2015-11-24 21:11:19 更新

概要

提督と艦娘たちが鎮守府でなんやかやしてるだけのお話です

注意書き
誤字脱字があったらごめんなさい
基本艦娘たちの好感度は高めです
アニメとかなんかのネタとかパロディとか
二次創作にありがちな色々
長い
EXパートはおまけです


前書き

26回目になりました
楽しんでいただければ幸いです お目汚しになったらごめんなさい
ネタかぶってたら目も当てられませんね

それではこの番組は

睦月「教えてっ」
文月「こんごーさん♪」
如月「はーい、今日の議題はこれね?」
皐月「秋刀魚は、英語で何というの?だってさ」
金剛「はーいっ、金剛デース。秋刀魚は英語で、オータムソードフィッシュって言うネっ」

弥生「言わないね…」
卯月「言わないぴょん?」
三日月「ま、まぁ…直訳すれば、あってるかも?」
望月「名前に直訳もなにもあるかっての…」
大鳳「…正しくは、sauryでソーリーね…」

菊月「ソードフィッシュか…カッコいいな」
ゆー「んー…ドイツ語だと、まくれー…むぐぅ」
長月「頼む…ドイツ語はやめてくれ…ドイツ語は…まずい」(←ゆーの口を抑えてる

北上「金剛さんってさー…たまに、英語おかしいよね?」
大井「帰国子女だって日本人って事なんでしょ?」
提督「ルー語しゃべりだすよりはマシだとおもう」

夕張「…秋刀魚が不漁って聞いたけど…まさか、貴女達…」
多摩「言いがかりは辞めてほしいにゃ」
球磨「球磨達にだって、分別はある…あるクマ」
瑞鳳「二度わないでよ…不安になるから…」
木曾「…とりあえず、始めるぞ」

もろもろのメンバーでお送りします


↑前「提督と海外艦」

↑後{提督と秋の雨」




提督とハロウィン


ー工廠ー


本来なら鉄の匂いのするそれらや

油臭いあれらが雑然と置かれている作業台の上

なのだが、今日に限っては隅に寄せられ、大平原と化していた

そんなだだっ広い作業台の上に、ごろんと転がる大きなかぼちゃ

子供の頭どころか、体まで飲み込んでしまえそうな程のサイズのカボチャ

それを前に、黙々と作業を続ける夕張さん


提督「器用だねぇ、相変わらず…」

夕張「艤装いじってるよりは簡単だって…ふぅ」


一段落付いたのか、軽く息を吐いて作業の手を止める夕張

かぼちゃの底は切り取られ、中身はすっかり刳り貫かれている

三日月型に空けられた穴と、その上に釣り上がった目のような穴が空いていた

そんな、おどろおどろしくも愛らしい表情が、前後左右で別々の表情を刻んでいた

ジャックオーランタン…ハロウィンの代名詞のようなそれ

後は中にランプでも入れれば、暗い闇夜に浮かび上がるお化けの様にも見えるだろうか


夕張「にしても…提督は不器用ね?」

提督「むぅ…頑張ったんだけどね…」


提督の前にも、同じように かぼちゃが転がってはいるのだが

その実態は、ジャックオーランタンというよりも

題名「穴の開いたかぼちゃ」と、言ったほうが表現としては近い

削り取られた口に、穿っただけの目

その雑さは、それはそれで不気味ではあるのだが

ハロウィンの飾りにするには、いさささか不格好だった


夕張「まっ、期待はしてなかったけど」

提督「ウィルオーウィスプなら得意なんだよ」


ぱちんっと、指を弾く提督

すると、辺りに ぽつぽつと光の球が浮かび上がり

それらが、ゆらゆらと風に流されるように漂いだす


夕張「…これ、ほんとに人魂だったりしないわよね?」

提督「にひひひひひ」


念の為、一応は念の為に確認を取ってみる夕張

しかし、返って来たのは妙な笑いのみ…不安しか無い

が、仮に人魂だったとしても

提督がオモチャにしてる以上は、その程度のものなのだろう

夜な夜な枕元に立ってたりしない事を祈るばかりである


夕張「そう言えば、その指パッチンで作れたりしないの?」


提督がイタズラをするときによくやっている動作

大抵 この音がなった後は、しょうもない事が起きたりしていた

効果の程はしれないけれど、便利そうだなとは思う


提督「可能は可能だが…」


おもむろに穴を開けただけのカボチャを被る提督


提督「これを量産するの?」

夕張「ああ…そういう…」


ハンドレスで作業はできるが、ハンドメイド以上にはならないらしい

便利そうでやっぱり不器用な才能のようだった


提督「でも光るよ?」


提督のかぶっているカボチャ

その開口部からピカーっと光が溢れだした


夕張「光るなって、まぶしっ!」


穴という穴から、サーチライトのように一直線に吹き出す光の線

それはもうランタンの光源ではなく

爆発寸前の衝撃映像の様な光り方だった


提督「うおっ!」


だが、それも一瞬

ランタンが輝いたかと思えば

直ぐに提督がその場に蹲った


夕張「なに?どうしたの?」


突然の出来事に、蹲っている提督を心配そうに覗き込む夕張

ゆっくりと顔を近づけると、ほそぼそとした声が耳に届いた


提督「…目がぁ…目がぁ…」

夕張「…」


呆れた、それ以上に適切な言葉は思いつかない

自分で光っておいて、目を焼いてるんじゃしょうもなさすぎる


夕張「ばーか」


そんな夕張の一言を聞いていたのは、漂う人魂だけだった



ー球磨達の部屋ー


卯月「とりっくっ!」

文月「あんどっ」

睦月「とりーとっ!」


「お菓子ちょーだいっ!」


勢い良く開け放たれた部屋の扉

しかし、部屋の住人達は留守のようで

威勢の良い声が無人の部屋に反響しては消えていく

ちなみに、とりっく あんど とりーと(悪戯とお菓子)

→お菓子をくれても悪戯するよっ→要は強奪である


卯月「留守かっ、ちょうど良い何かイタズラするぴょんっ」

睦月「冷蔵庫にプリンとか入ってないかにゃぁ?」


住人不在なのを良い事に、我が物顔で部屋の中を闊歩する二人

タンスを開けて、戸棚を荒らし、何か面白お菓子い物は無いのかと物色し始める


北上「こらー、なーにをやってるかね?あんた達は」


なんてやっていると、扉の方からひょっこりと顔を出す北上様

こらー、なんて言ってはいるけれど、間延びしてる上にほぼ棒読みだったりする


文月「あ、北上様、お菓子ちょーだい♪」

北上「およ?」


入口付近にいた文月が、いち早く北上様に気づくと

小首を傾げ、可愛さアピールしながら両手を差し出した


北上「あぁ…そいや、そんな時期だったかねぇ」


言われてみれば、ハロウィンなんてイベントもあったりしたか

なるほどどうして、子供たちが騒ぐには十分な大義名分だ


北上「お、あったあった。ほい、アメちゃんお食べ」

文月「わーい♪ありがとう北上様」


文月の手のひらにコロリと転がる飴玉一つ

ハロウィンを意識していた訳ではないけれど

部屋を出るときに何となくポケットに放り込んだものだった


睦月「アメちゃんだって」

卯月「おばちゃんだぴょんっ」


アメちゃんなんて、何処か歳の寄った言葉に

二人が、ぷーくすくすくすっと笑いをこぼす

おばちゃん は アメちゃんを常備している、これはそんな都市伝説


北上「失礼なっ、お姉様とお呼びなさい、お姉様と」


わざとらしく口をとがらせてみせる北上様


文月「北上お姉さまっ♪」

北上「ふーみんは良い娘だぁねぇ。ご褒美にアメちゃんをあげよう」

文月「やったー」


さくっと2個目の飴玉をゲットする文月


卯月「あーずるい-。お姉さまっ、うーちゃんもうーちゃんもっ!」

睦月「お姉様っ、睦月も欲しいしっ!」

北上「おぅ…」


アメちゃん一つで大人気の北上様

この日を境に、北上様に加えて

北上お姉様と呼ばれるようになるのを、まだ彼女は知らなかった


「お姉さまっ、お姉さまっ」


大井「…どういう状況なの、これ」


睦月達に囲まれ、お姉様呼ばわりの北上お姉様

遅れてやってきた大井さんには、さぞや奇怪に映ったことでしょう



ー北方海域・海上ー


秋も深まってきたそんな頃

いつもの鎮守府に居たって、いい加減肌寒くなってきたというのに

海の上、まして北の海ともなれば、肌寒さも一入というものだった


そんな海の上

移動中の球磨ちゃん達ご一行の目に、不自然なものが映る


球磨「…金剛、電探に反応は?」


それは煙だった

視界前方、島影の裏からモクモクと立ち昇る黒煙

誰かがドンパチやらかしたのか、あるいは続行中なのか

遠足気分だったのが、一段と警戒が深くなる


金剛「Non、深海棲艦ではないヨ」


首を横に振る金剛


木曾「深海棲艦じゃないか…じゃあ、なんだあれ?」

大鳳「索敵機、向かわせてみる?」

球磨「いっそ、ここから艦砲でもかまして見るクマ?」

瑞鳳「いや、さすがにそれは…」


などと、対処を話し合ってる中

1人、多摩が黒煙を見つめていた


多摩「…」


いやしかし、そんな馬鹿なとは思うけども、その煙には見覚えがあった

だがしかし、記憶の中の光景と、現状の風景がまるで重ならない


多摩(…誰だ、こんな所で魚を焼いてる馬鹿は)


たとえばそう、その煙は秋刀魚を焼いて時に出るようなそれだった



ー小島・砂浜ー


比叡「あっれぇ?」

磯風「…これは、どうしたものかな…」


不思議そうに、こんな筈じゃなかったと首を傾げる比叡

そして、一緒にいた磯風もまた、難しい顔をして首を傾げている


白い砂浜の上には、何処から持ちだしたのか七輪が一つ

その上には秋刀魚だったものが置かれている

炭火で焼かれれば炭になるのは当たり前?

そんな筈はないし、そんな訳もない

ただ単に、火が通ってないならもっと焼けばいいと

そうして気づけば黒くなっていた


焼き魚くらい出来るさ、なんて思ってた時期が彼女たちにもありました


比叡「も、もう一匹だけ…」

磯風「むぅ…しかし、残りが…」


皆に秋刀魚を持ち帰ると言った手前、あまり数が少ないのも困りものだ

今朝方、漁師さん達から分けて貰った秋刀魚

クーラーボックス一杯に入っていたそれは、気づけば半分以下になっていた


彼女たちにだって、自覚はある

料理は得意ではないと…

だとしても艦娘だ、料理が得意である必要性はない

自分たちの提督の様に、ジャンクフードに身を落とす…まではいかないものの

外食だったり、他の娘のご相伴に預かるなり、最悪 缶詰でも悪くはない


だからコレはきっと、ちょっとした意地のようなもので

比叡からすれば、妹は出来るのに

お姉ちゃんが出来ないというのはカッコ悪いかなぁと思っていたり

磯風からすれば、「無理して作らなくとも…」なんて言われてしまえば

少しは見返したくもなるというものだった

そして、汚名返上の機会が来たかと思えば…挽回しそうになってるのが今


比叡「あれ…あの航空機は…」

磯風「ん、敵か…」

比叡「ううん…あれは多分」


不意に、比叡の電探に反応がある

そこに視線を向けてみれば、見覚えのある索敵機の影だった




金剛「比叡っ!」

比叡「お姉様っ!」


ひしっ!

