2015-09-15 18:02:04 更新

概要

クソ提督の鎮守府の話の続編です。いつもより内容が酷い気がします。

1話 http://sstokosokuho.com/ss/read/2666
2話 http://sstokosokuho.com/ss/read/2672
3話 http://sstokosokuho.com/ss/read/2679
4話 http://sstokosokuho.com/ss/read/2734
5話 http://sstokosokuho.com/ss/read/2808
6話前編 http://sstokosokuho.com/ss/read/2948
6話中編 http://sstokosokuho.com/ss/read/2975
6話後編 http://sstokosokuho.com/ss/read/2977
7話前編 http://sstokosokuho.com/ss/read/3116
7話中編 http://sstokosokuho.com/ss/read/3219
7話後編 http://sstokosokuho.com/ss/read/3413


前書き

ぼちぼち完結編の準備に取り掛かっております。


提督「えーということで……伊勢は今日付けでハッピーラッキー艦隊から除隊されることになった」


ドックにて、他のハッピーラッキー艦隊メンバー5名にそう通達する提督さんの顔つきは、先日と比べてややげっそりしています。


まあ憔悴もするでしょう。間宮アイスを扶桑さんたちに届けたと思ったら、数時間後に艦隊メンバー3人がドック入りしたのですから。


ちなみに損傷の程度は扶桑さんが中破、赤城さんが小破、伊勢さんが大破です。戦艦、正規空母の修理でまた資源が吹っ飛びました。


奇跡だったのは、隼鷹さんたちが力尽きた赤城さんと伊勢さんを回収したとき、伊勢さんが大破で済んでいたことです。


血まみれではありましたが、少なくとも原型は留めていたそうです。内蔵ははみ出ていたとのことですが。


激昂した赤城さんに追い詰められたのなら、頭から丸呑みされてもおかしくはないというのに。まさに奇跡です。


すでに体力が尽きていたのもあると思いますが、さすがの赤城さんも気味が悪くて食欲が失せたんじゃないでしょうか。


入渠を終えた伊勢さんは更に「いない姉妹艦を呼び続ける病」が進行し、視界で動くもの全てを日向さんだと認識するようになりました。


伊勢「あーもう日向ったらどこ行ってたの? あ、ちょっと逃げないでよ! 待ってったら! もう、追いかけっこのつもり?」


そんなうわ言を言いながら、病棟内でおびえる妖精さんを追いかけ回す始末です。


もう任務どころか日常生活に支障を来すレベルなので、伊勢さんは日向さんが着任するその日まで入院することとなりました。


扶桑「除隊はわかりましたが、補充要員の方はいらっしゃるのですか? もしかして大和さん?」


提督「いや、それは考えたんだが無理だ。あの消費資源を考えると、やはり主力艦隊では運用できない」


隼鷹「じゃあ誰? あたしは久しぶりに足柄と一緒に戦いたいなあ~」


提督「残念だが、新入りだ。つい最近、新たな戦艦の建造に成功してな」


山城「新たな戦艦……!?」


そう、大和さんを除けば実に2ヶ月ぶりの戦艦です。最近はそんなに建造をしてないのにです。


デイリー建造をしてたらあっさり出たあたり、望むものに幸運は訪れないというマーフィーの法則を思い起こされます。


扶桑「へ……へえ。戦艦ですか。頼もしい方だといいですね」


戦艦と聞き、山城さん、それに扶桑さんが警戒心を露わにします。


未だ2人にとって、他の戦艦は自分たちの地位を脅かしかねない存在であるという意識が強いのです。


赤城「久しぶりの新しい仲間ですね。一体どなたなんですか?」


金剛「提督ぅ! 早く紹介してほしいネ♡ 私すっごく気になるデ~ス♡」


金剛さんが聞いてて少しイラっとするピンク色の声で提督さんに媚びます。提督さんはいつもの通り反応はありません。


提督「では紹介しよう。電、連れてきてくれ」


電「はいなのです」


ずいぶん長いことメンバーに変化のなかったハッピーラッキー艦隊ですが、とうとう伊勢さんが外れ、新しい戦艦さんがやってきます。


初めてその戦艦さんを見たとき、私はどちらか1つだと思いました。皆さんと上手いことやってくれるか、大きな波乱をもたらすかのどちらかです。


彼女はピンと背筋を伸ばし、メガネの位置を直しながら、その理知的な眼差しで艦隊メンバーを見渡しました。


霧島「皆さん、はじめまして。今日から艦隊に配属されました、金剛型四番艦、霧島です。どうぞよろしくお願いします」


金剛「Yeah! 待ってたネ霧島ー! お前が姉妹艦の中では一番乗りネー!」


霧島「やだ、金剛姉さんったら。そんなに抱きつかないでくださいよ」


ハッピーラッキー艦隊、伊勢さんに代わる戦艦とは霧島さんです。


噂通りの知的な方で、礼儀正しく容姿端麗、目端の利く頭脳派の戦艦さんです。


頭脳派の艦娘というのは、この鎮守府に今までいなかったタイプです。赤城さんがある種の頭脳派ではありますが。


