2020-05-26 08:05:11 更新

概要


海軍と艦娘に全てを奪われた男のお話、その⑥です。


前書き

関係が壊れます。


【オリジナルキャラの補足説明】

白友提督→提督の友達でホワイト鎮守府運営中の提督

九草提督→クソ提督。頭が良くて出世にどん欲。性格最悪。



【鎮守府内 司令部施設】



いつまでも執務室から秘書艦を遠ざけると怪しまれる可能性があるので場所を司令部施設に移し大井を待った。



大井「入るわよ」



少し待つと大井がやって来た。



大井「話は…さっきの遠征のことかしら?今後の対処についてなら今作ってたところで…」


提督「…」



行動が早くて内心苦笑いしてしまう。

これは頼りにしてしまうな、と自虐的な気持ちにもなった。



大井「何なのよまた黙って…」


提督「大井」


大井「な、なに…?」


提督「お前には今後作戦担当から外れてもらう」


大井「え…」



大井は一瞬俺の言ったことが理解できていない顔になった。



大井「どういうことよっ!」


提督「言葉通りだ。今後はもう大規模作戦等の作戦は立てなくて良い。あと練習巡洋艦も辞めてもらう」


大井「な…!?何よそれはぁ!!」



大井は怒りの形相に変わり司令部施設の机を両手でバンッと叩いた。



提督「それが嫌なら異動しろ」


大井「な、なんで…!?」


提督「好きな所に行けるようにしてやる。楽な所でも元居た呉鎮守府でも」


大井「…」



話を聞いていた大井が静かになる。


どうしてこんなことをするのかという気持ちが鎮まりこちらを探るよう思考が働き始めたのだろう。



大井「…あんたにとって私は用済みってわけ?」


提督「そんなつもりは無い。10人の提督が居たら10人ともお前を欲しがるに決まってる。俺だってそうだ」


大井「だったら何よ…私のやってきたことに間違いがあるとでも…」


提督「お前のやってきたことは完璧だ」


大井「何よそれ…増々意味わかんない…」




…お前はこちらの想定を超える程に完璧を目指し過ぎたがな。



提督「話は以上だ。今はこれ以上話すつもりは無いしお前を作戦担当から外れてもらうことは変えるつもりは無い」


大井「…」



大井は一度俺を睨みつけてから司令部施設を出て行った。





提督(…これで第一段階だ)




本人がどこまで納得しているかは不明だが大井は作戦担当から外れることを受け入れた。


下手をすれば本当に異動され大きな痛手を伴う可能性があるが、それは俺の招いたことになるのでそうなればこちらは快く受け入れる予定だ。



…まあ、そんな簡単に異動するような奴だったらあんな言い方はしないがな。




提督「さて…」




第二段階に移るため、俺は演習場へと向かった。





【鎮守府内 廊下】





ハチ「あ、あの!提督!」


提督「なんだ?」



演習場へと向かう途中、ハチが俺に声を掛けてきた。



ハチ「わ、私、秘書艦になりたいと思っています!」


提督「…」


ハチ「ど、どうすれば、私を、その…ど、どんなことでもします、ですから…」


提督「…」



ハチがこの鎮守府に来てから良いところばかり見せていたせいか何か勘違いされているらしい。

イムヤには俺の本性を一部見せているから良いものの、ハチにはそういう風には映っていなかったようだな。




…朝雲の時もそうだったがここは現実を見せて突き放すことにした。




提督「お前の気持ちはありがたいが」



言っている途中からハチの顔色が変わる。



提督「俺は秘書艦を代えるつもりはない。この先もずっとな」


ハチ「あ…ぅ…」



俺はハッキリとそう答え、ハチをそのままにしてその場を離れた。









…今後もこの様な状態が続くようなら対応を考えなければならない。
















提督(…)





一瞬




過去にも似たようなことがあったことを思い出す








あの時とは違う





そう自分を言い聞かせながら演習場への足を速めた




【翌日 鎮守府内 演習場】





提督「集まっているな」



予め館内放送でこの時間に呼び出していたので全員が集まっていた。



時津風「あれ?大井さん…」


雪風「初めて鎮守府に来た時の衣裳ですよね?」


大井「…」



大井もちゃんと時間通りに来ていた。


その恰好はこれまでの練習巡洋艦のものではなく、この鎮守府に来た時の軽巡洋艦の衣装になっていた。



提督「それじゃあ今日の訓練内容を説明する」



これなら始められると俺は艦娘達に訓練内容を説明する。




提督「陸奥、霧島、衣笠は機銃と水上偵察機のみ」


陸奥「え?」


霧島「は…?」


衣笠「ど、どういうこと?」



提督「祥鳳、雲龍、天城、葛城は全艦載機の使用禁止、副砲のみ使用可能」


祥鳳「て、提督…?」



提督「水雷戦隊は主砲と魚雷の使用を禁止する」


天龍「な、なんだよそれ…」


風雲「それってどんな意図が…」



提督「潜水艦隊は魚雷の使用を禁止、あと潜航も禁止な」


イムヤ「な、なんで…?」




俺は艦娘達の問いを一切無視して演習場にある椅子に座る。




提督「始めろ」


天龍「始めるったって何を…」


天津風「いきなりそんなこと言われても…」


提督「…」


祥鳳「提督…」


提督「…」




これ以上何も答えるつもりは無いと態度で示す。







さて…どう動くかな?









雲龍「霧島、いい?」


霧島「はい、私もお願いしようと思っていました」



霧島と雲龍はすぐに二人一緒に海へ入った。




…こいつらにはこの訓練は無意味だったかもな。




残った奴らに目をやるとまだ何をして良いのかわかっていない者だらけだった。




衣笠「みんな!とりあえず言われた通りの艤装で訓練するしかないよ!」



そんな奴らに声を掛けて動かしたのは連合艦隊旗艦の陸奥ではなく、水雷戦隊隊長の天龍でもなく、秘書艦の祥鳳でもなく衣笠だった。



衣笠の声に戸惑いながらも全員が艤装を着けてぎこちないまま海へと飛び込んだ。






その後はそれぞれ慣れない艤装での訓練が始まり1時間が経過した。






提督『雲龍、霧島、衣笠。お前らはもう良い。上がれ』



演習場にある放送設備を使って3人を上がらせる。







霧島「もうよろしいのですか?」


提督「ああ。お前らにこの訓練は必要無かったな、いらんことをさせた」


雲龍「そう」


衣笠「いいのかなぁ…」



衣笠が心配そうにまだ訓練をしている艦娘達を見る。


その艦娘達の中にはまだ戸惑い表情をする者も見られた。



提督「後は好きにしていてくれ」


霧島「了解しました。良い機会だから普段使わない艤装を徹底的に磨き上げましょうか」


雲龍「そうね」


衣笠「うん…そうだね、やろう!」



そう言いながら3人は一旦工廠へと引き上げて行った。





自分の強くなることへの執着が強い霧島と雲龍。


戦歴が一番長く周りへの気遣いが良くできている衣笠。



この3人ができて他の者達にはできていないこと。





次に気づくのは誰かな…?





