2020-06-14 11:42:50 更新

概要

おねしょた


前書き

ショタもの書いてほしいって来てたので書きました



赤城「提督、そろそろ執務のお時間です。起きて下さい」




提督「……Zzz」


赤城「提督!執務のお時間です!」


提督「んあ゛?…………ちっ、またか……。勝手に俺の部屋に入ってくんじゃねーって何回言わせんだよ」バンッ


赤城「申し訳ありません。しかし何度ノックをしても返答がありませんでしたので」


提督「返事が無いなら寝てるって分かんだろ、クソがっ!どけっ!」ドガッ


赤城「っ!……しかし、もう既に始業の時間は過ぎています」


提督「あ゛あ゛?やり方なら教えたろーが!毎日毎日、壊れた人形みたいに同じ事言ってきやがって。気持ちわりぃ」


赤城「では今日も私達で独自に処理をしてしまっても宜しいのでしょうか?」


提督「だからそう言ってんだろーが!ったく。軍艦の生まれ変わりだか何だか知らねーが、頭まで鉄屑で出来てんのかよ」


赤城「……了解しました。では提督にしか判断出来ない、または許可を出せない書類だけはここに置いていきますね」


提督「ったく。それもお前らがやっておけよ。判子も捺せねーのかよ」


赤城「それは提督以外は捺せない事になっていますので。それと今日1日の艦娘達の計画ですが……」


提督「長門に全任したって何度言えば分かんだよ」


赤城「念のためにお伺いするのが規則ですので」


提督「艦娘っていうのはホント機械みてーな奴等で不気味だな。自分で考える事も出来ないのか。一々勘に障るっ、さっさと出ていけ!」ゴスッ


赤城「くっ!……申し訳ありません。それでは失礼します」パタン




加賀「赤城さん、大丈夫でしたか?……酷い傷です」


赤城「なんて事無いですよ。"申し訳ありません"。この魔法の言葉があればどんな事だってやり過ごせますから!」


加賀「出来れば私が変わってあげたいのだけれど……」


赤城「いくら加賀さんのお願いでも、この秘書官の座は譲れません。なんてね♪」テヘペロ


加賀「赤城さん……」



長門「赤城。今日も提督はいつも通りか?」


赤城「はい。執務は私達に、指揮は長門さんに任せるそうですよ」


長門「そうか……。元々サボりがちだった提督も、私達に全てを任せ始めてからは更に酷くなっているな。今はもう妖精が見えるだけ、その一点のみで据えられた、ただのお飾りと化してきている」


加賀「それに加えて最近は罵声や暴力も酷くなっています。このままでは艦娘達、特に提督と接する時間の多い秘書艦の赤城さんがどうにかなってしまいます」


長門「青アザのある艦娘達も日に日に増えているしな。しかし、どうにかしなくては、という事は重々承知しているのだが、今の私達ではどうしようもない。大本営も私達の訴えなど鼻で笑うに決まってるしな。現に何度か、現状の変化を願う陳情を送ったが何の音沙汰も無い」


赤城「耐えるしか無いですよ。妖精を視認できる人間は希少みたいですから、大本営もそうそうは変えてくれないと思いますし。……私なら大丈夫です。いつかきっと、時間が解決してくれますよ!」


加賀「……そうね。でももう皆の限界も近づいているわ。駆逐艦の子達なんて提督に報告するだけでも泣きながら震えているんです」


赤城「……私が提督に目を光らせておきます。それとこれからは駆逐艦達の代わりに私が報告するようにします」


加賀「それでは赤城さんの負担がまた増えるだけです。その役目は私が担います」


赤城「駄目ですよ、加賀さん。第三者のあなたが出ていけば、逆に提督の逆鱗に触れてしまいます。秘書艦の私が一番、穏便に事を済ませられます」


加賀「赤城さん……」


長門「赤城ばかりに押し付けてすまないな。私達の方でも出来るだけお前の負担を減らすようにはしているんだが……。暫くはこのまま耐えていてくれ」


赤城「大丈夫ですよ。私は三度のご飯さえあれば割りと何でも出来るんですよ?大盛りならなお良し、です! って、もうこんな時間です。皆にもいつも通りと知らせてきますね」タタタ



長門「…………加賀。赤城の様子はどうなんだ?」


加賀「無理をしているわ。三度の食事と言ってましたが、最近はどうやら食べた物も全部吐いてしまっているようですし」


長門「そうか……。どの道、このままでは皆、提督に飼い殺しにされてしまう。……ならいっその事、私が提督を殺してしまうか?」


加賀「……それは駄目です。私達、艦娘に人権など無いわ。その私達が提督を殺せば私達は勿論、他の鎮守府の艦娘の立場まで脅かしてしまう。それは赤城さんも私達も望んでいません」


長門「本気にするな。ちょっとした冗談だ。あくまでも無謀な考えの1つというだけだからな」



加賀(無謀というだけで選択肢には入っているのね。長門が必死に皆の事を考えてくれている事は分かりますが、それだけは何としてでも避けなくては)



長門「何かこの状況を挽回出来るような、そして打破してしまう事案が起これば良いんだがな……」


加賀「助けは絶望的で私達は事も起こせない。赤城さんの言う通り、耐えるしかありません」


長門「時間が解決してくれる……か。本当にそんな事が起きるのだろうか?」



加賀(長門は痺れを切らしている……。気持ちは分かる。私だって他の艦娘達の件が無ければ今すぐこの手で提督を……。でもそうすれば皆の、赤城さんの今までの努力が水の泡になってしまう。だから耐える。最悪、赤城さんをここから追い出してでも……!)





                     ◇



 ~数ヶ月後~



提督「おい。艦娘どもは集まってるか?」


赤城「はい。今、出席出来る艦娘は大会議室に待機させています」


提督「……ボーッと突っ立ってて楽しいか?お前もそっちに向かってろ!ここにいられても邪魔なだけだ」ガスッ


赤城「っ……。了解しました。失礼します」


提督「くそっ。妹のヤツめ、面倒事だけ残して死に腐りやがって」



赤城(死んだ?提督の妹さんが……?)





 ー大会議室ー




シーン……



赤城(皆、まるで針の筵に座ってるみたい。一言でも言葉を挟めば拳や物が飛んでくるのだから当然ですよね……)



ガチャッ


艦娘達「」ビクッ


提督「……」スタスタスタ


艦娘達「」オドオド


提督「昨日、俺の妹夫婦が海岸沿いで死体となって発見された。原因は不確かだが、どうやら深海棲艦に殺されたらしい」


赤城(深海棲艦に……これで深海棲艦と同類と見なされてる私達への当たりも更に強くなりそうですね)



提督「それ自体は構わないんだが、1つ、厄介事が出来た。妹夫婦にはクソガキが1匹いてな?ソイツを俺が養うことになっちまった。で、だ。俺はソイツを養う気は更々ない。しかし、このガキを放棄すれば世間体は最悪。上の俺への評価も芳しくなくなる」


赤城(いかにもこの人が考えそうな事ですね)



提督「そこでお前らの出番って訳だ」


赤城(まさか……?提督1人でもここは崩壊しかけているのに、提督の血筋がもう1人来るなんて受け入れられる訳がない……!)



提督「お前らは数だけはいるからな。暇な奴もいるだろうしもってこいだろ」


赤城「提督、今の私達にそんな余裕はありません。どうか親戚を当たるなり、代わりの何かを探すなりして下さい」


提督「赤城ぃ……。誰が発言していいって言ったんだよ!」ガシャーン


赤城「っ」ビクッ



提督「言っておくが、お前らに拒否権は無い。お前らでそいつの面倒を見ろ。いいな!?おい!お前もさっさと入ってこい!」


赤城(提督の血筋であれば性格は似たようなもの……。こんな人が2人に増えれば皆はきっと……もう持ちません)





甥「は、はい……」オドオド





赤城(子供……?てっきり二十歳手前くらいだと思っていましたが、10才前後くらい……かしら?)



提督「良いか?今日からコイツらがお前の面倒を見る。だから俺とお前は他人だ。いいな?二度と俺を叔父さんなんて呼ぶんじゃねーぞ、クソガキ!」ドンッ


甥(以降ショタ)「うっ!……はい」グラッ


提督「お前らもこいつの面倒見は適当で良いぞ。こいつに手を焼いて、それが戦況に響く事になったら俺の首が飛ぶ。そんなのは御免だからな。面倒事にならなきゃ煮るなり焼くなり好きにしていい。そんだけだ。俺は自室に戻る」スタスタ



バタンッ



赤城「……」チラッ


ショタ「……」オドオド


赤城「……皆さん、提督が仰っていたように、この子を育てていく事になってしまいました。提督は皆で交代して面倒を見ろ、と仰っていましたが、やはり教育係は決めておかないといけないと思います。そこでですが、誰か彼を育ててみたいという方はいませんか?」



シーン



赤城(……でしょうね。触らぬ神に祟りなし。ましてや、私達、ここの艦娘達は人間に良い印象などこれっぽっちも持っていません。それが提督の血筋なら尚更。ならば―)



赤城「では私が見る事にしま―」


加賀「私が面倒を見ます」


赤城「……加賀さん?」


加賀「これ以上赤城さんの負担を増やす訳にはいきません。赤城さん、これは秘書艦だからという言い訳は通用しませんからね」


長門「……そうだな。では加賀がいない間は私が面倒を見る事にしよう」


赤城「長門さん……」


長門「言っただろう?お前の負担は出来るだけ軽くしよう、と」


赤城「……ありがとうございます」フルフル


ショタ「……………」



ショタ「あ、あの」


赤城「なんです?」


ショタ「その、皆には迷惑は掛けません。学費とか生活費とかは貰っているので、後の事は僕1人でなんとかしますから。……ただ、僕の住む部屋があればそれだけは教えてほしいです」


赤城「部屋ですか?提督からは聞いていませんが、多分あるとは思いますよ」


ショタ「それじゃあおじ……提督に聞いてきます」トコトコ



加賀「構わないでくれ……という事かしら?」


赤城「流石にそういう訳には……」


長門「いや、本人がそう言っているんだ。放って置いても良いだろう。どうせ直ぐに音を上げるさ。その時に最低限の事だけをしてやれば良い」


加賀「そうね。変に世話をすればきっと提督の様に手に負えなくなるもの」


赤城「…………(提督は私達に対して、人間に対する恐怖心だけではなく猜疑心まで植え付けていたのね)」



加賀「……。お願いですから赤城さんも自分の事だけを考えて下さい」


赤城「でも!」


加賀「赤城さん!」


赤城「」ビクッ



加賀「面倒を見るなとは言いません。しかし、提督が最低限で良いと言ったんです。あの子が私達の助けを拒絶したんです。……助けを求めた時だけ動く。それでは駄目なんですか?」


赤城「……分かりました」


加賀「赤城さん、約束して下さい。あの子にはなるべく関わらないと」


赤城「……はい。約束……します」



長門「皆も聞いただろう?下手に構えば第二、第三の提督になるかもしれん。極力、提督の甥との接触は避けるように。何か助けを求められた時だけ助けてやれ」


艦娘達「はい!」



赤城(これで良いのでしょうか?……いえ、これで良いんです。自分で生きるのに精一杯な私達が他の誰か、ましてや人間に対して手を差し伸べる余裕は無いのですから……)





                    ◇





 ~3ヶ月後~



加賀「今日もなんとか無事に帰ってこれましたね」


赤城「ええ、長門さんの指示と加賀さんや皆さんの機転のお陰で…………あれは?」


加賀「? どうしたんですか?」


赤城「いえ、提督の甥が今、あの辺りを歩いていたんです」


加賀「甥?そういえばそんな子も居たわね。あっちは敷地の外れね……。何をしてたのかしら」


赤城「これは何かあるかもしれません。……他の皆さんは先に戻っていてください。私は様子を見てきます」


艦娘達「はい」


加賀「赤城さん。念のために私も行きましょう」


赤城「ええ、助かります」




赤城「この辺りを歩いていたはずなんですが……。こんな誰も来ないような所で何をしていたんでしょうか?」


加賀「大方、虫取りか何かでしょうが、あまりうろうろされても困ります。注意だけはしておかないと」


赤城「……加賀さん、あの子が来てからもう3ヶ月が経ちますが、あの子の姿を見た時ってありましたか?」


加賀「いえ、見かけませんでしたね」


赤城「音を上げるまでは放っておく。そう決めましたけど、本当にこれで良かったのでしょうか?」


加賀「あの子、誰にも相談すらしなかったのかしら?……いえ、そんな訳無いですね」


赤城「……」



ガシャーン



赤城・加賀「!!?」


赤城「あそこの幕舎から音がしましたね」


加賀「ええ、以前は資材置き場として使われていた所ですね、今はもう使われていないはずです」


赤城「ではあの子の仕業ですね」


加賀「全く、余計な仕事を増やして。何をやっているのかしら」


赤城「まずは行ってみましょう」


加賀「ええ」



 ー幕舎の中ー




ショタ「うう、お鍋落としちゃった……」



加賀「そこで何をやっているのです!」


ショタ「っ!」ビクッ


加賀「ここはあなたが立ち入って良い場所ではありません」


ショタ「えっ、でも」


加賀「でもではありません。さっさと自分の部屋に帰りなさい!」


ショタ「自分の部屋……?」



赤城「加賀さん、少し落ち着いてください」


加賀「しかし、赤城さん。この子が何か問題を起こせば、その罰は私達に返ってくるんですよ」


赤城「分かってはいます。でも、まずはこの子の話をちゃんと聞いてからにしましょうよ」


加賀「……分かりました」


赤城「ねぇ、君。何でこんなところにいたの?」


ショタ「なんで……?えっと、学校が終わったから」


加賀「大方、遊び半分のつもりで入ったんでしょう?あまり厄介事は作らないで欲しいのだけれど」


ショタ「僕、そんなつもりじゃ……。ここは自分の部屋だから……」


加賀「部屋?何を言っているの?」


ショタ「ここに来た時に提督が、今日からここが僕の部屋だって……」


赤城「!!」


加賀「ただ雨が凌げるだけのこんな所が?冗談でしょう?今は真冬です。それにこの幕舎はもう使われてもいない上に、所々穴だって空いています。風避けにすらならない所よ」


ショタ「ほ、本当です!」


加賀「……なら食事はどうしてたの?あなた、食堂でも見掛けた事なかったわね?」


ショタ「建物の中には入るなって言われてて……。その、お金をまとめて貰ってたからそれで作ってました」


加賀「あれはガスコンロにフライパン?……そこに転がってるのは鍋ね。これはあなたのなの?」


ショタ「そうですけど……」


赤城「お風呂や洗濯はどうしてたんですか?」


ショタ「ここから少し歩いた所に蛇口があったからそこで……。あの、もしかして水道は勝手に使っちゃ駄目だったんですか?」


加賀「そんな……」


ショタ「あ、あの、ごめんなさい!僕、何も知らなくて……。もう勝手に水道は使いませんからここにいさせて下さい!行くところが無いんです!迷惑は……少しはかけてしまうかもですけど……。でも、言うことはちゃんと聞きますから」フルフル


赤城「っ!」ギュウッ



ショタ「ひぅっ!…………え? あの、ごめんなさい……」


赤城「こんな指先まで冷たい体で……。ごめんね……?もう謝らなくても良いんです。悪いのは全部、私達なんですから」


ショタ「?」


赤城「加賀さん、この子はやっぱり私が育てます。皆さんに迷惑はかけませんから」


加賀「……駄目よ、赤城さん」


赤城「なっ! どうして!?」


加賀「言ったはずです。赤城さんが面倒を見るくらいなら私が見ます、と。それに赤城さんに任せると、確実にこの子が大飯食らいになってしまいます。そんな事態は避けたいですからね」フフッ


