2021-01-22 18:34:10 更新

概要

魔物と共存する村で育った少女は街に出て、念願だった冒険者になるのだが・・・


前書き

自分の中では完結している作品です。
時間を見つけて更新していく予定ですが、別作品と同時進行になるため、更新は遅いかもしれません。
オリジナルとか言いつつ、パロディも織り交ぜていきたいですね。
温かい目で見守っていいただけると幸いです。

キャラ紹介はネタバレを含むため、後書きにまとめます。


皆は小さな街だと言うけれど、辺境の村で育った私にしてみれば、この街だって充分に大きな街だ。


この街に住む人達は、田舎者の私にも優しくしてくれる。


目に映るものすべてが新鮮に見えて、私は浮かれていた。


憧れだった冒険者にもなれた。


これから楽しい生活が始まるんだって、そう思っていた・・・。



私の故郷では人間と魔物が一緒に暮らしている。


彼らの得意分野で力を貸してもらう代わりに、彼らには生活の場を与え、支え合って暮らしていた。


力仕事の得意なオーク、手先の器用なゴブリン、毒素の浄化ができるスライム、山菜や薬草に詳しいドルイド・・・。


皆、大切な友達だ。


それが当たり前なんだって、思っていた。


だから私は、"魔物遣い"になった。



街の郊外にはスライム達が暮らしていた。


少し森の方へ行ってみると、鳥の魔物達が居た。


私は皆と友達になった。


魔物遣いと言っても、単に魔物を使役し、命を下して闘わせる訳ではない。


共に道を歩む仲間として支え合い、この世界を生きていくのだ。


普通は"従属の契約"というものを結ぶみたいだけど、私はそうしない。


彼らは、意志を通わせ共に道を歩んでくれる大切な友達なのだから。


だけど皆は、契約を結んでいない魔物を理性の無い怪物だと言う。


魔性の物だと、皆は言うのだ。


そんなもの無くたって、ちゃんとわかり合えるのに・・・。



街に帰ると冷たい瞳が私達を囲んでいた。


心無い言葉が浴びせられ、小石が飛び、魔法までもが飛んできた。


決して人間に手を出さず、必死に私を庇ってくれた大切な友達が一体、また一体と倒れ動かなくなっていった。


拳大の石礫が瞼を掠め、視界が紅に染まる。


滴る血に歪む人間の顔は、最早原形をとどめていない。


それはまさしく、"理性の無い怪物"の姿だった。



私の瞳に映る世界は変わってしまった。


この街には黒い仮面をつけた何かが蠢いている。


どれだけ目を凝らしても、その深淵は誰にも覗き得ない。


あの仮面の下にはきっと、怒りと恐怖に濁った瞳が、深く心を抉る言葉が、大切な友達を奪った悪意が隠れている。


もう誰も信じない・・・。


もう誰も、信じられない・・・。



なんて狭い街だろう。


私は最近、そう思う。


初めてこの街に来た頃は、違ったはずなのに・・・。


いつから運命の歯車は狂ってしまったのだろう。


きっと、あの日からだ。


私が全てを失った、あの日から・・・。



なんて狭い街だろう。


この街の何処に居ても、黒い仮面が追ってきた。


殺意を向けるもの、下心をのぞかせるもの、或いはまた別の何か・・・。


この街に安息の場所は無い。


私はもう、怯え疲れていた。


いっそのこと、あの黒い闇に呑まれてしまおうかと考える程に・・・。


私は全てを失った。


この手には何も残っていない。


だからもう、失うことに怯えなくていい・・・。



「・・・だ、・・・い・か?」


声?・・・だれ?


「・は・だ、生き・いるか?」


私に、話しかけてるの?


「えっと、聞こえてないのかな?生きてる?」



目が合った。


白い髪に整った顔。


紅く煌めく瞳が、私を見つめていた。



「あぁ、良かった。生きてるみたいだね。立てるかい?」



何の躊躇いも無く差し出される彼の手に、思わず手が伸びていた。


慌てて引っ込めようとしたけれど、もう遅かった。


伸ばした手を掴まれ、若干強引に引き寄せられる。


勢いあまって、彼の胸にもたれかかるようになってしまった。


視線を上へと向ける。


ちょうど見上げたところには、彼の微笑みがあった。


柔らかな、それでいて少しぎこちない、素直な笑顔だった。


私の瞳は彼の微笑みに吸い寄せられていた。


「さぁ、行くよ。付いてきて。」


私の手を握る力が強くなる。


彼は少し強引な人だ。



心地よい陽差しの当たる道を、彼に手を引かれながら歩いていた。


日陰の中を逃げ惑っていた私には、陽の光が少し眩しい。


不思議だ。


この街に蠢く何かは全部、黒い仮面を被っているのに・・・。


彼は、彼の顔は確かに見えていた。


私の瞳には彼以外が映らなくなっていた。


真白く陽の差すこの世界に、私達だけが歩いているような気がした。



街の外に出た。


あの日から、どれだけの時が経ったのだろう。


不自然に揺れる草原がとても懐かしい。


彼はまだ、私の手を離さない。


しばらく歩いて、森の入り口に着いた。


小鳥とは違う歪な鳴き声が聞こえる。


不器用だけど、確かな優しさを感じる声だ。


彼が口を開く。


「君に頼みたいことがある。」


私の手を握ったまま。


「君にしか、できないことだ。」



嬉しかった。


今までに掛けられたどんな言葉よりも、彼の言葉が心に響いた。


私は泣いていた。


彼の胸に顔を埋め、無様に声を上げながら泣いていた。


流石の彼も驚いたようで、少し狼狽えていた。


それでもそっと、私を包み込んでくれた。


彼の温もりが私の凍てついた心を融かし、溢れた水が涙となって流れ出してくる。


そんな気がした。



ふと気が付けば、魔物達が集まって来ていた。


私達は囲まれていた。


でも、何も心配は要らない。


皆の瞳を見れば判る。


私のことを心配してくれている瞳だ。


大丈夫。私は大丈夫だから。皆、心配しないで・・・。


そう、私は大丈夫。


私には、私を必要としてくれる人が居るから。


私を心配してくれる友達が居るのだから。


皆が居てくれるなら、きっともう哀しみの涙は流さなくていい。



彼の頼み事は、回復薬を生成する手伝いをして欲しいというものだった。


安定した回復薬の供給が確立されていないこの国にとって、それは急を要する課題となっている。


回復薬の生成は良質な薬草から、治癒の成分を抽出することで成されている。


薬草を煮て灰汁を除き、磨り潰して治癒効果のある成分を抽出する。


それを清浄化して水に溶かせば、それが回復薬だ。


この手法は手間が掛かる上に生成できる量が少なく、安定した回復薬の供給が困難となっている。


その為、この国に於ける回復薬の市場価値は非常に高い。


貴族か上級冒険者でもない限り、手に入れることさえ難しい。


街の市に並ぶような回復薬は、まともな生成もされていないような紛い物ばかりだ。


気休め程度の効果も期待できはしない。


言ってしまえば、苦味の強い力水みたいなものだ。



回復薬を独自に生成するという彼の思惑には賛同する。


だけど、成功するかどうかは別問題だ。


質の良い薬草は全て、国が厳重に管理している。


許可無く持ち出そうものなら、問答無用で極刑が下される。


私達が原料として使えるのは質の悪い薬草だけだ。


しかしそれでは、まともな回復薬の生成などできるはずがない。


幾人もの錬金術師がこの課題に挑み、敢えなく散っていったのだ。


一介の盗賊である彼に、そんな技能があるとは到底思えない。


その手の研究書を彼に見せてみるが・・・。


「薬草を分けてもらえないとは、これは参ったね。」


それ以前の問題だった。



「いやぁ、それにしても。随分と厳しいんだね。盗みはともかく、管理地に迷い込んだだけで追放だなんて。」


当然です。常識ですよ?


