2017-04-28 07:30:32 更新

概要

作者のオリジナル兵器と艦これの二次創作です
(原作本編から数年前くらいの設定です)


※SSですが字の文があります
※推敲中ですので、途中改変がある場合があります


前書き

オリジナル用語説明

「Bipedal of aviation weapons」
・人と同じ二つの脚部を有する航空兵器(有脚戦闘機)。
深海棲艦が誘導兵器を無力化する事が判明してから一時的に発展したが、後に艦娘に戦力は変わった。
外見は戦闘機の下方に脚部を付けたようなシルエット。コクピットは装甲に覆われ、機体上面に取り付けられた頭部によって周囲の情報を得る。
脚部と胴体の大推力ブースターで他の航空機を圧倒する三次元機動力を有し、推力のみで飛行可能だが、主翼と尾翼は残されることになった。兵装は胴体と主翼に装備する。
100mm以上の口径を基本口径に出来るほどの大火力を有していたが、艦娘の登場でパイロット共々立場を追いやられる。
現在は高い電子性能を活用して偵察が主な任務となったが、後に全ての機体の解体を予定。
略称は頭文字をとって「Boaw」
日本軍では有脚戦闘機と総称するのが一般的である


「唯」
・機体の制御、操縦、攻撃を補助し、パイロットの負担を極限まで軽減する事で短期の訓練を受けたパイロットでも戦闘可能にし、戦力を増やす作戦で開発された試作高性能電子人工知能。
音声認識によってある程度のコミュニケーションを可能とする。
開発終了後、実戦データを基としてBoawや様々な兵器に搭載する事を計画していたが、試作コンピューターである唯が、とあるBoawに搭載されてから艦娘が登場。
艦娘の戦力を考慮すると、これ以上Boawを発展させるのは無駄と判断されて開発は中止された。
だが、とあるBoawに搭載された唯は、そのパイロットである主人公と共に学習し、計画されていた能力を越える知能を獲得。
同時に、徐々に先進していく唯に主人公は依存していった。


「Arrow隊」
・主人公が所属していた空軍特殊部隊。正式名称は日本空軍戦術戦闘航空団第三特殊攻撃戦隊。
どの味方機よりも先に戦地へ突入し、敵艦隊の撃沈非撃沈関係なく、波状攻撃を終えたらすぐさま帰投する電撃攻撃部隊。
正に弓から放たれる矢の如く高速で過ぎ去り、味方が撃墜されようとも関係なく帰投する為、他の部隊から酷く嫌われている。
現在では廃れて、ただの海上偵察部隊に成り下がっている。
物語本編ではあまり関係しない。
運用している機体はF/A-25 ウンディーネを改造した機体。


出会い







高度14000m、速度920km/h。

太平洋の水平線と晴天の大空が混じる景色が見えるこの高度で、俺は操縦をオートに任せ、ただ頭部カメラからの情報を見詰めていた。

こんな生活が続いているのはいつからだろうか。偵察という空を飛ぶだけの仕事を毎日繰り返し、操縦は戦闘用の超高度人工知能「唯」に全て任せ、自分はただ景色を眺めているだけ。そうだったな、艦娘という者達がいきなり登場し、戦力を主張し始めた頃から続いていたな。

人間が海を滑り、戦艦の主砲と同じ威力の砲弾を飛ばし、総合的な能力は既存の兵器を超越しているとかだったな。当時は全く理解出来なかったが、今では当たり前の事になった。こんな事が当たり前となって良いのか知らないが、そんな事は自分にはどうでもいい。

俺は、この大空を唯と共に飛べればそれで良い。艦娘が戦おうが、戦局が転ぼうがどうでもよい。最後に唯と共に堕ちるのならばそれで良いのだ。

自分はいつからこんなに機械を信用し始めたのかは忘れてしまった。だが、この自分がこんなにも関心を示し、尚且心を置いているのだ。これが運命だったのかも知れない。


コンピューターに予め記録された偵察ルートを自動操縦で巡航し、さっき唯から任務完了と知らせてくれた。



大尉「今日も頭を出さなかったな。帰還するぞ、中尉」



後席のフライトオフィサが呟く。それを聞き流し、俺は指令室へ通信する。



主人公「こちらArrow隊一番機、偵察ルート完遂」



主人公「敵情報、確認できず。これより帰投する」



音声を聞いた唯が、自動操縦で帰投ルートに移動。

ここまで自動で出来るなら無人で良いだろうとよく思う。



唯が状況を安全と判断したのか、いつもより低い空を飛んでいる。

高度は1000m。これだけ低いと、海の波がよく見える。

また二時間も景色を眺めなちゃいけないのか。まぁ、唯と共にならば苦ではない。

部隊じゃ「Boaw」の全面的な解体が噂されているが、そんな事はありえない。

そんな事をしたらパイロットはどうするんだ。飯を作る班にでもなるのだろうか。

だとしても、今の俺には関係ないな。

そう一人で思考していると、レーダーにボギー。唯が警告。

大きさからして駆逐艦だ。俺は司令室へ通信。



主人公「こちら一番機、唯より緊急。帰投ルートにボギーを発見。駆逐艦と判断」



中佐「こちら司令室。敵情報を照合しろ。対処はそれからだ」



主人公「了解。カメラによる画像認識を行う。マスターアーム・オン。エンゲージ。接近開始」



中佐「見たことも無い奴なら素直に逃げろよ、潰すのは艦がやる事だ」



主人公「分かってる。」



通信を切る。

最近のBoaw、もとい有脚戦闘機の機動力なら目視距離まで接近しても弾は当たらない。特にスーパーウンディーネは特別だ。一定時間のスーパークルーズに、頑丈な機体から生まれる加速力と格闘性能。どれをとっても最高の機体だ。唯はこんな機体に搭載されてさぞ幸せだろう。


唯がレーダーにボギーとの距離を示す。数値が徐々に小さなっていき、モニターに警告。

唯が画像認識を始めた。そして始めたと思った頃には完了していた。情報は指令室とこちらのモニター両方に送られる。



中佐「こちら司令室。情報を受け取った。」



主人公「こちら一番機、唯より。了解」



中佐「待て、送られてきた画像に何か映っている」



フライトオフィサは息を詰まらせ、その言葉に返した。



大尉「なんだと?」



中佐「詳細を確認した。その影は艦娘だ。攻撃中止」



俺は徐々に鮮明になるモニターを見詰める。確かに、敵艦の近くには人影があった。

艦娘ならばこちらが手を出すまでもない、と思ったがどうも様子がおかしい。

130mm砲ポッドの火口は既に敵艦を補足しているが、この距離では直撃の衝撃を受けてしまうだろう。



中佐「こちら司令室。情報を確認した。彼女は金剛だ。高速戦艦の金剛」



大尉「あいつがか。ならば彼女に任せれば良いだろう?」



中佐「詳細な理由は後に説明する。彼女を避難誘導し、救出しろ」



大尉「戦闘機でそんな事は出来ない。」



中佐「それでもやるんだ!」



無茶を要求する彼に対し、俺は割り込む。



主人公「唯に判断させる。」



どうしようもない。断念した俺とフライトオフィサは唯に打開策を質問する。

唯は無機質なデジタル文で、「敵性艦の迅速な沈黙が有効」と答えた。やがて唯が自動操縦を解除。俺はそれに答えて操縦悍を握りこんだ。

スロットルレバーを押し込んでA/B、1000km/hを突破。大きくなっていくモニターに表示された深海棲艦の姿。

目標との距離300m。機体を急速に上昇。速度が400km/h台まで一気に落ち込み、物凄いGが俺の体を押し潰す。そのまま高度2600mまで引き上げ、VTOLスイッチを押し込む。脚部が展開され、サイドスティックの仕様が変更される。

やがてカーソルが真っ赤に染まった。俺がボタンを押さずとも、唯が自己判断して130mm砲ポッドを発射した。

機体右腹部といえるハードポイントから発射される130mm砲弾。機体が大きく揺れ、二度目の射弾観測が始まる。合計3発目の徹甲弾を撃ち出したと同時に狙撃ポイントから離脱する。機体を下へ傾けて、急降下と同時に敵艦の撃沈を確認。



中佐「何をいきなり攻撃を開始している。避難誘導はどうした」



指令室から警告が来た。そういえば、そうだったな。

だが、この艦娘は戦艦なのだろう。130mm砲の直撃の衝撃くらい何て事もないんじゃないのか。



主人公「唯に判断させた、仕方がないだろう。見ろ、ちゃんと生きている」



俺は返した。



中佐「生存を確認。だが、今回は命令違反以前の軍法会議ものだぞ。どうお前を庇えというのだ」



友人は頭を抱えているのだろう。だらけてしまった思考のせいか、その様な事を考えていなかった。



大尉「しかし、だな。」



中佐「早く帰ってこい」



主人公「こちら一番機、唯より。了解、戦闘区域から離脱。帰投する」



VTOLを解除して操作方法を戻す。

唯は自動操縦に切り替わり、帰投ルートへ早々と進行を切り替えた。

高度を上げながらミリタリー推力で500km/hを到達、加速が緩やかになる。煩かったレーダーには一つの熱元体しか表示されていなかった。

金剛とか言ったな。聞いたことはあるが、確か廃れた鎮守府に所属していた艦娘だったな。他の鎮守府への移転を何度も命令されているが、頑固に拒んで留まっているんだとか。


そんな事、俺には関係ない事だ。今後関わる事も無いだろう。




緊急が割り込んだ偵察任務から二日後。自室で俺はある男を待っていた。

少佐。俺がBoawパイロットとなり部隊に配属された時、部隊の司令官だった男だ。今は中佐になって暇な生活を送っているのだろう。

俺は珈琲をテーブルに置く。彼は冷めた珈琲が好きだ。たまにレモンを入れて飲んでいたりするが、流石に趣向が合わない。

ソファに座り、テレビを付ける。その時インターホンが鳴った。








中佐「あの任務の時はやってくれたな」



主人公「……」



彼は珈琲を啜る。



中佐「まぁ、こんな話をしに来たんじゃない」



主人公「説教じゃないのかい」



中佐「昇格の話だ」



彼は珈琲を置き、顎をさする。軍法会議と脅された次は昇格の話だと。

俺は組んでいた足を直し、彼に真っ直ぐ体を向けた。



中佐「二階級特進だよ」



主人公「特進?」



中佐「そうだ」



主人公「どういう事だ」



中佐「昇格といっても、何だろうか。落ち着いて聞いてくれ」



流れ聞こえる言葉に頭が混乱して来ているが、俺は一つ深呼吸をして彼の目を見つめた。



中佐「前の偵察任務で救出した艦娘に関係する事だ。本来なら避難誘導も無しに攻撃を開始するのは軍法会議だ。お前は今頃尋問されているだろう。だが、お前が救出した艦娘。そうだ金剛だ。彼女はあの鎮守府から出ようとしないのは知っているな?」



主人公「あぁ」



中佐「彼女があそこから出ない理由はただ一つだ。あの鎮守府にいる艦娘は彼女だけではなく、他にも何人かいる。あの鎮守府は主戦力を保有していた鎮守府の一つだったが、後に前線が移るにつれて鎮守府にいた主力艦も他の鎮守府へ異動していった」



中佐「そして今、あの鎮守府にいるエースは彼女と加賀という正規空母のみ。この二人のうちどっちかが他の鎮守府へ移ったら、あの鎮守府は取り壊されるだろう。それを察している彼女は、自分達の想いが詰まったあの鎮守府を捨てる訳にはいかないと、そう決めてあの鎮守府から出てこようとしないんだよ」



主人公「それで、空軍をやめてそこの鎮守府に着任しろと。」



中佐「そうだ。話が早い」



俺は、思っている言葉を全てが吐き出す。



主人公「冗談じゃないぞ、中佐。なんで俺があの鎮守府へ行かなければならない。フライトオフィサの大尉に向かわせれば良いだろう。軍法会議を避けたからそのお返しだ、とでもいうのか?そもそも、その金剛という奴はあの海で何をしていたんだ。そこのエースだったんだろう。駆逐艦程度捻り潰せた筈だ!」



中佐「落ち着け、落ち着くんだ。中尉」



彼の冷静な声。俺はいつの間にか立ち上がり、息を荒げたいた。

俺はゆっくりとソファに座り、もう一度彼に答える。



主人公「辞任だ」



中佐「そうするとお前は軍法会議だ」



彼の返答。俺は、今までにこんなに友人に怒った事はない。



中佐「……すまないな。中尉」



彼は珈琲を飲み切り、俺を見つめた。



中佐「唯以外に、お前を必要としてる者がいるんだよ。それを理解してくれ」



俺を必要としている。唯以外が俺を必要とするだと。有り得ない。



主人公「…自分がやった非だ。分かった。その話を飲み込む」



中佐「彼女達を頼むぞ、今、頼りになれるのはあんたしかいないんだよ。」



今は励ましの言葉も、嫌味に聞こえる。

 


主人公「30歳も越えてない男が頼りになるだって?」



中佐「……それも、そうだな。すまない」



主人公「なんで、上官のあんたが謝るんだ」



中佐「もういい。深く考えるな、早く準備しておけ。以上。」



二人とも敬礼。

彼は式の事や出航日を言い残し、早々と去っていった。




やがて、日が経って、決別の日がやってきた。

俺は今日から空軍をやめて海軍の鎮守府を保有する司令官として生きる事になる。

世間的には大出世だ、だが俺は許せない。確かに自分がやった事だ、軍法会議は誰だって避けたい。だがその軍法会議を取り消す代わりに条件を差し出して来るなんて軍部は腐っている。

そもそも俺に指揮能力がある訳ではない。俺はただのパイロットだ。そんな奴を数埋めに使うなんてどうかしている。

質が売りの日本軍はどこへいった。


俺は本当に少佐になったんだろうか。肩と胸に垂れる装飾に、その派手さを際立てる純白の制服。だが、今自分が立っている場所を確かめると、空軍をやめて海軍へと堕ちたのだと確信する。

