気がしてくる。

 ……ところで。

「何でライブ衣装なの?」

「こ、これはその……」

「今日を初公演だと勘違いしたんですって。だいたい、入ってすぐ公演なんてする訳ないのにね。私達まだ候補生だし」

「ううう……気合い入れてきちゃっただけに恥ずかしいよぅ…」

(あはは、結構おっちょこちょいなんだ…)

 さて、と黒髪の子が肩にかかった髪をかき上げた。

「次は私ね。

名前は最上静香、アイドル候補生兼ピアニストよ。よろしくね、可奈」

「ピアニスト…ってことはピアノ弾けるの!?すごーいっ!」

「それなりよ、それなり。小さい頃に始めたんだけど、思いのほか才能があったみたいでね」

「静香ちゃん、『超アイドル級のピアニスト』って呼ばれてるんだよー。

プロの楽団の人達に混ざって演奏することもあるんだって。カッコいいよね~♪」

「カッコいいーっ!」

「そ、それはもういいから!あとは……そうね、好きな食べ物はうどんよ」

「そうなんだ。私もうどん好きだなー、おいしいよね!」

 言った瞬間、静香ちゃんの目の色が変わった。

 ……えっ。

「可奈もうどん好きなの!?そうよね、蕎麦やラーメンよりうどんがいいわよね!

ねえ、可奈はどのうどんが好き?かけうどん?ざるうどん?それともカレーうどん!?

暖かいのと冷たいの、どっちがいい!?麺の硬さは…」

「ストーップ!うどんの話はまた今度にしよう、ねっ!?」

「そう、残念ね…。可奈、また今度語り合いましょう」

「う、うん…?」

(ごめんね。静香ちゃん、自分で作っちゃうくらいうどん大好きだから)

(そ、そうなんだ…)

 なんだかすごい一面を見てしまった気がする。

「というわけで、私達の自己紹介は終わりっ!