そんな擬音が似合いそうな程に

ぎゅぅっと抱き合う金剛型の長女と次女

感動の再会。そう呼べるほどの別れは あの時以来だが今となっては昔の話


比叡「にしても、どうしてお姉さま方が こんな所まで?」


久しぶりに会えたのは嬉しいが、そんなほいほいと来れるほど近場でもなかったはず


金剛「コレですよ、コレ」


ヒラリと、懐から命令書を取り出す金剛

そこには…



発、大本営

宛、○○鎮守府


さんまが食べたいわっ


以上



酷いものだった


比叡「ぁぁ…そっちにも行ってたんですねぇ…」


やれやれと、首を振ってみせる比叡

漁場の安全確保、漁船の護衛、それ自体は別に構わないのだが

う少し言いようはあるだろうと


金剛「ですよねぇ…」


とはいえ、人の事は言えたものじゃない

近くもないのに こんな場所まで来たのは、命令書に書かれてる通り

「それも良いか」と、自分家の提督も乗っかったからだった




多摩「これは酷い…」


多摩の目の前には、炭火で炭になった秋刀魚

すでに煙も出ないほどに、出涸らしになった黒い塊だった


磯風「なにがいけなかったのだろうか…」

多摩「にゃ?…むしろ、何故いけると思ったのかと…」

磯風「む、そこまでか…」


流石に全否定されるとは思ってなかったのか

しゅんっと肩を落とす磯風だった

だが、それも一時

直ぐに気を取り直すと


磯風「なぁ、どうすればいい?」


どうすれば綺麗に焼けるのかと


多摩「焼けばいい」


魚を焼くのに理屈はいらないとは、多摩の言


磯風「やったさ、その結果がこれなんだ…」


炭火を起こし、七輪に乗せて、今はこうして炭になっている

これ以上何をどうすればいいのか分からなかった




大鳳「周囲に敵影なし…か」


小島の様子を確認するために、くるっと周囲を回っては見たが

至って普通の無人島、地図に乗ってても見落としてしまいそうなほど、平凡な小島だった


木曾「たっく、人騒がせな…」

瑞鳳「いやいや、騒いでたのはアンタの お姉ちゃんでしょうに」

木曾「言うな…」


がっくりと肩を落とす木曾さん

マジで撃ち込む5秒前の球磨ちゃんを

なんとか押しとどめたのはついさっきの出来事だった


球磨「クマー…クマぁぁぁ…はぁ」


球磨の鳴き声が次第に溜息に変わっていく

別に退屈してるわけじゃない

鎮守府でお留守番と言われるよりは十二分に充実している

しかし、だがしかし…

漁場の安全確保等と言われ、こんな遠洋組んだりまで来たは良いものの

安全確保をするまでもなく、制海権は掌握してるようだった

これでは無駄骨だ、無駄骨を折って草臥れるだけではしょうもない


球磨「球磨は秋刀魚よりも鮭の方が好きだクマぁぁ…」

大鳳「そう言うと思ってたわ、はいコレ」


すっと、球磨におにぎりを差し出す大鳳

中身は勿論


球磨「…球磨に餌付けするとは、良い度胸だクマ…」


しかし、食べる。食べずにはいられない、というか食べるしかやる事がない

おにぎりを頬張り、ほっぺたを膨らませる球磨ちゃん

そんな球磨の姿に、大鳳が くすっと笑みをこぼす


大鳳「それと、悪いニュースよ…」


まぁ、この娘にとっては良いニュースかもしれないけれど


ごっくん…頬張ったおにぎりを飲み込む球磨

それと同時に、緩んでいた大鳳の表情が引き締まり

隠し事をする様に一段と声を落とす


球磨「敵か…」

大鳳「ええ…」


端的な球磨の問いに、ひとつ頷いて返す大鳳

「数は…」そう言おうと、口を開きかけた球磨の動きが止まる

ドクンっと球磨の心臓が跳ねた…

先に気づいていたであろう大鳳を覗いて

周囲にいた艦娘たちも、同様に何かを察したようであった


その存在感、威圧感といったような重圧

まだ近くはないが遠くもない

本来なら秋刀魚釣り所じゃないような相手


球磨「さて、どうする大鳳?」


などと言いつつも

とうに腹は決まっているようで

笑みを浮かべて大鳳に視線を送る


大鳳「旗艦は貴女でしょう?」


微笑みには微笑みを返す大鳳

どうもこうもない、やる事は一つなんでしょうと


球磨「くまくまくまくま♪…良い覚悟だクマ」


妙な笑いをこぼすと、ぱしんっと手の平に拳を叩きつける球磨

まだ視界に入ってはいないものの

さっきから鬱陶しい気配を放ってる相手を、睨みつける様に海を見据える


威圧感が形になったように、一層と強く吹く北風が球磨の髪を揺らす


「カエレッ!」


風に乗ってここまで届いたのだろうか

少女の悲鳴のような絶叫が、耳を叩いていた



ー鎮守府・食堂ー


睦月「睦月型会議、はっじめっるよーっ」


食堂の片隅、長机をぐるりと囲むように睦月型の彼女たちが座っている

そして、その上座

一番艦であり、ネームシップの睦月が立ち上がり、会議の開始を宣言する

威勢の良い睦月の声に誘われるように

ちらほらと拍手が返ってくる

方や、元気よく、面白がって、楽しそうに

あるいは、適当に、めんどくさそうに、とりあえず

まあ、10人以上も集まれば、その嗜好も色々だという良い見本


ゆー「発言、いーい?」


そんな中、1人だけ睦月型でない娘が混ざっていた

潜水艦U-511,通称:ゆーちゃん

最近配属になったばかりの彼女が、半ば道に迷いながら、あてどもなく鎮守府内を歩いていると

「見つけたしっ」と、睦月達に背中を押され、流されるままに流されてみれば

あれよあれよと、こんな状況になっていた


睦月「にゃにかな?ゆーちゃん」

ゆー「うん。ゆーは睦月型じゃない、けど?」


それはもっともな疑問だった

睦月型会議と銘打っているのなら

この場に自分がいるのは場違いではないのかと


望月「ま、いいんじゃないのー」


机に突っ伏して完全にだらけている望月

そんな彼女の言うように、睦月型会議と言うよりも

その実態は、皆で集まってお喋りする会という方が正しいくらいで

この集まりに他の娘が混ざってるのも珍しくないほどに


如月「そうね、同じ鎮守府の仲間じゃないの」


そう言って、ぎゅぅっと ゆーを抱きしめる如月


ゆー「ぁぅ…でも」


ふくよか、とまでは言わないでも、如月の柔らかな感触が心地いい

正直お言葉に甘えてしまいたくなるが

姉妹水入らずを邪魔するのも気が咎めるのも事実だった


如月「んー…そんなに気になるのなら」


ゆーを離すと、今度は手櫛で銀糸の髪を撫でていく

癖もなく、まっすぐに流れる髪が如月の指の間をするすると梳けていった

そうして髪を整え終えると、そこには金色のアクセサリーが付いていた


ゆー「これ…みんなと?」


ゆーの髪に据えられた三日月型の髪飾り、皆とお揃いの髪飾り


如月「ふふ、お揃いね♪」


胸元を飾っていたお揃いのアクセサリーを摘んでみせると、にっこりと微笑みかける


ゆー「ぁぅ…Danke、ありがとうって…」


恥ずかしそうに俯くゆー

たださえ白い肌だ、頬が赤くなってるのがよく分かる


睦月「さて。異論はないな、妹達よっ」


姉妹達に視線を投げる睦月

そこに異論の声は上がらなかった


睦月「宜しいっ、では改めてっ!」


ぐっと拳を握り、天井に突き上げる睦月

そして、息を大きく吸い込んだ


睦月「睦月型かいぎーっ…」


「はっじめっるよーっ♪」


睦月に煽られるように皆の声が揃う

その中には、小さいながらもゆーの声も混ざっていた




長月「それで、今日の議題は?」

睦月「うむ。それじゃ、今回はっ」


予め用意してあったホワイトボード

ちょっと失礼して、睦月が皆に背を向けると

黒いマジックペンを白いホワイトボードの上に走らせた


睦月「これだよっ!」


デデンっ♪と、効果音でも付いてそうな勢いで、睦月が振り返ると

その小さな手を叩きつけるように、ホワイトボートを指し示す


【ハロウィンだよっ!】


割りと字は綺麗な方らしい

1字1字が、とめ・はね・はらい・と しっかりと力強く書かれている

これを睦月が書いたと言われれば

なるほどどうして、本人の元気さが透けて見えるようだった


そうして始まる睦月型会議

それ自体は特に紛糾するでもなく

ハロウィンだし仮装くらいしてもいいか、なんて大雑把な合意のもと


曰く、一人一つ仮装のネタを考えることっ

曰く、仮装はくじ引きで決めるよ

曰く、もしネタが被った娘が出たら罰ゲームだよっ


概ねこの3点に纏まるのだった




睦月は考えていた

右手にはペンを持ち、机には四角に切り取られた白紙が一枚

それを、じーっと穴が開きそうな程に凝視する

だからと言って、炙り出しの様に答えが浮かび上がってくるわけでも無いけれど


睦月「むむむ…」


普段使わない頭を必死で回す

悩み事はただ一つ、ハロウィンの仮装のネタだ

ありきたりなものを書いて罰ゲーム行きは避けたいし

どうせなら提督に喜んでもらいたいし、もっと言うなら褒めて欲しいし

では、提督に褒められるのにはどうすればいいか?

提督の好きそうな仮装をするのが良いだろうか?

じゃあ、提督の好きなものってなんだろう?


3・2・1・♪


悩むこと数秒

その時、睦月の体に電流が走った


睦月「私かっ!」


睦月の目がカっと開かれると

白紙に力強い文字で自分の名前を書き記す

提督の好きなものに注力するあまりに

仮装のネタっていう一番大事な部分がすっぽり抜け落ちていた




如月「さて、どうしようかしら…」


ハロウィンの仮装のネタと言われれば、幾らかは直ぐに思いつくのだけれど

狼男、吸血鬼、魔女、ミイラにフランケンとかカボチャとかとかetc…

ただ問題は、他の娘達とネタが被ったら罰ゲームというルールだった

その罰ゲームの内容が公表されてないというのもまた怖い所


とはいえ、他の娘達も思う所は同じの筈

ならばいっそ、地雷原を正面から歩けば案外平気かもしれない、とも思う

有名なネタにしたって何点かあるのだし、そうそう被りはしないだろうと

でもそれだと…


如月「ちょーっと、つまらないわよねぇ」


せっかくの仮装大会だ

どうせなら普段やれないものの方が良いかもしれない

ここで書いたネタは、最終的にくじ引きによる抽選だ

このクジが当たる確率は、私達睦月型にゆーちゃんを含めて11分の1って程度

それなら、自分が着たいものよりも、相手に着せたいものの方が楽しめそうだ


たとえばそう…3・2・1・♪


さらりと、紙にペンを走らせる

そこには、細いガラス細工のような綺麗な文字で

「お嫁さん」と、書かれていた




「ずいほう」なんて、白紙に書こうとしていた弥生の手が止まる


弥生「…」


ちょっとした悪戯のつもりだったが

多分に自分が書かなくても卯月が書くだろうと思い直す

じゃあ他にネタになりそうな人は…


木曾さん?…菊月が書くかな

夕張さん?…押しが弱いな

球磨さん?…あほ毛?