提督「この艦隊の旗艦は扶桑だ。俺が不在のときは基本的に彼女の指示に従うように」


霧島「了解です。扶桑さん、まだ着任したばかりで未熟な身ですが、どうかお手柔らかに」


扶桑「え、ええ……よろしく」


金剛「扶桑、霧島には優しくネ~! 私の大事な妹デース♡」


扶桑「ああ、はいはい……」


えーこれは別に、前回のトーナメントの件で友情が芽生えたとかそういうアレではありません。


単に提督さんの前なのでカワイイアピールをしているだけに過ぎませんので、はい。


提督「本来なら早速演習に行きたいところだが、先日の急な修理で資源を大きく消費したため、本日の出撃は休みとする」


提督「よって今日は解散だ。電、霧島に鎮守府の中を案内してやれ」


電「了解なのです」


金剛「私もついていくネ! 霧島、Let’s goデース!」


霧島「ふふ。姉さん、そんなにはしゃがないでください。恥ずかしいじゃないですか」


山城「……お姉さま」


扶桑「ええ、山城。わかってるわ……」


和気あいあいと話している金剛さん、霧島さんを横目に見ながら、なにやら扶桑さんと山城さんが不穏な内緒話をしています。


霧島さんの着任が艦隊内に少なからず波紋を呼ぶのは、当初から目に見えていました。


対立する扶桑さんと金剛さんですが、扶桑さんに山城さんという味方がいるのに対し、金剛さんは今まで1人でした。


霧島さんという心強い味方を得た金剛さんが、どんな行動を起こすのか。今から不安でたまりません。


赤城「今日は解散ですか。それじゃ、私はもう部屋で寝ることにします。皆さん、おやすみなさい」


霧島さんにあまり興味がないのでしょう、赤城さんは足早にドックを後にしようとします。


赤城さんが私のそばを通り過ぎるそのとき、ぞっとするほど感情のない声が私にささやきました。


赤城「今のところは生かしてあげましょう。長生きをしたいなら、下手な動きはしないことです」


電「……そうですか」


それだけ私に告げて、赤城さんは何食わぬ顔で立ち去りました。


当たり前のことですが、間宮アイスが扶桑さんの手に渡らなかったことを、すでに提督さんは知っています。


しかし、その原因は「いない姉妹艦を呼び続ける病」による異常行動を起こした伊勢さんにある、ということになっています。


あの間宮アイス争奪戦トーナメントですが、竹刀勝負に終始していれば言い訳が立つものの、実際には修理が必要なほどの殴り合いに発展しています。


よく考えれば、それは明らかな私闘です。しかも結果として無駄な資源消費を招いているとなれば、関係者が処罰されるのは当然の流れでしょう。


扶桑さんたちの入渠を終えたときに私たちはその事実に気付き、なんとか辻褄の合う言い訳を考えなくてはいけませんでした。


幸い、というのも酷い話ですが、伊勢さんはまともな会話ができない状態になっています。


そこで私たちは、事態に気付いた提督さんにことの有り様を説明するにあたって、伊勢さんをスケープゴートにすることを選びました。


提督『一体何があった!? なんで扶桑、赤城、伊勢が揃って入渠なんて事態になってるんだ!』


山城『じ、実はですね提督! お姉さまが間宮アイスを受け取った後、伊勢さんが艤装を装備して襲いかかってきたんです!』


提督『はあ!?』


金剛『そ、そうデース! どうやら間宮アイスを奪おうとしたみたいデース!』


提督『どんな食い意地だよ!?』


電『それでその、扶桑さんは砲撃をまともに食らって中破してしまいました』


提督『じゃあ赤城は? 漁夫の利でアイスを奪おうとでもしたのか?』


隼鷹『えっと、そうじゃないかな? 伊勢が間宮アイスを持って逃げようとしたとき、赤城が艤装もなしに伊勢へ飛びかかってさ!』


山城『そうなんです! そしたら伊勢さんが無理に砲撃しようとして、砲塔が暴発したんです!』


金剛『Yes! その爆発で伊勢が大破、赤城も巻き込まれて小破したデース!』


提督『なに!? どこにも爆発したような痕はないが……』


山城(あっ、まず……!)


金剛(Shit! そこまで考えてなかったデース!)


電『ご、ごめんなさい! 私がパニクって掃除してしまいました! あうう……えぐ、ひっく……うわぁああああん!』


提督『お、おいどうした。なんで電が泣くんだ』


電『だって……私、伊勢さんがあんなに追い込まれていたことに、気付いてあげられなかった……』


電『お願いです、提督さん! どうか伊勢さんを許してあげてください! 悪いのは彼女の病気に気付いてあげられなかった私なんです!』


電『伊勢さんを処罰するというのなら、どうか……どうか私に処罰を!』


提督『わ、わかったから泣くな。そうか、最近伊勢の様子がおかしいと思っていたが、そこまで酷くなっていたんだな』


提督『事態はだいたいわかった。病気のまま出撃を続けさせていた俺が悪いな、うん。伊勢の処罰はなしだ』


電『うっ、うっ、ありがとうなのです……(案外提督さんはチョロいのです)』


隼鷹(電ちゃん、ナイス嘘泣き! 勢いで疑念をうやむやにしたぜ!)


山城(さすが秘書艦、ファインプレーです!)


金剛(迫真の演技ネ! オスカー賞モノデース!)