「粗悪な薬草を使うしかないとはね・・・。」


無理にやる必要はないんですよ?


回復薬の生成は国家錬金術師でも難しいことなんですから。


私は、貴方と、皆と居るだけで幸せですから。



ふと、嫌な考えが頭をよぎった。


若し彼がここで回復薬の生成を諦めてしまったら、どうなるだろう。


私は回復薬を生成する為に必要とされているのだ。


回復薬を諦めた彼にとっても、私は必要なのだろうか。


幸せとは、呆気ないものだ。


あの街で掴んだ幸せも、彼がくれた幸せも・・・。


一日と続くことなく、私の手を離れていく。



「あのさ。」


思わず身体が強張る。


視界が歪み、暗転する。


私はまた、暗闇の底に沈むのだろうか・・・。


あの日の記憶が蘇ってくる。


心無い言葉が頭の中で反響する。


滅茶苦茶に乱れる意識の中で、彼の言葉が響いた。


「実は、薬草の質なんて関係ないんだよね。」


・・・えっ?


「君さえ居てくれれば、薬草の質なんて問題にならないからさ。」


私はこの時のことを忘れない。


優しい人のする意地悪な顔とは、こんなにも愛おしいものなのだと初めて知ったのだ。


だけれど、今後こういう心臓に悪いことは辞めてもらいたい。


私は彼の鳩尾を小突いて抗議する。


彼が地に膝を着いたのは、ここだけの話だ。



彼の計画の主軸にあったのは薬草ではなく、私だった。


そもそもの疑問だが、田舎娘の私に何ができると言うのだろうか。


街の図書館にある書物を読み漁った御蔭で知識だけは一人前と自負しているが・・・。


それだけでどうにかなる程、この世界は甘くない。


回復薬の生成に於いて、最も難しい工程は毒素の除去、つまり清浄化だ。


これができる者は、国家錬金術師として王室に迎えられるとか・・・。


そんな技術を私が持ち合わせている訳がない。


彼はいったい何を考えているのだろう。


私には、皆目見当も付かなかった。


当の本人は嬉々として薬草を摘んでいる。


言葉の通じるはずのないスライムに語り掛けながら・・・。


異様な光景ではあるが、不思議なことに、ちゃんと会話が成立しているようにも見える。


敵意の無い彼を仲間と認識しているのか、彼の周りには数体のスライムが付いて回っていた。


この世界も、彼くらい優しければ良かったのに・・・。


叶いもしない夢を抱き続けること程、空しいことは無い。


私がこの世界に何かを望むのは、もうこれきりになるだろう。



「よし。これだけあれば、流石に足りるかな。」


薬草の採集は恙なく終わった。


街近郊の森は陽当たりが悪く、粗悪な薬草の群生地になっている。


これからも、素材集めに苦労することは無いだろう。


「さて、ここからは君の独壇場だよ。」


彼は些か、ややこしい言い方をする。


詰まるところ、私にしかできないことがある。


そう言いたいのだ。



薄暗い森の帰り道、唐突に彼が口を開く。


「知ってるかい?この世界には様々な種類のスライムが居ることを。」


当然、知っている。


彼らにも人間のように、種の違いがあることを。


治癒能力に優れる青スライム、気性の荒い赤スライム、毒素を体内に蓄える緑スライム・・・。


その他にも、地域毎に異なる種類のスライム達が生息している。


自称知識博士の私を嘗めてもらっては困る。



「彼らは、どうして違ってしまったんだろうね。」


それは・・・。


「元を辿れば同じだとするなら、彼らの起源は何色なのか。」


・・・。


「どうして、生息地域に因って明確な色分けがされているのか。」



疑問にも思ったことは無かった。


魔物達と共に生きることが当たり前だった私にとって、彼らの姿はあまりに日常過ぎた。


彼らが何故、その姿になったのか。


何故、その姿でなければならなかったのか。


考えもしなかった。


彼は多分、その答えを知っている。


どうやら知識博士の称号を返上する時が来たようだ。


短い愉悦だった。


私はどうしようもなく込み上がってくる悔しさを噛み殺しながら、彼の言葉を待った。


彼の笑顔が引きつっているのは、きっと私の所為ではない。


そうに違いない。



「彼らの食べ物が違うから、じゃないかな。」


・・・食べ物?