俺は手元にあるスマホを見る。


その画面には演習場の艦娘達の表情が映っており、どのような表情をしているかハッキリと確認できる。




昨日のうちにあらゆる所にカメラを設置して見れるようにしておいたのだった。


潜水艦隊も機銃の訓練をしているため水上に上がっていて普段見れない彼女達の顔を見ることができた。

























提督『祥鳳、天城、上がって良いぞ』




霧島達が上がってから集中力を増した二人を合格させる。

俺がどんな意図を持ってこの訓練を始めたのか理解するのが早かった。



提督「お疲れさん、後は好きにしててくれ」


天城「は、はい…」


祥鳳「はぁ…はぁ…っ、あ、あの…提督…」


提督「祥鳳、この件に関しては一切フォローに回る必要は無いぞ」


祥鳳「え…でも…」



祥鳳が先程衣笠が見せたような心配そうな顔を演習場に送る。


こいつのことだ、こんな理不尽な訓練をさせて俺と艦娘の間に溝ができることを心配しているのだろう。




提督「わかったな、これは命令だぞ」


祥鳳「はい…そこまでおっしゃるのなら…」



念押しするとようやく納得したのか天城と共に工廠の方へと引き上げて行った。


今、あいつに動かれると今後やりにくくなる。

そのため何もしないよう念押しをしておいた。





さて…



スマホの画面から艦娘の表情を伺う。



そろそろ疲れが見え始めた。



こんなわけのわからない訓練をさせられてさぞ不満が溜まっていることだろう。



しかし俺はまだ続ける必要があると思い止めることはしなかった。



























3時間後…





提督『大井、上がれ』



放送を使ってそう言うと大井が不満そうな…いや、屈辱にまみれた顔で引き上げてきた。




提督「思ったより時間掛ったな」


大井「ぐ…!返す言葉も無いわよ…!!」



苛立ちを隠しきれず大きな足音を立てながら大井はそのまま行ってしまった。




どうやら効果はあったようだな。



本来の大井ならば最初の一時間で終えられるはずの訓練だ。


遅くとも祥鳳、天城と共に終わらせるとは思ったのだが…ここまで時間が掛かるとは予定外だった。



それほどあいつが今の立場に浸かってしまっていたことを物語っていた。





しかしこれに気づくことができたのなら、この無意味に見える演習には十分得るものがあった。





再びスマホの画面を見る。



艦娘達の疲れと不満がかなり溜まっていて時々俺に対し苛立ちと怒りの視線を送るようになってきた。






…疲れたのなら休憩すればいいのに。別に禁止していないのだから。




そこに気づくことすらできない奴らを憐れみながら訓練を続けさせた。




























4時間後…




提督(ほう…)




疲れが限界を超え始めて変わり始めた奴らがいる。


潜水艦隊の奴らだった。




前の鎮守府で過酷な状況を強いられ続けたことがここになって活きてきたらしい。


疲れと反比例して集中力が増し、顔つきも変わってきた。




…残念ながら全員ではないが。




提督『イムヤ、イク、ゴーヤ、上がって良いぞ』



いつもと違い海上に顔を出している潜水艦隊に演習終了を告げた。




訓練を終えて戻ってきたというのに3人とも浮かない顔をしている。



イムヤ「ねえ司令官…ハチは…?」


提督「あいつには合格はやれん」


イムヤ「で、でも…」


ゴーヤ「イムヤ…」


イク「だめなのね…」



食い下がろうとするイムヤをゴーヤとイクが引き止め、そのまま離れて行った。



ハチはまだ集中しきれていない。

この状態では訓練を終わらせても意味は無さそうだった。



















その後、5時間、6時間と時間は経過し




提督『終了だ、全員上がれ』



この理不尽ともいえる訓練を終わらせた。







【鎮守府内 演習場】





長時間の訓練で合格を与えられず疲れ切った艦娘達



陸奥


葛城


天龍


親潮 時津風 天津風 雪風


風雲 沖波


ハチ




対照的に途中で合格させた艦娘達



祥鳳 雲龍 天城 


霧島 衣笠


イムヤ イク ゴーヤ



そして大井




全員を演習場出口付近に集合させた。



陸奥「ね、ねえ…提督」



まだ肩で息をしている陸奥が最初に口を開く。



陸奥「この訓練…ど、どんな意味があったの…?」


提督「意味か…」




それを探ろうとしている者が何人もいる。


合格できなかった奴らがそうだ。



しかしそれに自分で気づけなかった奴らに今は何を言っても無駄だ。




提督「あまり意味は無かったな」


葛城「な…」


時津風「なんだよそれ…!」


天龍「おい!説明しろよ!合格の基準って何だったんだよ!」



この状況下でも『何かあったはずだ』と食い下がる。



親潮「し、司令…」


沖波「教えて…下さい…」



それは仕方ない。

これまで行ってきたことは必ず何かしらの意図を持ってやって来たからだ。


テストに必ず答えがあるように

作戦に意図が必ずあるように


しかし今日行った訓練の答えはとても曖昧なもので説明のしようもないし合格の基準も俺が勝手に決めたものだ。



提督「合格した奴は不合格の奴らに教えるのは禁止だぞ」


イムヤ「な…」


祥鳳「提督…」


提督「わかったな、これは命令だ。勝手なことをした奴は鎮守府から追い出すぞ」


陸奥「ちょ、ちょっと、話はまだ…!」


提督「解散」



俺は騒がしくなってきた艦娘達を突き放すようにしてその場を離れた。












それにしても…





提督(参ったな…)




想像以上に合格を上げられる者が少なかった。



大井のことや潜水艦隊の3人は収穫だったが、水雷戦隊の誰も合格できなかったのは今後の大規模作戦に大きく影響してしまう。




提督(仕方ないか…)




