2020-05-26 08:05:11 更新

概要


海軍と艦娘に全てを奪われた男のお話、その⑥です。


前書き

関係が壊れます。


【オリジナルキャラの補足説明】

白友提督→提督の友達でホワイト鎮守府運営中の提督

九草提督→クソ提督。頭が良くて出世にどん欲。性格最悪。



【鎮守府内 司令部施設】



いつまでも執務室から秘書艦を遠ざけると怪しまれる可能性があるので場所を司令部施設に移し大井を待った。



大井「入るわよ」



少し待つと大井がやって来た。



大井「話は…さっきの遠征のことかしら?今後の対処についてなら今作ってたところで…」


提督「…」



行動が早くて内心苦笑いしてしまう。

これは頼りにしてしまうな、と自虐的な気持ちにもなった。



大井「何なのよまた黙って…」


提督「大井」


大井「な、なに…?」


提督「お前には今後作戦担当から外れてもらう」


大井「え…」



大井は一瞬俺の言ったことが理解できていない顔になった。



大井「どういうことよっ!」


提督「言葉通りだ。今後はもう大規模作戦等の作戦は立てなくて良い。あと練習巡洋艦も辞めてもらう」


大井「な…!?何よそれはぁ!!」



大井は怒りの形相に変わり司令部施設の机を両手でバンッと叩いた。



提督「それが嫌なら異動しろ」


大井「な、なんで…!?」


提督「好きな所に行けるようにしてやる。楽な所でも元居た呉鎮守府でも」


大井「…」



話を聞いていた大井が静かになる。


どうしてこんなことをするのかという気持ちが鎮まりこちらを探るよう思考が働き始めたのだろう。



大井「…あんたにとって私は用済みってわけ?」


提督「そんなつもりは無い。10人の提督が居たら10人ともお前を欲しがるに決まってる。俺だってそうだ」


大井「だったら何よ…私のやってきたことに間違いがあるとでも…」


提督「お前のやってきたことは完璧だ」


大井「何よそれ…増々意味わかんない…」




…お前はこちらの想定を超える程に完璧を目指し過ぎたがな。



提督「話は以上だ。今はこれ以上話すつもりは無いしお前を作戦担当から外れてもらうことは変えるつもりは無い」


大井「…」



大井は一度俺を睨みつけてから司令部施設を出て行った。





提督(…これで第一段階だ)




本人がどこまで納得しているかは不明だが大井は作戦担当から外れることを受け入れた。


下手をすれば本当に異動され大きな痛手を伴う可能性があるが、それは俺の招いたことになるのでそうなればこちらは快く受け入れる予定だ。



…まあ、そんな簡単に異動するような奴だったらあんな言い方はしないがな。




提督「さて…」




第二段階に移るため、俺は演習場へと向かった。





【鎮守府内 廊下】





ハチ「あ、あの!提督!」


提督「なんだ?」



演習場へと向かう途中、ハチが俺に声を掛けてきた。



ハチ「わ、私、秘書艦になりたいと思っています!」


提督「…」


ハチ「ど、どうすれば、私を、その…ど、どんなことでもします、ですから…」


提督「…」



ハチがこの鎮守府に来てから良いところばかり見せていたせいか何か勘違いされているらしい。

イムヤには俺の本性を一部見せているから良いものの、ハチにはそういう風には映っていなかったようだな。




…朝雲の時もそうだったがここは現実を見せて突き放すことにした。




提督「お前の気持ちはありがたいが」



言っている途中からハチの顔色が変わる。



提督「俺は秘書艦を代えるつもりはない。この先もずっとな」


ハチ「あ…ぅ…」



俺はハッキリとそう答え、ハチをそのままにしてその場を離れた。









…今後もこの様な状態が続くようなら対応を考えなければならない。
















提督(…)





一瞬




過去にも似たようなことがあったことを思い出す








あの時とは違う





そう自分を言い聞かせながら演習場への足を速めた




【翌日 鎮守府内 演習場】





提督「集まっているな」



予め館内放送でこの時間に呼び出していたので全員が集まっていた。



時津風「あれ?大井さん…」


雪風「初めて鎮守府に来た時の衣裳ですよね?」


大井「…」



大井もちゃんと時間通りに来ていた。


その恰好はこれまでの練習巡洋艦のものではなく、この鎮守府に来た時の軽巡洋艦の衣装になっていた。



提督「それじゃあ今日の訓練内容を説明する」



これなら始められると俺は艦娘達に訓練内容を説明する。




提督「陸奥、霧島、衣笠は機銃と水上偵察機のみ」


陸奥「え?」


霧島「は…?」


衣笠「ど、どういうこと?」



提督「祥鳳、雲龍、天城、葛城は全艦載機の使用禁止、副砲のみ使用可能」


祥鳳「て、提督…?」



提督「水雷戦隊は主砲と魚雷の使用を禁止する」


天龍「な、なんだよそれ…」


風雲「それってどんな意図が…」



提督「潜水艦隊は魚雷の使用を禁止、あと潜航も禁止な」


イムヤ「な、なんで…?」




俺は艦娘達の問いを一切無視して演習場にある椅子に座る。




提督「始めろ」


天龍「始めるったって何を…」


天津風「いきなりそんなこと言われても…」


提督「…」


祥鳳「提督…」


提督「…」




これ以上何も答えるつもりは無いと態度で示す。







さて…どう動くかな?









雲龍「霧島、いい?」


霧島「はい、私もお願いしようと思っていました」



霧島と雲龍はすぐに二人一緒に海へ入った。




…こいつらにはこの訓練は無意味だったかもな。




残った奴らに目をやるとまだ何をして良いのかわかっていない者だらけだった。




衣笠「みんな!とりあえず言われた通りの艤装で訓練するしかないよ!」



そんな奴らに声を掛けて動かしたのは連合艦隊旗艦の陸奥ではなく、水雷戦隊隊長の天龍でもなく、秘書艦の祥鳳でもなく衣笠だった。



衣笠の声に戸惑いながらも全員が艤装を着けてぎこちないまま海へと飛び込んだ。






その後はそれぞれ慣れない艤装での訓練が始まり1時間が経過した。






提督『雲龍、霧島、衣笠。お前らはもう良い。上がれ』



演習場にある放送設備を使って3人を上がらせる。







霧島「もうよろしいのですか?」


提督「ああ。お前らにこの訓練は必要無かったな、いらんことをさせた」


雲龍「そう」


衣笠「いいのかなぁ…」



衣笠が心配そうにまだ訓練をしている艦娘達を見る。


その艦娘達の中にはまだ戸惑い表情をする者も見られた。



提督「後は好きにしていてくれ」


霧島「了解しました。良い機会だから普段使わない艤装を徹底的に磨き上げましょうか」


雲龍「そうね」


衣笠「うん…そうだね、やろう!」



そう言いながら3人は一旦工廠へと引き上げて行った。





自分の強くなることへの執着が強い霧島と雲龍。


戦歴が一番長く周りへの気遣いが良くできている衣笠。



この3人ができて他の者達にはできていないこと。





次に気づくのは誰かな…?





俺は手元にあるスマホを見る。


その画面には演習場の艦娘達の表情が映っており、どのような表情をしているかハッキリと確認できる。




昨日のうちにあらゆる所にカメラを設置して見れるようにしておいたのだった。


潜水艦隊も機銃の訓練をしているため水上に上がっていて普段見れない彼女達の顔を見ることができた。

























提督『祥鳳、天城、上がって良いぞ』




霧島達が上がってから集中力を増した二人を合格させる。

俺がどんな意図を持ってこの訓練を始めたのか理解するのが早かった。



提督「お疲れさん、後は好きにしててくれ」


天城「は、はい…」


祥鳳「はぁ…はぁ…っ、あ、あの…提督…」


提督「祥鳳、この件に関しては一切フォローに回る必要は無いぞ」


祥鳳「え…でも…」



祥鳳が先程衣笠が見せたような心配そうな顔を演習場に送る。


こいつのことだ、こんな理不尽な訓練をさせて俺と艦娘の間に溝ができることを心配しているのだろう。




提督「わかったな、これは命令だぞ」


祥鳳「はい…そこまでおっしゃるのなら…」



念押しするとようやく納得したのか天城と共に工廠の方へと引き上げて行った。


今、あいつに動かれると今後やりにくくなる。

そのため何もしないよう念押しをしておいた。





さて…



スマホの画面から艦娘の表情を伺う。



そろそろ疲れが見え始めた。



こんなわけのわからない訓練をさせられてさぞ不満が溜まっていることだろう。



しかし俺はまだ続ける必要があると思い止めることはしなかった。



























3時間後…





提督『大井、上がれ』



放送を使ってそう言うと大井が不満そうな…いや、屈辱にまみれた顔で引き上げてきた。




提督「思ったより時間掛ったな」


大井「ぐ…!返す言葉も無いわよ…!!」



苛立ちを隠しきれず大きな足音を立てながら大井はそのまま行ってしまった。




どうやら効果はあったようだな。



本来の大井ならば最初の一時間で終えられるはずの訓練だ。


遅くとも祥鳳、天城と共に終わらせるとは思ったのだが…ここまで時間が掛かるとは予定外だった。



それほどあいつが今の立場に浸かってしまっていたことを物語っていた。





しかしこれに気づくことができたのなら、この無意味に見える演習には十分得るものがあった。





再びスマホの画面を見る。



艦娘達の疲れと不満がかなり溜まっていて時々俺に対し苛立ちと怒りの視線を送るようになってきた。






…疲れたのなら休憩すればいいのに。別に禁止していないのだから。




そこに気づくことすらできない奴らを憐れみながら訓練を続けさせた。




























4時間後…




提督(ほう…)




疲れが限界を超え始めて変わり始めた奴らがいる。


潜水艦隊の奴らだった。




前の鎮守府で過酷な状況を強いられ続けたことがここになって活きてきたらしい。


疲れと反比例して集中力が増し、顔つきも変わってきた。




…残念ながら全員ではないが。




提督『イムヤ、イク、ゴーヤ、上がって良いぞ』



いつもと違い海上に顔を出している潜水艦隊に演習終了を告げた。




訓練を終えて戻ってきたというのに3人とも浮かない顔をしている。



イムヤ「ねえ司令官…ハチは…?」


提督「あいつには合格はやれん」


イムヤ「で、でも…」


ゴーヤ「イムヤ…」


イク「だめなのね…」



食い下がろうとするイムヤをゴーヤとイクが引き止め、そのまま離れて行った。



ハチはまだ集中しきれていない。

この状態では訓練を終わらせても意味は無さそうだった。



















その後、5時間、6時間と時間は経過し




提督『終了だ、全員上がれ』



この理不尽ともいえる訓練を終わらせた。







【鎮守府内 演習場】





長時間の訓練で合格を与えられず疲れ切った艦娘達



陸奥


葛城


天龍


親潮 時津風 天津風 雪風


風雲 沖波


ハチ




対照的に途中で合格させた艦娘達



祥鳳 雲龍 天城 


霧島 衣笠


イムヤ イク ゴーヤ



そして大井




全員を演習場出口付近に集合させた。



陸奥「ね、ねえ…提督」



まだ肩で息をしている陸奥が最初に口を開く。



陸奥「この訓練…ど、どんな意味があったの…?」


提督「意味か…」




それを探ろうとしている者が何人もいる。


合格できなかった奴らがそうだ。



しかしそれに自分で気づけなかった奴らに今は何を言っても無駄だ。




提督「あまり意味は無かったな」


葛城「な…」


時津風「なんだよそれ…!」


天龍「おい!説明しろよ!合格の基準って何だったんだよ!」



この状況下でも『何かあったはずだ』と食い下がる。



親潮「し、司令…」


沖波「教えて…下さい…」



それは仕方ない。

これまで行ってきたことは必ず何かしらの意図を持ってやって来たからだ。


テストに必ず答えがあるように

作戦に意図が必ずあるように


しかし今日行った訓練の答えはとても曖昧なもので説明のしようもないし合格の基準も俺が勝手に決めたものだ。



提督「合格した奴は不合格の奴らに教えるのは禁止だぞ」


イムヤ「な…」


祥鳳「提督…」


提督「わかったな、これは命令だ。勝手なことをした奴は鎮守府から追い出すぞ」


陸奥「ちょ、ちょっと、話はまだ…!」


提督「解散」



俺は騒がしくなってきた艦娘達を突き放すようにしてその場を離れた。












それにしても…





提督(参ったな…)




想像以上に合格を上げられる者が少なかった。



大井のことや潜水艦隊の3人は収穫だったが、水雷戦隊の誰も合格できなかったのは今後の大規模作戦に大きく影響してしまう。




提督(仕方ないか…)




それがこれまで大井の作ったぬるま湯に浸かっていた俺やあいつらの現状だ。


今できることをして可能な限り万全な状態で大規模作戦に臨まなければならない。







俺は執務室へ歩きながら



残りの作戦開始までの数日



艦娘達に理不尽とも思える訓練を課すことを決意した











その結果が



ガラスに少しずつ傷を作り













亀裂を拡げてしまうことに気づけないまま…
















「最低な対応と崩壊するガラス」







【鎮守府内 演習場】





大井「…」



提督から作戦担当を外された大井は時間を持て余してか演習場を訪れた。


まだ昼間の訓練の疲れが残っている。


いくら慣れない艤装を使っての訓練とは言え、以前ならばこれほどまでに疲れることはなかった。



雲龍「あら…珍しいわね」



演習場を見ていると雲龍が声を掛けてきた。


雲龍は艤装を着けたままでこれから訓練を行うらしい。



大井「自主訓練?」


雲龍「そんなところ、あなたは?」


大井「私は…」




何をしにきたのかハッキリとは言えなかった。


以前は親潮の訓練に付き合ったりもしたが彼女も一定の練度に達し自分の手を離れていた。



大井「ねえ雲龍」


雲龍「なに?」


大井「私って…弱くなったかしら…?」


雲龍「…」



真剣な大井の問いに雲龍は足を止めてしっかりと大井を見た。



雲龍「ここに来たばかりのあなたはギラギラしてて…触れるとすぐに噛みつかれそうな獣みたいで…とても勝てる気がしなかったけど」


大井「…」


雲龍「今のあなたには負ける気はしないわ」


大井「そう…」



ハッキリと雲龍に言われ大井は少し顔を俯かせた後、頬を叩いて顔を上げた。



大井「ありがとね」



礼を言った大井の視線は雲龍を挑戦的な目で見ていた。



雲龍「ふふっ…」



その目は以前の大井を取り戻しつつあると雲龍は少し楽しみになった。







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【鎮守府内 工廠】





深夜2時。



理不尽な訓練を開始すべく工廠にある館内警報装置に近づく。




そのスイッチを押すとけたたましいサイレンが鎮守府中に鳴り響いた。







提督『緊急招集、全艦娘は工廠に集合しろ』






そして館内放送で全艦娘を呼び出した。



















親潮「司令!お待たせしましたっ!!」


提督「お…」



一番に駆けつけたのは親潮だった。

この深夜に強制的に起こされたにも拘らずしっかりとした強い瞳を持っていた。



提督「…早いな」


親潮「はい!ありがとうございます!」




親潮の到着から少しするとぞろぞろと他の艦娘達が集まってきた。












祥鳳に点呼をさせて全員が揃ったことを確認する。




提督「お疲れさん、訓練は終了だ。解散してくれ」


天龍「は…?」


時津風「訓練…?」



訓練だと聞かされて艦娘達が呆気に取られる。



陸奥「訓練って…こんな緊急招集掛けて…」


提督「訓練だって言ったら気が抜けるだろ」


葛城「だからって…!」


提督「解散」


風雲「なによ…もう…」





不満そうな顔をして艦娘達は引き上げて行った。



祥鳳「あの…」


提督「何してる、さっさと部屋に帰れ」


祥鳳「はい…」



近々行われる大規模作戦。


そして今後のことを考えてある程度艦娘を選抜し、現在の状況を見極めなければならない。




そのためには…































1時間が経過した。



深夜3時、艦娘達はそろそろ眠ったことだろう。





俺はもう一度工廠にある警報装置のボタンを押す。








提督『緊急招集、全艦娘は工廠に集合しろ』





そしてもう一度全艦娘を呼び出した。










親潮「司令!親潮、参りました!!」


提督「…」




先程と同様に一番乗りしたのは親潮だった。




提督「お前早いな」


親潮「ありがとうございます!」






そして親潮が来て数分後、全員が集合した。



せっかく眠りについたというのに2度も叩き起こされて不機嫌そうな目を向ける者が多かった。



天龍「おい…まさか…」


提督「さっきよりは早かったな、良い訓練だった」


陸奥「もう…なによ!」


提督「そんな顔するな。今日の午前中は休みにしておいてやる」


風雲「偉そうに…!」


時津風「やってらんないよ!」



俺に悪態をついて全員がその場を離れようとする。




提督「親潮」


親潮「は、はい!」


提督「お前は少し残れ」







天津風「…」













全員が離れた後、工廠は俺と親潮の二人きりになる。





親潮「し、司令…?私なにか不手際を…?」


提督「呼び出しが掛かった時、何を考えていた?」


親潮「え…?えっと…」



親潮は少し思い出すような仕草をして静かになる。



親潮「特に…何も…。緊急招集が掛かったのなら考える必要も無く来るのは当然だと…」


提督「ふむ」


親潮「それが…なにか?」


提督「合格だ」


親潮「え…?」



緊急招集が掛かったら集まる、そんなことは当然だと親潮はハッキリと言い切った。


こいつらしいクソ真面目なところが垣間見える。


少し甘いが今回は合格を与えることにした。



提督「その感じだ。作戦海域に出たときも同じだぞ」


親潮「え…あっ!」



親潮は俺が与えたヒントから答えを導き出したらしい。



親潮「わかりました司令!親潮、これからも精進します!」


提督「ああ、せいぜい頑張れ」




親潮は嬉しそうな顔で敬礼して工廠から走り去って行った。







提督(あともう一人か二人か…)





一人はもう既に俺が何を求めているのか答えが出かかっているように見えた。


先程集まった時もどこか冷静そうな顔を見せていた。

あの調子なら今日の訓練中には合格を与えてやれそうだ。





提督「さて…」




中途半端な時間になってしまい、もうこのまま仕事に移ろうと思い執務室へと足を進めた。





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親潮(やった…!)





嬉しさを噛み殺すことも難しく親潮はこれまでにない程に上機嫌で部屋へと戻ろうとしていた。




親潮(黒潮さん…!見ててくれましたか…!?)



自分のやっていること、その姿勢が提督から認められたことは親潮にとって最大級の喜びとなった。


その証拠に以前は考えるだけでも暗い気持ちになった黒潮のことを想うことができる程に喜んでいた。







ハチ「あ…あの…」


親潮「はい?」




そんな喜ぶ親潮の所へハチがやってくる。



ハチ「どうして…合格できたのですか?」


親潮「え…」


ハチ「教えて…頂けませんでしょうか…」


親潮「は、ハチさん…」


ハチ「お願い…します…」



ハチの尋常じゃない様子に親潮は一旦は考えたが



親潮「申し訳ありません、司令には昼間教えるなと言われていましたのでお話するわけにはいきません」



真面目な親潮はしっかりと提督に言われたことを守りハチからのお願いをきっぱりと断った。



ハチ「あ、あの…」


イムヤ「ハチ、よしなさいよ」


ゴーヤ「ずるしちゃダメでち…」


イク「提督に知られたら大変なことになるのね…」


ハチ「…」


イムヤ「ごめんね親潮」


親潮「いえ、失礼します」




そこへイムヤとゴーヤ、イクが止めに入ってくれたため親潮はその場を離れることができた。





ハチ「…」


イムヤ「ハチ…」




後に残されたのは元気が無く、暗い顔で俯くハチと仲間達だけだった。







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【鎮守府内 演習場】






今日の深夜に2度も緊急招集をしたせいか演習場の艦娘達の中で動きの鈍い者がいる。


特に咎める気は無いが、この程度の揺さぶりで集中力が乱れるようでは先が思いやられる。




ちなみに今行っている訓練は…




天龍「うおぉ!?また来た!!」


葛城「て、敵機発見!迎撃を開始するわ!」



通常の訓練中、無作為に艦載機との対応をさせる訓練だ。

まだ合格を与えられていない者達を中心に訓練をさせている。


祥鳳、雲龍、天城を離れた位置に配置していきなり艦載機を発艦させ迎撃させるというものだ。



訓練中の艦娘達にこの内容は一切伝えていないため、彼女達にとっては予想外の強襲となんら変わりは無い。


さあ、この揺さぶりはまだまだ続くぞ。



提督『俺は寝るぞ、後は頑張れ』



俺は演習場にあるベンチで横になる。



天龍「はぁ!?」


時津風「ちょっとしれー!ふざけるなよ!」


風雲「真面目にやりなさいよ!」



海から艦娘達の怒りの声が響いた。

そんな声を完全に無視して俺は背を向けたままスマホを見る。


そこには演習場にあるカメラを通して彼女達の顔がハッキリと見て取れた。





提督「ほう…」




どうやら新たな合格者が出ることになりそうだな。





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天津風「…」




最初に合格したのは雲龍さん、霧島さん、衣笠さん。


雲龍さんと霧島さんの共通点は簡単にわかるけど…そこに衣笠さんが含まれた。


そのため頭で考えることが優先してしまい何を以って合格とするのかわからなかった。



その後は祥鳳さん、天城さん、大井さんと続き、潜水艦隊からはイムヤ、イク、ゴーヤが合格した。




使い慣れていない艤装での訓練で最後まで戸惑いっぱなしだったからあの6時間の訓練ではわからなかったけど…





深夜にあった2度の緊急招集訓練で親潮が合格を与えられた。


その時に『もしかして合格の基準は…』と仮定することができた。




あの人は無駄なことはしない。


この訓練もただの嫌がらせに見えて何かの意図がある。


ベンチに横になっているけどきっと私達のことを見ている。


これまでのことを総括して彼が何を求めているのかを導く。





その答えは…




陸奥「あ、新たな艦載機…!」


風雲「反対…後方からも!」


時津風「え、えっと…どっちから…」


天津風「私が後方に行くわ!」


天龍「そ、それじゃあ俺は…」




私は迷いを捨てて後方から迫る艦載機に対峙した。


集中力を高めただひたすらに目の前の艦載機を撃墜することを繰り返していくと自然と身体が動くようになり撃墜率も上がるようになった。


















演習終了後、提督の所に私達は集まった。



提督「お疲れさん、これで大規模作戦前の演習は終わりだ」


沖波「え…」


陸奥「ちょっと待ってよ…!まだ作戦まで日にちが…」


提督「合格者を発表する」



提督の言葉にみんなが静まり返る。



提督「天津風」


天津風「…」




内心ホッとすると同時に胸に少しだけ昂りを感じた。


自分の予想が的中し、思い通りに事が運んだことへの高揚感かもしれない。



提督「それと雪風」


雪風「は、はい!」




そういえば雪風も今日の訓練中はとても集中できていた。


やっぱり提督は見ていない様でしっかりと見ていたようね。



提督「合格できなかった奴らはこの後の大規模作戦に出番は無い」


葛城「ぐ…」


陸奥「結局…合格の基準って何なのよ…」


提督「自分で考えて答えを導き出せ。それがお前らへの課題だ」



まるで突き放すような言い方にみんなは顔をしかめたけど…


これは必要なことなのだとしっかりと理解することができた。
















提督「どうした天津風」


天津風「…」


祥鳳「天津風さん…?」



皆が提督の傍を離れた後、私はこの場に残った。



天津風「あなたが見てたのは緊急時における対応力で良いのかしら?そのために色んな理不尽な訓練をさせて集中できるかを試した、どう?」



私はハッキリとした答えを得るために提督に問い掛けた。



提督「半分正解」


天津風「半分…?」


祥鳳「半分なのですか…?」



私だけじゃなく祥鳳さんも驚いてる。


それは祥鳳さんも私と同じ答えだったということがわかった。



提督「まあ…今は良いさ、半分で。今回の大規模作戦を乗り切るには十分だ」


天津風「残りの半分って何なのよ」


提督「いずれわかる」


天津風「そう…」



これ以上話す気は無いと提督が態度で表したため私はこれ以上追及することなく工廠を離れた。








半分…




提督は今後のことを考えて今回のようなことを行った。





もう半分は…もっと先のことを考えているというの?







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祥鳳「…」



提督が艦隊のことを考えてやっていることはわかっています。


でも…それでも少し突き放し過ぎなのではと思っています。




今朝の空気はいつもと違っていました。


ピリピリしながらもやっていられないという呆れ等が混ざった不穏な空気。




こんな状態では…せっかく築き上げてきたものが…



提督「そんな顔するな」


祥鳳「あ…」



考えが顔に出ていたみたいです。



提督「大規模作戦が終わったらしっかりと話すさ」


祥鳳「そう…ですか…」



いけない…


私がこんなことでは…



何があっても信じて支えることを誓ったのですから、この程度で揺らいでいてはダメですね。



祥鳳「その時は言い方に気を付けて下さいね?」


提督「善処する」


祥鳳「もう…」



いつもの軽口をたたいて私達は執務室へと向かいました。





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【鎮守府内 演習場】




大井「ぐ…ちくしょう…!!」



海上にはまだまだたくさんの標的が残っている。


大井が一斉に撃破しようとしたのだが彼女の魚雷は的を外していた。




大井(こんなにも…衰えていたなんて…!)



憎々しい目で標的を睨みつけて再び一斉に魚雷を発射する。


その標的の上部には白い紙が貼られていて『バカ提督』と書かれていた。



大井「こんなんじゃ…足を引っ張るだけだ…」



大井は呼吸を整え再び海上に標的を並べ始める。




大井「今に見てなさいよ…!あのクソバカ提督!!」




今、大井の根幹を支えているのは提督と自分に対する怒り。


それを隠すことなく怒りのままに身を任せ、大井の訓練は日付が変わるころまで続けられた。









これまでの作戦を考えての徹夜と違い、とても心地良い疲労を感じられたのは彼女が演習場の岸で眠りについたころだった。





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【前線基地 会議室】





前回と同じく前線基地に集まった提督はクソ…じゃなくて九草、白友、そして呉提督だった。


今回も4提督による合同作戦で俺はまた前段作戦を任された。



しかしその前段作戦で組むのは…



九草「宜しくお願い致します、佐世保の提督殿」


提督「…」



この九草だった。

西と東、両面同時に攻略を開始するというもので俺は東を、こいつは西の攻略を命じられていた。



提督「足引っ張んなよ」



俺は九草の差し出した手を無視してその場を離れた。



よりによってこいつと組むのか…


変なところで足を引っ張られないか少し注意しなければならないな。






【前線基地 会議室】




提督「…以上が今回の作戦内容だ。出撃メンバーは渡した書類に載っている通りで行く」



作戦開始を目前に控え、最終確認のために全員を集め会議を行った。


以前のような和やかな空気は消え、会議室の空気は常に張りつめたままだ。



イムヤ「司令官…」


提督「なんだ」



そんな中、イムヤがゆっくりと手を上げる。


何を言いたいか顔を見ればすぐに分かった。



イムヤ「遊撃部隊として潜水艦隊が出るのは良いんだけど…」



イムヤの視線がハチに送られる。



イムヤ「3人だけ…?ハチは…」


提督「今回出撃させることはできない」


ハチ「…」



俺の言葉にイムヤとハチが顔を暗くする。



ゴーヤ「で、でも、ゴーヤ達はずっと4人で訓練してて…」


イク「ハチがいてくれないとしっかりとした陣形が組めないのね」


提督「決定に変更は無い、今回の作戦なら3人でも十分だ。違うか?」


ゴーヤ「…」


イク「でも…」


提督「以上だ、さっさと準備に移れ」




助け舟を出そうとするゴーヤとイクを無視して俺は立ち上がり会議室を出た。




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葛城「何よ…あんな言い方しなくたって…!」


風雲「少しはハチの気持ちを考えなさいよね!」


時津風「ハチ、気にしなくて良いからねー、最近のしれー、どっかおかしいから」


天龍「ほんと、最近何考えてんのかわかんねぇよ…」


祥鳳「…」



提督が会議室から出ると不満が漏れ聞こえてきました。


主に不満を言っているのは今回の出撃メンバーから外された人達。



ここに来て出撃メンバーとそうでない方達のモチベーションの差が出てきたのかもしれません。




天城(止めなくてよろしいのですか…?)