「前に一度、見たことがあるんだ。」


「青いスライムが薬草を取り込んだ瞬間、身体の一部が緑色に変化するところをね。」


なるほど。


スライムの色は摂取した食料に含まれる成分に起因するということか。


毒素を蓄える緑スライムの体色は毒素の色。


スライムの持つ浄化能力を超えない毒素であれば、即座に浄化され元の青色に戻る。


この地域の薬草には多少の毒素が含まれている。


その毒素が浄化される瞬間を彼は見たのだろう。


赤スライムの生息地には確か、力草とかいう興奮剤の原料になる薬草があったはずだ。


となると、色の異なるスライムがそれぞれ特殊な能力や性質を備えている原因も食料にあると言えるだろう。


緑スライムは浄化能力が無い代わりに強力な毒素を持つ。


主食は毒沼に群生する毒草。


赤スライムは気性が荒く、オーク並の攻撃力を持つ。


主食は興奮剤の原料である力草。


そして、青スライムは治癒能力を備える。


主食は・・・薬草だ。


やはり知識博士の称号は伊達ではないようだ。


彼の笑顔も自然なものに戻っている。


私は誇らしげに胸を張っていた。



スライムの治癒能力は魔法とは違う。


彼らの体液そのものに治癒効果があるのだ。


あの街の図書館で、そんな文献を見たことがあった。


これは、とある実験によって証明されたことらしい。


その実験の内容は、捕獲したスライムに打撃を与え続けるというものだった。


気分が悪かった。


だけど、私は読む手を止めなかった。


知らなければならないと思ったからだ。


魔物遣いとして、魔物と共に生きる者として・・・。



世間一般の常識では、スライムに打撃は通用しないとされている。


しかし、それは誤った認識だ。


スライムにも打撃は効いている。


ただ、ダメージを与えても一瞬の内に回復してしまう為、効果が無いように見えるだけなのだ。


その証拠に、あの実験の被検体となったスライムは打撃を受けるに連れて次第に縮んでいき、最後には消滅している。


では、スライムはどのようにしてダメージを回復しているのか・・・。


スライムは回復系の魔法や技能を使うことができない。


そして、何かを成す為には相応の対価を支払う必要がある。


所謂、等価交換というやつだ。


それが、この世界の理だ。


それらを鑑みた結果、研究者達は体液そのものに治癒効果があると結論付けた。


打撃に因るダメージ回復の為に体液を消費し、消滅に至ったのだ・・・と。


これは当然、国も周知のことだ。


本来であれば、国家機密として厳重な情報管理が行われているはずだ。


しかしそれが、人口も大して多くないようなあの街の図書館に寄贈されている。


"木を隠すには森"とはよく言ったものだが、あの図書館は森と言うには些か規模が足りない。


国の連中がすることは、理解に苦しむものばかりだ。



回復薬の安定供給はこの国の急務だ。


スライムの体液に治癒効果があると証明されてから、国の錬金術師達は躍起になって体液の抽出法を模索していた。


絞ってみたり、押し潰してみたり、蒸発させてみたり・・・。


考えるだけでも悍ましい。


何故、人間というものはこうも命を粗末にできるのか。


悪魔が人の形を模しているのは、つまりそういうことなのだろう。


スライムの体液を物理的に取り出すことはできない。


従って、この研究には価値が無い。


これが、この国の見解だ。


研究資料は破棄され、あの実験を主導した研究者は王宮を追放された。


無能の烙印を押された研究者が、どれ程の無念を味わったか、想像に難くない。


実験書には、研究者の想いが籠もっている。


その想いが何なのかは判らない。


だけどその想いが、この国の行く末を決定付ける。


そんな気がしていた。



私達は今、王都に居る。


私達の作り上げた回復薬を売りつける為に。


王城の門番は私達の話を全く信じていなかったが、実物を見せると大慌てで大臣の許へ報告に向かった。


暫くして、大臣達の集まる場に通された。


そこはまるで、裁判所のような場所だった。



彼の立てた仮説は正しかった。


スライムの体液にある治癒効果は薬草由来のもので、清浄な水さえあれば、ほぼ無限に採取できる。


机上の空論ではあるが、私達の見立てではそうだ。


実際に試したりなんてことはしない。


彼も私も、金儲けが目的ではないからだ。


大切な家族を商売の道具として扱うようなことはしない。


奴らの道具になんて、させてなるものか。



国が生成する回復薬の殆どは騎士団が所有するものとなる。


残りの一部が冒険者ギルドに配られ、希釈した上で冒険者向けに売られている。


生傷の絶えない冒険者にとって回復薬は、なくてはならないものだ。


しかし元々生産量が少ない上、その殆どを騎士団が握っているともなれば・・・。


朝に納品された分は昼になる前に売り切れる。


午後の納品は届かなくて当たり前。


そんなことが日常的に起こる。


これが、この国の実情だ。


だから私達は王都に出向いた。


回復薬を売りつけ、その流通量を増やす為に。


そうすれば、あの子にも回復薬が買えるようになるかも知れない。


そう思ったから・・・。



だけど、この世界は残酷だった。


いや、残酷なのは人間か・・・。


どうやら、私達の献上した回復薬は国の錬金術師が生成するものより数段質が良かったらしい。


奴らの最高傑作を"上"とするなら、差し詰め"特上"と言ったところだろうか。


当然、奴らは生成法について尋ねてきた。


それはもう、欲に塗れた汚い目で・・・。


彼はスライムのことについて話した。


私は止めた。


だけど彼は話した。


包み隠さず、正直に。


奴らも知る情報を隠すことに意味は無いからと。


最悪の場合、利益の独占を恐れた貴族達によって刺客が送り込まれるかも知れないからと。


彼の天秤は、私とスライム達とで釣り合ってはいないらしい。


少し、複雑だった。


私のことを心配してくれるのは嬉しい。


だけど、奴らの標的にされるスライム達はどうなるだろう。


この先の展開は想像に難くない。


彼がこんな簡単なことに気づかないはずはないのに・・・。


彼は終始、笑顔を絶やさなかった。


突き刺さるような笑顔を奴らに向けていた。


黒い仮面すら覆う仮面を、彼は被っているのではなかろうか。


若しかすると彼は、この世界にとって良くない存在なのかも知れない。


そんなことを考えてしまっていた。



「悪い笑顔だ・・・。」


城を出て、彼が私にそう言った。


初めは彼自身のことを言っているのだと思った。


でも、違った。


笑っていたのは・・・私だった。



私達が王城に出向いて数日の後、案の定スライム達の捕獲計画が発令された。


騎士団だけでなく、街の冒険者ギルドにも招集が掛けられ、大規模なクエストとなっていた。


けれど、成果は芳しくなかった。


街の郊外に生息しているはずのスライム達が忽然と姿を消したのだ。


スライムの捕獲自体は大して難しくない。


半固体状のスライムは形状変化が苦手だから、簡単に抱きかかえることができる。


それに人間を消化する程の能力は無いから、食われたり、窒息させられるような心配も無い。


正しく最弱の魔族なのだ。


しかし、いくら捕獲が容易と言っても、居ないものは捕まえようがない。


今頃、街の冒険者達はクエスト失敗の違約金を支払っていることだろう。



そもそも、スライムを捕まえただけでは意味が無い。


スライムの体液は、彼ら自身の意志でしか取り出せないのだから。


しかし、魔力を媒介にして交信するスライムに人間の言葉は通じない。


私にも彼らの言葉は理解できなかった。


彼らとの意思疎通ができるようになったのは魔物遣いになってからのことだ。


故郷に居た頃は知能の高いドルイドに通訳をしてもらい、意思疎通を図っていた。


彼らを"魔物"と呼ぶ人間には、ただ捕まえることしかできないのだ。


スライム達との協力関係を築くには、人間と魔物との隔たりを取り払う必要がある。


それができるのは、魔物遣いの技能を持つ者だけだ。


しかし、この国に魔物遣いはひとりしかいない。


誰もなろうとしないから?


