2015-12-31 23:08:12 更新

概要

vol.3「喰種」


前書き

あっぶねぇ滑り込みセーフ












真姫「…ここは?」



目が覚めると、真姫はベッドの上に横たわっていた。


わずかに光る電球と少し血生臭い、薄暗い部屋。



「気が付いたかい?」



体つきのいいおじいさんが話しかけてきた。




真姫「…?」




十蔵「私は志賀 十蔵(しが じゅうぞう)。とある組織の長を務めている。」



十蔵「ここは…私たちのアジトだ。」




真姫「どうして、私がここに?」



十蔵「…君は我を忘れて暴走していた。それを止めただけさ」


真姫「暴走…?」



十蔵「…現実は、受け入れなければならない」








十蔵「君は、捜査官たちに手を出した。」



真姫「…!?どういう…」





竜也「捜査官10人の内、3人を殺しかけたんだよ」



部屋の隅に、鎖に繋がれた竜也がいた。



咲夜「おじちゃん、お兄ちゃんは…」



十蔵「あれほど捜査官と対峙する時は慎重にと言ったはずだが…」


十蔵「竜也、私の言いつけが守れないのか…?」




竜也「ジジイ…てめえのやり方は甘すぎるんだよ…そんなんだから裏切られる…!」


十蔵は竜也の元へ向かい歩いた。


そして竜也の左頬を殴る。



竜也「がっ…!!」



十蔵「あの医者の娘を連れてこいとは言った。捜査官と対峙しろとは言っていない。」




医者の…娘?



