2016-03-13 07:02:56 更新

概要

単冠湾泊地の裏山の入渠ドッグの噂…
誰も居ないはずの入渠ドッグに誰かが住んでいるという話が本当なのか第六駆逐隊のメンバーは調査に乗り出す…



このお話は書き終わりましたが、誤字脱字に気づき次第、修正をするので、更新する時があります。


↓読んでも読まなくても話は分かるので

前回の話

『青葉のカセットテープ集』




提督のモデルは某有名サイボーグから。


ちょびちょび更新中…



001


駆逐艦寮…


バンッ!?

暁「もう我慢の限界よ!!」


開口一番、暁は机を叩き自分の寮で思いっきり叫んでいた。


響「ypaaaaaaa!!!」ガスッ!?

暁「うりぃいいぃ!?」ガシャン!?


暁がいきなり叫んだ為、つい反射的にロシアンフックをかました響。顔面モロに入ったので壁の方にまで吹き飛ばされた暁…


tip

ロシアンフック

通常のフックを打つ際は腰の回転、いわゆる捻って打つ動作が必要になるのだが、ロシアンフックは肩の回転だけで打つ為、正面を向いたまま相手を殴る事ができる。



雷「カオスね…」


いまの状況を的確に表現した雷。


電「はわわっ!?暁お姉ちゃんが白目を剥いているのです!」ガスッガスッ!

そう言って、気絶している暁のお腹に蹴りを入れ始めた電。


雷「いや、ちょっ!?あんた何してんの!??」


電「蘇生作業なのです!」ガスッガスッ!


雷「蘇生どころか止めを刺してるじゃないのよ!やめなさい!」

そういって、すぐに電を暁から引き剥がす雷。


雷「っていうか、響お姉ちゃん!なんでいきなりロシアンフックとかするかなぁ?!」


響「いや、だって、私の隣でいきなり叫びだしたんだぞ?そりゃもう殺るしか

ないよ」


雷「発想が物騒!?」




数分後…


暁「ぅう…、ここは?」


雷「自分の部屋だから、自分の部屋で気絶してここは?とかじゃないから」


暁「確か私は誰かに襲われて…」


雷「暁お姉ちゃんは襲われたと思ってるんだ…」


響「おはよう。目が覚めたかい?」


暁「ひ、響…。うっ、なんか全身が痛い…」


響「私も心が痛い」




雷「…なにが?」

思わず呆れる雷。


電「良かったのです!暁お姉ちゃんが目覚めたのです!」


暁「う、うん…心配かけたわね…。えーとそうだ!私は我慢の限界だったんだ!」


雷「殴られたことよりそっちを優先したんだ…」


暁「私はいい加減あの噂を確かめようと思うわ!」


電「あの噂ってあれですか?」


暁「そう、あれよ。例の裏山の入渠ドッグの謎よ…」


tip

裏山の入渠ドッグの噂


この単冠湾泊地には基地の入渠ドッグと裏山にある廃墟の入渠ドッグがあるが、夜な夜なその廃墟の入渠ドッグでは使われてもいないのに明かりが点いているという噂が後を絶たなかった…


暁「廃墟の入渠ドッグで明かりが点いてるのを見た事があるのは、赤城さんと加賀さんだけ、だけど、探索に行ってないらしいわ」


響「ふーん…」


暁「だから、赤城さんと加賀さんから情報を得た後に夜に廃墟の入渠ドッグに突撃します!」


雷「はぁ!?馬鹿じゃないの!嫌よそんなの!」


暁「だって気になるでしょう!夜だけ点く廃墟とか!!」


電「電は別に気にならないのです…(正直怖い所は行きたくないのです)」


響「私は多少は気になるが行く気はしないな」


暁「どいつもこいつもヘタレね!レディとして恥をかくわよ!」


雷「じゃあ、暁お姉ちゃん1人で行ってくれば?」


暁「は?」


雷「私達別にレディとかこだわらないし」


電「なのですです!」


響「そうだね。1人で行けるよね?だって暁お姉ちゃんだもんね」


暁「はぁ?はぁあああああ!??おかしいでしょそれ!一番の姉が勇気を出して廃墟に行こうって提案してるのに、誰も付いて来るのはいないのかしら?!」


雷「行かないわね」


響「右に同じく」


電「行かねーよ…なのです!」



暁「こ、この薄情者共め…!」

誰か1人くらいはついてくると思った暁だったが、全然そんなことはなかった。


電「それよりも、遊ぶのです!ババ抜きで遊ぶのです!」


響「ババ抜きは金剛さんに失礼だよ電、せめてジジ抜きにしよう」


雷「いや、響お姉ちゃんが失礼だから…」


暁「あんたら遊びに逃げてんじゃないわよ!入渠ドッグの謎を解明する方が面白いでしょうが!」



雷「うう…、手札が6枚…」


電「後4枚なのです!」


響「5枚か…」


暁「無視すんな!!」


3人「「「ちっ」」」




暁「こ、こいつら…。はい、今から聞き込みするから準備して!!早く!」



こうして、半ば強引に暁は響、雷、電をつれて、赤城、加賀が居る寮に情報を聞きに向かった…






002



正規空母寮…



赤城「加賀さん加賀さん」


加賀「はい、なんでしょう?」


赤城「呼んだだけです」


加賀「そう…」シュン…


赤城「いや、冗談ですよ!あとで御飯を食べに行きましょう」


加賀「行きましょう!奢ります」ふんすっ!


赤城「え、そんな〜悪いですよー」


加賀「赤城さんの幸せは私の幸せなので」


赤城「じゃあ、遠慮するわけにはいけませんねー」


加賀「というか、赤城さんの幸せを邪魔する奴は殺します」


赤城「いや、殺したらダメですよ!?」


加賀「私の想いは法律を超えるので」


赤城「超えたらダメですからね?!」


加賀「いつでもどこでも見守りますので、安心してください」


赤城(愛が重いです)