違う。


奴らにその資格が無いからだ。



魔物遣いという職業は特殊なもので、資格を持つ者でなければ選択することができない。


その資格を言うのは・・・。


「魔物に対して恐怖心を抱いていないこと」


これが魔物遣いとなる為の唯一にして最大の条件だ。


生まれた時から彼らと共に暮らしている私にとっては普通のことだ。


しかし、狩る・狩られるの関係でしかない人間には到底無理な話だろう。


どんなに命知らずの莫迦だって、武器を向ける相手に恐怖心を抱かないはずがないのだから。



スライム捕獲計画が破綻してから少し経った頃、私は再び王城に出向いていた。


私に、とある嫌疑が掛けられていたのだ。


スライムの逃亡幇助。


今回の捕獲計画を知っていたかのようなスライム達の失踪。


誰かが裏で糸を引いているに違いない。


そして、そんなことができるのは魔物遣いの技能を持つ者だけ。


それがこの国の大臣達の総意だ。


自然な思考だと思う。


自我を殆ど持たないスライム達が、誰の指示も無しに規律のとれた行動を取ることなどできるはずがない。


そして、この国の魔物遣いは私ひとり。


疑いの目が向けられるのも当然だ。


実際に私がやったのだから。


家族が捕まりそうになっているのに、黙って見ている訳がない。


大臣の詰問は続く。


だが、私が口を開くことは無かった。



何も応えない私に痺れを切らしたのか、大臣はある提案をしてきた。


「国の為に働け。そうすれば今回の非礼は目を瞑る。」


黒い仮面が私を見詰めていた。


想像してみて欲しい。


円弧状に段になった席に黒い仮面が並び、一斉にこちらを見下ろしている光景を。


気持ち悪い。


その一言に尽きる。



私は首を横に振った。


この国に対して払う礼など無い。


何より、私の家族を唯の道具としか見ていない連中に手を貸すつもりは無い。


溜息を吐いた大臣の合図で、背後から騎士が現れた。


私を拘束するつもりなのだろう。


騎士の手が私の肩に触れる寸前、私を黒い影が覆った。


何処から侵入して来たのか、彼が降ってきた。


次の瞬間には騎士が倒れていた。


何が起きたのかは判らなかったけれど、彼の仕業ということだけは判った。


彼は私を抱きかかえ、王都を駆け抜けた。


鈍重な騎士に軽快な彼の動きが捉えられるはずもなく、私達は難なく王都を脱した。


長いような、短いような・・・。


まるで私達の周りだけが世界から切り離されたような感覚。


こんなことは二度目だ。


一度目は街を抜け出して、二度目は王都を抜け出した。


三度目は、世界でも抜け出してみようか・・・。


彼とならできる気がした。


彼を側に感じる時は決まって夢を見る。


はっきりと意識を保ったまま・・・。


このままずっと、醒めなければ良いのに。


なんて、思うばかりでは仕方がない。


いつか誰かが言った。


夢は見るものではなく、掴むものだと。


私は決心していた。


彼の一番近しい存在になる、と。


例え世界を敵に回しても、私は彼の側に寄り添い続ける。


今がまさに、その言葉を現実にする時だ。



王都を出た先に広がるのは、放棄された旧王都の跡地だ。


倒壊した建物の瓦礫がそのままの状態で残っている。


この国の闇を体現しているかのような場所だ。


そんな旧王都にも、当時の姿を残した建物がある。


・・・教会だ。


流石は神の加護を受けた施設とでも言うべきだろうか。


他の構造物が朽ち果てる中、今も猶、十字架を天に掲げ続けている。


まぁ、結局のところ、壊す・壊さないの裁量は人の意志ひとつなのだけど・・・。



目立った損傷の無い外部に反して、教会の内部は酷く荒れていた。


正確には、荒らされていた。


大方、盗賊が金目の物を漁っていったのだろう。


整然と並べられていた長椅子はひっくり返され、祈りを捧げるべき像は無残に砕かれていた。


その像が掲げられていたはずの十字架も、残されていなかった。



教会には神父の部屋が併設されることが多々ある。


旧王都の教会もそうだ。


祭壇を通り過ぎた先に、奥の部屋へと繋がる扉が隠されていた。


隠されていたとは言っても、大袈裟な仕掛けがあった訳ではない。


垂れ幕の裏に隠されていたくらいのものだ。


けれど、効果はあったらしい。


神父の書斎であろうその部屋に、盗賊が押し入った形跡は無かった。


本棚には神の存在について記された書物が整然と並べられている。


その中にひとつ、私の目に止まるものがあった。


「黒霧の一族」


嘗て存在した暗殺者の一族であり、その実力故に神から疎まれた者達だ。


神々との争乱の末に滅んだようだけれど、私は何故か違う気がした。


半分程目を通したところで、私は静かに本を閉じた。


黒霧を悪として語る文章に苛立ちを覚えたからだ。


黒霧の一族・・・。


私は彼らを知っている気がした。



長い間密閉されていた所為か、神父の書斎は不思議と息苦しさを感じなかった。


埃が入り込む隙間も無いのだろう。


空気が澄んでいる。


まるでこの部屋だけ、時の流れから外れてしまっているみたいだ。


本棚に囲まれた書斎には、小さな机が置かれていた。


その机の上には、開かれたまま放置された日記がひとつ。


そこには整った文字でただ一言。


「振り向くな」


そう記されていた。


突然、重々しい音が部屋に響いた。


振り向けば、本棚の一部がゆっくりと動いていた。


書斎の中を忙しなく動き回っていた彼の手は、壁にかけられた燭台を掴んでいた。


不自然に傾いた燭台を見るに、隠し扉だったのだろう。


本棚の裏から、地下へと続く階段が姿を現した。


彼は特に躊躇う様子も無く、暗闇へ歩を進める。


私は彼の服を掴みながら、恐る恐る付いて行った。



一寸先の様子も判らない暗闇の中。


何処まで続くのか知れない階段をひたすら下っていた。


完全な暗闇では時間の感覚がおかしくなる。


もう随分と長い間、歩き続けている気がする。


唯一の拠所は・・・彼だ。


こんな状況でも、迷い無く歩を進めている。


暗視の技能でも持っているのだろうか。


どちらにしろ、彼が居てくれて良かった。


私は心からそう思った。



彼の足が止まる。


おそらくは行き着いたのだろう。


冥界の入り口ともとれるその場所に・・・。


私には何も見えないけれど、確かに感じていた。


名状し難い、死の臭いを・・・。



彼の手が瞳を塞ぐ。


「瞳を閉じて・・・。」


耳元で彼が囁く。


そこまで密着する必要があるのかとも思うけれど、悪い気はしないので良しとしておこう。


言われた通りに瞳を閉じれば、見えるはずのない景色が映り込んできた。



私の瞳に映ったのは、およそ教会に似つかわしくない光景だった。


鉄格子に区切られた大部屋に、おびただしい数の檻。


血痕らしきものが染みついた拘束具付きの診療台。


これは彼の瞳に映る景色なのだろうか。


よくもまぁ、平然としていられるものだ。


若し彼が側に居なかったなら、私は両の瞳を潰していたかも知れない。



何かしらの研究施設だったのだろうが、きっと碌でもない研究をしていたのだろう。


教会は孤児院として利用されることが多い。


いったいどれだけの罪無き少年少女が犠牲になったことか。


旧王都が放棄されたのは、もう随分と昔の話だ。


旧王国と共に研究も葬り去られていればいいのだけれど・・・。



「綺麗すぎるね。」


不穏な言葉だ。


「旧王国が滅んだのは、国を二分する内乱があったからと聞いたけど。」


当時の王国は周辺諸国との勢力争いに苦心し、かなりの圧政を敷いていたらしい。


文献で読んだだけの知識ではあるが、現国王はその内乱に於いて革命軍を率いた大将の末裔だそうだ。



「王国の内乱は革命側の勝利に終わり、王都は場所を遷した。」


「その際に旧王国に関する施設は徹底的に破壊されたんだよね?」


その通りだ。


新王国は旧王国の時代を負の時代とし、歴史から抹消しようとした。


その結果、王城だけでなく王都そのものを破壊し尽くすことになった訳だけど。


それでも神を信じる心は捨てきれなかったのか、教会だけはその対象とならなかったらしい。


新王都の建設でも、一番に建てられたのは教会だったと聞いている。



「神の使いが降り立つ教会は、世俗に汚れた人間が冒してはならない聖域である」



それがこの国の神教だ。


王都が遷移しても、人の価値観に直接関わる宗教が変わることは無い。


いずれまた、歴史は繰り返されるだろう。



「この地下室は新王国の手が及んでいないはずだ。」


「それなのに、ここには亡骸が無い。まるで牢獄のような場所なのに。」


確かに、ここは骸のひとつやふたつ転がっていてもおかしくないような雰囲気だ。


しかし、そこまで気にすることだろうか。



「この施設が放棄されたのは、内乱より前だろうね。」


「研究が中止になったのか、或いは完遂したか・・・。」


別の場所に移した可能性は・・・。


何処に?


内乱収束後、旧王都は破壊し尽くされた。


地上は勿論、地下の隠し通路に至るまで。


別の国家に?