真姫「…あの、それって」




十蔵「…ああ、説明がまだだったね」





十蔵「私たちのような存在を、グールを生み出したのは、君の父なんだ。」




真姫「パパ…!?」



十蔵「西木野 廉藏(にしきの れんぞう)…彼は、私の命の恩人だった」



十蔵「病で死にかけていた私を、治してくれた」



十蔵「だが…それは全て表の顔だった」






十蔵「彼は私を人体実験のモルモットととして、利用した…」



真姫「嘘よ、パパがそんなこと…」




竜也「事実だよ、そのジジイが言ってることは」



竜也は鎖に繋がれながらも、真姫に言った。



十蔵「…黒羽 竜也、彼もまた人体実験の被害者なんだ。」



真姫「…!?」




十蔵「非道な実験が続く中、彼だけは檻を壊し脱走した。…その際に私の檻も壊してくれた。」




竜也「だから俺はそんな覚えはねぇって」



十蔵「…いつも言ってるんだ、私を助けた覚えがないと」



真姫「パパが、あなたたちをおかしくして…それで私を…?」




十蔵「私たちは、廉藏に復讐したいわけではない」


十蔵「人間に戻りたいだけなんだ」




真姫「戻る…?」



十蔵「君と話せば、何か解決の糸口がつかめると思ったんだ」



真姫「それで竜也を使った、ってこと…?」



真姫「…なんなのよ」




真姫「わからない…変な身体になるし、殺されかれるし…パパが原因とか言われるし」




十蔵「…それでも、知っていることは君に伝えなければならないと判断した。」



十蔵「何か質問があれば答えるよ、少しでも君の力になりたいからね」





真姫は十蔵に質問をした。




真姫「…捜査官に手を出したってどういうこと?」





十蔵「…これから話す事実から、目をそらさないで欲しい…」















〜時間を遡る〜







真姫「いやああああああああああッッッ!!!!!」



竜也「…真姫!?」





真姫は背中あたりから赤黒く染まっている赫子(かぐね)を出した。



竜也「4本…鱗赫(りんかく)か」





凛「真姫…ちゃん!?」



にこ「なによ…その目」


花陽「真姫ちゃん…なんで!?」





真姫の目は全く別の色へと変色していた。



白目は黒く染まり、黒目は赤黒く。



目の周りにはヒビのようなものができていた。







真姫「こないでえええッ!」



真姫は自らの赫子を振り回した。





竜也「うわっ!(敵味方関係無しか、マズイな)」



絵里「真姫、落ち着いて!貴方は…」



希「絵里ち!危ない!!」




真姫「こないで…








来るなあああアアアアアアアアッ!!!!!」











真姫の赫子は絵里の腹を、貫いた。



絵里「か…はッ」




希「…絵里ち?」





真姫「〜〜〜〜〜〜ッ」



真姫「死にたく…なあいッッッ」




穂乃果「絵里ちゃん!!」



希「なんで…絵里ちを…!よくも!!!」




希は武器を構え、真姫に向かい走る。




真姫「かぁああ」



希「ああああっ!!」



希の攻撃はかすりもしない。


真姫は全てかわし、赫子を希へ向けた。






真姫「嫌ぁ!!」





赫子は、希を貫いた。




希「絵里…ちッ」





石川「…なんだ、あれは…!?」




穂乃果「…ッッ!!!!!」




穂乃果「やったな…!!!」




ことり「穂乃果…ちゃん!?」




大切な友を傷つけられ、穂乃果の怒りは頂点へと達した。




穂乃果「うわあああッッ!!」



暴走する真姫へと、武器を使い攻撃を仕掛ける。



真姫「や…いや…」



真姫「アアアアッ!!」



真姫の赫子は穂乃果に向かって一直線に飛んでくる。



ことり「危ない、穂乃果ちゃん!!」












穂乃果「…ことり…ちゃん?」







宙を舞う、友達。


ことりは穂乃果をかばい、真姫の攻撃を食らった。







穂乃果「あ…あ…」



穂乃果「ああああああああッ!!!!!」




精神が、崩れた。


泣き崩れる穂乃果に、容赦なく真姫は赫子を向けた。



真姫「アアアアッ!!!!!」









竜也「咲夜ッ!!」



咲夜「ッッッ!!!!!」





真姫の赫子は咲夜、通称「八岐大蛇」により止められた。


赫子同士が激しくぶつかり合う。



真姫「やめてええ…こないでぇ…」





竜也「おい!捜査官!」



石川「…俺か!?」



竜也「今のうちに逃げろ!」



石川「敵に背を向けろと言うのか!?」





竜也「一撃食らった奴ら…まだ助かるぞ!?」




ミライ「…チッ、潮時か」


ミライ「石川、退くぞ!」




残された捜査官、

石川、ミライ、穂乃果、にこ、海未、凛、花陽は重症を負った3人を連れて逃げた。








竜也「…さて」


竜也「おとなしくしてくれよ…殺したくないんだから」





「何をしている?」




咲夜「ーーッ!?」





上から奇襲を仕掛けてきたのは捜査官ではなかった。


熊の様な身体をした、大男が竜也を殴る。



竜也「ーーがッ!!」


咲夜「お兄ちゃん!!」




「…君が、廉藏(れんぞう)の娘だね」




彼の正体は、赫子を身体にまとった志賀 十蔵だった。