コンコン…


赤城「空いてますよー」


暁「失礼するわよー」


加賀「本当に失礼ね、駆逐艦如きが私達の部屋にくるなんて」


基本的に加賀は、赤城との時間を邪魔をする艦娘にはこれでもかという程に嫌味を吐く。


暁「あんたも大概だからね…、それよりも、私達は赤城さんと加賀さんに話があるのよ」


加賀「私達にはないわよ」


暁「いちいち突っかかるのをやめてくれないかしら…」イライラ…


その嫌味の性格を知っている為イライラが募る暁。


暁の心の中ではレディだから落ち着けと自分に言い聞かせ我慢をしている。それが、どこまでもつかは知らないが、そうしないと耐えていられないのだ…


赤城「話というと…、やはりあれですかね?裏山の入渠ドッグの噂」


響「そうだね。暁お姉ちゃんは今日はそれを解明したくてしょうがないらしいウザい」


暁「雑な悪口を挟まないでくれる?!」


電「電も大変なのに暁お姉ちゃんは面倒なのdeath死ね!」


暁「今、2回言った!?お姉ちゃん泣くよ!!」


第6駆逐隊というのは暁が1番の姉だが、姉妹の中では1番ウザい扱いされている。今のアニメでいうおそ松さんの次男カラ松である…


雷「ま、それで今日は話を聞きに来たわけ」


赤城「そうなんですかー、いやぁ。私は実際に目撃してますからね。廃墟ドッグに明かりが点いているとこ。あれは怖くて眠れないくらいです」


加賀「赤城さん、今日は添い寝しなくて良いでしょうか?」


赤城「今日は、じゃなくて今日もでしょう?ちょっと私もいい加減1人で寝たいですね」


加賀「そ、そうですか…」


暁「でも、赤城さん達なら調べそうだけどね、廃墟ドッグの中」


赤城「いや、それは無理ですねぇ…、知っていますか?裏山では、青葉さん、大鳳さんが夜間に見回りをしているのを」


暁「見回りねぇ…、それも噂程度ね」


加賀「青葉はどうでもいいけど、大鳳さんまでもが見回りをしているのは流石に異常だと思うわ」


電「じゃあ、大鳳さんに問い詰めれば…」


加賀「大鳳さん、青葉さんは不活動組なの。決まって言い訳をするのよ。夜の散歩って、でも、裏山付近しか散歩していないし、それは散歩じゃなくて見回りと同じなのよ」


赤城「ですよねー。私達正規空母部隊でもあまり大鳳さんと関わることがないですし…」


加賀「苦手なのよ、あの人…」


暁「加賀さんがそんなこと言うのは珍しいわね」


加賀「私の他人カテゴリは苦手、嫌い、障害物に分けられているのよ」


暁「ロクなの無いわね…、ちなみに瑞鶴は?」


加賀「ゴミね」


暁「他人カテゴリの枠を外れた存在!?」


それほどまでにも加賀は瑞鶴の事が好きではない、だが、デレる時はデレる。それが加賀なのである…


加賀「余計なお世話よ」


電「な、何がですか?」


加賀「こっちの話よ…」


赤城「ところで、第6駆逐隊はどの時間に裏山に行こうと考えているんですか?」


暁「夜の0時頃?」


赤城「ちょうど良いですかね」


加賀「そうですね」



電「なにかあるのですか?」


赤城「深夜2時頃に廃墟ドッグは光っていたので、0時に行っても期待はできないと思います。もしかしたら、遅く廃墟ドッグに着けば良いかもしれませんね」


暁「でも、そうなると外出禁止時刻にあたるんじゃ…」


単冠湾には外出禁止時刻というのがある、しかし、適用されるのは駆逐艦のみである。良い子は早く寝ろと長門秘書艦の提案なのである。



赤城「やるなら徹底的にやるべきです!謎の解明はそれくらいやるんですよ」


雷「うわぁ…、行きたくないわよ…」


電「その時間は完全に寝てるのです…」


加賀「今から深夜まで寝て準備する事ね」


赤城「で、1番の問題はあの2人の見回りをどう掻い潜るかですね」


暁「いつまで見回りしているのかしら?」


赤城「夜の10時から朝の5時くらいまでですね」


暁「それ本当なの?いくらなんでも本気過ぎない?」


赤城「そうなんですよね。廃墟ドッグ如きでそんなに警備する理由はないんですよね。明らかに異常なんですよ」


響「別に夜にしなくても、昼に突撃すれば…」


加賀「昼は昼で厄介よ。廃墟ドッグ近くで夕張と明石が作業してるし」


暁「なんでまた…」


加賀「新作の武器の開発と試射をしてるわ、まぁ…最終的には廃墟ドッグを守ってるのが主になってるんだけど」


暁「ますます怪しいわね」


赤城「廃墟ドッグ前で作業されちゃ、入る機会さえないですからねー、入るチャンスは深夜の裏山警備を掻い潜って浸入するくらいですね」


暁「やっぱり夜しかないのね…」


加賀「…私達も廃墟ドッグの事は気になるわ、何か企みでもあったら大事よ」


赤城「ですね、あからさまに怪しいですし、見過ごすのもダメですからね」


加賀「長門秘書艦は忙しいから行く暇もないし」


赤城「だから謎の解明のためにも私達も協力をしましょうかね!」


暁「えっ?本当に!」


赤城「ええ、本当です。大鳳さん辺りだけでも足止めしますよ」


暁「どうやって?」


赤城「緊急で空母の会議をするんですよ。議題はなんでもでっちあげてですね」


暁「なるほど…」


赤城「夜の10時から深夜0時までは足止めをするんで、第6駆逐隊は0時になる前に裏山に入って廃墟ドッグを目指してください。多分廃墟ドッグには1時過ぎまでには着くと思うので」


加賀「その後は、廃墟ドッグの中を徹底的に探索しなさい。何か怪しい物とかあったら持って帰ってちょうだい。そしたら朝一番に長門秘書艦に報告するわ」


電「あ、あの…」


加賀「なにかしら?」


電「物じゃなくて、得体の知れない化け物とか居たらどうすれば…」


暁「…」

響「…」

雷「…」


廃墟ドッグに何があるかわからないので、化け物が居る可能性もある。そうなると危険なのは駆逐艦なのだ。その可能性に気づいた第6駆逐隊は少し心配になった…


加賀「…」

赤城「…」


ちなみに、この2人はそんな可能性は考えていなかった…


赤城「…頑張ってください」


暁「ちょっと!?」


電「うぅ…、行きたくないのです…」


暁「仕方ないじゃない!誰も行かないんだから!この噂をまともにしてるのは私達くらいよ!」


響「だな。みんなは噂は好きだが、調べるまではしないもんね」


雷「でも、危険なのは確かよね…」


赤城「じゃあ、念の為に…」


と言い、赤城は懐ろから小さな艦載機を取り出す。


赤城「これ、私に向かって飛ぶ小型艦載機です。もし危険な状況に陥った時は飛ばしてください。直ぐに駆けつけるので」


暁「あ、ありがと…、使わないことを祈るわ」


それを受け取る暁。化け物の事を考えている為か、その手に汗が滲んでいた…


赤城「では、今日の廃墟ドッグ探索の為にお互い頑張りましょう!」


暁「やってやるわよ!!見てなさい、レディとして私達第6駆逐隊が謎の解明を成し遂げてみせるわ!」


響「本当酷いとばっちりだけどな」


暁「余計な事言わないでよ…」


雷「でも、やるしかないわね」


電「頑張るのです!」


暁「みんな、無事に帰るわよ!」


駆逐隊「「「「おー!!」」」」




正規空母寮外…


青葉「ほほぅ?良い事を聞きました…」


たまたま空母寮を通りかかったら面白い話をしてるじゃあないですかぁ…


これは廃墟ドッグでアレが見つかるのも時間の問題ですねぇ…


仕方ありません。予定より早いですが…あの人には頑張ってもらいますか。


青葉「くっくっく…」


第6駆逐隊の賑やかな声と対照的に静かな笑い声をだす青葉であった…






003



夕方、裏山の入渠ドッグ…


青葉「えー、今回緊急で召集をかけたのはこの入渠ドッグに夜に調査しようとする輩がいる事をお伝えしに召集をかけました。ここで、問題となるのは、我々の現在秘密にしている『彼』の存在がバレてしまうことです」


