2015-06-04 00:34:13 更新

概要

某ゲームのパロディです。殺害トリック等のクオリティはご容赦ください。一部キャラが死亡するので苦手な方はご注意。


前書き

春日未来【超アイドル級のムードメーカー】
 いつもニコニコ周りに笑顔を振りまく元気娘。
 人の笑顔が好きで、多くの人を幸せにするためにアイドルを志した。
 明るい笑顔の裏では日々努力を重ねている。かなり天然。
 
最上静香【超アイドル級のピアニスト】
 世界的に有名なピアニスト。
 ピアノ自体はそれほど好きでもないが、自分がピアノを弾くことで喜んでくれる人を見るのは好き。
 とある事情でアイドルを目指している。自分の父親と関係しているらしいが、本人はそのことについて話したがらない。


『オマエラ、おはようございます!朝です、7時になりました!起床時間ですよ~!

 さぁて、今日も張り切っていきましょう~!』


「ん、んん……。もう朝か…」

 壁に取り付けられたモニターから耳障りな声が響く。最悪の目覚めだった。

 疲れの取り切れていない体を無理やりに起こして、小さく息をつく。

 私がいるのは個室のベッドの上。私達アイドル候補生16人にそれぞれ割り当てられた個室だった。

 昨日、アカネが去ったあと、みんなでいくつか取り決めをしてから建物内を散策し、ネームプレートのかかった個室を見つけたのだ。

 用意がいいというか、あまりにもあからさますぎて紗代子さんやこのみさんは警戒していたけど、中はいかにも普通の部屋という感じで特に変なしかけもなさそうだった。何よりみんな疲れていたから、翌日の朝8時に食堂に集合する約束だけしてそれぞれの部屋で休むことにした。

 集合時間にはまだ余裕がある。昨夜(部屋に時計がないから夜だったのかはわからないけど)は逃げるようにベッドに潜り込んでしまったので、今のうちに部屋に何があるのか確認しておこう。

 まず、ぐるりと部屋を見回してみる。ありきたりな内装で、広くも狭くもない。1人で生活する分には何の不自由もしなさそうな部屋だ。

 何もかも普通に見えるからこそ、部屋の隅に設置された監視カメラや先ほどアカネのアナウンスが流れたモニター、壁に打ちつけられた鉄板がひどく歪に見える。アカネが言っていたように、このカメラとモニターはそれぞれの個室だけではなく劇場内の至る所に配置されているようだった。

(う~ん…これじゃ部屋に居ても落ち着かないよ…)

 机の上にはメモとペンが置いてある。引き出しの中は……

「…工具セット、かな?」

 工作なんてしないし、使わないなぁ。しまっておこう。

 あとは、さっきまで私が寝ていたベッドと、からっぽのゴミ箱。これでこの部屋に置いてあるものは全部だ。

 この個室には、私が今いる部屋の他にもう1つ部屋がある。私はその部屋につながる扉を開けた。

 まず目に入って来たのは小さなキッチンだった。コンロと流し台が付いていて、まな板を置けそうなスペースもある。その反対側にまた扉があって、そこはトイレになっていた。キッチンやトイレから離れた部屋の奥はカーテンが下がっていて、その先はシャワールームになっている。

 意外と広いな、というのが素直な感想だった。

「シャワールームとトイレはいいけど、何でキッチンまで一緒なんだろう…?」

「特に意味はないよ!しいて言えば…嫌がらせ?」

「うわっ!?」

 突然アカネが現れた。

「ど、どこから入ってきたの?ドアの鍵は閉めたはずなのに…」

「アカネちゃんは神出鬼没なので、どこからでも自由に入ってこれるのデス!

 あ、でもオマエラ候補生達は扉を壊したりして侵入したらダメだよ。規則違反だからね!」

「規則…」

「そう、規則!規則を守らない悪い子には罰を与えちゃうから、ちゃんと目を通しておくこと!」

 規則は電子アイドル手帳に載っているはずだ。思えば最初に自分の名前を確認してから一度も起動していない。

 せっかくだし、この機会に確認しておこう。


『矢吹 可奈 YABUKI KANA』


 自分の名前が浮かび上がる。うーん…やっぱりカッコいい。

 メニュー画面から”規則”と書かれた項目を選び、スライドさせて文字を読み込んでいく。


『規則1:候補生達はこの劇場内だけで共同生活を行いましょう。共同生活の期限はありません』

『規則2:夜10時から朝7時までを”夜時間”とします。夜時間は立ち入り禁止区域があるので注意しましょう』


「夜時間の間はトイレ以外の水が出なくなるから注意してね」

(っていうことは、夜時間の間はシャワーもキッチンの水道も使えなくなるんだ…気をつけよう)