そんな中、天城さんが小声で囁いてくれます。


きっと私の心配事が顔に出ていたからでしょう。



祥鳳(提督からは…絶対にフォローするなと言われていまして…)


天城(そうですか…)



先程の提督の胸ポケットにペンが差さっていませんでした。


やはりこの状態を維持しておけということです。



霧島「それじゃ私は準備がありますので」


雲龍「私も、お先に失礼するわ」


陸奥「ちょ、ちょっと…!」


葛城「雲龍姉…!」



霧島さんや雲龍さんは動じることなく会議室を出て行きました。



親潮「私も…失礼します!」


衣笠「ごめんね…」


時津風「な…待ってよ!」




それに続き出撃メンバーは会議室を出て準備に向かって行きます。









なんだか提督を中心としたこの艦娘達が真っ二つに割れてしまったようで…




とても胸が苦しくなりました。






祥鳳(提督…)






あなたはこの先に何を見ているのですか…?





今はその答えを導き出すことはできず、心苦しいまま大規模作戦に臨むことになりました。






____________________




【前線基地 司令部施設】





作戦開始を翌日に迎えた夜。


最終チェックのため俺は司令部施設にて海域と作戦内容を確認していた。




イムヤ「司令官…」



イムヤの声とノック音がした。



その沈みがちな声に内容も何が言いたいかもわかっているが一応ドアを開ける。



イムヤ「お願い…ハチを一緒に出撃させて…」


提督「だから…」


イムヤ「ハチが…!司令官に何を言ったかわかってる!司令官がそれを受け入れないのも知ってる!」



一瞬何のことかと思ったが先日ハチが俺に秘書艦になりたいことを言ったのを知っているようだ。



イムヤ「でも…これ以上追い詰めないで…司令官のことが好きなハチがこれ以上突き放されたら、もう立ち直れなくなっちゃうよ…」


提督「…」





正直その事と今回出撃メンバーから外したのは別の問題なのだが…イムヤにはそう映っていないらしい。



イムヤ「お願い…」


提督「…」






『それでも決定は変える気は無い』




そう冷たく突き放してやろうと思った









…その時だった



























『あなたのこれからの無事を祈って作ったの。受け取ってくれる…司令官?』
















脳裏に彼女の姿が過った。






イムヤ「司令官…?」




その間、黙ってしまっていたようでイムヤが心配そうな顔でこちらを見ていた。



俺は深いため息を吐いてそれを見返す。




提督「…今回だけだ」


イムヤ「し、司令官!本当!?」


提督「ハチを呼んで来い」


イムヤ「うん!わかったっ!!」



イムヤは嬉しそうな笑顔を見せて司令部施設を飛び出していった。





俺は司令部施設に持ってきていたカバンから文庫本を取り出す。











ハチ「て、提督…」



少しするとハチが恐る恐る顔を覗かせた。



提督「ハチ」


ハチ「は、はい…」


提督「ほれ」


ハチ「…!?」



俺がハチの帽子の上に本を置くと一瞬身体を竦めたハチがそれを手に取る。



ハチ「本…?」



文庫本にはカバーがしてあり中身がわからないようになっている。



提督「作戦を終えたら読んで良いぞ」


ハチ「提督…」



本を手に取ったハチが状況を読めないようで固まっている。

もう一押ししておくか…



提督「ハチ、俺の視界に入りたければ結果を出せ」


ハチ「え…」


提督「明日、潜水艦隊として出撃しろ」


ハチ「ダ、ダンケ!」





ハチは花が咲いたような笑顔で敬礼をして司令部施設から走り去っていった。







提督「…」








結局…こんな大事な時に甘さが出てしまった。







提督「本当に…これで良いのかよ…」















如月…













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【前線基地 食堂】





時津風「おはよー」


沖波「おはようございます」


陸奥「おはよ…」



前線基地にある食堂に艦娘達が集まる。



集まったのは今回出撃できなかったメンバーで出撃するメンバーは既に食事を済ませこの場にはいなかった。



葛城「なんかハチが出撃する事になったみたいよ?」


天龍「本当か?」


葛城「ええ。さっきここで入れ違いしたんだけど4人でやる気に満ちていたわ」


陸奥「そっ…か…」


沖波「陸奥さん…」




陸奥は今回初めて大規模作戦での旗艦を外され一番落ち込んでいる。


これまでずっと旗艦を任されていただけにそのショックは大きかったらしい。



天龍「そんな顔すんなよ、次は絶対見返してやろうぜ!俺だってこのまま黙っているつもりは無いぜ!」


風雲「そうよ!そのためにはまず課題をクリアしないとね!」


時津風「課題かぁ…結局しれーの求めていたものってなんだったんだろうね…」



暗い雰囲気にならないよう艦娘達は何とか明るくしようとしていた。







そこへ…







霞「ねえ、聞いた?今回の大規模作戦の戦果ってこれまでで一番大きいものになるらしいわね」


曙「だからうちの提督もあんなに焦ってるのね。お互い睨み合ってるって話だし」





隣の席から大湊鎮守府、九草提督の艦娘達の声が聞こえてきた。



霞「メンバー選びもなりふり構わずって感じだったし…」


曙「みんな大丈夫かな…無理してなきゃいいけど…」








その会話は…





時津風「…」


陸奥「…」


天龍「…」



その場に居る艦娘達の耳に届き不安を与えた。




風雲「ハチさん…大丈夫かな…いきなり出撃なんて言われて…」


沖波「だ、大丈夫ですよ、司令官はそんな無茶な起用はしませんって!」



第二秘書艦でもある沖波がすぐさまフォローを入れる。



葛城「今回の大規模作戦、そういうことだったのかな…」


天龍「あまり考えたくはないけどよ…」


陸奥「戦果重視のために…私は…」


沖波「ちょ、ちょっと待って下さい…!大丈夫です…から…みなさん…!」



沖波が何とか空気を変えようとするが彼女一人ではどうにもならなかった。




沖波「今回の作戦中…大井さんが司令官と一緒に居ます…!だから…!その…」




その後も沖波は皆を元気づけようとしたがその空気は変わることは無く、虚しく空回りするしかなかった。







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霞「…」


曙「…」




隣に居た別の鎮守府の艦娘達の空気が悪くなったのを確認して二人は席を立った。





彼女達は九草提督から『出撃から外された艦娘達の空気を悪くしろ』と命令され実行した。



霞「ごめんなさい…」


曙「こうしないと…私達は…」



事は九草提督の言った通りに運んだが…その後味は苦いものだった。










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【前線基地 司令部施設】




霧島『司令、道中を塞ぐ深海棲艦を撃沈しました。後は敵主力を残すのみです』


提督「少し待機しててくれ、潜水艦隊が邪魔になりそうな部隊を蹴散らしたら連絡する」


霧島『了解しました』



霧島からの通信で提督は主力部隊の作戦が順調なことを確認した。



提督「大井、そっちは?」


大井「こっちも主力前の深海棲艦と交戦中よ」



提督は大井に潜水艦隊との通信を任せている。



2部隊同時出撃による海域攻略のため、提督は出撃中の祥鳳に代わり今回は大井を司令部施設に同席させた。



彼女が出撃メンバー発表の前に『まだ実力不足だから外して』と言って来たからだ。



プライドの高い大井がそんなことを言ったからには提督も聞き入れるしかなかった。



その大井の態度は今後重雷装巡洋艦として復帰するかもしれないというものが垣間見えたからだ。





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イムヤ「この…当たれっ!!」



イムヤ旗艦の潜水艦隊は深海棲艦に向けて魚雷を一斉に発射した。



イムヤ「まずい…!みんな避けて!!」




しかし魚雷は敵を全て撃沈するには至らず…




ハチ「きゃぁぁ!!」


ゴーヤ「ハチ!!」



逆に深海棲艦から投射された爆雷を避けきれずハチが被弾してしまった。



イク「このぉぉ!!」



ハチの前に出てイクが再び魚雷を発射し残った深海棲艦を沈めた。




イムヤ「ハチ!大丈夫!?」


ハチ「大丈夫…です…!」



イムヤの声にハチが手を上げながら応える。




イムヤ(えっと…)




損傷の分かり辛い潜水艦達は自分の損傷状況を分かり易く伝えるため右手でサインを送り合うことを決めていた。



イムヤ(中破…ね)



そしてイムヤはハチのサインを受け取り被害状況を把握した。




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イムヤ『こちらイムヤです、主力前の深海棲艦を撃沈しましたが…』


大井「どうしたの?」


イムヤ『ハチが被弾し中破状態です、進軍か撤退かの判断をお願いします』


大井「…」



イムヤからの通信を受け大井は提督に判断を仰ごうと隣で通信を聞いていた提督に視線を送る。




提督「…仕切り直す、撤退しろ」


大井「良いの?ハチは中破でまだ戦えそうだし…敵主力艦隊には基地航空隊も送っているわよ?」


提督「念には念を入れたくてな」


大井「そう…」


提督「イムヤ、撤退だ」


イムヤ『了解!』




被弾した艦娘、ハチに対し思うところがあり、提督は潜水艦隊に撤退を指示した。











撤退を




指示してしまった。





それが今のハチにとっての大きな逆効果と気づくことができずに…







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イムヤ「みんな、帰投命令よ。仕切り直しだって」




提督からの通信を受け取りイムヤは3人に撤退を伝えた。



『いつもの提督なら』『いつもの作戦だったら進軍を指示していた』と3人とも考えたが、ここ数日のハチのことを考えるとイムヤもゴーヤもイクも撤退指示に対し大人しく従うことにした。




ハチ「…」



しかし…




ハチ「…」




撤退指示を受け取ったにも拘らず、ハチは撤退経路とは逆の方向へと進み始めてしまった。





イムヤ「…え!?」


イク「ハチ!?」


ゴーヤ「何してるでちか!?」



撤退体制を取りかけていた3人にとってハチの行動は意外過ぎて出遅れてしまった。















ハチ「や…だ…」










嫌だ…










期待を…裏切りたくない…!












提督から与えられたチャンス


プレゼント


激励の言葉




それらは一時的にハチの心を軽くし、高揚感を与えた





しかし期待に応えたいという感情は




裏側に期待を裏切りたくないという感情が隠れている






元々精神状態に不安定だったハチは






これ以上提督に迷惑を掛けたくない




見放されたくない




嫌われたくない





そのような感情が表れ優先されてしまい







イムヤ「待ってよハチィィィッ!!」





一人、敵主力へと向かってしまったのだった














この先の主力には6隻の深海棲艦



その内訳は戦艦2隻、重巡2隻、軽巡1隻に駆逐艦が1隻





潜水艦が天敵とするのは2隻のみ




それに基地航空隊を向かわせていることは知っている






期待を裏切りたくないというハチの気持ち




そしてこの状態でも何とかなるという油断







それらがハチの暴走を招いてしまったのかもしれない














イムヤ「間に合え…!!」





敵深海棲艦がソナーを使い始めるのがわかる。


赤いオーラを纏った軽巡ツ級は私達にとって脅威で危険過ぎる相手だ。



絶対に先制攻撃で撃沈しなければならない…!




上空から基地航空隊が接近し攻撃を開始する。




イムヤ「そんな…!!」



基地航空隊は大量に撃墜され、その攻撃は的を外す。




イク「当たれぇぇ!」


ゴーヤ「喰らうでち!」



ならばと一斉に魚雷を放つが…



イムヤ「嘘…!?」



魚雷は壁となった駆逐艦のみに当たり軽巡ツ級を沈めることができなかった。





隊列が乱れ、先行してしまったハチはソナーに捕まり



イムヤ「ハチ!」


イク「危ないのね!!」








ハチ「…!?」






爆雷攻撃をまともに受けてしまった。





イムヤ(早く引き揚げさせないと…!)



今の攻撃でハチは間違いなく大破状態に陥った。


これ以上攻撃を受けたら…


































イムヤ「え…」

























見間違いであって欲しかった。




しかしすぐに目の前の現実を受け止めなければならない。















ハチは…



海上に向かって弱々しく手を伸ばしたまま














沈み始めた


















主力艦隊との戦闘前の損傷







ハチは大破状態にあったにも係わらず





自らの損傷を誤魔化していた










大破状態で軽巡ツ級の爆雷を浴びたハチの艤装は完全に壊れ






加護が消えて全く機能しなくなり





ハチの身体を沈め始めた




















イムヤ「ハチイイィィィィィ!!!」




私は全速力でハチを追い掛ける。




嘘…



嘘よ…



何でよ…!



手を伸ばしても



全速力で追い掛けても



沈んでいくハチに追いつくことはできなかった








やがて私の艤装がバキバキと音を立て始める




あまりの深さに艤装が耐え切れなくなってしまったのだ




しかし少しでも躊躇するとハチとの距離が離されてしまう






私は死を覚悟してでもハチを捕まえようとしたのだけど…




ゴーヤ「これ以上はダメでち!」


イク「イムヤまで死んじゃうのね!!」


イムヤ「は、離して!!ハチが!ハチがぁぁぁ!!!」



同じように追い掛けてきたゴーヤとイクに掴まれ、私は上に戻される。





イムヤ「ハチィィ!いや、いやだあぁぁぁ!うわあああああああああぁぁぁぁ!」








私達の目の前で





ハチは深海の奥深くへ





沈んでいった…

















その後






どういうわけかケッコンカッコカリの指輪だけが






ゆっくりと浮上してきた




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【前線基地 工廠】




大井「遅いわね…」


提督「ああ、遅いな」




撤退命令をしたはずなのに潜水艦隊が一向に帰投してこない。




既に霧島率いる主力部隊にも帰投を命じていて出撃した距離から言えば潜水艦隊が先に帰投するはずだった。








大井「あ!戻って…」



そこへようやく潜水艦隊が戻ってきた。




イムヤ「うっぐ…ぐすっ…」


イク「うっぅ…うぁぁぁ…」


ゴーヤ「えっぐ…うっ…ぁ…」




戻ってきたのは3人だけで



3人とも泣きじゃくっている。







大井「ちょ…っと…」


提督「…」





その姿だけで何があったか嫌でも察しがついてしまう。




イムヤ「は…ハチ…が…」


提督「どういうことだ、撤退を指示したはずだぞ」


イク「うっ…く…ほんとは…大破してて…」


大井「な…!?」


ゴーヤ「ハチ…そのまま…敵主力と…」


大井「ちょっと待って!?撤退指示を無視したっての!?」


イムヤ「うっぐ…ひっく…」



イムヤが泣きながらゆっくりと頷く。





提督「…」





提督は天を仰ぎゆっくりと深いため息をする。






提督「そうか…」




そしてイムヤに近づき肩に手を置く。





提督「お疲れさん」



その一言だけ言ってその場を離れようとした。






イムヤ「ちょっと…!」



その態度が気に入らないのかイムヤが提督を後ろから掴む。



イムヤ「それだけなの…!?ハチが…ハチが沈んじゃったんだよ!他に言うことは無いの!?ねえ!!」


提督「特に無いが?」


イムヤ「え…」



泣いて突っかかるイムヤに対し提督の対応はとても冷たい。



大井「ちょっと!そんな言い方!」


提督「俺が何かミスしたか?」


イムヤ「そ、そういうことを言っているんじゃないわよ!なんで…!」


提督「それとも俺がハチを精神的に引っ掻き回したせいで沈んだと責めているのか?」


イムヤ「違う!違うわよぉ!!なんでそんな言い方するのよぉぉ!!」





バチンッ!と工廠に鈍い音が響く。




イムヤが平手で提督の頬を叩いたのだ。


その威力に提督はその場に尻もちをついてしまう。



提督「…」


イムヤ「なんで…なんであんたなんか…!少しくらい、少しくらいハチのことを想ってあげてよ!少しくらい悲しんでよぉっ!!!」



大きな声で泣きながらイムヤは去り際に何かを提督に投げつけた。




去って行ったイムヤをゴーヤとイクがよろよろと追いかけて行った。









大井「…」




イムヤが提督に投げつけたものを大井が拾う。








ハチが身につけていたケッコンカッコカリの指輪だった。





大井「あんたに非が無いことはわかってるけど…」




大井はその指輪を提督に渡し






大井「あの子達に対して最低な対応だったわ…!」






その場をゆっくりと立ち去ってしまった。























提督「…」









後に残された提督は





その指輪をしばらくの間見つめていた













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基地航空隊とみんなの魚雷が外れ







軽巡ツ級のソナーに捕まり






爆雷が自分に迫った時…






あれだけみんなで本当のことを伝えると約束した





損傷状態の誤魔化し





それに対する罰なのだと悟った













艤装が壊れ





身体が沈み始めた時








真っ先に浮かんだのは仲間達への謝罪





そして…







『提督…』






どんな本をくれたのだろう…






帰りたい…






早く帰って読んでみたい…








そんな気持ちが湧いてきて






ゆっくりと手を海上に伸ばしながら















意識を永遠の闇へと閉ざしてしまった

















【前線基地 工廠】




祥鳳「うそ…」




何かの聞き間違いであって欲しかった。



親潮「轟沈…」


天津風「なんでそんなことに…!」



出撃から戻って早々に提督から聞かされたのはハチさんが轟沈したということでした。



提督「…というわけで作戦は中止となった」


霧島「中止…?」


提督「ああ、中止だ。わかったな」


祥鳳「て、提督…!」



それだけ言うと提督はその場から去ってしまいます。


私はそれを追い掛けて提督の袖を掴まえます。



祥鳳「イムヤさん達は…」


提督「さあな」



提督はこちらを見ようとせずそのまま行こうとしていました。


突き放すような言い方に違和感を覚えます。




おかしい…



提督ならばこんな状況になってもすぐに対応に動くはずなのにその素振りを一切見せません。




提督「祥鳳、お前は何もするな」


祥鳳「え…」


提督「わかったな、これも命令だぞ」



提督の言葉に私は掴んでいた袖を放してしまい、その後ろを追い掛けることをできませんでした。




祥鳳「どうして…」



提督…


どうしてですか…



どうして皆さんの様子を見て来いって言ってくれないのですか…



どうしてフォローしろってサインをくれないのですか…!





ハチさんを喪ったという現実が次第に重くのしかかり




私はその場に涙を零してしまいました。






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【前線基地 司令部施設】




九草「それは本当か!?」



九草にも提督が轟沈させてしまった事が部下から伝えられる。



九草「そうか、くくっふふ、あはははははは!」



その報せを聞いた九草は作戦中だというのに大きな声で笑い始めた。



九草「馬鹿め!間抜けが!自ら墓穴を掘りやがったな!これで計画を一つも二つも早められそうだ、あはははははは!」



耳障りな九草の笑いはいつまでも司令部施設に響き続けた。







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【大型船】






轟沈したハチの葬儀のため、全員が船の甲板にて神妙な面持ちで集まった。






祥鳳「ハチさん…どうか…安らかな眠りを…」





艦娘を代表して秘書艦の祥鳳が祈りの言葉を声を震わせながら振り絞る。




黙とうが始まると艦娘達のすすり泣く声が聞こえてきた。





イムヤ「っ…ぅっぐ…」


ゴーヤ「ひっく…は…ハチィ…」


イク「いや…なの…えぐっ…」




姉妹艦の潜水艦達は葬儀の前からもずっと泣き続けていた。





祥鳳「花を…」




泣いているイムヤに祥鳳が花を持たせる。



最後にこれを海に投げることで葬儀の締めくくりとなる。





イムヤ「さよ…なら…」




そしてイムヤが海に花を投げ、それが海上に浮かぶと





イムヤ「うっぐ、うわああぁぁぁぁ!!あああああああああああああああああああああああああああああ!ハチィィィ!なんで!なんでよおおぉぉぉぉ!!!」




イムヤは大きな声を上げて泣き始めた。



その声につられゴーヤとイクも声を上げて泣き始め、周りの艦娘達も嗚咽を漏らし始めた。













大型船の甲板の上で




波の音よりも大きな泣き声がしばらくの間響き続けた














提督「…」






提督はその様子を




静かな瞳で見ているだけで




誰かに近づこうとも




声を掛けようともしなかった







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祥鳳「ふう…」




葬儀を終え、後片づけがひと段落すると深いため息が自然と出ました。



大井「これはこっちで良いかしら?」


祥鳳「あ、はい…」



片づけは天城さん、沖波さん、大井さんと衣笠さん、そして親潮さんが手伝ってくれていました。



大井「いつかは…こういうことがあるとは思っていたけど…」


祥鳳「…」



大井さんは悔しそうに顔をしかめています。


ご自分が教えてきた潜水艦隊にこういう事が起こってしまって悔しさがあるのでしょうか。



大井「改めて思わされたわ…私達は…常に死と隣り合わせなんだって…」


祥鳳「はい…」





指示ひとつ、気持ちひとつの間違いで命を落とす。


そんな戦いに身を置いているのだと思い、気持ちが暗くなってしまいそうです。



衣笠「イムヤ達…大丈夫かな…」


沖波「心配ですよね…」



姉妹艦であるハチさんを喪ったイムヤさん達は計り知れない悲しさの中にいるでしょう。


立ち直ってくれるのでしょうか…。




親潮「大丈夫だと…思います」


大井「親潮…?」



暗い雰囲気の私達の中で顔を上げているのは親潮さんでした。



親潮「潜水艦隊の皆さんは葬儀に出席されました。ハチさんの死をしっかりと受け入れています」



そう…親潮さんも姉妹艦を喪ったことがありましたね…。



親潮「既に次への一歩目を歩み始めていると思います」


衣笠「そっか…うん、そうだよね」



その親潮さんの言葉に私達も少し気持ちが軽くなり、顔を上げることができそうでした。







天城「提督は?」


祥鳳「葬儀が終わるとすぐにどこかへ…」


大井「あいつ…何なのよ一体…!」


沖波「お、大井さん…」



提督の名を出すと大井さんの顔つきが変わります。



祥鳳「ど、どうかしたのですか?」


大井「…」


祥鳳「大井さん、教えて下さい」



私が大井さんの背に手を置いて話すよう促すと少しずつ話し始めました。





それは泣きながら帰ってきた潜水艦隊への提督のあまりにも冷たい対応のことでした。




沖波「司令官…なんで…」


衣笠「そんな言い方しなくっても…」


大井「あり得ないわよ…!あいつ…どっかおかしいんじゃない…!?」



その事が相当大井さんの怒りを買ったようです。


私も…もしその場に居たら提督に何を言ったのか想像もできません。






天城「…妙ですね」


祥鳳「え?」




そんな話に動じることが無かったのは天城さんでした。



天城「あの提督がですよ?ハチさんが轟沈したというのにどうしてそんな態度を見せたのでしょうか?」


大井「知らないわよ!あいつ、普段は見透かすような事ばかりするくせに…!」


天城「そこですよ」


大井「え…」



怒りの収まらない大井さんに対し天城さんは冷静なままです。



天城「普段私達艦娘を何もかも見透かして先を読んで手の平の上で踊らせるような人ですよ?」



そこまで言わなくても…その通りですが。



天城「姉妹艦を喪って泣いているイムヤさんに対してどうしてそんな対応をしたのかな…と。いつもの提督だったらもっと上手く立ち回れたと思うのですが…」


親潮「司令に何か意図があったと…?」


大井「何があるって言うのよ」


天城「そこまでは…」




天城さんも結論には至っていない様でした。




確かに違和感だらけです。



それは今では無く少し前からずっとです。



提督が何を考え、何を思っているのか。





私にはまだ答えを導き出すことはできませんでした。







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【前線基地 廊下】




提督「…ん?」


九草「これはこれは佐世保の提督殿」


提督「ようクソ提督」


九草「くそう、です」




葬儀を終え、大型船で前線基地に戻ると待っていたと言わんばかりに九草が声を掛けてきた。



九草「大変でしたね、艦娘が轟沈してしまうとは」


提督「大変なことをしてしまいましたね、とか言わんのか?」


九草「まさか…しかしこれから本当に大変ですよ?」


提督「そうだな」



提督は面倒くさそうに頭を掻く。



提督「艦娘の轟沈は面倒だな。葬儀に出席しなきゃならんし、士気は下がるし、作戦は滞るし…おまけに明日には俺の取り調べが始まるだろうからな」


九草「…」



平然と話す提督に九草は一瞬意外そうな顔を見せたがすぐに無表情を取り繕う。


艦娘を轟沈させたとなると大本営・穏健派の役員達が乗り込んでくる。

『艦娘達に無理をさせていないか』『何かを強制していないか』『大破進軍を指示していないか』等を調べるからだ。



提督「そこでお前に頼みがあるのだが…」


九草「…何です?」























九草「…本当によろしいのですか?」


提督「ああ、よろしく頼む。と言ってもあいつら士気が低すぎて使い物にならんだろうがな」


九草「…でしょうね」


提督「それじゃ、頼んだぞ」


九草「はい、お任せ下さい」



提督は何かを九草に頼み込むとその場を離れて行った。



それを確認すると九草はポケットに手を突っ込む。




九草「くく…あはははは、馬鹿め、これでお前は終わりだ…!」




九草は嫌らしい笑いを堪え切れず自分達の持ち場へと戻った。






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【前線基地 執務室】




祥鳳「…」


提督「…」



翌日、前線基地にある執務室にて提督は早朝から何かの書類を作っていました。


前線基地の執務室は佐世保鎮守府と違って狭いため第二秘書艦の方達はおらず、私だけが執務室にて提督の傍にいました。




祥鳳「あの…提督…そろそろ朝食に…」


提督「ん…」


祥鳳「間宮さんが用意していますよ、早く…」


提督「大丈夫だ」


祥鳳「え…」



そう言って提督は机から袋に入った菓子パンを取り出しました。




提督「お前だけで行ってくれ」


祥鳳「で、でも…間宮さんが…」


提督「たまにはいいだろう」


祥鳳「提督…」



間宮さんが来てから…一度だってこんなことは無かったのに…

もしかして艦娘の皆さんと顔を合わせ辛いのでしょうか?


だとしても…



祥鳳「せめて皆さんに一言…」


提督「なぜだ?」


祥鳳「なぜって…」


提督「そんなことまで俺が面倒見なきゃならんのか?誰かが轟沈したからって全員の様子を見に行って慰めて来いってのか?」


祥鳳「提督…!」





なんで…そんな言い方するのですか…!!




そんな声が出掛かった寸でのところで止まります。





少し前の天城さんの話を思い出したからです。





『どうしていつものように上手く立ち回れないのか?』





もしかして提督にとってハチさんの轟沈は思った以上のショックで気持ちが落ち着いていない?







それとも…







提督「おっと…」


祥鳳「え…」




そう考えていると廊下からゾロゾロと誰かが近づいてきました。




提督「時間切れだな」



提督はそう言って書いていた書類を机の中に仕舞いカギを掛けました。



ノックも無しにドアが開けられ



役員「佐世保鎮守府の提督ですね?」


提督「ああ」



見たことの無い男の人達が入ってきました。




役員「大本営の調査委員会です。艦娘、伊8の轟沈の件で取り調べを行います」


祥鳳「取り調べ…?」


提督「わかった、ちょっと待ってくれ」



提督は放送設備のスイッチを入れマイクに顔を近づけました。



提督『佐世保鎮守府の艦娘達へ、俺はしばらく不在となる。後は大湊鎮守府のクソ…じゃなくて九草提督に従うように。以上』



そして提督は抵抗する素振りを見せず両手を上げました。



祥鳳「提督!」


提督「祥鳳」



慌てる私に対し、提督は冷静でした。



提督「俺のことは見限っても構わんぞ」


祥鳳「な…!」




何を言って…!?