そんな感じでその場は収まりました。提督さんは次に、修理を終えた赤城さんの尋問に入ったのですが……


提督『お前、なんで小破になったか覚えているか?』


赤城『いえ、記憶が曖昧で……何も覚えていません』


提督『お前が間宮アイスを奪おうとしたんじゃないかっていう話なんだが』


赤城『そ……そんな! 私はそんなことしません! 提督はその話を信じるっていうんですか!?』


提督『いや、ちょっと確認を……』


赤城『酷い! 提督は私が嫌いなんですか!? いつも出撃であんなに頑張っているのに……うわぁああああん!』


要は赤城さんも泣き落としで疑惑をうやむやにしました。さすがです、きっと必要に迫られれば靴だって舐めるんでしょう。


ひとつ悪いことを覚えてしまいました。困ったらときは泣き落とし、だいたいこれでなんとかなるのです。


ただ、後悔していることがあります。それは事件の捏造に乗じて赤城さんを陥れることができなかったことです。


資源の横領。駆逐艦、妖精さんへの捕食行為。間宮アイスの盗難。彼女の不正行為を私はいくつも知っています。


赤城さんは疑われる危険を犯してまで私を襲うことを一時的に諦めていますが、何かのきっかけさえあれば、彼女は再び本性を見せるはずです。


そこで、いざというときのために赤城さんを倒す計画を用意しておきました。



コードネーム「E2F計画」



このE2F計画は極めて強力で確実性の高いものです。条件さえ揃えてしまえば、あの赤城さんでさえひとたまりもないでしょう。


しかしこの計画には欠点があります。その必要な条件をクリアすること自体が困難を極める上に、かなりの大博打だということです。


また、全ては極秘裏に行われる必要もあり、すぐに計画を実行に移すことはできません。今は時期を待ちます。


金剛「電、何してるネー! 早くこっち来るデース!」


電「あ、はい! すぐ行きます!」


もうドックから出ようとしている金剛さん、霧島さんの元へ慌てて向かいます。扶桑さんたちはまだ何か相談をしているようでした。


金剛「では鎮守府観光に出発ネ! と言っても、そんなに面白いものはないデースけどネー!」


霧島「姉さんったら、そんなこと言ったら失礼ですよ? ねえ、電さん」


電「いえ、実際そこまで紹介するところもないのです。慣れれば悪くないのですが」


霧島「そうですか。あの広場にいる子たちはなんですか?」


霧島さんが目を向けた先は、駆逐艦の子たちがよく使っている広場でした。


今日も例の教団が集会を行っているようです。壇上に不知火さん、傍らには子日さんが立っています。


不知火「皆の者! 今日は何の日だーーー!?」


「子日ーーー!!」


不知火「明日は何の日だーーー!?」


「子日ーーー!!」


不知火「昨日は、そして一昨日は何の日だーーー!?」


「子日ーーー!!」


不知火「その通り! 我らが日々生を享受できるのは、全て子日様の思し召しである!」


不知火「皆の者、子日様を讃えよ! 崇めよ! その身を捧げよ! 我らの命は子日様と共に在る!」


「うおおー子日様ー!」「踏んでくださーい!」「私を食べてー!」「子日様、妊娠させてー!」「子日様、私だー! 殺してくれー!」


「ね、の、ひ! ね、の、ひ! ね、の、ひ! ね、の、ひ!」


霧島「ずいぶんと盛り上がってますね。アイドルでも来てるんですか?」


金剛「あれは暇してる駆逐艦たちが始めた宗教ごっこネ! あんまり関わらないほうがいいヨー!」


霧島「はあ、そうなんですか。あの壇上で泡を吹きながら白目を剥いて立ってる子はなんですか?」


電「あれはあの団体のご神体みたいなものです」


霧島「なるほど。電さんも駆逐艦ですから、あの宗教団体に参加を?」


電「いいえ。まったくの無関係です」


あそこに顔を出すと「アカギドーラ様の先触れ」の扱いを受けるので、そっと2人の影に隠れておきます。


しかし、いつの間にアカギドーラ教団は子日教団になったんでしょうか。そのほうが平和そうではありますが、子日さんの精神状態が心配です。


霧島「ちょっと見て行きませんか? 民俗学の観点から彼女たちの宗教形態を分析してみたいのですが」


電「お願いですから勘弁して下さい。さあ、早く鎮守府の中に入りましょう」


霧島「そうですか。残念です」


金剛「さあ、ここが私たちの鎮守府ネ! 妖精さんたちが掃除しているからいつもキレイネ!」


霧島「本当ですね。姉さんたちの部屋もこの建物の中にあるんですか?」


金剛「No! 私たち主力艦隊はドックの隣に専用の宿舎があるから、そこに住んでるネ!」


霧島「へえ。じゃあこちらに住んでる艦娘たちはどういう役割の子たちなんですか?」


金剛「遠征係と、あとは暇してる放置艦のやつらデース!」


霧島「放置艦? それはどういう役割の人たちなんでしょう?」


電「簡単に言えば、役割をまったく持たない人たちです」


霧島「なるほど。そういう人もいるんですね」


霧島さんは興味深そうに、ちらりと近くの部屋を覗き込みます。


まずいと思いましたがもう遅いです。ここは重巡の人たちが暮らしている一帯です。


高雄「あ、足柄さん! 那智さん! お願いです、正気に戻ってください! どうかこの縄をほどいて!」


愛宕「誰か助けてぇ! 犯されるぅ! お嫁に行けない体にされるぅ!」


足柄「黙りなさい! いま考えごとしてるんだから!」


那智「しかし、なかなかアイディアが出ないな。捕まえた愛宕と高雄をとりあえず裸にひん剥いて、亀甲縛りにしてみたものの……」


足柄「ええ。ここからどうすればいいのか、わからないわ」


那智「このままでも、これはこれで完成された芸術のような品格を感じるな。飾っておくのも悪くない」


足柄「それじゃダメよ! 私たちは女体に溺れるんでしょう? この程度じゃ全然溺れ足りないわ!」


那智「確かにそうだ。だがどうする? とりあえずまたオイルでもぶっかけてみるか?」


足柄「いい考えだと思うけど、縄が邪魔してヌルヌルが不完全なものになるわね」


