2015-12-29 17:06:59 更新

概要

夏休みに、とある島に住むことになった主人公は、そこでとある少女に出会うが...?


...ザザーーー


波の音に目をさまし、上を見上げると雲ひとつない青空。日がさんさんと差す中、夏風水生(なつかぜみずき)は、眩しさに目を細める。


水生「眩しすぎて目がいてぇ...」


ゆらゆら揺れる船の上、辺りは海の青一色。

あまりの暑さにぐったりしているところ、図太い声が聞こえた。


おじさん「よう!やっと起きたか水生ぃ。おめぇ、せっかくの天気で最高の景色だってのによぉ」


水生「いい景色って、一面海だけじゃねぇか...」


おじさん「あん?それがいいんだろうが。まぁ水生にはぁ、わからねぇか!ガッハッハっ!」


水生「ったく...」


両親が共に長期海外出張のため、水生は夏休みの間、母の親友だと言われる七宮(ななみや)さんと言う人の家に住むことになったのだ。水生は別に一人でもいいと言ったのだが、

母が

「あいさつもかねて、お世話になってきなさいー」


と言われたのでしょうがなく行くことになったのだ。知らない人にあいさつしに行くのはどうかと思うが、どうやら水生が物心つきはじめた頃に一度あったことがあるらしい。記憶には全くないけど。

母の生まれが、とある小さい島で田舎の中の超ド田舎で、コンビニすらあるかどうかもわからない。

都会に住んでる、インドア派の水生にとっては拷問以外の何物でもない場所である。


水生「あっついぃ...早くクーラーのきいた部屋で寝てぇなー」


そしてその小さい島へ向かうために、このおじさんが操縦する小さな船に乗っているのである。


おじさん「お!見えてきたぞ水生!」


水生「...ん?」




~月見島(つきみじま)~


水生「はぁーやっとついたよ...5時間とか長すぎだろ...」


おじさん「おい水生!おめぇ一ヶ月ここにいんだろ?一ヶ月もありゃ、この島を見回わる時間が十分にあるだろうよ」


水生「そんなめんどくさいこと誰がやるかよ」


おじさん「はっはっは!じゃ、しばらく達者でな!」


水生「あぁ、ありがとう」


と言うとおじさんは船を操縦して、島から離れて行った。船が見えなくなると水生は改めて島を見回した。


水生「ガチでなんもなさそうだな」


目の前には横一線道路があるが車は全く通っていない。その奥には森林があり、右に方にはビーチが広がっているが、人はいない。


水生「さて、七宮さん家か...つかどこにあんだよ、これじゃどこにどう向かえばいいのかもわからん...あ、そうだ」


ふと気がついたように携帯を取りだし、即座に地図アプリを開く、が


水生「あれ?あ...圏外...」


半ば絶望していると、透き通るような美しい女性の声が聞こえた。


椎名「あーれ?君、見ない顔だね、もしかして余所って言っちゃ悪いか、えっとこの島の子じゃないよね?」


水生「え?あ、はい」


自分がここに来た理由を話すと、七宮さんの家の近くまで案内してくれることになった。


椎名「私の名前は文月椎名(ふみづきしいな)。私、ここ生まれてからずっとここに住んでるから島のことならなんでもわかるんだよ」


水生「あのー、文月さんは何歳なんですか?」


椎名「文月さんなんて堅苦しいから椎名でいいよ。えーとね、正確には17だったか18だったか、うーん覚えてないや」


水生「は、はぁ...」


この人は天然なのだろうか?少し頭のネジが抜けてそうだと水生は思うのであった。




しばらく歩くこと10分~


椎名「もうすぐだよー!あそこ曲がって右に七宮さん家あるから」


水生「はぁはぁはぁ...やっと...もう無理...」


椎名「もー男の子なんだからしっかりしなさいー!」


流石にこの暑さで10分も歩き続けるのは水生の精神身体的にあまりよろしくない。


椎名「じゃあ私はここまでで」


水生「はい、ありがとうごさいました」


椎名「いいよいいよ別にー。また会いましょー。」


というと彼女は歩いていった。

さてと、七宮さん家は、もう見える距離だ。

あと30mほどだというのに、疲れのせいか水生には遥か彼方に感じた。


水生「ぐはぁっ...やっとついだぁぁ」


表札が七宮と書いてあることを確認すると

七宮さん家の玄関前で30秒ほどぐだった。

ようやく落ち着いて、インターホンを鳴らすことにした。


ピンポーン...