大鳳さん?…笑顔で流されそう

大井さん?…後が怖い

金剛さん?…出涸らしな感じもするけれど


候補を上げてはみるものの、どれもイマイチぱっとしない

そうは言うけれど、この中から選ぶなら…


さらさらと、几帳面な程丁寧な文字で「こんごうさん」と紙に書き記す

無難とは思いつつも、金剛さんは中々侮れない

ギャグ要員にしても、ラブコメにしても、真面目な場面にしても

どこに顔を出しても しっくりと収まってくれるのだから


弥生「でもなぁ…」


だからこそ、そんなJOKERみたいな選択をするのはちょっと面白くない

いっそ、「もけーれむべんべ」なんて書こうとも思ったが

あまり突拍子がないのもそれはそれで難だし…


弥生「まぁ、いいか…」


若干の収まりの悪さを抱えつつも、切り札を切る弥生だった




「ず・い・ほー」


即答だった

配られた直後には、ただの白紙だったそこには

角が取れたような丸っこい文字でそう書かれていた


卯月「うぷぷぷぷぷ…」


書き終えると忍び笑いを漏らす卯月

それはもう、悪戯が成功したのを確信してるようだった


きっと瑞鳳なら分かってくれるだろう

きっと瑞鳳なら乗ってくれるだろう

きっと瑞鳳なら構ってくれるだろう


それは信頼なのか、依存なのか

どちらにせよ、卯月にはその時がくるのが楽しみで仕方がなかった


瑞鳳の仮装をする

多少の身長差はあるにせよ

胸板ならいい勝負。きっと姉妹達なら違和感なく着こなせるだろう

なんなら自分が着たいくらいだ


駆逐艦と服のサイズが同じだなんて事実を目の当たりにしたら

瑞鳳はどんな顔するだろうか

胸囲の格差社会に打ちひしがれる瑞鳳を、うーちゃんが慰めてあげるぴょん

決して、からかおうとか そういうのじゃないぴょん、絶対だぴょん


卯月「うへぇへぇへぇ…ずぅいぃほぉ…」


自分のほっぺを両手で挟み、こねくり回しながら体をくねらせる卯月

傍から見たら気持ち悪いも程があった




さて、どうしたものか

書くに困った皐月が顔を上げて

長机に集まった姉妹達とゆーの様子を伺っていた

ハロウィンのネタと言われても、定番のものぐらいしか思いつかないし

それさえも被ったら罰ゲームというルールのせいで選びづらくなってる始末


皐月「あれ…?」


そこで生じた一つの疑問

彼女たちは一体何を書いているのだろう?

艦娘になってから数えるのなら、長いというほど一緒にいるわけでもないけれど

それでも姉妹だし、なによりひとつ屋根の下で暮らしていれば大体察しが付くことも多くなる

そんな日常の経験から導き出される結論は


【きゅうけつき】


これで行ける気がした

彼女達が何を書いているかまでは想像は付かない

でもただひとつ言えるのは、誰も定番商品なんて取り揃えていないだろう事

唯一、書いてそうなのは三日月くらいなものだったが

それにしたって、自分がコスプレするとなれば

包帯巻くだけで済みそうな、ミイラ男とか書くだろうと当たりを付ければ、あとは安全圏である


まぁ、ボクだって…便乗してちょっと冒険しようかとも思ったんだけど

少しはハロウィン的な要素を残しとかないと、ただのコスプレ大会になりそうだったし…




文月「あっさりー♪しっじみー♪はまぐりさーん♪」


などと口ずさんではいるものの、紙に書いているのは全く関係ないものだった

上から


ジャックオーランタン

狼男

吸血鬼

ミイラ男

魔女

etc


一言で言えば全部乗せである

ハロウィンの定番素材を贅沢に被せてきている

これで他の娘達が何を選ぼうが被るわけがない


オンリーワンより、オールインワンが良い

何時だか司令官がそんな事を言っていた気がする

悩むくらいなら全部とっとけ、欲望とはそういうものだとか

「強引だなぁ…」と、その時は思いもしたけれど

こうしてみると案外と悪くないのかもしれない

なにせ悩まなくて良いのだから


文月「でーきたっ…けど」


ぐちゃぐちゃだった

思いつく限りに書き連ねてみたら

これの仮装とは一体どうなんだと想像もつかない

果ては鵺かキメラだろうか

やっぱり「強引だなぁ…」って思う

なにせ、後々悩むことになりそうなのだから




【お嫁さん】


長月「…なに、やってんだかな…」


書いてみて、書いてしまって、改めて思う

似合わないだろう、こんなもの…けど

まったく興味が無いといえば嘘だった


けど今なら…ハロウィンの仮装のせいにしてしまえる…

それに、自分がこれを引く事になる確率が低いのだ…

そう、悪戯みたいなものだと言い訳もできる…


長月「…言い訳って…」


誰にだよ…

自嘲気味に笑いをこぼす長月


それはきっと自分にだろう

似合わないからと、関係ないからと、遠ざけてはいるものの

ふとした拍子に転がり出ては心を掻き乱していく

皆に知られたら笑われるだろうか…

いや、からかわれはするな、これは絶対だ

特にあの司令官の事だ、何を言われるか…


長月「あ…」


と、そこまできて ふと思う

胸元にぶら下がっているのは銀色の指輪、それを手に取る

お守り代わり、とは言われているけども…

そうか、そう言えばそうだったな

確かに、皆持ってはいるし、司令官だってお守り程度にしか思ってないだろうけど


長月「…お嫁さん、な」


自嘲気味に笑いをこぼす長月

ただ、今度のは何処か満足そうだった


菊月「ん?長月は何を書いたのだ?」

長月「秘密だよ」


覗き込んできた菊月に見られる前に、そっと紙を折りたたむ長月

まだまだやる事はあるんだ

もう少しくらいは胸の内にしまっておこうと

となると、また別のネタを考えなければならないのだけど

どうしたものかな?




菊月「むぅ…」


長月に隠し事をされてしまった…

いや別に珍しくも無いのだが

長月は私の事を子供扱い し過ぎではないのだろうか

もう少しくらい頼ってくれても良いと思う

いや私が頼られたいだけなのだが


菊月(…お姉ちゃんのばーか)


内心愚痴をこぼす

ふふっ、流石に私も、これを声に出すほど子供ではないぞ、うん


さて、ハロウィンだったな

何が良いだろうか…どうせならカッコいいのが良いな

となると…吸血鬼か狼男か…フランケンは…頭にネジついてるしな、あれはダメだな

しかし、吸血鬼はタキシードを着るだけになりそうだな…タキシード…ぶーらぶーら…ダメだな

やはり、狼男か…ん、いやまてよ


そこで、素直に紙に書こうとした菊月の手が止まる

そういえば、罰ゲームなんてものがあったかと

なら狼男は不味くないだろうか、カッコいいしな、皆選びたいだろう…となると

狼男…狼人間…狼みたいな人…3・2・1・♪


菊月「木曾か…うん、いいかもしれん」


これなら被らないだろうし

何より、あのマントと眼帯にサーベルのセットは唆るものがある


長月「で、お前は何を書いてるんだ?」

菊月「木曾だっ」

長月「は?」


ちょっと脅かすつもりで覗き込んで見た長月だったが

隠すでもなく宣言され

紙に書いたその文字を堂々と見せつけられた


長月「おまえな…趣旨解ってるのか?」


おでこに手を当てる長月が

呆れとも諦めともつかない声を絞り出す


菊月「ん?まさか長月も…」

長月「ないわ」


即答だった


菊月「そうか、なら良い」

長月「そうだな、もう良い」


まあ、私が胸のうちに仕舞っておけばいいだけの話だ

まったく、仕舞うものばかりが増えていくな…


菊月「長月、書いたのなら出してくるぞ」

長月「あ、おいっ」


机の隅においてあった紙切れを菊月が拾い上げる


菊月「安心しろ、中身を見ようなどとは思ってないさ」


ふっと、格好をつけて微笑を浮かべる菊月

いや、ちがう、そうじゃない…そうじゃないんだ、だってその中身は…


長月「…まあ、良いか」


紙切れを取り戻そうと、伸ばしかけた長月の手が止まる

だって、自分がこれを引いたとしてもそれはそれで良いか、なんて思ってしまったから




三日月「はぁ…」


それは溜息で、ちょっと憂鬱気味だった

別に皆といるのが嫌というわけではなくて

ただ、仮装大会だなんて、この後のことを考えると少し気が重い

自分がコスプレをするなんて、考えるだけでも恥ずかしいのに…

どうせなら可愛いのが良いな、なんて思わなくもないけれど

やっぱり、恥ずかしいものは恥ずかしい


三日月「でも、どうしよう…」


恥ずかしくない格好だなんて、普段の制服くらいなものだし

あと、いつも着てるものなんて、パジャマとか?