それがこれまで大井の作ったぬるま湯に浸かっていた俺やあいつらの現状だ。


今できることをして可能な限り万全な状態で大規模作戦に臨まなければならない。







俺は執務室へ歩きながら



残りの作戦開始までの数日



艦娘達に理不尽とも思える訓練を課すことを決意した











その結果が



ガラスに少しずつ傷を作り













亀裂を拡げてしまうことに気づけないまま…
















「最低な対応と崩壊するガラス」







【鎮守府内 演習場】





大井「…」



提督から作戦担当を外された大井は時間を持て余してか演習場を訪れた。


まだ昼間の訓練の疲れが残っている。


いくら慣れない艤装を使っての訓練とは言え、以前ならばこれほどまでに疲れることはなかった。



雲龍「あら…珍しいわね」



演習場を見ていると雲龍が声を掛けてきた。


雲龍は艤装を着けたままでこれから訓練を行うらしい。



大井「自主訓練?」


雲龍「そんなところ、あなたは?」


大井「私は…」




何をしにきたのかハッキリとは言えなかった。


以前は親潮の訓練に付き合ったりもしたが彼女も一定の練度に達し自分の手を離れていた。



大井「ねえ雲龍」


雲龍「なに?」


大井「私って…弱くなったかしら…?」


雲龍「…」



真剣な大井の問いに雲龍は足を止めてしっかりと大井を見た。



雲龍「ここに来たばかりのあなたはギラギラしてて…触れるとすぐに噛みつかれそうな獣みたいで…とても勝てる気がしなかったけど」


大井「…」


雲龍「今のあなたには負ける気はしないわ」


大井「そう…」



ハッキリと雲龍に言われ大井は少し顔を俯かせた後、頬を叩いて顔を上げた。



大井「ありがとね」



礼を言った大井の視線は雲龍を挑戦的な目で見ていた。



雲龍「ふふっ…」



その目は以前の大井を取り戻しつつあると雲龍は少し楽しみになった。







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【鎮守府内 工廠】





深夜2時。



理不尽な訓練を開始すべく工廠にある館内警報装置に近づく。




そのスイッチを押すとけたたましいサイレンが鎮守府中に鳴り響いた。







提督『緊急招集、全艦娘は工廠に集合しろ』






そして館内放送で全艦娘を呼び出した。



















親潮「司令!お待たせしましたっ!!」


提督「お…」



一番に駆けつけたのは親潮だった。

この深夜に強制的に起こされたにも拘らずしっかりとした強い瞳を持っていた。



提督「…早いな」


親潮「はい!ありがとうございます!」




親潮の到着から少しするとぞろぞろと他の艦娘達が集まってきた。












祥鳳に点呼をさせて全員が揃ったことを確認する。




提督「お疲れさん、訓練は終了だ。解散してくれ」


天龍「は…?」


時津風「訓練…?」



訓練だと聞かされて艦娘達が呆気に取られる。



陸奥「訓練って…こんな緊急招集掛けて…」


提督「訓練だって言ったら気が抜けるだろ」


葛城「だからって…!」


提督「解散」


風雲「なによ…もう…」





不満そうな顔をして艦娘達は引き上げて行った。



祥鳳「あの…」


提督「何してる、さっさと部屋に帰れ」


祥鳳「はい…」



近々行われる大規模作戦。


そして今後のことを考えてある程度艦娘を選抜し、現在の状況を見極めなければならない。




そのためには…































1時間が経過した。



深夜3時、艦娘達はそろそろ眠ったことだろう。





俺はもう一度工廠にある警報装置のボタンを押す。








提督『緊急招集、全艦娘は工廠に集合しろ』





そしてもう一度全艦娘を呼び出した。










親潮「司令!親潮、参りました!!」


提督「…」




先程と同様に一番乗りしたのは親潮だった。




提督「お前早いな」


親潮「ありがとうございます!」






そして親潮が来て数分後、全員が集合した。



せっかく眠りについたというのに2度も叩き起こされて不機嫌そうな目を向ける者が多かった。



天龍「おい…まさか…」


提督「さっきよりは早かったな、良い訓練だった」


陸奥「もう…なによ!」


提督「そんな顔するな。今日の午前中は休みにしておいてやる」


風雲「偉そうに…!」


時津風「やってらんないよ!」



俺に悪態をついて全員がその場を離れようとする。




提督「親潮」


親潮「は、はい!」


提督「お前は少し残れ」







天津風「…」













全員が離れた後、工廠は俺と親潮の二人きりになる。





親潮「し、司令…?私なにか不手際を…?」


提督「呼び出しが掛かった時、何を考えていた?」


親潮「え…?えっと…」



親潮は少し思い出すような仕草をして静かになる。



親潮「特に…何も…。緊急招集が掛かったのなら考える必要も無く来るのは当然だと…」


提督「ふむ」


親潮「それが…なにか?」


提督「合格だ」


親潮「え…?」



緊急招集が掛かったら集まる、そんなことは当然だと親潮はハッキリと言い切った。


こいつらしいクソ真面目なところが垣間見える。


少し甘いが今回は合格を与えることにした。



提督「その感じだ。作戦海域に出たときも同じだぞ」


親潮「え…あっ!」



親潮は俺が与えたヒントから答えを導き出したらしい。



親潮「わかりました司令!親潮、これからも精進します!」


提督「ああ、せいぜい頑張れ」




親潮は嬉しそうな顔で敬礼して工廠から走り去って行った。







提督(あともう一人か二人か…)





一人はもう既に俺が何を求めているのか答えが出かかっているように見えた。


先程集まった時もどこか冷静そうな顔を見せていた。

あの調子なら今日の訓練中には合格を与えてやれそうだ。





提督「さて…」




中途半端な時間になってしまい、もうこのまま仕事に移ろうと思い執務室へと足を進めた。





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親潮(やった…!)





嬉しさを噛み殺すことも難しく親潮はこれまでにない程に上機嫌で部屋へと戻ろうとしていた。




親潮(黒潮さん…!見ててくれましたか…!?)