十蔵「…少し眠っていてくれ」















〜現在〜





十蔵「ーと、これが真実だ」



真姫「…」



真姫は泣いていた。


また、友達を傷つけてしまった。


かつての騙し合いのゲーム、ライアーゲームでもそうだ。





ワタシハ、トモヲキズツケタ…





真姫「…私は、どうすれば」



十蔵「廉藏を止める。それしか手立てはない」



十蔵「竜也の話によると、君が傷付けた3人は生きている」



十蔵「すべてが終わった後、仲直りすればいい。」







十蔵は立ち上がり、部屋の中に響く様に全体に言った。



十蔵「明日、深夜!我々は西木野総合病院を襲撃する!!」


十蔵「目的は西木野 廉藏の身柄確保!よって我々は、一切の殺生を禁ずる!ーー以上ッ!!」








私は、どうすればいいのだろうー。



涙も枯れ果ててしまった真姫は頭を抱えていた。




「大丈夫?」




真姫の元へ1人の女が近づいてきた。


真姫「ーあなたは?」



仁美「志賀 仁美(しが ひとみ)。十蔵の娘です。」




真姫「しが…ひとみ?」




真姫には、この名前に聞き覚えがあった。


しかし、どこで聞いたかは思い出せなかった。



仁美「お父さんに、真姫ちゃんの身体を見てあげてって言われて…」



真姫「ありがとう…でも、今は大丈夫だから」



仁美「わかった」













十蔵「…散っていった同胞たちよ」



十蔵「明日、全て終わるぞ」



















十蔵たち、組織の人、全員が眠りについた。



真姫はふっと目が覚めていた。



真姫「…あれ」


真姫「…いつの間に寝てた」




暗くて部屋の中がよく見えなかったが、微かに誰かの話し声が聞こえた。



真姫は声のする方へ歩いた。



真姫「あ…光」


真姫「外に繋がってる…」







竜也「どこへ行くつもりだ?仁美」




仁美「竜也には関係ない、何度も言ってるだろ」



竜也と仁美が外で口論していた。


真姫はバレない様に、隙間から見ていた。




仁美「私は…憎いんだ、全てが」


仁美「全てを侮辱した、西木野という存在が」





竜也「でもそれって結局は自業自得じゃねえか」


仁美「黙れ」




仁美「私の母を奪った、グールも許さない」


仁美「明日…この組織を消す」




竜也「お前、ヒトのくせに何ができんだよ」



仁美「そう言ってられるのも今の内だ」



仁美「竜也、お前も死ぬ。志賀 十蔵の組織の下っぱとしてな」




竜也「好きにしろ、俺は復讐なんざ興味ない」



仁美「…それも橘(たちばな)の影響か?」


竜也「その名を口に出すな、殺すぞ」



仁美「…フッ」




仁美「私は行くよ。サヨナラだ、竜也。」



仁美「君で作られるクインケが楽しみだ」







竜也「…はあ」












真姫にはさっぱり理解ができなかった。



真姫「(考えるのも、今は仕方がない)」




真姫「…寝よう」


真姫「…疲れた」




ベッドに戻り、深い眠りについた。








〜西木野総合病院〜







集中治療室、3つのベッドに横たわる3人。


ガラスの向こう側から見える景色は、まさに「絶望」そのものだった。



心電図の音だけが、唯一の希望となっていた。






花陽「絵里ちゃん…希ちゃん…ことりちゃん…」



穂乃果「…助かるんですよね、石川さん」



石川「…意識が戻らない。ほぼ植物状態だ…」



にこ「…ふざけないでよ」



にこ「元も子もあんたたちが原因でしょ!?どうしてくれるのよ…私の、大切な友達に!?」



石川「…俺の注意力が足りなかった、本当に申し訳ない」



石川「仇は、必ず取る。俺は…グール捜査官だから」







穂乃果「私もやらせてください」


凛「穂乃果ちゃん!?」




穂乃果「真姫ちゃんには…せめて謝ってほしい」



石川「わざわざ君を危険に晒せ、と?」



穂乃果「…そこで頼みがあります」















海未「正気ですか、穂乃果!?」


にこ「バカじゃないの!?」




穂乃果「…私は、いつだって本気だよ。スクールアイドルを始めた時だって」



凛「穂乃果ちゃん…」





石川「…希望する形はあるか?使用者の好きなようにカスタムできるぞ」



穂乃果「…この警棒みたいな感じで」



石川「ミライさんに手配しておく」




海未「穂乃果…やはり考え直してください!」



海未「正式にグール捜査官になるなんて!必要ないでしょう!!」



花陽「危ないよ、穂乃果ちゃん!」



穂乃果「そうでもしなきゃ、真姫ちゃんに会えないし、クインケってやつが無ければグールともまともに戦えない。」


穂乃果「真姫ちゃんの真意も聞きたいし、それに…」



穂乃果「まだ、時間はあるから。1度道を外れても…まだスクールアイドルには戻れるから」





にこ「…あんた1人に行かせられないわよ」




穂乃果「にこちゃん…」



にこ「石川さん、にこの分のクインケもお願いします」



石川「…わかった。」



凛「り、凛も!」


花陽「わ、私も…!」




海未「…はあ」



海未「穂乃果」





穂乃果「やっぱり、海未ちゃん怒って…」



海未「あなたにはいつまでも振り回されてばかりです」


海未「けれど、それが私にとっての希望ですので」



海未は穂乃果に向けて微笑んだ。



石川「…全員分、支給でいいんだね」




穂乃果「真姫ちゃんを、怪我をした希ちゃん、絵里ちゃん、ことりちゃんのためにも…」





穂乃果「戦おう!!」










石川「もしもし、ミライさん。」




石川「ええ、クインケを…はい…」



石川「え?…情報提供者…?」



石川「…本当ですか?それに…全てを賭けるのです?」




石川「…わかりました、部隊の編成と武器の作成を急ぎましょう」







石川「みんな!」




石川「突然で申し訳ない…大規模な作戦が行われることになった。概要を説明したい」



穂乃果「作戦…?」



石川「とある情報提供者からで、グールの組織がこの近くにあるらしい。」


石川「しかも明日の夜、この西木野総合病院を襲撃する、と」




にこ「そんなことされたら、希たちが…!」



石川「向こうが作戦を開始するまでに、こちらから仕掛ける。全員、明日の朝にはクインケが支給される」



石川「とりあえずここにいる人は石川班として行動してもらう」




海未「りょ、了解です!」



凛「了解にゃ!」



石川「あ、あともう一つ」


石川「ミライさんは…別の班に移動になったらしい」



石川「失態が大きすぎたのかもな…」



穂乃果「ミライさん…」



石川「最後に、全員に」





石川「必ず、生き延びてくれ!」




「「「「「了解!」」」」」


















〜???〜






死神「…死神は必ず現れる」




死神「ピリオドを打つのは…この俺だ」






死神「死神の裁きを」




死神「死をもって、償いを」









翌日、夜。




〜秋葉原、某所〜









「十蔵さーんこっち準備オッケーです」



「こっちも大丈夫ですー」



十蔵「うむ…ご苦労」




西木野総合病院、襲撃作戦の準備が着々と進んでいた。竜也は偵察に出かけ、咲夜は食料の調達に出かけていた。


食料と言っても、人間なのだが…


なぜグールは人間の肉しか食べられないのか、真姫は疑問に思っていた。



真姫「十蔵さん」



十蔵「どうした?」




真姫「グールって…一体何なんですか?」



十蔵「…うむ」






十蔵「未知のウィルスに感染すると、なると言われている」


十蔵「グールは赫子を出すために特殊な細胞を摂取する必要がある。それを摂取するために人間を喰べる。」




十蔵「…わたしが知っているのはこれぐらいだ、真相は誰も知らない」



十蔵「元々は特殊能力を目覚めさせるものだったらしい」


真姫「…特殊能力?」




十蔵「ああ…人間で言うところの「天才」ってやつだ。」


十蔵「あれを人工的に目覚めさせる」



真姫「人工的に…!?」




十蔵「しかし、まあ…必ずしも成功するわけじゃなかったものだ」


十蔵「わたしと共にモルモットにされていた竜也は、精神と肉体を蝕まれて(むしばまれて)いった」



十蔵「あの時の竜也は酷く記憶に残っている」




真姫「…それを引き起こしたのが私の」



十蔵「実の父親、西木野 廉藏だ。」



十蔵「心配いらない。君の父は殺さない。」



十蔵「大丈夫…君は1人じゃない」



真姫「…ありがとうございます」



真姫「…こうして話していると、とても落ち着きます」



十蔵「自分のことを話せる相手は素晴らしい」



十蔵「かけがえのない存在だよ」




真姫「早く元の体に戻って…ラブライブに出たいです」



十蔵「ラブライブ…?」



十蔵「ああ、仁美もそんなこと言ってたな」



真姫「仁美さんは、どんなひとなんですか…?」




十蔵「…仁美はーーー」















竜也「おいジジイ!!」



十蔵「どうした」



慌てた様子で竜也がアジトへ帰ってきた。




竜也「間違いじゃなければ…ここに捜査官が向かってきてる!!」



十蔵「…!数は」


竜也「150…ってとこか?」




十蔵「…やむを得まい」





十蔵「竜也!!真姫を連れて廉藏の元へ迎え!!」




真姫「!?」


竜也「あ!?どーいう意味だ!?」



十蔵「2人だけでもいい、廉藏の元へ迎え!彼女とお前に全てを託す!!」



竜也「ジジイはどうすんだ!?」



十蔵「…ここで奴らを引き止める!!」


十蔵「危険レベルSSSの底力、見せてくれる!」





竜也「…死ぬんじゃねえぞ」



十蔵「馬鹿にするな」





竜也「…行こう、真姫」



十蔵「裏口から行け、おそらく見つからない」




真姫「…は、はい!」
















十蔵「…わたしの命も、ここまでか」







アジトのドアが勢いよく開き、大勢の捜査官が押し入ってきた。




先陣を切っていたミライは、すぐさまクインケを起動した。














ミライ「こんばんは、「羆(ひぐま)」。」








十蔵「…」



「「十蔵さん…!」」



慌てるグール達を、十蔵は静かにまとめた。



十蔵「わたしがいる限り、好きにはさせんよ」





十蔵「…命を奪う行為は等しく、悪だ。」


十蔵「…無論、わたしも悪だ」



背中から放出された赫子は、十蔵を包み込む。


腕を、


体を、


足を、



頭を。





その姿は、熊を彷彿としていた。



「「…ひ、羆…」」


「「あれが、SSSレート…」」


ミライ「落ち着け」






十蔵「そして…君たちも」


十蔵「さあ、殺しに来たまえ」






十蔵は赫子を纏った腕をあげ、大きくなぎ払いをした。




「「「うわああああっッッ!!」」」





1度のなぎ払いで、多数の捜査官が吹き飛ばされた。




十蔵「わたしも、そうしよう」





ミライ「…クソが」




ミライは二刀のクインケで十蔵に攻撃を仕掛けた。


右手に持つ刀は「叢雲(むらくも)」、


左手に持つ刀は「冬月(とうげつ)」という名前だ。



十蔵「…君も、しつこいね」




ミライ「黙れ、死神が!!」



十蔵「何度言えばわかる、わたしは死神ではない」



ミライ「黙れ…黙れ黙れ黙れッッッッ!!」




ミライは手を休めることなく、十蔵に攻撃を仕掛けた。



十蔵もその攻撃を赫子を纏った腕で防ぐ。





ミライ「今日、落とす!!!」





















竜也「…最後まで、ふざけやがって」


竜也「クソジジイ」





真姫「竜也…」











ミライ「射撃部隊!!後方から援護を!」



ミライ「クズどもを近づけるな!!」



「「了解!!」」



ミライの合図で、アサルトライフルを持った兵が一斉に十蔵、そしてその部下たちに射撃する。


このアサルトライフルには通常の銃弾ではなく、「Qバレット」と呼ばれる銃弾を使用している。


この銃弾ならグールを撃ち抜く事が可能なのだ。



十蔵「わたしの家族に…」


十蔵「手を出すなあああぁぁぁあッッッッ!!!」



十蔵の一撃が、大勢の捜査官を葬っていく。


しかし、それを止めるようにミライが一撃を加える。



ミライ「動きは遅いなッ!」


十蔵「ぐっ…!!」



ミライが攻撃を仕掛けると、その攻撃に割って入るように赫子が飛んできた。鱗赫だ。




咲夜「やらせないよ」



ミライ「やりごたえが…ありそうだ」















〜真姫と竜也〜




2人は西木野総合病院へ向かい走っていた。



真姫「ねぇ、竜也…」


竜也「どうした」




真姫「…私を憎んでる?」


竜也「…なぜ」



真姫「パパが…あなたにしたことを憎んでるなら、私も憎まれてるかなって」




竜也「…」




竜也「そうだな」



竜也「この体が元に戻ったら、酒でも飲みたいな」



真姫「…何よ急に」


竜也「そんときは奢れよ」



真姫「はあ!?あなたねぇ…女の子に奢らせる気!?」



竜也「んだよ文句あっか」


真姫「大アリよ!!」




竜也「…この力に満足した事はない。」



竜也「ただ…いらないと思ったこともなかった。」



真姫「…え?」



竜也「…急ごう」



2人は西木野総合病院へ走った。







〜西木野総合病院、正面〜




真姫「見えてきた…!」



竜也「廉藏はいるのか?」



真姫「この時間でも仕事はしてるハズ…」





竜也は足を止めた。


病院に入ろうとせず、後ろからついてきていた真姫は動揺した。



真姫「なんで止まるの…?」



真姫が視線を変えると、そこには入り口に立つ石川がいた。



そして…クインケを持った穂乃果、海未、にこ、凛、花陽。



石川「…こんばんは」




竜也「通ってもいいか?」



石川「悪いな、仕事なんだ」


石川「通すわけにはいかない。」




石川達はクインケを起動した。



それに続き、穂乃果達もクインケを起動した。



穂乃果「真姫…ちゃん」


凛「本当に来た…にゃ」



海未「…」





竜也「真姫」


真姫「何よ…」



真姫に話しかけると同時に、竜也は赫子を展開した。



刃のような赫子が、石川達に飛んでいく。





石川「ーーーッ!?」


石川「羽赫!?」




石川達は退く。


花陽「うわっ!」



穂乃果「みんな大丈夫!?」



にこ「大丈夫…よ」


凛「びっくりしたにゃ」



霧状の赫子を展開した竜也は真姫に言った。




竜也「先に行け」



真姫「で…でも」


竜也「行けッッ!!」




真姫「ーーッッ!!」




真姫は入り口へ一直線に走った。


しかし、それを見過ごさない人がいた。



海未「行かせませんッ!」



竜也「おっと」




海未が剣状のクインケを真姫に向け、振るうが竜也が邪魔をした。


竜也「行かせませ〜ん」




石川「…クソが」





竜也「あとでな、真姫」



真姫「…ええ、わかった!!」











〜西木野総合病院〜




真姫「パパは院長室にいるハズ…!!パパ!」



真姫は院長室に向かい、再び走った。






思えばどうしてこんな事になっていたんだろう。




母が死にかけ、



自らの身体が壊れ、



助けられ、出会い、奪われ、奪い…




この短い時間に、様々な経験をした。


愚かな自分を、責めていた。



変わりたかった。



変われなかった。




私は、全てを取り戻したい。


パパ…パパ!!






真姫「ハァ…ハァ…」



「西木野 廉藏」「院長室」


プレートがきらりと光る。


ここでパパを…捕らえて、


グールの身体を元に戻せば!!











ドアを勢いよく開けた、その先には誰も居なかった。



大きなテーブル、椅子。


西木野総合病院の地図、パパの肖像画…



真姫「嘘でしょ…?」




しかし、真姫は聞こえた。


かすかな空洞音が。



真姫「…なんだろ、この感じ」



父の肖像画をよく見ると、スイッチのようなものがあった。



躊躇なく、真姫は押した。




すると、壁が開き、新たな道ができた。




真姫「…この、先に…?」



真姫は進んだ。


「自分」を信じて。












「随分、早かったな」



「真姫」





真っ白な部屋。人が入れるようなカプセルがいくつもある。



その部屋に1人、白衣を着た男がいた。



ーーーー西木野 廉藏。



真姫の父であり、西木野総合病院の院長である。



真姫「パパ…!」



廉藏「グールになった気分はどうかな、真姫」





真姫「どうしてこんな事したの!?」




廉藏「…天才」


真姫「!?」


廉藏「人はそう呼ぶ。普通の人間にできない事を平然とやってしまう人間の事を」



廉藏「わたしはそれを目覚めさせたかった…それだけだよ」


真姫「ふざけないで!!」



真姫「じゃあ…グールって…!?」



廉藏「失敗作の一種さ」


廉藏「特別な能力に目覚められなかった、愚民たち…それがグール」



廉藏「だが…真姫。君は強制的にグールに目覚めさせた。」



廉藏「特別なグールにするために」



真姫「特別な…グール!?」






廉藏「…もうデータは取れた。」


廉藏「去れ、真姫」



真姫「何よ…パパのせいでこんな体に!?」


真姫「去れって言われて、ノコノコ帰れないわよッッ!!」




廉藏「…」



廉藏「わたしの言う事が聞けないのか…」


廉藏「そんな子は、わたしの子ではない」



廉藏「おいで、真姫」





真姫「私はパパを連れ出す…」


真姫「!?」








真姫は驚愕した。



鏡でも見ているのかと思った。






なぜならそこには、自分と瓜二つの人間が立っているのだから。



?「パパ…こいつを消せばいいの?」



廉藏「ああ…頼んだよ、真姫」



廉藏「紹介するよ、真姫のクローンだ。名前は…β(ベータ)。」



β「西木野…真姫」



廉藏「この技術を開発した時から、わたしは人間の世界で生きるのはやめたよ」



廉藏「世界を制する。それがわたしの役目だと。」



廉藏「言っておくが、βは強いぞ。感情のない殺戮兵器だからな」



真姫「…!?」



β「排除…開始」



βは背中から赫子を展開した。


真姫と全く同じ、赤黒い鱗赫だった。





廉藏は部屋の奥に進み、逃げようとしていた。



廉藏「わたしは先に失礼するよ、捜査官も来られたら困るしね」



真姫「!!待て…」


真姫「あぐっッッ!!」




廉藏を追う真姫。しかし、βが横槍をいれた。


鋭い赫子が、真姫の足をかすめた。




真姫「痛ッッ…」





β「パパの邪魔はさせない」





真姫は状況の整理が追いつかなかった。



だが、今何をすべきかはわかった。


自らのクローンであるβを倒し、廉藏を捕まえること。


それだけだった。











真姫「…う…?」





真姫は気を失っていた。


βとの戦闘により、真姫は負傷。


とても動ける状態ではなかった。



真姫「(ああ…私、負けたのか…。)」



真姫「(このまま、βが私として生きていくことになるのか…)」



真姫「(何も…できなかった…人としても、グールとしても…)」



真姫「(意識が朦朧としていくのがわかる。…ここで死ぬんだ、私)」



真姫「(ああ…ママ…)」



真姫「(お腹…空い…た…)」









β「まだ、動けるのね」



真姫は立ち上がっていた。


そうだ。忘れていた。


母の存在を、生死を。



まだ、希望はある。やるべきことがある。




こんなところで…



真姫「こんなところで死ねない…!!」


β「面倒ね…ッッ!!」



真姫「ああああああああッッ!!」


真姫は攻撃の仕方を知らない。


無造作に拳を振り続けるが、βにはかすりもしない。



β「鬱陶しい!!」



βが右ストレートを放つ。


真姫はそれを両手で受け止め、腕を掴んだ。







い た だ き ま す 。






β「ーーーーッッ!!!?」




真姫はβの腕に噛み付いた。


そして腕の肉の一部を噛みちぎった。



真姫「…不味い」


β「よくもッッ!」






真姫「…そうか、わかった。」



この力は、そうやって使うのか。

真姫は赫子を展開した。








ーーーーーー刹那。



わずか数秒の逆転劇だった。





βが勝ったと思われていた勝負は、真姫が逆転してしまった。


真姫は、βにまたがるように乗っていた。




β「…やっぱり、ダメだった」



真姫「…ハアッ…ハアッ…」




β「本当は…私が止めるはずだったけど、こんなんじゃ、どうしようもないわね」



真姫「…何よ…」



β「聞いて。グールはさらなる力を目覚めさせることができるの」


真姫「…?」



β「共喰いよ。共喰いで…グールの血は強まる」




β「私を喰べて」


真姫「!?…何よ」


β「パパを止めたかった…けど、こんな私じゃ止められない。あなた1人でもきっと止められない」



β「私を喰べて…より強いグールになるの」


真姫「出来るわけないでしょ、そんなこと!!」



β「グダグダ文句垂れてる暇はないの!!」


β「このままじゃ、パパは全人類を滅ぼしてしまう…!!」


β「パパを何としてでも止めないと、あなたの大切な友達も、家族もみんな失うのよ!?」



真姫「パパだって家族よ!!」



β「わかってる!!」


β「パパはもう、ヒトとして生きていくつもりは毛頭ない…そんな道に行ってしまわないようにあなたが”守る”のよ…!!」






真姫「…!!」



β「もうこれ以上、私達は失えない。わかっているでしょう?」



β「失うのが嫌なら、奪うしかないのよ…。」





真姫「大切な…家族を」





β「家族を」




真姫「友達を!」



β「友達を!!」



真姫「私の居場所を!!」


β「私達の居場所を!!!」






真姫「…私の居場所を汚す奴は、容赦しない。」



真姫「邪魔な芽は、摘まなきゃ…!!」





真姫の目は、もはや別人の目だった。


赫眼がハッキリと現れ、かつての真姫の眼差しはどこにもなかった。





β「…私達にそんな力がある?」



真姫「…ある」




真姫は、βにまたがったまま、βの首筋にかぶりついた。






真姫「私が」


真姫「私を越えればいい」





真姫はひたすら、βを喰べ続けた。



首を、腹を、腕を。


喰べ続けた。







「それで、いいのよ…私。




大切な物を守る為に、人は何かを奪わなければならない…。










ーーーーーーーー喰べて。」








真姫の髪の色は、より深い赤…



紅へと変色した。














真姫「私は…




…グールだ。」









〜十蔵、ミライ〜




ミライ「…あと…一息ッッ…!!」




十蔵「ぐっ…身体がもたないか…」


十蔵の身体はボロボロだった。


すると十蔵は戦闘中の部下達に命令を下した。







十蔵「息子たちよ…撤退しろぉぉっ!!!」





十蔵は部下たちに撤退命令をだした。



「「じゅ、十蔵さん…」」




十蔵「必ず、わたしは帰ってくる!!」





ミライ「逃すと思ったか?」




咲夜「うん」



咲夜が横槍を入れる。



ミライ「…雑魚の数稼ぎは十分か」



ミライ「…貴様らの首だけでも持ち帰ろう」







十蔵「…なあ、アンタ」



ミライ「…?」



十蔵「ここはわたしのアジトで…古い”廃ビル”なんだよ」





ミライ「…!!?」


ミライ「まさか…!?」



地面が大きく、揺れ動く。




「「ミライさん!扉が開きません!!」」


「「罠…だったのか!?」」



ミライ「ドアなんてぶち破れ!!…おのれ、”羆”…!!」



十蔵「…わたしの地獄旅行に付き合ってもらうとするよ」



ミライ「〜〜〜〜〜〜〜ッッッッ!!!」



ミライ「貴様らああああああああッッ!!!!!」





十蔵「…彩香…」


十蔵「すまなかった…」





十蔵達のアジトであった廃ビルはあっと言う間に崩れた。


そして十蔵、咲夜、ミライ達捜査官…


大勢の人間、グールが瓦礫の下敷きになった。







丸い満月が、その場を睨みつけているように輝いていた。










〜真姫〜






廉藏「…」


廉藏「よくβを倒せたな、真姫」




真姫の父、廉藏は非常出口の目の前にいた。


逃げ出す寸前だった。



真姫「パパを…止めに来た」



廉藏「馬鹿な真似はよせ、真姫」



真姫「竜也達のためにも…グールを元に戻す方法を聞き出すの」



廉藏「馬鹿な真似は…」



廉藏「よせ、と言っているだろうッッ!!!」



廉藏の背中から赫子が展開された。


しかし、その赫子は機械に近い形状をしていた。


廉藏はそれを鎧のように纏った。




廉藏「まきぃぃぃ…言う事がぁあ、き、聞けないのかあッッ!!」



真姫「…うん」



真姫「邪魔ね」





廉藏「マァァギィィィ!!!!」



機械を纏わせた腕を振り回す。


真姫を狙っているようだが、攻撃の筋はデタラメだった。



真姫は赫子を展開し、肩の付け根あたりを狙い赫子を伸ばした。



真姫「通った?」



廉藏「ニィィィ」



真姫「…浅いか」


真姫は廉藏の機械仕掛けの腕に殴られ、吹き飛ばされた。



壁に強く打ち付けられ、衝撃で部屋が揺れた。



廉藏「…ハア…ハア…真姫が…悪…い…」


廉藏「!!?!」







真姫「…痛いな」



真姫「次は…私の番」



真姫は4本の赫子を廉藏に向けた。


廉藏「まあああああぎぃぃッッッッ!!!」



再び腕を振り回す。


しかし、真姫にはかすりもしなかった。



真姫「…四肢」



廉藏「マアアアギィィィいいッッ!!」



真姫は廉藏の背後に回り込み、廉藏の背中に蹴りを入れる。



バランスを崩した廉藏に追い打ちをかけるように4本の赫子を突き刺す。




廉藏「がっッッ…」




廉藏は四肢を貫かれ、動けなくなっていた。



四肢を押さえつけられた廉藏は地面に倒れ、磔(はりつけ)にでもされているようだった。



真姫は廉藏の上にまたがり、廉藏に問い出した。



真姫「共喰いをすればグールの血は強まる…」


真姫「だっけ?」



廉藏「うっぐぐ…」




真姫「死にたくなければ全て話しなさい」



廉藏「ふ…ははははははッッ!!」



廉藏は大きな笑い声をあげた。


廉藏「わたしは…何も”知らない”!!」



廉藏「所詮は偽物…本物の足元にも及ばない!!」



真姫「…」


真姫「あなたはパパのクローンって…ことでいいのかしら」


廉藏「そう!!今お前がしていることは…無意味なんだよ!!」





真姫「なら殺しても問題ないわね」



廉藏「まっ…!?待て待て待て!!本物の居場所を知りたくないのか!?」



真姫「自分で探すわよ…そのくらい」




廉藏「嫌だ嫌だ…死にたくない!!」





真姫「私を殺そうとしたんだ」




真姫「私に殺されても仕方ない」



真姫「わよ」


真姫「ね」





















〜数週間後〜




石川「失った物が多すぎたが…その分、得た物もあった」



石川「ねえ、ミライさん」




ミライ「…ああ」


義足をつけたミライが頷く。



石川「先生、彼の…”タチバナ タツヤ”の使用許可を」






西木野 廉藏「…認めよう。」




廉藏「わたしのクローンの…元実験台らしいな」


廉藏「しっかり首輪をつけておけよ」



石川「承知しました!!」



ミライ「行こうか、石川。」


ミライ「私も新しいクインケが楽しみだ。SSSレートは伊達じゃないだろ」



石川「俺にも貸してくださいよー?”ヒグマ”」




ミライ「増産できたらな」



ミライ「ハハハッ…」













〜秋葉原、某所〜




ビルの屋上で1人、佇む(たたずむ)グールがいた。


そのグールは空に輝く月に向け、言った。





真姫「この世界は間違っている…」




真姫「歪めているのは…!!」







彼女の周りに、ヒガンバナが咲いた。…ような気がした。







End







後書き

来年もよろしくお願いします


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