『規則3:就寝は寄宿舎に設けられた個室でのみ可能です。他の部屋での故意の就寝は居眠りとみなし罰します』

『規則4:劇場について調べるのは自由です。特に行動に制限は課せられません』

『規則5:理事長ことアカネへの暴力を禁じます。監視カメラの破壊を禁じます』


「……モニターは?」

「ダメに決まってるでしょ!壊したら弁償してもらうからね!」


『規則6:鍵のかかったドアを壊すのは禁止とします』

『規則7:仲間の誰かを殺したクロは”卒業”となりますが、自分がクロだと他の候補生に知られてはいけません』

『なお、規則は順次増えていく場合があります』


「というわけで、規則はしっかり守ってちょーだいね!それじゃあバハハーイ!」

「あっ、ちょっと!この7つ目の規則の意味って…!」

 問いかける間もなく、アカネは現れたときと同じように一瞬で消えてしまった。

 気になったのは規則の7つ目。誰かを殺せば卒業…というのは式典でアカネが言った通りだけど、”他の候補生に知られてはいけない”のはどうしてなんだろう…?

 軽く頭を振って思考を追い出す。ダメだダメだ。人を殺すなんてどうかしてる。

 とにかく規則には目を通したし、部屋の確認も終わった。そろそろ時間のはずだ。

「よし、行こう!」

 集合場所の食堂に向かうべく、私は個室のドアを開けた。



 食堂には先客がいた。昴ちゃんと百合子ちゃんだ。

「ふたりともおはよう~!」

「おはよう、可奈ちゃん」

「おっす!昨日はよく寝られたか?」

「寝たというか、考え事してて気づいたら朝になってたというか…」

「私もそんな感じだよ。カメラでずっと見られてるから全然気が休まらないし、余計に疲れちゃって…」

「なんだよ、可奈も百合子もだらしないな~。寝られるときに寝ておかないと、いざというとき体力持たないぞ?」

「昴さんが無関心過ぎるんですよ…」

「さすがにシャワールームやトイレにカメラはなかったけど、部屋の中でもずっと見られっぱなしだとね…」

「まあ、確かにな。おかげでオレもいつもより早く目が覚めちまったし」

「だからって人を叩き起こしてランニングに連れて行くのはやめてくださいよ…」

「ランニング?」

「そうなの。おかげで朝からもうくたくたで…」

「いいじゃん、百合子も暇だったろ?運動した方が気分もよくなるしさ!」

「いや、そもそも私まだ寝てたんですけど…あとインターホン何度も押すの本当にやめてください」

「部屋の前で朝だぞーって何度も叫んだのに出てこなかったんだから仕方ないだろ」

「あれ、そうなんですか?全然気づかなかった」

「私も聞こえなかったよ」

「その歳でもうお婆ちゃんか…」

「じゃなくて、あの部屋の防音性が高いってことでしょう。ますます嫌な感じですね…」

「いちいちインターホン押さないといけないしなー」

「いや、問題はそこじゃ……ああ、もういいです。疲れました」

「なんで怒ってんだよ…」

「まあまあ。ところで、ランニングって劇場の中を走ってたの?」

「ああ。ついでにいろいろ見て回って来たぜ。行ける範囲の所までは行ってみた」

 そういうと、昴ちゃんはポケットから取り出したメモ帳に地図を書き始めた。

 しばらく無言でペンを進め、最後に食堂――いま私達がいる場所をぐるっと丸で囲むと、

「結論から言えば、出口は見当たらなかった。オレ達が今いる食堂と自室以外は、厨房、ランドリー、体育館に…」

 厨房は食堂の中にある。美奈子さんはそこから食材を調達したらしい。

 食堂を出て向かいにあるのがランドリー。その隣にも部屋があるが、立ち入り禁止のテープが貼られていて、さらに扉に鍵がかかっているため中に入ることは出来ない。その部屋以外にも、これ見よがしにテープが貼られて封鎖されている部屋はいくつもあった。

 体育館は昨日私達が集められた場所のことだ。食堂や私達の個室がある寄宿舎からは少し離れたところにある。

「あとは視聴覚室みたいにだだっ広い部屋と、鉄格子が降りたトラッシュルームくらいだ」

 私達の個室は廊下から円形になるように並んでいて、途中の一部屋だけが内装の違うトラッシュルーム、つまりゴミ捨て場になっていた。といっても鉄格子が降りていて部屋に入ることはできないし、かろうじて中に焼却炉らしきものが置いてあるのが見えたくらいなんだけど。

