2015-10-24 23:13:21 更新

概要

季節ですので短編ホラーです。
のぞえりRadioの某コーナーで言ってた南條さんの怪談が元ネタです。
今回はにこが語りです。


前書き

お話は、にこが希にスピリチュアルな相談を持ちかけて始まります。
安い物件には理由があると思い知らさるにこのお話です。


前編


にこのぞえり「「「かんぱーい!」」」

本日三度目の乾杯。



お盆も過ぎ、残暑の厳しい8月半ば。

熱気の抜けない都会の夜。

六畳一間の私の部屋は、大人三人が机を囲むと少々手狭で。

卒業して二年が経って、二十歳を過ぎ、比較的近場に散った私たち三人は、こうして各々の家で会合を開くのが恒例になっていた。

今日は私の部屋を会場にし、昔話に近況報告に華を咲かせる。


希「こんな暑い日に、イベントで外回りだったなんてにこっちも難儀やなぁ」


にこ「ホントその通り、今日だけで3会場よ。にこは一人しか居ないって言うのに困っちゃうニコ!」


絵里「にしてもデビューしたのが2年前のいま頃でしょ。それでこの人気なんだからにこも嬉しい悲鳴なんじゃないかしら?」


にこ「まあねぇ、2年目でここまで外に出してくれる事務所には感謝してるわ」


事務所のオーディションを受け、ファーストシングルまで半年、中規模会場でのライブまで1年。

正直、私の芸能生活は事務所の同期、先輩からしても異例の出世だった。


希「それだけにこっちが努力家って言うことなんとちゃう?、にこっちがアイドルにかける情熱をうちらは誰よりしってるもんなあ、エリチ」


絵里「え、ええそうね、にこは大銀河宇宙No1になり得る逸材よ」


肌の色が私達より白いせいも有るでしょうけど、絵里の頬は少し心配になるくらい紅潮している。


にこ「ねえ絵里、あなたそろそろ控えたほうが良いんじゃないの?」


絵里「ぬわぁに言ってんのよ、おばあさまなんてね、ウォッカをウォッカで割って飲んで冬を越しているっていうのに、私がこの程度で潰れるわけないじゃない!!」


希「エリチ、潰れたら送ってくのはウチなんやからちゃんと考えて飲んでな、それとも潰れて意識のないエリチを好きにしていいって言うなら話は別やけど?」


絵里「にこ、水を頂けるかしら、ロックで、キンキンに冷えたやつね」


どんなトラウマがあるのか知らないけども、急に青ざめていつもの顔色に戻った絵里は、私にお冷のオーダーをしてきた。


にこ「いつからにこはウエイターになったのよ!?まったく、しょーがないわねえ...」


そういって席を立ち、キッチンへ。

希が『すまんね、にこっち』と一言謝辞を告げた。



『えりち、そんなにうちに好きにされるのが嫌なん?』

『い、いや、私は別に嫌なわけじゃないのよ??なんていうか、ええ、酔った勢いというのは非常に良くないわ、そうよ、そうだわ』


少し開いた引戸の奥から漏れてくる二人の会話。

あのバカっプルどもが、いちゃつき始めたらこの冷水をかけてやろうか、そんなことを考えつつグラスにミネラルウォーターを注ぎ、アイスペールにロックアイスを用意する。


にこ「はい、お冷お待たせしました、5千円になります」


絵里「にこったら冗談きついわねえ!あ、でもにこの入れてくれるお水はおっいしいな~」


希「はいはい、エリチ。お水飲んだらちょっと横になってーな、エリチはお利口さんさんやもんな?」


絵里「うん、エリチカもう寝る」


私の引きつった顔を察したのか、慣れた様子で絵里を手懐ける希。

酔っ払ってポンコツ度合いが増した元生徒会長は、希の膝の上で寝息を立てていた。


希「ごめんな、にこっち、久々だったからエリチも嬉しくなってしもたんよ」


にこ「ええ、別にこの程度気にしないわよ、希もずいぶんと絵里の扱いに慣れたものね」


希「まあな、もうこんだけ一緒におったら、いらんことも含めていろいろ分かってしまうやん?それに、酔ったエリチはいつもみたいに意地っ張りやないから扱いが楽なんよ」


その比較的素直になった絵里の身に、以前何が起きたのかは敢えて聞かないでおこうかしら。


希「そういえば、にこっち最近真姫ちゃんとはどうなん?」


これが今日の目的と言わんばかりに目を輝かせながら問いかける希、さすがμ’sの世話焼き担当だけ有るわ。


にこ「どうっていったっていつもどおりよ、あっちはあっちでゼミで忙しいし、私は夜中まで仕事だし。そういえば最近あんまり二人で会えて無いわね」


希「一応毎日真姫ちゃんのマンションに帰ってるんやろ?それでも会えへんの?」


にこ「私が遅いのもあるけど、最近あの娘も忙しいみたいなの、まあ、確かに寂しいっちゃ寂しいわね」


希「そんないそがしいのに、愛する人のために欠かさず家に通う毎日、ウチ涙出てくるわ...」


にこ「いちいち大袈裟よ。あのお嬢様を放っておけば、きっとろくなもん食べないでしょうからね、これは保護者としての義務よ」


顔こそ合わせられてないけど、毎朝起きるとリビングの机に置いてある手紙が唯一の会話。

毎日会えなくて寂しいって事、おいしかったお弁当のおかずの事、たったそれだけの短い手紙だけど私には十分だった。


希「こっちのアパートにはあんまり戻ってこないんやろ?いっその事、同棲すればええんとちゃう?」


にこ「そうねえ、この部屋滅多に使わないもの、引き払いたいとは思うんだけど時間がないのよ」


希「うん、そのほうがええて、真姫ちゃんも喜ぶはずや」

希「それに...」


何かを言いかけた希、その時絵里が寝返りをうって希の腰に抱きつこうとした。


絵里「んん...のぞみい...」


希「はいはい、うちはここにおるよ」


頭を撫でながら、されるがままの希。

病人の介抱ってことならば、まあ、多少は許してやることにするわ。


希「エリチ嫌な夢でも見てるんかな、ちょっと泣いとるわ」


にこ「悪酔いしてるときに見る夢なんて大抵悪夢に決まってるわよ」


「せやな」そう言って涙を拭き取る希。


『悪夢』その単語を口にして、一つ希に聞いてみたいことがあった事を思い出した。




...



にこ「私ね、あんたのよく言うスピリチュアルな物って一切信じない質なのよ」


希「どしたん、急に?まあにこっちはそういったもん信じなさそうやもんあ」


にこ「そうなの、それを分かってもらった上で少しあんたに相談が有るの」


希「ほお、にこっちが相談事なんてめずらしい、ウチで良ければ聞いたげるよ」


にこ「ありがと、さっきも言ったけどこの部屋の事なの」


私自身こんな馬鹿げたこと相談するのなんて、相手が希でなければ絶対に無理だと思う。

でも、私の話を聞く希の目は真剣で、この娘になら話してもいいかな、そう思えた。



にこ「私もこの部屋に住んで二年になるわけよ、さっき言ったみたいに滅多にこの部屋には帰ってこないんだけれどもね」



にこ「まあ、部屋探しをしてた当時なんて、お金もなかったからとにかく安い部屋を探してたの、そして見つかったのがこの部屋。知ってるでしょうけど地下鉄の駅だってすくそこだし、スーパーもコンビニも警察署も近くにあって、築40年って事を差し引いてもいい物件だったの」