赤城「加賀さん……」



ショタ「あの、大丈夫ですから。僕は1人で出来ますって約束しました。約束は守らなきゃ、なんです」


赤城「それとこれとは話が別です!」


加賀「赤城さん、待って。ここは任せて頂戴。……あなた、確かここに来たときに約束をしていたわね?"迷惑は掛けません"って」


ショタ「……はい」


加賀「私達にとっては目の届かないここで何かをされるよりも、目の届く範囲に置いておいた方がよっぽど楽なのよ」


ショタ「……」



加賀「だったら分かるわね?もう一度だけ聞くわ。私達と一緒に来るか、それともここに残るか」


ショタ「……良いんですか?一緒に行っても」


加賀「馬鹿ね。私達がそうしなさいって言ってるの」


ショタ「……分かりました。その、よろしくお願いします」


赤城「はい!お願いされました。では早速私達の部屋に行きましょうか?ここよりは狭くなりますけど、住み心地は多分、比べ物になりませんよ?」ニコ


加賀「赤城さんの鼾で寝られなくても知らないわよ」フフッ


赤城「ちょ、ちょっと加賀さん!」





~赤城・加賀の部屋~



赤城「必要な荷物は後で持ってくるとして寝るところはどうしましょうか?」


ショタ「僕はどこでも良いです。丸まって寝れるところがあれば……」


加賀「……では、私と一緒に寝ましょう」


赤城「いえ、ここは私と寝てもらいます」


加賀「赤城さんは秘書艦です。深夜でも何かあれば叩き起こされます。提督があのザマなら尚更です」


赤城「た、確かにそうですね。……分かりました」


加賀「では私達が荷物を運んできますから、あなたはここで静かに待っていて下さい」


ショタ「あっ、僕も手伝います」


加賀「手伝いは不要です。あの程度の物なら荷物にもなりませんから。むしろあなたにうろつかれた方が足手まといになります」


赤城「もう、加賀さんたら。でも休んでいて欲しいのは私も同じ気持ちです。だから君はここにいて、ね?」


ショタ「……はい。分かりました」


赤城「いい子ですね。ではちゃんと待ってて下さいね」ガチャ


ショタ「あ、あの!」


加賀「まだ何か?」


ショタ「えと……、気を付けていってらっしゃい、です」



赤城・加賀「……」パチクリ



赤城「ふふ、行ってきますね」


加賀「……行ってきます」





赤城「荷物もそんなにありませんでしたね。なんとか一往復で済みました」


加賀「ええ。必要最低限のものしか買ってなかったみたいね。流石に調理器具はかさ張りますけど」


赤城「それにしても提督の甥とは思えないくらい良い子でしたね」


加賀「油断は出来ないわ。提督も最初の内は最低限の仕事くらいはこなしていましたから」


赤城「じゃあそうならないように私達があの子を立派に育てないといけませんね」



加賀「ところで赤城さん、荷物で両手が塞がってるので開けてもらえませんか?」


赤城「あら?このくらいは荷物にならないんじゃ無いんですか?」


加賀「赤城さん」


赤城「ごめんなさい。ちょっとからかいが過ぎましたね」ウフフ


加賀(赤城さんの無理の無い笑顔、久々に見た気がします)



赤城「帰りましたよ~」


加賀「ちゃんと静かにしてたでしょうね」


赤城「!! 加賀さん、しっ!」シー



ショタ「スー……スー……」



加賀「寝てしまったみたいですね」


赤城「ふふ、かわいい寝顔。このまま寝させてあげましょう」


加賀「仕方ありませんね」


赤城「こんな小さな体で3ヶ月も1人であんなところにいたんですよ?疲れも溜まっていたんでしょう」


加賀「ここは提督こそクズですが、建物自体は立派ですから。あんな所に比べれば天国でしょうね。悪い事をしてしまいました」


赤城「意外ですね。加賀さんが素直にそんな事を言うなんて」


加賀「私だって自分の犯した過ちくらいは認めます」ムスッ


赤城「冗談ですよ。……でも、これからはこの寝顔も守っていかないとですね」


加賀「……そうですね」



~2時間後~



ショタ「ん……?あれ、ここどこ?……あっ」ガバッ


赤城「起きましたかー?ご飯は出来てるので準備が出来たら一緒に食べましょうね」


加賀「随分と寝坊助さんね。お陰で私はお腹が減りました」


ショタ「あ……。ご飯、作ってくれたんですか?」


赤城「そうですよ~」


加賀「本当は鳳翔さんの所から持ってきて食べるはずでしたが、あなたがなかなか起きないから赤城さんが作ってくれてたんです」


ショタ「ごめんなさい。僕のせいで……」


加賀「え?違っ…………えぇ、そうですね。しっかりして貰わないと困ります」


赤城「加賀さん?あまりキツい言い方をしてるとご飯抜きにしますよ?」


加賀「ショタ、良く起きれたわね。早くそこに座りなさい」


赤城「ふふっ、加賀さんったら。ショタ君。まずは手を洗ってらっしゃい」


ショタ「…………」


赤城「? どうしたの?」


ショタ「名前……呼んでもらえた……」


赤城「あれ?間違ってましたか?君の荷物にそう書いてあったものですから」


加賀「それがどうかしたのかしら?」


ショタ「あの、僕も名前で呼んでも良いですか?」


赤城「勿論ですよ。私が赤城でこの人が加賀さんです」


ショタ「赤城さん……に、加賀さん……」


赤城「そうです。いい名前でしょ?」


ショタ「はい。とてもいい名前だと思います」ニコッ



加賀「」キューン


赤城「ショタ君の笑顔……。初めて見ましたけど凄いですね」キュンッ


ショタ「?」





 ~3時間後~


ショタ「あの、お風呂ありがとうございました」


赤城「どうでしたか?久々のお風呂は?」


ショタ「気持ちよかったです。その、ごめんなさい。長くなってしまって」


赤城「いいんですよ。そもそも私達は大浴場で済ませてきましたからね」


加賀「じゃあ後は寝るだけね。ショタ、早くこっちに来なさい」ポンポン


ショタ「え?はい」


赤城「うふふ、加賀さんたらショタ君がお風呂に入ってからずっとお布団に入ってソワソワしてたんですよ?」


加賀「赤城さん、余計な事は言わなくても良いです」



ショタ「待たせちゃってごめんなさい。直ぐに寝ますから」モゾモゾ


加賀「……」ギューッ


ショタ「……えっと、あの……?」


加賀「私は何かに抱きついていないと寝れないのよ」ギューッ


ショタ「そうだったんですか。えと、僕で良ければどうぞ、です」


赤城「ん~?私は初耳ですけどね~」


加賀「赤城さん」ギューッ


赤城「今日の加賀さんはからかいがいがありますね」


加賀「赤城さん」ギューッ


赤城「はいはい。ショタ君も苦しかったら言うんですよ~」


ショタ「いえ、暖かい……です……」キュッ


加賀「」キューン


赤城「あそこにはお布団もありませんでしたからね。今日からはゆっくり寝れますよ」


ショタ「…………」


加賀「ショタ……?」


ショタ「スー……スー……」


赤城「え?もう寝ちゃったんですか?」


加賀「そうみたいですね」


赤城「ずっとあんなところに1人でいたんです。肉体的にも精神的にも追い込まれていたんでしょうね」


加賀「……ふふ、かわいい寝顔」


赤城「あっ、私にも見せてください!私からじゃ見えないんですよ~」


加賀「駄目です。静かにしてください。ショタが起きてしまいますから」



赤城「……加賀さんも変わりましたね」


加賀「お互い様です。赤城さんだって今日はきちんとご飯食べれたみたいじゃないですか」


赤城「ご飯ならいつも食べてるじゃ無いですか」


加賀「隠さなくても良いです。赤城さんはイビキだけでなく嘔吐や嗚咽の音も大きいですからね」


赤城「……聞こえていたんですか」


加賀「同室ですからね。聞こえなくてもなんとなくは分かります」


赤城「心配させてしまっていたんですね。ってイビキは余計ですから」


加賀「ふふ。……でも私は希望が見えてきた気がします。たった半日足らずでこんなに気分が晴れやかになれたんですから」


赤城「そうですね……。とはいえ問題もあります」



加賀「提督の事ですか?」


赤城「それもあります。この子を勝手に連れてきたのが見つかれば私達だけでなく、この子にまで矛先がいくでしょうから」


加賀「それはそこまで問題にはならないと思うけれど。提督が自室から出るときは外へ遊びに出歩くか、執務室に行くかのどちらかです。こちらの棟には来ません」


赤城「そうですね。でも私が言いたいのは長門の方です」


加賀「長門?」


赤城「長門の人間への不信感は私達の比では無いですから。私達と違って長門は最前線で指揮を執っています。死と隣り合わせの環境にずっと身を置いていたのですから、人間の悪意に敏感になっていても不思議ではありません」


加賀「確かに長門の考えは随分と過激だわ。時々恐く感じることすらあったもの」


赤城「ショタ君には申し訳ないですけど、私達以外の艦娘には見つからないよう、学校へ通う時も人の少ない時間帯を見計らって裏口から行かせなきゃいけませんね」


加賀「そうね。ショタには明日の朝にでも話しましょう」


赤城「それじゃあ明日に備えて私達ももう寝ましょうか。それじゃあ電気、消しますよー?」


加賀「ええ、お休みなさい」ギューッ


赤城「…………」


加賀「…………」ギューッ


赤城「……やっぱり1日交代にしませんか?」


加賀「嫌です」ギューッ


赤城「…………」


加賀「…………」ギューッ


赤城「…………」


加賀「……ショタが次の日、休みであれば例え夜中に起こされたとしても、大して負担にはならないでしょう」ギューッ


赤城「加賀さん……!では金曜日と土曜日ですね!それと祝日の前日も!」パァァアアア


加賀「……やっぱり週1に」ギューッ


赤城「週2ですね!電気消しますよ。おやすみなさい」パチッ


加賀「…………ええ、お休みなさい」ギューッ





                    ◇



 ~半年後~



加賀「まさかこんなに海が荒れるなんて。赤城さんの早めの中止の判断は流石としか言い様がありません」


赤城「この大荒れですからね。提督には大目玉を食らっちゃいますけど、臨時の休暇だと思ってしっかり休んでおきましょう」


加賀「そうですね。……ショタはちゃんと部屋で大人しく待ってるかしら?」


赤城「最近の加賀さんは時間があればショタ君の事ばっかりですね」


加賀「……そういう赤城さんも隙あらばショタの様子を見に行ってますよね?」


赤城「そ、そんなにでしたか?」


加賀「呆れた……。気付いていなかったんですか?提督に殴られても何事もなくショタの所に笑顔で向かっていたじゃない。駆逐艦の子達も加賀さんが壊れたって怖がっていたわよ」 


赤城「確かにここ最近は提督の側に居る事が全く苦痛に感じなくなっていました。……ショタ君は私が思っている以上に私の支えになっていたのかもしれませんね」


加賀「赤城さんだけではありませんよ。どういう訳か、他の艦娘達も最近は笑顔を見せています。もしかしたら赤城さんが余裕を持てた事で、ここの雰囲気も徐々に良くなっているのかもしれません。提督からの折檻は相変わらずですけれど、私達の心持ち次第でこんなに変わって見えるのね」


赤城「そうですね。出来ればこのまま良い方向へ向かっていってくれれば……」



加賀「? あれは……? 赤城さん!!」


赤城「どうしたんですか?そんな血相を変えて?」


加賀「今、私達の部屋に長門が!!」


赤城「っ!!」ダッ


加賀「待ってください!今、入っていっても状況は変わりません!」ガシッ


赤城「だからって放っては置けませんよ!離して下さい!」グググッ


加賀「ショタを放って置くなんてする訳ないでしょう!? まずは様子を見るんです」


赤城「様子……ですか?」


加賀「そうです。まだ長門がショタを追い出すと決まったわけではありません。ですから二人の会話を聞いてみるんです」


赤城「盗み聞きって事ですか?」


加賀「そうです。それとも誇りある一航戦がそんな卑怯な真似は出来ませんか?」


赤城「いえ、ショタ君の為なら卑怯もへったくれもありませんから」


加賀「ふぅ……。では行きましょうか」


赤城「はい」




加賀「では耳を当てて聞いてみましょう」


赤城「ええ」



長門『私がここに~~用件は~~~な?』


ショタ『分か~~~です』



赤城「やっぱり追い出そうとしています!」バッ


加賀「落ち着いて、赤城さん。まだこの段階では分かりません。もう少し聞いてみましょう」ガシッ



長門『貴様にはこ~を~~もらう』



加賀「よく聞こえないわ。もう少し近付いてみましょう」


赤城「ええ」



ショタ『あの、それは……出来ないです』


長門『何?この長門の願いが聞けないと言うのか?』


ショタ『そうじゃないです、けど……。ただ他の事では駄目なんですか?』


長門『しかしこれは重要な事なのだぞ?』


ショタ『でもそれは……。他の事なら何でもしますから』


長門『ん?今、何でもと言ったな?ならば―』



赤城「長門さん!見損ないましたよ!」バンッ


加賀「流石にこれは頭に来ます」ビキビキッ



ショタ「赤城さんと加賀さん?」


赤城「もう大丈夫ですからね?」ヒシッ


加賀「長門。あなた、して良い事と悪い事の区別もつかないのかしら?」キッ


長門「どうしてお前たちがここに!?遠征はどうしたんだ?」


赤城「遠征ならこの悪天候で中止にしました。きっと神様からの天啓だったんでしょう。残念でしたね」


長門「くっ、警戒はしておくべきだったか」


加賀「私達の留守を狙って追い出そうとするなんて随分と小物になったものね、長門」


長門「くそ、これでは私が組んだ緻密な計画がおじゃんではないか!…………ん?」





長門「追い出す?誰をだ?」



加賀「今更とぼけても無駄よ。ショタをここから追い出そうとしてたのでしょう?ショタの事を少しも知ろうとしないで」キッ


赤城「長門さん。あなたはショタ君の何を知ってると言うんです?ショタ君はこんなにも健気で良い子なのに……!」


長門「ふむ。すまないがそこの健気というところ、もう少し詳しく聞きたいのだが」


加賀「ええ、良いでしょう。まず朝の起床時です。私に強く抱かれながら寝ているのでショタは身動きが取れません。それでも私が起きるまでは、身動き1つもせずに私を起こさないようにじっとそのままでいてくれるわ」


長門「なに!?一緒に寝てるのか?それは有りなのか!?」



赤城「…………ん?」



加賀「勿論、有りよりの有りです。それだけではありません。そして私が目覚めた後には鼻先がぶつかりそうな至近距離からの"おはようございます"。そしてはにかみながらも天使のような微笑みを私に見せてくれます」


長門「くそっ!もっと早くに気付いていれば私も一緒に昼寝していたのに!」



赤城「…………」



加賀「まだまだありますよ。ショタは純粋無垢ですからね。任務で疲れて手が使えないと駄々を捏ねれば、困った顔を浮かべつつも"あーん"でご飯を食べさせてくれるんです。これは私の月一の楽しみになっています」ドヤァ


長門「お前っ!こんな子に嘘をついてまで私腹を肥やしてたのか!?」ビキビキッ



赤城「…………」



加賀「言いがかりも甚だしいですね。しかしその嫉妬が今は心地いいです」


長門「なんだと!?お前……。して良い事と悪い事の区別も付かないのか!」


加賀「おや、どうやら立場が逆転したようね?良いでしょう。このまま畳み掛けてあげます。出掛ける際は行ってきますのほっぺちゅー。ここに帰ってくればただいまのほっぺちゅー。恥ずかしがりながらも私の願いだからと無下に断れずに、耳まで真っ赤になりながらちゅーをする。そんなショタをあなたは見た事があるの?」


長門「無い。無いぞ、加賀!羨ましい!羨ましすぎるぞ加賀ぁーーーーー!!!」ウォォォォン



ギャーギャー



赤城「ねぇ、ショタ君?長門さんになんて言われてたの?」


ショタ「えっと、この水着を来て欲しいって」スッ


赤城(これ女の子のスクール水着ですよね?どういう事なの……?長門さん)