祥鳳「提督っ!!」



提督はそのまま大本営の役員達と一緒にどこかへ行ってしまいました。




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【前線基地 食堂】




葛城「イムヤ達は…」


風雲「来てない…」


陸奥「そう…後で食事を持って行ってあげましょう」


天龍「ああ…」




食堂に集まった艦娘達の空気は重苦しい。




間宮(暗い…ですね…無理もありませんが…)



この状況下のため間宮は少しでも消化によく力になれそうな料理を作ったが、この様子では皆も食べてくれそうになさそうだった。


いつも美味しいと食べてくれた皆が手を付けない様子に間宮の顔も暗くなってしまう。



風雲「提督にミスが無かったって…本当なの?」


時津風「そうみたいだねー…ちゃんと撤退指示したって大井さんも言ってた…」


陸奥「ハチ…」


葛城「本当に…無理してなかったのかしら…急に出撃になって…」




この場の艦娘達の提督への不満・不信感は続いていた。





そこへ…




『佐世保鎮守府の艦娘達へ、俺はしばらく不在となる。後は大湊鎮守府のクソ…じゃなくて九草提督に従うように。以上』




間宮「提督…」



提督の放送が食堂にも聞こえてきた。




天龍「んだよ…こんな時に不在って…」


葛城「なんか…がっかりよね…」


陸奥「ハチのこと…なにも堪えていないのかしら…」



放送を聞いて艦娘達は怒りを噛み殺すように顔をしかめた。




間宮「…」




その様子を見ていた間宮は何かが音を立てて壊れるのを感じていた。





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【前線基地 司令部施設】





九草「ふふ…くくく…」




その放送を聞いていた九草提督は笑いが零れていた。


『九草に従え』と提督の放送にあったが彼はそのつもりは元々無く、自分達の艦隊のみで攻略を続けるつもりだった。


しかし佐世保鎮守府の艦娘達が自分に従うのなら…こんなに楽なことは無いと笑みを零してしまう。



九草「ん…?」



九草の目の前のノートパソコンにメールが送られてくる。

送り主は彼の抱えている大本営の役員だった。



九草「これ…は…」



そのファイルを開くと彼の表情が驚きに包まれ…



九草「くっくっく…あっはっはっはっは!!」



その表情は邪悪な笑みへと変わっていった。




九草「これで…あいつも本当に終わりだな…!チェックメイトだ!」





この後のことが待ちきれないとばかりに彼は作戦完了を艦娘達に急がせた。




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【前線基地 執務室】




祥鳳「…」




主が不在の執務室で祥鳳は一人ずっと考えていた。



轟沈したハチのこと



その後の提督のこと



それ以前の提督のこと



仲間達のこと





祥鳳(ダメ…考えがまとまらない…)



ハチが轟沈したり仲間達の空気が悪くなったり提督が大本営の役員達に連れて行かれたりと色んな事が起こったため、未だに冷静になれていないというのがあり、祥鳳は落ち着かない気持ちを抱えていた。


おまけに提督から『一切フォローするな』と言われているため、仲間達と提督の溝を埋めることに奔走すらできない。




祥鳳「提督…」



主のいない机を見て祥鳳が呟く。



祥鳳(早く…帰ってきてください…)



そして祈るような気持ちで提督の帰りを願っていた。











『佐世保鎮守府の艦娘達へ、これより会議を行います。14:00に会議室に集合するように』








祥鳳「え…」



九草が館内放送で艦娘に集まるよう言ってきた。




祥鳳(会議って…何を…)



その呼び出しに祥鳳は不安でいっぱいになってきた。





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【前線基地 イムヤの部屋】






イムヤ「…」





イムヤは一人部屋で膝を抱え座っていた。




今、イムヤの頭の中にあるのは後悔のみだった。




『どうしてハチの出撃を懇願してしまったのか』



『どうしてハチの状態に気づいてあげられなかったのか』




そんな後悔の繰り返しだった。





それなのに提督に対し八つ当たりをしてしまった。



提督はハチの出撃を渋っていた。


それだけでなく損傷を負った時点で撤退を指示していた。



提督のやろうとしていたことに間違いは無い。




私が撤退を指示を受けた時点で強引に引っ張ってでもハチを連れて帰っていれば…




そんな考えを何度も何度も繰り返し…





イムヤ「ハチ…ぐすっ…」




涙を零し、膝を抱えながら泣き続けていた。





『佐世保鎮守府の艦娘達へ、これより会議を行います。14:00に会議室に集合するように』




イムヤ「…」





提督が不在で後を引き継いだ九草提督からの呼び出しだった。






時計を見ると13:30



しばらくどうしようか考えていたイムヤだったが…




イムヤ「行か…なきゃ…」




自分がいかないことで仲間達に迷惑が掛かるかもしれないと思い、ゆっくりと立ち上がり会議室へと向かった。





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【前線基地 会議室】





葛城「何が始まるのかしら?天城姉、知ってる?」


天城「いえ、私も…」



14:00に合わせ艦娘達が集まってきた。




九草「全員集まっていますか?」



そして時間になると九草が部下の男達を数名連れて訪れた。



九草「そんなにかしこまらないで下さい。何も作戦海域に行かせるわけじゃありませんので」


霧島「そうなのですか?」


雲龍「だったら何を…」



ざわつき落ち着かない艦娘達に対し九草は静かな目で艦娘達を見ていた。




祥鳳(何だか…嫌な感じ…)



その九草の視線に祥鳳は強い不快感を感じた。



九草「あなた達の…佐世保鎮守府の提督のことで集まって頂きました」


親潮「司令の…」


天龍「何だってんだよ」


九草「本当に信用ができる方なのですか?」



口元を歪めながら言った九草の言葉に艦娘達のざわつきが強くなった。



祥鳳「何を…!」


九草「聞けば大事な艦娘を轟沈させてしまったとか」


イムヤ「…!」


時津風「おいっ!!」


葛城「ちょっと!今はそのことに触れないでよ!」


九草「失礼、しかし言わずにはおれませんね。今後もこの様なことが続くといけませんので」



艦娘に凄まれても九草は一切動じることなく続けた。



九草「戦果に焦ってまた艦娘を轟沈させるようなことを…」


衣笠「やめなさいよ!」


親潮「司令への侮辱は許しません!」


天津風「お、落ち着きなさいよ親潮…!」



場が荒れ始めて増々騒がしくなってきた。







九草「…」





九草はその場を侮蔑的な目で見ながらポケットに手を突っ込む。









『大変でしたね、艦娘が轟沈してしまうとは』


『大変なことをしてしまいましたね、とか言わんのか?』




沖波「え…」


ゴーヤ「なに…?」




『まさか…しかしこれから本当に大変ですよ?』


『そうだな』



祥鳳「提督…」




会議室のスピーカーから急に九草と提督の声が聞こえてきた。




九草「すみませんね、仕事柄慎重なもので」



そう言って九草は机にボイスレコーダーを置く。


九草は提督との会話を録音していてこの場に居る艦娘達にそれを聞かせ始めた。




『艦娘の轟沈は面倒だな。葬儀に出席しなきゃならんし、士気は下がるし、作戦は滞るし…おまけに明日には俺の取り調べが始まるだろうからな』




イク「…!」


天龍「な…」


陸奥「なんてことを…!!」


葛城「信じられない…!!」


雪風「しれぇ…」



轟沈について軽々しく話す提督に艦娘達から非難の声を上がり始める。


しかし話はそれだけに留まらず…




『そこでお前に頼みがあるのだが…』


『…何です?』


『本作戦の今後を引き継いでくれないか?こんな途中で終わらせたら出世に響いてしまう』




大井「嘘…」


時津風「何言って…」


衣笠「提督…」



『艦娘達のケアは大丈夫なのですか?』


『俺がどうこう言っても仕方ないだろ、そんなことまで構っていられるか』



雲龍「…」


霧島「…」



提督は出世の心配をしているだけでハチの轟沈についてまるで気にしている様には聞こえなかった。




『…本当によろしいのですか?』


『ああ、よろしく頼む。と言ってもあいつら士気が低すぎて使い物にならんだろうがな』


『…でしょうね』


『それじゃ、頼んだぞ』


『はい、お任せ下さい』




スピーカーから流れる音声はここで終わった。


それは出世だけを気にして亡くなったハチのことなど全く気にも留めない提督の本性を表しているものだった。



場の空気は静まるだけでなく、艦娘達の憎しみすら感じる程に冷たくなっていた。




親潮「こんなの…何かの間違いです!作り物です!」




そんな中でも親潮は立ち上がり声を上げた。



沖波「そうです皆さん…!騙されてはいけません!」



それに続き沖波も空気を変えようと立ち上がった。





九草「…」




祥鳳(え…!?)




しかし九草はそれに動じることなく邪悪な笑みを深める。


それを見た祥鳳は嫌な予感に背筋が凍り付いた。




九草「そうですね、これだけでは信憑性に欠けるでしょうから…」



九草の奥で男達が何かを準備している。




九草「こんなものを用意しました」




会議室のカーテンが閉められ電気が消えて暗くなる。


その代わりプロジェクターの灯りがホワイトボードに映された。






時津風「え…!?」


雪風「しれぇと…祥鳳さん…?」






祥鳳『もしかしてあの適性検査は天津風さんをリーダーにするだけじゃなく…』


提督『そう。この辛い空腹を俺も一緒に付き合っているのだということを気づかさせるのが一番の目的だった』





天津風「これって…」




提督『後は厳しいムチを与えた分アメを与えてやれば十分だな』



そこには…



提督『これが出世への遠回りしながらの一番の近道だ、くくくっ』






顔に不敵な笑みを浮かべる提督の姿



隣に立つ祥鳳の姿が映し出されていた







提督『沖波は予想外の良い拾い物だった』


祥鳳『え…?』




沖波「これって…」


間宮「私達が…来た時…」




提督『あいつが頑張ってくれるだけで他の者にもかなりの相乗効果が期待できる、時津風達の反応を見ればわかるだろ?』




時津風「なんだよ…それ…」




提督『それに…あんなハンデを背負った沖波を前にして訓練で手を抜くことなんか絶対にできないからな、あいつらも…これから着任する艦娘達もな。あははっ』




風雲「ふ…ふざけるなぁっ!!」




怒りに身を任せて風雲が机をバンッ!と叩きつけた。




沖波「…」




その隣で沖波が悲しそうに俯いていた。








提督『なるほどな…』




雲龍「あれは…」


天城「私達の…」




次に映ったのは雲龍達の資料を見る提督の姿。




提督『まるで渡り鳥だな、はははっ』





葛城「ぐ…バカにして…!!」





雲龍達を嘲笑するような様子に葛城が歯を食いしばって怒りを露にした。



















祥鳳(どうして…こんなものが…)





祥鳳はずっと執務室を盗撮されていたことを知り身体を震わせた。





祥鳳(提督が気づいている様子がない…ずっと誰かに監視されていたというの…?)







提督『俺はお前達を駒としか思っていない』




イムヤ「…」


祥鳳「あ…」




祥鳳が考えを巡らせている間も





『その駒を全力で使いこなすためにやったことだ。艦娘をどう扱うかなんて俺には造作の無いことだからな』





提督の艦娘を嘲笑うような態度の映像は続けられていた。







雪風「しょ、祥鳳さん…」



雪風が目に涙を溜めながら縋るような声で祥鳳を見上げる。




雪風「こ、こんなの…グスっ…嘘ですよね…作り物ですよね…」


祥鳳「雪風さん…」


雪風「ねえ…祥鳳さん…うっ…ぇぅ…しれぇは…」


祥鳳「…」




泣いている雪風に対し祥鳳は何の弁解もできなかった。






この映像は全て事実であり、祥鳳もその場に写っているからだ。


『嘘だ』とか『作り物』だとは言えない。


それだと仲間達に嘘を吐いてしまうことになるからだ。





祥鳳(提督…私は…どうすれば…)







自分ではどうにもできないような最悪な空気の中




祥鳳は提督の言葉を思い出す







『俺のことは見限っても構わんぞ』








その言葉が祥鳳に重くのしかかり








不安と恐怖の中で押し潰されそうになっていた




























「ふふ…」














彼女はその様子を見て小さな声で呟く

















「何人いなくなるでしょうか?」


























【前線基地 会議室】





会議室にはもう艦娘達の姿はほとんどなかった。


ある者は肩を落とし、ある者は怒りに肩を震わせながら退室して行った。




イムヤ「…」


イク「イムヤ…」


ゴーヤ「もう…行こう…」



提督の本性を見せられたイクとゴーヤは力無くイムヤに退室を促そうとする。


しかしイムヤは立ち上がろうとせず前を見ていた。



イムヤ「ねえ」


九草「はい?」



部下と共に会議室の片づけをしている九草に声を掛ける。



イムヤ「もう一度見せてくれる?それとボイスレコーダーの音声も」


九草「…」


イク「何言ってるの…」


ゴーヤ「やめるでち…」



イムヤが提督の動画と音声をもう一度見聞きしたいと言い出して九草が探るような目で見る。


しかしイムヤの誰かを殺しかねない視線に思わず身の毛がよだって息をのんだ。




九草「わかりました、後片付けをお願いしますよ」


イムヤ「ええ」



九草とその部下達はそそくさとその場を後にした。




イムヤ「先に戻ってて」


イク「でも…」


イムヤ「一人にして」


ゴーヤ「…」



これは何を言っても聞こうとしないとイクとゴーヤは諦めるような顔をして会議室を出て行った。






イムヤ「…」





後に残ったイムヤはもう一度提督の本性を露にした動画を見始めた。






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祥鳳「はぁ…!はぁ…!うぐっ…」



苦しい…



苦しい…!




私は強烈な息苦しさと吐き気を覚え、洗面所で膝をついてうずくまっていました。




思い出されるのは盗撮されていた動画を見た時の皆さんの反応



怒り、悲しみ、呆れ、戸惑い



それら負の感情が混じった重苦しい雰囲気



それから私に向けられた視線





『どういうことなのか』



『信じても良いのか』



『あなたはどう思っているのか』



『全てを知っていて気にも留めなかったのか』





そんな心の声が聞こえるような気さえしました





祥鳳「うぐっ…ぅ…ェェェ…ウェッ…」




その重圧に耐え切れずに洗面器に吐き出してしまいます




吐いては呼吸を整えるをずっと繰り返していました








誰か…



助けて…




提督…




助けて…






そんな心の声が届いたのかはわかりませんが




天城「祥鳳さんっ!!」


祥鳳「あ…まぎ…さ…」



天城さんが来てくれました。




天城さんは私を見るとすぐに自分の方に抱き寄せてくれました。


以前もこうやって天城さんに慰められて…




祥鳳「うぐ…っ…う…うぁぁぁぁぁ…!」


天城「大丈夫ですよ祥鳳さん…」




私は以前と同じように天城さんの胸で涙を受け止めてもらいました。




祥鳳「私…うっ…わたし…なにも…何もできず…ひっく…」


天城「仕方ありませんよ…こんなことが続けば誰だって混乱します」




無力感に苛まれる私を天城さんは優しく髪を撫でながら慰めてくれました。























天城「落ち着きましたか?」


祥鳳「はい…ありがとうございます天城さん…」


天城「ふふ、良かった」



ようやく呼吸が整い落ち着いたところで天城さんから離れることができました。




しかしこれから何をすれば良いのかわかりません。


出撃することも無く、提督がいつ帰るかもわからないためどう動いたものかと足が止まります。



天城「祥鳳さん、提督は何か言ってませんでしたか?」


祥鳳「え…」




この前線基地では天城さんも沖波さんもあの狭い執務室では一緒に居らず私だけが同席していました。



何か言っていたこと…





真っ先に思い出されるのは別れ際に提督の言っていた『俺のことは見限っても構わんぞ』という言葉。





私は口元を震わしながら天城さんにそれを伝えました。




祥鳳「天城さん…提督は本当に…」



縋るような私に対し、



天城「ほんっとう、下手な人ですね!提督はっ!!」


祥鳳「ぅわっ…!」



頭を抱えながら呆れた返事をしました。



天城「提督はこう言いたかったのではないのですか?『無理して付き合う必要は無い』って」


祥鳳「え…」



それって…



天城「あの人なりに祥鳳さんのことを気を遣ったつもりなのでしょうけど…回りくどいにもほどがあります!この状況で…そこまで気が回るような余裕があると思っているのですか!」


祥鳳「あ、天城さん…落ち着いて…」



提督に対し怒っている天城さんを落ち着かせようとしていると自然と気持ちが落ち着いてきました。




提督が言いたかったのは『無理して付き合う必要は無い』



それは…




祥鳳「提督はある程度こうなることを…」


天城「予想していたのかと思います」


祥鳳「…」




そう思うと目の前が明るくなってきます。


提督がこの先にまだ何かを見ているとしたら…




天城「どうしますか?」


祥鳳「え?」


天城「提督の言う通り本当に見限りますか?それとも…」


祥鳳「決まっています」



私は自信を持って



祥鳳「どのようなことがあっても…私は私のできることをして提督を信じます」



天城さんにそう返答できました。











そう…


提督がこうなることを予想していたというのなら…



壊れかけた絆を元に戻してくれるはず






そんな希望を抱くことができました。




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【前線基地 小会議室】




提督「まだやんの?もう3日目なんだけど」


役員「それでは始めます」


提督「無視かよ」





提督は大本営の役員に対し面倒だなと顔に表していた。




提督が大本営の役員達に連れられ取り調べが始まってから3日目。


今日も変わらず伊8の轟沈の件等で役員と向かっていた。




役員「それではあなたの鎮守府運営の件から…」


提督「またそれか」



しかしその内容は同じものの繰り返しのため提督をウンザリとさせた。



提督「もう時間稼ぎしなくても良いんじゃないか?」


役員「…」



提督の言葉に役員は声を詰まらせた。









【前線基地 廊下】




提督「はぁ…やれやれ」



ようやく解放されたのはその日の午後だった。


その間、艦娘達との連絡を一切することは許されず、現在艦娘がどうしているかなどはわからなかった。




提督「ん…?」



自分の鎮守府所属の艦娘を探す前に別の艦娘達を見掛ける。



提督(あれは確か白友君のところの…)



提督と九草で行っていた前段作戦が終了したのか、後段作戦担当の白友提督の艦娘や呉鎮守府提督の艦娘が既に来ていた。



提督「好都合だな…」



そう呟いた提督は白友提督の艦娘に声を掛けようとした、その時…



??「佐世保の提督さんっ!」



躊躇することなく提督に声を掛ける艦娘



提督「よう田舎娘」


吹雪「だ、誰が田舎娘ですか!」



吹雪だった。



吹雪「あの…聞きました、潜水艦の方が亡くなったって…」


提督「誰から?」


吹雪「え…基地内で噂になってますよ、知らない人はいないと思います…」


提督「ふーん」



心配そうな顔をする吹雪に対し提督はどこ吹く風といった感じで平然としていた。




吹雪「大丈夫ですか?」


提督「お?」



吹雪は提督の手を取ってギュッと両手で握りしめる。



吹雪「無理して平気に振舞っているのでしょうけど…辛いときは辛いって言わなきゃダメですよ?」


提督「は?」


吹雪「悪い噂なんかに負けないで頑張って下さい!」


提督「…」



吹雪の裏表のない気持ちを向けられて提督は思わず言葉を詰まらせる。



提督「それで?」


吹雪「はい?」


提督「何の用だ?また新しいキャラを作って見せに来たんじゃないのか?」


吹雪「ち、違います!落ち込んでないか見に来たんですよ!もう、心配して損しました!」


提督「マジかよ…」


吹雪「な、なんでそんな意外そうな顔するんですかぁ!」



本心から提督を心配していた吹雪に提督は驚きを隠せなかった。



提督「お前、地味だけどいい奴だな。地味だけど」


吹雪「地味を強調しないで下さい!失礼ですよ!」


提督「悔しかったら少しくらい派手になってみろ」


吹雪「うぅ~!見てて下さいよ!次に会った時はあっと言わせて見せますから!」



提督のからかいに負けじと応戦する吹雪。

そんな吹雪の姿に提督は笑みを零した。


それは彼にとってかなり久しぶりのことだった。



提督「白友は?」


吹雪「もう執務室に行ってるかと…」


提督「…てことはうちの艦娘達は宿泊施設に移動してるな」


吹雪「私達とは入れ替わりでしたよ」



前線基地に後段作戦の部隊が来たということは前段作戦担当の艦娘達は邪魔にならないよう近くの宿泊施設へと移動する手筈となっている。



提督「サンキュ、元気でな」


吹雪「あ、はい」



提督は吹雪に感謝と別れを告げてその場を離れて行った。

















吹雪「元気でな…って…」


叢雲「吹雪ーもうすぐ演習が…ってどうかしたの?」


吹雪「あの…ね…」



提督と別れてから吹雪が神妙な面持ちになっている。



吹雪「何だか…佐世保の提督さんと二度と会えないような気がして…」


叢雲「なにそれ、新しいキャラづくり?バカなことしてないでさっさと行くわよ」


吹雪「叢雲ちゃん酷いよぉ!」



吹雪の不安は叢雲に全く届くことは無く、演習のため工廠へと引きずられていった。






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【前線基地近郊 宿泊施設入り口】




祥鳳「提督!」


提督「ん…?」



待ちに待った人が宿泊施設に入って来ると思わず足が動きました。



祥鳳「おかえりなさい!大丈夫ですか!?」


提督「うるさっ…何ともねぇよ、声デカすぎだぞ」


祥鳳「す、すみません…」



つい声が大きくなってしまったようで提督は面倒くさそうに流しました。




天城「提督」


提督「天城?」



そういえば天城さんが来ていたことを忘れていました。

天城さんの姿に提督が意外そうな顔を見せます。



天城「少しよろしいですか?」


提督「は?」


祥鳳「天城さん?」


天城「祥鳳さんはここで待ってて下さいね」


提督「おい…」



返事を待たず天城さんは提督を引っ張って外へ連れ出しました。





一体何を…












「痛ででででででっ!やめろこのバカ!」











祥鳳「!?」




外から提督の痛がる悲鳴が聞こえてきて思わず飛び出しそうになりましたが何とか堪えます。


天城さんから『提督が帰ったら説教をする』と聞かされていたからです。



出会った時から思っていましたけど…天城さんは本当に肝が据わっていますね、見習いたいです。







提督「…」


天城「お待たせしました」



少しすると天城さんがまた提督を引っ張って戻ってきました。



天城「さ、提督」


提督「…」


天城「もう一度やりましょうか?」


提督「わ、わかった…」




一体何をしたのでしょうか?

あの提督が怯えているようにも見えます。



提督「祥鳳、いらん心配をさせた。すまなかったな」


祥鳳「い、いえ…私は…そんな…」


提督「次からはちゃんと連絡を入れるよう心掛ける」


祥鳳「はい…」


提督「それと…」



提督が顔を上げてこちらをしっかりと見ました。



提督「この後のことは付き合う必要は無いぞ、お前にとっては多分辛くなる」


祥鳳「え…」


提督「部屋で休んでいろ」


祥鳳「提督…」



返事に戸惑い視線を彷徨わせると天城さんが笑顔を見せていました。



そう…天城さんの言っていた提督の『無理して付き合う必要は無い』という私への気遣いがしっかりと伝わってきました。



祥鳳「せっかくのお気遣いですが…ご一緒させて下さい」



提督からの気遣いに対し私は自然とそう答えていました。



提督「止めたからな」



提督は少し呆れながら照れ臭そうに頭を掻いています。

その姿になぜだかとても胸の中が軽くなりました。



提督「俺が取り調べを受けていた間のことを聞かせてくれ」


祥鳳「はい、あの…」











私は提督がいない間に九草提督が聞かせたこと、見せたものを伝えました。








提督「ふーん」



提督にはまるで動じる様子がありません。

やはりこうなることを読んでいたように見えます。


そんな提督の態度にこの後どうにかしてくれるのではないかと大きな期待を抱いてしまいます。




天城「これからどうします?」


提督「1時間後に全員を会議室に集めてくれ。これからのことを話す」


天城「はい」


祥鳳「わかりました!」



提督への期待の表れか、自然と返事が大きくなってしまいました。



提督「祥鳳」


祥鳳「はい?」


提督「念のため言っておくが…お前の期待通りになるとは限らんぞ」


祥鳳「それは提督次第です!失礼します!」


提督「そういう意味じゃ…おいっ」





私は提督の言葉をしっかりと聞く前に駆け足で皆さんの部屋へと向かいました。






【宿泊施設 会議室】





時間になると艦娘の皆さんが会議室に集まってきました。




提督「…」



提督は会議室の椅子に深くもたれ掛かり余裕の表情を見せています。


それに対し艦娘の皆さんからは怒りや悲しみ等の様々な感情を込めた視線を向けていました。



祥鳳「全員揃いました」


提督「ああ」



物々しい雰囲気の中、全員が席に着きました。



全員…と言っても一人いなくなりましたけど…。




提督「…」


祥鳳「…」


大井「…」


陸奥「…」





席に着いたものの、誰も口を開きません。


その重苦しい空気に押し潰されそうな気持ちになります。




風雲「ねえ…」



そんな中、最初に口を開いたのは風雲さんでした。

その表情は見たことも無い程に歪んでいて怒りを露わにしていました。




風雲「沖波のことを何だと思っているの?」


沖波「か、風雲姉さん…」



予想通り、風雲さんは沖波さんのことを聞いてきました。



提督「何が?」


風雲「足にハンデがある事を利用して…全員が沖波に負けないよう頑張らせるなんて…バカにして…!本気なの?本気であんなこと言ってたの?」


提督「…」


風雲「どうなのよっ!?何とか言いなさいよっ!!」



机をバンッ!と叩きつけながら風雲さんは立ち上がり提督を睨みつけました。



誰もその風雲さんを止めようとはせず提督の反応を待っています。





提督は…ここからどう巻き返すつもりなのでしょうか?