 視聴覚室のような部屋があるのは初耳だった。体育館までの通路にいくつか部屋があったが(私が寝ていた教室もその中にあった)、視聴覚室もその中の部屋のひとつなのだろう。

「半分くらいの部屋は立ち入り禁止のテープと一緒に鍵がかかってて入れない。階段も見つけたんだけど、シャッターが閉じてて近づけなかった」

「そっか…。なら、その入れない部屋とか、上の階層に出口があるのかもしれないね」

「…なんか、ごめん。みんなで探索する前から腰を折るようなこと言っちまって」

「気にしないで。それに、またみんなで探せば新しい発見があるかもしれないし!」

「意外と見えない所に抜け穴があるかもしれませんしね。希望を捨てるのはまだまだ早いですよ!」

「……そうだな。へへ、サンキュ!」

 そんなことを話している間に、ひとりふたりと食堂に人が集まってきた。

 16人全員が食堂に揃い、実は私達が集まる前からずっと厨房にいた美奈子さんが作ってくれた朝食をみんなで食べてから、紗代子さんを先頭に劇場内の行ける所まで行って出口を探すことにした。

 …しかし、昴ちゃんの言っていた通りほとんどの部屋は塞がれていて、視聴覚室のような部屋からも特に新しい発見はされず、出口が見つかることもなかった。

 みんなの顔に疲れが見え始めたところで今日の捜索は終了となったが…私達はいよいよ自覚せざるを得なくなっていた。


 何者かの手によって、私達全員がこの劇場に……閉じ込められている、ということを。



「結局出口は見つからなかったね…」

 食堂。それぞれ好き勝手にくつろいでいる中、思わず口から出た言葉に紗代子さんが苦笑する。

「焦っても仕方ないよ。また明日、あらためて探してみましょう」

 桃子ちゃんが嫌そうに声を上げた。

「えぇ~…まだやるつもりなの?」

「当然よ。まだ見落としがあるかもしれない。桃子ちゃんは帰りたくないの?」

「帰りたいに決まってるでしょ。でも見つからないものはしょうがないじゃん」

「それを手分けして探そうとしてるんじゃない。帰りたいなら文句を言う前に協力してちょうだい」

「ちょ、ちょっとふたりとも…」

 互いに昂った感情をぶつけ合っていた。1日中探し回った疲労と、出口が見つからないことへの焦りや苛立ちもあるのかもしれない。

 と、美奈子さんが笑顔で厨房からやって来た。両手にお盆を乗せている。

「は~いそこまで!晩御飯できたからみんな席についてね~♪」

 声をかけながら料理の載ったお皿を次々と並べていく美奈子さん。それにしてもすごい数だ。

「これ、全部美奈子さんが作ったんですか?」

「そうだよ~。みんなお腹空かせてると思って、ちょっと張り切っちゃった。ささ、食べて食べて!」

 今さっきまで疲れや不安を浮かべていたみんなの表情が、一瞬で輝いた。

「わ~い!いただきま~す♪」

「むむ、この味は…!ロコのストマックにグレートなインパルスを与えてきます…!」

「一仕事終えたあとの食事は格別よねぇ」

「うどんは…?うどんはないんですか?」

「……」

[あ、いや、私は別に食べなくても平気だから。…口に押し込もうとするのやめて!]

 賑やかだなぁ、と思いつつ私も箸を伸ばす。

 賑やかな食事は好きだ。みんなで楽しく食べるほうが料理もおいしく感じるし、元気になれる気がする。

 みんなでごはん~、しゃべってごらん~♪おなかがふくれてきもちもはずむ~♪

「食べながら歌わないで」

「…ゴメンナサイ」

 テーブルの端にいた紗代子さんが、隣の席で食事中のみんなをニコニコ眺めている美奈子さんに尋ねる。

「あの、美奈子さん。こんなに料理を作っていたら、すぐに食料が底をついてしまうのでは…?」

「んー?ああ、それなら大丈夫だよ~。まだまだ食材はたくさんあるし、アカネちゃんが毎朝補充してくれてるみたいだから」

 アカネが…?

