2015-05-11 08:29:10 更新

概要

初めての艦これSS
基本は叢雲を愛でるSSを目指すものです。
シリアス分多めですが、たまに提督が鎮守府で艦娘や深海棲艦に殴られたりします。


前書き

<傾注願います!!>
・深海棲艦の自己解釈が多分に入ります
・艦これ未実装の艦の艦娘が出ます
・隔週更新ですが、たまに遅くなります
・早くなることもあるように頑張ります!

<生存報告>
長期間放置してしまい申し訳ありません…
リアル世界が2月ごろから多忙を極めており更新停滞しておりました。
僅かながら書き溜めた本筋を投下しました。
また定期的に更新していけるよう努力します!

<コメント欄&今後の方針について>
スパムめいた※が大量投下されていため運営様に削除依頼、
および本SSの非公開化、コメント欄の凍結を実施しておりましたが、
一昨日運営様に該当コメの削除をして頂きました。

当面、このページでSSを更新する予定ですが、文字数が膨れ上がってきたこと、
コメント数が本SSにありうべからざるスゴイ数になっていることなどから、
おまけと本筋を分けて新たに投稿し直すなどの処置を検討中です。

以上、長々と申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。


1730時

鎮守府・第一資材倉庫


倉庫内を見渡す限りに整列された鉄鋼と燃料と弾薬


かつて、この鎮守府に提督として着任して日が浅い頃は


これら艦隊の必需品の消費ペースも把握できずに


補給されるまま開発・出撃を繰り返しては使い果たす日々だった。


だが、あの暁の水平線の戦いが一応の鎮静を迎えている現状では


これら余剰の資材を如何に適切に無駄なく運用するかは、鎮守府における一つの課題となっていた。


提督「むぅ」


叢雲「何唸っているのよ…大丈夫?」


提督「叢雲か」


叢雲「相も変わらず、忙しそうね」


叢雲「仮にも戦いが無いっていうのに、何かそんなに悩むことがあるの?」


叢雲「あんたが一人でそんな顔していると、他の子も心配するわよ」


提督「…ああ」


叢雲はそういうが、実際のところ


悩みの種というのは、むしろ戦いが無いほうが多く沸いてくるものらしい。


この資材の問題もある。が、一番の問題は


__深海棲艦。


彼女たちの生まれる場所や原因が、未だ不明のままだ。


ただ我々は二か月前、ある海戦で偶然にも、彼女らを操り戦いを指揮していた「モノ」を破壊することに成功した。


圧倒的な物量と火力でこの海域を脅かしていた深海棲艦は、ソレを破壊してから一切の戦意を無くし、水面を漂うばかりだった。


今後の戦略のため、意思疎通が可能と思われる一部の深海棲艦を捕虜として連行した。


だが、衰弱がひどく会話もままならないため、今は鎮守府内の医療設備で治療をさせている。


提督「しかし戦いが無ければそれで終わり、という訳もない。難しいのはこれからだ」


前回の戦いを終えて二月以上経っている現状でも、我々の破壊した「モノ」が何だったのか、まるで分かっていない。


その上、他方面では未だ深海棲艦の脅威が去っていないと来ている。


各方面の鎮守府、泊地、基地には防衛のため大量の物資の供給が続いている。


提督「お前が来るということは、大本営から通達でもあったか」


叢雲「別に、ないわよ」


提督「何か用があるんじゃないのか」


叢雲「顔を見に来ただけよ。悪いかしら」


彼女からささやかな笑顔を向けられる。


提督「…んん?」


見慣れないモノが不意に表れたので、思わず妙な声を出してしまった。


それが余程面白かったのだろう、叢雲が笑い出す。


提督「何だ」


叢雲「あんた、そんな顔もできるのね。正真正銘の鉄面皮だと思っていたわ」


提督「笑うほど意外か?」


叢雲「普段難しい顔ばかりだからね。少しは労いに笑った顔でも見せたら?」


提督「あいにく顔は生まれつきでな」


提督「代わりになるかは知らんが、明日は休暇を出せる状態にできた。戻ったら哨戒組を編成して、あとは書類仕事だ」


叢雲「了解。で、私とアンタはまだまだ執務室籠りなのね」


提督「今回は書類の量が桁違いでな。お前にはもう少し付き合ってもらうぞ」


叢雲「仕方がないわ。あんたは私がいないとまるでダメだからね」


提督「相も変わらず、手厳しいな」


他愛のない言葉を交わしながら、資材倉庫の外へ通じるドアを開ける。


外に出れば、そこは見慣れた夕焼けだった。


大小さまざまな雲の切れ端が夕日で薄紫に彩られ、零れた光が水平線に煌めく。


季節の割に涼しい風が吹いていた。


叢雲「この時間の眺めは相変わらず、綺麗ね」


提督「ふん…いい加減見慣れたものだが」


ふと、隣を歩く叢雲を見る。


こいつは他の艦にも増して働き詰めだ。


前回の戦い以降も、ほとんど俺と執務室で書類と戦う日々を過ごしていて、まともな休みが取れていない


『笑った顔でも見せたら?』


歩きながら、叢雲の言葉を反芻する。


最後に笑ったのはいつだっただろうと自身の記憶を遡る。


少なくとも提督としてこの鎮守府に着任してからは無かった気もする。


提督「叢雲」


叢雲「なによ?」


足を止めて叢雲に向き直る。


提督「先ほどは『手厳しい』などと言ったがな」


部屋に戻ればまた書類との格闘が始まる。今、彼女には労いさえできないが、伝えるべきことは伝えよう。


提督「実際、お前にはいつも世話をかけてばかりだ。感謝している」


叢雲「…!?」


叢雲「き、急に何よ…改まって」


提督「…たまには、こういう事もある」


少々照れくさい。軍帽を深めに被り直し足早に執務室へ向かう。


叢雲「ち、ちょっと、待ちなさいよ!」


提督「資材確認に時間が取られ過ぎたな。話なら後で聞く」


叢雲「もう…!」




1900時

鎮守府・執務室


提督「戦闘で損壊した単装砲5門と、不要になった航空機3機を廃棄する」


叢雲「はい、新しく調達した資材・装備のリストよ」


提督「…ああ、やはりボーキだけは調達し難いな」


叢雲「調達もそうだけど、何より消費が早いのよ。艦隊の編成を見直しなさい」


提督「遠征の資材獲得を含めて、ようやく増減0か…倉庫にも、ボーキだけは備蓄が少なかったな」


叢雲「…少し休憩する?」


提督「いや、叢雲はもう上がって良い。書類はまだあるが、あと2時間もすれば終わ…」


そこまで言うと、紐閉じした資料の束が頭を直撃した。


提督「な、何をする」


叢雲「悪い癖ね。私とあんたで1時間で終わらせれば良い話じゃない」


提督「お前は働き過ぎだ。あとは任せて休め」


叢雲「あら、『お前がいないとダメみたいだな』とか言ってたのはどこの誰だっけ」


提督「そうは言ったがな」


叢雲「『男に二言はない』んでしょ?」


提督「む」


それは前の戦いの出撃直前、ここに所属する全ての艦娘に、俺が伝えた言葉の一つだ。


確か、最早一人も沈めさせはしない、とかそういった旨の言葉を発した後の。


提督「今それを言うか…口が達者になったもんだ」


叢雲「ふふ、おかげさまでね」


いつになく、良い笑顔をする日だ。


こうなっては俺がどう断ろうにも、今更退くような女ではない。


この場は彼女の言うとおりにせざるを得ないだろう。


…代わりにささやかな反撃をひとつ、くれてやることにする。


提督「わかった。なら、付き合ってくれるな」ニコ


叢雲「……」


叢雲「…///」


提督「…叢雲、どうかしたのか」


叢雲「あ、あんたね。迂闊にそんな顔するんじゃないわよ」


叢雲「仮にもココの司令官なんだから、もっと威厳を持ちなさいっ」


提督「『労いに笑顔でも見せろ』と言っていただろう。部下の要望に応えただけだ」


叢雲「口が達者ね」


提督「お互いにな。仕上げの前に少し休憩だ、コーヒーでも淹れてくれるか?」


叢雲「はいはい、了解」




2000時

鎮守府・食堂


金剛「むぅ」


金剛「むぅ~~~」


金剛「むぅぅぅぅ~~~」


利根「ど、どうした金剛、何を唸っておる。頬がみるみる膨らんでおるぞ」


能代「ほ、ほっぺがリスみたいに…つついていいですか?」ツンツン


金剛「ブフッ!まだ良いって言ってないヨー!!」


能代「ふふふ、似合わない顔してるからですよ」


利根「ずいぶんご機嫌ナナメだのう。話くらいなら儂らが聞いてやるぞ」


金剛「む~…うちの提督は叢雲と一緒にいる時間が長すぎデス…わたしもちょっとは構ってほしいデース…」


利根「あぁ、おぬしはここに着任して日が浅かったのう。ヤツと叢雲の間柄を知らんのも無理はないか」


金剛「んー?…利根、何か知ってるノー?」


利根はふふん、と勿体つけて胸を張る。


本人は鎮守府の古参として威厳を出したいらしいが、どうにも狙い通りの効果は生じない。


利根「儂はここに着任して随分経つからの、提督のヤツから昔話を多少は聞いておる」


利根「二人はこの鎮守府が創立されて以来、初めて着任した提督で、初めての艦娘なのじゃ」


能代「あれ、この鎮守府ってそんなに日が浅いんですか?てっきり、ずっと昔からあるものだと」


利根「ヤツが設備をずいぶん立派にしたから、そう思うのも無理はないのう。儂が来た頃はこの食堂もずっと小さくてなあ」


利根「宿舎なんぞは見る影もなかったのう。やむを得ず艦種の区別なく、6人1部屋で寝たりしたわ」


能代「ふふ、それはそれで楽しそうですね」


利根「うむ、悪くはなかったぞ」


利根「だが儂が配備されるより以前のココは…宿舎はおろか資材も備蓄も食料も、あまつさえ執務室に机も無かったそうじゃ」


利根「そういう苦境を互いに支えあって乗り越え、今はどちらにとっても欠かせぬ存在…と言ったところかのう」


金剛「ううう、聞くんじゃなかったデース、jealousyがBurstしそうネー…」


能代「何もない鎮守府に飛ばされて来たって…左遷ですか?あんなに職務に忠実な提督さんが?」


利根「儂も気にはなるんじゃが…野暮な気もしてのう。今日まで聞かずじまいじゃ」


利根「それに、昔話に花を咲かせてばかりでも仕方なかろう?」


利根「ヤツのもとで戦える。それだけで儂は十分じゃ」


能代「(あ…今の利根さん、ちょっとかっこいいなぁ)」


利根「ヤツならカタパルトの故障も多めに見てくれるからのう!」ハッハッハ


能代「……」


金剛「う~、分かってたケド、提督のまわりは強敵が多いネ…」


金剛「…んん?」


金剛「ねー、利根」


利根「なんじゃ?」


金剛「最初はテートクの執務室くらいしか、部屋がなかったんだよネ?」


利根「そう聞いておるのう」


金剛「……宿舎もない頃って、提督と叢雲ってどこで寝てたノー?」


利根「そこは聞いておらぬが、おそらく二人とも執務室で…んん!?」


能代「えっ」


能代「それは要するに、二人は同衾してたということですか…?」


利根「そ、そこまでは知らぬ!」


能代「き、聞いてなかったですが、も、もう二人はケッコンカッコカリしてたりするんですか!?」


利根「さ…さすがの儂もそこまでは聞いておらぬ///」


能代「なんでそんな大事なコトを聞いてないんですか!利根さんヘタレなんですか!?」


利根「う、うるさいわ!気になるなら自分で聞けばよかろう!?」


金剛「…て、て」ガクガク


金剛「提督ゥーーー!!浮気はノーなんだからネーー!!」




2000時(同刻)

鎮守府・精神科医療室


あらゆる戦闘には必ずストレスがついて回る。


恐らく、艦娘と深海棲艦の戦いよりも十年も百年も千年も前の戦いから


戦いとストレスは切り離せないものだっただろう。


コンコン


軍医「どうぞ」


いや、切り離してはいけないモノだったかもしれない。


だが今、百年前よりも少し進歩したことがある。


???「し、失礼します」


それはここの司令官をはじめとする数名の提督により


艦娘の“戦いに係るストレス”が個人レベルの対処でなく


組織的に対処すべき問題とされたこと。


それにより試験的に私のような医師が、こうして鎮守府に配置されたことだ。


???「あ、あの、ここに来たの初めてなんですけどっ…」


軍医「最近できたばかりだからね。楽にして?別に取って食べたりしないし」


???「ひっ」


軍医(あ、打ち解けるつもりが、これは失敗ね)


軍医「脅かしちゃったみたいね、ごめんなさい」


軍医「ここで医師を務める者よ、よろしくね」


潮「い、いえ…わたし、潮っていいます。よろしくお願いします」


『艦娘』と一口にいっても、実態は特別な装備である『艤装』と、


それを運用する特別な能力を持つ、10代から20代後半の女性だ。


軍医「ここに来るくらいだものね…話すのも簡単じゃないと思うけど、悩みを聞かせてくれる?」


肉体的には『艤装』によって既存の人類の装備をはるかに上回る火力を発揮できるが


精神的には何の補助もなく鉄火が飛び交う戦場に突撃するのだから、悩みも深刻なものになりやすい。


潮「はい…その、わたし…他の、同じ年の子と比べて…が…」


軍医「…うん?」


潮「む、胸が、大きくなりすぎて困ってるんです…」


軍医「」


軍医(確かに年齢の割に良い発育ね。というか、明らかに、私より)


