2020-11-17 07:43:07 更新

概要

アークナイツをやってみた、感想のような妄想の続き





任務の前、出発の時間だと足を踏み出したは良いが、次の一歩が定まらない


後ろ髪を引かれる


そんな言葉を噛み締めながら、二アールの胸に灯るのは、罪悪感にも似た小さなもどかしさだった


「…はぁ」


分かっていてもどうしようもない

心持ち軽くなるかと思って吐き出した吐息も、胸の内が空になるだけで何処か落ち着かない


別れ際、ドクターの表情が脳裏にちらつく


いっそ、それこそ子供のように駄々をこねてくれれば

どうしようもなく泣かれた方が、こっちも子供扱いできるだけマシだったようにも思う


なのに…


物分りの良い振りをして「早く帰ってきてね?」と

涙を飲み込んで出した声は、すすり泣きで震えていた


そんな子に「良い子で待ってるんだぞ」なんてのは少し酷だ

たださえ我儘を我慢して送り出してもらったのに、これ以上良い子でいろとは言えなかった



なつかれましたね


なるほど。アーミヤの言葉は最もだ

チェルノボーグからドクターを救出して以降、ロドスに帰還してからは余計に

私を見かければ駆け寄ってくるし、何もなくても飛びついてくる、それが何かあった時なら尚更


正直、煩わしいと思う時もなくはない


言ってしまえば今だってそうだ

ドクターに付き合ってなければ、こうも思い煩う事もなかったのだから


だが、不思議と嫌でも無いものだ


それがあの子の、ドクターの小器用な言動によるものか

あるいは、遠のいてしまった他人の温もりを、好ましく思う自分の心境のせいなのか


「見透かされているんだろうか、これも…」


そうやって、ドクターのせいにするのは楽ではあったが

その分だけ、自分の心にあの子が居座っているのを認めないでは居られない


なるべく早く帰ってこよう


あの子のためと、僅かに重くなった帰る理由を胸のポケットにしまい込み、足を踏み出した時だった



「ニアール」


背中に掛かる固い声


振り返ってみれば、固い顔をしたドーベルマン

出発前の私を見つけたのを、これ幸いと固い靴音を響かせながら向かってくる


「出発前にすまないな」

「いや、何か問題か?」

「問題というわけでは…いや、問題か」


自問自答し、首を振るドーベルマン

嘆息するその様は、さながらに先刻までの自分の心境を思わせた


「ドクターは何処だ?」

「部屋には居たぞ?」


出発前、その挨拶を交わした時にはたしかにそこに居たはずだが

「逃げたか…」舌打ちするドーベルマンを見るに、この数分で何処かへ行ってしまったらしい


「心当たりは?」

「どうだろうな…」


探しものは探せば見つからない

誰もが一度は経験したであろうジンクス


例によってドクターの行動範囲もそれに等しいものがある

目撃情報をたどれば跡は追えるのに、その背中が見つからない

どころか、その内に情報が錯綜して影も形もなくなってしまうこともあった


「かくれんぼは得意だよ?」


そう言って、子供の遊びだと安易に付き合ったオペレーター達が、疲れ果てた姿で基地内を彷徨うのも見かけることもある


「仕方ない…見つけ次第捕まえるように言うしか無いか…」


顎に手をやり、ドクター捕獲作戦を立案するドーベルマン

そんな彼女を眺めていると、常日頃から「お固い女」だと言うあの子の言葉に指を誘われていた


「何だ?」

「いや…別に…」


ドーベルマンの頬に触れる

いっそ、鋼鉄のような強度でも誇っていれば反応のしようもあったが

指先で触れた彼女の頬は、冗談の不得手な自分のそれよりも柔らかくはあるようだ


「また、アイツに何か言われたか」


ついには、ドクターとさえ呼ばなくなったドーベルマンの心労も程も察するが

いつも言ってること、今更憚られるでもなく口が開く


「それは『いつもお固いドーベルマンは嫌いなのよ』くらいは言ってるさ」

「言わせておけ、バカバカしい」


子供の戯言だと切って捨てたドーベルマン

その態度に「固い」と評された部分が、表情ではなく心持ちだと私は理解を得ていた


「まあ、なんだ。少しは構ってやったらどうだ? 嫌ってるわけではあるまい?」

「だからだよ。アイツは直ぐに甘えたがる」


なるほど


誰かしら嫌われ役は必要ということか

その役目がドーベルマン一人に掛かるというのは心苦しいが、懐かれてる私が代わってやれるでもない

他を探せばアーミヤの顔も浮かぶが、彼女は彼女でドクターを甘やかす節がありすぎて私以上に不向きに思う


「苦労をかける」

「いや、へそを曲げられても面倒だからな。私には出来んことだよ」


アメとムチ、その加減が難しい以上、分担するのが無難だろう

お互いの立場を確認して、固まった方針が嘆息として流れ出ていた



「それと、護衛の件。どうするつもりだ?」


一つ、会話を終えると

襟元を正して話題を変えたドーベルマン


聞けば、前々から上がっていた議題で、ドクターに誰かしら護衛でもつけようかという話だった


「まあ、アイツ次第だが。二アール、お前が断るなら私の方で適当に理由はでっち上げておくが?」

「いや、そうはならないだろう」

「なに?」


ドーベルマンが言うように結局はあの子次第

だが、私への懐き様を見るに自分が適任だとの自覚もある

守ることに長けていて、なおかつあの子に好かれてもいる、これ以上ない配置だ


それでも、私には そうはならないだろうとの予感が首を振らせていた


「あの子はそこまで子供でもないよ」


それが、ここ最近の、あの子に付き合わされた感想だった

甘え上手であっても甘えん坊ではない。人を困らせて気を引こうとはしても、怒らせるまでは本意じゃない


それを弁えて、それを踏まえている


だから堂々とドーベルマンの事を「固い所は嫌い」だと言えるんだろう

それで彼女が気分を害すわけもないと甘えている。実際、とうのドーベルマンも「やかましい」と聞く耳を持ってはない


まあ、それでも…


「それでも、ドクターが言うなら助けよう」


きっとそこには、私じゃないとダメな理由があるはずだから





「そんなもんか…」


二アールの出発を見送った後、ドーベルマンは基地の中を歩いていた


見つけ次第連れてこいと通信を飛ばしはしたものの、それで見つかる保証はない

むしろ、誰かの所に匿われている確率のほうが高いだろう

それがアーミヤの手元だったりしたら、しばらくは出てこないと思っていい


仕方ない


アイツ一人のために基地内をさまよい歩くほど暇でもなく

その内出てくるまでは、別のことをしていたほうが有意義だと結論を出す


だと言うのに、そんな時に限ってこれだ


「ドクターっ。貴様、今まで何処にいた」


廊下の先に見つけた背中に声を飛ばし、足を早めて距離を詰める

幸い、それで逃げられるわけもなく、そもそも「鬼ごっこは嫌いよ」といっていた子だ

私に見つかった時点で足を止め、見るからに嫌そうな顔で見上げられた


「別に? 私にだってプライベートはあるはずよ、あって良いはずだわ」


「通信が聞こえなかったのか」と言えば「だから出ててきてあげたんでしょう?」と

上目遣いのくせに、上から目線で言葉を落とされた


「まあ、良い…」


引くつく こめかみ を押さえ、付き合ってられんと前置きを区切る


「それよりドーベルマン。あなた、私に隠していることがあるんじゃない? あるんでしょう?」

「なにを?」


しかし、ドクターに機先を制されて、会話の主導権を取られてしまった

受け手に回されたことを小賢しく思いながらも、その質問の内容には引っ掛かる


「『W』とか名乗ったあの女。アレ、私のこと知っているみたいだったわ」


話を聞けと、主導権を奪い返すには捨て置け無いその名前

チェルノボーグ脱出の間際、興味本位でちょっかいを掛けてきたクソガキとは違って、明確に向けられた意思は確かに謎だった


「私の知らない私のことを、何か知ってはいない?」

「知らんよ。少なくとも資料以上の事はな…」


疑念の形に目を細めるドクターに、首を横に振る以上の事は出来なかった

そもそも、その資料ですらドクターに見せているのだ。これ以上私の口から言えることもない


「気になるならアーミヤに聞けばいいだろう?」

「ダメよ。どうせ今は自分のことを考えてくださいとか言われるだけ、きっとね」

「まあ、だろうな」


不満を隠しもしないドクターに、それでも頷くより他はない

他に、このロドスで昔のドクターのことを知っているヤツと言えば


「Aceは、まだ戻ってないのしょう?」

「ああ…」


タルラとかいうあの龍女。それを相手に時間を稼ぐと飛び出したきり

誰もが無謀と止める中、それでも稼ぎ出された時間の上に私達は生還していた


「MIAね…」

「苦しいがな…」


降りた沈黙


戦死ではなく行方不明

アレを前に言い訳のような希望だとも思うが、それで折り合いが着くならと、それ以上の野暮を口にするでもない


「ま、良いわ。ええ、今はいいわ」


一人納得し、歩き出したドクター

重くなった話題に足を取られ、気づいた時には2歩3歩と遠ざかっていく小さな背中


「まてまてまてまて…」

「ちっ」


その肩を掴み、振り返りざまに返ってきたのは露骨な舌打ちだった


「『ちっ』じゃない。猫を被るならちゃんと被らんか」

「あなたに甘えてもしょうがないじゃない。もっと甘やかしてくれなきゃ困るのよっ」

「それこそ知らんわ」


猫被りを指摘されても、否定するでもない

むしろ、その逃げ足を強めて私の手から逃れようと藻掻き始める


「貴様の話は聞いたんだ。今度は私の話を聞くのが筋だろう」


私に甘える気がないのは承知の上、それならそれで理屈で顔を向かせるのに躊躇うまでもない


「イヤよっ、絶対イヤなんだから。仕事の話以外聞いてあげないもん」

「安心しろ、仕事の話だよ…」

「ぃいぃやぁぁぁぁっ」


もう何がしたいのか分からない


自分から仕事の話を振っておいて、それに頷いて見せれば、耳を塞ぎ、声を上げてうずくまる

聞きたいのか、聞きたくないのか、せめての態度は一貫して欲しいものだった


「貴様は…」


子供だからという理由を通り越して、不安定過ぎるその情緒に

ムカッと、頭に血がのぼり、イライラが耳鳴りの様にも聞こえてきた

だが、それでも怒鳴るだけではしょうがない。それで余計に縮こまれては話にならん

大きく息を吸って、せめて一段と気を落ち着けると


「お前の護衛の話だよ…」


まずは話題を口にする

何をするにも、コイツに聞く気があるのかを確認するのが先だった


「護衛って、体の良い監視じゃない…」

「それは悪く言い過ぎだ」


話が進んで何よりだったが、返ってきた警戒心に結論を先延ばしにされてしまう


「首輪だよ。どんなに悪く言ってもな」


皮肉を込めて、立場を弁えないドクターに釘を指してみせるが


「鈴付きのでしょう?」


それを気にするでもなく、ころころと笑いながら皮肉を返された



「それ、あなたじゃダメなの? ドーベルマン」


ひとしきり笑ったドクターが、からかい混じりに私を指名してくる


「ふんっ、冗談だろう?」


まるで子供にする態度ではないが

常日頃から、ドクターの自分に対する態度を理解しているからこそ

お互いの立ち位置、その距離感が、ありえんと鼻を鳴らさせていた


「ええ、とてもつまらないね」


ドクターの方からしても、ただ頷いて御免こうむると小さく舌を出している


こうなってしまえばお互い様だ


コイツと同レベルになったみたいで腹立たしくもあるが、スムーズに得られた同意は大いに喜ばしい


「ちなみに、アーミヤも無理だぞ」

「でしょうね…」


ロドスのリーダーという立場もあれば、それも当然と

お互いに会える時間の少なさも手伝ってか、そこに我儘を挟むでもなく頷いたドクター



「だったらあの子たちが良いわ」


訓練場の前

通りかかったドクターが、サクッと指を向けると

今決めましたとばかりに視線を放られる


「一応な、聞いてもいいか?」


それがドクターの意向ならまるっと無視するわけにもいかないが

指を指した先が行動予備隊…つまりは日の浅い新人連中なのだから鵜呑みにも出来ん

まさか堂々と「目を盗むのが簡単そうだから」と言うわけもないだろうが

迂遠にもそんな風な事を言われたら黙ってもおけず、魅力的な代案を餌にして様子を伺うことにした


「二アールが良いとは言わないんだな」

「ああ、そういう心配?」


一つ頷いた後、二アールの面影を追いかけるように口を開くドクター


「まあ、私の隣で辛そうな顔をされても困るし?」

「…」


さて、その答えをどう解釈したものか

「そこまで子供ではない」と言った二アールに頷くべきなのか

しかし、それはどうにも「私のことを一番に見てくれないのはイヤ」と我儘を言うような風でもある


「それに、今のロドスにそんな余裕ある?」


意地の悪い顔をする…


言葉の上では自分の価値を理解していながらも

自分ひとりのために、二アールという貴重な戦力を割けないジレンマをからかわれているようだ


「バカにしてくれるな。それぐらいの都合は付けてやると言ってるんだ」

「じゃあ、尚更。あの子たちが欲しいわ」


もはや、交渉というよりは取引だった


「二アールは諦めるから、一部隊をよこせと?」

「それは言い過ぎ。悪く言い過ぎよ?」


確かに、二アール一人よりも、新人の一部隊ならまだ都合は付けやすい

チェルノボーグから生還出来たんだから、実力としては十分だと言われてしまえば納得も出来る

報奨としての昇進、なおかつドクターの直下に置くことでいろんな経験もできる事だろう


「私はただ…扱いずらいベテランよりも、素直で可愛い新人が欲しいと言ってるの」

「ん…ん?」


並べられた理屈が、否定する理由を削っていき

その途中、頷きかけた私の首は、取り戻した困惑に彷徨う事になる


「どうせなら、無条件で私の味方をしてくれる人のが良いじゃない」


「どの子が良いかしら?」と、好奇心を訓練場へと向けているドクター

その心中を覗き込もうと、どれだけ目を細めても何も見透かせない


あるいは二アールなら、あるいはアーミヤなら、その心中を少しは汲めたのかもしれないが

なにぶん言葉上の意味だけなら、先の取引じみたやり取りより悪化している


洗脳でもする気か…こいつは?