一人暮らしを初めるにあたって条件にしたのはとにかく安い物件。

多少古くてもいいから、風呂トイレ別で、駅近のアパートを探していたら、たまたま紹介されたのがこのアパート。


希「確かになあ、この立地は羨ましいわ、風呂とトイレも別やしね」


にこ「そうなのよ、ユニットバスって私無理だからそこは一応条件にいれておいたの。それで月の家賃が3万2千円よ?そりゃもう当時の私は何も考えずに契約印を押しに行ったわ。でも住んでみて色々気づくことも有るわけよ、例えばコレとか」


そう言って私の寄りかかる壁を指差す。

そして拳で軽く2回ほどノックしてみせた。


-コンコン-


軽い音の響く壁面、契約書には鉄筋造と書いてあるものの、隣の部屋との仕切りはベニヤによる簡易的な物。


希「ちょ、にこっち。お隣さん大丈夫なん??」


にこ「ああ、大丈夫。多分今日は夜勤の日だから、朝まで帰ってこないはずよ、それにそんな日でもなきゃあんたたちを部屋に入れたりしないわ」


希「そうなん?なら良かったわ。にしてもそれじゃあ契約書違反になるんやないの?」


にこ「そう思うでしょ?私もそう思って大家に文句言いに行ったのよ、そしたらね、1階角部屋の私の部屋と、隣の部屋って昔はひとつの部屋で店舗だったらしいの。それを無理やり二部屋にしるらしいわ、その状態だと鉄筋造には違いないから契約書にはそう書くみたい。そのお陰でブレーカーも大元がひとつになってるから、どっちかの部屋が落ちると大元が落ちて外の配電盤まで行かなきゃいけないのよ」


希「そりゃまた偉い物件掴まされたんやなあ、でもにこっちはそれでも住むって決めたんやろ?」


にこ「ええ、どうせ寝床くらいにしか使わないだろうって思ってたし、それにお隣さんと帰宅時間がずれてるから同時に部屋にいるってことはなかったからね。それでまあいいかなって思って住むことにしたのよ」


希「にこっちも苦労してるんやなあ、そんだけ壁薄いからお隣さんのおるのも分かってしまうんやね」


にこ「そゆこと、でもまあ正直あんたが想像してる以上に筒抜けなのよ、お隣さんはお構いなしに電話もするし人も連れ込むもんだから、私も私で気にしないようにはしてたの」


希「ウチとしてはますます真姫ちゃんとの同棲をオススメしたい気分やわ...」


にこ「真姫の部屋への入り浸りはそれが原因でも有るわ、まあそれは置いておいて。この壁のせいで音だけでだいたい向こうの部屋で何してる家が分かっちゃうのよ。例えば料理してるとか、寝てるとか、電話してるとかね。引っ越した日にお隣さんと顔合わせたんだけど、多分私らより一回り位年上の女の人の一人暮らしなの。見た感じ優しそうな人でさ、うるさい時は言ってくれて構いませんからって言うもんだから、少しだけそれで安心出来たわけ」


希「たしかに、お隣さんが女の人ならばまだ安心かな...でもウチなら多分ギブしてるわ...」


にこ「普通はそうよ、でもそん時の私に余裕はなかったからね、致し方無しってとこ。不本意ではあるけど、この壁のせいでお隣さんの勤務時間も覚えちゃったのよ。まあその方が私も考えて動けるからいいんだけどさ、だから今日も朝まで帰ってこないって分かるの」


希「そうだったん、さすがにこっちと言った所やね」


にこ「前の家主も苦労したはずよ、たまに届くダイレクトメールとかを見ると結構若い女の人なんだけど」


一気に話して少し喉が渇いたので、さっき持ってきた水を一口飲んだ、希も私と同じくグラスに口をつける。

希に聞いてもらいたかったのは、詐欺物件を掴まされ時の話ではなくて、住み始めてしばらくったった頃の話。



にこ「なんとかしばらくは住めそうって思って、半年位たった頃だったかしら。月一くらいで同じ夢を見るのよ。私がこの部屋に帰ってきてから夕飯の支度をするまでの夢」


希「同じ夢かあ。夢占いだと、よく葛藤とかトラウマが反映されるとか聞くわ」


にこ「そうなの?トラウマとかあまり気にしない性格ではあるんだけども。でもね、少しずつだけど夢の内容が変わるのよ。電気が点かなかったり、水道の水が止まらなかったりね。別にその位なら私だって気にも留めないのよ、一度だけどうしても気になる夢があったの」


そこで一呼吸つく。

正直その夢は気味が悪くて思い出したくない夢だから。

希も私の顔色を察して間を合わせてくれていた。


にこ「夢の中の私はその日も遅くに帰ってくるの。廊下の電気をつけて靴を脱いで家に上がって。そこで居間との引き戸が空いてるのを見つけるの。寒いと思ったら窓が開きっぱなしになってるのよ、そこから窓を閉めようとするんだけど居間がやたら広く感じてね、ちょうど今の二倍くらいかしら、その後部屋の窓を閉めようとして少し歩いたところで玄関が開いた音がして、そこから真っ暗で何も見えなくなるの」


にこ「そして息苦しくなって夜中に飛び起きるの。悪夢の一回二回程度じゃ夢見が悪いくらいで済ませてたんだけどね。さすがにこうも続くと気が参っちゃって」


こんな曖昧で要領を得ない告白をする私を、希はどう思うかしら。


にこ「ねえ希、この部屋にあんたらを呼ぶのは今回が初めてよね。何か気付いたこととか無い?それ次第では私の正気を疑う前に、この部屋を疑ってみようと思うの」


何回もあんな苦しい夢を見るなんて、普通なら自分の正気を疑いたくなるところなんだけども。

その前に、この何とも言えない違和感の正体が知りたかった。


希「うーん、そういった類の知識はあるんやけど、能力みないなんがウチにあるとはあんま思ってないんよね。でも違和感って言うならばウチは風呂場が気になるなあ」


にこ「風呂場?そうかしら?数年前に新調したとか大家が言ってたわ。この部屋の中で一番新しい場所なんだけど」


物件探しの時、不動産屋がやたら推していたのが風呂場だった。

なんせこのアパート内でも一番新しくて、上級機種だとかなんだとか...


希「そこなんよ。さっきここに来る途中他の部屋を見た感じだと、他の部屋はどこも浴室内に風呂釜が置いてあるタイプみたいなんやけど、にこっちの部屋は給湯器が外にあって新しいやつやん?」