潮「お休みの日に外出すると、すごく周りの視線を意識しちゃうんです…」


軍医「な…なるほど」


潮「わ、私どうすればいいのでしょう…」


潮「自分が意識しすぎだというのは、分かっているんですけど…」


軍医「…」


少し呆けてしまったが、この手の問題は意外と根が深い。


それに、彼女の年齢的にもそういった出来事にデリケートな時期だ。


軍医(気合を入れなさい私。これも立派な仕事よ)


軍医「そっか…話してくれて、ありがとね」


潮「えっ…?」


軍医「初対面の人に体のこと話すのは、とても勇気がいることなのよ。医学的にもね」


軍医「だから、ありがとう」ニコ


潮「あ…」


潮「い、いえ!わたしも、こんなこと話す場所じゃないって、分かってたのに」


軍医「そんなことないのよ?それに、今はけっこう暇してるから」


軍医「どんなお悩みもドンと来てもらって平気よ!」


大げさに胸を叩いてみせると、ようやく彼女の笑顔が見れた。


潮「…ふふっ、お医者さん、意外と明るい人なんですね」


軍医「ある意味この仕事、人に元気をあげるようなものだからね」


潮「素敵なお仕事ですね。改めて、お世話になります」


軍医「うんうん、おねーさんに任せなさい」


まあ実は、今回の相談に私が答えられることは一つしかないのだが。


一応の安心感を与えるのも、プロの重要な役割だ。


軍医「ところで潮ちゃん、つかぬ事を聞くけど、潮ちゃんのお母様は胸大きかった?」


潮「ええっ…?ええと、あまり意識してませんでしたけど、大きかったような」


軍医「おばあ様は?」


潮「祖母ですか…?あまり知りませんが、大きかったみたいです…けど」


軍医「それじゃあ、潮ちゃんの胸は、お母様かおばあ様か…」


軍医「もしかしたら、それよりもずっと前の、潮ちゃんに連なる人からの『贈り物』、かしらね」


潮「あ…」


軍医「周りの眼なんて関係ないのよ。潮ちゃんは、その贈り物を大事にすれば良いの」


軍医「大事にして、自分の自信にしちゃいなさい」


彼女に軽くウインクして見せる。


結局のところ、一部の稀な例を除いて、『身体』という生まれ持ったモノは覆せない。


だから私がやるのは、潮ちゃんが大丈夫なこと、無条件に見方になる人間がいることを教えるだけ。


軍医「それでももし、嫌な思いをすることがあれば、私のところに来なさい」


軍医「自慢の艤装を引っ張り出して、潮ちゃんの敵を吹き飛ばしてあげるわ」


潮「……」


軍医「……」


双方一言も発せず沈黙。


恐らく彼女なりに、私の言葉の意味を落とし込んでいるのだろう。


上手く、伝わるといいのだけど。


潮「お…」


潮「お医者さんッ…」ウルッ


軍医(失敗したーー!!)


軍医「な、泣かせちゃった!?あ、あの、ごめんね、そんなつもりじゃなくて!」


軍医「軍事機密の新造艦のブロマイドが…じゃなくて!」


軍医「戸棚に間宮さんの羊羹が~…」


情けなく慌てていると、不意に潮ちゃんに抱きつかれる


軍医「う、潮ちゃん?」


潮「ご、ごめんなさいっ…私、泣いたりして…でも、何だか嬉しくって」


潮「今、わかりました…私…本当は、胸のことなんて問題じゃなかったんです」


潮「ずっと、自分に自信が持てなくて…」


軍医「潮ちゃん…」


彼女に向き直り


細い体を抱きしめ返して、背中をさする。


軍医「自信が持てなくて悩むのは、本当に自信を持ちたいからね」


軍医「それは立派なことよ。それに難しいこと。だから一人で悩まなくて良いの」


潮「はい…」


軍医「私は…いえ、ココの鎮守府の人はみんな潮ちゃんの見方だから」


潮「はいっ…」


彼女が抱きしめる力が強くなる。


軍医「いつでもここに来て大丈夫だから、ね?」


潮「…」コク


潮「…お医者さん、暖かいです…」ギュー


軍医「あはは、昔から体温高めなのよねー」


潮「…」


潮「あ、あの…」


軍医「うん?」


潮「もう少しだけ…このままでも、いいですか///」


軍医「ん~」


軍医「いいけど、これ以上は襲われても文句言えないわよ~?」ニコ


潮「ふぇっ!?」




2000時(同刻)

鎮守府・執務室


提督「次で最後の書類だ」


叢雲「了解よ」


小休止の後、執務室は業務上必要な一言二言を除いて、2つの音だけが支配していた。


潮騒と走るペンの音。


テートクー!ウワキハノ-ナンダカラネー!


提督「…」


叢雲「…」


提督「妙な噂をされている気がするんだが」


叢雲「手を動かしなさい」


提督「…了解」



十分後。



提督「本日の執務、終了だ」フー


叢雲「ほら、二人なら早かったでしょう?」


提督「ああ、おかげで助かった」


机の上を整理しつつ、明日の予定を考える


叢雲「」グウー


と不意に、叢雲の方向から腹の虫が鳴くのが聞こえた。


叢雲「…///」


提督「…食堂はもう閉まる時間だが、腹が減ったな」


提督「鳳翔のところに世話になろうと思うんだが、一緒に来るか?」


叢雲「…い、行くわ」




2045時

鎮守府・居酒屋「鳳翔」


ガラガラ

提督「夜分にすまん。何か頼めるか」


鳳翔「あら提督、こんばんは。叢雲ちゃんも」


叢雲「こんばんは。遅い時間に悪いわね」


鳳翔「ふふ、大丈夫ですよ。またお仕事ですか?」


提督「ああ」


叢雲「今日も書類と夜戦よ」


赤城「あ、提督と叢雲さん、お疲れ様です」


北上「やっほー、今日もお疲れ~」


提督「赤城と北上…?私事では珍しいメンツだな」


北上「そんなことないよ~、第一艦隊でずっと一緒だし」


赤城「あ、ちょっと待っててください。今、場所を開けますね」


そういうと赤城はテーブルの上に載せられた大皿、茶碗、どんぶり、船盛り、おひつ、一升瓶を片づけた。


提督「おい待て赤城、これ全部お前が一人で?」


赤城「ま、まさか。先に宿舎に戻った加賀さんや、他の艦隊の子と食べましたよ?」


提督「…そうだな。いくら空母とはいえ、この量は一人では物理的に不可能だろうからな」


北上「『物理的に不可能』だってよー、赤城っち」ニヤニヤ


赤城「し、静かにっ…」


北上「やっぱり正規空母は格が違うね~」プニプニ


赤城「お腹つつかないで///」


叢雲「うー…」グゥ~


鳳翔「ふふ、あらあら」


提督「何か食べさせてやってくれ」


鳳翔「はい、すぐ出せるものにしますね」


提督「…腹が減っていたなら言えば良かっただろう」


叢雲「山積みの書類で忘れていたのよ。片付いたら急にお腹すいたわ」


提督「つまらん嘘をつくな。我慢していたんだろ」


叢雲「知らないわね」プイッ


赤城「提督、一杯いかがですか?」


提督「ああ、気が利くな。頂こう」


北上「むらっちは何飲む~?」


叢雲「『むらっち』って何よ…でも珍しいわね。駆逐艦嫌いのあんたが」


北上「ん~、いろんな意味で、むらっちは駆逐艦っぽくないからね」


赤城「そうね。夜戦ともなれば、一人で旗艦タ級を沈めますし」


叢雲「あ、あの時は、あんた達が上手くあいつの随伴艦を沈めてくれたからで…///」


北上「うーん、良くも悪くも、やっぱり他所の…」


叢雲「よその子じゃありません!」キー!


北上「あはは、冗談だってば。取りあえずオレンジジュースね」


叢雲「ふん…ありがと」


提督「思えば皆、着任した頃から随分丸くなったな」


赤城「んー、一番丸くなったのは貴方だと思いますよ?」


提督「そうか」


赤城「ええ、貴方は血の代わりに揮発油が流れていると、よく言われていました」


提督「…」


赤城「提督?」


提督「硬い性格なのは自覚しているが、そこまで言われていたとはな」ズーン


赤城「お、落ち込まないで。ほら、エビの天ぷらあげますから」


提督「美味い…お前は優しいな」ナデナデ


赤城「あっ…///」


叢雲「むぅ」ジトー


鳳翔「はい叢雲ちゃん、お待ちどうさま」


叢雲「あ、ええ、ありがとう」


鳳翔「お口に合うといいんだけど」


叢雲「艦隊一、二を争う料理上手が謙遜しなくて良いわよ」


北上「ホントだ、お魚スゴイ美味しそう。鳳翔さん流石だねぇ」


鳳翔「ふふ。お世辞を言っても一人前しか作ってませんよ?」


北上「え~…むらっち、お魚もらって良い?」


叢雲「ダ メ に 決 ま っ て る で し ょ う?」ドドドド


赤城「…ふふっ」


提督「どうした」


赤城「最近思うんです…最前線にいてこんなこと、変かもしれませんが」


北上「え~全部じゃなくていいから、一口でいいからさ~」


赤城「ずっと、このまま平和が続けば良いな、って」


提督「…」


叢雲「あ~もうっ!分かったわよ!分けてあげるから私に感謝しなさいっ!」


提督「…そうだな」ニコ


赤城「ふふっ」



2130時

鎮守府・████施設(注記:軍規に基づき検閲)


「ン…」


「ココハ、ドコダ…」


「ワタシハ、ドウシテ…」


「…」


「オナカ…スイタ…ナ…」



2140時

鎮守府・居酒屋「鳳翔」


提督「長居してすまんな、鳳翔」


鳳翔「いえ、お気になさらないで」


鳳翔「こちらこそ片づけ手伝ってもらって、助かりました」


提督「それくらいしないと、寝覚めが悪いのでな。にしても…」


提督「まさかあの後、更に食べるとは思わなかったぞ…」


提督「お前らの胃袋は別次元かどこかに通じてるんじゃないか」


赤城「そんなに褒めないでください」テレテレ


叢雲「そんな訳ないでしょ。人聞きが悪いわね」


北上「鳳翔さんの料理ならあれくらいペロッと行けるよねー」


提督「…分からんでもないがな」


鳳翔「ふふ、そう言ってもらえると作り甲斐があります」


提督「うむ…もう夜更けだ。赤城と北上、鳳翔は宿舎に戻って休め」


提督「叢雲は艤装を付けたままだったな」


叢雲「執務室からここに直行したからね」


提督「お前も艤装を解除したら休め、夜更かしするなよ」


叢雲「こっちの台詞だわ。アンタこそ、早く寝なさいよ」


提督「ああ。それと…今日は助かった、ありがとうな」ナデナデ


叢雲「ッ…!!」


北上「あ~、むらっち良いなぁ」


鳳翔「…」コクコク


叢雲「…っこ」


提督「ん?」ナデナデ


叢雲「こっ、子供扱いするんじゃないわよ!」ゲシッ


提督「ぐぅぉ!?」


叢雲「ふんっ」プイッ


北上「提督、平気ぃ?」


赤城「お、大きい音が鳴りましたが、大丈夫ですか…?」


提督「もっ…問題ない。執務室では良くある事だ」


北上「ええ…普段執務室で何やってんのさ」


提督「知りたいなら叢雲に聞いてみろ。今ならおまけで要確認書類が一ダースついてくる」


北上「北上、全力で遠慮しますっ」ビシッ


提督「くく、だろうな」


叢雲「ばかっ…///」




2200時

鎮守府・提督私室


提督(さて、叢雲に言われた手前、俺もとっとと寝るか)


提督(…と言いたいところだが、ここに帰り際、鳳翔が渡してくれた軽食がある)


提督(先ほどは話がはずんで、俺はそれほど食べなかったんだが)


提督(鳳翔…よくそんなことにまで気づくものだ。良い嫁さんになるな)


提督(…一杯やりながら食べるのに丁度良い量か)


プシュ


ゴクッゴクッ


提督「ぷはっ、うまい」


…カ…イノカ…


提督「ん?」


提督(…こんな夜更けに廊下をうろつくとはな)


提督(十中八九、食糧か嗜好品の盗み食いだろう)


提督(もう少しひきつけて、一言注意しておくか)


ナ…スイタ…


提督「誰だ。ギンバエとはいい度胸…」


ガチャ







戦艦棲姫「…アッ」ドドドドド







提督「」




2200時(同刻)

鎮守府・████施設(注記:軍規に基づき検閲)


軍医「んー、今日の仕事も終わりっ!」


軍医「いや~、潮ちゃん可愛かったなぁ…あれはズルいわ」ツヤツヤ


軍医「あとは、“眠り姫”ちゃんたちの様子を見て今日は上がりね」


軍医「といっても、大淀さんの報告書見た限り、当面起きそうにないけど」


軍医「ってアレ?どうしたの伊勢さん、日向さん」


伊勢「あ、軍医さん。夜遅くまでお疲れ様」


日向「今夜の見回り当番だ。まぁ、此処は普段、長居する必要はないんだが」


伊勢「ちょっと前に、ここから出ていく人影が見えたからね。念のため」


軍医「こんな時間に?…どうせ司令官じゃないの?」


日向「それは無いな、先ほど自室に戻るのを見た」


伊勢「ん…ちょっと待って。日向、これって何の部品?」


日向「む…見たところかなり歪んでいるが…何かの医療器具のようだな」


軍医「うーん、ガートルのように見えるけど、もう原型とどめてないわね」


伊勢「…此処ってさ、前の戦いで鹵獲した深海棲艦を治療してるんだよね」


軍医「そうそう。人型で会話のできそうな連中ね。司令官は快復し次第、深海棲艦の目的を聞き出したいみたい」


日向「ならこれは、深海棲艦に使用していた医療器具、ということだな」


伊勢「でもさ、此処は深海棲艦の治療部屋の外じゃない」


伊勢「なんで、こんなボコボコの医療器具が外にあるの?」


軍医「…」


伊勢「…」


日向「…」


一同「「「!?」」」




2203時

鎮守府・提督私室前廊下


戦艦棲姫「貴様ハ」


提督「…ふん、ようやくお目覚めというわけだな」


戦艦棲姫「ソノ服…見覚エガ、アルゾ」


戦艦棲姫「貴様ハ、我ラノ敵ノ、首魁」


提督「…そうだ。前のE海域では世話になったな」


戦艦棲姫「…!ナラ、此処ハ」


提督「お前たちの敵の本拠地と言ったところだな」


戦艦棲姫「ソウカ…オ前ガ」ギリッ


戦艦棲姫「都合ガイイ、死ネ…!」


提督「ほう?」シュボッ


提督「面白い、その状態で出来るものなら、やってみろ」フー


戦艦棲姫「エ…?」


戦艦棲姫「」ハッ


戦艦棲姫「私ノ艤装ハ、ドコ?」オロオロ


提督(アホの子なのか…?)