赤城「もう1つ聞いていい?長門さんはいつ頃からここに来てたの?」


ショタ「それは……。ないしょって言われてるので」


赤城「ショタ君が話してくれないと私達、長門さんに酷いことをしなきゃいけなくなるの」


ショタ「!! それは駄目です!」


赤城「こんな事言ってごめんね?でもこれは大切な事なの。教えてくれる?」


ショタ「……僕がここに引っ越してきた次の日です」


赤城「」



加賀「あなた、まだショタの良さが分かってないようね?ショタは飾らない、ありのままの姿が至高なのよ!」


長門「ふん、どうやらお前とは相容れる事が出来なさそうだな、残念だ。確かにありのままの姿でも素晴らしい。ショタならば当たり前の事だ。しかしな、ショタは着飾ってこそ最大限の力が出せるんだ。そんな綺麗事染みた戯れ言など聞きたくもない!」


赤城「……」



~数分後~



赤城「二人とも落ち着きましたか?」


加賀・長門「はいぃ……」ヒリヒリ



赤城「それで長門さん、ショタ君がここに来た翌日にはもうショタ君に会ってたみたいですけど?」


加賀「なっ!?長門!あなたショタに何か」


赤城「加賀さん。静かに」


加賀「はいぃ……」


赤城「なんで黙っていたんですか?」


長門「いや、2人とも隠したがっていたみたいだしな?お前達の顔を立ててやろうという話に……あっ」



赤城「……他にもこの事を知っている人がいるみたいですね?誰ですか?」


長門「……陸奥だ」


赤城「他は?」


長門「大和に武蔵もだ」


赤城「他は?」


長門「空母勢や駆逐艦の子達もしょっちゅう遊びに来ている。ここに艦娘がいない時間など殆ど無いな」


赤城「は?」


長門「もうバレるのも時間の問題だから全て吐くが、ここの艦娘達は全員この事を知ってるぞ。その事に気付いてなかったのは赤城と加賀、お前達だけだ」



赤城・加賀「」



長門「更にお前達が居ない間のショタの世話係は既に5年先まで予約がびっしりだ」



赤城・加賀「」



長門「もっと言うのならショタの授業参観に父親役として初めて赴いたのは、何を隠そうこの私だ!」ドヤァァァ



赤城・加賀「」



長門「因みに母親役は抽選の結果、雷となった。中々どうして、様になっていたぞ」シミジミ



赤城・加賀「」




加賀「授業参観……?ショタ?」


ショタ「ご、ごめんなさい。加賀さん達は忙しそうにしてたので言いづらくて……」


長門「ショタは悪くないぞ?私が半ば強引に聞き出したのだからな」



赤城「はぁ……。つまり私達が小細工をしてまで隠してた事は無意味だったという訳ですか……」


長門「まぁ、そういう事だな。そもそも堂々とショタの荷物らしきモノを運んでた時点で、私を含め数人には既にバレていたしな」



赤城「……長門さんはショタ君を養う事に反対していたはずですよね?それが急にどうして?」


長門「ふむ。……ショタ、少しだけ席を外してくれないか?」


ショタ「? 寝室に行ってれば良いですか?」


長門「ああ、すまないな」


ショタ「えと、行ってきます」テテテ



長門「……話を戻そう。確かに私は反対していた。ショタが来た事によって、私達の負担が増えるのは目に見えて明らかだったしな。それにこの件はいつ爆発するとも分からん爆弾を抱えているようなものだ。当たり前だが、問題を起こせば問答無用で追い出す気でもいた」


加賀「いた?今はそうではないと?」



長門「その様子だとやはり気付いていなかったのか?」


加賀「何がです?」


長門「最近、青あざのある艦娘が減ってきたとは思わないか?」


赤城「……不可解には感じていました」


長門「提督の暴力は減っていない。むしろ徐々にだが酷さを増してきている。ならば増える事はあっても減る事は無いはずだ」


加賀「確かに不思議ですね」


長門「それに鎮守府内も明るくなった。以前までなら提督が不在の場だったとしても、公の場で話す者など殆ど見掛けなかったのに、だ」


赤城「ここ最近の食堂が賑わっていたのもそれと関係があるという事ですか」


長門「そうだ。ここまで艦娘達が持ち直したのは各々のふんばりのお陰でもあるが、1番の鍵はショタが握っているんだ」


加賀「……確かにショタは私達の支えにはなっています。が、流石にそれは眉唾物です」



長門「信頼度。お前達はこんな言葉を聞いた事は無いか?」



赤城「信頼ですか?それくらいは知っていますけど」


長門「いや、言葉の意味では無い。私が言いたいのは言葉そのものの事だ。……未だに研究中で確かな事は分かっていないらしいが信頼度というのは練度と対になってくる、私達が強くなるために必要な要素らしい」


加賀「練度なら知っていますが、信頼度……ですか」


長門「艦娘の練度は実践での経験で培われるものだ。実践を積めば積むほど練度が上がっていくのは分かるな?対して信頼度は提督との絆だ」


加賀「フッ。……一気に胡散臭くなりましたね。私達と提督との絆は0、いえマイナスに突き抜けていますよ」


長門「そこだ。私達の練度は少し前に既に限界まで上がってしまっていただろう?しかし最近の戦闘では明らかに負傷者は減り、逆に戦果は上がっている」


赤城「まさかそれがショタ君のお陰とでも言うんですか?」


長門「そのまさかだ。多少の時期のズレはあるものの、ショタとの触れ合いが起きてからは、ここの艦娘の総合力は比べ物にならないほど上がっている。直接、指揮をしている私が言うのだから間違いない」


加賀「……やはり信じられません。そうだとしても半年というこの短期間でそこまで急成長するとは考え辛いです」


長門「艦娘は練度だけでは最大限の力は発揮出来ない。それは信頼度だけでも同じ事が言える。要はこの2つが合わさって初めて相乗効果が生まれるんだ。その片方が足りなかった所に残りのもう1つが揃った。強くなるには十分な理由だ」


加賀「しかしショタは提督ではありません。その仮定には無理があります」


長門「ここからは私の仮説だが……。お前達は今の提督の事を提督として見た事はあるか?正直に言ってみろ」



赤城「……無いです」


加賀「無いわね」


長門「そうだ。言わば提督が不在という認識のまま、今の今まで来てしまっていたんだ」


赤城「それではその提督という空白の場所にショタ君が割り込んだという事ですか?」


長門「……お前らは任務に出発する際にショタから"行ってらっしゃい"と言われた事は無いか?」


加賀「それは自慢かしら?残念だけれど私達は毎日言われてるわよ」フフン


赤城「……まさかそれがトリガーになって?」


長門「そうだ。私達は知らず知らずの内に戦場へ送り出すショタを提督として認識してしまっていたんだ」


赤城「!」


加賀「それでも信じられませんね。都合が良すぎます」


長門「まぁ待て。極み付けはこれだ。……ショタ!すまないが、こっちに来てくれないか?」



ガチャ


ショタ「はい?」テテテ


長門「少し欲しいものが出来てな。妖精達に女児服を作って貰うように頼めないか?」


ショタ「じょじふく?」


長門「ああ、いや、すまない。お前位の年の女の子が着る服の事だ」


ショタ「? 分かりました。……妖精さん、またお願い出来ますか?」



妖精「」ゾロゾロゾロ



赤城・加賀「」



ショタ「ありがとう。また今度お菓子持ってきますから。……あの、長門さん、明日には出来るらしいです」


長門「ああ、すまない。この女児服は後で貴様に着てもらって写真を撮るからな」


ショタ「え?」


赤城「ショタ君、今からちょっとだけ難しい話をするの。だからまた寝室の方に行っててくれる?ごめんね?」


ショタ「は、はい」トトト



加賀「長門。ショタに悪影響になるような真似は控えてくれないかしら?」


長門「悪影響?これは新たな可能性を探る挑戦だ。断る」


加賀「はぁ……」



長門「で、話は戻るが、今見た通りだ。妖精を視認する事は勿論、呼び寄せる事や意思の疎通、願い事まで叶えて貰える。ショタの年齢にしては聡明で、清廉潔白。提督の素質は十分以上。私達からの慈愛の念や信頼も厚く、私達に対する尊敬の念や労りの心も持っている。まさに私達が求める理想の提督じゃないか」


加賀「確かに今までの事を思い返すと、思い当たる節がちらほらあるわね……」


長門「青アザが出来にくくなったのは提督に折檻を受けなかったからでも、勿論、提督が加減した訳でもない。私達にとってそんな折檻など、苦でも何でも無くなるほどに、各々が強くなったんだ」


赤城「強く……なった。私達が?」



長門「勘違いしてもらっては困るが、身体的な強化はショタがもたらす恩恵の1つに過ぎない。考えても見ろ。提督の折檻と深海棲艦の砲撃、どちらが我々にとって痛手になると思う?」


加賀「……比べるまでもないわ」


長門「だろう? しかし、ここの艦娘達は深海棲艦よりも提督を恐れていた。当たり前だ。反抗も抵抗もしない、出来ない我々に対し、権力を傘にして毎日のようにいたぶっているんだからな。自身に向かう悪意に対して一切の抵抗も出来ずにただただ受け入れる。こんな恐ろしい事はないぞ」


加賀「つまり今の状況を作り出しているのは身体的強化よりも精神的強化の方が大きいと言うわけですか」


赤城「私が提督の側にいても苦痛に感じなくなったのも、もしかして?」


長門「そうだ。ここの艦娘達は肉体的な苦痛よりも精神的苦痛によって病んでいる艦娘の割合の方が圧倒的に多いからな。そこにショタという精神的支柱が手に入れば怖いものは無くなる。艦娘にとって最も大事な、信頼に足る者との絆、という支柱をな」



赤城「……私達はあの子を守っていた、なんて奢っていましたけど、本当は守られていたんですね」


長門「それは違うぞ。ショタをよく見てみろ。未だに感情の起伏は年相応とは思えないほどに落ち着いてはいるものの、ここに来た時とは別人の様な、穏やかで優しい表情をしている。あれは赤城や加賀、それにここの艦娘達が居たからこそだと私は思っている」


赤城「そう……ですかね?そうだと良いです……」




長門「まぁ、そういう訳で私はショタを追い出そうなどとはもう言わない。そこだけは信用してくれ」



加賀「……長門。本当の事を言いなさい」


長門「? と言ってもな。今のが嘘、偽りの無い私の本心なのだが……」


加賀「あなた、もしショタに提督の適正が無くて、何か問題を起こしたとしたら、本当にここから追い出そうとしていたの?」


長門「当たり前だ。百害あって一理無しとはこの事だからな」



加賀「……ショタとの入浴中、私が偶々うっかりカメラを手に持ったまま中へ入ってしまって、これまた偶々ついシャッターを押してしまった事があります」


長門「何!?映像があるのか!?見せてくれ!頼む!」


加賀「……」


長門「……違うぞ。今のは没収という意味でだからな」


加賀「その写真がこちらです」ピラッ


長門「きゃわわわわ!!!」ンホォォォォ!


加賀「……」


長門「……」


赤城「……」ドンビキ



加賀「語るに落ちましたね」


長門「……ふっ、そろそろお暇するとするか。これから撮影会の下準備と、その日時を陸奥達に報告しなければいけないのでな。ではな」スクッ



ガチャ



赤城「長門さんも加賀さんみたいに随分と変わりましたね……」


加賀「あれと一緒にしてもらいたくは無いのですけれど」


赤城「お風呂の写真がなんでしたっけ?」


加賀「ショタ。もうこちらへ来ても良いですよ」コンコン



ショタ「? 長門さん、帰っちゃったんですか?」シュン


赤城「……まぁ、可愛いですからね」


加賀「仕方無いんです」


ショタ「?」



赤城「でも皆さんにバレてたって事なら、大手を振って、とまでは無理ですけど、食堂や大浴場にも通えるようになりましたね」


ショタ「でもそれは提督から駄目って言われてるから……」


加賀「見つからなければ良いんです。提督は艦娘を腫れ物の様に扱っていますから、鳳翔さんや間宮さん、伊良湖さんの食事も食べようとしません。専ら外食で済ませてますから鉢合わせする事は無いでしょう」


ショタ「でも……」


赤城「……そうですか。ショタ君が来てくれれば、きっと他の皆さんも喜ぶと思うんですけどね~。あー、残念ですね~」


ショタ「喜んでくれる……?皆がですか?」


赤城「ええ、そうです。長門さんの話を聞いた限りでは、皆さん、きっと喜んでくれると思いますよ?」


ショタ「……あの、やっぱり行きたいです。僕、食堂に行ってみたいです」


加賀「それでは早速、行ってみましょう」




 ~食堂~



赤城「んー、ここに来るのは久し振りですけど、いつ来ても何を選ぶか迷いますね~」


ショタ「わぁ、たくさんある……。加賀さんは何を頼むんですか?」


加賀「私はいつもの大盛り海軍定食Cです」


赤城「加賀さんはいつもそれですね。たまには冒険してみたらどうです?」


加賀「私は冒険をしないのではなく、海軍定食Cが好きなだけです」


赤城「はいはい。私は海軍定食Bと本日のお勧めメニューにしますね。ショタ君は決まりましたか?」


ショタ「……」ジーッ


赤城「?」


加賀「このお子様ランチが良いんですか?」


ショタ「あ、ち、違います。僕はこの和食定食にします」


赤城「ショタ君、隠し事は無しですよ?」


ショタ「……このお子様ランチが食べたいです」カァ


加賀「はぁぁ……。かわいい……」ボソッ


赤城「では頼みに行きましょうか」ニコニコ



赤城「すみません。海軍定食Bと大盛り海軍定食Cに本日のお勧めメニュー、それにお子様ランチをお願いします」


鳳翔「はい。承りました。……あら、その子が噂の……?」


赤城「ええ、提督の甥のショタ君です」


ショタ「初めまして。今日からお世話になります」ペコッ


鳳翔「あらあら、噂通りの可愛らしい子ですね。ファンになっちゃいそうです。あまり良いものはお出しできませんが、ゆっくりして行って下さいね」


赤城「鳳翔さんの料理は美味しいですからね。私の料理なんて食べたくなくなっちゃいますよ~?」


ショタ「!! そんな事無いです。赤城さんの料理はおいしいですから」


赤城「え?そうですか?……ふふっ、なんだか照れちゃいますね」


鳳翔「あ、あらあら。これは妬いちゃいますね」ウフフ


加賀「私の料理はどうなのかしら……?」


ショタ「同じです。加賀さんと赤城さんが作った料理はなんでもおいしく食べられます」


加賀「そ、そう」ニヤニヤ


鳳翔「私もショタ君に早くそう言われるように一所懸命作ってきますね」


赤城「ふふ、では席に座って待ってましょうね」


ショタ「はい」テクテク



加賀「鳳翔さん。知っているかとは思いますが、ショタはここで暮らす事自体、提督の許しを得ていません。私達が居ない間に万が一の事態が起きた時は宜しくお願いします」ボソッ