ちょっと暗い雰囲気だけど、きっと何とかなるよ。笑顔を忘れず楽しく行こう!」

「力になれるかは分からないけど、何か困ったことがあったらいつでも相談に乗るからね」

「うんっ!未来ちゃん、静香ちゃん、2人ともよろしくね!」


 次の2人組は私より背が低かった。たぶん、私より年下だ。

「箱崎星梨花です。よろしくお願いします、可奈さん!」

「うん、よろしくね」

 髪をツインテールに結んだ子が星梨花ちゃん。とっても可愛らしい子で、どこかのお嬢様みたい。

「えっと、一応私、『超アイドル級のお嬢様』……らしいんですけど、どうして皆さんがそう呼ぶのか分からないんです…」

 あ、やっぱりそう呼ばれてるんだ。

「見た目とか、雰囲気がお嬢様っぽいからじゃないかな?」

「そうじゃなくて、実際にお嬢様なんだよ。世間の事を全然知らない、いわゆる箱入り娘ってヤツ。

ちょっと話しただけで分かったもん。ああ、甘やかされて育ってきたんだな…ってね」

「そうなのかな…?でも、本当に知らない事がいっぱいだから、いろいろ教えてくれると嬉しいな」

「桃子はお断り。そこの、人の良さそうなお姉ちゃんにでも頼んだら?」

 なんか、こっちの子はやけにツンツンしてるなぁ…

「えっと、君は?」

「桃子のこと知らないの?ハァ、お姉ちゃんって世間知らずなんだね…」

 思いっきりため息をつかれた。しかも、ものすごい憐みの目で見られてる。

「えっと、ごめんなさい…?」

「まあ、いいけど。仕方ないから自己紹介してあげる。

周防桃子、11歳。これでいい?」

 ”周防桃子”って、確か……

「『超アイドル級の子役』って呼ばれてる、最近ドラマで引っ張りだこの…!?」

 子役でありながらその演技力は業界随一と呼ばれていて、最近では朝の連続ドラマや舞台の主演、バラエティ番組にも出ているらしい。

 ドラマはお母さんが見ているのを一緒に見るくらいだからあまりピンと来なかった。

 それにしても、テレビだともっとニコニコ笑ってた気がするんだけど…

「その肩書き、キライだからやめて。桃子は女優なの。子ども扱いしないで」

「ご、ごめんね。そっかー、そんな有名人さんだったんだ…」

「私は普段あんまりテレビ見ないからすぐ分からなかったの……ごめんね」

「もういいよ。自己紹介も終わったし、独りにして。

桃子は大勢で固まるのは好きじゃないの」

 そう言うと、すたすた離れて行ってしまった。

 うーん……

「何て言うか、気難しそうな子だね。大丈夫かな…」

 星梨花ちゃんが耳元に顔を寄せてきた。

「でも、桃子ちゃんって優しいんですよ?迷子になってた私をここまで連れてきてくれましたし。

たまに笑った時とか、笑顔がすごく可愛いんです。私、桃子ちゃんと仲良くなりたいな~…」

 そんな一面があったんだ。

 見ると、離れたところから桃子ちゃんが横目でちらちらこっちを見ている。

 案外寂しがりやさんなのかもしれない。

「あはは。じゃあ、桃子ちゃんの事は星梨花ちゃんにお願いするね。

これからよろしく!」

「はい、よろしくお願いします!」


 次はスラッとした体型の女性だった。見るからに大人っぽい…

「北上麗花、20歳です。誕生日は5月17日、血液型はA型です。スリーサイズは……」

「ど、どうも。えっと…」

「趣味は登山とドライブです。いろいろな山を登ってきたけど、頂上の空気はどこもおいしいんだ~♪」

 言葉を挟む隙がない…!

「週末になるといつもドライブに出かけるの。気持ち良く走ってるとよく速度制限忘れちゃうのよね~。うふふっ」

 でも、この人の声すごく綺麗…聴いてるだけで落ち着いてくる…

 と、彼女はふと気付いたように喋るのを止めた。

「…………あれ?

ご、ごめんね。私ばっかり喋っちゃって。つい夢中になっちゃった」

「いえ、大丈夫です。むしろずっと聴いていたかったくらいで。

……あの、ひょっとして麗花さんって『超アイドル級の美声』って呼ばれてたりしますか?」

「すごーい、どうして分かったの!?可奈ちゃんひょっとしてエスパー?」

「エスパーじゃないですけど、すごく綺麗な声だからそうなんじゃないかなーって…」

「ありがとう~。うふふ、そう言ってもらえると嬉しいな♪」

 本当に綺麗な声。私もこんな声で歌ってみたいな…なんて。

「あっ、可奈ちゃん危ない!」

 えっ、と言われて気が付いた。足元に何か丸いトゲトゲした物体が転がっている。

「わっ!?危うく踏む所だった…」

「おっきなゴミだね~、誰が捨てたんだろう?トゲトゲしてて危ないし、ゴミはゴミ箱にポイっと」

「ウェイト!ストップ!ちょっと待ってください!!」

 横からすごい勢いで飛んで来たその子は、麗花さんが今にも捨てようとしているゴミ(?)に手を伸ばした。

「あっ、ロコちゃん。そんなに焦ってどうしたの?」

「レイカ、それはゴミじゃなくてロコのアートです!返してください!」

 アート。つまり、作品…?