自分のやっていること、その姿勢が提督から認められたことは親潮にとって最大級の喜びとなった。


その証拠に以前は考えるだけでも暗い気持ちになった黒潮のことを想うことができる程に喜んでいた。







ハチ「あ…あの…」


親潮「はい?」




そんな喜ぶ親潮の所へハチがやってくる。



ハチ「どうして…合格できたのですか?」


親潮「え…」


ハチ「教えて…頂けませんでしょうか…」


親潮「は、ハチさん…」


ハチ「お願い…します…」



ハチの尋常じゃない様子に親潮は一旦は考えたが



親潮「申し訳ありません、司令には昼間教えるなと言われていましたのでお話するわけにはいきません」



真面目な親潮はしっかりと提督に言われたことを守りハチからのお願いをきっぱりと断った。



ハチ「あ、あの…」


イムヤ「ハチ、よしなさいよ」


ゴーヤ「ずるしちゃダメでち…」


イク「提督に知られたら大変なことになるのね…」


ハチ「…」


イムヤ「ごめんね親潮」


親潮「いえ、失礼します」




そこへイムヤとゴーヤ、イクが止めに入ってくれたため親潮はその場を離れることができた。





ハチ「…」


イムヤ「ハチ…」




後に残されたのは元気が無く、暗い顔で俯くハチと仲間達だけだった。







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【鎮守府内 演習場】






今日の深夜に2度も緊急招集をしたせいか演習場の艦娘達の中で動きの鈍い者がいる。


特に咎める気は無いが、この程度の揺さぶりで集中力が乱れるようでは先が思いやられる。




ちなみに今行っている訓練は…




天龍「うおぉ!?また来た!!」


葛城「て、敵機発見!迎撃を開始するわ!」



通常の訓練中、無作為に艦載機との対応をさせる訓練だ。

まだ合格を与えられていない者達を中心に訓練をさせている。


祥鳳、雲龍、天城を離れた位置に配置していきなり艦載機を発艦させ迎撃させるというものだ。



訓練中の艦娘達にこの内容は一切伝えていないため、彼女達にとっては予想外の強襲となんら変わりは無い。


さあ、この揺さぶりはまだまだ続くぞ。



提督『俺は寝るぞ、後は頑張れ』



俺は演習場にあるベンチで横になる。



天龍「はぁ!?」


時津風「ちょっとしれー!ふざけるなよ!」


風雲「真面目にやりなさいよ!」



海から艦娘達の怒りの声が響いた。

そんな声を完全に無視して俺は背を向けたままスマホを見る。


そこには演習場にあるカメラを通して彼女達の顔がハッキリと見て取れた。





提督「ほう…」




どうやら新たな合格者が出ることになりそうだな。





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天津風「…」




最初に合格したのは雲龍さん、霧島さん、衣笠さん。


雲龍さんと霧島さんの共通点は簡単にわかるけど…そこに衣笠さんが含まれた。


そのため頭で考えることが優先してしまい何を以って合格とするのかわからなかった。



その後は祥鳳さん、天城さん、大井さんと続き、潜水艦隊からはイムヤ、イク、ゴーヤが合格した。




使い慣れていない艤装での訓練で最後まで戸惑いっぱなしだったからあの6時間の訓練ではわからなかったけど…





深夜にあった2度の緊急招集訓練で親潮が合格を与えられた。


その時に『もしかして合格の基準は…』と仮定することができた。




あの人は無駄なことはしない。


この訓練もただの嫌がらせに見えて何かの意図がある。


ベンチに横になっているけどきっと私達のことを見ている。


これまでのことを総括して彼が何を求めているのかを導く。





その答えは…




陸奥「あ、新たな艦載機…!」


風雲「反対…後方からも!」


時津風「え、えっと…どっちから…」


天津風「私が後方に行くわ!」


天龍「そ、それじゃあ俺は…」




私は迷いを捨てて後方から迫る艦載機に対峙した。


集中力を高めただひたすらに目の前の艦載機を撃墜することを繰り返していくと自然と身体が動くようになり撃墜率も上がるようになった。


















演習終了後、提督の所に私達は集まった。



提督「お疲れさん、これで大規模作戦前の演習は終わりだ」


沖波「え…」


陸奥「ちょっと待ってよ…!まだ作戦まで日にちが…」


提督「合格者を発表する」



提督の言葉にみんなが静まり返る。



提督「天津風」


天津風「…」




内心ホッとすると同時に胸に少しだけ昂りを感じた。


自分の予想が的中し、思い通りに事が運んだことへの高揚感かもしれない。



提督「それと雪風」


雪風「は、はい!」




そういえば雪風も今日の訓練中はとても集中できていた。


やっぱり提督は見ていない様でしっかりと見ていたようね。



提督「合格できなかった奴らはこの後の大規模作戦に出番は無い」


葛城「ぐ…」


陸奥「結局…合格の基準って何なのよ…」


提督「自分で考えて答えを導き出せ。それがお前らへの課題だ」



まるで突き放すような言い方にみんなは顔をしかめたけど…


これは必要なことなのだとしっかりと理解することができた。
















提督「どうした天津風」


天津風「…」


祥鳳「天津風さん…?」



皆が提督の傍を離れた後、私はこの場に残った。



天津風「あなたが見てたのは緊急時における対応力で良いのかしら?そのために色んな理不尽な訓練をさせて集中できるかを試した、どう?」



私はハッキリとした答えを得るために提督に問い掛けた。



提督「半分正解」


天津風「半分…?」


祥鳳「半分なのですか…?」



私だけじゃなく祥鳳さんも驚いてる。


それは祥鳳さんも私と同じ答えだったということがわかった。



提督「まあ…今は良いさ、半分で。今回の大規模作戦を乗り切るには十分だ」


天津風「残りの半分って何なのよ」


提督「いずれわかる」


天津風「そう…」



これ以上話す気は無いと提督が態度で表したため私はこれ以上追及することなく工廠を離れた。








半分…




提督は今後のことを考えて今回のようなことを行った。





もう半分は…もっと先のことを考えているというの?







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祥鳳「…」



提督が艦隊のことを考えてやっていることはわかっています。


でも…それでも少し突き放し過ぎなのではと思っています。




今朝の空気はいつもと違っていました。


ピリピリしながらもやっていられないという呆れ等が混ざった不穏な空気。




こんな状態では…せっかく築き上げてきたものが…



提督「そんな顔するな」


祥鳳「あ…」



考えが顔に出ていたみたいです。



提督「大規模作戦が終わったらしっかりと話すさ」


祥鳳「そう…ですか…」



いけない…


私がこんなことでは…



何があっても信じて支えることを誓ったのですから、この程度で揺らいでいてはダメですね。



祥鳳「その時は言い方に気を付けて下さいね?」


提督「善処する」


祥鳳「もう…」



いつもの軽口をたたいて私達は執務室へと向かいました。





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【鎮守府内 演習場】




大井「ぐ…ちくしょう…!!」



海上にはまだまだたくさんの標的が残っている。


大井が一斉に撃破しようとしたのだが彼女の魚雷は的を外していた。




大井(こんなにも…衰えていたなんて…!)