鳳翔「ええ、分かってます。任せて下さい」ボソッ



赤城「じゃあここで食べましょうか」


ショタ「はい」



雷「ん?ショタじゃない!」


電「ショタさんが食堂に来るなんて初めて見たのです」


赤城「あら、暁ちゃん達もご飯ですか?」


暁「そうよ。レディはお昼ご飯もしっかり食べるんだから!」


響「暁、昼ご飯はレディで無くても食べるよ」


暁「もう!いちいち言わなくてもそんなこと分かってるわよ!」



加賀「……賑やかだと思ったら第六の子達でしたか」


電「加賀さん、こんにちはなのです」


加賀「ええ、こんにちは」


雷「ねぇ、赤城さん?私達も一緒にここで食べても良いかしら?」


赤城「良いですよー。ご飯を食べるときは人数が多い方が美味しく感じますからね」


雷「じゃあ雷はここに座るわ!」


加賀「待ちなさい。そこの席は私の特等席です」


赤城「まぁまぁ。たまにはいいじゃないですか」


加賀「いいえ、ショタの左隣は譲れません」


赤城「今日だけですから、ね?」


加賀「……仕方ありませんね」


雷「やったわ!ショタのママとしてここはお世話しなきゃだものね!」


加賀「……聞き捨てなりませんね。ショタの母親代わりは赤城さんと私です」


赤城「ふ、二人とも!」



ショタ「…………」



雷「あっ……」


加賀「……ごめんなさい。そんなつもりは無かったのだけれど」


ショタ「? 何がですか?」


暁「何ってショタのお父さんもお母さんもこの前、殺されちゃったんでしょ?雷も加賀さんもそれで気を使ってるのよ」


響「流石のレディだね。少しの容赦も無いよ」



ショタ「……それは大丈夫です。2人が死んだって聞いたとき、悲しいって思うよりも先にホッとしたんです……」


加賀「……それは腕の火傷の傷に関係しているのかしら?」


赤城「加賀さん!」


ショタ「……」


加賀「一緒にお風呂に入って体も洗ってるんです。そのサポーターで隠してても気付きますよ」


ショタ「……そうで「えっ?」」


暁「その年で一緒にお風呂になんて入ってるの?ちょっとはこのレディを見習いなさいよ!」プークスクス


電「暁ちゃん……」


響「夕方以降は1人でトイレに行けない暁はちょっと黙ってようか」


雷「ごめんなさい!暁はちょっとだけ空気を読むのが苦手だから……って、ショタ?」



ショタ「…………やっぱりこの年で一緒にお風呂に入ってるのっておかしいんですよね?」カァァ


加賀「騙されないで!ショタ位の年齢なら誰かと一緒に入るのは当たり前なのよ?」


暁「そんなわけ無いでしょ!私はもう自分の体は自分で洗えるわよ!」ドヤァァ


響「頭と背中、それに足先はちゃんと洗えないじゃないか」



ショタ「あの、やっぱり今日からはまた、僕1人でお風呂に入りますから」


赤城「ショタ君?よそはよそ。ウチはウチですよ。気にしなくても良いんです。それともショタ君は私達と一緒に入るのは嫌なんですか?」


ショタ「イヤ……ではないです」


加賀「な、なら良いじゃないですか。ショタと一緒に洗いっこ出来ないなんて今更考えられません……」


雷「そうだわ!ここに来てるってことはもう大浴場にも行けるのよね?この後、私達と一緒に入ればいいじゃない!背中を流してあげるわ!」


電「良い考えなのです。電はショタさんの頭を洗ってあげるのです」


ショタ「う、うん。じゃあぼくもお返しに洗います」


響「私も洗ってほしい……」


ショタ「はい。皆にはいつもお世話になってるから。僕、頑張ります」


響「ハラショー」


暁「な、何よ!暁は自分で洗えるんだから!」



加賀「くっ、これはどっちに転んでも当分は洗いっこ出来なさそうね……」


赤城「まぁまぁ、加賀さん。ショタ君にも話相手が増えたんですし良いじゃないですか」


加賀「……顔がひきつってますよ」


赤城「ぐぬぬ」



鳳翔「はい、お待たせしました。まずは赤城さん達の海軍定食Bと大盛り海軍定食Cに日替わり定食、それにお子様ランチです」


暁「お、お子様ランチ!?」ブッフゥ-


響「暁もお子様ランチを頼んだの、もう忘れたのかい?」


暁「」



鳳翔「こちらは暁ちゃんのお子様ランチと響ちゃんの和食定食、雷ちゃんと電ちゃんの焼き魚定食ですね」


暁「」



鳳翔「もし宜しければ、私も休憩に入るのでご一緒しても良いですか?」


赤城「勿論です。鳳翔さんならいつでも大歓迎ですから」


鳳翔「ありがとうございます。では私の分も持ってきますから先に食べていて下さい」



赤城「暁ちゃん達も先に食べてて良いですよー」


暁「ん?何か言ったかしら?」モグモグ


赤城「いえ、美味しそうですね~。さっ、ショタ君も召し上がれ」


ショタ「あの、鳳翔さんが来るまで待ってちゃ駄目ですか?皆で食べた方がきっと美味しいから……」


加賀「」キュンキュンキューン


赤城「勿論、それでも構いませんよ♪」


暁「ハグハグ…このチャーハンとラーメンが絶妙なのよね」モグモグ


響・雷・電「……」



鳳翔「あら、待ってて頂いてたんですか?」


加賀「ええ、ショタが鳳翔さんと一緒に食べたいと言うので」


鳳翔「うふふ、嬉しい事を言ってくれますね。皆がショタ君に夢中になるのも頷けます」


暁「……わ、私も待ってたのよ。良いレディは待てるんだから」ムグムグ…


鳳翔「あらあら……。ではこれ以上待たせるのも酷ですから頂いちゃいましょうか」



全員「いただきます!」



鳳翔「ショタ君。お味はどうかしら?気に入ってもらえた?」


ショタ「はい。とっても美味しいです」ニコ


鳳翔「…………」


ショタ「……鳳翔さん?」


鳳翔「あ、いえ。何でもないですよ。ゆっくり食べてくださいね」



赤城「(鳳翔さんの様子がおかしいですね)」ボソッ


加賀「(ショタ君は滅多に笑いませんが、ここぞと言う時の笑顔は破壊力抜群ですから。可愛さにやられてしまったんでしょう)」ボソッ



鳳翔「良かったら私の煮魚もどうですか?」


ショタ「え、でもそれは鳳翔さんのだから」


鳳翔「良いんですよ。私は皆さんが笑顔で食べている所を見る事がなによりも好きなんですから」


ショタ「それじゃあもらっても良いですか?」


鳳翔「はい、どうぞ。あ、ショタ君のフォークでは取り辛いですね。では私が……あーん」スッ


ショタ「え?あの……」


鳳翔「あーん」ズイッ


ショタ「あ、あーん」パクッ


鳳翔「煮加減はどうでしょうか?」


ショタ「……美味しいです」ニコ


鳳翔「! では、もう1つ」スッ



加賀「見ましたか?赤城さん」


赤城「ええ。お子様ランチに付いているのはスプーンとフォークのみ。そこを利用した高度なテクニックですね」


加賀「その通りです。フォークで取りやすい煮物や漬物ではなく、わざと難易度の高い、煮崩れしやすい煮魚を差し出しています」


赤城「極めつけはなんと言っても、あの有無を言わせぬ"あーん"の圧力です。あれでは純粋な心の持ち主であればあるほど断るなんてことは出来ませんからね!」



鳳翔(全部聞こえてますよ) カァァ


ショタ「?」モグモグ




暁「ふぁー、もう食べれないわ!」プフー


鳳翔「皆さん、食べ終わったみたいですね。では片付けて私は持ち場に戻る事にします」カチャカチャ


赤城「あ、私も手伝いますよ」カチャカチャ


ショタ「僕も手伝います」カチャカチャ


加賀「ショタは暁達と先にお風呂に入ってらっしゃい」カチャカチャ


雷「良いわね!じゃあ10分後に大浴場に集合ね!場所は分かる?」


ショタ「う、うん。案内図はもらってるから。赤城さん、加賀さん。先に行ってますね」


加賀「ええ。私達も直ぐに向かうから待ってなさい」



ギャーギャー  ワーワー



鳳翔「……今日は暁ちゃんに救われましたね」


赤城「聞いていたんですか。……確かにそうですね」


加賀「すみません。私が浅慮でした。あの傷は前々から気になっていたので、つい口が滑ってしまいました」


鳳翔「馴染んできたとはいえ、ショタ君が来てからはまだ日は経ってないですからね。あまり焦らずにゆっくり付き合って行きましょう」


加賀「はい……」


鳳翔「因みにその傷はそこまでのモノなんですか?」


赤城「……正直に言うとかなり酷いです。ショタ君がまだ小さいとはいえ、一生涯残ると一目で分かるくらいの傷痕です」


加賀「あれは切り傷や打撲等では無く、火傷の痕だと思います」


鳳翔「そうですか。やはり父親か母親からの虐待。ショタ君の言い方からすると、もしかしたら2人の両親からの虐待かもしれないですね」


赤城「信じられないです。あんないい子を……!」


鳳翔「過去に起こった事はもうどうしようもありません。ですからこれからは私達がショタ君に沢山の愛情を注いでいきましょう」


赤城「鳳翔さん……。そうですね」


鳳翔「では手始めにショタ君の胃袋は私が掴ませて頂きますね」


加賀「!?」


鳳翔「私のお料理の感想をあれだけ幸せそうな笑顔で返して頂ける方は初めてでした。暁ちゃんや雪風ちゃんも作り甲斐はありますが、母性本能がより擽られるのはやはり、儚げな雰囲気を持ってるショタ君に軍配が上がるでしょう」


赤城「!?」


鳳翔「その上、あれだけ落ち着いた言動をしているのに、所々に子供っぽさを滲み出してくるのは反則だと感じませんでしたか?お子様ランチを幸せそうに食べている姿は年相応で、大変愛らしかったですね!」



赤城「(これはもしかして長門さんタイプですか?)」ボソボソ


加賀「(いえ、あくまでも母性本能が前面に出ているだけで、長門のような私欲にまみれた行動はしないでしょう。多分ですけれど……)」ボソボソ


赤城「(そうだと良いんですけどね……)」



鳳翔「そうと決まれば久々に新メニューを作ってみましょうか。ショタ君は和食が似合いそうですから、まずはその方面で考えてみましょう」ウキウキ



加賀「……私達もお風呂に行きましょうか」


赤城「そ、そうですね」





赤城「滅多に感情を表に出さない鳳翔さんがあそこまで豹変するとは思いませんでしたね~」


加賀「ですね。しかし鳳翔さんは母性の塊ですから、ショタがここで暮らすに当たって、きっと心強い味方になってくれると思いますよ」



ギャーギャー ワーワー



加賀「……何事かしら?大浴場の中が騒がしいわね」


赤城「こんなに騒がしいのは珍しいですね。ささっと着替えて急いで入りましょう」シュルル


加賀「ええ」シュルル パサッ



ガラッ



暁「ショタ!その股に付いてるのは何なのよ。ちゃんと見せなさい!」グググッ


ショタ「あ、あんまり引っ張らないで。い、痛いです」


雷「暁!そんなに強くしたら駄目じゃない!伸びちゃうわよ」


響・電「///」



赤城・加賀「」



暁「もう!男らしくないわね!良いからこれがなんなのか教えてよ!」ビヨーン


ショタ「痛っ!お、おちんちん。これはおちんちんです」カァァ



加賀「……」ジーッ


赤城「ちょ、ちょっと加賀さん!目が見開いてますよ!」


加賀「すみません。ショタが恥じらった表情でおちんちんなんて言うものですから。興奮しました」


赤城「そんな事よりも、これは助けた方が良いですよね?」


加賀「ええ。これ以上の暁の暴君振り、見過ごしては置けません」



暁「おちんちん?可愛らしい名前ね!私にも貸しなさい!」グイー


ショタ「これは取り外し出来ないから!男の子にしか無いから!」


暁「? 良く分からないけど何事もやってみなくちゃ分からないわ!もう少しだけ引っ張ら[ゴチン]いったぁ~~~い!」


加賀「いい加減になさい」


暁「何よ!レディにげんこつとか


赤城「暁ちゃん?お風呂場では静かにしましょうか?」ゴゴゴ…


暁「ひっ……。そ、そうね。レディらしくは無かったかもね。暁は大人しくお風呂に浸かる事にするわ」ガクブル



赤城「全くもう。大丈夫でしたか、ショタ君?」


ショタ「だ、大丈夫です。ちょっとおちんちんがヒリヒリしますけど……」


加賀「……」ダクダク


赤城「……加賀さん。浴槽は汚さないでくださいね?」


加賀「尽力するわ」ドクドク



電「あの、ごめんなさいなのです」ペコッ


雷「暁には困ったものね!」


響「後で暁には色々と教えておくよ///」


ショタ「僕は大丈夫です。なんだかわいわい騒げて楽しかったですし。……そうだ、皆の背中流します。僕、赤城さんと加賀さんに褒められるくらい上手ですから」


雷「良いわね!じゃあ私から流してもらおうかしら」


響「次は私で良いかな?」


電「電は最後で良いのです」


ショタ「はい。赤城さん、僕、ちょっと行ってきますね」


赤城「はーい。また何かあれば直ぐに言って下さいね」




加賀「……全く。暁には手を焼くわね」


赤城「駆逐艦の中でも特に幼い子の多い第六の子達は提督には極力会わせないようにしてましたからね。元気溌剌で良いじゃないですか」


加賀「まぁ、お陰で良いモノは見れましたが……」



赤城「はぁ~~~。それにしてもやっぱり広いお風呂は気持ち良いですね~」チャプチャプ


加賀「ずっと個室の方を使っていましたからね。私は個室の方で良かったですけれど」


赤城「ふふっ、これからは独占できなくなりますね~、ショタ君の事。寂しいですか?加賀さん」


加賀「寂しいですよ。……そういう赤城さんは眉間に皺が寄ってますね」


赤城「……」



赤城・加賀「はぁ……」



ショタ「あの、赤城さん、加賀さん。今日は背中流さなくて良いんですか?」


赤城「? 流しますよ~」


加賀「それがどうしたんです?」


ショタ「僕、2人の役に立ちたくて……。良かったら今日も流させてください」



赤城「……ふふ。ショタ君が私達から離れるのはもう少し先ですかね?」


加賀「そうですね……。では隅々まで洗って貰いましょうか」ウキウキ





                    ◇





ショタ「時雨さん……ですか?」


加賀「ええ。ショタにはこれから時雨に会って貰いたいの」


ショタ「僕は良いですけど……。時雨さん?は何か困ってるんですか?」


加賀「本人は問題無いとは言って嫌がるのですけど、もう見てられないくらいには自分の殼に塞ぎ込んでいるのよ」


赤城「ごめんね?本当は私達がケアしてあげなきゃいけないんですけど、何度会いに行っても上手いことかわされちゃうんです」


ショタ「……赤城さん達が駄目なら僕が行っても、もっと駄目な気がしますけど」


赤城「駄目なら駄目で良いんです。取り敢えず1度だけでも会って貰えないでしょうか?」


ショタ「……良く分かりませんけど、会ってみます」


加賀「助かるわ」


ショタ「それで僕は何をすれば良いんですか?」


赤城「ショタ君も分かる通り、ここの提督はその、乱暴者っていうのは知ってますよね?」


ショタ「……はい。すみません……」


赤城「ショタ君が謝る事は無いんです!そもそもショタ君と提督はもう赤の他人なんですから」


加賀「そうです。ショタが気に病む事はありません」


ショタ「……はい」


赤城「それでね?時雨ちゃんの姉妹艦はまだ誰もここに配属されて無くてね。提督からの暴力と暴言にもずっと1人で耐えてきたの。誰にも頼らずに、……いえ、違いますね。頼れずに、です」