私が家族と住んでたマンションの風呂場に有ったのはバランス釜というタイプの風呂釜。

不動産屋に紹介された時は別の部屋を見せられたので、他の部屋は実家と同じ型の旧式が置いてあることは知っていた。


にこ「でも大家は故障したから取り替えたって言ってたわよ、そうならば特に不審な点でもないわ」


希「うん、確かにたまたま故障して取り替えたって言うなら自然なんやけどな。でもお隣さんのお風呂も多分、この部屋と同じ型のやつなんよ」



希「ほぼ同時に、隣り合った部屋だけが風呂場を改装するって、少し不自然やない?」


希に言われてはじめて気がついた。

今まで考えたことがなかったし、希の洞察力の鋭さには驚かされるわ。


なぜこの二部屋だけ、給湯器だけでなく内装工事も含めた大規模な改装がされたのか。

今は得体のしれない不気味さより、違和感の正体に一歩近づいたことに少しだけ興奮していた。


希「少し風呂場見てみてもええ?」


にこ「ええ、私もついていくわ」


お節介好きで、少しだけ鬱陶しく感じる時もある希が、今日はやけに頼もしい。

寝息を立てる絵里をベッドへ移し、希と風呂場へ向かう。



希「うーむ、確かに見た感じだと綺麗なお風呂って感じしかせーへんな」


明るい照明、綺麗な浴槽、そして無駄に多機能な給湯器の操作パネル。

自慢ではないけども、どこを探したってカビの一つも見つからないはずよ。


にこ「まあねえ、使わなくたって掃除してますから」


希「さすがμ’s随一の女子力をお持ちなだけあるわ」


褒めたって何も出ないわよ。

私も希と一緒に風呂場を見渡す、うん、特に異常なし。


希「にこっち、今ってお隣さん居らへんよね?」


にこ「ええ、帰ってきたならば居間に居たって音でわかるしね」


すると希は風呂場に有った椅子に乗り、点検口のハッチを開け屋根裏を覗き始める。


にこ「ちょっと!希、あんたまさか登ってく気じゃないでしょうね!?」


希「さすがにウチもそこまでせんよ、ちょっと間取りが気になっただけや」


携帯電話のフラッシュライトであたりを照らし、確認が終わったのか希は椅子から降りて手を洗う。


にこ「まったく、びっくりさせないでよね。で、なんか見つかった?」


希「せやな、どうやらお隣さんとお風呂が隣接してるみたい、これじゃ居間だけでじゃなくてお風呂の音も筒抜けやね」


にこ「だからそう言ったでしょ、もうびっくりするくらいに音がだだ漏れなのよ」


希「しかも鉄筋の壁が無いから、屋根裏からお隣さんの部屋までひとつづきやん」


壁がベニヤなのは知っていたけど、予想以上に脆弱だったプライバシーに少しだけ寒気を感じる。


希「そんな落ち込まんで、にこっち。見た感じだと誰も天井を這っていったような様子はなかったし、心配せんでもええよ」


慰めてくれているんでしょうけど『天井裏を這う』なんていう状況を想像しただけで、私としてはかなり精神的にくる物があった。


にこ「ありがとう希、一旦部屋に戻りましょうか、飲み物を持ってくから先に行ってて頂戴」



少しだけ気持ちが落ち着くかと思い、水で出したジャスミン茶をグラスに注ぐ。


希「ありがと、にこっち」


私も一口飲んでみる。

やっぱ沖縄産は香りが違うわね。


希「さっき見た感じだと、お隣さんの風呂場も丸ごと新しくされてるのは確実やな」


にこ「数年前に、この二部屋の風呂場を改装する必要があったって事ね。しかも古い壁紙の張り替えをするより先に」


ベニヤの壁面を除き、この部屋の壁紙は経年劣化を感じさせる風合いで、手っ取り早く部屋を綺麗に見せるならば、壁紙の張替えが先に行われるのが自然なはず。


希「正直これ以上は、関係者に聞いてみないと分からんね」


にこ「そうね、明日あたりもう一度大家に揺さぶりかけてみようかしら」


希「にこっちもやる気やね。何もわからんかったら、とっとと引き払ってしまうのがええんやない?」


にこ「なんか騙されてるみたいで、はっきりさせないと収まりが悪いのよ。そろそろいい頃合いだし、ついでに新居の目安も付けておきましょうかね」


希「それがええ。さてと、この眠り姫さんをどうやって起こしたろうかな〜」


そう言って絵里の頬をつつく希、それでも起きる気配は全く無い。

人のベッドでどんだけ熟睡してんのよ。


にこ「明日はあんたら学校でしょ、終電には間に合わせなさいよ」


心細くなんて無い、といえば嘘になる。

出来れば泊まっていって欲しいとまではさすがに言えなかった。

私が今日ここに泊まるとなると、丁度1ヶ月ぶりくらいになるのかしら。


希「にこっちも不安なんやったら真姫ちゃんとこ行けばええんやない?」


にこ「そうなんだけどね、明日大家のとこに行くとなるとこっちからの方が都合がいいのよ」


希「それなら仕方ないか。ほらエリチ〜ええ加減に起きないとわしわしやで〜」


ため息をついた希は、一応家主である私に目配せで了承を求めてくる。


にこ「程々にしなさいよ」


すると希はいつもの悪戯っぽい笑みを浮かべると、見てるこっちが恥ずかしくなる位のわしわしを炸裂させた。


...


希「ほいじゃあな~、にこっち、今日はありがとう、エリチも...って靴紐ほどけてるやん...」


絵里「にこ、今日は世話になったわね。また集まりましょう、今度はウチでやりましょうか」


声色だけは賢さを演出しつつ、希に靴紐を結んで貰うというこのポンコツ生徒会長。


にこ「ええ、私も楽しかったし。時間さえ合えばまた集まりましょう。あと絵里は次回までにお酒の飲み方を復習してきなさい」


絵里「任せておいて、どの銘柄のウコンが効くのかちゃんと調べとくわ」


靴紐を結び、立ち上がる希。

コレじゃあ恋人と言うより保護者じゃない。

まあ、私達も似たようなものだからなんとも言えないんだけれども。


希「はい、出来上がり!エリチ忘れもん無いな?」

絵里「うん、ひと通り確認したわ」


希「じゃ、行こか。今から歩いてちょうど位やし」

絵里「じゃあね。にこ、あんまり頑張りすぎるんじゃないわよ!」



にこ「余計なお世話よ!あんたも希に迷惑かけ無いくらいには賢くなりなさいよ!」


手を振る希たちが、街灯の角に隠れるのを見届けて、私も部屋に戻ることにした。




...




祭りの後の私の部屋、その静けさのせいで込み上げてくる寂しさに耐えきれず、見る気もないテレビのスイッチを入れる。


片付けは大体終わらせてしまったから、後は就寝の身支度をしてベッドに潜るだけね。

一つだけ残った私のコップをキッチンへと持っていき、最後の洗い物を片付ける。


ほんと、あいつらも変わんないわねえ。

卒業してから数年が経って、取り巻く環境はこんなにも変わったのに。

あの時と変わらず、集まってはこうやってバカやってる私達。


いけない、夜にそんなこと考えるとしんみりしちゃいそう。


丁度いい酔い加減で、今ベッドに潜りこんだらさぞ安眠出ることでしょうね。


さて、ささっとシャワーでも浴びて明日に備えましょう。

大家にガツンと言ってやって、何か隠してるようであれば必ず吐かせてやるんだから。


ワンルームの私の部屋には、脱衣所なんてものはなく、玄関と居室の施錠を確認しお風呂の準備をする。


少しだけお湯の設定温度を低めにし、温めのシャワーを浴びた。

酔いが回って火照った体にひんやりと気持ち良くて、今なら立ったまま寝れそうなくらい。


その時、鈍い金属音が風呂場に響く。


多分これはお隣さんのドアの音ね。

今日は夜勤かと思ったんだけど、違ったのかしら。

まあ、みんな帰った後だし問題ないか。


風呂場から出て、手早く髪を乾かすと寝巻に着替えてベッドに潜る。

冷房の温度を少し上げ、テレビを消し、照明を常夜灯に。


ふと、わしわしを受けた絵里のリアクションを思い出し、思わず一人で少しにやける。

思い出し笑いなんてキモチワルイ、と思うけど、本当におかしかったんですもの。

また次に集まれるのはいつ頃かな、いつもより穏やかな気持ちで静かに眠りについた。





....





外が騒がしい。

眠りについて何時間経っただろう、窓から見える真っ暗な空を見る限り夜明けはまだまだ遠いみたい。


県道沿いで車の往来が激しく、しかも最下層の部屋だから騒音には慣れているんだけども。

絶え間なく部屋に響くのは、発情期特有の猫の鳴き声。

緩急をつけながら鳴き続けるその声のせいで、私の安眠はすぐさま遠のいていく。



時折怒り出したように強くなる鳴き声は、一層私を腹立たせ、そして何より気味が悪かった。



それに重なるように聞こえるのは、向かいの部屋の浴槽にお湯を張る音。


今何時だと思ってんのよ。


隣人は必ず風呂にお湯を張るのを前々から知ってはいたんだけど。


帰ってくるのが遅いのはわかるけど、ちょっとは気を遣いなさいよね。

ああ、もう。とっととこんな部屋引っ越してやるんだから。


布団を被り、気持ち程度遮音をして夜を乗り切ることに。

そのためにあと少しだけ、エアコンの温度を下げようとリモコンを操作する。


しかし、何回押せどもエアコン本体からのアンサーバックは帰ってこない。


こんな時に電池切れ?