三日月「…っ」


慌てて首を振って、その思考を遮る三日月

パジャマ姿を司令官に見れるなんて、余計恥ずかしい


三日月「ん?」


首を振った拍子に、辺りを見回している皐月と目が合った

やっぱり皐月も困ってるのだろうか、急に仮装のネタを考えろって言われても

それに罰ゲームの存在も気がかりだし…

とはいえ、悩んでいても仕方がない

わざわざ被ったら罰ゲームなんて言うくらいだ

遠回しに面白いもの考えろって言いたいんだろう

それなら、多分きっと無難な線で攻めても平気なはず

もしかしたら、皐月と長月辺りと被るかもしれないけども…


【ミイラ男】


これなら包帯を巻くだけで済むだろうし、そんなに恥ずかしくもないはず、多分

どうか自分がこれを引きますようにと

念入りに念入りに、匂いでも染みつかせるように丁寧に紙を折りたたむ三日月だった




魔法少女、まじかる望月だよ~ん


望月「ないわー」


あんまりにも、あんまりな想像を首振って振り払う望月

とはいえ、他に思いつく案もないのが事実だし


【魔女】


面倒くさそうに間延びした文字で、紙にはそう書いておく

艦娘がやるなら魔女っ娘か、とも思いはするけれど

嫌な想像が嫌な現実を引き寄せそうなので、これはちょっとした悪あがきである

トンガリの帽子に黒マント、それだけで済むなら別になんて事はないのだから


ビビットカラーに、フリフリで、ミニスカで

袖がなくて、胸元が開いている衣装なんて用意された日には

三日月が引きこもってしまいそうだ、あたしだって流石にキツイ

でもなぁ…司令官は好きそうだよなぁ…

なーんて言ったら、どれだけの娘が釣れるのかねぇ


それでも皐月は嫌がるだろうな…

如月は…ぎりぎり踏み込むか、怪しい所だけど

文月は、面白がってやりそうではあるけど

そういう意味でなら睦月だって褒められるならって前のめりで来るだろう

あとは、当然というか、様式美の様な流れで金剛が乗っかってくるか…


望月「…」


想像してしまった

金剛がノリノリで、ビビットカラーに、フリフリで、ミニスカで

袖がなくて、胸元が開いている衣装を纏っているのを


この際、艦娘の年齢云々の話は置いておこう、あれは戦争になる

しかし金剛の見た目で、あの容姿でそれは…どうなんだ

こないだ、スク水一つで公開処刑気味だった娘が…

きっと、その場の勢いが無くなってしまえば

恥ずかしさでキングストン弁が抜けるんだろうな


望月「ふふ…」


まあ、でも

それはそれで、面白そうな光景ではあるかと

1人笑いを零す望月だった




ゆー「んー…」


ハロウィン、聞いたことはあるけれど、あんまり馴染みのない行事だった

なんでもカボチャを被って、お菓子を持ち去るんだとか…なにそれ怖い

それが素直な感想だった

とはいえ、皆が楽しそうにしてるのだし

きっと言うほど怖いものでもないのだろう


ゆー「ん…ふふ」


如月にもらった髪飾りにそっと触れると、知らず小さく笑みを零すゆー

皆とお揃いの、三日月型の髪飾り

最初は仲間に入れてもらえるか不安だったりもしたけれど

それは早くも杞憂に終わってしまった


それが素直に嬉しいから、嬉しかった分だけ期待に応えないと

なんて言ったら、真面目だとか気にし過ぎとか言われるのかなって

だとしても。ゆーは貰ってばっかりだから…ちゃんとお返ししたいなって


ゆー「よし…」


決意の現れに一つ頷くゆー

たしかお題は「ハロウィンの仮装のネタ」のはず

他の娘と被ったら罰ゲームって言われはしたけれど

そもそもハロウィンの定番が何かわからない以上は被せようがない

それでも被ったのなら、大人しく受け入れるしか無いだろう


さて、そうなると仮装は何が良いだろうか

やはりここは、外国人らしく日本っぽいのが受けるだろうか

日本っぽいもの…


ゆー「げいしゃ…にんじゃ…」


あと一つは確か…そう、たしか


【ぶしどー】


たどたどしい手つきで紙に書いていくゆー

それは、拙いながらも、がんばって書きました感が伝わってきてとても微笑ましいかった



ー家庭科室ー


ちょっと広めに取られた教室

そこには未だにミシンやハサミといった、裁縫道具が残されていた

長い間放置されていた分だけ積もった埃の山には

置き去りにされた物達の哀愁が漂よっていた


大井「なにも、こんな所でやらなくても…」


裁縫道具なら部屋にもあるのに

わざわざこんな所を使う必要なんてまるでなかった


北上「いいじゃん、こんなのは気分だって」

大井「気分って…」


一体何の気分だろうか

洋服屋さんか、はてまた学生気分なのか

たしかに、文化祭のノリのようではあるけれど


とりあえずはと、作業ができるように部屋の一角の埃を払う所から始める二人だった




大井「ねぇ、北上さん…私達、艦娘よね…」


カシャカシャカシャとミシンが回り

チクチクチクと針が踊る

睦月達から預かった、ハロウィンのネタを現在進行形で仕立てて行く二人


北上「なぁに、大井っちは針より魚雷の方が好きなのかい?」

大井「いえ、そういうわけでは…」


艦娘なのに今こうして服を仕立てている

そんな疑問に先回りをされて、口を噤んでしまう大井


大井「でも、球磨さん達だって、秋刀魚取りに行ってるわけでしょう?」

北上「あはははは、漁船の安全確保も大事だって」

大井「それはまあ…」


そうは言うけど、なかなか腑に落ちるものでもない

だって、艦娘として生まれたからには、艦娘として此処にいるからには

戦って、戦って、戦って、深海棲艦を全部やっつけましょうって

そういう風に思ってた時期もあったのだから

しかし、今はこうしてハロウィンの準備をしてるのだから、分からなくもなるというものだ


北上「あたしはね、大井っち…別にこのままでも良っかなって思うのよ」

大井「北上さん?」


俯いて、手元の針と布に視線を合わせながらも

どこか遠くを見ながら、1人話始める


北上「そりゃね、あたし達は艦娘でさ…戦って戦って戦って、深海棲艦を駆逐しろーなんて

    多分、そんな事を望まれてるわけよね…」

大井「それは…」


それは、道具を通り越して捨て駒のような扱いで

一人一殺、あわよくば収支が0になることを期待されているのが透けて見える

即座に否定したかった

けれど、自分だって同じことを考えていたし、なにより何処かで諦めていた部分もあった


北上「ああ、提督が-なんては思ってないよ。人間だって色々だからねぇ…」

大井「それは、私だって…」


艦娘でさえ十人十色だ、人間だって良くも悪くもピンキリだろう

いや、そもそも あたしらの提督はアレなんだけども

そういう意味では恵まれてる方だろう


北上「こうさ、一大反攻作戦だ-とかいって、人も艦娘も資源も物資もなくなす位なら

    提督みたいに自分の海域に引きこもって、ほそぼそと暮らしてるのも良いんじゃないかなーって」

大井「でも…それだと、深海棲艦の被害が消えるわけじゃ…」


戦いが無くならない以上は被害は出る

人も艦娘も資源も物資も須く消費されるのだ

それが交通事故の様な感覚になったとしても


北上「うん、わかってるさ…ただまあ、深海棲艦が居なくなったら、あたし達はどーなるんだろうねぇって」


時々考えるんだ、敵の居なくなった世界で

あたし達の扱いはどうなるんだって

全員、解体処分ならまだ幸せな方なんじゃないかって

最悪…本当に最悪。次の敵が、艦娘や人になるくらいなら


北上「だからさ…艦娘に生まれてきて良かったって、少しは思いたくなるわけよ

    皆でバカやって、こうやって思い出作ってさ…その時は、笑顔でいたいなーって」


そう言って力なく笑う北上

気づけば、先程まで綺麗に動いていた手の動きがピタリと止まっていた


大井「北上さん私はっ」

北上「さ、残りもちゃっちゃと片付けないとねぇ」

大井「…」


何か言おうと口を開いた大井を遮って、北上が言葉を被せる


北上「…別にそんなつもりじゃなかったんだけど…」

大井「ええ、私もそんなつもりじゃありませんので」


喋らせる気がないなら実力行使だろうと

気づけば、大井が北上を抱きしめていた


北上「じゃあ、なにかい?おっぱいアピール?」

大井「バカ言ってなさいな…」


事実、座っていた北上を抱きしめたせいか

大井の大きな膨らみは、北上の頭に乗っかってしまっていた


北上「まぁ…ありがとねん」

大井「どういたしまして…」


そう、別に寂しかったとか辛かったとかそう言うんじゃないんだ

ただ、あるじゃん?人に愚痴りたくなるような時ってさ

今日が偶々そんな日だったってだけ




北上「それで大井っち、どうするよコレ?」


ヒラリと紙切れ一枚を手に取る北上様


大井「どうするって…罰ゲームなんでしょう?」


同じように大井の手には紙切れが一枚

2枚の紙切れ、しかしその内容は同じものであった


【お嫁さん】


なんて可愛らしい響きなんでしょう

しかし、どうしてこれが被るのだろうか


大井「罰ゲームはこっちで決めて良いって言われてるけど…」

北上「…必要かね、これ…」


おそらく、匿名であること、そしてクジ引きという言い訳が立つせいで

こんな可愛いらしい事を書いたのだろうけど

逆に考えれば、顔も名前も分かる状態じゃまずしないはずだ

お口にチャックで澄まし顔のはずだ


大井「見なかったことに?」


確かに、白無垢なりドレスなりを用意するのは簡単だけれど

見ないふりをするのも優しさかとも思う


北上「まっさかー♪球磨型家家訓、一つ、罰ゲームは絶対遵守」


そう、我々はその苦渋と辛酸を舐めてここまで強くなったのだよっ


大井「それ、球磨さんが言ってるだけだけどね…」

北上「細かいこたー良いんだよん」

大井「じゃあ、どうるのよ?」

北上「オーダーだよ、大井っち。ドレスを2着、ドレスを2着だっ」

大井「ああ、そういう…」


それで、何となくの察しが付いた大井さん

たしかにそれなら特別何かをする必要もない

そう、どうせ自分が着る事は無いだろうと高をくくってる二人に、送りつけてやればいいと

一言で言うなら、公開処刑だった


ー食堂ー


木曾「で…これは何の騒ぎなんだよ?」


その問いに応える者はいなかった


日も暮れようかという頃

サンマ漁の手伝いとかいう、謎の任務を完了して帰投した木曾の目には

いつも以上に騒々しい食堂の姿が目に入った


まあ、ハロウィンだ

仮装大会の一つや二つは良いだろう…が

その内容は、半分以上ハロウィンと関係ない上に

どちらかと言えば、コスプレ大会に近い内容に見える


木曾「…ん?」


とりあえずは食事にでもするかと

スルースキルを発動させかけた所で、ふいに外套が引っ張られる

何かと思い顔を向けてみれば、スルー出来ないものと目が合った


弥生「アリかな?」

木曾「ねーよ」

弥生「むぅ…」


弥生だった。それはいい、いつも通り可愛らしい

だが、問題はその衣装

なぜ俺と同じ服装なんだ…ハロウィン関係ないだろう


ちっちゃい木曾さん、と思ってもらえれば良いだろうか

艤装まで、とはいかないものの、それは紛れも無く木曾の仮装であった

白いセーラー服に身を包んだ弥生

頭には白帽子が引っかかるように被さり

右目は眼帯に覆われている、腰には軍刀を差し

最後に、その小さな体を覆うように、金の飾緒が付いた黒いマントを羽織っていた

そう、それはまるで木曾さんのようであった


弥生「私と木曾さんの仲じゃない?」

木曾「…やめろ」


コメカミを抑える木曾さん


弥生「眼帯の下だって…」


パカリと眼帯を上げて見せれば

カラーコンタクトでも入れたのだろうか、金色に輝く瞳を覗かせていた


木曾「…」


木曾が手を伸ばし

無言で弥生の手を下げさせ、眼帯を元に戻す


弥生「…体の傷が、疼いて…」


そっと、自分の体を抱きしめ、幻肢痛に震える弥生さん


木曾「よせって…」


それは確かに、自分がどこかで言ったような台詞だったが

改めて他人の口から聞かされると、恥ずかしさがこみ上げてくる


弥生「きそでーすっ、戦いは いんふぁいと でするものでーすっ」


それは、いつかの日

木曾の真似をした金剛の真似をする弥生さん

それが追い打ちであり、止めだった


木曾「うおおおおおっ!」


木曾は逃げ出した

食堂の扉へむかって、ダッシュダッシュであった


弥生「それで逃げたつもりなの?」


弥生が外套を翻すと、宙空に綺麗な弧線が描かれる

そしてそのまま、たっと走りだすと木曾の後を追って扉の外へと消えていく

割りと、いやかなり、ハロウィンを理由にしてもはしゃいでいる弥生さんだった




皐月「ねぇ、睦月。ハロウィンの仮装って話じゃなかったのかい…」


現在の皐月の格好、それは仮装というよりも お下がりか

睦月の制服をそのまま着ているだけだった

上着の袖が余っていない分、こちらの方がしっくり来てる感はある


睦月「何で睦月が書いたって分かったのっ!」


そして、睦月の格好は

おでこや、お腹、手首といった、普段は素肌を晒している部分が

包帯でクルクルと巻かれていた、いわゆる普通のミイラさん

自分で巻いたのだろうか、割りと雑な出来栄えで

所々、解けかかっているものの、逆にそれがミイラ分を醸し出していた


皐月「いや、わかるでしょ…」


姉妹だし…そんな格好のいい理由にしたかったけれど

仮装のネタに自分の名前を出す娘なんて、そんな思いつくものでもない

どうせあれだ、司令官の好きなもの、とか考えてたのが容易に想像出来る


睦月「皐月ちゃんは、もしかしてエスパーなのかにゃ?」

皐月「ふふ、そうかもね。睦月が司令官の事大好きだってのも知ってるし?」

睦月「なんとっ!?そこまでかっ!?」


悪戯っぽく笑う皐月に、驚きに目を見開く睦月

まさかと思うが、隠してたつもりだったのだろうか?