「えっ!?これってゴミじゃないの…?」

「だから違いますって…。まったく、危うくロコアートがスクラップにされてしまう所でした」

 呆然と見ているこっちにようやく気付いたらしく、笑顔でこっちに振り返った。

「っと、ご挨拶が遅れましたね。

伴田ロコです、ナイストゥーミーチュー!」

「あはは、どうも…」

「ロコちゃんって『超アイドル級の芸術家』らしいよ。なんだか凄そうだよね~」

「『芸術家』ではなく『アーティスト』と呼んでください!この二つは似て非なるものなんですから!」

「あれれ?そうだっけ~…?」

「…まあ、いいです。ロコのアート性を感じ取ってくれる出資者の方々はワールドワイドに及びますから、これくらいの事は別に…」

 ワールドワイド、ってことは…

「世界中に!?」

「え、ええ。まあ」

「へええ!すごいなぁ~!」

「ま、まあ、それほどでもありますけどね。

もしよければ、今度特別にロコのアトリエに招待してあげます」

「ありがとー!えへへ、やった♪」

 世界的に有名な芸術家に招待してもらえた。芸術はよく分からないけど、分からないなりに何かを感じ取ることが出来るから、やっぱり芸術家の人ってすごいんだと思う。あ、芸術家じゃなくてアーティストだっけ。

「ふふっ、二人とも仲良くなれたみたいでよかった。

……あれ~?またゴミが落ちてる。ぽいっ」

「あ゛ーーーーっ!?ロコのアートがああああああ!!」

 何て言うか、芸術家って苦労してるんだなあ…


「………(ピコピコ)」

「あ、あの……」

「………(ピコピコピコ)」

「……えっと」

 ゲームに夢中だった彼女の目が、一瞬こちらを向いた。

 消え入りそうな小さい声で、

「……あ、そっか。自己紹介…だったね…。

望月、杏奈。『超アイドル級のゲーマー』……だよ…」

「私は矢吹可奈。よろしくね、杏奈ちゃん」

「………。

うん、よろしく…」

 なんか、会話のテンポが悪いなぁ…。ゲームやりながら話してるせいだと思うけど。

「……あ、ごめん…。ゲーム、やめた方がいい…よね…?」

「ううん、別にいいよ。今は他にやる事もなくて退屈だろうし」

「そう。……ありがとう」

 顔を隠すようにフードを目深に被って、またゲームに集中してしまった。

 本当にゲームが好きなんだなぁ。

「そういえば、そのゲーム機って杏奈ちゃんのだよね?無くなってなかったんだ?」

「……。

…うん。でも、これ以外は…全部…」

「そっか…」

「やっぱり、私達が外部と連絡出来る可能性のある物はどれも無くなってるようね。

なかなか用意周到だわ」

 そう言ったのは私や杏奈ちゃんより小さい女の子だった。いや、星梨花ちゃんや桃子ちゃんより小さいかも…?

