2015-06-21 11:21:16 更新

概要

加賀さんを主人公とした話です。
ふと思いつき、今回書いてみました。
長編として執筆していく予定です。

内容としては、艦娘思いだった提督が一変して冷酷な性格へと変貌してしまい、
加賀と赤城は、非情な作戦を命じられ……。
といった感じです。
これだけ書くと相当暗い作品と思ってしまいそうですが、暗いのは物語の冒頭だけで、
これから後は色々な要素を入れて楽しめる作品を書いていく予定です。
もし宜しければ暇つぶし程度にでも読んで下さると嬉しいです。

長々とお読みくださりありがとうございました。
次は戦闘シーンを書いていきたいと思っています。


一章:加賀視点 


………どうしてこんな事になってしまったのだろう。

 

 頭上には突き抜けるような青空が広がり、足元には澄みきった大海原がどこまでも

続いている。

 時折優しい風が頬を撫で、髪を揺らしていく。

 波と風の音しか聴こえない、静かさに満ちた空間。

 そんな光景の中に、私と『彼女』は佇んていた。

「赤城さん………」

 私はぽつりとそう呟いた。

 袴に身を包み、片手に弓を持った赤城さんがこちらを見つめてきた。

 彼女との距離は20mはあるだろうか。

 遠いとも近いとも言えない距離だが、その優しさに満ちた瞳の存在感はとてつもなく

大きく、私の心を締め付けた。

(わたしはどうすれば……)

 先程から何度自問自答しても答えの出ない、自分自身への問い。

 この様な現状を引き起こした張本人は、遠く離れた一隻の船から私達の事を見ている。

 私の所属する艦隊を取り仕切る人物。

 つまり我が艦隊の提督が、この事態を引き起こした。

 ……今朝早く、私と赤城さんは提督に呼び出され、執務室へと向かった。

 何事だろうと思い気を張り詰めていると、その言葉は私達に唐突に告げられた。

「君らには命を懸けた戦いをしてもらう。どちらかが倒れるまで勝負は終わらない。

つまり、生き残った方が勝ちという事だ」

(……え、一体何を言っているの)

 私の中に、まず芽生えた感情は、困惑だった。

 私達をおちょくっているのだろうか。そんな風にも思えた。

 だが提督の瞳を見る限り、嘘を言っているようには見えない。

 事実、今までに一度も、提督が嘘を言った事はなかった。

 故に先程の言葉は私の頭を混乱させた。

 本気で言っているの? どうして? あんなに私達艦娘を大事にしていた提督が何故。

 ぐるぐると様々な思いが渦巻いて混乱していると、隣に立っていた赤城さんがふと言葉を発した。

「了解ました。提督」

 瞬間、全身の血が凍った様な異様な寒気を覚えた。

 彼女の方を見ると、そこには引き締まった表情を浮かべ、提督を見つめる赤城さんの姿があった。

「……ど………どうして」

 震える唇から発した言葉は弱々しく、今にも消えそうだった。

 対する赤城さんは目を見返してくると、微笑を浮かべ優しい声で呟いた。

「提督の指示ですから」


 ……それからしばらく、私は一人その場から動けないでいた。

 気が付くと執務室には私一人が取り残されていた。

 赤城さんは何故この現状をあっさりと受け入れたのだろう。

 それが分からなかった。

 とその時、周囲に一発の銃声が響いた。

 私と赤城さんの戦いの開始の合図だ。

 心臓が早鐘を打ち、全身から汗が噴き出る。

 どうすればどうすればどうすれば。

 指は小刻みに震え、今にも弓を海原へと落としてしまいそうだった。 

 救いを求める様に赤城さんの方を見ると、彼女は矢筒から矢を引き抜くと、弓につがえていた。

 そして弓を頭上まで打ち起こし、弦をきりきりと引き絞りながら私に狙いを定めていた。

(うそ……赤城さん)

 本当に射るつもりなのだろうか。

 だが、彼女の表情には闘気がみなぎり、鋭い眼光は私に狙いを絞っている。

 底知れない恐怖が全身を支配し、その場を動く事が出来ない。

 それから数秒が過ぎ、世界が制止したように感じられる中、その瞬間が訪れた。

 

 赤城さんの弓から、一本の矢が放たれた。



二章:赤城視点


 放たれた矢は風を切りながら一直線に対象へと向かって行く。

(加賀さん……)

 お互い20m程離れているが、その程度の距離など矢にとっては一瞬に過ぎない。

 2秒後に目標に到達。加賀さんの耳を掠め、そのさらに数秒後にはもう遥か後方へと消えていった。

 最初から当てるつもりなどなかった。

 だって、加賀さんは私にとって大事な人。

 命を奪うなんて出来るはずがない。

 対する加賀さんは冷静さを失っているのか、手が小刻みに震えている。

 無理もない。突然こんな状況に追い込まれて平静を装っているほうが厳しい。

 私もちょっと気を抜けば底知れぬ恐怖から、今にも膝から崩れ落ちてしまいそうだった。

 さて、次の一手はどうするか。

 このまま何もしないでいては状況は一向に改善しない。

 かといって戦うつもりなどもない。

 仮に逃げたとしても、この広い海だ。

 隠れる対象物など何もないし、すぐ見つかってしまうだろう。

 ……一体どうすれば。

 と、その時だった。

 背後で突然爆音が鳴り響いた。

「!?」

 振り返ると、前方に大きな黒煙が上がっている。

 数瞬後、風に乗って火薬の匂いが鼻を突いた。

 やがて煙は薄れていき、その向こうにとある影が見えた。

(敵!?)

 そこには紛れもなく敵の姿があった。

 その数3。

 編成は駆逐2の重巡1。

 こんなに接近されるまで気づかなかったなんて。それほど自分に余裕がなかったという

ことなのだろう。

 敵はゆっくりではあるが接近してきている。

 今はとにかく目の前の敵を排除しなければ、私たちの命はない。

「加賀さん」

 大きく声を発してみたが、周りの音が聞こえていないのか返事がなかった。

「加賀さん!」

 ハッとしたような表情を浮かべ、やっとこちらに振り向いた。

「今はとにかく敵を倒しましょう! 後のことはそれから考えましょう」

「わ……分かったわ」

 弓を握り直し、私は今排除すべき対象へと向き直った。

 ここで沈む訳には……。

 色々と溢れてくる思いを抑え込み、戦闘態勢へと意識を切り替えた。


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しらこさんから
2015-05-03 00:22:09

たぬポンさんから
2015-05-02 10:13:05

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