それはない。


国境を越えるには、大陸中央に聳える恐山の樹海を抜ける必要がある。


未だ嘗て、そこを無事に通り抜けた者はいない。


少なくとも、公的な記録ではそうだ。


今では地下通路が通っているけれど、開通したのは新王国になってからのこと。


教会の他に隠れて研究ができるような場所は無い。



「どうやら。後者みたいだ。」


私に寄り添い、歩を進める彼が呟く。


一片の紙片を見詰めながら・・・。


「人工神器計画」


そう書かれた紙片の終わりには、紅く"完遂"の判が押されていた。



"神器"とは、その名の通り神を力を授かる器のことだ。


古の神々の力が込められた神器は絶大な威力を誇り、人類史上最強の武具とまで言われている。


嘗てこの十字大陸が争乱の時代にあった時、神器を持つひとりの英雄によって戦場が死地と化したことが多々あったと聞く。


十字大陸で確認されている神器は4つ。


雷と嵐を操る"雷神の戦斧"。


清浄の水を操る"戦女神の盾"。


氷と冷気を操る"冷酷の氷翼"。


灼熱の焔を操る"太陽の大弓"。


これらの神器は、大陸の四国家がそれぞれひとつずつ所有している。


私達の暮らす国、騎士王国・ナイトプライドは"戦女神の盾"だったはずだ。


大国の所有する神器の数が等しい所為で、覇権争いの戦争は長期化。


徒に犠牲者だけが増えていった。


そこで提案されたのが、この人工神器計画。


本物の神器には劣るが、神器は神器だ。


通常の武具とは比べるべくもない。



罰当たりなことに旧王国の連中は、教会の地下で秘密裏に研究を進めていたらしい。


内乱の所為で急激に数を増した戦争孤児を利用して・・・。


こうなると、内乱を起こすことさえ策謀の内だったのではないかと疑ってしまう。


幾度となく失敗を繰り返し、尊い命を無駄に費やした果てに適合者は現れた。


試験運用に入る段階で和平が成立した為、その人工神器が陽の目を見ることは無かったようだけれど。


その神器がまだ、ここに眠っている。


大陸をひとつに纏める主を待っている。



「彼女と共に、大陸に安寧を・・・。」



資料の最後に書かれていた一文だ。


この部分だけが手書きだった。


おそらくはこの研究に巻き込まれた孤児院のシスターだろう。


御丁寧に署名まで残している。


私は、彼がこの国にとって良くないものなのかも知れないと思っていたけれど、現実のものになりそうだ。

            コハク

彼を待ち望む彼女の名は"黒白"。


光と闇、相反する性質を併せ持つ双剣の神器だ。



地下研究施設の最奥、突き当たりの壁には不自然な歪みが生じていた。


大した心得も無い者が適当に積み上げて作ったことがよく判る。


私達は順に石を引き抜いていった。


幾年も封じ込められた空気が漏れ出し、不思議な気配が肌を突き刺す。


厚い石壁に隔たれたその先には、黒と白の一対の剣が突き立てられていた。


彼が手を伸ばす。


彼女に手が触れた瞬間、辺りは光に包まれる。


光が収まったその時、双剣が突き立てられていたはずの場所には、未だ幼さの抜けきらない少女が佇んでいた。



「待ってたよ。主様。」


少女が微笑む。


そよ風にさえ、かき消されてしまいそうな儚い笑顔だ。


「待たせてごめん。黒白。」


彼は微笑み返し、少女の手を握る。


嘗ての私もこんな風だったのだろうか。


一枚の絵画のような光景を前に、思考を放棄してしまった私が居た。



外が騒がしくなってきた。


流石の騎士団もここを嗅ぎつけて来たようだ。


「主様。黒白を使って。」


主張とも疑問とも取れない平坦な声色だ。


とても幼げな少女から発せられた声とは思えない。


黒白からは、貧しいながらも生きる希望を捨てなかったあの子のような意志を感じない。


少女は人から双剣へと姿を変え、彼の諸手に握られている。


鎧の擦れる音と共に、暗闇に光の玉が浮かぶ。


一瞬、彼の姿が光の中に現れては暗闇に沈んでいく。


光が闇に呑まれた度、騎士達の断末魔が教会に響いた。


闇に静寂が訪れた頃、小さな手が私に触れる。


人らしい温もりさえ感じないその手に引かれ、階段を上っていく。


鎧人形の転がる道を抜け、教会の扉を開く。


月明かりに照らされ、紅く、また蒼く煌めく彼が佇んでいた。


血化粧をした彼の姿は、まるで絵画の世界からそのまま飛び出してきたかのようだった。



大臣の要請を拒み、騎士団を返り討ちにした私達は当然の如くお尋ね者となった。


そこで身を寄せることになったのが、恐山の樹海だ。


恐山の樹海とは、十字大陸の中央に聳える魔物達の巣窟・恐山の麓に広がる樹海のことだ。


そこに巣くう魔物達は平原に暮らしているような比較的穏やかなもの達とは違う。


混沌とした、純粋な悪意の塊。


正しく"魔物"と呼ぶに相応しいもの達だ。


流石の私も、彼らのことを友達とは思えない。


世界はそこまで甘くない。


それは嫌という程に味わって来た。



恐山の樹海から先は、凶暴な魔物達の棲家となっている。


滅多なことでは樹海から出て来ないと聞くが、好き好んでこんな危険地帯の近くに住むような者は居ない。


樹海に入るのは自殺志願者か、余程実力に自信のある者だけだろう。


そう言えば、恐山の樹海を抜ける程の実力者ばかりが集まる国があるとか・・・。


まぁ、他所の国の話だ。


平原に住むもの達としか戦ったことのない軟弱な王国騎士では、樹海に近づくことさえできはしない。


「異世界の入り口」


その名の通りの場所だ。


樹海の内と外ではまるで違う。


もう何度、魔物の襲撃に遭ったか知れない。


一瞬たりとて気が抜けない。


何故、こんな気の休まらない場所で暮らさなければならないのか・・・。


地下水道で暮らすよりはましか。


幸いにも、樹海は空気が澄んでいる。


そしていつ魔物の襲撃に遭うか判らない以上、常に彼が側に居てくれる。


それだけが救いだ。



樹海にはツリーハウスを作った。


地上に建てるよりかは幾分安全なのだろうが、本当に幾分でしかない。


襲撃がある度に、彼と黒白が撃退してくれていた。


樹海の入り口付近とはいえ、魔物はかなり強い。


彼らはそれを容易く撃退していた。


もう彼らで国を乗っ取ってしまう方が早いのではなかろうか。


「君も、ここの魔物達を従えるくらいにはならないとね。」


無理を言わないで欲しい。


そんな笑顔を向けても駄目だ。


そのくらいで頑張る程、私は単純ではない。


・・・そうあって欲しかった。



彼に唆された私は、まず彼の用意した戦術書を片っ端から読み漁った。


魔物遣いの戦術書など、いったい何処から仕入れて来たのだろうか・・・。