「あなたは…?」

「私は馬場このみ。『超アイドル級のセクシー』って呼ばれているわ。

不安もあるでしょうけど、お姉さんに任せておけば安心だからね。どんどん頼ってちょうだい!」

「お姉さん…?」「セクシー…?」

「ちょっとそこ、二人して疑問符を浮かべない!どこからどう見てもセクシーなお姉さんでしょ!?」

 と、言われても。

「あの、このみさんっておいくつなんですか?」

「24よ」

「………」

「杏奈ちゃん、そのかわいそうなものを見るような目はやめて!」

「ええっと…じゃあ、セクシーっていうのは…?」

「その顔、さては疑ってるわね…。

言っておくけど、自称じゃなくてちゃんとミスコンで入賞したこともあるから!」

「……む、このボス強い…」

「杏奈ちゃん、せめて聞くフリだけでもして!?」

「わ、分かりました。分かりましたから。とりあえず落ち着いてください」

 ついにこのみちゃ…このみさんが膝を抱えて泣き始めた。

「うううう…私だってもうちょっと身長があれば……ううううぅぅ…」

「あの、このみさん?」

「うううぅぅ……」

 ダメだ、聞いてない。あとで落ち着いたら謝っておこう…

「……よし、ステージクリア♪」

 後ろから能天気な声が聞こえた。


 次に声をかけてきたのはポニーテールで何故か海の家で働いていそうな恰好の女性だった。

 半袖でおへそも見えてしまっている。一応体育館内は空調が効いているみたいだから寒くはないと思うけど…

「私は佐竹美奈子だよ。よろしくね、可奈ちゃん」

「よろしくお願いします、美奈子さん」

「ねえねえ、可奈ちゃんお腹空いてない?空いてるよね?ずーっと寝てて何も食べてないもんね」

「えっ?いえ、別に…」

「そうなんじゃないかと思って、たくさん作ってきたんだ~。遠慮しないでいっぱい食べてね♪」

 海の家で働いてそうと思ったのは単にラフな恰好だからという訳ではなくて、両手に食べ物の乗ったお盆を持っていたからだ。

 美奈子さんは笑顔で盆を差し出してくる。

 焼きそば、たこ焼き、かき氷に、あの泡立ってる飲み物はもしかして…?

「あっ、すごい。どれもおいしそう…!

でも材料とかどこで見つけたんですか?」

「ここに来る前に食堂を見つけてね、そこに食材がいっぱいあったから使わせてもらったの」

「勝手に使っちゃって大丈夫なんですか…?」

「いいんじゃない?他に誰もいなかったし。あのまま食材が使われなかったらかわいそうだしね~」

「それもそう…なのかな?

じゃあ、えっと、この焼きそばいただきます」

「どうぞ~♪おかわりもあるからね!」

 お皿と箸を受け取って一口啜る。

 ……こ、これは…!

「お、おいしい…!こんなにおいしい焼きそば、初めて食べました!」

「でしょでしょ?こっちのかき氷もひんやりしてておいしいよ~♪

あと、このビールも冷えてて…」

「ちょ、ちょっと美奈子ちゃん!未成年にアルコールを勧めちゃダメだよ!」

 やっぱりあの泡立ってる飲み物、ビールだったんだ…

「あははっ、流石に冗談ですよ。本気にしました?」

「美奈子ちゃんは食べ物の事になると、どこまで本気かわからないから…」

「……ふう、ご馳走様でしたー!おいしかったです!」

「はい、お粗末様でした。気に入ってくれたみたいで私も嬉しいな~♪」

 すごかった。見た目普通の焼きそばなのにあんなにおいしいなんて。

 こんなにおいしい料理を作れるってことは、美奈子さんの才能は…

「『超アイドル級の料理人』なんだって。世界中のありとあらゆる料理をマスターしてるらしいよ」

「そんなに大層なことじゃないですよ~。あ、得意なのは中華料理です!」

 厨房でフライパンと炎を巧みに操っている美奈子さん。うん、すごくそれっぽい。

「…あ、すみません。あなたは…?」

 私はもう1人の女性に声をかけた。

 柔らかな微笑みを浮かべているその人は、なんだかふわふわした優しい空気を纏っていて、一緒にいるだけで安心する。

 そして、何より……

(……おっきい)