まさかとは思いつつも

読みきれないドクターの心情が、それに拍車を掛けていた





「ぇ、やだぁ…」


アーミヤの口から漏れたらしからぬ言葉


その外見を見れば、少女らしい その我儘も許されたかもしれないが

ロドスのリーダという彼女の立場は、個人的な事情を、ましてや私情を優先させてはくれなかった


「やだぁ…。じゃないよ、何を言ってるんだお前まで」


そんなアーミヤの態度に、口を酸っぱくするドーベルマン


大方、護衛の話を取り付けようとして、またドクターに何か言われたようだった

そんな事務的なやりとりの時間すらも、思うようにとれない彼女にとっては、その苛立ちさえも羨ましく思える



E0部隊…


提出された要件の主題を 私は指でなぞっていた

ドクターの護衛に2・3人のつもりが、1部隊回すことで落ち着いたようだ


どうしてそうなったのかはともかく、遅かれ早かれそうするつもりだったのだし

あの子がやる気なら、私としても組織としても構わないのだけれど


そこに自分の名前が無いのだけが不満だった


思わず立場を無視した我儘が口をついてしまうほど、自分の名前がドクターの下に並んでないのが不満で仕方ない


「ドーベルマンさん…これはこれ、それはそれです」

「そんな訳あるかっ」


仕方ない、仕方ないのだからしょうがないと

雑に押し通そうともしたが、伸ばしたペン先をガッチリと抑え込まれてしまう


「良いじゃないですか。名前だけっ、名前を書くだけですから」

「良いぞ。名簿じゃなくて、署名にならな」

「なんで…そんな意地悪をいうんです…?」


押してダメなら引いてみましょう

胸の内で「これは名案」だと手を打つ

声音を落とし、寂しそうな視線を向けて、悲しそうに声を震わせて


何処で覚えたかと言われれば、ドクターの真似ではあるけれど


人を選ぶが、それで勢いが落ちない人は滅多に見ないし、概ねその後の対応は甘くなる

懸念があるとすれば、自分の容姿で何処まで通じるかという不安と

失念があったとしたら、それこそ、ドクターがドーベルマンさん「お固い女」と嫌う理由だった


「意地悪なものか。立場を弁えろと言ってるんだ」

「ちぇっ…」

「あんまりアイツの真似をしてくれるな…バカに見えるぞ…」


最後の舌打ちまで聞こえてたみたいで

だんだんと、その苛立ちが肌にまで感じ取れるようになってきた


本当に、誰にも等しく厳しい人だと思う


その厳しさを若い子が敬遠するのは当然で、その意味を理解するのは少し先

それが甘えん坊のドクターなら尚の事。それを何度か匿って、一緒に怒られるのもしばしばだった


「まあ、良いですよーだ…」


渋々と、署名に了承の意を記す

ドクターなら、このまま舌を出して拗ねても見せただろうけど

流石にそこまで あの子の真似をする訳にもいかず、最後に口を尖らせるのが精一杯の我儘だ


「まったく、遠回りをさせてくれるなよ…」

「あははは…」


眉間を抑えるドーベルマンさんに、苦笑いを返す

分かっててやった以上は「ごめんなさい」も言えず、そこは部下とのスキンシップだとかで水に流して欲しかった


「一つ良いか?」

「なんでしょう?」


水に流す代わりにと、一つ挟まれた問いかけ


「無条件で私の味方をしてくれる人」


ドクターとドーベルマンさんとのやり取り

それを流れで聞きながら、最後にその言葉の意味を尋ねられた


その時、あの子が何を考えたのか…


想像するのは簡単で、想像するたび胸が苦しくなる


不安、といえば甘く言いすぎか、それならば…


「結局…信用されていないんでしょうね…」


この期に及んで、未だに芽生える不信の芽に、眉根を寄せたドーベルマン


「その割には、随分とニアールに懐いていたみたいだが…」

「それは…あんな風に助けられたら私でも好きになりますよ…」


倒壊してくるビルに、降ってくる源石、その雨から身を挺して守ってくれた人

命がけで証明された心根は、心底甘えるに足りていたんだろう


「ではアーミヤ、お前はどうだ? 構える時間が少ないとは言え…」

「私もそうですが…。組織の…ロドス自体の問題でしょう…どうしても無視はできません」


立場もある、立場がある

個人的な好意なら、二アールさんにだって負けたくはないけども

切っても切り離せない組織の思惑というのは、どうしても 思い出せない あの子を警戒させてしまっている

すべてを話せるわけでも、まだその機会でも無い以上は…その疑念だけは、拭ってあげられない


「それなら、まだロドスに不慣れで、その思惑にも遠い子たち。知らない者どうしって言えば良いのかな…」

「なるほどな…」


無理やり起こされて、全部忘れてて、あんな廃墟を見せられて、いっぱい怖い思いをさせてしまった

あまつさえ、なんど命の危険に晒したのかも分からない

逃げ出したいと思っても、右も左も分からないでは他に行く場所もなく、消極的に私達に迎合しただけ


ならせめて、自分を好きと言ってくる子たちに守られたい


きっと、そんな風にも考えたんじゃないかと思う

その関係を手伝っては上げられないけど、あの子なら、すぐに友達は作れるような気がしていた


「あ、でも、二アールさんの名前は無いんですね?」

「辛い顔はさせたくないんだそうだ…」

「ああ…」


あの子も遠慮を覚えたのかと、頭を撫でて上げたくもあるけれど

その実、そんな可愛い感情じゃないんだろうなと

思い描くドクターの心中は、今の自分には見通せないでいた





「ガーディーっ♪」「わーいっ、ドクターっ♪」


訓練所の片隅に、いつしか定番となったらしい朝の挨拶が響き渡っていた

ガーディとドクター。お互いの顔を見るなり駆け出して、落ちない勢いのまま


ひしっ


ぶつかってくるドクターを確かに受け止めたガーディは、お返しの代わりに頬ずりを繰り返す


わーわー♪ きゃーきゃー♪


落ち着かないスキンシップも程なく終わり

せがまれたガーディが、ドクターの細い足を肩に乗せると、すくっと肩車の要領で立ち上がっていた


「はっしんっ」


ドクターの掛け声に、わふっと答えたガーディが訓練所の中を走り始める

途中、すれ違うオペレーター達とハイタッチを重ねる度に、不思議と広がり始めたのは和気藹々とした空気だった


「あ、ジェシーだ」


声に振り返り、軽く手を挙げたジェシカ

そこに、ドクターの小さな手が伸ばされると、合わせてジェシカもまた手を伸ばし

続けざまに感じた異変が、その足を引かせているみたいだった


「ちょっ、ドクター、ガーディ、ストップ…ね? 止まって?」


足が下り、体を撚る

ドクター達の方を向きながらも、すぐさま駆け出せるようにと、バネが溜まっていく


3・2・1…


「な、なんで追いかけてくるんですかぁーっ!?」

『ジェシカが逃げるからーっ♪』


楽しそうに声を重ねたドクターとガーディ


コロコロと笑う二人に、ゴロゴロと泣きそうな声を上げながら、ジェシカが追い立てられている

だからって、それで誰が止めに入るわけもなかった

暴走機関車に突っ込みたがる子なんて居るわけないし、貧乏くじを引いたジェシカが悪いという空気もなくはない


「あの…ドクター…ガーディ…その辺で…ね?」


そんな中、見かねたメランサが声を掛けていた

しかし その声は、どうにも遠慮がちで弱々しく、恐る恐る伸ばした手では、はしゃぐ二人が止まるわけもない


「ひぃんっ。ありがとうっ、メランサさーんっ」

「あ…いえ」

「おはよう、メランサちゃんっ」「おはようメランサっ」

「うん、おはよう…。じゃなくて…あ…ぁぁ…行っちゃっ…た…」


涙目のジェシカを見送って、止める間もなく間に合わず

ドクター達の伸ばした手に、小気味よく触れながら

メランサは、風の様に走り去っていく二人の見送りしか出来ていなかった



じわり…じわじわと…


身軽なジェシカに対し、ドクターを担ぎ、なおかつ肩車という不安定さで追従するガーディ

それでも引き剥がせないどころか、地味に差は詰まっていく不条理

体力お化けに追われる焦りか、はてまた自分の体力の無さに自信が萎んだせいか


ふと、ジェシカが足をもつれさせた


軽い体が宙に浮き、蹴り損ねた足が床を滑る


転けるかと思えば、そこは流石に思う

直ぐに体勢を立て直し、慌てて床を蹴り上げて落ちたスピードを取り戻していた


そんな僅かな空白に


「いまよっ、ガーディっ!」


ぴょんっ


ドクターの合図に軽く、それこそ跳ねるように床を蹴ったガーディ


「え…」


その気配に、振り返ったジェシカの目が丸くなる


「いっけぇぇぇドクターっ!!」


ガーディの手を借りて、肩から飛び出したドクターが、そのままジェシカの胸に飛び込んでいった


「うっそっ!? ちょっガーディっ、何をっ、まっ…あぶなっ…とっ、きゃっ…つぅ、え、ええいっ、ままよっ!」


飛び込んできた小さな体を慌てて捕まえたジェシカ

もともと不安定な体勢に強烈な横やりをくらい、ついには足場を見失っているようだった

横滑りになる実感が急速に危機感に変わって行く中、胸の内にしっかりとドクターを抱きとめて床を叩いて受け身を取る


2転3転…


抱き合ったまま床を転がり、仰向けになって横たわる二人


「ひぃひぃ…ふぅ…はぁ…」「あははははははっ」


ころころ と、ジェシカのお腹の上で笑い転げるドクターと

そんなドクターを抱えながら悲鳴にも満たない吐息を繰り返すジェシカ


「お見事」あの状況から、ドクターを無傷で庇ったジェシカに、そんな言葉があっても良い

しかし、医者の立場からすれば、彼にはとてもそんな言葉は掛けられなかったのだろう


「ドクター…何をしているんですか、あなたは…」


怒っている。声音こそ平静ではあったが、アンセルの目は明らかに笑ってはいない


「あっ、アンセルくんおはよー」

「はい、おはようございます」


抱っことでもせがむように伸ばされたドクターの両手

それはそれとして、その手を掴まえたアンセルがドクターを立ち上がらせている


「危ないことはやめてくださいと、いつも言っているでしょう」

「運動をしなさいと言ったのもアンセルくんよ? 怪我が怖くて出来ますかってっ」

「ガーディの上に乗ってただけじゃないですか、あなたは…」

「笑い疲れたのだわ。とっても楽しかったのよっ」


けたけた、けらけら、ころころ、ごろごろ


天真爛漫と言えば可愛らしいが、あっけらかん と見れば小憎たらしい

人の心配もどこ吹く風と、医者としては堪ったものじゃないはずだ


「それにね? それによ? 怪我をしたってアンセルくんが治してくれるんだもの、へっちゃらだわっ」


かっちーんっ


その雰囲気を音で例えるならこうだろうか

ゆっくりと目を閉じたアンセル。心臓の音を数えるかのような間を置いた後「わかりました」と目を開く


「まずはその頭から治しましょう」

「へ? 頭なら平気よ? どこも痛くないのだわ?」

「そうですか? 私にはとても悪く見えますが…」

「あ、今アンセルくん私のことバカにしたわね、分かるんだから。そんなこと言ったらいけないのよ、バーカっ」

「ただしい事を指摘されて怒るのはもっとバカに見えますよ、バーカ」

「やろうってのかこんちくしょーめーくちげんかならまけねーぞ」

「負ける前からの遠吠えなんてみっともないだけでーす」


ずるずる…ずるずる…


不毛な会話を続けながら、些細な抵抗も意に返さず、ドクターの小さな体をアンセルが医務室に引きずり込んでいく

機械的に開いた扉に二人が飲み込まれ、無機質に閉じれば、久しぶりの静けさが訓練所に戻っていた




ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!


突然と、広がった静けさを引き裂いて医務室から響く悲鳴に、驚いたガーディが慌てて扉に飛びついていた


「ドクターっ!? どくたぁぁぁぁっ!!」


泣きそうな声は、その悲鳴にも負けず不安を抱え込み

バンバンと、ロックの掛かった扉を叩きながらドクターの名前を呼び続ける

しかし、彼女の動揺と焦りを跳ね返す扉は、極端な冷徹さを保ったまま頑なに口を閉ざす


「大丈夫…大丈夫だからガーディ」


余りにも悲痛なガーディの有様に、慌ててメランサが駆け寄っていく


「アンセルさんが、そんな…ドクターに酷いことするわけないから」

「嘘だぁ。アンセルくん注射とか好きだもん、そういうとこあるじゃんっ」

「え…それは、だって、かもしれないけど…」


メランサの口から慰めの言葉が止んでいた


口ごもる理由は一つか。そりゃ彼もお医者さんだ、注射くらいするだろう

おそらく、この場にいる誰もがされたことがあるし、当人の嗜好は分からないでも

「そういとこある」って言われれば、曖昧にでも頷くしかなかった


「まったく、人が好きで注射をしているみたいに言わないで下さいよ」


ガーディの抵抗が嘘のように、あっさりと扉が開いていた

中からは、疲れた息を吐くアンセルに連れられて、よれよれになったドクターが顔を出す


「どくたぁぁっ! 平気? ああ、腕にばんそーこー…痛かったよね…もう大丈夫だからね」


アンセルからドクターを取り返し、ぎゅっと抱きしめたガーディ

そこでようやく気づいた様に涙が溢れ出し、ガーディの胸の中でドクターがすすり泣きを始めていた



「まったく、アンセルの注射好きにも困りましたね」

「フェン…。あなたまで人聞きの悪い事を言わないで下さい」


よしよーし


過保護なまでに慰められているドクターを横目に、保護者のような会話をする二人


「だいたい、あなた達が変に甘やかすから私が悪者になるんでしょう?」

「そうですか? 十分に懐かれてると思いますが?」

「注射の度に騒がれるのが面倒だって言ってるんですよ…なんか、悪い事してるみたいで…」


泣いているドクターを眺めていたアンセルが、気まずそうに視線を逸していた



気持ちは分からないでもない


医務室に入る前と後、注射をされたであろう叫びから一変して大人しくなったドクターの姿は

ほぼ初対面の自分でさえ、どこか居た堪れなく感じてしまっている程だ


「ああ、ごめんなさいプリュム。ドクターにあなたを紹介するつもりでしたが…」

「いえ、私は…それより…」


フェンに名前を呼ばれ、久しぶりに自分を取り戻した気分だった

ガーディとドクター、二人の抱擁に始まり

口をはさむ暇もなく広がったどんちゃん騒ぎは、泣きを見て終わっている


確かに、これでは自分を紹介する暇なんてなかっただろうが


「いつも、こう…なのですか」

「ええ、だいたいは」


苦笑を浮かべたフェンが、改まって私に向き直ると


「ようこそ、E0部隊(仲良しクラブ)へ」


苦笑を微笑みに切り替えて、歓迎しますと私に手を差し出してきた



戸惑いが、その手を取るのを躊躇わせる


思い返すのは、配属先を願った際のドーベルマン教官の渋い顔

思い出したのは、仲良しクラブと、耳に挟んでいた彼女たちへの皮肉のような愛称


不安が無いといえば嘘だろう


しかしそもそも、ロドスという環境自体が前の生活とは違い過ぎていた

今現時刻を持って、その最たるものを目の当たりにもしている


無理というのは簡単で、以前の様に仕事に没頭できたのならそれも良い

なら、ロドスで生活をしていく以上、それに合わせるのも仕事の一環だと言えなくもなく


それが好奇心だと気づかないまま、その時の私はフェンの手を握り返していた


奔放が過ぎる彼女たち。極端な環境に身を置けば、慣れるのも早かろうと思いながら

そんな打算は、近い内に忘れてしまうなどと夢にも思っていなかった





am5:57…


ザッ…


聞こえた雑音が先か、瞼を焼く光が先か

どっちにしろ私の眠りは邪魔をされていた


勝手にスイッチの入った端末に嫌々ながら目を向けると

つまらない機械音声が、誰かの口に代わって言葉を繋いでいる


ドクター・ケルシーより…って


誰だっけ?


