2020-08-31 20:22:04 更新

前書き

八幡「また性犯罪者呼ばわりか……」その9の続き


――比企谷家


八幡「ただいま」


小町「お、おかえり、お兄ちゃん……今日も早いんだね」


八幡「部活に出ずに直帰してるからな」


小町「あのさ、お兄ちゃん。本当は昨日言おうと思ってたんだけど、この前からお兄ちゃんが真っ直ぐ帰宅するようになったのって、小町のせい、だよね?」


八幡「……いや、違うぞ。律儀に毎日奉仕部に顔を出す必要性を感じなくなったから、直帰してるだけだ。依頼なんてあまり来ないからな」


八幡「依頼がないのに部活に顔を出すなんて、時間の無駄だろ」


小町「そんな嘘を、小町が信じると思うの? 伊達に15年もお兄ちゃんの妹やってる訳じゃないよ?」


小町「お兄ちゃんが毎日すぐ帰ってくるようになったのは、小町が1人で自宅にいるのが心配だからでしょ?」


八幡「まあ、それもある。あんな事があった後なんだし、心配なんだよ」


小町「やっぱり、そっか……。ごめんね、お兄ちゃん」


八幡「別に謝らなくていい。お前は何も悪くないんだからな」


八幡(さて、雪ノ下達から託されたアレを小町にどうやって渡すかだが……雪ノ下の名前を迂闊に出すと、また小町の調子が悪くなる可能性は充分に考えられる)


八幡(やはり今すぐに渡すのは得策じゃないな。ここは、保険を掛けておいた方が良いだろ)


八幡「なぁ、小町。明日なんだが、また一色がうちに来るらしい」


小町「え、ホント?」


八幡「ああ。昨日あいつを駅まで見送る途中で、土曜日に来ると言い出してな。お前は構わないか?」


小町「うん、大丈夫。いろはさんなら、小町は平気だよ」


八幡(一色なら、か……)


八幡「そういえば、お前、割と普通に喋れるようになってきたな」


小町「自分でも、少し良くなってるって実感はあるよ。いろはさんと喋ったお陰で、多少は気が紛れたしね」


小町「だけど、まだ全快には程遠いかな……」


八幡「なら、丁度良い。明日も一色と会って、気分転換しろ」


小町「わかった。でも、お兄ちゃんもいろはさんと喋らなきゃ駄目だよ?」


小町「いろはさんは、今のところ義姉候補筆頭に躍り出てきてるんだから」


八幡「俺とあいつはそんな関係にはならねぇよ。第一、あいつが好きなのは俺じゃなく葉山だしな」


小町「んー、そうかなぁ? 好きじゃない人の家に、わざわざ土曜日に来るなんて自分から普通は言い出さないと思うけど……」ボソッ


八幡「まあ、そういう訳だから、準備だけはしておいてくれ」


小町「はいはい、りょーかいだよお兄ちゃん」ヤレヤレ


八幡「じゃあ、俺は自分の部屋で勉強するから」


小町「およ? 今日はリビングでしないの?」


八幡「お前も俺がずっとリビングにいたんじゃ落ち着かないだろ。何かあったら呼んでくれ」


小町「わかった。お兄ちゃんが部屋に戻るんなら、今日の夕食は小町が作るね」


八幡「無理はするなよ」


小町「大丈夫。お兄ちゃんはもう部屋に行ってて」


八幡「ほいほい」



――八幡の部屋


八幡「ふぅ……。そろそろ、開けてみるか」


八幡(雪ノ下と由比ヶ浜から渡された手紙とお菓子。さっきから中身が気になって仕方ないし、さっさと封筒を開けちまおう)


ペリッ、ペリペリッ!