そもそも、隠す気があったこと自体が驚きなんだけれど


皐月「あれ…?」


ふと思う、睦月がミイラになってるという事は

三日月の僅かばかりの抵抗は外れたということになる訳だけれど

では、とうの三日月はどうしているのかと…

そうして、辺りを見回す皐月

そういえば、先程から三日月の姿を見ていない気がする

まあ、三日月のことだ

恥ずかしがって隅っこに隠れてるのだろうと、当たりをつけてみれば案の定

食堂の片隅…というより、部屋の角と言った方がいい場所に、彼女は蹲っていた


皐月「三日月…なにやってんのさ?」

三日月「…べつに」


黒髪に、いつもの制服姿。全体的に黒っぽい印象は変わらずなのだが

なによりその外套…いや、陣羽織か

黒地に赤が際立つどっしりとした作りのそれ

見た目の異様さもそうだし、サイズも若干合ってないせいか

着ている、というよりも。三日月の小さな体に覆いかぶさっているといった印象を受ける

極めつけはその黒いマスクであろう

顔全体を覆い隠す無骨な仮面

幸か不幸か、恥ずかしがっている三日月の顔を隠してくれてはいるのだが

この仮面のせいで余計恥ずかしいという現実もまた事実だった


だれが書いたか「ぶしどー」の文字

お侍さんの格好をするだけならまだ良かったのに…この格好はまるで

こないだ司令官が見てたアニメのそれじゃないかと…


一応、ゆーを擁護するのなら

彼女は「サムライ」と「武士道」を履き違えただけであり

なおかつ、漢字が良くわからなかったから平仮名で「ぶしどー」と記しただけである

故に、この衣装は全て、北上様の悪ノリである


睦月「会いたかったぞっ三日月っ!」

三日月「私はみせたくなかった…」


こんなネタの塊のような格好

これなら魔法少女とかのほうが幾分かマシな気がする


睦月「えー、やろーよー、ブシドーごっこーっ」

三日月「やりませんっ」


睦月が構ってほしそうに三日月に擦り寄るが

ふいっと顔を背けて知らんぷりの三日月


睦月「むぅ…しかたないにゃぁ…皐月ちゃんっ」

皐月「しょうが無いなぁ」


同じ制服を纏った二人の少女が相対する…

そして、せーのっと息を合わせた


睦月「その極みにある勝利をっ!」

皐月「勝利だけが望みなのっ!」

睦月「他に何があるしっ!」

皐月「決まってるっ!未来へと繋がる明日さっ!」

二人「いぇーいっ♪」


やりたい放題やった二人がハイタッチ

実に満足そうである


三日月「…」


三日月です、姉二人が急に何かやり始めました

しかもこっちをチラチラ見てきます、乗っかれってことなんでしょうか?

私を切り裂き、勝利を掴んでみせろとか言えばいいんでしょうか?

嫌すぎます…




黒いとんがり帽子に、身一つを隠してしまえる程に深い黒のマント

これで箒まで持っていれば完璧だったのだけれど

人の多い場所じゃ邪魔くさいと、オミットされていた


黒尽くめの衣装から覗く、銀色の髪が夜空を彩る星の様に映えている

ならば、その赤みがかった双眸は、不吉を告げる満月の様だった


文月「おおっ、菊月は魔女っ娘だねっ」

菊月「私は…あっちの方が良かったのだがな…」


菊月の視線の先には、木曾を追い掛け走り去る小さな木曾さんの姿


文月「あははは。やっぱり、アレ書いたの菊月なんだねぇ」

菊月「まあな。やはり、マントと刀は捨て難い」


そういえば、この衣装も刀は無いが黒マントだったな…ふむ

ふぁさっと、マントを翻してその場で回ってみせる菊月


菊月「似合うだろうか?」

文月「うんっ。かわいいよっ」

菊月「むぅ…」


それは、純粋無垢で混じりっけのない褒め言葉であったが

それを送られた菊月は、ご不満のようだった


菊月「可愛いよりは…カッコ良いほうが…」

文月「あたしは可愛い方が良いけどなぁ」


そう。そうやって、カッコいいを目指して背伸びしてる

可愛い菊月が良いなぁって、文月はそう思うのでした


菊月「所で…文月のソレは、なんなのだ?」

文月「あぁ、これ?【きゅうけつき】なんだって」


そういう彼女の服装は、いつもの制服姿だった

ただ、問題はその上着

赤色で、長いロングコート、それに何故か丸メガネのサングラス

極めつけは、腰のあたりにぶら下がってる大型の二丁拳銃か

ちなみに、製作は大井さん。「あんた達こういうの好きでしょ?」と、彼女なりの計らいである


菊月「吸血鬼…ではあるのだろうが」


確かにそのコスプレは吸血鬼に違いはないが

より正確に言うなら、あ◯か◯ど そのものであった


のし…のし…


菊月「むぅ…ん?」


吸血鬼があ◯か◯どになるなら、そっちにすればよかったなと

必要もない後悔に苛まれていると

背後から何か足音が聞こえて、肩越しに振り返る


ゆー「んしょ…んしょ…」


それは、ゆーであった。いや、どうなんだろう…


まず、一際目につくのは大きなカボチャ…ジャック・オー・ランタンだろうか

ゆーの腰の辺りを覆うように配置されているそれは

見たまんまにかぼちゃパンツである

小さいながらも、ゆーの体が無理なく通るほどの大きさのカボチャは

それなりの重量の様で、ゆーが歩く度に大変に体を揺らしていた

そこに浮かぶ顔は、喜怒哀楽でも表しているのか

四方から見る位置によって、様々な表情を浮かべていた


お次は、頭のトンガリ帽子か

もの自体は菊月の魔女っ娘衣装と同じものであるが

帽子のつばの根本には、取ってつけたように

三角の狼の耳を模したそれが、ぴょこんっと生えていた


そうして、だんだんと視線を下げていけば

首元、そして手首足首に包帯がぐるぐると巻かれている

なんだか、そういう事をした後の人のようにも見える


さらに、小さいお手手には

包帯の上から、狼の手をかたどった肉球つきのグローブ

毛並みはとてもふさふさしており、柔らかそうなのが見て取れる


最後に黒いマントが

それらの衣装とゆーの体を無理やり繋ぎ止めるように、覆いかぶさっていた


菊月「ゆー…その格好は、いったい?」


なにやら、ハロウィンの仮装を

一緒くたにしてごった煮したようなそんな衣装だった

言うならば、ハロウィンが服を着て歩いているような


ゆー「わからない…」


小さく首を横に振るゆー

引き当てた紙には、なにやらゴチャゴチャと

ハロウィンの仮装の代名詞が羅列されてたように思うけども

渡された衣装が何かと問われれば、答えようがない物体である


菊月「うむ…確かに分からんな、それを当てるゲームだったりするのだろうか?」


ごった煮状態のゆーの仮装を、まじまじと眺める菊月

だからと言って答えが出るはずもない

だって、最初からそんなもの無いのだから


ゆー「え、えーっと…」


菊月、困ってる?