薄汚れたボートが何隻が泊まっている港、そこに大きな客船が入り込んだ。様々な顔をした将校に導かれ、俺はその港へ足を着けた。

冷たいコンクリート。それがこの鎮守府の第一印象だ。ショルダーバックを持ってきた将校に会釈をし、俺は鎮守府を目指す。


この小島につくまで何時間たったのだろう。出港したのが午後を越えていた、まだ夕陽は見えない。

ショルダーバックの重みと、今、自分が向かおうとしている場への嫌悪が俺の足を一層重くさせている。

何故自分がこんな事になるのだ。何故埋め合わせなんかで羽根をもがれなきゃいけない。俺はただのパイロットなのに、空を飛びたかっただけなのに。

空を望む奴が海に落ちた。なんて皮肉だ、空軍から海軍へなるのもそういう事だ。

くそったれ、と心の中で悪態をつく。そう想って足を進めていると、建物が目に映った。



そうか、今日から俺はあそこに閉じ込められるんだな。

だが決心はつけない。俺はまた唯と共に空を飛ぶのだ。飛んでみせるのだ。

だから俺は扉を開ける。そうだ、俺は唯と共に空を飛ぶパイロットだ。海に堕ちてなんていられるか、何か理由をこじつけてまた空軍に戻ってやる。


決心を付けて扉を開ける。そして目の前に広がった光景は



「提督、着任おめでとう御座います!」



数人の少女、女が俺に向かって敬礼していた。

中佐は出港する時に言っていたな。彼女たちがこれからお前の唯となると。

彼女たちが唯?違う、そんな事は認めない。


唯は、唯だ。










ファーストコンタクト










右手に持っていたショルダーバックを床に起き、俺も彼女たちに敬礼を返す。海軍式の脇を締めた敬礼ではなく自然と体に叩き込まれた空軍式の敬礼。

俺の敬礼を見て眉を潜めた者もいたが、此方はつい三日前までは空軍のパイロットだったのだ。癖というものは簡単には消す事は出来ない。

数秒の敬礼の後、腕を戻して床に置いていたショルダーバックを肩に掛けて廊下を歩み始める。地図は貰っているから案内は不要だ。

俺は目の前の彼女達を無視し、無言で執務室へ向かった。




思っていたよりも狭い廊下を渡った先に目的地はあった。

丁寧に執務室と扉に板が掛けられいた。ドアノブを捻って中に入ってみる。以外と広いな、流石そこら辺は空軍とは違うという訳か。憎たらしい。

真っ直ぐ視線を向けた先にある机にショルダーバッグを起いて俺は部屋の中を捜索し始めた、まるで爆弾を探すように。

御丁寧に机やら箪笥は残っていた。だが中は全て空っぽだ。別に何かを期待した訳ではないが、何かが残ったままというのもそれはそれで問題だ。

部屋を大体把握すると、今度は一番大きくて物が置かれている机に近寄った。さっきバッグを置いた机だ。それにしてもここにいた提督はさぞ評価が良かったのだろう、廃墟当然というものの随分と設備が整っているじゃないか。そう思いながら引き出しをしらみ潰しに開けては中を確認していった。


そんな引き出し探索も終わり、バッグから荷物を取り出していたところだ。扉が開いて誰かが入ってきたが別に誰だろうが今は関係ない、きっと客船にいた将校だろう。振り向かずに荷物を取り出す作業を続けた。

どちらも無言で事は終えるかと思っていたが、そういかなかった。どうも足音が軽い。そう感じていると後ろから声を掛けられる。



「あ、あの」



若いな、若すぎる。子供か。そうか、ここは子供もいたんだったな。

子供に一々構ってなんかいられない。どうせ残った海兵の子だろう。こんな所に残していくなんてさぞかし冷たい親なのだなと思う。

俺はそのまま無視して作業を続け、今度は衣類を自室へ運ぼうとバッグを背負った時、俺は振り向いた。

そこにはセーラー服を着た少女がいた。やはり子供じゃないか。着せる物が無いのか?それでも自分の制服を着せる事はないだろうに。

構う暇なんてない、そう思わせるように足音をたてながら扉まで向かった。するとまた声を掛けられた。



「司令官!」



司令官だと。何を言っているのだこの子供は。

何かそういう知識がついて、そういう単語を言ってみたい年頃なのは分かるが、そんな遊びに大人を付き合わせないで欲しい。

そう想いながらドアノブを捻った瞬間だった。



「と、特型駆逐艦の1番艦、吹雪です!宜しくお願いします!」



……駆逐艦?

俺はその言葉に惹かれ半分まで開けたドアから手を離す。

もう一度その子供を見つめると、端正に顔が整い一般的には美少女と言えるのだろう少女が真剣な眼差しでこちらを見詰めていた。



主人公「君は」



吹雪「はい!初めまして。って、さっき会いましたけどね!」ニコッ



一つ笑顔を作り、少女は答えた。


そうか、こんな幼き少女が艦娘なのか。見たところ15歳を越えているかどうかだ、そんな華奢な存在を兵士として扱うべきなのだろうか。

俺は唯と共に様々な戦況を見てきた、その中に艦娘が目に映っていた記憶もあった。だが、どいつこいつも20歳を越えた成人と言えるが兵士とは言えぬ者ばかりだった。そもそも兵士を兵器として分類するのはどういう意味なのだ。彼女たちは人間なのだから一つの兵科として分類すべきではないのだろうか。

俺は艦娘を兵器とは思わない。それはそうだ。感情を持った兵器とは唯の事だ。だから感情を持った兵器は唯以外は俺は認めない。別にそうでなくても彼女達はただの戦闘力を持つ人間だ。決戦兵器でもなければ、意地を張れる様な存在ではないと俺は思う。

そうだ、艦娘は俺と同じ兵士なのだ。パイロットと海兵と、立場は違うが存在自体は何も変わらない人類だ。


だから俺は彼女達を特別視なんてしないし、かといって劣悪に扱う気も無い。そうする必要なんて無いし、俺はそもそも中佐以外の他人に興味なんて持たない。

俺の心を理解してくれるのは中佐と唯だけで良い。

だから俺は馴れ合いなんてしない。したくもない。興味のない者とわざわざ面と向かって対話なんてする気はない。

そう俺は判断した。



主人公「転校したての小学生じゃないんだ」



主人公「そういう馴れ合いは嫌いだ」



その少女にそう言い残して執務室から退出した。

次は自室だ、そこに最後の荷物を詰めれば晴れて俺はここの提督として本当に活動する証明となる。

だが、いつか待っていろよ中佐。俺は必ず海から這い上がり、空を飛んでみせる。











そういえば私が最後に編成された時の秘書艦だった。今目の前に新しい司令官が着任されたが、前任の選択を引き継いで秘書艦を続けるべきなのだろうか。

私は皆に着任式に事について連絡してくれと頼まれ、海軍とは違う形式で敬礼を送った彼の後を追った。

廊下を歩く彼、そして執務室へ入っていった。帽子のせいで顔が良く見えない。

私も執務室へ入室して彼に近付いていく。どうだろう、いつ自己紹介を切り出せば良いだろうか。

彼の後ろに接近し、若干挙動不審になっている私の姿を鏡で見てみたいものだ。

大きく息を吸い込んで名乗ろうとした時、彼はこちらを振り向いた。

帽子をとった彼の顔は素直な優男と言えるのだろうか、目の焦点がずれている様な感じがするが流石に気のせいであろう。

彼の鋭くも大きな目で見据えられ、少し身体が固まってしまう。



「あ、あの」



声を掛けようとした。いや、声を掛けた。

だが、彼は私の怯えたような声を無視し、真っ直ぐと執務室の扉まで歩んでいく。

まさか聞こえていなかったのか。いやそれでも、目の前に人がいれば声を掛けるなりして干渉はするはずだ。



「司令官!」



私は叫ぶ。それでも彼は振り向かない。

何故だ。何故なのだ。もしかして私を艦娘ではなく、何かに影響された子供とでも勘違いしているのだろうか?

着任式の連絡の他にも、挨拶の意味も込めて会いに来たのに、返事はおろか無視だなんて。

これじゃあ拍子抜けだ。さすがに名乗れば気付いてくれるだろう。



吹雪「と、特型駆逐艦の吹雪です。宜しく御願いします!」



若干の恐怖と共に声を出した。

すると、彼はやっと気付いたというより反応してくれたのか、ドアノブに掛けていた手を戻して此方へ振り向いた。

女のような睫毛の奥にある、光が無いような瞳がまた私を睨む。



提督「君は」



彼が聞いてきた。嬉しい。やっと私に興味を示してくれた。



吹雪「はじめましてっ!って、さっき会いましたけどね!」



自分でも何だか気が抜けた返事だな、と思う。

もしかすると笑われるかもしれない。だが、彼の反応はその予想を大きく裏切った。



提督「転校したての小学生じゃないんだ」



提督「そういう馴れ合いは嫌いだ」



心を大きく突き抜かれた様な鋭い言葉。

今まで、司令官を軍隊としての目上ではなく、学校の先生のような感覚で干渉していたからなのだろうか。その言葉がより強く刺さる。

その言葉を聞いて、前任の提督をふと思い出した。彼女は、凄く優しく、尚且つ面白い方だった。時には弱いところ見せる時もあったけど、そこも同じ人間なんだ。と、共感が持てて嬉しかった。

けど、今度の提督は明らかに違う。まるで機械のようだ。







私を見詰めるというより睨み付けているその目は、ロボットの目の様に光が無く、冷たかった。


そう彼は返し、執務室を出ていった。


そんな、どうしてこんな事に。私はただ、気持ちよく物事を伝えに来ただけなのに。








彼はその後、長い古びた廊下を歩み、自室で私物を整理している。白い制服をハンガーに掛け、私服に着替えて黙々と作業をしていた。

ついさっき、少女に向かって氷よりも冷たい言葉を言い放った彼だが、彼にとっては他人がどうなろうが他人にどう思われようがどうでもよい事なのだ。

彼にとって最優先に関心のある事はただ一つ。戦闘人工知能の唯のみである。彼にとっては、それだけが存在していればそれで良かったのだ。

この戦争に負けようとも、勝とうとも彼の人生の歩み方に大きく干渉される事は無い。何故なら、その時はきっと唯と共に自決するからである。


狂っている。人はきっとそう思うだろう。だが、そんな狂っているという概念さえ彼には無い。

人間として致命的にコミュニーション能力が欠陥し、完全な個人主義である彼に、この鎮守府という環境はどのようなものなのだろうか。

苦しいのかもしれない、むしろ喜ばしいかもしれない。一般的にはそう悩む事だろう。

だが、それさえも彼には関係なかった。


いつか必ず空軍へ戻る。それが彼の考えだった。そしてまた唯と共に空を舞う。

何も悩む事なんて無かった。それだけをただ考えていた。










交遊









様々な容姿の少女、女性達がグラウンドに集合していた。様々とは言っても、両手で数えれるような人数だが。

そんな彼女達はただ静かに目の前に立つであろう人物を待っていた。

そのまま数分が過ぎ、春から夏にかかる寒さと暑さが混じる空気の中、真っ白な制服を着込んだ男が彼女達の前に立った。



提督「今日は、私のような者の為に集まってくれて感謝しています」



今、この男がこの島に踏み入れた瞬間、この男は彼女達を指示し、彼女達を先導しなければならない存在となったのだ。

そんな男の、頼りない第一声。



提督「司令官という立場に立つのは生涯初めてです。司令官としての能力が圧倒的に不足していると思います。貴女達に多大な迷惑を掛けると思いますが、どうがこれから宜しくお願いします」



一つ一つとても丁寧な言葉が流れていく。

そんな彼の言葉に反対するような強気の声がグラウンドに響いた。



「んだよ!会って早々罪逃れかぁ?」



舌を巻いた威圧的な声は彼に続いていく。



「これからあたし達の頭になんだ。そんな骨の入ってねぇ物腰でどうすんだよ!」



男は、その威嚇的な言葉に何も応えない。


まだ罵声を続けようとする少女を取り押さえる様に、横に髪を束ねた女性がその少女の口を押さえた。


男は刺のついた空気を他所に、感情を見せずにこの式を締め括った。




提督「これで着任式の挨拶を終わります」



彼は彼女達の目の前から消えるように、たった10人ばかししか集まっていない殺風景なグラウンドを後にした。







これが受け入れられない者への警告なのか?やはり俺は海にいるべき存在では無いのか?

まるで俺の全てを否定するかのような反対の言葉。そして威嚇するような声。

初日がこんな調子か。しかし、どうせ俺は空軍に戻るのだ。


要るべきではないのならば、それでいい。


そう思って、俺は執務室の扉を開けた。ソファに帽子を投げ付け、椅子に座り込む。

馬鹿らしい。俺はこんな職場で働かないとならないのか。

俺がいた空軍でも、あんな不良隊員はいなかった。昔から良い噂を聞かなかった海軍だが、あの光景を見て納得した。

机に上に置かれた着任の報告書や、艦娘の状態が記述された様々な書類。俺はそれに軽く目を通して、ペンを握っていた訓練生時代を思い出した。

どうも、これから俺がやる仕事はこんな事ばかりのようだ。全く、吐き気がする。Gで内蔵を潰される以上の吐き気と苦痛だ。


ただ一人、そうやって悪態を付いていると執務室に誰かが入ってくる。



大淀「初めまして、提督。貴方の仕事と、秘書艦のサポートに就きます大淀です。よろしくお願い致します」



大淀と名乗った彼女は、長い黒髪を揺らして深く頭を下げた。



提督「今日は何をやれば」



俺は彼女に素直に聞く。そうだ、ペンを握る時なんて、訓練生の時と出撃後レポートを書く位だった。何をすればいいのか、全くわからない。



大淀「はい。今日は各設備の確認と、艦娘の状態確認くらいでしょうか。書類は私が持っていますので、鎮守府の案内も兼ねて付き合います」

 


提督「分かりました。では今から」



大淀「少しお休みになってからでも構いませんよ?」



提督「問題ありません」



大淀「……そうですか。分かりました。では、行きましょう!」



彼女はそういって俺に近付いてくる。

何故わざわざこんなことを、別に大体のことは把握しているから問題ないというのに。そして地図は此方で持っている。



俺は静かに椅子から立ち、彼女についていった。





大淀「先ず初めに設備を案内しますね」



大淀「こちらが入渠ドックです。ただのお風呂場ではありませんよ。ここで艦娘達の傷を癒すのです」



提督「他の機能は」



大淀「そうですね、後は修復材を投入したりして入渠時間を大幅に減らしたり出来ます。これくらいでしょうか」



大淀「これで確認しましたね。チェックを入れておきます」



彼女はそう言いながら、ボードの上のプリントに書き込む。

修復材。その響きを聞いて、艦娘の扱われ方に疑問を抱いた。

彼女達は人として扱われているのだろうか。それとも、彼女達は人ではないという事を自覚しているというのか。どちらにしろ、俺にはただの人間にしか見えない。

何が特別な人間だ。立って歩き、会話も出来、風呂も入って寝るようなただの人間ではないか。


そう感じていると、彼女は次の施設を案内すると言って、また歩き出した。




大淀「少し外に出ましたけど、この大きな建物が建造ドックも兼ねた工廠です」



彼女はそう言って目の前の建物を指す。



大淀「ここで装備や武装の開発や、艦娘の―




「建造」




大淀「が行われます」



提督「……」



艦娘の建造。人の建造?

どういう事だ。全く意味が分からない。

人を建造とはどういう事なのだ。DNAから組み立てていくのか。それともクローンでも生産するのか。

例え何が行われていても、人を造るだなんて、おかしい。そんな事はありえない。

なのにこいつは真面目な顔で、当然のように言い切った。


自分達がどう扱われているのか、自分達はどのような存在なのか。それが彼女達は理解出来ていないのか。



大淀「提督?大丈夫ですか?」



提督「はい。次は何処でしょう」



大淀「あぁ、ええと。工廠もチェックしましたので。そうですね。時間も時間もですし、個人的に食堂でも案内しますね」



提督「分かりました」



彼女は、またもそう言って歩き出す。


会話も出来る、風呂も入る、飯を食う。

なのに、彼女達は人ではないというのだろうか。



俺には理解出来ない。







その後、特に気になる事はなかった。

一つあるといえば、この鎮守府の成人女性は皆俺より背が高い。単純に俺が低身長なだけであるが、それでも170を越えていそうな女性が何人かいる。どうもというか、かなり肩身が狭い気分だ。



大淀「ここが食堂です。妖精さん達が作る料理は絶品ですよ!さぁ、遠慮せず席に…」



提督「自分の物は自分で作る」



そう返して取り皿を手に取る。食堂にはまだ俺と彼女しかおらず、マニュアルに記載されていた妖精達がたまに姿を現すくらいだ。

俺は黙々とメニューを眺めていたら、一つ疑問が生まれた。



提督「…パン」



大淀「ありません、やはり日本人は白ご飯ですよ」



提督「……」



これだから海軍というのは。仕方なく白米を盛り、適当に取り皿に食材を取っていった。

前に着任していた提督はかなりフランクというかフレンドリーだったらしく、よくある提督専用の席。という物は無いようだ。

中央からやや端の方に座り、盛られた飯を口に入れ込んだ。一方、大淀はまだ取り皿に入れる食材を考えているようだ。

そんな彼女を置いて、俺は軍人としては少ない量の飯を早々と食べる。どれも味がしっかりしているが、あまり今の気分じゃ味を堪能したくない。飲み込めるくらいに噛み込んだら喉に流した。



大淀「遅れてすみません…って、もう食べたんですか?」



かなり遅れてやって来た大淀。その取り皿には一般的な男性が食べる量よりも大量に盛られていた。



提督「私は先に執務室に戻ります」



大淀「はい、私もすぐに向かいます」



提督「ゆっくり食べてて下さい」



俺はそう言い残し、トレイを洗面台の方へ置いて扉の方へ向かった。食事の際、捲っていた袖口を戻してドアノブに触れるが、その瞬間勢い良く扉が開けられる。



??「あっ…!」



露出の高い青の服、短髪、こいつは俺にさっき罵声を浴びせた奴だ。

よく見ると背が高い。



提督「…」



??「あー…悪かった!提督!!」バッ



彼女は俺に大きく頭を下げた。



??「ついついイライラしちまっててよ…いきなりひでぇ事言って悪りぃな」



提督「別に気にしてません」



気にも留めてない。お前の事など興味ない。関係ない。



??「なら、良かったぜ…いやぁ、ホントに緊張したぁ!さしぶりの男だしよ!」



摩耶「あたし、摩耶ってんだ!よろしくな!!」



提督「宜しく」



俺は軽く会釈をすると、早々にその場のテンションから離れた。あんな環境は嫌いだ。

空軍にいた頃は皆機械のような人間ばかりだったのに、彼女達は非常に感情豊かだ。


それがどうも慣れない。はっきりと言うと、気持ちが悪かった。

しかしもうどうでも良い。軍部の命令がない限り今は何も出来ん。適当に執務室で過ごしておくか。南中した強い日射しを浴びながら俺は執務室へ向かった。寒い春から暖かい春に変わろうとしている微妙な気温。それが俺の感情を刺激している。そんな空気に包まれながら、俺は執務室の扉を開けた。

流石に皆は昼飯を食べてるせいか、誰一人といなかった。誰もいない方が気が楽だ。奥の洒落た机に乗り掛かり整理された書類を手にとって、適当に流し読みする。

どれもこれも着任の挨拶やら兵装の取り扱いなどつまらん物ばかりだ。そう思って机から下りて椅子に腰掛けようとすると、唐突に置き電話がなった。

甲高い金属音を轟かせ、机の上で耳障りな音を鳴らす物体を掴み取る。



提督「こちら―



中佐「元気にしているか?''臨時少佐''」



何度も聞いたことのある友の声。



提督「どうしたんだ、そっちはまだ昼食だろう」



中佐「用事があって早めに食ったんだ」



提督「用事?」



中佐「気にする事じゃないさ、それよりもそっちはどうだ?」



提督「特に何も」



中佐「そうか、もう大淀には出会ったか?」



提督「眼鏡を掛けた長髪の秘書の事か」



中佐「そうだ」



提督「さっき出会ったばかりだよ。鎮守府を案内してくれた」



中佐「なら安心した。彼女は優秀だ。まだ執務作業は慣れていないだろう、細かい所は彼女に頼るといい」



提督「そうさせてもらう」



中佐「そしてなんだが…」



彼の声の調子が変わった。



中佐「今日、1420に無人偵察任務を終えて帰投した唯が、情報の提供を拒否してるんだ」



提督「唯が」



中佐「そうだ。何度も干渉を試みたが、''arrow1のパイロットの操作を要求する。他者の行使を感知した場合、コンタクトを拒絶する''と脅してくるんだ。このままでは埒が明かん。」



提督「arrow1のパイロットとは、俺の事か」



中佐「その通りさ。それでだな、唯に''arrow1のパイロットの操作を承諾。契約として目標座標のランディングゾーンにコンタクトし、そこでarrow1の操作を受けるまで待機せよ''と命令したんだ。そしたらすんなりとこの条件を受け入れてな、明日の1000に出発する事になった」



提督「そのランディングゾーン、とは」



中佐「お前の鎮守府の滑走路だ」



提督「そうか、随分と手間の掛かる事を」



中佐「仕方がない。今の唯に自爆されたら困る。それに、これで合法的に唯に会えるのだ。悪くないと思うがな」



提督「感謝はする」



中佐「連絡する事は以上だ。まだ初日だ、書類は殆ど済んでいるだろう」



提督「残りは自室でやる」



中佐「そうか、ではこちらから切るぞ」



提督「了解」





あいつとの電話を終えると俺は自室に戻り、執務室から持ってきた書類を机に置いた。そしてショルダーバッグから携帯食糧のゼリーとビスケットも机に置く。

時計を見ればまだ13時を過ぎたくらいだ。夕食を食うにはまだまだ早い。もう仕事は無いだろうし、明日まではここに閉じ籠っておこう。部屋にはホテルの客室のようにシャワーと便所までついている。何も困る所はない。

そんな事よりも、明日はまた唯に会えるのか。契約の内容はどうも気に食わんが、唯に会えるのならばどうでもいい。

俺はさっさと制服から私服に着替えると、机に向かい、黙々と作業を進めた。










二度目








静寂に包まれる部屋。窓から射し込む夕日が、寂しく机を照らしている。その微妙な暑苦しさに負けて、俺は目を醒ました。

軍人の癖に居眠りか。作業は全て終わっていたが、弛んでしまったものだな。俺はヨレヨレになったジャケットを羽織り直し、夕食の食糧を取りにバッグが置かれてるベッドまで向かおうとしたが、それを阻止されるかのように扉にノックの音が響く。

苛立つ気持ちを抑え、俺は扉を開ける。



提督「…」ガチャ



金剛「hello!テートクゥ!!」



目覚めたばかりの俺の頭に響く甲高い声。グラグラする、鼓膜がカチ割れそうだ。



提督「君は」



金剛「Yes!my name is 金剛!よろしくネ!」



提督「…」



金剛?こいつがそうか。こいつが俺を海に落とした元凶か。

お前が、お前があの時ボケッとしてなければ俺はまだ空を飛んでいられたのに。よくも堂々と俺の目の前に立っていられるな。



金剛「Nice to meet you!じゃないよネー?あの時の事、覚えてマスカ!?」



提督「あの時…」



彼女のテンションに押し込まれそうになった頃、彼女の横にいた大淀に切り離される。



大淀「金剛さん、落ち着いて。提督が驚いています」



金剛「oh…sorry…」



提督「…」



大淀「どうしました?」



提督「金剛といったな。ならば一つ質問がある」



金剛「OK!何でも聞いテ!」



拳を握り、抑えきれぬ怒りを無理矢理奥へ押し込み、俺は質問した。



提督「何故あの時、君は無抵抗だったんだ。君は戦艦なのだろう、駆逐艦程度は簡単に潰せた筈だろう。なのに、なんでわざわざBoawに助けられるような事を?」



金剛「そ、それは…デスネ…」



提督「答えてくれ、俺はずっと知りたかった。」



大淀「提督、落ち着いて聞いて下さい。」



提督「良いだろう。」



大淀「では、私から説明します。最初に原因を説明しますと、我が鎮守府はつい先日まで弾薬の支給を切られていました。燃料は辛うじて支給されていましたが、全員の艤装の状態を維持するのには足りませんでした。」



大淀「ですが本部は支給するに相応の活動の報告をしなければ燃料の支給を断ち切ると言ってきたので、それを何とか誤魔化すために我が鎮守府の最高戦力の一人である金剛さんを出撃させる事にしたのですが、それが重なって艤装の維持が更に難しくなりました。」



大淀「それで遠征も兼ねて、金剛さんにより遠い海域へ出撃させたのですが…そこで偶然深海生棲艦に遭遇してしまい…」



提督「それで、俺は事情も知らずに砲撃したという訳か」



金剛「テートクは何も悪くないヨー!勘違いしないデヨネ?」



大淀「そうです。元々、誤魔化そうと提案したのはこの私です。」



提督「……しかし」



駄目だ、言葉が浮かばない。



金剛「もう!グチグチ言ってないでdinnerに行くヨー!!」バッ



彼女はそう切り返すと、思い切り俺の腕を掴んで引っ張るように食堂の方へ歩いた。

大淀も後ろから見守るようについてくる。



金剛「テートクの着任式ネ!!皆待ってるんダヨ?」



大淀「ええ、もうすぐ6時を越えそうでしたしね。」



提督「…」



そんな彼女の歩みを止めるように俺は立ち止まる。掴まれた腕を振りほどき、怒りとも疑問とも言えぬ言葉を俺は吐き出す。



提督「何故、事情も知らずに自軍に向かって砲撃するような狂乱者の俺の近くにいれるんだ」



振りほどかれた俺の腕は再び強く掴まれ、握り締められた。



金剛「いつまで引き摺ってるネー!!ladyみたいで駄目だヨ!」



大淀「本人が気にしてないと言ってるのですから…」



提督「…そうか」



どうも、心の奥に詰まるようなこの感覚。もどかしい。

俺はそのまま引き摺られるように彼女に先導され、大食堂の方へ向かったのだった。


そして、食堂の扉を開ける矢先、大きな拍手が聞こえてくる。



「「着任おめでとうございます!!」」



轟くような歓声。



金剛「さぁ!こっちネー!!」グイッ



そのまま俺は中央の席に座らされる。



摩耶「遅かったじゃねえか、元パイロットさんよ!」



天龍「ここじゃ安い酒なんて飲ませねぇよ」



今朝、俺に罵声を吐いたショートの女と、黒い服に身を包んだ眼帯を着けた柄の悪い女。

どうやら、さっそく俺は不良隊員に絡まれているようだ。



大淀「二人共、着席して下さい。合掌ですよ!」



そこでさっきの秘書が一喝する。



摩耶「わーったよ。わかったって!」



無理矢理押し込まれるように座らされる二人。なんとも、風紀の乱れている軍隊だ。



大淀「提督、合掌お願いします!」



提督「…合掌」



「「いただきます!!」」



俺の目の前に置かれている食べ物はカレーだ。しかし、特に感情を覚える事もなく口に運ぶ。甘くも辛くもない。ただそう感じて平らげた。

他を見てみると、まだ食べている途中の娘が多い。

そして食器を片付けようと席を立とうとした時だ。



天龍「よーぅ!あんた前までパイロットだったんだろ?って事さ、やっぱ俺達の噂とか立つのか?」



金剛「Hey!イワユル"エース"って事デショ!」



二人の艦娘に絡まれる。



提督「…」



天龍「どうした?へへっ、一気に食っちまって具合悪くしたのかぁ?」



込み上げてくる苛立ち。


口の中がカラカラになってきた。目の奥が熱い。火傷しそうだ。



大淀「二人とも!まだ食事中ですよ!」



天龍「俺はもう食い終わったっつーの!」



秘書が注意する中、背の高いサイドテールの女が彼女に返す。



加賀「良いじゃない、さしぶりにこうやって食事が出来るんだもの」



大淀「…まぁ、そうですけど」



天龍「加賀さんからの許可が降りたんだ。パーッとやろうぜ!!」



眼帯の女がそう叫んで俺の肩に手を回す。


もう限界だ。




提督「ふざけるな」ドンッ



俺はその手を払い除け、椅子を蹴り倒すように立ち上がる。



提督「子供じゃないんだ。もうやめてくれ」



そう吐き残すと、食べ終わった皿をそのままにして食堂を後にする。

これが軍隊だと?冗談じゃないぞ。こんな感情的であってたまるものか。暇さえあれば喚きやがって。

抑えきれぬ怒りをそのままに、沸騰しそうになる身体を自室のシャワーで洗い流し、強引に歯を磨いて俺はベットに倒れこんだ。


気が鎮まらない。腹の中が煮えくり返っている。










着任式。その言葉を懐かしく感じるのは私だけではないだろう。頭の中に前任の顔が浮かんでくる。

大きい、とは言えない縦長のテーブルに並ぶ艦娘達。私の隣には加賀さんが座っていた。



加賀「ねぇ、彼と一番最初に会話したんでしょ」



急に此方へ目線を変えて、話し掛けてくる。



吹雪「そうですけど…」



加賀「そう」



吹雪「…?」



加賀「どんな雰囲気だったのかしら」



彼女からこういう言葉はあまり出てこない。



吹雪「…恐ろしく冷たい人でした。まるで、ロボットのような」



加賀「…そう」



彼女は無表情のまま目線を戻し、またフリーズしたかのように正面を見つめていた。

正直いって彼女も大概だとは思うが、それでも人間らしい一面は多々ある方だ。


そんな無機質な会話が過ぎると、ついに彼が食堂に入ってくる。

金剛型一番艦の金剛さんに引っ張られながら中央の席に座らされ、真っ先に天龍さんと摩耶さんに絡まれている。それを制裁するように大淀さんが一喝し、合掌を済ませた私達は食事を始めた。

金曜日はカレー。海軍はそう決まっている。甘くも辛くもない絶妙なコクに、仄かに感じる隠し味。そこらのカレーとは違った特別な"海軍の味"だ。

雪のように純白の白米に丁寧にルーを掛けながら、私はそれを口に運ぶ。

何口か食べたあと、早食な天龍さんは彼の元へ向かって絡み始めた。彼女は気さくで面倒見良い女性だ。柄こそ悪いが、それでも気の置ける人だった。

彼女なりの豪快なトーク。一度は大淀さんに注意されるも、隣にいた加賀さんの言葉でヒートアップしたのか、彼女は提督の肩に腕を回した。


その時だった。


椅子を蹴り飛ばした轟音。怒りを抑えきれていない震えた拳。

彼は、鬼のような形相で立ち上がった。



「ふざけるな」



震えたような声で言葉を続ける提督。



「子供じゃないんだ」



子供。



「もうやめてくれ」



否定。


単純で、明快な嫌悪の表し。彼は怒鳴り散らかす事はしなかったが、静かな熱気は伝わってくる。

その言葉のあと、彼は食器をそのままにして食堂を去っていく。

一気に静まり返る空気。もうすぐ春を越えて夏へなろうとしている季節なのに、体の細胞を破壊するかのように寒い。



天龍「わりぃ、調子こき過ぎた。」



この空気を破ったのは彼女。



大淀「…いえ、そんなことは気にしてません」



摩耶「まだ今朝の事を引き摺ってんのかぁ?アイツ」



天龍「てことは元凶はオメーじゃねえか!」



摩耶「んだとゴラァ!!」



静まり返った空気が、不穏な空気になってきた。



加賀「やめなさい!」



その空間を、彼女は元に戻す。



金剛「…」



少し視線を変えれば、いつも笑顔だった金剛さんの顔は曇りに曇り切っている。



今日のカレーは、酷く不味い。










降り立つ精霊









時刻1130。若干曇り気味の鈍い大空を掻き乱すかのように突き進む精霊が一人。

一般人が見れば派手と言うであろう見事な洋上迷彩の塗装をされた巨大な翼を羽ばたかせ、鷹の名を冠したエンジンを轟かせる。

彼女は、目の前の狭い滑走路へ向けてアプローチを開始した。ギアを展開。ロック。

ゆっくりと、まるで風を受けて舞い落ちる羽毛の如く優雅に地面へ落ちていく。その細い足を伸ばしながら。

やがてファイナルアプローチ。ギアが滑走路に接地する。ブレーキ最大拡張。

優しく後ろ足を差し出し、そのまま前輪を落とす。

美しい着地。誰が見てもそう感じるだろう。そのまま彼女は妖艶な肢体を見せびらかすように格納庫へ向かう。その巨大な翼を折り畳みながら。


機体が向かう格納庫の中、一人の男が彼女を待っていた。

太い睫毛の奥から見える瞳は、彼女の姿をしっかりと見据えていた。


機体は完全停止。小柄な頭部を乗せたキャノピーがゆっくりと開く。中身は複座式だ。だが、中には誰も座っていなかった。

やがて操縦席に男が座る。それに答えるように、精霊はディスプレイに表示した。



―F/A-25 Undine


―personal name:唯



無機質に表示された文字に、男はこれまでの緊張やストレスが解けるかのように安堵する。操縦桿に軽く触れ、スロットルレバーへ指先をゆっくりと置く。その瞬間、すべてのフライバイワイヤから通される情報が自分の肢体そのものへとなった気持ちになる。これでこの男の願いは叶った。形としては、だが。

その後、男はディスプレイを操作して、唯が今まで溜め込んでいた偵察情報を本部の中枢電子コンピュータへ送信する。唯も本部のコンピュータは最高最新のスーパーコンピュータだ。一つや二つの送受信なんて数秒で終わる。

各ボタンとタッチパネルを黙々と操作し、送信を終えれば機体のチェックを開始した。とはいっても、この機体はかつて航空自衛隊の主力ステルス戦闘機だったF-35の"自身で判断して必要なものを要求する"というコンピュータの自己判断によって行われるものだった。チェックそのものに人の手を借りることは滅多に無い。

限りなく効率的で、尚且無機質なやり取り。だが、その空間には他人が入れるような空気ではなかった。



そこへ、長身の女が一人近付いていく。

硬い床を踏む甲高い音を鳴らしながら、階段をゆっくりと下りていく。横見に精霊を見詰めながら。

彼女の目に映る艶やかな曲線と、その凛々しい巨大な翼。初めて目の当たりにした機体を眺めて、一つ言葉を漏らす。



加賀「綺麗…」



的を得た単純な感想。暗い倉庫を照らす表明を反射するかのように輝く洋上迷彩は、彼女の視線を釘付けにした。

階段を下り終え、そのまま機体へ近付いていく。徐々に視界に広がっていく蒼い色。全てを包み込むような主翼。その威厳ある姿を妖しく見せるかのような流れる曲線。今までレシプロ機しか見たことのない彼女にとって、目の前の機体の事をどう感じているのだろうか。

彼女は、その機体の胴体から伸びた美しい細い脚から、優雅に伸ばした機首の方へ歩み始める。やがて視界情報に流れる機首に描かれた数字。



―301



機体番号だ。

その番号の上にコックピットが置かれている。彼女はゆっくりと見上げ、長い前輪ゆえにかなり高い所へ位置している座席から見える、男の姿。

軍人としては華奢な姿。海軍の目から見るせいか、そう見えるのかもしれない。

彼女はコクピットへ続く台座の階段へ足を乗せ、彼に近付いていった。



加賀「何を、しているの」



座席に座るその男は無機質に答えた。



提督「君には関係ない」



その答えに彼女は一言返し、言葉を続けた。



加賀「そう…」



加賀「だったら、何をしてるのか見学させてもらうわ」



彼女はそういって、男が操作しているタッチパネルへ視線を向けるのだった。

やがて直ぐに立ち上がった男は、言葉を交わさずに彼女を横切って座席を下りる。コックピットへ続く台に一人残された彼女は、速足で格納庫を出ていく彼の背中を見詰めるのだった。












もうすぐ正午となる頃、彼は私服で執務していた。次から次へと書類を書き潰し、誰の手も借りずに仕事を無理矢理押し進めていが、そんな彼でも休憩は挟む。

苦いココアが注がれたカップを片手で掴み、無気力に昼を過ごしている。

そんな、無音の空間でひたすら時計の鳴る音が虚しく響く執務室に、侵入してくる者が一人。



吹雪「失礼します!」ガチャ



駆逐艦、吹雪。ひたすらに元気で明るい声が乾いた部屋に響いた。

彼女は前任の秘書艦だ。それを引き継いでなのか、彼のところへやって来たのだ。



吹雪「あ、あの!何かお手伝い出来る事はないでしょうか?」



マグカップを片手に、硬直した彼は短く答える。



提督「なら、あの机の書類を纏めて封筒に入れておいてくれないか」



吹雪「はい!了解しました!」



少女は駆け足で、男が指差した机に向かう。

その間、男は給湯ポットから出るお湯で新しいココアを溶かしていた。



吹雪「作業、終わりました!」



提督「……ココアでも飲むか」



吹雪「良いんですか!」



提督「苦いのは嫌だろう。クリームを乗せよう」



吹雪「ココアにクリームですか?」



提督「ウィンナーココア、知らないか」



吹雪「ウィンナーって…クリームを乗せてるのに、変な名前ですね」



提督「それは名付けた人に言ってくれ」



そんな他愛の無い会話を交え、小さな冷蔵庫からクリームを取り出す。

今日の朝、数週間分の大量の食料と資源が送られてきた。きっとが鎮守府から出ないようにするために送ってきたんだろう。と、男は思った。


マグカップに注がれたココアの表面に、とぐろを巻くように盛り上がっていくクリーム。

初めて見る光景に、少女は心を踊らせた。



吹雪「おぉ~…!」



男は少女へマグカップを手渡す。質の良い素材で出来たカップから伝わる温かさと、彼の恐ろしく冷たい指先が彼女に伝わる。

男は先にソファに座ると、少女は彼と対面する席に座った。



吹雪「……んっ…ココアの苦味がクリームで丁度良く…」



吹雪「美味しいですよ!司令官!」



提督「…そうか」



吹雪「何だか、ギャップですね」



提督「何が」



吹雪「いや、初めて会った時は、凄く冷たくて怖そうな人だなって思ったんですけど…」



提督「…」



吹雪「でも、ココアを淹れて下さったり、実は優しい人なんじゃないかなぁ…って」



提督「……」



吹雪「すみません!少し口が滑っちゃいましたよね…気を付けます」



提督「……」



一時の沈黙。静寂が訪れる。

布擦れの音でさえ大きく目立つほど静かな空間の中、話を切り出したのは男からだった。



提督「昨日は、申し訳ない」



吹雪「昨日?」



提督「夕食の時だ。いきなり怒鳴ったりして、悪かった」



提督「…反省している」



吹雪「いえ、とんでもない。私は気にしてませんよ。大丈夫です」



提督「……」



吹雪「提督の事情は知ってます。空軍からいきなり海軍になれー!なんて、ビックリしますよね」



吹雪「いきなり環境が全く違う所に向かわされて、そんなの誰だって混乱しちゃいますよ!」



提督「…そんなものなのか」



吹雪「きっと…そうです。皆、司令官を責めるつもりはありませんよ」



提督「……」



吹雪「あの…」



会話を切らさないようにするも、言葉が詰まる。



吹雪「えっと……司令官も、嫌な事とか、辛い事がありますよね」



吹雪「だから……昨日はたまたまそういう日だって事で……」



上手く言葉が浮かんでこない。と、少女は恥じた。

その高まった鼓動を停止させるかのように、男は冷たく返す。



提督「そこまで私情を挟むつもりはない」



淡白な返答。



吹雪「そ……そうですか…」



提督「もう正午を過ぎた。昼食にしよう」



吹雪「えっ、あっ!すみません!少し待って下さい!」



彼女はそう言って、ココアを飲みきろうとする。



提督「無理に飲むな。火傷をするし、胸焼けが起こる」



吹雪「ぷはぁ……大丈夫です!艦娘は丈夫ですから!!」



提督「……そうか」



吹雪「さぁ、行きましょう!」



二人は執務室から抜け、まだ冬の空気が残る冷たい廊下を歩く。男はひたすらに無言で、少女は何か会話を続けようとするが、喉の奥で詰まって言葉が出ない。

やがて無言のまま食堂に到着する。



提督「…」ガチャ



吹雪「今日はパンですね!」



芳醇な発酵した匂いとスープカレーの香ばしさが漂っていた。



提督「……」



天龍「あ?……よぅ」



トレイを手にしようとしたら、その先にいた一人の女。



天龍「昨日は悪りぃな」



淡白な会話。



提督「…謝るのは、こちらの方だ」



天龍「あぁ?」



提督「進んでくれ、後がつっかえてる」



天龍「…分かったよ」



彼は、トレイの上にブラックペッパーをまぶしたハムを何枚も挟んだハムバンと、大きく切られた具が入ったスープカレーとサラダを乗せていく。

男の後に続いて、少女もせっせとトレイに食べ物を乗せていく。


昨日と同じ位置に置かれてあるテーブルの方へ向かい、男は端に座った。彼の隣に少女も座る。



吹雪「失礼します!」



天龍「おっ……おう」



吹雪の隣には天龍。男の対面席には金剛が座っていた。

一瞬だけ彼女と目が会う。大きくないテーブルの隙間なんて短いものだ。真っ正面から顔と顔が合わさった。



金剛「……hello♡」



艶やかな微笑みを引き立てる、輝いた唇。

何でこいつは、こんなに友好的なんだ。と、男は思った。本当に理解ができない。

彼がいた部隊では、他者に干渉しようとする奴はいなかった。どいつもこいつも機械のような人間ばかりで、信じていたのは自分の腕と、愛機のみであった。そんな非人間的な集団はみ出た彼も、例外ではない。



金剛「……ふふっ」ニコ



提督「……」



いつまで見詰めてくる気なんだ、こいつは。と彼は口に出しかける。

そんな状況を変えるように、食堂へ長身の女が入ってくる。無言で機械的にトレイへ食べ物を乗せて、着席した。



大淀「では、合掌をお願いします!」



提督「その前に、話がある」



男は席から立ち上がり、そう言った。



提督「今朝、総司令部から出撃命令が下りた。本部の中枢電子コンピュータからの情報は既に受け取っている。食後、20分以内にブリーフィングルームへ来て欲しい」



提督「それと、昨日の夕食の時は、すみません」



静まる空気。



提督「以上」



摩耶「このタイミングで、それ言うかぁ?」



最初に彼女が提督へそう返した。



金剛「テートクって、意外とお茶目さんネ?」



天龍「男が簡単に頭下げてんじゃねぇよ、元々わりぃのは俺だしよ。」



摩耶「そうだ!お前、アタシらの頭なんだぜ?もっと堂々としろっての!そんなんじゃこっちだって奮わねえぜ!!」



ぶちまけられる彼女達の本心。



提督「……」



吹雪「し、司令官…」



大淀「皆さん!話すのは昼食が終わってからです!!提督、合掌をお願いします」



そこで大淀が場を沈めた。



提督「……合掌」



「「いただきます!!」」



大きな声が食堂に響に、やがて10分ほどが経つ。

昨日の雰囲気が嘘のように静まり返った空気の中、最初に席を立ったのは提督だった。



天龍「アイツ、食うの速いなぁ」



加賀「貴女も大概だと思うけど」



天龍「そうかぁ?」



微妙に鬱蒼した空間の中、彼女達は黙々と目の前の物を平らげたのだった。



やがて、食事を終えた彼女達は次々とブリーフィングルームへ向かう。薄暗くて、どこか感傷的な部屋に、電子ボードが青く光っていた。

大淀が数枚の書類にチェックを入れている中、提督は淡々とパソコンを操作して、準備を終わらせようとしている。



提督「では、今から作戦内容を確認する」



彼女達へ声の方向を向け、電子ボードに情報を映す。



提督「昨日、我が鎮守府付近に作られていた急造航空基地に深海棲艦と深海の爆撃機が接近しているとの情報が入った」



彼はそう言ってボードに表示されたチェックポイントを指差す。



提督「この基地は、深海との戦いが始まって間もなく作られた正に急造基地であり、当時は日本の防衛の一角を担っていたが、今では既に廃れて旧式機を入れ込むゴミ箱へ成り下がっている」



提督「しかし、それでもこの基地のスクランブル回数は多く、その度に機体を消失している。だが、本部はこの基地の重要性を軽視しており、気付いた頃にはこんな状況になっていた」



提督「もはや張り子の基地当然になってしまっており、今回の敵性艦隊に抵抗出来る程の戦力を保有していない」



ここで彼はボードに、その基地が保有している航空戦力を表示する。



天龍「おいおいおい!未だにファントム飛ばしてるとか正気かよ……?」



そういう事に詳しい一部の艦娘は驚愕する。それも無理はない。

1960年に飛行デビューしたオンボロの超旧式機が、目の前のボードに映っているのだから。



提督「この保有する機体の中で唯一の有脚戦闘機である"F/A-21 シェイド"と、我が鎮守府が保有する最強の戦術有脚戦闘機の"F/A-25 スーパーウンディーネ"が、今回の作戦で共に戦闘をする」



提督「この作戦は、事実上の重要拠点の防衛と、新たな戦術を実行する」



提督「君達の司令官である私が、直接前線へ赴き、より高度な艦隊指揮を可能とさせる戦術の初の実戦作戦だ。君達は歴史に名を残す瞬間をその身で実感するだろう」



彼のその言葉を聞いた途端、彼女達は凍り付く。

やがて、一人が立ち上がり、提督へ怒鳴った。



摩耶「それ、どういうこったよ!!あんたが前線へ出て戦うって頭湧いてんのかぁ!?お前が死んだら、アタシらはまた昔に後戻りじゃねえか、ふざけるな!」



提督「海軍の戦術コンピューター、及び本部からの提案である。問題ない」



摩耶「そんな無茶な作戦出してくるコンピューターは何なんだよ!!」



提督「無茶じゃない。何度も演算を重ねた作戦である」



摩耶「その結果がこれとか認めらんねぇぞ!!




男は目を逸らして、言葉を続ける。



提督「……各員、30分後に出撃準備。巡航ルートを確認するように。なお、私のコールサインはArrow1である。以上」



彼はそう言葉を終えて、電子ボードに目標地点までのルートを映す。

摩耶はルームから出ていく彼の腕を掴もうとするが、他の艦娘に止められた。



摩耶「認めねぇかんな…!」







共に







時刻、1400。鉄の冷たさが支配する無機質な空間に、数人の華やかな影。



摩耶「よーし!艤装チェック完了!一番乗りだぁ!」



青と白が大きく目立つセーラー服に身を包んだ彼女は、高鳴った体で出撃ドックのカタパルトの上に飛び乗る。



天龍「飛び乗るなっつんてんだろ!壊れたらどーすんだ!!」



次に眼帯を頭に着け、黒色で占めた服装の女がカタパルトの上に乗る。

次は白いセーラー服の小柄な少女、また次は和服の長身の女性。そして最後に赤と白の派手な服装に身を包む者がカタパルトへ立つ。



大淀「各艦、出撃準備完了。最終動作チェック開始」



その放送が鳴ると同時に、カタパルトに乗った彼女達は自分が身に付けている武装を、自分の意思のみで可動させる。

艤装と艦娘の関係は正に未知の領域だ。本人にしか分からない感覚が多い。



金剛「no problem!!」



全員が忠告を終えると、遂にカタパルトが動き始める。



天龍「さしぶりの感覚だなぁ、腕が鳴るぜ!」



摩耶「はしゃぎ過ぎんなよぉ?」



天龍「お前に言われたきゃねぇよ!!」



カタパルトに水が流れ込んでくる。それに反応した艤装は、彼女達の体を水上に浮かせる。

そして、身構えた彼女達の体を、海上へ思い切り突き飛ばした。

激しく飛び散る水飛沫。水上を切り裂いて、真っ白な跡を残しながら大海へ飛び出たのだった。



吹雪「皆!私についてきて!!」



旗艦が叫ぶ。それに合わせ、彼女達は一列に陣形を整えて、目標地点へ向かう。







一方、格納庫では重々しいパイロットスーツに身を固めた男が、コックピットに身を沈めていた。



提督「唯へ命令。各動作をチェックした後、エンジン起動」



無機質な声と、エルロンと尾翼が可動する音が格納庫に響く。やがて、金属を擦り合わせるかのような甲高い音が鳴り始める。合計4基のエンジンが叫ぶ。徐々に熱を帯びていく機体。コン・ダイ・ノズルが開閉。その後、電子機器を起動。

FCS、IFF、モード変更システム、レーダーシステム、様々な電子機器を一つずつ立ち上げる。

そんな動作をやり始めて10分ほどが経過する。遂に車輪が動き出した。


格納庫の扉がゆっくりと開く。その隙間から漏れ出す眩しい光。午前までの曇り空は面影を無くしていた。

扉が開き切るのを待ち望んでいたかのように滑走路へ足を走らせる精霊。そして、ノズルが大きく開いてアフターバーナー。

とてつもない轟音が鎮守府全体に響く。その轟音と共に、滑走路を蹴り飛ばすかのように離陸。その巨大な翼を広げ、上空を突き抜ける。


二つの蒼が、溶け込んだ。









時刻1432。岸部に沿うように作られた航空基地から200m先離れたところに、5人の艦娘が横に並んで、深海棲艦の侵攻を待ち伏せていた。



天龍「もうすぐ戦闘開始時刻……」



吹雪「加賀さん、偵察機を一機飛ばしてください。そろそろです」



加賀「了解。」カチャ



正規空母加賀、彼女の膨大な積載量から一機の偵察機、彩雲が発艦される。

射ち出される矢。その圧倒的な腕力と、頑丈な弦から生まれる衝撃。鋭い音が轟く。

一直線に空気を引き裂いて飛ぶ矢は、やがて燃え上がり、巨大なレシプロ機へ変身した。

時速570km/m。射ち出された慣性のエネルギーを獲得してより加速する。


高度1500m、帰りの事は考えずに突き進む彩雲。機体から送られる情報は加賀にダイレクトで伝わる。この感覚は本人にしか理解できない。



加賀「……捉えた。軽巡が6隻、駆逐が4隻。対空兵装らしき武装がある。情報通りね」



摩耶「随分と舐められたもんだ……ここに艦娘がいるのによぉ!」



加賀「航空戦力しか残ってないって分かってたんだわ。この艦隊が航空機を全滅させて、後に攻撃艦隊がやって来るのかも」



金剛「けど、そのplanは丸崩れネー!!」



情報を共有された彼女達は、その重たい足を走らせる。

その内、艦隊の中で一番の有効射程を誇る高速戦艦、金剛が主砲を発射。35.6cm連装砲が轟音を響かせて敵艦へ。

それに続いて主砲を持つ艦は皆遠距離砲撃を開始した。射角を上げて発射する。

入り乱れる砲弾。真っ赤な火球が深海棲艦に降り注ぐ。


着弾した。大きく立ち上がる水飛沫と一緒に上がっていく深海棲艦の黒煙。



加賀「軽巡を4隻やったわ。他は回避されてる。流石に遠かったみたい」



冷静な口調で彼女は報告。



天龍「クッソー!!ちゃんと狙ったのによぉ!」



吹雪「次は雷撃です!天龍さん、摩耶さんは制圧射撃をしながら私についてきて!!」



少女が勇敢に敵艦隊の側面の方へ回り込もうとする。



天龍「おうよ!!」



摩耶「的当てなら任しとけ!」



それに続く二人の影。



金剛「ワタシはこのポイントを維持するネ!!第二撃、いっくヨー!!」



加賀「……彩雲が落とされた」



金剛「大丈夫!!ワタシが貴女を守るから、安心して発艦させテ!!」



加賀「了解。発艦準備開始」



金剛が加賀の壁になる形で、二人とも航行する。加賀はもう一度矢を弓につがえ、弦を絞った。そして発射。またしても鋭い音が鳴る。


6機の九九式艦爆と共に一機の彩雲が上空へ逃げて加速した。




一方、更に数千m先では、かつて航空自衛隊の主力戦闘機だった二機のF-4EJと共に三機の有脚戦闘機が編隊を組んで巡航していた。

先頭に飛ぶ日本空軍が誇る有脚戦闘機。スーパーウンディーネと、その機体を囲むように3基エンジンの小型有脚戦闘機のシェイドが飛ぶ。

時速900km/m、計五機は真っ直ぐに攻撃目標まで飛行していた。



提督「こちら一番機、唯が捉えた。爆撃機が四機。護衛戦闘機無し。40秒後に追い付く。エンゲージ」



提督「各機、位置へ向かえ」



ノイズ混じりの通信



Serpent1「了解、マスターアーム・オン、エンゲージ。アフターバーナーを点火して上昇する。Serpent2、付いてこい」



Serpent2「了解」



大きなガンポッドを抱えたF-4EJが、エネルギーを獲得するためアフターバーナーを焚きながら上昇を開始した。残り三機の有脚戦闘機はそのまま通常速度で巡航。

真っ青な洋上迷彩が目立つ、ウンディーネが130mm砲ポッドを爆撃機に向けて発射した。ブレる機体を脚部のアフターバーナーで無理矢理元へ戻す。それに続いて、ウンディーネの右側に飛んでいたシェイドが25mm弾をもう一機の方の爆撃機に向かって撃ち込んだ。

撃ち込まれた130mm弾は爆撃機へ見事に着弾。撃墜される。だが、25mm弾の直撃を受けた爆撃機は何事も無いように飛行を続けていた。



Serpent4「こちらSerpent4、ブレイクして回り込む」



今度は左側に飛んでいるシェイドがブレイク。脚を展開して旋回した。

小型機の強みである小回りを効かして、爆撃機の側面にホバリングしながら回り込んだ。そして撃ち出される25mm弾。しかし、風穴が空くばかりで落ちる気配がない。



Serpent4「くそったれ、どうなってんだ」



回り込んだシェイドのパイロットが悪態をつく。



提督「こちら一番機。Serpent4、今すぐ離れろ。対空機銃が」



爆撃機の腹部から伸びた砲身が、Serpent4が搭乗しているシェイドを捉える



Serpent4「ああっ!!」



容赦なく掃射。コックピットは吹き飛び、主翼がもげる。



提督「Serpent4が食われた。一度旋回して立て直す」



Serpent3「了解、ついていく」



深海棲艦の爆撃機は残り三機。こちらは四機。数だけならこっちの方が上だ。と、Serpent3は考える。しかし、その余裕が彼に死をもたらす事になる。


ウンディーネとシェイドは二機並んで緩やかに旋回を開始した。速度240km/mでの緩旋回。一方その頃、上空へ位置エネルギーを獲得しにいったファントム二機が爆撃機に向かって急降下を始めていた。

抱えたガンポッドのカメラが爆撃機の上面を捉える。740km/mを突破した時、砲身が吠えた。

次々と発射される30mm弾。当然、機体が大きくブレる上にガンポッドからの発射なので集弾性は無い。しかし、散弾のように降り注ぐ30mm弾は確実に残り三機の爆撃機を捉えていた。

やがて30mm弾が爆撃機に着弾。風穴だらけの機体は四散。その爆風の真横を突き抜けるファントム。深海の爆撃機は残り一機だ。



Serpent1「こちらSerpent・リーダー。二機撃墜。このまま離脱してもう一度仕掛ける」



提督「こちら一番機。深追いはするな。残りはこちらで撃墜する。Serpent隊は高度3400mまで降下した後、そのまま帰投ルートへ入れ」



Serpent1「了解。精霊様から帰投許可がおりた。さぁ帰るぞ」



ファントムと、ブレイクしたシェイドが下降を始めた。

ウンディーネは旋回を仕切って、爆撃機の方へ機体を固定する。機体制御をVTOLへ。脚を大きく前へ突き出して空中に機体を固定する。FCSが爆撃機をしっかりと補足。逃しはしない、躊躇なくトリガーを引いて130mm砲ポッドを発射。

着弾した。爆撃機のど真ん中に命中。黒煙を上げてエネルギーを失い、そのまま海水へ堕ちていった。











Serpent1「最後の有脚戦闘機を一機おじゃんにしてしまったな」



戦闘領域から離脱したファントム2機とシェイド一機。700km/mで巡航している。



Serpent3「脚付きに乗るのは俺だけって事になるのか。重責だな」



Serpent2「……来たぞ。精霊様だ。なんてパワーだ。もうこんなに近付いている」



Serpent1「流石はハイパー・ホーク2だな。信じられん高速性能だ」



レーダーに映る味方の機影。弓から放たれた矢の如く高速で編隊を横切ったかと思えば、ゆっくりと速度を落として編隊の先頭を陣取った。

そのまま速度を860km/mまで上げて巡航。艦隊支援へ移ろうとしていた。



提督「こちら一番機、A-1、爆撃機は全て撃破。そちらの攻撃支援、及び艦隊指揮へ移る」



無機質な通信音声の中、黄色い華やかな声がノイズ混じりに返答する。



摩耶「あーあー、こちら摩耶様ぁ。何ボケッとしてんだ。こっちも全部沈めちまったぜぇ?」



提督「了解。Serpent隊が着陸するまで警戒に当たれ。」



摩耶「……りょーかーい」



瞬間、ウンディーネのレーダーに反応。後方に機影が四。



提督「待て、此方のレーダーにボギーを捉えた。そちらへ情報を送る」



そのまま言葉を続ける。



提督「機影は四。速い、追ってきている。時速780km/mでそちらに向かって飛行中」



天龍「780!?ジェット機並じゃねえか!」



摩耶「ミサイルを撃ち落とす訓練なんかしてねぇぜ」



提督「全艦、対空戦闘用意。加賀は戦闘機の発艦準備。こちらの指示が有り次第、直ぐに発艦出来るように」



加賀「了解」



彼女達と通信を切る。その後、他の機体へデータリンクで情報を送った。



Serpent1「こちらSerpent・リーダーからA-1へ。こいつは友軍機かもしれない」



提督「IFFの応答は」



Serpent1「ない、故障かもしれん」



提督「なら敵だ」



Serpent3「早まるな、他国の機体かもしれないぞ」



提督「フランカーとJ-20ならもっと速い」



Serpent1「しかし、だな」



提督「全機上昇しろ」



その指示に従い、編隊は少し高度を上げる。

それに合わせ、ボギー達も上昇した。



提督「上昇した……やる気だ。ヘッドオンを仕掛ける。エンゲージ」



全機、シャンデルを開始。enemyに判別した四機と対陣する。速度620km/mで突っ込む。

enemyの機影が見える。やはり深海の航空機だった。とても速い。一直線に向かってきている。

唯は25mm機関砲を自動選択。全機、射程内に突入。

二個の編隊が機関砲を唸らせる。ブレる機体。次々と掠めていく弾丸。ウンディーネは下方へ掃射しながらバレルロールする。

回転する視界の中、ウンディーネのパイロットは味方機が二機も爆散するのを見届けた。



Serpent1「二機も落とされた。不味いぞ。」



提督「相手は三機落ちてる。数はこちらが上だ」



Serpent1「いや、くそっ。駄目だ。インテーク内部に被弾してる。飛べない。脱出する」



提督「了解」



上の方を飛んでいたファントムのキャノピーが吹き飛ぶ。そして開くパラシュート。

無人となったファントムは、緩やかにロールしながら失速。そのまま海水へ墜落した。



提督「こちら一番機。ボギーの迎撃を試みるも一機取り逃がした。対空用意。加賀は戦闘機を発艦しろ」



加賀「了解」



通信終了。

敵機は依然として艦隊の方へ飛行している。ウンディーネを振り切るかの如く、更に加速した。時速830km/mを到達。

彼は追撃に向かおうとするが、燃料残量が警告音を鳴らしている。このままではアフターバーナーは不可能だ。旋回仕切った後の速度で、敵機に追い付くことは出来ない。



提督「唯へ命令。スロットルのロックを解除」



彼は躊躇しなかった。唯はその言葉に素直に答え、スロットルレバーのロックを外す。そしてアフターバーナーを焚いた。

膨大な加速エネルギーを消費して急旋回。今までの旋回半径を切り捨てるかのような機動。当然、とてつもないGが降りかかる。肘の毛細血管が破れた。痛みと圧力に耐えれず悲痛の叫び。

何とか敵機の進行方向についた。時速は548km/m。まだまだ速度が足りない。彼はスロットルを押し込んで更にアフターバーナー。


そうしている内に、敵機は艦隊の方へ到着。いち早く察知した加賀は零式戦闘機を4機発艦。

しかし、いくら矢からエネルギーを獲得して加速を高めているとしても、亜音速に近い敵機を捉えるのは困難だ。それでもヘッドオンで迎撃を試みるも、完全に振り切られる。



摩耶「見えた!って速すぎんだろ!!」



摩耶は副砲で攻撃を開始。しかし捉えきれてない。



吹雪「機銃なら……当たってぇー!!!」



全艦、何とかして弾を当てようとするも、時速800km/mを越えた目標に着弾させるなんて至難の技だ。



金剛「Shit!三式弾があればhit出来るのニー!!」



天龍「加賀、再発艦はまだか?」



加賀「戦闘機はまだ無理よ」



敵機は一旦艦隊を通りすぎ、急速上昇。



摩耶「加速が落ちたぞ!今なら!!」



摩耶は全砲門を向ける。しかし。



摩耶「うわっ!!くそったれ、太陽をモロに見ちまった!くそっ!!」



天龍「太陽に隠れやがったぞ…」



金剛「撃ってこない……カミカゼしてくるつもりネー!!」



眩しい太陽光。それを利用して、敵機は急降下を開始。

眩しすぎて位置さえも掴めない中、吹雪は何とかして機影を捉える。しかし砲撃は不可能だ。



吹雪「この方向……不味い、加賀さん!狙われています!!」



加賀「……。」



天龍「ボケッとすんな!速く逃げろ!」



加賀はその場から離れようとする。しかし、艦隊の中で一番速度が遅い彼女は、時速900km/mを突破しようとする機体から逃れる事が出来ない。

敵機をは爆弾を抱えたまま一直線に加賀の頭上を狙う。まるでミサイルのように。



天龍「くそっ!!当たんなくても良い、とにかく加賀に近付かせるな!!」



天龍は単装砲を発射、それに続いて他の艦娘達も砲弾を飛ばすが、太陽光のせいでまともに狙いが定まってない。

上空で味方の砲弾が飛び交う中、加賀は最大戦速で海上を滑る。しかし、水平を動く48km/mの物体と急降下で自由に落下してくる900km/mの物体では差が有りすぎた。

まだ戦闘機は発艦出来ない。艦爆で対空は不可能だ。味方軍の弾は当たらない。ならば、出来ることは一つのみ。


特攻の直撃に備えるしか、彼女には選択肢が残されていなかった。

足を止め、身体を思い切り強張らせて身構える。



摩耶「馬鹿野郎!何立ち止まってんだ!!」



しかし、これしか手段はない。

風を切り裂く音が大きくなってきた。敵機が近い。

握り混んだ拳が震える。垂れる生汗。高まる心拍数。大丈夫だ、この程度で沈みはしない。問題ない。大丈夫なんだと、彼女は心に言い聞かせた。



敵機は未だ降下中。対空射撃を掻い潜り、加賀との距離は1000mを切る。

一方、数百m先ではアフターバーナーを全開にしながら高速飛行する精霊が一人。

ハイパー・ホーク2エンジンの性能を限界まで引き出し、とてつもない轟音を轟かせてロケットの如く一直線に飛行していた。コン・ダイ・ノズルから不死鳥の尾の如く燃え盛るバーナー。燃料残量の警告が鳴り止まない。

時速1000km/mを突破。瞬間、風防内で更に機械音が鳴り響く。

加賀に向かって特攻する敵機をロックオン。FCSは射程内にしっかりと機影を捉えた。

刹那、サイドスティックのトリガーを弾く。分速4000発で徹甲弾が発射される。スーパークルーズ状態の機体から飛ばされる徹甲弾は、まるでレーザー光線の如く弾速で敵機に食らいついた。




敵機はボロボロに風穴が開き、爆散した。

加賀は上空の爆発音に驚いて、強張らせていた身体を解して上空を見上げた。

そこには確かに黒煙が立ちこもっていた。やがて遅れてくる機銃の音と共に、太陽を貫く機体が、彼女の視界に映る。

弓から放たれ、一直線に突き進む一本の矢。正にその通りだった。アフターバーナーの陽炎で太陽を歪ませ、ありえない轟音と共に過ぎ去っていく蒼色の機体。



その後、緩やかに旋回しながら上昇した。大空に溶け込もうとして、干渉する洋上迷彩が美しい。



天龍「ヒュー……魅せるねぇ」



加賀「……」



提督「こちら一番機、A-1、唯より通信」



提督「敵性反応、全て沈黙。防衛対象、損傷無し。Serpent隊は全滅」



感情のこもらない無機質な声で、言葉を続ける彼。



提督「コンプリート・ミッション。艦隊指揮を中止。全艦、帰艦吹雪の誘導に従って帰艦せよ」



吹雪「了解しました!」



摩耶「あいよっと」



天龍「あんた、どうすんだ?そんなにバーナー焚いちゃったら帰れねえだろ?」



提督「燃料が無い。一度、防衛対象の基地にて補給を受けた後、帰投する」



天龍「あぁ、そうかい」



金剛「HEY!dinnerまでには帰って来てヨネ!!」



摩耶「…アイツ、もう回線閉じてるぜぇ?」



金剛「What's!?」



吹雪「皆、帰りますよ!ついてきて下さい!」



天龍「おうよ」



加賀「……」



艦隊が吹雪を先頭に動き出した。

しかし、一人だけ不動で空を眺めている。


忘れようにも、忘れられない目に焼き付いた光景。それが何度も彼女の頭の中でフラッシュバックしていた。

スーパークルーズで1500km/mを突破したジェット機が、目の前の太陽を引き裂くように通過していっただけなのに、それがずっと忘れられない。未だに耳に残っている轟音が、思考を支配していた。



摩耶「おい、おい!!大丈夫か?」



瞬間、摩耶の声で現実に引き戻される。



加賀「…えぇ、大丈夫よ」



摩耶「本当かぁ?足釣ったんじゃねえだろうな?」



加賀「大丈夫。行きましょう」



摩耶「お、おう」



真っ青な大海の上、白い痕を残して海面を滑る影が五人。

空には、精霊が優雅に彼女達を見詰めていた。








理解







上層部から発令された防衛任務を終えた彼女達は、三日間の休暇が与えられることになった。

初の新作戦で、防衛対象に全く損傷がなく、その上任務達成率は最高という華々しい成果だったが、既に廃れた鎮守府がいくら名声をあげようと上の連中には響かないものだ。

しかし、ある程度の発言力は手に入れる事は出来たのは事実で、有効期限が切れる前に彼は「軽空母の建造」要望を出した。

加賀一人では航空戦力が足りていないのが前の作戦で明らかになった今、明確な判断である。


作戦を終えた彼女達は休暇が与えられ、気を抜く事ができるが、提督はそうはいかない。

数々の書類に筆を通し、明らかに無駄な作業までやらなくてはならない。非効率をとことん嫌う彼にとってはこの上ない苦痛であった。

なにせ旅客船が原子力で動いていると信じていたような人間だ。



「失礼します!」



そんな重々しい空気の執務室の扉を、元気良く開ける少女。



提督「……」



吹雪「あ、あの……何か手伝える事はありませんか?」



提督「今日はまだ休みだろう。」



吹雪「でもっ!秘書艦ですので、その…」



提督「俺は効率の悪い事が嫌いなんだ。しっかりと休んで次の作戦に支障が無いようにしてくれ」



二人の会話に割り込むように、天龍が執務室へ入室してきた。



天龍「一人でやろうとする方が効率悪いと思うがなぁ?」



提督「……」



吹雪「天龍さん……」



天龍「そーいや今日は軽空母が来る日じゃ無かったかぁ?早いとこ出迎えてやらねぇと、乙女な奴等ばっかりの軽空母さんは泣いちまうぜ?」



提督「時間は把握してる。もういいだろう、帰ってくれ」



天龍「そーかい。折角この俺様が手伝ってやろうと思ってたのによぉ。ほら吹雪、行くぜ」グイッ



吹雪「あっ、ちょっと。天龍さん!」



彼女はそういって、吹雪の手を引っ張りながら執務室から出ていったのだった。

彼はその様子に視線を向けず、ただ黙々と書類を字を書き込んでいた。










午前10時30分。この鎮守府の春はまだ寒い。

そんな日本列島から数百メートル離れた小島に向かう小さな船が一つ。

そんな寂れた埠頭へ足を踏み入れる一人の女性。彼女は適度な緊張と共に鎮守府の方へ歩み出した。




祥鳳「祥鳳型航空母艦1番艦です。ちょっと小柄ですけど、宜しくお願いしますね!」



吹雪「宜しくお願いします!」



天龍「おーう、よろしくな」



摩耶「宜しくぅ!!」ビシッ



金剛「ヨロシクお願いしマース!!」



加賀「……宜しく」



暖かい雰囲気。自分は迎え入れられてると分かって、少し緊張が解れる彼女。

しかし、ここで一つ疑問が生じた。



祥鳳「あ、あの……提督は?」



摩耶「プライドのたけぇパイロットさんなら格納庫だぜ。誰か案内してやってくれ。」



加賀「私が案内するわ」



祥鳳「あ、ありがとう御座います!」



天龍「あの野郎。あれだけ言ってたのになぁ……」



吹雪「確か、この時間帯って偵察の時間じゃ…?」



天龍「んなもん後にしろよってんだ。新しい娘を出迎えるのが最優先だろうがよぉ?」



吹雪「確かに、そうですけど…」



天龍「彼奴が勝手に"単独偵察"なんか決めやがっただけだ。口実じゃあ、艦娘に負担を掛けたくないだの、防衛力を高める為だとかほざいてっけど、ただ戦闘機に乗りたいだけだぜぇ、あれは」



吹雪「……せめて、もっとコミュニケーションがとれる機会があればいいのにな」



金剛「こっちからtouch!!するのはどうデスカ?」



摩耶「逃げるだろ、あの野郎」



金剛「Oh……」



余りにも提督の評価が酷評過ぎる。

祥鳳は困惑した気持ちを抑えきれず、口を挟んだ。



祥鳳「あのっ!提督はどんなお方なのでしょうか…?」



加賀「会えば分かるわ。こっちよ」



祥鳳「あっ……はい」



その疑問も空しく、揉み消されることになる。

サイドテールを揺らす加賀の後ろ姿を見詰め、彼女は歩み出したのだった。


短い廊下を抜けて、巨大な格納庫へ連れてこられた祥鳳。

これまでの暖かい空気とは違い、肌を突き刺すかのように冷たい空気が彼女の大きく露出した肌を刺激する。



加賀「……あれ、見えるかしら」



祥鳳「……?」



加賀「あそこの機体」



加賀はそういって、薄暗い格納庫の奥の方を指差した。

外の光を遮る重々しい金属の檻の中、僅かなスポットライトの光を反射するかのごとく輝く"精霊"が、一人。

初めて彼女の目に映されたその姿は、どう捉えられているのだろうか。



祥鳳「あれは、一体?」



加賀「ここからじゃよく見えないわね」



加賀はそう返して階段を下りる。それに続いて彼女も階段を下りて、加賀についていく。

徐々に彼女の視界に映し出される情報。これまでレシプロ機しかその目にしてこなかった彼女にとって、目の前の光景は衝撃的だった。

全長20mを越える巨駆を吹き飛ばす四相のエンジン、全てを包み込むかのような巨大な翼、細長い機首に、すらりと伸びた細い脚。そのシルエットを艶やかに見せる洋上迷彩。

正に人間が作り出した戦闘兵器の化身。



祥鳳「すごい…!」



加賀「ジェット機を見るのは初めて?」



祥鳳「そうです!耳にはしていましたが、こんなにも巨大だなんて…」



加賀「そう。これからは毎日見ることになるから、エンジンの音に耳を慣らしておいて」



注意喚起。ジェットエンジンの轟音がどれほどのものなのか、初めて接触する彼女には分からない。

加賀は歩みを続け、機首の方へ向かう。大きなインテークの合間から優雅に首を伸ばしているその先には、二人の人間の姿があった。



提督「チェック項目を見せてくれ」



重々しい耐G服に身を包んだ男が発言する。


 

大淀「動作チェックは全て完了。異常はありません」



コックピットの横に掛けられたラダーに立つ長身の女性が、ペンでいくつものチェックを付けられた紙を挟んだボードを彼に見せる。



提督「了解。もう帰っていい」



大淀「承知しました。って、あっ!」



ラダーのに立つ女性は、その下に立つ二人の影に気付く。

それを知って、急いでラダーを下りて二人の元へ駆け足で向かった。



大淀「初めまして!挨拶が遅れて申し訳ありません!」



祥鳳「そんなっ、気にしていません!」



大淀「恐縮です。私は、提督と秘書艦のサポートに就く大淀です。宜しくお願いしますね!」



祥鳳「はい、宜しくお願いします!」



加賀「……彼は?」



大淀「提督さん、ですか。彼ならあそこにいますが……」



三人の会話を無視するように、コックピットに身を沈める彼は機類を操作していた。

まるで機械と人間が共に干渉し合う領域に踏み入れるかのように、加賀はラダーに上って彼に近付いた。



加賀「建造要請を出していた娘が来たわ」 



提督「……」カチカチ



彼は無言。



加賀「挨拶くらいは、した方が良いのでは」



提督「ラダーを下げてくれ」


 

加賀「……そう」 



それに彼女は素直に答え、コックピットまで伸びたラダーを離す。

瞬間、ついに"精霊"は動き出す。自動的に開く格納庫の出口へ向かってゆっくりと前進する巨体。

出口から機首が顔を出した所でエンジン始動。ハイパー・ホーク2が唸る。



祥鳳「うっ…!」



轟音で電撃が走る身体。聞いたことのない恐ろしいまでの爆音が鼓膜を侵す。



加賀「音に慣らしておいて」



祥鳳「はっ、はい!」



空気が振動する。揺れる。

やがて空気を切り裂くかの如く甲高く吠えるエンジン。そして装甲で固められたキャノピーが下りる。

瞬間、ついに"精霊"は動き出した。


小さな車輪を回し、ゆっくりと滑走路のスタートラインに立つ。

コン・ダイ・ノズルが大きく開き、アフターバーナー。炎の翼が光る。滑走路を疾走する。

50mも走らずに離陸。まるで陸を嫌うかのように思い切り弾けるように空へ飛び上がる機体。巨大なベントラルフィンを展開しながら、垂直に立った機体は一気に高度を上げていく。

そのまま反転し、機体を水平に戻す。この頃には陸上からは殆ど姿が見えないほどに上昇している。


大型の垂直尾翼に描かれた"矢"のマークの如く、轟音を轟かせながら一直線に大空へ向かうのだった。






祥鳳「…すごい」



圧巻の一言。



大淀「彼、クールに見えますけど、意外とお茶目なところがあるんですよ」



祥鳳「本当ですか……?」



その言葉を心から疑う彼女。



大淀「はい。だって彼、さっきまで建造の事を"艦娘を細胞単位で造り出す"と勘違いしていたんですよ。確かに、建造という言葉だけ聞くとそう勘違いするのは分かりますけどね」



祥鳳「そうなんですか……」



加賀「……」



大淀「そういえば、もう建造は済みましたか?」



祥鳳「いえ、まだです」



加賀「ごめんなさい、案内に夢中で肝心なところを忘れていたわ。工廠は格納庫の隣よ。付いてきて」



大淀「いえ、私が案内しますので、加賀さんはどうぞ休んで下さい。休暇もあと一日ですからね」



加賀「休暇が終わっても、上層部から命令が来ない限り今の私達は動けないわ。終わっても変わりはないわよ」



大淀「まぁ、そうですけど……」



大淀「えぇ、それでは。祥鳳さん、こちらです」



眼鏡を掛けた黒髪の女性は、祥鳳の手を引きながら歩き出した。

格納庫に残された加賀は、冷たい空気に触れながら大空に残る飛行機雲を見詰めて、その場にあるラダーに座り込んだ。






午後が過ぎ、昼食を食べ終えた彼女達は自由に残りの時間を過ごしていた。

建造を済ました祥鳳は、後の事を考えてひたすら訓練に打ち込んでいたが、大淀から止められて今はベンチに座って休憩している。

もう季節は春。激しく体を動かせば汗が出る気温。ほぼ上半身は裸の状態で、彼女は両手に持った弓を眺めながら冷たい空気に身を晒して涼んでいた。


そこへ一人、青と白の服装の女性が歩み寄る。



加賀「ちゃんと水分は摂ったの?」



祥鳳「あっ、そこまで体を動かしていた訳では無いので…」



加賀「そんなに汗を流しておいて何を言ってるの」スッ



加賀は水の入ったペットボトルを彼女へ差し出した。



祥鳳「ありがとう御座います」



加賀「……別に」



加賀「そういえば、そろそろ提督が帰ってくるわ。」



祥鳳「分かりました……」



彼女は、曇った顔で立ち上がる。



加賀「どうしたの」



祥鳳「いや、汗だらけて会うのは、ちょっと…」



加賀「別に出迎えなくても良いわよ。彼はそんなの望んでない」



祥鳳「ですが……」



加賀「貴女が前にいた鎮守府は厳しかったみたいね」



祥鳳「そんな、他と比べたら普通です」



加賀「そう」



祥鳳「一つ、質問良いですか?」



ペットボトルを握りながら、彼女は質問する。



祥鳳「提督は、何故ここへ?」



加賀「……」



沈黙。気まずい空気が流れ込む。

祥鳳は聞いてはならぬ事を聞いてしまったと感じて、背筋を凍らせた。

彼女の首筋に一滴の汗が流れた時、加賀はゆっくりと答える。



加賀「……私が知った事ではないわ」



祥鳳「そ、そうですか。すみません」



鬱蒼した雰囲気。やはり答え辛い事柄があったのだろうか?と考えた祥鳳。

そもそも司令官がこんなに身体に鞭を打って労働する事自体が、彼女にとっては理解し難い事だった。そして、その事実に対して何も言わない無機質な加賀達も、何処かおかしいと感じずにはいられない。

元から加賀は無愛想で感情の薄い人物と聞いてはいたが、こうやって会話している限りそうでもない。他の艦娘だって明るい人ばかりだ。

なのに、この鎮守府全体に広がる憂鬱で鬱蒼した重たい空気は何なのだろうか。



そんな考え事をしていたら、また沈黙した空気になってしまった。

自分から気まずい雰囲気にしてどうするのだ。と、祥鳳は自分を自傷した。



祥鳳「……」



こんな息苦しい雰囲気を破ったのは、ハイパー・ホーク2のエンジン音だ。

甲高くもどこか鈍い重圧な音が空と地表に轟く。



加賀「帰ってきたみたいね」



祥鳳「そ、そうですね」



加賀「日が暮れたら一気に冷え込むわ。貴方も部屋へ帰りなさい。」



祥鳳「分かりました」



祥鳳「お水。ありがとうございます」



加賀「……」



無言の返答。彼女らしい態度だと思って、祥鳳は脱いだ着物を戻す。汗は既に乾いている。








薄暗い格納庫の中、巨大な妖精に身を乗せて、ひたすら機類を操作している男が一人。

偵察ポッドに繋がれたコードを垂らしたスーパーウンディーネが持ち帰った情報を海軍の戦術コンピュータの方へ送信していた。ただ無言で指先を動かし、エアバッグだらけの対G服に身を包んだまま操作している。

この作業が終わると機体の点検。これはスーパーウンディーネのコンピュータによって自動化されているので手間は掛からない。しかし、彼はわざわざ一つ一つ確認しないと気が済まなかった。

機械と人間の対話。二人は、とても無機質で無感情な空間を格納庫に作り出していた。


やがて全ての点検が終わり、彼はまるで恋人から引き離されるかの如く悲しい目で"精霊"を見詰めながら、格納庫から出ていったのだった。


自室へ向かって着替えようとしている道の途中、彼はある艦娘と対面する。



祥鳳「!」ビクッ



提督「……」



彼女は目の前の光景に驚いている。

彼女の目には、エアバッグだらけの対G服に身を包み、素顔が全く把握できない酸素マスクと一体化したヘルメットを被った男が曲がり角を曲がった先に立っていたのだ。

初めて目にしたその姿に、若干の恐怖さえ覚えてしまった。



提督「貴女が、祥鳳」



祥鳳「て、提督でしたか!すみません」



祥鳳「初めまして!祥鳳型航空母艦1番艦、祥鳳です。挨拶が遅れまして申し訳ありません」



彼女は一礼。



提督「気にしてない」



彼はいつも通り、ただ冷たく返す。マスクの内の籠った声で。



祥鳳「その、凄い装備ですね」



提督「……」



彼はその言葉を無視して、自室へ向かおうとする。

祥鳳は引き留めようとしたが、彼から漂う冷徹な空気のせいで思い止まった。

古い廊下を軋ませながら、さして大きくない背中を晒してゆっくりと歩いて行く彼の姿。



祥鳳「……」



バイザーから覗く彼の冷たい目を見て、彼女はどう感じたのだろうか。






その日、祥鳳は彼の素顔を知ることは無かった。

夕食は食堂で食すことになっているが、提督は来ない。彼の代わりに大淀が合掌する。

やがて出された物を食べたら、妖精達に洗い物を任せ、各自自由に夜を過ごす。 


何て所に来てしまったんだ、私は。と、祥鳳は思う。これじゃあまるで飼い殺しではないか。

提督からの干渉もなければ、彼女達から干渉することもない。肝心の執務作業はどうしているのかと言うと、彼が自室に引き込もって一人で仕上げているらしく、執務室に仕上がった書類がその日に纏めて置いてあるとのこと。


こんな淡白で息苦しい鬱蒼とした環境でまともに過ごせるのは、まさしく提督と同じような無感情で排他的な機械人間しかいないだろう。



彼女はその夜、これからずっとこのような生活が続くことに対して、気が沈んでいた。

異常なまでに静かな夜に、ただ「ここへ自分がやって来た理由」を理解するために、一人頭を抱えるのだった。






演習






正式な休暇が終わり、全体の雰囲気が倦怠したまま一日が過ぎた。

男は何も変わらず、午後の始まりに愛機を空へ飛ばし、夕方までには帰還して、獲得したデータを機体に保存した。

自室に閉じ籠って執務作業を済ましたら、格納庫に鎮座する愛機のメンテナンスに時間を費やした。

男の愛機、スーパーウンディーネは正に性能の限界を引き出すの為に作られたような超戦闘機といってもよい。今、この世界に存在する戦闘機で、この機体に勝てる戦闘機は存在しないだろう。4基の桁外れの爆発力を持つ大推力エンジンによる圧倒的な加速力。その推力から生まれる積載量。最大キャパシティは34tと、常識はずれの重量だ。それでいてスーパークルーズを可能にするエンジンは、まさに化物といえるだろう。

正統な高速戦闘機といえるウンディーネだが、格闘能力も舐めたものではない。改造前のウンディーネにはカナード翼がついており、正確な体勢の制御と機動力を生み出した。本来なら鈍重な機体を、脚部を振り回して無理矢理機動力を高めている。当然機体に大きく負担が掛かる事になるが、それをものともしない圧倒的な頑丈性が、その機動力の実現を保証した。

しかし、超高性能を求め過ぎた代償として、機体のサイズが異常なまでに巨大になってしまった。元からガタイの良い機体設計のせいで、結果として爆撃機の如く大型になってしまった。

当然、開発費と運用コストは馬鹿にならない。300機の生産を考えていたのだが、最終的に量産されたのは180機のみ、そのうち30機程度のウンディーネはスーパーウンディーネに改造されている。そう考えると、ウンディーネは選ばれた人間にのみ乗ることが許される戦闘機だ。恋人を選抜する海の乙女。まさにその通りだった。


俺はウンディーネに惚れられた男の一人だ。と彼は改めて感じた。さしぶりに感じたスーパーウンディーネでの戦闘で、戦士としての奮い立った感情が甦っていたのだ。しかしそれは提督という役職には必要のない無駄な士気なのだ。

だが、彼は前線での直接艦隊指揮という新たな作戦を実行する為、いつまでも提督業という甘えた環境にはいられない。思考能力が大きく下がる低気圧の上空で、的確な艦隊指揮を実現させなければならないのだ。はっきり言って不可能に近いが、それを可能とするのが軍というものなのだ。軍はいつからそんな存在になったのだろう?

そう考えると、前回の作戦は特別だった。まぁ、あれは状況上仕方がない手段だったのかもしれないな。と彼は疑問を自己解決した。



彼はスーパーウンディーネの機上で、機体に搭載された人工戦闘知能である唯と無言のコミュニケーションを取っていた。

ひたすら作戦データと戦闘記録を繰り返し読み直し、電源が供給される限りは休むことなく新たな戦術シミュレーションを行っている唯を、彼は自分の娘が手料理を作るところを見守るかの如く、静かにメインディスプレイを眺めていた。


そのとき、彼はふと思った。艦娘の艤装と、今目の前でシミュレーションを繰り返す人工知性体の唯。一体何が違うのだろう?と。どちらも互いに意思を持ち、知能を持った兵器だ。その兵器を操る能力を持っているのが艦娘だ。

しかし、今やどの戦闘機にも操縦補助の為の簡単な人工知能はついている。そう考えると、艤装とあまり変わりはない。そしてパイロットも戦闘機という兵器を操る能力を持つ存在だ。こう考えると立場にあまり変わりはない。


なのに、何故彼女たちはこんなにも神格化されているのだろうか。そこがどうも気にかかる。

まぁ、パイロットの様に運が良ければフライトオフィサくらいなら誰でもなれるものとは違い、天性的な特殊能力のようなものなんだから、そう考えるとここまで神格化されて当然なのだろう。と彼は考えた。


もう不毛な考察はやめだ。と思い彼は唯の機上から下りる。ラダーに足を掛けて、ゆっくりと地へ接地した。下りた途端、冷たい空気が身を襲う。

精霊は格納庫から出て行く彼を気に止める事なく、ひたすら獲得してきた数値と数値を掛け合わせ、休むことなくシミュレーションを繰り返していた。



やがて、彼は執務室へ到着し、必要な書類を纏めて自室へ向かおうとしていた。

出口の扉に手を掛けようとした時、不意に向こう側から開けられる。



大淀「ああ、提督。こんにちは」



提督「すなまい、急いでいる」



俺は開けられた扉を更に開けて、空いたスペースから出ていこうとするが、それを止められる。



大淀「海軍司令部から、演習の許可を得ましたよ。書類はこれです」



提督「演習、とは」



大淀「その名の通りです。手始めに祥鳳さんを編成に入れてやってみましょう。他鎮守府との契約は既に取れています。大丈夫ですよ」



彼女はうっすらと微笑む。



提督「検討する。先ずはその書類を。」



大淀「えぇ、どうぞ」



抱き締めるように持っていた書類を手渡される。そこには確かに演習関連の事が書いてあった。



大淀「執務作業、大丈夫でしょうか?」



提督「問題ない。それよりも、ここを通りたい」



大淀「あっ、申し訳ありません。どうぞ。」



粗さ草と扉から離れる彼女。

男は手に書類を抱えて、早足で自室へ向かっていった。



艦娘同士の演習について、一通り目を通した。どういう制約があり、何が禁止されているのか。

そういう事項を読み上げていく度に胸の奥から混み上がるこの感情。何故、同じ味方同士で戦う必要があるのか?と彼は感じた。

敵は深海棲艦だ。これは紛れもない事実である。だから深海棲艦を模した的に砲弾を当てるならまだしも、どうして艦娘同士で撃ち合う必要があるのだろう。

空軍でも演習はあった。同じエンジンの同じ機体に搭乗し、互いに落としあおうとする。しかし、敵の深海棲艦の戦闘機は旋回性能も形も攻撃力も全く違うため、いくら演習しても実戦では意味がなくなる。それなのにパイロット達は演習を終えた後、一番に"今日はこいつを落としてやったぞ"と叫ぶのだ。


人間同士の戦いをしている場合ではない。

だから演習なんて取り止めたい所だったが、彼は臨時少佐という立場から、相手の契約や要求を破棄する事は出来ない。やれと言われた事は嫌でも実行しなければならないのだ。


演習相手は大佐。第21戦隊の那智、足柄、多摩、木曾に第7駆逐隊の潮、第18駆逐隊の不知火を護衛艦として編制した独自の志摩艦隊を率いている。あまり聞いた事のない名前だ。と彼は思った。戦艦と空母がいない、きっと機動力でこちらを撹乱してくるだろう。

一方、こちらは駆逐艦、巡洋艦、戦艦、空母がバランスよく編制されている。悪くいえば突出した能力がない。


どう攻めるべきなのかは、明日の1000までに決定しなければならなかった。



時刻は既に夕方へ差し掛かろうとしている。彼は、艦隊戦については素人とは言わないが、本場に比べたら足元に及ばない能力だ。

階級も実質3つも違う。相手の方が圧倒的に上手なのだ。

これじゃあ、まるで小学生と高校生が100m走をするようなものだ。


彼はその書類を纏め、一旦自室を後にした。

今日も自室で済ますつもりだったが、携帯食のゼリーとクラッカーが切れていた。それに、いつまでも携帯食を食すのは健康的にあまり良くない。

かといって皆に顔を合わせて飯を食うつもりもない彼は、夕方を少し過ぎた頃合いに一人食堂へ向かったのだ。



食堂に広がる香ばしい匂い。さしぶりに人間らしい食事の感じがした。

銀色のトレイに黙々と食品を載せ、コップに水を注ぎ、その場にあった席に座る。

今は誰も人がいない。一人だけの気楽な食事。空軍時代も集団生活だったのには変わり無いが、彼がいた部隊は様々な意味で特殊だった。

皆、機械のような人間の集まりだった。誰も用なく話す事はない。暗黙の決まりなのか知らないが、用もないのに挨拶するのは迷惑だ。というルールが広まっていた。

彼は、それを気にする事もなければ、むしろ口を開く必要がなくなって心地よいと感じていた。しかし、今の彼の立場では、それが出来ない。


後書き

オリジナル機体説明

「F/A-25 ウンディーネ」
・乗員:1名(Arrow隊機は2名)
・全長:21m
・乾燥重量:19t
・離陸重量:32t (対艦基本装備)
・最大速度:2215km/m
・搭載エンジン:ハイパーホーク2

・日本空軍が所有する戦術有脚戦闘機。スリーサーフェスによる格闘性能と、大推力エンジンによる高速力に、従来機よりも小型の頭部カメラが特徴。Arrow隊機は、高速力を高める為に主翼を5%縮小してカナードを排除し、巨大な一枚のベントラルフィンを追加して、スーパークルーズが可能なエンジンに改良している。Arrow隊機は通常のウンディーネと区別するため、「スーパーウンディーネ」と呼ばれる。
※機体のモデルはF-15

登場人物は後々増やす事があります。


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このSSへのコメント

25件コメントされています

1: がっくら 2016-03-13 23:47:56 ID: UQch5b_k

地の文、書き慣れていますね〜!くそう、自分もこんなssを書けるようになりたい!期待してます。更新頑張ってください。

2: SS好きの名無しさん 2016-03-14 00:05:06 ID: xGD06sj3

前に同じようなの書いてませんでした?

3: 金属製の餅 2016-03-14 00:59:20 ID: 1Wyq3GPJ

>>2
はい、書いてます。
後味の悪い中断でしたので、一新というか焼き直しのつもりでもう一度新しく書き始めました。


コメント有り難う御座います!

4: 金属製の餅 2016-03-14 01:56:53 ID: 1Wyq3GPJ

>>1

そんな事ありません!私は貴方の作品を見ていますが、貴方と比べると私の文章は褒められるようなものじゃありません!
作品の更新を応援しています、頑張って下さい!

コメント本当に有り難う御座います!

5: がっくら 2017-02-12 22:10:29 ID: j4RNn7iN

ああ^〜綿密な心理描写、素晴らしいです!
私も戦闘妖精雪風とアーマードコア(FAしかやったことありませんが)、どっちも好きです!
更新頑張ってください!待ってます!

6: 金属製の餅 2017-02-12 22:52:31 ID: kVVb0h9s

>>5
ありがとナス!

7: Johnmine 2017-02-14 19:09:20 ID: 3ay1d00s

厳しい軍しか知らない主人公と、アットホームな艦娘、そして唯。

このあとこれがどのように変わっていくのかとても楽しみです。

8: 金属製の餅 2017-02-14 22:18:02 ID: SCPi9MbZ

>>7
コメントありがとうございます!
やはりいきなり環境が変わると人は困惑するものですよね…

9: ムフロン 2017-02-16 01:25:12 ID: fddkGcX6

勉強させていただいてます。これからも頑張って下さい!

10: 金属製の餅 2017-02-16 07:30:40 ID: 68jJMf9j

>9
ありがとうございます!

11: カープ優勝!@二航戦提督 2017-02-16 21:35:21 ID: O8am1fv5

場面場面を容易に想像させる文章力うらやましです!

更新頑張ってくださいね!楽しみにしてます!

12: 金属製の餅 2017-02-17 07:24:15 ID: oeKDScXd

>11
ありがとうございます!

13: ごろごろ 2017-02-20 22:49:10 ID: CO70N9EC

この先、主人公が変わっていくのか、自分を曲げずに突き進んでいくのか、気になってしまいますね。続き楽しみにまってます。

14: 金属製の餅 2017-02-22 06:21:12 ID: -6kkDHjt

>13
ありがとうございます!

15: にゃんだふる 2017-02-28 20:35:31 ID: HZLDc2zr

面白いです!
人を殺す仕事をしてるんだから、戦場じゃない場所くらいは笑っていたい………そんな風に思ってうちの陸軍のは書いてるんですが、主人公や空軍みたいな考え方もあるんですよね……。
むしろそっちの方が一般的なのでしょうか。
続きに超期待!
金剛頑張れ!

16: 金属製の餅 2017-03-01 20:04:08 ID: QvcsiWL5

>>15
コメントありがとうございます!!
なんというか、こちらの空軍はかなり特殊な方で、本来なら陸軍提督の方が普通だと思いますよ!

17: SS好きの名無しさん 2017-03-03 12:20:49 ID: HmRahsIj

続きが待ち遠しいですなぁ

18: 金属製の餅 2017-03-04 13:31:13 ID: cAVgEFzi

>17
コメントありがとうございます!

19: MAVIS 2017-03-05 23:05:42 ID: 99WzwIdy

なかなか面白い組み合わせですね!
それにしても・・・提督怖ぇぇぇΣ(゚Д゚lll)

20: 金属製の餅 2017-03-05 23:13:58 ID: XJyWGq8o

>>19
コメントありがとうございます!

21: SS好きの名無しさん 2017-03-10 13:09:58 ID: E18inXXu

あれだね、地の文がすばらしいね(語彙力皆無)
世界観も好きです!お疲れの出ませんように!

22: 金属製の餅 2017-03-10 17:18:23 ID: MpqbANE_

>>21
ありがとうございます!!
現在次の章に向けて準備してます!

23: ムフロン 2017-04-11 09:33:14 ID: UQtGml0B

乙です。

一見文字を詰め込んでるようで良いところで句切りがついている。こんな地の文を書きたい(涙)

お互いに頑張りましょう!

24: 金属製の餅 2017-04-12 21:21:52 ID: y733v5co

>>23
ありがとう御座います!!
私はまだまだ勉強不足です…お互い頑張りましょう!

25: SS好きの名無しさん 2017-04-28 10:22:55 ID: sWnkTPsV

最近の楽しみの一つになってます!更新乙です!


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1: SS好きの名無しさん 2017-03-27 15:39:35 ID: fKZxtIkO

提督と皆の間が縮まるのかタノシミダァ…


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