八幡「まずは、由比ヶ浜の手紙から……」


……


結衣「ヒッキーへ。まずは、この前ヒッキーと小町ちゃんにひどい事をしてごめんなさい」


結衣「直接会うとどうしても上手く伝わらないと思うから、あたしの気持ちをここに書かせてもらうね」


結衣「あたしは、ヒッキーともっと仲良くしたいです。でも、なかなか素直になれなくて……」


結衣「だから、照れ隠しでいつも悪口を言ってしまいます。本気でヒッキーの事が嫌いであんな事を言ってる訳じゃないの」


結衣「信じてもらえるかは分からないけど、あたしはヒッキーをとても大切に想っています。もし許してくれるなら、落ち着いた時に部活に顔を出してくれると嬉しいです。結衣より」


……


八幡(由比ヶ浜らしい手紙だな。これだけストレートに感情を伝えてこられたら、誤解のしようがない)


八幡(あいつは、いつも優しくて、素直で……俺みたいなぼっちにも、分け隔てなく接してくる)


八幡(それに、まだ中身は見ていないが、俺と仲直りをするためにお菓子を作ったらしいしな。料理が苦手なあいつが)


八幡(……由比ヶ浜に対して意地を張るのは、俺もやめにしよう)


八幡(さて、問題は雪ノ下の方か。俺は、あいつと仲直りできるんだろうか?)


八幡(手紙を見てみるか)


……


雪乃「比企谷君へ。先日は、本当にごめんなさい。あなたと小町さんに対して私がした事は、大変軽率だったと反省しています」


雪乃「言い訳みたいになってしまうけれど、あなた達と出会う前の私には、親しいと言える間柄の人がいなかったわ。だから、親しい人とじゃれ合う時の距離感という物が、今もよく分からないの」


雪乃「私は、由比ヶ浜さんと同じくらい、比企谷君の事を大切な人だと思っているわ。いつもひどい事ばかり言ってしまうけれど、これが私の本当の気持ちよ」


雪乃「もし比企谷君が奉仕部に戻ってきてくれたら、その時は、手紙ではなく私の口から直接はっきりと自分の気持ちを伝えたいと思っています」


雪乃「最後に、由比ヶ浜さんと一緒にお詫びのお菓子を作ったので同封するわ。口に合うかは分からないけれど、もし良かったら食べてください。雪ノ下雪乃より」


……


八幡(今日の昼休みに会った時といい、雪ノ下が想像以上に素直になっているな。まるで別人みたいだ)


八幡(だが、それだけにあいつが本気なのだという事が伝わってくる。雪ノ下は、本当に俺と仲直りしようとしている)


八幡(でも、俺が雪ノ下と再び関わりを持つ事は、小町にとってどうなのだろうか。全ては、あいつの反応次第かーー)



比企谷家、リビング


八幡「小町、ちょっといいか?」


小町「な、何、お兄ちゃん?」ビクッ


八幡「実は、お前宛てに手紙とお菓子を預かっていてな。見てみるか?」


小町「誰から? もしかして、いろはさん?」


八幡「いや、違う。由比ヶ浜と雪ノ下からだ」


小町「結衣さんと……ゆ、雪乃さん、から……」ブルブル


八幡(雪ノ下の名前が出ただけでこの反応か。まあ、あれだけの事があったんだから、そう簡単に完治するはずがない)


八幡(となると、由比ヶ浜から預かった分だけ渡すのが一番だろうな。雪ノ下の分は、暫く俺が預かっておくか)


八幡「小町、無理して見なくていいぞ。いらないなら俺が持っておく」


小町「う、ううん。貰うよ。結衣さんのも、雪乃さんのも」ガクガク


八幡「全然大丈夫そうには見えないんだが、本気か?」


小町「だって、2人共お兄ちゃんの大切な人でしょ? なら、小町がここで逃げる訳にはいかないもん。あ、これ小町的にポイント高い、かな? あはは……」プルプル


八幡「無理していつも通り振舞おうとするな。俺にとって一番大事なのはお前と戸塚だ」


小町「そこで戸塚さんの名前が一緒に出てくるのはポイント低いよ、ゴミぃちゃん……」


八幡「戸塚は天使だからな、当然だ」フフン


小町「……でも、ありがと、お兄ちゃん」


八幡「おう。じゃあ、手紙もお菓子も俺の方で預かっておくぞ」


小町「あ、待って! あのね、明日いろはさんが来た時に手紙を読みたいんだけど、どう思う?」


八幡「一色がいれば大丈夫なのか?」


小町「分かんない。だけど、いてくれた方が安心できそうな気がするから……」


八幡「そうか。まあ、手紙はともかくお菓子はいつまでも放置する訳にはいかんしな。明日みんなで食うか」


小町「うん。明日はよろしくね、お兄ちゃん」


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シロクマさんから
2020-09-03 23:52:50

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2020-08-31 22:51:32

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