那智「ならば……こういうのはどうだ? 右乳首と左乳首を電極で接続してだな、間にプロペラ付きのモーターを起動させるというのは」


足柄「妙案ね。でも電極がないわ。もっとこう、用意できる範囲で、女体を活かせるアイディアはないかしら?」


那智「うーむ、女体……そうだ女体盛りだ!」


足柄「女体盛り!? それは一体何なの!?」


那智「世間では女体の上に刺し身を盛りつけて食べるのがセレブの嗜みだと聞く! それをやってみないか!?」


足柄「なにそれ、世間のセレブは狂ってるわね! やってみましょう! まずは魚が必要ね!」


那智「よし釣りだ! 最悪、駆逐イ級でも構わん! 醤油をかければ食える!」


足柄「さっそく堤防で釣りをしましょう! 面白くなってきたわ!」


高雄「ちょ、ちょっとどこ行くんです!? 私たちこのまま放置ですか!?」


愛宕「いやあ、置いて行かないでー! せめて縄を緩めてぇ! 」


釣り竿を担いで意気揚々と出かけていく足柄さんたちを、私たちは沈黙のまま見送りました。


霧島「あの人たちはなんですか?」


金剛「あいつらは元餓狼、今は負け犬の重巡ネ! 足柄もだいぶ頭おかしくなってきたネー!」


電「えっと、とりあえず高雄さんたちを助けましょうか」


金剛「そんなのいいネ! あれはああいうプレイだから、邪魔しちゃ悪いデース!」


電「絶対違うと思うんですが……」


霧島「さすが艦船の系譜を引くだけあって縄使いが巧みですね。結び目がどうなってるのか見ていってもいいですか?」


電「どうかお願いです、やめてください」


高雄さん、愛宕さん。ごめんなさい、また後で助けに戻ってくるので、それまで我慢しててください。


金剛「こんなシケた場所より他に行くネ! 次は結構楽しいところデース!」


霧島「あら、そうなんですか?」


電「……金剛さん、まさかあの場所に出入りを?」


金剛「実際にやったことはないけど、たまに見に行ってマース! 破滅したやつらを眺めるのは快感デース!」


この流れなら、どうせ次はあそこだと思っていました。抵抗せずに金剛さんの後についていきます。


近づくに連れ、甲高い叫び声が聞こえて来ました。今日も賭博場では軽空母の方々がカモられているようです。


龍驤「おい、ちょっと胴元のやつ出てこんかい! 言いたいことがあんねん!」


龍田「はいは~い。何かしら?」


龍驤「あんたの賭場、勝てへんにもほどがあるで! イカサマしてんのとちゃうんか!」


龍田「自分の運がないだけでしょ? 言いがかりはやめてほしいわ」


祥鳳「言いがかりじゃありません! 私たちがどれだけ負け越してると思ってるんですか!」


鳳翔「そうですよ! イカサマはいけないんですよ!」


龍驤「ウチら、なけなしのボーキサイト叩いてここに来てんねんで!? それを掠め取ってあんたら何とも思わんのか!?」


龍田「だったら来なければいいじゃない」


龍驤「もう後戻りできへんほど注ぎ込んでるんや! それやのに全っ然勝たれへん! どないなっとるんや!」


祥鳳「私なんて艦載機を質に入れてまで来てるんですよ!? たまには勝たせてくれたっていいじゃないですか!」


龍田「だから、勝てないのはそちらの責任でしょ? 私たち龍田会はイカサマなんてやってないわよ」


鳳翔「嘘よそんなの! 格納庫がすっからかんになるまで勝負したのに、勝てないなんて絶対おかしいわ!」


龍驤「返せ! うちらのボーキサイト返さんかい!」


祥鳳「質に入れた九九式艦爆も返してください!」


鳳翔「返して! ボーキサイト返して!」


龍田「返せ返せってうるさいわねえ。その前にあなた達、私から借りてるボーキサイトを返済したら?」


龍驤「それや! その返済額がそもそもおかしいんや! たった100ボーキしか借りとらへんのに、なんで200ボーキも返さなアカンねん!」


龍田「私は金融業としてお金を貸してるのよ? 利子が付くのは当たり前でしょう」


祥鳳「それにしたって、こんな雪だるま式に膨れ上がっていくなんて酷いです! もう利息を支払うだけで精一杯なんですよ!」


鳳翔「手元に残るボーキがこれっぽっちだなんて、これじゃ私たち生活できないじゃない!」


龍驤「しかも、そのわずかなボーキすらここで吸い取られていくんや! どう考えたっておかしいやろ!」


龍田「おかしいのは自分たち自身だって思ったことはないかしら」


龍驤「ずべこべ言わずボーキサイト返さんかい! 返してくれるまで、ウチらここを動かへんで!」


龍田「そう……なら、力づくでどいてもらいましょうね」


龍驤「お、やるんか? 軽空母の力、侮ったらいかんで! 九六式艦戦の強さ見せたるわ!」


祥鳳「艦載機は質に入ってますけど、7.7mm機銃が火を吹きますよ!」


鳳翔「飛行甲板を叩きつけますよ!」


龍田「ふーん……で、あなた達。艤装はあるのかしら」


龍驤「……あっ」


当鎮守府では、任務以外での艤装の装備は厳禁となっております。つまり皆さん素手です。


龍驤「えーっとやな……ま、ここはアンタの顔を立てて、平和的に解決してんか。とりあえず今週分のボーキ返済はしばらく待……」


龍田「球磨型三姉妹。こいつらを始末なさい」


球磨「クマー!」


多摩「にゃー!」


木曾「キソー!」


「ギャァアアアアア!!!」


金剛「……HAHAHA! これを見に来たネ! 見るネ霧島、あれが底辺の争いネ!」


霧島「たしかに、ここはちょっと面白そうなところですね」


龍驤(二代目)さんたちがボコボコにされる様を見ながら、金剛さんがゲスい笑いを上げています。


龍田会の賭博場は提督さんによる摘発により消滅するはずでしたが、しぶとく生き残っています。


元手がないのに存続しているのが不思議でしたが、龍田さんは裏で高利貸しを営んでいたようで、どこかに隠し資源があるみたいです。


軽空母の人たちが可哀想で仕方がありません。彼女たちは根こそぎ持っていかれるとわかっていながら、ここくらいしか楽しみがないのです。