 何を食べたらこんなに大きくなるんだろう。美奈子さん知ってるかな。

「私は豊川風花。

アイドルを目指すまでは病院で看護師として働いていたわ。よろしくね、可奈ちゃん」

「病院ですか…なんだかかっこいいですね!」

「実際はかなり大変なんだけどね。四六時中患者さんの看護に追われる生活だったし…」

「あっ…ご、ごめんなさい。勝手なこと言っちゃって…」

「気にしないで。やりがいは感じられる仕事だったし、私は好きだったから。

お世話をした患者さんに”ありがとう”って言ってもらえると疲れも吹き飛んで、もっと頑張ろうって気持ちになれるの」

「へえぇ……素敵ですね、そういうのって!」

「流石は『超アイドル級の看護師』って感じだよね~。尊敬しちゃう…」

「ふふっ、ありがとう。

怪我をしたらすぐに言ってね、いつでも手当てしてあげるから」

「はーい、頼りにしてます♪」


 次は眼鏡をかけた、しっかりしてそうな人だ。

「高山紗代子、17歳です。

誕生日は12月29日、血液型はA型。趣味はハリネズミの飼育です」

「矢吹可奈です。…あ、14歳です。

誕生日は8月18日、趣味は歌う事で、あとは…えーっと…」

 合わせようとして自己紹介をして、逆にしどろもどろになった私に紗代子さんは微笑み、

「そんなに緊張しないで。私もあなたと同じアイドル候補生なんだから」

「ど、どうも。ありがとうございます…」

「でも、遅刻したのはちょっといただけないわね。集団で行動する場合は規則を守らないとダメだよ?」

「遅刻…?あの、何の事ですか?」

「あれっ、ひょっとして放送聞いてなかった?体育館に集まれって言われたはずなんだけど」

「う~ん…たぶん、その時も寝ちゃってたんだと思います…」

 全然気付かなかった。見知らぬ場所で、どれだけ私はぐっすり寝ていたんだろう。

「そうなんだ…早とちりして責めるようなこと言っちゃったわね。ごめんなさい」

「あ、いえ。全然。気にしないでください」

 やっぱり真面目な人だ。さっきまでの発言とか、雰囲気とか、いかにもクラスの委員長って感じ…

(『超アイドル級の委員長』…なんだろうな、きっと。聞かなくても分かる、ぴったりだもん)

「あ、でも放送が流れたってことは、誰か他にも人がいるって事ですよね?」

「そのはずなんだけど、まったく人の気配がしないのよね。

ここに来るまでに一通り探してみたけど、私達以外に誰も見当たらなかったし」

「どこかに隠れてるんでしょうか?」

「どうして隠れる必要があるの?」

「私達をびっくりさせるため、とか…」

「そんなお茶目な理由ならまだいいんだけどね。

私達を集めて、わざわざ外部への連絡手段を断って、その上自分達は姿を隠す…。

少なくとも隠れてるって事は、何か私達に存在を知られたくない、後ろ暗い理由がある気がするの」

 私達に知られたくない、後ろ暗い理由…

 それは、いったい何だろう。

「ミステリーですね。

ですが、この状況に少し高揚している私がいます。……どきどき」

 真顔でそう言ったのは、学校の制服をピシッと着た、ちょっと表情に乏しい人だった。

 何故かシルクハットを頭に被っていて、自分そっくりの、少しデフォルメされた人形を肩に乗せている。

「あはは。でも、その気持ちもちょっと分かるかも。

マンガみたいで、ちょっとワクワクするっていうか…」

「楽しむ気持ちがあるくらいに余裕があった方がいいのかもね。

楽観的になりすぎるのは危険だけど」

 そうですね、と相槌を打った後、彼女は続けて言った。

「さて、自己紹介でしたね。

真壁瑞希、17歳です。趣味は手品、特技はバトントワリングです」

 続いて、肩に乗せた人形の頭をお辞儀するように傾けた。

「こちらは相棒のリトルミズキです」

[はじめまして、よろしくね!]

 ………!!

「人形が、喋った…!?すごーい!」

「見事な腹話術ね。流石は『超アイドル級の人形師』だわ」

 それを聞いて、瑞希さんは少しむっとした顔をする。

「リトルミズキは私の相棒で、友達で、家族です」

[そーよそーよ!腹話術だなんて失礼しちゃう!]

「そうですよ紗代子さん。リトルミズキちゃんに謝ってください!」

「えぇー……?これって私が悪いの…?」

 うん、と瑞希さんが頷いた動作でシルクハットが頭から滑り落ちた。屈んで拾い直して、逆さにして被り直そうとしてくるっと反転させた瞬間、中から落ちてきた物が瑞希さんの頭を直撃した。

「あいた」

「それって…タブレット、ですよね?」

「はい、私の私物です」

「それを使えば外部と連絡が取れるんじゃ…!?」

「電池切れです」

 ですよねー……

「手品の小道具として使っていた物で、他にもいろいろありますよ」

 言うやいなや、シルクハットの中に手を入れてさまざまな物を取り出し始めた。

「ステッキ、折り紙、トランプ、ボール、バトン…」

「本当にいろいろあるわね…。

でも、タブレットの他に外部と連絡が取れそうな物はない、か」

「お力になれずすみません」

「ああ、気にしないで。電源の切れた携帯は残ってるんだなーって思っただけだから」

 それにしても、シルクハットのどこにこれだけの物を仕舞ってたんだろう…?