期待を持ちながら私も提督に視線を向けます。





提督「それが?」


祥鳳「え…」


風雲「な…!!」




しかし提督の返答は私の期待から大きく外れるものでした。



提督「お前には前に言ったはずだが?『不要だと思ったらさっさと放り出す』と。俺は俺なりに沖波が使いものになるようにしてきただけだ」


時津風「しれー!何てこと言うんだよ!!」


衣笠「提督…」


提督「むしろ感謝して欲しいものだが?沖波を拾ったのも義足を与えたのも俺なら第二秘書艦の立場を与えたのも俺だ。見捨てられてたこいつを使えるようにしたのも俺に少しくらい感謝しろ」


風雲「ば…バカにして…!それが本音なの!?あの動画が全部本当のことだって認めちゃうわけ!?」


提督「ああ」


天龍「マジで見損なうぜ…!」


風雲「最低…!!」



風雲さんは怒りを噛み締めながら机に涙を零しました。





祥鳳「…」





私はその場で何も言うことができず視線を沖波さんに向けます。




沖波「…」


間宮「沖波さん…」



沖波さんは悲しそうに、どこか悔しそうに顔を俯かせていました。




陸奥「あなたにとって私達はただの駒なの?」


提督「ああ、必要無ければ捨てるつもりだ」


葛城「そうやって私達を使い捨てる気なんだ…!」


提督「使えなければな」



皆さんの怒りを込めた言葉を提督は向き合うことなく平然と躱します。



そこに妙な違和感を覚えました。

どこか…意図的に行っているように見えるからです。




少し前の私でしたら一にも二にもすぐに間に入っていましたでしょうけど…今は黙って見守ろうと思いました。



しかし…




イムヤ「ねえ」



イムヤさんの一言で騒がしくなってきた会議室が一気に静まり返ります。


殺気すら込められていそうなその視線に思わず息を呑みました。




イムヤ「司令官にとってハチの死はなんだったの?」


イク「イムヤ…」


提督「…」




姉妹艦を喪ったこともあってイムヤさんの意見に全員が固唾を飲んで耳を傾けます。


提督はあの録音の中では『面倒だ』等と言っていただけに…彼女達の怒りを買っていてもおかしくはありません。



私はいざとなったらイムヤさんと提督の間に入る覚悟を持ちながら提督の答えを待ちました。






提督「俺にとって艦娘の轟沈はただの踏み台だ」



風雲「な…」


天龍「おいっ!!」




提督の答えはその場に居る全員の耳を疑うものでした。



天津風「ちょっと…本気で言ってるの!?」


提督「当然だ」


ゴーヤ「てーとく…酷い…でち…」


陸奥「あなた…よくもそんなことを…!」


提督「沈んだ後でも出世のために利用できることはする。そのつもりだ」


大井「よくそんなことをこの子達の前で…」


イク「…」


親潮「司令…」



信じられないと驚きを隠せない人


怒りを隠せず睨みつける人



会議室の空気は増々歪んでいきました。




イムヤ「…」




しかし質問をしたイムヤさん本人は何も答えず静かなままでした。




提督「そうそう、イムヤとゴーヤとイク、お前らは異動な」


ゴーヤ「は…?」


イク「え…?」


イムヤ「…」



3人へのいきなりの異動通達に場の空気は更に混沌としてきます。



天龍「おい!なんだよそれは!!」


雪風「どうしてですか!」


提督「上官への暴力とその連帯責任だ。当然だな、この俺の顔面を殴りやがったんだ。むしろこの程度の処分で感謝しろ」


陸奥「ふざけないでよっ!」


提督「喜べ、異動先は白友のところか呉提督のところだ。大事にしてくれるだろうから安心して異動するんだな」



艦娘から上がる反論の声に全く耳を貸さず提督は一方的に異動を言い渡しました。





提督は…どうしてこんなことを…




私にはその意図が全く掴めません。



何かをしようとしているのはわかるのに…この荒れた会議室の中でその答えを見つけることはできませんでした。










葛城「もう…無理よ、ついていけないわ」


祥鳳「え…」



葛城さんの言葉に嫌な予感がしました。



提督「ついていけないなら何なんだ?」


葛城「私も異動させてもらうわ」


天城「葛城…」


祥鳳「ま、待って…」


葛城「自分から渡したじゃない。異動申請書…使わせてもらう!あなたなんかについて行けないわ!!」



私以外に葛城さんを止めようとする人はいませんでした。


もしかしたら同じようなことを考えている人が他にもいるのかもしれません。



それは提督も例外ではなく…



提督「好きにしろ」



あっさりと異動を認めました。




大井「随分とあっさり認めるわね」


天龍「俺達にいなくなられても何ともないってのか、見くびりやがって…!」


提督「こっちから頭を下げて残ってもらいたい奴はせいぜい3人、甘く見ても5人くらいだな」


陸奥「なんですって…!」


提督「どのみちこの先の戦いにはついてこれそうにない奴ばかりだ、異動するなら喜んで受け入れるぞ」


時津風「なんだよ…なんだよそれぇ!何でそんなこと言うんだよ!」




提督は出て行こうとする艦娘達に対し、一切引き留めをする素振りを見せませんでした。




祥鳳(どうして…なんで…)






私がこの鎮守府に秘書艦として来て2年



これまで築き上げたものが一気に壊されようとしています。




いえ…壊そうとしているのは提督のようにも見えます。




そんなことをする必要って何…?



多くの艦娘達に異動されてまで見ているものとは一体何?




私の胸の中は不安でいっぱいになってしまって思考が追い付いていかなくなり、足が震えてきました。



何があっても提督を信じようと思っていても…気持ちがぶれてしまいます。







イムヤ「イク、ゴーヤ、行くよ」


イク「え…」


祥鳳「い、イムヤさん…!」



イムヤさんが席を立ち、イクさんとゴーヤさんが少し躊躇しながらもそれに続き、会議室を出て行こうとしました。




提督「後で全員を個別面談するからな、その時までにどうするか決めてくれ」


イムヤ「…」



それを聞きながらもイムヤさんは足を止めることなく会議室を出て行きました。





提督「場所は1階小会議室で1時間後に行う、以上」


雪風「しれぇ…」


天龍「おい!そんな一方的に…!」


風雲「待ちなさいよっ!!」


提督「祥鳳、行くぞ」


祥鳳「え…」



荒れたままの会議室を放り出して提督は私にも会議室を出るよう促しました。





背中には艦娘達からの罵声が浴びせられます。




その言葉ひとつひとつが胸に突き刺さりながらも




私は逃げるように提督の後について会議室を出ました。
















提督「だから言ったじゃねぇか…期待通りにならないって」


祥鳳「え…」



廊下に出て小会議室に向かう途中提督が声を掛けてくれました。


顔を上げると提督がこちらを見ています。

その目は私を心配してくれているような気がしました。


提督は会議室があのように荒れることを予想していたからこそ私を同席させようとしなかった…?



だとしたら今のこの状況はまだ提督の想定の範囲内ということになります。



提督「ま、俺はお前に同席するなって言っておいたからな。自己責任だぞ」


祥鳳「は、はい…!」



私は頭を振って悪い考えを振り払い頬をパンパンと叩きます。


しっかりしろと自分に言い聞かせて目を覚まします。




祥鳳「大丈夫です、ご心配おかけしました」


提督「言っておくがこの先も碌なことにはならないぞ」


祥鳳「はい…!」




私にできることは提督を信じ、提督の傍に居続けること



心の中で硬く近い小会議室へと向かいました。









たとえこの先




築いてきた関係が壊れてしまおうとも





私は…





【宿泊施設 小会議室】




天津風「来たわ」


提督「入れ」



最初に面談をするのは天津風さん、



雪風「失礼…します…」


時津風「…」



そして時津風さんと雪風さんでした。




提督は個別面談と言っていましたが、場合によっては姉妹艦をまとめて面談すると言っていました。

『仲の良い姉妹艦が一緒の方がわかりやすい』とのことです。



3人の表情はバラバラです。


何かを探るような天津風さん、悲しそうな顔をしている雪風さん、怒りの顔を見せている時津風さん。


仲の良い3人がこのような状態で胸が痛くなりました。




提督「で?お前らどうすんの?」




そんな3人に対し提督はどこか投げやりな言い方で問い掛けます。



天津風「どうって?」


提督「異動するのかどうかだよ、早く言ってくれ」


雪風「しれぇ…」


時津風「…」



提督の言葉に時津風さんは眉を顰め、雪風さんは増々悲しそうな顔になります。



個別面談する時にしっかりと艦娘の皆さんと話をすると少し期待していたのですが…



『お前の期待通りにはならないぞ』



改めて提督の言葉が思い出されます。




艦娘達を突き放し、手元から離そうとしている。


一体その先に何があるのでしょうか…




時津風「異動する…」


雪風「あ…」


天津風「時津風…」



先程の葛城さんに続き時津風さんも異動を口にしてしまいました。



時津風「もうしれーにはついていけないよ…」



怒りを噛み締めたまま時津風さんは俯き悲しそうな声を振り絞りました。




提督「そうか、わかった。他の二人は?」


時津風「…!」



まるで止める素振りを見せない提督に時津風さんが肩を震わせます。



時津風「どうして…」


提督「…」


時津風「どうしてなんだよ…!どうして…うっぐ…ぐす…」



先の言葉が自然と浮かびました。



『どうして止めようとしてくれないんだよ!』



時津風さんは本当はそう言いたかったのでしょう。



時津風「バカァ!しれーのバカァっ!!大っ嫌いだぁぁ!!」


雪風「あ…!待って…」


天津風「時津風っ!」



泣きながら小会議室を出て行った時津風さんを追いかけ、雪風さんと天津風さんも出て行ってしまいました。

雪風さんと天津風さんは今後どうするのか聞くことはできませんでした。




祥鳳「…」


提督「…」



3人が出て行ってしまい小会議室が静まり返ります。


提督は今の時津風さんを見て何とも思わないのでしょうか?


そう思って視線を提督に送ると…



祥鳳(え…)



一瞬、ほんの一瞬



提督は『これで良かった』というようなホッとした顔を見せていました。



提督「次は雲龍姉妹を呼んでくれ」


祥鳳「は、はいっ」



その事を提督に伺おうかと思ったらそれを見透かされたのか次の指示を受けました。





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【宿泊施設 衣笠・親潮の部屋】



親潮「大変なことになりましたね…」


衣笠「そうね…」



後で提督と個別面談をすると言われたいたため、私と親潮は大人しく部屋で待っていた。



衣笠「親潮はこれからどうするの?」


親潮「これまで通り司令の傍に居たいと思います」



親潮の答えには一切の迷いは見られない。


そこには強い意志が宿っているように見え、以前のようなどこか投げやりな気持ちや盲目的なもの見られなかった。




衣笠(良かった…)



再会した当初は危なっかしい印象しかなかった親潮だけど何か最近変わってきた。


迷いを捨てて一心に提督のためにできることをやってきたことが実を結んだからかもしれない。


少し前に『司令に合格を与えられました!』とはしゃいでいたのを思い出すと思わず笑いが漏れてしまいそうになる。



親潮「な、なんですか衣笠さん、そんなニヤニヤして」


衣笠「ふふ、なんでもなーい」







私がこの鎮守府に来たことで少しでも親潮の胸の内を軽くしてあげられたのかなと嬉しくなった。




提督はもしかしてそこまで考えて…?




衣笠(提督…)




さっきの会議室での事を思い出すと気持ちが落ち着かなくなる。


どうしてあんな態度を取ったのかな、なんて考えてばかりだ。




衣笠(きっかけは…)




少し前に遠征部隊が帰投途中に強襲に遭った時だ。



あの後、私は提督にあったことを全部伝えると結構ショックを受けてたっけ…。




衣笠(それからだったよね…)




大井さんを作戦担当から外し、いきなり使用艤装を変えさせたり自由に訓練をさせたり…


私はその意図をすぐに掴めたから良かったけど他の人は戸惑っただろうなぁ…。



今後のことを考えて緊急時の対応力でも養おうとしたんだけど…どうにも…ね…。

あんないきなり無茶な訓練させなくても一人一人しっかりと説明すれば良いのにって思ってた。


急にそんなことしても立場が悪くなるだけでしょうに…




それに今はただでさえハチが轟沈してしまったせいで…






衣笠「え…?」


親潮「衣笠さん?」




立場が悪くなる?



艦娘に対してだけでなく海軍での立場が悪くなった場合…



この先にあるのって…







衣笠「そっか、そういうことか」


親潮「え?え?」




提督は…最初からこうなる可能性を考慮してた?



だとするとこれまでのこと、そして今回の態度、全てが繋がってくる。







衣笠「本当…不器用な人だよね」



思わず苦笑いが出てしまった。


お父さんとは違って随分とまあ…不器用なやり方だよ…



親潮「き、衣笠さん、一人で納得していないで教えて下さいっ」


衣笠「だーめ、これは自分で気づかなきゃ意味無いよ」




私は提督の求めていたものに辿り着いた気がしてとても嬉しくて気持ちが軽くなっていた。





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【宿泊施設 小会議室】




雲龍「雲龍、天城、葛城、揃いました」


祥鳳「どうぞ」



『3人揃ったら一緒に入らせろ』と雲龍さん達に伝えていたため、先程の天津風さん達の様に姉妹艦3人で小会議室に入りました。



雲龍「…」



雲龍さんは相変わらず感情が読めない表情をしています。

今回の騒ぎにも動じている気配は一切感じられません。


彼女のようにいつも落ち着いていられるのはいつも何事にも振り回されている私にとっては羨ましい限りです。



葛城「さっさとしなさいよ」


天城「ちょっと葛城…」



提督に対し悪態をつく葛城さんを天城さんが宥めようとします。


葛城は今回の一件に対しかなりの憤りを見せています。

関係を修復するのはかなり難しいと思われます。


元々真面目な葛城さんと提督の関係は良いものでは無かったのかもしれませんが…。



提督「何が気に入らないんだ?葛城」


葛城「はぁ!?」



提督の質問に葛城さんが嘆きにも似た声を上げます。



葛城「一番腹が立っているのはあなたのハチに対する態度よ!イムヤやイクやゴーヤのことを考えないで言いたい放題言って!あなたがこんな血の通っていない奴なんて思わなかった!正直見損なったわよっ!!」



やはりハチさんの轟沈の件が一番葛城さんにとって一番胸に突き刺さっている様です。


仲間想いで真面目な葛城さんらしいな…と思ってしまいます。




提督「お前さ、誰かが沈むたびに毎回そうなるわけか?」


葛城「何が…」


提督「一々立ち止まって泣き叫んでいつまでも引きずるのか?そんなことでは今後もし誰かが立て続けに沈むようなことになったら耐えられんぞ」


葛城「あなた…!この先もハチのような犠牲を出し続けるつもりなの!?」


提督「そんなことは言ってない、だがそうなることも十分考えられるな。俺の下だけでなく他の鎮守府であってもだ」


葛城「…!」




感情的な葛城さんに対し提督はあくまで冷静で突き放すような態度を取る。


今の葛城さんに対しその態度は一番良くないと思えます。



葛城「やっぱり…あなたなんかについて行けない…!こんな人の下で命を懸けて戦いたくなんかない…!」


天城「葛城…」



悔しそうに顔をしかめながら葛城さんが涙を零します。


時津風さんの時のようにどこかに提督が反省し心を入れ替えてくれることでも期待しててくれたのでしょうか…



提督「好きにしろ。お前のような奴が今後一番足を引っ張るからな」


葛城「ええ!そうさせてもらうわよ!でもね!!」


提督「…!?」


祥鳳「提督!」


天城「葛城!?」


雲龍「やめなさい…!」



葛城さんが手を伸ばし提督の胸倉を掴み机から引きずり出しました。


まずい…!!



葛城「あなたみたいな人でなしは絶対に許さないからぁぁ!!!」



葛城さんは拳を握りしめ提督の顔面に向け…



提督「…」



提督は抵抗もせず…






























祥鳳「うぐ…ぁ…」



とてつもない衝撃が私の顔面を襲いました。


それに耐え切れず私は吹き飛ばされ壁に叩きつけられ床に倒れます。



ぐわんぐわんと視界が揺れ、次第に強烈な痛みが頬を襲ってきます。


血がぽたぽたと床に落ちます。どうやら口の中を切ったみたい。



提督「祥…鳳…」



間一髪…間に合いました…



葛城「なんで…」



提督が殴られる寸前、間に入ることができたようです。


しかし受け身も取れず葛城さんの拳をまともに顔面に受けてしまいました。



本気の拳だったみたいで威力は半端なものではありませんでした。


人間である提督がこれをまともに受けていたらと思うと…ゾッとします。



天城「祥鳳さんっ!!」


雲龍「葛城…!あなた…」


葛城「なんで…よ…どうしてこんな奴…」


天城「大丈夫ですか!?」



天城さんが駆け寄ってくれましたが痛みが酷く立ち上がれそうにありません。










提督「…」








突如…


小会議室の空気が凍り付いたような気がします







葛城「ひぃっ!?」


雲龍「…!?」




何かに怯えるような葛城さんの声に痛みを堪え視線を向けます。




提督「…」




提督が見たことも無いような表情…



いえ…あれは以前親潮さんに向けられた…




計り知れないほどの恨み憎しみの込められた顔をして



葛城「こ、来ないでぇ!!」


雲龍「やめて!提督っ!!」



葛城さんに手を伸ばそうとしていました。



艦娘である葛城さんが恐怖に染まっていて雲龍さんがそれを庇おうとしています。




いけない…!このままでは…





祥鳳「てい…とく…」



私は痛む身体を引きずって何とか提督の袖を掴みます。



祥鳳「大丈夫…です…から…そんな怖い顔…しないで…下さい…」


提督「…」



私の声に提督は葛城さんに伸ばしていた手をゆっくりと下げました。




祥鳳「葛城…さん…」


葛城「え…」


祥鳳「私も…同罪です…」


葛城「何が…」




天城さんに支えられながらなんとか立ち上がり葛城さんに視線を向けます。



祥鳳「私は…提督の全てを…知っていながら止めることは…しませんでした。一番近い立場にいながら…ずっと止めようと…しなかったのです…」


葛城「…」


祥鳳「ですから…私も同罪です…提督を傷つけようとするのなら…まずは…私…を…」


天城「しょ、祥鳳さん…!」




急に目の前が真っ暗になり身体を天城さんに預けてしまいます。




提督「おい…!」




意識を失う前、提督の声が聞こえたような気がしました。












【宿泊施設 医務室】





祥鳳「ぅ…」



頬の痛みで目を覚ましました。


手で触れると一通りの治療がされているのがわかります。



どうやら宿泊施設の医務室みたいですね。




提督「…」


祥鳳「提督…」



ベッドの上で視線を横に向けると提督が椅子に座ってこちらを見ていました。



提督「無茶しやがる…」


祥鳳「人の事…言えませんよ…?」



もし提督が葛城さんに殴られていたらと思うと…


でも提督は抵抗しようとしなかった。


ああなることも予定通りだったのか、覚悟のうえだったのか…



提督「お前が中心となって作ってくれた艦隊…」


祥鳳「え…」


提督「全部壊すことになった、すまない…」


祥鳳「…」




そんな気はしていました。



これまでの提督の行動には皆さんとの絆を繋ぎとめるような行動は一切見られませんでしたから…




提督「お前も…」


祥鳳「提督」



私は横になったまま手を伸ばし提督の手を掴みます。



祥鳳「私はずっと御傍にいますから」


提督「…」


祥鳳「これからもずっと…支えさせて下さいね」



私は迷うことなくそう言いました。



提督「…」



提督は少し悲しそうな顔を見せたような気がします。




提督「今後は無茶すんなよ」



提督が手を伸ばして髪を撫でてくれます。

それがとても嬉しくて安堵の気持ちからか瞼がゆっくりと閉じられてきました。



祥鳳「それは…提督…次第…で…」




そしてそのまま眠くなってきました。







提督「…ったく…どれだけ眠れてなかったんだお前…」







意識を失う直前




そんな提督の悪態が聞こえたような気がします














提督が私のために葛城さんに本気で怒りを見せてくれた









そんなひとかけらの喜びを噛み締めながら







私は久しぶりの深い眠りに就くことができました






















【宿泊施設 医務室】





祥鳳が深い眠りに就き寝息を立て始めると提督は立ち上がり医務室を出た。




天城「葛城が…申し訳ございませんでした…」



廊下に出ると天城がすぐに提督に対し深々と頭を下げる。



提督「謝るなら祥鳳に謝れ、と言っても今は眠っているがな」


天城「そうですか…最近は誰かさんに振り回されっぱなしでよく眠れなかったでしょうから…」


提督「…」



謝りに来たはずの天城がいきなり提督に咎めるような視線を送る。


提督はそれに対し文句を言わず黙って聞き入れていた。



天城「祥鳳さんはこれからもずっと提督の傍を離れようとしないはずです」



天城は真剣な顔で提督と向かい合う。

それが天城から祥鳳へ対する心の底から心配していることが見て取れる。



天城「提督、この先…祥鳳さんを泣かせないって約束して下さい」



そして天城は提督に頭を下げながらお願いをしてきた。



提督「そんな約束はできん。これからも俺についてくるのならそういう場面は避けられないだろうからな」


天城「…」



天城に対し提督はキッパリと約束することを断った。



天城「ふふ、良かった」



提督の言葉を聞いて天城がゆっくりと顔を上げる。

その顔は笑みを浮かべていた。



天城「なんの確証も無しに『約束する』なんて言ってたらアバラの一本か二本頂こうかと思っていました」


提督「相変わらず危ない奴だな…」



笑顔の天城に対し提督は呆れ顔になってしまう。



天城「祥鳳さんのこと…よろしくお願いします」


提督「泣かさないよう気を付けるつもりではいるさ、あいつに泣かれると非常に面倒くさいからな」


天城「はい」





『祥鳳のことを頼む』



それは天城がこの先提督と一緒に行かないということの意思表示でもあったが、提督はそのことを追求することは無かった。



天城「次は誰と面談ですか?」


提督「沖波と風雲だな。呼んできてくれるか?」


天城「はい、行ってきますね」




天城は笑顔のまま沖波達を呼びに行く。


その笑顔は提督のこれまでのことに対しての信頼の表れのようでもあった。




これが第二秘書艦として支えてきたの天城の最後の仕事となった。



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【宿泊施設 葛城の部屋】




葛城「…」



葛城はまだ震えていた。



人間である提督からこれまでにない恐怖を感じ、身体が震えたまま部屋のベッドに座っていた。




雲龍「後で祥鳳に謝りに行って…お礼を言っておきなさい」


葛城「え…」


雲龍「祥鳳が止めてくれなかったらどうなってたか…」



雲龍の言葉に葛城は顔を青くしながらも顔を怒りにしかめる。



葛城「なん…なのよ…祥鳳さんの時だけあんな…ハチのことはなんの関心も持たなかったくせに…」



声を震わせながらそう言う葛城に対し雲龍は溜息を吐く。



雲龍「また…それ…?」


葛城「え…」


雲龍「…」



今の葛城に対し失言だと知りつつも雲龍は咎めるような言い方をした。



雲龍「いつまでも引きずっていないでいい加減に切り替えなさい。そんなことでは今後やっていけないわよ」


葛城「な…なんで…!雲龍姉!どうしてそんな提督みたいなことを!」


雲龍「私も同じ意見だから」


葛城「な…!?」



信じられないと言った顔をしながら葛城が雲龍を睨む。

しかし雲龍は涼しい顔で見つめ返した。



雲龍「士気は下がるし、作戦は中止になってしまうし…せっかく何か新しいものが掴めそうだったのに…ガッカリもいいところよ」


葛城「雲龍姉!やめなさいよ!」


雲龍「情けないとも思ったわ。私達はこれまでどれだけ提督に護られていたんだって」


葛城「ど…どういう意味よ!」


雲龍「わからないなら別にいい」


葛城「雲龍姉…!!」




葛城は泣きながら雲龍に掴みかかる。




葛城「どうかしちゃったんじゃないの!?ねえ!雲龍姉までハチがあんなことになっても何とも思わないわけ!?」


雲龍「…」


葛城「どうなのよ!何とか言いなさいよぉっ!!」



答えるべきか迷った雲龍だったが、そうしないと葛城が収まりつかないと思い少し冷めた目をする。



雲龍「正直…私はそんなに思わなかった」


葛城「雲龍…姉…」


雲龍「むしろどうして提督が作戦中止を決めたのか…残念でならなかったわ」


葛城「…」



雲龍の正直な答えに葛城の手は力を無くし、ガックリと項垂れながら両膝を着いた。




葛城「出てって…」


雲龍「…」


葛城「もう…顔も見たくない!出てってよぉ!!雲龍姉なんか大っ嫌い!!!」




涙を零しながら叫ぶ葛城の言葉を受け、雲龍はゆっくりと部屋を出て行った。







雲龍(本当は…もっと早くにこうなっていたはずなのよね…)





戦いに心血を捧げたい雲龍とそうでない天城と葛城





その考えの違いを恐れ、雲龍は以前自分の気持ちを押し殺していた





雲龍(でも…そのバランスを保ってくれたのが提督だったわよね…)






雲龍は懐かしい記憶を頭に過らせながら




少し重い足取りで自分の部屋へと向かった














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【宿泊施設 小会議室】





天城「提督、沖波さんと風雲さんをお連れしました」


提督「入れ」



提督の返事に沖波と風雲が小会議室に入った。


沖波は悲しそうな顔を、対照的に風雲は提督を仇と思うような顔をしていた。



風雲「さようならを言いに来ただけだから」


提督「あっそ。向こうに言っても頑張れよ」


風雲「…っ!!」



提督のあまりの適当な返事に風雲は怒りを露にして拳を握りしめた。



天城「風雲さん、手を出してはダメだと先程言いましたよね?」


風雲「ぐ…!」


天城「祥鳳さんに免じて…お願いします」


風雲「…」



ここに来る前、天城は少し前にあったことを二人に話していた。

そのことを聞かされていたこともあって風雲は提督に対して振り上げそうになった手を降ろした。



天城「…」


提督「…」



そして天城は提督を睨む。

『余計な手間を取らせないで下さい』と目で文句を言っているのが提督にも感じ取れた。



沖波「あの…司令官…」


提督「なんだ?」



小会議室に来て悲しそうな顔をして俯いていた沖波がゆっくりと顔を上げた。



沖波「先程…司令官は『残って欲しいのは5人だけだ』と仰っていましたが…」


提督「そうだな」


沖波「その中に…私は含まれていたのでしょうか…?」


風雲「お、沖波…?何を言って…」




この件についてずっと顔を俯かせて沈黙を守っていた沖波が初めて提督に問い掛けた。




提督「お前は含まれていない」


沖波「…っ!!」



そんな沖波に対し、提督は容赦なく正直に答えた。



沖波「…」



提督の答えに沖波は再び顔を俯かせて目に涙を溜めた。



風雲「散々沖波のことを利用しておいてそんなこと言うわけね…!」



それを見て風雲は再び怒りに顔を歪め



風雲「やっぱりあんたなんかと一緒に居られないわ!!この最低男!二度と私達の視界に入らないで!!」



風雲は机に置かれたコーヒーカップの中身を提督にぶちまけた。




提督「ぐっ…!」


天城「風雲さん!」


沖波「か、風雲姉さん…!?」


風雲「行くよ沖波っ!!」


沖波「あ…!」




小会議室のドアを蹴飛ばしながら風雲は沖波を引っ張って出て行ってしまった。






提督「…」


天城「着替えて来られては?」


提督「そうする」




白い軍服が半分ほどコーヒー色に染まってしまったため提督は着替えるために自室に向かった。







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風雲「信じらんない…!なんなのよあいつ!」


沖波「…」




沖波を引っ張ったまま風雲は自分達の部屋へと戻った。




風雲「沖波、そんな顔しないで。これからは私がちゃんと守ってあげるから、ね」


沖波「…」


風雲「沖波…?」



顔を俯かせている沖波を風雲が心配する。



沖波「私…変わってないですね…」


風雲「え…?」


沖波「この鎮守府に来る前に間宮さんにも言われたんです。『私が守ってあげる、行き先を見つけてあげる』って…」


風雲「あ…!」



風雲は自分の言ってしまった言葉に気づく。

沖波は以前『気を遣われるのは辛い』と風雲に言っていた。


そのことを怒りからすっかり失念していた。



風雲「ごめんなさい沖波!私そんなつもり…」


沖波「良いんです…それが風雲姉さんの優しさだって…ちゃんとわかってますから…」



笑みを浮かべながら顔を上げた沖波だったがその笑みはとても力の無いものだった。



沖波「私…悔しいんです…」


風雲「それは…そうよ…あれだけ頑張っていたのに全部提督に利用されて…」


沖波「利用するとかしないとか…そんなことはどうでもいいんです…」


風雲「え…」



沖波の回答は風雲と大きく違っていた。



沖波「司令官に始めて会った時…あの人は『俺を利用してみろ』って言いました…私は自分が再び立ち上がることができるならって…司令官のことを利用したんです…」


風雲「な…」


沖波「司令官が私を利用して士気を上げようとしていたことは…最初に演習した時から薄々気づいてはいたんです…」


風雲「お、沖波…」


沖波「でも…それでも良かった…私が司令官の役に立てる、恩返しができるならって…そう思っていたのです…けど…」




沖波が悔しそうに唇を噛み締め両手をギュッと握りしめる。




沖波「それが全部…司令官の想定内で…全部あの人の手の平の中で留まっていたことが…悔しくって…!」


風雲「なに…言ってるのよ…」


沖波「出撃しても…第二秘書艦になっても…司令官は結局『私なんかいなくても何とかなる』って思ってて…!私は悔しかった!」




風雲はずっと沖波が心を傷つけられたのかと思っていた。


しかし傷ついていたのは沖波の艦娘としてのプライドだった。




風雲「ちょっと待ってよ…沖波…あなたまさか…」


沖波「私は…残ります」



沖波の回答に風雲が必死の形相に変わる。



風雲「やめなさいよ!これからもあいつに利用され続けるっていうの!?」


沖波「利用され続けるなんて決めつけないでっ!!」


風雲「…!?」




言い返した沖波に風雲が驚きを隠せなかった。



風雲「沖波…どうしてよ…!」


沖波「いつまでも子供扱いしないで下さい…!自分のことくらい自分で決めます!この先どうなったってかまいません!放っておいてください!」


風雲「な…んで…」


沖波「利用されたって…たとえ轟沈することになったって構いません!私は私を司令官に認めさせるまで離れませんから!」


風雲「…沖波のわからずや!もう知らないからっ!!」



これ以上は話にならないと風雲は怒って部屋を出て行った。





沖波「…」






沖波は『やってしまった』と脱力感に苛まれながらもどこか少しの達成感を感じていた。






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【宿泊施設 小会議室前廊下】



親潮「あ、司令!」


提督「ん?」



着替えに行こうと廊下を出ると親潮が待機していた。



親潮「そろそろ呼ばれるのかと思い待っていましたが…どうされたのですか?」



親潮は心配そうに提督のコーヒーが染み込んだ軍服を見る。



提督「コーヒーをぶっかけられた。今から着替えてくる。天城」


天城「はい?」


提督「この後はこいつに頼むからもう良いぞ、葛城の様子を見に行きたいくてソワソワしてるのが丸わかりだ」


天城「あ…すみません。それではお言葉に甘えて失礼しますね。大井さんに30分後に来てもらうよう声だけ掛けておきます」


提督「ああ」



提督はずっと浮かない顔をしていた天城を小会議室から退室させた。



親潮「司令…?」


提督「なんだ?」



親潮が提督に近寄り匂いを嗅いでいる。



親潮「甘い匂いが強いです…ガムシロップ何個入れたのですか?」


提督「…」


親潮「司令…!」


提督「4個…」


親潮「ダメじゃないですか!祥鳳さんに2個までって言われていたでしょう!?」


提督「別に良いじゃねえか…」


親潮「よくありません!そんな一気に糖分を摂取したらお身体を壊しますよ!」


提督「うるせえな…お前本当に最近言うことが祥鳳に似てきたな…」




提督は親潮の注意を受け流しながら自分の部屋へと戻っていった。


その間親潮は提督の傍を離れず糖分の過剰摂取を注意し続けた。





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【宿泊施設 大井の部屋】




天城「…というわけですので、30分後に」


大井「わかったわ…」



ドア越しに天城の声が聞こえて返事をした。



でも私は提督に会うつもりはなかった。


私の気持ちは呉鎮守府に…北上さんの所に帰ると決めていたからだ。




大井(これで終わりか…呆気ないものね)



ハチが轟沈してから何か緊張の糸が切れたようで考えることに力が入らない。



彼女を指導していたという責任から逃れようとしているのかもしれないけど…


でも…



大井「もう…良いわよね…」



誰にってことも無くベッドに仰向けになって天井に向かって呟く。




練習巡洋艦として艦娘達を指導し、多くの作戦を立ててここまでやって来た。



あいつに対し十分恩を返せたと自負している。




ハチが轟沈してこの後の対応が一番大事な時に…




あいつは全部ぶち壊した…




大井「自業自得よ…」




そうまた天井に呟いた時




大井「…?」




私の携帯が鳴る。



相手は…




大井「北上さん!?」


北上『やっほー、久しぶりだね大井っち』




北上さんだった!