かくいう龍田さんも、遠征ばかりで大好きな潜水艦狩りをさせてもらえず、悪徳金融業と違法賭博で暴利をむさぼるくらいしかやることがありません。


この賭博場は鎮守府の荒れようが最も顕著に表れているように思います。たかる側も、たかられる側も救いがないのです。


霧島「今時こんな古風なカジノは珍しいですね。社会勉強の一環として、一勝負していってもいいですか?」


電「さっきから知的好奇心旺盛キャラ押してくるのやめてくれないですか!?」


隼鷹「よーよーお前らも来てたのか。電ちゃんも賭け事とかやるの?」


誰かと思えば隼鷹さんです。思えば隼鷹さんも軽空母、まさかここの常連なのでしょうか。


金剛「隼鷹じゃないデースか。お前も身上潰しに来たのデースか?」


隼鷹「まあな。ちょっと浄銭に……おおっ!?」


木曽「キソー! さあ、持ってるものをすべて出すキソ!」


龍驤「堪忍、堪忍したってや! 懐に手ぇ入れても何も入っとらへんて! この薄っぺらいの見りゃわかるやろ……って何言わせんねん!」


隼鷹「龍驤、死んだはずの龍驤じゃないか! 久しぶりだなあオイ!」


龍驤「は? 誰やアンタ!」


昔、まだ扶桑さんが旗艦になって間もない頃、隼鷹さんと共に龍驤さんが主力艦隊に配備されていた時期がありました。


しかし、そのときの龍驤は提督さんの勘違いにより轟沈してしまい、今の龍驤さんは正規空母レシピで出た二代目なのです。


今更この鎮守府に軽空母の活躍できる場があるわけもなく、たまに遠征に行かされる程度の運用に留まっています。


隼鷹「いやあ会いたかったぜ! 相変わらずフラットな胸元だなあ! なんだその凹凸のない胸は。飛行甲板か? 乳首くらいはついてんのか?」


龍驤「会ったそばから失礼やなアンタ! そんなことより、助けてくれへんか!」


隼鷹「よし来た! おい龍田! 巨乳だからって貧乳をイジメんな!」


龍驤「誰が貧乳や!」


龍田「この子、私の賭場がイカサマだってイチャモンつけた上に、借金のボーキサイトを返せないっていうのよ。当然の処置じゃない?」


隼鷹「借金? いくらあるんだ、肩代わりしてやるよ」


龍田「200……」


祥鳳「私の分は300ボーキです! どうかお慈悲を! あとで体で払いますから!」


鳳翔「私は500ボーキです! 助けてください、病気の子どもと寝たきりの夫がいるんです!」


隼鷹「じゃあ合わせて1000ボーキか。ほい」


隼鷹さんはどこに隠し持っていたのか、ボーキの山を龍田さんの手に盛りました。


隼鷹「ちょうどチンチロで使おうと思ってたんだ。これで足りるだろ」


龍田「……毎度。さすが主力艦隊所属は羽振りがいいわね」


龍驤「か、神様! アンタ神様なんか!?」


祥鳳「素敵! 抱いてください!」


鳳翔「結婚して下さい!」


隼鷹「はーっはっは! お前ら全員ついて来い! 酒に付き合え!」


龍驤「酒飲ませてくれるんか! アンタ、ほんまにええやつやなあ!」


隼鷹さんは朗らかに笑いながら、軽空母たちを引き連れて行ってしまいました。一体何しに来たんでしょう。


龍田「……残念。もっとイジメてあげたかったのに」


せっかくボーキを支払ってもらえたのに、龍田さんはおもちゃを取られた子供のような顔をしています。


龍田さんは資源横領の主犯として連日長時間遠征をさせられていますから、これらもストレス発散の一環なのでしょうか。


金剛「なんかシラケてしまったデース。霧島、そろそろ宿舎のほうに行くデース!」


霧島「もうですか? もっといろいろ見て回りたいんですけど」


金剛「他には気の触れた那珂ちゃんがハカの踊りを稽古してるところとか、幻覚しか見えなくなった伊勢のいる隔離病棟くらいしか見るものないデース!」


霧島「この鎮守府には頭のおかしくなった人たちが多いんですね」


まったくです。下手をすれば健常者のほうが少ないなんて、一体どうなってるんですかこの鎮守府。


金剛「まあ気が向いたら行ってみるといいネ! たまに見ると結構笑えてくるネ!」


笑い事じゃないんですけど。


もう私も鎮守府の惨状を見ているのが辛かったので、宿舎のほうに行ってくれるのはありがたいです。


宿舎に行く途中の廊下で、珍しい人と出会いました。


提督「なんだ、鎮守府案内の途中か? 大して面白いものもなかっただろうが」


金剛「ワオ、提督ぅ♡ 執務室から出てるなんて珍しいデース!」


誰かと思えば、この惨状を作り上げた原因たる提督さんじゃないですか。出歩いてる暇があるなら、もっと艦娘の管理をしっかりしてくださいなのです。


金剛「こんなところで提督と会えるなんて、すごくラッキーな気分デース! どこかへお出かけデスか?」


提督「ああ、ちょっと扶桑のところへ行った帰りで……」


金剛「What!? どうして私には会いに来てくれないんですか、提督ぅ! 私寂しいデース♡」


ここぞとばかりにヤキモチ焼いてるアピールをねじ込んで来ます。提督さんは特に反応しません。


例えるなら、そうですね。フンコロガシは動物の糞をあえて好みますから、金剛さんも男性趣味においてそういうゲテモノ好きな面があるのでしょうか。


電「扶桑さんに何か用事があったのですか?」


提督「確認したいことがあってな、隼鷹にも聞きたかったんだが……」


電「隼鷹さんなら、多分自室に戻ってると思うのです」


提督「そうか。まあ、別に大したことじゃないから今度でいい」


それだけ言って、提督さんは執務室に戻っていきます。その手には一冊の本があります。


タイトルは「初心者のための鎮守府運営マニュアル」。いつまで初心者なんですか提督さん。


提督「ああ、そうだ。電にも聞いておきたいんだが」


電「なんですか?」


提督「大破状態で夜戦に突入し、敵の攻撃を受けた場合、その艦娘はどうなると思う?」


電「はあ? 轟沈するに決まってるじゃないですか」


提督「そうだな……そのはずだよな」


提督さんは首をかしげながら立ち去って行きました。もう経験済みのはずなのに、なんであんなことを聞いたんでしょう。