 取り出した小道具をシルクハットの中に仕舞いながら、瑞希さんが笑みを向けた。

「時間と機会があれば、私の手品をお見せします。タネも仕掛けもありません。

……気晴らしにでもなればいいな、と」

「もう少し経ったら今度はきちんと建物内を探索してみましょうか。

また後でね、可奈ちゃん」

「はい、それでは。紗代子さん、瑞希さん、また後で!」


 次で15人目、あの人で最後だ。

 さっきから誰とも話さないで考え事してるみたいだけど…

「あ、あのー」

「…何?」

「私、矢吹可奈です。あなたの名前は…?」

「それを知ってどうするの?」

 どうするの、って…

「ほら、私達初対面で名前も分からないから、まずは自己紹介を…」

「結構よ。別に馴れ合うつもりもないし」

「……」

 視線を逸らされてしまった。

 でも負けない。

 じーーーーーーーーーーーっ……

「……」

 涙が浮かんで来た。

 でも、絶対負けない。

 じーーーーーーーーーーーっ……!

「……ハァ。

北沢志保。年はあなたと同じ。1月18日生まれのA型。趣味は絵本とぬいぐるみ集め。

はい、自己紹介終わり。これ以上話す事はないわ。あっちへ行って」

 顔も向けられなかった。このままじゃ会話が終わっちゃう…!

 何か言わなきゃ。えーと、えーと……

「…可愛い趣味だね?」

「っ!う、うるさい!あなたには関係ないでしょ!?

いいから向こうに行きなさい!」

「ご、ごめんなさーいっ!」

 怒らせてしまった。ちょっと怖かったな…

 でもあの人、絶対悪い人じゃないと思う。根拠なんて無いけど、そんな気がする。

 仲良くなっていろいろお話出来たらいいな…


 肩を落として佇む私に、昴ちゃんが声をかけてきた。

「お、自己紹介終わったか。…ってなんか落ち込んでる?」

「あはは、ちょっとね…」

「あー、ひょっとしてアイツか…まああんまり気にすんな。

それで、これからの予定なんだけど…」

 昴ちゃんは自分の背後に親指を向ける。そこには志保ちゃんと桃子ちゃん以外の皆が集まっていた。

「全員で固まって動いて出口を探すってさ。

だだっ広い建物だけど、虱潰しに探せば見つかるだろ」

「でも、いいの?放送で呼び出されたからここに集まったんじゃ…?」

「っても、誰もいないしな。

ここでぼーっと突っ立ってるより、先にやれる事やっといた方がいいんじゃないか?」

「それもそうだね。今そっちに行く……」



 自己紹介を終えて皆の緊張が和らぎ、どことなく緩みきった空気の中で…

 突然、”それ”は始まった。



『キーン、コーン カーン、コーン…』



「え…!?」

「これ、チャイム…!?」

「……」



『あー、あー…!マイクテスッ、マイクテスッ!場内放送、場内放送!

…大丈夫?聞こえてるよね?えー、ではでは…。

寝ぼすけくんの可奈ちゃんも集まった所で、そろそろ始めちゃおっか!』



「これは…?」

「始めるって、何を…!?」

「おい、誰だ!?隠れてないで出て来いよ!」



 皆が口々に叫ぶ中、またもや何の前触れもなく…

 壇上から、”そいつ”は現れた。


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