魔物に関する知識の深さといい、その実力といい、彼は少し浮世離れしている。


黒白を膝に乗せ、壁にもたれて寝ている姿はとても現実のものと思えない。


そこに月明かりが差し込もうものなら完璧だ。


そんな彼らに見惚れながら、私は戦術書の内容を頭に叩き込んでいた。


いつか、私もあそこに・・・。


なんて、淡い期待を抱きながら。



知識を得ただけで、人が強くなれるはずがない。


当然のことだ。


知識を実戦の中で活用できてこそ、座学は意味を成すのだから。


実際の戦闘訓練にも、彼は付き合ってくれた。


正直、辛かった。


訓練でも彼は本気だったからだ。


愛する相手に殺意の籠もった刃を向けられるのは、かなり堪える。


あの冷たい感触を喉元に感じた時は何度泣きそうになったか知れない。


私の為にやってくれているということは重々承知している。


だけど、もう少し優しくしてくれても良かったのではなかろうか。



彼の特訓、もとい扱きの御蔭で留守番を任される程度には実力を付けることができた。


昔は掌に乗るくらいだったスライム達も、今では抱えるのがやっとの大きさまで成長している。


普通のスライムは形状変化が苦手だけれど、私のスライム達は自由自在に形を変えることができる。


単純に体積と柔らかさの問題だったようだ。


こんな発見ができるのは魔物と共に成長する魔物遣いの特権だろう。


彼らの新しい一面を見出すことが楽しくて、少し欲が出てしまった。


他の魔物が成長する姿も見てみたい。


彼に褒められたくて始めた特訓が、自分の興味の為になった瞬間だった。



魔物遣いが私の他に居たのかは判らない。


ギルドの職業一覧に載っていたということは居たのだろうけど・・・。


どちらにしろ、その総数が極僅かなことは確かだ。


そもそもの適正条件が厳しいということも、その理由のひとつだ。


だけどそれ以上に、自分ひとりでは何もできないということが大きな理由なのだろう。


現に私の能力値はそこいらの平民と大して変わりない。


一方で、従えた魔物達の種類が増える程、多彩な戦法がとれるという強みもある。


スライムしか従えていない私には、まだ無い強みではあるけれど・・・。


まぁ、無いならこれから身につけるまでのことだ。


あまり好きな表現ではないけれど、"魔物狩り"を決行しようと思う。


幸い、この樹海には多種多様な魔物達が暮らしている。


スライム達のように、一緒に会話をして遊んで仲良くなるという手法はとれない。


実力を示し、屈服させる必要がある。


場合によっては、従属の契約も使わざるを得ないだろう。


致し方無いことだ。


知識欲に火が点いた私は、もう誰にも止められない。


怨むなら、私をこんな風にした彼を怨むことだ。



それから暫く経った頃。


私には、沢山の家族ができていた。


樹海の猟獣・ハウンドを始め、食肉植物・パデキア、沈黙の狩人・シャドウ等々・・・。


恐山の樹海に暮らす魔物達の大半が私の傘下に入った。


別に無理矢理従わせている訳ではない。


実力を示し、主たる資格を示したまでのことだ。


故に、従属の契約も使っていない。


知能の無い植物系の魔物達を除いては・・・。



家族が増えたことによって、困ったことがひとつあった。


それは、食糧事情だ。


シャドウのように、食事の必要が無い魔物はいい。


だけど、ハウンドとパデキアのように喰う・喰われるの関係にある魔物が家族になるというのは些か難がある。


パデキアの食糧が無くなるということなのだから。


幸いに果実で代用ができたから、事無きを得たのだが・・・。


ハウンドの食糧事情はどうにも解決できそうになかった。


彼とも相談した結果、傘下に入れるのは各種族の代表一体のみということになった。



私が趣味に奔走していた間に変化したことが幾つかあった。


まずは、私と彼に懸けられた賞金だ。


その額は過去最高のものらしい。


私と彼には同じ額の懸賞金が懸けられていた。


違ったのは、私が alive only ということだ。


回復薬生成の為には、私を生け捕りにする必要があるからだ。


懸賞金の額が額なだけあって、命知らずの賞金稼ぎ共が何度か樹海にやって来ることもあった。


ハウンドに頼んで撃退してもらっているうちに、"樹海の魔女"なんて異名が付けられていた。


ハウンドにばかり撃退をお願いしていたのには理由がある。


シャドウやパデキアでは、やり過ぎてしまうからだ。


パデキアに任せた時は本当に酷かった。


"樹海の魔女"たる私が反省するくらいだ。



この期間での一番の変化と言えば、やはり"完全回復薬"の開発だろう。


スライム達が成長したことで、毒素の浄化能力が向上したのだ。


一度に取り込める薬草の量が増え、治癒成分の濃度が上がり、治癒効果が高まった訳だ。


その効能はまさに完全。


欠損した部位ですら、一瞬で修復してしまうのだ。


流石に甦生や毒素の除去はできないけれど・・・。


それでも自然治癒力を向上させることで、疾患にもある程度の効果は期待できるみたいだ。


これであの子を救うことができる。


お尋ね者となった今、あの子の許を訪れる訳にはいかないけれど。


きっといつか、届けるから・・・。



完全回復薬が完成したことは、何故か国の大臣の耳にまで届いていた。


その犯人はまぁ、彼しか居ないのだけど・・・。


完全回復薬なんてものは医学的には勿論、軍事的にも重大な意味を持つものだ。


これさえあれば、不滅の屍部隊を作り上げることができるから。


現在の十字大陸に於いて、各国の戦力的均衡を保っているのは神器への畏怖だ。


しかし、神器は永遠のものでも、神器を操る者は永遠ではない。


戦場に立ち続けたとて、いつかは限界を迎える。


完全回復薬による屍部隊ならば、その限界を超えることができる。


戦闘継続力において、神器を超えることができるのだ。


国の大臣は何としてでも手に入れようとするだろう。


完全回復薬こそが、この世界の覇権なのだから。



大臣は幾度となく使者を遣わしてきた。


完全回復薬を寄越せと。


完全回復薬を売ってくれと。


生涯に渡る身の安全と何不自由無い生活を保障する・・・と。


使者と顔を合わせることも無く追い返す度に、大臣の提示する待遇は良いものになっていった。


街に暮らす者達にとっては、だけど。


私が大臣の提案を拒むのは、待遇に不満があるからではない。


そもそもの前提が食い違っているからだ。


大臣にとって魔物達は、生活を脅かす敵であり道具でしかない。


しかし、私にとっては大切な家族なのだ。


そんな私と大臣が、わかり合えるはずがない。


そう思うでしょう?