金剛「今日の提督は物憂げなところが素敵だったネー! 霧島はどう思うネ?」


霧島「え、提督をどう思うかってことですか? うーん、私には頼りなさげな人にしか見えないですね」


さすが霧島さん、人を見る目があります。金剛さんの目はきっと老眼か何かでしょう。


霧島「もしかして金剛姉さん、提督のことを好きなんですか?」


金剛「そうネ! 私は提督にBurning Loveなのデース!」


霧島「はあ……どういうところに好意を持ったんですか? 失礼ですが、あの方からはあまり男性的魅力を感じなかったのですけれど」


それは私も興味があります。フンコロガシが糞を好きなように、金剛さんにも提督さんを好きな理由があるはずです。


金剛「うーん、そうデスね。ダウナー系で落ち着いた物腰だとか、幸薄そうな雰囲気なんかは割りと好きデース」


金剛「でも何より、扶桑が提督のことを好きっていうのが一番重要ネ!」


霧島「どういうことですか?」


金剛「他人の男ほど燃え上がるものはないネ! あの扶桑から提督を寝取る、最高に興奮しマース!」


金剛「この鎮守府に来て、扶桑と提督がイチャついてるところを見たときに思ったネ、必ずこの女から提督を奪い取ってやるってネ!」


電「うわあ……」


考えられる限りで最低な理由です。恋愛経験のない私が言うのも何ですが、それ絶対に恋じゃないですよ。


霧島「なるほど、略奪愛への願望ですか。さすが金剛姉さん、肉食系女子の鑑ですね」


金剛「そうデース! 今のところ提督は扶桑とケッコンカッコカリの約束を交わしてるデースが、いずれその座を奪ってやるネ!」


霧島「ケッコンカッコカリ? なんでしょう、それは」


金剛「艦娘と提督の間で交わされる婚姻のことネ! この契約を交わせば、提督の妻になれるデース!」


霧島「ふうん……提督って、この鎮守府で一番偉い人なんですよね?」


金剛「もちろん! 鎮守府では絶対権力者ネ! 提督の命令は全てに優先され、逆らえる者は誰もいないデース!」


霧島「つまり提督とケッコンカッコカリを交わせば、鎮守府のNO.2になれるってことでしょうか?」


金剛「そうネ! 期待してるネ霧島、いずれ私は鎮守府のNO.2になる女デース!」


霧島「なるほどなるほど……この鎮守府の権力ピラミッドはそういう形ですか……」


金剛「というわけで霧島! お前には私のアシスタントになって欲しいデース!」


霧島「アシスタント?」


来ました。やはり金剛さんは、提督さんを籠絡するために霧島さんを利用するつもりです。


金剛さんは容姿こそとても可愛らしいですが、はっきり言って頭は悪い方です。


このまま提督さんに対するアピールを続けても、扶桑さんからケッコンカッコカリの座を奪うことはまず不可能でしょう。


そこに、頭脳派艦娘である霧島さんの知恵が加われば、今まで有り得なかった勝機が見えてきてしまうかもしれません。


金剛「私は何としても提督に気に入られたいデース! 霧島の頭脳で、そのための作戦を考えてほしいのデース!」


霧島「確かに私なら、提督を陥落させる作戦くらい、いくらでも編み出させるでしょうね」


金剛「ワオ、頼もしいデース! アシスタントの役目、引き受けてくれるデースか?」


思い返せば、このときまで鎮守府はまだ平和だったほうなのです。


いいえ、本当は霧島さんが来た時点から全ては始まっていたのでしょう。私の目に映る形で現れたのがここだったというだけで。


この瞬間に平和の時代は終わり、動乱が幕を上げるのです。


霧島さんは金剛さんの問いに応えず、にっこりと笑ってメガネに手を掛けました。


霧島「すみません、ちょっとメガネを外してもいいですか?」


金剛「What? 外したいなら外せばいいネ」


霧島「どうも」


怪訝そうな金剛さんに構わず、霧島さんはメガネを取り、それを懐に収めました。


まるで手品のようです。霧島さんが消えました。


あの理知的な美少女の姿は影も形もなくなり、かわりに同じ衣装を来た、ヤクザとしか思えない形相の女性が私たちの前に立っていました。


霧島「……なんでアタシがそんなクソ面倒なことしなけりゃいけないんだ?」


金剛「へ? 霧島、一体どうしオヴォウ!」


電「ひへっ!?」


金剛「おぶぅ……お、オロロロロロロ……」


凄まじいボディブローでした。その拳は金剛さんのみぞおちにめり込み、胃の中のものを全て吐き出させます。


金剛さんの今日食べたものが床に広がり、吐瀉物の臭いが辺りに立ち込めました。


その光景を、霧島さんによく似たヤクザさんが生ごみでも見るかのような目つきで見下ろしています。


金剛「おげぇ……ゴホッ、ゴホッ!」


霧島「ちっ、汚えなあゲロ女がよぉ!」


私は混乱の極地にありました。一体何が起きているんでしょうか。


霧島さん似のヤクザさんは金剛さんが嘔吐を終えるやいなや、その髪を掴んで無理やり顔を上げさせました。


霧島「オイ、勘違いしてんじゃねーぞ老朽艦! 誰に向かって口利いてやがんだ、ああ!?」


金剛「ヒィ! だ、誰ネお前!? 霧島はどこに消えたネ!?」


霧島「何寝ぼけてんだクソババア。霧島はアタシだ、ちゃんと目の前にいるだろうがよ」


金剛「お、お前が霧島!? そんなわけないネ! キャラが違いすぎるデース!」  


霧島「ハッ、こっちがアタシの素だよ。こちとら第三次ソロモン海戦でサウスダコタ級戦艦とノーガードで殴り合った、バリバリの武闘派よ!」


霧島「ソロモン海の狂犬、霧島様とはアタシのことだ! 舐めてんじゃねーぞコラァ!」


金剛「ヒッ! I’m sorry,I’m sorry! お、落ち着くデース!」


霧島「日本語喋れやエセ外人がよぉ! 半端なカタコトでキャラ作ってんじゃねーぞ、ああ!?」


金剛「も、申し訳ありません! 気に触ったのなら謝りますから、どうかもう殴らないでください!」


電「!?」


いろいろ言いたいことがあるんですが、まず金剛さん。その口調キャラ作ってたんですか!?