北上『色々と大変だったみたいだねー…』


大井「はい…」



その後はしばらく最近のことなどを北上さんと話した。







そして…





北上『ねえ大井っち、呉に帰って来るって本当?』


大井「え…」



北上さんの問いに…





大井「はい。私も北上さんの所に帰ろうと…」


北上『本当っ!?』


大井「は、はいっ!」





そう答えた。






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提督「ふぅ…」


親潮「あ、お帰りなさい」



着替えを終えると先程と同じように親潮が提督を部屋の前で待っていた。





提督「外出るか」


親潮「え?は、はい」




そのまま提督は親潮を宿泊施設の外へと連れ出した。








【宿泊施設 外】




宿泊施設は海に近く、外に出るとすぐに浜辺に着いた。



提督「ふぅ…」


親潮「司令…お疲れですか…?」


提督「ん?まあな、3日も大本営の馬鹿共の取り調べがあったからな。まだ身体がだるい」


親潮「そうですか…あまり無理をしないで下さいね」


提督「善処する」



親潮の心配に提督は首をコキコキと鳴らしながら答える。


提督の視線は夕陽が沈む海を見ている。

海はオレンジ色に染まりもうすぐ夜の到来を感じさせていた。











提督「なあ親潮」


親潮「はい」


提督「今回の件と俺とお前のことは無関係だ」


親潮「…」



提督の視線は親潮ではなく海に向かっている。



提督「姉妹艦達と一緒に異動しろ」


親潮「司令…」



他の艦娘達と同様に少し突き放すような言い方だった。


その言葉を受け止めて親潮は一瞬顔を伏せたがすぐにしっかりと提督を見つめる。




親潮「親潮は…そのお言葉を頂けただけで十分です。ありがとうございます」



そして提督に対し深々と頭を下げた。



親潮「これから何があろうとも親潮は司令と共に行こうと思っています」


提督「後悔するぞ。この先に待っているのは今までの比じゃない辛い毎日だ」


親潮「構いません!親潮は…黒潮さんの分まで償うと決めましたから!」


提督「はぁ…ったく」



離れようとしない親潮に提督は呆れ顔で頭を掻く。




親潮「あの…司令…失礼を承知でお話します」


提督「ん?」


親潮「親潮が司令に許されたいと思うのは…親潮の我が儘です」



親潮は少し怯えながらもしっかりと自分の気持ちを伝える。



親潮「罪を償いたいって思ってます、償わなきゃいけないと常に思っています。でもそれは親潮の勝手な想いで…」


提督「…」


親潮「ですから…気を遣っていただけるのはとても嬉しいのですが…親潮はこの先どうなっても構いませんから…!」


提督「そんなこと言うと囮にするぞ」


親潮「もちろん命を粗末にするつもりはありません!衣笠さんともそう約束しましたから!それに…」



少し照れた顔を提督に向ける。



親潮「司令はそんなことしないって、信じてますから!」


提督「そうかよ…」


親潮「はい!」



自信満々にそう言い切る親潮に提督はバツが悪そうに顔を背けた。




提督「好きにしてくれ」


親潮「はい!これからも一緒に居させてください!」






話を終えて提督は浜辺を離れようとした。






親潮「…」


提督「どうした?帰るぞ」





しかし親潮はそれに続こうとしない。






親潮(言わなきゃ…)





先程とは違いその表情は硬く緊張に包まれている。




ずっと言おうとして言えなかったこと




提督がプライベートな話になると思い用意してくれた二人きりの状態




伝えるならばここしかなかった






親潮「司令…お話してなかったことが…あります…」


提督「なんだ?」




意を決して硬い表情のまま親潮は顔を上げた。




親潮「12年前…司令のご家族を…手に掛けた後のことです…!」


提督「…」




提督にとって悪夢のような過去に自ら踏み込む恐怖



親潮はその恐怖に歯を食いしばって耐える




親潮「人質にとられていた私の姉妹艦…は…」




口を、身体を震わせながらも




親潮「本当は…その時…既に助けられて…いて…」


提督「…」


親潮「私の選択は…大きな誤りで…その…」




親潮は提督に全てを伝えた。




提督「…」


親潮「その…わ…私…は…」



しかしその計り知れないプレッシャーに言葉の締めくくりが見つからなくなってしまった。




提督「そんな気はしてた」


親潮「え…」




締めくくりの見つからない親潮の言葉を繋いだのは提督だった。



提督「お前がラバウルのジジイに助けられたって知ってな、そんなことだろうとは思ってた」


親潮「司令…」


提督「このままいつまでも言わずにいたらいつか追及してやろうかと思ってたが…」



提督は親潮に対し手を伸ばす。



親潮「…!?」



親潮はそれに対し両目をきつく閉じ身体をビクつかせる。




提督「今度はちゃんと自分から言えたじゃねえか」


親潮「し、司令…」



親潮がゆっくりと目を開ける。




提督の手は親潮の頭に優しく置かれていた。



親潮「司令…ぐすっ…」


提督「なに泣いてんだ」




緊張から解放された親潮は思わず涙を零す。



そんな親潮に対し提督は呆れた顔をする。







しかしその顔は親潮がこれまで見たことも無いような優しさが含まれているような気がした。




















パシャッ







提督「ん?」


親潮「え…?」




少し離れた位置からカメラのシャッター音がする。



衣笠「良い絵が撮れたっ!後ろの夕陽もバッチリ写ってる!」



二人が音のした方へと視線を向けると衣笠が携帯のカメラで撮影したことがわかった。



親潮「き、衣笠さん!?」


提督「盗撮すんな」


衣笠「提督に言われたくないよ!」



文句を言う提督に負けじと衣笠が応戦した。




衣笠「親潮が心配で追い掛けてきたけど…良いものが見れたわ」


親潮「衣笠さん…」


衣笠「良かったね、親潮」


親潮「はい…ぐすっ…っ…ぅ…」



衣笠が両手を広げると親潮はその胸に飛び込んだ。



衣笠「よしよし」



普段からそうしているのか親潮の行動には躊躇が無く衣笠の行動も自然だった。





衣笠「ありがとね、提督」


提督「別に…お前はこれからどうするんだ?舞鶴に帰っても…」


衣笠「私も残るよ」



提督の言葉を待たず衣笠も残ると言葉にする。



衣笠「まだまだ提督と親潮のことを見守っていきたいからね。この先どこに行ったってそれは続けたいの」


親潮「衣笠さん…」


衣笠「亡くなったあの人の分も…ね!」



衣笠の視線には迷いはない。


そしてこの先どのような道を辿るのかも気づいているようだった。



提督「まあお前ならこの先どうなるか知っててもおかしくないか。それでも良いのなら好きにしてくれ」


衣笠「うん…!これからもよろしくね!」


提督「さて…帰るか。次の面談が待ってる」


親潮「あ…はいっ!」




二人を浜辺に置いて提督は先に宿泊施設へと戻ろうとした




















提督「イムヤ…?」


イムヤ「…」





その道をイムヤが遮る




イムヤは潜水艦用の艤装を着けていた




提督「ぐっ…!?」



イムヤは提督の首を掴まえ、片手で持ち上げる



衣笠「イムヤ…!?」


親潮「何を…!司令っ!!」



イムヤは提督を掴んだまま助けに入ろうとした衣笠と親潮を振り切り







親潮「し、司令!司令っ!しれええぇぇぇぇぇぇっ!!!!」






イムヤは…






衣笠「う…そ…」








提督を連れたまま海中へと潜ってしまった
















艤装を着けたイムヤに追い掛けることはできず













二人はただ茫然と立ち尽くすことしかできなかった

















































【宿泊施設 屋上】





比叡『そっか…大変だったね』


霧島「はい…」



屋上で霧島は姉の比叡と電話をしていた。


わざわざ屋上に来たのは陸奥と同室のため気を遣ってのことだった。



比叡『こっちも騒ぎになってるよ。最初は司令が「あいつはどこ行ったんだ!」なんて怒ってて大変だったんだから』


霧島「それは…容易に想像できますね」


比叡『でもね、そっちの司令がうちの司令に会いに来た後、すごく静かになってね』


霧島「え?司令が白友提督に?」


比叡『うん…一体どんな話をしたんだろうね』


霧島「…」






霧島(あの白友提督が轟沈させた司令に対し…静かになった?)




もしも白友提督の前で自分達に見せた冷たい態度を白友提督に見せたとしたら喧嘩になってもおかしくない。


しかし提督の顔に傷があるようにも見えなかった。




霧島「なにか…変なのですよね」


比叡『変?』


霧島「司令はどうして私達の作戦を途中で止めちゃったのかなって…」


比叡『作戦を止めた?』


霧島「はい…後は敵主力を撃破するだけだったのですが…いくらハチが轟沈したからと言って作戦中止までする必要は無かったのじゃないかなって…」


比叡『轟沈した姉妹艦に気を遣ったとか?』


霧島「でも司令はその後『出世のためなら艦娘の轟沈すら利用する』って言ったのですよ?大規模作戦を途中で投げるなんて出世の大きな足止めになるはずなのに…」


比叡『それは確かに…妙だよね』


霧島「はい…」




その答えを導き出せそうになくて霧島はもどかしい想いを抱えたまま浅いため息を吐いた。






比叡『これからどうするの?』



そんな霧島を比叡は心配したのかこれからのことを訪ねる。




比叡『金剛姉様は「今すぐ霧島を連れ戻すべきネ!」って騒いでるけど…』


霧島「あはは…それも容易に想像できます…」


比叡『榛名が何とか説得して大人しくしてもらおうとしてるけど、ふふふ』


霧島「それは手間を取らせてますね。あはは」




姉妹達の所へ戻りたいという気持ちは霧島もずっと抱えている。



しかし彼女は自分の強さの追及への道を終えてはいない。




霧島「これまで通り司令について行こうと思います。私にはまだまだやりたいことがたくさんありますので」


比叡『そっか…気を付けてね、霧島の無事をずっと祈ってるから』


霧島「はい、ありがとうございます!金剛姉様と榛名にもよろしくお伝えください」





比叡の後押しもあって霧島は再び前を向いて突き進むことを固く決意した。








霧島「そうそう、私この前の作戦で初めて旗艦を任されました」


比叡『本当!?』






その後も霧島は比叡との久しぶりの会話を楽しんだ。









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イムヤは提督を海へと引きずり込み
















海中でもその手を放すことなく















息絶えようとするまで海の中で苦しめた

































提督「ブハァッ!!」








息絶えようとするかと思われた時




イムヤは海上の小さな環礁に彼を引き上げた







提督「ゲホ!!ゲホッ!!グッ…!!…ゥ…ガハッ!!」



呼吸を整えようとするが苦しさから脱したばかりの提督にはそれは叶わず激しく咳き込んだ。







イムヤ「潜水艦になった気分はどうかしら?」


提督「ッグッハ…ハ…ハーーー…ハアアーーー…ッグ…」




苦しそうにしている提督に対しイムヤは冷たい目で見下ろす。

殺気すら込められている視線を送るが提督はそれを簡単に見返した。





提督「っぐ…なん…だよ…スキューバダイビングするなら…潜水用具くらい着けさせろ…」


イムヤ「…」



呼吸を整えた提督は恐ろしい形相で睨むイムヤに対しても減らず口で応戦した。




イムヤ「…処分は?」


提督「は…?」



イムヤから返ってきた言葉は意外なものだった。




イムヤ「今…司令官を殺しかけたのよ…?どうして何も処分を言い渡さないの?」


提督「何言って…」


イムヤ「頬を叩いた時には追放するような異動を言い渡したくせに…どうしてよ…」


提督「…」


イムヤ「全員の前で土下座させた時は処分無しだったのに…何よ…!殺されたって良いっていうの…!?『お前は解体処分だ』くらい言ってみなさいよ!うっぅ…」




力無くイムヤは環礁に両膝をつく。




イムヤ「なん…で…よ…」




イムヤは肩を震わせて涙を零し始めた。






イムヤ「司令官…ハチについて何も言わないじゃない…」


提督「…」


イムヤ「どうして…ねえ…!」



涙に濡れた顔を上げ提督の服を掴み縋りついた。




イムヤ「ハチのこと…想ってくれてるの!?そうなの!?」


提督「…」


イムヤ「教えてよ!全部全部黙ってないで!みんなを遠ざけようとしているだけなんでしょう!ついて来れる艦娘だけを選んでいるのよね!そうなのよね!?司令官!お願い!お願い、教えてよ!司令官は…」



零れた涙が数え切れないほど提督の服に落ちる。




イムヤ「教えてよ…司令官…っ…ぅ…うあぁぁぁぁ…」












その後提督はイムヤが泣き止むのを待ってから









提督「この状況でそこまで頭が回ってるなら…いいか」












イムヤに全てを打ち明けた












提督「俺が轟沈させてしまった艦娘は…ハチが初めてじゃない」












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【宿泊施設 雲龍の部屋】





天城「雲龍姉様?」


雲龍「天城…」



天城が雲龍の部屋を訪れた。


雲龍は力無く部屋のベッドで俯いている。



天城「その顔、葛城と喧嘩しましたね?」


雲龍「…」



雲龍はゆっくりと頷く。


これまで何度も同じことがあったのか、天城はすぐに現状を察したようだ。





雲龍「時々…葛城がすごく羨ましく思えるわ…」


天城「え?」



天城が雲龍の隣に座るとポツポツと静かな声で話し出した。




雲龍「何事にも…誰かのためにも一生懸命で…感情を真っすぐ出せて…あんなにも誰かのために泣くことができて…」


天城「…」


雲龍「あの子は…私に無いものをたくさん持ってるわね…」



話しながら雲龍は顔を沈ませた。



天城「ほんっと、似た者姉妹ですね!」


雲龍「え…?」



そんな姉に対し天城が明るい声で返答する。



天城「葛城もよく言ってますよ?『雲龍姉みたいにいつも落ち着いて静かな心を持てればもっと周りが良く見えて強くなれるのかな』って」


雲龍「そう…なの…?」


天城「はい、毎度毎度二人の間に挟まれてこんなことを聞かされる私の身になって下さい」


雲龍「ごめんなさいね…」


天城「ふふっ」



申し訳なさそうに謝る雲龍に対し、天城が笑顔で応える。



しかしその笑顔はすぐに曇ってしまう。




天城「この先…もうこういうことは無いのかもしれないですけどね…」


雲龍「天城…」




寂しそうにする天城に雲龍は妹がこの先一緒に来ないことを悟った。



そしてこの先自分が行こうとしているイバラの道を心の底から心配していることも感じ取る。





雲龍「必ず生きて帰ってくるから、それまで葛城のこと…お願いね」


天城「約束ですよ、絶対…!絶対に…ぅ…ぐす…」



涙を零しながら天城は小指を立てる。




天城「約束ですからね…!嘘吐いたら絶対に許しませんよ!」


雲龍「うん」




二人は小指を絡ませ、再会を誓った。















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提督「信じる信じないは勝手にしてくれ、この後すぐにわかるだろうけどな」


イムヤ「…」




司令官の話を聞いて私の胸の内はとてもスッキリした。



司令官を信じたい気持ち、憎みたい気持ち、疑いの気持ちが入り混じって苦しかったけど…やっと前を見ることができそう。




イムヤ「ねえ…」



でも…最後にこれを聞いておかないといけない。




イムヤ「祥鳳さん…どうするの?」


提督「ん?」


イムヤ「祥鳳さん…これからも司令官のために尽くして…ずっと傍を離れないと思う」


提督「…」


イムヤ「司令官はいつか出世のために…祥鳳さんを捨てることに…なるの…?」






司令官の下に着任してからずっと思ってた。



いつの日か司令官が祥鳳さんを見限ったり切り捨てる日が来るんじゃないかって…



その時…祥鳳さんはどうなるんだろうって…





祥鳳さん…壊れてしまうんじゃないかって…






そんな不安を抱えてたけど…





提督「俺はな…」



司令官は




提督「もう…あいつから離れられないんだ…」


イムヤ「司令官…?」


提督「悪夢は…もう見たくないからな…」





そう言った司令官に



祥鳳さんへの恋愛感情が垣間見えることは無く



ただただ寂しさだけが伝わってきた






イムヤ(そっか…)




司令官は過去に想像もつかないような心の傷を負っている



その傷を癒すのが…




癒す…とは違う



その傷を見えなくするのが祥鳳さんなのかもしれない





そうなると司令官は今でも過去の出来事でどこか苦しんでいるのかもしれない…








私の望んだ答えとは違ったけど



今は…祥鳳さんが捨てられることは無いとわかっただけで良しとしないと





これ以上…司令官の過去の傷を刺激したくないから…







イムヤ「よっ…と」



私は艤装の中から救助用の浮き輪を取り出して膨らませる。



イムヤ「戻ろ?」


提督「ふむ」



海に浮かべると司令官は躊躇なくそれに乗った。



私が罠を仕掛ける可能性は考えないのかしら?

そう思ったけど司令官の私に対する信頼とも取れたので特に何も言わなかった。




イムヤ「司令官、私ついて行くから。これからも…よろしくね」


提督「…正直お前は戦力に入れるつもりはないのだが?」



一瞬突き放されたと思ったけどそうじゃないみたい。

何か…心配するような感じだった。



イムヤ「ああ…異動させるのってやっぱりそういうことなのね」


提督「…」



司令官がどうして私達潜水艦隊にいきなり異動を言い渡したのか。


それは私達がハチを喪ったショックをあの司令官の同期の提督の所で癒せってことなのよね…

司令官のそんな気遣いが垣間見えて嬉しくなった。




イムヤ「見くびらないで。私は…」


提督「大丈夫だと言えるか?」


イムヤ「え…?」



『私は大丈夫』だと言おうとしたけど司令官がそれを遮った。

その表情は見たことも無い程真剣そのものだった。



提督「この先俺を恨まずにいられるか?辛いとき、疲れたとき、悪夢に魘されたとき、溜め込んでいた負の感情が抑えきれなくならない自信はあるのか?」


イムヤ「…」



司令官の言葉には実感が込められていた。


やっぱり司令官は…そういう道を歩いてきたんだね…




イムヤ「大丈夫よ」



しかし私はハッキリとそう返した。



イムヤ「以前司令官に私の溜め込んでいたものを出させてもらったから…自分で自分をコントロールできるようになってるのよ?」


提督「そうか?」


イムヤ「そうよ、でなければ帰って早々ぶっ叩いたりしないって」


提督「ふ…それもそうか」



司令官も私も笑みを浮かべる。


ハチのことが過ってぎこちない笑みになってしまったけど…司令官も同じような笑みになっていた。




イムヤ「ハチの分まで…頑張るからね」


提督「お前にハチの代わりは務まらん」


イムヤ「う…」



そりゃあ…ハチは潜水空母で私とは性能は違うけど…



提督「ハチにもお前の代わりはできない」


イムヤ「え…?」


提督「この先ついてくるのなら自分のためだけにしろ。誰かのためとかそんなものは関係無くな」


イムヤ「司令官…」




司令官がこの先のための覚悟をしっかり持てと言ってくれたのがわかる。


それだけじゃなくハチのこともちゃんと想ってくれているのだとわかり、とても嬉しくなった。




イムヤ「まかせて!これからもガンガン沈めてやるんだから!」




その言葉を出発にして



私は司令官を浮き輪に乗せて浜辺へと戻り始めた。







【宿泊施設近く 浜辺】




親潮「し、司令!司令っ!しれええぇぇぇぇぇぇ!!!!」


衣笠「か、帰ってきた…よかった~…」




浜辺に戻ると泣きそうな顔の親潮とへなへなと浜辺に両膝をつく衣笠



ゴーヤ「お帰りでち…」


イク「お話…できたのね?」



二人を引き留めるために来てもらっていたゴーヤとイクが出迎えた。



イムヤ「うん、しっかりと話せたよ」



心配そうな顔を見せる二人に私はしっかりと答えた。
























ゴーヤとイクには事前に話をしていた






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少し前




宿泊施設での会議中、異動を言い渡されて退室した後のこと





イク「心底見損なったのね…」


ゴーヤ「ハチのこと…あんな…もうてーとくにはついて行けないでち…」




先に退室して私についてきたゴーヤとイクは悔しそうに、そして悲しそうに司令官について話していた。




イムヤ「ねえ、二人とも」



そんな二人に私はある質問をする。




イムヤ「司令官…そんなにハチのこと言ってた?」


ゴーヤ「え…?う、うん…」


イク「だ、だって…提督はハチが沈んで面倒だって…沈んでも利用するって…」


イムヤ「言ってないよ」


イク「え…」


ゴーヤ「イムヤ…?」




そう、司令官は『艦娘が轟沈は面倒だ』『後始末が大変だ』『艦娘の死をも踏み台にする』って言ってた。



でも…あの録音テープにも動画にも、轟沈したハチの名を一度も口にしなかった。




そこに司令官なりのハチへの気遣いが見えたような気がした。


そしてそれは私達に対しても…




イムヤ「一度司令官と二人きりで話がしたい」




私はそれを確かめるため、二人に協力してもらうようお願いをしていた。








タイミング良く司令官が親潮と浜辺に出てくれたので


私は司令官を無理やり連れ出すために海に引きずり込み


その間親潮と衣笠さんを心配させないようゴーヤとイクに頼んでいたのだった





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イク「話はできたのね?」


イムヤ「うん。とてもスッキリした」


ゴーヤ「ほんと…無茶するでち…親潮なんか抑えるのが大変だったでち」


イムヤ「あはは、それはごめんね」



慌てる親潮の姿が容易に想像できてしまう。





親潮「し、司令!大丈夫ですか!?何か痛いことされたりとか…」


提督「なんともねえよ。残念だ、イムヤと竜宮城を探しに行ったが見つからなかった」


親潮「え…ええ!?」


衣笠「も…もうちょっとまともな嘘吐いてよ…」




見ると提督は親潮を心配させないよう適当なことを言っている。


相変わらずだなと思わず苦笑いが出てしまう。




本当…一度殺しかけたのに…





イムヤ「それじゃあね司令官、風邪引いちゃダメだよ」


提督「お前のせいでこうなったんだが?おい」





愚痴る司令官を無視して私はゴーヤとイクと一緒に浜辺を離れた。













ゴーヤ「イムヤ…これからどうするでちか?」


イムヤ「司令官と一緒に行くよ」


イク「イムヤ…」


イムヤ「二人はどうするの?」


ゴーヤ「あ…」


イク「その…」




私の問いに二人の言葉が詰まる。


それが何を意味するのかすぐに理解できた。





イムヤ「今まで…ありがとうね」


ゴーヤ「そんな…」


イク「永遠の別れみたいに言わないで欲しいのね…」


イムヤ「そんなつもりはないわよ。だってこれまでずっと一緒だったから、ね。それだけよ」



二人が心配しないよう笑顔を見せる。




イムヤ「それに…」




私は胸の中でハチのことを想う




イムヤ「生きて帰ってくることが…何よりの証明になると思ってるから」




司令官のハチへの思いやり


私達への気遣い




それを証明するには生きて帰ることこそが一番だと思ってる





イムヤ「必ず帰るから…待っててね」






二人は別れを惜しむように涙を零したけど




ゴーヤ「イムヤ…気を付けてね…」


イク「待ってるのね…!」




最後には私の背を押してくれた。







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【宿泊施設 小会議室】






天龍「おせーよ、どこ行ってたんだ」


提督「天龍?」



提督が親潮を連れて小会議室に戻ると天龍が椅子に座ってふんぞり返っていた。



親潮「あれ…天龍さん、大井さんの後の予定でしたが…」


天龍「大井はドア越しに『北上さんの所に行く』って言ってどっか行っちまったぞ」


提督「へえ…」



天龍から聞いた大井のことに提督が意外そうな顔をする。



提督「あいつがね…」


親潮「司令…?大井さんは…」


提督「残念だが仕方ないだろ」


親潮「…」



少し残念そうにしながらも大井を引き留める素振りを見せない提督に親潮が寂しそうな視線を送る。




天龍「おいっ!!」





天龍が立ち上がり机をバンッ!と叩く。




天龍「このままでいいのかよ!?てめえのせいで艦隊はバラバラだぞ!どうすんだよ!?」


提督「どうもしない、去る者追わずだ」


天龍「ふざけんなよ…!」


親潮「て、天龍さん!やめて下さい!」




天龍は提督の胸倉を掴む。




天龍「てめえが詫び入れなきゃならないことくらいガキでもわかるぞ!おら!」



天龍は提督を引っ張り廊下へ連れ出そうとする。




親潮「やめてって言ってるでしょうっ!!」




しかしその手を親潮が振り払った。



天龍「んだよ!邪魔するんじゃねえよ!」


親潮「天龍さんこそ乱暴はやめて下さい!」


天龍「別に乱暴しようってわけじゃねえよ、こいつを一人ひとり全員に詫び入れさせに行くんだよ!」


親潮「詫びって…」



親潮が止めても天龍は提督を連れ出そうとするのをやめようとはしない。



天龍「土下座してもなんでもして許してもらうんだよ!てめえはそれだけのことを言っちまったんだ!簡単に許してもらえると思うなよ!俺はこいつについて行って全員の前でちゃんと詫び入れたか見届けるからな!」