ついてないわね...


リモコンを手元に手繰り寄せ、携帯の照明でリモコンの表示を確認する。

液晶には『冷房:24℃』の表示。


おかしいわ。

いつの間に本体電源が切れたのかしら。


タオルケットから顔を出しエアコン本体のLED表示を確認する。


本体の動作を示すLEDは消灯しており、さらにテレビの待機電源も、常夜灯も落ちていた。


こんな時に限ってなんで停電なのよ。


電力会社との契約上、エアコン1台くらい動かしたところでブレーカーは落ちるはずもない。

しかし、大元のブレーカーを共通させているこの二部屋は、片方が電力を大きく消費すれば、大元が遮断され自室での復旧は不可能となる。


そっちの部屋のせいで落ちたんだから、ささっとブレーカー上げに行きなさいよ。


冷蔵庫にはもう何も入ってないし、たぶん大丈夫かしら。

まだ向こうは起きてるみたいだし、放っておきましょう。


布団をかぶり、目を閉じる。

少しだけ遮音の効いた布団の中で、やっと安眠できるかと思った時。




希のような観察眼と、洞察力は持ち合わせてなんかいない。

しかし何かがおかしい、違和感の正体に気づくのにそう時間はかからなかった。




二部屋とも停電しているこの状況では、当然給湯器の電源も入らず、出てくるのは水のみとなるはず。

にも関わらず、浴槽に水が溜まり、次第に小さくなる水音が鳴り止む気配はない。



それに、真夏の蒸し暑い夜に布団を一枚かぶろうとも、まったく暑さを感じない。

エアコンの必要を感じないくらいに部屋の温度は冷え切っている。


ついに水は溢れ、浴槽の床を水が伝っていく。


小さくなった水音のせいで、例の鳴き声がより鮮明に聞こえてきた。


息継ぎを繰り返し絶え間なく続くその声。


猫ってこんなに必死に鳴くものなのかしら?


違う。

重なりあう騒音に耳が慣れてきた今、この鳴き声の正体が猫ではないと確信した。




間違いなくそれは、赤ん坊の鳴き声。



このアパートに越してきてから初めて聞く赤子の夜泣き。


言葉を持たない赤ん坊が、必死に何かを伝えようとしているような泣き声。


何なのよ、一体...


立て続けに振りかかる理解できない状況に、頭が追いつかない。



やっぱり無理だったんだ、この部屋に住むのなんて。

どうしよう、もうこの部屋で寝るなんてできない。


今からでも真姫のとこに行こうか、鍵は壁にかかってたわよね。

とにかく今すぐ部屋から飛び出して行きたい。


最低限の持ち出す物がどこにあるかだけ確認し、布団を出る。


やっぱり寒い。

壁にかけてるピンクのカーディガンを羽織って、鍵を手にする。

その直後、すぐ横にある給湯器の操作パネルの電源が復旧した。


今更遅いわよ。


電気が戻ったところで、私の意思は変わらない。

そして、机に置いた財布に手を伸ばす。




突如部屋に響いたのは聞き慣れない電子音。

照明も落ち、冷えきったリビングに、無機質な電子音が余計に寒々しく感じる。

チープなメロディに続き、音質の悪いスピーカーから女性の声でアナウンスが流れた。


                               

『お風呂で呼んでいます』








後編



それからはとにかく必死で部屋から出ることしか考える余裕はなかった。


玄関の手前にある浴室を覗くなんてことは出来ず、部屋の鍵も閉めないまま駅前まで駆ける。


駅前で停車していたタクシーに飛び乗るや否や、行き先を早口で告げる私を見て、ドライバーは少し動揺しているようだけど、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。



幸いなことに、ケータイ、財布、鍵束はバッグに入ってる。


ケータイの画面を確認すると、待ち受け画面には『3:15』の時刻表示と1件の着信を告げるアイコン。


丁度、30分ほど前に希から着信が有ったみたい。


とりあえず落ち着いてから掛け直そうと思い、タクシーのシートにもたれる。



上がっていた呼吸も落ち着いてくる頃。


とは言え、落ち着いたところでさっきの状況を理解することは出来ない。


聞いたことのない赤子の夜泣き。

浴槽に水を張り続ける隣人。

そして、誰もいない浴室からの呼び出し。


なんでこんな思いしなきゃいけないのよ。


やがて車窓からは見慣れたマンション街が近づくのか見える。


通りからギリギリ見える真姫の148号室。


カーテンの隙間からリビングの明かりが漏れてる。


流石にこの時間なら帰ってきてるわよね。

今日は向こうに泊まると言っておいたから、まさか私が来るなんて思ってないはず。


タクシーをマンションの乗降口に止めさせ、支払いを済ませるとすぐさまエントランスで鍵を開け目当ての14階のボタンを押した。


正直今は、起きてる真姫に会える事より、早く寝たい。





第二の我が家とは言え、一応玄関前のチャイムを押す。


インターホンでの応答が返ってこない。


もう寝てるのかしら。

起こしちゃ悪いからそっと鍵を開け扉をくぐる。



リビングに向かう前に少し滲んだ汗を拭こうと、脱衣所の棚から一枚タオルを拝借。


磨りガラスの向こうではシャワーを浴びる真姫のシルエットが。


今声掛けても聞こえないでしょうね。



リビングのソファに横になる。

ああ、もうこのまま寝れそう。


一応真姫が上がるまでは起きておこう。

テレビのリモコンを手にとって、未視聴の録画番組を適当に流しておいた。




いろいろ気になる事はあるけれど、私が悩んだところでどうにかなるような問題じゃないし。


ただもう、向こうの部屋では寝泊まりしない。

その決意だけは変わらないわ。


ソファの背後にある扉が開き、タオルを肩に下げた真姫が少し驚いた様子で部屋に入ってきた。


「ただいま」


「どうしたの?向こうで泊まってくるのかと思ってた」


「やっぱあのアパート引き払う事にするわ、とりあえず今日はこっちに泊まるから」


「...何かあったの?私もあんまりそう言ったの詳しく無いから、相談には乗ってあげられないけど」


真姫は冷蔵庫を開けてお酒を取り出すと、私に向かって振ってみせる。

もうおやすみモードに入りかけてる私は、首を横に振り、その代わりにお水をもらう事にした。


「いいの、別に解決しようって訳じゃないから」

「それと真姫、せめてシャツくらい着て頂戴」


さっきから半裸で部屋をうろつく真姫に忠告する。

もしかしたら向かいのマンションから覗かれてるかも知らないじゃない。


次に続く小言を察した真姫は、諦め顔のまま寝室に戻り、寝間着を着て戻ってきた。


「どうせ外からなんて見えやしないわよ、にこちゃん心配しすぎ」


そりゃそーかもしんないけど。

そういうことじゃないのよ。


「はぁ...」


せっかくの楽しい休日が、あんな事で台無しにされるなんて。


そういや、希から着信が有ったんだったわ。

どうしよ、明日の朝でいいかしら。


「真姫、明日時間ある?」


「ええ、明日は別に顔出さなくてもいいって言われてるから」


この時間に帰ってきて、そっから飲むくらいですし。


「明日大家のとこ行くの、暇なら一緒に来てくれない?」


「別にいいけど、部屋の事情は何も分からないわよ、それで良いならば」


正直隣りに誰か居てくれるだけで安心できる、それが真姫ならば尚の事。


「よかった、明日の昼過ぎあたりに出ようと思うから、ゆっくりしてから行きましょう」


テーブルに有った水を飲み干して『先に寝てるわね』と一言。

掌で返事をする真姫を横目にリビングを出た。


寝室のベッドは、大人2人が寝転んでもまだ余裕のある大きさで、一人では少し落ち着かないくらい。

早く真姫も寝れば良いのに。


そんな考えを最後に、疲れ切ってた身体はすんなりと睡眠を受け入れた。



...