ショタ「……」


赤城「そうなってからは、元々社交的では無かったのも相まって自室に籠るようになっちゃって……。それでそのまま、今の今まで来てしまったの」


加賀「私達も今までは自分の事で精一杯だったから気付くのが遅くなってしまって……。だからせめて話し相手が出来るだけでも違ってくると思うのだけれど」


ショタ「……分かりました。会うのは今からでも良いんですか?」


加賀「ええ。なるべく早い方が良いでしょうから、ショタさえ良ければ早速、行ってみましょう」


ショタ「はい」





赤城「ここが時雨ちゃんの部屋です。私達も一緒に行きますから、まずはどんな感じかだけ把握しておいて下さい」


ショタ「はい」


加賀「ではノックしますよ」



コンコン



時雨『……誰だい?』


赤城「赤城です。今日は時雨ちゃんに会わせたい子がいまして」


時雨『まだ僕の事を心配してるのかい?僕なら大丈夫って何度も言ってるじゃないか』


赤城「違うんです!今日は本当に会わせたい子がいるってだけなんです」


時雨『……』



加賀「時雨がどうしても嫌というならこのまま帰るわ。ただ挨拶くらいはさせて欲しいわね」


時雨『……どうぞ。鍵は開いてるよ』



赤城「お邪魔しますね。早速ですけど、この子が会わせたい子です」


ショタ「あの、初めまして。僕、ショタって言います」


時雨「知ってるよ。あの時、僕も大会議室に居たからね。僕が時雨だよ。……それで?用事が済んだならもう帰って欲しいんだけど」


加賀「……少し喉が乾いたわね」


時雨「……今、飲み物を用意するよ」スクッ




赤城「……ふぅ。加賀さん、ナイスアシストでしたね!」


加賀「あのくらいの子にはまだ負けません」


赤城「と、まぁ時雨ちゃんはいつもこんな感じです」


ショタ「……何も無い部屋」


赤城「……そうですね」




時雨「お茶しか無いけど、どうぞ」コトッ


ショタ「ありがとうございます」


時雨「それで?理由を付けたとしても何しにここへ来たのかは分かってるんだよ。大方、任務以外でも外に出て来るように説得しに来たんだろう?」


赤城「……そうです。時雨ちゃんは外に出ないので知らないかも知れませんが、鎮守府の雰囲気はここ数ヶ月で随分と良くなってるの」


時雨「知ってるよ。任務中は皆とも顔を会わせるからね」


赤城「では、そろそろ皆と一緒に食事にでも……」


時雨「遠慮しておくよ。僕は今の生活に不便さは感じていないからね」


加賀「……皆があなたの事を心配しているわ」


時雨「心配?僕はこの通り、ピンピンしているさ。何も問題なんて無いよ」


加賀「……だったらそろそろこの小さな殼の中に閉じ籠るのは止めたらどう?」


赤城「加賀さん!」


時雨「……」



ショタ「あの、少しの間だけ、僕と時雨さんの2人きりにしてもらえませんか?」


加賀「……そうですね。少し頭を冷やしてきます。赤城さん、行きましょう」


赤城「ええ。ショタ君、少し外に出ていますね」


ショタ「はい。ありがとうございます」




時雨「……」


ショタ「……」


時雨「……」


ショタ「……」


時雨「……何か言うために二人きりになったんじゃないのかい?」


ショタ「えっ?あの、特に話す事は決めてませんでした……」


時雨「はぁ……。じゃあもう帰ってくれないか?」


ショタ「……分かりました。ただまたここに遊びに来ても良いですか?」


時雨「……こんな所に来てもつまらないだけだろう?無意味だよ」


ショタ「時雨さんに会いたいから来るんです。意味はあります」


時雨「……分かったよ。もう分かったから今日は帰ってくれないか?」


ショタ「それじゃあ約束です。約束の指切り」スッ


時雨「もう好きにしてくれ」スッ



ショタ「指切りげーんまーん 嘘付いたら針千本のーます 指切った!」ブン ブン



時雨「これで良いだろ?」


ショタ「はい。また明日来ますから待っててください。それじゃあ失礼しました」ペコッ



パタン



時雨「…………」







赤城「! ショタ君、どうでしたか?」


ショタ「駄目でした」


加賀「ショタでも駄目でしたか。手強いですね」


ショタ「ただ、明日からも来て良いって言われたので、これからは毎日、遊びに行くことにします」


赤城「毎日ですか?時雨ちゃんが良く許可してくれましたね」


ショタ「直ぐに帰る代わりに今度、遊びに来ても良いって約束をしたんですけど、回数は決めてませんでしたから」


加賀「ショタも意外と駆け引き上手なのね。……手玉に取られるのも悪くないのかしら?」


赤城「それなら暫くの間、時雨ちゃんの事はショタ君に任せても良いですか?私達が入ると拗れるかもしれませんし」


ショタ「僕にどうにか出来るかなんて思いませんけど、時雨さんと友達になりたいって思いました。僕なりに頑張ってみます」


赤城「そうですか。ショタ君ならきっと良い方向に進みますよ。ただ、困ったらいつでも私達に言って下さいね?」


ショタ「はい。これからは帰りが遅くなるかもですけど、時雨さんの所にいると思うので心配しないで下さい」


加賀「……時雨にショタを取られた気分だわ」ワナワナ


赤城「か、加賀さん……。落ち着いて下さい」





 ~翌日~


ショタ「時雨さん!遊びに来ました」コンコンコン


「…………」


ショタ「あれ?いないのかな?」ガチャ


ショタ「鍵は開いてる……?失礼します」


時雨「…………」


ショタ「あっ、いたんですね。お邪魔します」


時雨「……君は返事が無くても勝手に人の部屋に入るのかい?」


ショタ「す、すみません。でも約束してたから……」


時雨「悪いけど君には一切、構わないから。それでも良いね?」


ショタ「はい。邪魔はしないようにしてます」


時雨「…………」




 ~1週間後~



ショタ「時雨さん、今日もお邪魔しますね」


時雨「……また来たのか。ここの所、毎日じゃないか……」


ショタ「でも時雨さんが遊びに来てもいいって」


時雨「それはあの日の翌日だけっていう意味で……。そもそも君は社交辞令っていうのを知らないのかい?」


ショタ「でも指切りしたし……」シュン


時雨「……はぁ」


ショタ「大丈夫です。ここで大人しくしてますから」


時雨「……もう良いよ。何度言っても聞かないみたいだし、指摘するのも疲れた。君の好きにしてくれ」


ショタ「! やりました」


時雨「加賀さんの口癖、移ってるよ……」




 ~その日の夜~



赤城「ショタ君、今日の時雨ちゃんはどうでした?」


ショタ「今日は部屋にいても良いよって言われました」


加賀「!? あの時雨からですか?……信じられません」


赤城「私達は知らず知らずの内に遠慮してしまいますからね。ショタ君がまだ子供っていうのもプラスに働いたんでしょう」


加賀「兎も角、このままいけば時雨が外に出てくるのも時間の問題みたいね」


ショタ「外?……あっ」


赤城「ふふっ、どうやらショタ君は本来の目的を忘れて時雨ちゃんと友達になる方に夢中だったみたいですね」


加賀「ショタ?時雨と友達になる事に夢中なのは良い事ですが、私の事を忘れてもらっては困ります」ムスッ


ショタ「わ、忘れてなんかない、です!」


加賀「それなら良いんですが……」



赤城「加賀さん、時雨ちゃんに嫉妬とか……。もう末期なのかしら」




 ~2週間後~



ショタ「……」カキカキ


時雨「……」


ショタ「……ウーン」カキカキ


時雨「……勉強してるのかい?」


ショタ「! はい!」ニコッ


時雨「……凄い笑顔だけど勉強好きなの?」


ショタ「あっ、違います。勉強は嫌いじゃないですけど、その、初めて時雨さんから声を掛けてもらえたから」


時雨「 ! ……」


ショタ「ふふ、嬉しい、です!」


時雨「……」




~更に2週間後~



時雨「ショタ、ジュースでも飲むかい?」


ショタ「あれ?時雨さんはお茶しか飲まないんじゃ?」


時雨「たまには良いかと思ってね。缶ジュースを買ってきてみたよ」コトッ


ショタ「夕御飯はまだまだだから……飲んでも良いですよね?」


時雨「問題ないさ。よし、じゃあ飲もうか。はい」


ショタ「頂きます」ゴク


時雨「ど、どうだい?」


ショタ「……美味しいです」ニコ


時雨「そうか……。良かった。……うん」


ショタ「時雨さんは飲まないんですか?」


時雨「ん?ああ、飲むよ」ゴクゴク


ショタ「……どうですか?」


時雨「……甘過ぎるね。でも……時々なら良いかもしれない」ニコ




 ~更に数週間後~



赤城「あれから大分経ちましたけど、ショタ君と時雨ちゃんの仲は良好みたいですね。ショタ君に任せて正解でした」


加賀「……ええ、そうですね」


赤城「どうしたんですか?元気ないですね」


加賀「赤城さんは夜遅くまで執務をしていたから知らないでしょうけど、昨日、ショタの学校が終わった放課後にショタと時雨、2人で遊びに出掛けたそうよ」


赤城「え?時雨ちゃん、任務以外で外に出掛けたんですか!?目的達成じゃないですか!」


加賀「そうね。喜ばしい事だわ……」


赤城「それが何でそんなに落ち込んでるんですか?」


加賀「放課後に異性同士2人だけで遊ぶ……。人間達の間ではこれを放課後デートと呼ぶらしいです」


赤城「」


加賀「はぁ、もう何も考えたくない……。私はこのまま無機物になって朽ち果てたい」



ガチャ



ショタ「ただいま帰りました」


加賀「ショタ。今日はどこへ行っていたんです?また時雨の所ですか?そんなに私よりあの女が良いんですか?」


ショタ「え?な、何?」


赤城「加賀さん、止めてください。そもそもそう頼んだのは私達です」ポコ


加賀「あぅっ!……すみません。興奮しすぎました」


赤城「ごめんなさい。加賀さんのこれは発作みたいなモノですから気にしないでください。……こ、こほん。それで今日はどこへ行っていたんですか?」


ショタ「今日はちょっと買い物に行ってきました」


赤城「お、お買い物ですか……。珍しいですね……」


加賀「……」ズーン


ショタ「はい。えっと……」ゴソゴソ


赤城・加賀「?」



ショタ「今日はこれを買いに行ってたんです」スッ



赤城「お箸……?ですか。二膳も買ってきてどうしたんです?」


ショタ「これは赤城さんと加賀さんに、です。どうぞ」


加賀「!」


赤城「あ、ありがとうございます」


ショタ「ここに来てから今日でちょうど1年になるので買ってきました。お二人は食べることが好きみたいなので、ちょうど良いかなって」


加賀「……開けても良いですか?」


ショタ「はい。赤い飾りが付いてる方が赤城さんで、青い飾りの方が加賀さんです」


赤城「……綺麗」


ショタ「僕が自由に使えるお金は無いですから、赤城さんや加賀さんに他の皆さんのお手伝いをした時にもらったお駄賃を集めて買ったので、プレゼントです、なんて言えないかもですけど、今までお世話になったお礼です。良かったら使って下さい」


加賀「……そんな事無いわ。心がこもった、この世で一番大切な贈り物です。ありがとう、ショタ」ギュウッ


ショタ「……えへへ」ギュウ


赤城「ええ、そうですね。……これは大事に使わせて頂きますから」ウルッ


ショタ「喜んでもらえて良かったです。これからもよろしくお願いします」ペコッ


赤城「はい。こちらこそ宜しくお願いしますね」


加賀「ずっとずっと一緒ですからね、ふふ」


赤城「加賀さん、ちょっと怖いですよ」



加賀「でもそうなるとお返しが必要ですね。何か無いかしら?」


赤城「ん~。あっ、これなんてどうです?これをこうして……」ベキッ


加賀「矢なんて折ってどうしたんですか?」


赤城「ふふ、見てて下さい。この矢じりに……こうです」チョチョイチョイ


加賀「矢じりの御守りですか」


赤城「そうです。破魔矢みたいにきっと厄除けになってくれますよ」ニコニコ


ショタ「わぁ、ありがとうございます!格好いいです」ニコ


加賀「……貸してみてください」


ショタ「? どうぞ」


加賀「私のこの紐でこれに結わせれば……出来ました」


赤城「ネックレスみたいになりましたね!より御守りらしくなりました。次いでに矢じりにはカバーでも付けておきましょう」


ショタ「……二人とも、ありがとうございます。このお守り、大切にしますから……」


加賀「やりました」



赤城「ふふ、では夕飯の支度でもしましょうか?ショタ君も手伝ってくれる?」


ショタ「はい!あっ、それでこの後に時雨さんに誘われてて、夕御飯を食べたら出掛けてきます。少し遅くなるかもしれませんけど心配しないで下さい」


加賀「」


赤城「遅く、ですか?だいぶ陽も落ちてきてもう夕暮れ時ですけど、どのくらい遅くなるんですか?」


ショタ「一緒にお風呂に入ろうって誘われてますけど、長くても1時間くらいだと思います」


加賀「お、お、お、おふ、おっふ ろろろろ」


赤城「……それは2人で、ですか?」


ショタ「はい。2人で、っていう話でした」


加賀「……用事が出来ました。どうやらショタをたぶらかす女狐がいるみたいですから少し躾てきます」


赤城「あの、ショタ君。それって私達も付いていっては駄目ですか?」


ショタ「? 良いと思いますよ?」


赤城・加賀「!?」



 ~2時間後~



加賀「焦りました。てっきり個室の浴槽でイチャイチャする計画かと思いました」


赤城「時雨ちゃんが大浴場に来るなんて今までを思えば考えられませんからね。私も勘違いしてしまいました」


加賀「ショタにはそういうのはまだ早いですから」


赤城「そうですね。でも時雨ちゃんも良い方向に向かってきてるみたいで安心しました」


加賀「一時は心配しましたが、彼女ももう立ち直ったと見て良いでしょう」


赤城「あっ、ショタ君と時雨ちゃん、もう来てますよ。早く行きましょう」


加賀「ええ」




加賀「待たせたみたいね」


ショタ「いえ、僕達も来たばかりですから」


赤城「それなら良かったです。時雨ちゃんも急にゴメンね?私達も一緒に入りたくなっちゃって」


時雨「構わないよ。そもそもここは大浴場だからね。いつ誰が入ろうが、咎める者はいないよ」


赤城「そう言って貰えると助かりますね。では入りましょうか」




加賀「ショタ、今日は帰りに牛乳でも飲んで行きましょうか?」シュル パサッ


ショタ「! 良いんですか?」ヌギヌギ


赤城「ふふ、飲んだ後は歯をちゃんと磨くんですよ~」シュルシュル


ショタ「はい!楽しみです」ヌギヌギ


時雨「……」ヌギヌギ


赤城「時雨ちゃんも良かったら一緒に飲んでいきましょうね~」


時雨「……たまには良いかもね」ヌギ パサッ



ザワザワザワ



赤城「? なんだか皆さんがこっちを見て騒いでいますね」


加賀「そうね。なにに騒いでいるのかし、えっ? 時雨……。あなた、それ……」


時雨「?」



ザワザワザワ



時雨「!」


ショタ「時雨……さん?」


時雨「……少し用を思い出したよ。このまま僕は帰らせてもらうから。ごめんね」パパッ タタタッ


ショタ「し、時雨さん!」



加賀「あのアザはどういう事?いくら提督が暴力を振るうとはいえ、地肌の色が分からない程にアザまみれになるなんておかしいわ」


赤城「……時雨ちゃんは提督に目を付けられてるとはいえ、あそこまでのアザが出るとは考えにくいです。思い当たるとすれば、この前、長門さんが言っていた精神的な要素が絡んでいるのかもしれません」