提督「…」


天龍「おい!聞いてんのか!?わかったらさっさと…な、何笑ってんだよ!」




容赦ない怒号を浴びせるられていた提督は凄む天龍に対し苦笑いで返す。




提督「それってさ、『俺が間に入ってやるから全員に謝りに行こうぜ、それで元通りだ』って言ってんの?」


天龍「は…!?」


親潮「え…?」



提督の指摘に天龍が固まる。

言い方は乱暴だったが提督の指摘は天龍の図星を突いたらしい。



提督「ありがたい申し出だが断らせてもらおう。俺は今回の一件は一切謝るつもりは無いからな」


天龍「な…そんなんで良いのかよ!?」


提督「ああ」


天龍「ぐ…舐め腐りやがって…!」




相変わらず言葉は乱暴だが天龍は頬を赤くしている。

どうにか自分のペースを取り戻そうと必死になっていたからだ。



天龍「あーそうかい!それじゃあ俺は抜けさせてもらうぜ!」


提督「わかった、じゃあな。白友に迷惑掛けんなよ」


天龍「う…」



提督が全く止めようとする素振りを見せなかったため天龍が絶句する。



天龍「ほんっとうに良いんだな!?俺は異動させてもらうぜ!?」


提督「いってらっしゃい」


天龍「俺はもう帰ってこねえからな!?」


提督「そうか」



二度、三度と異動する素振りを天龍が見せるが提督は全くの無関心だった。



天龍「余裕見せやがって…軽巡は今俺だけだろうが!この先どうすんだよ!」


提督「…」


天龍「なんだよ…」



提督が無言になると天龍がいきなり不安そうな顔を見せる。


これくらいで揺らぐなよ、と提督は呆れながらため息を吐いた。



提督「なあ天龍、俺がその気になればお前の代わりくらい簡単に見つけられると思わなかったのか?」


天龍「え…」



提督の言葉に天龍の顔色が変わる。



提督「お前の代わり何かいくらでもいる。調子に乗るな」


天龍「っぐ…!ちきしょうっ!!」



提督の突き放すような態度に天龍がついに折れてしまった。




天龍「何だよ!人がせっかく何とかしてやろうと思って来てやったのに!後悔すんなよバカやろーー!!!」


親潮「て、天龍さん!?」




天龍は大きな嘆きを上げながら廊下を走り去ってしまった。







親潮「司令…何もあそこまで…」



親潮が提督を咎めようとするが苦笑いをしている提督に言葉を詰まらせた。



提督「あいつはいい奴だな」


親潮「はい…面倒見がよくて皆さんにとても好かれてますよ」


提督「だろうな」



提督が少し別れを惜しむように見えたため親潮はこれ以上何も言わなかった。




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【宿泊施設 天津風・時津風・雪風の部屋】






時津風「うぐっ…えぐっ…」


雪風「…」





時津風はまだ泣いていた。


雪風に抱きしめられ涙を胸元で受け止めてもらっている。




天津風(こんなんじゃ…もう無理ね…)



泣いている時津風を見てると胸がギュッと締め付けられる。


あの人も下に着任してからこんなことはずっと無かったから…



それに…



天津風(なんだかんだ言っても…時津風はあの人の事大好きだもんね…)



時津風があんなにも艦娘以外に懐くのは初めてだった。


前の鎮守府でも警戒したり距離を取ったりするのが普通だったのに…



あの人とはそんな壁みたいなものは一切感じられなかった。



気楽で友達感覚で言いたいことが言い合える仲。


時津風にとっては理想的な提督だったのかもしれないけど…




辛いことが立て続けにあってその関係も壊されたように見える。



でも…今泣いている時津風を見るとまだ完全に壊れ切ってないように見えた。





天津風「雪風はこれからどうするの?」


雪風「わかりません…どうすれば良いのか…しれぇを信じたい気持ちはあるのですけど…」



信じ切ることはできない、そう言っているのがわかる。


雪風も時津風と一緒であの人にべったりだったものね。





しかしこの先はそんな関係ではやっていけない。


あの人の一連の行動からは何かのメッセージを感じ取れていた。




天津風「ねえ…聞いて二人とも」



私の言葉に二人が視線を送ってくる。




天津風「私はあの人について行こうと思うの」


雪風「え…」


時津風「よ…よしなよぉ…もう…ダメだって…」


天津風「ねえ時津風、あの人のこと…まだ信じてるわよね?」


時津風「…」



涙に濡れた顔のまま時津風が俯く。


それは『信じたい』という気持ちの表れだと思った。



天津風「私がこの先ついて行って本当にそれに値するのか確かめてくるから」



多分だけど…それは短期間ではなく長期に亘る思う。




天津風「だから…しばらくお別れね」




二人の前ではもっともらしいことを言ったけど




私はこの先白友提督の下で戦うよりも




あの人について行った方がより刺激的な毎日を過ごせる





そんな自分の高揚感が抑えきれなかったと思う。










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【宿泊施設 小会議室】





間宮「提督、失礼します」


提督「ん?」


親潮「間宮さん?」




次に霧島と陸奥を呼ぼうとしたところで間宮が訪れた。



間宮「夕食、済ませていないのお二人だけですよ」


提督「そうか…飯にするか」


親潮「はいっ」



間宮の呼び出しに応じ、提督と親潮は食堂へと向かった。




間宮「先に終えた皆さん一言も話さなくって…こんなにも暗い食事は初めてでしたよ提督?」


提督「そうか」


間宮「本当…誰のせいですかね…」


提督「誰だろうな」



行く途中、間宮が愚痴に近いことを提督に零す。


しかし提督はどこ吹く風といった感じに受け流した。








【宿泊施設 食堂】




食堂に着くと二人分の食事だけがテーブルに残されていた。



間宮「皆さんに少しでも元気になってもらえたらと…腕によりをかけて作りましたけど…」



間宮の視線は厨房に送られる。


艦娘達の食べる量がいつもより少なくて余ったと視線が物語っていた。



提督「今日はカレーか」


間宮「はい、提督のはちゃんと辛くない用になっています」


提督「うむ」



提督や辛い物が苦手な艦娘のため間宮は毎回辛さを分けて作っていた。

手間が掛かるがそこは間宮の思いやりが表れている。



間宮「それと…」


親潮「わぁ…!美味しそうです!」



提督と親潮の間に置いてある皿にはガトーショコラが置かれていた。



間宮「提督にはこちらも」


提督「…」



間宮の差し出した物に提督が閉口する。


テーブルに置かれたのは4分の1にカットされた提督の苦手なトマトだった。



間宮「提督の料理には毒を仕込ませてもらいました」


提督「は?」


親潮「ま、間宮さん…!?」



テーブルに置かれている料理は3つ。



間宮「この中に2つ、毒が入っています。毒…と言っても死ぬような代物ではありませんから安心して下さい」


親潮「な…何を言って…」



カレーライス、ガトーショコラ、トマトの中の2つに毒を入れたらしい。



間宮「もし毒を入れていないものを当てられたら提督のことは許してあげます」


親潮「間宮さん…」



間宮は冷たい目で提督を見る。


彼女にも今回の提督のことには怒りを覚えているらしい。



特に沖波に対しての態度は以前から面倒を見ていたこともあってかなりの憤りを感じていた。





提督「ふーん」



提督は動じることなく料理に手を伸ばす。

躊躇なくカレーライスに手を伸ばし口に入れる。



親潮「え…」


間宮「…」



そしてそのままガトーショコラ、トマトも次々と食べ始めた。




提督「下らん遊びだな」



一通り口に入れた提督が呟く。




提督「お前が料理を粗末にをするはずがないだろ」


間宮「ふふ…」



観念したとばかりに間宮が目を閉じた。



間宮「ありがとうございます…」



そして満面の笑みを浮かべ提督に礼を言った。



























間宮「孤児院に帰ろうと思います、もうここでの私の仕事は無いでしょうから…」


親潮「間宮さん…」



食事を終えると間宮が提督の下を離れることを提督に告げた。



提督「そうか…」



提督は他の艦娘達とは少し違い残念そうな顔をする。



提督「だったらもう少し味わっておくべきだったな」


間宮「提督、前から言おうと思っていましたけど食事はもう少しゆっくりお願いします。ちゃんと味わってからでないと」


提督「検討しておく」



別れの時だというのに二人が和やかな空気を作っている。







親潮「あはは…間宮さんってたまに司令のお母さんみたいですね」






そんな空気に当てられて親潮がつい口を滑らせる。





提督「…」


親潮「あ…!?」


間宮「?」




すぐにハッとして親潮は顔色を変える。




親潮「も、申し訳ございません司令!わ、私…!その…!」


間宮「い、いきなりどうしたのですか…?」



泣きそうな顔になって提督に謝る親潮に間宮がどうしたら良いのかわからないとオロオロする。




提督「こんな口うるさい母はお断りだ」


間宮「な…!?」


親潮「え…」



提督の反応に親潮は戸惑いを見せた。



間宮「そんなこと言うともう食べさせてあげませんよ!」


提督「また始まった…いつもこれだ」


間宮「提督が失礼なこと言うからですよ!まったく!」


親潮「あ、あの…え?」




提督が親潮を咎めることは無く、そのまま優しい空気が作られていた。




提督「ふっ…」


間宮「あははっ」




二人の間には『この先はこんなやり取りも無くなる』という寂しさが感じられる。




別れの際のその時までいつも通り




そんな二人の間には言葉にせずとも強い信頼関係が感じられた
















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九草「ご協力ありがとうございました」




役員『少々骨が折れたよ、何せ艦娘一人轟沈しただけであそこまで処分を大きくするのは簡単なことじゃないのでね』




九草「お礼はいずれたっぷりとさせて頂きますよ」




役員『それは楽しみだ。しかし…どうしてかな?』




九草「はい?」




役員『何もそこまでしなくてもと思うけどね、辺境に飛ばすくらいで充分なのでは?』




九草「彼を下手に目の届かない辺境に飛ばしたらどんな力を蓄えるかわかりませんよ。少しでもそういう不安な目を潰しておきたくてですね」




役員『なるほどね…』
















九草「これで…あいつも終わりです…くくっ…あははは…」







九草は我慢できずに笑いを零した。












提督が宿泊施設に戻る




その少し前の事










【前線基地 横須賀鎮守府の執務室】




提督「お邪魔するぞ」


長門「な…!?」


白友「お前!」



提督がノックもせずに執務室に入ると白友が怒りの形相を見せながら迫ってきた。




白友「どういうことだ!艦娘を轟沈させたと聞いたぞ!お前は一体何をしていたんだ!」


提督「それに関しては弁明するつもりは無い」


白友「お前…!!」



白友が提督の胸倉を掴む。

提督はそんな白友の反応を予想していたのか全く動じない。


そして懐から封筒を取り出した。



提督「ほれ」


白友「…?なんだ…!」



提督が白友に差し出すと彼はそれを手に取り確認する。








白友「な…!?」







それを見た白友の表情が驚愕に変わる。



白友「どういうことだ!?」


提督「どうも何も見たままだ」


白友「こんな…こんなことがあってたまるか!」



白友は提督を放すとドアに向かう。



長門「提督、どこへ…」


白友「抗議だ!こんなことが許されてたまるか!」


提督「そいつはありがたいがやめておけ、お前の立場も悪くなるし、俺も大人しく受け入れるつもりだからな」


白友「本気か…!?」


提督「ああ、そこで頼みがある」



提督は白友に向かい両膝を床に付けた。



白友「救援なら無理だ…いくら何でも…って…おい…!」


長門「何を…」




提督は白友に向かって深々と頭を下げ額を床に着ける。


彼は白友に対して土下座をしたのだった。




提督「これから俺の下を離れる艦娘が出てくる」


白友「よせよそんな…!顔を…」


提督「お前にそいつらの受け入れ先になってもらいたい。鍛え上げた艦娘達だ、きっと力になってくれるはずだ」


白友「お前…」


提督「頼む。こんなことを安心して頼めるのはお前しかいないんだ…」



額を床に付けたまま提督は白友に真剣にお願いする。


その姿に白友も長門も言葉を失った。




白友「お前…死ぬ気なのか…?」


提督「まさか、こんなことで死ぬつもりは無い。だが…無事に帰って来られるとは思っていない」


白友「…」




提督の言葉に白友は静かに考えを巡らせる。


そして視線を長門に移した。




長門「…ここで彼に以前の恩を返しておくのも良いかと思う。今後の戦力増強も既に皆で話し合っていたことだ…丁度良いのでは?実力も申し分ないだろうし」


白友「う…む…」



長門は提督の願いを後押しするように白友に提案した。




白友「顔を上げてくれ、お前の願いを聞き入れることにする」


提督「本当か?」


白友「ああ、だがお前のためでは無い。あくまで艦娘達のためだ」


提督「それで十分だ、感謝する」



白友の言葉に提督は礼を言いながら立ち上がる。



しかしその顔は何かを企んでいるような笑みが零れそうになっていた




提督「チョロい…何だか心配になってきた…」


白友「何か言ったか?」


提督「いいや、なんも」


白友「お前のような奴でも死なれると夢見が悪い。一緒に行く艦娘達の無事を祈る、いつでも力になるから連絡をくれ」


提督「…」



吹雪と同じように裏表を感じさせない白友の言葉に提督は呆気に取られる。



提督「ははっ」



そして何もかも忘れたような嬉しそうな笑みを見せた。




提督「お前と同期で良かったよ、じゃあな。後はよろしく頼む。もし帰ることができたら借りは倍にして返すからな」


白友「ああ…くれぐれも気を付けてな」




最後の別れと思えるような気持ちで二人は言葉を交わした。













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【宿泊施設 小会議室】





霧島「司令、霧島と陸奥です」


親潮「どうぞっ!お入りください!」



最後の面談者、霧島と陸奥が小会議室にやってきた。

祥鳳の代理をしている親潮の返事に二人が入室する。



霧島「失礼します」


陸奥「…」



提督の前でしっかりと敬礼をする霧島に対し、陸奥は無言のまま睨んでいる。


この時点で既に答えは出ているようなものだが提督は一応今後について聞くことにした。



提督「それで?今後どうするか決めたか教えてくれ。俺についてくるか、白友の所に戻るか?」



陸奥も霧島も元は白友提督の所に居た艦娘だ。

受け入れ先も元の鎮守府ということで異動はし易い。



陸奥「私は最後にあなたに文句を言いに来ただけよ」



陸奥は予想通り提督の下を離れることを伝えた。



提督「文句?なんだ?」


陸奥「あなたみたいな艦娘の心もわからない奴にもう力を貸せないわよ!せいぜいこれから離脱者が出ないよう気を付けることねっ!!」



溜め込んでいたストレスを爆発させるような大きな声で陸奥は提督に不満をぶつけた。



提督「霧島は?」


陸奥「ぐっ…!本当にバカにして…!」



しかし提督は全く聞いている素振りを見せずその態度に陸奥は増々イライラした。



霧島「司令、今後ともよろしくお願いします」


陸奥「な…!?」



対して霧島は提督に対し深々と頭を下げてついて行くことを伝えた。



提督「こちらこそ、よろしくな。頼りにしているぞ霧島」


霧島「はいっ!」



提督の了承に霧島は嬉しそうに敬礼を決めた。



陸奥「霧島…本当にいいの…!?」



そんな霧島を見て陸奥が声を震わせる。



霧島「陸奥さんこそ、本当によろしいのですか?」


陸奥「何が…」


霧島「陸奥さんは何を求め、何が欲しくてこの鎮守府へ異動を決めたのかもう忘れたのですか?強くなりたいという気持ちはその程度のものですか?」


陸奥「その程度って…!私はこの艦隊の連合艦隊旗艦をしてきたわ!大規模作戦だって攻略したじゃない!」



霧島の指摘に陸奥がムキになって返答する。


しかし霧島は冷ややかな目をしていた。




霧島「そう、作戦通り、全て司令と大井さんの用意した作戦通りにこなしていただけです。盤上の駒に過ぎませんでした」


陸奥「な…!」



霧島の言葉に陸奥が言葉を失う。



霧島「ねえ親潮」


親潮「は、はい!?」



いきなり話を振られ親潮が身体を硬直する。



霧島「先日の大規模作戦…司令がどんな作戦を立てたか覚えてる?」


親潮「え…?えっと…難しいことは特に何も…」


陸奥「なんですって…」


親潮「何もありませんでした。司令は道中会敵する深海棲艦の資料と進軍ルートを与えてくれただけで『後は自分達で考えてみろ』って…」


提督「くくっ…」



思い出しながら話す親潮を見ながら提督が笑みを浮かべる。



霧島「最初は不安でしたよ。作戦を丸投げされたんじゃないかって。私は旗艦としての責任を重く感じたけど…同時にとてもやりがいを感じました。私の手の中で艦娘を動かせる、戦わせることができるって」


陸奥「き…霧島…」


霧島「これまでは司令の手の中で暴れさせてもらいましたがこれからは私は私の足で立って戦いの中でさらに強くなろうと思っています」



霧島は陸奥に対し堂々と言い切った。


そんな霧島に対し陸奥はやりどころの無い憤りを感じる。




陸奥「勝手にすれば!いくら強くなりたいからって私はこんな人と一緒に居たいと思わない!!」



そう言ってドアから出て行こうとする。






提督「陸奥、正直お前にはガッカリしたぞ」


陸奥「な…ん…」


提督「期待外れだったな」


陸奥「何よそんな負け惜しみを言って!ふん!」




陸奥は勢いよくドアを開けてそのまま去ってしまった。





提督「さて…」




全員の面談を終え、提督は天井を見上げながら深いため息を吐いた。



提督「親潮、後でこれを放送してくれ」


親潮「え?あ、はい」


霧島「司令、これから私達はどこへ?」


提督「追って連絡する。今は休んでいてくれ、俺は祥鳳の所へ行ってくる」



そう言って提督は立ち上がり小会議室を出て行った。





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【宿泊施設 医務室】




祥鳳「…」




目が覚めてベッドからずっと天井を見上げていました。


頬の痛みはかなり引いていて顔を動かしても大きな痛みは感じませんでした。





ここ最近のことを思うと今はとても静かな時間が流れています。



そんな時間が私に冷静な気持ちにさせてくれて色んな事が頭を駆け巡ります。







祥鳳(思えば…随分と都合の良い動画でしたよね…)




九草提督が私達に見せたあの動画。


確かに提督の色んな悪い面が映されてはいましたが…




提督にとって一番都合の悪い部分は一切映されていませんでした。




提督と親潮さんのやりとり




提督の隠された過去に絡むこと




それらが一切流されることはありませんでした。





提督は一度親潮さんを執務室で徹底的に追い詰めました。



泣き叫ぶ親潮さんと復讐に顔を歪め親潮さんを追い詰める提督



そんな物を見せられたら提督と皆さんの絆は一気に崩壊されてもおかしくないというのに…それが一切流されませんでした。



意図的にその映像を編集したとすれば…それが可能なのは提督か…



私の知らない誰か…





そういえば私って執務室で何度か提督と身体を重ねて…




もしかしてそれも…






葛城「祥鳳…さん…?」




医務室のドアから葛城さんの声が聞こえました。


申し訳なさそうな顔をしている彼女の背を天城さんが押して入室させます。



葛城「あの…大丈夫…?」


祥鳳「はい、だいぶ痛みも引いてきました。大丈夫ですよ」



本当はまだ少し痛むのですがこれ以上葛城さんに心配させたくないと虚勢を張りました。



祥鳳「ダメですよ?あんな全力で人間である提督を殴っては。取り返しのつかないことになってましたよ?」


葛城「う…ごめんなさい…」



少し悪戯な言い方をすると葛城さんは叱られた子供のような顔をしました。



祥鳳「わかっています…葛城さんにも譲れないものがありますよね」


葛城「祥鳳さん…」


祥鳳「私にも譲れないものがあります。それがぶつかり合っただけです、今回のことは気にしないで下さい。そして…」



葛城さんがこれ以上暗くならないよう痛む頬を我慢して笑顔を作ります。



祥鳳「これからもその気持ち…大切にして下さいね」



時々羨ましいと思える葛城さんの素直な心


私はそれを無くして欲しくないという気持ちを伝えました。




祥鳳「少し…天城さんと二人で話をさせて下さい」

























葛城さんに退室してもらい天城さんと二人になりました。



天城「祥鳳さん、ありがとうございました」


祥鳳「いえ…」



二人になると天城さんが葛城さんのことでお礼を言ってきます。

相変わらず妹想いなのだと少し胸の中が暖かくなりました。




祥鳳「天城さん…この先…何人…残るのでしょうか…」


天城「…」


祥鳳「天城さん…?」



私の質問に天城さんが閉口してしまいます。


私の後を継いで手伝ってくれていたのだと思い聞いたのですが…何か嫌な予感がします。




天城「祥鳳さん…私はここでお別れです…」


祥鳳「え…」




天城さんの答えにショックを隠せませんでした。


提督のことを少なからず理解してくれている仲間だと思っていたからです。



祥鳳「そう…ですか…」


天城「ごめんなさい…私は葛城のことが心配ですし…それに…」



申し訳なさそうにしながらも天城さんはしっかりと私を見ます。



天城「この先の戦いに…私の気持ちは多分ついていかないでしょうから…」


祥鳳「…」




そう…


この先の戦いはもっと辛く苦しくなる。


それは提督のしようとしていることでわかります。




ですが…



祥鳳「寂しくなりますね…」




私はこれまで辛いことがあった時、心が折れそうな時、何度も天城さんに助けられてきました。


そんな天城さんがいなくなることでどうしようもない不安を覚えます。




祥鳳「今まで…本当にありがとうございました」


天城「こちらこそ…祥鳳さんに会えて私は嬉しかったです」




しかしお世話になったからこそ、私はちゃんと天城さんにお礼を言います。


それが天城さんに対する礼儀なのだと自分に言い聞かせました。







『あの…陽炎型四番艦親潮です。佐世保鎮守府の皆さん、この先司令について行く人は明日の9時に出発します。それまでに大型船に乗り込んで下さい。残る方は前線基地の白友提督を訪ねて下さい。い、以上!』







館内放送で親潮さんの声が聞こえてきました。



天城「親潮さんになにさせてるんだか…」


祥鳳「本当ですね、ふふ…」



どうやら天城さんの後は親潮さんが提督の手伝いをしてくれていたようです。


それが今の提督と親潮さんの信頼関係なのだと嬉しくなりました。



天城「それでは…失礼しますね」


祥鳳「はい…」




天城さんは私の傍を離れ、医務室を出て行きました。





どうしようもない寂しさが湧き上がりそうで怖くなりましたけど…






提督「お邪魔するぞ」


祥鳳「提督…」




提督が訪れてくれたのでその寂しさもどこかへ行きました。



祥鳳「出発のご準備はよろしいのですか?」


提督「お前がいなきゃ何を持って行けば良いのかわからん」


祥鳳「ふふ…そうですか…」



提督の言葉に私はベッドを降りようとします。



提督「何してる、寝てろ」


祥鳳「え…」



しかし提督は私の肩を掴むとゆっくりと寝かせます。



提督「準備は明日の朝行う。お前はそれまで休んでろ」


祥鳳「提督…」


提督「それだけを言いに来た、じゃあな」


祥鳳「あっ…」



そのまま行ってしまいそうな提督の袖を掴みます。



祥鳳「傍にいて下さい…」


提督「…」


祥鳳「お願い…します…」



天城さんが去ってしまうことを知った今、一人になりたくなくて提督にこんなお願いをしてしまいました。



断られたらどうしようという不安がありましたが…



提督「仕方ねえな…」



提督は面倒そうな顔をしながらもベッドの隣にパイプ椅子を置いてその場に残ってくれました。




提督「いつまで残ってりゃいいんだ?」


祥鳳「私が眠るまでです」


提督「まだ8時だぞ…」


祥鳳「ふふ、そうですね」



先程まで眠っていたこともあって私は眠りに就けそうになく、しばらく提督とお話をすることができました。



その中で…




祥鳳「提督、あの動画を作ったのは誰なのかご存じなのですか?」


提督「ん?ああ、知ってる。どんな動画だったのかは知らんがな」


祥鳳「それは一体…誰なのですか?」


提督「近いうちにわかる、この先一緒に行くことになりそうだからな」


祥鳳「…?」



もったいぶって教えてはくれませんでしたが、それ以上追及することはできませんでした。


提督の表情に一瞬陰りが見えたからです。


親潮さんの時に見せた…いえ、それとはまた別の…



少なくとも提督の過去に絡む人物なのは間違いないようです。




提督「そういえば白友の奴のところでまた吹雪に会ったぞ」


祥鳳「今度はどのような手で来たのですか?」


提督「普通そう思うよな?それがな…」




その後は取り留めの無い話をして提督との時間を過ごしました。







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【翌朝 港へ向かう道】





陽が昇り始めた朝、提督と祥鳳は荷物を抱え宿泊施設を出た。



祥鳳「もう行くのですか?」


提督「ああ。親潮辺りが集合時間より1時間前に行きそうだからな」


祥鳳「ふふ、そうですか」


提督「何笑ってんだ」


祥鳳「親潮さんより先に行って真面目なところを見せたいのですね?」


提督「バカ言え」




準備を終えた提督と祥鳳は港への道を歩き始めた。




そこに…




九草「おはようございます」


祥鳳「あ…」



待っていたと言わんばかりに九草が現われた。



提督「見送りか?ご苦労なことで」


九草「これが最後のお別れになりますからね、くくくっ」


祥鳳(最後…?)



嫌味たらしい笑みを浮かべる九草に対し提督は余裕の笑みを返す。



提督「お前には感謝してるよ。出世への近道をわざわざ用意してくれたんだからな」


九草「その強がりがいつまで続くことか…ふ、あは、あははははは!」


祥鳳「なんですかあなた…!て、提督?」


提督「…」



嘲笑う九草に祥鳳が怒りを露にするが提督がそれを制す。



提督「じゃあな。毎日俺が死ぬ報告が来るのを祈ってるんだな。行くぞ祥鳳」


祥鳳「え?は、はい…」


九草「精々あの世まで虚勢を張り続けて下さい!哀れな提督さん、あははははは!」




大きな声で嘲笑し続ける九草を無視して提督と祥鳳は港への道を進めた。




祥鳳「…?」



九草の嘲笑に一切反応しない提督に対し祥鳳は違和感を感じていた。





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沖波「あ…」


天津風「沖波…?」


沖波「おはようございます」


天津風「おはよう」



沖波の姿に天津風が意外そうな顔をする。



天津風「正直…沖波は来ないかと思ってた。ずっと浮かない顔してたし…」


沖波「あはは…そう思われても仕方ありませんよね」



天津風の指摘に沖波が苦笑いをする。



天津風「大丈夫?これからもあの人は沖波を全力で利用すると思うわよ?」


沖波「それは別に構いません。私だって司令官を利用してやりますから」


天津風「そう…ふふっ」



堂々と言い返した沖波に天津風は嬉しくなり笑顔になった。



沖波「天津風さんはどうして?」


天津風「表向きは時津風と雪風のため。二人があの人を疑い続けることのないよう見極めたいと思って。色々と捻くれてるからね、提督は」


沖波「…司令官って皆さんが思っているよりも正直な方ですよ?」


天津風「え?」



沖波の言葉に天津風が首を傾げる。



沖波「私、以前孤児院に居たときも経理の仕事を手伝わせられたのですけど…その時の院長は誤魔化しや不正だらけで酷いものでした…」



沖波は右足を失って艦娘の療養という名目で孤児院に居た時期があった。

本当は艦娘を引き取ることで受け取れる補助金目当てで院長が強引に入院させたものだった。



沖波「元々数字に強いのかはわかりませんけど、不正に作られた数字ってすぐにわかるんです…」



少し顔を俯かせていた沖波が顔を上げる。



沖波「司令官の作りだす数字って正直で隠し事の無い真っすぐなものでした。ですから私は司令官は信頼できる人だってずっと思ってます」


天津風「そっか…沖波が言うのならそうよね」


沖波「はい!」







自信満々に応える沖波に天津風は頬を緩めた。






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衣笠「ちょっと親潮!そんなに早く行っても誰もいないって!」


親潮「いいえ!きっと誰か準備しているに違いありません!」


衣笠「もうー!張り切り過ぎだってば!」




港へ一番乗りしようとする親潮に衣笠は苦笑いするしかなかった。



衣笠(あんなに張り切っちゃって…本当に嬉しかったんだね)



提督に言えずにいた過去のことをようやく伝えることができた親潮はこれまでにない張り切りようだった。


前を行く親潮の足取りの軽さに衣笠は明るい未来を予感せずにはいられなかった。



たとえそれがどれほどの苦難の道が待っているとしても…




衣笠「親潮、私が守ってあげるからね」


親潮「え!?何か言いましたー!?」


衣笠「なんでもなーい!」




その明るい未来を現実のものとするために衣笠は胸の中で熱い誓いをするのだった。






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天城「もうー!どうしてギリギリまで寝ていたのですか!」


雲龍「…」



寝ぼけ眼のまま雲龍は天城に引っ張られながら港へ向かっていた。



天城「しっかりして下さい!もうこれからは私は起こしにいけないのですよ!」


雲龍「ぅ…ん…」


天城「あー!歩きながら寝ないで下さい!起きてっ!!危ないですよ!」



これが最後の別れになるかもしれないというにいつも通り過ぎて天城は別れを惜しむ暇さえなかった。



天城「ちょっと!?服がずれています!見えちゃう見えちゃう!また寝ぐせが!?起きて!起きて下さいぃ!!」


雲龍「…」




結局天城は雲龍を引っ張って港まで行くことになってしまった。






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イムヤ「あ、おはよう」


霧島「おはようございます」



イムヤは向かう途中霧島と合流した。



イムヤ「やっぱり霧島も行くんだ」


霧島「はい、イムヤは正直…意外ですね」


イムヤ「やっぱりそう思う?」


霧島「司令も潜水艦隊のみんなを遠ざけようとしていましたからね」


イムヤ「ふふ、気づいていたんだ」



ハチを喪い心に傷を負った潜水艦隊のことを思い提督は異動させようとしていた。


霧島もその事には気づいていたようでそのことを指摘されたイムヤは笑顔を零した。



霧島「姉妹艦を喪ってずっと引きずるものだと思っていましたが…どうやって立ち直ったのですか?」


イムヤ「100%立ち直ったまでは言えないけど…司令官のおかげだよ!」




笑顔を見せ前を行くイムヤの後ろ姿に霧島は『心強い味方が来た』と胸を躍らせた。






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提督「…来たな」


祥鳳「はい」




港に艦娘達が集まって来る。





親潮「あ、司令!祥鳳さん!おはようございます!」


提督「な、言っただろ?一番乗りするのは親潮だって」


親潮「え?え?」


祥鳳「うふふ、それだけ親潮さんが信頼されてるってことですよ」


親潮「司令…ありがとうございます!」


提督「何言ってんだか…」



からかう祥鳳に提督が呆れた顔で浅いため息をついた。




衣笠「あれ…私達が一番じゃなかった?」


祥鳳「おはようございます衣笠さん」


衣笠「おはよっ!提督、祥鳳さん、これからもよろしくね!」


提督「ああ」











天津風「お待たせ」


沖波「おはようございます司令官、祥鳳さん」


提督「おお…意外な奴らが…」


天津風「何よその反応、嬉しくないの?」


提督「嬉しいとか嬉しくないとか、そんなものは別に」


祥鳳「いつもの照れ隠しですよ」


天津風「ああ、そういうことね」


沖波「あはは…」


提督「何笑ってんだこら、メガネを…」


沖波「あ、失礼します!」


提督「てめえ沖波!逃げんな!」


祥鳳「ふふっ」


天津風「まったく…」











天城「もう!雲龍姉様!いい加減起きて下さい!」


雲龍「…」


提督「なんで寝てるんだ…?」


天城「出発が楽しみで気が昂って眠れなかったって…」


祥鳳「子供みたいですね…」


提督「おい、雲龍の胸当てがズレて乳首が見えてるぞ。思ったより小さい乳首だな」


天城「きゃああああああああああああ!!!」


祥鳳「提督っ!!」


雲龍「くー…」















提督「意外な組み合わせだな」


イムヤ「おはよっ!」


霧島「おはようございます司令、祥鳳さん」


祥鳳「おはようございます」


霧島「皆さんはもう?」


提督「お前らで最後…いや、あれは…」













間宮「待って下さーい!」













間宮が大きな包みを持って走ってきた。



間宮「良かった、間に合いました…これ」


提督「おお…」


間宮「今日のお昼ごはんです、持って行って下さい」


祥鳳「間宮さん…」


イムヤ「ありがとうね!」


霧島「ありがたく、一口一口味わって頂きますっ!」


間宮「はい!皆さん、お元気で!」




間宮は最後の仕事だと思い、早朝から全員分の弁当を作り届けることができた。




間宮「それでは私はこれで…」


提督「間宮」


間宮「はい?」



その場から去ろうとした間宮に提督が声を掛ける。




提督「お前の料理は…」


間宮「…?」


祥鳳「提督…?」


提督「…」


間宮「どうしました?」


提督「いや…」



しかし提督は何かを言おうとして躊躇った。




提督「お前の料理は最高だった、帰ったらまた食わせてくれ」


間宮「は、はい!ありがとうございます!いつでも食べに来てください、私ずっと皆さんを待ってますから!」



提督の言葉に間宮は最高の笑顔を見せた後、その場を離れて行った。





天城「祥鳳さん、身体に気を付けて。何でもかんでも溜め込んではダメですよ?私はもういないのですからね」


祥鳳「はい、天城さん。今まで本当にありがとうございました!」


天城「雲龍姉様、朝はしっかり自分で起きて下さいね」


雲龍「がんばる…」


天城「それでは私も失礼します、みなさん、お元気で!」







そして天城も大きく手を振った後、宿泊施設への道を歩いて行った。








提督「それじゃあ全員船に乗ってくれ。これから佐世保鎮守府へ戻る」


イムヤ「今後のことは?」


提督「佐世保鎮守府に着いたら話す、それじゃ行くぞ」






提督を先頭に大型船へと乗り込み始めた。















??「遅いわよ」


提督「え?」








誰かが提督達よりも先に船に乗っていた。







??「何時に出発か聞いてなかったから昨日の夜から待ってたのよ」












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【前の日 大井の部屋】








北上さんの所へ帰る




そう伝え、立ち上がった時だった





大井(あ…)




バサバサと何かの資料が床に落ちる。








大井「…」


北上『大井っち?どうしたの?』




北上さんとの電話中だったというのにその資料に目を奪われ言葉を失った。




床に落ちた資料、それは『私が重雷装巡洋艦として加わった場合の作戦提案書』だった。





練習巡洋艦・指導役を降ろされ、提督と雲龍に自分の甘さと弱さを指摘された翌日から作り始めていたものだ。



重雷装巡洋艦として復帰するための訓練を始め、今後は戦力として艦隊に加わるつもりだったのに…







私はさっき『自分は十分恩を返した』と思った。




でもそれは大きな勘違い。



私は自分が立ち直るために練習巡洋艦になったのであって、その立場を利用して前に進むことができただけだ。


力になったなんて見当違いも甚だしい。




私があいつに本当に恩を返すとしたら…





北上『大井っち?』






それは…






大井「き、北上…さん…」




声が震える。


ずっとずっと北上さんの所へ帰りたいという気持ちを持っていて、それが今叶えられようとしている。



自分で帰ると言っておきながらそれを撤回しなければならないと思うと…



北上さんに嫌われるんじゃないかと思うと自然と声が震えてしまった。






北上『まだやり残したことがあるんじゃなーい?』


大井「き、北上さん…?」


北上『大井っちの考えてることなら電話越しでもよーくわかるって、ふふーん』




迷っている私の背を押してくれたのは北上さんだった。



私はその想いに嬉しくなり涙が零れてしまう。




大井「ごめ…なさっ…わ、私…か、帰りたいの…でも…でも…!」


北上『私も帰ってきて欲しいよ、大井っちがいないと寂しいもん…でもね』



電話越しの声のトーンで北上さんが本当に帰ってきて欲しいと思ってくれていることがわかる。




北上『でも本当に帰ってくるのなら…迷いなく帰ってきて欲しいなって思うよ』


大井「ありがとう…北上さ…っ…ぅ…ぐす…」




北上さんが私の気持ちを汲んでくれて心から嬉しくなり、その後は我慢できずしばらく泣き続けた。

























大井「北上さん、今から会える?」


北上『ん?少しくらいなら時間作れるよ?』








【前線基地 演習場】





呉「帰ってくるのかと思って来て見れば…北上と演習したい?」


大井「お願いします!」



私は前線基地の演習場に行き、呉提督に北上さんとの演習を願い出た。



呉「明日からこっちも作戦開始なんだけど…」


武蔵「良いんじゃないか?気の済むまでやらせてやれば」


呉「武蔵?」



以外にも後押ししてくれたのは連合艦隊旗艦と秘書艦を兼任する武蔵だった。



武蔵「これから大規模作戦に臨むのなら一切の迷いなくいければ良いだろう?それに…」



武蔵の視線は私に対峙している北上さんに注がれる。



武蔵「あんなにも殺気立った北上を見るのは久しぶりだからな」













北上「いいねー、大井っちとの久しぶりの本気演習かー、痺れるねー」





離れていても、飄々としていても北上さんからビリビリとひり付く殺気を感じてしまう。


北上さんの目は獲物を捕らえる前の獣のようだ。

あの目はこれまで大規模作戦で最深部の敵主力を撃沈しようとしている時の目と同じものだった。




ゴクリと私の喉が鳴る。



これまで練習巡洋艦として戦線から離れていた私には到底勝ち目があるような相手じゃない。





しかし『本気で北上さんと演習がしたい』と私から言ったのだ。


もうやるしかない。




呉「わかったよ、それじゃあ一回だけな」


大井「ありがとうございます!」




呉提督の了承を得て私は深い深呼吸をした後、北上さんを見る。







大井「全力で来てください!」


北上「ふふ、いくよー!!!」









武蔵「演習開始っ!!」





こうして私と北上さんの本気の演習が始まった。




















結果は言うまでも無く…








大井「ふふ、うふふ…」




私は海面に仰向けになって天を仰いで笑ってしまっていた。



自然と笑いが出るなんていつ以来のことかしら。



胸の中の高揚感はまだ収まる気配が無い。




北上「大丈夫ー?」




空しか映っていなかった視界に北上さんが入って来る。


北上さんは笑いながら私に手を伸ばしてくれた。



私はその手を掴み起こしてもらう。



大井「完敗ですね」


北上「ふふん、これがハイパー北上様の実力だよ。でも楽しかったよー、新しい大井っちと戦えて新鮮だった」




北上さんが笑顔で私への賞賛をしてくれる。




呉「いや、本当驚いた」


武蔵「以前の大井とは別人のような戦い方だったな」




正攻法で行ったら今の私の実力では到底北上さんには及ばない。


以前のように実力にモノをいわして戦うことができない私は考えられる限りの知恵を絞りながら全力で戦った。



正面、搦め手、禁じ手、予想外、想定内の動き



私の思いつく限りの戦いを試したけど



野生の本能剥き出しの北上さんに徐々に押され、最終的に魚雷の直撃を受けて私は敗れてしまった。




呉「これは今後の大井が楽しみだな北上」


北上「そうだねー、もしもあそこから帰ってきたら大井っちもハイパー大井っちになってるかもねー」


武蔵「なんだそれ、ふっ」


大井「本当、ふふ、あははははは」





その後は久しぶりに会った仲間達と笑い合い、色んなことを話した。




練習巡洋艦をして学んだこと



仲間達への指導や交流



作戦立案から実行、教育など



私は佐世保鎮守府で得たことを呉の仲間達に話した。





武蔵「これからどうするんだ?」


大井「もう少しあいつに付き合うつもり。まだ何も返せていないからね」


呉「そっか…北上」


北上「あいよー」



呉提督が北上さんに合図をする。



北上さんが演習場の奥から何かを持ってきた。




大井「これは?」


呉「俺があの地で書いていた日誌だ。何かの役に立つかもしれんから渡してやってくれ」




あちこち傷だらけの日誌だった。


使い込まれていて年季が感じられる。



日付は私が呉鎮守府に来るかなり前のものだった。




北上「それと…」


大井「あ…」




北上さんがもうひとつ渡してくれたのは




北上「いつ帰ってきても良いように準備してたんだよねー」



それはキレイにクリーニングされていた私の…




大井「北上さん…」


北上「いってらっしゃい、大井っち。絶対に生きて帰ってきてね」


大井「はいっ!!」



私はそれを受け取りながら北上さんとの熱い抱擁を交わした。





____________________







【大型船 甲板】




沖波「お、大井さん…」


親潮「大井さんっ!」


祥鳳「その服は…」



大型船内に居たのは大井だった。


彼女の服装は着任当時の軽巡洋艦でも指導用の練習巡洋艦のものでもなく



大井「どう?久しぶりに袖を通してみたのだけど」



重雷装巡洋艦の服を着ていた。



天津風「似合うわ!カッコいい!」


雲龍「ふふ…いいわね」


霧島「これが本来の姿なのですね」



大井が一緒に行くということに仲間達から喜びの声が上がる。



提督「服に着られないよう精々頑張るんだな」


大井「あんたこそ、私を使いこなせなかったら見限るからね」



提督の減らず口に負けじと大井が不敵に笑い応戦した。


その姿に周りから笑いが出てくる。






提督「それじゃ行くか」






艦娘達を乗せた大型船は佐世保鎮守府への道を進み始めた。










【佐世保鎮守府 執務室】




提督「ふう、ここももうすぐ見納めか」



鎮守府に戻るなり提督は執務室へ入り椅子に座る。


深くもたれ掛かって一緒に入ってきた艦娘達を見た。

全員が執務室に入ってきたため中はかなり狭くなっている。




祥鳳「提督、そろそろ…」


提督「ああ」



祥鳳が提督に『全てを話して欲しい』と視線を送る。

提督はそれを受け取りカバンの中からある書類を取り出した。



提督「俺の異動が決まった」


親潮「え…」


沖波「異動…?」


大井「…」



艦娘達が机に置かれた書類を見る。





その行き先は…





祥鳳「柱島…」




魔境と呼ばれる地獄のような鎮守府



柱島鎮守府への異動辞令だった。




衣笠「やっぱり…」


霧島「そういうことでしたか」


雲龍「そんな気はしてたけど…」



気づいている者、初めて知った者と反応は様々だ。



沖波「司令官、いつから…」


提督「ん?」


沖波「いつから柱島への異動を想定していたのですか?」




沖波が言いたいのは『この異動を想定して対策をしてきたのはいつからなのか』ということだ。


大井を作戦担当から外したり、無茶な訓練と課題を与えたり、ここ最近提督がやり方を変えてきたのはこの異動を想定してなのか。


沖波だけでなく全員がその真実を聞きたくて耳を傾けた。




提督「初めて俺と白友、呉提督との合同作戦をした時…穏健派の上層部を取り込み始めた九草が俺の前に現れた」



提督が言うのは二つ前の大規模作戦の時のことだ。



提督「その時からある程度の想定は始めていた」


祥鳳「そんな前から…?」


提督「ああ。穏健派の上層部を取り込み始めた九草にとって真っ先に障害になるのは俺だろうからな。何かにつけて難癖をつけたりヘマをさせようと足を引っ張りにくるだろうと想定していた」


沖波「あ…!」


イムヤ「どうしたの沖波?」


沖波「あのですね、この前の大規模作戦の時ですけど…出撃していなかった私達の前に九草提督の所の艦娘が現れて…私達の前で不安を煽るようなことを言って…」


提督「内部崩壊の足掛かりにしようとした、だろ?」


沖波「はい…」



九草の部下である曙と霞は出撃させてもらえず不満のあった仲間達の前であることないことを言って不安を煽った。



提督「当分そんなことを続けて艦隊が機能しなくなるようにしたかったのだろうが…それ以前に俺にとっても奴にとっても大きな誤算が発生した」


天津風「誤算…って…」


大井「あ…」


提督「俺がハチを轟沈させてしまったことだ」


イムヤ「司令官…」



提督の『轟沈させてしまった』という言い方にイムヤが申し訳なさそうな顔をする。


提督がハチの轟沈について彼女を一切責めることをせず責任を背負う姿が垣間見えたからだ。




提督「穏健派の上層部に強い影響力がある九草はここぞとばかりに俺を一気に追い詰めて柱島へと異動させようとした。おまけに内部崩壊に拍車を掛けて鎮守府運営すらできなくさせようとした。そうすれば異動先で俺が死ぬのは間違いないだろうからな」


大井「呉提督から聞いたわ。柱島への異動は通常と違って現在所属の艦娘を何人連れて行っても良いって」


提督「ああ。現在の最高戦力を以って臨むよう上から言われているからな。しかし九草はそれをさせまいと行動した。俺が餌をばらまいていることにも気づかずにな」


親潮「え…!?それじゃああのボイスレコーダーの話や動画って…!」


提督「全部俺がそうなるよう仕向けたに決まってんだろ」


沖波「ええ…」


衣笠「どこからそんな発想が…」


イムヤ「やっぱりね…言葉選びをしていたからそんな気はしてたわ」


祥鳳「九草提督に現場を任せるのも…普段ならばあり得ませんものね…」


提督「当然だ、あの慎重派のクソ提督が俺が轟沈について愚痴るよう録音の誘導しているのに気づかないわけが無いだろ。あはは」



不敵に笑う提督に対し艦娘は困惑を強める。



親潮「でも…どうしてですか?」


提督「何が?」


親潮「そこまで知っていたなら…どうして艦娘の皆さんを突き放すようなことを?司令ならば上手く皆さんに残ってもらうことだって…」


提督「篩いにかけるためだ」


天津風「篩い…それって妙な訓練させ始めたときから?50%とか言ってた…」


提督「そうだ。50%の合格は次に大規模作戦で使えるか対応力を見たもの、残る50%はもし今後柱島に異動した場合使い物になるかどうかの見極めだな」


祥鳳「あの時の訓練はそういうことでしたか…」


提督「あの時点で100%合格だったのは霧島と雲龍くらいだったがな」


霧島「お褒めに預かり光栄です」


雲龍「ふふふ」



褒められた霧島と雲龍が嬉しそうに頬を緩めた。



沖波「でも…それでも納得いきません…どうしてそんな司令官の悪いところを見せてまで篩いに掛けようと…?」


提督「時間が無かったんだよ。正確には無くなったというべきか」


親潮「無くなった…ですか?」


提督「元々は今回の大規模作戦が終わった後に全員の課題を明確にし、時間を掛けて戦える艦隊を作ろうとした。しかし俺のヘマで異動が早まり急いで残る者、ついて行けない者を選抜する必要が出てきた」


イムヤ「だからあんな煽るようなことを言い続けたのよね」


提督「ああ。この先俺がどんな人物か、信用できるかなんて関係無い、自分のために戦える、戦える理由の持てる奴だけを今後の柱島へと連れて行こうと思ったんだ」


沖波「それじゃあ司令官は…残る皆さんを危険に巻き込まないようにするために…?」


提督「良い方に考える奴だな」


沖波「え?ええ?」


衣笠「悪い方に考えると?」


提督「使えん奴はいらん」


大井「だと思った…」


提督「誰かの轟沈、悪い噂、俺の悪態にいつまでも引きずったり揺れ動いたりするような奴は今後連れて行っても足手纏いにしかならんからな」




一通りの提督の説明に皆は困惑しながらも納得するしかなかった。




霧島「しかしよろしいのですか?司令」


提督「何が?」


霧島「司令はこのままですと別れた皆さんに誤解されたままですけど…」


提督「そうだな。下手すりゃ異動先で俺の悪い噂を立てられて後々面倒なことになりかねないな」


沖波「そ、そんなことは…」


提督「無いって言えるか?モチベーションの低い奴らや不満のある女共の対処は面倒だったろ?」


沖波「う…」




実際に先日の大規模作戦のメンバーから外された艦娘達と一緒に居た沖波は何も言い返せなかった。




衣笠「ちょっとー!それって女の子に対する偏見じゃない?」


提督「偏見もくそも事実だろうが。俺は艦娘の教官からそう教わったぞ」


大井「あんたの歪んだ価値観はそいつのせいね…」


雲龍「それで…何の対処も無くて大丈夫なの?」


提督「ふ…」



雲龍の指摘に提督が余裕の笑みを返す。




提督「何のために俺が白友の所に頭を下げに行って艦娘達を任せるようお願いに行ったと思う?」


祥鳳「え…?」


提督「今頃俺の信頼する白友君は…」




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【前線基地 会議室】






時津風「そ、それじゃあしれーは…」


雪風「柱島へ…?」


白友「あいつ…やっぱり何も説明してなかったのか…」




会議室に集められ、全員の前で自己紹介を終えた元佐世保鎮守府の艦娘達の表情は驚きに包まれた。




ゴーヤ「てーとくは…」


イク「私達を巻き込まないため…?」


白友「それは断言できないが…少なくとも俺はそう思っている」




提督に土下座してまで艦娘達のことをお願いされていた白友提督はすっかり彼を信用してしまっていた。



葛城「私は信用しません」


天城「ちょ、ちょっと…!」


瑞鶴「葛城…?」


風雲「私も。元々あの人は信頼できないと思いますから」


吹雪「か、風雲さん…」



しかし気持ちの整理がついていない者は白友の言葉を鵜呑みすることは無かった。



白友「色々あっただろうから無理に聞き入れろとは言わない、だがあいつは実際に柱島へ異動することとなり過酷な道を行くことになった。それだけは頭に入れておいてくれ」


葛城「これからよろしくお願いします、白友提督」


風雲「あなたのような方にお仕えできて光栄です」


白友「はは…」



反抗するように頭を下げる二人に白友は苦笑いするしかなかった。




時津風「みんな…また会える…よね…」


雪風「大丈夫ですよ、きっと…大丈夫…」


天龍「ちっ…だったら尚更俺の力が必要じゃねーか…くそっ」


イク「イムヤ…」


ゴーヤ「大丈夫でち…生きて帰るって約束したでち…」




反抗する者、心配する者と様々な反応をする中…




陸奥「…」


長門「…?」




出戻りとなっても快く迎えられたはずの陸奥の顔色は酷いものだった。






白友「ふう…一筋縄ではいかないな…」


吹雪「大丈夫ですよ司令官!時間は掛かるでしょうがきっと誤解を解いてみせます!」


白友「頼りにしているぞ吹雪」


吹雪「はい!」




そんな中、ムードメーカー的役割の吹雪の明るい声が仲間達の大きな救いとなっていた。







【前線基地 演習場】





陸奥「…」




陸奥は何するわけでも無く誰もいない演習場で呆然と立ち尽くしていた。



頭の中では提督と霧島との最後の会話が何度も駆け巡っている。




『陸奥、正直お前にはガッカリしたぞ』


『期待外れだったな』


『陸奥さんこそ、本当によろしいのですか?』


『陸奥さんは何を求め、何が欲しくてこの鎮守府へ異動を決めたのかもう忘れたのですか?』


『強くなりたいという気持ちはその程度のものですか?』


『全て司令と大井さんの用意した作戦通りにこなしていただけです。盤上の駒に過ぎませんでした』




思い出せば出すほどに湧き上がってくる悔しさ、情けなさ、怒り、屈辱、そして自分への恥ずかしさ。



陸奥「ぐ…ぅ…」



自然と歯を食いしばり頬からは悔し涙が溢れ出る。





『弱い自分を変えて長門を超えたい』





そう自分に言い聞かせて、提督に伝え異動をしたというのに結局は掌の上で使われ、柱島への異動について何の気づきもできず、提督の期待外れに終わってしまった。

そんな自分が情けなくて恥ずかしくて涙がとめどなく零れた。



陸奥「っ…ぅ…ぅっ…」















長門「…」



そんな妹に声を掛けようかと思った長門だったが、この場は陸奥を見守るだけに留まった。



長門(この先はお前次第だぞ、陸奥)



これからの妹の成長を祈りながら長門は演習場を離れた。





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提督「そんなわけで俺への不満は白友君が解消してくれるはずだ」


大井「あんたのそういう抜け目ないとこ…本当感心するわ…」


提督「照れるぜ」


大井「呆れてんのよっ!!」









【鎮守府内 執務室】









提督「さて、どうする?」




ここで提督は改めて意思確認をする。




提督「この先に待っているのは地獄のような辛い日々だ。ここで引き返すのなら別に止めはしない。しかし向こうに着いたのなら任期の2年は戻ることはできない」



提督の表情はかつてない程に真剣そのものだった。

その表情からこの先に待っているものが如何に過酷であるかを艦娘は感じ取った。




イムヤ「私は行くわよ」



口火を切ったのはイムヤだった。



イムヤ「その環境で生き残ってこその証明になると思うから」





イクとゴーヤに約束した生きて帰ること。ハチの分まで生き続けること。

イムヤの表情からは迷いは無く、この先もついて行くことを言い切った。




雲龍「ふふ、腕が鳴るわね」



動じることなく雲龍は不敵に笑う。



雲龍「私にとっての本当の強さは何なのか、そこへ行けば見えてきそうな気がするわね」



雲龍からは不安などは一切感じられず心の昂りすら溢れている様だった。

そしてその瞳は以前見せた狂気めいたものは無く綺麗で澄んだ瞳に見えた。




霧島「私の目標はお姉様達よりも長門さん達よりも、海外戦艦よりも強くなることです」



同じように迷いの無かったのは霧島だった。



霧島「その目標に対してはうってつけの戦いになりそうですね!」



霧島の目標は誰よりも高く果てしない。

しかし彼女はその歩みを止めようとはせず、この先も戦い続けることを誓った。





天津風「正直あなたの厚意に甘えようとも思ったけど…」



天津風は少し楽しそうな笑みを浮かべている。



天津風「私、あの白友提督の所ってあまり楽しそうに見えないのよね、刺激が少なそうで」



その笑みは時津風や雪風が居る時には見せなかった自信に満ちた不敵な笑みだった。




大井「これまで練習巡洋艦として私を使ってくれたことを感謝してるわ」



大井は提督に対し小さく頭を下げる。



大井「この先はあんたへの恩返しも兼ねて頑張らせてもらうわ。明日には忘れてそうだけどね、ふふ」



本来の自分を取り戻そうとしている大井は提督に対し挑戦的な笑みを見せた。






沖波「司令官…あの…司令官が私を戦力外だと言った時…腹が立ちました」



沖波の言葉に周りの艦娘がギョッとする。



沖波「腹が立ったことは二つあります。ひとつは自分自身に…司令官の手の平の中でずっと遊ばれていた自分が情けないと思ったこと、もうひとつは私を戦力として見てくれなかったことです。必ず後悔させてやりますから。覚悟してて下さいね」



少し顔をひくつかせて言う沖波。

ここまで提督に対して物を言うことは無かっただろうが、初めて彼女は自分の中の本音を曝け出した様に見えた。


そんな沖波に対し、提督は無礼とも思うことなく楽しそうに笑みを浮かべていた。





衣笠「力になるよ提督、あの人の分まで」




提督の父に仕えていたことのある衣笠は自分の本当にしたいことを正直に話した。

しかし事情の知らない艦娘の方が多く目が点になっている者の方が多かった。




衣笠「あなたと親潮の行く末、この先もしっかりと見守らせてもらうからね!」




衣笠は臆することなく提督の過去に足を踏み入れる。

そんな衣笠に対し提督は苦笑いを返すしかなかった。





親潮「私は…過去に司令の大切なものを奪いました…」




重そうな親潮の話に執務室の空気が一気に暗くなると思われた。




親潮「私は…償いのためにこれからも司令に尽くそうと思っています。しかしこれは私自身の我が儘です、司令に許されたいという自分の願望です。そういうわけですので、司令、これからもどうぞよろしくお願いします!」




しっかりと自分の願望だと言い切った親潮に周りの艦娘は暖かい目で見守り、提督も少しバツが悪いという顔になるしかなかった。






祥鳳「ふふ、みなさん覚悟が決まっているようです」


提督「あーあ、知らんぞ。俺はちゃんと確認したからな」


大井「あんたこそ途中で逃げ出すんじゃないわよ」


提督「バカ言え」




執務室が笑いで包まれる。

それはこれから過酷な地へと行くような雰囲気はまるで感じられなかった。



祥鳳「私も…秘書艦としての仕事に心からやりがいを感じられて…この先もずっと秘書艦で居続けようと思っています」



自分の仕事に誇りと情熱を持つ言葉を最後の締めくくりにしながら祥鳳が全員に対し頭を下げる。



提督「…」



祥鳳の表情に一瞬陰りが見えたのを提督は見逃さなかった。








祥鳳「みなさん、これからもよろしくお願いします」





こうして集まった9人の艦娘の意思確認を終え、その日は解散となった。












提督は『明日の正午に出発、荷物をまとめておけ』とだけ言い、自分の部屋へと戻った。














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【祥鳳の部屋】




祥鳳「これでいいかしら…」




私は自分の部屋の荷物を段ボール箱に詰め一息ついた。


明日になると業者の人が荷物を回収するらしいからちゃんと忘れ物が無いようにしないと…




祥鳳「…」





何でしょうか…?


一人になるとどうしようもない静けさを感じます。




今までこんなことはありませんでした。



これは一体…





『祥鳳、手が空いたら部屋に来て手伝ってくれ』



部屋にある内線から声が聞こえました。



祥鳳「はい、今行きますね」



片づけを終えていた私はすぐに提督の所へと向かうことにしました。




今は何か…独りになりたくなかったからです。














祥鳳「…」




提督の部屋に向かう途中、廊下を歩くと違和感が強くなります。








誰もいない…とても静かな廊下




これまではそんなこと一切気にしなかったというのに




この静けさが段々と不安になり私の足は自然と早足になっていました










祥鳳「提督、祥鳳です」


提督「入れ」




ドアをノックすると提督の声が聞こえたので部屋に入りました。




祥鳳「あれ…?」



部屋を見ると提督の部屋はキレイに片付けられていました。

私が手伝うようなことは何も無いように見えます。


元々部屋に物をたくさん置くような人では無いとはいえ…



祥鳳「あ…懐かしいですね、これ」


提督「ん?」



提督の部屋に詰まれた段ボール箱を見るとこの鎮守府に来た時と同じ日付になっていました。


あの時は私もまだ来たばかりで提督のことをとても良い人なのだと騙されていましたね…



提督「お前を最初に抱いたのはここだったな」


祥鳳「もう…いきなりあんなことを言われてすごくショックだったのですよ?」


提督「この世の終わりみたいな顔してたもんな、くくく」



提督も懐かしそうに目を細めています。


私がこの鎮守府に来て3年…あっという間だったような気がします。




頭の中でこれまでのことが駆け巡りそうになった時




言葉では言い表せない感情が湧いてきそうになります。





提督「祥鳳、最初の命令だ」


祥鳳「え?」




一瞬何のことかわかりませんでした




提督「今からお前を抱く」




ああ…これは…



私がこの鎮守府に来た時の再現…




提督「服を脱げ。裸になるんだ」


祥鳳「…」





私は提督に言われた通り





祥鳳「はい…」





衣服を全て脱いで全裸になりました





提督の視線を感じて顔がカーっと熱くなります。




提督「本当、お前は変わらんな」


祥鳳「…」



私は恥ずかしさもあってベッドに座る提督に正面から抱き着きます。





祥鳳「抱いて下さい…」


提督「…」


祥鳳「何もかも…忘れるくらい…激しく…」





提督は両手で私の頬を掴むと優しいキスをしてくれました。



祥鳳「ん…ちゅ…」



激しくして欲しいと言ったのに…とても優しいキスでした。





今思えば提督は私が何を抱えているのか既に見抜いていたのかもしれません















































祥鳳「ん…んぅ!…ぁ…っ…」




提督は私に気遣うような優しい腰使いで




祥鳳「ん…!あぁぁ!!」




私の膣内に精を放出しました。




やはり今日の提督はとても優しく私を気遣ってくれています。





前みたいに目隠しをしたり恥ずかしい体位をさせたり道具を使ったりすることもありませんでした。






でも…




祥鳳(足りない…)






私は私を壊してくれるくらい激しく求めて欲しかったのに…





提督「祥鳳…」


祥鳳「今度は…私がしますね」


提督「おい…」




提督のモノを手でしごきながら口に咥えます



強弱をつけて刺激すると再び大きくなりました



祥鳳「失礼します…」




提督の上に跨って私の膣内に挿入させます



こうなったら自分で動くしかないと決めました





祥鳳「ん…ぅ…うぁっ…!っ…!」





この体勢は私の奥まで届くので刺激が強くなります



私は刺激が強いことをもっと求めたいとばかりに激しく動きました





















提督「祥鳳…」








無我夢中で動く私に








提督「祥鳳」








提督が声を掛けます




私は目を開けてどうしたのかと提督を見ます







祥鳳(え…)





提督の胸に何かがポタポタと落ちています




何か水滴が…




提督「…」


祥鳳「あ…」





提督が少し悲しそうな顔で私を見ています






どうして…




どうして…






どうして私は…




祥鳳「う…ぐ…ぐす…」





泣いているのでしょうか…








何度も振り払おうとした感情が湧いてきます

















天津風さん、時津風さん、雪風さんの楽しそうな表情







雲龍さん、天城さん、葛城さんの見事な連携






天龍さんのリーダーシップと面倒見の良さ、大井さんの完璧で頼もしい指導






間宮さんの作りだす優しさに溢れた料理






真面目な親潮さんと沖波さん、それを手伝う風雲さんと衣笠さん





陸奥さんと霧島さんの見度とな戦いっぷり





頼りになる潜水艦隊のイクさん、ゴーヤさん、楽しそうにまとめるイムヤさん







それを見ながら楽しそうな表情で本を読むハチさん













祥鳳「っ…ぅ…えぐっ…っ…」










もう…無くなってしまったんだ…





私の大好きだった日常が…













とても楽しくて充実した日々





提督に振り回されながらも築き上げた艦隊とその絆







それが粉々に砕けてしまっただけでなく









この先、とてつもない苦しい日々が待っている








私は…そんな寂しさと不安に押しつぶされそうになっていました









秘書艦としてのやりがいを感じているからこそ残った





そんなものは上辺です








私は…




本当は…



提督「まったく…お前は隠し事が下手だってここに来た時も言っただろうが」


祥鳳「え…?」


提督「祥鳳」


祥鳳「きゃっ…!」




そんな私の気持ちを見抜いてか、提督が私をベッドに倒し覆いかぶさってきます




提督「この先、もう自分を曝け出すことができなくなるかもしれない」


祥鳳「え…」


提督「言いたいことがあるなら今この場で全部吐き出してしまえ」


祥鳳「提…督…」



提督がしっかりと私の頭を掴み見つめてきます。








祥鳳(だめ…)





これだけは絶対に口にしないと固く誓ったというのに



提督の真剣な表情にその誓いが崩れ始めました






私もハチさんのように拒絶されたら




何もかも壊れてしまって立ち直れなくなりそうだったから…






提督「…」


祥鳳「ぅ…ぐす…提督…」





でも…






祥鳳「私が…あなたの傍に残るの…は…」






我慢できなくなってしまいました…






祥鳳「あなたを…愛しているからです…」


提督「…」




初めて提督に対する愛を口にしてしまいました



いくら私の感情を見抜かれていたとしてもそれだけは絶対にしなかったというのに…




祥鳳「あなたを愛しているからこそ傍に居たい…それだけです…っ…ぅ…それだけ…なんです…」




口にしてしまってまた涙が溢れだしました。



もう戻れない



もう、後戻りはできない



拒絶されたらどうしよう





そんなとてつもない不安は





祥鳳「ん…!んっちゅ…!じゅ…みゅ…!」




提督の激しいキスと







提督「祥鳳…俺にはお前が必要だ」


祥鳳「提督…」





提督の言葉がかき消してくれました。





提督「これからもずっと…俺の傍にいてくれ」


祥鳳「うっ…て、提督…!はい…はい!提督!私は、祥鳳はこれからもずっと傍に居ますから!」





私の想いに応えてくれる返事では無かったけど



提督が私を必要としてくれるという言葉にとてつもない嬉しさが湧いてきて



私は歓喜のあまり提督に抱き着き激しくキスをしました













祥鳳「好きです…!愛しています提督!私は…祥鳳はあなたの…あなたのために…!この命を懸けて戦います…!!」
















その後、私は力尽きるまで提督を求め




長い長い夜を過ごすことになりました











疲れ切って眠る時



提督はきっと私の不安を見抜き部屋に呼んでくれたのだと



その事に気づいた時、また嬉しさが湧き上がり



提督の傍で幸せな眠りに就くことができました














【翌日昼 港】





お昼を回る頃、私達は柱島への出発のために港へと向かいました。



港に準備された大型船に荷物を積み込み柱島へと向かうとのことです。





提督「来たな」


祥鳳「え?」


親潮「あの方は…?」



業者の方が船に荷物を積み込んでいるのを待っていると誰かが近づいてくるのがわかりました。


髪が長くメガネを掛けた凛々しい艦娘でした。




??「お待たせしました提督」


提督「ああ」



彼女は近づくと提督に対し深々と頭を下げました。



沖波「この方は…?」


提督「今日から新しくこの艦隊に加わる艦娘だ」


天津風「え…?」


大井「あなたは…」



顔を上げた彼女は私達をしっかりと見て再び頭を下げました。




大淀「軽巡大淀です。本日より佐世保…いえ、柱島鎮守府所属となりました。どうかよろしくお願いします」


祥鳳「…」




不思議な方でした。


凛としてしっかりした方に見えるのに同時に強い威圧感も感じます。



彼女がこれまでにどれだけの修羅場をくぐり抜けてきた艦娘なのか肌で感じることができてしまいました。




大井「大淀って…」


衣笠「大本営秘書艦の大淀さん!?嘘…」




大井さんと衣笠さんは知っている様でした。


大本営の秘書艦というのなら私達が遠く及ばない程の影響力を海軍内に持っていても不思議ではありません。



提督が以前から大本営の誰かに連絡を取っていたのは彼女なのかもしれません。




提督「軽巡不在のうちにうってつけの人材だ。みんな仲良くしろよ」




提督は彼女をかなり信用しているみたいです。


その証拠に着任したてで艦娘をここまで褒めることは今まで一度も…





祥鳳「…?」




違和感を覚えました。




提督と大淀さんの距離感が近いように見えるのに見えない壁のような物が存在しているようで…



あれは…まだ着任したての親潮さんとの間にあった壁のようなもの。




一体…どういうことなのでしょうか?




大淀「もうすぐ積み込みが終わります」


提督「よし、それじゃあ全員出発の準備をしろよ」





この時はそれがどのようなものなのか、わかることはできませんでした。








【大型船 甲板】






これから二日を掛けて柱島へと向かいます。



提督の話によると柱島と本土を結ぶ船は年に1度か2度しか無いようでほぼ片道切符になってしまうとのことです。


私は昨日提督に全てを曝け出すことができたので不安はほとんどなくなりましたが、他にも不安になっている人がいないか見回ろうと思いました。





大淀「祥鳳さん」


祥鳳「はい?」




そこに大淀さんが声を掛けてきました。



大淀「秘書艦の祥鳳さんですね。改めてよろしくお願いします」


祥鳳「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」




お互い頭を下げ合い改めて挨拶を交わします。





大淀「少し話をしませんか?着くまでまだかなり時間がありますので」




そう言って大淀さんは誰もいない方へと私を誘導しました。























祥鳳「あの…」


大淀「はい?」


祥鳳「大淀さんは提督とは…その、どのような関係で…」




船の端に来て二人きりになったところで私から話を切り出します。



大淀「ふふ、聞いていないのですか?『あの子』と私の関係」


祥鳳「え…」





あの子…?


提督のこと…?




大淀「あの子ったら…あれだけあなたに夢中だというのにそのことは話してはいないのですね」


祥鳳「え、ちょ、ちょっと…」



夢中って…



まさか…!




大淀「何度も執務室で身体を重ねていたじゃありませんか。見ているこっちが恥ずかしかったですよ?」


祥鳳「な…!?」




やっぱり…!



この人がずっと執務室の撮影をしていたのね!




祥鳳「どういうつもりですか!ずっと私達を監視していたのですか!?」


大淀「正確にはあの子の監視ですよ。私は祥鳳さんが着任することも秘書艦になることも一切知らされてはいませんでしたから」


祥鳳「え…?」




一瞬



大淀さんがとても寂しそうな顔を見せたような気がしました。




祥鳳「一体なんの目的で…!」


大淀「ある方からのお願いです」


祥鳳「それが誰なのか…!」


大淀「お話できません。でも大丈夫ですよ、少なくともあの子に害を与えるような関係ではありませんので」



大淀さんは不敵に笑い私の質問を躱しました。



大淀「この前は驚きましたよ。あの子から『大本営を経由して九草に俺が所属艦娘に嫌われるような餌を与えろ』って言われて」


祥鳳「それってあの動画…」


大淀「はい、私がちゃんと編集して大本営穏健派役員に匿名で送りました。あなたとの夜や親潮さんのこと、過去のことはちゃんと編集されていたでしょう?」


祥鳳「…!!」




この人に私と提督が肌を重ねたことや親潮さんと提督のやり取りが全て筒抜けだったと思うと恥ずかしさとともに怒りも湧いてきました。







でも…





大淀「忠告しておきます」


祥鳳「え…」



急に真剣な表情で言ってきた大淀さんに私は言葉を失います。




大淀「これ以上あの子に深入りしないで下さい」


祥鳳「…」


大淀「でないと…あの子が目標に近づいた時、あなたには避けられない悲しい別れが訪れますよ」




大淀さんは私に対し嫌がらせとも取れるようなことを言ってきましたが…


その表情が真剣でどこか悲しいものを含んでいたためきつく言い返すことができませんでした。




祥鳳「ご忠告ありがとうございます、ですが私は提督の傍を離れるつもりはありません」


大淀「…」


祥鳳「それに…そんなことには絶対にさせません。そのために私は提督の傍に居るのですから」




私は迷いなく大淀さんにそう言いました。


提督の中の過去、家族を喪った悪夢、復讐。


それらを終わらせ親潮さんとの本当の絆を作る。


私が描いてきた理想、それが近づきつつある今、絶対に譲るわけにはいきません。





大淀「そうですか…」




大淀さんは私の回答を予想していたかのようにすぐに諦めたようです。




大淀「忠告はしましたからね」





そしてまるで提督が使いそうな言葉を残し、その場を離れて行きました。



















後に残された私に不安が湧いてきそうになりましたが







祥鳳「負けませんから…!」





そう言って自分を発奮します。
























提督と艦娘達を繋いでいた絆は







ガラスのように砕けてしまいました。









しかし砕けたガラスの残骸は







それぞれがそれぞれの想いを持って







提督の傍に残りました









その想いは強く、誰にも負けない信念があります














そんな強い想いを持った私達ならこの柱島での戦いを乗り越えられる…!












そう信じながら








私は顔を上げて走り出しました
















____________________


     第3部   ガラスの残骸 終

















【予告】



























あれから2年




























柱島から帰った彼は…
































「がっかりだな白友、お前に任せたのは間違いだったみたいだな」


























































(どうしてこっちを見てくれないんだよ…しれー…)

























































「あいつらを助ける義理なんか無い、見殺しにする」
























































すっかりと変わってしまった…

























































「ごめんなさい…私には二人を見殺しになんてできないから…!」
























































「すみません司令官…すみません…!」
























































提督の傍を離れて行く者が…
























































そして…彼女が提督の前に再び現れた
























































「久しぶりだな、お前がここまで出世するとは想像していなかったぞ」
























































「思い出せ、お前は復讐のために海軍提督になったのだろう…?くくく…」
























































「ねえ…本当なの…?」



「親潮が…あの人の家族を手に掛けたって…」
























































彼女との再会は提督と親潮の心を大きく搔き乱す
























































「こんな時に祥鳳さんがいないなんて…」


「あいつ…前に言っていたのよ」


「『思い出すから辛い』って…」

























































「わかっています…私が許される日なんて来ないことくらい…」


「それを知っていながら…ずっと司令に甘えていました…」
























































「司令…お別れです…」

























































「なあ親潮、お前に言ったこと覚えているか?」
























































通信機越しに聞こえてきたのは



演技とは到底思えない艦娘の絶叫でした





























































提督は…
























































私達の前から姿を消しました…
























































____________________


ガラスの絆  第4部  〇〇の終わり








pixivでは『沖波の柱島日誌』があります。

興味のある方はそちらもどうぞ。






























柱島が変えたもの











【2年後 大本営】







「それでは九草君を少将に…」



「異論無し」



「異論ありません」



「では手続きに…」







大本営に集められた役員達は会議の場で九草提督の昇格を滞りなく済ませる。






「白友君は…」



「これまで通り資源確保に…」



「結果は中々だが…」



「ヘマをした彼が悪い…それに…」



「融通が利かないからな、白友君は」






あはははは、と会議室が笑いに…いや、嘲笑に包まれた。






「九草君は?」




「元帥閣下の娘さんと…」




「相変わらず手の早いことで…」






現海軍の影響力の強い穏健派役員が占める会議室




そこに一人の艦娘が現れる





鹿島「失礼します、大本営秘書艦代理の鹿島です」




その艦娘の入室に全役員が黙る。



海軍に影響力の強い彼女を敵に回してはいけないことを知っているからだ。




「何か用か…?」



「もう今日の会議は終了…」




鹿島「大淀さんが帰って来ました」



「なっ!!?」




鹿島から告げられた言葉に全役員の顔色が一斉に変わる。




「どういうことだ!?」




「彼女は柱島に行っていたはずでは!?」





本当は『柱島で死んだはずでは』と直接こう言いたかったのだろう。




しかし鹿島の手前、役員達は遠回しに質問をしていた。





鹿島「うふふ」



「ま、まさか…」



鹿島「大淀さんの報告によりますと…柱島の全海域の攻略を終えたそうです」





鹿島の言葉に会議室が混乱の渦と化す。




驚き、戸惑い、焦り、恐怖




その混沌とした会議室の中、鹿島は薄く笑いながら話を続けた。




鹿島「撃破報酬と海域攻略の報奨金の手配と柱島鎮守府の提督さんの昇格手続きに入りますがよろしいですね?」




「う…しかし…」



「そんなこと急に言われても…」



鹿島「あ、そうそう。柱島鎮守府の提督さんからの伝言です。『規定通りにしなければお前ら全員まとめて消してやるからな』だそうです」





鹿島の声自体は優しいが、その言葉にとてつもない重みを感じた役員達は閉口するしかなかった。


あの魔境と呼ばれ、着任した提督が死ぬか逃げるかしかありえなかった柱島を攻略したということはそれだけのものである。





鹿島「柱島鎮守府海域攻略の資料はこちらです。それでは失礼しますね」




資料を置いた鹿島は深々と頭を下げて退室した。


















鹿島「…こんな感じでよろしかったでしょうか?」



大淀「ありがとうございます鹿島さん、2年間の秘書艦代理もお疲れ様でした」



鹿島「いえいえ、あの人達を掌で転がすのって結構楽しかったですよ?うふふ」



大淀「そんな悪そうに笑わないで下さい」



鹿島「何を言いますか!こういうこと教えてくれたの大淀さんですよ?」



大淀「そうでした?」



鹿島「そうですっ!うふふ」



二人は楽しそうに笑いながら廊下を歩く。


途中、大淀の姿を見る大本営の職員たちはギョッとした顔を見せながらも彼女に頭を下げていた。




大淀「申し訳ありませんが…明日まで休みをもらってよろしいですか?」


鹿島「構いませんけど…どうしました?」


大淀「少し…休…み…」


鹿島「あっ!」



大淀が倒れそうになったところを鹿島が慌てて支える。


大淀はそのまま鹿島に寄りかかり眠りに就いてしまった。






鹿島「お疲れ様でした大淀さん…お帰りなさい」






鹿島は優しい言葉を掛けた後、大淀を連れて自分の部屋のベッドに彼女を寝かせた。












____________________










【大本営 パーティ会場】





九草「…ということで私の昇格が決まりまして」


元帥娘「ふーん…」




大本営のパーティ会場で九草は元帥の娘に取り入ろうと行動していた。



元帥就任5周年を祝ってのパーティということで元帥の一人娘も参加しており、その機を逃さずと動いていた。

しかし元帥の娘は九草の話を『またこの手のタイプか』とつまらなさそうに聞き流していた。



そこへ…





部下「あの…」


九草「なんだ、今忙しい。後にしろ」


部下「し、しかし…」



慌てた様子の九草の部下は引き下がろうとしない。



元帥娘「いいわよ?言ってみなさい」


九草「…さっさと言え!」


部下「は、はい…!あの、じ、実は…」




部下は九草に柱島鎮守府の提督の帰還を伝えた。




九草「…」


部下「九草提督…?」


九草「…」


元帥娘「あら」



先程までつまらなさそうにしていた元帥の娘が今日初めて笑みを浮かべる。



元帥娘「鏡を見た方がいいわよ。じゃあね」


九草「…」




元帥娘の言葉すら聞こえない程に九草は呆然と立ち尽くしていた。






その顔からは焦りを必死に隠そうとする血の気が引いたものが表れていた。









____________________








【大湊鎮守府】




白友「みんな、遠征お疲れ様!」




帰投した艦隊を白友が迎える。



大潮「今日もアゲアゲの物資確保です!」


霰「いっぱい…あるよ…」



白友の迎えに艦娘達が喜びの声を上げて駆け寄る。



大潮「この調子でもっともっと任務をこなしましょう!」


霰「そうすれば…きっと…ね…」


白友「ああ、そうだな…それじゃあ資源を保管庫に移動してくれ」




大潮と霰は獲得した資源を持って保管庫へ移動した。








白友「なに…やってるんだ…俺は…」




二人が離れると白友は暗い顔を見せる。



曙「このクソ提督!なにしょぼくれた顔してんのよ!」


白友「っ!!」




いきなり後ろからの大きな声に白友の背筋が伸びる。


振り返ると同じく資源獲得して帰ってきた曙と霞が白友を睨んでいた。



霞「いちいち下向くんじゃないって何度言ったらわかるわけ!?本当にクズね!」


白友「す、すまない…」


曙「すぐ謝るんじゃないわよ!辛気臭いったらないわ!!」


白友「うぐ…」



二人の強い言葉に白友は思わず口を噤む。



霞「さっさと次の遠征会議をするわよ!グズグズしない!」


白友「あ、ああ…満潮は?」


曙「今日来る大本営役員を迎えに行くって今朝言ってたでしょう!?もう忘れたの!?」


白友「そ、そうだったな…」


望月「ほらいくよー、大丈夫だって。私だって真面目にやってんだからすぐに帰れるって」


三日月「頑張りましょう司令官、きっと皆さんの所に帰れるよう私達が力になりますから!」


白友「ありがとうな…」



そのまま白友は二人に言いたい放題言われ、望月と三日月に励まされながら会議室に連れていかれた。








??「…」









その様子を静かに見ていた男の表情が変わる。




それは怒りを噛み殺すような歪んだ表情になっていた。








あいつら…



あんな舐めた口を利きやがって…






??「提督?どうしました?」



彼の傍に控える秘書艦が心配そうに顔を覗き込む。


その視線に気づいて彼の表情はゆっくりと笑みに変わる。



『ああ、これはまたろくでもないことを考えている』



そう思い秘書艦は呆れながら浅いため息を吐いた。







??「くくく、あいつらにはきついお仕置が必要だな」







邪悪な笑みを浮かべながら彼は白友が会議室から出るのを待つことにした。














____________________




⑦に続く、かどうかはわかりません。



第四部突入 物語はついに終盤へ



















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1: SS好きの名無しさん 2020-04-14 15:17:46 ID: S:MiBT8B

この物語に救いは無いと改めて
再確認された。
ここ最近の甘々な(?)雰囲気に浸かれ過ぎて
忘れてたよ…。

2: SS好きの名無しさん 2020-04-16 07:06:34 ID: S:MqqpSs

救いがあって欲しいと願う一方で、この壊れる感じが美しく楽しく面白いです。

なんか、積み上げたものを崩すときの一瞬の美しさがあります!!

3: tm_brother 2020-04-18 19:13:58 ID: S:ZaAbT1

あぁもうほんと好き!
コロナで自宅に留まる時間が多くなったけど、この作品や前作(pixivの方)を読みながら満喫出来ます!
クソ…じゃなかった九草がまた良いキャラしてますねぇ、登場人物全てに魅力を感じるので周回しても飽きませんわ

4: SS好きの名無しさん 2020-04-21 23:32:35 ID: S:oIv-HE

これからのイムヤに注目かな?
自分にとって艦これアーケードにて
初めての潜水艦娘なんで…

5: ウユシキザンカ 2020-04-29 09:20:20 ID: S:B1lsN_

>>1 甘い日々の反動で悲劇がより際立ちます

>>2 ガラスと同じ、美しいものほど壊れた時の衝撃は大きい

>>3 たくさんありますからね、ぜひとも楽しんで下さい

>>4 アーケードの潜水艦の強さは異常、これからも注目して下さい

6: かむかむレモン 2020-04-29 10:23:12 ID: S:FskoUy

自粛期間だからじっくり読めていいゾ^〜これ
やっぱ物事は壊れゆく様が乙なんやなって…(恍惚)

7: SS好きの名無しさん 2020-04-29 13:13:33 ID: S:UxWrE4

この状態からのしあがって凡てをボコボコにしてほしい気持ちもあるが、砕ける瞬間が堪らなく気持ちいい。



8: ドイツ騎兵 2020-05-09 11:31:02 ID: S:PSiAJr

超面白くなってきた!柱島鎮守府にいる艦娘達との関わりが楽しみ。

9: SS好きの名無しさん 2020-05-17 23:13:14 ID: S:qNraN8

今何割進行しましたか?
まだまだ読んでいたいですね

10: ウユシキザンカ 2020-05-18 07:11:18 ID: S:dA4E3z

>>6 壊れる時こそ一番美しいですからね。

>>7 ガラスが壊れると良い音がするのと同じ感じです。

>>8 誰も行きたがらない柱島、当然艦娘なんて…

>>9 これで7割くらいですね、先は長い…

11: SS好きの名無しさん 2020-05-19 12:31:52 ID: S:-sqV2b

んほぉ〜最高ですよ…
ハチが嫁のワタクシとしましては涙無しには読めませんでした。ですがこういう、常に不安がまとわり付くような嫌な(褒めてます。)雰囲気を書ける作者さんは素晴らしいデス。

12: SS好きの名無しさん 2020-05-29 15:29:31 ID: S:q5NYKk

7に続きますよね?
このssのファンなので続いてくれないと1日8時間しか寝れません。


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1: Adacchieeee 2020-05-06 23:00:45 ID: S:bAniY2

はまるね‼絶対に‼


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