「...んん」


ああ、そういやこっちで寝たんだっけ。

隣にはうつ伏せになり、枕に顔を埋める真姫の姿。


よくこんな姿で寝れるわね。



壁掛け時計は午前8時半を指していて、朝食の準備には少し遅すぎるくらい。


もうちょっと寝てても良いけど、せっかく真姫も休みなんだし、ご飯の用意をしておきましょうか。


静かに寝室を後にして身支度を済ませる。


一昨日買って置いた野菜をサラダボウルにして、余った野菜の切れ端をミネストローネに。


とりあえずサラダは冷蔵庫に入れてこう...


あ、出かける前に洗濯機回しとかなきゃ。


パンと卵は後で焼けば良いから、先ずは洗濯ね。




無駄に機能満載の洗濯乾燥機に洗濯物を放り込み、スイッチオン。

相変わらず私以外に使われた形跡のない洗濯機、使わないなら私によこしなさいよ。


いつもコインランドリーで洗濯してるみたいだけど、私なんてベランダが無いせいで仕方なく金払って乾かしてるっていうのに。


まあ、こっちに越してきたら2人で使うんだし別にいいか。


今までの半同棲状態から、いよいよ本当の同棲になる私達。

なんだか少しだけ緊張するかも。


そのためにも、早いとこあの部屋を引き払わないとね。



そうだ。

昨日の夜、希から着信が有ったっけ。


部屋に忘れ物でもしたのかしら。


1限あるって言ってたし、メールだけ入れておいてコールバックを待つことにした。


朝の家事もひと通り終わらせて、後は真姫を起こすだけになった訳だけども。

真姫ったら何時に寝たのかしら。

繰り返し鳴るアラームもお構いなしに、相変わらず苦しそうなうつ伏せ寝を敢行する真姫。


しょーがないわねえ。

お昼に出かける予定だから、そろそろ起きて欲しいんだけど、あと少しだけ待ってあげる。

癖っ毛の頭を一撫でしてから、廊下のモップがけを始めた。






「のぞみい、2限の教室どこだっけー?」


「2限は休講になったってさっき言うてたよ」


昨晩にこっちのウチを出るまでは上機嫌だったんやけど、家に着くなりトイレへダッシュ。

やっぱ、帰り際に水飲んだくらいじゃ誤魔化せんかったみたい。


「あー、そうだったわね。じゃあこの後どうしましょうか?」


家についてからにこっちの事が気になって、電話したんやけど留守電で結局つながらず。

今日も休みって言ってたからまだ寝とるんかな?


それより、まず今はこの二日酔いさんをどうにかせんと。


「うち少し調べ物したいんよ、図書室でお昼まで時間潰さん?」


「いいわよ、今なら寝てても大丈夫そうだし」


図書室で昼寝してる生徒なんて見つけたら、昔のエリチなら真っ先に喝入れとったやろうなあ。

トゲトゲしたエリチが今みたいになったんも、ウチの教育の賜物かな。

でも最近ちょっとポンコツが過ぎる気もするけど。


「どうしたの?希。早く行かないとソファ席取られちゃうかもしれないわよ」


「まってー、エリチー。廊下は走ったらアカンよ」


うーむ、これは少し教育方針を変えてみよかな。


...


昨晩寝たのは夜中の3時過ぎ。

トイレで名前を呼ぶエリチの背中をさすり続けて、正直ウチも少しだけ眠い。


購買でコーヒーを買うと図書室に付く前に一気飲みして気合いを入れる。


目当ての新聞コーナーは...

お、誰もおらへんな。


しめしめ、と思いバックナンバーの収納されてる引き出しを片っ端から開けて行く。



探し始めて30分。


あった。

ようやく見つけた、5年前のとある記事。



【幼児殺害し現金奪う。母親の知人男性を逮捕。xx日、xx県警は無職◯◯◯◯(35)容疑者を強盗致死罪の疑いで逮捕した。◯◯容疑者はxx日深夜に被害者宅へと侵入し現金を奪った上、寝室で寝ていたxxちゃんを浴槽で窒息させ...】



普段報道されてるこういった類の事件も、必要以上に感情移入しちゃうから、出来るだけこの手の情報は仕入れないようにしてはいるんだけど。


この記事の事、真っ先に知らせなきゃいけない人がいる。




「ごちそうさま」


「お粗末様でした」


時刻は10時半過ぎ。

廊下のモップ掛けを終わらせ、洗濯物をたたみ、窓ガラスでも拭こうかとしたところで、流石に起きる様子のない真姫を起こした。


「あんた昨日何時に寝たの?」


「んー、にこちゃんが寝てそっから映画一本見たから5時前位かしら」


「そんな事してるといつか体壊すわよ」


「そしたらにこちゃんが看病してくれるでしょ?」


目一杯の不機嫌顔を見せつける。

こっちは心配して言ってるのに。


「そんなに怒らないでよ。私が悪かったわ」

「なんとか今のスケジュールで見通しが立ったの、この夜型生活も来週までよ」


何時もなら、年上の私が上手いこと真姫をからかってやるのに、最近何だが私がからかわれることが多いかも。


「あっそ、ならば来週からはちゃんと自分で起きてご飯食べに来ること。ごちそうさまでした」


私も朝食を終え、食器をキッチンへ運ぶ。

真姫も決まりが悪そうに食器を持ち後を付いてくる。

ちょっとキツく言いすぎちゃったかな。


「私が洗うから」


そう言って真姫は洗い物をし始める。

ふと横を見てみると、ちょっと膨れてちょっと涙目の真姫。


はぁ〜、これじゃあ私がいじめたみたいじゃない。


私も一緒になって意地張り始めたらキリがない、付き合って知った教訓の一つ。



何時もの口癖は心の中にしまって置いて、私も一緒に洗い物を始めた。



その時、エプロンのポケットからメールを知らせる着信音が鳴る。


「ごめん、これお願い」


黙々と皿を処理しつつ、こくりと頷く真姫。

こりゃ後でフォローしとかなきゃだわ。


じゃなくて、今このタイミングでメールを寄越すのは...



...



「おーい。にこっち、真姫ちゃんこっちーやでー」



学生街の外れにある喫茶店の片隅。

真姫を加えて、昨日に続き懐かしい面子が集まった。


店の奥程にある四人席には、見知った2人。


にこ「ごめん、遅れたわ」


希「ええよー、おかげでエリチにご馳走になってたし。真姫ちゃんは久々やね」


真姫「ええ、希とは半月ぶりくらいかしら。絵里と会うのは半年ぶり?」


絵里「もうそんなになる?元気そうで何よりだわ」


真姫「相変わらずよ。にしても絵里はあまり顔色が良くなさそうだけど?」


希「それなあー、ウチの監督不行き届きで昨晩はにこっちにもご迷惑を...」


絵里「希!昨日の事は言いっこ無しって言ったじゃない!」


希「あ、そうやったっけ?まあとりあえずお二人さん何か注文する?」


こりゃもう暫くは完全に希のペースね。

お気の毒に、絵里。


さっき食べたばかりなので、私と真姫はアイスコーヒーだけ注文する事に。


にこ「で要件って?昨晩夜遅くに電話よこしたわよね。まあ、寝てたから出られなかったんだけども」


希「うん、気になる事があってな。今日も色々調べてたんよ」


希「少しだけ分かった事があるから、にこっちに知らせよ思って」



2人分のアイスコーヒーが運ばれて来る。

グラスの一面には既に玉の汗。


腕組みしながら静観を決め込んでいると真姫と絵里を傍目に、話は進んでいく。


希「うちがコッチに越してきて、一人暮らしを始めたんは中学卒業したての5年前なんやけど」

希「中学出たてのウチを一人で暮らさせるのは両親もえらい心配だったみたいで、近くで何か起きるとすぐにでもウチに知らせが来るんよ」


『さすがに今はそんな事ないんやけどね』と付け足し、冷めたアメリカンもそのままに、お代わりを注文した。


希「ウチが調べんでも情報が回って来るもんだから、ここ数年ここらで起きた事は大体耳に入ってくるんよ」


希「そんでこれ、5年前の記事なんやけど」


希がクリアファイルから出してきた記事のコピー。

以前に起きた強盗事件の記事、どうやら当時の見出し記事みたい。

少しだけ読み込んでから写真を確認する。


間違えるはずもない、その写真は私の住むアパートの外観。


にこ「どういう事?まさか私の部屋はこの事件の現場だったの。事故物件って説明は受けてないし、契約する前に一応調べもしたのよ?」


希「にこっち、落ち着いてな。こっからはウチの推測やけど、昨日の話やとあの部屋は昔大きな一部屋で店舗兼住居やったんやろ?だとすると当時にこっちのいる101号室は無かったことになると思うんよ」


希「あの事件の後、部屋そのものと水周りを2つに分けて。実質にこっちの部屋はその時出来たっていう事になってるんやないかな」


『だから事故物件の記録にも残らんし、大家に説明の義務もないんやないかな』そう希は締めくくった。



希「にこっち、もしまた嫌な思いしたんなたもうあの部屋には近づかん方がええ、業者呼んで真姫ちゃんウチに荷物運んでもらい」





真姫「にこちゃん」


真姫が私の肩に手を乗せて心配してくれてる。

『大丈夫』そう言って手を降ろさせた。


にこ「ありがとう希、そこまで調べてもらって。もうあの部屋にはいかないし、今日にでも手続きを始めるわ」


本当世話焼きが好きよね。希は。

私のためにここまでしてくれるなんて。


でもどうしてだろう、つい昨晩私にあんな事があったのを知ってるみたいな言い方ね。

まだ昨日の夜に何があったか何て話してないのだけど。


にこ「この後真姫と一緒に大家の所に行ってくるの、もうその場でこっちの意向は伝えるわ」

にこ「後一つだけ聞いても良いかしら?」


希「ん?どうしたん?」


にこ「もしかしたら希、昨日の他に何か他に気付いてたのかなって思ったんだけど、違う?」


少し考え込んでから、希は話し始めた。


希「実は昨日にこっちの部屋に来た時からお隣さんが騒がしいなって思ってたんよ、でもにこっちはお隣さん留守やて言ってたやん」


希「その後天井裏除いて分かったんやけど、多分アレはどっかの赤ちゃんの夜泣きみたいな声やった。エリチもにこっちも気にして無いみたいだったからウチもそうしてたんやけどね」


希「ま、それだけやし。もしかしたらウチの聞き間違いかもしれへんしな」


にこ「ありがとう希、気を使わせて悪かったわ」


希「ううん、何もにこっちが気にするこたないよ」


希はあの時もう聞こえてたんだ。

その後、昨日の出来事の一切を希に打ち明けてみることに。


希も絵里も静かに話を聞いているけれども、心なしか表情が重たい。

まさか自分の聞いた声が、いもしない赤子の声だったことに少々戸惑ってる希。

真姫の家に着き寝るまでの一部始終を話し終える。少々間を開けて希は話し始めた。


希「にこっちの身に起きたことが、誰のせいで何のために起きた事なのかはウチらには見当もつかんけど、これだけは守ってほしいん」


希「あんな事件が有ったからって絶対にその子に同情とか哀れみを抱いたらアカン。小さい子ってのは親なしでは生きてけない存在なんよ、それはこの世からいなくなっても同じ事。きっと今その子すごく寂しいはずや。だから可哀想だなんて思ったらアカンと思うんよ」

重要な部分を包み隠したような曖昧な忠告だけれども、希の言いたいことは十分に分かる。


不本意にもこんな厄介事に巻き込まれた私、もちろんこれ以上事を大事にする気も、根本から解決してやろうだなんて気もない。

ただ、また以前みたいな日常が戻って来ればそれでいいの。


そのためにも希の忠告はとても大事なことに思えた。



にこ「分かったわ。この話はここでおしまい。変に深入りして事を面倒にするような事はしないわ」


...


にこ「もし希と話せてなかったら、きっとこの後は医者に行ってるところだったかも」


希「んな大袈裟なー、にこっちには真姫ちゃんもおるんやし。これはきっと、はよ同棲せいっていうお告げやないの」


にこ「なにいってんのよ、もう。あんたたちも学校戻るでしょ?私たちも大家のとこまで行くからそろそろ解散しましょうか」


希「せやね、あ、でもウチらは午後の授業まで少しあるから、授業の資料ここでまとめてく事にするわ」


にこ「そう?ならば先に行きましょうか、真姫」


真姫「え?ああ、うん。わかったわ」


絵里「何かあったら何時でも連絡よこすのよ」


絵里も、きっとこの手の話は苦手でしょうに、無理をさせちゃったかしら。


にこ「絵里もありがとう。この埋め合わせは今度の飲みの時にでも返すから」


絵里「あら。じゃあウチのキッチンで手料理でも振る舞ってもらおうかしらね」


にこ「分かったわ、まかしといて。希、いろいろ動いてもらってありがとう。助かったわ」


希「そんな感謝されるような事はしとらんよ、はよ真姫ちゃんと同棲してラブラブしーや」


一纏めの伝票をつかみ、店を出た。


駐車場の端に停めた真姫の車に乗り込み、郊外へと走り出す。

ふと、気になった様子で真姫が訪ねてきた。


真姫「絵里、最後まで顔色悪かったわね。大丈夫かしら?」


確かに、ちょっと飲みすぎたとはいえ、少し引きずりすぎかも。


にこ「少し具合悪そうだったわね、後で希に様子聞いてみるわ」


整然としたビル街を走り抜け、街の様子は地方都市特有の大型チェーン店通りへ。

ナビは古い建屋の並ぶ旧市街への道のりを示していた。


...



希「はい、これで全部やな」


絵里「うん、原稿も問題ないしこれでオッケーね」


午後の講義の準備も終わり、正午を少し過ぎた頃。

にこっちと真姫ちゃんが帰った後、残りの時間をこの喫茶店で過ごすことにしたウチら。


ついでだからお昼も食べてってええかなー、ここのハヤシライス美味しかったし。



希「エリチ、どうする?お昼も食べてこか?」


絵里「いいえ、遠慮しとくわ。あまり食欲がないの」



やっぱ昨日のが効いてるんかな。

今日の夕飯はうどんかおじやにでもしよ。



希「そうなん?辛いようだったら早う帰ってもええんよ」


絵里「いいえ、午後一の発表を希だけに任せるわけにはいかないもの。でも今日はサークルにも顔出さないですぐ帰ることにするわ」


あー、今はちょっとだけ強情なエリチみたい。

まあ、倒れそうって程でもないし、ウチが付いてれば放課後までは大丈夫かな。


絵里「ねぇ希。にこ、昨日酷い目に遭ったって言ってたわよね」


そう言えば、この手の話題はからっきし苦手なエリチ。

変に引きずってなきゃええんやけど...