取り付く島も無い状況に痺れを切らしたのか、大臣は強硬手段に出た。


「国の為に働け、然もなくばお前の故郷を攻め滅ぼす。」


その警告が、私の耳に入ることは・・・無かった。



私の故郷は名も無き村である。


大陸北部に位置するナイトプライドの最北端。


迷い込んだが最後、人の力では永遠に抜け出すことの叶わない"迷いの森"の奥地にその村はある。


大陸の北端とは言っても、気候が厳しいなんてことはない。


十字大陸自体が温暖な気候だから、冬でも充分に野菜が育つ。


狩猟と農耕を中心とした、穏やかな暮らしが送れる。


そんな村だ。



迷いの森という天然の要塞に守られた村は、外界との交流が完全に絶たれている。


外からの訪問者は勿論、内からの旅立ちさえ許されていなかった。


そういう掟があった訳ではないけれど、魔物達の案内無しには進むことも戻ることもできない森が、それを強要していた。


しかし、そんな村から抜け出すことに成功した者が居た。


紅い髪が特徴的な少女だったと聞いている。


子供が迷いの森で迷子になることは少なくなかった。


だけど、その日の内にゴブリン達が探し出してくれていた。


ただ彼女は見つからなかった。


外界に強い憧れを抱いていた彼女は、自力であの森を抜けたのだ。


それだけの想いを彼女は持っていた。


そんな彼女に、私は憧れた。


だから私は村を出た。


両親の許可を得て、ゴブリン達に案内してもらって・・・。


そうして踏み出した先に待っていたのは、絶望だった。


彼の御蔭で、その絶望からも抜け出せた訳だけど。


彼女はどうだったのだろう。


彼女の憧れた外界は、彼女に微笑んだのだろうか。


きっとそれは、嘲笑ったはずだ。


今、再び世界が私を嘲笑うように・・・。



大臣は騎士団を総動員し、迷いの森を取り囲んだ。


森での作業に長けた平民を捨て駒にして、森を調査させていたらしい。


しかし、森を抜けた者はおろか、無事に戻る者すら居なかったようだ。


当然のことだ。


森の発する特殊な磁場は人間の方向感覚を狂わせる。


それが故の、"迷いの森"なのだ。


人間にあの森を抜けることはできない。


魔物達を個人ではなく、種族という括りでしか判断できない奴らに突破できるはずがないのだ。


だから奴らは、森を焼き払った。


森の調査に向かわせた平民ごと・・・。



この日、十字大陸からひとつの名も無き村が姿を消した。


そこに誰かが暮らしていたという歴史ごと・・・。


私は多くの友人を失った。


幼い私を優しく見守ってくれたゴブリン達。


しつこく肩車を強請る私に困り顔を覗かせていたオーク達。


花畑で共に遊んだスライム達。


悪戯で笑い茸のスープを飲まされ、大変な目に遭ったドルイド達。


そして、愛する両親までも・・・。


また、失ってしまった。


護る為の力を手に入れたはずなのに・・・。


焦土と化した故郷を臨み、私は誓う。


世界の歪みを正す。


嘗て王国に反旗を翻した革命軍も、同じことを思っていたのだろうか。



歴史は繰り返す・・・。


ふと、そんな言葉を思い出していた。



一陣の風・・・。


樹海の入り口から臨む平原は、何処までも果てしなく続いているかのようだ。


恐山の樹海に近づいてはいけない。


やっと歩き始めたくらいの幼子さえも知る、大陸の常識だ。


人の手が入っていない平原には風を遮るものが無い。


そよ風に草原が揺れる様子がよく見える。


ただ今日は、違うみたいだ。



夥しい数の白い鎧が、薄汚れた革を纏った人形が平原を埋め尽くしていた。


王都の騎士団、そして賞金稼ぎ達・・・。


ギルドの冒険者を除いて、荒事を生業とする者達がそこに集っていた。


愈々、私の首を取りに来たらしい。


alive only の手配書も、dead or alive に差し替えられていた。


短気は損気という諺を知らないのか・・・。


一国を背負う大臣が、聞いて呆れる。


ともあれ、決戦の時だ。


この戦いで、この国の行く末も私達の未来も、全て決まる。



樹海と平原の境界となる樹の上で、私は震えていた。


人の命を奪うことが恐ろしいからではない。


そもそも、私自身に戦う力は無いのだから。


良くも悪くも魔物任せな私にとって、武者震いは縁遠いものだ。


ただ、怯えているというのは間違っていない。


私が恐怖を抱く相手は・・・彼だ。



今日は少し、彼が恐い。


黒白はもっと恐い。


これが殺気立っているというものなのだろうか。


肌がヒリヒリする。


樹海の魔物達が怯えている。


ギルドの冒険者達もたじろいでいる。


何故、彼と黒白が怒っているのか、そして冒険者達が味方に付いているのか。


それは時を昨日に遡る。



事件は、あの街の冒険者ギルドで起こった。


王都の騎士団がギルドに押し入り、ひとりの受付嬢を拘束した。


国家権力を笠に着た騎士団の暴虐に冒険者達が抵抗できるはずはない。


受付嬢は連れ去られ、街の中央広場で磔にされた。


最早それが誰なのかも判らない、無惨な姿で・・・。


彼女は、彼がまだ新米冒険者だった頃に彼の新人研修を担当していたらしい。


それからも関係は続き、中々に親しい間柄だったとか。


彼が私と行動を共にするようになってからも、時間を作っては逢っていたようだ。


ふたりは正式にお付き合いをしている訳ではなかったみたいだけど、本気で結婚を考える仲だったと彼は言っていた。


それを彼から直接告げられた夜、私は静かに枕を濡らした。


それはもう、雫が滴り落ちる程に・・・。


そんな彼女が殺された。


女性としての尊厳を踏みにじられ、大衆の面前に晒されながら・・・。


彼もまた、護れなかった。


おそらくは彼にとって、この世で最も大切だった人を。



彼がどれだけ悔しい思いをしたか、今の彼を見れば判る。


湧き上がる怒りの全てが、その瞳に表れている。


彼女を護れなかった自分への怒り。


それだけ彼に想われていた彼女が羨ましい。


若し私の身に何かあったとして、その時も彼は怒ってくれるだろうか。


私を護れなかったことを悔やんでくれるだろうか。


それ以前に、私を護りたいと思ってくれるだろうか。


優しい彼ならきっと、救いの手を差し伸べてくれる。


その相手が彼女ではなく、私でもない別の誰がだったとしても・・・。



私にその手を取る資格があったのだろうか。


あの時は、こんなことを考える余裕は無かったけれど。


今改めて考えると、彼の手を掴んだことが間違いだったのではないかと思う。


そんなことは無いと、否定する私も居る。


だけど、黒白を見ていると雀の涙程の自信さえも無くなっていく。


黒白は、自分の主である彼の大切な人を奪った騎士団に対して怒っている。


誰よりも深く、激しく・・・。


黒白の抱く想いは、私の抱くそれとは違う。


質では比べられない概念も、大きさでは比べることができる。


黒白の抱く想いは、その小さな身体からは想像もできない程に大きなものだ。


それだけの想いを、私は持っているだろうか。


それだけの想いを持つ黒白が居て、彼の瞳に私が映ることはあるのだろうか。


彼から受付嬢の話を聞いた時、私の未来は一度閉ざされた。


そんな未来が今、再び繋がった。


不謹慎な話かも知れない。


だけど、そんなことを気にしていられない程に、私は彼を愛している。


それなのに・・・。


彼の一番近くに居るのは、私じゃない。


彼を想う気持ちが一番強いのも、私じゃない。


あの娘が抱く想いはきっと、私が抱くそれとは違う。


だけど、あの娘は誰よりも深く彼のことを想っている。


若しかすると、愛し合った彼女以上に・・・。


黒白には彼の側に居る資格がある。


だけど、私には?