提督(だがお蔭で、白兵戦にならずに済みそうだ)


提督「ふぅ…」


戦艦棲姫「ギ、艤装ハドコダト聞イテイル!」


提督「あのイかれた艤装は、他施設で厳重に保管されている。場所は言えんな」


戦艦棲姫「何ダト…!」


提督「俺たちは、お前を含めた他数名の深海棲艦の連中を」


提督「前E海域戦役の後、捕虜として鹵獲した」


戦艦棲姫「!」


提督「こんな真似するのは上からの命令だからだが…俺としても、色々と聞きたいことはある」


提督「この際だ、余さず吐いてもらうぞ…」ゴゴゴ


戦艦棲姫「…ッ」ビクッ


戦艦棲姫「クソッ…人質トイウ事カ…」


提督「理解したか」


戦艦棲姫「…他ノ連中モイル、ト言ッタナ」


提督「ああ」


戦艦棲姫「私ノ随伴艦カ」


提督「それは断言できん」


提督「だが戦役直後の貴様らの回収点を考えると、恐らくはそうだろう」


戦艦棲姫「ソウカ…」


提督「前の戦いの後から、お前のお仲間は眠り通しだ」


提督「『アレ』を壊した後からな…だがお前の返答次第では、悪いようにはせん」


戦艦棲姫「…私ノ事ハ、好キニスルガイイ」


戦艦棲姫「ドウセコノ先モ、オマエラヲ沈メルカ、自分ガ沈ムカ…私ニハ“ソレ”シカナイ」


提督「…」


戦艦棲姫「…ダガ、他ノ艦ニハ、手ヲ出スナ」


戦艦棲姫「皆、私ノ妹分ノヨウナモノダ」


提督「…」


戦艦棲姫「アイツラガ目覚メテモ、前ノ戦イノ事ナド、覚エテイナイ」


戦艦棲姫「『アレ』ヲ壊シテ、記憶ガ残ル艦ハ限ラレテイル」


戦艦棲姫「他ノ艦ニ手ヲ出サナイナラ、オ前ノ知リタイコトヲ話シテヤル」


戦艦棲姫「ダカラ…頼ム…」ギリッ


提督「…」フー



提督「…」



提督「…」ナデナデ


戦艦棲姫「ッ!?ナ、ナニヲスル!」ドゴ


提督「ぐぉ!」


戦艦棲姫「ド、ドウイウツモリダ…」


提督「す、すまん。悪い癖が出た」


提督「敵ながら良い子だと思ってな。つい」


戦艦棲姫「…貴様、実ハ馬鹿ナンジャナイカ」


提督「そうかもな…おっと、先ほどの話だが、一つ付け加える」


戦艦棲姫「?」


提督「此処の艦娘には絶対手を出すな。お前がここの艦娘を傷つけたら」


提督「ここでのあらゆる話は白紙だ。即時排除する」


戦艦棲姫「…“上”トヤラノ、命令デハナイノカ?」


提督「何事にも限度はある。尻で椅子を磨くのを仕事にしている連中の命令には、特にだ」


戦艦棲姫「クスッ…デハ、オ前ノ事ハ好キナダケ弄ンデ良イノダナ」


提督「何だと?」


戦艦棲姫「『艦娘ニ手ヲ出スナ』ト言ッタダロウ?オ前ハ、艦娘デハアルマイ」


提督「む、そりゃそうだ」


戦艦棲姫「ナラ、先ホドノ言葉ハ、ソウイウ事デイイノダロウ?」


提督「ふん、好きに解釈しろ。俺は部下が無事ならそれでいい」


提督「このご時世、上に立つ人間などいくらでも湧いてくる。どの戦争でも、そうそう指揮官の数は減らんからな」


提督「もっとも、俺も殴られ慣れている。先ほど程度ではビクともせんぞ」


戦艦棲姫「…(指揮官ガ殴ラレ慣レルッテ…ドウイウコトナノ…?)」


戦艦棲姫「…フフ、面白イ。ソレナラ、今ノ条件ニモ従オウ」


提督「うむ」



ドタドタドタ…


バン!



伊勢「提督!無事!?」


日向「…四肢は無事のように見えるな」


提督「伊勢と日向か、心配させたようだな」


軍医「ぜぇ、ぜぇ…我ながら、こ、こんなに体力落ちてるとはね」


提督「軍医もご苦労だったな…艦隊に戻るか?鍛え直してやろう」


軍医「ぜぇ…お断り、よ…今の、仕事が、気に、入ってるの」


伊勢「それで提督、コイツが?」


提督「ああ。恐らく史上初の」


提督「鹵獲深海棲艦だ」




戦艦棲姫「フン…ゴキゲンヨウ。忌々シイ、艦娘ドモ」




おまけ:ある日の昼

鎮守府・執務室


利根「ついに改二になったぞ!やったぞ!」


提督「うむ」


赤城「利根さん、おめでとうございます」


北上「改二仲間が増えるのは嬉しいねー」


能代「わぁ、艤装も洗練されていますね。素敵です!」


伊勢「索敵もずっと楽になるわね。これからも一段と頼りにしちゃうわよ」


利根「ふんふん。索敵も航空戦も砲雷撃戦も、この利根がいる限り負けなしじゃ。大船に乗った気でおると良いぞ」


利根「どうじゃ提督!お主も、この儂の勇姿を目に焼き付けい!」


提督「ああ、良いな。美しい」


提督(特に右足が良い)


利根「ふふん。そうじゃろ、そうじゃろ///」


叢雲「おめでとう利根。これからもよろしく頼むわね」


叢雲「私は火力無いから…これからも昼戦、任せたわよ」


利根「うむ。そこいらの深海棲艦など鎧袖いっちょく…」ガリ


能代「ふふっ、此処で噛んじゃいます?」


北上「あっはは、利根っちらしいや」


叢雲「ふふ、落ち着きがないのね…大丈夫?」


提督(かわいい)


利根「む、無論じゃ///」


伊勢「瑞雲六三四…良いわね」


赤城「ええ、特に足がおいしそうです」


伊勢「えっ」


赤城「えっ?」


利根「こ、こら赤城!食べるでない。食べるでないぞ!」


赤城「フリですか?一航戦として、拾わない訳にはいきませんね」


叢雲「程々にしなさいよ。あと何でも一航戦に絡めるのやめなさい」


利根「そうじゃ!終いには泣くかも知れんぞ!」


叢雲「そこまでなの?」


利根「加賀が!」


叢雲「アンタじゃないのね」


提督「利根、安心しろ。もしそうなったら俺も泣く」


利根「!」


利根「ほれ、提督も泣くぞ!」


赤城「むむむ」


伊勢(赤城ちゃん、半ば本気だったのね…)


北上「利根っちフリも突っ込み?も上手になったねぇ」


能代「的確ですよね。改二ってこんなとこまで強化されるんですか?」


北上「軽巡の子って実は意外と天然だよね~」


能代「ええ?能代はそんなこと…ないと思うんだけどなぁ」


伊勢「あれ?北上ちゃんも元は軽巡だよね?」


北上「あはは、それは言わないお約束って奴かな」


提督(かわいい)




おまけ弐:“改修工廠が解放されました!”