ハロウィンの事は詳しくないし

この仮装もなんだか分からない

けど菊月が困ってるのなら力になってあげたい


どうしたものかと、視線を泳がせていると

自分の手を包んでいる、肉球グローブが目に入った

なるほどと、一つ思い当たる事がある

確か帽子にも、狼の耳みたいな物が付いてたはず

であるなら、この格好は狼的な何かなのだろう…たぶん


ゆー「がるるー…あってる?」


両手を招き猫みたいに持ち上げて

狼の真似をしてみるゆー


菊月「なるほど…」


確かに狼的なパーツは目立っているな

いや、一番目立っているのは腰のカボチャなんだが

どこから持ってきたんだ、こんなデカイの

だとしても、カボチャに仮装もへったくれもないはず

そうなると、この格好は…

帽子とマントとカボチャを被った傷だらけの狼か…うん、そうだな


菊月「うん、あってるな」

ゆー「ほんと?」

菊月「ああ」

ゆー「そう、よかった」


満足そうな表情を浮かべる二人

一方は答えが出たことに対して

もう一方は、力になれた事が嬉しくて

たとえその答えが明後日の方向に着地していたとしても

二人が満足ならきっとそれが大正解のはず


文月「あはは…はぁ…」


ちょっと罪悪感である

ゆーのはじめてのハロウィンの仮装が

あんな良くも分からない物になってしまっている

何か言われるだろうかとも考えたが、杞憂に過ぎず

今ここにこうして結果があった

才能の無駄遣いというべきか、誰がここまでやれといったのか

なんで大井さんは止めなかったのだろうかと、思う所は多々あれど

司令官…おーるいんわん はやっぱりダメだと思うよ…




望月「ばーにんぐっ、らーぶっ…てか?」


右手を腰に、開いた左手を突き出し、て由緒正しき高速戦艦のポーズ

そんな彼女の服装は、金剛とお揃いのものだった

胸元に金の飾り紐が結ばれた、巫女服のような上着とミニスカート

さすがに金剛の物をそのまま使うと、サイズが合わなすぎるので

色々と手は加えられているものの

特に違和感もなく、ちっちゃい金剛さんになっていた


つーかこれ、意外とスカート短いぞ…

いや、艦娘の制服なんて大概短いけどもさ…

それになんか、あちこちひらひらしてるし…

見た目は綺麗だけど、結構動きづらいな…


何てことを思いつつ、袖をひらひらさせたり

その場でくるりと回ってみせたりと

服の具合を確かめていく望月


金剛「も、もちづき…その格好は…」

望月「ああ、ハロウィン仮装だよ」


とはいえ、まったくハロウィンとは関係のない仮装ではあるが

流石に自分のコスプレをされると気になるのか

望月の姿をしげしげと眺めだす


望月「帰国子女の金剛でーすっ、なんてな?」

金剛「…」


にひひっと、悪戯っぽく笑う望月

その時、金剛には電流が奔っていた


金剛「もーちづきーっ!」

望月「な、なんだよっ、急にっ」


不意に、望月へと手を伸ばした金剛が

お気に入りの ぬいぐるみにでもするかのように

その体をぎゅーっと抱きしめる


望月「く、くるしぃ…」

金剛「very.cuteデースっ。もぅ、頬ずりしちゃいましょっ」


腕の中でジタバタと暴れる望月をまるで無視して

その柔らかな肌に自分の頬を擦りつけまくっている


望月「てかっ、きゅーとって…自分の格好だろう」


それじゃ、まるで自分が可愛いって言ってるようなもんじゃないかと


金剛「? そんなの当然デースっ」


提督の艦娘なのだ、可愛くて当たり前だ

否、それはそうであるべきだ

少なくとも、金剛はそうでありたいと願ってきたし

そうなれるように彼女なりに努力してきたのだ


望月「ったく…その自信は何処から来るんだよ…」


とはいえ、無尽蔵にも見えるその自信は

少しばかり羨ましくもあり、眩しくもあり…


金剛「そんなもの決まってるネっ!」


バーニングラブですっ、バーニングラブですっ

提督のっ提督によるっ提督のためのっ


望月「…」


暑苦しいなおい…とは、言い出せず、お口にチャック

しかし、そこでふと思う


望月「その割には、あんまり報われてないよな…その努力」

金剛「うぐっ…」


その一言で、得意気だった金剛の表情が一気に陰る

だって、そうだろう

少なくとも望月の記憶の中には

提督が金剛に可愛いと言ってたシーンは思いつかない


金剛「ほ、ほらっ、それは…提督ってばシャイですから…」


そう思いたいし、そう願いたい

いやだって、嫌われてはない筈

むしろ好かれてるまであると言って良い

しかしだ、だがしかしだ…

提督にI love youと言われたのはどれくらいだろうか

片手で足りるのでなかろうか…


望月「押しが強すぎて、引かれてるんじゃねーの?」

金剛「はうわっ!?」


それは望月の私見ではあったが

あながち的外れでも無いだろうと思う

だってあの司令官は…

踏み込んだら踏み込んだ分だけ後ろに下がるんだから


金剛「も、望月…金剛はどうすれば…」


頬ずり止め、縋るように目を潤ませて

望月をまっすぐに見つめる金剛さん


望月「押してもダメなら、引いてみればいいんじゃね?」


とは言ってみたものの


金剛「ご無体なっ!」


即答だった

提督から距離を取るなど、彼女にとっては死活問題の領域だった


望月「だよなぁ…」


知ってた、と

首を横に振り、お手上げの望月

もうしばらくはこの関係が続きそうだなと

ま、見てる分には楽しんだけどね




瑞鳳「で、なーんで私の服着てるのよ、アンタは…」

卯月「瑞鳳とおそろいぴょんっ、泣いて喜ぶが良いぴょんっ」


瑞鳳の回りをぴょんぴょんと跳ねまわる卯月

いつもは流している桜色の長い髪は

ポニーテールに纏められ

卯月が跳ねまわる度に、一緒になって嬉しそうに跳ねている


制服はといえば、改装前に瑞鳳が使っていた

紅白の巫女服のような服装が、さらにおめでたさを強調している


瑞鳳「誰が泣くかっての…」


とは言ったものの、実際気にはなる

若干の身長差のせいか

多少袖が余ってたり、各所に余裕は見られるものの

概ねぴったり収まっているのは、何なのだろうか


特にその胸部…重力に逆らわず

真っ直ぐに、下に流れる白い布地

自分の服を来た娘が、こうもフルフラットだと

なにか、自分のそれを鏡で見ているような気にさせられる

おまけに、それを着ているのが卯月だ

なんか、ムカつくわ…


きっと分かってて煽ってるんだろう、このバカうさぎは

さっきからチラチラと人の顔を伺いよってからに

何をニヤついてるのよ、このバカうさぎは


瑞鳳「…ん?」


だが、まてよ…

普段この娘は私に何て言ってたのか…

そして今この娘はどんな格好をしているのか

勝利の方程式が見えた気がした


瑞鳳「ねぇ、卯月?」

卯月「ぴょん?」


そろそろ怒られる頃だろうかと、期待している卯月

しかし、その期待とは裏腹に

瑞鳳の顔は、勝ったっ、とばかりに勝利にほくそ笑んでいる


瑞鳳「似合ってるわよ?まるで七面鳥見たいね♪」


にっこりと微笑む瑞鳳


瑞鳳「あ、ごめーん。チキン野郎だったっけ?」


さらに笑みを深くする瑞鳳

それは、こないだ卯月に言われた台詞

それを そっくりそのまま卯月に投げ返す


卯月「む…」


少々予想外の展開に

跳ねまわっていた卯月の足が止まる

それはいつか自分がいった言葉で

このタイミングで返されると、確かに耳が痛い


誰がチキン野郎だこの野郎

瑞鳳のくせに生意気だぴょん

しかし、その程度で動揺する卯月ではないよ

口喧嘩で卯月に勝とうなど、片腹痛いわ

そうして、卯月のお口が開いた


卯月「…はぁ、駝鳥が何いってるぴょん?」


表情を消し、目を細めてジト目を向ける卯月

口の端は釣り上がり、嘲るように笑っている


瑞鳳「だ、だちょう…あ、あははは…」


そう来たかぁ…

乾いた笑いが、瑞鳳の口の端から漏れる

それはまったくの予想外だった


駄目な鳥でも書きたいのだろうか

それとも平胸類とか言いたいのだろうか


瑞鳳「うっさい…ペンギン」

卯月「ぺ…ぺんぎん…」


卯月の開いた口が塞がらない

すっとんとんだと、寸胴だとでも言いたいのだろうか


卯月「…アホウドリ」

瑞鳳「…カッコウ」


卯月「…」

瑞鳳「…」


じとーっと、お互い睨みつけるように視線を交わす

そうして、口火は開かれる


「スズメっ」

「カラスっ」

「インコっ」

「オウムっ」

「きゅうかんちょうっ」

「ぺりかんっ」


etc,etc…

もう何でも良かった、鳥ならなんでもよかった

何時の間にか始まった古今東西ゲーム

子供の口喧嘩のようなそれが、長くも短くも続いた後…


瑞鳳「…え、えーっと…」

卯月「♪」


瑞鳳の口が止まる…

流石にネタ切れだった

しかしだ、卯月のニヤけ顔をを見ていると

何か言い返したくもなる…


卯月「もうおしまいなの?」

瑞鳳「うっさいわねっ…その、あれよ…だから、その」


「うぷぷぷぷ…」なんて、笑いを卯月が零す中

必死に頭の中の格納庫をまさぐる瑞鳳

そうして、指先に引っかかった言葉を引きずり出す


瑞鳳「か、も…っ」

卯月「♪」


かもめ…それはさっき言ったばっかりの言葉だった

卯月が勝利を確信してか、ニヤリと口の端を釣り上げる


動く口を抑えこみ、回りそうになる舌を強引に捻じ曲げる瑞鳳

そうして、出かかった言葉を飲み込んで噛み砕き反芻して吐き出した


瑞鳳「かも…のはしっ」

卯月「はぁ?」

瑞鳳「そうよっ、カモノハシよっカモノハシっ!}


ニヤけ顔から呆れ顔に移行した卯月を放っておいて

語気を荒げて、なんとか押し通そうとする瑞鳳


卯月「…瑞鳳…頭大丈夫?」

瑞鳳「うぐっ…」


心配そうに小首を傾げ、瑞鳳を覗きこむ卯月

そんなもん瑞鳳にだって分かってる

カモノハシは鳥じゃあない


卯月「カモノハシは鳥じゃないぴょん…何も頭まで鳥になるこたねーぴょん…」


心底呆れたと、手を振り首を振り

お手上げだぴょんと、体全体でアピールする卯月


瑞鳳「う…うっさいっ。アンタみたいな、軽空母モドキっ、カモノハシで十分よっカモノハシでっ!」


顔に血が集まってくるのが自分でも分かる

これが言い訳なのも自分が一番よく知っている

とはいえ、一度口にしてしまった以上引っ込みなんか付かない

かといって、このまま卯月に好きに言わせておくのは癪に障るというものだ


卯月「はぁっ!?カモノハシだって頑張って生きてるぴょんっ

    何バカにしてるぴょんっ!カモノハシに謝るぴょんっ!」


ついには、揚げ足をとって瑞鳳をからかい出す卯月


瑞鳳「先にアンタが私に謝りなさいよっ!」


しまいには、瑞鳳の手が伸びて

卯月の柔らかいほっぺをびにょーんと引っ張りだす


卯月「ひゃーみぇーるーぴょーんっ、はーなーすーぴょーんっ」

瑞鳳「ったく、いらないことばっかりして…」


一通り引き伸ばした後、素直に手を離す瑞鳳

引っ張られて、少し赤みがかかる卯月の頬

その痛みを誤魔化すように、卯月が自分の頬を擦っている

紅くなった頬に白い肌、瑞鳳もまた別の意味で顔を赤くしている

服装から何からお揃いの二人だった





大鳳「ふふっ」


食堂のあちらこちらで、皆が思い思いにはしゃいでいた

そんな中を1人歩く大鳳

優しげに笑みを浮かべるている彼女もまた

この空気を楽しんでいる1人だった


夕食でも作ろうかと厨房に入る

ハロウィンだしカボチャが良いかしら

もらった秋刀魚を大量にあるし…

パンプキンスープよりは煮付けにでもしようかと

なんて、献立を考えていると

厨房の隅に丸まっている白い影…


大鳳「…二人とも、何をしてるの?」




厨房の奥

そこでは、如月と長月が隠れるように息を潜めあっていた


ただ、その衣装はどう見ても厨房に入るようなそれではない

純白の白いドレスは、10人が見たら9人はウェディングドレスと言うだろう

端々をレースで飾られ

袖はなく、胸元から背中まで大きく素肌を見せている、割りと大胆な造りだった

ヴェールこそ被ってないものの

それがあったとしても、二人の顔は目に見えて赤くなっている


如月「長月…貴女、何を書いたのよ…こんな」


息を潜める如月


長月「姉さんこそ…なんだ、これは…」


声を潜める長月

何を?何だと言われても、そんなの自分が一番よくわかっていた

【お嫁さん】と、それは悪戯だったり、ものの弾みだったりしたけれど

今こうして、二人で纏っている衣装は紛れも無くウェディングドレスだった


如月「別に良いでしょう…ちょっとした悪戯よ…貴女だって」

長月「いや、これは…菊月が勝手に…」

如月「ずるいわ…人のせいにするなんて」

長月「ずるいって…私だって…こうなるなんて…」


小さいながらも、珍しく言い合いをしてる二人だった

着替え終わった時に、姉妹達にはさんざからかわれている

ただ、問題はその後

事情を知らないサンマ漁に出てた娘達と

なにより司令官の存在だった

あいつはマズイ、何を言われるか、何をされるか分かったものじゃない

こんな格好でお姫様抱っこ、なんてされた日には正気でいられる自信がない


「…はぁ」


二人の溜息が重なる

厨房の外からは、楽しげな声が聞こえては来るが

流石にそれに混ざる度胸は無かった


大鳳「…二人とも、何をしてるの?」

二人「はうっ」


不意に、後ろから声をかけられ

二人の背中がピンっと伸びた

それはそうだ、厨房の隅と言ったって人が来ないわけじゃない


長月「ち、ちがうんだ大鳳…これは、その…仕方なくな」

如月「そ、そうよ…くじびきだったのよ、しょうがなかったのよ?」


覗き込んでくる大鳳を見ないように視線を外すと

自然とお互いの視線が交わる

そうして、なんだかんだと言い訳を重ねて

しょうがないしょうがないと、頷き合う

阿吽の呼吸とでも言えば良いのか

そこはやっぱり姉妹なのか、息はぴったりあっていた


大鳳「ネタが被ったら罰ゲームだと聞いていたのだけれど?」


「違ったのかしら?」と、悪戯っぽく微笑む大鳳


長月「あー…それだっ…罰ゲームなんだっ、うんっ」

大鳳「そう…」


可愛いと、素直にそう思う

必死で誤魔化そうとしている長月なんて

そうそう見られるものじゃないし

それになにより…


大鳳「お嫁さん?」


「違うのかしら?」と、悪戯っぽく微笑む大鳳

そう、何より二人してお嫁さんなんて書いただなんて

本当に微笑ましい


如月「ぁぅ…」


バレバレだった

ウェディングドレスなんて選択肢もあったろうに

ピンポイントで正解を撃ちぬいてきた


「…はぁ」

二人の溜息が重なる

それは、降参宣言だった


長月「司令官は…?」


一番厄介な人の所在を問う長月

どうせ遅いか早いかの違いだ

ならせめて心の準備くらいはしておきたいと思う


大鳳「食堂にはいなかったけれど?」

長月「そうか…」


となると、所在不明も同義だな


大鳳「見せに行かないの?」


それは素直な疑問だ

悪戯や、物の弾みもあったにせよ

そのつもりがなかった訳でもないだろうと


如月「ま、まあ…そうなんだけど、ね?」


皐月や三日月辺りが着ていたなら

手を引くなり、背中を押すなりしただろう

けど、いざ自分の番になってみると

気恥ずかしさで、足が竦んでしまっていた


大鳳「でも…どうせ、今日一日はそれって言われてるのでしょう?」


小さく頷く二人


大鳳「そうやって、照れてるから余計に提督にからかわれるんじゃない?」

長月「それは…」

如月「そうなのだけど…」


頭では分かっていても

はいそうですか、とはいかないらしい

口ごもったままに、口を閉ざす二人

それは、気まずさというよりも、気恥ずかしさからだった


大鳳「…ふふっ」


そんな二人の様子を微笑ましく見守る大鳳

何を考えてるのかしらね…

提督に褒められる所かしら?

提督に抱きしめられる所かしら?

あるいはもっと先なのか…


なんて、思いを馳せていると

大鳳の胸中に一つの感情が浮かんでくる

それは、たとえばこんな風な


大鳳「あ、提督。ご飯ならもう少し待ってちょうだい?」


「ひぅっ…」

提督、多分にその言葉に反応したんだろう

二人の少女の体が縮こまった


大鳳(…かわいい)


そう、例えばこんな風に、悪戯をしてみたいなと

これじゃ、提督の事言えないわね…


大鳳「冗談よ、冗談…ふふっ♪」


「…」

種明かしをしてみれば、少女二人から睨まれた

恨みがましいとも言えるが

頬を染め、瞳は潤んでたりと

なかなか心中は複雑なようだった


ー母港ー


日も落ちてしまえば

秋風でさえ肌に刺さるくらいには寒くなってきた

そうはいっても、北方海域のそれに比べれば全然余裕ではあるのだけれど


そんな中

七輪を囲み、炭火で暖を取る3人の姿

網の上には秋刀魚が置かれ

滴る油は煙となって

香ばしい匂いと共に空に消えていく


多摩「…ほい、提督。焼けたにゃ」

提督「ありがと」


焼けた秋刀魚を皿によそって提督に渡す多摩

その隣では、焼けた秋刀魚を頭から丸かじりの球磨ちゃん


提督「…骨、痛くない?」

球磨「なーに、言ってるクマ

    こんなもん、骨避けてたら食うとこなくなるクマ」

提督「それは、まあ…」


確かに、小骨を避けたら すり身の出来上がり

なんてことはしょっちゅうだけれど

背骨ごと食うことは無いだろうとは思う


多摩「でも提督…骨ごと食えとは言わんけども…それはちょっと雑すぎるにゃ」

提督「…だってなぁ、骨細かいんだもの…」


そんな提督のお皿の上

背骨を分けたは良いが

小骨を取ってる間に身がグチャグチャになり

混ざった身から骨が覗いてるという

生なら、なかなかグロテスクな絵面になっていた


多摩「はぁ…しょうがないにゃぁ」


溜息一つを吐くと

自分の分の秋刀魚へと向かい合う多摩

尻尾を折り、頭をひっつかんで、そのまま引き抜いた


提督「うお…」


これが生なら。なかなかグロテスクな絵面だろう

引っこ抜かれた頭が

骨と一緒に身から引きずり出されているのだから


多摩「提督はこっちのでも食べてるにゃ」


そういって、腹を開くこともなく

身だけが残った秋刀魚を提督に渡す多摩


多摩「くまー、こっち食うにゃ」


どうせ骨ごと食うなら

ごちゃまぜになってても構わんだろうと


球磨「しょうがないにゃぁ」

多摩「人の真似してるんじゃねーくま」


「にゃっしししー」「くまくまくまー」

なんて、笑い合いお皿を交換する

後は、骨なんか無かったようにバリバリ食べる球磨と

骨の無くなった秋刀魚を食べる提督

幸せな世界の出来上がりである


多摩「にしても…食堂にいかなくても良いのかにゃ?」


提督まちの娘だって居るんじゃないのかにゃっと

喋りながらも、開いた七輪の上に秋刀魚を追加する多摩


提督「その前に腹ごしらえだなぁ…」

球磨「…」


意味ありげに、球磨に視線を送る提督

それに気づいていながらも

知らんぷりを決め込み、秋刀魚の背骨を噛み砕く球磨ちゃん


提督「姫クラスとやりあえなんて、言ってないんだけど?」


それならばと、単刀直入に問いただすまで


球磨「出てきたもんはしょーがねークマ」


尻尾巻いて逃げるにしても

追い払う必要はあるだろう

そもそも、そこまでするならすっ飛ばした方が早いとか


多摩「皆無事だし、もう終わった話だにゃ…」

提督「修復剤を使っておいて、無事なものかよ」

球磨「んなこと言ったら

    秋刀魚取って来いって言い出したのは提督だクマ」

提督「それを言われると痛いけど…」

多摩「まったく、提督は心配しすぎたにゃ

   提督がなくとも娘は育つっていうにゃ…」

球磨「くまくま」


まったくだと、多摩に合わせる球磨


提督「かもしれないけどさ…」


それでも、心配くらいはさせて欲しい

それすら出来なくなったらお終いなのだから


何となく、風に流される落ち葉を目で追いかける

人肌が恋しくなるほどに、寒くなってきた秋の空

近づいてくる冬の足音が寂しさを煽ってくる

妙に感傷的になってるのは季節柄か…そういう事にしておこう


思考に一区切り付けると

すっと、立ち上がる提督


多摩「行くのかにゃ?」

提督「ああ」

球磨「ま、ほどほどにしとくクマ」

提督「それなりにはな…ご馳走様」


手をひらひらさせながら

食堂の方へと消えていく提督

その背中を見送る球磨と多摩


それから少しの間を置いて

食堂の方が、にわかに騒がしくなってくる


球磨「始めたか…」

多摩「いつものことだにゃ…」


からかわれてるのは、皐月か三日月か

ま、誰かしらを可愛がってるのは確実だろうと

呆れ半分、諦め半分に首を振る二人

それでも、そんな日常が続けばいいな、とは思う


「くっそっ、いつまで付いてくんだよっ」

「木曾さんが逃げるのを止めるまで?」


そんな二人の横を走り抜けていく影が2つ

木曾さんと ちっちゃい木曾さん

二人が巻き起こした風が七輪の煙を揺らしていく


多摩「…あれは、なんにゃ?」

球磨「しらんクマ」


小さくなっていく二人の背中が

建物の角に消えていく…

今日も実に平和だった



ーおしまいー



EX: 今日の磯風ちゃん


私だ

ここから先はおまけになっている

別の鎮守府の話だから気をつけてくれ

もうお腹いっぱいの人は戻ってもいいだろう

ここまで読んでくれてありがとう

まだ足りんというなら

喜べ、私が秋刀魚を焼いてやろう



ー北方海域・小島ー


多摩「とりあえず、多摩が見ててやるから焼いてみるにゃ?」

磯風「わかった…」


それは、いつかの日

サンマ漁の護衛だとか制海権確保だとかで

海に出ていた日のこと


地図にも乗ってなさそうな小さな島

その白い砂浜には、七輪が置かれ

それを囲う様に、多摩と磯風が立っていた


磯風「…」


七輪に置かれた秋刀魚

チリチリと身を焦がすような音が聞こえ

次第に煙が多くなってくる


磯風「こ、焦げてないだろうか…」


焦れるように、そわそわしていた磯風

我慢できずに秋刀魚を突っつこうと箸を伸ばす


多摩「しゃーっ」

磯風「うっ…」


威嚇された。大人しく箸を引っ込める磯風

再び、波の音と風の音、そして秋刀魚を焼く音だけになる


磯風「そ、そろそろ…」


ものの10秒も経っていないだろうに

再び、磯風が秋刀魚に箸を伸ばす


多摩「しゃーっ」

磯風「うっ…」


威嚇された


多摩「無駄にさわってんじゃ無いにゃ」


そんなんだから、焼き加減が滅茶苦茶になるんだと


磯風「すまない…」


意外とせっかちな磯風だった



ー鎮守府・厨房ー


そうして、舞台は鎮守府に戻る

厨房の中、1人コンロの前に立つ磯風

備え付けのグリルの中には、秋刀魚が収まっている


多摩に威嚇されること数十回

長く苦しい戦いだった

しかしこれで、私だって秋刀魚くらい焼けると、証明できるなら安いものだ


さあ、そろそろ良いだろうか


磯風「ん…これは」


記憶の反芻を終え

意識を現実世界に戻してみると

青光りしていた秋刀魚が黒光りしていた


磯風「黒いな…」


誰がどう見ても焦げていた、真っ黒だった

おかしい…さっきまではいい感じだったのだが…

焼き過ぎたのか…しかし…

時計を見上げる、最後に確認してから

そんなに時間は…


磯風「経ってるな…結構…」


なるほど、思い出に浸ってる間に焦がしたのか


磯風「はっはっはっ…はぁ…やってしまった」


がっくりと肩を落とす磯風

笑い事ではない、これで何度目だろうか

多摩にまで教わったというのに

進歩がないにも程がある…

戦闘の事なら些か自信はあるのだが…


舞子「いっそかぜー♪できたかなー」

磯風「む…まずい …」


突然、厨房に飛び込んできたのは

自分家の提督。米田舞子

緩くウェーブの掛かった栗毛色の髪

それをポニーテールに纏めている

美人さんというより、愛嬌のある顔立ち

と、ここまでなら至って普通の人なのだが

どうにも、食べることが好き過ぎるのが困りものだ

昔は、エンゲル係数が高すぎて生活に困窮していたとかなんとか


磯風「いや、提督…もう少し待ってはくれないだろうか」


そんな人に、今日は私が魚を焼いてやると言ってしまった

食堂で待たせていたは良いが、いい加減痺れを切らしたようだ


舞子「だめよ磯風。お腹が鳴ってるの、食べろと叫んでるのよっ」

磯風「む…しかし」


肝心のメインディッシュに視線落とす

そこには、どう見ても焦げている秋刀魚


舞子「焦げてるわね…」

磯風「ああ…すまない、秋刀魚のことは、その…忘れてくれ」


敗北判定D

ここは素直に頭を下げるしか無い

とりあえずは代わりのものを…

放っておいたらジャンクフードに走りかねん


舞子「あむ…」

磯風「あっ、おい…」


そんな磯風を横に

焦げた秋刀魚を口に放り込む舞子さん


舞子「むぐむぐむぐ…ごっくん」


苦いわね…

内臓がとかそういうんじゃなくて

単純に炭の味だった


磯風「そんな焦げているものを…ジャンクフードより体に悪いじゃないかっ」

舞子「磯風、食べ物を粗末しちゃいけないのよ?」


焦げた秋刀魚を飲み込むと

嫌な顔どころか、ニコッと笑ってみせる舞子さん


磯風「それは…そうかもしれないが」


昔のことを思い返せば

それは痛いくらい分かってはいるが

何も、焦げたものまで食べる必要はないだろう


舞子「良いから。それで、秋刀魚は終わり?」

磯風「いや、まだ残ってはいるが…」


あるにはある…

だが、また焦がしてしまうかと思うと

躊躇するには十分な理由だった


舞子「どーんとれーすっ」

磯風「あっ、おいっ」


構わず秋刀魚をグリルに放り込む舞子さん


舞子「ふっふっふっ、良い磯風?」

磯風「なんだ?」


不敵に笑う舞子さんに、怪訝な表情を向ける磯風


舞子「こんなものは焼けて食えれば良いのよっ!」

磯風「…何をバカな」


おいしく食べるのなら色々と手順はあるはずだ

焼ければ良いなどと…そんな乱暴な

気にしてる私が馬鹿みたいじゃないか


舞子「良いから良いからー、舞子をしんじてー」

磯風「むぅ…」


提督にそう言われてしまっては仕方もない

実際、焼くしか無いのだし、今度は上手くやればいいだろう


磯風「…提督」

舞子「?」

磯風「腹が減ってるのは分かる…

   しかし、私の髪を口にするのはやめてくれ…」

舞子「…私にどうしろと…」


悲痛な顔をしている舞子さん

その口元には、唾液でベチャベチャになった、磯風の黒髪が張り付いていた


磯風「仕方がないな…白米でも良いか?」

舞子「たべりゅー」

磯風「まったく…食いしん坊め」


呆れながらも、小さく笑っている磯風

幸い米は炊飯器だ

水を計ってボタンを押すぐらい私にだって出来るさ


磯風「…生だな」

舞子「…生米ね」


蓋を開けてみれば

水を吸って白っぽくなってる米が

炊飯器の中に沈んでいた

ボタンの押し忘れ、それ以上も以下もない現実


磯風「…すまない提督。もう少し待ってくれないか…」

舞子「ふふふふ…何を言ってるの磯風?」

磯風「…おい、まさか…」


ガバッと、グリルを開く舞子さん

そこには確かに秋刀魚があったが


舞子「ここに秋刀魚があるじゃないっ!」

磯風「まだ生だろうっ、腹を壊してもっ」

舞子「それを言うのは10年遅いわっ!」(←20歳前後


秋刀魚に飛びつく舞子さん

それを必死で止めようとしてる磯風

もはや料理どころの騒ぎではなかった


榛名「こらーっ!!」


そこへ、怒号一発

榛名の声が二人の動きを止める


榛名「貴女達はっ火を前にっ何をやってるんですかっ!」

磯風「いや、まて、これは提督がっ」

舞子「榛名っ!ご飯っ!まだなのっ!」

榛名「ぁぁ、もぅ…」


こめかみに手を置く榛名

事情はだいたい察したらしい

そのせいで頭が痛くもあったが



ーEX:今日の磯風さん・おしまいー


後書き

はい、というわけで最後まで読んでくれた方。本当にありがとうございました
貴重な時間が少しでも楽しい物になっていれば幸いです

それではこの番組は

睦月「ああっ、花嫁が逃げたしっ」
皐月「ふふっ、今まで からかわれてきた分、きっちり払ってもらうからっ」(←追い掛け
菊月「む、長月まで…逃げることも無いだろうに」
ゆー「ん?なぁに…追いかけっこ?」
文月「いいんだよー、気にしなくてー」

長月「きーそーっ、はしれぇぇぇっ!?」
木曾「ってぇっ、お前らっ何だその格好っ!?」
如月「なんでも良いから逃げるのよーっ」
弥生「ふふ…追い詰めます、任せて♪」

北上「酒はいらんかね?」
球磨「お、気が効くクマ。流石は球磨の妹だクマ」
大井「貴女と同じ括りに入れてほしくはないのだけど…」(←常識人のつもり
多摩「ふっふっふっ…いずれ分かるにゃ、大井も球磨型の家系だという事が」
大井「不吉な事言わないでっ!」

卯月「そーら、うーちゃんは謝ったぴょん
   瑞鳳もカモノハシに謝るぴょん、泣いて許しを請うが良いぴょん」
瑞鳳「こんのっ…バカうづきーっ!!」

三日月「…最早、愛を超え…憎しみを超越し…宿命となりましたっ…な、なーんて…」(←やってみたかった
大鳳「ふふ…可愛いわね。それじゃ、また」

以上のメンバーでお送りしました


ー以下蛇足に付きー


♪教えて皐月ちゃんのコーナー♪

提督「という訳で、ハロウィンというか10月の一幕というか」
皐月「秋刀魚イベント中に、サンマ不漁って何事かと思ったけども」
提督「みんな乱獲するから…」
皐月「そんな事より、磯風だって提督さんも多かったとは思うけど」
提督「私とて、その1人だけど…1-5回ってたら出たな」

提督「ちなみに今回も、如月と長月意外はダイス振ってます…マジで」
皐月「卯月が瑞鳳引いた時はヤレって言われてる気がしたね」
提督「きっとTRPGやってる人達も、こんな気分なんだろうなって」

♪皐月ちゃんラジオ♪ 

皐月「今回のお手紙はっ」
提督「○○鎮守府、金剛さん…バーニングラーブ…だってさ?」
皐月「それは後にしよう…」

・タイトル間違ってる
・妬いてる皐月ちゃん可愛い
・金剛さんのバーニングラーブ
・ビス子さんドンマイ
・ゆーちゃん
・長月可愛い
・大鳳さんの余裕
・提督って?

皐月「という訳で、今回もコメントありがとう。それじゃ、上からいくね」

・タイトル間違ってる

提督「ごめんなさい、こっそり直しときます」
皐月「オススメコメントでも誤字多いって言われてたね…」
提督「読み返してはいるんだけどね…ごめんなさい」
皐月「あ、そうだ。前回の誤字直してたらさー「対空気銃」なんて出てきたよ?」
提督「…なんだそれ?」
皐月「知らないよ、そんなの…なんで空気銃と張り合ってんのさ」
提督「わっかんねーよ、対空・気銃かもしれねーだろ」
皐月「余計分からなくなってるし…」
提督「…ごめんなさい」

・妬いてる皐月ちゃん可愛い

提督「やはり、ヤキモチイベントはラブコメの華よなっ」
皐月「…」
提督「ほらー、皆可愛いって言ってくれてるよ?」
皐月「あーもーうるさーい。引っ付くなーっ」
提督「私の皐月がこんなに可愛い、つぎのタイトルはこれでっ」
皐月「やめてっ」
提督「なはははははは」

・金剛さんのバーニングラーブ

金剛「Thank you.Everyone。そう言ってもらえて嬉しいよっ
   だというのにっ、金剛は提督の事をこんなに愛しているのにっ
   どうして、好きだと言ってくれないデスっ!」
皐月「司令官なら…」
金剛「逃げたっ!お逃げになったっ!もーもーもーっ!!てーいーとーくーっ!」

提督「ま、私も最近、からかい過ぎた気もしたからな。ビスコに感謝」

・ビス子さんドンマイ

提督「白状しよう。ビス子にビスコの箱を乗っけたかっただけのシナリオだった」
皐月「ゆーの方がオマケだったの?」
提督「加入イベントするのにも丁度よかったし」
  
     明治
      ↓
グリコ→ビス子←森永

提督「こんな落書きしようかとも考えたけど、流石に可哀想だったから止めました」
皐月「ほんとにひどいね…これは」

・ゆーちゃん

提督「ホントはね…ろーちゃんも一緒に入れて、双子扱いにでもしようかとも考えたんだ
   ただまあ…流石にクドい気がしてなぁ…相手仕切れる自信が無かったってのもあるし」
皐月「睦月に、卯月に、ろーちゃん…まあ、確かに突っ込みが足りなさそうだよね…」
提督「いえす…という訳で、ゆーの口調にろーのそれをちょっと混ぜ込んで お茶を濁しました
    可愛いと思って頂ければ幸いです」
皐月「ですって♪」
提督「やめろ皐月。それは皐月病患者に効く…」
皐月「にひひひひ」

・長月可愛い

提督「( -`ω-)b
弥生「( -`ω-)b
皐月「やらないからね、ボクは?」
弥生「皐月はもっと空気読むべき」
皐月「弥生はもっと空気吸ったほうが良いよ?」
弥生「む…そんなこと言う皐月には、皐月X望月になる呪いを掛けるから…」
皐月「何んだよっその呪いはっ」
提督「そこは、文月じゃないの?」
弥生「分かる…けど、ありきたりかなって…」
提督「確かに…」
皐月「納得すんなっ」

文月「ポイって今日をな~げださないっ」
長月「いや…流石にそろそろ…」(←とりあえず、自分が弄られるのは回避出来たと思ってる
三日月「うちの姉が手遅れです…」

・大鳳さんの余裕

提督「こういうのもクーデレっていうのかな」
皐月「司令官が甘えてばっかりだから、大鳳さんも気を張っちゃうんじゃないの?」
提督「えー…。大鳳ってば何しても動じないんだもん…赤面させてみたくなるじゃない?」
皐月「知らないよ。そんな子供みたいな事ばっかり言ってないでさ」

大鳳「そんな提督の愛情表現を、素直に受け止めるのも正妻空母の条件?なんてね♪」
提督「いっそ、押し倒せば、少しは余裕なくすだろうか…」
大鳳「出来るならどうぞ?」
提督「ぶー…知らんし…」
大鳳「ふふふ、可愛いんだから」

皐月「イチャつきだした…次にいこう」

・提督って?

提督「ま、便利よな神様って」
皐月「悪戯しかしない、神様はどうかと思う」
提督「八百万って、言うぐらいだしそんなもんだよ」
皐月「それで…何の神様だったんだい?」
提督「そうねぇ…

いつもの帰り道、いつものお友達
少女二人が田舎のあぜ道を歩く
別れ際に手を振り会う二人、明日もまた遊ぼうねって
去り際、小石にでも躓いたのか、一人の少女がバランスを崩して地面に倒れ込む
でもそれっきり…残された少女が辺りを探しても、靴の一つも見つかりませんでした

提督「めでたしめでたし」
皐月「目出度くないよっ、何やってんのさっ」
提督「いやー、この後街中大騒ぎでさ~」
皐月「当たり前じゃんかっ」
提督「楽しかったわ♪」
皐月「司令官…もしかして、祟り神とか言われなかったかい?」
提督「子供が泣くと鬼が来るとまでは言われたよ?」
皐月「…」
提督「大丈夫だよ、ちゃんと家には帰したから
    ま、そういうわけだ…何の神様とは言わないけども
    妖怪変化も祀られれば神にもなるさって」



提督「これで全部かな?」
皐月「最後のはあんまり聞きたくなかったけれど」
提督「昔の話だよ…本編でやるつもりもないから、便利な悪戯要員くらいなもんだ」
皐月「どーだか」

提督「さて、今回はここまでだよ
    沢山の閲覧、コメント、評価、応援、オススメもありがとうございました
    確かに、メインキャラが増えて段々と難しい面が増えてきてはいますが
    やられるだけはやってみたいと思いますので、よろしければ、しばしお付き合いを」
皐月「それじゃ、よかったらまた一緒に遊ぼうなっ」
提督「ご精読ありがとうございました」


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SS好きの名無しさんから
2015-11-10 00:56:18

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2015-11-01 18:45:02

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1: SS好きの名無しさん 2015-11-01 19:09:28 ID: hR6aqJH-

今回も楽しませてもらいました。
そして、前回は長いコメントを失礼しましたm(_ _)m
1話から読み通しててテンションが…(汗)

今回は短めに。
ウェディングドレス着て恥ずかしがってる如月を想像して轟沈しました。
しかし如月ちゃんよ、君が主役だった頃のアグレッシブっぷりはいずこへ…?
いや、かわいいけども。

2: SS好きの名無しさん 2015-11-02 16:46:43 ID: w_iVOpPx

卯月×瑞鳳いいですねぇ(;´Д`)ハァハァ
いつも楽しく読ませてもらってます。
これからも頑張ってください!!

3: SS好きの名無しさん 2015-11-07 15:49:15 ID: 9LoL_wuB

長月の【お嫁さん】とか言わんでください。萌え死んで海に飛び込みたくなるので……これからも長月の可愛いシーンをお願いします

4: SS好きの名無しさん 2015-11-10 00:55:47 ID: fIRhktrS

最近の弥生がアクティブすぎるw
けどこっちのほうが好きです
そして安定した可愛いさの皐月

5: SS好きの名無しさん 2015-11-12 22:46:04 ID: nyVi6W8T

最近活躍?してる長月と如月が提督からどんな扱いを受けたのか気になります


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