希「そうやなぁ、はよ真姫ちゃんとこに越して欲しいもんやわ」


絵里「私もホントそう思うわ。私、昨日にこの部屋で少し寝ていたじゃない?」


希「うん、にこっちにお水貰った後、ちょっと寝ててもらったもんな」


そう言えば、少し夢見の悪そうな様子だったかも。


絵里「ずっと浴槽の水を眺めてるだけっていう変な夢だったわ、濁った水が溜まっていくのを眺めてるの。底に何かあるような気がして覗き込むんだけども、丁度そのあたりで希に叩き起こされた感じかしら」


絵里「昨日までは変な夢、としか思わなかったんだけどね。さっきの話を聞きくと関係ないとは思えなくてね」


そのせいで時折朝から考え込んだようにぽけーっとしてたんかな。

エリチもいつもなら夢なんて覚えてないはずなのに、よっぽど印象に残ってるみたい。


希「まぁ、トイレが近いと水の夢を見るっていうしな。いろいろ偶然が重なっただけやないかな」


絵里「私の考えすぎかしら。あんまり私達が影響受けすぎるとにこも心配しちゃうわよね」


希「せやな、もうウチにできる事もないし。後はにこっちが大家さんにガツンと言うだけや」


絵里「それもそうね。」


何とかエリチにいらん心配させないように出来たかな。

さて、次の講義まで後は一時間と少し。

なんか食べてからでも間に合うかも。


希「すみませーん」


店員さんを呼ぶとお昼メニューの注文を告げる。

エリチからは、『今から食べるの?』みたいな視線を感じるけど、ウチの早食いを舐めたらあかんで。



...




道幅が狭いくせに、国道並みの交通量があるような旧市街の街角、あの部屋を私に案内した大家の事務所があった。


事務所前の狭い駐車場に何とか車を止めて、建てつけの悪い引き戸を叩く。

何もご丁寧にノックをして知らせなくてもすりガラス一枚を挟んだ室内から私達の様子は丸見えでしょうけど、一応社会人のマナーというやつね。


事務所は長屋の一階部分、引き戸をくぐると中は10畳ほどの空間になっていて、事務机が二つ入り口を向いてならんでいた。

2年前と何も変わってないみたい。


私の腰より上の高さまで書類が山積みにされ机を覆い隠していて、最初に此処を訪れた時は正直引いたのを覚えてる。


大家はというと、山積みにされた書類の上に置いたコーヒーカップにに口をつけて、久しい来客に驚いているようだった。



今日の目的は二つ。

まず初めにあの部屋を一刻も早く引き払いたい旨を伝えるという事。

そして、希に聞いた事件と私の部屋との関係について、はっきりさせるという事。


挨拶もそこそこに、私は希からもらった記事のコピーを差し出した。





...




絵里「ごめん希、私先に帰るわね」


午後一での発表を何とか成功させ、講堂で帰り支度をするウチら。

未だ体調の優れないエリチは一足先に帰宅する事に。


希「うん、わかった。ウチも先生とこ行ったら買い物してすぐ帰るわ」


今日ツッコミ受けたとこ、今日のうちに聞いとかんと忘れてまうもんな。


講堂前でエリチと別れると、とりあえず時間を潰そうと再び図書室へ。


職員会議が終わるのが4時過ぎやから...

後30分位暇つぶししてればええんかな?


時計を確認しようと左腕を見る。




エリチに貰った時計がない。


ピンクゴールドの外装に、月のチャームが付いた小さな腕時計。


うそやん...

どっか落としてきてしもたんやろか。


いやいや、そんなわけ無い。


なんとか今朝からの記憶を辿って、時計の在り処の目星をつけようとする。


もしかしたら、朝から付けてなかったかも...


昨日の昼間は付けてたはず、にこっちとの夕飯の買い出しに行った時も確かにあったもんな。


だとすると最後に時計を外したのは。



...




大家に引っ越しする旨を伝えると、思いの外あっさりと承諾し手続きをするとのこと。


でも、部屋改築の説明責任については一切の非を認める気は無いらしく、その態度に腹を立てた私を真姫が宥めるなんていう一幕も。


あの部屋で起きた諸々を話すわけにもいかないしね。


話の落とし所に困っていた所に敷金返還のネタをちらつかせてくるものだから、もう面倒になった私はとりあえず部屋の現状を確認させ、問題ないようであれば再来週にでも引き払うと告げた。


そうして私たちは大家の車の後ろを追いかけ、現状確認の為にアパートまで向かっているところ。


にこ「さっきはごめんなさい。取り乱したりして」


真姫「にこちゃんらしく無いわよ。確かに腹が立つのも分かるけど」


年上の私が取り乱してどうするのよ。

これじゃあ先輩失格じゃない。


にこ「真姫が居てくれて助かったわ。私も喧嘩しに来た訳じゃないもの」


旧市街から私の家部屋へは40分くらい。

今日の内に大家が来るとは思って無かったから何の用意もしてないけど、まあ見られて困るような物も置いてないしね。


そう言えば昨晩家の鍵閉めてたかしら。

オートロックなんて付いてる部屋じゃないし、早く確認しとかないと。



...



電話してみるも相変わらず留守電のままだし。

あんまり電話確認せーへんのかな。


今日はこの後大家さんのとこに行くって言ってたからな。

もしかしたら、部屋に戻ってたりするかも知らんし。


電車に揺られながら考える。

昨日のお夕飯の支度手伝う時に外した気がするんやけどなぁ。

だとすればキッチンの棚辺りにあるはず。



夕飯の献立と時計の在り方を考えている内に、目的の駅への到着を告げるアナウンスが聞こえた。


駅近くて本当に便利な所にあるんやけどなあ。

通りを見渡すだけで2軒のコンビニと、スーパーまであるこの好立地。


ウチらはまだ学生だから贅沢な事言ってられへんけど、そのうちおっきい部屋にでも引越ししたいもんやなあ。

もちろんエリチともよう相談してからやけど。


あの街灯のある交差点を曲がってすぐのところやったな、にこっちのお部屋は。





「ごめんくださーい」


やっぱおらへんのかな。

チャイムを鳴らすも返事はなく、通りから見た限りだと電気もついてないみたい。


どうしよ、にこっちと連絡ついた時にでもまた来よかな。

そう思って引き返す前に一度だけドアを引いてみた。


「っと…」


予想していた手応えと違い、勢いよく開いた扉のせいで危うくコケそうになる。


部屋から吹いてくる風は、湿気を帯びながらもとても冷んやりとしていた。


なんやにこっち、部屋におるんかな。


あのにこっちの事や、エアコン効かせて外に出るなんて事するわけないし。


もしかしてお昼寝中?


いや、部屋の鍵開けてお昼寝なんて、絶対にこっちはせーへん。


という事でにこっちの在室を確信。

取り敢えず玄関上がって呼んでみよか。



なんやにこっち、部屋におるんかな。


あのにこっちの事や、エアコン効かせて外に出るなんて事するわけないし。


もしかしてお昼寝中?