加賀「しかし、時雨のあれは治りが早い、遅いの話では無いです」


赤城「多分、殴られたアザがそのまま残っているんでしょうね。艦娘ならではの症状なんだとは思いますけど……」


ショタ「…………僕、時雨さんの所に行ってきます」


加賀「そうね。本人に聞くのが一番手っ取り早いわ」


赤城「私達も行きましょう」





ショタ「時雨さん。いるんですよね?入ります」



ガチッ



赤城「鍵が掛かってますね……」


ショタ「え?今まで鍵なんて掛かってた事なんて無いのに」


加賀「どうやら本当に会いたくないみたいね」


ショタ「でも今話さなきゃもう取り返しが付かなくなる気がします……」


赤城「でも開けてはくれなさそうですね」


ショタ「……赤城さん、お願いがあります。この扉、壊せませんか?」


赤城「え?」


ショタ「扉は妖精さんに後で謝って直してもらいますから。お願いします!」


赤城「……仕方無いですね。ちょっと後ろに下がってて下さい」


加賀「赤城さん!?」


赤城「大丈夫です。提督には聞こえない程度に加減はしますから」キュイイイイン


加賀「そういう事じゃ……」



パシュン パシュン



赤城「蝶番を壊しました。後は扉を抉じ開ければ……」グググ


加賀「……はぁ、仕方無いですね。手伝いますよ」グググ バコォ


赤城「開きましたね。ショタ君、中へ」


ショタ「はい!ありがとうございます」



加賀「……赤城さんも無茶をしますね」


赤城「ショタ君が初めて無茶を願い出たんです。それも自分以外の為にです。聞いてあげなきゃ女が廃ります」


加賀「……それもそうですね。では中へ入りますか」




ショタ「時雨さん?」


時雨「顔に似合わず、随分と乱暴な真似をするんだね。提督に酷い目に合わされても知らないよ?」


ショタ「今は時雨さんに会いたかったので。その事は後で考えます」


時雨「……見たんだろう?僕のアザ」


ショタ「……はい」


時雨「僕は今まで1人だったからね。皆の視線で初めて気付いたよ。これがどんなにおぞましいものか」


ショタ「そんな……」


時雨「無理はしなくても良いんだ。君にほだされて浮かれていた僕が悪いんだから……」


加賀「……まるでショタが悪いような言い方ね」


時雨「そうは言っていないよ。ただ、これ以上は僕に構わないで欲しいってだけだから。ショタに会うのも今日で最後にするよ」


赤城「そんな!ショタ君は時雨ちゃんと友達になれたって喜んでたんですよ?」


時雨「それがいらないって言ってるんだ!」キッ


赤城「っ!」


時雨「……僕はあのまま、1人のままで良かったんだ。そうすればあんな好奇の視線に晒されなかった。ショタにもこんなおぞましい姿を見られずに済んだんだ!」


赤城「時雨ちゃん……」



加賀「そうやって1人で不貞腐れるのは構いません。ただ、ショタが必死になって貴女を救おうとしてる事を虚仮にするような言動はどうにも我慢出来ません」


時雨「そんな事、僕から頼んだ覚えはないけどね。いい加減、親切の押し売りは止めてくれないか?」


加賀「貴女ね……!」


赤城「加賀さん、落ち着いて」


加賀「でも!」



ショタ「……良い機会だから加賀さん達にも聞いて欲しいです。僕のこの腕の傷の事」パサッ



赤城・加賀「!」



ショタ「いつもはサポーターで隠してるけど、僕も火傷痕があるんだ。ほら」


時雨「!…………そんなので僕の苦しみを分かった気になってるのかい?」


加賀「このっ!」バッ


赤城「待って加賀さん!」ガシッ



赤城「(加賀さん!ここはショタ君に任せてみましょう?)」コソッ


加賀「(っ!……分かりました。ただこの調子のままなら時雨に張り手の一発でも入れますからね)」


赤城「(ええ。その時は私も時雨ちゃんと一緒にその張り手を受けますから)」



ショタ「そんなんじゃないです。僕のこれは煙草の火傷の痕ですけど、お父さんとお母さんの機嫌が悪い時に気まぐれでやられてただけですから、回数自体は多くないんです」


赤城・加賀「!」


時雨「っ!……僕はほぼ毎日だからね。それに今は、その加害者もいないんだろう?」


加賀「こんのっ!」ググッ


赤城「(加賀さん、まだ抑えていて下さい)」コソッ


加賀「分かってます!」グググッ



ショタ「加害者……。そうかも、です。お父さんとお母さんが死んだ時、僕は涙も出なかったから。多分、親として見てたんじゃなくて、ただの加害者として見てたんだと思います。僕はきっと心が冷たいんです……」


加賀「違います!自分を卑下するのは辞めなさい!」


ショタ「加賀さん……。……ふふっ、僕がこうしていられるのは加賀さんや赤城さん達のお陰なんですよ?」


時雨「……」



ショタ「この傷痕も僕にとっては皆から笑われるモノ、汚いモノだ、って感じてたんです。でもここに来て変わりました。赤城さんと加賀さんは見ず知らずの僕に優しくしてくれました。僕を引き取ってもくれました。それに僕の名前を呼んでくれたんです」


時雨「普通、名前くらいは呼ぶだろう」


ショタ「僕のお父さんもお母さんも"おい"とか"あいつ"とか"これ"とかで呼んでましたから」


赤城「そんな……」


時雨「……」


ショタ「赤城さん達にとっては当たり前の事だったのかも知れないですけど、僕にとってそれは、とても大きな事だったんです。今はもう、この傷痕を見るのも苦痛じゃなくなりました。今でもサポーターは付けてますけど、これは隠す為じゃないんです。みんなに気を使わせたくなくて付けてるだけですから」


時雨「……」


ショタ「だから今、時雨さんに必要なのは、僕にとっての、赤城さんや加賀さんみたいな人達なんだと思うんです。僕は赤城さん達みたいにはなれなかったですけど、ここは優しい人達ばかりですから。きっと時雨さんにとっての大切な人も直ぐに見つかります」


時雨「……仮にそうだとしてもこのアザは残るけどね」



ショタ「……時雨さんのそのアザも普通の人が見れば、驚くのも無理は無いと思います。僕もさっき見たときは思わず後退りしてしまいました」


時雨「っ!……そうだろうね。僕は1人でいたから、これが当たり前なんだって思っててそこまで頭が回らなかったけど、どうやらこれはかなり醜いみたいだね」


ショタ「醜い?……僕も恐怖は感じたかもしれないです」


時雨「…………そうか。やっぱりこれは醜いんだね」


ショタ「でも今は違います」


時雨「君は何を言いたいんだ?」


ショタ「人間は知らないモノを怖がります。それは身近な人や大切な人であっても、です。でも僕は時雨さんのアザの事を知りました。時雨さんの事も少しは知ってるつもりです。だからもう怖くなんて無いんです」


時雨「……綺麗事は止めてくれないか?これのどこをどう見たらそう思えるんだ!?僕は女の子なんだよ!?それなのにこんな……!」ガバッ


ショタ「綺麗事じゃないです。傷の大小はありますけど、僕のこの火傷痕と一緒です。見慣れればなんて事無いです。むしろ時雨さんの肌は綺麗だって僕は思います。ほら!スベスベです」サワサワ


時雨「んっ!や、止めないか……」ピクン


ショタ「止めません。時雨さんの肌は綺麗なんです!赤城さん、加賀さん。そうですよね?ほら!こんなに!」サワサワ ツツー


時雨「あっ、ちょ、ちょっと……。分かったから……んっ」ビクッ



赤城「えっと、ショタ君?私もそうは思いますけど、あんまり女の子の肌を弄くり回すのは控えた方が良いかなーって」


加賀「」


ショタ「? 分かりました。時雨さんも分かってもらえましたか?」


時雨「……ショタの型破りな行動の後だと、なんだかこのアザで悩むのが馬鹿らしく思えてきたよ。元々このアザはこういうものなんだって認識だったしね。それにショタがこれを気にしないって言ってくれてるんだ。今はそれだけで十分だよ」


ショタ「それじゃあ……」


時雨「ああ。流石に大浴場に行くのはまだ気が引けるけど、少なくともショタともう会わないなんて言わないよ」


ショタ「! 時雨さん!」ギューッ


時雨「! ふふっ、ショタは意外と甘えん坊なんだね」ナデナデ



赤城「ふう、一時はどうなるかと思いましたが、なんとかなったみたいですね。ね、加賀さん!」


加賀「」


赤城「最近の加賀さんは良く一時停止しますね……」





 ~翌日の早朝~




赤城「ぐ~ ぐ~ ぐっ? ぐお~」


加賀「Zzz」


ショタ「スー…スー…」



ドンドンドンドン



赤城「! 何事ですか!?」ガバッ タタッ



ガチャ



赤城「どうしました!?何かあったんげふぅぅぅ」ドボォ


時雨「ショタは?ショタはいるかい?」ユサユサ


赤城「お、奥の部屋で寝てますけど揺ら、揺らさないでくださ~い」グラグラ


時雨「ありがとう!」タタ


赤城「な、なんなんですか?一体……」



 ~寝室~



時雨「ショタ!起きて!」


ショタ「ん~?……ぁれ?時雨さん?どうしたんですか?」


時雨「ちょっと起き上がって見てくれないかい?」


ショタ「ちょっと待って下さいね。加賀さん、ごめんなさい。ちょっとよけますね?」グイ-


加賀「んー……」ギューッ


ショタ「ん、ちょっと……っ!力がっ……!強いっ……!」グイー


時雨「……こうしちゃえば良いよ」ペチーン


加賀「!!? 何!何事です!?」ガバッ


ショタ「加賀さん、ごめんなさい。時雨さんが見てほしいものがあるみたいで」



時雨「そうだよ!ショタ!これを見てよ!」グバッ


ショタ「どれですか?……あれ?アザが消えてる?」


赤城「それを見せたくてそんなに急いでたんですね」


時雨「そうだよ!入渠しても何しても消えなかったのに!これで一緒に大浴場にも行けるんだ!そうだ!今日の夜、もう一度一緒にお風呂に行こう!」


ショタ「! はい!みんなで行きましょう」ニコ


時雨「ふふ、ショタ!もっと見て?ほら、こんなに綺麗に消えたんだ!これでお嫁にも行けるよ!」グバッ


赤城「時雨ちゃん?その、一緒にお風呂に入る仲だからこんな事言うのはおかしいかも知れませんけど、お風呂場と違ってここは寝室だし、その、恥ずかしくはないの?」


時雨「え?」


加賀「……寝巻きを捲るのは構いませんが、せめて下着くらいは付けてきなさい。それと、今後の演習では私に気を付けることね。流石に頭に来ました」ビキビキッ


時雨「あっ///」バッ


加賀「今頃になって隠しても意味無いと思うのだけれど」


時雨「……ショタ、見たのかい?」


ショタ「見ましたよ。すごく綺麗でした!」


時雨「そ、そう。それなら良かった///」


赤城「良いんですね……」


加賀「時雨は敵です。今日でハッキリしました」ハブチィッ





 ~その日の夜の大浴場~



赤城「大浴場はやっぱり気持ち良いですね~。ちょっと混み合ってますけど」


加賀「ええ。最近は一人一人が強くなって任務自体にも余裕が出来てきて、その分、自由時間に時間を割ける様になりましたからね。ここも混雑するようになってきました」


赤城「…………それで時雨ちゃんはショタ君の所に行かなくても良いんですか?」


時雨「だってショタも僕も裸じゃないか……///」


加賀「今朝、服を捲りながらショタに乳房を見せに来た痴女の発言とは思えませんね」


時雨「ち、痴女……。ショタもそう思ってたのかな……」シュン


赤城「加賀さん」


加賀「やりました」キラキラ


赤城「はぁ……。ショタ君がそんな事思う訳無いでしょ?それとも時雨ちゃんの中のショタ君はそんな事を思うような人なの?」


時雨「……違うね」


赤城「なら良いじゃないですか。折角、お風呂に誘ったんです。ショタ君に背中でも流して貰って来たらどうでしょうか?」


時雨「せ、背中……/// う、うん、頑張ってお願いしてみるよ」


赤城「はい。では行ってらっしゃい!」


時雨「ショ、ショター?ちょっと良いかな?」トトト



加賀「……」ムスッ


赤城「まぁまぁ、今日くらいは良いじゃないですか?時雨ちゃんの快復祝いって事で」


加賀「……ショタが支えになって、身体的にも精神的にも全快したのは分かります。しかし、それとショタに関してとは別です」ムスッ


赤城「加賀さんはもう少し余裕を持つべきですね」





                    ∇





 ー赤城・加賀の自室ー



時雨「それでね?そこの公園の雰囲気がとっても良いんだ。だから今度、一緒に、ね?」


ショタ「はい。今から楽しみです。約束、です」



赤城・加賀「……」




 ー食堂ー



時雨「ショタは今日は焼き魚定食なんだね」


ショタ「はい。時雨さんは何を食べるんですか?」


時雨「僕も同じのにしようかな?後で食べさせあいっこしよう!」


ショタ「同じ物で、ですか?」


時雨「あ、それは、や、焼き加減とか結構違ったりするかもしれないし……」


ショタ「! そういうのもあるんですか。新たな発見があるかも、ですね」



赤城・加賀「……」




ー大浴場ー



時雨「きょ、今日は僕が背中を流すよ///そこに座って?」


ショタ「ありがとうございます。僕も後で背中流します」


時雨「た、助かるよ///……ショタは見た目より骨ががっしりしてるんだね。やっぱり男の子なんだ。男の子?…………ぁっ///」



赤城・加賀「……」




 ー赤城・加賀の緊急会議室(寝室)ー



加賀「これはどうにかしないといけません。流石に連日の時雨の情けの深さには我慢出来ません」ドンッ


赤城「加賀さん、落ち着いて下さい。ようやく時雨ちゃんも外の世界に目を向けれたんですから」


加賀「確かにそれは喜ばしい事です。とは言え、今まで自室に籠っていた時間を丸々ショタに費やしています。これではショタと私達の時間……こ、こほん。ショタのプライベートの時間が無くなってしまいます」


赤城「確かにそうかもしれませんが、ショタ君も嫌がっている訳では無いですし……」


加賀「いいえ、ショタも面と向かって言えないだけです。私が今から聞いてきましょう」



 ~5分後~



加賀「……少しだけ距離を置いて欲しいそうです」


赤城「そうですか。では加賀さんの願望は置いておいて実際のところは?」


加賀「……時雨が楽しそうならそれで良いらしいです」


赤城「じゃあ私達から言えることは何も無いですね」


加賀「赤城さんはそれで良いんですか!?」


赤城「1ヶ月です」


加賀「?」


赤城「これは時雨ちゃんに与える猶予期間です。時雨ちゃんにも事前に通告しておきます」


加賀「赤城さん……!」


赤城「ふふふ、今まで頑張ってきたご褒美として1ヶ月は黙認しててあげましょう。しかし、それ以降は一切、遠慮は致しません。これはショタ君を賭けた聖戦となるでしょう!」



 1ヶ月後、宣言通り、赤城・加賀の連合軍と時雨との間で、ショタを巡っての熱い戦いが勃発する。時雨不利との見方が予想される中、その戦いを利用し、漁夫の利を得ようとする、長門や鳳翔を始めとした第三者の猛者達の登場で、この戦いは群雄割拠の様相を呈していくが、余りにも長くなるので割愛されたそうな。





                    ◇





提督(元々不気味だった艦娘達も、最近は気持ち悪さに拍車がかかってきてんな。どんなに殴っても蹴っても泣きもせず、怯みさえしなくなった。えへらえへらと笑い出す奴まで出てくる始末だ。なんなんだ、気色わりぃ……)


提督(あー、なんかスッキリ出来る事はねぇかな。気分転換にその辺のクソガキでも殴りてぇ気分だ。…………あぁ。いたじゃねぇか、クソガキが)ニタァ


提督(そうだな。資材管理は立派な提督の仕事だかんな。例え、空っぽでボロボロの幕舎だろうが、点検はしてこなくちゃなぁ?)




 ーショタがいた幕舎ー



提督「なんだこれ……?なんもねぇじゃねぇか!クソッ!あいつ、逃げ出してたのか」ガスッ


提督(まずいまずい!何時だ?何時逃げ出してたんだ?どこかに保護されれば上の奴らにバレちまう。そうなれば妖精が見えるとはいえ、うっすら程度でしか把握出来ない俺なんて直ぐにお払い箱だ!どうする……?どうする……?)


提督「クソッ!取り敢えずはあいつらを召集するか。そもそもあいつらがちゃんと見てなかったのが悪ぃんだからな!」




 ー大会議室ー



提督「おい、お前ら!ここに集められた理由は分かるな!?」


赤城「いえ、突然の事でしたので、検討が付きません」


提督「アイツだよ。あのクソガキはどこ行ったんだよ!?」


赤城「!!……クソガキですか?ああ、提督の甥の事ですか?」


提督「なぁ……。俺はアイツがどうなろうが知ったこっちゃないんだよ。ただ、言ったよなぁ!?俺に迷惑掛けんなって!」ドコォッ


赤城「……。ここから逃げ出していたか何かしてたのですか?それは知りませんでした」


提督「知りませんでした……だぁ?ふっざけんなよ!?上にバレたらどうするつもりなんだ!俺が処分を受けるような事態になったらどうしてくれんだよ!?お前は!責任を!取れんのか!」ゴスッ バキッ ボコッ


赤城「申し訳ありません。後でその甥の事は探しておきますので少々お時間を頂けますか?」


提督「っ!このっ!出来損ない共がっ!お前らはガキ一匹のお守りも出来ないのか!」ドゴッ ゲスッ バコォ


赤城「召集内容は以上でしょうか?」


提督「なんだとっ!……くそっ!それだけだよ!早く仕事に戻れ!」バッチィン


赤城「失礼します。では皆さん、持ち場へと戻ってください」





赤城「……」


加賀「今日も手酷くやられたようね」


赤城「いえ、あれ自体はもう痛くも痒くも無いのですが……」


加賀「困ったわね。まさかあの男がショタの様子を見に行っていたなんて……」


赤城「ショタ君には申し訳無いですけど、必要な時以外、暫くの間は私達の部屋から出歩かないように注意して貰いましょう」


加賀「そうですね。提督もその内、忘れるでしょう」


赤城「そうだと良いんですが……」




 ーショタの通学路付近ー



提督(アイツが通ってたのはこの学校だよな?なんで俺がアイツなんかを尾けなきゃなんねぇんだ!見つけたらぶっ飛ばしてやる!)