また私だけが知らない人か


嫌になる


誰も彼も、私じゃない私に期待して…


「何がビタミンよ…」


もぞもぞとベッドの上で体を動かすと、腕の辺りにチクリと些細な違和感を感じた


こちとら散々アンセルくんに注射打たれてんだ

それこそ栄養剤も含めてずぶずぶよ、ずぶずぶなのだわ

今更ビタミンの1つや2つで起こされて、鬱陶しいったらない


「お医者さんはそればっかり…私が欲しいのは安眠なのだわ」


栄養だとか、運動しろだとか、ちゃんと休めって…


じゃあ起こさないでよ…今何時よ…a.m5:58とかふざけんじゃないわよ


「Dr.しずく…今目覚めるのは非常に苦痛かと思いますが、すぐに作戦会議室に来るよう指令が出ています」

「うーるーさーいー…」


しかし相手は機械だ、後5分が通じる相手ではないし

命令を果たすためならと、音量と光量を拡大させて、私から惰眠を引き剥がしていく


「Dr.しずく…」

「しゃーっ! もう良いからっ、分かったわよ」


端末に枕を投げつけて、いやいやながらもベッドから体を起こす


「…廃墟の次は…荒野か…ほんと、気が滅入るわね…」


カーテンの隙間、いまいち通らない視界には、ただ雑然とした荒野が広がるだけだった





「あ、ドクター! おはようございます」


遅ればせながら作戦会議室に入ると、私に気づいたアーミヤが待ってましたと駆け寄ってきた

抱きしめられて、頭を抱えられ、ペタペタと顔を触られ、手を握られ

「体の具合は…」「痛い所は…」と、私の心配をしているようで、自分の不安を慰めているみたいにも見える


「またアンセルくんに注射されたのよ…とっても痛かったのだわ」

「それは…でも、ドクターの為ですから…」


袖をまくって見せた注射の跡に、アーミヤが顔を曇らせる

跡って程の跡もなく、とりあえずの小さな絆創膏も可愛らしい

けれど、それが子供の細腕にあるというのは、すくなからずの痛々しさも感じられるみたいだった


「でももう大丈夫。アーミヤの顔を見たら平気になったのよ」


曇ったその顔に手を伸ばし、頬に触れながら笑顔を向ける

ふっと、僅かに緩む顔に笑顔を灯し、アーミヤが私の手を握り返す


「ではドクター、現状を説明しようか」

「いやよ」


控えていたドーベルマンが、区切りを見つけて挟んだ口に、私はNOを突きつける


ピシっ


固まるでも罅が入るでも…とかくそんな音が響き渡った気分だった


これでも彼女からしたら譲歩したはずだ

私とアーミヤのスキンシップに時間を割いてくれたはずだ

「注射ぐらいで…」とグダグダ小言を言われるかとも思ったのに、以外と最後まで静かだったのだ


取引と…言えば固すぎるが


そろそろこっちの話を聞けと言いたい頃合いを、問答無用で不意にされたドーベルマン

その心中を察したのか、緩んでいたアーミヤの顔でさえ若干引きつってもいる


「アーミヤ、そいつを捕まえろ。ああ、構わん、お前の膝の上で良い…逃げられるよりはな…」


また、椅子に縛り付けられるかと思ったのに、随分と丸くなったものだと今日のドーベルマンは少し優しかった



チェルノボーグでの作戦、戦略的にはと前置きされた成功

だした被害の割にはって、きっとドーベルマンと二人っきりなら言ってただろう皮肉も

それを一番気にしているアーミヤの前で言う気も起こらず、ちょっと不満そうな顔だけして話を聞き流す


分かってるわよ、そのぐらい…


視線で会話をするとはこのことで

不満そうに向けた視線は、はたしてドーベルマンの釘を差すような視線と交わっていた


「りゅーもん…?」

「龍門(ろんめん)ですよ、ドクター」

「ふーん…」


それが次に向かう先の名前らしい

質問は後で受け付けると、一通りの話を聞けば

そこで私達は、情報交換と、物資の補給…その変わりに傭兵をやるって話で纏まったようだった


なんでそんな話になったかと思えば


チェルノボーグの生存者達がその龍門に向かっていて

その中にレユニオンの構成員が混ざってるのが予想されるため


汚れ仕事を私達にやらせようってのかしら?

それとも単に龍門に防衛力がないだけ?

いや、私達と交渉しようってんだから、それだけの力はあるのだろうし…


なんて、下らない事が頭に浮かんで、それが形になる前に握りつぶす

考えてもつまらない事だ。どうあっても面倒になるなら、面倒が起きた時に考えよう


そうね、たとえばそう


チェルノボーグの難民を皆殺しにしろとか言われた時には、考えてみようかしら





龍門についてみれば、予想を上回るような自体も起きず

流石に皆まとめてジェノサイドなんて突飛な予想は杞憂に終わってくれた


とはいえ…


鉱石病、感染者に対しての扱いはロドスのようにはいかず

見つけたら通報を、速やかな勾留をと、キツいアナウンスが繰り返されている


それを噂通りというアーミヤ


そんな噂になるほどの評判の前にも龍門に向かう感染者

それでも、チェルノボーグよりはマシなのか、それでも荒野で野ざらしよりはマシなのか

まあ、選択肢が無いって点に置いては、私とおなじなのかもしれない


難民たちを横目にゲートを潜り

龍門の衛兵に通された場所には、これまたきっつい女が立っていた


「おまたせしました」とアーミヤが頭を下げれば「14分の遅刻だ」と睨みつけられ

レユニオンの襲撃があったと言おうものなら、それは分かっていると流され、本題を突きつけられる


ドーベルマンが可愛く見える程のキツさだった


「それで、こちらが?」

「はい、ロドスの顧問。Dr.しずく です」


さらにそのきっつい女の視線が私を向くんだから堪らない

慌ててアーミヤの後ろに回り込み、コートの下に潜り込む


「ちょっ…ドクター、ご挨拶を…ご、ごめんなさいチェンさん…」


逃げ回る私を捕まえようと、コートを持ち上げるアーミヤ

そんな子どもじみたやり取りに何を感じたのか「ふんっ」と、鼻息一つならすとそれっきり


暴れだした感染者への対応と、残るロドスのオペレーター達へ指示を出す


きっつい…


その余りにもどぎつい態度に、アーミヤでさえ苦笑いを通り越して私を見ている


「チェンさん…想像よりも何倍も厳しい方みたいですね」

「まったくよ…。ドーベルマンが子犬に見えるのだわ」

「ふへ…っ」


そんな私の冗談に、ここに来てアーミヤが初めて頬を緩めた


「さて君たちは…」


ふと、振り返ったチェンの視線に、ビクッと肩を震わせる私達

なんなら聞こえてしまったかと顔を寄せ合えば


「私と来てくれ…」


ただ、先を促されたことに肩の力を抜いたのだった





『うわぁ、凄い!』


通された先にそびえ立っていたのは高層ビル

それも一つや二つではなく、街中に林立して摩天楼を形成していた


圧巻…


堪らず出た感想を重ねる私達


キラキラとライトアップされた様に輝くビル群

眩しいと目を細めても、尽きない興味が瞳を開かせ、その光景を目に焼き付けていった


しかし…


そんな私達の感動にチェンの視線が水を差す


睨まれている…かと思えば幾分は柔らかく

それでも、今までの きっついチェンの姿を思えば、アーミヤと二人で身を寄せ合うのに躊躇はない


「…ロドスも、なかなかやるようだな」


はしゃぎすぎただろうかと、気まずそうに謝るアーミヤを遮るチェン

その言葉は叱責でも軽蔑でもなく、何処から出たのか、ただ素直なお褒めの言葉だった


「え…それは、どうも…ありがとうございます」


声を詰まらせながらも、褒められたことに礼を返すアーミヤ

それも褒められた事への反射というだけで、急に変わった態度の意味が分からず

答えを求めた私達は、摩天楼に浮かぶチェンの顔を見つめずにはいられなかった





ビルも凄ければ中もすごい


古風な内装に、でんっと構える龍の絵が壁一面広がって、見るものを威圧しているみたいだった


「ここで待っていてくれ」


それだけ残し、開いた龍の壁の向こうへと消えていくチェン


その背中が見えなくなり、アーミヤと二人っきりになった途端

『ふぅ…』とか『はぁ…』とか、詰まった息を取り戻すように、私達はため息を重ねていた


「チェンさん…とっつきにくいというか、なんというか」

「怖い女なのよ…怖いのだわ」

「ダメですよ…そんな事言っちゃ…。きっと彼女も色々あるんでしょうし…」


憚るでもない感想を口にした私を咎めるアーミヤ


思う所はあるのだろう


部隊の指揮官にしろ、組織の長にしろ

若い身で人を束ねるという気苦労に、少なからずの共感を感じたのかもしれないが


「アーミヤはあんな風にならないでね?」

「…どうでしょう? ドクターがあんまり我儘言うと、ああなっちゃうかも?」

「え、やだぁ…」


その時…


ここに来て初めて私はアーミヤの手を離した

一歩二歩と距離を取り、なにかおっかない物を、それこそチェンを見るような視線を彼女に向ける


「ああっ、嘘です。嘘ですっドクター。私がドクターにそんな、あぁ怖がらないで、怖くないからぁ…」


一瞬、いたずらに口を尖らせて見せたアーミヤだったけど

私が怯えて見せれば、泣きそうな顔をして駆け寄ってくる


「いーやーっ。意地悪を言うアーミヤなんて嫌いよっ、こっち来ないでっ」

「ひぃんっ。ちょっと冗談いっただけじゃないですかぁっ」


龍の絵が見下ろす部屋の中、暇つぶしと始まった追いかけっこ

再び龍の絵が開くのも気づかず

戻っていたチェンに「何をやってるんだ…」と睨まれるまで、私達は状況を忘れて遊んでいた





一方、その頃


「どぉぉぉくたぁぁぁぁっ!」


ガーディが吠えていた


龍門から指定された警戒範囲、その許される限りを彷徨いて回りながら

ドクターの消えていったビルの方を向いては名前を呼んでいる


「痛い目に合ってないかな? 怖い思いしてないかな? あぁ、心配だなぁ、心配だよぉ…

 うわぁぁんっ、どくたーっ、どぉぉくたぁぁぁぁっ!!」


ガーディは吠えていた


ドクターの心配をするようでいて、その実、自信の不安を吐き出すように


「うるさいですよ、ガーディ」

「ひぃんっ」


そして怒られる


もう何度目か、ぴしゃりと掛かるアンセルの声に肩を震わせては項垂れる


「なにさ…。アンセルくんはドクターの事の心配じゃないの?」

「だからって、ここで騒いでもしょうがないでしょう」


むしろ、ここで問題を起こせば、ドクターたちの交渉に不利が出る

そう思えばこそ、自分たちの任務の重要性もと…言った所で


「どーくたーっ、どぉぉぉくたぁぁぁぁっ!」


聞いちゃない


「うん、心配だよね。でも、アーミヤさんも一緒だから…きっと大丈夫」


どころか、メランサに慰められて尻尾を揺らす彼女に、ため息すら枯れ果てる


「あー…でも、アーミヤさんかぁ…それはそれで心配かも…」

「ん? うーん…そう、かな?」


頷きかけたメランサの首が傾いでいく

いったい、ガーディの中でアーミヤさんの扱いはどうなっているのだろうかと

湧いてくる疑問が振り払えないでいる様だった



「心配ですか?」

「あ、いえ…私は…」


ビルの方を見上げていたプリュムに、フェンが声を掛けている

ガーディの真似、でもないが、気にならないというのも嘘のようで

時折、気が抜けたように、プリュムの視線は彼方へと向けられていた


「咎めている訳ではありませんよ。心配なのは皆一緒ですから」


微笑みかけたフェンは、その視線を分かりやすいガーディへと向ける

逆に言えば、彼女がああも落ち着かないから、自分たちは落ち着けるのだと言いたげに


「そう…ですね。確かに、心配です」


肩の力を抜いたプリュムの視線が、諦めたように上を向く

ビルの窓、映る人影、もしかしたらドクターの面影でも拾えないかと目を凝らすが

さすがに、要人の集まる部屋が吹き曝しの訳もなく、それらしい姿を見ることは出来なかった


「手が届かない所にいる…というのも、なかなか堪えますね」


これがまだ、アーミヤさんとドーベルマン教官の二人なら

心配こそすれ、ここまで不安に思うことはなかったはず


なのに…


ドクターの小さな面影が、アーミヤさんの後ろで震えている

一度芽吹いた不安の種は、すくすくとプリュムの中で育っていた


「ええ、本当に…」


プリュムの答えに頷いたフェン

そうして何を思ったのか、ジェシカの名前を呼んだ後


「そうですジェシカ、いっそ乗り込みましょうか」


『はぁっ!?』


隣で聞いていたプリュムはもちろん、声をかけられたジェシカも驚いていた

一体何を言い出すんだこの人はと思い、一体なにを言い出すんですかこの子はと、感想までも重なる程に


「ダメですよっ、だめに決まってるじゃないですか。私達の任務は…」

「ドクターの護衛です。いちいち言わせないで下さい」

「そうだけど。ほら、ドクターにも「良い子で待っててね?」って」

「待ってるだけが良い子なんですか? 命令を聞くだけじゃバカですよ?」

「命令すら聞けないのは阿呆ですよっ」


始まった不毛なやりとり

その意見にガーディまで乗っかったんだから、更に収集がつかなくなる

メランサは「あの…落ち着いて…」と おろおろするばかりで、アンセルに至っては「知りません」と匙を投げていた


一番落ち着いているように見えて、その実、一番見境がないのは彼女なんじゃないだろうか?