いや、部屋の鍵開けてお昼寝なんて、絶対にこっちはせーへん。


という事でにこっちの在室を確信。

取り敢えず玄関上がって呼んでみよか。



そろそろと玄関の扉を潜り、玄関先で呼んでみる。


「おーい、にこっちー。さっきメールしたんやけどみてくれたー?」



相変わらず返事なし。

大丈夫かな、具合悪うなって寝込んでるんとちゃうやろな。

だとしたら真姫ちゃん呼んで見てもらわんと。


その時、カタンと軽い金属音と共に玄関のドアが閉まる。

吹き抜けた風が玄関の扉を締め切るも、その暑い空気はみるみる内にこの部屋の空気と同化していく。


台所のシンクにはまだ新しい水跡があった、もしかしたらほんのさっきまで部屋におったんかもな。


あのけちんぼのにこっちがこんなにエアコン効かせてどうしたんや。


「お邪魔するでー」


靴を脱ぎ揃えると、まずはキッチンの捜索より先にリビングに向かう。


「にこっちー?」


おっかしいなー。

もしかしてほんまに外出中なんかな。


整理整頓されたにこっちの部屋に隠れる所なんてある訳もない。

ホントに外出してるんやったら、悪い事しちゃったかも。


こりゃ早い所お暇して、後でにこっちに謝っとかんとな。


リビングを出て横切るキッチンの途中、お目当ての物は調味料の並ぶ棚の脇に有った。


お、やっぱこっちにあったんか。

無くしたらもう当分エリチに頭上がらんようになってたかも。

あぶないあぶない。


ほっと胸を撫で下ろし、安心感と無断侵入の罪悪感を感じながら部屋を出ようとする。

ホンマごめんなー、にこっち。


さっきまでの水跡はいつの間にか、シンクの底を覆う小さな水溜になっていた。


ほっといたらウチが水出しっぱにしてったみたいかな。

履きかけのブーツを脱ぎ今一度キッチンへと上がった。


古い蛇口ではよくある水漏れ、あんま締め過ぎるとパッキンが破れて大変なことになるんよ、これ。


程々に蛇口を締め付け、水を止めるも水音はまだ鳴り止まない。


水音の元はちょうど自分の背後、磨りガラスの入った折戸の向こう側から。


正直もう放っておきたい気持ちもあったけど、何せ勝手にお邪魔してしまった手前出来れば来た時と同じ状態にしておきたいしな。

これって、もしかして泥棒さんの心理状態なんかな。



もう。昨日見た感じだと水漏れとか全くなかったんやけどなあ。

折戸を引いて浴室を見渡す。


昨日とは随分と様子が違う。

カビの一つもなく綺麗だった浴槽には、半分ほど水が溜まっていて、水底も見えない程に淀みきった水面は程無く浴槽から溢れ出してしまいそう。


急いで水を止めにかかるも蛇口は軽く、空回りを続けるのみ。



どうしよう。途方にくれる間も無い。

水かさを増す浴槽へはボールチェーンが垂れ下がり、水栓が閉まったままの様子。

ちょっと覚悟はいるけど腕捲りをして、浴槽の淵に手を掛け引き抜こうとする。

重い手応えに食い込むチェーンに耐えかねて両手でたぐり寄せようとした。




瞬間、暗転する視界と、反転した平衡感覚。

息苦しい。その警告のお陰で、始めて頭が自分の置かれた状況に追いついた。


ボールチェーンを手繰り寄せようとした両腕は、水底に引き寄せられ、半身を浴槽に浸けながらもがらも何とか持ちこたえてる。


暗い。

汚水の様な水中に届く光はごく僅かで、仄暗い水底は真夜中のダム湖の様に底をうかがい知る事は出来ない。


苦しい。

もうどの位息をしていないんだろう。

肺の空気を吐ききってほんの少しの間楽になった気がするものの、いよいよ意識が遠のき始めた。



寂しい。

でも、こんな気持ち久しぶりやわ。

もう長い事寂しいなんて気持ち忘れてた。


まだ泣いてる。

一人ぼっちは寂しいもんな。


でもな、一人ぼっちで寂しがりやなウチはとっくの昔に死んでしまってん。


だからウチには君の辛さ分かってあげられへん。





ここどこやろ。


六時過ぎを指す時計と、寝起きの目に少し辛い強い西日。


そういやにこっちの家に行って、時計見つけて...


「希!」


ストッパーに当たる位に勢いよくドアを開け入ってきたのは、なぜか半泣きのエリチ。


うち、 何かエリチ泣かせる様なことしてしもうたんかな。



エリチに続いて入ってきたのはお医者さん。

幾つか質問をして、今日一杯と明日の診断次第で直ぐにでもお家に帰れるとの事。


問診も終わって、エリチと二人病室で。


「なあエリチ、うち何かしてしもたん?」


「希、本当に何も覚えて無いの?」


「にこっちの家に行ったんは覚えてるんよ。そっからは さっぱりや」


少しだけ嘘をついた。

ゴメンなエリチ、心配かけたくないんよ。


「そうなの。私もその場にいたわけじゃ無いからよく分からないんだけども」

「にこの家の浴室に倒れてたのよ。部屋を見に来たにこ達が希の事を見つけたの」


黙りこむ私を心配してか、エリチがフォローしてくれる。


「余り無理に思い出そうとしない方が良いかもしれないわね。取り敢えず希が無事でいてくれただけで十分だもの」


何度も泣きそうになりながらベッドの上のウチの膝に頭を預けて話すエリチを見て、止むに止まれずエリチの頭に手を置いた。


「そろそろ面会時間終わっちゃうわね。明日講義が終わったらまた来るわ」


「うん。ちゃんとお夕飯作って食べるんやで」


名残惜しそうに病室を後にするエリチ。

広い病室に一人のウチ。



ぽけーっとしてるとお夕飯が運ばれ、更に暇な夜の時間へ。


とっくに面会時間も過ぎた夜中の9時過ぎ、ドアの向うに2つの影が。

そろそろ来る頃かなと思っとったしな。


「どうぞー」


少し面食らった様子の二人組みは、ノックとともにドアを引いた。


「もう具合は大丈夫なの?」


先陣を切って様子を聞いてくるにこっち。

真姫ちゃんもにこっち後ろで心配そうに腕組みしてる。


「もう具合はなんとも無いんやけど。うちな、少し夢見てたみたいなんよ」


真姫ちゃんとにこっちは真剣な様子でウチに向き直った。


「一人ぼっちの夢、すごーく懐かしい夢やった。」


多分うちの中にある懐かしい記憶に付け込まれてしもたんやろか。

一人ぼっちが当たり前だったうちの過去。

でも今のウチには皆がいる、一人ぼっちのウチはもう居ない。


同情は、優しさやない。

スピリチュアルのぞみんからの忠告や。







後書き

[2015/08/16]短編のため1万字前後での完結を目指しています。
[2015/08/17]1万字以内とか無理でした(多分超えます)ごめんなさい。
[2015/08/18]加筆修正を行いました。応援、コメント、評価を下さる方々、有難うございます
[2015/08/19]加筆修正を行いました。ご意見等あればお待ちしております。
[2015/08/20]加筆を行いました。以降、後編となります。いろいろ伏線回収します。
[2015/09/06]しばらく不定期更新になってしまいます。すみません。
[2015/09/13]加筆行いました。伏線回収、完結目指して頑張ります。
[2015/09/22]加筆行いました。書き貯めでは完結しましたので修正しつつ順次投下してきます。
[2015/09/27]加筆を行いました。怪談って難しいですが楽しいです。でも次回は明るい話を書きたいです。
[2015/09/28]加筆を行いました。完結まであと少し頑張ります。
[2015/10/05]加筆を行いました。もうハロウィンですが。
[2015/10/12]加筆を行いました。次回ラストです。
[2015/10/24]加筆、完結させました。見てくださった方有難うございます!
なんだかんだでもう11月になってしまいますね。完結済み作品のサクサク投稿を目指したいです。
次こそは短編で頑張ります。
【給湯器浴室内操作パネルからの台所呼び出しはこんな感じです。
http://www.youtube.com/watch?v=TojG1Zr-jVw】


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2017-07-16 09:00:21

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1: SS好きの名無しさん 2015-08-18 00:24:02 ID: DP-9gpGJ

あの話か。
あれシンプルでわかりやすかったからどんな話になるか楽しみにしてます


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