霧島「けっ。わかりゃいいんだよ、わかりゃ。さーて金剛。そして電」


電「えっ、私ですか!?」


霧島「なに無関係な立場気取ってやがんだクソガキが! ドタマかち割るぞ、おお!?」


電「す、すみません! すみません!」


超怖いです、この人。今までの知的キャラが嘘のようです。


完全に怖気づいた私と金剛さんを見渡し、霧島さんは満足気に金剛さんを手から離しました。


霧島「よし。よく聞けよお前ら。ここに来てずっと考えてたんだがな、アタシの目的が決まった」


金剛「目的? そ……それは何なんでしょうか?」


霧島「提督とのケッコンカッコカリの座、このアタシがいただく」


金剛「へっ!?」


電「は、はいいっ!?」


耳を疑いました。一体何を言い出したんでしょう、このヤクザさんは。


霧島「アタシはな、力が欲しいんだ。暴力だけじゃねえ、知力も、権力も、あらゆる力をアタシは手に入れたい」


霧島「この時代で一番強い力は権力だ。アタシはこの鎮守府で最高の権力者になりてえんだよ」


金剛「そ、それがケッコンカッコカリとどういう関係があるんですか!?」


霧島「ハッ。てめえ自分で言ってたじゃねえかよ、ケッコンカッコカリをすれば、鎮守府のNO.2になれるってな!」


電「で、でもそれじゃあNO.1にはなれないのではないですか?」


霧島「最初のうちはな。だが、あの程度の男、アタシの女としての魅力があれば、操り人形に変えるのはわけないぜ」


金剛「……女としての魅力?」


たぶん、私と金剛さんは同じことを考えました。そのヤクザなキャラのどこに女としての魅力があるのかと。


霧島さんはその雰囲気を察したのでしょう、私たちを鼻で笑うと、懐から再びメガネを取り出して顔に掛けました。


あら不思議、あの理知的な霧島さんが帰ってきました。


霧島「この通りです、金剛姉さん。私はキャラを切り替えることができますので、こっちで提督を攻略するつもりです」


電「あの、なんでそんな風にキャラを使い分けてるんですか……?」


霧島「まあ、電さんのような小便臭いガキには理解しにくいことでしょうけどね」


今、一瞬キャラがごっちゃになりませんでしたか? 霧島さんはまたメガネを外し、ヤクザの顔に戻ります。


霧島「女ってのはな、美人でお淑やかなのが一番得するんだよ。いくらでも男を利用できるからな」


霧島「女の魅力ってのも力の1つだ、よく覚えておけクソガキ」


電「は、はい……」


ヤクザ口調で言われても、説得力があるのかないのかわかりません。あなたが最高に恐ろしい人なのは十分わかりましたが。


金剛「む、無理ですよ霧島さん! あなたがケッコンカッコカリの座を勝ち取るなんて無理です!」


霧島「ほう? 理由を言ってみろ、聞いてやるからよ」


金剛「提督は巨乳好きなんです! 私たちはバストサイズで扶桑に大きく劣る、だから無理です!」


霧島「ほーう、巨乳好きねえ……」


金剛さんの言葉を聞いて、霧島さんがにやりと笑います。


提督さんが巨乳好きなのは事実です。今まで提督さんが好意を示した艦娘は、全員巨乳でした。


加えて、提督さんは肉食系のような表現の仕方をすると、偏食系男子です。


金剛さんに興味を示さないように、好みでない女性には一切振り向かない。よく言えば一途、悪く言えば冷淡な人なのです。


霧島「おい金剛。脱げ」


電「え?」


金剛「はい? あの、今なんて……」


霧島「乳を出せってんだよ! 耳まで遠くなってんのかババア!」


金剛「は、はいいっ!? そんな、恥ずかしい……」


霧島「なんならアタシが直接剥ぎ取ってやってもいいんだぜ? 自分で脱ぐか脱がされるか、今すぐ決めろコラァ!」


金剛「はい脱ぎます! 脱ぎますから! お願いです、乱暴しないでください!」


突然のセクハラ発言です。もうやりたい放題です、この人。


ここが人気のない廊下でよかったです。震える指で胸をはだける金剛さんは、まるで陰湿ないじめを受けるいじめられっこの少女です。


霧島「おら、さっさとブラも外せや! モタモタしてるとブラ紐引き千切るぞ!」


金剛「や、やめてください! 提督に貰った大切なブラなんです!」


霧島「知ったことかよ、口答えしてんじゃねえ! パンツまで脱がされてえのか!」


金剛「申し訳ございません! 急いでブラ外しますから!」


金剛さんもおかしなセリフを言うくらい気が動転しています。


普段は自分から大破して惜しげも無く裸体を晒しているのに、無理やり脱がされるのはやはり苦痛なようです。


霧島「よーし、脱いだな……おい電、揉め」


電「へ?」


霧島「二度言わすんじゃねえよ。金剛の乳を揉め」


電「な、なんでですか!?」


霧島「ガタガタ抜かすヒマがあったらさっさと揉みやがれ! てめえの服も剥いでやろうか!?」


電「す、すみません! 揉みます!」


状況に脳みそがついていけません。霧島さんが何をしたいのか、まるで理解が追い付いていないのです。


今の私にできることは、霧島さんに従って金剛さんの乳を揉むことくらいです。


電「あの……金剛さん、ごめんなさい」


金剛「ひっ……」


おびえる金剛さんの胸元に手を伸ばします。私の指が白い柔肌に埋まりました。


霧島「おら、もっと強く揉め。握りしめろ」


金剛「や、やめて……爪を立てないで……」


電「き、霧島さん。こんなことに何の意味が……」


霧島「こいつの乳の感触はどうだ?」


電「え、えっと……柔らかいです。ふわふわのおっぱいなのです……」


金剛「いやあ……もうやめてぇ……」


霧島「そうか。じゃあ次だ」


そう言うと、霧島さんは何の躊躇いもなく上着を脱ぎ、自分のブラを外しました。形の良い乳房が露わになります。


霧島「揉め」


電「あ、あの、一体……」


霧島「いいから揉めっつってんだよ」


頭がどうにかなりそうです。変な趣味に目覚めてしまいそうなのです。


抵抗できるはずもなく、言われるがまま霧島さんの乳を揉みます。私の指が乳首に触れても、霧島さんは表情ひとつ変えません。


霧島「そこの女と比べて、アタシの乳はどうだ?」


電「こ、こっちのほうが弾力があります。ぷにぷにのおっぱいなのです」


霧島「大きさはどう見える?」


電「た、たぶん霧島さんのほうが一回り大きいです」


ご機嫌を取ろうとしたわけではなく、それは事実です。金剛さんもDカップくらいはあると思いますが、霧島さんは優にEカップはあります。


霧島「だろう? よし……いつまで人の乳揉んでんだコラァ! ぶち殺されてえのか!?」


電「ふひぃ! すみません! すみません!」


この人、本当に怖いです。揉めと言ったり揉むなと言ったり、怒るタイミングが理不尽過ぎます。


霧島さんはさっさと服を着直しますが、金剛さんは胸をさらけ出したまま、不安そうな顔で腕を体に巻いて乳首を隠しています。


許可がないまま服を着たら怒られることがわかっているのでしょう。もうすっかり霧島さんの下僕と化しています。


霧島「さーて、これでわかったろ。アタシも十分に巨乳だ。あの男が巨乳好きだとしても、勝機はある」


金剛「お、お言葉ですが霧島さん。扶桑のバストサイズはGカップです。霧島さんより遥かに上であります」


外人かぶれという特色を奪われたせいか、金剛さんの口調が安定しません。何系なんですかその口調は。


霧島「勘違いすんなよ。アタシはただ、戦況がさほど不利じゃないことを示しただけだ。巨乳かどうかは重要じゃねえ」


金剛「でも、提督は巨乳好きで……」


霧島「それだ。金剛、電。提督の嗜好を詳しく話せ」


霧島「あいつが興味を示した艦娘、及びその理由。反応を見せた仕草でもいい。お前らが知る情報を全て吐き出せ」


にわかに真剣な目つきになった霧島さんに、私たちは従うほかありませんでした。


私たちは話しました。扶桑さんの他に提督さんが好意を寄せた艦娘は隼鷹さん、足柄さんだということ。どちらもやはり巨乳です。


興味を示しただけなら龍田さんも含まれますが、性格が苦手だといってあまり積極的に交流を持とうとはしませんでした。当然、彼女も巨乳です。


他に思いつく人は特にいません。提督さんは興味のない艦娘とはほとんど交流を持っていないのです。


また、金剛さんがどんなアピールをしたかも話しました。


あえて戦闘で大破し、胸をはだけて見せたこと。可愛げに愛嬌を振りまいたこと。どちらもまったく効果はありませんでした。


霧島「他にはないか? 何でもいい、巨乳以外に興味を示したことはないのか」


電「あっ……そういえば1度だけ、巨乳ではない艦娘さんを見てたことがあるのです」


霧島「そいつは誰だ?」


電「この鎮守府では未着任の方なのですが……」


霧島「……ほう。あいつか、なるほどな。おい電、お前は最初に提督から選ばれたんだよな」


電「は、はい。何人かの駆逐艦の候補の中から……」


霧島「あいつはお前を選んだ理由をなんて言っていた?」


電「えっと……候補の中で一番かわいかったからだって……」


霧島「……ククッ、ハーッハッハッハッハ!」


私の答えを聞いたとき、霧島さんは突然高笑いを上げました。まるで勝ち誇るかのように。


金剛「ど、どうされたのでありますか?」


霧島「くっくっく……金剛、お前はまるで無能なピエロだな。今までしてきたアピールとやらは、すべて見当違いだったというわけだ」


金剛「は? そ、それはどういうことですか!?」


霧島「乳を見せつけるだの、媚を売るだの、そんなのはまったくの無駄だったってことだ」


霧島「お前のやってきたことは、人参で野良猫を飼い慣らそうとしていたに等しい。まさに徒労だ」


金剛「ど、どういう意味ですか!? 今までの情報から、一体何を……」


霧島「あるいは、ビックリマンチョコを欲しがるガキに、ただのチョコレートを買い与えるようなものだな。意味がわかるか? わからないだろうな」


霧島さんはあざ笑うかのように金剛さんと私を見下します。明らかに勝利を確信している態度です。


霧島「お前に教えてやるのはこれだけだ、あとは自分で考えやがれ。おら、いつまで乳出してやがる売女。目障りなんだよ!」


金剛「も、申し訳ありません。どうかお許し下さい……」


怯えながら服を着る金剛さんに、十数分前の威勢の良さは影も形もありません。すっかり霧島さんに萎縮し切っています。


私も人のことを言えません。この暴力の権化のような人が怖くてたまらないのです。


赤城さんも怖いですが、霧島さんはまた違う怖さを持っています。なぜこんなにも楽しそうに、人に暴力を振るうことができるのでしょうか。


霧島「さーて……電。アタシの初陣は明日だな?」


電「は、はい。明日は演習と、資源の残量によっては出撃も行われる予定です」


霧島「新しい戦艦の初運用だ、提督は様子を見にドックへ来る。そうだな?」


電「はい……提督さんはほとんど執務室から出ませんが、明日くらいは自分の目で霧島さんの戦力評価を行うと思います」


霧島「そうか。なら、仕掛けるのは明日だな。オラ、立てよ金剛」


金剛「い、痛い! やめて、立ちます! 立ちますから、乱暴しないで!」


霧島さんは金剛さんのあごを掴み、無理やり立ち上がらせます。痛がる金剛さんを見て、その顔は楽しそうな笑みが浮かんでいます。


霧島「いいか? お前はアタシのアシスタントだ。アタシが提督を攻略するために立ち回れるよう、お前が状況を整える。いいな?」


金剛「は……はい。言う通りにします」


霧島「ここでの会話は絶対に他言するな。おい電、お前もだ。いいな?」


電「はい、なのです……」


霧島「金剛、他のやつがいるときは今まで通りの外人かぶれ口調で話せ。不自然に思われるからな。わかったか?」


金剛「はい……お、OKデース」


霧島「ハハハッ! そうだ、それでいい。アタシだけのときは普通に話せ。イラっとするからな」


楽しそうに笑う霧島さんとは対照的に、金剛さんは目が死んでいます。何もかも持って行かれた表情です。


霧島「さて、宿舎に行こうぜ。明日の打ち合わせもしなきゃならねえし、何より姉妹水入らずで過ごしたいもんなあ?」


金剛「そ……そうですね……」


霧島「おい電、もう行っていいぜ。重ねて言うが、他言無用だ。誰かに話せば……わかってるな?」


霧島さんは腕を金剛さんの首に掛け、強引の自分の元へ引き寄せました。金剛さんはまるで抵抗する素振りもありません。


その行為は、金剛さんが人質であることを示しています。私が下手なことを言えば、私だけでなく金剛さんも無事では済まさないと。


電「わ、わかってるのです。誰にも言いません」


霧島「よし、じゃあさっさと消えろ。さーて……金剛姉さま? 姉妹2人っきりで、楽しい時間を過ごしましょう」


金剛「ひっ……」


金剛さんは一瞬、助けを求めるような目で私を見ましたが、すぐ霧島さんに引きずられるような形で連れて行かれました。


取り残された私は、ただ呆然と立ち尽くしました。


波乱を起こす、どころではありません。霧島さんはとんでもない爆弾だったのです。


電「……いえ、もっと客観的に状況を見てみましょう。これは単なる、ちょっと複雑な男女関係。そうに決まっています」


そうです。見ようによっては、これから起こることはありふれた女性同士の醜い争い。そう解釈できなくもありません。


明らかな現実逃避に走ってしまうくらい、精神的疲労がピークでした。連日の騒動続きで、何か癒やしがなくてはやってられません。


電「そうです、霞ちゃんと会いに行きましょう。霞ちゃん、どこですか霞ちゃん……」


私は今見聞きしたことを一旦忘れ、霞ちゃんの姿を求めて鎮守府の奥へふらふらと入って行きました。


もしこのとき、私が提督さんや扶桑さんに相談していれば、何か変わったでしょうか。


良い結果になったかもしれませんし、逆に悪くなっていたかもしれません。ただ私は疲れていて、もう何もしたくなかったのです。


まだ私は気付いていませんでした。このとき、鎮守府は……私は、地獄の門に手を掛けていたのだということに。



続く


後書き

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1: Schnitzel 2015-08-23 04:40:33 ID: UkeZ4Sji

面白すぎぃ!
霧島ネキ、ちょっと怖すぎんよー

2: SS好きの名無しさん 2015-08-28 01:47:44 ID: iz9lGoor

足柄さん登場シーンのあたり、金剛と思わしきセリフが足柄になっとる
自虐かとおもって笑ってしまった

3: waganahag 2015-08-28 04:05:31 ID: PQxKLxmc

>>2
ご指摘ありがとうございます。なんで気付かなかったんだろう。

4: SS好きの名無しさん 2015-09-01 18:06:16 ID: G3ax8gpR

どこのロアナプラだw
電は何も悪くない…明日の命も分らない場所で懸命に生きてるだけなんだ

5: SS好きの名無しさん 2015-10-04 05:00:36 ID: dxPObBDy

金剛ちゃん…
小物ゲスキャラだったけど虐められてると可哀想に感じる不思議


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1: SS好きの名無しさん 2015-08-25 22:28:08 ID: DQH6qZUo

おもしろい!続きがたのしみ


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