水生「...」


ピンポーン...


水生「...あれ?」


ピンポーン...


水生「いないのか?」


悪いとは思いながらも、おそるおそる玄関の引き戸を開けようとすると鍵が開いていた。泥棒という概念ないのだろうか?


水生「...すいませーん」


と小声で言うが返事がない


水生「ちょ、まじでなんかあったんじゃ...」


とある部屋の一室の引き戸に手をかける。妙な緊張感のなかゆっくりと開ける。


するとそこには......




下着姿の水生と同年代くらいの少女が着替えていた。


水生「...え?」


??「...え?...........っ!!」


その少女の顔がみるみる赤くなっていく。

そして今この情況を理解した時には、その少女の拳が

自分の顔面にめり込んでいた。


水生「ぐほぉっ........!」


??「あ........やっちゃった...」


そして視界が暗転した........。






水生「........ん...」


目を覚ますと自分は畳の上で寝ていたことに気づいた。


水生「いっつぅ...」


頬の痛みに自分が殴られたことを思い出す。

すると部屋の引き戸が開いた。


??「あ、気がついたのね」


水生「んん...?..えっと..」


??「アンタ...もしかして水生?」


水生「え...なんで俺の事を?」


水生に女の子の知り合いなんていない。それにこんな可愛い子(俺にとってはストライク)と話すこともなければ話せる勇気もない。


琴音「琴音だよ、本当に覚えてないの?小さい頃会ったことあるし、結構遊んでたし」


水生「うぅ...全然覚えてない...」


琴音「ひどいやつー...」


水生「で、その琴音がなんでここに?」


琴音「なんでって、ここ私の家だからよ、むしろなんで水生がここにいるのよ?」


水生「俺は...」


水生が言い始めようとしたそのとき、電話がなった。


琴音「あ、ちょっと電話出てくる!」


水生「お、おう」


と言うと琴音はリビングの方へ走っていった。


琴音「もしもし、あ、お母さん?どうしたの?」


琴音母「あー琴音ー?あのねお母さんちょっと仕事でしばらく帰ってこれなくなりそうなのー」


琴音「えぇ!?帰れない?」


琴音母「まぁ別に家事全般できるあなたなら全然大丈夫でしょ?」


琴音「だ、大丈夫だけども...さぁ」


水生は琴音の電話の会話を黙って聞いていた。


琴音「あのさー水生が家に来てるんだけどー...」


琴音母「ん?水生?あぁー!そうか忘れてたー、今日から家に夏休みの間、家に泊まるから、よろしくねー」


琴音「えぇ!?ちょっ、ちょっと!いきなりそんな...」


琴音「じゃ、しばらく二人で生活しておいてねー」


琴音「お、お母さ...」


プツ...


琴音「切れちゃった...」


水生「お前、なんも知らされてなかったみたいだな...」


琴音「うん...」


水生「で、結論から言うと」


琴音「私たちしばらく二人で生活するらしいです」ガクガク


水生「はーなるほどー(棒)」


水生は遠い目をし、なるべくこれからの事をあまり深く考えないようにしたのであった。



あーだこーだしているうちに日が暮れ、夜になっていた。

俺は琴音に今日からしばらくの間、自分の寝床となる2階の部屋に案内され、テレビつけ、くつろいで今に至る。


水生「結構広い部屋だなぁ、家の俺の部屋の2

倍くらいあるぞ...」


一階では、タッタッタと包丁でまな板をリズムよく叩く音が聞こえる。どうやら琴音が夕飯を作っているらしい。


水生「今日から夏休みの間、ここに住むことになるのか。まぁ、これといって何かが変わるわけでもないだろう」



と言い、手足を伸ばし畳へ寝そべる。すると部屋の端に小さな棚があるのが見えた。


水生「ん?」


その棚にはほとんど物が入っていなかった、というより空っぽと言ってもいい。なぜそこに棚があるのか不思議なくらいだ。

水生は体を起こしてその棚に近づいてみる。

そしてよく見ると一番下の段の右端に小さな箱がおいてあった。


水生「なんだこれ?」


それはただの箱ではなく、外側には模様が入っており、宝箱のようなちゃんとした作りだ。そして水生はその箱を開けようとした、だが箱は開かなかった、正面を見ると鍵穴がある。どうやら鍵がかかっているようだ。


琴音「水生、なにやってんの?」


!?