鎮守府・執務室


明石「工作艦、明石。ただ今より艦隊の戦列に加わります。よろしくねっ!」


提督「…」チラッ


叢雲「…」コク


提督「…うむ」グスッ


明石「えっ?て…提督…泣いてるっ!?」


日向「鎮守府近海に出撃すること50回超か…だが、まぁ悪くない」


不知火「沈め足りません。次の出撃はまだですか?」


夕立「ん~、パーティにはちょっと足りないっぽい?」


龍驤「駆逐艦の子はタフやな…ウチはもう潜水艦はこりごりやで」


提督「近海対潜部隊、今回の戦果は値千金だ」


提督「ご苦労だったな…今はゆっくり休んでくれ」


明石「あはは…なんだかご迷惑おかけしたようですね」


提督「気にするな。元はと言えば、俺がズンダ海峡作戦に参加できなかったせいだからな」


叢雲「大本営に呼び出し喰らって、明石の艤装に必要な資材が取れなかったのよね」


提督「出向いてみれば事務方のミスだったしな__と、すまん。愚痴っぽくなってしまった」


明石「ふふ、いいんですよ。それだけご期待頂いているってことで」


提督「まあな」


明石「ようやく私も、直接艦隊を支援できます。泊地修理はお任せください。それから…」スタスタ


提督「ん?」


明石「これからは提督のメンテもできます…いつでも、良いんですからね」ボソ


提督「!?」


明石「…///」


提督「…おう」


明石「ふふ…では!明石は酒保に戻ります」



ガチャ



バタン



提督「明石め、妙なことを…」


叢雲「司令官、ちょっとこっち向きなさい」


提督「ん?」クル


叢雲「何ニヤニヤしてんの、よ!」グリグリグリ


提督「ぐぉおおおお!?」




2215時

鎮守府・提督私室前廊下


戦艦棲姫「ゴキゲンヨウ。忌々シイ、艦娘ドモ」


日向「よりによって、貴様なんだな」


伊勢「戦艦棲姫。前の海戦以来ね」


戦艦棲姫「…其処ノオ前、アノ時ノ戦艦カ」


伊勢「あ、覚えててくれたの?」


戦艦棲姫「41㎝連装砲トヤラデ、私ニ止メヲ刺シテクレタコト」


戦艦棲姫「忘レタトハ言ワセナイゾ」ゴゴゴゴ


伊勢「お互い様ね」


伊勢「あの16inch三連装砲は、流石にちょっと痛かったわよ」ドドドド


提督「…軍医、何で俺の後ろに隠れる」


軍医「ほら、何かあっても壁が一枚あれば安心でしょ?」


提督「分かった、後で覚えていろ」


軍医「冗談だってば」


提督「おい。二人ともその辺にしてくれ。でないと俺の部屋が月まで吹き飛ぶ」


伊勢「…」


戦艦棲姫「…フン」


軍医「やっぱり現役の娘は血気盛んね」


日向「伊勢。今のところ、コイツに戦闘能力はないぞ」


伊勢「…うん、分かってるわ日向」


提督「…」


軍医「それで司令官。この後どうするの?」


提督「ああ、お前と日向はコイツを客間に連れて行ってやれ」


日向「なんだ、捕虜にしては良い待遇だな」


軍医「あの客間かぁ、いいなー」


戦艦棲姫「?」


提督「あくまで一時的な措置だがな。それが済んだら今日はもう休め。遅くまでご苦労だった」


日向「監視は要らないのか?」


戦艦棲姫「侮ルナ。身内ヲ捨テテ逃ゲル気ナド、無イ」


提督「まあ…そういうことだ」


伊勢「提督、私は?」


提督「眠気が吹き飛んでしまったんでな…少し散歩に付き合ってくれるか?」


伊勢「了解よ」ニコ


提督「おっと。そうだ日向、部屋についたらコイツにこれを食べさせてやれ」


日向「これは…鳳翔の弁当か?」


提督「腹を空かして、此処をうろついていたんだろう?」


戦艦棲姫「ナッ…」


日向「なんだ、図星なのか?」


戦艦棲姫「チ、違ウ…///」


提督「より腹が空いている奴に食べてもらった方が、作り手も料理も幸せだろう」


日向「たとえ深海棲艦だろうと…か。人の良いことだな」


提督「また夜中に出歩かれたくもない」


日向「ふふ、違いない。じゃあ行くぞ」


戦艦棲姫「ミ、妙ナ誤解ヲ、スルナ」グゥー


軍医「あなた、意外と強情ね」




2230時

鎮守府・第一船渠前


提督「…」シュボ


提督「…」フー


伊勢「煙草、身体に悪いわよ」


提督「以前、ここで叢雲にも同じことを言われたな」


伊勢「ふふっ、なら早く禁煙しないとね」


提督「善処する」


伊勢「もうっ…それで?」


提督「ん?」


伊勢「何か話があるんでしょ?」


提督「ああ、あの深海棲艦のことだ」


伊勢「さっきはごめんなさい。つい…」


提督「誤解するな。最初から説教するつもりなんて無い、ただ」


伊勢「?」


提督「やはり、心配か?」


伊勢「…うん」


提督「だろうな」


伊勢「大本営からの命令ということは理解しているわ。それに、今のあの子が戦力にならないことも分かってる」


伊勢「けど…」


提督「敵が…それも強力な敵戦艦が、鎮守府にいること自体が不安、ということだな」


伊勢「…情けないわよね。私も戦艦なのにさ」


提督「いや。打てる手はすべて打ったとは言え、そもそも深海棲艦には未知の部分が多すぎる」


提督「お前がそう思うのも当然だ。俺にも、先程まで不安はあったからな」


伊勢「えっと…それって、もう今は心配してないってこと?」


提督「ああ。アイツといくつか約束をした」


伊勢「約束…深海棲艦と?」


提督「冗談に聞こえるかもしれんが、本当だ」


提督「俺はここに収容した他の深海棲艦を保護する。代わりに、アイツは深海棲艦の情報を俺たちに教える」


提督「加えて、アイツを含めたここの深海棲艦が、敵意を持ってお前たちに損害を与えようとした場合、即時これを排除する」


伊勢「ふふ、それが深海棲艦と私たちの、初めての『約束』なんだ?」


提督「風情が無いにも程があるが、そういうことになるな」


提督「…だがそれとは別に、気になることがある」


伊勢「?」


提督「アイツは敵である俺たちに対して、最後に『頼む』と言った」


提督「恐らくあいつ自身は、そこに何の意図もないのだろう。だが、どうにも引っかかって堪らん」


伊勢「…」


提督「もしかしたらアイツにも何か、事情があるのかもしれん」


伊勢「…事情って?」


提督「伊勢。お前があの深海棲艦の立場だったら、どうだ」


伊勢「たとえば、深海棲艦側にも鎮守府みたいな施設があって、指揮官もいて、ってこと?」


提督「ああ。仮にアイツらに鹵獲され、随伴艦を人質にされ、交換条件を示され」


伊勢「従わざるを得ない状況なのに、わざわざ『頼む』と言うかしら…ちょっと考えづらいわ」


提督「では、これも仮の話だが…ココが危機的状況で、外部からの救援も見込めない状況だったら?」


伊勢「うーん。その時はそういう言葉も出るかな」


伊勢「随伴艦の子たちだけでも絶対守らないと、って考えると思う」


伊勢「あまり考えたくない状況だけどね」


提督「…うむ」


伊勢「ん、待って提督。じゃああの子は…!」


提督「前提の上に仮定を重ねた話だ。今の時点では何の意味もない」


伊勢「そ、そうよね」


提督「だが」


提督「俺たちが破壊したアレは…深海棲艦側の物ですらない可能性がある」


提督「あるいは、深海棲艦にとっても脅威なのかもしれん」


伊勢「…」ゾクッ


提督「すまない。輪をかけて不安にさせたな」


伊勢「へ、平気よ!」


提督「伊勢」


提督「たとえ何があろうと、俺たちのやる事は変わらん」


提督「この海を取り返す。誰も沈まず、皆が笑って渡れる海を」


伊勢「うん…」


提督「敵が深海棲艦だろうが他の何かであろうが構わん。提督として、俺がお前らを勝たせてやる」


提督「…安心しろ。お前は一人で戦う訳じゃない。大事な部下をそんな目に合わせはしないさ」


伊勢「うんっ…」


提督「それに、ここには優秀な艦娘がたくさん居る。お前も含めてな」


伊勢「…提督」


提督「ん?」



ギュッ



提督「…」


提督(背中から抱き着かれた…)


伊勢「ふふ…もう。ズルいわ」


伊勢「強面なくせに、こんな時だけ優しいんだから」


提督「先の話がそれほど応えたか?」


伊勢「そうよ、これでも意外と心配性なの。手のかかる妹もいるしね」ギュー


提督(性格の上では伊勢の方が…と言うのは黙っておくか)



伊勢「…」



伊勢「…」スリスリ



提督(いかん)



提督(色々と柔らかいモノが当たっている)



提督「…夜風が冷えるな。そろそろ中に入ろう」


伊勢「…」ギュー


提督「おい、伊勢…?」


伊勢「も、もうちょっとだけでいいから、ね?」ギュー


提督「…うむ」




ある日の午後:軍医の独白

鎮守府・精神科医療室


休日の正午。


中途半端に開けた窓から、緩い潮風が吹きこみレースのカーテンを揺らす。


温度の均衡を取るかのように、冬の乾いた日差しが███鎮守府の精神科医療室を満たしていた。


椅子の背もたれに全体重をかけ、伸びをして、外に飛び出したい誘惑を抑え


もう一度、折り重なった書類に没入する。


…当たり前だけれど、こうした書類は休みになれば消えてなくなるわけじゃない。


通常は期限という制約はあるけども、週に消化しきれない分は翌週に片づければ良い.


けれど差し当たって優先度の高い、ややこしい予定が翌週にあれば、


消化しきれない分は自然、休日に消化する必要が生じる。


そう、つまり私はこの麗かな天気の日に、休日出勤という訳だ。


朝から取り掛かっているが、減るのはコーヒーの量ばかりで、書類はなかなか、そうはいかない。


軍医「ああもう、提督…なんで来週出張なんかさせるかなぁ」


この部屋は精神科医療室と銘打たれているが、実のところ、艦娘の軽微な怪我や病気は私にも処置できる。


流石に、そうした医療を本格的に学んでいる内地の医者にはかなわないけど。


ただそんな半端な医者でも、最前線で運用可、となれば一時的に他の泊地や基地、鎮守府に御呼ばれすることがある。


傷一つ無い完成品より、アウトレットだとしても即時運用できるものを__このご時世、そう珍しい話ではない。


…うん。


ダメだ。どうにも集中できない。


手からペンを、書類から目を放して、もう一度背もたれに全体重を預けて


机の上部の壁に飾った、一本の軍刀を見上げる。


それは、かつての私の艤装の一部。


記念艤装として保存された一部とは別に、使い物にならないほど損傷した30.5㎝連装砲一門を精錬して打ち付けた、残骸。


軍医「…腰に下げていた頃とはまるで逆ね、色々と」


この軍刀を見上げるたび、かつて戦艦として海を駆け抜けた頃を思い出す。


そして、それは自然と今、この海のために戦う娘たちを考えることに繋がる。


軍医(私としては、慣れない場所に慣れない仕事で堪ったものではないけれど)


軍医(それでも今、命がけで深海棲艦と戦っている子たちのことを考えれば)


軍医「…あの子たちを少しでも助けるために、身体も動こうというものよ。そうよね?」


誰に向けた言葉でもないけれど。


つぶやいた直後、開けていた窓から不意に、潮風が強く吹きこみ


滅多にない角度から吹いた風は、軍刀を飾った側の壁に強く吹き付ける。


それは久しく壁に掛けたままの軍刀を外すには十分だったようで。


軍医「えっ」


____それでも、鞘から刀が抜けてバラバラに落ちるのはどういうことなの!?


軍医「ちょ、ちょっとおおおおっ!?」


落下するまでの1、2秒がコマ送りに見える。


旧式の艤装を打ち直した只の軍刀。既に終わった戦いの残骸。


そのはずだったが、気づけば「危ない」という反射より、「落としてはいけない」という意識の方が強く優先して


1,2秒後の今、左手に鞘と、右手に軍刀。


かつてと同じに、すっぽりと手に収まった。


軍医「あ、危なかったぁ…」



コンコン



軍医「ひゃ、ひゃいっ」


慌てすぎてまともに返事ができない…それにしても、良し悪しは置くとしても、なんてタイミングの来客かしら。


潮「あ、あの…スゴイ声が聞こえましたが、大丈夫ですか…?」


軍医「あ、ああ、潮ちゃん。また驚かせちゃったわね」


潮「!?」


彼女が絵に描くより分かりやすい『驚愕』といった表情をしている。なんで?


潮「お、おおおお医者さんダメです!早まらないでっ!」


軍医「えっ?」


ふと手元を見れば慌てて掴んだためか、手に持った刀で自傷行為に走ろうとしてるように見えなくも、ない。


軍医「あ!ち、違うの潮ちゃん!」


潮「何か辛いことがあるんですか!?お医者さんが、どうしてッ…」


軍医「ご、誤解なのよ」


軍医「自決なんてするつもりなくて」


潮「じじ、自決!?わ、私で良ければ、何でも聞きますから…!」


軍医「違うんだってばー!」



数分後。



潮「す、すいません…私、取り乱しました…」ゼェゼェ


軍医「謝るのはむしろ私よ。滅多なモノには触るもんじゃないわね…」ゼェゼェ


潮「ふぅ…それ、此処に飾ってあった軍刀ですよね?」


潮「どうして医務室に軍刀があるのかなぁ、ってずっと不思議だったんですけど」


軍医「私も昔、艦娘だったって話はしたっけ?」


軍医「これはその部品を打ち直した軍刀なの」


潮「何か、文字が彫られてますね。こう…?」


軍医「『皇國の興廃、此の一戦に在り』って読むのよ…フフ、懐かしいわね」


どうにも自嘲めいた笑みが出る。


潮「お、お医者さん…?」


軍医「…」



『皇國興廃在此一戦』



刀身に刻まれたこの言葉は、かつての大戦の際、戦いを勝利に導いたある提督のものだ。


だが実際は、『此の一戦』が終わってみれば、次の戦いが待っていただけだ。


一つの戦いが終われば次の、次の、次の戦い。興廃を懸けた戦いは続き。


何時しか私の艤装は敵に太刀打ちできなくなって。


最後は、新たな勢力として突如現れた深海棲艦との戦いで負った怪我が元で、艦娘ですらいられなくなった。


軍医「しまっちゃうから少し離れててね。ずっと抜き身のままでもいけないし」


潮「は、はい!」


軍医「…ふー」


かつてと同じように。


かつて相棒だった、艤装としての軍刀を扱うのと同じように。


刀身についたモノを振り払う為に刀を振りぬく所作をして、鞘に納める。


キンッ


潮「…わあ」


軍医「うん?」


潮「何だかお医者さん、かっこいいです」


軍医「そ、そう?///」


潮「はい…何というか、白衣なのに軍刀が凄く様になっているというか」


軍医「ふふ、ありがと。でもまあ…これっきりよ」


潮「そうなんですか?」


軍医「今の私は医者だからね」


…私の最後の戦いにして、おそらく史上初の深海棲艦との海戦。


突如として勃発したそれにより、有耶無耶になった“それまでの戦い”