大鳳「それは困ったわね…、思ったより早い突撃ね」


青葉「現在の彼の調子は?明石さん夕張さん」


明石「まぁ、ぼちぼちですね。完全な状態ではないけどある程度は動作しますよ」


夕張「でも、加速装置はまだ試作段階ね。今、できそうなのはちょっとした加速と探索能力、擬態能力くらいね」


青葉「ふむ…、充分ですね」


大鳳「どうすんのよ青葉、第6駆逐隊が来るなら追い返した方が良いんじゃないの?」


青葉「…いえ、私達が追い返したところで入渠ドッグに突撃されるのも時間の問題ですねぇ。なので、本日付けで彼の保護は打ち切りたいと思います」


大鳳「はぁ?なにを考えているのよ。もし、今日見つかって、長門さんにバレたら解体の可能性だって…!」


青葉「させませんよ。解体される可能性があるとしたら、彼の能力が艦娘以下の場合ですよ、今日彼にはちょっとした試練をやってもらいますよ」


明石「試練ですか?」


青葉「はい。彼の動作も完璧ではないのでね、ここで見つかるような存在なら解体は免れませんねぇ…、だから、彼には誰にも気付かれずにこの裏山から脱出していただきます」


夕張「最低限の能力を測るのね」


青葉「そうです、試練の開始は第6駆逐隊が彼を保護している部屋に入った時点でスタート、そして、試練の終了は朝の5時までに執務室に入室すること」


大鳳「ちょっと待ちなさいよ、第6駆逐隊が部屋に入った時点て…」


青葉「ええ、それくらいが丁度いいですよ」


大鳳「そんな無茶な…」


青葉「無茶だと思いますか?夕張さんが先ほど申し上げた通り、彼には擬態能力があります。なにかに擬態しつつ、部屋から脱出すれば問題ありませんよね?」


大鳳「それはそうだけど…」


夕張「まぁ、良く言うじゃないピンチはチャンスって。ピンチになればなるほどアピールできるチャンスなのよ」


明石「ま、単冠湾の新たな発展の為ですし。彼には期待しないと!」


青葉「彼がこのドッグを脱出して、裏山の麓まで降り、誰にも見つからずに朝5時までに執務室の椅子に座る。なかなか面白い筋書きですよねぇ…、今の内に朝刊でも書きますかねぇ〜」




単冠湾に急遽現れた提督、着任す。




青葉「こんな感じでよろしいでしょうかぁ?彼、もとい。提督」

そういって青葉は部屋の隅に視線を向ける…




提督「…いいよ」

彼、もとい提督は、部屋の隅で三角座りでずっと居たのだ。



大鳳「あれ?あれあれ?提督って喋れるようになったんですか」


夕張「いやぁ、苦労したのよ!言葉を喋らせるのに1週間、会話できるようになるまでに2週間!」


明石「艦娘と違って建造された時点では喋れなかったですもんね」


大鳳「知能の方はどうなのさ!」ワクワク、ドキドキ…


夕張「知能はそうね、麻雀はまだ無理そうね」


大鳳「ショック!?」


夕張「あんたの基準は麻雀で測るのかよ…」


大鳳「だ、大丈夫ですからね提督!私が教えますから!」


提督「あはは…、期待?してるよ」


青葉「いや、麻雀よりも提督としての知識を持って欲しいものなんですがね…」


大鳳「細かい事は良いのよ、楽しくいかないと!」


青葉「楽しくするのは構いませんけど、試練を突破しないと意味ないですよぉ?…で、どうです提督。できそうですか?」


提督「…どう、だろうね…」


夕張「まぁ。解体処分になったとしても私達がどこかに逃がしますよ」


提督「それは、困る…な」


明石「…?」


提督「だって…ここ、は…とても、賑やかで、楽しそうじゃ…ないかな?」


青葉「…」


提督「ここを、離れるのはちょっと…嫌、かな」


青葉「…大丈夫ですよ、提督。青葉はこの試練を無事終了することを信じてますよ〜」


大鳳「そうそう、楽勝ですよ絶対できますよ」


明石「なんかフラグっぽいですよ、それ…」


青葉「とにかく、明日の行方は提督次第なんです。我々の出る幕はないです。では、そろそろ解散しましょうかね。今日から裏山の見回り、入渠ドッグの保護も打ち切り。各自、自由に活動してください。1ヶ月の短いようで長い期間でしたが、皆さんのご協力感謝します。以上解散!…提督、ご武運を…」



提督「…みんなの期待に応えるよ…!」


こうして、青葉達は提督を入渠ドッグに残し裏山を降りた。提督は深夜に突撃する第6駆逐隊に備え、1人部屋の隅で待ち続ける…

誰にも見つからずに執務室に向かうのが提督の最初の任務。変わった任務だが、仕方がない。彼はただの提督ではなく。夕張達の技術で建造された、『造られた提督』なのだから…





004




夜0時前、裏山麓…


暁「よし、赤城さん達のおかげで大鳳さんと青葉さんが居ないわよ!」


電「青葉さんも足止めするとは思ってなかったのです!」


暁「どうやったかは知らないけど好都合!安心して廃墟ドッグに行けるわ」

第6駆逐隊は知ることはないが、青葉は明日の朝刊(提督の事)の記事の制作作業で忙しいのだ。


雷「あ、あとは化け物が居ないのを祈るだけね…」


響「大丈夫だよ、もしもの時は暁お姉ちゃんには生贄になってもらうから」


暁「なんで!?」


響「レディだからね」


暁「あんたね、なんでもかんでもレディで通ると思ったら大間違いよ…」


電「もしもの時はその艦載機を飛ばせば問題ないのです!」


暁「っていうか、駆逐艦が艦載機飛ばすとかどうよ…」


響「秋津洲が甲標的積めないってどうよ…」


暁「秋津洲さんは関係ないでしょうが!私が言いたいのは、駆逐艦は艦載機飛ばせないのに、なに飛ばせるようになってんのよ!」


響「私も言いたいことはある。秋津洲さんは水上機母艦なのになぜ甲標的を積めないんだ!」


暁「もうお前黙ってろ!!」


電「このまえ電も秋津洲と戦ったらワンパン余裕だったのです!」


響「あのロシアンフックはなかなかのキレだったよ。ハラショー」


暁「あんたら本当になにしてんの?!あと呼び捨てやめろ!」


tip

頑張れ秋津洲


秋津洲は冗談抜きで能力がよろしくない。なので、一部の駆逐艦からも舐められている。(このssの舞台では)


だが、最近の秋津洲もトレーニングを始めたようで毎日10km走り、腕立て、腹筋、スクワットを100回しているそうだ。秋津洲本人は「これなら1年後にはどんな相手もワンパンかも!」