憎々しい目で標的を睨みつけて再び一斉に魚雷を発射する。


その標的の上部には白い紙が貼られていて『バカ提督』と書かれていた。



大井「こんなんじゃ…足を引っ張るだけだ…」



大井は呼吸を整え再び海上に標的を並べ始める。




大井「今に見てなさいよ…!あのクソバカ提督!!」




今、大井の根幹を支えているのは提督と自分に対する怒り。


それを隠すことなく怒りのままに身を任せ、大井の訓練は日付が変わるころまで続けられた。









これまでの作戦を考えての徹夜と違い、とても心地良い疲労を感じられたのは彼女が演習場の岸で眠りについたころだった。





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【前線基地 会議室】





前回と同じく前線基地に集まった提督はクソ…じゃなくて九草、白友、そして呉提督だった。


今回も4提督による合同作戦で俺はまた前段作戦を任された。



しかしその前段作戦で組むのは…



九草「宜しくお願い致します、佐世保の提督殿」


提督「…」



この九草だった。

西と東、両面同時に攻略を開始するというもので俺は東を、こいつは西の攻略を命じられていた。



提督「足引っ張んなよ」



俺は九草の差し出した手を無視してその場を離れた。



よりによってこいつと組むのか…


変なところで足を引っ張られないか少し注意しなければならないな。






【前線基地 会議室】




提督「…以上が今回の作戦内容だ。出撃メンバーは渡した書類に載っている通りで行く」



作戦開始を目前に控え、最終確認のために全員を集め会議を行った。


以前のような和やかな空気は消え、会議室の空気は常に張りつめたままだ。



イムヤ「司令官…」


提督「なんだ」



そんな中、イムヤがゆっくりと手を上げる。


何を言いたいか顔を見ればすぐに分かった。



イムヤ「遊撃部隊として潜水艦隊が出るのは良いんだけど…」



イムヤの視線がハチに送られる。



イムヤ「3人だけ…?ハチは…」


提督「今回出撃させることはできない」


ハチ「…」



俺の言葉にイムヤとハチが顔を暗くする。



ゴーヤ「で、でも、ゴーヤ達はずっと4人で訓練してて…」


イク「ハチがいてくれないとしっかりとした陣形が組めないのね」


提督「決定に変更は無い、今回の作戦なら3人でも十分だ。違うか?」


ゴーヤ「…」


イク「でも…」


提督「以上だ、さっさと準備に移れ」




助け舟を出そうとするゴーヤとイクを無視して俺は立ち上がり会議室を出た。




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葛城「何よ…あんな言い方しなくたって…!」


風雲「少しはハチの気持ちを考えなさいよね!」


時津風「ハチ、気にしなくて良いからねー、最近のしれー、どっかおかしいから」


天龍「ほんと、最近何考えてんのかわかんねぇよ…」


祥鳳「…」



提督が会議室から出ると不満が漏れ聞こえてきました。


主に不満を言っているのは今回の出撃メンバーから外された人達。



ここに来て出撃メンバーとそうでない方達のモチベーションの差が出てきたのかもしれません。




天城(止めなくてよろしいのですか…?)



そんな中、天城さんが小声で囁いてくれます。


きっと私の心配事が顔に出ていたからでしょう。



祥鳳(提督からは…絶対にフォローするなと言われていまして…)


天城(そうですか…)



先程の提督の胸ポケットにペンが差さっていませんでした。


やはりこの状態を維持しておけということです。



霧島「それじゃ私は準備がありますので」


雲龍「私も、お先に失礼するわ」


陸奥「ちょ、ちょっと…!」


葛城「雲龍姉…!」



霧島さんや雲龍さんは動じることなく会議室を出て行きました。



親潮「私も…失礼します!」


衣笠「ごめんね…」


時津風「な…待ってよ!」




それに続き出撃メンバーは会議室を出て準備に向かって行きます。









なんだか提督を中心としたこの艦娘達が真っ二つに割れてしまったようで…




とても胸が苦しくなりました。






祥鳳(提督…)






あなたはこの先に何を見ているのですか…?





今はその答えを導き出すことはできず、心苦しいまま大規模作戦に臨むことになりました。






____________________




【前線基地 司令部施設】





作戦開始を翌日に迎えた夜。


最終チェックのため俺は司令部施設にて海域と作戦内容を確認していた。




イムヤ「司令官…」



イムヤの声とノック音がした。



その沈みがちな声に内容も何が言いたいかもわかっているが一応ドアを開ける。



イムヤ「お願い…ハチを一緒に出撃させて…」


提督「だから…」


イムヤ「ハチが…!司令官に何を言ったかわかってる!司令官がそれを受け入れないのも知ってる!」



一瞬何のことかと思ったが先日ハチが俺に秘書艦になりたいことを言ったのを知っているようだ。



イムヤ「でも…これ以上追い詰めないで…司令官のことが好きなハチがこれ以上突き放されたら、もう立ち直れなくなっちゃうよ…」


提督「…」





正直その事と今回出撃メンバーから外したのは別の問題なのだが…イムヤにはそう映っていないらしい。



イムヤ「お願い…」


提督「…」






『それでも決定は変える気は無い』




そう冷たく突き放してやろうと思った









…その時だった



























『あなたのこれからの無事を祈って作ったの。受け取ってくれる…司令官?』
















脳裏に彼女の姿が過った。






イムヤ「司令官…?」




その間、黙ってしまっていたようでイムヤが心配そうな顔でこちらを見ていた。



俺は深いため息を吐いてそれを見返す。




提督「…今回だけだ」


イムヤ「し、司令官!本当!?」


提督「ハチを呼んで来い」


イムヤ「うん!わかったっ!!」



イムヤは嬉しそうな笑顔を見せて司令部施設を飛び出していった。





俺は司令部施設に持ってきていたカバンから文庫本を取り出す。











ハチ「て、提督…」



少しするとハチが恐る恐る顔を覗かせた。



提督「ハチ」


ハチ「は、はい…」


提督「ほれ」


ハチ「…!?」



俺がハチの帽子の上に本を置くと一瞬身体を竦めたハチがそれを手に取る。



ハチ「本…?」



文庫本にはカバーがしてあり中身がわからないようになっている。



提督「作戦を終えたら読んで良いぞ」


ハチ「提督…」



本を手に取ったハチが状況を読めないようで固まっている。

もう一押ししておくか…



提督「ハチ、俺の視界に入りたければ結果を出せ」


ハチ「え…」


提督「明日、潜水艦隊として出撃しろ」


ハチ「ダ、ダンケ!」





ハチは花が咲いたような笑顔で敬礼をして司令部施設から走り去っていった。







提督「…」








結局…こんな大事な時に甘さが出てしまった。







提督「本当に…これで良いのかよ…」















如月…













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【前線基地 食堂】





時津風「おはよー」


沖波「おはようございます」


陸奥「おはよ…」



前線基地にある食堂に艦娘達が集まる。



集まったのは今回出撃できなかったメンバーで出撃するメンバーは既に食事を済ませこの場にはいなかった。



葛城「なんかハチが出撃する事になったみたいよ?」


天龍「本当か?」


葛城「ええ。さっきここで入れ違いしたんだけど4人でやる気に満ちていたわ」


陸奥「そっ…か…」


沖波「陸奥さん…」




陸奥は今回初めて大規模作戦での旗艦を外され一番落ち込んでいる。


これまでずっと旗艦を任されていただけにそのショックは大きかったらしい。



天龍「そんな顔すんなよ、次は絶対見返してやろうぜ!俺だってこのまま黙っているつもりは無いぜ!」


風雲「そうよ!そのためにはまず課題をクリアしないとね!」


時津風「課題かぁ…結局しれーの求めていたものってなんだったんだろうね…」



暗い雰囲気にならないよう艦娘達は何とか明るくしようとしていた。







そこへ…







霞「ねえ、聞いた?今回の大規模作戦の戦果ってこれまでで一番大きいものになるらしいわね」


曙「だからうちの提督もあんなに焦ってるのね。お互い睨み合ってるって話だし」





隣の席から大湊鎮守府、九草提督の艦娘達の声が聞こえてきた。



霞「メンバー選びもなりふり構わずって感じだったし…」


曙「みんな大丈夫かな…無理してなきゃいいけど…」








その会話は…





時津風「…」


陸奥「…」


天龍「…」



その場に居る艦娘達の耳に届き不安を与えた。




風雲「ハチさん…大丈夫かな…いきなり出撃なんて言われて…」


沖波「だ、大丈夫ですよ、司令官はそんな無茶な起用はしませんって!」



第二秘書艦でもある沖波がすぐさまフォローを入れる。



葛城「今回の大規模作戦、そういうことだったのかな…」


天龍「あまり考えたくはないけどよ…」


陸奥「戦果重視のために…私は…」


沖波「ちょ、ちょっと待って下さい…!大丈夫です…から…みなさん…!」



沖波が何とか空気を変えようとするが彼女一人ではどうにもならなかった。




沖波「今回の作戦中…大井さんが司令官と一緒に居ます…!だから…!その…」




その後も沖波は皆を元気づけようとしたがその空気は変わることは無く、虚しく空回りするしかなかった。







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霞「…」


曙「…」




隣に居た別の鎮守府の艦娘達の空気が悪くなったのを確認して二人は席を立った。





彼女達は九草提督から『出撃から外された艦娘達の空気を悪くしろ』と命令され実行した。



霞「ごめんなさい…」


曙「こうしないと…私達は…」



事は九草提督の言った通りに運んだが…その後味は苦いものだった。










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【前線基地 司令部施設】




霧島『司令、道中を塞ぐ深海棲艦を撃沈しました。後は敵主力を残すのみです』


提督「少し待機しててくれ、潜水艦隊が邪魔になりそうな部隊を蹴散らしたら連絡する」


霧島『了解しました』



霧島からの通信で提督は主力部隊の作戦が順調なことを確認した。



提督「大井、そっちは?」


大井「こっちも主力前の深海棲艦と交戦中よ」



提督は大井に潜水艦隊との通信を任せている。



2部隊同時出撃による海域攻略のため、提督は出撃中の祥鳳に代わり今回は大井を司令部施設に同席させた。



彼女が出撃メンバー発表の前に『まだ実力不足だから外して』と言って来たからだ。



プライドの高い大井がそんなことを言ったからには提督も聞き入れるしかなかった。



その大井の態度は今後重雷装巡洋艦として復帰するかもしれないというものが垣間見えたからだ。





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イムヤ「この…当たれっ!!」



イムヤ旗艦の潜水艦隊は深海棲艦に向けて魚雷を一斉に発射した。



イムヤ「まずい…!みんな避けて!!」




しかし魚雷は敵を全て撃沈するには至らず…




ハチ「きゃぁぁ!!」


ゴーヤ「ハチ!!」



逆に深海棲艦から投射された爆雷を避けきれずハチが被弾してしまった。



イク「このぉぉ!!」



ハチの前に出てイクが再び魚雷を発射し残った深海棲艦を沈めた。




イムヤ「ハチ!大丈夫!?」


ハチ「大丈夫…です…!」



イムヤの声にハチが手を上げながら応える。




イムヤ(えっと…)




損傷の分かり辛い潜水艦達は自分の損傷状況を分かり易く伝えるため右手でサインを送り合うことを決めていた。



イムヤ(中破…ね)



そしてイムヤはハチのサインを受け取り被害状況を把握した。




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イムヤ『こちらイムヤです、主力前の深海棲艦を撃沈しましたが…』


大井「どうしたの?」


イムヤ『ハチが被弾し中破状態です、進軍か撤退かの判断をお願いします』


大井「…」



イムヤからの通信を受け大井は提督に判断を仰ごうと隣で通信を聞いていた提督に視線を送る。




提督「…仕切り直す、撤退しろ」


大井「良いの?ハチは中破でまだ戦えそうだし…敵主力艦隊には基地航空隊も送っているわよ?」


提督「念には念を入れたくてな」


大井「そう…」


提督「イムヤ、撤退だ」


イムヤ『了解!』




被弾した艦娘、ハチに対し思うところがあり、提督は潜水艦隊に撤退を指示した。











撤退を




指示してしまった。





それが今のハチにとっての大きな逆効果と気づくことができずに…







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イムヤ「みんな、帰投命令よ。仕切り直しだって」




提督からの通信を受け取りイムヤは3人に撤退を伝えた。



『いつもの提督なら』『いつもの作戦だったら進軍を指示していた』と3人とも考えたが、ここ数日のハチのことを考えるとイムヤもゴーヤもイクも撤退指示に対し大人しく従うことにした。




ハチ「…」



しかし…




ハチ「…」




撤退指示を受け取ったにも拘らず、ハチは撤退経路とは逆の方向へと進み始めてしまった。





イムヤ「…え!?」


イク「ハチ!?」


ゴーヤ「何してるでちか!?」



撤退体制を取りかけていた3人にとってハチの行動は意外過ぎて出遅れてしまった。















ハチ「や…だ…」










嫌だ…










期待を…裏切りたくない…!












提督から与えられたチャンス


プレゼント


激励の言葉




それらは一時的にハチの心を軽くし、高揚感を与えた





しかし期待に応えたいという感情は




裏側に期待を裏切りたくないという感情が隠れている






元々精神状態に不安定だったハチは






これ以上提督に迷惑を掛けたくない




見放されたくない




嫌われたくない





そのような感情が表れ優先されてしまい







イムヤ「待ってよハチィィィッ!!」





一人、敵主力へと向かってしまったのだった














この先の主力には6隻の深海棲艦



その内訳は戦艦2隻、重巡2隻、軽巡1隻に駆逐艦が1隻





潜水艦が天敵とするのは2隻のみ




それに基地航空隊を向かわせていることは知っている






期待を裏切りたくないというハチの気持ち




そしてこの状態でも何とかなるという油断







それらがハチの暴走を招いてしまったのかもしれない














イムヤ「間に合え…!!」





敵深海棲艦がソナーを使い始めるのがわかる。


赤いオーラを纏った軽巡ツ級は私達にとって脅威で危険過ぎる相手だ。



絶対に先制攻撃で撃沈しなければならない…!




上空から基地航空隊が接近し攻撃を開始する。




イムヤ「そんな…!!」



基地航空隊は大量に撃墜され、その攻撃は的を外す。




イク「当たれぇぇ!」


ゴーヤ「喰らうでち!」



ならばと一斉に魚雷を放つが…



イムヤ「嘘…!?」



魚雷は壁となった駆逐艦のみに当たり軽巡ツ級を沈めることができなかった。





隊列が乱れ、先行してしまったハチはソナーに捕まり



イムヤ「ハチ!」


イク「危ないのね!!」








ハチ「…!?」






爆雷攻撃をまともに受けてしまった。





イムヤ(早く引き揚げさせないと…!)



今の攻撃でハチは間違いなく大破状態に陥った。


これ以上攻撃を受けたら…


































イムヤ「え…」

























見間違いであって欲しかった。




しかしすぐに目の前の現実を受け止めなければならない。















ハチは…



海上に向かって弱々しく手を伸ばしたまま














沈み始めた


















主力艦隊との戦闘前の損傷







ハチは大破状態にあったにも係わらず





自らの損傷を誤魔化していた










大破状態で軽巡ツ級の爆雷を浴びたハチの艤装は完全に壊れ






加護が消えて全く機能しなくなり





ハチの身体を沈め始めた




















イムヤ「ハチイイィィィィィ!!!」




私は全速力でハチを追い掛ける。




嘘…



嘘よ…



何でよ…!



手を伸ばしても



全速力で追い掛けても



沈んでいくハチに追いつくことはできなかった








やがて私の艤装がバキバキと音を立て始める




あまりの深さに艤装が耐え切れなくなってしまったのだ




しかし少しでも躊躇するとハチとの距離が離されてしまう






私は死を覚悟してでもハチを捕まえようとしたのだけど…




ゴーヤ「これ以上はダメでち!」


イク「イムヤまで死んじゃうのね!!」


イムヤ「は、離して!!ハチが!ハチがぁぁぁ!!!」



同じように追い掛けてきたゴーヤとイクに掴まれ、私は上に戻される。





イムヤ「ハチィィ!いや、いやだあぁぁぁ!うわあああああああああぁぁぁぁ!」








私達の目の前で





ハチは深海の奥深くへ





沈んでいった…

















その後






どういうわけかケッコンカッコカリの指輪だけが






ゆっくりと浮上してきた




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【前線基地 工廠】




大井「遅いわね…」


提督「ああ、遅いな」




撤退命令をしたはずなのに潜水艦隊が一向に帰投してこない。




既に霧島率いる主力部隊にも帰投を命じていて出撃した距離から言えば潜水艦隊が先に帰投するはずだった。








大井「あ!戻って…」



そこへようやく潜水艦隊が戻ってきた。




イムヤ「うっぐ…ぐすっ…」


イク「うっぅ…うぁぁぁ…」


ゴーヤ「えっぐ…うっ…ぁ…」




戻ってきたのは3人だけで



3人とも泣きじゃくっている。







大井「ちょ…っと…」


提督「…」





その姿だけで何があったか嫌でも察しがついてしまう。




イムヤ「は…ハチ…が…」


提督「どういうことだ、撤退を指示したはずだぞ」


イク「うっ…く…ほんとは…大破してて…」


大井「な…!?」


ゴーヤ「ハチ…そのまま…敵主力と…」


大井「ちょっと待って!?撤退指示を無視したっての!?」


イムヤ「うっぐ…ひっく…」



イムヤが泣きながらゆっくりと頷く。





提督「…」





提督は天を仰ぎゆっくりと深いため息をする。






提督「そうか…」




そしてイムヤに近づき肩に手を置く。





提督「お疲れさん」



その一言だけ言ってその場を離れようとした。






イムヤ「ちょっと…!」



その態度が気に入らないのかイムヤが提督を後ろから掴む。



イムヤ「それだけなの…!?ハチが…ハチが沈んじゃったんだよ!他に言うことは無いの!?ねえ!!」


提督「特に無いが?」


イムヤ「え…」



泣いて突っかかるイムヤに対し提督の対応はとても冷たい。



大井「ちょっと!そんな言い方!」


提督「俺が何かミスしたか?」


イムヤ「そ、そういうことを言っているんじゃないわよ!なんで…!」


提督「それとも俺がハチを精神的に引っ掻き回したせいで沈んだと責めているのか?」


イムヤ「違う!違うわよぉ!!なんでそんな言い方するのよぉぉ!!」





バチンッ!と工廠に鈍い音が響く。




イムヤが平手で提督の頬を叩いたのだ。


その威力に提督はその場に尻もちをついてしまう。



提督「…」


イムヤ「なんで…なんであんたなんか…!少しくらい、少しくらいハチのことを想ってあげてよ!少しくらい悲しんでよぉっ!!!」



大きな声で泣きながらイムヤは去り際に何かを提督に投げつけた。




去って行ったイムヤをゴーヤとイクがよろよろと追いかけて行った。









大井「…」




イムヤが提督に投げつけたものを大井が拾う。








ハチが身につけていたケッコンカッコカリの指輪だった。





大井「あんたに非が無いことはわかってるけど…」




大井はその指輪を提督に渡し






大井「あの子達に対して最低な対応だったわ…!」






その場をゆっくりと立ち去ってしまった。























提督「…」









後に残された提督は





その指輪をしばらくの間見つめていた













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基地航空隊とみんなの魚雷が外れ







軽巡ツ級のソナーに捕まり






爆雷が自分に迫った時…






あれだけみんなで本当のことを伝えると約束した





損傷状態の誤魔化し





それに対する罰なのだと悟った













艤装が壊れ





身体が沈み始めた時








真っ先に浮かんだのは仲間達への謝罪





そして…







『提督…』






どんな本をくれたのだろう…






帰りたい…






早く帰って読んでみたい…








そんな気持ちが湧いてきて






ゆっくりと手を海上に伸ばしながら















意識を永遠の闇へと閉ざしてしまった

















【前線基地 工廠】




祥鳳「うそ…」




何かの聞き間違いであって欲しかった。



親潮「轟沈…」


天津風「なんでそんなことに…!」



出撃から戻って早々に提督から聞かされたのはハチさんが轟沈したということでした。



提督「…というわけで作戦は中止となった」


霧島「中止…?」


提督「ああ、中止だ。わかったな」


祥鳳「て、提督…!」



それだけ言うと提督はその場から去ってしまいます。


私はそれを追い掛けて提督の袖を掴まえます。



祥鳳「イムヤさん達は…」


提督「さあな」



提督はこちらを見ようとせずそのまま行こうとしていました。


突き放すような言い方に違和感を覚えます。




おかしい…



提督ならばこんな状況になってもすぐに対応に動くはずなのにその素振りを一切見せません。




提督「祥鳳、お前は何もするな」


祥鳳「え…」


提督「わかったな、これも命令だぞ」



提督の言葉に私は掴んでいた袖を放してしまい、その後ろを追い掛けることをできませんでした。




祥鳳「どうして…」



提督…


どうしてですか…



どうして皆さんの様子を見て来いって言ってくれないのですか…



どうしてフォローしろってサインをくれないのですか…!