讃えられることのないまま沈み、忘れ去られた仲間と


彼岸の彼方へ追いやられた、私たちの戦いの答え。


軍医「戦艦としての私の出番は…終わっちゃったから」


深海棲艦が現れてからというもの、人間同士が戦う機会は劇的に減った。


いや__むしろ人と人の争いは、深海棲艦によって強制的に幕を下ろされたといって良い。


その意味で今は、私たちが望んだ平和に一番近いのかもしれない。


…勿論これは皮肉に過ぎず、今も昔も“平和”と呼ばれる状況には程遠い。


軍医「もう私は戦いの中で、貴方たちを守ることはできないわ」


潮「お医者さん…」


軍医「潮ちゃん、そんな顔しないで。私はもう戦えないけど、それでも」


私が既に失った物を、貴方たちの世代が、失わなくて良いように。


かつて私たちが求めたものの、相応の幕切れを見届けられるまで。


軍医「ここで、少しでも貴方たちのことを助けられるように、頑張るって決めたから」


例え今の私がアウトレットだとしても此処で、“こうして戦う”と決めたのだから。


…そう。


そうだった。


間の抜けた話だが、その事を、この軍刀が思い出させてくれた。


潮「…お医者さん、何ていう名前の艦だったんですか?」


軍医「あ、それ聞いちゃう?」


…出来るなら、誰にも知らせずに置きたいことではある。


既に次の世代の子たちがいるのに、未だ私が此処に齧りついているのを知られたら


まるで今の世代の子を信じてないみたいじゃないか。


そういう訳じゃない。


ただ、未練をもって戦場を去ることができないだけ。


軍医「できれば内緒にしときたいかな。あはは…」


潮「…知りたいです」


温和な見かけとは裏腹に、まっすぐな言葉。


潮「お医者さんは、私に勇気をくれた人ですから」


潮「きっとこれまで、ずっと戦ってきて」


潮「これからも、私たちを助けるって言ってくれる人ですから」ニコ


潮「お医者さんは、私たちの仲間ですから。もっと知りたいです。変…でしょうか?」


軍医「…ううん」


軍医「そっか…“仲間”ね」


潮「はい」


潮「私だけじゃないです。きっと、提督も他の娘もそう思ってますよ」


軍医「…ありがとう」


ただ未練を引きずってばかりの私を、そう言ってくれるのね。


軍医「流石に今の艦娘ね。敵わないなぁ」


潮「?」


軍医「ふふっ、気にしないで」


手元の軍刀に目を落とす。


潮風で揺れるカーテンに透過された陽光が、鉄拵えの鞘に鈍く反射していた。


それが、妙に綺麗に思えて。


軍医「そうよね。仲間なら…名前ぐらい教えないといけないわよね」


軍医「…聞いてくれる?」


潮「はいっ!」



深く呼吸して、その三音を紡ぐ


昔日の水平線に沈んだ名前を呼び起こす。



軍医「…敷島型戦艦、四番艦“三笠”」


軍医「それが私よ」



妙な日だと思う。


手元の軍刀にはかつての私の意志を教えられ


新たな世代の子には、私さえ一人でないことを気づかされて。



__そうか


未練なら、それもいいのかもしれない。


少なくとも“後悔”ではないのだから。



まだ終わっていないと、いつまでも信じていられるのなら


かつての私たちの、未だ見ぬ戦いの答えも見いだせる。


この子たちと、一緒に。



そう思えたとき、鞘に納めたはずの刀が、ほんの僅かに震えた気がした。




----------------------


軍医「あ、ところで潮ちゃん、今日は何かご用?」


潮「あ!そうでした」


ふと見れば、彼女の手元に小さな手提が一つ。


潮「以前はお世話になったので、お礼に…なればいいんですけど、クッキー焼いたんです」


潮「“戦艦さん”がつまみ食いしちゃったので、ちょっと少ないんですけど」


潮「よ、良かったら、一緒に食べませんか…?」


軍医「せ、“戦艦さん”って…提督が鹵獲した、あの戦艦棲姫?」


潮「はい、気づいたら結構食べられちゃってました」


潮「私が調理場から少し離れた隙に…うう」


軍医「…っぷ」


軍医「あっはっはっは」


潮「お、お医者さん?」


軍医「ご、ごめんね…ふふ、ふふふ」


潮「な、何か私、変なコト言いました?」


軍医「そ、そうじゃないわ…っぷ、ふふ」



クッキーを焼く艦娘。


それをつまみ食いする深海棲艦。


軍医「くふふ…そう遠くないかなって、そう思っただけよ」


潮「?」


きっと遠くない。


かつての私たちの、未だ見ぬ戦いの答え


この子たちが、平和に暮らせる日。


いつか静かな海で、みんなで、一緒に。


軍医「もらってばかりだし、医務室秘蔵のお菓子でも振る舞うわよ」


軍医「せっかくだし、他の子も呼んでみんなで食べましょう?」


潮「はいっ」


雲間から冬のやや傾いた日差しが、未完成の書類を思い出したように照らす。


けど、最早それを何ら重荷と感じないのは___


応えるように、柔らかな潮風が耳元を吹き抜けていった。





0730時

鎮守府・執務室


戦艦棲姫の覚醒より数日。


鹵獲した彼女については、事前に各艦隊の旗艦に情報共有をしていたこともあり


小さな諍(いさか)いは絶えないが、ある程度、安定して我が艦隊の艦娘と共存できている。


提督「ふうっ…」


朝の鍛錬を終えて、着替えて執務室に入る。


この時間は大抵、執務室は無人だ。


出迎えてくれるのは外出前に作っておいた珈琲の香りだけだが、それは何事もない良い証拠でもある。


提督「うむ」


提督「いつもの事とはいえ、一番乗りというのは気分がいいものだな」


叢雲「それほどでもなかったわ」


提督「…」


…叢雲が、ちょうどドア側の壁に寄りかかって立っていた。


それほど朝に強いタイプじゃない彼女に、先を越されるのは珍しい。


提督「…おはよう、叢雲」


叢雲「おはよう、司令官」


叢雲「独り言なんて、寝ぼけてるんじゃないでしょうね」


朝から手厳しい。


だが、彼女がこうして軽口を叩く時は大抵、重要事がある時だ。


こうした言動が、彼女なりの不器用で遠回しな気遣いと気づくものは少ない。


提督「先を越されてしまったか。随分早いな」


提督「お前が来るということは…」


叢雲「別に、顔を見に来ただけよ」


提督「む?」


叢雲「…と言いたいところだけど、大本営からあんた宛。早く読みなさい」


彼女は手元の厚めの便箋をひらめかせる。


提督「便箋か…」


鎮守府に直接届く便箋は、基本的に2種類しかない。


一つは艦娘たち、あるいは他の人員の私的なもの。


もう一つは、暗号通信の使用さえ憚られる、様々な理由から公表されない極秘の指令書、報告書の類だ。


叢雲「今朝、大本営の使いから直接手渡されたわ」


叢雲「まず、愉快な内容ではないと思うけど…」


提督「中身は見ていないのか?」


叢雲「あんた宛でしょ。そこまで節操なしと思っているの?」


腰に手をあて、やや不機嫌そうに構える叢雲。


ただ内心、便箋の内容は気になるのだろう。心なしか落ち着きがないように見える。


提督「ご苦労、では見てみるとするか」


彼女に急かされまいとすぐに封を説くと、中には三つ折りの書類と、写真が同封されていた。


提督「…」


書類は三枚。一枚目に眼を通してみれば、彼女の読み通り悪い知らせだ。


叢雲「どんな内容かしら?」


その内容に、思わず眉をしかめてしまう。


提督「…根拠地が一つ、敵の手に落ちた」


叢雲「そう…やっぱり、悪い知らせだったわね」


俺にも叢雲にも、それほどの驚きはない。


元より本営から人を使って手渡される便箋の内容など、そういうものだ。


提督「新設された遠洋の最前線だ。まだ軍備が整い切っていないところを突かれたな」


概要が記された一枚目の書類を叢雲に渡す。


叢雲「…補給線を先に叩かれたのね。根拠地と本土の中継点に陽動艦隊を出されて」


提督「ああ。陽動と知らず、補給線を奪われまいと対応している間に、敵主力艦隊に背後を取られた」


叢雲「深海棲艦にしては頭を使ったわね…そこの将官と艦娘はどうなったの」


叢雲に促されるまま、二枚目の書類へ目を移す。


二枚目の内容は被害状況の概要、それから三枚目は指令書だ。


一枚目は眉をしかめるだけで済むが二枚目、三枚目はどうだか__


提督「…!」


叢雲「うん…?」


叢雲「どうしたのよ、硬い顔して」


ああ、アンタはいつもそうだったわね__などと、また彼女に軽口を言われた気がしたが、まともに耳に入ってこなかった。


なるほど。確かに軍備の整わない内からコレを相手にしては、


…新設の基地などひとたまりもない。


添付された写真を見れば、やや遠景だが、その姿が捉えられていた。


提督「叢雲、こいつを見てみろ」


添付された写真、それから二枚目の書類を彼女に手渡す。


最初に写真へ視線を落とした彼女の眼が、大きく見開かれる。


叢雲「これって…!」


提督「ああ。あのままで済むとは思っていなかったが…二か月ぶりだな」


二か月前のE海域戦役。


俺の艦隊が偶然にも撃沈した“アレ”


あの時、深海棲艦の指揮系統とも言うべき機能を果たしていたソレは、


かつて艦娘も深海棲艦も存在しなかった頃


人類が海の戦いで扱っていた“艦”そのものの形だった。


叢雲「私たちが沈めたはずなのに、どうして…」


提督「一隻ではなかったか、あるいは同じ艦が復元されたかだな」


提督「いずれにしても、アイツから詳しい話を聞く時だ」


提督「俺が艦隊の旗艦を集める。お前は、深海のお姫様を呼んできてくれるか」


叢雲「…了解よ」


言うが早いか、彼女は銀髪を靡かせ執務室の両開きの扉を開け放って出ていく。


執務室に再び戻った静寂は、嵐の前の静けさに相違なかった。




0730時

鎮守府・第一演習海域


この『鎮守府』とやらに囚われて、もう六日になる。


敵地に囚われた以上、約束はどうあれ


私は何らかの手ひどい尋問や拷問を受けるものと覚悟していたが


今のところ、こちらが拍子抜けするほど、そうした動きは全くない。


それどころかあの男は、私から何を聞き出すでもないのに、約束通り私の仲間を治療してくれている。


戦艦棲姫(…甘イ男。アレデハ、寝首ヲカカレテモ、文句ハ言エンナ)


と、心の内を敵意で満たそうとしても


艤装を奪われた以上、それが行えないようはずもなく。


そんな甘い男の庇護を受けるしかない身の上が、この上なく情けなく思え。


戦艦棲姫「ハァー…」


気が抜ける。溜息も出ようというものだ。



「「む」」



___それが、どうやら相手の気に障ったようだ。


向けられる視線が鋭さを増したのを感じる。


不知火「敵を前にして溜息ですか…いい度胸です」


夕立「駆逐艦相手だからって、ちょっと油断しすぎっぽい」


戦艦棲姫「…急ニ叩キ起コサレ、演習トヤラニ駆リ出サレレバ、溜息モ出ル」


ここ数日、私の日常はコレだ。


どうも、私との戦闘経験はこいつらにとって“おいしい”らしい。


だが私は、たとえ演習だろうと易々撃沈されてやるほど落ちぶれたつもりもない。


戦艦棲姫「ソンナ退屈ナ砲撃デハ尚更、ネェ…?」


不知火「…」イラッ


それに、今相手にしているのは艦娘の駆逐艦2隻。


多少練度が高いようだが、我ら深海の駆逐艦を嚮導する者たちに比べれば、その実力は比べるべくもない。


不知火「今日こそ、痛手を負わせてやりましょう…夕立?」


夕立「りょーかい!夜戦演習に移行するっぽい!」


私とあいつ等が積んでいるのは偽物の艤装、偽物の弾頭。


私本来の艤装と違って、いちいち手で操らなければならないが、故に深海棲艦でも扱うことができる。


“演習用艤装”と呼ぶらしい。殺傷力のない武装をわさわざ作るなど…此処の連中は下らないことに精を出すものだ。


戦艦棲姫「…ハァ」


夕立「不知火ちゃん…戦艦さん、また上の空っぽい」


不知火「それは好都合です。容赦は要りませんよ」


それでも、向けられる殺気だけは偽物ではない。


だから少しは…面白い。手慰みに付き合うのも一興と思える。


戦艦棲姫「…来ルナラ早ク来イ」


戦艦棲姫「クスッ…今度コソ、私ニ近ヅク事ガ出来レバ良イワネ?」


不知火「夕立、作戦通りに」


夕立「うん、夜戦演習開始!」


次の瞬間、“シラヌイ”と呼ばれた1隻の駆逐艦が放たれた矢のようにこちらに突撃してくる


もう1隻__“ユウダチ”は、“シラヌイ”と別れて大きく弧を描くように、こちらへ接近していた。


いずれも速力が昼戦と桁違いだ。さすがに夜戦が本懐の駆逐艦だけはある。


この動き。二手に分かれたことから見て、恐らく狙いは十字砲火。


確かにそれなら、火力の低い駆逐艦でも、


縦横から持てる砲弾全てを撃ち込むことで、戦艦にも大きな損傷を与えられる。


だけど。


戦艦棲姫「…愚カダワ」


二つ装備している主砲のうち一つを、突撃してきた“シラヌイ”に向ける。


引き金を下ろすと、狙い通りの位置に私の背丈の5~6倍はある水柱が突き立った。


さらに副砲を掃射し、弾幕と水柱で視界を遮る。


不知火「くっ!」


貧弱な装甲の駆逐艦など、着弾させずとも、


たったこれだけの牽制で簡単に動きを止めるものだ。


動きを止めてしまえば、あとは残った砲で“シラヌイ”を片づけるだけ。


残る“ユウダチ”についても、問題はない。


どんなに練度が高くても、戦艦対駆逐艦では戦いにもならないのだから。


戦艦棲姫「フフ。マタ駄目ダッタワネ?」


牽制を止め、主砲を本体へ照準する。


一基を“シラヌイ”、もう一基を“ユウダチ”へ。


先の掃射で立てた水柱がやむと同時に、主砲を放ってオシマイ。これまでそうだったように、今回もそうだ。



そのはず、だった



不知火「く、くくっ…」


水柱の向こうで、“シラヌイ”の口元が愉悦に歪む。


不知火「狙い通りに事が進むというのは、実に愉快です」


ふと見下ろせば、数本の白波が高速でこちらに接近している。


これは__


戦艦棲姫「魚雷ッ…!?」


不知火「毎回同じ手を喰らえば、誰だって対策の一つや二つは思いつく」


不知火「あなたの牽制射撃に紛れ込ませておきました」ニヤ


戦艦棲姫「少シハ、考エタヨウネ…!」


このままでは被弾する。砲撃は中断、回避行動を…


不知火「砲撃を止めました。第二射、お願いします」


夕立「うん、今度は夕立の番ね!」


戦艦棲姫「ッ!?」


“シラヌイ”から放たれた魚雷に目を取られていた隙に、時間差を生じて“ユウダチ”からも魚雷が発せられる。


“ユウダチ”から放たれた魚雷は、私が回頭した正面に位置していた。


12時と9時の方向から接近する魚雷は四発ずつ。


判断が遅かった。私の速度では被弾は避けられない…!