提督「!」



ショタ「……」テクテク



提督「いやがった!」


提督(俺をこんなにビビらせてやがって……。今すぐぶん殴ってやりてぇが、保護施設にいたとしたら厄介だしな。まずはこのまま後を追ってからだな)





ショタ「……」テクテク


提督(なんだ?ウチの鎮守府の近くじゃねぇか?余計な手間かけさせやがって!)



ショタ「……」テクテク


提督(は?ここは裏門だぞ)



ショタ「……」テクテク


提督「そういう事かよ……。…………良い暇潰しが見つかったな」ニタァ





                   ∇





赤城「提督が館内放送を使って召集なんて珍しいですね」


加賀「どうせまたろくでもない事です。気を引き締めて行きましょう」


赤城「そうですね」




 ~大会議室~



提督「おー、集まってるみたいだな。関心関心」



赤城(こんなに機嫌の良い提督は初めてです。なんだか嫌な予感がします)


提督「お前らに集まってもらったのは他でもない。実はな、俺の命令に背いた奴がいるんだ」


赤城「私達は忠実に命令を履行しているはずですが……?」


提督「いや、お前らは良くやっている。最近のお前らの働きには上の者も俺に一目置くくらいだからな」


赤城「……では、どういう事でしょうか?」


提督「ちょっと待ってろ。俺の命令に背いた馬鹿な奴を連れてくるからな」スタスタスタ



ガチャ



提督「命令違反はしたのはな……こいつだ!」グィッ ドンッ


ショタ「痛っ!!」ドサッ



艦娘達「!!」



提督「こいつはな?ここの建物に入るなって忠告してた筈なのにな、勝手に入り込んでたんだよ!」ドカッ


ショタ「うっ!」


赤城「違います!その子を無理矢理連れてきたのは私です!罰を与えるのなら私にして下さい!」


提督「知ってるよ。こいつの学校帰りを尾けてたらよ、どこに向かったと思う?」


赤城「……」



提督「そうだよ。お前の部屋だよ!」


赤城「それなら私が罰を受ける、それで良いじゃないですか」


提督「おーん?なんでそうなるんだ?お前は俺の指示通りに動いてただけだろ?言ったよなぁ?戦果に支障が出なければ、こいつを煮るなり焼くなり好きにしろってなぁ?お前らは十分な戦果を立てている。そんでこいつを連れ帰った。何も問題は無いもんなぁ?」


赤城「では、この件は許して頂けるということですか?」


提督「許すも何も元から俺は怒ってないぞ?お前にはなぁ!?」ドゴォ


ショタ「うぐぅっ!!げほっ!げほっ、おえぇ……」



加賀「ショタ!」ダッ


鳳翔「(! 待って下さい!もう少しだけ様子を見ましょう)」ガシッ


時雨「っ!」バッ


長門「(止せ!辛いのは分かるが今は我慢してくれ)」ガシッ



提督「だが、こいつは別だ。俺の命令を無視してお前らにホイホイ付いていったんだ」


赤城「……お願いですから止めてください。懲罰は私が受けますから」


提督「勘違いすんなよ?これは懲罰じゃない。躾だ。言う事を聞かないクソガキへのな!」ドボォ


ショタ「うあぁっ!……っく、うぅ……。けほっ……」


赤城「…………」ギリッ



提督「はは、久し振りに見たな。お前らのその表情。最近は何しても効いてないみたいだったしな。これは見せしめでもあるんだ。俺に逆らえばこうなるって事のなぁ!おい、ガキ。目の前の奴らの顔を見てみろよ!これがコイツらの本性なんだよ!ゲハハハ」


赤城「……」




ショタ「……恐い顔はしてます。でも皆さんが優しいっていうのは十分に思い知らされてますから」


赤城「!」


提督「……ふぅ、そうか。どいつもこいつも……。おい、クソガキ。立て!」ゲシッ


ショタ「うっ、……はい」ググッ


提督「よいせっ、と!」ガシッ


ショタ「ぐっ、……っ……!!」


赤城「!? 止めて下さい!こんな小さな子の首を絞めるなんて!死んでしまいますよ!?」


提督「はぁ?こんなんで死ぬわけ無いだろ?良いから見てみろよ。はは、首掴まれて顔真っ青にしてるぞ?おっ、こいつ軽いな。片手でも持ち上がるぞ」グググ


ショタ「がっ………うっ……」プラーン



赤城「!! その手を離しなさい!!」ドン


提督「ぐあっ!き、貴様ぁ……。誰に手を上げたのか分かってるのか!」



赤城「大丈夫ですか!?ショタ君!」


ショタ「げほっげほっ!はぁはぁ、僕の事は良いですから、赤城さんは自分の事だけ考えて……」


赤城「そんな事出来るわけ無いじゃないですか。さっ、医務室へ行きましょう―」



提督「貴様、余程俺を怒らせたいらしいな」ザッ


赤城「……そこを退いて下さい」


提督「お?反逆の意図ありか?おい、お前ら!この2人を独居房にでも入れておけ!」


赤城「あなたという人は……!」



加賀「……」スッ


赤城「加賀さん……」



長門「……」


時雨「……」


鳳翔「……」



赤城「そんな……。長門さん達まで」



提督「よし。お前ら、この2人を連れてけ。後で俺が直々に出向いて矯正してやる」



長門「……私はずっと悩んできた。そして失望していた」


提督「あ?」


長門「お前にではない。この状況を打破出来る何かを探していたはずなのに、何一つとして、行動も起こす事も出来なかった自分に、だ。その場をやり過ごす為に、時には見て見ぬふりさえもしていたんだからな」


提督「は?頭でもおかしくなったのか?もう一度だけ言うぞ。こいつらを連れていけ!」


長門「しかし、ショタが来てくれた事で私にも希望が見えたんだ。今までの数々の理不尽な出来事は、きっとこの子と出会うために必要な事だったんだと。……結局は元の木阿弥だったがな。……何も結末が変わらないのならば、最初からこうしておけば良かった」


提督「ごちゃごちゃと訳の分からない事を!もういいわ!他の奴等にやらせる。どけ!」バッ


長門「……」ガシッ


提督「な!?お、おい!この手を離せ!」グッ、グッ


長門「きっとこの後、私も解体され廃棄されるだろう。どうやら地獄でも永い付き合いになりそうだな、提督よ?」ブワッ


提督「ひ、ひぃっ!…………っ?……へ?」ヘタッ



赤城「……」ググッ


長門「……赤城。邪魔はしないでくれないか?」


提督「よ、良くやった、赤城!特別にさっきの無礼は多目に見てやる!」



赤城「……提督の不備の始末は秘書艦の仕事。言ったはずですよ?秘書艦の座は誰にも譲れません!って」ギロッ


提督「ひっ!誰か、誰かコイツらを止めてくれ!こ、腰が抜けて……」ズリッ…ズリッ…



艦娘達「……」ゾロゾロゾロ



提督「なっ!?何だ、その目は!その目で俺を見るんじゃない!」


赤城「提督。どうやら皆さんも解体の覚悟が出来ているみたいです。提督もしっかりと覚悟を決めてくださいね」グワッ


提督「や、やめてくれぇぇえええ!!」





ドスッ










提督「ゴフッ……お、お前、なんで……あがっ……」ドッ……





赤城「え?……ショタ君?」



ショタ「……これで良いんです」グググ


提督「あ……が……えぉ……」ピクピク



加賀「そ、そんな……。や、止めなさい!!」ガシッ


時雨「嘘、だよね……?」


長門「くそっ!提督を医務室へ運ぶぞ!こいつを絶対に死なせるな!」ババッ



艦娘達「…………」スッ



鳳翔「そこを退きなさい!提督を憎む気持ちは分かりますが、このままショタ君を人殺しにしたいんですか!?」


艦娘達「!」ササッ



長門「すまない。鳳翔はそっちを持ってくれ」


鳳翔「はい。赤城さん達!後は任せましたからね」





赤城「ショタ君……?なんでこんな……」


ショタ「ごめんなさい。赤城さんと加賀さんから貰ったお守りをこんな使い方で使ってしまって」


加賀「そうじゃないでしょう!?あなた、自分が何したか分かってるんですか!?」


ショタ「……虐待していた叔父さんに逆上して、所持していた凶器で叔父さんの喉を突き刺して、そのまま掻き切りました」


加賀「! あなた、まさか……!?」


ショタ「……これで良いんです。艦娘の皆さんが人を殺したらどうなるかくらい、子供の僕でも分かりますから」


加賀「こんな私達の為に……」


ショタ「自分を卑下するのは止めなさい。そう諭してくれたのは加賀さんですよ?加賀さん達は"こんな"では無いです。僕にとっては何よりも大切な人達なんです」


加賀「しかしこれでは……」



時雨「うぐぅ……ごめんな゛ざい……うぅ……。君は僕を救ってくれだのに、グズッ……君がごんなにぼろぼろになっても゛僕は助けに行けな゛かった……。救えなかった……!」


ショタ「ボヤけた視界でもハッキリ分かりました。時雨さんも加賀さんも鬼の形相で僕を助けようとしてた事。嬉しかったです。時雨さん達と会えただけで僕は救われてたんです」


時雨「ごめんなさい……ごめんなさい……」


ショタ「よしよし、です」



赤城「私は……どうすれば……」


ショタ「赤城さんは何もしなくていいんです。今までずっと頑張ってきたんですから。……多分、叔父さんが助かっても助からなくても、叔父さんは提督としてここには戻れなくなると思います。だからこれが赤城さん達といれる最後の時間だと思うんです」


赤城「そんなこと……無いです。きっとまた……必ず会えます。そうでないと私達は……」


ショタ「……そうですね。でもこれだけは言わせて下さい」


赤城「ショタ君……?」


ショタ「……皆さんと過ごした日々は長くは無かったですけど、僕にとっては一日一日が宝物みたいに、大切で、貴重な時間でした。この思い出だけで、これから先も頑張っていけます。今までお世話になりました。さよなら、です!」



赤城「ショタ君……お願いします……行かないで下さい……」


加賀「そうです!このまま逃げてしまいましょう。私達ならどこか、誰も来ないような島にでもいけばきっと、今より平和に暮らしていけます!」


時雨「僕も付いて行くよ!だからショタ、ね?」



ショタ「……」フルフル


時雨「そんな……」


ショタ「叔父さんを刺した事、後悔はしてません。けど、罪は償わなきゃ、なんです」



ザワザワ ドヨドヨ



ショタ「憲兵の人達が来たのかな?本当はもっと話したかったですけど、今度こそお別れです。……皆さん、どうか元気で。一日でも永く、幸せに過ごせるように、僕、ずっと祈ってますから。…………ばいばい」





赤城「ううっ!なんで!?なんでこんな!うああああああああ!!!」






                   ◇





長門「それでその後はどうだ?」


赤城「秘書艦の私にも詳しい事は知らされてませんが、ショタ君は未成年でしたからね。一応、家庭裁判所には送られるみたいですけど、情状酌量の余地が十分にあるので保護観察で様子見になるみたいです。ショタ君は良い子ですから、問題は無いでしょう」


長門「そうか……。良かった」


赤城「ただ私達との接触は禁止されました。事の経緯から大本営も、ショタ君と私達の間の繋がりに、何か危険なモノを察したんでしょうね」


長門「上も馬鹿だな。反逆の意図があれば、あの時にもう事を起こしているのにな」


赤城「……」


加賀「……それで?あのクズの方はどうなったのかしら?」


長門「ああ。命に別状は無いらしい。喉を刺されたとはいえ、矢じりは小さかった上に子供の力だったからな。気道や神経系統のような取り返しのつかないような器官には届いてなかったそうだ」


加賀「そう……。つい最近までは死んで欲しいと願っていたのだけれど、ショタの為を思えば喜ばしい事ね」


長門「私も複雑な心境だよ。しかし、ショタの件でここでの愚行が明るみに出てな。上も隠しきれなくなって、あの提督は懲戒免職になるらしい。それに提督には逆らえなかったとはいえ、職務放棄をしていた憲兵達も総入れ換えになる。どうやら我々が望んでいた事が叶ったようだな」