ハチさんを喪ったという現実が次第に重くのしかかり




私はその場に涙を零してしまいました。






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【前線基地 司令部施設】




九草「それは本当か!?」



九草にも提督が轟沈させてしまった事が部下から伝えられる。



九草「そうか、くくっふふ、あはははははは!」



その報せを聞いた九草は作戦中だというのに大きな声で笑い始めた。



九草「馬鹿め!間抜けが!自ら墓穴を掘りやがったな!これで計画を一つも二つも早められそうだ、あはははははは!」



耳障りな九草の笑いはいつまでも司令部施設に響き続けた。







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【大型船】






轟沈したハチの葬儀のため、全員が船の甲板にて神妙な面持ちで集まった。






祥鳳「ハチさん…どうか…安らかな眠りを…」





艦娘を代表して秘書艦の祥鳳が祈りの言葉を声を震わせながら振り絞る。




黙とうが始まると艦娘達のすすり泣く声が聞こえてきた。





イムヤ「っ…ぅっぐ…」


ゴーヤ「ひっく…は…ハチィ…」


イク「いや…なの…えぐっ…」




姉妹艦の潜水艦達は葬儀の前からもずっと泣き続けていた。





祥鳳「花を…」




泣いているイムヤに祥鳳が花を持たせる。



最後にこれを海に投げることで葬儀の締めくくりとなる。





イムヤ「さよ…なら…」




そしてイムヤが海に花を投げ、それが海上に浮かぶと





イムヤ「うっぐ、うわああぁぁぁぁ!!あああああああああああああああああああああああああああああ!ハチィィィ!なんで!なんでよおおぉぉぉぉ!!!」




イムヤは大きな声を上げて泣き始めた。



その声につられゴーヤとイクも声を上げて泣き始め、周りの艦娘達も嗚咽を漏らし始めた。













大型船の甲板の上で




波の音よりも大きな泣き声がしばらくの間響き続けた














提督「…」






提督はその様子を




静かな瞳で見ているだけで




誰かに近づこうとも




声を掛けようともしなかった







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祥鳳「ふう…」




葬儀を終え、後片づけがひと段落すると深いため息が自然と出ました。



大井「これはこっちで良いかしら?」


祥鳳「あ、はい…」



片づけは天城さん、沖波さん、大井さんと衣笠さん、そして親潮さんが手伝ってくれていました。



大井「いつかは…こういうことがあるとは思っていたけど…」


祥鳳「…」



大井さんは悔しそうに顔をしかめています。


ご自分が教えてきた潜水艦隊にこういう事が起こってしまって悔しさがあるのでしょうか。



大井「改めて思わされたわ…私達は…常に死と隣り合わせなんだって…」


祥鳳「はい…」





指示ひとつ、気持ちひとつの間違いで命を落とす。


そんな戦いに身を置いているのだと思い、気持ちが暗くなってしまいそうです。



衣笠「イムヤ達…大丈夫かな…」


沖波「心配ですよね…」



姉妹艦であるハチさんを喪ったイムヤさん達は計り知れない悲しさの中にいるでしょう。


立ち直ってくれるのでしょうか…。




親潮「大丈夫だと…思います」


大井「親潮…?」



暗い雰囲気の私達の中で顔を上げているのは親潮さんでした。



親潮「潜水艦隊の皆さんは葬儀に出席されました。ハチさんの死をしっかりと受け入れています」



そう…親潮さんも姉妹艦を喪ったことがありましたね…。



親潮「既に次への一歩目を歩み始めていると思います」


衣笠「そっか…うん、そうだよね」



その親潮さんの言葉に私達も少し気持ちが軽くなり、顔を上げることができそうでした。







天城「提督は?」


祥鳳「葬儀が終わるとすぐにどこかへ…」


大井「あいつ…何なのよ一体…!」


沖波「お、大井さん…」



提督の名を出すと大井さんの顔つきが変わります。



祥鳳「ど、どうかしたのですか?」


大井「…」


祥鳳「大井さん、教えて下さい」



私が大井さんの背に手を置いて話すよう促すと少しずつ話し始めました。





それは泣きながら帰ってきた潜水艦隊への提督のあまりにも冷たい対応のことでした。




沖波「司令官…なんで…」


衣笠「そんな言い方しなくっても…」


大井「あり得ないわよ…!あいつ…どっかおかしいんじゃない…!?」



その事が相当大井さんの怒りを買ったようです。


私も…もしその場に居たら提督に何を言ったのか想像もできません。






天城「…妙ですね」


祥鳳「え?」




そんな話に動じることが無かったのは天城さんでした。



天城「あの提督がですよ?ハチさんが轟沈したというのにどうしてそんな態度を見せたのでしょうか?」


大井「知らないわよ!あいつ、普段は見透かすような事ばかりするくせに…!」


天城「そこですよ」


大井「え…」



怒りの収まらない大井さんに対し天城さんは冷静なままです。



天城「普段私達艦娘を何もかも見透かして先を読んで手の平の上で踊らせるような人ですよ?」



そこまで言わなくても…その通りですが。



天城「姉妹艦を喪って泣いているイムヤさんに対してどうしてそんな対応をしたのかな…と。いつもの提督だったらもっと上手く立ち回れたと思うのですが…」


親潮「司令に何か意図があったと…?」


大井「何があるって言うのよ」


天城「そこまでは…」




天城さんも結論には至っていない様でした。




確かに違和感だらけです。



それは今では無く少し前からずっとです。



提督が何を考え、何を思っているのか。





私にはまだ答えを導き出すことはできませんでした。







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【前線基地 廊下】




提督「…ん?」


九草「これはこれは佐世保の提督殿」


提督「ようクソ提督」


九草「くそう、です」




葬儀を終え、大型船で前線基地に戻ると待っていたと言わんばかりに九草が声を掛けてきた。



九草「大変でしたね、艦娘が轟沈してしまうとは」


提督「大変なことをしてしまいました