「今朝のアナウンスが流れる前だから、7時くらいかな。朝ご飯作ろうと思って厨房に来たんだけど、どんな食材があるのかな~って冷蔵庫を開けたらアカネちゃんが飛び出してきたんだ。

 なにしてるの?って聞いたら食材を補充してくれてたんだって。どこから持ってきてるのかは教えてくれなかったけどね。でも食材の品質は問題ないって言ってたし、私も確認したから大丈夫だよ~」

「なるほど。アカネがそこまでの手間をかける理由は分かりませんが、少なくとも飢え死にする心配はなさそうですね」

「そういうこと。さあさあ、冷める前に食べちゃってね~♪おかわりもあるよ!」

 直後に元気な声が上がった。


「みんな、ちょっと聞いてほしいんだけど…」

 楽しい食事が終わってからしばらく。幾分落ち着いた雰囲気の中で紗代子さんがみんなに呼びかけた。

「ここでの私達の生活をより安全にするために、ひとつルールを追加させてほしいの」

「ルールの追加…ですか?」

「そう。『夜時間の出歩きは禁止』……っていうルールを」

「な、なんで…?」

 不安そうに言ったのは百合子ちゃんだ。規則では、夜時間になると食堂が閉じたり水道の水が出なくなったりといった制限はされるが、出歩きは禁止されていないはずだった。

「このままだと、私達は夜が来る度に怯える羽目になるわ。

 誰かが殺しに来るんじゃないか、って…」

「そ、そんなのありえないよ!」

 風花さんが力強く否定する。普段は物静かなのに、こういうとき真っ先に意見を口にするところに風花さんの優しい性格が表れていた。

 紗代子さんは軽くうなずいて同意を示しつつ、それでも小さく首を振る。

「私もそう思いたい。でも、会ったばかりでお互いのことを完全に信じきれないのも事実だと思う」

「それで、夜時間の行動に制限をかけようという訳ですか」

 壁にもたれかかった志保ちゃんが言葉を挟む。

「場内規則と違って強制はできないけどね。でも、できれば協力してほしい。みんなの安全のためにも」

 そう言った紗代子さんはとても真摯な表情をしていた。会ったばかりの私達のことを本気で案じてくれているのが伝わる。

 す、と小さな手が挙がった。このみさんだ。

「私は賛成よ。もちろんみんなを信じてるけど、それでも間違いが起こる可能性を減らしておくのに越したことはないわ」

「私もさんせ~い♪」

「あ、私も…」

「異議なーし」

 続々と賛成意見が挙がる。それを見て、紗代子さんは表情をほころばせた。

「ありがとう。今日はもう遅いし、これで解散にしましょう。

 みんな、今日は本当にお疲れ様。明日も頑張りましょう」


 おつかれ~と口々に言って、それぞれ個室に戻っていった。私も自分の個室に入り、鍵を閉めてからベッドに座って一息つく。

(夜時間はなるべく外出禁止、理由は万が一にも間違いを起こさないため……か)

 新しく取り決められたルール。それは私達の身を守るためのものだけど、逆にその存在によって嫌でも思い出してしまう。

 ”卒業”というルール。誰かを殺した候補生だけがここから出られるという、狂った選択肢。

 唯一にして、最悪の逃げ道。

(……ちがう)

 違う。そうじゃない。第一、他に逃げ道がないなんてまだ決まったわけじゃないんだ。

 ひとりでいるとどうしても余計なことを考えてしまう。

(きっと疲れてるんだ。もうシャワー浴びて寝よう…)

 そういえば昨日もシャワーを浴びる前に寝てしまったんだった。二日分の疲れと体の汚れを落として、すっきりしてから寝てしまおう。

 そう考えてシャワールーム前のカーテンをくぐり、蛇口をひねろうとしたところで、


『キーン、コーン… カーン、コーン』


「……へっ?」


『えー、場内放送でーす。午後10時になりました。

ただいまより”夜時間”となります。

間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま~す。

ではでは、いい夢を。おやすみなさい…』


 夜時間を知らせるアナウンス。

 と、いうことは、つまり。

「…………シャワーが出ない」

 冗談でしょ。だって私昨日も体洗ってないんだよ?女の子だよ?それもアイドル目指してるんだよ…?

 祈るような気持ちでカチャカチャと何度も蛇口をひねってみたけどダメだった。最悪のタイミングだ。

 私って一応『超アイドル級の幸運』のはずなんですけど…。

「う……ううう~~~、もういいや!このまま寝ちゃえ!おやすみなさーいっ!」

 裸のままベッドにダイブし、毛布の中に潜り込む。


 幸い、眠気はすぐに訪れた。


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