突然の声に水生はおもはずビクッとし、反射的にその小さな箱を自分の後ろへ隠してしまう。


水生「え!?いや別になんでもねぇよ」


琴音「ふーん、っていうかご飯出来たわよ。冷めないうちに早く下に降りてきなさいー」


水生「りょ、了解」


ガチャと琴音はドアを閉め、階段を降りていく。


水生「はぁ、なんか反射的に隠しちまったじゃねぇか、まぁご飯食ってるときに琴音に聞いてみるか」


と言うと水生はその小さな箱を元の棚に戻した。





水生「うおっ、すげぇ豪華な料理だな」


テーブルを見るとまるで旅館のような日本食の豪華な料理が並んでいた。


水生「これ、全部お前が作ったの?」


琴音「他に誰がいるのよ」


と言うと台所からエプロン姿の琴音がやってきた。


琴音「何よ、嫌なら別に食べなくていいのよ?」


水生は琴音のエプロン姿に内心ドキッとしたが心の中で抑えることにした。


水生「いえ、早く召し上がりましょう、姫」


琴音と水生が向かい合って座敷に座り豪華な料理を食べる事にした。


水生「いただきます!」


琴音「いただいます」


まずはメインの魚を食べる。


もぐもぐ


水生「う、うまい!これはなんて見事な塩加減なんだ。しょっぱすぎず、薄くもない。そしてこの焼き加減!なんて絶妙な焼き具合なんだ!」


琴音「この魚、今日の5時頃釣れたやつ」


水生「2時間前...だと?なるほど、この旨さを引き出しているのは、すべてこの新鮮差からきていると言うわけか」


琴音「アンタ料理の知識あるのね」


水生「まぁ、漫画のマネだけどね」


琴音「うん、わかってたわよ」




~1時間後~


水生「ごちそうさまー」


琴音「お粗末様」


水生「ふぅー、すんごいお腹いっぱいだ」


琴音「ここまで、綺麗に食べてくれると作った方も嬉しいわ」


水生「こんな素晴らしい料理残せる要素がない」


琴音「ありがと///」


水生「照れてますねぇ~」


琴音「う、うっさい!////」




夕食後は風呂に入ることになった。

この家に着く間にかなり汗をかいてしまったため、琴音に「汗臭い、早くお風呂に入ってきて」と言われたのだ。

夕食後すぐに風呂場に来たというのに浴槽にはしっかりお湯が入っていた。琴音が沸かしておいてくれたのだろうか、しかも一番風呂なんて最高じゃないか、と水生は琴音の家事スキルに感心する。


水生は桶でお湯をすくい、体を流す。

そして浴槽にははいった。


水生「ふはぁーーー、この感じ生き返るぅ」


いつも家でぐーたら生活で運動不足の水生にとっては今日の労働は過酷なものだった。

それがこの湯船に浸かったことにより、全ての疲れが洗い流されるような気分になる。

そして体を洗い、もう一度湯船に入り20分くらいであがることにした。



水生「ふぅ」


リビングへ向かうと琴音は洗い物が終わったらしく、テレビを観ていた。


琴音「あらあがったのね、どう、スッキリした」


水生「あぁ、あんなに風呂を気持ちよく入ったのは初めてだ」


琴音「どんだけおおげさなのよ」


と琴音は笑顔で嬉しそうに言った。




今日の疲労によりいつもより早く眠気がきた。

水生は自分の部屋に戻り、琴音いわく押し入れに布団が入っているようで、その布団を敷いてみた。


水生「うぉー、すっげぇふかふかだ!まるで旅館みたいだな」


なんて気持ちのいい布団なんだ!と感心した。


水生「あ、そういえばあの箱の事、聞くの忘れてたな、まぁいいか、それより早く寝よ」


そして水生は電気を消して布団に入り今日という日を終えたのであった。





ーー少年は海を眺める

空は夕焼け。

どこか儚く、海に沈む太陽に見とれてしまう。


??「...ーーーずきー」


声がした。

後ろを振り返ると小さな少女がこちらに手を降っているようだ。

だが何故かその顔は確認できない。


??「...ーーーずきー」

そして視界はだんだん薄れていった。





「...ーーーずき!」


........んん?


「水生!起きろーー!」


うぅ、眠....


「...」


あれ?さっきまで大きな声が響いていたのに急におさまった?


「...」


...んん?なんか...苦...し


水生「んん!ぶはぁっ!?ハァハァ」


琴音「やっと起きたわね」


水生「お前、俺の鼻つまんでだろ!」


琴音「だって起きないからイタズラしてみたのよ」


水生「死ぬわ!」


琴音「っていうか早く起きなさいよ、何時だと思ってんのよ」


水生「何時って...」


壁にかけてある時計を見てみる


水生「まだ10時じゃねぇか、まだ寝れる」


琴音「もう10時よ!って寝るなー!出掛けるんだから早くしたくしなさいよ!」


水生「え?出かける?なんで?」


琴音「なんでって、アンタこの島の事なんも覚えてないんでしょ、気になったりしないの?」


水生「えぇ、別にぃ」


琴音「いいから、今日は私が島を案内するから

、朝ごはん食べて行くわよ」


と言い琴音は部屋から出ていく。


水生「せっかくの休みだってのに...」


水生は布団を押し入れに片付け、着替え、1階のリビングへ向かった。


テーブルにはまたまた豪華な和食が並んでいた。


琴音「さ、食べるわよ」


二人は椅子に座り、手を合わせる


琴音「いただきます」


水生「いただきまぁす」





時刻は午後12時、太陽がさんさんと照らすなか水生は玄関の扉を開けた。


すると水生の頭上に太陽の光が降り注ぐ


水生「死っ!」


琴音「なないわよ」


琴音の方を見ると大きな帽子をかぶっていた。


水生「帽子とかぁ、ズルぅくなぁい?」


琴音「ズルいって何よ、アンタが持ってこないのが悪いんでしょー」


水生「持ってこない以前に持ってないけどな」


琴音「まぁ、早く行きましょ」


と言い歩き始める


何をそんなに急いでるんだか、と思いながら琴音の顔を見てみると、なんだか嬉しそうな顔をしていた。


水生「お前なんか良いことでもあったん?」


琴音「え、別に?なんで?」


水生「なんか顔ニヤけてるし」


琴音「んなっ!別になんでもないわよ!」


琴音は顔を赤らめ顔をそむけてしまう。


水生には「???」しか出なかった。


しばらく歩いてる内に、とあるお店が見えてきた。


水生「あれは?」


琴音「あれは、えーと駄菓子屋みたいなものね、昔はアンタとよく行ってたのよ、覚えてるない?」


水生「うーん、まったく覚えてないな」


琴音「むぅ、とりあえず入りましょ」


店の端に置いてある小さな看板を見ると、この店の名前が書いてあった。


駄菓子屋みっちゃん



琴音「こんにちはー」


...10秒後


水生「いないんじゃねぇか?」


琴音「いるわよ」


さらに10秒後


??「あいよー」


と店の奥から声が聞こえると、見た目80歳くらいのお婆さんが出てきた。


お婆「あら琴音ちゃん、久しぶりだねぇ」


琴音「おばあちゃん、今日はあいさつにきたの、こっちにいるのは水生だよ。おばあちゃん覚えてる?」


お婆「あらあら水生ちゃんかい、ちゃんと覚えているよ、てっきり琴音ちゃんが旦那さんを連れてきたかと思っちゃったよ」


琴音「なっ!そんなわけっ!!」


お婆「まぁまぁお顔真っ赤にしちゃって」


琴音の方を見ると恥ずかしそうに顔を赤らめ下を向いている


水生「はは...は」


お婆「ところで、どうして水生ちゃんがいるんだい?」


琴音「水生は昨日から8月の間だけ家に泊まることになって、今日はそのあいさつにきたの」


水生「み、短い間ですがよろしくおねがいします...」


お婆「あらあら、礼儀正しくなっちゃってぇ、もしかて水生ちゃん、おばあちゃんの事忘れちゃったかな?」


水生「え...あぁ、まぁ、ちょっと...」


お婆「まぁ、あの時は、まだちっちゃかったからねぇ」


水生「す、すみません」


お婆「そんな敬語じゃなくていいのよぉ」


水生「あの、その時の俺ってどんなだったんですか?」


お婆「そうねぇ...そうそう、あの頃のある日、水生ちゃんが泣いてここに来たときがあったわねぇ」


水生「はい...」


お婆「そのときたまたま琴音ちゃんが来てね、水生ちゃんをなぐさめるために琴音ちゃんがぁ...」


琴音「わぁぁあああ、お、おばあちゃん!も、もう行くね!もっと水生に、この島を案内しなきゃだから!」


そう琴音が言うと水生の手を掴んで、引っ張り始めた


水生「どわっ?!何すんだよ、まだ話終わってな...」


琴音「べべべ別にいいのよ!ありがとね、おばあちゃん!」


琴音の顔を見るとさっきよりも顔を赤くし、何か焦っているようだった。


水生「お、おい引っ張んなって!」


琴音「さっ!早く行くわよ!」


お婆「ほっほっほ」


そして琴音に引っ張られながら駄菓子屋を後にすることになった。




水生「ったく、さっきの話、琴音が来て、どうしたんだ?」


琴音「しっ!知らないわよ!」


水生「???」


琴音の行動に全く理解ができない水生は頭の中で?を量産して首を傾げた。




また、しばらく歩くと水生はあるものを見つけた。


水生「ありゃ、公園か?」


琴音「ん?そうよ」


水生「へぇー...」


水生(なんか...)


水生はそこで何か見覚えのあるようなないような不思議な感覚になった。

そんなことを思っていると後ろから何かが、ぶつかった。


??「いってぇー!」


見てみると、どうやら小さな男の子が走ってきて水生にぶつかったようだ。右手には虫取網、首には小さな虫籠を下げている。


??「ってぇな!どこみてあるいてるんだよ!」


水生「って!?こっちのセリフだわ!」


なかなか生意気なガキンチョだなと思っていると、横から琴音が言う。


琴音「あら、辰希君じゃない」


辰希「ん?あっ!琴音姉ちゃん!」


この辰希という少年と話していると辰希の後ろの方から小さな女の子が走ってきている。


??「待ってよーー!辰希君ー!」


辰希「遅いぞー、稚尋ぉ!」


稚尋「だってぇ、辰希君が早すぎるんだもん」


走ってきた少女は薄いピンクのワンピースを着て、髪の毛をツインテールにしている。


琴音「稚尋ちゃんも久しぶりね」


稚尋「琴音お姉ちゃん!どうしてここに?そしてそっちのお兄ちゃんは誰?」


琴音「あぁ、こっちは水生って名前で、昨日から一ヶ月この島に住むことになったの」


水生「あぁ一ヶ月だけだけど、よろしくな」


稚尋「うん、よろしくね!」


なんて可愛くて礼儀のいい子なんだ...。と思っていると、稚尋の横にいた辰希がはなしかける。


辰希「へー、じゃあ島のことで、何か知りたかったら俺に聞くといいぞぉ!」


稚尋「なんでぇ?」


辰希「この島で一番最強なのは俺だからだぁ!」


稚尋「でも、ちぃ達まだ8才だよ?」


辰希「たとえ8才でも最強ならなんも欠点はない!」


稚尋「でもこの前、辰希君おねしょしてたよね?」


辰希「な、なぜそれをっ!?」


稚尋「だって辰希君の家の物干し竿に大きな丸く濡れた布団が干してあったもん」


辰希「な、な、な、と、とにかく何か分からないことがあったらこの俺に聞くんだぁぁあ」


と言うと辰希は涙目にしながら、さっき来た道を走って行った。


稚尋「あぁっ!また走った!ちょっと待ってよ、辰希君ー!虫取りどうするのー?辰希君ー!」


琴音「あ、行っちゃった」


水生「行ったな」


稚尋「んじゃ、またね琴音お姉ちゃん、水生お兄ちゃん!」


琴音「うんまたねー」


水生「おう、またな」


と言うと稚尋は辰希の後を追って走って行った。


水生「活発だなぁ」


琴音「水生とは大違いね」


水生「反論はありません」




その後も島を歩き続けて、気がつくと、すでに夕暮れになっていた。


琴音「もうそろそろ帰ろっか」


水生「あぁ俺も、もう疲れたし、腹が減って力がでねぇぞ」


琴音「そうね、さぁ家に向かいましょ」


帰る途中にさっき来た公園に来た。


水生「やっぱこの公園、見覚えあるかも」


琴音「ほんと?ちょっと入ってみようか」


公園に入るとブランコ、鉄棒、滑り台など、まさに公園です、と言わんばかりの遊具がある。


琴音「私、このブランコで遊んでた記憶あるー」


水生「へぇ、うーんでもやっぱ記憶違いかな、これ以上わかんねぇや」


琴音「そう...........きゃっ!」



すると、急に強い風が吹き、琴音の帽子を飛ばしてしまった。


琴音「あ、帽子....」





タッ



琴音「....え?」


琴音が帽子が飛ばされてしまったと気づいた瞬間、隣から水生が飛び出した。

水生は鉄でできた柵を台に蹴り高さ2mくらいの石で積まれた崖を一瞬でかけ登り、飛ばされた帽子を捕まえる。


そこから水生は振り返り捕った帽子を琴音に見せた。琴音はあまりにも敏速で水生の運動神経にキョトンとする。


すると水生は何か気がついたように






この状況、どっかで...




そうかここ...で...



ふ、と笑うと水生は崖から降りて琴音に帽子を手渡した。


琴音「水生、アンタ意外と動けるのね」


水生「別に動けないわけじゃなくて、動くのがだるいんだよ」


琴音「ふーん、まぁありがとね」


水生「あぁ」


そう言うと帰るために公園の出口へ向かって歩く。

水生は思った。

琴音は気づいているのだろうか、さっきの出来事の事を。


あそこは昔、琴音と水生が初めて出会った場所、そして琴音の帽子が飛んで、それを水生が捕まえた、この状況こそが二人の出会いのきっかけだった事を。



水生「まぁ、いいか」


琴音「ん?何か言った?」


水生「別にー」


琴音「そう」


琴音は受け取った帽子を深く被った。赤らめた顔を隠すように...。





家に帰って、琴音はすぐに夕食の支度をし、その間に水生は風呂に入る。

そして水生がお風呂から上がると、二人で夕食にすることにした。


琴音「で、どうだったの?この島いろいろ歩いて」


水生「ん?どうだったって?」


琴音「感想よ、ずっと都会で暮らしてきたんだし、何か思うところあったんじゃない?」


水生「あぁ、まぁいいんじゃない」


琴音「何よそれ」


水生「俺の住んでる所と比べれば、空気はいいし、眺めもいいし....それに大事な事も思い出せたし」


琴音「え?何か思い出したの!?」


水生「ちょっとだけだけどな」


琴音「なになに?一体なに思い出したの?」ワクワク


水生「おしえねーよぉー」


琴音「んなっ!何でよ!」


水生「んー、もう眠いから寝るわー」


琴音「ちょっと、寝るにはまだ早いでしょうがぁー!って逃げるなー」


水生は逃げるように自分の部屋へと向かった。


しばらく部屋でテレビを見ていると、まだ10時だというのに眠気がやってきた。


水生(まだ早いけど眠いから寝よ)


すると水生は布団を敷き、電気を消して、目を閉じて今日を終えた。






それから3日がたち、8月6日。

今日も太陽が容赦なく照らす雲一つない、晴天。完全インドア派な夏風水生は、らしくもなく外出していた。

玄関を出た辺りは、散歩でもするか、と思っていた。普通ならクーラーの効いた部屋で一日中ゴロゴロしている水生だが、この島に来て数日たった今では夏の暑さに慣れ、こんな思考もてもでてきてしまう。人間の適応力にも全く恐れ入る。

ただ散歩していただけなのに今の状況に疑問が生まれる。

道路のど真ん中、といっても車はほとんど通っていない島の周りを一周する程度の一本道。

水生はそこで見知らぬ女の子を押し倒している。


水生(な...)


水生と見知らぬ女の子は顔間近で何とも言えぬ表情をしていた。


水生「...」


見知らぬ少女「...」


そして夏風水生は思う。


水生(どうしてこうなったっ...!?)



逆のぼること数時間前。

それは水生と琴音が丁度、昼飯を食べ終わった後の事、


琴音「あら、水生出掛けるの?」


水生「あぁ、この島にも慣れてきたし、一人で散歩でもしてみようかなと思ってな」


琴音「一人で行くの?私も一緒に行こうか?」


水生「いや今日は俺一人でまったり島散歩するから」


琴音「大丈夫?ちゃんとお家に帰ってこれる?」


水生「小学生じゃないんだから...」


琴音「ほんとに大丈夫?御守りいる?」


水生「お前、バカにしすぎだろ」


そんなやり取りをしながら水生は一人で玄関を出る。なかば強引に御守りを持たせられた(まさかほんとに持つことになるとは思わなかった)

それをポケットに入れ、歩き出す。




水生「この潮風にも慣れたな」


海の見える方へ歩いていき、島の周りを一周するアスファルトの一本道へと着く。


水生「ん?あれは...」


水生のいる数メートル先の塀の上に一人の少女が簡単に折り畳みのできるイスに座りながら釣りをしているのが見えた。

少しばかりその少女を見ていると持っている釣竿の先が引きはじめた。


少女「........っ!きたきた!」


少女は目を輝かせて立ち上がりその竿を豪快に引き始めた。


少女「くっ!これはかなりの大物だぁ!........おい!そこの兄ちゃん、ちょっと手伝ってくれ!」


水生「え...ぇ?俺!?」


突然声をかけられてびっくりしたが水生は勢いよく塀を登り、少女の握ってる竿を横から掴んだ。


水生「ぐぅっ!かなり重いぞ!」


少女「だから言ってるんだ!これは今までにないくらいの大物だ!」


ようやく水面に黒い影が見えてきた。


水生「君は何度もこんな大物を釣り上げてきたのか!?」


少女「ふん、当たり前だ!この私にかかればどんなものも釣り上げてやるさ!さぁラストスパートだ、一気に引けぇぇえ!」


水生「うおおおおおおお」

少女「うおおおおおおお」


そしてついにそれが海から顔を出し、宙へ浮く。二人はその正体を確認する。





長靴






水生「...」


少女「...って長靴かいっ!」


ボコッ


水生「ごふっ!なぜ殴る!?」


水生に豪快にグーパンを食らわせた後、こう言う。


水生「ってかさっきまで熱い友情的な感じで、ついに今まで追い続けてきた大物を釣り上げた的な展開を演じた俺のプライドを返せ!」


少女「なによう!別にいいじゃない、ゴミを拾ってあげたんだから、これで地球がまたひとつ綺麗になりましたね、でぇ!」


水生「ごみ拾いが目的じゃなかっただろ!お前大物とか言ってたし!何度も大物を釣り上げたのなんて絶対嘘だろ」


少女「んなっ!そ、そそそれはほ、ほんとよ!

今回がたまたまこれだっただけ!」


水生「どうだかねぇ?とにかくそれどうすんだよ」


少女「持って帰るわよ、また捨てるわけにもいかないしね、家で処分するわ」


水生「そうかい」


そう言うと少女は長靴を拾おうとする、...だが。


少女「ん?」


長靴の中から、そこそこの大きさのタコが出てきた。


少女「...」


水生「...」


少女は水生の顔を見る。


少女「ふ、これを狙っていたわけよ」


水生「絶対嘘だろ」


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