赤城「……私はショタ君が居ればそれで良かったんですけどね」


加賀「……」


長門「……そうだな」



長門「……そう言えば時雨はどうしてる?あの子もショタにベッタリだったろう?」


赤城「時雨ちゃんは空いた時間が出来る度に、ショタ君と一緒に遊びに行った思い出の公園に行ってるみたいです……」


長門「そうか……。心の拠り所が出来た矢先のお別れだったからな。辛いだろうな……」


赤城「でも、ようやく時雨ちゃんにも姉妹艦が出来るみたいですしね」


加賀「夕立……とか行ったかしら?」


赤城「ええ。暁ちゃんにも負けないくらい元気な子でしたよ。彼女ならきっと時雨ちゃんの力になれるはずです!」


長門「そうか。後は空いた提督の椅子に誰が座るのか、だな」


赤城「誰が来ても大丈夫ですよ。どんな人が来ても私達の本当の提督はショタ君だけですから」


加賀「ふふ、そうね。離れていてもショタとの絆が切れていない。私には分かります。ですから問題はありません」



長門「おっと、そろそろ出撃の時間なのでな、ここらでお暇するぞ」


赤城「ええ。頑張ってきて下さい」


長門「……あまり気張るなよ?時雨もそうだが、お前達を見ていると今にも消えてしまいそうだ。……ではな」



ガチャ



赤城「見透かされてしまいましたね」


加賀「……ええ」


赤城「ショタ君……。会いたいです……」










                    おわり










 ~後日談(十数年後)~



赤城「加賀さん、急いで下さい!」バタバタ


加賀「くっ、こうなったのも赤城さんのイビキが大きいからです。これはきっと寝不足気味が祟ったんです!」バタバタ


赤城「目覚ましをかけ損なった加賀さんの方が悪いと思います」パパッ


加賀「ここで言い合っていても切りがありません。今日はまた新しい提督が着任してくる日ですから急ぎましょう」サッ


赤城「第一印象が最悪だとその後まで響きますからね。鍵閉めますよ~」ガチャ


加賀「はぁ、ここに来るのはろくでもない提督ばかりで、入れ替わりの回転数だけは良いですからね」タタタ


赤城「ここの艦娘達はちょっとやそっとじゃ動じませんからね。提督の方が先に参っちゃうんでしょうね」タタタ


加賀「たまに来る真面目そうな提督も、赤城さんと長門の有能っぷりに心が折れて、直ぐに異動願いを出していきますから。本当に困ります」タタタ


赤城「そ、それは私達のせいじゃないですから!そもそもここの鎮守府の強さはショタ君が要になって…………」タタ…タ……


加賀「……」


赤城「……」


加賀「……急ぎましょう」……タタ


赤城「……ええ」…タタタ



 ~エントランス~



夕立「えー?時雨~。また新しい提督さんが来るの~?どうせ直ぐに辞めてくんだからもう必要なんて無いっぽい~」


時雨「夕立、そんな事言ってるとまた叱られるよ」


夕立「そうなったらまた時雨が助けてくれるから大丈夫っぽい~」


時雨「はぁ、僕にだって出来る事と出来ない事くらいあるからね?」


夕立「え~?ここの鎮守府の子達は皆、時雨を頼りにしてるわよ?時雨に出来ない事なんて無いっぽい!」


時雨「…………あったさ」ボソッ


夕立「?」



赤城「すみません、時雨ちゃん。少し遅れました」ハァハァ


加賀「寝坊しました」ハァハァ


時雨「珍しいね。赤城さん達が寝坊だなんて。まぁまだ時間ギリギリだけど。何かあったの?」


赤城「聞いてくださいよ。加賀さんったら」


時雨「しっ!新しい提督が来たよ!」




提督「私語は慎まんか!弛んでるぞ!」




加賀「……今回の提督も難がありそうね」


赤城「このタイプなら特に問題は無いですよ」


夕立「今度の提督さんはイケメンっぽい!」


時雨「夕立……。頼むから静かにしててくれないか?」



提督「そこ!聞こえてるぞ!」


赤城・加賀・夕立・時雨「はっ!申し訳ありません!」ビシッ


提督「現時点での指揮官代理は確か……長門だったな?」


長門「はっ!」ビシッ


提督「部下が弛んでるのはお前の監督不行き届きのせいだな?」


長門「その通りです!」


提督「では罰を下す」


長門「……」








提督「お前にはこの後、スクール水着に着替えて貰って撮影会を開く!その勇姿を皆にも撮って貰うからな!」


長門「はっ!」







長門「…………は?」



提督「赤城と加賀!お前らにも何かして貰わねば他の者に示しがつかん!そうだな……。赤城は今夜、俺の背中を流して貰うとするか。加賀は俺と添い寝だ!」


赤城「え?……嘘?」


加賀「あなたは……もしかして……」



提督「時雨にはそうだな……。ここから少し歩いた所に公園がある。お前はそこで俺と一緒に昼食のお供をしろ。それと……夕立と言ったな?ついでにお前もだ、付き合え」



時雨「……うん。……うん!喜んでついて行くよ」ポロポロ


夕立「ぽい?」





提督「なんてね? 驚きました?」


赤城「ショタ君……ですよね?」


提督「そうです。久し振りです、赤城さん。それに皆も……」


加賀「ショタ!」ギュウゥゥゥッ


提督「あはは、加賀さんのハグは相変わらず力強いですね」


加賀「十年以上会っていなかったんです。これくらいは見逃してください」ギュウゥゥゥゥッ


提督「……はい」ギュウ…



時雨「ショタ。僕ね?君とまた会えるのをずっと夢見てて、君が褒めてくれた肌のお手入れは毎日欠かさずしてきたんだ。どうだい?」


提督「……うん。綺麗です。……あの時より、いえ、あの時からずっと綺麗ですよ」


時雨「ふふっ、君が僕達に幸せに過ごして欲しいって願ったから、僕は今まで頑張ってきたんだよ?」


提督「……ごめんなさい」


時雨「ううん。いいんだ。君から綺麗って言って貰えただけで頑張ってきた価値は十分にあったよ」



長門「……いや、驚いたな。どうしてここに……。いや、今はそんな事は良いか。良く帰ってきたな、ショタ。見違えたぞ」


提督「ただいま帰りました。長門さんも相変わらず凜としてて素敵です」


長門「そ、そうか?なんだか照れるな」テレ


提督「照れてる長門さんは可愛いです」


長門「なっ……!……貴様も言う様になったではないか」カァァ



ショタ「赤城さんも。元気にしてましたか?」


赤城「はい……!ずっと待ってましたよ!」


ショタ「ええ、遅くなってしまいました」


赤城「そんな事は無いです。ショタ君が頑張っていたのなんて何も聞かなくても分かりますから」


ショタ「……あの時に赤城さんが、"きっとまた必ず会えます"って言っていましたから。赤城さんを嘘つきにするわけにはいきませんしね」


赤城「ふふ。約束は守らないと、ですよね?」


ショタ「…………なんていうのは嘘です。本当は僕が皆に会いたかっただけなんです」


赤城「ショタ君……!!」バッ


ショタ「赤城さん。って加賀さん!相変わらずっ!力がっ!強いっ!」ギチギチ


加賀「……」ギュウゥゥゥゥッ


赤城「ちょ、ちょっと加賀さん!ここは私とショタ君がハグするところですよね!?そろそろ!ショタ君を!離して下さい!」グイグイ


加賀「嫌です。もう二度と離しませんから!」ギュウゥゥゥゥッ


赤城「今だけですから!お願いしますよ~」



時雨「ふふっ、じゃあ僕は空いてる背中から」ギュウゥゥゥゥッ


赤城「え?」


時雨「あっ///……ショタはもう男の子じゃなくて男の人なんだね///」ギュウゥゥゥゥッ


夕立「なんか楽しそう!夕立も混ざるっぽい!」ギュウゥゥゥゥッ


赤城「嘘……。夕立ちゃんにまで……」ガックリ


ショタ「……」



赤城「良いですよぅ。後でゆっくりハグしますから……」ショボン


ショタ「赤城さん」


赤城「はい?」


ショタ「ただいま」チュ


赤城「へ?…………!?!!?!!!?」


ショタ「帰ったらただいまのほっぺちゅー、でしたよね?」


赤城「は、はいぃ……」ポー



加賀「ちょっと待って下さい。それを言い出したのは私です。ならば私にもそれを受ける権利があります!」


時雨「ぼ、僕にだってあるはずだよ!お帰り!お帰り!ほら、お帰りなさいしたよ!」



提督「もっと話していたいですけど、これ以上、僕の私事に皆を付き合わす事は出来ません。新しく入って来た子達は僕の事を知りませんからね。再開の時間もここまで、です。…………これから引き継ぎを始めていく。加賀と長門は執務室へ。その他の者は各々の持ち場に戻れ!以上だ!」


加賀「そ、そんな……」ワナワナ


時雨「うぅ……」トボトボ


赤城「……」ポー



長門「かわいいか……。私はかわいいのか、そうか」フフフ





 ~夕食時~



提督「ちょ、ちょっとそんなに焦らなくてもご飯は逃げないですよ」


時雨「ご飯は逃げないよ?でも提督との時間は有限なんだ!急がないと!」ギュウッ グイグイ


提督「お昼も公園で一緒に食べたじゃないですか。あれ、冗談だったんですよ?」


時雨「一軍の将が公の場で冗談だなんて許せないね!罰として今日は監視するから」


夕立「提督さん!提督さん!夕立も構って欲しい!」



赤城「ふふ、時雨ちゃんだけじゃなくて夕立ちゃんまでもう懐いてますね」


加賀「……随分と余裕ですね」ムスッ


赤城「まだちゅーの事を気にしてるんですか?」


加賀「そうです。そもそもあれを考えたのは私です。それなのに……!」ムススッ


赤城「加賀さん」


加賀「……何ですか」ムス--ッ


赤城「ご馳走様でした」


加賀「なっ!…………流石に頭に来ました」



ギャーギャー ワーワー



提督「赤城さん達も楽しそうにしてますね」


鳳翔「提督。着任おめでとうございます。それと、お帰りなさい」


提督「! 鳳翔さん。お久し振りです」


鳳翔「立派になられましたね。あの頃の事がまるで昨日の事のように思えて、なんだかタイムスリップしてる気分です」


提督「そうですね。ここに辿り着けるまでは長い道のりだったと思ってましたけど、いま思い返せば、あっという間だった気もします」


鳳翔「そういうものですよ。さて、今日は何を召し上がられていきますか?」


提督「そうですね……。では、この美味しそうなお子様ランチにします」


鳳翔「! ふふ、かしこまりました」





赤城「では、頂きましょうか?」


夕立「今日も沢山食べるっぽ~い!」


時雨「提督はお子様ランチなんだね……」


夕立「夕立もお子様ランチは好きっぽい!」


提督「ここに来ての初めての食事がこれでしたから。思い出の味ってやつです。ん、やっぱり美味しいです」


赤城「そんな事もありましたね~。提督ったらお子様ランチに目が釘付けだったんですよ?」


加賀「可愛かったですね、あれは。今でもこうして目蓋を閉じれば……心がトキメキます」キューン




暁「ぷふー。ショタったら未だにお子様ランチなんて食べてるの!?笑いが止まらないわっ!」プフー


響「暁もおまけのオモチャ目当てに未だに週4で食べてるじゃないか……。それに今は司令官だよ」


暁「」



提督「暁さん……?に響さん?」



電「私達もいるのです!」


雷「こんなに大きくなっちゃって!私も嬉しいわ!」



提督「皆は変わらなく元気そうで安心しました」


雷「急にいなくなったんだもの!心配したわ!」


提督「……え?」



加賀「(暁達は以前の提督には極力会わせない様にしていたので、あの場に呼んではいませんでした。そもそも事の経緯すら教えていませんから。ただ提督が引っ越したとだけ伝えてあります)」コソッ


提督「(そうだったんですか……)」



暁「何よ。レディの前でこそこそ話するとか失礼だわ!」


提督「そんなつもりは……。ちょっと知らない事があったので教えて貰っていたんですよ」


電「っ!……っ…っ!」プルプル



提督「電さん?どうかしました?」


電「だって司令官さん。……んふっ、……電達にまで敬語を使ってるのです」プルプル


響「端から見れば大の大人が子供に敬語だからね。見る人が見れば事案モノだね」


提督「あ、それもそうですね。でも僕にとっては今も昔も皆さんは目上の人ですから」


雷「司令官が捕まるところなんて見たくないわ!敬語なんて要らないわよ」


提督「そうですか?では……。電、これで良いか?」


電「」キューン


提督「……なんだか礼儀知らずになった気持ちです」


電「そんな事無いのです!電はこの感じが良いのです!」


提督「そうか。なら電達にはこんな感じでいくよ」


電「」ハキューン


響「電が性癖に目覚めた所を目撃したよ。ハラショー」





~1時間後~


赤城「ご馳走さまでした。随分と話し込んでしまいましたね。では、片付けますか」カチャカチャ


提督「手伝いますよ」カチャカチャ


暁「司令官。そんなのは良いからお風呂に入るわよ!」


赤城・加賀・時雨「!!?!?」


響・電「暁(ちゃん)……」



提督「ん~。大浴場に僕が入っていったら騒ぎになっちゃうから個室の方で良いかな?」


赤城・加賀・時雨・響・電「!!?!?!!?」


暁「? 仕方無いわね。そっちで我慢するわ」


雷「じゃあ私が司令官の背中を流してあげるわ!大きくなったから尽くし甲斐がありそうね」


提督「じゃあ、ささっと片付けて行こうか」カチャカチャ



加賀「ちょっと待ちなさい」


提督「? 何ですか?」


加賀「貴方、いつからそんな節操無しになったんです?」


提督「節操無しって……。どういう事ですか?」


赤城「どういう事も何も、暁ちゃん達とお風呂に入ろうとしていたじゃないですか!」


提督「そうですけど……。それがどうしたんです?」


加賀「それがどうしたって貴方ね。……因みに入ってどうするつもりなの?」


提督「お風呂に入るのにどうするもこうするもあるんですか?体と頭は洗いますけど」


赤城「(加賀さん、これってもしかして……?)」ポショ


加賀「(……私が試してみましょう)」ポショ


提督「?」



加賀「じゃあ私も一緒に入らせてもらおうかしら?」


提督「え?いえ、それはちょっと。あの、加賀さんが入るなら僕は後で入りますから!」


加賀「(やりました!私は異性として見られているようです)」ニヤニヤ


赤城(!)



赤城「……私も汗をかいたので流したいですね~。提督、背中を流しますよ?確か今朝、私に命令されてましたよね?」


提督「あ、あれは冗談ですから!流石にそれは不味いです!」


赤城「(ふふっ)」グッ


時雨「(……ああ、そういうことか)」


夕立「?」



時雨「……提督、僕はどうなんだい?昔みたいに一緒に入っても良いのかい?」ドキドキ


提督「え?それはその、嫌じゃないんですよ?ただ僕の方に色々と問題がありまして……」


時雨「そっか。分かったよ。…………ふーん、そうだったんだ。僕の事も……ふふ///」ポワワ



暁「もう!暁をほったらかしにするなんてレディに対する扱いがなってないわ」


響「暁は私達と一緒に大浴場の方に行こうか」


暁「えっ?暁は司令官と……」


電「良いから行くのです!」グイー


雷「そうね。暁と入ったらまたショタのおちんちん伸ばしちゃうものね!ショタのおちんちんを守るために雷が暁を連れていくわ!」グイグイ


響・電「///」



時雨(ち、ちんちんを伸ばす……?ナニがあったんだろう///)モンモン




 ~3時間後~



提督「ふぅ。引き継ぎ関連は大体終わったかな?」


赤城「お疲れ様です、提督。疲れたでしょうから今日はもうお休みになられては?」


提督「俺はもう少しだけ残っていくよ。赤城も疲れたろう?先に休んでなさい」


赤城「了解しました。それでは先に行って待っていますね。お疲れ様でした」


提督「ああ、ご苦労様」



ガチャ ぱたん



提督「……ん?」





 ~2時間後~



提督(何度見てもここの皆さんの戦果は飛び抜けてるなぁ。やっぱり赤城さんや長門さん、それに加賀さんの育成方針が型に嵌まってるんだろうな。時雨さんも今や、中心的役割を果たしているみたいだし、僕も頑張らなきゃな)ペラ…ペラ…



ぼーん ぼーん



提督(! もうこんな時間だ。初日から根を詰めてても仕方無いか……。そろそろ休もう)




ー提督の自室ー



提督(以前、ここに来た時は怯えてたっけ。それが今は僕の自室かぁ。なんだか不思議な感じだ)ボー


提督(風呂にも入ったし、明日に備えてもう寝よう。寝室はこっちか)ガチャ


提督(ふぅ。……明日も皆の為に頑張ろう)トフッ モゾモゾ



……モゾモゾ



提督「! 誰だ!?」ガバッ ガシィッ


??「きゃっ」

??「あっ……」


提督「(? 2人?)抵抗は無駄だ!こんなところに何の用があったかは知らないが、このまま逃げられると思うな!」ガッシ


??「……」

??「……」


提督(まだ目が暗闇に慣れてないせいで何も見えない。枕元の照明はこの辺りか)


提督「さぁ、顔を見せてみろ!」カチッ ガバッ




加賀「抵抗はするな、ですか///。良いでしょう。この誇り高き一航戦の加賀、逃げも隠れも致しません。好きになさい///」ウキウキ


赤城「ショタ君って意外とその、勇ましいんですね。思慕がより募りました///」ポッ



提督「加賀さんに赤城さん!?何してるんですか?上官の部屋に勝手に潜り込むとか懲罰ものですよ!?」


加賀「添い寝しに来いと言ったのは提督ですよ?私達は命令に従っただけです」キリッ


提督「だからあれは冗談だって……!はぁぁ、慣れない事はするんじゃなかった」ガクッ


赤城「……提督は私達に添い寝されるのはお嫌ですか?」


提督「嫌とかではないですけど、昔とは勝手が違うというか」


赤城「十数年振りに会えたんです。今日だけでもお願い出来ないでしょうか?」


加賀「貴方が別れを告げたあの日から、私達はこの時をずっと待っていたんです。この位の我が儘は受けて貰いたいですね」


提督「……そうですね。僕も寂しかった気持ちは一緒ですし」


赤城「では!」


加賀「いいんですね?」


提督「ええ、分かりました。ただ他の皆には内緒ですよ?着任当日に部下を2人も寝室に連れ込んだとか悪い噂が立ってしまいます」


赤城「言うわけ無いじゃないですか。ではショタ君、どうぞ」ポンポン


加賀「3人で寝るのは初めてですね。今までは私達が抱き締めていましたが、今日はショタの腕枕で寝たいです」


提督「分かりました。寝心地は保証できませんけど。どうぞ、です」モゾモゾ


赤城「……あっ、なんだか守られてるって感じがしますね///」


加賀「え、ええ。小さい頃の甘えた感じも良かったですが、これはこれで……///」


提督「……ふふ。やっぱり僕は、赤城さんと加賀さんが喜んでくれる所を見るのが好きみたいです」


赤城「あっ、今、そんな事を笑顔で言われたら……」ススッ


加賀「辛抱出来ません!」ガバッ


提督「え?」




 この後、同じく寝込みを狙って添い寝をしに来た時雨に見つかって修羅場になったり、騒ぎを聞き駆けつけた長門が可愛いと言われた事を今更ながらに思い出して乙女モードに突入したり、その騒ぎの最中、ちゃっかりお持ち帰りを画策した鳳翔さんがいたり、お風呂の件で遠回しに異性として見られていないと勘付いた響と電がかわいい性的アピールを始めて提督の性癖を歪めようとしてきたり、夕立が自室でちゃんと幸せそうに寝ていたりするのだが、それは本編には関係無いので割愛された





                  おわる


後書き

後で何か付け足すかもしれません


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