こんなにも中途半端な私に、彼の側に居る資格はあるのだろうか。


家族の仇討ちでもある戦を前に、こんなことを考えている私に・・・。



平原に雄叫びが轟く。


騎士団が進軍を始めた。


開戦だ。


受付嬢の仇討ちだと集まった冒険者達の身体が震えている。


その震えは武者震いなどではない。


圧倒的な数の差を目前にして、この戦に参加したことを後悔しているのだ。


迷いの無い瞳で戦場を見詰めるのはふたりだけ。


大切な人を護れなかった自分に怒りを向ける彼と、主を傷つけた敵に怒りを向ける黒白だ。


戦う気力があるのも、このふたりだけだろう。


だけど私には、彼らが敗北する未来がどうしても想像できなかった。


後に人は語る。


この日、"紅の悪魔"が舞い降りたと。



「主様、黒白を使って・・・。」



言葉を交わすこと無く、ふたりは見詰め合う。


彼が黒白の手を取った瞬間、ふたりは光に包まれる。


そして現れたのは、白と黒が混じった髪に左右で色の異なる瞳をした青年。


黒白と融合した彼の姿だった。


頬に黒い痕を浮かべ、黒く染まった瞳には怒りが、紅い瞳には哀しみが籠もっていた。


彼が握るのは、対をなす黒と白の剣。



「ありがとう。黒白。」



ただ、一言。


彼はそう呟き、白い波が押し寄せる平原へと駆け出して行った。



血飛沫が舞う。


白い波が紅い血潮に呑まれていく。


平原にそよぐ爽やかな風に鉄の臭いが混ざる。


聞こえて来るのは、生命の終わりを告げる声ばかり・・・。


その場に居る誰もが、恐ろしくも美しい戦場の絵画に瞳を奪われていた。



静寂が訪れる。


平原に動くものはもう居ない。


紅く染まった彼を除いて・・・。


激しく息を切らせる彼は天を仰ぐ。


まっすぐ、その先に居る誰かを臨むように・・・。



私達の未来を懸けた戦いは、彼と黒白の勝利に終わった。


その代償として、あまりに多くのものを失って・・・。


あれから殆ど彼の声を聞いていない。


挨拶を交わすことはあるけれど、それ以上の言葉が彼の口から発せられることは無かった。


おはようと微笑む彼の顔は、悲哀に満ちていた。


そんな笑顔を向けられて、どんな反応すれば良いのか私には判らない。


黒白はずっと彼の横に付いて廻っていた。


裾を掴むでもなく、手を握るでもなく、ただ寄り添って。


例え何が起ころうと、直ぐさま彼の支えになれるように・・・。



彼の隣りに、もう私の居場所は無い。


あの日から彼の片側には黒白が居る。


そしてその反対側には、彼女が寄り添っていた。


もう居ないはずの彼女が、私には見えていた。


彼の心に寄り添う彼女の姿が・・・。


彼を見守る彼女の瞳もまた、哀しみに満ちていた。


少なくとも私には、そう見えていた。



そもそもの話だけど、彼が回復薬の生成を志したのは彼女が理由らしい。


冒険者ギルドに回復薬が流通しないことを彼女が愚痴っていたのだとか。


勿論、彼に話したところで問題が解決するとは夢にも思っていなかったことだろう。


けれど彼はそれを成し遂げて魅せた。


あの街の図書館で件の実験書を見つけ、スライムの可能性を知り。


あの街で魔物遣いである私を見つけ、口説き落とした。


彼にとっての私は、彼女を喜ばせる為に必要な駒に過ぎなかったのかも知れない。


それなのに、勝手に舞い上がって・・・。


莫迦みたいだ。


だけど、彼がそんな私を蔑むことは無かった。


私の気持ちを悟っていながら、それを利用し陰で嗤うようなことは・・・。


無いよね?


無いと信じたい。


どちらにしろ、彼が私をあの街から救い出してくれたことは事実だ。


それが私を想っての行為ではなかったとしても、それだけは変わらない。


彼に恩返しをする理由としては、充分過ぎる。


彼が幸せに暮らす世界を私が創るのだ。


何が正解かなんて判らない。


だけど、何もしないままでは何処にも辿り着けないことだけは確かだ。


今の私にできることを、私の持つ全てで以て実行する。


それが彼の幸せに繋がることを祈るばかりだ。



騎士団の敗北は、既に王都中に広まっていた。


貴族は恐れ戦き、平民は怒りに震え、大臣は・・・想像に任せる。


あの戦場に駆り出された騎士達は、殆どが平民か下民出身の者だったらしい。


家族の死に平民達は怒り、涙を流した。


貴族達は報復を恐れ、護衛の冒険者を雇っては固く部屋の扉を閉ざした。


行き場の無い恐怖、怒りはやがてひとつの着地点を得る。


"樹海の魔女"。


今回の騒動の元凶。


私さえ存在していなければ、彼が回復薬を完成させることは無かっただろう。


彼が指名手配され、愛する彼女を失うことは無かっただろう。


平民達が家族を失う哀しみを味わうことは無かっただろう。


この国から、ひとつの村が消えることも無かっただろう。


全ての増悪は私に帰結する。


だったら、私は・・・。



その日、樹海から魔物達の姿が消えた。


その日、王都から生命の鼓動が失われた。


そして生まれたのは絶対悪、"魔の女王"。


あらゆる魔物を統べる、"魔物遣いの少女"の成れの果てだった。



魔物遣いの少女・・・fin


後書き

初投稿から、どれほど経ったでしょうか。20000字ちょっとの短編でしたが、無事完結と相成りました。
度重なる修正を経て、初期の設定から180度の方向転換。私自身、吃驚しております。
さて、実はこの作品、私が高校生の頃に書いた作品が元になっています。それ自体は5000字程度なのですが、物語を少し足して修正を加えていった結果、ハッピーエンドからバッドエンドへと物語が変化してしまいました。本当は「私の初めての恋だ。」と彼に恋する少女が明るい未来への展望を胸に抱きつつ終わるはずだったのですが、御覧の有様です。
そしてもうひとつ、この作品には秘密というか裏話があります。この「魔物遣いの少女」実は本編ではありません。主人公と深く関わる人物の目線で書いた外伝です。なぜ外伝を投稿したかというと、こっちの方が面白かったから。ゴメンよ本当の主人公。面白くしてあげられなくて。本編はコメディ寄りです。外伝は闇が深い感じのものばかりですね。
と、ここまで話をして察しがついている方が殆どなのではないでしょうか。真の主人公は「青年」です。神器に宿る魔力を具現化するスキルを持つ青年の異世界奮闘記です。魔物遣いの少女の視点なので、彼の奮闘はほぼ書いてません。だって、その場に少女は居ないから。本音は戦闘描写を書くのが面倒だから。
そして、少女は声を出せません。そういう理由で少女の台詞には「」がありません。そして少女の台詞がなくても、会話が成立するように書いたつもりです。修正前は作中で声が出せないことを明かしていたのですが、お察しの通りです。
ではキャラ紹介をば。

・青年
→白髪、紅瞳の青年。実は主人公。異世界からやってき来た。転生ではなく迷い込んだ。初めは盗賊を選択しており、少女と出会う少し前に「怪盗」にクラスアップしている。神器に宿る魔力を具現化する特殊スキルを持っている。黒白が人の姿になったのも、このスキルが原因。一度具現化すると、それ以降神器は魂を持ち、ひとつの生命体となる。決戦前に神器と魂を繋げるスキルを獲得するが、その影響で魂の受け皿として感情を失いつつある。彼の冒険はまだ始まったばかり。

・魔物遣いの少女
→魔物と共生する村で生まれ育った少女。魔物を街に入れたことが原因で迫害を受ける。街に隠れていた頃、お世話になった少年が居る。青年と出会ってからは森にツリーハウスを作り暮らしていた。昔は優しい少女だったが、魔の森に移り住んでからは一変、命を奪うことに躊躇いが無くなった。魔の森を統一し、「樹海の魔女」として君臨している。少女の使い魔で最も強いのはスライムだったりする。現在はナイトプライドを滅ぼし、新たな国家を築いている。実はまだ少女には、彼女自身も知らない秘密がある。

・黒白
→先天性白皮症(アルビノ)の少女。旧王都の教会で暮らす孤児だった。人工神器計画で唯一、適合し神器・黒白となった。光と闇の性質を併せ持つ為、精神的に不安定。感情の起伏が少ないように見えるのは、暴走しないように自分を抑えているから。本気で怒ると髪と瞳が黒く染まり、頬に黒い痕が現れる。戦闘狂と化し、敵と見なした者を一掃するまで止まらなくなる。青年のスキルによって得た肉体は前世の自分そのもの。神器の為、年はとらない。実年齢に直すと・・・想像にお任せします。

・アイリス
→戦女神の盾。戦女神とはアテナのこと。清浄の水を司り、死霊に対して絶大の威力を誇る。防御性能自体も相当のもの。円形の盾が衛星みたいに両肩に装着されているイメージ。金髪の聖女の姿をとる。生真面目な性格で、青年に対し絶対の忠誠を誓う。真面目が行き過ぎて危ない思考に陥りがち。怒らせると怖いが、青年の一声で直ぐに収まる。作中未登場。

最後にお知らせ。
この話、続きません。
ダラダラ続けても、オチが無いからです。
続編となる「紅の華」は誠に勝手ながら削除させていただきました。

お詫びと言っては何ですが、裏話をひとつ。
青年の両親は、艦これのSSに登場しています。
さて、いったい誰でしょう?

以上、最後までお付き合いいただきありがとうございました。


このSSへの評価

このSSへの応援

2件応援されています


SS好きの名無しさんから
2020-06-04 16:33:52

SS好きの名無しさんから
2020-06-03 22:38:13

このSSへのコメント

2件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2020-06-04 16:34:11 ID: S:rim71T

なんか良さそうですね

2: 黒い歴史 2020-09-06 16:49:27 ID: S:dgtYOI

あれから時は流れ、幾何かの修正を入れてきましたが、期待に添える作品になっていますでしょうか。
予想を裏切るとは言いますが、良い意味で裏切れていることを願います。


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください