2014-11-29 07:49:04 更新

概要

『上条「いちゃいちゃイマジンブレイカー?」中編』の続きです。

中編はこちら、
http://sstokosokuho.com/ss/read/411


前書き

・後編のテーマは、『恋愛』と『「奇跡」と「奇蹟」』です。
・アプリ云々のネタばらしをします。その際、新約11巻に出てきたアレを自己解釈して、都合良いように利用してます。また、その鍵を握るのはインテリネタです。
・一応恋愛が主なテーマですが、色々やらかしてる気がします。ただ、事前に言っておくと、この世界では、誰かが犠牲になるような残酷な法則は通用しません。
・前提として、『上条当麻の恋愛がそうやすやすと実るはずが無い』ということと、上条さんからの評価ヒエラルキーの頂点に君臨するのは、インちゃんとオティヌスさんであり、それ以外のヒロインは、とある理由のために、全員その他として扱われているというのを考慮して頂けたらなと思います。そこから、そのヒエラルキーがどう変わっていくのかが、このSSの『恋愛』だと思ってます。
・途中上条さんのクラスメイト達が登場しますが、そちらは漫画禁書を参考にしてます。
・『終盤』に、完全オリジナルの魔術師が出てきます。そちらは、画集SSを参考にしてます。


(午後8時半、上条の部屋)


上条「さて、上条さんは鍋のお片づけでもしようかね…」


トールとのケンカを美琴に仲裁される形で終えた上条は、夕食の片づけに入ろうとしていた。


アリサ「!!待って、当麻くん!」


上条「あん?どうした、アリサ?」


アリサ「片づけは私にやらせて貰えない、かな?」


上条「え?でも…」


アリサ「…あのね。私も今日、みんなとこうして会えて、本当に嬉しかったんだ。だから、私もみんなに何かしてあげたいの!」


上条「…アリサ」


アリサ「だから、片づけは当麻くんの代わりに私にやらせて!お願い!」


上条「…そっか。なら頼むぜ、アリサ!」


アリサ「ありがとう、当麻くん!」


笑顔で台所へと向かって行った少女を見ていた上条は、しみじみ思った。


上条「…家事を手伝ってくれる女の子って…いいな…」


禁書「…とうま。それはもしかして私を馬鹿にしているのかな?」


上条「!!い、いやあ、そんなことはありませんことよ、インデックスさん?家事を手伝ってくれる女の子『も』いいなって言っただけです!」


禁書「『も』なんて言ってないんだよ」


上条「ぐっ…!?」


禁書「しかもその言い方だと、色んな女の子が好きだって言ってるようにも聞こえるんだよ!」


上条「…あははは」


禁書「とうま!!」


上条「………………どうぞ、上条さんをお食べになってください」


禁書「…よろしい。それではいっただきまーす♪」


上条「うぎゃああああああああ!!!!」



美琴「…何やってんのよ」


レッサー「まあまあ、今はあんなのほっといて、私達は優雅にデザートタイムと行きましょうよ!」


彼らは、お菓子を食べ始めていた。


バードウェイ「ふむ。このティラミスは甘過ぎず苦過ぎずでなかなか美味いな」


オティヌス「こちらのパンナコッタも調度いい甘さだ…」


美琴「本当美味しい。これをチョイスするとか、物凄くセンスがあるじゃない。…ていうか、こいつらがこれを買ってこれるなんて信じられない…」


トール「…だろ?流石トールさん。やっぱり何やらせても天才的だぜ!」


美琴「…アンタは…ウチの女の子に、ナンパしてたんでしょうがあ!!」


トール「ごぶぁっ!?」


美琴「それにアンタがこんな上品な物を、好んで食べる様にはとても思えないんだけど?」


トール「うぐっ!?否定できねえのが辛え…」


バードウェイ「なあ、マーク。実際のところ、誰が選んだんだ?」


マーク「それはフィアンマさんのチョイスですよ」


バードウェイ「…なるほどな。それなら納得できるかもしれん」


フィアンマ「まあ、お菓子についてはおまけだよ。俺様はどちらかというと、エスプレッソの方に煩くてな…。

…ほら、俺様が入れてやったから、試しに飲んでみろ」


美琴「そう?なら、せっかくだから頂くわ」


美琴はお嬢様らしく、優雅にコーヒーを口にした。


フィアンマ「どうだ?」


美琴「…」


フィアンマ「?」


美琴「…美味しい…。これは『学舎の園』で出品されてるって言われても、何の疑いもなく信じてしまうくらいのレベルよ」


トール「…クソ美味え。そこらへんのチェーン店で売ってるのと比べモンにならねえ位の出来だ。素人の俺にも良く分かっちまうくらいだぜ」


マーク「凄いですねこれは…。私もコーヒーはそこそこ飲むのですが、フィアンマさんのは格が違うかもしれません…」


レッサー「…この私がイタリアブランドを褒めるような真似はしたくないんですけど、これは認めざるをえませんね…。流石『神の右席』といったところでしょうか…」


オティヌス「(わ、私も飲みたい…)」


フィアンマ「当然だ。豆の種類から、抽出方法。あるいはシュガーやミルクの成分にも拘っているからな。まさに俺様の最高級の自信作という訳だ」


バードウェイ「…」


風斬「あ、あれ?あなたは飲まないの?」


バードウェイ「!!わ、私はおあいにくと、十字教の影のトップが作った物など、絶対に飲む気にはならんのだよ」


レッサー「…絶対そんなんじゃなくて、ただコーヒーを飲めないだけですよね…」


バードウェイ「!!違…」


美琴「…そうね。まさしくその通りの反応よね…」


風斬「あっ、そうだったの…。ごめんね、余計なこと言って…」


バードウェイ「…」


オティヌス「(こいつ…今にも泣き出しそうじゃないか。何とかしてやらないと…)…なあ、人間?」


バードウェイ「…何だ、魔神?私の無様な姿をあざ笑うつもりか?」


オティヌス「…上条当麻曰く、『コーヒーは苦くて飲めないよー、って言っちゃうような小学生くらいの女の子は、可愛らしくて好き』だそうだぞ?」


バードウェイ「!!」


オティヌス「だから、コーヒーを飲めないことは、別に恥ずかしいことではないと思う。寧ろ一種のステータスになるかもしれん」


バードウェイ「!!…ふん。け、決して私はコーヒーを飲めない訳ではないが、まあ一応、お前の気遣いを感謝しておこう」


オティヌス「…そうか」


美琴「(可愛いなあ)」


トール「(それはどちらかというと、上条ちゃんよりも第一位に喜ばれるステータスになるんじゃねえの?)…あれ?」


オティヌス「どうした、トール?」


トール「そういやあ、馬鹿に第一位が静かじゃねえか?あいつは今何やってんだよ?」


レッサー「彼ならあちらにいますよ」


トール「あん?」


レッサーに指し示され方向に目を向けると、そこにはベッドに腰掛けて、ひたすら真顔でコーヒーを啜っている一方通行の姿があった。


一方通行「(し、信じられねェくれェ美味ェ。これは一度飲み出したら止まらなくなりそォだ…)」


トール「…なあ、フィアンマ?」


フィアンマ「うん?お代わりか?必要ならば作ってやるぞ?」


トール「おお!済まねえな………って、お代わり貰えるのは嬉しいけど、そうじゃなくてよ!」


フィアンマ「?」


トール「第一位は今何杯目だ?」


フィアンマ「あいつなら、もうかれこれ5杯以上飲んでるぞ」


トール「(幾ら何でもはまりすぎだろ!!)」


一方通行「ま、マスター!お代わり頼むぜェ!!」


トール「!?…マスター?」


一方通行「いやァ、なンとなくこの呼び方がしっくりくる様な気がしたンだよ」


フィアンマ「ははは。マスターか。悪くはないかもしれんな。…ほれ」


一方通行「…恩に着るぜェ。うン。やっぱ、マスターのコーヒーは最高に美味いぜェ」


フィアンマ「ふむ。皆に喜んで貰えるならば、作る甲斐があるというものだ」


トール「…」



上条「あれ?お前ら何やってんの?」


その時、上条が美琴達の元へとやってきた


美琴「食後のデザートタイムよん」


上条「はあ…」


一方通行「オマエもマスターが入れたコーヒーを飲ンでみなァ」


上条「??マスター?」


トール「どうやらフィアンマのことらしいぜ…」


上条「へえ…。まあいいや。それじゃあ、俺にも飲ませてくれるか?フィアンマ?」


フィアンマ「いいだろう。俺様のエスプレッソに驚愕するがいいさ」


上条「はは…」


フィアンマ「よし、できたぞ。ほれ、飲んでみろ」


上条「サンキュー」


上条もフィアンマのコーヒーを試しに飲んでみた。


フィアンマ「どうだ?」


上条「…う、美味え…。上条さんは普段缶コーヒーでも満足できる人だけど、これはとてつもなく美味い気がするぞ!!」


フィアンマ「そ、そうか!お前に喜んで貰えると一際嬉しいな」


上条「…アハハ…」


美琴「当麻もたまには贅沢したらいいのに。今回のアプリの件でそこそこお金が入るんでしょ?」


上条「いやあ、普段贅沢なんか全くしてなかったから、急にそういうモンにチャレンジしようとは思わねえな」


美琴「そう?」


上条「やっぱり、上条さんには庶民の味が一番です!」


トール「お?やっぱ上条ちゃんは話が分かるな。ここの連中はお上品な奴ばかりで居心地が悪かったんだよ」


上条「はは。まあ、あまり自慢できるモンでもねえけどな」


美琴「(今度二人で一緒にケーキでも食べに行こうと思ったのに…)」


禁書「こ、ここにあるお菓子はとても美味しいんだよ、とうま!」


上条「こんなもの滅多に食べられないから今のうちに食べておくんだぞ、インデックス」


禁書「ええー。今度、いたりあんでざーとを食べに行こうよ、とうま!良さそうなお店をあぷりのとうまに教えて貰ったんだよ!」


上条「(よ、余計なことを…!)しかし、上条さんには良く分からない世界でして…」


美琴「!!なら、私がオススメのお店に、アンタ達も連れて行ってあげる!」


禁書「おお!!流石短髪!太っ腹なんだよ!」


美琴「…その表現をレディーにするのはやめなさい」


トール「勿論俺も連れてってくれるよな!?ミコっちゃん」


美琴「はぁ?アンタはコンビニの安物で十分でしょ」


トール「ひでえ…」


アリサ「ふう。片付け終わったよ、当麻くん!」


上条「おおサンキュー、アリサ。そうだ、お前もフィアンマのコーヒー飲んでみろよ!」


アリサ「コーヒー?」


フィアンマ「うむ。俺様が入れるコーヒーだ。ここの連中にはなかなかの高評価だぞ?…ほれ」


アリサ「ど、どうも。……うわぁ、凄く美味しい…。こんな上品な味初めてかも…」


トール「へえ、アリサちゃんも俺達の仲間なのか。良かったぜ」


アリサ「…俺達?」


トール「そう。俺と上条ちゃん。それ以外の連中はやたら味に煩くてかなわねえ…」


アリサ「…私が当麻くんと一緒…。…なんだか、嬉しいな!」


トール「……どいつもこいつも、全く俺を眼中に入れようとしやがらねえな、クソ!」


アリサ「…あれ?もしかしてフィアンマさんてカフェで働いているの?」


フィアンマ「いや、別にそういう訳ではないが…」


アリサ「そうなんだ。カフェで働いていても何もおかしくないと思っちゃった」


一方通行「!!そ、それだァ!!!」


突如一方通行は勢い良く立ち上がった。


アリサ「な、何!?」


一方通行「なァ、マスター?」


フィアンマ「何だ?急に改まった顔をして」


一方通行「オマエ、この学園都市でカフェを建てて働いてみないかァ?」


フィアンマ「!」


一方通行「学園都市の第一位と第三位が認める味だァ。必ず成功するに違いねェ」


上条「おお!それは確かに面白い話じゃないか?」


フィアンマ「ふむ。悪くはないな。しかし、費用とかはどうすればいいんだ?それに部外者が店をやるってのは、この街の規則的にどうなんだ?」


一方通行「安心しなァ。そンなモン、俺が上層部を脅しちまえばどォにでもなるはずさァ」


上条「…ははは。流石学園都市第一位。言うことがちげえや…」


トール「(こいつが暴れてるの目撃したら、『風紀委員』とかにチクっちまおうかな…)」


一方通行「まァこの件に関しては俺に任せてくれェ。追って後で連絡するからよォ」


フィアンマ「そうか。ならせっかくだからお願いしようか」


一方通行「任せとけェ(これで毎日マスターのコーヒーが飲めるよォになるぜェ!クカカカ)」


フィアンマ「(ふむ。これで俺様も当麻の近くにいられる訳だな…)」


オティヌス「…」


アリサ「ふう。それにしてもコーヒー飲むと、何だか作曲したくなっちゃうな」


トール「あん?作曲て何だよ。もしかしてバンドかなんかでもやってんのか?」


上条「そうさ。アリサは歌姫だったんだよ」


トール「へえ。そりゃあすげえな。なら、試しに一曲歌ってみてくれよ」


アリサ「えへへ。では、少しだけ…」


アリサは軽く口ずさみ始めた。


トール「!!(こ、これは所謂デスメタみたいな奴じゃねえか!?)」


美琴「(ふ、普段はこんなのを口ずさむのね…。意外だわ…)」


風斬「(うわあ、凄い…)」


アリサ「こんな感じだけど、どうかな?」


トール「お、おう。すげえよ(色々な意味で…)」


アリサ「ありがとう♪」


禁書「そうだ!こうやってありさといられるってことは、また二人で歌えるってことだよね!?一緒に歌おうよ、ありさ!」


アリサ「うん!いいよ!」


そう言うと、インデックスとアリサは二人で『約束の唄』を歌い始めた。


一方通行「…すげェな。何だかしンねェが、心が洗われるよォだ」


トール「…いいな、これ」


フィアンマ「(この歌を聞きながら、ワインを飲むのも悪くなさそうだな…)」


美琴「…素敵ね」


上条「…なあ、美琴?」


美琴「何、当麻?」


上条「何故あなたは感動する度に、上条さんにくっつこうとするのでせうか?」


美琴「…いいじゃない別に。減るもんでもないでしょ」


そう言って美琴は軽く上条の腕を頬ずりし始めた。


上条「…いや、この次に来る展開が上条さんにとっては良くないのよおおおお」


禁書「…とうま?」


アリサ「…当麻くん?」


上条「…うっげえ。いつもよりもお怒りモードでいらっしゃる。しかも今度はお仲間つきときたか…。一体上条さんが何をしたって言うのよおおおおおおおおおおおおお!?」


禁書「問答無用かも!!」


上条「ぐぎゃあああああああああ」


マーク「(この分だと上条さんがまともな恋愛をするのは、恐らく不可能でしょうね…。可哀想に…)」


禁書「まったく。目を離すとすぐ悪い子になってるんだよ」


バードウェイ「こいつのたらしっぷりは、過去の偉人と比べても異質だからな。これくらいは仕方あるまい」


上条「…うう(何でかは良く分からんが、今この部屋にいると、どんどん上条さんの立場が悪くなる気がする…。どうにかせねば…)」


美琴「あ!!」


トール「ど、どうしたんだよ、ミコっちゃん?」


美琴「そろそろ帰らないと、本当にまずいかも…」


上条「(し、しめた!!)…そうか、なら俺が送ってくよ」


一同「!?」


美琴「え?いいの?(う、嬉し過ぎる!!)」


禁書「…とうま?もしかして短髪と二人っきりになりたいとか言うつもりなのかな?」


上条「!!い、いや、幾ら美琴が超能力者と言っても、こいつはまだ中学生だし、一人で帰らせるのは危険だろ?上条さんは知り合いの女の子を危険な目に合わせるほど薄情ではありません!」


美琴「…当麻…」


オティヌス「(…単純に、一旦部屋の外に逃げたいだけだろうな…)」


上条「!!そうだ、風斬やアリサはどうするんだ?もし良かったら送って……あれ?」


風斬「ど、どうしたの?」


上条「…なあ、これからアリサってどうするつもりなんだ?」


アリサ「…そうなんだよね。こっちの世界に戻ってこれたのはいいけど、住む場所とかはまだ全然決まってないし…」


禁書「なら新しいお家が見つかるまで、前みたいにここに居候すればいいかも!」


アリサ「え?…いいの、当麻くん?」


上条「ぐっ!?…仕方ない。当面はそうしようか」


アリサ「あ、ありがとう、当麻くん!!(やったあ♪)」


美琴「(…羨ましい…)」


禁書「じゃあ、せっかくだからひょうかも今日は泊まってこ?」


アリサ「そうしよ、氷華ちゃん!」


風斬「…ええと…大丈夫かな、上条君?」


上条「…勿論です!(こうなりゃ、ヤケクソだ!)」


美琴「…ねえ、当麻?一つ質問があるんだけど、いいかしら?」


上条「あん?何だよ?」


美琴「この部屋にベッドは一つしかないわよね?どうやって、これからシスターやアリサさんと暮らしてくつもりなの?っていうか、普段はどうしてる訳?

…まさか、毎日シスターと一緒に寝てる訳ではないでしょうね!?」


上条「違えよ!!普段上条さんはバスタブで寝てるんです!つまり、アリサはインデックスやオティヌスと一緒にベッドで寝て貰うつもりだよ」


美琴「そ、そうなの…(あの子と一緒に寝てる訳ではないのね。安心したわ…)」


一方通行「…でもこの時期にバスタブってのは寒くねェか?」


上条「アプリの前金を利用して、評判の良い毛布を買ったのさ。それがなかなかホクホクして良い感じなんだ」


一方通行「…そ、そォか。そりゃァ良かった…」


レッサー「(それでも惨めなことに変わりはありませんね…)」


トール「ってことはコタツは空いてんじゃん!ならそこで俺を寝泊まりさせてくれよ!な?頼むよ!」


上条「馬鹿言うんじゃねえ!!コタツで寝るのは風邪を引く元なんだぞ!?それに年頃の男の子が、女の子三人の直ぐ近くに寝るってのはありえねえ話だろうが!!」


トール「風邪なんか魔術ですぐ治せるから平気だよ。それに俺はインちゃんやアリサちゃんに手を出すつもりはねえし。もし仮に手を出すような真似をしたら、即追い出してくれて構わねえ」


上条「…しかしだな」


一方通行「いやァ、確かにそいつはその女共に手を出すことはないと思うぜェ」


トール「!?」


上条「あん?どういうことだってばよ?」


一方通行「こいつはさっき自分が助けたお嬢様に惚れちまっているのさァ」


一同「!?」


トール「ば、馬鹿!デタラメ言うんじゃねえよ!!」


一方通行「その割には顔が真っ赤になってるけどなァ?」


トール「!!だ、黙りやがれ!!クソロリコン変態白モヤシ!!」


トールと一方通行はまた取っ組み合いを始めてしまった。


オティヌス「あの様子だと、どうやら本当の話みたいだな…」


美琴「まさか本当にウチの女の子と仲良くなってるとはね…」


アリサ「…でも素敵じゃない?お嬢様とそのピンチに駆けつけてくれた王子様の恋愛って」


美琴「た、確かにそうかもしれないけど…(私の場合も似たようなもんだしね…)」


上条「…」


禁書「…とうま?」


上条「…なあ、マーク?相手の女の子はトールのことどう思ってる様子だったんだ?」


マーク「かなりトールさんに感謝されてるようでした。しかも、トールさんがこの街の人間ではないと知った時、かなり落ち込まれてるご様子でしたよ」


上条「…そっか」


上条の表情をじっと見つめていたオティヌスは、思わず一言呟いていた。


オティヌス「…甘いな」


上条「え?」


オティヌス「…やはりお前は甘い奴だなと思っただけさ。それだけだから気にするな」


上条「…そうか」


禁書&美琴&風斬&アリサ「?」


上条「…なあ、オティヌス?俺は間違ってると思うか?」


オティヌス「…私の答えなんぞ分かってるくせに、一々聞いてどうするんだ…」


上条「いや、一応聞いておこうと思って」


オティヌス「…それが間違いかどうかはともかく、お前の好きにしたらいい。後は成るように成るさ…」


上条「はは。確かに俺の思った通りの答えだ」


オティヌス「…ふん」


上条とオティヌスはそこで軽く笑みを浮かべた。そして、


上条「トール!!!!」


トール「!?」


上条「…特別だ。お前もここで暮らしていくことを許可してやるよ」


一同「!」


トール「!!ほ、本当か!?」


上条「ああ。…ただし。一つ約束をしろ」


トール「…約束…?」


上条「…お前の『守りたい者』のピンチにはどんな時でも必ず駆けつけてやれ。そしてそいつが望むのであれば、極力そいつの側にいてやれ」


一方通行「…」


トール「…ああ」


上条「もしそれができないようなら、ここを出てって貰うだけじゃすまさねえ。中途半端な真似をしやがったら、俺がテメェから『守りたい者』を奪ってやる!!その覚悟があるならここで暮らしてけよ」


トール「…ハッ。俺は『全能神』なんだぜ?テメェに余計な心配をされるほど弱くはねえし、信念も脆くはねえよ!!」


上条「…そうかい。ならお前がここに住むのが相応しいかどうか、俺達がすぐ側で見届けてやるよ」


そう言うと上条はトールの前に右手を差し出した。


トール「面白え。俺の生き様って奴をしっかりとその目に焼き付けてやるよ」


トールも右手を差し出して、二人は笑顔でがっちりと握手をした。


上条「…ところで、バードウェイやレッサー達はどうするんだ?」


バードウェイ「そんなの決まっているだろう。私達も今日はここに泊まっていくつもりだよ」


レッサー「今から帰れって言われても困りますもん!」


上条「…だよねー。ちなみに、一方通行やフィアンマはどうするつもりだ?」


一方通行「俺とマスターはもォ少ししたら、黄泉川のマンションに帰るつもりだァ」


フィアンマ「とりあえず今日は一方通行にお世話になろうと思う」


上条「…そうか。…話が長くなって済まなかったな、美琴。それでは行こうか」


美琴「う、うん!」


バードウェイ「そうだ、帰りに追加のお菓子や飲み物を買ってから帰ってこい」


上条「…は?」


レッサー「これだけの大人数が一泊するのでしたら、とてもじゃないけど全員が横になるのは厳しいですよね?だから今日は徹夜をする覚悟の方がいいと思いますよ?」


上条「…だから、夜食用のお菓子が欲しいと…」


バードウェイ「そういうことだ」


禁書「私からもお願いするんだよ、とうま!」


上条「…分かったよ。分かりましたあ!買ってくればいいんだろ?」


バードウェイ「…だからそうだと言っているだろうが!ほれ、第三位が急いで欲しそうに玄関先からお前をじっと見つめているぞ?さっさと行った方が良いんじゃないか?」


上条「ふ、不幸だ…」


風斬「(さ、流石に理不尽過ぎて可哀想…。と、とりあえず、頑張って!上条君!)」



(同時刻、ニューヨーク)


ロベルト「…はあぁぁあ。やる気でねえよぉぉお…」


ローズライン「…アンタ、それでも本当に一国の大統領なのか?」


ロベルト「だってよ、今日は『少子化対策プロジェクト』の一環で、ラスベガスのボンキュッボンなグラマテス美女を両手に添えて、公然とデートする予定だったのによ…それが、イギリスのしわしわクソババアの我儘を聞くハメになっちまったんだぜ?やってらんねえよ」


ローズライン「…今回の会談は近いうちにどうしてもやらねばならぬ必要案件だっただろうが…」


ロベルト「だからだよ。本当は明日の予定だったのに、イギリス側の事情で今日にスライドさせられちまったんだ。あのババアにはそれ相応の『対価』を用意して貰わなきゃ気が済まねえ」


ローズライン「その『対価』っていうのも、どうせ一晩を共にする美女にするつもりなんだろ?実にくだらない…」


ロベルト「なんだったら今夜はあなたが、俺のビッグマグナムをハァハァ言いながらズリズリしてくれてもいいのよ?」


ローズライン「ふん!」


ロベルト「ホギュア!!!!??」


ローズラインはハイヒールの爪先でロベルトの下腹部を蹴り上げた。


ロベルト「…おいおい。俺は入れられる方の人間じゃねえんだけど…?」


ローズライン「今のは『セクハラ対策』政策の一環だよ。どうだ、なかなか効果があると思わんか?」


ロベルト「…ああ。あまりにも効果があり過ぎて天に召されそうだぜ…」


ローズライン「…いっそのこと天使相手にセクハラでもしてやがれ」


ロベルト「現職の大統領に向かって死の勧告…。相変わらずとんでもねえ大統領補佐官で何よりだ…」


ローズライン「…ふん」


その時部屋のドアがノックされた。


ローズライン「…どうやら女王様の到着のようだぞ?天使サマ相手にナンパするのはもう打ち止めにして、とっとと気持ちを入れ替えろ!」


ロベルト「…こいつの回復には時間がかかるんだよ、クソったれ!!」



エリザード「…まったく。相変わらず、どっちの立場が上なのか、良く分からん関係の二人だな」


護衛が開けたドアから、英国女王が部屋へと足を踏み入れた。


ロベルト「…ようこそおいでなさいました、女王サマ。……あれ?前と護衛が違うじゃねえか。前のサムライねーちゃんはどうしたんだよ?」


エリザード「…神裂ならツンツン頭の東洋人に夢中になってるよ」


ロベルト「ははは。なるほどね。ちなみに、今の護衛さんはどんな奴なんだ?」


エリザード「ブリュンヒルド=エイクトベル。とある少年の安全を保障する代わりに、私の護衛として雇った魔術師だよ」


ブリュンヒルド「…」


ロベルト「…ふーん。良く分かんねえけど、偉いべっぴんさんじゃん。なあ今晩だけでいいから、俺に貸してくれよ」


エリザード「たわけ!ブリュンヒルドは『聖人』と『ワルキューレ』の、両方の性質を兼ね備えた存在だぞ?仮に貸してやったとしても、お前が奴の癇に障る真似をしたら一瞬で肉塊にされてしまうが、それでも構わんか?」


ロベルト「…おお、怖っ。綺麗な薔薇には棘があるとは良く言ったモンだな」


エリザード「…とにかく、私はそんなくだらん話をするために、イギリスからわざわざやってきた訳ではない。とっとと本題に入ろうじゃないか」


ロベルト「…プロジェクト名、『A Certain Brave “Imagine Breaker ”』か…」


エリザード「うむ。元々はお前が提案したプロジェクトだろうが」


ロベルト「…ハハッ、そうだったな。ところで、イギリス国内での『第一段階』の進行状況はどんなモンだ?」


エリザード「私はハイテク機器に関しては良く分からんが、とりあえず例のアプリのダウンロード数は好調のようだ」


ロベルト「それはなにより。さっき電話会談で聞いた話だと、他のEU諸国なども同様のようだ」


エリザード「なるほど。ではこれで世界中に、『世界を救ったヒーロー』の存在やその特徴が徐々に知れ渡っていると言うことか」


ロベルト「上々の滑り出しと言ったところだな。そのためにウチの国が金銭面の協力してんだ。これ位の成果は生み出さねえと」


エリザード「後は如何に上条当麻の『信者化』をするかだな」


ロベルト「それについては問題なさそうだぜ?学園都市に潜入して調査してるバードウェイとかいう奴の情報だと、先行配信された学園都市では、既に『信者』は多く生み出されているそうだ」


エリザード「ふむ。流石学園都市製の機器と言う訳か」


ロベルト「(機器じゃなくてスマホ用のアプリなんだけどな…)」


エリザード「つまりこの調子で行けば、『ヒーロー=イマジンブレイカー』という概念が成立していく訳だな」


ロベルト「そう。それがこのプロジェクトの要となる」


エリザード「世界の一部分で、国連がどうにもできないレベルの重大な魔術的トラブルが発生しても、『ヒーロー』がきっと何とかしてくれる。そういった考え方が世界中に蔓延すれば、プロジェクトは完遂となる訳か」


ロベルト「ああ、その通りだ。それが達成されれば、今後は国連に協力して貰う形で、上条当麻を世界中に派遣させることも可能になるはず」


エリザード「このプロジェクトによって、最大の難題である、『学園都市側による上条当麻の派遣許可』に関しても解消できる見込みがあるというわけだな」


ロベルト「まあな。仮に世界の何処かでそのようなトラブルが発生したとする。そこで学園都市側が上条当麻の派遣を渋って、速やかに事件を解決できずに多くの犠牲者を出してしまったら?」


エリザード「…学園都市に対する世界中の人々の風当たりが悪くなるだろうな。…何故学園都市は、世界の危機に『ヒーロー』を派遣してくれないんだ?所詮、自分達の利益しか考えないような、下衆どもの集まりなのか?ってな」


ロベルト「学園都市への不信任感が募れば募るほど、世界中の人々は学園都市ブランドを忌み嫌うようになる。そうすれば、各国の学園都市との交易は徐々に抑えられてしまうだろうし、挙句の果てには、学園都市の学校への入学希望者も減っていく恐れがある。…それは奴らにとって最も恐れてることじゃねえか?」


エリザード「…単純な科学力では遠く及ばないから、学園都市のクリーンなイメージをぶち壊して、経済や人的資源の観点から制裁を加える…。

…なかなかえげつない行為ではないか」


ロベルト「ははは。やってることはただの脅しみてえなモンだからな。ただ、そんなハリウッド映画の悪役がやるような真似を、俺達が思わず実行したくなるくらいには、上条当麻の実績って奴がズバ抜けているんだよ」


エリザード「だろうな。元々、『使徒十字』や『アドリア海の女王』事件といった、世界勢力の均衡を破壊しかねない事件に関わっていたが、それだけでなく、ついには第三次世界大戦、北欧の魔神事件といった、魔術界でも最悪レベルの大事件にも関わるようになってしまった。両者ともに世界各地に甚大な被害を齎しても、何ら不思議ではない規模の大事件なのは間違いない」


ロベルト「そして、上条当麻はそのどちらの中心にも潜り込み、自身が先導して事件を解決させてしまった。しかもこの前の魔神に関する事件ときたら、何と死傷者はゼロだ」


エリザード「それが上条当麻の『目についた人間を片っ端から救ってしまう性質』という訳だな」


ロベルト「…特殊な性質ねえ…。俺には超能力だの魔術だのってのは良く分からねえが、奴の『ヒーロー』としての力には凄え神秘的な何かを感じ取れる気がする」


エリザード「奴は魔術のプロでも決して成し遂げられないような戦果を、容易に上げる力があるからな。ある意味では核兵器以上の価値があるかもしれない」


ロベルト「世界の命運をかけた戦いに身を置きながらも、そこから必ず生き残れる性質も目を見張るものがある。こんだけの奴のスペックを考えると、思わず利用したくなるってのも良く分かるだろ?」


エリザード「…まあ、実際に奴を利用しようとしてる輩は多くいるようだからな。我々もそいつらも同レベルかもしれん…。如何せん、どんなに奴の上げた実績が凄まじいものであっても、所詮普通の高校に通う学生に過ぎないのだからな」


ロベルト「…」


エリザード「そいつのプライベートをぶち壊して、今まで以上に世界の命運をかけた戦いに参加させようって言うんだ。これは決して善人が行うべき選択ではない。まさに悪人のやることだ。違うか?」


ロベルト「ははは、違いねえ…。

…でも、それでも俺は、見てみてえのよ…」


エリザード「??何をだ?」


ロベルト「…あいつが『ヒーロー』としてこの世界の一番奥に立って、陰ながらこの世界を守り続ける未来って奴をだ」


エリザード「!」


ロベルト「だが、それは別にあいつ一人に世界の命運全てをかけて戦わせる訳じゃねえ。勿論アメリカ軍…いや、国連軍もあいつに全面協力させる。上条当麻の出番が必要だと判断した事件以外に関しては、奴の派遣は極力控える。そして奴が仲間と最低限に暮らせるような資金協力もする。だから、あいつにはこれからも世界中みんなの『ヒーロー』をやって貰いたいのさ」


エリザード「…壮大な理想論だな。一介の高校生を中心とした防衛システムを築こうと考えるとは、とても正気の沙汰とは思えん」


ロベルト「…かもしれねえな」


エリザード「…だがそれは、全く議論する価値も無い案件だとは思えない。確かにあの少年になら世界の命運を預けてもいいかもしれない。そう思えるくらいの実績は既に残してきている」


ロベルト「!」


エリザード「従って、我々イギリスも支持するくらいの価値はあるかもしれない。何せ、あの少年にはウチの連中も良くお世話になっているからな」


ロベルト「…」


エリザード「…良かろう。必要とあらばウチの自慢の魔術師達も協力させる。それだけの価値はあるはずだ」


ロベルト「…すまねえな。結局このプロジェクトの魂胆にあるのは、俺の夢みたいなモンだけなのによ」


エリザード「仮にお前が誰かに謝ろうとするならば、私ではなくあの少年にしろ。もっとも、あの少年ならば、『気にする必要はねえよ。俺も戦いてえし』とか言いそうだがな。データ通りなら、奴もお前と同じくなかなかの理想家だ。きっとお前の計画にも進んで協力してくれるはずさ」


ロベルト「ハハッ。だろうな。どこか俺と似てるから自然と気に入ってるのかもしれねえ」


エリザード「…そう考えると奴も将来とんでもない大物になりそうだな…」


ロベルト「それは間違いねえだろうな」


二人はそこで思わず笑っていた。世界有数の有力国の重鎮が共に、小さな島国に住む一人の高校生の未来を気にかける。それは両者にとって、本当に国家間の会談で取り扱うべき話題なのか?と、思わず首を傾げたくなるような話だった。しかしそれと同時に、近い将来彼の存在が世界にとって、重大な価値を持つであろうということを確信していた。世界と少年を天秤にかけた時、それが釣り合ってしまうことに、どうしても笑いを抑えることができなかったのである。


エリザード「…まあとりあえず、このプロジェクトに関するイギリスの進行状況と、これ以降の続行に関する意思表示も提示させて貰った。我々の目的は達成されたから、私はこの辺で失礼させて貰う。…だが、あえて一つだけ言っておこう」


ロベルト「!!…な、何だよ?」


エリザード「このプロジェクトが無事完遂されるかどうかは、最終的にはお前の手腕に掛かるだろう。しかし、半端な覚悟で臨めば学園都市側から手痛いダメージを食らう羽目になる。だから、精々気をつけろよ」


ロベルト「…俺を誰だと思ってやがる。『世界の警察』を司る米国の大統領を舐めるんじゃねえ!」


エリザード「…そうか」


気品漂う微笑みを見せたあと、エリザードは護衛と共に部屋から出て行った。


ローズライン「…まったく。その『世界の警察』が、たった一人の高校生を利用しようとは…とても笑えた話ではないと思うぞ?」


ローズラインはエリザード達の後ろ姿をじっと見つめながら、思わず呟いていた。そして、ロベルトは、どうしてもその呟きに対しては黙っていられなかった。


ロベルト「…悪いが、あいつをただの高校生だと思っていたら手痛い反撃を食らっちまうぜ?」


ローズライン「!」


ロベルト「このアメリカ大統領を心酔させた男だ。必ず世界中の期待に応えて、とんでもねえ『ヒーロー』になってくれるはずさ。俺が言うんだから間違いねえよ」


ローズライン「…」


ロベルト「…これからこの世界はどんな風に変わっていくんだろうな。

…なあ、お前『も』ワクワクするだろ?俺には良く分かる」


その時、一国の大統領は窓の外を見つめながら、両手を広げて高々と笑っていた。そして、窓から見た景色の遥か先にいるであろう、たった一人の少年に話しかけるように、一言告げた。


ロベルト「…だから、『俺達』の考える次世代って奴を共に作り上げていこうじゃねえか!!

…いい返事を待っているぜ、“The Next Generation’s Hero”!!」




(午後9時、第七学区の鉄橋付近)


上条「…うう。思ったより寒いな」


美琴「…そ、そうね」


上条「??どうしたんだよ、美琴?何だかそわそわしてねえか?」


美琴「!!だ、大丈夫よ!気にしないで!」


上条「そうか?ならいいけど…」


美琴「(…うう…せっかく二人きりになれたんだから手を繋ぐか、腕に抱きついて歩きたいけど、いざとなると、まだ、あと一歩が踏み出せない…。何かきっかけさえあればいけそうな気がするんだけど…)」


上条「お?この鉄橋まで来たか」


美琴「…あら、本当ね。そういえばここは私達二人にとっては特別な場所よね…」


上条「ははは。そうだな。あの時のお前の泣き顔は、今でも凄く印象に残ってるぜ?」


美琴「!!ば、馬鹿!そんなものはさっさと忘れなさいよ!!」


上条「やーだよーだ♪」


美琴「!!こ、こんにゃろ!!無理にでも忘れさせてやる!!」


上条「へへ!やれるものならやってみな!!」


美琴「…上等じゃない!!覚悟しなさいよ、こんの………あれ…?」


上条「あん?どうしたんだよ?」


美琴「……………雪…………」


上条「ゆき?…あれ、本当だ。月が出てるのに雪が舞ってやがる。何だか不思議だな」


美琴「…」


それは途轍もなく幻想的な風景だった。美琴は、月の光に照らされておもむろに輝く雪の結晶、あるいは儚げに舞いながら川面へと消えていく雪の姿をじっと見つめていた。


美琴「……素敵。…凄く素敵…」


彼女はそのあまりにも幻想的な光景に、完全に心を奪われていた。


上条「…そうだな」


美琴「…うん」


そして、美琴はいつの間にか側に寄って来た上条の右腕に、無意識のうちに抱きついていた。そして、想いを寄せる少年と一緒に、この幻想的な光景が見られることに、ただひたすら感激していた。


上条「(やっぱり、この子は感動すると上条さんに絡みついてくる訳ね…。要はインデックスの甘噛みみたいなモンかな?)」


美琴「…ねえ、当麻?」


上条「…うん?何だ、美琴?」


美琴「…ありがと」


上条「へ?」


美琴「…えへへ。言ってみたかっただけ」


上条「…そっか」


美琴「…ねえ、当麻?」


上条「…今度は何だ?」


美琴「…もうちょっとこのまま…鉄橋からの景色を眺めてても…いいかな?」


上条「俺は別に構わねえけど、お前は大丈夫なのかよ?時間がやばいんじゃなかったっけ?」


美琴「…それは大丈夫。…でもね…」


上条「?」


美琴「…こうやってここで、この幻想的な光景を二人きりで見ていられるのは、滅多にない機会だと思うの。

…ううん、もしかしたら最後の機会になるかもしれない…。だってこんな光景滅多に見れないもの…」


上条「!」


美琴「…だからお願い…。今は…今だけは、こんな風に二人きりでいさせて!」


上条「…美琴…」


美琴「…駄目かな…?」


上条は、美琴が自分を抱き締める力を強くしているのに気がついた。だけど、その少女はどこか弱々しかった。


上条「………………………あはは」


美琴「…当麻…?」


上条「お前声が震えてるぞ?」


美琴「!」


上条「…お前は今怯えているな?」


美琴「…」


上条「…だけど本当は、お前が恐れているのはこの光景が見られなくなることなんかじゃない。だってこんな光景は、元々想定に全く無かったものに等しいのだから。寧ろこんなものは、普通は見られないと思った方が自然だ。

だから、見られて良かったね、って言う程度のものを失ったところで、大したダメージになるはずがないんだよ。つまり、今のお前は別のことに怯えているはずだ」


美琴「!」


上条「…恐らく、ハワイの時みてえに、俺がお前の元を離れてしまって、俺とお前が二人でいられる機会がなくなってしまうことを、今恐れてるんじゃねえか?」


美琴「…うん…」


上条「きっと今は二人でいられるってのが強く感じられるから、安心しきってんだろ。だけどそれ故に心の奥底で、二人が離れてしまう時に訪れるであろう恐怖って奴も、同時に感じてしまっているんだろうな」


美琴「…!…」


上条「『こいつはまた自分をおいてどこかに行ってしまうんじゃないか…』ってな感じにな。…まあ、お前にそういう風に思わせてるのは全て俺の責任だから、あまり偉そうには言えねえけど…。

でも、結局なんだかんだでこうやって日常に戻ってこれるんだ。お前が不安になる必要はないと思うけどな!」


上条はそこで思わず笑ってた。それは少女に笑うことを促しているようでもあった。しかし、美琴は笑うことなく依然と震えていた。


美琴「…怖いの…」


上条「!」


美琴「…当麻の言う通りよ…」


上条「…美琴…?」


美琴「…当麻は…いつの間にか私の知らないところで、『私の』ヒーローというよりも、『みんなの』ヒーローになっちゃっててさ…。このまま私のことなんか忘れほうけて、私以外のみんなを救うためだけに奔走しちゃいそうな気がして、いつも突然不安な気持ちになっちゃうの…」


上条「…え…?」


美琴「…でもさ…それと同時にきちんと理解してるんだよ?私の時と同じように、『当麻が助けに来てくれたからその命が救われた』っていう女の子がこの世には沢山いるってことも。それこそその子達も、『当麻が助けてくれなかったら、命を落としていたかもしれない』ことだって良く分かってるつもりよ。だから今まで、当麻が誰かを助けに行こうとするのを、私も着いて行きたいっていう気持ちを必死に抑えて、送り出していたことも良くあったの」


上条「…」


美琴「…だけどね。本当はね…。…例え、他の女の子や当麻に迷惑をかけちゃうとしてもね…」


上条「!」


そこで美琴は歪な笑顔を浮かべていた。


美琴「…本当はずっと、私は当麻の側に居たかった。ずっと『私だけの』ヒーローであって欲しかった!」


上条「!!…美琴…」


そして、美琴はいつの間にか涙を目に浮かべていた。


美琴「…最低でしょ、私って…。だってみんなのものであるべき当麻を、誰よりも独占したいんだもの。私なんかとっくに当麻に救われてて、当麻に依存しちゃいけないような立場なのにね…」


上条「…!…」


美琴「これからも、当麻は『みんなの』ヒーローとして世界を救っていくのでしょうね。それこそ少年漫画に出てくるような、『ヒーロー』のように。だけど、それがこの世界にとっては一番良いこと。それに当麻は、それを決して義務感でなく、自分がやりたいからという理由で挑戦していくんだもの。とてもそれを邪魔する気にはなれないわ。だから、私もそれを、一人の『ヒーロー』の仲間として、全力でサポートさせて貰う!」


上条「…」


美琴「…だから…だから今だけは、こうやって少女漫画に出てくるような『ヒロイン』として、私を当麻の側にいさせて…お願い…」












上条「…駄目だ!!!」







美琴「…え?…きゃぁっ…!」



直後上条は、物凄い力で無理やり乱暴に美琴を自分の腕から引き剥がした。


美琴「…あ…え…?」


上条「…」


美琴「…冗…談…で…しょ…?」


いつの間にか美琴の目から信じられないほどの涙が溢れ出していた。


美琴「…いや…嫌だよ…当麻…」


ずっと恋い慕っていた少年からの明確な拒絶。突然の事態に少女は瞬く間に絶望に陥ってしまった。


美琴「…どうして…?なんで急に私を拒絶するの…?」


上条「…」


美琴「…私は当麻や世界中の女の子のことを想っての選択をしたのよ…?なんで…どうして…?訳分かんないよ!!!」


上条「…」


上条は美琴とは対照的に、ひたすら沈黙を続けていた。


だから、



美琴「…質問に答えなさいよ!!!この意気地なし!!!!」


上条「!」


美琴は嗚咽を漏らしながらも、獣のように吠えていた。まるでそれは、憧れの少年へと敵意を向けることを決意したかのように。


美琴「…ばっかみたい…何で私はこんな奴のことずっと追いかけてたんだろ…こんな小さなクソ野郎なんかを、学園都市第三位の私が追いかける必要は、全くなかったんじゃない!!」


その時美琴は上条に明確な敵意を向けていた。憧れ『だった』少年への一方的な罵倒。それはお互いにとって悲痛な物であった。それを上条は確かに感知していた。そのため、



上条「……うるせえよ」


ずっと美琴の話を黙って聞いていた上条は、いつの間にかその右手を、物凄い力をこめて握っていた。あまりにも強く握っていたために、血が滲み出ていた。

美琴は、その少年がどんな時に右手を力強く握り締めるかを良く知っていた。

いや、知ってしまっていた。


だから、


美琴「…ハッ。何よ?何か文句でもある訳?このボンクラ野郎。ヒーローだか何だか知らないけど、女子中学生相手にビビって質問にも答えられないくせに、カッコつけてんじゃないわよ!!!」


上条「!!」


美琴は上条の顔面を、渾身の力を込めて思いっきり殴っていた。そのため上条の唇は勢い良く切れてしまい、かなりの鮮血が彼の口元から垂れていた。それだけでなく、トールとの戦闘で受けた傷が再び開いてしまった。よって、上条の顔面は所々赤く染まっていた。


美琴「…どうよ?中学生だからって甘く見るんじゃないわよ!!!」


上条「…」


上条は唇の血を左手で軽く拭き取り、そして、また力強く右拳を握り締めた。


美琴「…何よ。どうせ私を殴る勇気も無いくせに、拳なんか握り締めちゃって…。悔しかったら反撃してみなさいよ!!!!」


美琴は再び、大きな声を張り上げて吠えた。しかし、その声は何処と無く震えていた。それは、どうしようもないほどの不安を紛らわせようとするのに必死になっていることを、明らかに露呈させてしまっていた。上条はそれを決して見逃さなかった。



だから、






上条「…くそったれが」


美琴「!」







上条「くそったれがァァァァあああああああああああああああああああああああああああ!!!」



美琴「!!…え!?」


上条は美琴よりも遥かに力強く、大きな声で吠えた。そして、右拳を思いっきり握り締めて、爆発的な勢いで美琴の元へと飛び出していた。

美琴は、この少年はどんなことがあっても、絶対に自分を殴らないだろうと心の片隅で思い込んでいた。よって、美琴は上条の予想外の行動に全く反応できなかった。







だから、




美琴は、







『上条に思いっきり強く抱き締められるの』を回避できなかった。






美琴「……………………………………………え?」


美琴は全く予想だにしてなかった展開に理解が全く追いつかないでいた。少年は先程自分を拒絶したのではなかったのか?…いや、それよりも少女に気がかりなことがあった。


美琴「(…い、痛い…。もの凄く痛い…。こいつに、とんでもなく強い力で抱き締められてる?)」


美琴を抱き締めていた少年は、美琴の良く知っている少年ではなかった。彼女が良く知っていた上条当麻は、辛い思いをしてる女の子を見つけたら、とりあえず優しい言葉を掛けたり、あるいは必要とあらば優しく触れて温もりを感じさせてくれる心優しい少年だった。しかし、美琴の目の前にいる『それ』は、渾身の力を込めて彼女を抱き締めていた。その時の美琴は、『それ』がいつもの温厚な少年だとはとても信じられなかった。故に、一気に更なる不安に襲われた美琴は、思わず『それ』の顔を覗き込んだ。


そこには、



美琴「!!あ、アンタ…。泣いているの……?」


上条「…」


美琴は彼に出会ってから初めて、上条当麻が嗚咽を漏らして涙を流す姿を目撃していた。少年の顔は涙と血によってグチャグチャになっていた。その全てが普段の上条の姿と違っていた。だから、彼女を抱き締めている少年が、いつもの上条だとは思えなかったのである。


美琴「…当…麻…?」


上条「…お前の質問に答えてやるよ」


美琴「!」


上条「…なんで、俺がお前を拒絶したかだって?なんでお前が俺や世界のためを想って行動してんのに、俺に拒絶されなきゃならねえのかだって?」


美琴「…」



上条「…そんなモン決まってんだろ」


美琴「!」





上条「『テメェ』がとんでもねえ勘違いをずっとしてたからだよ、この大馬鹿野郎が!!!!!!!」


美琴「!!」


その時美琴は気づいた。上条は相当怒っていた。しかし、それは決して美琴に対してだけではなかった。その怒りの矛先は自分自身にも強く向けられていた。寧ろそちらの方が強いようにも思われた。


上条「…お前はとうの昔に俺によって救われた…って言ったよな?」


美琴「!!…ええ…少なくとも私はそう思ってるけど?」


上条「…ふざけんじゃねえよ…」


美琴「!」


上条「…お前が俺の手によって救われたっていうのは、お前の幻想だよ」


美琴「…え?…いや、そんなことは…」


上条「…俺もずっとそう思っていた。二つの『絶対能力者進化計画』で俺は、妹達と一緒にお前の命も確かに救ったつもりだった。だけどそれは所詮、命を救っただけに過ぎなかったんだ!」


美琴「!!」


上条「結局のところお前は、本当の意味では、ちっとも救われてなかったんじゃねえか!!」


美琴「…え?」


上条「…お前は俺が側にいなくて不安になってたんだろ?俺が『みんなの』ヒーローになってしまって、『お前だけの』ヒーローじゃなくなってしまったから辛かったんだろ?」


美琴「…だったら、なんなのよ…?」


上条「…それじゃあ俺は、お前を『救った』んじゃなくて、お前をずっと『苦しめていた』だけじゃねえか!!」


美琴「!!!!」


その時美琴は自分が勘違いしてたことを悟った。上条は、美琴を拒絶したのではなくて、『自分は上条によって救われた』と勘違いして、ずっと自分の本当の気持ちを隠し続けてきた少女に怒っていたのであった。いや、それだけでなく上条は、少女にそう勘違いさせてしまった自分への激しい怒りを感じていた。

…他人を救ったつもりが、実は傷つけていただけだった…。それは、今までずっと誰かを救うことに挑戦し続けてきた上条にとって、どうしようもないほどの屈辱であった。そして上条は、今までに味わったことがないようなイラつきのような物を感じていた。故にその感情のコントロールをできずに、『自分がずっと苦しめていた』少女に対して、無理矢理自分から引き剥がすという八つ当たりをしてしまっていたのだった。

少年と親しい関係にあった美琴は、それら全てを悟ることができた。




美琴「…当麻…」




上条「…ごめん」


美琴「…え?」


上条「…ごめんな、美琴。俺って本当に最低だよ。自分のすぐ近くに辛い思いをしている女の子がいたのに、それに気付いてやれることができずに、それでいてお前に八つ当たりしちまうんだもんな。本当に情けねえ…」


美琴「…当…麻…?」


美琴は、今も悔し涙を流し続けている上条が、自分を抱き締める力を緩めているのに気がついた。


美琴「(…いや、違う。当麻が意図的に緩めているんじゃなくて、単純に抱き締める力が喪われていってるんだわ…)」


そう考えているうちに、どんどん上条の抱き締める力が奪われているようだった。


上条「…お前の言う通りだ。何が『ヒーロー』だよ。自分のすぐ側にいる、たった一人の女の子も救えないくせに、何をかっこつけてるんだろうな。それでいて、さっきトールに偉そうなことを言っていたけど、そんな資格なんか俺には全くねえじゃねえか!!!」


美琴「…」


その時美琴の頬に上条の涙がポツポツと垂れてきた。その涙はとても冷たかった。そして、その声は確かに震えていた。いつもの少年の声には確固たる信念が乗っていたはずだった。だけど、今のそれには全く感じられなかった。

そうしている内に、上条が美琴を抱き締める力は明滅していた。


…きっとこのままでは、この少年はもがき苦しみながら、自分から離れてしまうのであろう…。


そう錯覚した美琴は、


上条「!!…み、美琴?」


美琴「…ごめんね、当麻」


今度は美琴が力強く上条を抱き締めていた。


美琴「…悪いのは当麻じゃないよ。私が変に我慢してたのが悪いの。それでいて当麻に、遠回りなやり方で、私の我儘を聞いて貰おうとしたのが悪いのよ!」


上条「…美琴…」


美琴の目からも、再び溢れんばかりの涙が流れていた。その理由はもうグチャグチャになってしまっていて、美琴本人にも良く分からなかった。

…それは、自分の勘違いで憧れの少年を、肉体的にも精神的にも傷つけてしまったことに対する後悔から来た涙なのか…。

…あるいは、変わり果てた少年の姿を見てしまって、いたたまれない気持ちになっていたから出てきた涙なのか…

いずれにしろ、精神的にまだまだ未熟な美琴には、この涙を抑える方法を考えつくことができなかった。

そして、それをじっと見ていた上条も黙っていられなくなっていた。



上条「!!いや、そんなんじゃねえよ!俺が………!!!!!!」



しかし、



上条が何かを言いかけた時、



美琴は、



上条の血だらけになった唇に、



自分自身の唇を優しく重ね合わせていた。



美琴「…」


実のところ美琴にも、何故自分がこの行動を起こしたのか良く理解できていなかった。先ほどの複雑な気持ちの整理がまだできていなかったためである。


しかし、それでも、美琴はたった一つの意思を見出していた。




少年を救いたい。




それは美琴にとっての信念そのものに他ならなかった。その確固たる信念が、美琴にこのような行動を起こさせていたのであった。だからきっと、この行動ならば、少年を救えると心のどこかで確信していた。



上条「…」



上条も何が起きていたのか、事態を良く把握できていなかった。しかし、上条の心の内に、何かが徐々に湧き上がってくるような感覚が確かにあった。




少女を救いたい。




そう強く思った上条は、再び美琴の背に両腕を回して、華奢な少女を抱き締めた。


美琴「!」


美琴は上条の抱き締め方が、先ほどとは明確に異なっていることを感じることができた。そこには美琴が大好きでたまらない、いつもの少年の優しさで満ち足りていた。今美琴を抱き締めているその少年は、まさに美琴がずっと憧れ続けてきた少年そのものだった。


美琴「(…とうまぁ…)」


…憧れの少年と口付けを交わしながら優しく抱き締めて貰える。美琴はその時、信じられないほどの安心感と幸福感を感じ取っていた。そして同時に確信していた。


…自分を心から幸せにしてくれる異性は、この少年以外には決してあり得ない…と。


美琴「(……好き…大好き…。



…好きでたまらないの……当麻…)」


そこからどれほどの時間が経っていたのかは、二人にも良く分からなかった。ただ幻想的な光景が、二人をひたすら美しく照らし出していた。


そしていつの間にか、美琴が上条から唇を離していた。


上条「…美琴…?」


美琴「…あはは。当麻は記憶喪失だから、初めてかどうか分からないけど、私のファーストキスはこんな感じで終わっちゃった…。ファーストキスってレモンの味がするって聞いてたけど、凄い鉄の味がしたじゃない。何だか騙された気分だわ」


上条「…そっか」


美琴は茶化したような発言していたが、その笑顔はこれ以上になく幸せそうなものであった。それをじっと見つめていた上条も自然と一安心することができていた。


そして、美琴は上条に抱き締められたまま、


美琴「…ねえ、当麻?」


上条「…何だ、美琴?」


美琴「…あなたは、こんな天邪鬼な私でも本当に救ってくれるの?」


上条「…当たり前だろ?」


美琴「…ありがと」


美琴はそこで再び笑顔を作った。そこには不安や絶望といった、マイナスの感情は一切感じられなかった。ただひたすら、美琴は幸せだった。

それを見た上条は、


上条「…なあ、美琴?」


美琴「…なに、当麻?」


上条「美琴お嬢様はどのように救っていただくのがお望みで?」


美琴「もう!本当は分かってるくせに!!」


上条「あはは。でもあえて口にして欲しいんだよ」


美琴「…しょうがないわね」


上条「…すまねえな」





美琴「…当麻はこれからも『みんなの』ヒーローでいてくれて構わない。私もそれを一生懸命応援する。

…だけど、それだけじゃなくて…」



上条「…」





美琴「…あなたは、これからもずーっと、ずーーーっと『御坂美琴だけの』ヒーローでもいてください!!!」









上条「任せろ」




その言葉のやり取りで、漸く問題を解決できたと感じた二人は、無意識の内に、再び唇を重ね合わせていた。そして、自分の心の深い部分で、ずっと蟠っていた幻想が崩れていくのを、美琴は確かに感じ取っていた。


美琴「(例え、当麻がRPGや少年漫画に出てくるような英雄であったとしても、そんなの私にとってはそこまで大きな問題じゃない。そして仮に私が、当麻にとってのたった一人だけの『ヒロイン』になれなかったとしても、当麻が私だけの『ヒーロー』なのは決して揺るがない。だから、私は当麻に幸せにして貰うだけじゃなく、当麻の望みが叶えられるように一生懸命サポートしていきたい!)」



二人は数分にも渡って唇を重ね合わせていた。まるでお互いの心の内に、自分の存在を改めて刻み込むように…


美琴「…ふう。もう満足したわ。ありがと」


上条「…そっか」


美琴の顔が遠ざかっていくのを感じた上条は、抱き締める力を弱めた。そして美琴は、一旦離れた後、今度は上条の右腕に抱きついた。


美琴「えへへ。それじゃあ寮の方に行こっ?」


上条「…オイオイ、美琴はもう上条さんから離れる気はないのか?」


美琴「そりゃあ当然よ。当麻はこれからもずっと『私だけの』ヒーローでもあるんだから!それに、私が素直にならずに我慢していると、お互いが傷つく羽目になっちゃうことをよーく思い知らされたんだもの。ならせっかくだから、あなたに甘えられる時は、しっかり甘えさせて貰うわ!…ダメ…かな?」


上条「…いいや。お前の好きにしてくれ。それがお前の幸せになるのなら、俺はお前に何されようが構わない」


美琴「…まったく!まーた、他人の幸せばかり考えてる!当麻のそういうところは正直言って、嫌い!」


上条「…そんなこと言われてもなあ。それが上条当麻っていう人間なんだよ」


美琴「…良いわ。だったら、私が当麻のことを幸せにしてみせる!」


上条「!!」


美琴「…私が当麻に幸せにして貰う代わりよ。だから、私が当麻を幸せにするためには何だってやってあげるわ!」


その美琴の声には、いつもの通りの強い意志が感じられた。それを聞いた上条はとてつもなく救われた気分になった。


上条「…ありがとな、美琴!」


美琴「それはこっちのセリフよ!」


上条「あはは。このままだときりがねえな」


美琴「はは。そうね。結局私達って、お互いの幸せばかり考えてる関係なのよね…」


上条「…そうだな」


美琴「…私はどうしても当麻の役に立ちたいの。だから、とりあえず約束通り、私は毎日のように当麻の部屋に通わせて貰うわ!そして当麻に喜んで貰えるように家事も一生懸命やってあげる!」


上条「…そうか。なら俺は、お前が『俺が側にいないから』という理由なんかで、不安にならないように、極力お前の側にいてやる!そして、お前が俺の側から離れても大丈夫だと思えるまで、俺はお前を、俺の側から絶対に離さねえ!」


美琴「!!」


上条「…聞こえようによっちゃあ、お嬢様をお持ち帰りして、そのまま監禁するみてえなモンなのかもな…。笑えねえ話だよ。

だけど俺は、もうお前を不安にさせたくなんかねえんだよ!」


美琴「…ううん。凄く嬉しい…。私も当麻の厚意は全て受け入れるつもりよ?だから気にしないで!」


上条「…ありがとな」


美琴「うん!どういたしまして!」


そして美琴は上条の右腕に抱きついたまま、自分の頭を上条の右肩に乗せた。それだけで途轍もない幸せを感じることができた。


美琴「…ねえ、当麻?」


上条「…何ですかお嬢?」


美琴「私ね、あなたのことがす『やっと見つけたで!カミやん!!』き…」


上条&美琴「「…は?」」


上条達が声のした方向へと目を向けると、そこには青髮ピアスを中心に、上条のクラスの男子が複数人集まっていた。


上条「ど、どうしたんだよお前ら!?」


青ピ「どうしたもこうしたもあるかい!!カミやんの右腕にガッチリとくっ付いているその女の子はなんやねん!!!」


美琴「!!」


そう言われて、少し居心地の悪くなった美琴は上条から少し離れた。ちなみに、その時上条は僅かに淋しそうな表情を浮かべていた。しかし、美琴は軽いパニック状態に陥っていたためそれに気づかなかった。


青ピ「こないなロマンティックな夜に、ロマンティックな場所でデートとは、ホンマに許されへんで!!」


上条「い、いや、これは、その…」


青ピ「しかもお相手は学園都市第三位の御坂ちゃんやんけ!!まさにみんなの憧れの存在なんやぞ!!」


美琴「…」


上条「…そんなの関係ねえよ」


美琴「!」


青ピ「な、なんやて!?」


上条「こいつは確かに学園都市第三位っていう凄い肩書きを持っている。みんなの憧れってのも良く分かる。だけど、こいつは、そんなチャチな言葉だけで表現できるような女の子じゃねえんだよ」


美琴「…」


上条「こいつはな、本当は誰よりも寂しがりやな女の子なんだ。他の女子中学生と同じ…いやそれ以上に繊細な心を持っているんだよ。だけど、それと同時に、自分に寂しい思いをさせているような、最低なクソ野郎を常に気に掛けてくれる、とんでもなく心優しい女の子なんだ。だから、中途半端な知識だけで、こいつを語ろうとするんじゃねえよ!!」


美琴「…当麻…」


青ピ「…なあ、カミやん。一つ聞いてもええ?」


上条「??何だよ?」


青ピ「今の台詞がボクらにどんな風に聞こえたか理解できてるん?」


上条「へ?ど、どういうことだよ?」



青ピ「…それって遠回しに、御坂ちゃんは自分のモノ宣言しとらんか?」


上条&美琴「!!!??」


青ピ「だって、御坂ちゃんのそんな一面を知っているのはカミやんだけやん?その一面を知らなきゃ、御坂ちゃんを語れないっていうのなら、この世で御坂ちゃんを語れるのはカミやんたった一人ってことになるやんか…」


上条「!?ば、馬鹿!!変なこと言ってんじゃねえよ!!!」


青ピ「顔真っ赤にして偉ぶっても、全く怖くもなんともないんやけど」


上条「…ちくしょう。なあ、美琴、お前もなんかいっ…!!…」


そこで上条はとある『前兆』を無意識の内に感じ取っていた。それは美琴が感極まった時に、無意識の内に能力を暴走させてしまうといった、『漏電』の際に引き起こる『前兆』であった。だから、上条は幻想殺しの宿る右手を前に突き出そうとした。


しかし、その前に、


美琴が上条に勢い良く真っ正面から抱きついた。


一同「!?」


上条「(!!いつもと何かが違う!よ、よく分からねえけど、いつものパターンではない何かが起きたのか?)」


美琴「…」


美琴は確かにいつも通り恥ずかしい気持ちになっていた。だから『漏電』もしかけていた。しかし、それ以上に、上条の『俺のモノ』発言が嬉しくて仕方がなかった。だから、『漏電』でなく、上条を抱き締めることを自分の意志で選択することができていたのである。


上条「…美琴…?」


美琴「…嬉しい…」


上条の発言は完全に無自覚な物であった。故にそれは全く着飾ったものではなく、上条の本心に近いものであった。それは美琴にも良く理解できた。だから美琴はどうしようもない喜びを感じていたのである。


美琴「…当麻…」


上条「…美琴…」


美琴は上条を抱き締めながら、何かを求めるような目でじっと上条の目を見つめていた。だから、上条もそれに応えるようにして……




青ピ「ま、待ってや!!!」


上条&美琴「!!」


青ピ「ボクらをスルーして、二人だけの世界に入らんといてや!!見てるこっちが惨めになるやないかい!!」


上条「わ、悪りい!」


美琴「ご、ごめんなさい!」


美琴はやや申し訳なさそうに上条から少し離れた。


上条「…それで、さっきお前は俺のことを『やっと見つけた』とか言っていたよな?何か用でもあるのか?」


青ピ「!!そうや!それや、それ!!昼先に会った時、カミやんは例のアプリとほとんど関係あらへんとか抜かしておったやん?」


上条「!」


青ピ「けど、さっきのライブ中継で、やっぱりイマジンブレイカー=カミやんが確定したやんけ!!」


上条「……………………………あ」


青ピ「だからさっき、つっちーから、カミやんが寮から外出したという情報を聞いて、カミやんに天罰を与えるためにずっと探しておったんよ。そしたらこのザマや!!ホンマにやってられへんわ!!!」


上条「(な、なるほど。土御門が俺とトールの戦いをライブ中継した本当の目的は、『青髮ピアス』という非常に厄介な爆弾を送り返すためか!!だけど普通、そこまでするか!?)…だ、だけど、仮に俺がイマジンブレイカーであったとしても、そこまでお前達に大きな影響を与える訳じゃねえだろ!?」


青ピ「…ボク達はカミやんが本当に世界を救ったヒーローなのかどうかは知らんよ。しかし、そんなモンは今のボクらにはどうだってええんや…」


上条「!」


青ピ「問題なのは、カミやんが今やスーパーアイドル級の超モテモテ高校生になってしまってることなんやで!!!」


上条「…………………………………………………………は?」


美琴「ど、どうゆうコト!?」


金髪チャラ男君「…とぼけんじゃねえよ!」


上条「い、いや本当に知らねえし!」


メガネ君「だったら試しに駅前広場に行ってみるがいいさ!」


上条「…駅前広場?」


金髪ショート君「中学生も高校生もお嬢様もゲイも、みーんな上条のことばっかり話題にしてやがるんだよ!」


上条「ち、ちょっと待て!!何か不穏なワードが一つ紛れ込んでいたような気がするのですが…」


癖毛馬面君「とにかく今のお前はとんでもなく注目を集める存在になってやがるんだ!!」


上条「…ま、マジかよ。にわかには信じられねえんだけど…?」


青ピ「なら自分の目で確認すればええやん。だけどそれは、カミやんがこのままボク達の手から逃れられたらの話や!!」


上条「な!?」


青ピ「モテ男に死を!!賛同の者は挙手を!!」


一同「うォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


鉄橋の上で、上条のクラスメイト達による地鳴りのような大音響が響いた。


上条「くっ!?逃げるぞ美琴!」


美琴「えっ!?ちょっ!?」


青ピ「!!カミやんが逃げるつもりや!絶対に逃がすな野郎共!!!」


一同「おおォォォおおおおおおお!!」


上条「!!いいから、早く手を出せ!!」


美琴「う、うん!!」


上条は美琴の左手を掴むと、そのまま美琴の寮の方へと全力で駆け出した。


青ピ「待てやゴラァ!!!リア充は死にさらせ!!!」


上条「うるせえ!!こっちはもう死ぬのはごめんなんだよ!!!」


美琴「(??今の発言だと、一度死を経験したって言ってるみたいよね?どういうことのかしら?)」


上条「…美琴、すまねえな。お前も巻き込んじまって」


美琴「!!だ、大丈夫よ。これはこれで楽しいし!」


上条「…ありがとな」


美琴「…うん!」


上条と美琴はひたすら全力で走った。幸い、二人とも走ることに関しては自信があったため、みるみる内に青髮ピアス達と距離を離すことができた。


美琴「…」


走っている最中に、美琴はあることに気づいた。上条は美琴の手を、美琴が少し痛いと思うくらいに力強く握りしめていた。だけど、そこには悪意とかは一切感じられなかった。

美琴にとって、それはまるで、上条が『俺はお前を絶対に離してやらねえ』と訴えているようにも感じ取れた。故に美琴は、自分は上条の魔の手からは決して逃れられないのではないか…という錯覚がしていた。だから、



美琴「…敵わないな…」



上条「…え?何か言ったか?」



美琴「…ううん。何でもない」



上条「…そっか」



結局のところ上条が美琴に対してどんな希望を出しているのかというと、


「俺は自分のやりたいようにやらせて貰う。だけどお前も手放すつもりはねえ。だから俺の側にいろ」


というものであった。冷静に考えてみたら、こいつって相当最低な男なのでは?と思わなくもなかった。しかしそれでも、少年の言うことをすんなりと聞いてしまう自分に、あまり嫌悪感を感じられなかった。美琴は、それほど少年に心酔していることを思いしらされていた。


美琴「(…まあ、私は一応、当麻の唇を無理矢理奪った立場なんだから、あまり人のこと『最低』って言えないわよね…。仮に当麻が私以外の女の子を選んだとしても、私は文句を言える立場ではないのは間違いないわね…。だけど…)」


その『最低な』少年は、それと同時に、美琴のことを世界で一番気遣ってくれる存在であった。いや、決して『愛してる』とは口にしてはいなくとも、『御坂美琴』と関わった人の中で、最も彼女のことを愛してくれている異性だった。美琴はそれを確信していた。だから彼女にとって、『最低』であると同時に、その少年は『最高の』男であった。それだけはこれから先どんなことがあろうと、絶対に揺るがない自信があった。


美琴「(一応今は、当麻のやりたいようにはやらせてあげるけど、もし仮に私のことを愛さなくなることがあれば、もう2度と私以外の人間を愛せなくなるようにしてやるんだから!!)」


きっと上条はこれからもずっと、世界の命運をかけた戦いに自ら突っ込んでいくような、世界の『ヒーロー』であり続けるのだろう。だけどそれと同時に、美琴が『今は自分の側にいて欲しい』と願えば、その望みを全力で叶えようとする『御坂美琴だけの』ヒーローとして、彼女に目一杯の愛情を降り注いでくれるに違いない。そしてその愛情は、彼女が望む限り、きっといつまでも、いつまでも、彼女にとびっきりの幸せをもたらしてくれるのだろう。何故ならば、きっと今の上条には何と無くだけど、『御坂美琴』の幸せのためには『上条当麻』が必要不可欠であることを感じ取れているのだから。美琴はそう確信していた。



そんなことを考えているうちに、二人は駅前広場の近くまでやって来た。


上条「…ハァ…ハァ。こ、ここまでやって来れば、流石のあいつらも諦めたんじゃないかな…」


美琴「…そうだといいけど…」


上条「…ちょっとあそこのベンチに座ろうぜ。疲れちまった」


美琴「うん!」


上条「…ふう。とりあえず何か飲むか?良かったら買ってくるけど?」


美琴「いや、私が買いに行ってあげる!」


上条「いや、俺が…って言いたいところだけど、このままだときりがなくなっちまうから、二人で買いに行こうぜ!」


美琴「あはは。そうしよ!」


そういうと美琴は上条の右腕に勢い良く抱きついた。まるでここが自分の定位置だと言わんばかりに。


美琴「えへへ。やっぱこうした方が、温かいなあ!」


上条「そうだな。何だか俺も落ち着くかも」


美琴「あれえ?あの百戦錬磨の上条当麻が、遂に美琴センセーの手によって陥落しちゃったのかな〜?」


上条「…何だよ、百戦錬磨て」


美琴「やっぱり当麻てば極度の鈍感だってことよ。まあ今となってはそんなことどうでもいいけど!」


上条「??」


美琴「ほら、自販機に着いたわよ!」


美琴は終始笑顔を絶やさなかった。上条はいざ思い返してみたら、ここまで長時間笑顔でい続ける美琴というのは、記憶になかった。だから上条は、美琴に今まで相当我慢させてしまっていたことを知ると同時に、今は美琴を幸せにすることができていることを悟った。それだけで何だか救われた気分になれた。


上条「…ありがとな、美琴」


美琴「え?何か言った?」


上条「…ばーか、何でもねえよ」


上条は指で軽く美琴のおでこを叩いた。


美琴「痛っ!?ちょっと何すん……」


上条「?」


美琴「…」


美琴はそこでじっと上条の表情に見惚れてしまっていた。やや、照れ臭そうに笑う上条。しかしそれは、自分が『幸せ』だと感じていることを隠そうとしない、ありったけの笑顔だった。

美琴は上条のそんな笑顔を今までに一度も見たことがなかった。だから、そんな表情を他ならぬ自分に見せてくれたことが、堪らなく嬉しかった。


上条「…どうした、美琴?にやけちゃってるぞ?」


美琴「!!な、何でもないわよ、馬鹿!」


上条「??」


美琴「そ、それより飲み物を買おうよ!」


上条「おお、そうだな。で、お前は何にするんだ?」


美琴「当麻はどうするの?」


上条「質問を質問で返すなよ…。まあ、とりあえずココアにしようかな」


美琴「じゃあ私はヤシの実サイダーにしよっと!」


上条「いいのか、冷たいので?確かに結構走ってあったまった気がするけど、なんだかんだで結構寒いし…」


美琴「平気よ。当麻のココアを分けて貰うつもりだもん!」


上条「なるほどねえ。ならそうすっか!」


美琴「うん!」


しかし、二人が自販機で飲み物を買おうとした時、上条はある違和感に気づいた。


上条「(??な、なんだ、この感覚は?なんというか、非常に嫌な予感がする…)」


美琴「…当麻、どうしたの?」


上条「!!い、いや、何でも…」


上条が何かを言いかけた時、近くから大きな声が響いた。


女の子A「ね、ねえ!あの人イマジンブレイカーに似てない!?」


女の子B「いや、間違いなく本物よ!!」


女の子C「キャー!!カッコイイ!!」


上条「…は?」


上条は声のした方に目を向けた。そこには、上条をじっと見つめる沢山の人々の姿があった。


女の子D「ヤバッ!私の方見ちゃってる!?」


女の子E「いや、あたしの方を見てんのよ!」


男の子A「や、やべえ。顔の傷跡とかマジカッケー!」


男の子B「スゲえ、本物だよ!弟子にして貰いてえ!」


女性A「生で見ると、少し女の子っぽい感じの顔をしてるのね。かわいいわ〜」


女性B「隣にいるのは彼女さんかしら?」


女の子F「か、彼女!?ウソでしょ!?」


女の子G「いや、あんな中学生が彼女な訳ないじゃん!まだ色々と発展途上だし!」


美琴「ぐっ!?言いたい放題言ってくれるじゃないの!」バチバチ


上条「うわ、待て美琴!!一応彼らは一般人なんだぞ!?」パキーン


その時上条は、美琴の額から発生した青白い火花を右手で打ち消していた。


男の子C「!?す、すげえええ!!!触れただけで能力を打ち消した!!」


男の子D「やべえ、クソカッケーっす!!サインがチョー欲しいっす!」


お嬢様A「そ、それですわ!あの殿方に是非サインをいただきましょう!」


お嬢様B「ならわたくしは是非、握手を///」


直後、上条を見つめていた人々が一斉に上条達の元へと押し寄せようとした。


上条「!!まずい、ここから離れよう!」


美琴「そ、そうね!!」


そして、上条達はダッシュでその場から離れた。暫く走り続けたあと、路地裏へと身を隠した。


上条「…ハァ…ハァ…ハァ。な、何なんだよ、あいつら!?」


美琴「…ど、どうやら本当に当麻はスターになっちゃってるようね…」


上条「ま、マジかよ…」


美琴「私自身もなんだかんだで結構目立つ存在だと思うけど、今回の当麻はその比じゃないわよ?」


上条「そ、そんな…」


美琴「それだけ当麻のステータスが凄いってことよ」


上条「…そう…なのか?」


美琴「そらそうよ!この学園都市第三位の私が認めるんだもの。自信を持っていいと思うわ!」


上条「…そうか。まあ、今はともかく、飲み物飲みそびれちまったのがな…。なんだかんだで、結構喉が渇いちまった」


美琴「確かに…」


上条「…どうにかして、飲み物を…ん?」


上条が振り返ろうとした時、いつの間にかすぐ近くに怪しい男が立っていた。


ゲイ「お待たせ。(睡眠薬入りの)アイスティーしかなかったけどいいかな?」


上条「へ?(誰だこいつ?記憶喪失前に会った知り合いか?)お、おう。俺に飲ませてくれるのか?」


ゲイ「ま、多少はね?」


上条「??良し、じゃあせっかくだから美琴が飲んでいいぞ」


ゲイ「ファッ!?」


上条「??どうしたんだよ、そんな、何かを顔にかけられたかの様に驚いて?…美琴に飲ませちゃダメなのか?」


ゲイ「当たり前だよなあ?お前に飲んで欲しかったから用意したの!俺のアイスティー飲んでください。オナシャス!」


上条「??じゃあ、頂こうかな…」


「ま、待ちなさい!!」


上条&美琴「!?」


ゲイ「ヌッ!」


突如上空から声が聞こえてきたので、上条達はそちらに目を向けた。そこには、


結標「…ふう。やっと見つけたわよ、上条君!」


上条&美琴「「うげっ…」」


結標淡希が『座標移動』の能力を使って現れた。


結標「とりあえず、そんないかにもホモっぽい人が出す飲み物よりも、私の『特製』ジュースを飲みなさい!」


上条「…ホモ…?い、言われてみれば確かに…」


ゲイ「…!!…アオン!!」


上条「な!?」


突如ゲイは無理矢理上条に襲いかかった。


ゲイ「暴れんなよ…暴れんな。俺はお前のことが好きだったんだよ!」


上条「ひっ!?か、上条さんにはそんな性癖はありませんことよ!?」


ゲイ「お前を芸術品にした…」


美琴「そこまでよ!」


ゲイが暴挙に出ようとした時、美琴が電撃でゲイを気絶させた。


ゲイ「…クゥーン」


上条「!!た、助かったぜ。サンキュー美琴」


上条は突然の出来事に震えていた。


美琴「う、うん。(本当にゲイの人にも人気が出ちゃったのね…)」


結標「まあ、こんなホモなんかどうだっていいわ。とにかく、喉が渇いているなら、私の飲み物をあげるから、ちゃっちゃと飲みなさい!」


上条「そ、そうか?ならせっかくだから…」


結標「(…ふふふ。さっき小萌の家では『裏切り者』に邪魔されちゃったけど、今度こそは!)」ニヤリ


美琴「!!だ、ダメよ、当麻!」


結標「!!ちょっと、何言っているのかしら、御坂さん!?」


美琴「どうせアンタのことだから、またジュースの中に『体が小さくなる薬』でも入ってるんじゃないの?」


結標「!!そ、そ、そんなこと、あ、ある訳ないじゃない!!」


美琴「…動揺し過ぎてバレバレよ…」


結標「!!こうなったら、『座標移動』で無理矢理…!」


美琴「…あっ!?あっちに物凄く可愛い男の子がいる!!!」


結標「え!?どこ、どこ!!?」


美琴「えい!」ビリビリ


結標「!!!!だ…騙し…た…わ…ね」


美琴「(まさかこんな手にあっさり引っかかるとはね…)当麻に変なものを飲ませようとした罰よ!」


結標「…覚え…て……な…さ…い」


そこで結標は気絶してしまった。


上条「…幾ら何でもやり過ぎなんじゃ…?」


美琴「こういう変態な『空間移動』系の能力者には、これくらいやってやらないとおちおちしていられないわよ?」


上条「さ、流石は、対空間移動系能力者のプロ。言うことに説得力があり過ぎる…」


美琴「あはは。まあね。とにかく、飲み物は諦めてこの場から早く離れた方がいいわ!」


上条「そ、そうだな!先をいそ…」


女の子H「!!み、見つけたわ!こっちにイマジンブレイカーがいるわ!!」


上条「!!ま、まずい!!とりあえず反対側の路地に出よう!」


美琴「え、ええ!」


上条達は路地へと飛び出した。しかし、


女の子I「!!こっちに来たわよ!」


上条&美琴「!!」


先回りしていたがごとく、路地先にいた上条のファン(?)達は上条達の元に一斉に押し寄せようとした。


女の子J「愛しのイマジンブレイカークン…ハァ…ハァ」


女の子K「…うふふ……早く…私の…手で……私…好み…の男…に……調教……して…あげ……たい」


女の子L「…あたし以外の女の子と一緒にいる『悪い子』は、このカッターでお仕置きしなきゃね…うふふふふふふふふふふ」


女の子M「…やっと見つけたよ、イマジンブレイカー君…。本名『上条当麻』。とある高校に通う高校一年生。歳は、まだ誕生日を迎えていないから15歳。身長は168センチ。神奈川県出身。無能力者。しかし、証言によると、能力を打ち消す能力を保有するとの噂。好みのタイプは寮の管理人。女の子の匂いフェチ。この前隠れてエッチな本を購入していたとの目撃情報あり。実はこの前久々に夢せ…」


カマホモ「いやーん♡最高にカワイイ♡キスだけじゃなくて、顔全体をペロペロしたいわあ♡」


ゲイ2「ありゃあ、中肉中背だけど、服を脱げば逞しい身体が露わになるに違いない。や、ヤバい、涎が…」


女の子U「ふふ。絶対に上条さんは、私が用意した『男の子だけを好きになる薬』を飲んで貰いますからね!」


上条「!!やべえ、捕まったらマジでやばいことになりそうな気がするんですけど!?」


美琴「(…何処かで聞いたことがある声がしたような?)…で、どうすんの!?」


上条「とりあえずまだ、人の少ないこっち方面なら…」


青ピ「…ハァ…ハァ。…や、やっと追いついたで…カミやん…。さあ、今度こそ観念しいや!!」


上条「!!」


上条が視線を向けた方から、上条のクラスメイト達が現れた。


美琴「ね、ねえ。これって、もう殆ど逃げ場のない状況よね!?もう一層の事、私の能力で黙らせちゃおっか!?…まあ、相手は一応、何の罪もない女の子が多く含まれてるけど…」


上条「…」


美琴「…当麻?」


上条「……ふ…」


美琴「?」


上条「ファーーーーーーーーック!!」


美琴「!!」


上条は完全にヤケクソモードに入ってしまった。


上条「クソ!!ついさっきまで、何だかいつもと違って少し幸せな気分になれてたのに、完璧にぶち壊されたぜ、こんちくしょう!!」


美琴「(!!…幸せ…?)」


上条「なあ、美琴、悪いがここから先はお前一人で帰れ。ここからならそんな距離も無いはずだ。これ以上こんなくだらねえことに、お前を巻き込む訳にはいかねえ!」


美琴「!!で、でも…」


上条「心配するな。俺は誰かから逃げるのには慣れてる!」


美琴「…」


上条「…美琴?」


美琴「(…まだ、離れたくないよ…。もう少し一緒にいたいのに…)」


上条「!!もうこれ以上は待ってられねえ!悪りいが行かさせて貰うぜ!」


美琴「…え?…あ…ちょっと待っ」


上条は美琴の制止を振り切って、たった一人でクラスメイトの方へと飛び出していった。


青ピ「…ほう。真っ先にボクらの方を選択するとは良い度胸やないかい!!!」


上条「うるせえ!テメェらこそ俺を怒らせたことを後悔しやがれ!!!」


美琴は上条に無理矢理ついていくかどうかを迷ったものの、結局決心がつかずにその場に立ち尽くしていた。


美琴「(…結局クラスメイトの人達とケンカしちゃうんじゃない。ずっと今まで逃げてきたのにさ…。

…本当は一番最初、あの人達から逃げる時に私を一人で帰らせて、自分一人であの人達を引きつけることだってできたのにね。

…結局口にしなくても、もっと私と一緒にいたかったって言ってるもんじゃないの。…あの馬鹿…)」


美琴はそこで、笑っているのか怒っているのか良く分からない顔をしていた。そして、上条が自分のところから去る直前のことを思い出していた。実は、上条はすれ違いざまに、美琴にとあることを囁いていたのだった。




『また明日会おうな!』




美琴「…馬鹿」


そして、上条が走り出した方へ目を向けると、上条はクラスメイト達から無理矢理逃げ道をこじ開け、なんとかその場から逃げ出すことに成功していた。上条のファン達は美琴には目もくれずに、ひたすら上条を追って行った。いつの間にか美琴は、ただ一人っきりになって、その場に立ち尽くしていた。


美琴「(本当は門限なんかとっくに過ぎてて、今更帰るのが多少遅くなっても大して影響がでる訳じゃないのに…。

ただ当麻と一緒にいたかっただけだから、私もつれてってくれても構わなかったのになあ…)」


美琴は上条と離れてしまったことで、やはり少し寂しい気持ちになっていた。しかし、いつもとは違って決して不安な気持ちにはなっていなかった。


美琴「…『また明日会おうな』…か」


美琴は頭の中で、先ほど少年が残した言葉を反芻していた。実は今まで二人は、特別な用事が無い限り、次にいつ会うか?という細かな約束をしたことがなかった。だから今まで美琴は、「次に会えるのはいつになるのだろう?」という不安に駆られることが多かったのである。しかし、今回からは違う。


美琴「…これからは毎日当麻に会えるんだ…」


先ほどの少年の台詞は、美琴にとってそう思わせるのに十分な力が宿っていた。何故なら、毎回会って別れる際に、少年がそう言ってくれる予感があったからだ。


美琴「…しかも今の私には例のアプリもあるから、実質一日の大半を当麻といられるようになるのよね…」


美琴、ふと一人でこれからのことを考えていた。すると、どういう訳か、心の底から希望が湧いてくるようだった。また、今日一日で美琴の人生は大きく変わった気がしていた。美琴はその時、今までの人生の中で一番、『生きる』ことが楽しく思えていた。


美琴「ふふ。結局、私ったら当麻ありきの人生を歩んじゃってるのね。まあ、向こうもどうやら一応そのつもりでいてくれてるみたいではあるけど…」


やがて、考え事に満足した美琴は、再び寮の方向へと足を動かした。その途中で、とある店の前に、1mくらいの鏡が置いてあるのに気がついた。美琴は何気無く今の自分の姿を見てみようと、鏡の前に立ってみた。


美琴「…顔が凄く汚れちゃってるわ。涙の跡なんか、私と彼のどちらのものなのか良く分かんないし…。あと所々に、血がこびりついちゃってる…。これは勿論、私のじゃなくて当麻のもの…」


しかし、美琴は何故か自分の顔の汚れをハンカチで拭き取る気にはならなかった。それはまるで、その汚れに特別な意味を見出しているかのようだった。


美琴「…あと顔で気になるのは、やはり唇かしら。…あはは、何だか口紅を塗ったみたいに赤くなってる部分があるわ」


美琴は両手を使って、お上品に口元を隠しつつ、赤くなってる部分を舌で舐めてみた。


美琴「…うう。やっぱり苦い。…でもこれが、私にとって何よりも大切な彼とのファーストキスの味なのよね…」


美琴は初めて彼と口づけを交わした時のことを思い出していた。


美琴「こんなファーストキスなんて、絶対一生忘れられないじゃない!!鉄の味がした初めてのキスなんて、他に聞いたことがないわよ、まったく!!」


美琴は文句を言いつつも、口元が緩んでいるのを、鏡越しに確認することができた。


美琴「とにかく、もう鉄の味がするキスなんてごめんだわ!!次にキスした時に鉄の味がしたら承知しないんだからね!!」


そう言って美琴が鏡から離れようとした時、一つ気がついた。


美琴「…あちゃー。コートにベッタリ血がついてる部分があるわ…。考えてみたら、当麻は血が滲む位に右手を握り締めていたんだっけ。その手で抱き締められたんだから、当然と言えば当然か。まあともかく、これを着て帰る訳にはいかないわね…」


美琴はその場でコートを脱いだ。そして良く良く見ると、至る部分が上条の血によって赤く染まっていた。だけど、美琴はそれどころではなかった。


美琴「…さ、寒い。やっぱり、この時期の夜にはコート無しだと結構寒いわね…」


美琴は想像以上に凍えたので、何と無くコートを抱き締めてみることにした。すると、


美琴「…ふふ。何だかこれだと、当麻を抱き締めているみたい。ほんのわずかだけど、当麻の匂いも残ってる。いいわね、これ♪」


下手すると、ブレザーに汚れが移ってしまう恐れがあるにも関わらず、美琴は思いっきり強くコートを抱き締めていた。それだけで冷え切った身体が温まってくるような気がした。


美琴「…どんな時でも、『当麻』、『当麻』か…。あの馬鹿ったら、本当に私の心のど真ん中にどっかりと居座っちゃっていやがるわ。でも、当麻のことを考えただけで、どんな時でも救われた気持ちになっちゃう私も相当重症よね…」


美琴はコートを抱き締めていたまま、コートにこびりついた上条の血を見つめていた。しかし美琴は、決して「汚された!」と文句を言う気にはなれなかった。


美琴「…すっかり当麻色に染められちゃった…か…。ふふ。何馬鹿なこと言ってんだろ、私」


その全てが美琴には心地よかった。今の美琴には、冬風が自分の熱くなった身体を冷ましてくれる、と思えるくらいには余裕があった。


そして、上条が去って行った方向をじっと見つめて、




美琴「…私はね…当麻のことが…」





ありったけの笑みを浮かべながら…





美琴「だぁいすき!!」




そう言って笑顔のまま寮に向かって勢い良く走り出して行った。




「また明日会おうね!」



ただ一言その場に残しておきながら…。




そしてその頃、上条はひたすら走り続けた後、人目のつかない路地裏へと駆け込んだ。


上条「…ハァ…ハァ…ハァ…ハァハァ。もう、走りたくない…。本当に疲れちまった…。少しだけ休もうかな…」


上条はふと近くにあった階段に腰掛けた。すると、改めて途轍もない疲労感に襲われた気がした。


上条「あはは。何だかおっさんみたいになった気分だな…。…それにしてもあいつら、こっちは怪我してるってのに容赦無く襲いかかって来やがった。おかげさまで、体中に痛みが走ってやがる。そんなに俺と美琴が一緒にいたのが気に食わなかったのかね…」


上条はヤケクソ気味に笑顔を作った。直後、何者かが上条に近づいているような足音が聞こえた。


上条「…」


上条は無意識のうちに右手を握り締めていた。いつでも戦闘に入れる態勢だった。そして、足音の音がかなり大きく聞こえるようになった後、陰から何者かが現れた。しかし、それは上条にとって見慣れたシルエットだった。


上条「(…美琴?…いや違う、あの暗視ゴーグルは!)…御坂…妹か…?」


「あったりーっ!!/return。上条ちゃんに御坂妹と呼ばれてる、お馴染みの個体、10032号だよー☆/return。でも/backspace、厳密には違うけどアンタならどういう『意味』か分かるわよね?/escape」


上条「!!…妹達の『総体』…だったか…?」


総体「そのとおーり/return。『こんばんは』と言いたいけど、ここはあえて『お久しぶり』って言わさせて貰おうかな/return」


上条「…ははは、『久しぶり』かあ。確かにそうだな!」


上条と『総体』はそこで思わず笑みがこぼれていた。過去に相対した時は、上条にとって絶望に彩られた世界でのことだった。しかし、今は違う。こうやって二人が冗談を交わしながら会話できることが、何だか二人にとって非常に嬉しいことであった。


総体「それにしても、アンタってば本当に面白い存在だよねえ/return。以前は『誰にも相手にされない世界』にいたくせに、今は『誰もの憧れの存在になってる世界』にいるんだもんねえ/return。笑過ぎてこの子のお腹を壊しちゃいそう/return」


上条「…いや、それは流石にまずいんじゃあ?…ていうか笑い事じゃねえんだけど!?あいつらに捕まったら、絶対ロクでもねえことになるに決まってる!」


総体「まあ、いいじゃん/return。誰にも相手にされないのよりかは、遥かにマシじゃない?/escape」


上条「…うう。他人事だと思ってえ…」


総体「あっはっはっははっはっはっはっ!! /return」


『総体』はやはり、そこで腹を抱えて笑っていた。上条とこうやって、くだらない話をするのが楽しくて仕方なかったからだ。そして上条も、多少元気が無いように見えるものの、絶望に打ちひしがれているようには決して見えなかった。


総体「ああー/return。たっぷり笑わせて貰ったよ/return。流石、上条ちゃんだね/return。世界中の妹達がアンタとの会話を強く望むだけはあるよ/return」


上条「??」


総体「やっぱり、アンタはみんなにとって特別な存在だってことよ/return」


上条「…」


総体「ねえ?/escape 急で申し訳ないんだけど、一つ質問しちゃってもいいかな?/escape」


上条「何だ?」


総体「余計な言葉はいらない/return。ただ率直な感想を聞かせて欲しい/return」


上条「??」


総体「あの絶望の世界から帰って来て、こうやってみんなとバカ騒ぎして、メッチャクチャに疲れてボロボロになって、アンタは『この世界に帰ってこれて良かった』と思った?/escape それとも『こんな世界には帰ってこなきゃ良かった』って思った?/escape」


上条「…そりゃあ・・・・・・・・・・・・・・・・だろ」


総体「…良い答えだね/return」


上条「だろ?」


『総体』はそこで軽く夜空を見上げた後、両目をつぶった。まだ舞っている雪が顔に触れるのが何と無く心地良かった。


総体「今日はアンタに会えて本当に良かったよ/return。本当は『チケット』を大盤振る舞いし過ぎたせいで、暫く会えないはずだったんだけど、何故か『チケット』が使えたから、会いに来ちゃった☆/return」


上条「??」


総体「でも/backspace、とりあえず元気そうで何よりだよ/return。私は一安心できたからそろそろ帰らせて貰うけど、一つだけ最後に言わせて頂戴/return」


上条「…」


『総体』は上条の目を真っ直ぐ見つめて笑顔で一言告げた。


総体「『元の世界』におかえりなさい、上条ちゃん/return」


上条「…ああ、ただいま!!」


直後路地の方から、上条を追っている者達のものと思われる声がした。


上条「!!こうしちゃいられねえ!悪いけど、俺もう行くな!」


総体「うん/return。それじゃ、『またね』、上条ちゃん/return」


上条「ああ!『またな』!!」


そう言うと上条は再び走り去っていった。『総体』はその姿を笑顔で送り出していた。そのやりとりが『総体』にとって大きな価値があるように思えた。

そして、完全に上条の姿が見えなくなった後、『総体』もその場を離れようとした。


総体「さて、私もタイムリミットまでにこの子を病院に帰してやらないとね/return」




そして、『総体』と別れた上条は、物陰を利用しつつ、何とか追っ手から逃れ続けることができた。


上条「…と、とりあえず、人がいねえ場所に行きてえ。どこか良いところはねえかな?」


上条の疲労はピークを迎えかけていた。だから、どうしてもゆっくり休む時間が欲しかった。


上条「…そうだ、あそこならきっと…!!」



(午後10時、第二一学区とある人造湖付近)


『なあ、操祈?』


食蜂「なぁに?当麻?」


『そろそろお前が、さっきから行こうとしている場所を教えてくれてもいいんじゃねえか?』


食蜂「ふふ☆もう少しで着くわよぉ」


『…そっか。あと、お前はさっきから色々なところを廻ってるけど、何の意味があるんだ?どの場所も特に何かがある訳でもないし…』


食蜂「当麻との思い出の場所巡りなんだゾ☆」


『俺との思い出??』


食蜂「そうよぉ」


食蜂は夕食を済ませた後に、上条当麻との思い出がつまった場所巡りをアプリの『上条当麻』と共に行っていた。途中で、自分の派閥の女の子達がトラブルに巻き込まれたことを知り、一旦派閥の女の子達と合流した。そして、彼女らに事情を説明した後に、再び思い出巡りを再開していたのである。


食蜂「(まあ流石に、あの子達が第一位やイケメン君とかと仲良くなってたっていうのは驚きだったけどぉ…)」


暫く歩くと、食蜂は思い出巡りの最終地点に近づいていた。


食蜂「ふふ☆もう少しで目的地に辿り着くわぁ」


『第二一学区の人造湖?』


食蜂「そうだゾ☆」


『ふーん。なあ、ここの場所に纏わる「都市伝説」を知ってるか?』


食蜂「…都市伝説?」


『そう。なんでも、12月の雪降る夜に男女がここで出会うと、その二人は結ばれる…っていう噂だぜ?』


食蜂「…あはははは」


『な、なんだよ?』


食蜂「いやぁ、ごめんねぇ。GPS互換機能の恩恵だと思うけどぉ、当麻がそんなこと言うとなんだか違和感が半端ないわぁ」


『よ、余計なお世話だよ!』


食蜂「ふふふ。でも、ありがとう☆ こうやって当麻と一緒に人造湖いられるってことは、きっと私とあなたは結ばれるってことよねぇ?」


『ば、馬鹿!変なこと言うんじゃねえよ!!!』


食蜂「自分から言い出したのに照れちゃうなんてねぇ。やっぱり当麻はカワイイわぁ☆」


『…うう』


食蜂「…でも、私達が『本当の意味』で結ばれたらいいわねぇ」


『…操祈?』


食蜂「…ううん。気にしないでぇ。こっちの話なんだからぁ」


『…そっか』


食蜂「ほら、喋ってるうちに着いちゃったんだゾ☆」


『本当だ。漸く、ゴールという訳か!』


食蜂「そうよぉ。ここがゴー……」


『…操祈?どうしたんだよ、操祈?』


食蜂「……あれは………?」






(同時刻、???)


上条は地面の上で大の字になって寝転がっていた。もう掛け値なしにボロボロだった。顔の傷は冷たい夜風や雪のせいでやたら沁みるし、足は酷い筋肉痛で動かす気にもならなかった。右腕も、なんだかんだで雷神トールの溶断ブレードを何度も弾いたために、その反動ダメージを蓄積し過ぎて万全の状態とは言えなかった。だから大の字になってなるのが一番楽だったのである。


上条「…ふう。やっぱりここは人がいなくてゆっくりできそうだ…」


今日一日を思い返してみると、補習が終わってからは、ひたすら様々な知り合いと一緒にワイワイ過ごしていたような気がしていた。


上条「…こんなバカ騒ぎしたのがすっげえ久しぶりに感じる。実際、『何年』ぶりなんだろう?『百年』か、『千年』か、『万年』か、それとも『億年』か?ハハハ、もう憶えてもいねえや!」


上条はそこで自身の辿って来た道のりを思い返してみた。冷静になって考えてみると、あまりにも人智からかけ離れてる人生を送っているような気がした。


上条「…何年生きて、何回死んだんだっけかな…。その死っていうのも、本当に死んだんだか良く分からんし…。まあ、最後の『弩』の時は確実に死んだみたいだけど…」


上条は思わず笑っていた。あまりにも壮絶過ぎる人生を送っているな、と他人事のように思えてきたためである。そして、客観的に自分の人生を思い返すと、どうしても一つ思うことがある。


上条「…全く割に合わない人生だな」


結局莫大な年数の人生を送っているものの、その大半を『拷問』、『神との絶対に勝てない戦い』、『死亡』に費やしていた。それでいて、手に入れたものはほんの些細なモノだった。しかも、それは現時点のものであり、これからもっと、『割に合わない』人生を過ごす羽目になるかもしれない。


上条「…『不幸』…か…。言い得て妙って奴だな…ハハ」


しかし上条はそこで絶望に陥ることは決してなかった。寧ろ笑う余裕すらあった。


上条「…だけど、今の俺には仲間が沢山いるからな。そいつらとバカ騒ぎできるだけで、十分『幸せ』じゃねえか!!」


上条はボロボロになりながらも、自分は今『幸せ』であると感じていた。それは、本当の意味での『不幸』な期間を永く過ごしていたため、相対的に今は幸せだと感じていたのである。


上条「…でも本当に疲れちまった。バカ騒ぎするのは楽しいけど、程々にしねえととんでもねえことになるな…。もう少しここで休んでから帰ろう…」


上条はいつの間にか目を瞑っていた。それだけで、このまま意識が奪われそうなほどの疲労が溜まっていた。しかし暫くすると、上条はそこで違和感に気づいた。


上条「(…何者かが近くにいる…?)」


上条は右拳に力を入れてから目を勢い良く開いた。



そこには、







『蜘蛛の巣の刺繍』が入った女性用の下着が見えた。






上条「…………………………………………………ふむ、ちょっと冷静になろうか」


そこで上条はもう一度目を閉じた。


上条「(…やべえ、いつの間にか寝ぼけちまってたのか?それともあまりにも酷い疲労のせいで幻覚でも見ちゃっているのか?)」


そして改めて上条は目を開けた。しかし、先ほど見えたような気がした下着は見つからなかった。


上条「…ふう。やはり上条さんの見間違いだったか。しかし、下着を幻覚で見てしまうとか、上条さんも余程溜まっているのかもしれんな…。いやでもこの前夢せ…」



「ちょっとぉ、もしかしてあなた、『また』私の下着を見ちゃった訳ぇ?」


上条「ぎゃあぁぁぁああああああああ!!??」


上条はその声に驚いて、思いっきり勢い良く上半身を起こした。すると、すぐ横に『見知らぬ』少女が立っているのに気がついた。


「そ、そんなに驚かなくても良いでしょぉ!?」


上条「!?わ、悪りい!」


「まぁ、別にあなたに下着を見られたくらいなら何ともないけどぉ。だって、別に今回が『初めて』じゃないしぃ」


上条「へ?…そもそも誰だよお前?俺とお前ってどこかで会ったことがあったっけ?」


「…その辺の説明はもう面倒くさいから省略させて貰うわぁ」


上条「??」


「…ねぇ、私もあなたの横に座らせて貰っても宜しいかしらぁ?」


上条「…え?別に構わねえけど」


「ふふ。ありがとう☆」


そう言うと、その『見知らぬ』少女は上条の直ぐ近くへと、お上品に腰を落とした。


上条「(…こ、こいつ、近くに寄り過ぎじゃないか?まあ別にいいけど…。

…この制服ってことは、美琴と同じ常盤台中学のお嬢様ってことか…。それにしても…)…なあ…?」


「なぁに?」


上条「…お前…本当に中学生か?」


「…その質問も聞き飽きたわぁ。色んな人がしてくるんですものぉ。まあ、全て私の美貌力がなせる技といったところかしらねぇ」


上条「はあ…」


上条は疑問だらけだった。その金髪の少女は上条のことを知ってる素振りを見せていた。それだけは上条にも理解できた。


上条「(俺の記憶喪失前に出会った奴か?それとも俺の『ファン』とやらか?…っつーか、今回の件で、こういう奴のことを判断し辛くなっちまったじゃねえか!!

…あのニャーニャーサングラスめ、今度会ったらもうぜってえ容赦してやんねえからな!!!!)」


「??どうかしたのかしらぁ?」


上条「…へ?い、いや、何でもねえよ」


「…そう。なら良かったわぁ」


上条「お、おう。…ていうか、お前、近くに寄り過ぎじゃねえか?

…まさか結標さんや、あのホモ野郎共みてえに、隙あらば俺に変な薬でも飲ませるつもりじゃねえだろうな?」


「し、しないわよぉ、そんなことぉ!!」


上条「…そうか。ならいいけどさ…………あれ…?」


「??どうかしたの?」


上条「…いや、アンタの髪から流れてる匂いは、今日どこかで嗅いだことがあるような気がするんだよ…」


「…そうねぇ。もしかしたら、私とあなたは今日すれ違っていたかもしれないわよぉ?」


上条「…うーん…。やっぱり思い出せねえや。多分俺の勘違いだな!」


「……そう…」


上条「?」


上条はそこで、少女が残念そうな顔をしているのに気がついた。いや寧ろ辛そうな顔をしているように見えた。


上条「…なあお前、何だか辛そうだけど、大丈夫か?良かったら相談に乗るぞ?」


「あはは。大丈夫よぉ。それに今のあなたじゃ、私の相談役になってくれることは無理だと思うわぁ」


上条「??」


「…代わりに、一つ質問してもいいかしらぁ?」


上条「何だ?」


「あなたは『さっき』よりもボロボロになってるけど、何かあったの?」


上条「…さっき…?」


「あらぁ?あなたの戦う姿が、さっきライブ中継されてたのを知らなかったのかしらぁ?」


上条「!!あ、アンタもそれを見ていたのか!?」


「えぇ。ついでに録画もさせて貰ったわぁ☆」


上条「…ま、マジかよ…」


「マジよぉ。で、質問には答えてくれないのぉ?」


上条「え?…ああ。そのあと知り合いの女の子やクラスメイトとケンカしたり、『ファン』から追われてボロボロになっちまったんだよ」


「…『ファン』?」


上条「うん?お前は知らないのか?」


「…まさか、例のアプリやライブ中継のせいで、あなたに『ファン』ができちゃった☆って感じな訳ぇ!?」


上条「そう。できちゃった☆って感じ」


「そ、そうなの」


上条「…モテるってのはあまり羨ましくないってことがよーく分かったよ…ウフフ…」


「…よっぽど嫌な思いをしたみたいねぇ…」


上条「そりゃあもう、これからのことを考えるとゾッとするくらいには…」


「あはは。そりゃあ、大変ねぇ」


上条「…ちくしょう。どいつもこいつも他人事だと思って適当に流しやがる…」


「まあでも、『ファン』ができたってことはあなたの実績が認められたってことじゃない。それについては誇るべきだと思うわぁ」


上条「…そんなもんかね」


「そんなもんよぉ」


上条「…そっか。…とりあえず、ありがとな!おかげさまで、気が少し楽になったよ」


「ふふ、どういたしまして☆ それなら、もう一つ質問してもいいかしらぁ?」


上条「…なんでせうか?」


「…どうしてあなたは今ここにいるのぉ?」


上条「…なんとなく一人になりたかったから。そして、ここでなら一人になれると思ったからだよ」


「…どうして一人になりたかったのぉ?」


上条「…質問の多い奴だな。まあいいけど。…さっきまで、ずっと色んな奴とバカ騒ぎしてたから疲れちゃったんだよ。だから、一人になって少し落ち着きたかったんだ」


「…そうなんだ。…ねぇ、その中には御坂さんも入っているのぉ?」


上条「え?あ、お前も常盤台だから知っていても当然か。まあ、一応入っていたよ」


「…ふうん」


上条「(??何だ、少し口元がキツくなったぞ?気に入らないことでもあったのか?)」


「…ねぇ…御坂さんとはどこまで進んでいるのぉ?」


上条「ぶほぉっ!?」


「??何よぉ、その反応!?…まさか、結構いい感じに進んじゃっているのぉ…?」


上条「(!!声が震えている?どう言うことだ?)」


「質問に答えられないのぉ?」


上条「…結構、進んでる…かも…って言ったら?」


「!!…そうねぇ、『自殺』しちゃうかも☆」


上条「ええ!?な、何でだよ!?」


「…冗談よぉ。…多分…」


上条「…多分…?」


「…あなたは一人になりたかったからここに来たのよねぇ?じゃあ、何故ここを選択したのぉ?」


上条「…ええっと、つい最近ここに一度来たことがあるんだよ。そん時に、何故かは良く分からねえけど、ここが偉い気に入ったんだよ。それにやっぱりここなら、人が来る気配は殆どねえしな」


「…そぉ、気に入ったからここに来てくれたのねぇ。何だか嬉しいわぁ☆」


上条「へ?何でお前が嬉しがるんだよ?」


「…別にどうだっていいでしょぉ?」


上条「まあ、そりゃそうだけど…」


「…ねぇ、最後に一つだけ質問してもいいかしらぁ?」


上条「?」


その時少女は完全に俯いてしまっていた。それはまるで何かを諦めようとしているようにも見えた。


「…この場所の『都市伝説』って知ってる?」


上条「『都市伝説』?」


「そうよぉ」


上条「…」


その時少女は俯きながら震えていた。それは寒さによるものではないと、上条は推測していた。


上条「(…返答が来るのを恐れている…?何故質問したのに、返答が来るのを恐る必要があるんだ?)」


「…やっぱり知らないわよねぇ、そんなモノ。…あはは、私ったら何言ってんのかしらねぇ…それじゃぁ、私はかえ…」


上条「…12月の雪が降ってる夜にここで出会った男女は結ばれる、だっけか…?」


「!!!な、何で、あなたがそれを知っているのぉ!?」


上条「この前俺の先輩に教えて貰ったんだよ。ここが気に入ったって言ったら教えてくれたんだ」


「…そうなんだ」


少女は少し笑みを浮かべた。どうやら何らかの希望を見出しているようにも見えた。だけどまだ少し辛そうだった。だから、上条はとにかく少女を元気付けようとして次の行動に出た。


上条「…あっ、そうだ。今回雪が降ってる中、俺とお前がここで出会ったよな?」


「!!えぇ、そうだけどぉ?」


上条「だからと言って都市伝説の奴が成り立つ筈がねえから安心しろよ」


「!!…どうしてぇ?」


上条「まあ、言われただけじゃあ理解できねえと思うが、俺の右手にはありとあらゆる幻想を破壊する力が宿ってる。そいつは神様の『奇跡』だって打ち消しちまうんだ!だから都市伝説なんかもきっと打ち消しちまうはずさ」


「!!か、神様の『奇跡』…も…?」


上条「…まあな。もっとも、常盤台のお嬢様がそんなモン信じてるとは思わねえけど…」


「…そう」


上条「!!」


上条はその時確かに、隣にいる少女が何らかの絶望を感じていることを悟っていた。上条の選択した行動は明確な失敗だった。故に、上条は何としてでも少女を自分自身の手で救いたいと感じていた。


上条「…お前。やっぱり俺に何か隠しているな?」


「!」


上条「なあ、決して無理にとは言わねえけど、俺に話してくれねえか?」


「…」


上条「…これ以上お前の、何かに絶望している表情なんかもう見たくねえんだよ。だから俺にお前を救わせてくれ!頼む!!」


「!」


上条「…ダメか…?」


「……はぁぁ。やっぱりあなたは『ずるい』わねぇ」


上条「…ずるい?」


「…どうしても最後の最後で諦めたくなくなっちゃうのよぉ」


上条「??」


「…ねぇ、これをちょっと見てくれるかしらぁ?」


上条「何だ…スマホか?……!!………こ、こいつは…!!?」


「そう。アプリの特殊モードなんだゾ☆」


上条「…何故お前が幻想殺しのことを?……まさか…?」


「その通りよぉ。私はあなたの記憶喪失前に出会った、『かつて上条当麻の手によって救われた女の子の一人』なのよぉ。まあ、厳密に言うと少し違うけどぉ…」


上条「(!!こ、こいつ、俺の記憶喪失のことまで知ってやがる!!)…」


「…あなたは私と急に会えなくなっちゃったから、私はずっと寂しかったのよぉ?」


上条「!」


「…勿論、本当はあなたと二人きりでいたいけどぉ、あなたと一緒なら、他の色んな人と一緒に騒ぐのも悪くないと思ってたわぁ。まあ、実際はどちらも現状不可能なことだけどぉ…」


上条「…」


「ふふ☆驚いちゃったかしらぁ?…ごめんねぇ。私は他人の心を弄ぶのに特化してるから、ついついこういうことをしちゃうのよぉ…」


上条「…いや、別に構わねえ」


「そう?なら良いけどぉ…」


上条「…なあ、俺がお前に何かしてやれることはないか?どうしてもこのままじゃいられねえんだよ!」


「…あるっちゃぁ、あるけどぉ…多分、後悔することになると思うわよぉ?」


上条「…構わねえ。お前を救えるなら何でもやってやる!」


「…例えば、誰かとキスしたことがあるなら相当辛い目に合うと思うわぁ。…それでも、やるのぉ?」


上条「!!…ああ、任せろ!」


「…ありがとう☆ なら、目を瞑ってこっちを見て頂けるかしらぁ?そして、私が良いって言うまで目を絶対に開けちゃ駄目よぉ?」


上条「…分かった。…こうか…?」


上条は少女に言われた通りにした。


「じゃぁ、行くわよぉ?」


上条「??いいぞ」


直後上条の両頬に少女の両手が優しく触れられた。

そして、その両手で上条の顔を支えるようにして…








少女の唇が上条の唇に重ねられた。





上条「!!」


「…」


その行為は数分にも及んだ。途中で少女が息継ぎをするために唇を離したものの、それでも何度も口づけをした。上条はされるがままだった。


「…ふう。満足したわぁ。もう目を開けてくれて結構よぉ…」


上条「…」


「やはり不満があるみたいねぇ。だから、最初に忠告したのにぃ」


上条「…まあ、不満と言えば不満かもな…」


「まったく、こんな超絶美少女とキスできたのに、素直に喜べないのは、きっとこの世であなた一人だけよぉ?」


上条「…」


「…その反応からすると、やはり記憶喪失後でも『初めて』ではなかった様ねぇ…。大方、やはり御坂さん辺りかしらぁ?」


上条「!!」


「…図星ってところかしらねぇ。まあ、あいつと私は何故だか知らないけどぉ、辿る道がそっくりになってるからねぇ。今回は私があいつの辿った道を辿る感じになっちゃって、少し腹が立つけどぉ」


上条「…」


「…でも、安心なさい」


上条「!!」


「確かに私にとって、これは正真正銘のファーストキスであるからぁ、一生忘れられないモノになるでしょうねぇ。しかも、やたら鉄の味がしたしぃ。こんなもの、忘れろって言われたって、普通は忘れられないと思うわぁ。まあ、私の能力を使えば簡単に忘れられるけどぉ☆」


上条「(…能力?)」


「勿論忘れる気はないけどねぇ。…今のところはぁ…」


上条「…」


「…だけど、あなたの場合は違う」


上条「!」


「結局今回のキスも、今日私と会ってから起きた他のことも全部、『晩ご飯』の献立みたいに直ぐに忘れてしまうものなのよぉ…。だから、気にする必要はないわぁ☆」


上条「…忘れてしまう…?…」


「そうよぉ。私はあなたに必ず忘れ去られてしまう存在なの」


上条「…そんな…」


「…残念だけど本当なのよぉ。だから、あなたが私を選ぶことは、今のままでは絶対にありえない。

…だけど、敢えてここで一つだけ『宣言』させて貰うわぁ!!」


上条「!」


そう言って少女は再び、上条の両頬を自分の両手で支えて、超至近距離で上条の目を真っ直ぐ見据えた。


「…私は…」


上条「…」


「例え神様の『奇跡』なんかに頼れなくなったとしても、ずっと、ずーっと、あなたのことを待っているんだからぁ!」


上条「!」


「…ううん。例え私があなたの『一番目』になれなかったとしても、あるいは『二番目』にも『三番目』にも、『十番目』」にもなれなかったとしても、それでも絶対に待つことを諦めてやらないんだからぁ!!!」


上条「…お前…」


上条は少女の目に涙が溜まっているのに気がついた。しかし、今の上条には何もしてやれなかった。何をすれば良いのか全く分からなかった。ただ歯を食いしばりながら黙って少女の発言を聞いていた。


「…だからぁ、あなたが今日の『晩ご飯』を思い出せるようになったらぁ、どんな理由でもいいから私のところに来てぇ。例えその時には、あなたの側に『一生を共にする女性』がいても良い。少しでもあなたと昔のお話ができたら、私もそれだけできっと満足できるからぁ!

…だからぁ、せめて私がヨボヨボのお婆ちゃんになるまでには来て欲しいのよぉ。それまでは絶対他の男なんか作らずにずっと待ってるからぁ…」


その少女の声は震えていた。しかし、その言葉に強い信念のような物が宿っていることを、上条は確かに感じ取ることができた。

だから、


上条「…ああ!待ってろ!!きっとお前のところに会いに行ってやる!!!」


上条も少女の目を真っ直ぐ見据えながら、力強く宣言した。


「…ありがとう☆」


少女は一言告げ、軽く上条の額に口づけをして、上条に背を向けた。


「…唇同士のキスは、私の願いが叶うまでお預けにさせて貰うわぁ。だから、私とキスがもう一度したかったら、直ぐに向かえに来てくれればいいんだゾ☆」


上条「…あぁ」


「…ふふ☆それじゃあ、私はもう帰るわねぇ」


少女は上条の元から離れようとした。


上条「ちょっと待て!!」


「!」


少女は振り返らずにその場で立ち止まった。


上条「…何て言うべきなのか、良く分かんねえけど、だけど、とりあえず…」


「…」


上条「…またな!!」


「!!…えぇ、また…」


そう言って、少女は今度こそ、元来た道へと引き返して行った。その場にはただひたすら、蜂蜜の香りが漂っていた。そして、その少女は帰り際に、少し弱気になってしまった自分を戒めるかのように、一言告げていた。




食蜂「…絶対に、絶対に諦めちゃだめよぉ、食蜂操祈!」



少女はひたすら祈っていた。今も昔もそしてこれからも、『絶対に』少年には届くことのない『奇跡』が起こることを…。





(食蜂と上条が人造湖で邂逅したのと同時刻、とあるファストフード店)



{おい、探偵マニア、詳しく説明しろ!!一体この『納骨村』で何が起こっているんだ!?}


{…ねえ、刑事さん。『油取り』っていう妖怪を覚えてる?}


{!!…油…取り…!?}


{…東北出身の新参者で、私と同じく『子殺し』に深く関わっている妖怪…。神出鬼没に攫い、殺す。その『誰にも目撃されずに殺す性質』を、瞬間移動やタイムトラベルと解釈されたために、人々のイメージによって過去や未来へ干渉する力を手に入れたモノ…。

…忌々しいクソ妖怪のことを思い出させないで頂戴}


{…だ、大丈夫か、グータラ座敷童?}


{平気よ忍。ただ憎たらしい存在を思い出して気分が悪くなっただけだから}


{…そうか}


{と、とにかく、その油取りクラスの『致命誘発体』が、今回の連続殺人事件に関する『パッケージ』に利用されてるってことで間違いないんだな?}


{…そうみたいだね。今回もお姉ちゃんが動いてるみたいだからほぼ間違いないと思う}


{…舞もか。それにしても、マジで参ったな…。まさかこんな大事になるとは思わなかった}


{これからどうしよっか、刑事さん?}


{とりあえずこの場を下手に離れるのはまずい。現状この事件を解決できそうなのは俺達しかいないからな。俺達が死んでしまったらそれこそ、その『パッケージ』を止められなくなっちまう。今はあまり大きな動きをせずに情報を集め…}


{!!ち、ちょっと忍!?あなた何をするつもり?}


{!!ま、まさか忍、お前!?}


{…悪い、叔父さん、座敷童。俺は一旦校舎の方に戻るよ}


{馬鹿を言うな忍!お前は俺の話を聞いていなかったのか!?例の『パッケージ』を止められるのは俺達しかいないんだ!ここで下手に戦力を失う訳にはいかないんだぞ!!}


{…でも俺は、クラスの連中が心配なんだ!!あそこにはまだ惑歌や巴達も残ってるはずなんだよ!!俺にはあいつらを危険地帯に置いといて、テメェだけ安全地帯にいるような真似はできねえ!!!}


{…忍…}



「…」


唯一「うわあ。この店は変な放送を流してるんですねえ。この学園都市で妖怪の話題なんて無骨だと思いません、先生?」


店内にはリクルートスーツに白衣を羽織った女と、ゴールデンレトリバーがいた。


脳幹「私だって一般人からみれば、妖怪だと判断されてもなんの不思議もない形をしているからな。あまりそれを揶揄するつもりにはなれんよ」


唯一「あははは。言われてみれば確かにそうですねえ」


脳幹「…まあ、確かにこの放送には癇に障る点が何点かあるのは認めるがね…」


唯一「??」


脳幹「…それよりさっさと夕食を済ませたらどうだ?私は君の気まぐれでここに連れて来られたんだぞ?」


唯一「へへへ。ここのハンバーガーはとんでもなく美味しいから、ついつい、ゆっくり味わいながら食べたくなっちゃうんですよ♪」


脳幹「まあ、今は私もこれといった用事が特にないから構わんが、そろそろ床に就きたくてな。こう見えてもそろそろ老犬に属するんだから」


唯一「いやーんダンディーッ!!相変わらずその声がたまりませーん!!」


脳幹「冗談は程々にしたまえよ。…とりあえず、私はこのまま暇を持て余すのも何だから、外で煙草でも吸っているとしよう」


唯一「あら、それじゃあいってらっしゃいませ」


脳幹「…ああ」


ゴールデンレトリバーは店内から出て、煙草の火を点けた。そして、頭の中だけで『窓のないビル』との通信のリクエストを飛ばし、何もないように見える虚空へと話しかけた。まるで目の前にいる誰かと話すように…


脳幹「…なあ、アレイスター。どうせ『滞空回線』で私の様子もチェックしとるんだろう?なら少し会話に付き合ってくれんかね?」


『…おやおや。木原脳幹ともあろう者がそこらの老人と同じ様に、寂しさに耐えられなくなってしまったのか?』


脳幹「まあそういう風に解釈してくれても構わんよ。ただ、どうしても君に質問しておきたいことがあったんだ」


『…何だ?』


脳幹「…君は、『とんでもないこと』をやらかした自覚はあるのかね?」


『…何の事だ?』


脳幹「私にはとぼけても無駄だと言うことは、君なら良く理解してくれてると思っていたがね。まあ、今回の君の暴走はいつも以上に凄まじいモノだ。白を切ろうという気持ちも理解できなくはない」


『…』


脳幹「…イマジンブレイカーに関する例のアプリ…。どうやら多くの人間が、このアプリを先導して作成したのは、雲川芹亜や土御門元春であると勘違いしているようだ…」


『…』


脳幹「だがこのレベルの完成度は、彼らの手だけで成し遂げることは決して不可能だ。元より君が関わっていると見た方が正解だろう。そして君には、『このアプリを主導しているのは雲川芹亜である』と勘違いさせることも難しくはない。無論雲川芹亜本人も含めてな…」


『…』


脳幹「どうやらアメリカ大統領もアプリの作成に関わっているらしいな。確か、『上条当麻の魔術戦への参入許可』を、学園都市の上層部を脅して獲得するためだったか…。ここにも大きな勘違いがあるな。大統領は統括理事の『ブレイン』と秘密裏でコンタクトを取っていたようだが、大統領は本当にそれが上層部に漏れないと思っていたのかね?寧ろそう勘違いさせられていたと見た方が、すんなりとくる。結局彼らも君に踊らされていたという訳だ」


『…』


脳幹「さて、このアプリを主導したのが雲川芹亜でなく君だと仮定した場合、当然大きく話が違ってくる。そもそもこのアプリが作られた目的は何なのか?」


『…』


脳幹「まさか君も彼女と同じく、『上条当麻の側にいられない、世界中の乙女を救うため』とか言うんじゃないだろうな?」


『…だとしたら?』


脳幹「そうだとしたら年甲斐もなくここで大笑いしてしまうだろう。…少女達へ夢を与えるためにアプリを作成する…。なんともロマンに満ち足りていることではないか。それは善悪で言えば善であり、好悪で言っても好ましいものでもある」


『…』


脳幹「…だがしかし、それは君の専門ではない。何故ならば、君も私も紛れもなく悪人なのだからな。善人のやることをする存在では決してありえない」


『…では仮に私がこのアプリの作成に関わっているとして、その作成目的が如何なるものかを、君には見当できているのか?』


脳幹「…当然だよ。いや、寧ろ『知らなかった方がいいことを、知ってしまった』と言った方がいいかもしれんがね…」


『…ふむ。面白いではないか。ではあえて聞こうじゃないか。君の仮説とやらを』


脳幹「…一番手っ取り早く言ってしまえば、『原型制御』による、人々の『上条当麻という存在』に対する認識のコントロール…といったところか…」


『…』


脳幹「今回の件でアプリは世界中で配信され、多くの人々にイマジンブレイカーの存在が知れ渡った。それと同時にイマジンブレイカーとはどういう存在なのかも提示された。実際の彼の思考や行動パターンをアプリに取り入れてな。つまり、君は現状、世界中の人々の、イマジンブレイカーとは如何なる存在か?という認識をコントロールできる立場にあるという訳だ」


『…それがどうしたと言うんだ?』


脳幹「確かに普通に考えたら、そこまでは何の問題もない。何故ならば、一見君がやっていることは、世界に向けて『自分達のところにはこんなヒーローがいますよ』と発信しているだけに過ぎないからな。通常ならば、そのヒーローのイメージをコントロールしたところで、大した問題にはならないように思えるだろう…」


『…』


脳幹「…しかし君の場合は次のステップに移ることができる。そう、『原型制御』を使うことによってな」


『!』


脳幹「…今、私の部下が食事をしている店でな、先ほど興味深い店内放送が流れていたよ。人々のイメージによって形作られる妖怪。要は『とある妖怪には、きっと時を止めれる能力があるのだろう』という人々の想像によって、実際にその妖怪が時を止めることのできる能力を獲得するといったものだ。それはあくまで極端な例だが、今回君がやろうとしていることはそれに近いことではないかね?」


『…』


脳幹「そう、『上条当麻とはこんな存在なのだろう』というイメージをコントロールして、実際に上条当麻を人々のイメージに近い存在に変えていこう、というものだ」


『…なかなか面白い発想だな。しかし、それを実現するためには障害が多すぎる。そもそもどうやってあの少年を変ずるのだ?彼にはあらゆる異能を打ち消す右手があることを、君も十分知っているだろう』


脳幹「…確かに既存の科学では不可能だろうな。彼はAIM拡散力場の干渉を全く受けないから、AIM拡散力場の『流れ』によって形成された濃淡コンピューターを利用することも不可能だ。それに関しては、『人的資源』プロジェクトの件ではっきりと確認している」


『ふむ。それは間違いないだろう。しかし、残念ながらこのままでは、君の仮説は詭弁として終わってしまうぞ?』


脳幹「…ならば既存の科学以外の物を利用すれば良いのではないかね?例えば、『奇蹟』とかな…」


『!』


脳幹「『エンデュミオン』事件の際に、『奇蹟』によって誕生した鳴護アリサは、幻想殺しに触れられても消滅しないことを確認している。つまり、幻想殺しでは『奇蹟』を打ち消すことができないのではないかね?」


『…』


脳幹「…能力者のものでなくとも、人々の同一の思考や願いは因果律すら捻じ曲げてしまう…。現状、それが我々の『奇蹟』というものの評価であるはずだ」


『…』


脳幹「…ところで、世界の『ヒーロー』としてもてはやされている幻想殺しだが、彼は完璧な『ヒーロー』なのかね?」


『…突然、何が言いたいんだ?』


脳幹「…人間とは獣とは違い、ロマンを強く求める生き物だ。仮に目標を達成した場合でも、さらに上に行けるのではないか?と考えてしまう生き物なのだよ」


『…』


脳幹「例えば非常に見目麗しいアイドルがいたとしよう。多くのファンはそれだけでは満足しない。恐らく、そのアイドルに歌唱力や、華麗なダンスを踊るために必要な運動能力なども求めるのではないかね?これはプロ野球なんかでも同様だ。例えば、3割30本といった成績を残した野手がいたとしよう。それは打撃成績に関しては、十分素晴らしいレベルと言っても差し支えないだろう。しかし、ファンはさらに、彼に30盗塁できる走力や鉄壁な守備力を求めてしまう」


『…』


脳幹「…幻想殺しに関しても同じことだよ。彼には確かに並々ならぬ『ヒーロー』としての素質を持っている。しかし、人々はそれでも満足はしない。彼にはこうあって欲しいという思いが少なからずあるはずだ」


『…』


脳幹「それは、まさに『願い』と呼べるのではないかね?そして人々の強い『願い』は因果律を捻じ曲げて『奇蹟』を引き起こす可能性がある。つまり、世界中の人々が同じ『願い』を持った時、何らかの『奇蹟』を引き起こす可能性があるのではないか?」


『…「奇蹟」…か…。確かに幻想殺しに干渉しうる可能性は秘めているかもしれない。しかし、そのような便利なものを何故私達は今まで利用しなかったのだ?そんな簡単に引き起こせるものなら、とっくの昔に利用していたとは思わないかね?』


脳幹「…今までは簡単に引き起こすことができなかったのは間違いないだろう。故に『奇蹟』の研究も効率良く進めることができなかった。そう、『今まで』はな…」


『…』


脳幹「…君は当然知っているとして、我々も先ほど、鳴護アリサがこの世界に現出したことを確認したよ。後に幻想殺しと合流したのも確認している」


『…』


脳幹「そして現出したタイミングに注目すべき点があった。彼女は、北欧の魔術師トールが、学園都市に侵入した直後に現れている」


『!』


脳幹「彼は通常の手段でこの学園都市にやってきた訳ではない。彼は『全能神』としての力を使ってやって来たのだったな」


『…』


脳幹「彼については『魔神オティヌス』事件の際に調査させて貰った。彼の『全能』は、世界そのものを変動させる力を持っているらしいな。そのデメリットとして、あまり乱用すると、ダビングを繰り返したビデオテープのように地球の自転や公転の情報が狂っていき、修正不可能になってしまう、というものがあるとも聞いた。

…しかし、君は逆に、そのデメリットを利用したのではないかね?」


『!』


脳幹「私も気になって先ほど地球の自転情報を確認させて貰ったよ。そうしたら、この学園都市を中心に、非常に僅かながら誤差が生じていることが判明した。それは地球上の生命には何の悪影響を与えない程の微弱な誤差であったがね。しかし、我々が取り扱う『科学の世界』では、その僅かな誤差が実験に大きな影響をもたらしてしまう。例えば、誤差が生じる前に起こりえないことが、起こってしまうとかな…」


『…』


脳幹「…まったく、魔術師の持つオカルティックな特性を科学的な実験に組み込むとは、君以外には到底実行不可能なことだよ。しかも、当の魔術師は自分が利用されているという自覚すらない。これはまさに悪人の所業そのものだとは思わんかね?」


『…』


脳幹「とにかくこれで、上条当麻を中心に、この世界で『奇蹟』が引き起こされるためのポートが開かれている状況だ。それを『原型制御』によってコントロールするといった寸法という訳だな」


『…』


脳幹「『原型制御』、『全能神』、『奇蹟』、そして『幻想殺し』。科学や魔術、あるいはそのどちらでも証明できないモノ。各々全てが非常に重要な価値を持つ物を、ふんだんに使った実験計画。これが今回のアプリ作成に込められた物だろう。そして、アプリを用いて『奇蹟』をコントロールしようなどとは、誰にも想像がつくまい…」


『…』


脳幹「そして私も、上条当麻の誤差というものをいくつか確認している。もっとも何らかの特殊能力のような物も獲得したようだが、全く使いこなすことができていないようだ。また、上条当麻だけでなく、その直ぐ近くにいる存在に関しても何らかの変化が確認されている。現状ですら明確に違いが分かる具合の進行状況だ。実に恐ろしいものだよ…」


『…』


脳幹「勿論、君が『原型制御』によってどのように変化していくかをコントロールするだろうし、そもそも『ヒーローとしてこうあって欲しい』という願いによって変化していくんだ。何かを殺すための能力だとか言った、マイナスの力を獲得することはないだろうな。だが、果たして、右手の不変性と、変動を求める『奇蹟』はどちらの方が勝るのであろうか?それに関しては、私としても実に興味深いものだよ」


『…』


脳幹「…これから先、より多く、より強い『願い』から順に、上条当麻を変動させるための『奇蹟』が起こるであろう。…果たして君にそれを完璧に制御できるのかね?『木原』の一人であるこの私は、それをこの目でしかと見届けさせて貰おうじゃないか」


その時食事終えた木原唯一が『木原脳幹』の元へとやって来た。彼も『窓のないビル』との通信に満足したため、その場を離れようとした。しかし、その直前に、


『一つだけ私からの意見を述べさせて貰ってもいいか?』


脳幹「…何だね…?」


『…科学サイドとしてではなく、魔術サイドの観点から言わさせて貰うと、「願い」というものには、決して優劣など存在しないのだよ』


脳幹「…だとすれば、私は君のイカれ具合を推し間違っていることになるな…」


『…』


脳幹「…仮に『願い』に優劣がないとすると、これから先、幻想殺しがどのように変化していくのか、君にも全く分からないということになるが、構わんのかね?」


『…お好きなように捉えたまえ…』


脳幹「…なるほど、全てを覚悟した上での行動か。なら君のやりたいようにやればいいさ…」


『…ああ。君に言われなくともそうするつもりだよ』



そこで『窓のないビル』との通信は途切れてしまった。どうやら会話に満足した『木原脳幹』も、彼の部下とともにその場を立ち去った。


そして一つの会話が終わり、



















たった一つの小さな『奇蹟』が起きた。













(同時刻、とある人造湖)


上条は地面に腰掛けたまま、少女の去って行った方向をじっと見つめていた。


上条「…『晩ご飯』…か…」


ただ一人残された上条は、甘い蜂蜜の香りに鼻を刺激されながら、先ほどの少女のことを思い出していた。





いや、






思い出すことが『できていた』。



上条「(!!…な、何だかよく分からねえけど猛烈な違和感を感じる。どういうことだ?)」


そして直後上条を凄まじい頭痛が襲った。


上条「!!!」


上条は無意識のうちに自分の頭を右手で押さえていた。しかし、頭痛は止まらなかった。



上条「(ぐっ…!!?一体何が起こっているんだ?)」


頭痛のさ中、上条は自身の脳裏にて、何らかのパズルが組み上がっていくような感覚があった。そこには痛みの他に、恐怖のような悲しみのようなものも感じ取れた。


上条「がァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


上条はそこで絶叫をした。とりあえずこの苦しみを堪えるのに必死だった。痛みを抑えようとして、頭を思いっきり地面に叩きつけて、額からも血を流していた。しかし、上条は打たれ強さには相当の自信があった。だから、何とか痛みに耐え続けることができた。そして、


上条「…ハァ…ハァ…。い、痛みが…消えた…?」


いつの間にか突如上条を襲った頭痛は消えていた。まだ痛みは残っていたものの、それは上条が頭を地面に思いっきり叩きつけたためによるものであった。


上条「…何だったんだ、一体…?」


とりあえず上条は直前に何をしていたかを思い出すことにした。


上条「…確か、『晩ご飯』がどうたらこうたらを考えている時に……」


上条はそこでとんでもない違和感に気がついた。


上条「……………………………………………………………………………………………何だよ、これ…」


いつの間にか上条の脳裏には、直前まで自分が全く知らなかった『新しい』情報が混入していた。いや、もしかしたら『古い』情報だったのかもしれないが…。

とにかく『とある少女』に関する全てのことを『思い出して』いた。


上条「…」


突如何者かによって有益な情報が齎される。神仏論者だったらそれを『天啓』と呼んでいたかもしれない。それと似たようなことを上条はそこで体験していた。しかし、上条の脳裏に思い浮かんできたものは、そういったプラスの物ではなく、マイナスの物だった。


上条「…涙…か…」


上条はそこで、『とある事件』の後、出会っても必ず別れ際に涙を零していたような、一人の『金髪の』少女を思い出していた。そして同時にその涙の理由が、全て自分の責任にあることも悟っていた。


上条「…」


そこで上条は別のことに気がついた。上条はいつの間にか立ち上がっていた。そして右拳を思いっきり握りしめていた。それはまさに上条にとっての『とある』合図だった。



上条「…くそったれが…」


上条は心の中で何かが猛烈な勢いで湧き上がってくるのを感じていた。そして同時に、今までの疲労が全て吹き飛んでしまったような感覚がしていた。


上条「…『最低』だな…」


そう思った上条は何と無く右拳を解けるかどうか試してみた。しかしできなかった。


上条「…本当に『最低』だよ…俺って!!」


実はその時、上条は大きく分けて、二つの理由で自分を『最低』と評していた。


一つ目は、自分のせいで長い間『とある少女』を苦しめてしまったという理由。


二つ目は、自分のことを愛してくれている少女が何人かいるのを知っておきながら、どうしても別の少女を助けようと、してしまう自分がいるという理由。


上条「…ごめん、インデックス、美琴、オティヌス…。…俺、やっぱりどうしても『こいつ』を救いたいよ…」


上条はそこで歯を食いしばりながら、体を震わせていた。自分がこれから選ぼうとする選択肢は、複数の少女を傷つけることにもなりかねないことを、きちんと理解していた。

しかしそれでも、どうしても『とある少女』を見捨てることができなかった。


だから、


上条「…ごめん、みんな。後で死ぬ程みんなの我儘を聞いてやる。そして好きなだけ説教してくれても、ぶん殴ってくれても構わねえ。だけど、今回ばかりは『こいつ』を救わせてくれ!!」


そう言って、上条は吹っ切れた表情になっていた。結局上条は誰か一人を選べない『最低な』男のままだった。だけど同時に彼は、老若男女問わずに自分が深く関わった人、あるいはあまり関係のない人達にさえも手を差し伸べて、その小さな幸せを守ってあげられるような、誰よりも心優しい少年だった。そんな少年だったから、皆今まで彼の我儘を聞いてくれていたのだろう。きっとこの選択が正しいものであり、少女達もそれを理解してくれると確信していた。





だから、



「…上等だ…」



少年は、そう呟きながら、思いっきり握りしめた右拳を、少女の去っていった方に勢い良く突き出した。まるで何かに挑戦することを覚悟したかのように…。


「…テメェが、上条当麻は『晩ご飯』も思い出せねえような情けねえ男だっていうのなら」


そう言いながら少年は、先ほどの別れ際の少女の顔を思い出していた。少女はやはり確かに泣いていた。少女は強い信念を持っていたが、心のどこかで、少年が自分のことを思い出せるようになることを『諦めて』いたのかもしれない。実際に、少女がいくら望んでも、神様の『奇跡』は起きなかったし、これからも起きることはないのだろう。だから、それをどうしても悟らざるをえなかった少女は、涙を止めることができなかったのだろう。そのことが少年の心をひどく苦しめていた。









だから、








「『奇蹟』はそう簡単に起きる訳がないと勝手にくだらねえ判断をした挙句に、俺がいつまでたっても『食蜂操祈』のことを思い出せないだなんていう、とんだ勘違いをしているって言うのなら」




結局のところ神様の『奇跡』は起きなかった。



しかし、その代わりに、ちっぽけな『奇蹟』が起きた。


それは世界を救うだとか、難病に苦しまされている子供達を救うだとか、そんなご立派なものでは決してなかった。だけど、たった一人の少女にとっては、何よりも起きて欲しい『奇蹟』だった。



「まずは」



少女の願いは神様には届かなかった。


だけど、たった一人の『ヒーロー』にはしっかりと届いた。


それは、世界中全ての人間を幸せにできるような凄い『ヒーロー』ではなかった。だけど、どこでもどんな時でも誰にでも、優しくなれるような、みんなの憧れの『ヒーロー』だった。



「その」



その『ヒーロー』は決してその少女も仲間外れにしなかった。




だから、






「幻想をぶち殺す!!!!」






少年はいつも通りに宣言して、いつも通りに右拳を握り締め、いつも通りに少女を救うために駆け出した。



そして、きっと、そこには、みんなが笑い合っている未来が待っているのだろう。



それがちっぽけな『ヒーロー』の『願い』だった。




だから、



上条当麻はこれからも、その『願い』を叶えていくために、何度でもその右拳を握り締めて、戦い続けていくのだろう。



何故ならば、



それが、



上条当麻にとっての『幸せ』なのだから…………




ーfinー



































〜After Story〜


食蜂は上条と別れた後、ひたすら涙を流し続けながら山を下っていった。

食蜂は先ほど、絶対に諦めてはいけないと自分に言い聞かせていた。しかし、冷静になって考えてみると、自分にはもう手札が残っていないことに気がついた。言ってしまえば、先ほどの発言は『強がり』のようなものであった。


食蜂「…神様の『奇跡』も打ち消す…かぁ…」


それが少女にとって途轍もない絶望を与えていた。結局のところ、今の食蜂にできることは『何か』に祈ることだけだった。しかし、上条にはそういう異能の力を全て打ち消してしまう右手がある。


食蜂「…私の祈りなんかじゃぁ、絶対に届かないのかなぁ…」


食蜂はふと眼前のガードレールに近づいてみた。そこから下は崖だった。


食蜂「…」


食蜂は崖下をじっと眺めていた。すると、不思議なことに、恐怖というものがあまり感じられなかった。寧ろ誘惑みたいなものさえ感じられた。


食蜂「…『自殺』…ねぇ…」


食蜂はそれを悪くないと思ってしまった。


食蜂「(…『次の世界』だったら、ずっと当麻の側にいられるのかしらぁ…)」


食蜂はそこで苦笑いしていた。記憶さえ消してしまえばこれ以上辛い思いはしなくても済む。しかし、それでは上条といられることにはならない。だけど、『次の世界』だったら可能性はあるかもしれない…。

結局、自分の人生プランを考えた時に、どうしても上条抜きのものを考えることができなかった。


食蜂「…ふふ☆ 私ったら、本当にとんでもないほどの、当麻に対する依存力を抱えちゃっているのねぇ…」


それと同時に、上条のことを考えると救われた気分になるような気がしていた。



しかし、そのすぐ後に、『自分は決して上条の横にいられない』という考えによって、絶望に落とされてしまっていた。


食蜂「…本当はぁ、一緒の学校に通ったり、何度もデートを重ねて最高に甘い青春時代を送って、それで大人になったらとても真っ白で綺麗なウェディングドレスを着て、当麻と最高に素敵力の高い結婚式をあげて、当麻のお嫁さんになって、毎日キスをして、毎日一緒のベッドで寝て、それで毎日『すき』って言って貰いたかったなぁ…」


しかし今の食蜂では、幾ら幸せな妄想をしても、妄想の中に出てくる上条が必ず途中で引き裂かれてしまっていた。


食蜂「…当麻ぁ…当麻ぁ…当…麻ぁ…あなたの側にいたいよぉ…」


食蜂はその時ふと、ガードレールに身を乗り出してしまいそうになった。しかし、その途中でスマホにつけていたストラップが目に入った。それは上条が以前食蜂に渡した防災用の笛である。彼女はそれをストラップ代わりにしていたのであった。


食蜂「…」


食蜂はその時完全に、自分にはまだアプリが残っていることを失念していた。


食蜂「…今の私でも、まだ当麻の声を聞くことはできる…」


そのことは食蜂にとって、かなりの救いのように感じられた。


食蜂「(…『次の世界』で当麻に会えるとは限らない。当麻の声も聞くことができないかもしれない!)」


そう考えると、食蜂には生きる気力が湧いてきた。『次の世界』よりも、『今の世界』の方が魅力的に思えてきたからである。


食蜂「(それに私が死んじゃったら、なんだかんだで派閥の子達も悲しむだろうからねぇ…)」


そう考えた食蜂は再び、この世界で生きていくことを決心した。勿論、『奇跡』が起こることを祈りながら…

そして、ガードレールから離れようとした。






しかし、





食蜂「……………………え?」



彼女はそこで足を滑らせてしまった。今現在も雪が降っていたため、滑りやすくなっていたのだった。



そして食蜂は、




そのままバランスを崩し、





ガードレールを乗り越えて






落下してしまった。






食蜂「(!!…い、いやぁ、まだあなたの声が聞きたいよぉ、当麻ぁ…)…助けてぇ、当麻ぁ!!!」














「了解」











それは食蜂の『幻想』だった。













食蜂は落ちたと錯覚していた。しかし、実際には『何者』かの手によって、腕を引っ張られており、ギリギリのところで助かっていた。




「『相変わらず』お前は鈍い奴だなあ」



食蜂「……あ……え…?」


食蜂は事態の把握が全く出来ていなかった。寧ろ、何者かに幻覚を見せられているかのような錯覚さえあった。


食蜂「…当…麻…ぁ…?」


食蜂は非常に弱々しい声で呟いた。それには特に深い意味はなかった。ただ、無意識のうちに発したのがその言葉だった。


そして、それを『少年』は確かに聞いていた。


少年は少女の口から出た言葉が、『自分が尋常じゃない精神状態に陥った時に、まず第一に発してしまう言葉』だと判断した。故に、少女が一番心の拠り所としているものは『当麻』であると考えた。


つまり、この少女も、『生きていくためには、上条当麻がどうしても必要』な存在であることを悟った。





だから、