戦艦棲姫「クッ…」


夕立「で、砲撃さえ止められればっ」


不知火「戦艦など、ただの的に過ぎません」


私の牽制に対して、紛れ込ませるように放たれた“シラヌイ”の魚雷。


砲撃の中断と、その後の回避行動さえ見越した“ユウダチ”の魚雷掃射。


そして。


夕立「主砲副砲、射程圏内っぽい!」


不知火「挟撃します。合わせてください」


夜戦状況下における駆逐艦の速度、そして火力。


戦艦棲姫「侮ッテイタ…私ガ…!?」


不知火「もう遅い。沈めっ!」


夕立「パーティーっぽい!」


縦横に放たれる駆逐艦の全門掃射。


演習弾ということが疑わしいほどの衝撃。


遅れて、着弾した魚雷の炸裂。


戦艦棲姫「…キャアア!」


混濁する意識の中、水柱の向こうで拳を突き合わせる二隻の駆逐艦の姿が見えた



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叢雲「うーん…」


叢雲「こんな早朝から演習とはね。どの部屋探してもいないはずよ」


叢雲「少し遅くなっちゃたわ…」




0800時

鎮守府・執務室


提督「皆、急に呼び出してすまないな」


金剛「No Probrem!ワタシは何時でもOKだヨー!」


日向「うん…でも正直、朝からそのテンションについていくのは、少々つらいな」


金剛「日向はテンション低すぎデース!」


能代「あはは…まあまあ」


能代「でも提督がこんな時間に招集かけるなんて珍しいですね…何かあったのですか?」


提督「うむ。詳細は叢雲の奴が此処に来たときに話すが、近いうちに敵艦隊と戦闘の可能性がある」


金剛「!」


金剛「Yes!私の実力、見せてあげるネ!」ピョンピョン


能代「ふふ、久しぶりの戦闘ですね。能代も腕が鳴ります!」


日向「…だが、それが本題ではないんだろう?ただの戦闘なら、各艦隊の旗艦を呼び出す手間はない」


提督「その通りだ。今朝、大本営から届いた報告書によると敵艦隊には、2か月前…」


ガチャ


叢雲「2か月前、私たちが沈めた敵の指揮系統が含まれてるのよ」


提督「…」モゴモゴ


能代「あ、叢雲ちゃん」


日向「なに、例の艦がか」


金剛「oh…あれはちょっと手ごわかったネー…」


日向「ああ。アレのせいか知らないが、敵艦隊の動きがまるで違っていたからな」


能代「ええ。敵編成も私たちの編成に合わせてましたし、敵艦同士で連携まで…」


提督「…うむ、そういうことだ」


提督「だが今回は前と違い、事前にアレが居ることが分かっている。対策はいくらでも打てるということだ」


叢雲「今回は良い情報源もあるし、ね?」


提督「ああ。ところで妙に遅かったじゃないか、叢雲」


叢雲「ふん、別に遊んでたわけじゃないわ。戦艦棲姫、呼んできたわよ」


提督「ご苦労だった…ん?」


戦艦棲姫「ウ…」モジモジ


見れば、件の戦艦棲姫は扉の際から少し顔を覗かせるだけで、執務室に入ろうとしない。


提督「どうした、早く入れ」


叢雲「演習直後だったのよ。急ぎだったから、半ば無理やり連れてきたけど…」


提督「?」


戦艦棲姫「ホ、ホントウニ、入ラナイト、駄目カ…?」


提督「当然だ、今日の会議はお前がいないと始まらん」


戦艦棲姫「ウ、ウウ…」


提督「!?」


おずおずと執務室に入る戦艦棲姫の姿を見れば、いわゆる“大破”寸前の状態であった。


もともと露出が多い服装が更にはだけ、白い肌としなやかな曲線を一層強調している。


顔を紅潮させ衣服で覆えない部分を取り繕う様は、深海棲艦ということを忘れるほど__


提督「…」ポカーン


戦艦棲姫「ク…余リコッチヲ、見ルナ…///」


提督「あ、ああ…すまない」


慌てて視線を逸らす。なるほど、あれでは人前に出るのを恥じ入るのも仕方ない。


能代「…」ジトー


金剛「…」ジトー


叢雲「…」ゴゴゴゴ


日向「ふぅん、キミはああいうのが好きなのか」


提督「い、いや。別に俺は」


叢雲「…」ポカッ


提督「うっ」


叢雲「ふんっ、なーに呆けているのよ、さっさと始めなさい!」


提督「お、おう。だが待て、このままではいかん」


戦艦棲姫「?」


たとえ深海棲艦でも、女性をあのような格好で放っておくわけにはいくまい。


戦艦棲姫の肢体がなるべく視界に入らないよう顔を逸らしつつ、上着を貸してやる。


戦艦棲姫「アッ…」


提督「前のボタンは閉めろよ。それから会議が終わり次第、入渠だ」


入渠については、艦娘と同じように使用が可能であればの話だが…


戦艦棲姫「ワ、ワカッタ…」


戦艦棲姫は上着をそっと受け取り、胸元を抑えつつ器用に上着を羽織る。


こうした器用さは、艦娘だろうと深海棲艦だろうと変わらないらしい。


提督「しかし誰か知らんが、やるものだな」


提督「演習とは言えコイツを追い詰めるとは…伊勢か、赤城か?」


叢雲「不知火と夕立の二人組よ」


提督「あの二人か…!強くなったものだ」


金剛「ワタシの第四艦隊の駆逐艦二人ネ!?」


金剛「大金星デース!Congratulations!」


叢雲「ふふ、後で直接言ってあげなさい」


金剛「もちろん分かってるヨー!」


日向「駆逐艦が、か…航空戦力もないのに大したものだな」


能代「すごいです…私たち軽巡でも、ここまでできるかどうか…」


戦艦棲姫「…クッ」ズーン


提督「…」


提督「…」ポン


戦艦棲姫「…ン?」


提督「おかげで俺の艦隊も強化されている。礼を言うぞ」


戦艦棲姫「…毎度、無理ヤリ付キ合ワサレテイル、ダケダ。礼ナド…」


提督「確かに、元より敵同士の間柄」


提督「この先も馴れ合う事はないんだろう。だが覚えておけ」


戦艦棲姫「…?」


提督「ここに捕虜として居る限り、俺はお前をこの鎮守府の一員として扱う」


提督「それは捕虜の扱いにおける、帝国海軍の軍規でもある」


戦艦棲姫「…」


提督「だから…たとえ袂を分かつ敵だろうが、礼くらいは言わせてくれ。いいな?」


戦艦棲姫「…」コク


提督「うむ。どうも話が脇道に逸れ過ぎたな…」ポリポリ


提督「さて、各艦隊旗艦は傾注、本題に__」


艦娘たちに向き直り会議を始めようとした矢先。


クイ


提督「ん?」


麻襟に妙な突っ張りを感じ、不審に思い振り返れば、戦艦棲姫に袖口をつままれている。


提督「どうした」


戦艦棲姫「コ、コノ上着…」


提督「何だ?大きさが合わん、などと言うなよ」


戦艦棲姫「チ、違ウッ」


提督「意匠が気に入らない、というのも却下だが…」


戦艦棲姫「…」フルフル


提督「では何だ」


戦艦棲姫「フ、服…貸シテクレテ、助カッタ…」


戦艦棲姫「ダカラ…礼クライハ…言ッテ、オク」


提督「…はは」


思わず笑ってしまった。艦娘対深海棲艦、その対極図は今も変わりないが。


もしかしたら、戦う以外の未来も築けるのかもしれん。彼女を見ていると、そう思う。


提督「おう、気にするな」


提督(とはいえ、どんな未来だろうとそれを見るため、今は戦いしかない、というのが忍びなくもあるがな)


戦艦棲姫「…ン」コク


戦艦棲姫「コレ、胸元ガ少々キツイガ…暖カイナ…フフ」


提督「…」


ところで…微妙なうつむき加減で頬を紅らめ、こちらの顔色を窺うように上目づかいになるのはわざと、なんだろうか。


深く考えるのは止めておく。今は次の作戦に集中しなければ。


金剛「…」ジトォー


叢雲「…」ドドドドド


日向「ふむ、やはりああいうのが良いらしい」


能代「うう、スタイルじゃ負けていないと思うんですが…火力?火力が足りないんですか?」


提督「落ち着け、お話の時間は終わり。やるぞ?」


金剛「むー、釈然としないデスが…了解デース!」


叢雲「ったく…」


会議卓の上に広域の海域図を広げ、陥落した基地とこの鎮守府にそれぞれピンを打つ。


情報によれば、敵拠点と思しき箇所の南側に発達途上の温帯低気圧がある。


作戦進行の如何によっては、悪天候の中の戦闘となることもあるだろう。



__嵐が、近づいている。





おまけ:謹賀新年の鎮守府

0000時

鎮守府・執務室


ドタドタドタ…


ガチャ!


夕立「提督さん!あけましておめでとうっぽいー!」


赤城「謹賀新年です。今年もよろしくお願いします、提督」


伊勢「提督、日向、新年だよ新年!おめでたいわねー」


日向「ああ。提督…この通り、おめでたい姉ともども今後ともよろしく頼む。瑞雲もな」


伊勢「日向!?」ガーン


北上「ふぁ…提督あけおめー…いやぁ、めでたいよねぇ…じゃあ、戻って寝るわ」


赤城「き、北上さん!?」


提督「何?新年だと」カリカリ


叢雲「気が早いわねぇ、そんなはず…」カリカリ


叢雲「って、年開けているじゃない!」ガーン


提督「なんと…」ガーン


叢雲「うぅ…結局、年の瀬から年始まで書類仕事だったわね」


提督「ああ、だがその甲斐あって」


提督「これで…終わりだ!」ポン!


万感の思いを込め、旧年最後の書類に判子を叩きつける。


叢雲「やったの?…片づいたの?」


提督「ああ、結局最後まで付き合わせてしまった。ありがとうな」ナデナデ


叢雲「べっ、別に、あんたの秘書艦なんだから、付き合うのは当然だし///」


赤城「こんな年末まで書類が…お疲れ様です」


夕立「叢雲ちゃんもお疲れっぽい、肩揉んであげるー!」


叢雲「ありがと…んぅ、気持ちいいわー」


夕立「うわ、肩ガチガチっぽいー!」モミモミ


北上「にっしっし…さあさあ提督、一杯どう?」


提督「な、なんだ北上。それは酒か?見たことないラベルなんだが…」


北上「なんだよー、変な物なんて入ってないってば」


赤城「ふふ、私が保障しますよ。それは灘の銘酒で、鳳翔さんの口利きで手に入ったんです」


提督「よし頂こう」


北上「ちぇーっ…でもそうこなくっちゃね、注いであげるよー」トクトク


提督「ああ、有難う」


提督「ってお前たち、しっかり自分の器を持ってきているのか」


伊勢「新年だし、ね?」


日向「此処に集まった連中は、今年最初の酒を提督と一緒に呑もうという魂胆でな」


提督「準備の良いことだ。よし、一人ひとり注いでやる」トクトク


伊勢「あ!ありがとう。提督」


赤城「提督自らですか?ここは私が…」


提督「良い。数少ない、俺がお前らにしてやれることの一つだからな」トクトク


赤城「提督…そんなこと…」


叢雲「一航戦が、湿っぽい顔しないの」コツンッ


赤城「あうっ」


叢雲「アンタも貧しいこと言うんじゃないの」ポカ


提督「うっ」


北上「駆逐艦が空母や提督を小突くって、すごい絵だね~」


夕立「初代秘書艦の特権っぽい?」


日向「新しい。惹かれるな…」


提督「…っと、叢雲と夕立は何を飲む?まだ酒は飲めない年だろう」


夕立「お酒、ちょっと飲んでみたいっぽい!」


叢雲「祝いの席くらい、皆と同じものが良いわね」


提督「…うむ。少量ならそんなに酔いもしないだろ」トク



----------------------



提督「皆に行き渡ったな」


夕立「準備OKっぽい!」


叢雲「これが清酒ね…美味しいのかしら」ドキドキ


北上「飲んでみればわかるってー」ニヤニヤ


赤城「では提督、音頭をお願いします」


提督「うむ」


伊勢「ひゅーひゅー、提督良い男よー」


日向「伊勢…もう飲んでるのか?」


提督「ごほん…昨年は皆、大変ご苦労だった」


提督「お前たちのおかげで、我が艦隊は南方海域さえ制圧しつつある」


提督「それは大きな戦果だ。けれどな」


提督「俺は何より、昨年から一人も欠けることなく新しい年を迎えられたことを」


提督「何より嬉しく、誇りに思う。これこそ、お前たち一人ひとりの弛まぬ鍛錬による本当の戦果だ」


提督「…ありがとうな」


赤城「提督…」ジーン


北上「…んなことないって~、沖ノ島沖もカスガダマ沖も、キス島だって」


伊勢「提督の指揮が無ければ、一体どうなっていたことか、ね?」


叢雲「…そうね」


日向「ああ」


提督「ん…」


提督「なんだ?俺を泣かせる気でもあるのか」


夕立「鬼提督の眼にも涙っぽい~?」


提督「適当なことを言うな…だが、まあ、なんだ」


提督「来年は、今寝ている連中も呼んで、皆でこうして呑もう」


叢雲「誰ひとり沈むことなく、ね?」


提督「ああ。誰ひとり沈むことなく」


日向「…任せておけ」


伊勢「ふふ、この鎮守府の皆となら、どんな海域だって!」


赤城「ええ…!」


北上「ま、新年の敵もギッタギタにしてあげましょうかね!」


夕立「大船に乗った気でいるっぽ~い!」ピョン


叢雲「ふん、ほんっと仕方がないわ。新年もアンタに付き合ってあげる!」


提督「はっはっは…乾杯!」


「「「「乾杯!」」」」



----------------------


伊勢「あら、これ美味しい」


提督「おう、本当だな」


叢雲「か、辛い…!?なによこれぇっ!」


北上「あっはっは、むらっち、良い顔だねぇ」


夕立「ん~、初めてだけど、結構美味しいかも!」


赤城「あら、夕立さんは酒豪の気がありますね」


日向「うん…美味いな」


叢雲「ゆ、夕立はなんで大丈夫なのよ?」


提督「得手不得手は誰しもあるさ。無理するな」



----------------------


夕立「ところで提督さん、夕立の晴れ着、感想聞かせてほしいっぽい!」


提督「ああ、赤と橙で…良い紋様だな。夕立に良く似合ってる」


夕立「ほんと!?嬉しい~!」ギュ


提督「お、おい」


叢雲「むっ」


提督「何だ、酔ってるのか?」


夕立「そうっぽい?ふふふ…」ギュー


叢雲「…」グイ


提督「お、おい何だ叢雲まで」


叢雲「…」ギュッ


北上「むらっちもう酔ってる~、嫉妬しちゃった?」


叢雲「…///」プイ


伊勢「きゃー、提督モテモテじゃなーい」


日向「ああいうのは、駆逐艦の特権なんだろうな…」ゴク


赤城「ええ…でも本当に美味しいお酒ですね。鳳翔さん流石です」ゴク


伊勢「そうね、最近忙しくて行って無いけど、また顔出そうかしら」ゴクゴク


提督「おい、皆飲み過ぎじゃないのか…?」


北上「新年からケチ臭いこというねぇ、提督は飲み足りないのかな~」トクトク


提督「おいおい…」



----------------------


伊勢「でさぁ、そろそろぉ、試製晴嵐を積んでみたいかな~なんて思うんだけどぉ、どうかなぁ」


日向「私と、伊勢で、こないだ具申した、だろう?…どうなってるんだ?」


提督「上に挙げたが、あれは当面無理だ。開発環境がまだ…」


夕立「むぅ、てーとくさんっ…よそ見しちゃ嫌っぽいっ…」


提督「む…」ナデナデ


夕立「えへへっ、提督さん、暖かいっぽい~」グリグリ


叢雲「…」グイ-


提督「む、叢雲」


叢雲「う、うっさい…いーから、黙って、私も」


北上「私も?」ニヤニヤ


叢雲「う…な、撫でっ…うう///」


提督「おう」ナデナデ


叢雲「あっ…」


伊勢「提督、聞いてるぅ?私は紫雲でもぉ、良いんだけどなぁ~」


日向「扶桑や山城は…改二で最新型の瑞雲十二型を、積んだようだぞ…私たちはまだか?」


提督「そも、ここに扶桑型は配備されてないだろう…」


提督「だが…お前たちの改二もそう遠くないはずだ。期待して待ってろ」


夕立「てーとくさん、また手が止まってる~」


提督「…」ナデナデ


夕立「んふふ…♪」


提督「…」ナデナデ


叢雲「ん、ぅ…悪く、無いわ…ふふ」


提督「いつもは手か足が出るんだがな」


叢雲「き、今日だけ、なんだから」


赤城「いいなぁ…」ボソッ


北上「赤城っちも嫉妬?ほんと、提督はモテモテだね」


赤城「き、北上さん、今の、聞いてた…?」


北上「まあまあ、飲みねえ飲みねえ」トクトク


提督「お、おい待て北上、これ以上は…!」



----------------------

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翌朝。


軍医「ん~、いい天気」


軍医「今年はいい年になりそうねっ」


軍医「さて、とっとと司令官への挨拶を済ませちゃいましょ」


コンコン


軍医「…」


軍医「返事がない?入るわよ~!」


ガチャ


軍医「…!?」


夕立「…てーとく、さん…ふふ…♪」zzz


叢雲「ん、だめ…そんなの、まだ…むにゃ」zzz


赤城「お櫃…船盛り…ふふ…てーとく、もう食べられません…」zzz


日向「ん…ずいうん…」zzz


伊勢「ひゅうがぁ…」zzz


北上「…大井っち~さすがに二十五連装魚雷はやり過ぎ…ぐぅ」zzz


提督「ああ、軍医か…」ゲッソリ


軍医「…」


提督「助かった…いや、もう手遅れなのか…?」


軍医「……」


提督「とにかく、来てくれて…っ!?」


軍医「…」ズドドドドド


提督「お、おいどうした、なぜ殺気を出す」


軍医「ふ~ん、昨日は“お楽しみ”だったようね~」ニコ


提督「!?」


軍医「ちっちゃな子から大人まで、より取り見取りじゃない。楽しかったぁ?」ニコニコ


提督「な、何だと、誤解だ!」


軍医「不埒者め…良いわ。冥途の土産に前弩級戦艦最強と謳われた、この“三笠”の剣腕__」スラァ


提督「」


軍医「一太刀だけ見せてあげる。今一度、目に焼き付けなさい…?」


提督「ま、待て、みか_」


軍医「あけましておめでとう、司令官」ニコ


軍医「そしてさようなら」


キィン!


提督「う、ぉおおおお!?」


ドゴォ


…ボチャーン


__この後日。軍医の誤解は解けたものの。


__鎮守府には全身包帯巻の提督と、それを甲斐甲斐しく世話する軍医と艦娘の姿が、頻繁に見られたらしい。



さらにその後。



提督「お前な…仮に“お楽しみ”だったとして、あの人数を一人で相手にできる訳なかろう」


軍医「い、いやぁ…司令官ならもしかしてって…ホントにごめんね?」


提督「まあいい。改めて、今年もよろしく頼むぞ軍医」


軍医「はい…今年もお世話になります、司令」


叢雲「此処で一番怒らせちゃいけない奴が分かった気がするわ…」




0815時

鎮守府・執務室


提督「さて、では戦艦棲姫」


戦艦棲姫「ン」


提督「初めて会った夜、お前に聞きたいことが山ほどあると言ったな。それをここで聞かせてもらおう」


戦艦棲姫「…アア、良イダロウ」


叢雲「妙に素直ね」


戦艦棲姫「オ前タチハ、約束通リ私ノ随伴艦を看テクレテイル」


戦艦棲姫「ダカラ、私モ約束ハ守ロウ」


叢雲「はっ、どこまで信用していいのかしら」


戦艦棲姫「人質ヲ取ラレテイルカラ、従ウダケノ話ダ」


戦艦棲姫「マシテ従ウノハ、ソコノ男ニダケ…元ヨリ、貴様ラ艦娘ノ信用ナド要ラナイ」


叢雲「ふんっ…」


提督「落ち着け叢雲。まず一つ目の質問だ。お前たちは何故__」


コンコン


提督「…」ハァー


提督「邪魔の多い日だな…誰だ」


ガチャ


軍医「会議中に、失礼するわね」


提督「軍医…今後の作戦にかかわる会議中だ、退出しろ」


軍医「深海棲艦から直接、話が聞けるんでしょう?私も、ここに居させて」


提督「ダメだ。一鎮守府の軍医の権限を越えている」


軍医「ケチくさいわねー、邪魔はしないってば」


提督「それでも駄目だ」


軍医「…司令官」


軍医「私たち旧式の艦娘にとって最後の戦い…日本海海戦の直後に発生した深海棲艦との戦い。それが人類と深海棲艦の最初の戦いだった」


軍医「知りたいの。私の仲間たちが沈んでいった理由であるこの子たちが、何なのか」


軍医「あの日本海海戦の裏で、何が起こっていたのか…お願い」


提督「…」


金剛「Hey、二人で何の話してるデース?」


能代「日本海海戦って…五年前にあった、国外の艦娘との海戦ですよね…?軍医さん、普通のお医者さんじゃないんですか?」


日向「以前から海戦に詳しいとは思っていたが、艦娘だったのか」


提督「あれだけ隠したがっていたお前がな…それとも、もう良いのか軍医」


軍医「色々あってね。未練も悪くないって、そう思うことにしたの」


提督「そうか…お前はどう思う、叢雲」


叢雲「良いんじゃないかしら?」


叢雲「深海棲艦が初めて現れた戦闘の経験者と、深海棲艦の生まれる理由…」


叢雲「無関係とも思えないし、その戦闘の経験者から話を聞かない手はないと思うわ」


提督「一理あるか…やむを得ん、同席を許可する“三笠”」


日向・能代「!?」


軍医「ありがと…司令官、叢雲ちゃん」ニコ


能代「みっ、みかさ…?って、あの“戦艦三笠”?海軍士官学校で習った、あの…!?」


日向「五年前の日本海海戦で███国の艦娘と戦い、その一方的な勝利にもっとも貢献した艦娘…なるほどな」


軍医「そんな大したものじゃないわよ…そのあとすぐに深海棲艦にやられて、戦えなくなっちゃったし」


軍医「深海棲艦が世界中の海を分断したせいで、あの勝利も意味なくなっちゃたし…仲間もたくさん沈んでいったわ」


日向「…」


金剛「?…叢雲ちゃん、どういうこト?」


叢雲「軍医はあなたと同じ出自の艤装を操った、かつての艦娘なの。私たちの先輩で、艤装の上ではあなたの“ご先祖様”よ」


金剛「!?」


軍医「といっても血縁関係はないわよ?金剛ちゃんの生き別れのお姉さんとか、そんなオチは無いから安心して」


金剛「だ、誰もそこまで心配してないデース…でも、教えてくれても良かったのに」


叢雲「今まで軍医の素性を知っていたのは、私と司令官だけだったわ」


提督「三笠たっての願いで、他の者には教えないでくれ、と言われていてな…それなのにこれだ」


軍医「し、しょうがないじゃない!本当につい最近まで、そう思ってたんだから」


提督「昔のお前を知る者からすれば、大した変化だと思うさ。何かあったのか?」


軍医「うん…潮ちゃんのおかげね」


軍医「ずっとあの戦いの未練を引きずってるだけの私でも、仲間だって…そう言ってくれたの」


軍医「一歩退いて貴方たちを見届けるつもりだったけど、そうもいかなくなっちゃった」


提督「そうか、潮が…しかもお前を立ち直らせるとは」


軍医「笑ってもいいのよ?精神科医がケアされちゃ世話無いわよね」


提督「そう卑下するな、医者が患うこともある。それにお前がそう決めたのなら、それで良い」


軍医「…うんっ」


戦艦棲姫「…」クイクイ


提督「ああ、どうした」


戦艦棲姫「ネエ、私ニ聞キタイコト、アルノヨネ?」


提督「だな…待ちくたびれたか」


戦艦棲姫「首ガ長クナリソウ」


提督「ふっ、妙な言い回しだな…各艦隊旗艦、今度こそ始めるぞ」


叢雲「はいはい」


日向「ようやく本題だな」


提督「三笠、悪いが今は予備のパイプ椅子しかない」


軍医「お気遣いどーも、仕事で座り慣れてるし平気よ」ガチャ


能代(と、隣に前弩級戦艦が…!)


金剛(な、なんて呼べばいいデース…三笠ちゃん?ご先祖様?…グランマ?)


提督「戦艦棲姫、お前に聞きたいことは色々とある。あの“艦”のこと、お前たち深海棲艦のこと…」


提督「だがまずは、全ての事の発端から聞こう」


提督「お前たちは、何故人類に敵対する?」


提督「目的はなんだ」


戦艦棲姫「…」




おまけ:深海棲艦の言語事情

鎮守府・広報掲示板前


提督「しかしお前も感心なことだ。言葉を勉強したい、などと」


戦艦棲姫「話スノハ少シ出来ルガ、読メナイ字ハ沢山、アル」


戦艦棲姫「ココデハ、色々ト不便ダカラナ…ン、コレハナンテ読ム?」


提督「ん?『結納』…ゆいのう、だな」


提督(なぜ広報の掲示板にこんな単語が…?)


戦艦棲姫「ドウイウ、意味?」


提督「婚約のしるしに、男女が何らかの品物を取り交わすことだ」


戦艦棲姫「…コンヤク?」


提督「…将来、結婚することの約束だ」


戦艦棲姫「ケッコン??」


提督「これは…どう言えば伝わるかな。根も葉もない言い方をすれば」


提督「つがいになる、と言えば分るか?」


戦艦棲姫「ツガイ…」


戦艦棲姫「…」


戦艦棲姫「…///」カァァ


提督「…おい、顔が真っ赤だが大丈夫__」ポン


戦艦棲姫「…!?」


バシッ


提督「つっ…何をする!」


戦艦棲姫「黙レ、バカ、エッチ…!」バシッ


提督「ぐっ…貴様の膂力で気安く叩くな!」


戦艦棲姫「ウルサイ、変態、不埒モノッ!」


提督「お前、もう勉強必要ないだろっ」




0830時

鎮守府・執務室


戦艦棲姫「『目的』カ」


戦艦棲姫「フ…フフフ、フ」


提督「ん、何がおかしい」


戦艦棲姫「フフッ…悪イナ。ダガ、ソノ質問ハ今更ダ。間抜ケ過ギナイカ」


叢雲「…」


提督「それこそ無粋な指摘というやつだ」


提督「俺たちが貴様らと交わした砲火の数と、得られた情報に釣り合いが取れん事など、内地の子供でも知っているさ」


叢雲「ねえ…深海棲艦。多少の付き合いもあるから、今のは大目に見るけど」


叢雲「これ以上、コイツ__いいえ、司令官にふざけた事を抜かすなら風穴を開けるわ」


叢雲「黙って、質問にだけ、答えなさい」


提督「叢雲。落ち着けと言っているだろう」


叢雲「ふんっ…なによ」プイ


提督「あー、お前たちもだ。全く先の思いやられる」


日向「…何のことだ?別に瑞雲を出そうなどとはしていないぞ」


金剛「41㎝連装砲に徹甲弾込めたりしてないデース」


能代「の、能代は何もしてないです。本当ですよ!」


軍医「んー」


軍医(今まで殺し合いをしてきた相手と話すのは、気が立つものよね)


軍医「ねぇ司令官、腕の見せ所よ。これ」


提督「分かっている」


提督「…すまんな戦艦棲姫。だがどれだけ今更でも、それをはっきりさせなければ、俺たちは前に進めない」


提督「お前も含めて、な」


戦艦棲姫「…イイダロウ」


軍医(戦艦ちゃんも、提督の言うことなら比較的聞くのよねー)


戦艦棲姫「ダガ…ドコカラ話シタモノカナ」


提督「最初からだ。お前は、どうやって生まれた。どうして人間に敵対する…」


戦艦棲姫「我々ハ…」


戦艦棲姫「カツテノ海デ戦イ、使イ捨テラレテ、滅ンダモノノ、成レノ果テ」


戦艦棲姫「今ハモウ、理由スラ分カラナイ怨念ニ、突キ動カサレテ」


戦艦棲姫「貴様ラヲ…艦娘ヲ憎ム、影」


戦艦棲姫「我々ハ…私、は…」


----------------------

---------------

--------


思い出せる中で、最も古い記憶。


揺らめく水面の向こうに輝く太陽を、海の中から見つめていた。


穏やかな光景の中、必死に何かを探すように一本の腕が、水面から水中へ伸ばされていた。


それが徐々に遠ざかる。


沈んでいく。


『ああ…』


『これで、終わりか』


『…』


『だが、あの子たちならきっと勝てる。彼女たちなら』


『この戦いに勝てたなら、きっと平和な時代が訪れる』


もはや取り返しもつかないほどの遠く、水面に未だ見える腕。


沈んでいく。


『あの腕…』


『私を探しているのか?だが、もういいんだ』


『私のことは忘れて、貴方たちは生きて』


『そうして、どうか、幸せに』


目を閉じて、祈る。


どうか。どうか。


私には生きれなかった、平和な時代の、その先まで。


…どうか


ホン トウ ニ


『…?』


ソレ デイ イ ノ


海の底から響く、重低音のような、声ならぬ声。


沈んでいく。


もはや陽光は遥か遠く、水圧が私を徐々に押し潰そうとしていた。


声は止まらない。


『…っ』


争イ ノ ナイ 平和


オマ  ハ イズ レ


忘レ ラレ ル  ナ ニモ 残ラ  ナイ


『ぐ…』


コ  ノ 海ノ底 デ 朽チ


『や…めろ』


尽キ ル


『やめて…』


『やめてくれ…』


モ ウ 空  モ 太陽モ 見 ル コト ハ ナイ


コノ 広イ  海  デ 


消 エル


…今や海は暗黒で、どちらが上か下かも分からない。


凍えるような寒さと、暗さが、恐ろしい。


もう、この寒さと暗さ以外の何も、私には残されていない。


そう実感した時、猛烈な衝動が胸で弾けた。


『…うあ』


もう一度だけでいい。

太陽の光が見たい。空が見たい。穏やかな海が、仲間の顔が、見たい。


『あアっ…』


『私は…私ハ、マだ消えたク、なイ!』


『皆ト、一緒に、いタい…!』


手を、伸ばす。


私を探す水面の手を求めて。


『消エタク、ナイ…!!』


ソ ウ


ナ     ラ


一緒  ニ


イコ ウ 


ソ  シ テ  


思   イ 知 ラセ ヨ ウ


--------

---------------

----------------------


提督「…」フー


会議を初めて5本目の煙草を、板金の灰皿で押し消す。


普段なら執務室で2本も吸うと、能代からやんわり注意されたり、叢雲から拳骨が飛んでくるんだが。


今は何もない。


それほどに、戦艦棲姫がもたらした情報は海軍にとって…いや、艦娘にとって、重い。


軍医「ねえ」


軍医「戦艦ちゃんの具合が良くないわ。今日は、これぐらいに」


提督「ああ」


戦艦棲姫を見やる。


先ほどの話。最初こそ、彼女のもっとも古い記憶について客観的に話していたものの


深海棲艦の核心に近づくにつれ、徐々に語り口が主観的になり、断片的になっていった。


手で顔を覆い、今にも椅子から崩れ落ちそうなほど憔悴している。


妙な話だが、彼女自身が、残る記憶に戸惑っているようにも見えた。


提督「そうだな。どのみち、これ以上はこいつらにも良くない」


軍医「…そうね」


叢雲。能代。日向。金剛___全員、顔色が悪い。無理もない。


提督「お前は戦艦棲姫の面倒を見てやってくれ、俺はこいつらを」


軍医「分かったわ」


軍医「戦艦ちゃん、立てる?」


戦艦棲姫「ウ…ワタシ、私ハ…」


軍医「ちょっと横になりましょう、大丈夫」


軍医「…大丈夫だから」


軍医がもはや前後不覚の体の戦艦棲姫の肩を支え、会議室を出る。


執務室には重苦しい沈黙が残された。


今回、得られた情報は2つ。


ひとつ。深海棲艦は沈んだ艦娘の成れの果てである可能性が極めて高い。


もうひとつ。深海棲艦を発生させ、人類に仕向ける“何か”が存在する。


その“何か”と例の“艦”の関連は今回つかめなかったが…無関係であるとも思えない。


叢雲「艦娘が沈むと深海棲艦に、か…」


叢雲「私たちが沈めた相手にも、いたんでしょうね。元艦娘が」


叢雲が独り言のように呟く。


日向「日本海海戦で初めて発生した深海棲艦…それも、元は艦娘だった、ということか」


能代「ええ。恐らくは、当時の艦隊が撃沈したバルチック艦隊の艦娘…もしくは」


金剛「shit…ワタシたちの、先輩方ってことですネ」


提督「…ああ」


叢雲「けれど、腑に落ちないこともあるわ。ねぇアンタ」


提督「お前の言いたいことは分かる」


提督「これまで沈めてきた敵艦の数、それと日本海海戦以降の轟沈した艦娘の数」


提督「比較する間でもない、明らかに帳尻が合わん。そういうことだろう」


叢雲「そうよ。私たちが沈めてきた深海棲艦は、100や200じゃないわ」


叢雲「対して、私達海軍はできる限り轟沈する艦が出ないよう、徹底して作戦を組んできたじゃない」


提督「ああ」


能代「そう、ですね…では、あれほどの数の敵艦を一体どうやって…?」


執務室に、再び沈黙が戻る。


金剛「むー」


深海棲艦の正体には近づけたが、むしろ謎は増えた格好だ。


だが、この向こうには必ずこの戦いを終わらせる鍵があるはずだ。


それを__


金剛「Hey!テートク、皆さん!」


叢雲「きゃあっ…どうしたのよ急にっ」


金剛「何だか顔が硬いし暗いねー!」


日向「普段と変わらんと思うぞ」


金剛「ダマラッシェー!問答無用デース!」


金剛「こんな時はTeaPartyデース!早速準備しまース!」


提督「」ブフッ


金剛の戦艦主砲級の強引な話題転換に思わず吹き出してしまう。


能代「て、提督…っぷ…ふふ」


どうやら能代を巻き込んでしまったようだ。


会議の体裁もあり、すまん、と能代に目で謝る。しかし金剛のおかげで、執務室の雰囲気はずっと軽くなった。


叢雲「もうっ、あんた達ねぇ…ふふ」


日向「全く、敵わないな。こういうところは」


日向、叢雲も不満を言いつつ、表情からは翳りが失せ、柔らかな笑みを浮かべている。


さすがは金剛型戦艦の長女といったところか。


提督「金剛、大きな貸しができた」


金剛「NoProbrem!テートク水臭いヨー」


金剛「でもせっかくだから、もっと褒めるといいネー!」フフン


提督「ああ。ありがとうな」ナデナデ


金剛「わっぷ…不意打ちは卑怯デース///」


コンコン


ガチャ


伊勢「ねえ、執務室に甘味があるって聞いたんだけど、相席いいかしら?」


能代「あ、伊勢さん…と利根さんに、赤城さん?お疲れ様です」


利根「提督よ、わしらを差し置いて甘味など許されんぞ。わしらを差し置いて甘味など!」


赤城「ええ、特に一航戦はそうです。この一航戦はっ!」


日向「何で二回言うんだ?」


叢雲「あんたたち、どこから聞きつけたのよ…?」


金剛「oh…流石にこれはまかない切れるか不安ネ…」


提督「…」


ガチャ


ピポ パ


トゥルルル


提督『こちら執務室。間宮、ああ俺だ、急で済まない。執務室に出張頼めるか。ああ、伊良湖も。そうだ』


金剛「!テートク、Goodjobネー!」


日向「まあ、そうなるな」


提督「うむ、是非もない」


叢雲「ふふっ、まったく。しょうがないわねー」


…会議卓上の海域図はそのままに、即席のお茶会が催されることとなった。


陥落した基地、旧軍艦を象る“艦”、手元の指令書。


問題は山積しているが、肩に力が入り過ぎると良い作戦は立てられんものだ。


まずは、美味い紅茶で頭を冷やすとしよう。


----------------------


戦艦棲姫「ン…」


軍医「あら、お目覚め?」


戦艦棲姫「…モウ、平気ダ。肩、離セ…」


軍医「無理しないで。まだフラフラじゃない」


戦艦棲姫「…マダ、全部話シテイナイ」


軍医「分かってる。あの写真の艦のことね。」


戦艦棲姫「ソウダ…」


軍医「それは追って話してもらうことになると思う。でも、今は貴方の体が大事よ」


軍医「無理して倒れたら、それこそ大変だし。ね?」


戦艦棲姫「アア…」


戦艦棲姫「…」


戦艦棲姫「…オイ」


軍医「うん?」


戦艦棲姫「ズット前ニ、似タヨウナ事、言ッタカ、私ニ」


軍医「貴方と私、話したのは今日が初めてでしょ?変なこと言うわねー」


戦艦棲姫「ソウカ」


軍医「そうよ」


戦艦棲姫「…ソウカ、スマナイ」


軍医「いいのよ」


戦艦棲姫「アア」


後書き

設定・用語
※実験的な使い方のため、不快に感じたらコメントでお知らせください

【人物】
・提督
████鎮守府の提督。帝国海軍内の地位は大佐。
冷静沈着で感情が表に出ない人物…のはずだったが、
深海棲艦との戦いが落ち着いていた2か月の間に、艦娘との関わり合いの中で徐々に表情が豊かになる。
指揮能力より事務処理能力の方が高いともっぱらの評判。
体格が良く、艦娘や深海棲艦に殴られても比較的早く回復する

・叢雲
練度116、第一艦隊旗艦。
████鎮守府の初期艦にして、最も練度の高い艦。ほとんど秘書艦から外れたことがない。つんでれ。
火力の乏しい自身を第一艦隊旗艦に置き続ける提督に当初は不信感を抱いていたものの、
数々の難所に直面しても、駆逐艦の性能を引き出し、作戦を完遂する提督を現在は信頼している。
本人は否定するが、提督にとっては一般的な駆逐艦を凌駕する鎮守府の主戦力。
駆逐艦としては珍しく、近接武器であるマストを装備している。

・伊勢
練度97、第一艦隊所属
沖ノ島海域攻略のため配備された航空戦艦。
本来は過積載であるはずの46㎝三連装砲を二基搭載しており、艤装の安定性と命中率の低下を練度でカバーしている。
第一艦隊内で桁違いの火力を有しており、海域攻略に欠かすことのできないキーカードであり、
数々の海域でMVPを獲得してきた。基本的に明るいが、妹思いの心配性でもある。

【用語】
・日本海海戦
本SSより五年前にあった、███国バルチック艦隊と帝国海軍連合艦隊の決戦。
また深海棲艦が現れる前の人類同士の最後の海戦であり、艦娘同士の大規模な戦闘。
敷島型戦艦、浅間型装甲巡洋艦、春雨型駆逐艦など多数の旧式の艦娘が戦いほぼ一方的な勝利を得たが、
直後に“発生”した深海棲艦により大損害を受け、多数の艦娘が轟沈する結果となった。
この海戦以降、人類は制海権を失い、陸に閉じ込められることになる。



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このSSへのコメント

68件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2014-10-24 06:06:34 ID: gOI84z3Y

ちょうどいいところで終わってるな

続き頼みます!

2: SS好きの名無しさん 2014-10-26 23:14:51 ID: xWlxqP6v

待ってた

しかし

████施設がスゲー気になるんだが

3: 山椒 2014-12-01 01:36:24 ID: egtFXDhN

軍医さん戦艦三笠でしたか

神風型なんかと一緒に戦っていたんでしょうね...

なんか悲しいなぁ...

続きが楽しみです

4: SS好きの名無しさん 2014-12-04 19:01:43 ID: l6bHNzca

面白い。

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1: SS好きの名無しさん 2014-12-04 19:02:05 ID: l6bHNzca

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