そう、普段はガーディの言動に紛れているだけで


プリュムの中でフェンの評価が代わり始めた頃



感染者が逃げたぞっ


入る報告に飛び出してきた感染者


幸か不幸か


当然の如く、彼女たちの鬱憤はそっちに向かい

鎮圧というよりは制圧といった有様は、その夜をとても静かなものへと変えていく





長ったらしい話し合い。いや、話し合いというより探り合いだ

だれも本心を話さない。すこしでも天秤の針をこちらに向けるのに必死な有様

迂遠で、回りくどい、胡乱な会話


たぬき と きつね


そう言えば大した化かし合いの様相ではあったが

あの場にいたのは、ネコと龍とうさぎさんで、対する私は


もしゃもしゃと…


振る舞われた茶菓子を肴に、可愛い振りを続けていた


甘いお菓子に舌鼓を打ち「さすがかねもちいいもんくってんな」と、状況にそっぽを向いて鼓を打ち鳴らす

しかしそこも金持ち。懐の広さは所持金と比例し、その場で恐々と表情を変えたのはアーミヤだけだった





もしゃもしゃと…


お土産にもらったお菓子を頬張りながら、アーミヤと手を繋ぎ、私達はケルシー先生と並んで帰路に付く


「は、はずかしかったぁ…」


ビルを離れ、ふと、足を止めたアーミヤは

気が抜けたように、その場にうずくまると顔を覆ってしまっていた


「気持ちは分かるがな…」


アーミヤに同情の視線を向けた後、咎めるような視線を私に向けるケルシー

一体を何を言おうというのか、待ち時間にアーミヤと追いかけっこをしていたことか

それとも、会議の最中、ふたりのお菓子にまで手を付けたことなのか

どっちにしろ、褒められないだろうという察しは変わらない


「私は悪くないもん…」

「そうだな。その度胸の半分くらいはアーミヤも見習って良いかもしれん」


「だが、今回は悪くなかった」と、その褒め言葉はもちろん私に向かず

ケルシーはうずくまるアーミヤの手を引いて立ち上がらせている


「ていうか、貴女はだあれ? また私を知ってる知らない人なの? そう言えばケルシーって…何処かで…」


ケルシーに褒められて、嬉しそうにしているアーミヤも気にはなるけど、当然の疑問はこっちにもあった


「ああ、そうよっ。朝っぱらから、ビタミンがどーとか言って、私を叩き起こした人の名前だわ」

「ああ、そうだな。君があまりにも、不養生だとアンセルから苦情があってね」

「あーっ!? あなたなのねっ、あなたのせいだったのね!? この前、注射の数が増えたのはっ」

「少しは懲りたかね?」

「跡が残ったらどするのよっ、どうしてくれるのよっ」

「それは彼に失礼だ。アンセルはそんなヤブではないよ」

「ケルシーに私のアンセルの何が分かるってのっ」

「君のものではあるまいし、君よりは知っているつもりだよ、しずく」


口喧嘩…でもないが、わがままを言う私に手を焼いているって言うのが正しい

しかしその様子は、今更といった感もあり、私の扱いに慣れているような印象もあった


「ケルシー先生、あまりドクターを困らせないで…」


恩師と私


何方にも情がある以上、間に挟まれれば立場も揺れる

かと言って、口喧嘩も見過ごせなかったアーミヤは、恩師に甘えつつも、私の肩を持つ作戦にでたようだった


「アーミヤ…。これが困っている子の顔かね? 見たまえよ? ふてぶてしいったら…」

「そ、それは…」

「まったく…忘れるならその性格だけにすれば良いものを」

「ケルシー先生。流石にそれは…言い過ぎですよ…」

「そうか…そうだな。いや、すまない」


理由はどうあれ、頬を膨らませる子が可愛いのは万国共通だろうけど

さすがにこの場で当てはめてくれるほど、ケルシーは甘くはないようだった

膨らんだ私の頬を弄り倒し、過ぎた口に謝罪を挟んで肩を落とす


「ふぅ…。いいさ、これまでの犠牲に報いることができればな」

「なによそれ…」


肩の力を抜いたケルシーが私から視線を外す

けれど、勝手に犠牲を押し付けられた方としては面白くはない


文句の一つも言ってやろうかしら…


きっと、ケルシーと二人きりなら、勢いは口を付いたかもしれない

でも、見上げたアーミヤを前にして、その気持は萎んでいき

出来上がったのは、ケルシーの言うところの ふてぶてしい表情なのだろう


それでも…


「Dr.しずく。よく戻ってきた。君の帰還を歓迎するよ」


向き直ったケルシーが僅かに微笑み、私はその意味を測りかねていた





遠くから摩天楼を映していた龍門の町並み

しかしそれも、中心を離れてみれば、雑草の中に分け入るような鬱陶しさに変わっていく

計画性の無い建物の群れは複雑な路地を生み出し、乱雑に引かれた電線に区切られる狭い空

お世辞にも綺麗といえない空気にこびり付いていたのは、居たたまれない生活の匂い


言ってしまえばスラム街だった


そんなもの何処にでもあって、何処も対して変わらないとは思うけど


「やだぁ…おうちかえるぅ…」


舗装の剥がれた地面に溜まった水溜り

ぱしゃぱしゃと、雨上がりにはしゃぐような気分にもならない程に淀んだ何か

子供の遊び場にすらならないような場所に、とても長居したいとは思えなかった


「ダメですよ、ドクター」

「アーミヤの意地悪。私のことが嫌いなのっ」

「もちろん、大好きですよ」


いささか聞き流された感もある生返事

アーミヤは私の方を見ないどころか、うさぎの耳まで動かして周囲の状況に目を配っていた


そうなると、つまらないのは私の方

アーミヤが構ってくれないとなると、鬱陶しい街中を、鬱陶しそうな顔をしてい歩くしかない

右へ左へうろついてみれば、アーミヤの手に引き戻される

手持ち無沙汰に、次の路地を覗き込もうとした所で聞こえてきたのは悲鳴だった


路地裏から聞こえる悲鳴と怒号、ただでさえひと目の付かないその場所の、更に向こう側が騒がしい


するり…


私の手から、アーミヤの手が離れていく

同時に、駆け寄ってきたフェンに庇われる私

何事かと奥を覗き込んで見れば、大人が子供に手を上げているような場面に出くわしていた


「…警告します。今すぐここを立ち去って下さい」


冷たい声


握っていた温かい手の平を思えば、およそアーミヤの口から出たとは思えない声音だった


「ジェシー…」

「はいっ」


撃鉄の起きる音がする


脅しと威嚇


ジェシカに銃を構えさせると、私の意識は子どもたちの方を向いていた

殴られた跡もある、転がされた時に付いたであろう擦り傷も


可哀想、とは思うけど…


それ以上に私はその名前が気になっていた


「龍のお姉ちゃん」と助けを呼ぶ子供「ミーシャお姉ちゃん」と泣く子供


龍…龍か…


一番に引っかかったのがそこ

前にチェルノボーグであったタルラとかいうレユニオンのなんか

気づけば皆、皮肉と畏怖を込めて龍女とか呼んでいたけれど


あんなのが子供を可愛がるたまか?


そりゃ、微笑み浮かべてお菓子を配ってるのを思えば、あざといくらいに思うけど

そんな温かい光景は、熱を上げて溶かされれる様に上書きされる

それだったら、まだ龍門で会ったチェンとかいうきっつい女、アレのほうがまだ可愛げがある


しかしそれも、ミーシャという名前が当てはまらない


まあ、別の人の可能性もあるけれど…


結局、少なすぎる情報では、変な人のギャップ萌えを想像するのが関の山で


バァンっ!!


益体もない私の思考を打ち消すように爆発音が響く

ジェシカにしては気が早いと思えば、先に痺れを切らしていたのはアーミヤだった


それっきり


アーツを使ったアーミヤの威嚇に、威勢のいいことばかりを喚いていた男たちは口どもる

どころか「怪物だー」とか、子供じみた叫び声を上げて逃げ出す有様は なんとも情けない


「ふぅ…。怪物…ですか…」


そう言われて、アーミヤの肩が落ちたのが見えた

まるで諦めているみたいに、言われて当然だと認めているみたいに


「誰が怪物よ…」


無作為に暴力を振り上げた大人が言うべき言葉ではない

ああ、違うわ、違うわね。私はただ、私の好きな人が怪物呼ばわりされたのが気に入らないだけで


別に簡単なのよ


人を傷つけるだけなら、怪物じゃなくても、派手なアーツなんか使わなくたって


「ジェシー…」


一瞬の躊躇いは、ジェシカの優しさだと思うことにする

それでも、その一瞬が彼らを救ったのには変わらない


「大丈夫です。私は大丈夫ですから…ドクター」

「別にアーミヤの心配なんて…。私は私が気に入らないだけ」

「ふふっ、ありがとうドクター」


頬を膨らませた私の何がそんなに可笑しいのか

一つ微笑んだアーミヤは、そのまま隠れていた子どもたちの方へと歩いていった


「追いますか?」

「良いのよフェン。アーミヤを悲しませたいわけじゃないの」

「…ですね」


耳打ちしてきたフェンに笑顔を返す

しかし、私の不況を買ったアイツらが許せないのか、随分と端切れの悪い返事ではある


「ありがとうフェン。それとジェシーも、もう良いわ。無理を言ってごめんね」


渋るフェンの手を握り、ジェシカを振り返って笑顔を見せる


「いえ、ごめんなさい…」


私のごめんなさい に ごめんなさい と返したジェシカが

銃と一緒に何をしまい込んだのかわからない。けれど、それもまた彼女らしいと可愛らしくは思う





白髪のウルサス人の少女を探せ


唐突にチェンから入った通信

2・3の疑問を解消するように、アーミヤが直接チェンと話してはいるが

結果は芳しく無く、急いで保護しろとの一点張りで、通信を切られてしまっていた


それと変わるように、付近を捜索していたオペレーター達から、感染者から攻撃を受けたとの連絡がはいる


「プリュム達も引かせましょうか?」

「良いわ。それより、ウルサス人の少女? とか言うの探せておいて。代わりに、あなた達はあの辺に隠れてくれる?」


プリュム達に捜索続行の指示を飛ばし、フェンとジェシカには良い感じの物陰を指し示す

何のこともない。攻撃を受けたオペレーター達に、戻るようにと指示を出したアーミヤに乗っかって見ただけのことを


「へぇ…わかってるのね?」


耳聡い、というのだろうか?

私の指示が聞こえたらしく、赤毛のお姉さんが、狐みたいな尻尾を好奇心で揺らしながら近づいてくる


「フェン…この人だあれ?」


警戒心が先にたった私は、そばにいたフェンの手を捕まえて、その背中に逃げ込んだ

見たところの装備は、ジェシカと同じ警備会社のもののようで、一応ロドスの協力者…ではあるんだろうけど

イコール私の味方か…と言われれば、そうはならない


「フランカさんですよ。ほら、ジェシカと同じところの」

「ジェシーの部下なの?」

「違います、違いますよっ、むしろ逆…みたいな?」

「うん…だと思った」

「じゃあ、なんで聞いたんですか…」


「慌てるジェシーが面白そう…」とまでは言わず「なんとなく」でお茶を濁し

がっくりと項垂れるジェシカが配置に付くのを見届ける


そうしている間にも、盾にしていたフェンを回り込んで、フランカがずずぃっと私の方へと近づいてきていた


「それで、この後どうするつもりなの?」


私に対する興味は尽きないようで、膝を抱えて視線を合わせると、どんどんと顔まで寄せてくる


「どうって…袋叩きにするのよ? 決まっているのだわ?」

「~~~♪」


フランカの尻尾が揺れる、狐みたいに尖った耳がパタパタ泳ぐ

なにか堪らないものを抱えたように、その表情は喜色に溢れていた


「ねぇねぇリスカム。この子なかなかやるみたいよ」

「Dr.しずく は私達の戦術指揮官だよ。そんなことを言ったらダメ」


見上げたお姉さんはフランカの同僚のようで、申し訳無さそうに私に目礼を送ってくる


ただそれも、結果的には取り越し苦労のようだった


フランカにせっつかれるままに、作戦の予定を話す私

それが彼女の嗜好と噛み合ったのか、一喜一憂してるフランカを前に、私の口も軽くなっていた


「それでね、みんな囲って輪になって。鏖殺よ…皆殺しにしてやるのだわっ」

「あはははっ、バイオレンスぅー」


何処から聞こえていたのだろう?


フランカと一緒になって笑っていると、慌てたアーミヤが飛び込んでくる


「何を言い出すんですかドクターっ。フランカさんまでっ」


ごめんなさいと、頭を下げるリスカムを横に もう少し穏便にとたしなめられる私達


「アーミヤはいつも難しいことを言う…」

「そーだそーだっ、たまにはぱーってやらせろーっ」


困ったような顔をする私に同調したフランカ


「そんな難しいことは言ってませんっ。私はただ、敵を誘い込んで…その、包囲して…から…」


そんな私達に負けじと言い返したアーミヤだったけど

けれど何を言い直したものか、言葉尻は弱くなり、言い訳を探すように視線が泳ぎ始める


「から?」「からの?」

「うぅぅ…」


次の言葉を期待する私達に、言葉を詰まらせる

おそらくはアーミヤも気づいている。私達は何も間違ってはいない

多少表現が過激だったことを除けば、彼女自身の戦術プランと違いがあるはずもなく


「や、やっつけるんですよ…」


『ぷふっ』


フランカと二人、堪らず吹き出していた

これから敵を迎え撃とうってのに、その随分と可愛らしい表現に笑わずにはいられない


「もうっ、いいから配置に付いてっ」


たまらなかったのはアーミヤの方で、恥ずかしさを誤魔化すみたいに声を上げて命令を押し付けてくる


『はーい♪』


返事だけはお上手に、ぱんっと、フランカと二人手を合わせ

頬を膨らませるアーミヤに追われるように、私達は戦いの準備を整える





「まってたよー、ドクターっ!」

「おまたせ、ガーディっ」


わふっと、ガーディに迎えられ、抱き合う私達

レユニオンの小部隊を片付けた後、それらしい少女が見つかったとプリュム達に案内されて

今はアーミヤたちが交渉中…といってもその少女「ミーシャ」の様子を見るに、ほぼ脅迫のような絵面ではあった


「プリュムもありがとうね」

「いえ、ドクターもご無事で何よりです」


伸ばした私の手をとって、軽く頭を下げたプリュム


何というか…淡白だ


ガーディの過分な愛情表現を受け取っていると、どうにもプリュムの反応が物足りない

いや、心配されているのも分かるし、気遣われてるのも感じている

今だって、周囲に危険が無いかと目を配っているし、窓際から遮るように立つのも忘れてない


ただそれは、仕事としての、プロとしての対応なのかと


子供心には試してみたくもなるものだ


「プリュムは褒めてくれないの?」

「え…?」


え…って言われた

予想外の私の言葉に、答えなんてまるで考えてなかったような顔をしている


「いっぱい頑張ったのよ? 早くプリュムに会いたくて…頑張ったのに…」


力を抜いた指先が、プリュムの手から零れ落ちる

涙を隠すようにうつむいて、ぐすんっと鼻を鳴らしてみれば


「こら、プリュムっ。ドクターを泣かせたなーっ」


涙の匂いでも嗅ぎ取ったのか、いの一番に声を上げるガーディ

「いーけないんだーっ」とまで言い出せば、どちらが子供か分からなくもなるが

子供の相手をしているんだから、それはそれで良い気もする


「いえ、私は別に…そういうつもりでは」


明らかに狼狽え始めたプリュム

助けを求めて、フェンに視線をやるが「いけませんね」と首を振られて

だんだんと、居心地が悪そうに視線を彷徨わせはじめていた


たぶん…真面目なだけなんだろう


だからって、私の事を好きって言ってくれるわけでもないが


「笑って下さいドクター…。その、あなたに泣かれると、私も困ります…」


零れた私の手を拾い直し、そっと、胸にしまい込んだプリュム

包まれた手から感じるのは、彼女の鼓動と温かさ


困る…困るかぁ…


まあ、それも良い、今はそれでも良いか


それが感じられるなら十分に思って、私は頬を緩めていた


「にひーっ」

「う…嘘泣きだったんですか…」


目いっぱいに浮かべた笑顔をプリュムに向けると

からかわれた事に気づいたのか、僅かに彼女の顔が曇る


「そんなことはないのよ? ほんとうの、ほんとうに、悲しかったのだから」


くしゃっと


雑に頭を撫でられた


それが初めてプリュムに褒められた瞬間で、真面目ばっかりだった彼女が初めてみせた抵抗でもあった



「あの…ドクター? 少し、その…うるさいです…」


話は纏まったのだろうか? 振り返ったアーミヤに、なんとも言えない顔で見つめられる私達

選ぶように開いた間に、それでも「うるさい」と、彼女にしては強い言葉を選んだあたり

交渉は棚上げになってしまっているんだろう


「ほら、ジェシーが騒ぐから怒られたじゃない」

「私、一言も喋ってませんでしたよね…」


間髪入れずにジェシカに責任をなすりつけ、ガーディと一緒に知らん顔をする私達

慣れた笑顔で誤魔化すフェンに、損な役回りと落ち込むジェシカ。話題の中心だったプリュムはただただ恐縮するばかりなり


「なんで、子供がこんな所に…」


それでも、それより、そんな事よりも、ミーシャが気になったのは私の存在の様だった

そりゃ、自分を囲った連中の中に、明らかに場違いな容姿が紛れ込んでいれば、気になるのも分かるけど


「誰が子供よっ。私よりちょっと背が高いくらいで、大人ぶってんじゃねーぞっ」


果たして安全地帯(プリュムのマントの中)から吠えた私は、ミーシャにどう映るだろうか


「え、あ…ご、ごめん…ね?」


檻の中の犬にいきなり吠えられたみたいに、目を丸くしたミーシャ

けれど、ここで謝る辺り悪い子ではなさそうだった


毒気が抜けていく空気に、たまりかねたフランカの笑い声が響く


「あの…とりあえず、一緒にここから離れませんか…お願いします…お願いですから…」

「あ、うん。わかった…行くわ…」


恥ずかしさに真っ赤になったアーミヤを前にして

ミーシャも警戒心を保っていられなかったようで、とまどいながらも付いていく選択に頷いていた



「まさかドクター、ここまで考えて…」


剣呑だった交渉の空気が和らいだ事に、何かを察して頷くプリュム


「そんな訳ないじゃないですか…」


けれど、一番割をくったジェシカが唇を尖らせると

自分のマントの中で吠えているドクターを見失いそうになっていた





移動をすると決まったら、今度は何処に行こうかという話になるのは当然で

幸い目的地は、龍門近衛局が確保した安全地帯へとすんなり決まったものの


さっさと連れてこいの一点張りのチェンと

ミーシャを保護する理由を問うアーミヤとの間に、綱引きにもならない押し問答が繰り返されている


協力関係なのにと、リスカムはため息をつくけれど

私からしたら契約書にサインした間柄でしかなく、それそのもの自体は問題なく履行されているならそれまでで

アレが欲しい私達は、あまり強気にも出れないのはやっぱり痛いし、そもそもアレってなんなのさと言った所だった


結局…


他にしようもなく、私達は消極的に撤退ルートの策定にあたるしかなかった


「ねーねーアーミヤ、アーミヤってば…」

「ドクター、後にして下さい」


ペンギン急便から来たという赤毛のお姉さん

「ペンギン帝国万歳」と訳のわからない挨拶もそこそこに

そのエクシアお姉さんの情報を元に、話し合いを進めているアーミヤ達


そんなアーミヤの裾を掴み、気を引こうとはするけれど、さっき遊んでいたせいかどうにも取り合ってはくれなかった


「もう…知らないんだから」


オオカミ少年の気分を味わいながら、プリュムの下から顔をだし、窓の外に視線を落とす

隠れているつもりなのか、それでも ちょろちょろと増えてくる人影に、とても面倒な予感を禁じえない


「良いんでしょうか?」

「良いわよ。せいぜい慌てると良いんだわ。それに…」


ぱっちり…


エクシアお姉さんと目が合うと、笑顔でウィンクを飛ばしてくる

どうにもこの辺りの地形どころか、周囲の状況でさえ把握しているようで


「もうっ、ドクターっ。気づいてるなら早く言ってくれてもっ」

「知らないわよ、言ったもの。アーミヤが聞いてくれなかったんじゃない」

「うぐっ…」


あしらった覚えはあるのか、言葉を詰まらせるアーミヤ

咳払いを一つ挟んで気を取り直すと、増した緊迫感に、騒がしさが遅れてやってきていた





「ねぇ、ミーシャ。さっきのガスマスク仮面とは知り合いなの?」

「ううん…知らない、はず…だけど」


ガスマスク仮面…おまけにグレネードランチャー装備というなかなか奇天烈な相手を振り払い

私達は、ペンギン急便が言う所の撤退ルートを目指して走っていた


「いやよね、分かるわ。一方的に知られているって、気味が悪いったら」

「それって…どういう…」


逃げながらも走りつつ、ガスマスク仮面がミーシャにご執心だったのが、私は気にかかっていた

何か知らないかと訪ねては見るものの、彼女にも宛はないようで

まあ、ガスマスクの裏側がわからない以上、何も言えないのはそうなのかもしれないけど


角を曲がり、階段を駆け上がり、上がって、上がって…また上がって


「なぁ、お前…。お前がロドスのDr.しずく だろう?」


いい加減息も切れ始めた時に、そんなどうでも良い事を聞かれても答える余裕なんてなかった


「あまり階段をのぼるのは好きじゃないか?」

「はぁ…ぜぇ…ひぃ…なによ、それ…っ」


気づけば、ペンギン急便のお姉さんが隣を走っていた

息も絶え絶えな私と違って、黒髪を靡かせて、軽やかに階段を駆け上がる顔は随分と涼しそうに見える


「そんなの…ぜぇ、好きなやつ居るわけないじゃない…はぁ。みなさいよっ、ミーシャだってぇ」

「え、わたし?」


振り返ったミーシャは息こそ弾んでいたものの、まだ少しは余裕がありそうで


「なんでよっ!」

「えっ!? なんでって…なんで?」


私の癇癪を受けても、その足は止まらなかった


「手をかそうか?」

「けっこうよっ! ていうか誰よっ」

「ああすまない…私は…」


伸ばされるテキサスの手を払い、それでも私は首を振る

別に強がりでも意地っ張りでもなく、単に苦手は克服するものではないというだけの話で


「ガーディっ!」

「うんっ。しっかり捕まっててねドクターっ。いっくよーっ」


途端、体が軽くなった

足を動かす必要もなくなると、抱えられるままに体から力を抜いていく


「ほらっ、ミーシャっ、テキサスっ。早くしないと置いてくんだからっ、待ってあげないのよ」


そのまま速度を上げたガーディに抱えられ、

横にいたテキサスはもちろん、少し前を行っていたミーシャを追い抜いていく


「元気な奴だな…」

「うん…分かる」


荷物と化したドクターを見上げ、ぽつりと漏れたテキサスの感想に、ミーシャも頷くばかりだった





まあ、当然そうなる


階段を駆け上がれば屋上に出るし、屋上から逃げるとなれば


「ここを…跳べっていうの?」


拙いフェンスの下にみえたのは遠い地面

目眩がする前に覗き込むのをやめた私は、努めて対岸と足元を見比べていた


無理というほどの距離はない


けれどそれも、一般的なオペレーターならの話

私の足で跳べるかと言われれば話は別で、むしろガーディにでも放り投げられた方がまだ早そうに思う


だからって、迷ってる暇はもっとなかった


人が階段をバカみたいに駆け上がったっていうのに

レユニオンの奴ら、ランドセルから火を吹かせて飛んできやがる


「しずくちゃんっ、はやく、こっちにっ。手を掴んでっ」


ビルの反対側でミーシャが私を呼んでいる

ギリギリまで身を乗り出して差し出される手に、それでも躊躇せずにいられない

見なければいいのに、見つめた足元が、もし…と、いらない想像を掻き立て、足を下がらせる


「怖いのか?」

「こ、怖くなんか無いわよっ…ちょっとした、助走よ、イメージトレーニングなのだわっ」


淡々と、それでも背中を突くようなテキサスの言葉に、反射的に出た強がり

「子供扱いしないで」と、重ねてみればますます自力で飛ぶ以外の選択肢を無くしていた


「そうか。では急げ、先に行くぞ」


ぴょんっ


軽々との言葉通りに、ビルの幅を飛び越えたテキサス

見せつけられた手本と、振り返った彼女の視線に、さっさとこいと促されてしまう


「…が、ガーディ…」

「ごめんっ、ドクター。今ちょっと手が…っ。なんとか跳べないかな」


振り返って助けを求めるも、増えてきた敵の数にますます追い詰められていく


跳ぶか…跳ぶしか無いのか…


さっさと跳ばないと、ガーディ達も逃げられないし


「うっ…ぅぅぅぅっ…もうっ、知らないんだからっ!」


跳んだ、跳んださ、跳んでみたのよ


少し下がって付けた助走

振り切った足が屋上から離れて、体が宙に浮かび上がる

一瞬上がった目線は直ぐに落ち始めて、必死に手を伸ばすミーシャと重なった


ビルの反対側へつま先が届く


やっと捕まえた地面の感触に安堵して、油断が足を滑らせた


「あ…」


落ちたな


その自覚とは裏腹に、手を掴まれた私の体は、ミーシャと一緒にビルの向こうへ倒れ込んでいた


「大丈夫? しずくちゃん?」

「ぅ…」


次の瞬間、溢れてきた涙で視界が歪む

私の体は勝手にミーシャを捕まえて、その胸元に顔を押し付けていた


「もう、大丈夫だよ」

「…子供扱いしないでって…」

「うん、ごめんね」


そのまま頭を撫でられる

強がる私に謝りながらも、撫でる手を止めないミーシャに何を言い返せるわけもなく


「泣いてるのか?」

「うっさいっ、泣いてなんかっ」


そんな私の顔を無遠慮に覗き込んでくるテキサスに、がるがると吠え返すことで自尊心を保っていた


「ああ、大丈夫だアーミヤ。ドクターは元気だぞ」


けれど、じゃれついた子猫でもあしらうように手を振り、アーミヤに合図を送った後


「ほら、行くぞ」


私の憤慨なんて意にも返さずに、テキサスは先へと行ってしまう


「ミーシャっ! あいつキライっ」

「あははは…。でも、ほら、私達も逃げないと…いこ?」


不承不承と頷いて、嫌々ながらと嘯いた私は、ミーシャに手を引かれて駆け出した





ビルを飛び越え、合間を縫って

龍門の複雑な地形は、エクシアの誘導もあってか、逃げる私達をレユニオンから隠してくれる

そこまでは良かったのに、問題は逃げる途中にも転がっていた


レユニオンと感染者が揉めている


どうやら、感染者がみんなレユニオンに同調するかといえばそうでもないらしく

ただ、静かに暮らしたいだけの彼らからすれば、揉め事を運んできたレユニオンは害悪以外の何物でもないようだった


ラッキーとか、今のうちに、だとかね


そう考えられたのなら、アーミヤも もっときっと楽に生きられたのだろうに


「ほんと、アーミヤはいつも難しいことを言う」


許される限り、出来るだけ感染者を助けるのがロドスの任務だと言い切るんだから


でも、それでも皆やる気なんだから不思議なものだ


「ごめんなさいドクター。けど…」

「良いのよ、アーミヤ。全然構わないのだわ」


謝るアーミヤに首を振り、次の言葉を遮る私


「そんなアーミヤが皆大好きなのよ、きっとね。私もそうだもの…」


それを否定するものは誰もなく、皆の同意を受け取ったアーミヤは嬉しそうに顔を綻ばせる


「それじゃ、Dr.しずく。私とテキサスの指揮もお願いね!」

「ぇー…」


景気よくエクシアに肩を叩かれるが、返す私の言葉は渋いものだった


「えーって。そこは頷くとこじゃない?」

「だって…」


これみよがしに見上げたテキサスは、相変わらず涼しい顔をしている


「ちょっとテキサス~。この子に何したのよ?」


私の視線を追いかけたエクシアが、白状せぇとテキサスに絡みだす


「わかったわかった…。それじゃあ、コレをやろう」


それが堪らなかったのか、私の視線が鬱陶しかったのか

やれやれと、肩をすくめた後、ポケットからチョコレートを一本取り出していた


「もーらいっ」

「あ…」


テキサスの差し出したチョコレートが、私の口に入るその瞬間

エクシアの手がさっと伸び、チョコレートを掠め取られる


あーん…


わざとらしく口を開け、飲み込むチョコレートを見せつけてくるエクシア

その姿が涙に揺れて「ひぐっ…」と、私の鼻からすすり泣きがこぼれ始めると


「あ…あら…」


子供からチョコレートを奪ったお姉さんに集まるのは当然白い視線でしかなく


「なーんてね? ね? ほら、あーんして?」

「ん…」

「美味しい?」

「うん…」

「ふぅ…」


慌てたエクシアが、私の口にチョコレートを押し込むことでなんとか丸く収まった





「あー…んっ」

「これで3本めだぞ、食べ過ぎじゃないか?」

「いいの、良いのよ。アンセルくんが渋い顔するだけなのよ」

「それは…まあ、いいが…」


上手にできたご褒美に、レユニオンを片付けた後

テキサスから追加でチョコレートを貰っている私


私に餌付けをしながらも、テキサスは唸るエクシアの相手をしていた

もっとも「レユニオンは信じるのに、ロドスは信じられないなんて…」

エクシアのその疑問は、私も分からないでもなかったが


「感染者なんてギリギリの精神状態の人たちが、嘘やお世辞も言えないバカ正直なウサギの女の子を信じられる?」


茶化すようでいて、それでも真面目なフランカの言葉

お茶目なお姉さんとばかりに思っていたが彼女が口にした現実に

これといった反論も上がらず、アーミヤの表情に申し訳無さそうな影が浮かんでいた


それに、アーミヤいつも難しいことを言うし


わざわざ付け加えるまでもない感想を飲み込んで

チョコレートと一緒に舌の上で溶かしながら、私は現実を聞き流す



「私は信じる…」


それでも、強く頷いたミーシャに、アーミヤの顔が上がる


「ありがとうございます…ミーシャさん」

「ううん。私も…感謝してる」


そうして、ミーシャを見つめ返すアーミヤの瞳には力が戻っていた





「よかったの?」


言いたいことは山々だ、聞きたいことも山々だ


鉱石病の影響か、ミーシャの体調が悪化していたこと

龍門に、チェンにミーシャを預けてよかったのかだとか


チェン達に連れられていくミーシャを見送った後

私は募るばかりの不満のような不安を、隠すでもなくアーミヤに向けていた


ともすれば


責めるように聞こえる私の言葉にも、真っ直ぐな頷きが返ってくる


「はい、私はチェンさんを信じます」

「そんなの…」


何処に信じられる要素があるのやら


何も明かそうとはしないチェン。可愛い顔してきっついあの女の何処を見たらそうなるのだろう?

そりゃ、龍門の長官…あの鷹揚なドラゴン爺さんより、幾らかは分かりやすいんでしょうけど


「もどかしいものね…」


こぼれたのは弱音だったのかもしれない

そしてこれは、私が目を覚まして初めて、自分の記憶に興味をもった瞬間だった


「ドクター?」


心配そうに覗き込んでくるアーミヤに、諦めたように首を振る私


「だってそうでしょう? 昔の私なら、まだもっとどうにか出来たんじゃない?」


ミーシャを取り返せないでも、龍門に乗り込んで治療を進めるくらい出来たんじゃないか

そんな、身の程知らずな感情が、きっと悔しいってことなんだろう


「それは…」


口ごもったアーミヤは、それ以上先を言おうとはしなかった


答えが期待に変わるのを恐れたのか

それとも、昔の私でさえ出せなかった答え…だったのか


「あ…もしかしてドクター寂しいんですか? ミーシャさんが居なくなって」

「な…」


はぐらかされるとは思っていた

きっとまた「ドクターは何も心配しないで」とか言われるんだとばっかり


けれど、努めて笑顔を作ったアーミヤは、私を宥めるでも慰めるでもなくって

くすくす と、からかうような言葉を向けられるとは思っても見なかった


「なんのかんの言って、ずっと手をつないでたじゃないですか?」

「それは…ミーシャの体調が悪そうだったからっ」

「そうですか? 私はそれでも良いですけど…」

「なによ、その手は…」


差し出されたアーミヤの手

小さな手、細い指、柔らかい肌に浮かぶ細かい傷

少女の手に刻まれていたのは、見た目以上の苦労と苦悩


「そうですね…ヤキモチかもしれません」


そう言って、返事を聞くでもなく私の手をとったアーミヤ


「…寂しいのはあなたの方じゃない」

「慰めてくれますか?」

「仕方のない子…本当に仕方がないんだから」


握り返す私の手が、アーミヤの指に包まれる

それが、彼女への信頼によるものか、不思議と不安は消えていった



「それで?」


レユニオンがこの地点に向かってきている

そんな連絡を受けた私の顔は、自然とアーミヤの顔を覗き込んでいた


「仕方のないアーミヤは、私にどうして欲しいのかしら? 一体何をして欲しいの?」


今なら何でもしてあげる


随分と広げた大風呂敷に、微笑んだアーミヤが乗ってくる


「ミーシャさんが龍門に保護されたことに気づいてないのなら…」


そうね、それはそうなる


私達がここでレユニオンを足止めする、なんなら全部倒してしまっても良いはずだ


「お願いできますか? ドクター」

「ええ、良いわ。もちろん構わないのよ。未来のお姉ちゃんを傷物にされては敵わないのだわ」


そう言って、威勢よく踏み出す私だったけど

その一歩が地に付く前に、繋いでいた手が引かれ、アーミヤの手元に引き戻されてしまった


「アーミヤ?」


覗き込んだ顔に浮かぶのは澄まし顔

どこかつまらなそうでいて、なんなら口笛を吹いて誤魔化そうとする図々しさもある


「言ったじゃないですか…やきもちですって」

「まあ大変。ご乱心なのだわ、この子やる気なのよ」


ぞわりと、鳥肌が立つような威圧感とともにアーミヤのアーツが起動する

そんなこととはつゆ知らず、飛び込んできたレユニオンの一部隊は、火を見るより明らかに叩き落されていた





剣で切ったにしては随分と嫌な匂いが立ち込めていた


それは、肉が焦げる匂いだったり、鉄が焼ける匂いだったりしていて

溶断された盾がグニャリと溶け落ち、悲鳴まで焦げ付いたレユニオンの誰かが地面に崩れ落ちる


「うわぁ…痛そう…」


どうなっているんだろうと、私の興味は尽きなかった

フランカの持つ細身の剣。それが容赦なく重厚な盾を溶断する理不尽


これがアーツの力、鉱石病の副産物だというのなら

どうして今になってという疑問が頭をよぎる

レユニオンじゃないにしろ、アーツの力を振り回せば今よりはマシになったんじゃないか?


頭数の問題かしら?


しかしそれも、チェルノボーグで湧き出てきたレユニオンの下っ端をみれば違う気もするし

けっきょく質の問題か。多少アーツに適正が出来た所で、皆が皆あのタルラみたいにはなれないのか


じゃあ…タイミングか


タルラというタイミング…それとも別の? 予定調和的な奴?


纏まらない思考を横にやりつつ、私の指先はフランカによって溶断された盾の断片に伸びていく

赤く蕩け、今にも零れ落ちそうな鉄の断面。ちょっとつついたら粘土みたいに形を変えてしまいそうで

溢れ出した興味は、火傷への恐怖を暈して好奇心を赴かせていた


「こら、危ないわよ?」

「あ、あー…やぁ…」

「やーじゃないの」


そんな私に気づいたフランカに抱えられ、そこから引き離される

頬に付いた煤を払われ、怪我はないかと確かめられて

最後に「よしっ」と肩を叩かれると、そのままグリグリ頭を撫でられた


「アレの止め、ささないの?」


興が削がれたと失った興味は、私の頭の中を面白いぐらいに冷やしていた

溶けた盾の隣で、虫の息だったレユニオンの誰か

怪我をした額から血を流したくても、焼け固まった肌がそれを押し止めている有様


放っておいても死にはしないが、放っておいたら死んでしまいそうな

そんな瀬戸際の敵を前にして、フランカは特に止めを差すような素振りは見せないどころか

なんなら、助けを呼ぶような気配さえある


「良いのよ。勝負はついたんだし」

「ふーん…」

「面白くない?」

「そりゃね」

「正直だこと」


鳴らした鼻に戸惑うでもなく、バカ正直に私の内面を聞いてくるフランカ

そんな彼女に取り繕うでもなく頷くと、呆れるでもないが肩を竦められてしまった


「敵だから、憎いからって全部殺してたらコイツらと同じでしょ? それってイヤじゃない?」


にひっと勝者の笑みで唇を持ち上げるフランカに、私もそれを想像する

敵なんだもの全部殺していいじゃない…それくらいは思うけど

その結果がコイツらと同程度、私がコイツらと同レベルと考えるのは如何にも身の毛がよだつ


「アンセルくん、アンセルくん」


彼女に返す答えの代わりに、私は主治医を呼んでいた


「頭怪我してるから慎重にね」


フランカから容態を聞いた後、顔色一つ変えずに治療をはじめたアンセル


「ねぇ、アンセルくんは嫌くないの?」


せめて愚痴の一つも言って良い場面で、淡々と治療をすすめる彼の姿に、私の内心は拗ねていた


「患者は患者ですから」


全く私情のない一言

それでは、安い敵愾心で止めを刺そうとした上、文句も一つも言わない彼に嫉妬した自分が子供みたいで

子供ながらの独占欲は、そんな死に体と私を、患者の一括にされたみたいでつまらない


「あなたの患者は私でしょう」

「それならもう少し私の言うこと聞いてくれませんか?」

「イヤ。だって、アンセルくん痛いことするもの」

「はぁ…」


わかりきった答えにため息を付くアンセル

構ってくれない彼にいじけた私は、優しいお姉さんに甘えることにした


「聞いたフランカ? アンセルくんってば酷いよね?」

「分かる。包帯めちゃくちゃ強く縛られたりさ」

「うわぁ、いたそぉ…。やっぱり全然優しくないのよ、アンセルくんは」

「だからドクターも怪我なんかしちゃダメよ? 痛いことされちゃうんだから」

「はーい」


と、返事をした手前、これ以上も言えないが、なんか上手く丸め込まれた気がしていた



「また出た…」


アーミヤに呼ばれ、フランカに抱えられて来てみれば、敵のリーダーと思しきガスマスク仮面が立っていた

どうにも、ミーシャを龍門に預けた事がバレたらしく、その怒りの矛先は私達を通り越してアーミヤに向かっている


感染者の裏切り者だとか、貴様らの血で償ってもらうだとか


如何にも的はずれな復讐者が言い出しそうで、ガスマスクの中が伺い知れるというもの

対するアーミヤも、思い出した何かに堪えるように唇を噛み締め、拳を握りしめていた

チェルノボーグで大暴れしたのは誰だと、ガスマスク仮面を問い詰めて、どうにも話は平行線だ


とはいえ、加熱する二人の言い分に、私は言うほど興味を持てなかった


ここまで拗れるとどっちが先か、なんてものに意味はない

その内理由なんて忘れて、隣で死んだ誰かのために戦うようになる


まあ、元を辿れば感染者を迫害した奴らが悪いとか言われるんだろうけど…


そんな理由で、私のアーミヤを傷つけられたら堪ったものではないのよ、いい加減にして欲しいのだわ



現れたレユニオンに対処をしつつ

続いた防戦一方は、気づけば私達を袋小路に追い込んでいた


「ここは強行突破しましょう」


多少強引にでも敵陣を突っ切ろうとするリスカムに

やりすぎて龍門に驚異にとられるのも厄介だと、面倒くさそうに肩を竦めてみせるフランカ

分かっていても、黙ってやられるわけにはいかないとリスカムが苛立てば、こっちも平行線の会話が始まっっていた


「じゃあ、何? そこそこに苦戦しながら此処から逃げればいいの?」

「できる? ドクター」

「もちろんよフランカ。あなたとリスカムが仲良くしてくれるならね?」

「あはははっ」「うっ…」


露骨な視線を受けたリスカムが口をつぐみ、フランカが口を開けて笑い出す

それで仲直りが出来るんだから、まあケンカという程もないのだろうけど

相変わらず、ガスマスク仮面の敵意は消えるでもなく、執拗にアーミヤを狙っているみたいだった


「それじゃ、逃げよっか。私もそろそろお家に帰りたいわ」


そんな時…


ぴゅーっと上がった信号弾

その合図を切っ掛けに、拍子抜けする見たいにあっさりと、ガスマスク仮面達が引いていく


「あ、ダメよこれ。イケないのだわ…」


最初は、ただ私達の疲労待ちかと思っていた。戦力の損耗を嫌った消極的な玉砕戦術だと

数だけは多いレユニオンが、狭い龍門の地形でやる分には、まあありかとも考えていたが

何のことはない、ただの遅滞戦闘ならより合点がいく


その結果は、足止めをしていたつもりの私達が、良いように足止めを食らったわけだ


「アーミヤ。ミーシャの所にいこ?」

「っ!」


私に袖を引かれ、事態を訝しんでいたアーミヤがはっと顔を上げる

すぐに部隊を纏め始めると、逃げるガスマスク仮面達に背を向けて、チェン達の支援に急いでいた





「なに…どういうこと? どういうつもりなの? ミーシャを取られたとか、面白くもない話をしないでちょうだいっ」


チェンに追いつた私達が、その口から聞けたのは、ミーシャを取られたという不愉快極まりない報告だった

偉そうな態度を取るだけとっておいてこの体たらく。一人の敵に足止めされただの、数と火力で釘付けにされただのと

聞くに堪えない事後報告は、さらに私の苛立ちを加速させただけだった


「この…っ。がっかりドラゴンっ、残念ドラゴンっ。返してよっ、私のミーシャを返してったらっ!」

「貴様のものではあるまい…」

「私のお姉ちゃんになってくれるかもしれなかったのよっ!」


堪らず吐き出した暴言は、しかしそれでもチェンは大きな反論まではしなかった

失敗した後ろめたさもあるのだろうが、つまらなさそうなその態度が私の口を滑らせる


「可愛い顔してお高く止まってんじゃねーぞっ…このっ…」

「ドクター…その辺で…」

「むぐぅ…」


何かを言おうとした


言う必要のないことまで吐き出そうとしたこの口は、その寸前でアーミヤの優しさに塞がれる

優しい彼女の手の平に何も言えなくなった私は、未だに下がりきらない溜飲に喉を詰まらせていた


「ごめんなさいチェンさん…ドクターもその、悪気は…」

「良い、言われても仕方のないことだ。口の悪いガキだとは思うがな」

「あはははっ…」


苦笑するアーミヤに抱きしめられ、言いたいことも言えない私の溜まり続けた鬱憤は

ついには、物理的な手段で、実力行使を持って解決に乗り出した


がぶっ


「いったっ!? え? なに? ドクターっ、いま噛みました?」

「笑い事じゃないのよっ、笑い事じゃないんだから…」


驚いたアーミヤが手を離した隙きに逃げ出して、私に出来たのはそこまでだった


ぐすん…


一度鳴らした鼻に誘われるように、溢れた涙が視界を滲ませる

次の言葉が嗚咽で途切れ、考え事も纏まらずに頭が真っ白になっていく


「ドクター…。すみませんジェシカさん、お願いできますか?」

「はい。ドクターの事は任せて、アーミヤさんは…」


ジェシカに抱えられて、その場から引き剥がされる私


「ほら、行きましょうドクター。アーミヤさんの邪魔しちゃダメですよ?」

「邪魔してるのジェシーでしょうっ。イヤよっ、いーやっ、離してっ、後で酷いんだからねっ」

「はいはい。もうどうにでもしていいですから…って痛っ。なんで噛むんですかっ!?」


それでも怯まないジェシカに引きづられ

おしゃぶり代わりに突っ込まれた彼女の指を噛むことで、私は ささくれだった心を慰めていた





ガジガジガジガジ…


「はぁ…」


泣きつかれたのか、電池が切れたオモチャ見たい眠りに落ちたドクター

その小さな口を塞がないように、すぽっと引き抜いたジェシカの指は、涎でベトベトになっていた


「それでずっと噛まれてたんですか?」


可笑しそうに表情を崩しながら、フェンが差し出したハンカチを受け取ったジェシカは、ベトベトになった指を拭っていく


「ええ、まあ…大変だったんですよ。残念ドラゴンとか言い出した時は肝が冷えましたよ…」


しかし、どれだけ拭いても拭えないのは「後で酷い…」と言ったドクターの言葉

この程度で済んでくれてるなら良いんだけど…。もしくは、起きた頃には忘れていて欲しいと

心に立ち込める暗雲を払うように、湿った指先に息を吹きかける


「ですが、お陰で話し合いは順調みたいですよ?」


フェンに言われて振り返ってみれば

確かに、アーミヤさん達の井戸端会議は順調のように見える

まあ、内容までは聞き取れないけど…少なくても、変に加熱していることはなさそうだった


これも、ドクターが言いたいことも、言われたいことも、全部吐き出したお陰なんだろうか?


「ドクター、そこまで考えてたりしたんでしょうか」


自分の膝枕で寝息を立てる横顔

まだ残る涙の跡を拭ってあげれば、ただの可愛い寝顔が残る


「まさか、ただの癇癪でしょう?」

「ですよね…」


フェンに言われてしまえば、私も頷くしかなかった

結果として反面教師になった部分があっただけで、褒められたものでは無いはずだ


フェンの伸ばした指先が、ドクターの横顔を撫でている


とはいっても、みんな思うことは同じなはず、ミーシャさんをさらわれて悔しいって

あのチェンさんだって、そんな素振りを見せていた。その内心も思惑も、だれもが別腹だったとしても

私も、私達だって…ミーシャさんの事は気にかかるし、それでドクターが泣くのはもっとイヤだと思う


「…何をしているんですか?」


なんとなく、視線で追っていたフェンの指先がドクターの唇を撫でていて

その指先は、薄く開いた口の中に忍び込んでいた


「いえ、子猫に甘噛されるのって気持ちいいですよね」

「それはまあ…けど、ドクターは子猫じゃ…」


言ってやめるような空気じゃなかった

これが猫っ可愛がりというものか? きっと多分違うと思うけど


「あ、いま噛みましたよ」

「嬉しそうに言わないで…」


ちょっと怖いから…





テキサスとエクシア、ペンギン急便の手助けもあって

なんとかミーシャをさらった奴らに追いついた…というか、誘い出された見たいな空気が漂っている


砂漠に荒れ地、そして岩場と、そんな中に佇む採掘場

おまけに強くなってきた風に砂が巻き上げられ、視界もろくに視界も確保できない有様だった


「これで、唯一足りないのは敵だけってところね?」


そう呟くフランカの気持ちも分かるというもの


とはいえ、開かない埒を開けるために、周囲を偵察しながら高台を目指すフランカ達を見送った私は

ただ、フランカに言われるままにアーミヤを見上げていた


「ドクター? どうかしましたか?」

「別に…フランカも心配性だなってだけよ」


アーミヤを見ていて上げてね?


フランカに頼まれて…言われなくてもと思った反面

私の心は、存外と別のことでいっぱいだったことに気付かされる


復讐か? こういう感じがそうなのか?


いや、多分違う、やられたからやり返すって、もうこれは子供のケンカでしかない


「そうですね。フランカさんにはいつも助けられます」

「そうね…。そうかも知れないわね…」


少しは目が覚めたかしら?


そんな風に笑う彼女を思い浮かべて…その脛を思いっきり蹴飛ばして妄想を追い払う


平気、平気なのよ。ぜんぜんなんでも無いんだから…こんな事



アーミヤの事は好きだ


けれど、少ない不満を上げるとすれば作戦立案がその一つ

下手って言ってるわけじゃない。筋も理屈もスピードも、特に不安は無くて、私よりも丁寧な戦い方だ

それでも不満が上がるのは、きっと気質の問題なんだろう


フランカ達が覗き込みにいった高台で、レユニオンの奇襲を受ける


別に驚きもしないし、なんか今更感もある行動

それと同時に、私達の居る本体にもレユニオンの攻撃が始まって、ようやくと言った空気も出てきた


状況の悪い中始まった散発的な戦闘に、一旦陣形を整えようと指示を出すアーミヤ

余計な損害は出したくないという彼女の気持ちは分かるし、それはそれで良いと思う


ただね…


それじゃ、私の気が収まらないのよ


「プリュム、ジェシー…」


二人に頼んで、逃げ出した何人かの足を止めさせる

多分、追いかければ、敵の本体なりなんなりあるんだろうけれど…

その前に、やっておきたいことがあった


「誰が裏切り者よ…」


逃げられないと悟った敵の一人が、私に向けて吐き出した暴言の一つ

やぶれかぶれに突撃しようとした所で、プリュムに膝を折られ、地面に転がされる

そのまま腕を捻られ、聞き苦しい悲鳴を上げる敵に私は近づいていった


「私の知らない所で勝手に味方にしないでよ…」

「危ないですよドクター、離れて」

「良いの、良いのよプリュム」


制するプリュムの声を振り切って、私を大きく足を引く


サッカーボール…ちょうどそのくらいか

きっと、たぶん、蹴ったことくらいは誰でもあるだろうし、そんなイメージで良いと思う


「がっ!」


一つ、額を蹴り上げる

「うわ、痛そう…」身震いするガーディを横目で見ながら、変化のなさを嫌った私は、更にもう一つ額を蹴り上げた


「ねぇねぇ? 子供に蹴られるってどんな気分? 裏切り者になぶられるって楽しい?」


3つ、4つ、あからさま憂さ晴らしを乗せて私は足を振り続ける


「ドクター…」


やがて、周囲の変化にきづいたジェシカに肩を叩かれて、ようやく私は蹴るのを止めていた


「よかったね。仲間思いの味方がいて…」

「やめろっ、来るなっ、よせっ」


耐えきれなかったんだろう。やがて周囲から血気を逸らせて飛び出してくるレユニオン達

それで、その程度で、この後のこいつらの作戦にどれだけの影響も無いのだろうけど


「この裏切り者…」


オウム返しな私の言葉に、外れる仮面

仲間の思いの彼らにはうってつけの言葉。こいつ一人のために散るアイツらの命

その原因をつくったコイツは、そう呼ばれても仕方がないはずだ


うめき声と、苦渋の表情


自責の念に吠える彼に放たれた一発の銃弾


「ドクター、そっちは?」

「のーぷろぶれむ。何も問題ないのよ、心配いらないのだわ、アーミヤ」


静かになっていく後ろには目もくれず、怖かったと嘯いてアーミヤに甘える私



その甘えは、命取りにつながった


カリカリと、妙な音を立てて震える地面が崩れたと思えば、飛び出してきた黒い影が私達めがけて飛び込んでくる


それがガスマスク仮面だと気づいて、その手に持っている源石がとんでもなく熱くなっていて


ああ、爆発するなこれ


なんて如何にもな感想を抱く頃には、既に手遅れな距離にまで近づかれていた


アーミヤの叫び声、白熱と化した源石の輝きが私の視界を焼き尽くして


「っ!?」


頬に張り付く熱い何か

べったり…べったり…粘液質に張り付いて、どろどろと流れ落ちていく


赤くて、真っ赤で、血の色をしていて


震えるアーミヤの息遣いと、力をなく崩れていくガスマスク仮面の体


重なる悲鳴は誰のもの?


私でも、アーミヤでもなくって


その声にはとっても覚えがあって


「…ミーシャ?」


呟いた優しい名前に、私はたぶん、諦めみたいなものを感じていたんだと思う





「ちがっ…わたしは…違うんです…」


震えた声と一緒に、アーミヤが私から離れていく

そのうち、後ずさる足をもつれさせて、倒れるようにしゃがみこんだ彼女は、酷く怯えた顔で私を見上げていた


「アーミヤ?」


分からないのは私の方だ


何をそんなに怯えているんだろう? 

返り血を浴びた私が、よっぽどホラーに映ったのかな?


試しに頬を拭ってみれば、乾いた血の感触が気味悪く手に張り付いていた


「アーミヤ代表。チェン隊長から伝言です」


掛かる声に振り返ってみれば、なんかやたらデカイ女が通信機を差し向けてくる


「後にして…」

「しかし…ドクター」


覚えのない顔に、いちいち名前を呼ばれる不快感は相変わらずだが

そんな私のわがままよりも、私にさえ…いや、私を怖がるアーミヤの方が心配だった


「アーミヤ代表。お顔の色が…」

「貸してっ!」「あっ」


首を伸ばしたキリンみたいに ぬっとアーミヤを覗き込んでくる彼女から通信機を奪い取る

憔悴するアーミヤを庇うように移動して、近いからと適当にデカ女を追い払うと


「うっさいバーカっ! 後にしてって言ってんでしょっ!」


マイクに向かって叫んだ後、一度も耳を傾けることなかった通信機を乱雑にデカ女に投げ返した


「なっ!? ドクター…なにをっ」


取り落しそうになる通信機をちょこちょこ捕まえた彼女は、その向こうのチェンに弁明を始める


「はい…いえ、はい。ドクター、今度はあなたにです」

「いや」

「そんな…ワガママをおっしゃらずに」

「はぁ…」


そこでため息を一つ


渋々だ、本当に嫌々ながら通信機を受け取り耳に当てた瞬間


「っ!?」


キーンとした


うっさいばーか、とか聞こえてきた気がしたが、ノイズ混じりのハウリングが言葉の形を崩していた


「な、なによぅ…そんな、怒らなくたって…大人気ないのだわ」


何を言われたのかはともかく、怒鳴られた事だけは理解した私の心臓は竦み上がり

涙を溜めないようにするだけに必死になっていた


「らしく出来ないならアーミヤに代われ、いちいち付き合ってられん」


けど、アーミヤの名前を出された途端に私の頭は冷えていく

横目で見た彼女は、汚れた自分の手に怯えている

そんな彼女に甘えるわけにも行かないし、増してこのきっつい女に関わらせるなんてのは…


「イヤ」


あっちが付き合わないなら、こっちも合わせてやる事もない

龍門でもロドスでも…私にとって一番大切なのは


「何があった…」

「別に…」


急に冷めた私の声が気になったのか、それともアーミヤの様子が気がかりなのか

尋ねてくるチェンにそっぽを向いて。お望み通り、らしく振る舞ってやることにした


「3分よ。3分で部隊を纏めて、そっちに行ってやるわ、それで良いんでしょ? 文句はないはずだわ」


「まぁ…いい」と、その返事が聞こえたかどうかのタイミングで通信機をデカ女に突っ返す


「あなたお名前は?」

「はっ、ホシグマであります」

「じゃあホシグマさん、ホシグマお姉さん。聞こえていたでしょう? 3分よ? カップ麺より遅かったら許さないんだから」

「しかし、5分は頂戴いたしたく…」

「5分でできて3分で出来ない道理はないでしょう?」

「急がせます…」


慣れてるんだろう

教官の新兵イジメみたいな命令にも動じずに、部下たちを焚き付けに戻るホシグマ

あんなデカイ人に命令されたら、私なら怖くってやってられないんだけど…

そこは慣れか信頼か、きびきび とオペレーター達が走り回り始めていた


まあ、良いや…


そんなことよりも今は…



「アーミヤ?」


怯える彼女の前にしゃがみ込む


呼びかけにも、触れた頬にも、普段なら返ってくる優しい温もりはなかった

その代わりに、遠ざけるような彼女の震えは、なんか拒絶されたみたいで悲しく思う


「私が怖いの?」

「いえ…私は…怖くなんて…」


首を振り、顔を上げるアーミヤ

ようやく私を見てくれた。だって言うのに、私と視線は合わせようとはせず

伺うような彼女の仕草だけが、行ったり来たりと逃げ道を探しているみたいだった


「また、ドクターを失うくらいなら…それぐらいなら私は誰が相手だって…

 でも、こんなの、こんな所を…感染者を助けるって言いながら…結局わたしは…ごめんなさい…」


笑ってしまうのは簡単だった

私は何処にもいかないし、アーミヤは何も悪くはないって


けど…


前の私は、記憶を無くす前の私は彼女を置いていってしまったようだし

助けるべき感染者をその手で殺めた自責の念は、そんな軽いものじゃないはずだ

あまつさえ、その血で私を汚してしまったんだもの。殺すことでしか解決できない、レユニオン同じ…


アーミヤの裏切り者…


私の口から そう言われる事に 一番怯えているように思える


「大丈夫よアーミヤ」


そのまま彼女を抱きしめる

戸惑うような抵抗は押しのけて、触れられる所全部に自分の体を押し付けた


「私は何処にも行かないわ。アーミヤが守ってくれたもの、アーミヤが守ってくれるのでしょう?

 何も怖くなんて無いわ、怖いものなんて無いのよ? だから大丈夫、もう大丈夫よアーミヤ…」


それが、アーミヤの一番欲しい言葉だったのかは分からない

けれど、今の彼女を落ち着かせるには、そう信じさせるのが一番に思う


自惚れるなと…


あるいはドーベルマン辺りには言われるかもしれないが

今日まで、私を大切にしてくれていた、こんなになってまで守ってくれたアーミヤが私は…


「大好きだよ、アーミヤ」

「あ…」


その気持がいっぱい伝わればいいと、私はおもいっきりアーミヤに甘える事にした





どうしてこうなったんだろう?


ミーシャを追いかけ、追いついて

いざ取り戻そうって、レユニオン達の立てこもった採掘場に乗り込もうって時だった


ほぼやけっぱち


自分の命は時間稼ぎの一秒だと、割り切って突っ込んでくる彼らの側から歓声が上がる

目の当たりにした奇跡。預言者の再来か、神の御使いでも降臨したのか

どちらにせよ、すがるべき偶像を取り戻した彼らの熱気はある種異様なものだった


「ガスマスク仮面? なによ、のっぺらぼうなの? お化けなのだわ」


なるほど…とは思う


あの後、死にものぐるいで その死体を回収しにきたのは こういうカラクリがあったせいか

単に強すぎる仲間思いが無理心中の如く死体を増やしに来ただけかと思っていたけれど…


それが、本人の再生能力によるものか、あるいは蘇生できるくらいの…たとえばミーシャがそんな力を持ってたりとか?

ああ、それならこの死にものぐるいの特攻にも理解は出来る。確かに死なない命ほど安いものはないだし


笑ってしまう自分の発想に、それでも視線は現れたガスマスク仮面を向く

あらためたその容姿に憶える違和感。痛みを庇うような歩き方は、分かれる前の彼女に似ていて


ザッ…


耳鳴りのように通信機に音が入る。直後に届いた声は掠れていながらも知っている声だった


いっそ、恨みつらみでも唱えてくれたらわかりやすかったのに

すべてを諦めたような彼女の声は、未練がましくアーミヤの手を引いていく

ごめんと言いながら武器を向け、さよならと呟いて引かれる引き金


不愉快だった


私だけなら良い。正直、彼女が向こうに付く心境も分からないでもない

ガスマスク仮面の中身が彼女の知り合いだったのなら余計にそうなるだろう

それは残念だとは思えど当然で、多少なり諦めも付いた話し


けれど…


それでアーミヤが泣くのは違う

アーミヤが泣いて良いのは私の為だけで、その涙は私のもんだ

一粒たりとて他人にくれてやって良いものではない


『もういい』


折り悪く、その言葉が あのきっつい女、チェンと重なっていた

そのままアーミヤに言うだけ言って「恨むなら私を恨め」と言い残し、前線に向かったチェン

その背中を見送って、私も追いかけたくもない背中を追いかける


だって向かう先は一緒なんだもの…仕方ないったら仕方がない


「まって、ドクター。私は…こんな事ドクターに、しずく にさせたかったわけじゃ…」


伸ばされるアーミヤの指先を、避けるようにと進めた一歩

戸惑うような彼女の気配にも、振り返ることなく、私の足は進んでいく


「良いのよアーミヤ、もういいの。今度は私が守るから、きっと上手にできるから…」


私はどんな顔をしていただろう?


正直、どんな顔をして良いかも分からなかったけど、その時のアーミヤの表情だけは忘れられそうになかった





「良いのか? 姉になってくれるかもしれないんだろう?」

「さあ? 私はあんなガスマスクのお化けなんて知らないのよ」


チェンに追いつくと、こっちを見るでもなく飛んでくる皮肉を、涼しい顔をして受け流す私


「割り切るものだな。もっと子供だと思っていたが」

「失礼ね。子供だって友達が泣いていたら悲しくもなるわ」

「なら彼女は…」「言ったでしょう…ガスマスクのお化けなんか知らないのよ」


チェンの口を遮って、なんでもないように言葉を重ねて黙らせる

それに覚悟でも感じたのか、何かを勘違いしたチェンは「悪かった」と神妙に呟いた


「それよりチェン。あなた、私の指揮下に入るつもりは?」

「ない、絶対、断じてだ」

「そこまで言わなくって…悲しくなるじゃない、泣けてくるのよ…」


そりゃ、この場に及んで共闘って間柄でもないけど

自業自得とはいえ、そんなに強く嫌がられると、涙の一つも見せたくなる


「だが…当てにはしてやる。ホシグマは好きに使え」

「お願いしますは? お頼み申すとおっしゃいなさいな?」


つねられた


「いひゃっ」と上手く喋れなくなった私の頬を、それでも問答無用にひっぱるチェン


「もう、ほらっ。早く行きなさいよ、前線がおかしくなってるでしょっ!」

「ふんっ」


鼻を鳴らした後、私には目もくれず前線へと駆けつける彼女

大口は叩くもので、ガスマスクお化けの登場で崩れかけていた前線があっさりと立ち直ってしまっていた


「なにあれ…雑に強いわね」


その言葉が彼女への褒め言葉になるかは知らないけれど、おかげで楽は出来そうだ


「フランカ、フランカお姉ちゃん。聞こえて? 聞こえるかしら?」

「はーい♪ なにかしら、ドクター?」

「ホシグマとリスカムも一緒よね? 少し手伝って、手を貸して欲しいのだわ」


さて…。彼女たちには悪いけど、私と一緒に汚れ役になって貰いましょう

嫌われ役はチェンにさせたのだし、そのくらいはしないと借りを作りすぎてしまう


「でも、アレは…」

「アレは、何?」


その先は言わせたくなかった、彼女の名前は呼ばせない


「ガスマスクのお化けでしょ? ダメじゃない、死んだヤツが出てきちゃ。死んでなきゃおかしいのよ」

「良いのね?」

「良いのよ? でも出来れば殺さないで」

「あはっ。ドクターも難しいことばっかり言うわね」


確認はそれっきり

保険みたいな言い訳を付け足して、私は内心の諦観を誤魔化すしかなかった





「ミーシャのバカ…」


戦闘も終わり、静けさの中に混ざる嗚咽


「どうして最後まで外さないのよ…嫌いよ、だいっ嫌いなのだわ」


何処でもない何処かを見つめていても、その視線は面影を追いかける

そこに佇むアーミヤの背中に、なんにも言えなくなった私は、ついには逃げるように人気のない所へ足を向けた


オペレーター達の合間をすり抜け、積み上げられた荷物の隙間に体を滑り込ませる

ようやく見つけた孤独に、胸のつっかえを外そうとして


「ごめんなさいね、ドクター」


私を見つけたフランカに、それ以上を言うでもなく抱きしめられていた


「いいの、良いのよ…」


結果は見ていたし、そうなるだろうとも諦めていた

あるいはもしかして、虫の息でもあったのならばと、難しいことを言ったのは私の方

そんな願いみたいな希望に、好きな人の命を使う気にはなれない


「泣いてもいいのよ? 誰も笑ったりなんかしないんだから?」


周りから隠すように、フランカが胸の内へと私を抱え込んでくる


「ぅっ…ぅぅっ…ゃ、いーやっ」

「あらあら…」


そんな彼女の優しさに首を振り、胸の隙間から顔を出す

別に子供扱いを嫌ったわけもなく、その理由は有り体な事だった


「フランカ…あなた、ちょっと匂うのだわ。汗焦げ臭いのよ」


それは汗だったり、ついでに色々と焼け焦げた匂いだったりも混ざって

正直、抱きしめられる心地よさを上回って顔を背けたくなる


「うわっひっどーい。頑張ってきた部下に言うセリフ?」

「そんな事は無いのよ、無理難題では無いのだわ。メランサはいつも いい匂いしてるじゃない」

「うぐっ…」


指摘された身だしなみに、反論の余地を失くすフランカ

緩んだ手の隙間から逃げ出した私は、見つけたジェシカの背中を追いかけてフランカの前まで引っ張ってくる


「ほらジェシカ。フランカを拭いてあげて、キレイキレイにするのよ」

「え、あ、はい…」

「あと、メランサを見なかったかしら?」

「メランサさんなら…たしか、向こうに…」


戸惑うジェシカに消毒薬とフランカを押し付けると

私の足は、香水を求めてメランサを探しに出かけていった





「案外、平気そうね…」


ジェシカに顔を拭かれながら、ドクターの背中を見送るフランカ

漏れた言葉は、意外とも言いたげに、自身の杞憂を持て余すようでもあった


「どうでしょう? 自分から寂しいなんて言わない子ですから。いっそ、素直に泣いてくれた方が安心だったかもしれません」

「へぇ…ちゃんと見てるもんだ」

「そんな…かも、ですよ? 私の思い違いかもしれないですし」

「ふふっ…そうでもないでしょ?」


後輩の見せる優しい顔に、確かな成長を感じ取るフランカ

思わず漏れた笑みでからかって「自信持ちなさい」と、先輩風を吹き付ける


「しょうがないなぁ。それじゃあ、お姉さんがドクターを慰めてあげちゃおうかしら?」

「あははっ。お願いできますか? 少しだけ、付き合って下さい」

「まっかせなさい」


ぽんっと大きく胸を叩き

そうと決まればと、ジェシカに身を任せるフランカだった





「ちょっとドクター? これはどういうことかしら?」


メランサに香水を借りてきたドクターは

さっそくとそれをフランカに吹き付けて、一歩二歩と後ずさっていた


「ちょっとまって、そうよ、そこよ、その辺りが良いわ」


おおよそ2・3人分の距離を開けて、ようやくとドクターは鼻で息を吸えた



「ふぅ…。だって、フランカ…あなた少し匂うんだもの。香水臭いのよ」

「うん。付けてくれたのはドクターのはずよね?」

「…」


そう言われれば、たしかにその通りではある

「少しで大丈夫だから」と、メランサに言われたものの

なんならと、せっかくだからと調子に乗って掛けすぎてしまったのは否めない


途端…


辺りに漂う濃密な香りから逃げるように、私はフランカから距離をとる

周囲のオペレーターたちにもそれは広がり、フランカを中心にして妙な空白が出来ていた



「ジェシー…」

「なんで私を見るんですかぁ…。前を向いて謝りましょうよぉ…」


認めたくない過ちをなすりつけるように、ジェシカの手を取った私はその後ろに逃げ込む

当然、私を追いかけるフランカの視線はジェシカを捉えることとなり

その憤りに巻き込まれたジェシカの方は、居心地悪そうに身を捩っていた


「どーくーたー? ごめんなさいは?」

「違うのよフランカ。私はフランカを良い匂いにして上げただけなんだから」

「じゃあ、こっちに来なさいな? 一緒に良い匂いになりましょう?」


一歩…


手を広げて近づいてくるフランカに


一歩、一歩ずつ…


ジェシカを挟んで後ずさる


「そういうのはジェシーが似合うと思うのっ。私にはちょっと大人っぽいのだわ」

「ドクターっ!? 押さないでっ、私を巻き込まないでっ」

「良いじゃないジェシカ? それとも貴女も私が臭いっていうの?」

「言いませんっ、言いませんけどっ…少し離れて…」

「ふふっ…そっかぁ…そうなんだぁ…」


そうして、微笑んでいたフランカが肩を落としたのを皮切りに


「待ちなさいっ!。あなた達もいい香りにしてやるんだからっ」

「ほらっ、ジェシーっ、逃げて、逃げるのよっ。捕まったら終わりだわ。鼻つまみ者になるのよっ」

「ひぃんっ。どうしてこうなるんですかっ、わたし関係ないのにぃ」


当然、前衛職の体力に敵うでもなく

程なくして捕まった私達を待っていたのは「だから言ったのに」と、呆れるメランサだった



ーおしまいー




後書き



最後までご覧いただきありがとうございました

感想

フランカ←おもしろお姉さん
リスカム←真面目そうな人

チェン ←きっつい女
ホシグマ←なんかデカイ人

エクシア←チョコ泥棒
テキサス←チョコの人

ミーシャ←もう知らないんだから


前日:



翌日:


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