と、能力上昇しはじめていると思ってるらしい…




雷「はいはいはいはい、喧嘩はやめる。時間が過ぎるから、早く山登って廃墟ドッグに突撃するわよ」


暁「…分かってるわよ、無駄な時間を過ごす気はさらさらないからね」

こうして、4人は最初の方は進みが悪かったが、順調に山を登りはじめていた。



裏山山中…


暁「暗いわね…」


響「照明灯持ってきてよかったね」


暁「それどっから持ってきたのよ?私は改二じゃないから照明灯なかったのよね」


響「鹿島さんから借りてきた」


暁「…窃盗?」


響「違うよ。こたつでうとうとしてる鹿島さんに照明灯借りて良いか聞いたら『うぅ…ん』って言ったから借りさせてもらったよ」


暁「それ絶対良くないよね。私知らないわよ」


響「私も知らない」


暁「あー、もう!なんで私の姉妹は問題ある奴しかいないのかしら!」


電「人の事いえねーのです」


雷「そうね」



たわいのない話をしながら、少しずつ進んで行く4人。そろそろ目的の入渠ドッグに辿り着こうとしていた…



深夜1時過ぎ、入渠ドッグ前…


暁「あ〝ー…疲れた…」


電「足がガクガクなのです…」


雷「疲れたわ…」


響「もう疲れたから帰って良いかい?」


暁「いいわけないでしょ!とにかく突撃するわよ!」


雷「待ってよ暁お姉ちゃん!突撃とか危ないわよ、こっそりと潜入任務のように入るのよ」


電「た、確かに。化け物を起こしたら電達は食べられてしまうのです…」


暁「あっ」

化け物の存在を忘れてた暁。そう考えると突撃というよりも、こっそりと探索した方が安全な確率はあがるというものだ。しかし、入る場所は建物。逃げる場所が限られている為、危険な事には変わりないのだ…


暁「そうだったわね…、入り口から入るとしても、安全を確保してから進むわよ。全ての扉は開けておくこと。いいわね」


電「了解なのです!」


響「今更だけど、1つ聞きたいことがあるんだ」


暁「ん?なに?」


響「なんで、裏山に入渠ドッグがあったんだろう?」


暁「あー…それね。確かに、裏山のこんなところに入渠ドッグはおかしいわよね。なんか昔秘密裏に行われた建造があってさ、大和さん居るでしょ?」


響「居るね」


暁「ここで、大和さんは修理とかしてたそうよ」


響「ふーん」


暁「ついでに言うと武器とかもここで作ってたらしいし」


響「じゃあ、もしかしたら秘密裏に新しい艦娘がいる可能性も考えられるね」


暁「…どうかしらね。だいぶ昔の話だし、今更秘密裏に艦娘を建造するかしら…」


響「それも、調べればわかるよ」


暁「そうね。じゃあ行くわよ…」


ギギッ…


古い扉なので鈍い音を立てながらゆっくりと開いていく。4人は廃墟ドッグでなにを見つけ出すのか…








005



廃墟ドッグ内…


暁「カビ臭いわね…」


何年も使われてない為か、床はギシギシと軋み、壁はボロボロ。その上内部は日が当たってないのでとてもカビ臭かった…


電「まるで暁お姉ちゃんみたいな匂いなのです…」


暁「泣くよ?」


響「君達、余裕があるね…そんな軽口を叩いてると足元をすくわれる…」バキッ!?


電「…」


響「…」


響が注意する前に、床が腐っていたため響の踏んだ床が壊れ文字通り、足元をすくわれてしまった。


響「助けろ」


電「な、なのです…」グイッ…



雷「緊張感欠けるわねぇ…」


傍目で見て呟く雷。いつものことなのでもう慣れたが。



暁「…む、扉が2つ。どっちにしよう」


電「右なのです!」


雷「左が良いわね」


響「じゃあ左かな?」


暁「ふーん、でも右の方が気になるわね」


電「じゃあ左が良いのです!」


暁「嫌なの?そんなに私が嫌いなの?!」



響「よし、左から行くぞー」ガチャ…


暁「ちょっ、おま、勝手に開けんてんじゃ…」


雷「うっ…」


電「油臭いのです…、まるで暁お姉ちゃんみたいな匂いなのです…」


暁「しつこい!いい加減読んでる人も呆れるわよ!」


響「はいはい、メタメタ」



左の部屋は機械などが置いてあるが、なんの機械なのかは、駆逐艦達にはさっぱり分からなかった。

その機械には油が大量に付いてる為か、油臭さとカビ臭さが混じって長くは居られないような匂いになっていた。


電「ちょっとこれは探索どころじゃないのです…」


雷「あっ、やばい吐くかも」


暁「あーもう、勘弁して!」バタンっ!


つい、勢いよく扉を閉めてしまった暁。静かな場所の為、思いっ切り周りに音が響いた。


ガタンッ!?


暁達「!?」


右の部屋から何かが動いた音がしたので、少し驚いた暁達…


暁「今、音したよね?」


雷「…そ、そうね」


響「じゃあ、次は右の扉を開けるのか…」


電「暁お姉ちゃんが開けるのです!」


暁「私?!」


電「化け物の生けに…電達を守るのが暁お姉ちゃんの仕事なのです!」


暁「生贄とか言おうとしたよね?」

電が口を滑らせた言葉を聞き逃さなかった暁。思わず眉をひそめるが、実際のところみんなを守る為に開けるつもりだったが、少し萎えてしまった…


暁「まぁ、いいわよ。開けるわよ…」ギギッ……




…右の部屋はとても綺麗だった。カビ臭い匂いもせず、床は新しく、物は整理整頓されていた。まるで、誰かが最近住んでいたように…


でも、人の気配は無かった…


暁「綺麗ね…」


電「カビ臭くないのです!」


雷「変よね。だってこの部屋だけ綺麗とか誰かが片付けないとこうならないわよね」


響「青葉さん達かな?」


電「秘密基地とかあこがれるのです!」


暁「秘密基地ならねー…」チラッ…


暁が見た方向には、単装砲、46cm連装砲、電探、弾薬、鋼材、ドラム缶などなど。秘密基地にはあまり似つかわしくない物が多くあった。


電「あっ。大きな魚雷なのです!」


暁「えっ?どこよ?」


電「ドラム缶の横に…あれ?な、ないのです」


暁「電の見間違いじゃない?」


電「確かにあったのです!」


暁「私は見てないけど…」チラッ…

もう一度先程の場所をチラ見する暁。先程と変わらず46cm連装砲、電探、弾薬、鋼材、ドラム缶…


暁「…あれ?単装砲が無い?」

先程まで、単装砲があったはずなのだが、いつの間にか消えていたのだ。


暁「ねぇ、ここに単装砲あったよね?」


響「いや、見てないから知らないよ」


雷「暁お姉ちゃんの気のせいでしょ」


暁「そんなはずは無…」


ビュオオオ!!!

いきなり部屋の中で突風が吹き荒れ、様々な物が飛び、そして…



バタンッ!!?


暁「ひぃ!?」

風の勢いで、開けた扉も閉まってしまった。


響「…」ガタガタ…

いきなりの出来事に少し震える響。


電「部屋の中で風が吹いたのです…、窓とかこの部屋にはないのに…」


雷「ど、どうせ扉の外からでしょう?」


響「い、いや。それはあり得ない…」


雷「なんでよ!」


響「この部屋の扉は内開きだった。もし、扉の外から風が吹いても扉は内開きだから、風が吹いても部屋の中の壁にぶつかるはずなんだよ…、もしこの部屋の扉が外開きだとしても物が飛ぶ前に扉が先に閉まらないとおかしい」


現に、部屋の中の物が飛びかった後に、部屋の扉は閉じているのだ。これは、4人全員が体感している為、間違えようがないのだ…


暁「な、なんなのよこれは…」


響「暁お姉ちゃん。その艦載機貸して…」


暁「えっ?」ブンッ…


響「わぁあああああああ!!!!!」ドタドタドタ!?ガチャ!バタンッ!!


暁「ええええっ!!?」

いきなり響から艦載機を奪われ、逃走した響に驚く暁。そしてすぐさまその逃げた響の後を追う暁。


電「ちょっと電を置いていかないでほしいのですぅ!!」


雷「私もよ!待ちなさいあんた達!!」


一斉に部屋から飛び出る暁達。もはや、潜入がどうとか、床の軋みとかは気にしていなかった。それよりも、先程起こった不可解な出来事に恐れたのだ。早く出なければ、その目的が暁達の一番優先する事だったのだ。



狭い通路を走り、床は割れ、壁にぶつかり、服が汚れてもお構いなしに走り続けた、扉を開け、扉を開け、扉を開け…?


こうして、外に脱出する際にも1つの疑問が暁の脳裏に過る…

その疑問を口にだすよりも早く暁達は廃墟ドッグの外に脱出した。


響「助けて赤城さぁあああんんん」ブンッ!!

すこし、錯乱していた響は暁から奪いとった艦載機を放り投げ赤城に救援要請を送った。


雷「響お姉ちゃん落ちついて!」

響が錯乱していたので、急いで落ちつかせようとする雷。すこしずつだが、響も落ちつきを取り戻そうとしていた。


暁「……」ダラダラ…


電「ど、どうしたのですか暁お姉ちゃん?!凄い汗なのです!!」


暁「ね、ねぇ…電。私は確か言わなかったっけ?全ての扉は開けっ放しにするって?」


電「ええと…、言ってたのです」


暁「言ったわよね。さっきまで響を追いかけていたから気にしてなかったけど。響は逃げた時、扉を開けて、開けて、逃げてたわよね?」


響「そ、そうだけど。何か問題でも…」


暁「開けっ放しにしておいたのに、なんで『扉が閉まっていた』のかしら…?」


響「………あっ」


そう言われてやっと、謎の疑問に気づく響。だが、それと同時にまた恐怖も現れ、目の前が真っ白になった…


ガクリ…


電「あっ、響お姉ちゃん!?」


雷「響お姉ちゃんが気絶したぁ!!」


あまりの恐怖に気絶した響に取り乱す雷と電。


暁「一体なんなの…」


もはや、疑問を考える力はなくその場にへたり込む暁。いま、頭の中にあるのは赤城達が救援に駆けつけて欲しい願いしかなかった。もう、廃墟ドッグは私達にはどうすることもできないと、暁の中で悟ってしまったのだ…







006





電「あっ。大きな魚雷なのです!」


暁「えっ?どこよ?」


不味いな…、魚雷に擬態…したけど。調べられるな…。解除して、単装砲だけでも持って、いこう。

で、側面の壁に擬態しながらゆっくり、ゆっくり…



電「ドラム缶の横に…あれ?な、ないのです」


暁「電の見間違いじゃない?」


電「確かにあったのです!」



ゆっ…くり、ゆっく…り…


暁「…あれ?単装砲が無い?」


暁「ねぇ、ここに単装砲あったよね?」


響「いや、見てないから知らないよ」


雷「暁お姉ちゃんの気のせいでしょ」




ま、不味い。流石にここまで不自然が、続くと、駄目だよね…

急ごう…



加速装置…!(一瞬しか使えないけど…)



暁「そんなはずは無…」


ビュオオオ!!!



tip

加速装置


夕張と明石が造った機能の1つ加速装置。

未完成ではあるが、数十メートルの距離ならば一瞬で移動できる。

先程の突風は、加速装置の使用した際に発生した突風衝撃波である。

夕張はそのうち改良して、長時間使用可、なおかつ衝撃波を減らそうと考えているようだ。


tip

擬態能力


造られた提督の機能の1つ。一度見た物は自由自在に変化できる。壁などに張り付いたりすると、身体が壁の模様と同じになり背景として機能する。ただし、誰かが提督に触れたりすると擬態は解除される。あと、擬態継続時間は5分。




バタンッ!?



…とりあえずは、脱出出来たかな。…扉が全部開いてるな…、一応閉めておこうかな。


ガチャ…ガチャ…ガチャ…




よし…、外に出たぞ。確か、青葉さんが執務室を目指せって言ってたな。

えーと、あの建物、かな?



提督は裏山の頂上から単冠湾の基地を確認した後、駆け足で山を下っていった。


山道は暗いのだが、提督の身体の機能には暗視ゴーグルのような機能も付いており、道を迷うことはない。


こうして、順調に山を下っていったが、途中で何かが飛んでくる音が聞こえた。


ブォオオオォォォン……




…ん?何か聞こえた?でも、鳥とかそういう音じゃなくて…。艦載機?



音が聞こえた方向をちらりと見るとそこには小さな艦載機が提督が向かう建物と同じ方向に飛んでいだのだ。



くっ… ガチャ…


思わず手に持っていた単装砲を構える提督。先程廃墟ドッグに入ってきた子達が飛ばしたのだろうと察し、撃ち落そうと考えたが…



できない…、こんな時間に砲撃は不味い…よね。出来るだけ穏便に済ませて建物に入りたいし…


そう思い、構えた単装砲を下ろし、建物に向かっていく艦載機を眺める提督。

艦載機が建物に着いたら、誰かしらが応援に駆けつけるかもしれない。だが、それでも、見つからずに進むしかないのだ…



応援が来る前に、出来るだけ、下っておかないと…


提督は急いで山を下って建物にどんどん近づいていった…







007





午前3時半過ぎ


裏山入り口前…


建物までは後、数十メートルもないけど…

誰かが向かって来てる…しかも、2人…


提督は裏山を下ることが出来たが、入り口から出ることが出来なかった。提督の探索能力で誰かが向かって来ている事が分かった。



tip

探索能力

提督の機能の1つ。半径30メートルの範囲にいる生き物の動きを全て察知する事ができる。機能のON.OFFが可能である。

欠点は、その探索能力は動いている生き物にしか反応せず、その場に止まり続けている生き物には反応しない。




赤城「艦載機発艦!不審な人物を見つけ次第射撃開始!」


加賀「同じく、発艦。…索敵を怠らないように。見つけ次第爆撃」


ブォオオオン…


ブォオオオン… ブォオオオン…


ブォオオオン… ブォオオオン…

ブォオオオン…

ブォオオオン…


赤城、加賀の放ったたくさんの艦載機が裏山に向かって飛んでいく。

本来、艦載機は山に向かって飛ばすものではないが、赤城と加賀の技術力は森の中でたくさんの障害物があっても、当たり前のように飛ばせるのだ。




多いな…、だけど。これさえ乗り切ればあとは執務室に入るだけだ!



提督はとりあえず、擬態能力を使い、木に擬態してその場をやり過ごそうとしたが…


加賀「…何かの気配がするわね。爆撃」



ドォオオオン!!!


…うわっ!?

咄嗟に加速して爆撃を躱す提督。


…擬態してもバレるのはキツイね…




加賀「…?」


赤城「どうしました加賀さん?」


加賀「何かの気配があったので爆撃をしたのですが、手ごたえがありませんでした…」


赤城「そうですか…」


加賀「私の気のせいでしょうか…」


赤城「いえ、気のせいではないと思います」


加賀「何故?」


赤城「先程の爆発で私の艦載機が何機が撃墜されたので」


加賀「…まさか」


赤城「確実に誰かいますね。ただ、気がかりなのは…」


加賀「何かの気配しかしないって事ですね」



…思わず、単装砲で艦載機を撃墜しちゃったけど、もう穏便に済ませられそうにないね、これ…


実際、艦載機の飛び交う森の中を見つからずに進むのはいくら提督でも難しいことである。

穏便に進むつもりだったが、もうそれは不可能なようだ。



今は、この場所から脱出しないと…

こうなったら…


提督は覚悟を決め、単装砲を構える。

この場所から脱出する方法は1つ。全ての艦載機を撃ち墜とし突破するしかない…



覚悟は出来た。後は…



提督「勇気だけだ!!」ガチャ!!




ドォオオン!!?

バゴォォオ?!バキバキバキ!?

ブォオオオ……グシャ…!


赤城・加賀「!?」



突然森の中から砲撃の音に驚く赤城達。砲撃の音の他に、艦載機が墜落する音や、森の木々がへし折れる音が混ざり合い森の中はさながらゲリラ戦が起こっているようだった…


加賀「くっ…4機撃墜されたわ…」


赤城「こっちは6機堕とされた…、でも。この砲撃音は単装砲?」


加賀「第6駆逐隊の子達でしょうか?」


赤城「そんなはずはないですよ、加賀さんは第6駆逐隊の気配を感じましたか?」


加賀「いえ、全く。彼女達なら、何らかの応答があるはずです。しかも、今感じている気配は艦娘ではなく…」


ドグォオオオ!?


赤城「くっ…、本当に単装砲の攻撃なの?さっきからほとんど攻撃を外してないわよ!?」


加賀「艦爆を持ってきたのが間違いでした…、すいません赤城さん。役に立てなくて…」


赤城「いえ、それは問題ありませんが…、加賀さん。その気配のする相手に爆撃は当たりましたか?」


加賀「それが…、手ごたえもなく、その上。気配のする場所が一瞬で変わるので攻撃が撃てません…」


赤城「そんな馬鹿な…」


バァアアアンン!?!メキメキ?!


2人が謎の気配、もとい提督に翻弄されている間にも艦載機はどんどん墜落していく…




加速装置! そこだ!


ドォオオオン!?


提督は加速しつつ、艦載機に狙いを付けられないように、一機ずつ仕留めていた。


単装砲は、威力は高くないが重さはあまりなく非常に扱いやすい為、提督がよく使う武器に選ばれていた。


何故、こんなにも艦載機に狙いを定め墜落させられるかというと、大鳳が廃墟ドッグに遊びに来ては艦載機を飛ばして撃墜させる訓練をさせていたからだ。

本当のところは、サイボーグとしての機能を楽しみたかっただけで艦載機を飛ばしていたのだが、まさかこれが役に立つとは提督自身も思っていなかった。



…加速装置は、次までにもう少し…時間が掛かる。ここは、探索能力で周りの状況を確認しよう…


提督は近くの草むらの陰に隠れると、探索を行った。自分の周りには艦載機は12機とわずかの気配だが、赤城と加賀の2人が森の外にいる事が分かった。




赤城「もともと補給していないので、艦載機の残りが少ないですね…」


加賀「私も、補給をするのを忘れていました」


赤城「こういう時に限って忘れるのよねぇ…次から気を付けよう…。加賀さん、艦載機の残りは少ないのでここは一機だけ森の中に探索をさせて、残りは上空から砲撃しましょう!」


加賀「わかりました」


赤城「上空からは何も見えませんが向こうも同じ。森の中の艦載機が何かの気配を感じ次第そこに集中砲火を浴びせます。下手な鉄砲数撃ちゃ当たるって奴です!」


加賀「良い作戦です。では、赤城さんの艦載機を森の中に配備し、残りは爆撃部隊がやります。裏山の被害は知ったことじゃありません」


赤城「ガンガン行きましょう!」



後がない2人は攻撃を一点に集中させ、一気に決着をつけようとしていた。



一方提督は…



…1機だけ森の中に配備?

残りは上空に飛んでいった?


…1機は囮で残りは上空から攻撃ってところかな…


提督の探索能力により、相手がどこにいるのか判るので、赤城達の作戦は既に見破られていた。



これはチャンスかもしれない。1機だけなら見つからずに突破できる…!


ブォオオオン…


こっちに来てるな…、加速して無理矢理突破して、森の外の2人をどう撒こうかな?…擬態能力に頼るかな。上手くいけば良いけど!


提督「加速装置!!」カチッ…



加速装置の発動は提督の歯の奥歯を噛み締めることで発動する。わざわざ加速装置を言わなくてもできるのだが、まぁそれは漫画とかでよくある必殺技を言いながら攻撃するようなものと同じであえて分かりやすくしているのだ。



ビュオオオオオオ!!!森の中に強烈な衝撃波が起こる…

バキバキと音が鳴り、目の前の艦載機も強烈な衝撃波で吹き飛んでしまった。

だが、それをみすみす逃す赤城達ではない。


赤城「急に艦載機が吹き飛ばされた?!」


加賀「周辺を爆撃!外すわけにはいかない…」


ブォオオオン…ブォオオ…

ブゥウウンン…


ヒュゥ…ヒュゥ…

ヒュゥ…ヒュゥ…


ズガァアアアアァアアアアンン!!?!?


艦載機が吹き飛ばされた地点にありったけの爆撃をかました加賀。威力はその爆撃地点にクレーターが出来るほどの大きさだった…



赤城「やったかしら…?」


加賀「…」フルフル…


自信なさ気に首を振る加賀、加賀には一切謎の気配に当てたという自信がなく、外したという自信の方が強かった。


加賀「艦載機の維持も限界なので、ここで艦載機を全て回収、格納します…」


赤城「分かったわ、同じく艦載機を格納します…。で、謎の気配は…」


加賀「完全に見失いました。爆撃に集中していたので…」


赤城「どうしようかしらこの状況…、森はボロボロにしちゃったし、艦載機はごっそり堕とされたし…」


加賀「…この結果は恥ずかしいですが、まだ残っていることがあります」


赤城「そうね。第6駆逐隊を助けてないわね…、加賀さん!裏山の廃墟ドッグに突撃します!」


加賀「はい。気を付けながら進みましょう…」


赤城「謎の気配はしなくなったし…、少し怖いけど救出を優先しないとね」


加賀「そろそろ4時半ですね…、早めに戻り長門秘書艦に報告しないといけませんね」


赤城「そうね、いつどんな危険があるかわからない状況ね…」


加賀「では、行きましょう赤城さん」


赤城「ええ」



ザッザッザッ…


2人の駆け足は裏山の方に消えていった…



ガサガサ…

提督「…ふぅ。近くの岩に擬態したけど、気付かれなくて良かった…」



提督は森の入り口近くにあった岩に偽装していた。艦載機には、気配を感じ取られても、艦娘には気配を感じ取られなかったのでギリギリ助かることができた。



ここに居ても危険だね…、早く、建物に入って執務室に辿り着かないと…

残り30分。充分時間はあるけど、気は抜けない…



提督「急がないと…」


そう言うと提督は単冠湾泊地の建物に突入した…







008






単冠湾建物内...

      

青葉「おや、提督。よくここまでたどり着きましたねぇ」


建物に入ってすぐに提督が視覚で捉えたのは廊下の壁に背中を掛けている青葉の姿であった。


提督「あれ?青葉。こんなところで何をしているんだい?」


青葉「いえ、ね。先程裏山の方で爆撃の音がしましてね、気になって廊下にでてみたんですよぅ。そしたら案の定提督達が色々してたのでそれを窓から眺めていたんですよぉ!」


提督「流石にまずかった、かな...」


青葉「いえいえ、派手で構いませんよ、見つからなければ良いので!ああ、ちなみに私はノーカウントですから」


提督「そうじゃないとここで終わりだしね。でも爆撃の音が聞こえたのなら、他の人も気付くと思うんだけど...」

そうなのだ、普通に考えてあれだけ大きな音がすれば大体の人が起きるはずなのだが、建物内は明かりも点いておらず青葉を除いて誰も廊下に出ておらず、提督はその点を疑問に思っていた。


青葉「ごもっともな疑問ですね。実はこの建物は防音設備が備わっていましてねぇ、外部の音はほとんど遮断されるんですよ」


提督「じゃあなんで君は外の音が聞こえたんだい?」


青葉「超地獄耳なんですよねぇ...(まぁ。外に盗聴器を仕掛けているからですけど)」

...と見え透いた嘘をつく青葉。


提督「それは凄いね...」

そんな嘘を普通に信じる提督。


青葉「でしょう...」


提督「今度から気を付けよう...」


青葉「そうですね。気をつけるのは構いませんが、それよりも今は執務室に行くことです」ガサガサ...

そう言いながら取材バッグから何かを取り出す青葉。


提督「?」


青葉「執務室の鍵です。朝5時までは鍵が掛かっているのでこの作った合鍵(無許可)で開けてください」ジャラ...


提督「うん、ありがとう。じゃあ、行ってくるよ」ッタッタッタ...

鍵を受け取ると、駆け足で廊下を走っていった。


青葉「ええ、期待してますよ...、執務室の前は彼女がいますがねぇ...」

少し心配な声で呟いた青葉は、遠くから提督を見送るのだった...




午前4時50分執務室前...




長門「うむ、今日も良い朝だ。もうそろそろ朝日が昇る時間も早くなるはずだが…、まだ暗いな」


長門は、提督の居ない代わりに提督兼秘書艦として活動しているので、毎日この時間に執務室に来ているのだ。


提督(…背が高い人だな…。ガタイも良いし。あれが青葉さんの言っていた提督(仮)か…)


提督は見つからないように、擬態機能で壁に張り付いて長門を観察していた。提督にとって、最大の試練である。もうすぐ執務室に入ろうとする長門に対して、どうやって見つからずに尚且つ先に入れるのだろうか提督は悩んでいた。

だが、提督が悩んでいる間に長門が少し不思議そうな顔で廊下を眺めている事に気づいた。


長門「そこの壁から気配がするが…」

少し眉をひそめて、警戒しだす長門。

長門は数々の激戦を潜り抜けており、他の艦娘とは違い、気配に敏感になっているのだ。


コツ、コツ…


執務室の扉に手をかけるのを止め、提督の擬態している壁に近づく長門。背中からゆらゆらと何かが見えるくらいの恐ろしい殺気と共に…


提督(まずい…、少しずつ動くか…)


そう考え、僅かに提督が移動し始めたその時。


タッタッタ!


長門は僅かに気配が動いたのを感じ、即座に提督の擬態している壁にダッシュで近づき…


長門「ふんっ!!」シュッ…


ほぼノーモーションで左拳を壁に殴りつけた。


ズガァアアア!!!


ピシッ…


ピキ… ピキピキ


ミシッ…


壁はまるで窓にヒビが入ったかのように大きく割れてしまった…、ただ壁を殴っただけなのに天井近くまでヒビが入った壁。長門の拳を食らってしまったら一体どうなるのだろうと提督は恐怖した…


提督(あ、危なすぎる…!?)


長門の殴った拳の僅か隣に顔があった提督。もし、当たっていたら顔は潰れていたかもしれないと思うと想像しただけで震えが止まらなかった。



長門「…?気のせいか?」


割れた壁など気にせず、ぽつりと呟く長門。気配を探すも、先ほどの気配は感じず、また眉をひそめていた。


気配が消えるのも無理はない。提督も自分の命が本気で掛かっているのだ。ほとんど提督の身体は機能を停止し、スリープモードに切り替えたのだ。擬態機能だけを残して。この場はこれで凌ぎ長門が離れるのを待つしかない…



長門「…最近疲れているのかもしれないな。今度、間宮のところでデザートでも食べるか」


気配が感じたのは、普段自分がいつも働いていたためその疲れからきているのだろうと自分でそう思い納得した。そして、結論付けると再び長門は執務室の向こうに戻りはじめる。



スリープ解除…


長門が数メートル離れたのを見計らいスリープモードを解除する提督。



提督(時間がない。もうすぐ彼女は執務室に入ろうとしている。急いで誰にも見つからずに執務室に入らないといけないけど彼女がそれを邪魔している。なんとしてでも先に入らないと…。やっぱり最後は力強くしかないよね)


目を伏せこれから行う行動を決める提督。


失敗は許されない。一度きりの行動…

提督は一瞬で長門の距離を詰めるために加速装置を起動させた…



加速装置…!



提督「うおおおおぉぉぉ!!!!」


全力で叫び長門の背中に向かって加速する提督。


長門「…!?」


いきなりの叫び声に一瞬その場で怯む長門。その一瞬の隙を提督は逃さなかった。

長門が振り向く前に提督は、背中に抱きつき、そのままバックドロップを決めようとしたが…


提督(お、重い…)


少し失礼だが、長門はとてもじゃないが提督の腕力では、持ち上がりそうになかった。…艤装の所為だからね。体重ではない。



長門「貴様…!誰だ!?」


そういって、後ろを向こうとするが、抱きつかれているので振り向けない。

長門は、力強くで提督を引き剥がそうとする。だが、なかなか剥がれずに苦戦している、今は剥がれなくとも時間がない。この状況はピンチであった…


提督「…」


提督は夕方頃の会話で夕張が言っていた臺詞を思いだしていた…



『ピンチはチャンス』


このピンチな状況をチャンスに変える可能性。提督は考える、力が足りないのなら力を増やせば良い…!



提督「…ごめん」


長門「なん…」


なんだと?そう言い終わる前に長門の目の前の景色は大きな衝撃と共に逆さまの景色に変わってしまっていた。


長門「ぐはっ…!?」



一体何が…?そう考える前に長門は地面に倒れ、意識を失った…



加速装置は移動だけの手段ではない。


あれだけ素早く動くには、移動に(動く際)耐久性、とてつもなく大きな力が必要になるのだ。


加速装置は自分の動きを素早くするものであり、攻撃を躱したり、自分が攻撃する際に加速して攻撃に重みを与えたりする事もできる。


提督は、バックドロップをするのに力が足りなかった為、加速装置の力を借りバックドロップの動作を行ったのだ。






提督「ここまで加速装置に頼るとは思わなかったよ…、本当にごめん…」


そう言って提督は、フラついた足取りでポケットから青葉に貰った合鍵を取り出し執務室の扉の鍵穴に差し込む。



ガチャリ…


軽い音がし、執務室の扉は開かれた。



提督「この試練。長かった…!」

そう言うと、ゆっくりと執務室の中に入っていった。




午前5時。新しい夜明けと共に新しい提督が現れ、この単冠湾に新たな日常が始まろうとしていた…






009


今回の廃墟ドッグ探索と事件のオチ



朝から単冠湾の空からたくさんの紙が降り注ぐ。それは、大鳳が艦載機に青葉の書いた記事を積んでおり、それを特別朝刊としてばら撒いていたからだ。



号外

『単冠湾に急遽現れた提督、着任す。』


この記事を拾った艦娘達は様々な反応があった。

嘘だと考える者、本当だと思った者、執務室に向かう者…


青葉の記事は大体が胡散臭いので単冠湾全体で混乱が起きていた。

だから、大体の者は真実かどうか確認に執務室に向かっていった…


そして、あの廃墟ドッグの騒ぎに関わったメンバーも執務室に向かっていた。




響「昨日は怖かったよ…」


暁「私はあんたの行動が怖かったわよ」



赤城「でも、昨日今日で色々な事件がありますね。もしかして、私達が戦った相手は提督じゃないかしら?」


加賀「可能性はありますね。廃墟ドッグに関わった青葉、今日の号外を配布した大鳳…、彼女達が隠していたのはこの為じゃないでしょうか」


赤城「うーん…。そう言われるとそうよね」


電「化け物みたいな提督じゃなければいいのです…」


雷「ま、まさかね…」


そういった会話を続けていると目の前に執務室の扉が見えてきた。

数メートル先にはヒビの入ったボロボロの壁も見えていた。


暁「…」


響「やっぱり帰ろう、私達は食べられるかもしれない」スタスタ…


ヒビ割れた壁を見て、そそくさと帰ろうとする響。


電「逃がさないのです!!」ガシッ!?


響「ぐぁああアアアア!!?離せぇええええ!!」


雷「ここまで本気で嫌がる響お姉ちゃんは久々ね…」ガシッ!!


そういって、2人で響の両肩を掴み引きずる雷と電。


暁「…やれやれ」

そんな光景を見て少し恥ずかしくなった暁であった…




執務室


コンコン…


提督「…どうぞ」



暁「失礼するわ!」


響「…ば、化け物じゃない?」


提督「え?あぁ、うん化け物ではないかな?」

実際のところは化け物じみているが…



赤城「あの時と同じ気配…、じゃあ私達が戦ったのはやっぱり」


加賀「すみません。いきなりで申し訳ないですが、秘書艦の長門さんが見当たりませんが?」




青葉「長門秘書艦ですか?彼女なら、入渠ドッグで修復中ですねぇ」


執務室のソファにはくつろいでいる青葉の姿があった。


加賀「あなたも随分と偉くなったものね。いつから執務室のソファに座れるようになったのかしら」


青葉「いえいえ、勝手に座っている訳ではありませんよぉ。提督に許可は貰っているのでね」


加賀「いきなり着任してきた彼を提督と呼べと?」


青葉「仕方ないじゃないですかぁ、どこの鎮守府、泊地もいきなり着任してますからねー」


加賀「…本当かしら」


いまいち納得のいかない加賀。


赤城「長門さんには提督着任の許可をとっているのですか?」


青葉「ああ、それは心配いりません。現在進行中で提督着任の手続きを行っているので。別に長門さんの許可がなくとも大丈夫ですので!」


赤城「いや、それ大丈夫じゃないんですが!?」


青葉「もし、この提督が着任した際には裏山の破壊の件をチャラにしますよ?」


加賀「それは…」

裏山の森はボロボロになっており、片付けにかかった費用は全額その破壊した本人に請求される。もし、請求されると加賀は問題ないのだが、赤城にとっては大問題である。食事代が減るので死活問題と言っても良いくらいだ。


赤城「ぜひ提督を着任させましょう!!」

食事を最優先にとった赤城であった…


加賀「赤城さん…」

あまりの即答に少し絶句する加賀。




青葉「では、決まりですね。さて、これから忙しくなりますねー!!」


電「これからどうなるんですか?」


青葉「それは提督の方針次第ですねぇ」


雷「普通の方針なら良いのだけれど…」


電「なのです」


執務室は不安や期待、不満などが渦巻いていた…





急遽現れた提督。単冠湾は新たな道に進む…

これから、提督には様々な問題を抱える事になるのだが、提督はどう乗り越えていくのだろうか。艦娘達は提督の為にどう手助けしてくれるのだろうか…




青葉「それはまたお話できる機会に」


大鳳「最後の最後でそれですか…」





おしまい。


このSSへの評価

6件評価されています


NRHRさんから
2021-05-18 02:20:35

SS好きの名無しさんから
2016-11-16 23:16:13

SS好きの名無しさんから
2016-03-10 17:45:09

SS好きの名無しさんから
2016-02-14 11:50:27

SS好きの名無しさんから
2016-02-02 17:59:59

SS好きの名無しさんから
2016-01-31 12:59:11

このSSへの応援

3件応援されています


SS好きの名無しさんから
2016-03-10 17:45:06

SS好きの名無しさんから
2016-02-14 11:50:19

SS好きの名無しさんから
2016-02-02 18:00:01

このSSへのコメント

1件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2016-02-01 17:34:07 ID: 1YbTayMO

暁型で一番ウザいのは雷だと思うだが?
雷>>>>>>暁>響=電


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください