2016-09-16 22:35:55 更新

概要

初期艦五人組可愛いよね!

※スンマセンリクエストは次のSSでいいスか?(汗

ギャグは普通のSS風味、シリアスでは地の文を入れる方式で行きます


前書き

初期艦でなんか書きたくなったので書いていきます
こんなのが見たいというのがありましたらコメントに書いといてください
他の艦娘との絡み、シチュエーション問いませぬ
ラブコメ、シリアス超がんばる
割と長めにやっていきたい
えっちぃのは書く自信がぬいけど頑張る 一先ずR-15は頑張る


それゆけ初期艦!



―――――呉第三鎮守府



テクテク……



吹雪「~♪」



コンコン……ガチャ



吹雪「おはよう御座います、司令官」


提督「おう吹雪、おはよう」


吹雪「今日もいい天気ですねー。絶好の哨戒日和ですよ」


提督「はは、全くだ。最近は近海でもはぐれを見なくなって久しいがな」


吹雪「でも慢心はダメ、ですよ。ラバウルの件があります、いつ襲ってくるとも限りませんから」


提督「御尤も……ところで他の4人は?」



吹雪「叢雲ちゃんと電ちゃんはもうすぐ来るそうです。寝癖を直すのに手間取っているらしくて」


提督「ああ、電は結構なくせ毛だし、叢雲はあのボリュームだからな……」


吹雪「五月雨ちゃんも同じような感じですね。あの子の場合もっと長いから余計……」


提督「まあ身だしなみを整えるぐらいは許してやろう……で、漣は」


吹雪「漣ちゃんは…………」


提督「あぁ、その態度で察した。また徹夜で深夜アニメ見てやがったな」


吹雪「すみません、止めたんですが……」


提督「いいよ、今さら言って聞く奴じゃねえから……はぁ」



コンコン……ガチャ



電「失礼します……おはよう御座います、司令官さん」


叢雲「おはよう、司令官。ごめんなさい、少し時間がかかったわ」



提督「おはよう二人とも。なに、まだ就業前さ」


叢雲「今日は五月雨もまだ来てないのね」


電「さっき様子を見てきたのです。すぐ行くから先に行ってて、とのことでした」


提督「そうか、ありがとうな電」ナデ……


電「えへへ……」



吹雪「…………」


叢雲「…………」



提督「……どうした二人とも、すごい顔だぞ」


吹雪「なんでもありません」プイ


叢雲「何を言ってるのかしら」プイ


提督「……撫でて欲しいなら素直に言えばいいものを」ナデナデ


電「はわぁ……」ポワワワ


吹雪「ぐぬぅ……」


叢雲「むぅ……」



提督「頑張ったらご褒美やるから」


吹雪「あんみつがいいです」


叢雲「大福と濃いお茶」


提督「へいへい了解……間宮券もタダじゃねぇんだぞ……」


電「あ、あの……い、電も、アイスが……」


提督「電に頼まれたら断り辛い」


吹雪「同感です」


叢雲「あの上目遣いには勝てないわ」


電「ふえ……?」



コンコンッ、ガチャッ



五月雨「お、おはよう御座います!遅れてすみませんッ!」


提督「おいおいあんまり急ぐと」


五月雨「ふぎゃ!?」ドンガラガッシャーン


提督「転ぶぞって言おうとしたらこれだ……」



五月雨「あたたた……」


叢雲「もう、大丈夫?そろそろ学習しなさいよ」


五月雨「えへへ……ありがと叢雲ちゃん」


叢雲「全く、いつも気をつけろって言ってるでしょ。アンタただでさえ危なっかしいんだから」



吹雪「叢雲、何だかんだ言っても面倒見がいいよね」


電「吹雪ちゃんよりよっぽどお姉ちゃんしてるのです」


吹雪「それどういう意味かな電ちゃん」


電「はわわ、お口が滑っちゃったのです」


提督「電ってさらっと毒吐くよな」




ドドドドドドドドドド……バァァンッ!

ドア「暴力反対」



漣「大天使ムラクモエルと堕天使ブラックサンダーが降臨したと聞いて飛んできますた!」


提督「おう漣おはよう、そして遅刻に付き最後の審判を言い渡してやろう」


漣「そんなぁご主人様この愚かな迷える子羊にどうかお慈悲をッ!!」


提督「判決、ギルティ。よって三日間入渠ドック清掃を言い渡す」


漣「貴重なプライベートタイムがーッ!?」



吹雪「そもそもあんなに遅くまで起きてるからそうなるんだよ」


漣「そんなこと言ってブッキーも途中まで楽しんでたじゃん!」


吹雪「私は途中でちゃんと切り上げたもん」


叢雲「まあ自業自得よね。これからはせいぜい隈を作らないようしっかり睡眠をとりなさいな」


漣「ちくしょう養豚場の豚を見るような目で見下してきやがるぜこのムーランルージュ」


電「そんなこと言ってるから漣ちゃんはダメ人間って言われるのです。もうちょっと自覚を持つのです」


漣「提督助けてッ!このデンデン可愛い顔してめっちゃ毒吐いてくるよッ!人畜無害な顔して中身とんでもない鬼畜だよッ!」


提督「お前が夜更かししなきゃそもそも言われないんだから残念でもなく当然」



漣「さみぃぃぃい!漣の心のオアシスはもうさみーだけだよぅ!」ガバッ


五月雨「あ、あはは……よしよし」ナデナデ


漣「あぁ^~さみーの撫で撫で癒されるんじゃぁ^~」


叢雲「はいはい甘やかさないの」ヒッペガシ


漣「運命は我を見捨てたかッ!」




提督「漣が来たら途端に騒がしくなるな」


吹雪「まあ、賑やかでいいと思います」


電「叢雲ちゃんとも仲がいいのです」


叢雲「はぁ?勘弁してよ電、なんでわざわざ漣と仲良くなんなきゃいけないの」


漣「そっ、そりゃあんまりだぜムラキョン!漣たち一体何年の付き合いだと思ってんのさ!」


叢雲「付き合いは長いけど仲よくした覚えはないわ」


漣「あぅ…………」




叢雲「……なによ、急に黙っちゃって」


漣「ほ、本当に漣の事、そう思ってる……?」


叢雲「莫迦ね、冗談に決まってるでしょ。そうじゃなかったらこうしてアンタと口げんかもしてないわよ」




漣「むっ、ムッシュムラムラぁぁぁぁあああああッ!!」ガバーッ


叢雲「人の名前を欲求不満みたいに呼ぶなッ!あと首に抱きつくな、苦しいっての!」グギギギ


漣「人が悪いぜムラキョォン!漣をこんなに弄ぶなんて、責任取りなさいよぉ!」


叢雲「はいはい後で間宮アイス奢るから、司令官が」


提督「オレェ……?」


漣「マジっすかご主人様ッ!?ゴチになりやーす!!」


提督「えぇ……」



五月雨「……じゃあ、じゃれ合いも終わったところでお仕事しましょうか」


提督「おっそうだな」


叢雲「ちょっと五月雨、流石に私と漣がじゃれ合ってるとか言うのはやめてほしいんだけど」


漣「そうだよさみー!漣はね、ムラキョンとの愛を確かめ合ってるんだよ!」


叢雲「ごめんやっぱしばらくアンタとは距離置きたいわ」


漣「あぁんもう~むーやんのいけずぅ~」スリスリ


叢雲「はっ倒すわよこのピンク花畑!」スパンッ


漣「もうはっ倒してるじゃないですかやだー!」



提督「あの二人は放置して仕事するか」


電「なのです」


吹雪「あ、今日のウィークリー任務なんですけど、とりあえず朝一番であ号を……」



叢雲「ちょ、司令官ッ!?無視しないでよ、この阿呆引き剥がしてよぉ!」


漣「ひどいッ!あんなに愛し合ってたのにどうしてそんなに冷たいのムック!?漣とは遊びだったのムック!?」


叢雲「人をどっかの毛むくじゃら赤モップみたいに呼ぶなっつの!!」



提督「おーい、そろそろ遊んでないで仕事手伝えー」


叢雲「だったらこのちゃらんぽらん引っぺがしてよばかぁ!」


提督「えー俺も絡まれたくないからパス」


叢雲「その顔面に酸素魚雷ぶち込むわよッ!!」


漣「ちょっとむーむー誰よその男ッ!漣というものがありながら浮気するなんて!あなたって本当に最低のクズだわッ!」


叢雲「前言撤回!もうアンタなんか大っ嫌いよッ!!」




電「……今日も鎮守府は平和なのです」





_______________


呉第三鎮守府



呉に設立された、精強な艦娘達がそろう3つの鎮守府のうちの一つ。

鎮守府の中では珍しく、5人の秘書艦を設けており、それぞれが鎮守府設立からの最古参であると同時に割と癖が強い。



提督


呉第三鎮守府の提督。階級は大佐。5人の秘書艦を設けているが、別に彼自身の仕事ぶりが悪いというわけではない。

なぜこうした体制を取っているかは第三鎮守府の七不思議の一つになっているとかいないとか。


気さくで接しやすい人柄のおかげか、彼の指揮する艦娘達からの信頼は厚く、好意を持つ者も少なくない。




初期艦とティータイム!




――――――1500、執務室




提督「これは承認、と……」ハンコオシ



提督「……もう1500か……小腹減ったな」



提督「…………せっかくだし」






――――――甘味処間宮



漣「ご主人様、あの、マジで……?」


提督「マジでマジで」


漣「本気で?夢じゃない?ほっぺ抓って痛くなかったら漣泣くよ?すぐ泣くよ?」


提督「ちゃんと現実だからありがたく食えよー」



叢雲「それにしてもアンタが自分から奢ってくれるなんてね」


五月雨「というより提督、甘いもの召し上がったりするんですね」


提督「頭使うと甘いものを脳が欲するのよ、糖分を求めちゃうの」


提督「でも一人じゃ味気ないし、せっかく間宮券余ってたんだからお前らを誘うのも悪くないと思ってな」


電「間宮さん、最近司令官さんが来てくれなくて寂しいって言ってたのです」


漣「わーご主人様女泣かせー」


提督「そりゃ悪いことしたな……これからはちょくちょく顔出すか」



間宮「あら、無理しなくても大丈夫ですよ?」


提督「間宮さん」


間宮「提督がお忙しいのは存じております。なかなか時間がなくて足を運べない、というのも理解していますから」


提督「いや、それにしても申し訳なかった。これからは顔を出すよ、元々甘いものは好きだからな」


間宮「あら、嬉しい」



間宮「それと、お待たせいたしました。こちら間宮パフェ駆逐艦スペシャル5つになります」


漣「キタキタキタァ!!」


電「はわぁぁぁ……」キラキラ


提督「一航戦盛りだのに比べりゃ霞むが、十分でかいサイズだよなぁ」


吹雪「電ちゃんの顔よりも大きいですからね」


五月雨「でもみんなペロッと平らげちゃうんですよねぇ」


提督「俺もそこそこ甘党だと思うが、女子には負けるわ……見てるだけで腹一杯になりそうだ」


電「いただきまーす!」パクッ



電「~~~~~~~~ッ!!」キラキラキラキラ



提督「ははは、美味いか電」


電「ッ!ッ!」コクコクコク


提督「おーおー喋れないほど美味いか。いいぞいいぞ、たんと食え」ナデナデ


電「~~~~~!」ポワワワワ



叢雲「あんなに撫でてもらえる電が羨ましいわ」


五月雨「本当可愛いって得だよねぇ」


漣「いやーこのウルトラc級美少女の漣ちゃんもデンデンには負けるわ」


叢雲「冗談は顔だけにしときなさいよ漣」


漣「冗談みたいな服着てる人に言われたくないにゃー」


叢雲「なんですってぇ!?」



漣「いやだってよく見なくてもその服奇抜すぎでしょ。何そのおっぱいんとこに開けたスリット、そこからベイビーに母乳でもあげるつもりなの?ていうかそもそも母乳出るの?叢雲ママなの?改二になってちょっとおっぱいでかくなったぐらいで調子コイてんじゃねーですよって話っすよ」


叢雲「それこそ珍妙奇天烈な言動するアンタにだけは言われたくないわよ」


漣「漣のこれはネットスラングですームラキョンが知らないだけですぅー」


叢雲「こんの……ッ!」



提督「コラ、お前ら喧嘩するな」


叢雲「だってこの舌禍ピンクが!」


漣「この欲求不満ムラムラが!」


提督「あ、間宮さんこの二人今お腹いっぱいだから要らないそうなんで下げちゃってください」


叢雲「ちょっと誰と誰が喧嘩してるっていうのよアンタ」ニコニコ


漣「ムラキョンの言う通りざんすよー、漣たちマジ一生モンの戦友だし、ズッ友だし」ニコニコ


提督「プライドより甘味優先かよ」



叢雲「ていうかアンタ、まだ注文来てないけどなに頼んだの?」


提督「ん?内緒」


吹雪「内緒……?」




間宮「提督、お待たせいたしました」


提督「お、来た来た」




間宮「こちら試作メニュー、間宮と伊良子の合作、『和洋甘味三昧』でございます」



吹雪「うわ、これ……すご……!」


五月雨「大きな箱の中に、いろんな甘味が……」


叢雲「アイス、もなか、スコーンに羊羹……」


漣「なんじゃこりゃぁ……正直間宮パフェより胃袋を刺激されるぜ……」



電「こんなメニュー今まで見たことないのです……」


提督「そりゃそうさ、裏メニューのうえに試作だからな」



『裏メニュー?』



提督「一部の者にしか教えてもらえない、普通のメニューとは違う、間宮さんと伊良子ちゃんが創作、試作した物の中で上位に当たるメニューを載せたものだ」


提督「教えてもらえる条件は様々だ。大の甘党だったり、味覚に自信があったりな」


提督「俺はこの鎮守府のトップだからってことでほぼ無条件みたいなものだが」


間宮「時々提督さんに試食してもらうんです、評判が良かったら表メニューにも出そうと思って」



叢雲「何それずるいッ!!」


五月雨「私全然知らなかった……」


吹雪「司令官、なんで教えてくれなかったんですかー!」



提督「そりゃ裏メニューだからな。おいそれと簡単に教えてたまるか」



吹雪「ずるいですー!」


五月雨「職権乱用だー!」


提督「文句言うんじゃありません。大体俺だって、今回は前々から間宮さんに頼まれてたから来たわけで、お前たちは本当にもののついでだし」


漣「こんな美少女5人も侍らしといてついでってーのは冷たすぎやしませんかいご主人様」


提督「…………漣が、美少女」


漣「おい何だその含みのある言い方」



叢雲「ちょっと司令官ッ!一人だけずるいわよ、私にも一口寄越しなさいよッ!」


提督「三回回って語尾に『にゃん』付けながらおねだりすれば考える」


叢雲「そんなにぶっ飛ばされたいのか……」


漣「あ、それ漣もちょっと見たいかも」


叢雲「アンタどっちの味方なのよ!?」


漣「面白そうな方」


叢雲「…………」


漣「うんゴメン冗談だって、だからそんな鞭は仕舞って平和に話し合いと行こうぜ、ていうかどっから出したんよそれ」



提督「ふむ……どれ、まずはこのアイスから」パク


電「あぁぁ……!」



提督「……ん、美味い。舌に触れた瞬間濃厚な乳とバニラの甘みが冷気と共に口の中に広がっていく」


提督「だがしつこくない、むしろほんのりと爽やかな香りと共に後味がすっきりしている。隠し味にミントを入れたんだな」


間宮「流石ですね、その通りです」


提督「うん、文句なしに美味い。これこそまさしくアイスクリームの王道といったところか」



吹雪「うわぁ……食べたい……」ジュル


五月雨「評価が分かりやすくて口の中に味の幻が……」



提督「アイスをもなかで挟んでみよう」サクッ


提督「ん、もなかの香ばしい香りとサクサクの食感が、アイスの濃厚な甘みをさらに引き立てている」


提督「これだけでも金を出して食べる価値があるな。出店で出したら行列ができるんじゃないか?」


間宮「もったいないお言葉です」



叢雲「ぐううぅぅ……!!」ワナワナ


漣「どうどうムラキョン、気持ちは大いに分かるけどその拳はそっと下ろそうな」



提督「スコーンはどうだろう」カプッ


提督「んむ、外サクサク、中ふわふわの生地が何とも舌に楽しい。蜂蜜を練りこんであるのかな」


間宮「金剛さんにコツを聞いたんです。蜂蜜練りこみ生地は金剛さんの最近のお気に入りだそうで」


提督「このジャムも……ベリー系だな。ラズベリー、ブルーベリー、クランベリーか」


提督「もう一つあるがこちらは……む、中にナッツとチョコチップか」


提督「こいつは美味い。甘さと酸味が交互に広がって、いくらでも食べられてしまいそうだ」



電「あうぅぅぅ…………」ジュルリ



提督「そして羊羹……」ムグ


提督「うん、同じ甘さでも随分と違うものだ。とても素朴で優しい甘み」


提督「栗羊羹か……砂糖と栗本来の旨味が合わさって、何とも上品な味わいを醸し出している」


提督「日本人が求める和の心、それがこの中にギュッと凝縮されているようだ」



吹雪「ううぅぅぅ~~!司令官ずるいー!」


五月雨「そんなの聞いたらますます食べたくなってきちゃったぁ……」


漣「流石にこの仕打ちには漣ちゃんも怒りが有頂天」


電「うぅぅぅ~~……」ウルウル


叢雲「おーよしよし、電はいい子だから泣かないの」



提督「ダメだ、これは間宮さんにこのメニューを評価するから頂けるんだ」


間宮「あらあら……あとで皆さんにも差し上げてもよろしいのですが」


漣「うおー間宮さん太っ腹ァ!」


提督「いや、ダメだ」


漣「ファッ!?ちょっとご主人様いくら何でもケチ臭すぎやしませんかねぇ……」


提督「別にお前らに意地悪したいから言ってるんじゃねぇよ」




提督「んんッ……単刀直入に言わせてもらいます」


提督「間宮さん、申し訳ないが、このメニューはあまりよろしくない」




『えっ……!?』



吹雪「あ、あれがダメって……」


電「どうしてなのです……?」



間宮「具体的にお聞かせ願えますか」


提督「ああ」



提督「まず、このメニューだが……セットの飲み物はどうするつもりなんです?」



五月雨「飲み物……?」



提督「この和洋甘味三昧、確かに見た目にも豪勢だし発想は良い、それにそれぞれの味は申し分ない」


提督「が、それぞれジャンルの違うこのメニュー、俺は一体どの飲み物をセットにすればいいのか迷ってしまった」


提督「それぞれで考えれば、アイスはジュースやコーヒー、スコーンは紅茶、羊羹は緑茶と、相性の良い飲み物がある」


提督「だが合わさるとどうだろう。それぞれが自分の長所を主張し合って、脇役である飲み物の入る余地がないんだ」



叢雲「言われてみれば……」


五月雨「たしかに……」



提督「それに甘味を盛り過ぎたのも良くない」


提督「確かに見た目にも華やかで、一見すると贅沢且つ豪華なメニュー。上手くいけば一番人気も狙えるかもしれない」


提督「だが実際に食してみると……あまりにも甘味がしつこい。甘味同士でも喧嘩を起こしているんだ」


提督「食べ進めるにつれ、口の中が甘ったるさで一杯になってしまう」


提督「飲み物でリセットしようにも、どれを飲めばいいのか答えに迷う始末」




提督「ハッキリ言って、このメニューは失敗かな。どうせ合わせるなら、和か洋どちらかに絞るべきだった」


間宮「……仰る通りですね。あれもこれもと欲張ったのがいけませんでした」



漣「最初は何だこの無能とか思ったけど、ご主人様なりに考えてたんだね」


提督「毎回朝寝坊する軍人の風上にも置けん奴には言われたくないんだよなあ」



間宮「ですが、貴重なご意見ありがとうございました。これをもとにもっと改良してみます」


提督「では、また時間を作って試食に伺いますよ」


間宮「見ていてください。今回は酷評でしたが、次はぐうの音も出ないほどのメニューにして見せますから」


提督「はは、そいつは楽しみだ」



吹雪「司令官ってすごいんですね」


提督「何がだ?」


吹雪「私、あれを見て美味しそうとしか思えなかったのに、司令官は全部食べたうえでダメって言えちゃうんですもん」


吹雪「私が司令官の立場だったら即決でOK出しちゃうなー」


提督「試食して評価してほしいって言われなきゃ、俺も純粋に楽しんで食べてたぞ」


提督「店に出すかどうかだからな、しっかり評価しないと相手にも失礼にあたる」


提督「それに俺がOKを出したメニューが不評を買ったら間宮さんに申し訳が立たないから、どうしたって真剣にならざるを得ないんだよ」


叢雲「ちょっとアンタの事見くびってたわ……素直に称賛する」


提督「そりゃどうも」



提督「ところでお前ら、時間かけてるみたいだがいいのか?」


電「え、何がなのです?」


提督「いやお前ら…………パフェ、溶けてるぞ」



『あああッ!?』



つづく




____________



吹雪


呉第三鎮守府秘書艦。最古参の一人。

健気で素直でどこか芋っぽいが、それが素朴な魅力を生み出している。

こう見えて特Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ型の長女なので、以外とお姉ちゃんしている。


提督とは年の離れた兄妹のような関係。だが吹雪本人はもっとその先へ進みたいと思っている。




叢雲


秘書艦。最古参の一人。

負けん気が強くプライドが高い、銀髪の美しい美少女。上司である提督にも厳しい態度を取る。

沈着冷静で一見クールに見えるが感情は人一倍起伏が激しく、見ている分には飽きが来ない。


意地っ張りな性格が災いし、もっと提督に素直になれたらと思わない日はない。






秘書艦。最古参の一人。

可愛らしい見た目からネットスラングを連発する様は、残念美人を体現しているといっても過言ではない。

明るく天真爛漫、どこか憎めない性格は、しかし心の奥にある臆病さの裏返しか。


提督とつるんで悪戯を仕掛ける悪友のような存在。しかしその本当の想いは……?






秘書艦。最古参の一人。

心優しい性格と庇護欲をくすぐる見た目から、鎮守府のマスコット的存在となっている。

引っ込み思案だが意外に肝が据わっており、ピンチの時ほど頭が冷えるようだ。


提督とは親子とも兄妹ともとれる仲の良さだが、彼女が本当に望む立ち位置は……。




五月雨


秘書艦。最古参の一人。

快活で努力家だがそれを帳消しにしてしまうほどのドジっ子。多分初期艦の中で一番ヒロインしてる。

気配り上手だがドジっ子のせいで空回り気味。同じ波長を感じるのか、電とは仲良し。


提督を想う気持ちは誰にも負けていないと思っている。意外と嫉妬深い。






初期艦と映画!




―――――――――とある日



ガチャッ


漣「うぇーいご主人様今日もボノボノからかって遊ぼうぜ……って」


提督「おー漣」モグモグ



漣「えっ、なにそのテーブルに積まれてるピカピカの円盤の山は」


提督「いやDVDだよ、見てわからんのか」


漣「いやそれは分かりますよ、ていうかTS○TAYAって思いっきりラベル貼られてるから映画鑑賞中ってことぐらいわかりますよ」



漣「問題は……」




DVD「俺を見終わっても第二、第三の映画が貴様の時間を奪い取る」ゴゴゴゴゴ




漣「なんでそんなチョモランマもチチチョビレ、じゃなかったエベレストもクリビツテンギョーな量を借りてきたんですか」


提督「いやそれがよ、久しぶりに映画でも見ようかと思って用事が終わったついでに寄ったのさ」


提督「そしたらなんか全作品百円セールってのがやっててよ、これはチャンスと思って片っ端から見たいのを借りてきた」


漣「いやまあこの際出費の方は気にしねーですよ、ご主人様の自腹だからうちの予算に何にも響かないし」


漣「問題はその量を本当に一週間で見終われるんですかって話ですよ。一週間不眠不休映画鑑賞耐久レースやったとしても怪しいっすわ」


提督「よく見返したら前見たやつだったりよく似たパロコメが混じってたりするから、それ除けばギリ行ける」


提督「あとこの日のために大淀に無理言って一週間休暇貰った」


漣「なんつー無駄な有給の使い方だよ……大淀さんに同情するわ」


提督「いいじゃねぇか、着任してから初めて使うんだぞ。これぐらい黙認してくれなきゃ困る」


漣「普段真面目だから余計に性質が悪いんだよなあ」



提督「せっかくだから漣もどうだ?ほら、つまみのおやつもたくさんあるぞ」ドサドサ


漣「うっひょーマジデジマ!?んじゃま漣もご相伴に預かりまっしょい!」


トテトテトテ……ポスッ



漣「よっしゃ準備完了!」


提督「おーらいちょっと待てさざなーじさんや」


漣「んぁー?どしたのご主人様」



提督「なんでお前ちゃっかり俺が胡坐かいてるど真ん中に座ってくれちゃってるわけ?」


漣「ご主人様の胸板おっきくてあったかいナリィ……」スリスリ


提督「やめろスリスリするな、暑苦しい」


漣「そこはもうちょっと恥ずかしそうにしてくれないと体張った意味がないんですがそれは」


提督「今更お前との間に恥じらう要素なんかねーの」


漣「え、何その熟年夫婦みたいな認識」



漣「つーことはつまりアレか、漣はご主人様とケッコンカッコガチしていた……!?」


提督「そろそろふざけるのやめないと追い出すぞ」


漣「…………むぅ」ササッ



提督「……どうした、急に機嫌悪くして」


漣「ふざけてなんかないし……漣大真面目だったし」


提督「お前……」


漣「ご主人様への気持ちまで、ふざけて伝わってほしくないもん」


提督「漣……」




提督「分かったドッキリだな隠しカメラどこだこのやろ」


漣「提督お前ァ!漣の気持ち全部くみ取ったうえで面白い方向に解釈してんじゃねぇ!」






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『くそったれ!お前と関わるとろくなことがありゃしねえ!』ケンジュウババババ


『ハッ、奇遇だな!俺もおんなじこと考えてたよ!俺たちって運命共同体!?』リローディング


『どうせならケツのでかい美人とやりたかったよこういうの!』マガジンカシャー



漣「この映画中々面白いですねー」ポテチパリパリ


提督「俺の友人が勧めてくれたんだ。低予算の割にシナリオがよく練られてるって」チーカマパクー


漣「こういう主人公たちの反りが合わないながら、息を合わせて敵をやっつけるっていうの、漣嫌いじゃないっす」


提督「ジョークの応酬もかなりテンポが良くて見やすいな」


漣「B級映画にしとくのもったいないっしょ」


提督「ほらコーラおかわり」ドプドプドプ


漣「あざーっす」オットットット






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ガチャッ



電「司令官さん、やっぱりここにいたのです」


提督「おう電、いらっしゃい」


漣「デンデンやっはろー」



電「もうお昼なのに読んでも来ないから来てみれば……映画ですか」


提督「そうなんだよ、今日から一週間映画三昧」


漣「せっかくだから電っちも一緒に見ようぜー」


電「…………お昼はチャーハンなのです、三人分持ってきますから待っててください」


提督「お、じゃあ俺も行こうかな。丁度エンドロールだし」


漣「カーッ、ご主人様は分かってないねー、エンドロールこそ映画の醍醐味だというに」


提督「誰の受け売りかは知らんがチャーハンが要らんのなら素直に言え」


漣「ぱぱーチャーハン欲しいー」


提督「自分で取ってこい」


漣「育児放棄だー!」






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『クゥーン……』


『頑張ったなチェロ……15年だぞ、立派な爺さんだぞ』


『ワフ……』


『色々あったな……すっげぇ楽しかった……』


『ワフ!ワフ!』


『…………なぁ、頼むよ……まだ死なないでくれよ……ガンなんて嘘だって言ってくれよ……』


『あんなに、元気に走り回ってたじゃねぇか……あんなにメシ食ってたじゃねぇか……』


『なぁチェロ……チェロぉぉ……!』


『クゥゥン……』





漣「ベタだけど涙がで、出ますよ……」ウルウル


提督「動物系はなぁ……あぁちくしょう、年取ると涙腺が緩くなっていけねぇ」ズズッ


電「チェロおおぉぉぉぉぉ……」シクシク



提督「ほら電、鼻かめ」


電「えぐ……」チーン


漣「イナズマンは優しいから動物に好かれそうだよね」


提督「野良猫とかも向こうから近寄ってくるぞ」


漣「何それ裏山」


提督「相手の気持ちをよく考えるから、野生動物の警戒心を無意識に解いてるんだろう」


電「チェロおおおぉぉぉぉぉぉ……!!」エグエグ


漣「……仮にイオナズンがペット飼ってて、それが死んだらめっちゃ塞ぎ込みそう」


提督「下手に短命な生き物は飼ってやれないな」


漣「まーそんな短命な命を金で売買してるペットショップと顧客もアレですよ」


提督「誤解を招く表現やめーや、商売なんだぞ」


漣「でも間違ったことは言ってないっしょ?」


提督「……まぁ、否定は出来んな」



提督「ペットショップってのは、家族が増える喜びと一緒に、その家族を失う悲しみもセットで販売してるようなものだからな」


提督「それに本当にその家族を一生養える余裕があるのか、よく考えず買っていく奴もいる」


提督「…………ままならんものだな。人も、動物も」



漣「なんかご主人様……結構シビアな目で見てんだね」


提督「漫画の受け売りも入ってるがな。実際その通りだと思うぞ」


漣「ちょっと意外すぎて本当に漣が知ってるご主人様と同一人物か疑ったわ」


提督「この野郎人がせっかく珍しくいい話してたのに何だそれ、脇腹つつき倒すぞ」




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___________

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ガチャッ!


叢雲「アンタ達ッ!」


提督「うおぉビックリした、なんだ叢雲か……」


漣「おームラキョンにゃんぱすー」


電「びっくりしたのです……」



叢雲「大淀さんから聞いたわよ、何よ一週間映画鑑賞のために休暇取るって!?」


叢雲「大淀さん眉間に皺より過ぎて痕が付くぐらい参ってたじゃないの!!」


提督「一応俺が確認しなきゃいけない一週間分の書類は全部目を通してあるし、代理も立ててるからよっぽどのことがない限り大丈夫」


叢雲「代理って……誰よそれ」


提督「暁」


叢雲「アンタこの鎮守府破滅させたいワケッ!?」



提督「流石に冗談だよ、長門と陸奥、あと大和武蔵に頼んである」


提督「つかいくら何でも暁って聞いただけで鎮守府破滅は言いすぎだろ……お前暁の事そんな風に見てたのか」


叢雲「い、いや、だって……暁よ?見栄っ張りのあの子に事務作業任せたら、「レディとしてのきょーじがー」とか訳わかんない理由で意地でも一人で終わらせようとして日が暮れるわよ」


提督「むしろそうなるぐらいなら早々に俺か年長に頼るぐらいの素直さはあるだろ……あるよな?」



叢雲「…………はぁ、まあいいわ。それで、映画鑑賞だっけ?」


提督「おう、そこにいつもの書類の山の代わりに積まれてるそれ全部」




DVD「我らをたったの一週間で打ち倒そうとは舐められたものよ」ゴゴゴゴゴゴゴ




叢雲「……本当にそれ一週間で?」


提督「いぐざくとりー、今日から一週間耐久レース」


叢雲「バカだバカだとは思ってたけどこんなにバカだなんて思いもしなかったわ、バカすぎて逆に清々しいくらい」


提督「仮にも上司に対してそんだけバカを連呼できる貴女の肝の据わり方尋常じゃないですね」


叢雲「事実言ってるだけだし」


提督「否定できねぇ」



漣「まーまームラキョンよ、そうカリカリしないで、一緒に楽しもうぜー」


叢雲「普通はアンタも諫める立場の筈なんだけど……アンタはともかく電まで……」


電「あう……」



電「で、でも、これだけ借りてきたのに見ずに返却するのはお金がもったいないのです……」


叢雲「ん……それはそうだけど」


電「それに、本当は叢雲ちゃんも一緒に見たかったのですよね」


叢雲「……何の事かしら」



電「私を差し置いてあいつらと映画鑑賞なんてずるい、私も司令官と一緒に映画見たい……そういうことですよね」


叢雲「うぅ…………」


提督「え、うそ、図星なの?マジで?それマジだったら俺素直に嬉しいわ叢雲かーわい」


電「大淀さんを泣かせた悪魔は黙るのです」


提督「ウィッス」



漣「んじゃー尚更一緒に見ようぜー、ほらムラキョンの分の座布団とお菓子と飲み物」ドゾドゾ


叢雲「……大福とお茶はないの?」


漣「おばあちゃんかよあーた」


叢雲「だ、だってそんなハイカラなお菓子ってなんか苦手だし」


漣「言動までおばあちゃんかよっつーか普通にパフェとか食ってんじゃん、いいから黙ってポ○キーでも食えこの野郎」ズボー


叢雲「むぐっ……!?」


叢雲「…………お、おいひい!」キラキラ


漣「即堕ち2コマかな?」





___________

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『……これだけの惨殺死体、いい加減自分への疑いが強くなってくるはず』


『だが今回、犯人はそれをまるで恐れず新たな犯行に及んだ』


『……つまり、今回の事件。犯人の目的は「殺人を偶然目撃した者を消していた」のではなく』


『初めから我々が狙いだったのです……そう、最初の犯行から全ては、「我々全員を葬るため」に、犯人が仕組んだ大がかりなシナリオ』


『…………そして、私を含むこの6人の中に……この事件を仕組んだ犯人がいます!』




漣「な、なんだってー!」ガビーン


電「い、一体誰なのですか犯人は……」



提督「まー探偵モノってのは現場に偶然居合わせるのがありがちだよな」


叢雲「そうじゃないと絵面が地味になるもの」


提督「てかどう考えてもこの事件最初からアリバイがないあいつが犯人だろ、何のひねりもなく」


漣「もーご主人様推理にしても安直すぎ!探偵モノだよ!?もっとすごいどんでん返しがあるに決まってるっしょ!」


電「い、電には全然わからないのです……!」


提督「えーいやだってよー、他の奴ら別に矛盾したこと言ってないし」


叢雲「ちょっと露骨すぎるけど一番怪しいのは確かだしね」


漣「そんなもん漣だってとっくの昔から見当付けてたっつの!でもどう考えたってこれブラフだし!」


提督「じゃあなんでアイツあんなに挙動不審なんだよ、コップ持つ手ガタガタ震えてさ」


漣「何人も死んでるんだから次は自分かもって思うと普通そうなるもんじゃないの?逆に他の人間がやたら落ち着き払ってる方が漣的に不気味」


叢雲「そりゃまあ不自然なのは分かるけど、それは普通に考えたら犯人に隙を見せないためでしょ。あいつが犯人じゃなかったとしても、あれだけ動揺してたらいいカモよ」


提督「恐怖を誤魔化そうと冷静になるよう努めてるかもしれないし、逆に犯人だからこそ落ち着き払って次の獲物を見定めているかもしれないし……」


漣「いやもうマジで疑心暗鬼になりそう」


電「はわわわわ……」プシュー


漣「あ、やばいデンデンが知恵熱出した」


提督「電には難しかったか……」


叢雲「というより性格上根本的に心理戦向いてないんじゃないかしら」




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『まさかテメェが犯人だったとはな……』


『おかしいと思ったのよ……こんなドラマみたいな状況、そして都合よく現れたアンタみたいな人間』


『今まで俺たちに見せてたのは全部演技だったってのか……胸糞の悪い』



『なぁ、何か言ったらどうなんだよ』




『探偵さんよ』



『……く、くくっ……あは、あははッ、あははははははッ!!いやはや、こんなに早く当てられてしまうとは……少々計算外でしたよ』





提督「うっそマジで!?あの探偵主人公かと思ったら黒幕サイドなの!?」


漣「ほら言ったじゃん絶対どんでん返しあるって漣超預言者!」



叢雲「た、確かによくよく思い返してみれば、あの探偵のアリバイ証言とか回想シーンとか、色々誤魔化されてて全くないわ……」


提督「冗談だろ……だってパッケージのど真ん中に堂々と決めポーズ取ってたから普通に主人公だと思ってた」


叢雲「センター=主人公=正義サイドっていう先入観を突かれたわね」


提督「うっわマジで悔しいわー!全っ然気付かんかったー!」



漣「いやまあ漣は何となく察してましたよ、ご主人様みたいな単純なストーリーじゃこんな大ヒットしてなかったはずだッて」


漣「ご主人様の言うとおりだったらあまりにもおそ松さんですもん、どう考えても駄作にしかなりえませんわ」


漣「もしそれで大ヒット飛ばしてたんなら、漣でも今からサラサラっと小説書いて応募すりゃ即刻芥川賞筆頭候補いきますよ」



提督「い、いや……言ってることは間違ってないんだが……」


叢雲「アンタの憎たらしい口から聞くと無性に腹立つから口縫いつけといて」


漣「なんでや!漣ちゃん事実言うとるだけやろ!」


電(多分言い方の問題なのです……)




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ガチャッ


五月雨「あ、皆ここにいたの」


提督「おー五月雨、よく来たな」コッチャコイ


漣「うおおぉぉマイスイートハニー五月雨ぇ!愛しのサミー!ウェルカム!!」バンバン


叢雲「机叩くな。あ、五月雨いらっしゃい」


電「いらっしゃいなのです」



五月雨「どうして五月雨も誘ってくれなかったんですか!」


提督「いやあ呼ぼうと思ってたんだけどね、つい熱中しちゃって」


五月雨「むー!」プックー


提督「ははは、そんなほっぺ膨らまして怒っても可愛いだけだぞー」ホッペツキー


五月雨「むぅ……」プスー



五月雨「そういうこというの、ずるいです……」カオマッカ


提督「ごめんって。ほら、一緒に映画見ようぜ、こっちおいで」ヒザノセ


五月雨「へ、あ、きゃ……!」


提督「今度は仲間はずれにしないから、な?」ナデナデ


五月雨「あ、あう……」マッカァァァ


漣「あーっ!ご主人様ずるい!」


提督「え、何が」



漣「漣ん時は拒否したくせにさみーばっかり贔屓して!差別っすよこれは!艦娘人権委員会に訴えていい案件ですよこれは!」


提督「お前は勝手に乗ってきたから不法侵入だぞ、拒否するに決まってんだろ。五月雨は俺が招いたんだからお客様、おもてなしして当然」


漣「漣にも思いやりを下さいッ!」


提督「思いやってやろうと思える人間になってから来やがれ」


五月雨(提督のお膝……提督のお膝……ッ!)バクバク



漣「つーか何五月雨も頭撫でられて嬉しそうにしてやがんだよデレデレしやがってオォン!?」


電「もう嫉妬を通りこしてイチャモンのレベルなのです……」


提督「普段から真面目にやってりゃこれぐらいいくらだってやるのによ……」ナデナデ


叢雲「いやでも、アンタそれ人の事言えないじゃない大淀さんの手前」


提督「それは言わねえ約束だよ叢雲ママ」


叢雲「ママとか言うな気色悪い」


提督「お願いだからボケに対して強烈なカウンター決めてくるのやめて、気色悪いって地味にくるから」


叢雲「いっそのことそのままどん底まで落ち込めば何も感じなくなるんじゃないかしら。アンタにはちょうどいい修行でしょ」


提督「ねえなんで会話をドッジボールでやろうとするの?キャッチボールでいいのになんで全力で相手を倒しにかかるの?マジで落ち込むからやめてよ」


叢雲「やだ」


提督「たったの二文字で拒否される俺の基本的人権」


叢雲「安心しなさい、大淀さんの件についてはこのDVD全部見終わってからたっぷり説教してあげるから」


提督「こんな絶望を味わうくらいなら花や草木に生まれたかった」


漣「ご主人様それウチらの艦艇時代のエピソード聞いても同じこと言えんの?」


提督「それ引き合いに出すのずるいわ、そういうワイルドカード切るの俺の地元じゃノーカンだから」


電(誰かもう一人ツッコミを下さい……電だけではもう捌ききれないのです……)




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『好きだ……君のことが、誰よりも好きなんだ』


『……今更無理だよ……あれだけアプローチしても全然気づいてくれなくて』


『そのうち手なんか出尽くして……本当にあなたのこと好きなのかも分かんなくなって……』


『もう忘れようと思ったのに……今更、好きなんて言わないでよ……!』



『それでも、俺は君が好きだ』


『過去のことについては、謝るのも筋違いだから、俺からは何も言えない』


『でも、今の俺は確かに、君が好きだって自信をもって言える』


『…………もう、分かんないよ……何もかも、分かんない……』






提督「あーやっぱ若いっていいわー、青春っていいわー」


叢雲「何爺臭いこと言ってんのよアンタ、まだ二十代でしょうが」


漣「つってももうアラサーに片足突っ込みかけてるみたいっすけど」


提督「喧しいわ」



五月雨「あの、提督は学生時代、その、好きな人とかは……」


漣「そーだよ、ご主人様はそういう甘酸っぱいエピソードとかなんかないの?」


提督「んー、ぶっちゃけ色恋とは縁遠い学生生活だったからな」ボリボリ


提督「中学時代は男子校で女子とは無縁、高校は共学だったが碌に女子と交流のないうちに終わったな」


提督「強いて言うなら、高校時代に図書委員をやっていたことがあるんだが、その後輩の女子と同じ小説の作者が好きってことで話が弾んで、電話番号交換したぐらいか」


提督「今思えば、ぶっちゃけあの子には淡い恋心ぐらい抱いてたかもしれんな」シミジミ



五月雨「そ、その女の人とはどうなったんですか!?」ガタッ


提督「お、落ち着け!色恋とは縁遠いって言ったろ!」


提督「新学期になったら向こうがいなくなってたよ。親の転勤についてったらしい」


提督「その子とは今でもたまに連絡を取るが、もう向こうは結婚して子供もいるらしい」


電「じゃ、じゃあ今司令官さんに恋人は」


提督「だからいないって言ってるでしょうが、そんなしつこく確認して俺の心の傷抉って楽しいかよ」



五月雨「へ、へぇ~そうなんですか!提督今彼女いないんですかぁ~へぇ~!」


叢雲「ま、まあアンタじゃ恋人が出来ないのもしょうがないわね!精々私たちで傷を舐めなさいな!」


漣「んんwwwww今時彼女いない歴=年齢などあり得ないwwwwwwwwww」



提督「え、何これ。なんで急に皆して俺を虐めるの?泣くよ?いい年した大人が声上げて咽び泣くよ?見苦しい絵面になること請け合いだけどいいの?」


電(少なくとも漣ちゃんは悪意100%なのです……いえ、他の二人も悪意がなければないで性質が悪いのですが……)


電(それよりも早くもう一人ツッコミ役を……もう電では収拾がつけられないのです……)



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叢雲「まあまあ良かったわねこの映画」


提督「役者の演技が自然だったからな、芝居がかってなかった」


漣「割とスルスル頭に入って来て分かりやすかったわー」




ガチャッ



吹雪「…………」ムッスー


提督「うぉッ!お、おぉ吹雪……いらっしゃい……」


漣(うわっちゃー……ブッキー滅茶苦茶怒ってるざんす……)



吹雪「楽しそうですね……」


提督「あ、あの、これはだな……」


吹雪「私だけ除け者にして……盛り上がってますね」


漣(あ、これ拗ねてるわ、面倒くさいパータンだわ)



提督「ご、ごめんな……仲間はずれにしたつもりじゃなかったんだが」


吹雪「…………」ムッスー


提督「ごめんって……一緒に見よ、な?」ナデナデ


吹雪「…………」ムスッ



提督「」ハナレ


吹雪「」ニジリ


提督「」キョリオキ


吹雪「」キョリツメ


提督「」アトズサリ


吹雪「」ハイヨリ


提督「ごめん吹雪、俺が悪かった。悪かったから無言で近づいてくるのやめて、怖い」


叢雲(一種のホラーだわ……)





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『ヒィッ……!ヒィイ……ッ!!』


『……ァ……ア』


『や、やめろッ!来るな、来るなあッ!!』


『ァァァァァァアアアアアアアア』


『嫌だッ、死にたくねぇッ!!こっちくんなクソ幽霊がッ!』


『アアアアアアアアアアアア』


『ち、畜生ッ……俺がッ、俺が何したって……ぁ、うあ……うわああああああああああッ!!』





提督「あーこれいまいちだなぁ」


漣「なんか幽霊サイドに迫力ないっすわーマジ萎え」


叢雲「なんかずーっと棒立ちで呻いてるだけじゃない……これでどう怖がれって言うのよ」


吹雪「結構予算使ってるって噂でしたけど、それでこれはちょっと」


五月雨「ま、まぁまぁ…………あれ、電ちゃん?」



電「」ガクガクブルブルガタガタブルガタガクガクガクガクガク



提督「…………電、ホラーはダメなんだっけ」


叢雲「顔面蒼白じゃない」


漣「まーデンデンってば繊細ですからなー、さして驚きもないというかなんというか」



電「幽霊コワイ幽霊コワイ幽霊コワイ」ガタガタガタガタ



提督「……いや、ちょっと待て。普段深海棲艦とか、幽霊よりよっぽど悍ましい奴ら相手に戦ってるのに、幽霊なんか怖いのか?」


電「深海棲艦はもう慣れてるし、ああいうのは殴れば確実にダメージを与えられるから平気なのです」


電「でも幽霊はダメなのです!だって殴っても全然手応えないし、そのくせ向こうから触ってきたら感触あるし、ひんやり冷たくて気持ち悪いし、なんか濡れたコンクリートみたいな匂いするし!」


電「もう訳が分からないのです!あんなの相手にするぐらいなら大和さんとタイマン張った方が万倍マシなのです!!」ウデブンマワシ


提督「思いのほか脳筋な答えが返って来て司令官さんビックリよ」ウデツカミ


五月雨「大和さんとタイマンって……そっちの方がよっぽど大変だと思うけど」


漣「いやそれよりなんか実際に幽霊と戦ったみたいな言い草が漣気になります」


吹雪「でもまあ幽霊なんてそうそう見るものじゃないし……別に見たくもないんだけど」


叢雲「吹雪って幽霊見たら面白いぐらいお手本みたいな悲鳴上げそうよね」


吹雪「そういう叢雲ちゃんって何ともない顔しながら思いっきり漏らしそうだよね」


漣「いやあの」


提督「お前ら喧嘩するなら追い出すぞー」


吹雪「ワタシケンカキライ」セイザ


叢雲「平和ガイチバン」セイザ


提督「よろしい。んじゃ次の映画見るか」ディスクアサリ


漣「あの……漣の話聞いて……」





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その後……



『あぁ……だめ、こんな……』



提督「うっわこれタイトル似せたAVじゃねーか!」


漣「いや何で普通の映画とAV間違えてんの!?普通別コーナーにあるっすよね!?」


提督「ラベルは間違ってない……てことはこれ店員が中身間違えてるじゃねーか!あの店文句言ってやるッ!!」


電「はわわわわ……!!」カァァァ


叢雲「電は見ちゃダメ」メカクシ


五月雨「うん私たちも見ちゃダメだよ……」





6人は映画を……




『まさか、この世に未練を強く残した、女の憎しみが具現した、とでも、いうのだろうか……』



提督「うおぉこえぇ」ブルッ


電「」ガタガタガタガタ


漣「あのB級と違ってマジで怖いわ」


吹雪「よ、夜にお手洗いいけなくなっちゃう……」ナミダメ


叢雲「ていうか司令官、何気にホラーもの好きよね」


提督「それなりにな……投稿モノは割とリアルで特に好き」


五月雨「でも実際に会いたくはないですぅ……!」




ぶっ通しで見続けた……



『ドーモ、ヤセン=ニンジャです。クギバットを投げたのはオヌシか、イディオットめ!』


『ドーモ、オーシャンウィンドです。ち、違う!あれはわざとでは』


『イヤーッ!』


『グワーッ!?』




提督「キワモノかと思ったら滅茶苦茶面白い」


叢雲「やたらとステレオタイプな世界観が目立つけど、本質は復讐モノなのね」


漣「なんかどっかで見たことあるキャラクターのような……」


電「サザナミ=サン、それ以上はいけないのです。それ以上喋ると両手指をケジメするのです」


漣「アッハイ沈黙は金です」









一週間後…………




提督「ぁー……ようやく全部見終わった……」グッタリ


五月雨「目が疲れちゃったよぉ……」


叢雲「最後の方はもう苦行に近かったわ……」ダイノジ



漣「大したことしてないのにこの達成感……漣、癖になりそう!」


提督「お、じゃあお前だけ三日分追加しようか」


漣「お、鬼畜ゥー!」



電「……でも、面白かったのです」


吹雪「そうだねぇ……何だかんだ楽しかったのは事実だし」


五月雨「でももう二度とやりたくないね」


叢雲「これ以上続けるマゾは少なくともうちの鎮守府にはいないわよ……」



提督「まぁ、なんだ。みんな付き合わせて悪かったよ」


提督「これからはもうちょっと計画的に借りてくることにするわ」


漣「もう当分DVDのディスクは見たくねーです」


提督「そうだな、しばらくは俺もいいや」


電「あとは全部返却すれば……」





ガチャッ



大淀「提督、お早う御座います。休暇は楽しめましたか?」


提督「……あれ、大淀さん?」


大淀「はい、大淀です。もう休暇は終わりですよ、早く執務に戻ってください」




提督「…………大淀さん、ちなみにだけど今何時?」


大淀「0700丁度ですが」



提督「電……そこのレシート、返却期限はいつまでって書いてある」


電「……昨日の午前0時までなのです」



提督「延滞じゃねぇか畜生ッ!!」


漣「あーあ」


五月雨「これだけの量を延滞って……」


吹雪「一体いくら飛ぶんだろう……」


提督「誰だよ一週間あればギリ行けるとか言った奴!!」


漣「ごすずんですが」


提督「そうでしたね畜生ッ!!」


叢雲「……ご利用は計画的に、ってやつね」


電「電は知らないのです」



提督「当分映画なんて借りねえ……」





おわれ





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大淀


呉第三鎮守府で経理を務めている。初期艦達と同様最古参。

提督をはじめとした癖の強いメンバーたちに日々頭を悩ませている苦労人。

上層部とのパイプ役も担っているが、彼女個人は鎮守府寄りの感情を持っている。


提督とは親密ではあるが、異性としての好意を持っているわけではなく、良きビジネスパートナーとして接している。



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こぼれ話1:一航戦と五航戦




ギリリリ――――――…………ッ


パシュッ



トッ




加賀「……命中、中心より1㎝左」



加賀「……腕を上げたわね、瑞鶴」


瑞鶴「当然です、毎日鬼教官に扱かれていれば」


加賀「でも、まだまだ精度にブレがあるわ」


加賀「制度の乱れは心の乱れ。乱れはその分輪を乱し、仲間を危険に晒す確率も高くなる」


加賀「……これからも、精進すること」


瑞鶴「肝に銘じておきます」




赤城「……今日も張り切ってますね加賀さん」


翔鶴「何といっても自慢の弟子ですものね」


赤城「加賀さん、感情表現は苦手と言ってるけれど……」


翔鶴「うちの妹を良く可愛がってくれているのはよく分かります」



提督「だが、傍から見れば鬼教官と訓練生という風にしか見えんらしいぞ。俺はお前らと付き合い長いから分かるけど」


赤城「ふふ、皆まだまだ修行が足りませんね」


翔鶴「あの二人、性格は違うけれど、似た者同士ですもの」


提督「確かにな……どこまでもストイックなところがよく似てる」


赤城「負けず嫌いなところも、ですね」フフ




加賀「あなたには弓の基本を全て叩き込んだつもりよ」


加賀「これぐらいは成功してくれないと困るわ」


瑞鶴「心配は……」ギリリッ……



瑞鶴「御無用ッ!!」バシュッ



トッ


トトッ!



提督「おお、続けざまに放った矢がすべて同じ場所を射抜いた」


翔鶴「当然です、私の妹ですもの」


赤城「加賀さんもすっかり教官が板についてきたわね」



提督「最初の頃はギッスギスだったもんなぁ、あの二人」


赤城「私は飴と鞭を使い分けていたつもりですけれど、あの人は慣れないと鞭でしばいてばかりの印象を与えますからね」


翔鶴「私も最初は苦手でした、加賀さん」



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加賀「貴方達、今日の演習の様は何?」


加賀「艦爆、艦攻の命中率が合わせて50%以下……」


加賀「これはまだ、目を瞑りましょう。相手の練度が高く、回避行動が迅速だったのも要因ですから」



加賀「でも艦戦の練度が低すぎるわ。あれではみすみす撃ってくださいと言っているようなもの」


加賀「……これでは先が思いやられるわ」



瑞鶴「……何よ、お高くとまっちゃって」ボソッ


翔鶴「ず、瑞鶴……!」ボソボソ



加賀「……言いたいことがあるなら、はっきり言えばどうかしら」


瑞鶴「いいえ、別に」ツンッ


加賀「……まあいいでしょう」



加賀「元より五航戦になど、期待していませんから」


瑞鶴「わー、仕方なしに空母になった人が言うと重みが違いますね、元戦艦様」


加賀「…………もう一度行ってごらんなさい」


瑞鶴「国からこれ以上戦艦要らないって、捨てられちゃったんですよね?」


瑞鶴「だから空母になるしか道がなくて……でもそこでも落ちこぼれ扱いだったらしいじゃないですか」


瑞鶴「……人の事言えた口ですか?」


加賀「……頭に来ました」


翔鶴「瑞鶴ッ!」



瑞鶴「やーい焼鳥製造機ー」


加賀「あら、七面鳥風情が喚かないでほしいわ」


瑞鶴「あーそれ言っちゃうんだーへぇー」


加賀「貴女が先に言い出したのでしょう」


瑞鶴「何よ」


加賀「何」



翔鶴(か、帰りたい…………!)キリキリキリキリ



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提督「まーあの頃の空母勢は空気が最悪だった」


翔鶴「危うく胃潰瘍になりかけました……」


赤城「私も毎日毎日頭痛がしてたくらいですもの……」




瑞鶴「絶対に外さないって気持ちでやるといいの?」


加賀「いえ、それでは余計な力が入ってしまうわ。撃つ一瞬だけ、無心になるの」


瑞鶴「んーぇー……分かるような分かんないような……」クビカシゲ


加賀「あら、私の知ってる五航戦はこの程度で音を上げるはずはないのだけれど」


瑞鶴「もうちょっとペースってものを考えてよ!全部が全部加賀さんの真似出来るわけじゃないんだから!」




提督「それが今じゃあんなに楽しそうに訓練してるんだもんなぁ」


翔鶴「瑞鶴も、以前と比べてよく笑うようになりました」


赤城「加賀さんも嬉しそう」


翔鶴「表情はやっぱり動きませんけれど、ね」


赤城「もう少し表に出してくれればいいんですけれどね」




提督「えっ、お前ら気付いてないのか?今うっすらだけど、加賀笑ってるぞ」


赤城「えっ?」


翔鶴「本当に!?」



瑞鶴「もー!もう少し考えさせてよ!加賀さんみたいに頭良くないんだから!」


加賀「私はこれを聞いてすぐに全て理解したわ。五航戦の子なんかと一緒にしないで」


瑞鶴「でもこの間の腕相撲でとうとう20連敗ですよね?」


加賀「馬力が違うのだから当たり前でしょう」


瑞鶴「非力で華奢な加賀先輩かーわーいーいー」ホッペムニー


加賀「頭に来ました」ゴゴゴゴ





加賀「……はぁ。瑞鶴、正座しなさい。少し小言を言わせてもらいます」フフ





赤城「ッ!か、加賀さんが笑っ……!」


提督「笑いっていうより苦笑って感じだが、まあ笑いには違いないだろ」


赤城「加賀さんが笑うなんて貴重だわ!か、カメラに撮っておきたい……!」


提督「やめとけ、バレたら何言われるか分からんぞ」



青葉「あ、ご心配なく!青葉撮って置いちゃいました!」



提督「どっから湧いて出やがったお前……」


青葉「スクープあるところ青葉あり!」


提督「はいはいカメラ没収」


青葉「お気に入りのデジタル一眼レフがーッ!それキ○ノンのいいやつなのにーッ!」


提督「盗撮も大概にしろってこの間注意したばっかりだろお前、いい加減これ質屋にいれるぞ」


青葉「やーめーてー!かーえーしーてー!」ジタバタ


提督「ぐぁっ!?こら、暴れるなお前ッ、ダダこねる子供かお前はッ!!」ドタバタ






加賀「…………気が散るので他所でやってもらえますか」




おわり




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瑞鶴


呉第三鎮守府所属空母。空母の中では古参の部類に入る。

最近改二改装を受け、装甲空母として第一線で活躍している。

以前は加賀と一触即発の関係だったが、とある事件を境に師として敬うようになる。


提督とは姉の翔鶴と共に、幼稚園の頃からの幼馴染の関係。提督を一途に思い続けて10年以上のベテラン。



加賀


呉第三鎮守府所属空母。赤城と共に空母最古参となっている。

最近は後進の五航戦に主役を譲り、最前線からは遠のいたが、その実力は今も折り紙付き。現在は後進の教育に力を入れている。

後輩の瑞鶴が可愛くて仕方がないが、不器用さ故に勘違いされやすいのを気にしている。


提督とは一、二航戦で酒を酌み交わす仲。一番酒癖が悪く酔うと絡み酒は当たり前。



赤城


呉第三鎮守府所属空母。加賀と共に空母最古参。

加賀と違い、五航戦とは飴と鞭の使い分けで仲良くやってきたが、心の中では加賀の言い分が正しいと思っていた。

とにかく食べることが大好きで、暇さえあればお菓子を口にしている。太らない体質らしく、体重をあまり気にしたことがない。


提督とは酒飲み仲。たまに二人だけで飲むこともあるが専ら人生相談だけである。



翔鶴


呉第三鎮守府所属空母。瑞鶴と共に古参の部類。

瑞鶴と共に改二改装を受け装甲空母として生まれ変わり、第一線で活躍している。

以前は加賀と瑞鶴の板挟みで胃を痛めていたが、現在はほぼ完治。同じ境遇から赤城とは親密になっている。


提督と幼稚園の頃からの幼馴染だが、妹の幸せを第一に考え自身の気持ちを抑圧している。


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艦娘は人也や 1




提督「…………ふぅ」



 その日はいつもより若干早く書類仕事が一段落し、ため息とともにペンを置く。ことり、と音を立てたそれが心の緊張を緩ませた。

 今日一日座りっぱなしで、すっかり凝り固まった背筋を深呼吸と共に伸ばす。相当凝っていたらしい、背骨がぽきぽきと小気味よい音を立てて鳴るのが心地よかった。


 私は小早川輝幸(こばやかわ てるゆき)。恐れ多くもこの精強ぞろいと称される呉第三鎮守府で提督などを拝命している。

 階級は大佐。軍人としては平々凡々の実力でしかなかった私が、こうして鎮守府の頭をやっていられるのは、偏に偶然というしかない。



提督「……鳳翔さんとこ行くか」



 時間にしてすでに2140過ぎ。また間宮食堂のディナーを食べ損ねてしまったことに一抹の無念さを抱きながら、今日は鳳翔さんの所でゆっくり酒でも飲もうと重い腰を上げる。

 鳳翔さんは、この呉第三鎮守府所属の軽空母である。軍艦時代の彼女は世界初の艦載機運用を想定して建造された空母であり、当時の大日本帝国海軍で作られた全ての空母の母と言っても過言ではない。

 大戦後期では後方で練習空母として活躍し、戦後も復員船として、百や千では下らない数の人員を輸送した。その史実を反映されてか、艦娘となってからも多くの艦娘達から慕われる、大和撫子のような女性である。


 そんな彼女は炊事家事を一通りこなす傍ら、趣味が高じて鎮守府の一角で小さな飲食店を構えている。

 『居酒屋鳳翔』。彼女は日頃から、「いつか小さなお店を開きたい」と言っていたが、意外にも行動力があったのか、いつの間にか経理を担当している大淀さんの許可を取り、鎮守府の端で居酒屋を開いたのだ。私がそれを知ったのは開店してしばらくたった後のことだ。


 そして今となっては、重巡を始め多くの大人の艦娘達(と一部駆逐艦)が利用する人気店となっていた。最近では休日限定で一般の方にも利用していただいているらしく、そちらでもなかなか評判とのことだった。


 かくいう私も、久々に足を向けるためか心なし浮足立っているのを感じていた。



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 資材を保管する赤レンガ倉庫の前を通り過ぎた先。艦娘達の寮と工廠の間にある小さな平屋建ての木造家屋。そこが私の目指す居酒屋鳳翔である。

 そろそろ消灯時間であるにもかかわらず、実に楽しそうな声が引き戸越しに聞こえる。

 直筆だという立派な暖簾と、煌々と夜の鎮守府に浮かび上がる赤提灯の光が、夜に誘われた大人たちの誘蛾灯のように私を妖しく誘う。



 私は躊躇なく引き戸の取っ手に手をかけ、暖簾を手で払いのけつつ、開けた戸から首を伸ばして中を伺った。



提督「やあ、やってるかい」


鳳翔「あ、提と……いえ、小早川さん。いらっしゃいませ」



 頭だけをのぞかせた私を、この店の女将であり看板娘の鳳翔さんがカウンター越しに出迎えてくれる。その穏やかで静かながらも、筋の通った声は店内によく響き渡った。

 長くつややかな黒髪をポニーテールにし、普段から着物風の上着と袴風スカートを着ている彼女だが、今日は髪をアップでまとめているようで、服も普段着の上に割烹着という出で立ち。

 その若々しい――――――実際に彼女はまだ19と若いのだが――――――顔立ちからは想像できないほど、成熟した大人の女性の雰囲気を醸し出していた。



提督「最近顔を出せなくて、すまないね」


鳳翔「とんでもありません。お仕事、お忙しいのでしょう?私はいつでもお待ちしておりますから。何といっても、小早川さんは常連中の上連ですもの」



 鳳翔さんは普段私を提督と呼ぶのだが、この居酒屋鳳翔では、部下ではなく店主として私と接してくれる。仕事とプライベートはきっちりと分けているのだと以前話してくれたが、軍人と居酒屋経営者の二足の草鞋では、どちらが本業なのか分からないではないかと冗談を返した記憶がある。

 当然この場合、この居酒屋の店主が彼女にとってのプライベートなのであろうが。



提督「よっこいせ、と」


鳳翔「何に致しますか?」


提督「とりあえずビールと……焼き鳥を適当に見繕ってくれるか」


鳳翔「かしこまりました」



 私の注文を聞くと、すぐさま厨房の奥から瓶ビールと栓抜き、そしてコップを私の席へ用意してくれる。店によっては客の目の前で栓を開けてくれるところもあるが、ここでは鳳翔さんが一人で切り盛りしているので、その忙しさを考慮し、瓶の王冠は自分で開けるのがここでの暗黙の了解である。

 栓抜きを王冠の端にひっかけ、勢い良く奥へ押し上げる。『スポンッ』という間の抜けた音と共に、ほんのり漂う麦の匂いが、よく冷えた瓶内の空気と一緒に漏れ出る。

 それすらももったいないとばかりに、私はそれをコップの中へと注ぎ込む。黄金色の液体と真っ白なあわが、コップの中を満たしていく様が、まるで私の内から湧き上がる喜びを見たまま表わしていたかのようだった。


提督「ん……」


 注がれたビールを、早速喉へ流し込む。


提督「……ッ、はぁ」


 喉の奥で弾ける炭酸の刺激と、ポップの苦み。何より鼻から抜けるアルコールが、私がため込んでいた疲れを溶かしていくような感覚。それが胃の中へ落ちた瞬間、私は自分がプライベートに戻ったという自覚を持った。



鳳翔「良い飲みっぷりですね」


提督「ああ、この一杯が俺を癒してくれる」


鳳翔「あら、私では癒されませんか?」


提督「何をおっしゃるやら。貴女には何度心を救われたか数えきれない」


鳳翔「お上手ですね」


提督「本音だぞ」



 鳳翔との軽い会話。これだけで、無意識緊張していた体が弛緩していく。

 彼女と話していると、不思議と自分を偽らずに話すことが出来る。否、話せない秘密はあるが、余計な気遣いをせず自然体で話すことが出来るのだ。

 私はこの店に来るたび、この感覚を味わうのが楽しみであった。呉第三鎮守府提督という重苦しい肩書を下ろし、ただの小早川輝幸という人間としてこの場所にいるのだと、彼女が気付かせてくれる。



鳳翔「……今日は、どうされました?」



 ふと、鳳翔が私の顔をまじまじと見つめていたかと思えば、そんなことを問うてくる。



提督「……何のことだ」


鳳翔「とぼけないでください。顔に書いてありますよ」


提督「……敵わんな、君には」



 実のところ、図星ではある。心当たりがない訳ではなかった。



提督「……このところ、深海の奴らの動きが活発になっていてね」


鳳翔「私も耳にしました。ここ3か月ほどは小康状態だったのですが……」


提督「このまま大人しくしていてくれれば万々歳だったのだが、現実は甘くはないわな」



 最近あちこちで上がっている深海棲艦、主に姫級や鬼級の発見報告数が異常なほど上がっているという。

 すでに一般の貨物船やタンカーなどにも被害が出ており、近々また大規模な掃討作戦が組まれるという。



提督「この戦いはいつになったら終わるのかと考えると、きりがなくてね。気分が沈むんだ」


鳳翔「そうでしたか……」


提督「何より、君たち艦娘に、これ以上の負担を強いたくはない……というのが俺の本音なんだがな。世論はそうさせてくれないし、奴らには君たちの力を借りねば対抗できない。祖国を護るはずの我々軍人にとって、情けない話だよ」


鳳翔「私たちも、提督という指揮を行う方がいなければ、きっと今よりもたくさんの艦娘が沈んでいました。戦うことが使命の我々にとって、提督は必要な存在です。お互いに、依存し合わなければ生きていけないのですよ」


提督「そこだよ、そこが気に入らないんだ俺は」



 再びビールを注いだグラスを呷り、気持ち強めにグラスをテーブルに置く。『カンッ』という甲高い音がいやに店内へ響いた。



提督「君たちに頼り切っている俺が言えた口ではないが、そもそも君たちのような女性、それも年端もいかぬ少女たちが大多数を占める艦娘艦隊というものが存在すること自体が、俺は割り切れない」


鳳翔「というと」


提督「…………君たちは、自身の生まれを把握しているか」


鳳翔「はい。ごく一般的な少女が志願し、適性試験に合格するとなれる、と」


提督「ああ。大体それで合っている」



 私は、鳳翔の答えを半ば予想しきっており、そしてその通りの定型文のような答えが返ってきたことに酷く落胆していた。

 ああ、私はこの女の子にも嘘をつくのか、と。



 そもそも艦娘の誕生の経緯は、半世紀前、深海棲艦が初めて確認された1980年代にまで遡る。


 1984年、一隻の石油タンカーが行方不明になった。そのタンカーの乗組員は、姿を消すほんの十数分前に、奇妙なモールス信号を飛ばしていた。


 曰く、『我、異形ノ怪物ト遭遇セリ』


 それが、深海棲艦、後に『駆逐イ級』と名付けられた化け物と、人類との初の邂逅であった。


 その後、各地で深海棲艦は増え続けた。その被害は貨物船やタンカー、貨客船、果ては航空機に至るまで、人類の貿易ルートはほぼ全て、瞬く間に潰された。

 日本とて例外ではない、むしろ特に被害が甚大であった。食糧の大半を輸入に頼り、原油などの資源も貿易で何とか賄っていたこの国。補給路を断たれることはすなわち、国の破滅を意味していた。

 実際、日本はシーレーンをほぼ占拠され、貿易などという言葉が過去のものになってしまった。それ故の飢餓、人口の減少。一時期には2割近くが飢えに苦しみながら亡くなったという。


 人類とて、やられてばかりではない。わずかに残された通信手段を手に各国が連携し、深海棲艦討伐のための連合軍が緊急に発足された。奴らは主に海から出現すると言うことで、かつての三大海軍国家であった日、米、英が主導でこれにあたった。

 だが奴らは我々の予想をはるかに超えた化け物であった。通常の兵器が……アメリカが苦渋の末持ち出した核兵器ですら……奴らには全く聞かなかったのである。

 のちに分かったことだが、どうやら奴らは『沈んだかつての軍艦に乗っていた兵士の恨みや恐怖』という、いわゆる負の感情をもとに生まれてくるのだという。そのためどちらかといえば霊体に近く、物理的な攻撃では意味を成さない、というのが現在の通説である。

 当時の人々の絶望といえば、それは壮絶なものだった。特に間近で戦う兵士の恐慌ぶりは凄まじく、中には発狂してその場で拳銃を自身のこめかみにあてがい、ためらいなく引き金を引いた人間までいた始末だ。


 あんな奴らとどう戦えというのか。人類史上最悪の敵である深海棲艦との戦いは、何の対抗策も出ないまま、20年という時間が過ぎる。


 転機は1997年。深海棲艦による海上封鎖が行われて15年が過ぎたある日のことだ。

 横須賀の海岸で、原因は不明だが重傷を負った駆逐イ級が打ち上げられていたのだ。

 政府はすぐさまこれを鹵獲、秘密裏にこれの研究を始める。その結果、奴らのテクノロジーをこちら側にリバースエンジニアリングすることが十分可能であるという結論に達したのである。


 目には目を、歯には歯を。我々の兵器が効かぬのであれば、同じ技術を以って打ち破る。そんな理念のもとに作り出されたのが、深海棲艦に備わった核のようなものを模倣した人口コア、通称『御霊』である。

 これを適齢の少女に取り込ませることにより、深海棲艦にダメージを負わせることが出来るようになった。

 さらに研究の結果、かつての大戦時に活躍した艦船に酷似した専用の装備、いわゆる『艤装』を作り出すことに成功。これを御霊を取り込んだ少女に蒸着させることにより、ダメージは飛躍的に上昇したのである。

 だがこれだけでは不安が残るとした研究班は更に、素体となる少女に肉体改造を施した。艤装の重みや砲弾発射の反動に耐えられるよう予め筋肉量を増やしたり、脳の演算能力を上昇させたりとさまざまである。

 

 これが、2037年現在まで存在する艦娘のプロトタイプが誕生した瞬間であるとされている。



鳳翔「はい、小早川さん。焼き鳥お待ちどう」



 思考の海に沈んでいた私の意識を、鳳翔の声が呼び戻した。手には比較的大きめの皿、その上に香ばしい匂いを発する焼き鳥がずらりと並べられていた。



提督「ああ、ありがとう」



 一度思考を止め、目の前の料理に集中する。

 より取り見取りの焼き鳥達。艶やかな甘辛いタレを絡ませたもの、シンプルに塩だけで焼き上げられたもの。パリパリの皮、少しこげのついたねぎま、みるからにぷりぷりと弾力のありそうなもも。

 それらすべてが、早く自分を食せと私に訴えかけてくるようだった。

 そのうちの一本を手に取り、豪快にかじりついて串から引き抜く。

 噛む度に口の中に広がる肉汁と、鶏肉が持つ本来のさっぱりとした甘さが、私の舌を歓喜に打ち奮わせる。それをビールで脂と一緒に流し込めば、後は食欲の赴くままに手を動かし続けるだけだった。



鳳翔「ビールのおかわりはいかがなさいますか」


提督「そうだな、もう一本頼む」


鳳翔「はい」



 私の食べっぷりを見た鳳翔が、瓶一本だけでは足りないだろうと追加を持ってきてくれる。さりげなく気を利かせてくれる彼女にはまったく頭が上がらない。



鳳翔「本日はおススメで、牛筋の煮込みが入っております」


提督「ならこれを食べ終わった後で頼む。あと日本酒を、熱燗で」


鳳翔「かしこまりました」



 私はしばらくの間、無言で酒と料理に舌鼓を打つのだった。 



続く


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鳳翔


全ての空母艦娘の母。大人び過ぎている19歳。


着任当初は最前線で活躍していたが、現在は事実上の引退状態。鎮守府内に小さな居酒屋を開き、ささやかながら鎮守府の経営を助けている。

料理の腕には自信があり、特に和食は絶品の一言。彼女と彼女の料理を目的に居酒屋に通うリピーターが後を絶たない。


ほぼ最初期から鎮守府を提督と共に支え続けてきたためか、提督に対する想いは並々ならぬものがある。



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初期艦とお昼寝!




――――――1345、修練室




提督(278……279……)グッグッ



ギッ……ギッ……



提督「ん……誰か来たのか?」ピタッ



吹雪「司令官ー?」


提督「おお吹雪か、どうしたこんなところに」


吹雪「いえ、お姿を見かけないので探しに来ました」トテトテ


提督「あれ、言ってなかったっけ?この時間は大体ここにいるぞ」


吹雪「えっ、そうでしたっけ?ここにきて結構経ちますけど一度も……」


提督「まあ1週間ぐらい前に決めたんだけどね」


吹雪「…………」


提督「冗談だよ……最近運動不足でさ」


吹雪「それで、司令官はここで……トレーニングですか?」


提督「ああ、とりあえず軽く腕立てを300回」グッグッ


吹雪「……足、つけないんですね、床に」


提督「ついでに腹筋と背筋も鍛えられるからな」グッグッ


吹雪「……指だけで、支えられるんですね」


提督「指も鍛えられるからな」グッグッ


吹雪「……ついに片手でやり始めましたね」


提督「まあこれは気分でだけどな」グッグッ


吹雪(気分でそんな常識外れの鍛え方されても困ります……)



吹雪「司令官、結構筋肉質なんですね……制服の上からじゃ分からないですけど」


提督「まー俺、着やせするタイプだし?脱ぐとすごいし?」


吹雪「その微妙に格好つけた顔腹が立つんでやめてください」


提督「ウィッス」



提督「298……299……300、っと」スタッ


吹雪「あ、終わりですか?」


提督「まああんまり根詰めるようなことでもないからな。最初の一か月はリハビリも兼ねてほどほどに」ストレッチ


吹雪「はい、タオルとお水です」


提督「ありがと……ふぃー、久々だと疲れるわ」フキフキ


吹雪「以前は毎日やってたんですか」


提督「こんなもんじゃなかったぞ、さっきのを3セットに加えてスクワットと腹筋、背筋にベンチプレス120㎏とかやってたから」


吹雪「そ、想像つきません……」


提督「こっちに来てからはずーっと書類とにらめっこだからな、結構なまってるのもある」



提督「あーしかしマジで疲れたわ……シャワー浴びて昼寝しようかな」


吹雪「サボりですか?大淀さんに怒られても知りませんよ」


提督「生憎だが今日は書類が少なくてね、既に昼前には終わっているのだよ」


吹雪「珍しいこともあるものですね」


提督「つーか仕事は真面目にやってるのにどうして一向に評価されないんでしょうか」


吹雪「責任者として当たり前のことだからだと思います」


提督「返す言葉もない」



提督「……せっかくだ、吹雪。お前も一緒に昼寝するか?」


吹雪「へっ?え、えぇぇッ!?」


提督「なんだ、嫌なら」


吹雪「い、いえっ、あの、その……っ、凄く嬉しいです!是非ご一緒させてくださいッ!!」


提督「お、おう……そんな喜ぶほどの事かね」


吹雪「あ、お布団敷いて待ってますね!司令官はシャワーを浴びて来てください!」ダッ


提督「あ、ちょ……行っちまった」



提督「……天然かね。あれじゃ夜伽の誘いだぞ……」





―――――――で。





提督「ふぃ、さっぱりしましたよっと」ホクホク


提督「さて……吹雪は待っててくれてるのかね」



――――――提督私室前



提督(……この扉の先に吹雪が、布団敷いて待ってんのか)


提督(……何だろう、このそこはかとない背徳感)


提督(ただの昼寝だろ、それこそ昼間っから何考えてんだ俺は)


コンコン


提督「吹雪、入るぞ」


ガチャ




電「あ、司令官さん。やっと来たのです」


叢雲「ちょっと、シャワーなのに時間かかりすぎでしょ、何してたのよ」


漣「いやそりゃーあれだよ、綺麗どころ5人も揃えて同衾しようってんだからあちこち念入りに」


叢雲「やっぱアンタの髪の色ってその脳みそと直結してるからじゃないの?」


漣「なにおーッ!?それじゃあまるで漣が年中エロいこと考えてるみたいじゃなーですか!いくらピンク髪が淫乱とか言われてても漣にまでその風評被害が来るとは誠に遺憾ですッ、甚だ遺憾ですぞッ!名誉棄損で訴えてもよろしいんですのよ法治国家日本舐めんな法廷で会おう!」


叢雲「口も顔もめまぐるしく動くこと、見てて飽きないわ」


五月雨「あ、あははは……まあまあ」





提督「えっ、なにこれは」





吹雪「す、すみません司令官……バレちゃいました……」


提督「いや、別に隠してたわけじゃないんだがな……」



叢雲「で?司令官」


提督「はいなんでしょう叢雲さん」


叢雲「私の姉と二人っきりで同衾だなんて、いつの間にか随分偉くなったものね」アオスジ


提督「いや俺大佐やから元々偉いねんけど」


叢雲「そういうことじゃない、分かる?」


提督「アッハイ、仲間外れ良くないです」


叢雲「分かればよろしい」


電「叢雲ちゃんも素直じゃないのです」


漣「ていうかムラキョンってばブッキーとご主人様どっちに嫉妬してんのそれ」


叢雲「両方」


漣「お、おう」


漣(ヤキモチ妬きすぎて漣のボケにもマジレスとか……調子狂うわぁ……)



五月雨「でも、皆でお昼寝なんて初めてじゃないかな」


吹雪「あー、確かにね」


漣「というよりそんなちょくちょく起こりうるイベントでもないしにゃー」


叢雲「軍事施設で昼寝自体がありえないと思うけど」


漣「あ、ムラキョンだけ真面目に勤務したい感じ?」


叢雲「それとこれとは話が別」


漣「さいで」



提督「はは、これじゃ同衾やら添い寝ってより雑魚寝だな」


吹雪「あはは……」


提督「まあ、いいや。ちょっとの間寝るか」ノビー


吹雪「はい!」





――――――――で。






提督(…………どうしてこうなった)大の字




吹雪「……スピー」右腕枕


五月雨「ん……ぅ」左腕枕


叢雲「……スゥ……スゥ」右腿枕


漣「誰がズーズー弁やねん……ムニャ」左腿枕


電「……なの、でしゅぅ……」抱き着き




提督(右も左もがっちりホールドされて動けん……!)


提督(てかまずいよこの状況!こんな姿誰かに見られでもしたら俺破滅だよ!憲兵に更迭されちゃうよ!)



ガチャ



大淀「提督、この資料なのですが…………」




提督「…………」


大淀「…………」


提督「何も言わんといて……」


大淀「お疲れ様です……」




大淀「はぁ……また、後でお伺いしますね」


提督「すまん、助かる」


大淀「鍵かけときますから」


提督「今度ディナー奢るよ」


大淀「お気遣いなく、伊達男さん」フフ




パタン




提督「……伊達男て」



提督(しかし、来たのが大淀さんで不幸中の幸いというべきか……マジで肝が冷えたぞ)


提督(金剛やら大和に見られたら大騒動だよなあ……)


提督(もう眼が冴えて昼寝どころじゃねぇよ……)




吹雪「んん……司令官……」


提督「……人の気も知らずに暢気に寝てくれてまあ」


電「司令官さぁん……」


提督「…………ふぅ」




提督「いつまで、続くのか……いつまで、このままでいられるのか……」



提督(深海棲艦との戦い……所謂深海戦争。これの早期終結を望んでいるのは言うまでもない)


提督(だが、それは同時にこの子らとの…………)



提督「…………」ナデ


五月雨「んぅ……提督……」ニヘラ



提督(私は軍人失格だ……)


提督(この戦争が、いつまでも続けばなどと……一瞬でも思ってしまった自分の愚かさに反吐が出る)


提督(一番平和を望んでいるのは、間違いなくこの子らだというのに……)


提督(あぁ……情けない)



叢雲「……司令官」


提督「……ふふ、なんだ叢雲」ナデ


叢雲「……好き」


提督「っ!」ビクッ



提督(……ああ、本当に情けない)


提督(彼女の寝言……きっと本心なのだろう、私への思いを吐露してくれたのだというのに)


提督(私は……恐れてしまった。彼女からの……否、彼女たちからのどこまでもまっすぐな好意を……怖いと思ってしまった)


提督(恐れて、怖がって……頭を撫でる手すら、離してしまう)


提督(…………情けない。どこまでも)




提督「…………いつからこんなに弱くなったかな」パシャッ









提督「……ん?パシャッ?」マドチラ




青葉(ハリツキ)「」




提督(…………あ、青葉ァァァァァァァァアアアアアッ!?)


提督(しまった忘れてたッ!あのパパラッチの存在を完璧にッ!!)


提督(畜生ッ、『何枚』だッ?今のこの姿を奴は一体何枚撮りやがったッ!?)




青葉「司令官……」


提督「ッ!!」



提督(頼む、止めろ、止めてくれ!それをやったら俺は破滅だぞ、社会的に抹殺されるんだぞ!?)


提督(そしたらお前にまだ奢ってない間宮アイスだのパフェだのが全部無くなるんだぞ!?嫌だろ、嫌だよなぁ!?だからそのデジカメから今撮った分を全部消去しやがれ下さいオナシャスッ!!)マジノメ





青葉「…………司令官」ニマァ


提督(……おい、まさか嘘だろ、やめろよ)



青葉「青葉…………見ちゃいましたッ!」ヒッコミ






提督「ああぁぁぁぁぁおおおぉぉばぁぁぁぁぁぁぁああああああああああッ!!!」ガバッ


吹雪「ふえっ!?」ガバッ


五月雨「な、何!?」ビクッ


叢雲「敵襲ッ!?」ガバッ


漣「うるせぇ!」ミミオサエ


電「ふにゃああぁぁぁあ!?」フリオトサレ




数日後、執務室前で『私はプライバシーを侵害しました』というプラカードを首に下げ、正座の姿勢で縛られた青葉がいたそうな……。





おわれ


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青葉


呉第三鎮守府所属。自称フリージャーナリスト。


艦娘ではあるが、専ら第六戦隊のメンバーと共に鎮守府の広報を担当している。

あちこちに潜入捜査を行うのが得意だが、パパラッチ趣味がある非常にたちの悪い文屋。

彼女らの作る鎮守府日報はまずまず好評だが、青葉個人にいい思いを持っていない艦娘が多数。


提督とは時に手を組み時に利用し合い、時に裏切り裏切られる仲。ただ自分のお仕置きが割とハードなのは納得がいかない模様。



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初期艦と怪談!




漣「怖い話しようぜッ!」ドンッ



『…………』




漣「……なんだよぅ皆ノリ悪いにゃあ、怪談だぜ怪談」


提督「……夏にはまだほど遠いぞ」


漣「別に怪談=夏って決まってるわけじゃないっしょ?幽霊とか怖い話にシーズンなんかありやせんぜ」


提督「そら幽霊に旬とかあったらシュール通り越してもはやギャグではあるけども」


吹雪「そもそもなんで怪談なの?」


漣「こないだはやしーに怖い話されてさ」


五月雨「はやしー?」


漣「やだなぁ早霜っちだよ」


叢雲「『も』ぐらいちゃんと言ってあげなさいよ」



漣「んでそれがまたえらく怖くってさー、漣としたことがことあるごとに思い出して夜中お手洗い行けなくなっちゃって」


漣「なんかそのままっていうのも悔しいから、この際いつものメンバーで怖い話してあわよくばとびっきり怖い話で皆怖がらせようと」


提督「要するに俺ら巻き込んで八つ当たりかよ」


漣「そうともいう」


叢雲「はい解散」


漣「そんな不信任案みたいにッ!」



吹雪「というか、そんなこと出来ないよ」


漣「えっ、ブッキーって怖い話苦手だったっけ?」


吹雪「私は普通だけど、ほら……」



電「お化けは目の錯覚お化けは目の錯覚……」ガタガタガタガタ



叢雲「もれなくやる前から怖がる子がいるじゃないの」


漣「あっちゃー、そういやデンデン怖い話苦手だっけ……」


五月雨「電ちゃんがかわいそうだからやめてあげようよ、流石に……」


漣「んー……そだね。まあダメ元だったしいいんだけど」



電「……待ってください!い、電も参加するのです!」ビシッ



提督「おいおい電大丈夫か?」


電「い、いつまでもお化けなんかに怖がっていては、駆逐艦の名折れなのです!もっと怖い敵を相手に戦ってるのに、幻みたいな相手に怯えっぱなしなのは嫌なのです!」


提督「いや、苦手なのは仕方ないと思うぞ……」


電「そんなことないのです!今はダメでも、少しずつ慣らしていけば克服できるはずなのです!」


提督「余計に怖がるだけだと思うが……」



叢雲「まあ、いいんじゃない?やらせてあげなさいよ。自分から克服するって言ってるんだし」


提督「しかしなあ……」


漣「とかなんとか言っちゃってー、ホントはご主人様がいっちゃん怖いんじゃないんすかー?」ツンツン


提督「いや、俺は別に普通だぞ」



漣「あ、もしかして話すネタがないとか?それともー……コミュ障だから上手く話せないとか!提督ってば友達滅茶苦茶少なそうだもんねーカワイソwww」


提督「……あ?」イラッ



提督「……いいだろう。挑発に乗る訳じゃないが、そこまで言うのならとびっきり怖い話をしてやる。また夜中にトイレ行けなくなっても知らんぞ」



漣(チョロイもんだぜ)


叢雲(うわ、今までで一番あくどい顔してる)


五月雨(人ってあんな顔できるんだ……)


電(碌な死に方しないのです)




――――――――で。





提督「……はい、というわけで舞台が整いました」ローソクトモシ


提督「百物語じゃないが、電気消して蝋燭を点けるだけでも雰囲気が出るもんだな」


叢雲「なんだかんだ言って一番ノリノリで準備してたもんねアンタ」


提督「そらまあ一度乗ると決めたらとことん楽しまなきゃ損でしょ」


漣「同じ阿呆なら、ってやつやね。わかるわ」


叢雲「アンタ達のそういうところそっくり過ぎてむかっ腹が立つわ」


提督「何とでも言え」



電「お、大見得切っておきながら……や、やっぱり怖いのです……ッ」ブルブル


吹雪「電ちゃん、まだ始まってもないよ」ヨシヨシ



提督「……さて、んじゃあ始めるか。電、いい加減腹くくれ」


電「は、はい……ッ」


提督「話の順番だが……じゃんけんで負けた人間から時計回りでどうだ?」


五月雨「異議なし」


叢雲「問題はないわ」


漣「このジャンケン大魔神漣のジャンケン秘奥義が火を噴くぜ!」


提督「後出しとか田舎チョキとか出したら簀巻きにして電気消したトイレに一晩放置するからな」


漣「普通にジャンケンするんで堪忍や」



提督「んじゃ、負けても恨みっこなしだぞ……最初はグー!じゃーんけーん――――――」






吹雪「うぅ……トップバッターだなんて……」←初手単独負け


五月雨「むしろ最初だし、軽く話しちゃえばいいんだよ」


提督「そうそう、どうせ時間を考えると2、3周ぐらいすると思うから、最初はジャブぐらいの気持ちで行くといい」


吹雪「え、えっと……じゃあ……」




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吹雪「……前に、インターネットのサイトで見た話なんだけど」


吹雪「皆、入渠するとき頭を洗うよね」


叢雲「まあそりゃ、お風呂だもの」


漣「洗わなきゃ(使命感」



吹雪「で、たまに自分だけしか入渠してなかったことあるよね」


五月雨「たまにね」


吹雪「で、そのだだっ広いお風呂で一人頭を洗ってたら、自分しかいないはずなのに視線を感じることってない?」


提督「あー、たまにあるわ」


電「…………」ブルブルブル



吹雪「でもさ、そういう時振り返っても、当然誰もいないよね」


漣「うんまあ、まず気のせいだと思うけど」


吹雪「それが気のせいじゃないらしいんだ」


漣「え?」



吹雪「視線を感じるときって、まずそういう類の存在が自分を見つめてるんだって」


叢雲「……でも、後ろにはいないのよね?」


吹雪「そう、後ろにはいないんだよ」






吹雪「真上から見下ろしてるんだって」






五月雨「ヒッ……!?」ゾワッ


提督「……マジかよ」ブルッ


漣「うっわ初っ端から聞かなきゃよかった話とかレベルたけーなおい」


電「~~~~~~~~~ッ!!」ミミフサギ



叢雲「でもそれ、つまり真上から堂々と覗きしてるってことでしょ?そいつ相当変態ね」


漣「今の話聞いて出てくる感想それかよムラキョン」


叢雲「だってわざわざ人がお風呂入ってるときに見つめてるとかそいつ相当アブノーマルな趣味じゃない」


五月雨「お、女の幽霊とかだったら女湯に居ても不思議じゃないと思うけど」


叢雲「だとしても人の裸見つめてる時点で趣味悪いわ」


提督「いやまあそりゃそうなんだろうけど」


漣「ムラキョンの話聞いたら一気に恐怖薄れたわ」


電「薄れないのですッ!まだ濃縮還元100%なのですッ!」


漣「ははは、デンデンはピュアだなー」



吹雪「うーん、やっぱりこれだとそこまで怖くないかなー」


漣「いや大丈夫だって、漣今の聞いてトイレどころかお風呂にも一人で行けなくなりそうだもん」


漣「ただ単純にムラキョンの心臓が毛深すぎてヤバイってだけだから」


叢雲「誰が内蔵毛むくじゃらよ!」



提督「あーじゃあ気を取り直して……次は五月雨か」


五月雨「は、はい!頑張ります!」



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えっと、街で聞いた話なんだけど。


この呉市の郊外に、今は取り壊された無人の団地があったんだって。


この団地がかなりの曰く付きだったらしいんだ……。



曰く、以前住んでいた住人が全員変死した。


曰く、飛び降り自殺の名スポットで、地元の新聞でも取り上げられるくらい有名だった。


曰く、団地にとどまらずその周辺の住宅にも人が住み着かない。


曰く、その場所で幽霊を見ないほうが珍しい。



そんなわけで、あまりにも不気味がられたから、つい最近取り壊されたらしいんだけど……


取り壊される前、たまたまその団地の近くを通りかかったAさんって人がいたの。


そしたら、偶然その団地の屋上から飛び降りた人を見ちゃったんだって。


Aさんは慌てて近づいたけど、即死だったらしくて。


一先ず警察を呼ぼうと携帯電話を取り出そうとして、ふと顔を上げたの。





団地の全部のベランダから、Aさんを見つめる夥しい数の人影の視線を感じて。





その団地、無人だったんだよ。無人だったはずの団地に人がいるはずないのに。


それだけでもAさんはパニックになりかけてたんだけど、もっと恐ろしいものを見ちゃったんだよ。


実はほんのちょっと前に、Aさんの友人でEさんっていう人が、その団地から飛び降りたんだって。




そのEさんが、Aさんの真正面にあたるベランダから、虚ろな目でAさんを見つめてたの。





それからAさんがどうなったかは分からないの。どこか遠方に移り住んだとか、不治の病で入院してるとか、いろいろ噂はあるけど。


……その団地が立ってた場所、今は大きな墓地になってるそうだけど、不思議と心霊体験はぱたりと止んだらしいよ。


寂しがりの幽霊が、仲間欲しさにあの世へ人を引き込んでたのかもね…………。






提督「恐ろしい話だ」


漣「マジでトイレ行けなくなりそうなんですが」


叢雲「ちょっとぞくっと来たわ」


五月雨「えへへ、そうかな」



電「…………」


提督「電が虚ろな目で頭を抱えたまま動かないんですが」


吹雪「電ちゃーん、戻って来てー」


漣「いくら何でも耐性なさすぎない?」


叢雲「そういう性分の人だっているわよ」



提督「まあいいや、このまま進めちゃおう。次叢雲」


叢雲「あまりよろしくはないと思うけど……まあ、とりあえず始めるわ。何を話したものかしら……」




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これは調査関係の仕事をしている男が引き受けた、労災関連の話よ。


とある会社で、事故があったの。


ロードローラー、って言えばいいのかしら。地ならしするローラーが付いた車に、女性の従業員が轢かれて死んでしまったの。


保険の支給の関係上、事故の概要調査とか、遺族の人の意向を聞く必要があったの。



その男は遺族の話を聞きに、女性従業員の実家へ車で向かったわ。関西方面だったかしら、昔は漁村だったところらしいわ。


人通りもほとんどなく、昔ながらの家々が立ち並ぶ場所でね。そのせいか、道が入り組んでたり、一方通行が多かったから、車を空き地のようなところに止めて、徒歩で家を探すことにしたらしいわ。



でも、見つからないの。15分ほど彷徨って、一度車の所に戻ってきた男は道を尋ねることにしたわ。


ちょうど、洗面器のようなものを持った女性が前を歩いていてね。不審に思われないようなるべく丁寧に尋ねたの。


「すみません、この近辺にお住いの○○さんのお宅はどちらでしょうか」



前を歩いていた女性が男に振り向いた瞬間、男は心臓を鷲掴みにされた気分になった。


後姿は取り立てて特徴がある訳じゃなかった。でも、振り向いた顔は、唇がベロリとめくれ、歯が何本も抜け落ち、顔全体がいびつな歪み方。


右目は血走ってギロリと見開かれているけど、左目は見えているのか怪しいくらい瞼が落ちている。後ろ髪はおかしな様子もないのに、前髪は気の毒なほど荒れ果てていて。


顎もおかしい。左から右へぐりっと突き出したような形状、不自然なほど左の頬がこけている。まるで、そこだけ中身がないように。


男は思わず目を背けそうになったけど、それは流石に失礼。何事もなかったかのように「御存じありませんか」と続けて尋ねたわ。



「……あ゛っぢ」


女性は自身の進む方向に指をさした。声を出すのもかなり苦しそうだった。


「すみません、助かります!ありがとうございました!」


男は一礼し、教えてもらった方向へ速足で歩き出した。


作り物の怖さじゃない。のどかな風景に、今出会った女性があまりにも不釣り合いに思えた。鞄を持つ手が少し震えているのが分かる。



何かの病気か、生まれつきか。年齢はハッキリと分からない。後姿はそれなりに若く見えたが、顔は若いとも思えない。


男は、後ろを振り返ることなく立ち去り、目的の家にたどり着いたわ。



遺族はかなり興奮しているだろうと思っていたけど、実際は冷静だったそうよ。むしろ、お金はどうでもいいという態度だったらしいわ。


男は詳しい話に入る前に、御焼香をさせてもらった。



遺影を改めてみると、綺麗な顔立ちの人だった。会社の関係者から聞いた話によれば、事務員として勤めるようになって3年。年配の従業員が多かったこともあって、皆に可愛がられていたとのこと。


特に事故を起こした従業員は、自身の娘のようにかわいがっていて、「息子が独身なら、絶対に結婚させていた」と日頃から触れ回っていたとのこと。


その分悲しみは深く、その従業員は事故直後に自殺を図り、今もほとんど放心状態で過ごしているとのこと。


会社の方も誠意持って対応していたらしく、母親から恨み言は効かれなかった。保険の金額で争うことも考えてない。ただ、娘が嫁にも行かず死んでしまうなんて…と話す母親の言葉に、男は言葉に詰まったらしいわ。



男は母親に礼の言葉を述べ、実家を後にした。そこでふと思ったの。



車の方へ続く道に、さっき会った女性がいるかもしれない。



顔を合わせれば例の一言も言うべきだろうが、正直言って会いたくない。なんというか、本能が拒否している感じだった。


だけど、土地勘のない男にとっては来た道を引き返すしかない。努めて冷静に、男は引き返していったわ。


幸いといったら失礼だけど、女性に会うことはなかったわ。



男は安堵して車に乗り込もうとしたのだけど、ボディにいくつも手形がついているのに気が付いたわ。薄汚れた茶色っぽい手形が、ボンネットに数か所、運転席側のドアに数か所。白いボディだからとても目立つこと。


一先ずウェットシートで目に付く汚れを吹いた。幸いすぐに汚れは取れたわ。


車上荒らしかとも思ったけど、別に盗まれたものもない。空き地とはいえ私有地だろうから、怒った所有者が弄り回したのかもしれない。


男はあまり気にも留めず、さっさと車を発進させたわ。



仕事場へ戻った男は、母親の聴取内容を報告書にまとめていたわ。


そこへ上司がやって来て、会社から提出された正式な報告書を渡されたの。


男はそれを流し読みしながら、事故現場の写真でふと目を止めたわ。



被害者の手元を写した写真だったのだけど、恐らく被害者の血が付いたのであろうコンクリートブロックのようなものに、薄汚れた茶色い手形がはっきりと映っていたわ。


色といい形といい、今日車についていた手形と全く同じに見える。男は冷や汗を流しながら、同時に偶然だと思うようにしたわ。


そもそも手形なんて、パッと見違いは分からない、ましてや写真だもの。たまたま同じような色に見えるから、そう考えてしまうだけ。男は自分に言い聞かせたわ。


でも、次の写真を見て、男は心臓が止まりそうになった。



被害者の事故直後の様子が写った写真。ローラーに轢きつぶされた顔。



ベロリとめくれた唇。いびつな歪み方をした顔、ぎろりと見開かれた右目。左目はズルリと瞼が落ち、左から右へぐりっと突き出したような顎の形状。



そこに写っていたのは、まさに昼間であった女性の顔だった。



男はしばらく呼吸ができなくなり、その後意識を失ったわ……。





提督「アカンリアルに想像できてしまった」ヒヤアセ


漣「描写がいくら何でも生々しスギィ!」


五月雨「ひぃぃぃ…………!!」トリハダ


吹雪「グロいのやだぁ……」ブルブル



叢雲「いや、あの、いくら何でも怖がりすぎでしょ」


提督「グロ描写ある話を平然と話すお前が怖い」ガクガク


叢雲「いや、だって、これ私の考えた作り話よ」


漣「そんなえげつない話をあの短時間でしかも何でもないように喋るムラキョン怖い」ブルブル


叢雲「どうすればいいってのよぉ!?」



電「摩訶般若波羅蜜多心経 観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五…………」ブツブツ


提督「おい電が虚ろな目で般若心経唱え始めたぞおい!?」


漣「怖い怖い怖い!デンデンこのシチュエーションでそれは怖いって!!」


吹雪「というかどこで覚えたのそんなの!?」


電「この世に実体などない……形はない、感覚も、心もなく、悟りに対する無知もなく、それがなくなることもなく、ついには老と死もなく、それがなくなることもない。知ることもなければ、得ることもない……知恵の完成こそ偉大な真言であり、悟りのため、のこの上なき真言、比較するものがない真言……往き往きて、彼岸に往き、彼岸に到達した者こそ悟りそのもの……」


叢雲「なんか悟り開き始めたんだけど!?」


漣「まさかの電菩薩誕生ッ!?電言宗勃興ッ!?」


五月雨「えぇぇ!?お、お布施とかしなきゃダメッ?」


提督「んな訳あるかバカたれッ!いいから電正気に戻すぞッ!!」





――――――――で。





漣「いなずまは しょうきに もどった!」


電「と、取り乱しました……」


提督「流石に電の背後に御釈迦様が見えた時はもうダメかと思ったわ……」


吹雪「もう怪談の恐怖とか吹っ飛んじゃいましたね」


叢雲「なんかゴメン……」



提督「よし、気を取り直して次行くか」


電「ま、まだやるのですか!?」


漣「流石にそろそろ電手観音様がかわいそうになってきたよ」


叢雲「なんかこれ以上やると嫌な予感がするんだけど」


提督「まあまあ、次は電に話してもらおうか」


電「あうぅ、上手くできるでしょうか……み、短いですけど……」



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えっと、フ○ービー人形ってありますよね。電池を入れて、お世話をするお人形さん。


実は、前に響ちゃんが鈴谷さんからそれをもらったことがあるのです。


「商店街の福引で当たったんだけど、鈴谷の年齢的に今更コレはねー……よかったら貰ってよ」


なんて言いながら、響ちゃんにそれを渡したのです。水色で黒線の縞々模様だったかな。箱付きの、まだ真新しいものでした。


でも響ちゃんもそこまで興味がなかったみたいで、とりあえず箪笥の上に置いたまま、半ば忘れていたらしいのです。


で、響ちゃんが非番だったとある日、響ちゃんは一人で本を読んでいたのです。


すると箪笥の上から、


『ファ~ビィ~……』


響ちゃん、少し驚いたらしいのですが、それがフ○ービー人形だとすぐに分かって。


「あぁ、なんだ……電池入ってたのか。鈴谷さんも悪戯好きだな……」


と気にせず本を読んでいたのですが、


『ふぁぁ~びぃ~』



『ふぁぁぁぁびぃぃぃ』





「ふ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ああああびぃい゛い゛いい゛い」←今にも電池が切れそうな声



と、間隔を置いてひっきりなしに鳴き続けるのです。


「もうっ!」


流石に怖くなってきたのと、鈴谷さんのイタズラに腹が立った響ちゃんは、その人形を持って直接鈴谷さんに文句を言いに行ったのです。



「鈴谷さん!わざと切れかけの電池を入れたでしょ!変なイタズラはやめてくれないかな」



ところが鈴谷さんは怪訝な顔をして、こう返しました。



「えっ……?鈴谷、電池入れてないよ。だってそれ、貰ってから響ちゃんにあげるまで開封してなかったもん」


「えっ……!?」



慌てて響ちゃんが箱を開けて、人形の電池を入れる場所の蓋を開けると、確かに電池は入っていなかったのです。



「じゃ、じゃあ、なんで……?」



響ちゃんが真っ青になってしまったのを、鈴谷さんが心配そうに見つめ、声をかけたのです。



「い、いや、なんで、そんな」


「ち、ちょっと?響っち大じょ」



『ふ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ひ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛』







五月雨「いやぁあああああああ!!」ミミフサギ


吹雪「怖い怖い怖いッ!」トナリニダキツキ


漣「メンタルモルスァァァァァァァアアア!?」シロメ



電「その後、責任を感じた鈴谷さんと一緒にそのフ○ービー人形を御払いに引き渡したそうです」


提督「洒落にならねぇよ実話は……」ゾォォ


叢雲「ていうか電、アンタ自分で話すときは平気なの……?」ウデサスリ


電「あ、あらかじめ覚悟をしていますから……これでも自分で話していてすごく怖いのです……」


漣「その割にあの迫真の演技は堂に入ってたよ……特に人形の鳴き声のとこ」


吹雪「あと顔!電ちゃんのあんな怖い顔初めて見たよ!」


提督「虚ろな目に能面みたいな無表情が蝋燭の明かりに照らされて、もう……ね」


五月雨「心臓が痛いよぉぉ……!」


漣「ただでさえフ○ービー人形はトラウマ製造機やってのに、もうおもちゃコーナーで目も合わせられないじゃん……」


提督「もうおもちゃって年でもねぇだろお前、なに?その年でトイザ○スとか足繁く通ってんの?」


漣「何を仰るご主人様!TRPGのダイスとかパーティーグッズ買うときめっちゃ便利なんだぞトイザ○スさん!お前トイザ○スさんdisってんの!?クリスマスイブにあのキリンさんからヘッドバッド貰っても知らねーかんな!」


提督「俺がクリスマスイブに貰うのはお前らからのプレゼント要望だけだっつーの……俺だって貰いてぇよプレゼント」


電「い、電が」


提督「自分がプレゼントってのはナシな、ていうかどこで教わったのそれ」


五月雨「そういえば愛宕さんが言ってたような……」


提督「あのアマ……」




提督「もういいや、ほら、次お前の番だぞとっとと始めろ論者ピンク」


漣「んんwwwwwww他の子と拙者の扱いにあまりにも差がありすぎますぞご主人様wwwwwwこれが塩対応というやつですかwwwwwwwwww」


提督「いいからはよ」


漣「んんwwwwwww鳥肌ガン積み以外あり得ないwwwwwwwwwwwwww」




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これはとある大学生のD君のお話ね。


このD君、1年でアパートを3回変えてるんだけど、そんときの話。



まず最初に住んでたアパートなんだけど、2年の契約が満了したんで更新するか引っ越しするかを選んでたD君。せっかくだからと新しくアパートを探して引っ越すことにしたんよ。


で、移り住んだのがなかなかいい物件で、D君は引っ越してそう時間も経たないうちに気に入った。当時交際していた彼女をよく家にあげてめっちゃリア充してたとある日のこと。


いつものように彼女を招いて宅飲みしていると、玄関の扉が『コンコン』とノックされた。


時間にして深夜11時過ぎ。酔っぱらっていたD君は「新聞かなんかの勧誘だろう」と深く考えずドアを開けた。


しかし誰もいない。


「イタズラかな……」そう思って部屋に戻ったD君だけど、その5分後、再びノックの音が響く。


若干苛立ちを感じながら再び玄関を開けるが、やっぱり誰もいない。


頭に来たD君は玄関の前で仁王立ちし、次に来たら今度こそとっ捕まえてやろうと待ち伏せし始めた。


そして、再び。



『コンコ』


とノックされた瞬間相手にぶつける勢いで玄関を開けるD君。



でも、やっぱり誰もいない。影も形もない。



この時点でD君はようやく人間ではない何かが来ていたのだと悟り顔面蒼白、彼女も半泣きでD君にしがみつく。


二人で眠れぬ夜を過ごしたけど、それから約2週間は特に何事もなく過ぎていった。



とある夜、いつものように車に彼女を乗せてアパートへ帰ると、自分の駐車スペースに何やら人が何人か居座ってるのが見えた。


その恰好がどうも喪服を着た人間が数人、そして明らかに坊主であろう袈裟を着た人間が一人。そして自分の駐車スペースのど真ん中には花束。


あまりにも異様な光景にD君、パニックになりかけながら事情を聞こうとその集団に近づいたのね。


するとその中で喪服を着たおばさんが気付いて、D君に事情を説明したんだ。



「ごめんなさいね、うちの人、ここで自殺してしまったの」



口を開くなりそんなことを言うものだからD君更にパニック。



「えぇ!?き、今日ですか!?」


「いいえ、もう一年も前になるのだけど」



一年も前?じゃあなんで今更こんなことを?


余計に混乱し始めたD君に向かって、今までお経を唱えていたお坊さんが、不自然なほどにこやかに笑ってとんでもない一言。





「まだ成仏していらっしゃらないみたいなんですよねえ」






提督「いや何でそれ笑顔で言うのッ!?」ゾワッ


吹雪「もう嫌ぁ……!」ハンナキ


電「電、生きて帰れるでしょうか……」トオイメ



漣「この体験の後、D君は一週間もしないうちに別のアパートへ引っ越したそうだよ」


叢雲「そりゃそんな体験してて引っ越さない方がおかしいわよ……」


提督「というかその自殺した奴も死んでから迷惑かけんなって話だよな……」



五月雨「というかそのお坊さん、何を思ってそんなことをにこやかに言ったんだろう」


提督「多分そういう類の話がその坊さんにとっては珍しくもない話だったんだろ……」


漣「成仏しきれずに人様に迷惑かける自殺霊が珍しくないってどんだけディストピアだよその地域」


五月雨「そんな地域があるなんて信じたくないよ……」


吹雪「私そんなところいくらお金積まれても行かない……」


電「電ならそのお金で幽霊のゆの字も出ないくらいその一帯を更地にしてやるのです」


提督「土地転がすために金で買収する悪徳業者みたいなこと言い出したんだけどこの子」


漣「まあデンデンの暴走は今に始まったことじゃないからにー」


提督「暴走というか恐怖で錯乱しているというか」



漣「まあ鎮守府一の暴走特急こと漣チャンには敵わないけどなッ!」ドヤッ


提督「自分で言うことじゃねえわな」


漣「誰にもできなかったことをやっていくスタイル!」


提督「それ皆一度は思い付くけど大コケする未来が見えてたから誰もやらなかっただけだゾ」


漣「それマジ?文章のロマンさに対して現実の旨味が貧弱すぎだろ……」


提督「人の夢と書いて儚いと読むんだよなあ」


漣「こんな不条理な世の中もう許せるぞオイ!」ハンギレ




提督「…………さて、最後は俺か」


漣「今までの話が霞むくらいとびっきり怖い話を用意してくれたんでしょーねー?」


提督「任せろ、俺がマジでちびりそうになった体験談だから」


叢雲「アンタが言っても信憑性ゼロだから」


五月雨「同意見です」


提督「叢雲はともかく五月雨にまで言われるとか泣きそう」


漣「ええから早う始めなされ……」


提督「わかったわかった……途中で後悔しても遅いからな……」



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一昨年の話だ。


俺が横須賀に行ったとき……ほら、全鎮守府提督による定例会議で出頭したときあったろ?


横須賀米海軍基地……今は横須賀鎮守府になってる所だ。あそこへ出張に行った時の話だ。



その日、定例会議が終わった俺はあてもなく鎮守府近辺の街をウロウロしていてな。お前らへのお土産を物色したり色々だ。


そん時、たまたま横須賀で仕事をしてた友人のUと数年ぶりに再会を果たしてな。中学校卒業以来会えていなかったから、偶然もあったもんだと話が弾んだよ。


で、話の成り行きで釣りをしようという話になってな。鎮守府のすぐ隣に併設されている、三笠公園という場所があってな。そこで互いに酒やつまみを持ち寄って、友人の話を肴に月夜の元釣りをしていたわけだ。


もう日付も変わろうかというとき、Uが急に言い出したんだ。



「なあ、怖い話しようぜ。いいネタがあるんだ」



そう、今日の漣みたいに、怪談に誘ってくれてな。深夜テンションも相まって二つ返事だったよ。


その後交互に互いの怪談話を聞かせ合いながら釣りをしていて……もう日付がとっくに変わったころ。


そろそろ帰ろうかと俺が言い出した時、Uが「まあ待て」と止めたんだ。



「最後にとっておきの怪談を聞かせてやるよ。怖くて眠れなくなるぜ」



妙に挑発的な態度でな。そいつの言う通りになるのも悔しいが、とっておきというからには相当怖い話に違いないと気になりだして。結局そいつの最後の怪談を聞くことになったんだよ。





「お前さ、『呪いの黒電話』って知ってるか?」


「……いや、聞いたことないな」


「黒電話は知ってるよな?田舎のばあちゃん家にあるみたいな、ダイヤル式の」


「ああ」


「その黒電話に纏わる話なんだけどよ……」



元々オカルトな話が好きだったUは、まるで水を得た魚のように目を爛々と輝かせながら話し始めた。




数年前、とある若い夫婦がいた。二人はこれから生活する住居を探して、不動産屋を訪れていた。


やがてとある木造の格安アパートを見つけ、二人は下見に出かけた。築数十年という古いアパートだが、内装はリフォームされているらしく、壁紙や畳も真新しいものだった。


二人はすぐそこを気に入り、早速契約してそこへ引っ越した。



しばらく二人で暮らすだけならば、その部屋は居心地のいい空間だった。壁が薄いのか外や隣近所の声がかすかに聞こえてくるのが玉に瑕だったが、それすら特に問題とは思わなかった。


これから幸せな生活が始まる……夫婦はそう思っていたが、引っ越してすぐとある問題が発生した。



隣室から、黒電話の『ジリリリリリン』という着信が、昼夜問わず鳴り響いてくるのだ。


しかも隣人は電話を取ろうとしないのか、ひっきりなしに音が聞こえてくる。


流石に迷惑に感じた夫婦は、大家の元へ苦情を言いに行った。


だが大家は怪訝な顔を見せると、



「ええ……?今、あなたたちの隣には誰も住んでいないですよ」



と言うのだ。


ならばあの四六時中鳴っている電話の音は何だというのか。夫婦はその旨を伝えると、大家も嘘を言っているわけではないと感じたのか、



「明日の朝、確認に行きますね」



といい、夫婦もその時はそれで納得した。



その夜、夫婦がそろそろ寝入ろうとしていたとき、再び


『ジリリリリリリン』


と、黒電話の音が。



夫は我慢の限界が来たのか、隣室との壁を思いっきり叩いた。妻はそれで少しでも気が晴れるなら、と止めなかったが、やがて夫は何かに気付いたかのように壁に耳を当て始めた。


不思議に思った妻が何をしているのか聞くと、



「この電話、壁の中から聞こえないか?」



などといい始めた。


すると夫は、仕事道具である金槌を持ち出すと、問題の壁を躊躇なく叩き壊し始めたのである。


妻も止めはしたが、鬼気迫る表情の夫に怯え、力づくで止めようとはしなかった。


やがて、隣室との壁に人ひとりが潜り込めるほどの大穴が空いたとき、夫は何かに気付いたのか穴に体を潜り込ませ、ほどなくして戻ってきた。



その手に、怪しげなお札が余すところなく張り付けられた、不気味なダイヤル式の電話を持って。



不思議なことに、その黒電話、電話線が繋がっていない。電話線が繋がっていなければ電話が鳴るはずもないのに、その黒電話はひっきりなしになり続けている。


その光景を見た夫、何を思ったのか、妻が止めるのも聞かず受話器を取って耳に当ててしまった。


「誰だ!」夫が叫ぶ。


すると、受話器から、確かに返事が聞こえたのだ。



『やっと出たなぁ……ずぅっと、待ってたんだぁ……』



地獄の底から響き渡ってくるような、不気味な男の声。


その声を聞いた夫はやがて眼を見開き――――――――。




翌日の朝、管理人である大家が夫婦の元を訪れ、ドアをノックするが、返事がない。


不思議に思いながらドアノブを回すと、鍵が開いていた。



中に入った大家は絶句した。


壊れた壁の前で、耳から血を流して倒れている夫と、虚ろな目で「もしもし……もしもし……」とうわ言を呟き続ける妻の姿があったのだ。



二人は病院に担ぎ込まれ……その後の行方は、分かっていないという。



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吹雪「うぅ……」


叢雲「気持ち悪いわね……」ブルッ


提督「ああ、俺も初めて聞いたときは寒気がしたよ」



漣「でもなんかさっきまでと比べてインパクト薄くない?」


五月雨「今までと同じような感じでしたね……」


電「それでもやっぱり怖いのですぅ……!」ガタガタ



提督「まあ待てお前ら、誰がこれで終わりだと言った?」


漣「へ?」


提督「言ったろ?『体験談』だって。話はここからだよ」



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「……っていう話なんだけど」


「う、おぉ……やべぇな、背筋が寒くなったよ」


「だろ?俺も聞いたときはマジで冷や汗モンだったぜ」



Uの最後の怪談話が終わって、その話の感想を俺とUで言い合っていたんだ。


時間も結構いい時間だったな。そろそろ日付が変わるかってところだったか。いい加減遅いし帰ろうって話になって。



「いやあそれにしても楽しかったなぁ……」


「全くだ」



他愛ない話をしながら帰り支度をしていたその時だった。俺の携帯から、



『ジリリリリリリリリンッ』



って、あの黒電話の着信が鳴りだしたのは。



「……は?」


「え、いや……ちょ、待て待て待て何だこれ何だこれッ!?」



あまりにも出来すぎた展開で、俺たちはそりゃもう大慌てだったさ。


当然俺は着信音を変えるようなイタズラはしてなかった……お前たちもちょくちょく聞いてるあのアニソンの着メロだよ、ずーっと変えてない。



「おい性質の悪い冗談はやめろッ!変なイタズラすんなッ!」


「俺だってそんな趣味はねえよ!なんで、何でだよッ!!」



戸惑ってる間もずーっとその音が鳴り続けてるんだ。しかもご丁寧に相手は非通知ときた。


混乱の極みに達した俺は、目の前に広がってる海に向かって自分の携帯を思いっきり投げ捨てたんだ。


数十メートル先で「ぽちゃん」って音と共に、俺の携帯が沈んでいく。それを見た瞬間体の力が抜けたよ。


これであの電話に出なくて済む、またかかってきたとしても海の底、もう誰もあの電話には出ないって。



『ジリリリリリリリリリリリリリリンッ!!』



って、Uの携帯からまたその音が流れるまでは思ってた。



もうこのころになると俺は泣き出してたよ、みっともなく。あんな身の毛もよだつような恐怖は生まれて初めてだった。



だが、Uは何を思ったのか、その電話の通話ボタンを押して、そのまま耳に当てたんだ。


恐る恐るだが、興味本位、好奇心が恐怖に打ち勝ったような表情で、その電話に出やがったんだ、そいつは。



「お、おい何してんだッ!?やめろッ!!」



俺は遅れて叫んだけど、もうその時には遅かった。


Uはその電話に出てすぐ、目を見開いて…………。



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電「…………!!」ハンベソ


五月雨「…………ッ!」ゴクリ


叢雲「そ、それで……どうなったのよ」




提督「……そこから先のことは、よく覚えてねぇんだ……気づいたら俺は、自分の部屋の隅に縮こまって、震えながら朝を迎えてたよ」


提督「おぼろげに思い出せるのは……倒れた友人、救急車で運ばれていくのを黙ってみている俺……」


提督「後から知ったんだが……Uはその後精神をやったらしくてな」


提督「精神病院に隔離された後……発狂して、何かを叫びながら亡くなったらしい」


提督「あの時、友人があの電話で何を聞いて、何を思ったのか……今となってはもう、分からないままだ」



五月雨「」ゾワッ


吹雪「嫌ぁ……もう嫌ぁ……!!」ナキベソ


電「もう怖い話はいやなのでずぅぅ……ぅぅぁぁあああ……!!」ボロボロ


叢雲「あーよしよし、怖かったわね……」ナデナデ



漣「どうすんのご主人様この空気……何最後にどえらい爆弾起爆させてくれちゃってんのさ」


提督「いやお前がいっちゃん怖い奴話せ言うたやん」


漣「こんなどぎついレベルのもんは想定してなかったよ!?デンデンに至っては泣き出しちゃったじゃんか!!」


提督「俺も正直思い出したくないこと思い出して気分悪い」


漣「そんな曰く付きの話一生心の倉庫に仕舞っててよかったんやで?」


提督「たまには蔵掃除しないとだし、多少はね」


漣「さっさと潰しちまえそんな蔵」




叢雲「はぁ……どうしてくれようかしらこの空気」


吹雪「もう、解散でいいんじゃないかな」


漣「異議なーし、つーかもう寒気し過ぎて風邪引きそう」


提督「精神的に参るねこりゃ……」ヨッコイセ




ピロン



提督「お、メールだ」ドレドレ


漣「お、大本営からの連絡かえ?この秘書艦漣様にも見せろし」セノビ


提督「んな最重要機密が携帯のメールで送られてくるわけねぇだろ……」ポチ





差出人:亜jpェインrtjsmbsヴぉりぇmぐ

件名:987ygbンmrdsdtfcvbhyちゅんmby





提督「…………は?」


漣「え……何これ、文字化け……?」



叢雲「ちょっと、どうしたのよ」


提督「全部文字化けしてるメールが……しかも本文は空とか……」


漣「ぇ、ゃ、やだやだ気持ち悪い……!」トリハダ


吹雪「お、落ち着いて漣ちゃん……た、たぶんサーバーの調子が悪いとかじゃ」


電「でもでも……この状況でこんなメール……気持ち悪いのです……!!」


五月雨「そ、そうだよ……いくらなんでもタイミング良すぎるよ……」


提督「た、多分俺の携帯の調子がおかしいんだなアハハハハ!なに、明日にでも修理に出しにいくさハハハハ」


吹雪「司令官も落ち着いてください!」


漣「まさか新手の不幸の手紙とかじゃ」






『ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリンッ!!』


『うわあああああああああああああああああああああああああッ!!!』






翌日、提督私室の隅で、提督と秘書艦五人が固まって震えているのを大淀が発見した。


中庭には、提督が投げ捨てたと思われる液晶が割れてしまったスマートフォンが見つかった。


画面には、不自然なほど小さい手形が残っていたという。




提督「ちくしょうッ!もう怪談は沢山だッ!!」





おわれ


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妖精さん


鎮守府に在籍している工廠妖精と、戦闘中艦娘のサポートを行う艤装妖精が存在する。


彼女らがどこから来たのか、艦娘のとの接点は何なのか、なぜ艦娘を支援できるのか、建造できるのか誰にも分からない。


誰も知らない。知られちゃいけない。妖精さんが誰なのか。


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こぼれ話2:提督のタイプ





鈴谷「ねーねー提督ー」


提督「あー?どうした鈴谷」


鈴谷「あんさー、鈴谷聞きたいんだけどさー」


提督「おーどした」オチャグビー




鈴谷「提督って鈴谷に欲情したりとかしないのー?」


提督「ゴフッ!?」オチャフキダシ



鈴谷「おー見事なクジラっぷり」


提督「ゴホッ、ゲホッ……!急に何を言い出してんだこのバカ!」


鈴谷「お、なになにー?一丁前に恥ずかしがってんのー?」


提督「茶が勿体ないからに決まってんだろ!あーもうせっかく珍しく上層部から貰った玉露なのに……」フキフキ


鈴谷「…………」ムス



提督「ったく……で?なんだっけ、俺が鈴谷に欲情しないのかって?」


鈴谷「もーいい」


提督「は?なんで急に拗ねてんだよお前」


鈴谷「どうせ鈴谷なんかよりもお茶の方が大事みたいだし?」プイッ


提督「そりゃせっかくのお高いお茶なのにお前が変なこと言って噴き出させるからだろ……もったいないことしたわ」


鈴谷「ふんだ……」ムッスー



提督「欲情するに決まってんだろ何言ってんだお前」



鈴谷「…………は?」


提督「いや、は?でなくてよ」


鈴谷「え、いや、だって……そりゃ興味本位で聞いたのはいいけど、流石にそんな自信たっぷりに返されるとは思わなかったし」


提督「このぐらいの返しで何慌ててんだ、そんなんだからいつまで経っても大人の階段上れねぇんだぞ」


鈴谷「流石にその発言はデリカシーなさ過ぎてドン引き」


提督「自分でもそう思う」



鈴谷「……えと、それってつまりアレだよね。鈴谷に興味あるってことだよね?」


提督「まあ大体あっているな」


鈴谷「具体的にどこらへんが?」


提督「まず最初に何といっても美少女って点だな。男ってのは顔が可愛かったら少々の性格の悪さは愛嬌に見えるもんよ」


鈴谷「び、美少女……」テレ


提督「ああそうだ、鈴谷はいいぞ。いい意味で力が抜ける」


提督「というのも、鈴谷は結構誰とでもラフに接するからな。変に気遣ったり肩肘張らなくていいから一緒に居ても疲れにくい」


鈴谷「そう、かな……」


提督「意外と料理が上手いのもプラスだな。大和みたいなフルコースとかじゃないが、家庭的且つ彩りのある料理は毎日食べていたい」


鈴谷「うぁ……ほ、本気で恥ずかしくなってきた」テレテレ



提督「あとこう言っちゃいやらしい話になるが、お前の体つきも大変よろしい。一度でいいからお前のようなわがままボディの少女を抱いてみたいもんだ」


鈴谷「うっわ最後の最後で落としてきたこの男、鼻の下伸びてるし」


提督「はっはっは、伸びるのは俺の単装砲さ」


鈴谷「7.7mm機銃がどうしたって?」


提督「そんな風に割と下ネタも返してくれるところが好きだぞー、まあそこまで短くないけどな……」


鈴谷「つーか女の子にそんなネタ振るなってーの。恥ずかしいじゃん」


提督「はっはっは、照れる鈴谷も可愛いぞ」


鈴谷「いや、こんな頭の可哀想な人が鈴谷達の上司だって思うと風評が怖くて」


提督「結構毒舌なところも肝が据わってて好きだぞー、俺の心は傷つくけどな……」ズーン



鈴谷「……んー、でもさ。そう言ってくれるってことはさ」


鈴谷「提督って鈴谷となら……こ、恋人に……なってくれたり、なんかしたりとかは……」モジモジ



提督「んー……そりゃあ、願ったり叶ったりだよなあ」


提督「……だが、鈴谷だけのものにはなれないな」



鈴谷「な、何で!?」


提督「お前にとっての上司は俺だけかもしれないが、俺にとっての部下は鈴谷だけじゃない」


提督「俺を慕ってくれる子は大勢いる……駆逐艦の子たちも、戦艦たちも、どっかの呑兵衛共も……いろんな子が、俺を好きだと言ってくれる」


提督「…………その中から一人だけを選ぶってなると、決め難いんだよ」



鈴谷「うわースケコマシだ!うちの提督スケコマシだ!」ヒキ


提督「人聞きの悪い事言うな、これでも滅茶苦茶悩んでんの」


提督「みんないい子ばっかりだから、その中から一人だけ選んで後の皆一人一人に断りを入れなきゃならんのだぞ、それがどんだけの苦行が考えたことあんのか」


鈴谷「……ご、ごめん」


提督「謝るなよ……いろんな子からせっつかれてさぁ、ケッコンは誰にするんだ早く決めろって」


鈴谷「それ知らない人が聞いたらどんなハーレム野郎なんだって疑っちゃうよね」


提督「実際女の園に男一人だけだからな……運営スタッフは皆妖精さんだし」


鈴谷「たいてい何でもこなしちゃうからすごいよね妖精さん」


提督「ああ、色んなところで大助かりだよ、ありがとう妖精さん」



鈴谷「って違うって!話脱線してるからッ!」バンッ


提督「机を叩くんじゃあない」


鈴谷「結局の所さ、提督って優柔不断のヘタレってことっしょ!?」


提督「面と向かって言われると傷つくなー事実だから余計に」


鈴谷「それって要するに、可愛い女の子なら誰でもいいってことでしょ!?」


提督「それは違う、鈴谷は鈴谷だからいいんだ」


鈴谷「へ?」



提督「同じことだ。夕張は夕張だからいい、時津風は時津風だから可愛い、鳳翔さんは鳳翔さんだから奥さんにしたい、川内は川内だから激しく夜戦したい」


鈴谷「おい最後」


提督「お前らはそれぞれが、それぞれ個性的であるからこそ……そしてそれでもなお俺を慕ってくれるからこそ、俺は皆の笑顔を壊したくないんだ」



提督「鈴谷、お前も」


鈴谷「!」


提督「俺はお前が笑ってる顔が一番好きだ。お前を悲しませることから、俺がこの手で守ってやりたい」


提督「なのに、その手で握りつぶしちまうのはおかしいだろ?」


提督「鈴谷、お前は俺が守る。深海の奴らには手も足も出ないが、それ以外なら俺は全力でお前を守ってみせる」


鈴谷「~~~~~~ッ!!」ボンッ



鈴谷「そ、そんな言い方ずるいしッ!どうせそんな綺麗事言って誤魔化すつもりでしょーがッ!」


提督「……ふぅ」ガタッ


鈴谷「え、な、何で立つの?」


提督「鈴谷……俺が伊達や酔狂でこんなことを言ってると思ってるのか」ツカツカ


鈴谷「え、え、ちょっと何で近づいてくるわけッ!?」アトズサリ


提督「もしそうだとしたら……俺も少々、態度で示さなきゃならんな」ツカツカ


鈴谷「ゃ、待、待ってってば!こ、ここ心の準備が」アトズサリ



ドンッ



鈴谷「あいたっ……!ぁ……」イキドマリ



ドンッ


鈴谷「ふあ……!?」カァァァ


提督「俺の眼を見ろ」カベドン


鈴谷「ぁ、ぅ…………」コウチョク


提督「鈴谷」


鈴谷「は、ひゃいっ!?」ビクッ




提督「俺はお前のためなら……お前たちのためなら、どんなことからも、どんな奴からも守ってみせる。たとえ世界を敵に回そうと、俺はお前たちを……お前を、家族を。全力で守りきる」


鈴谷「―――――――――!!」


提督「だから、お前は俺を……俺だけを見ていろ。分かったな?」


鈴谷「は……はい…………」





叢雲「お楽しみのところ悪いんだけど」ガチャ


鈴谷「ひきゃぁぁぁああ?!」


提督「ああ、叢雲。どうした」ハナレ


叢雲「鈴谷さん、熊野さんが探してたわよ。一緒に買い物に行きましょうって」


鈴谷「ぇ、ぇーああそうだったわッ!?いやーすっかり忘れてた教えてくれてありがとうそれじゃ鈴谷はこれで!!」ドタドタドタ




提督「あらら……行っちまった」


叢雲「行っちまったじゃないわよ。乙女の心を弄んで」ゴリップク


提督「弄んでなんかないよ。俺は俺の本心を伝えただけだ」


叢雲「あんなのプロポーズと変わらないじゃない……しかも堂々と他の子にも手を出す宣言してるし」


提督「それではまるで俺が女の敵のように聞こえるではないか訂正したまへ」


叢雲「何度も校正した結果このざまだけど言い訳はある?」


提督「本当に申し訳ない」


叢雲「はぁ…………」  




叢雲「…………で、結局どうするのよ、カッコカリの件は」


提督「それなんだが、大本営から決断を少し待てとのお達しだ。風の噂だが、どうもうちのケッコン事情は普通とは程遠くなるらしい」


叢雲「ふぅん……?」



叢雲「まあ、どちらにせよ?この叢雲様以外に指輪を渡す相手は考えられないわね」


提督「その無駄に根拠のない自信はどこから来るんだい」


叢雲「なっ、何よ嫌なの!?」


提督「嫌って訳じゃないがそうも自信満々だとつい意地悪したくなってな」


叢雲「何よそれ意味わかんない」



提督「まあケッコンつっても普通の『結婚』じゃなくて、魂を結ぶとかいて『結魂』だから一般的なそれとは違うが」


提督「どちらにせよ特別な意味があることには変わりないからな」


提督「大本営の通達が来る前から、しっかりと考えないとな」


叢雲「……そうね、精々頭を使いなさい」



提督「……よし、叢雲ちょっとこっち来な」チョイチョイ


叢雲「……何よ」


提督「たまには最古参の叢雲様を労わろうというのだ、そこのソファに横になりたまえ。俺が全身の疲れをほぐしてやる」


叢雲「あ、按摩ってこと?いいわよ別に」


提督「いーや、歩き方で分かった。お前最近腰とか背中に痛みを感じているな……それだけじゃない、足……太もも、それに足首もだ」


叢雲「な、なんで分かるの?」


提督「事務仕事やってる人間は大体座りっぱなしだから腰に負担が来るし、太ももは単純に筋肉痛、足首は歩きすぎによる疲労……」


提督「お前昨日は遅くまで訓練してたな?それに加えて秘書艦の事務……碌に横になってないだろう」


叢雲「まるで整体師ね……」



提督「あれ、言ってなかったか?これでも徴兵で軍学校入る前は整体師目指してたんだよ。お袋や親父にも仕込まれてたしな」


提督「自慢じゃないが一応資格も取ってある」


叢雲「いつの間に……」



提督「つーわけでそのソファにうつ伏せになるんだよあくしろよ、後靴も脱いでな」ワキワキ


叢雲「はぁ…………分かったわよ、付き合えばいいんでしょ」ゴロン


叢雲「でも、私はこれでも按摩には少しうるさいわよ」


叢雲「資格取ってるからって、腕がいいとは限らないわ。しっかり辛口で評価してあげる」フフン


提督「ほおーう、言ってくれるじゃあないか」


叢雲「それと変なところ触ったら承知しないから」


提督「尻も施術対象だからそこは勘弁な」


叢雲「まあいいわ、大目に見てあげる」


叢雲「精々励むことね」


提督「任せろ」






鈴谷「はぁ……戻ってきたのはいいけど、どんな顔して提督に会えばいいのさ……」


鈴谷「あ、あんな……いつもだったらしないような真面目な顔で……っ!」ホホソメ


鈴谷「あんなのずるいよ……提督が好きそうな服とか意識しちゃって……熊野にも不思議がられるし」



鈴谷「……とかなんとか言ってる間に」



―――――執務室



鈴谷「帰ってきちゃった」



鈴谷「…………うじうじしてても仕方ない、か。頑張れあたし」ノブツカミ


鈴谷「提督ただい」





『んぁああッ!』




鈴谷「」ピタッ


鈴谷「…………え、何今の声」ドアニミミアテ






叢雲「あっ!あはぁぁそこぉ!そこいい、気持ちいいよぉ!」ビクンビクン


提督「お前変に艶めかしい声出すなよ……誰かが聞いてたらどうすんだ」グリグリ


叢雲「ひぅんっ!ら、だぁってえ!こ、こんなしゅごひなんて、思わなっはあう!」ビクビク


提督「ほれほれここ(腰)か?ここ(腰)がええのんか?」グググッ


叢雲「ひあぁそこだめっ、ホントにだめぇぇ!良すぎるううぅぅっ!」トロガオ


提督「いやはや随分と凝ってるわぁ……ほらいい感じに鳴るじゃん」グッグッ



パキッ!ボキッ!



叢雲「ひんっ!ん、あぅっ!やぁぁ、いじめちゃいやぁぁ……!」ガクガク


提督「人に見せられないような顔しやがって……ほら、座り直してみな」オコシ


叢雲「ふえ……?」


提督「で、ほらばんざーい」


叢雲「んぇ、こう……?」


提督「で、肘を折って……互いの肘を掴んで……」


提督「そんで俺が腕を抱きかかえるようにして……」ギュ



叢雲「え、ちょ、司令官まさか」


提督「この一撃で肩凝りが治らなかった奴はいねぇぜっと」ステンバーイ


叢雲「待って、こんなのやったらおかしくなっちゃう!」


提督「大丈夫、骨が外れたりはしねぇから」ステンバーイ……


叢雲「違っ、そういう意味じゃ」



提督「えいやっ」グッ



バキバキバキッ!!



叢雲「あはぁぁぁぁあああッ!?」ビクビクッ!!






鈴谷「…………」キキミミ



鈴谷「…………ひどい」



鈴谷「ひどいよ提督…………っ」グスッ



鈴谷「……っ!」タッタッタ……





提督「ほい終了」ビューティフォー……



叢雲「はぁ……はぁ……す、すごかったぁ……」グッタリ


提督「どうだ、嘗めてかかると痛い目見ただろ」


叢雲「はひ……」


提督「で、どうだ?随分とほぐれただろ」


叢雲「……あ、ほ、本当!さっきまでと全然違う!」セノビ


提督「頑張るのもいいが、ストレッチぐらいしろよ。あちこちで血流滞って冷え性起こしてたんだぞ、ビックリするぐらい冷たかったわ」


叢雲「そう、ね……これからはもう少し余裕を持って行うわ」



叢雲「あの……あ、アンタが迷惑じゃ、なかったら……」モジ……


提督「ん?」


叢雲「…………また、お願いして、いい……?」


提督「ああ、ちょっとでもおかしいとおもったらすぐに来い」


叢雲「あ、ありがと……」テレ



漣「へいへいごすずーん」ガチャ


提督「今度は漣かよ」


漣「おうなんだいその来てほしくない奴が来たみたいな反応は、流石に鋼鉄のハートを持つ漣ちゃんでもちょいと堪えるぜ」


提督「俺は別にいいんだがこいつがな……」


叢雲「…………」カァァ


漣「……え、なんで顔赤くしてんのムラキョン」


叢雲「何でもない」



漣「……ハッ!?ま、まさかお二人ってばついに大人の階段を」


提督「妄想が捗っているところ悪いが違うぞ」


漣「えーなんだよツマンネ、じゃあ何してたんさ」


提督「ただのマッサージだよ。相当体にガタが来てたみたいでな」


提督「そしたら余程良かったらしくてな、随分と悩ましい声を聞かせてくれたよ」


叢雲「ちょっ」


漣「なんですとぉう!?え、それ録音してたりとかしてない!?」


提督「残念ながら俺にはその趣味はないんでね」


漣「ッかー!!ホンマつっかえ!セクハラにおいて録画録音は基本中の基本、いろはの『い』ですぞ!」


提督「青葉の言葉を真に受けてたら碌なことにならんからやめとけ」


漣「マジかよ射命丸最低だな!」


提督「誰だよ射命丸って……」



漣「…………あれ、そうなるとさっきのは……まさか」


提督「……どうした急に考え込んで」


漣「いやさ、さっきここに来る前すずやん先輩とすれ違ったんだけどもね」


漣「やたら早足で……気のせいかもだけど、なんか泣いてるっぽかったし」


漣「執務室方面から走ってきたからあるいは……とか思っちゃったりなんかして」



提督「……まさかさっきの気配は」


漣「えっ、ご主人様すずやん先輩に気付いてたん?」


提督「いや、途中扉の向こうで誰かの気配は感じたけどな……多分青葉辺りだろうと思ってたし」


叢雲「えっ!?じゃあさっきの聞かれてたの!?思いっきりッ!?」


提督「青葉よりはましと考えるか……いや、さっきの件もあるしある意味余計ややこしいか?」


漣「ちょ、ご主人それまずいんでないの?すずやん先輩あれでもめっちゃピュアなんよ?」


提督「ああ……さっきのあれから舌の根も乾かないうちにこれだと……マズイか?いや相当マズイぞこれ」


提督「それもこれも全部叢雲ってやつのせいなんだ」


漣「マジかよムラキョン最低だな!」


叢雲「あの声に関しては謝るけど納得いかないわよッ!!」



提督「ちょっと鈴谷の様子見てくるわ……すぐに戻る」


漣「おい台風の日に田んぼの様子見に行く爺さんみたいな露骨な死亡フラグを建てるのはやめなされ」


提督「いやそれでも行かないわけにもいかんだろう」ガチャ




漣「…………」ジュウジキリ


叢雲「……なんで十字なんか切ってんの?」


漣「せめてもの祈り」


叢雲「……私にも責任あるし祈ろう」ジュウジキリ


漣「ムラキョンキリシタンじゃなくて仏教よりじゃないすか」


叢雲「仏教は救いよりも解脱が本懐だもの……そういうアンタはどうなのよ」


漣「一応南米生まれだし、日本人だけど」


叢雲「そういや帰国子女だったわね」


漣「そこまで敬虔じゃないけど……こんな時くらい真面目に祈ったって罰は当たらないよ」


叢雲「たまにはミサぐらい行きなさいよ、鎮守府にだって海外艦のために教会設置されてるんだから」


漣「あそこの神父グラサンだし胡散臭い関西弁だしなんか硝煙の匂いするしであんまり関わりたくない」


叢雲「…………まあ、胡散臭いのは同意」


漣「せめてパイオツカイデーなパツキンのチャンネーが居れば話は別なんだけどにゃー」


叢雲「アンタの基準が分からないわ……」







提督(さて……威勢よく飛び出してきたは良いものの)


提督(正直当てといったら、あいつの私室か最上達ぐらいなんだよなあ)


提督「どうしたもんかねぇ……」ボリボリ



熊野「あら、提督……」


提督「おお、熊野じゃないか。探してたんだよ」


熊野「それは奇遇ですわね、わたくしも丁度提督に御用がありましてよ」



提督「…………怒ってるよなぁ」


熊野「当然ですわ。理由はどうあれ、鈴谷があんな風に泣くなんて滅多にありませんのよ」


提督「具体的には……?」


熊野「帰ってくるなリ布団を被って大泣きですわ。『提督のバカ』としきりに叫んで……慰めようにもどう声を掛けていいか……」


熊野「……提督、あなた鈴谷に何をなされたの?」


提督「それなんだが……」






提督「……というわけで」


熊野「……信じていいんですのね?」


提督「ああ」


熊野「……では、鈴谷に会いに行きましょう。ちゃんと鈴谷に説明なさってくださいな」


提督「勿論だ」






―――――――鈴谷・熊野私室



鈴谷「……っ、ぐすっ……、っぇう……提督のバカぁ……っ!」




コンコン



熊野『鈴谷…………熊野ですわ。入ってもよろしくて?』


鈴谷「……ぅん」



ガチャ



熊野「鈴谷…………」


鈴谷「くまの゛ぉ…………」グスッ


熊野「……聞きましたわ、提督から」


鈴谷「っ、あいつひどいんだよ!あたしにあんな風に言っといて、少し離れた隙にムラキョンと……!」


熊野「そのことで……提督が、お話があるそうですので、連れてきましたわ」 


鈴谷「え……」



提督「あいつ呼ばわりは流石に堪えるな……」


鈴谷「……!」



ブンッ!



提督「おっと!」バシッ


提督「……物を投げるんじゃあない」


鈴谷「うっさいバカッ!帰って、帰ってよ!」ブンッ!ブンッ!


提督「やめろって、危ないだろうが」ベシッベシッ


鈴谷「なんで!?なんであんなことッ!!」


提督「誤解してるようだが俺は一切叢雲と如何わしい行為はしていない」


鈴谷「じゃああの声はッ!?」


提督「言って信じてくれるかも怪しいが、ありゃ叢雲に按摩をしてやっただけだ。あの声は俺も想定外だよ」


鈴谷「信じられないッ!」ブンッ!


提督「まあそりゃそうだわなあ……」ベシッ



熊野「鈴谷、提督は嘘は言っていませんわ」


鈴谷「熊野もそっちの肩持つわけ!?」


熊野「わたくしは提督の人柄を鑑みてそう判断しましたの」


熊野「確かに少々スキンシップは多いですけれど、度を越したものは一度たりともありませんわ」


鈴谷「で、でも……」


熊野「それに艦娘の体調管理は提督の務め。マッサージぐらい、よろしいのではなくて?」


鈴谷「いや、まずマッサージであんな声が出るっていうのが」



熊野「では、鈴谷が体験なさったら?」


鈴谷「…………はい?」


熊野「鈴谷がそのマッサージを体験なさればよいのです」


鈴谷「いやいやいやなんでそうなるわけ!?」


熊野「見て、聞いて信じられないのであれば、実体験するしかないでしょう?」


鈴谷「いや、だから……」


熊野「わたくしも一緒に受けますから……ね?」



鈴谷「…………熊野って、変なとこで強引だよね」


熊野「強情な鈴谷に言われたくありませんわ」フフ


提督「俺の意見はなし……?」







提督「…………じゃあ、やるけど。本当にいいんだな?」


熊野「フルコースでお願いいたしますわ」


鈴谷「うぅぅ……」


鈴谷(よく考えると、マッサージって結構がっつり体触れるんだよね……)


鈴谷(提督に色んなところ触られるって考えたら滅茶苦茶恥ずかしい……)


鈴谷(……変なところにお肉、ついてないよね……?)



提督「……鈴谷はまだ覚悟が出来てなさそうだから、とりあえず熊野からな」


熊野「あら、よろしいのかしら?」


提督「俺から無理強いは出来んからな……ほれ、力抜け」スリ……


熊野「ん…………」



鈴谷(わ……熊野すごい、普通に提督に触らせてる)


鈴谷(提督も、顔は真剣そう……もっとデレデレするかと思った……)



提督「まずは体を手で擦って温め、血行やリンパの流れを良くする」


提督「こうすることで体内の老廃物を効率よく流す準備をするんだ」


熊野「ん~……なんだか体が温かく……」



提督「そんで体の凝っている場所を……」グ


熊野「んっ……」


提督「最初は手のひら全体で円を描くように、弱めに解していく」スリスリ


提督「いきなりピンポイントで指圧すると痛いからな」


鈴谷「ほぇ~……そうなんだ」


熊野「んん……お上手ですのね……」


提督「伊達に仕込まれておりませんよ、っと……」スリスリ


熊野「このまま眠ってしまいそう……」


鈴谷(本当に気持ちよさそう……なんか、してもらってもいい気がしてきた)



提督「で、ここから徐々に……掌底」グッ


熊野「んっ……!?」ピクッ


鈴谷(…………あれ?)



提督「親指の付け根……」グリッ


熊野「あ……っ、提、督……!?」ピクンッ


鈴谷(何か、熊野の様子が……)



提督「指圧」グリッ


熊野「んぅっ!?あ、お待ちになって……やっ」ビクッ


鈴谷「え、ちょ……熊野!?」



提督「時に指の関節でさらに深く……時に肘で広い範囲を強めに」グリッグリィッ


熊野「や、あんっ!だ、め……提督ぅ……!」ビクンッ


鈴谷「あの、ちょっと!?」



提督「んでもって……こう!」グッ!


パキッ!パキッ!


熊野「あひっ!?や、んふぁっ!待って、こんな声、はしたなっ、あはぁっ!」ビクッビクッ


鈴谷「む、ムラキョンの時と同じ……!?」



提督「いやーお客さん凝ってますねー」グリグリッ


熊野「やぁ、も、分かりましたからぁ……!もう、結構ですのぉぉうう!!」ガクガク


提督「そうはいかんよ、ちゃんと解さなきゃそのうち支障が出るの。やるなら徹底的にな」グリグリグリ


熊野「だめ、こんな声、聞かれたくないぃ……っ!やぁぁ、あんっ、あんんぅう!」ビクンッ


提督「まさか叢雲だけじゃないとはなぁ、俺もビックリ」グリグリッ


熊野「そう思う、んっ、なら!止めて、くだしゃ、ひぃぃ!」ガクッガクッ


提督「おいおいまだ全身の『三分の一』も済んでないのにギブアップか?」


熊野「だ、だって」


提督「んじゃ提督権限で命令な?『全部終わるまで耐えろ』」


熊野「そっ、そんなのずるい……」


提督「というわけで全身くまなく矯正してやるから覚悟しろよーほれ再開」グリグリグリッ


熊野「やぁぁぁああああんっ!!」ビクンッビクンッ







提督「施術完了」ヤリマシタ


熊野「ん…………ぅ…………」グッタリ



鈴谷(アレは……ヤバイ……)ヒヤアセ



熊野「提督の意地悪ぅ……」フルフル


提督「これもお前のためだ……つーか何?ああいう声上げるの叢雲だけじゃないの?」


熊野「む、叢雲さんの気持ちが、分かりましたわ……」




鈴谷(アレは受けたらマズい!提督の按摩、本物だ……何の本物かは分かんないけど、とにかくガチだ!)


鈴谷(アレを受けたら最後、鈴谷まであんな……!)


鈴谷(…………で、でも……ちょっと、受けてみたい気も……)



提督「よし、それじゃあ次は鈴谷な」クルッ


鈴谷「ぅえっ!?あ、あぁあの、そのッ」


提督「命令、『俺のマッサージを余すところなく受けろ』」


鈴谷「め、命令はずるいっ……!」


鈴谷(ベッドから、体を起こせない……!)



提督「基本、命にかかわらない限り提督である俺の命令は絶対……艦娘の根源たる、御霊の所為でな」


鈴谷「だからってこんなことに使わなくてもっ!」


提督「いーや、俺には見えるぞ、鈴谷の不調が。最近夜更かししてカップ麺食ってるなお前」


鈴谷「なっ……!?」ズボシ


提督「青葉からネタは上がってんだよ。そしてそんな不規則な生活すると……」


鈴谷「す、すると……?」



提督「体重計」ボソッ


鈴谷「ひっ!?」


提督「バルジ(意味深)」ボソッ


鈴谷「やっ、やめ」


提督「おデブちゃぁ~~~ん」ネットリ


鈴谷「いやああああぁぁぁ!?」ナミダメ



提督「じゃけんマッサージで余計な体脂肪も燃やしましょうね~」


鈴谷「え、そんなの出来るの!?」


提督「あくまで代謝の流れを改善するだけだから運動と規則正しい生活は必要やで」


鈴谷「ぅ…………」


提督「まあどちらにせよ?盗み聞きの挙句勘違いは良くないよなぁ?」


鈴谷「うぅ……っ!」


提督「お返しも兼ねてたっぷり丁寧にやってやるから、期待していいぞ」ニッコリ


鈴谷「ひいいいいぃぃぃぃぃ!?」ガクガク








漣「ご主人様おっそいにゃー…………」テクテク


叢雲「悪いことになってなければいいけど」カツッカツッ


漣「元を正しゃムラムラがマッサージなんぞで発情するからでしょうが。エッチなのはいけないと思います」


叢雲「発情なんかしてないわよッ!た、ただ……」


漣「ただ……何さ」



叢雲「司令官の按摩、本当にヤバいのよ……多分漣も受けたら分かるわ」


叢雲「アレに抗える人間なんて居やしないわ……まさしく神の手よ。天武の才」


叢雲「声なんて抑えられなかった……アレを受けたら最後、皆司令官に逆らえなくなる」



漣「ウッソだー!いくら何でもそりゃ設定盛り過ぎだって!」


叢雲「本当だってば」


漣「それが本当だとしても随分と俗物な神の手もあったもんですなあ?まあ漣は騙されませんぞ、その手の話はスパムメールで飽きるほど見たし」


叢雲「あれだけアングラサイト回ってれば大量に送られても来るわよ……」



漣「まあ実際ご主人様の帰りも遅い訳ですし?気になるからこうして二人で様子見に入ってるわけでござーますけんども」


叢雲「当てがあるとしたら鈴谷さんの部屋ぐらいだものねえ……」


漣「個人的には修羅場期待」


叢雲「アンタ本当そのうち痛い目見るわよ……」


漣「まーまー、ほら見えてきましたよ、すずやんくまのん先輩の部屋…………ん?」



<アンッ!ダメェ!

<マダマダオワランヨ



叢雲「…………心配は無用だったみたいね」


漣「え、え、ちょ!?うせやろあの声すずやん先輩!?」キキミミ





鈴谷「提督すごいよぉぉ……!鈴谷頭真っ白になるぅぅ……!」ビクッビクッ


提督「おーそのまま何にも考えず力抜いとけ」グリグリグリ


鈴谷「ひぃんっ!んぅぅううっ!そこぉ、きもひぃのぉぉ!」ガクガクガクッ


提督「はっはっは、もう俺の事疑わないって誓う?誓わないとやめちゃうよ?」


鈴谷「誓うぅ!誓いましゅぅ!だからやめないでぇぇ!」


提督「いい子だ、そんな子にはご褒美を上げちゃおうオラオラオラ」グリグリグリグリグリグリ


鈴谷「ふああぁぁぁあああんっ!」ビクンッ






叢雲「……ね?言ったとおりでしょ?」


漣「マジかよ、あのすずやん先輩が聞いたことない声出してる……しかもあっちでへばってるのってくまのん先輩?もうマッサージ受けた後ってこと?」


叢雲「…………漣も受けたら?」


漣「…………ちょっと受けてみたいかも」ドキドキ







その後、艦娘達の間で提督のマッサージは評判を呼び、夜な夜な提督の私室から嬌声が聞こえてくるという。


中でも一部の艦娘は熱狂的なファンとなり、それほど間隔を空けず度々訪れるのだとか。


ちなみに提督のプライベート時間は相対的に減り、嬉しい悲鳴を上げているという。



提督「今度から定休日と営業時間設けるか……」




おわり



______________


鈴谷


呉第三鎮守府所属の艦娘。今時JK。


上司である提督にもラフに接するマイペースな艦娘。提督に恋する純情さん。


プロポーションには自信がある。最近バストサイズが上がった。



熊野


呉第三鎮守府所属の艦娘。おしゃれ大好きお嬢様。


丁寧な言葉で接する令嬢風の艦娘。少なからず提督を慕っている。好きなことは鈴谷と行くショッピングと食べること。


何を食べてもおいしいというのでエセお嬢様疑惑が上がっている。


______________




初期艦と思い出話!





―――――――――1000、執務室





提督「……承認っと」サラサラ



漣「ねえブッキー、今月の出撃記録ってどのファイルにまとめてたっけ?」


吹雪「そこの棚だよ、上から三段目の一番右」


漣「お、これやねーっと……」



叢雲「司令官、これ。大淀さんが早めに目を通してほしいって」


提督「ん、どれどれっと…………はぁ、また大本営の爺さん方の無茶ぶりかよ」


叢雲「なんて?」


提督「せっかくの精鋭なんだからもっと出撃させて戦果を稼げとよ。普段の兵站のほうがよっぽど大事だっつーのに、お偉い方はそこら辺から資源が湧いて出てくるとお考えらしい」


叢雲「呆れた。それもう向こうも分かってて言ってるでしょ、無視でいいわよ無視で」


提督「それでもお偉いさんだからきちんとお返事書かなくちゃダメなんだなぁ……くそ、目の前でこの書類破り捨ててやりてえ」



電「五月雨ちゃん、複数の艦娘から川内さんを黙らせろと意見書が」


五月雨「あとで提督にお説教してもらおうか……」


電「じゃあまとめてホチキスで止めておくのです!」





提督「ふぅ…………少し一息入れようか」


吹雪「はい、飲み物を淹れてきますね。コーヒーと紅茶どちらがいいですか?」


提督「ブラックコーヒーで頼む」


吹雪「分かりました」



漣「あーやっぱ事務仕事は性に合わねえわー」グデー


叢雲「こら漣、机に足を掛けない」


漣「もー形式ばった書類じーっと眺めてたらこっちの目まで凝り固まりそうだよ」グリグリ


提督「だったらそれを毎日何時間と眺めてる俺の眼は鉄球に等しいな」


漣「目の保養になるものとかなんかないのご主人様ー?目をほぐすコツとかさー」


提督「目薬差すか蒸しタオルで目を温めればいいんじゃないか?」


漣「にゃるほどにゃー」


提督「まあ俺は既に目の保養になってるがな」


漣「え、何が」



提督「お前机に足掛けるのはまだしも足を開くなよ。思いっきり丸見えだぞ」


漣「きゃー伸びたサンドイッチー」


提督「お前恥ずかしがれよ少しは」


漣「別にご主人様だったらいくらでも見ていいよん?なんなら明日からもっとせくちーなの穿いてこようか?」


提督「自分から見せつけるパンツには俺の歯に挟まった朝食のクラッカーほどの価値もないわ」


漣「流石に酷くない!?」



提督「はぁ…………昔のお前が懐かしいよ。あんだけ人見知り激しかったお前がどうしてこんな……」


漣「ちょ、このイケイケモダンガール漣様の黒歴史を掘り返すでねぇ!」


提督「今のお前の言葉遣いの方がよっぽど10年後黒歴史なんだよなあ」



五月雨「あー懐かしいなあ、漣ちゃんちょっと前までの潮ちゃんよりよっぽど引っ込み思案だったもんね」


叢雲「ウジウジオドオドしてて、見ててイライラしたわ。まあ今よりもまだ可愛げがあった方だけど」


漣「ムラキョンはともかくさみーまで漣を虐めるのかえ!?アーシの心の装甲ぺらっぺらの紙装甲やぞ!?吹けば飛ぶような貧弱さやで!?」


提督「どこがだよ」


叢雲「面の皮厚いんだから平気でしょ」


漣「誰がケバケバ厚化粧じゃい!身も心もすっぴんピュアピュアの漣ちゃんをここまでコケにするとは許すまじッ!」


提督「いやホントどこがだよ」



漣「そーゆームラキョンだってさー!昔は今よりよっぽどつっけんどんで孤立しとったでしょうが―!」


叢雲「ばっ、その話を蒸し返すの!?」


漣「当たり前田のクラッカーだっつの!こうなったら貴様も道連れにしてくれるわ!」



提督「そういや今よりめっちゃそっけなかったよな、初めの頃は」


吹雪「司令官にも皆にもきつかったですよねー……気位の高さはピカイチだったなぁ」


電「あの時の叢雲ちゃん怖かったのです……」


五月雨「まさしく高嶺の花、でしたもんね」



叢雲「うぅ……し、仕方ないじゃない!私の上司がこんなちゃらんぽらんだとは思わなかったし!」


提督「ちゃらんぽらんってお前」


叢雲「それに鎮守府の雰囲気だってすっごく緩かったし!あんなの軍事施設としてあり得ないわ!」


提督「まーそれに関しては言い返せない部分があるがな……」



漣「それにしたってことあるごとに上司を蹴り飛ばすってのは人としてどうなんすかムラキョン」


提督「お前も大本営の人間に会わせられないような喋り方してるから人の事言えんぞ」


漣「漣に限った話じゃないんですがそれは」


提督「いざとなったら提督命令で敬語使わせるし」


漣「それほんっとずるいわー、あの声色で喋られると逆らえなくなるんですもん」


五月雨「本能が語り掛けてくるんですよね、『逆らうな』って」


吹雪「なんというか、耳というより脳に直接ぶつけられてるみたいな感じで」


漣「そーそー、一瞬頭が真っ白になって……あとはもう命令あるまで動けないあの感じ」


電「ちょっと怖いくらいなのです」


提督「つくづく御霊っていうのは筆舌に尽くしがたいな」



漣「んで話を戻すけど、それが今のムラキョンはどうだい、すっかり刃が取れて牙も取れて」


吹雪「改二になるちょっと前から段々優しくなってきたんだよね」


提督「俺の晩酌に付き合うって言い出した時は思わず猪口を取り落としたぞ」


叢雲「あの、そろそろやめない?本当に恥ずかしくなってきたんだけど」



五月雨「あと衝撃的だったのはバレンタインデー!」


漣「あーそうそう!顔真っ赤にしてチョコ渡してたんよなー、ありゃ天変地異の前触れかと」


叢雲「人をナマズみたいに言うな」


提督「だが素直に嬉しかったぞ。わざわざ用意してくれるとは」


叢雲「だッ、だからあれは落ちてたのを拾っただけでッ!」


吹雪「叢雲ちゃん、もう皆分かってるから……往生際悪いよ」


叢雲「うぅぅ~~~~……ッ」



叢雲「そ、そういう吹雪だって!昔のアンタなんか見てられなかったわよッ!」


吹雪「えっ、私にも飛び火するの!?」


叢雲「もうこうなったら死なばもろともよ!漣の二番煎じで癪だけど道連れにしてやるわッ!」


漣「お、ムラキョン乗ってきたねーこのビッグウェーブに!」


叢雲「何がビッグウェーブよ、こんなの誰も幸せにならない不毛な大津波よ震源地!」


漣「フハハハハッ争え!もっと争え!!」


提督「なんか妙な展開になってきたなぁ……」



電「でも叢雲ちゃんの言う通り、最初の頃の吹雪ちゃん、色々と危なかったのです」


五月雨「良くも悪くも大真面目だからね……」


提督「自分に出来る範囲なら、どんなに辛くても引き受けて……」


叢雲「優しいもんね……自分のことは全部二の次で」


漣「そのうち絶対倒れるって思ってたよ……漣も助けてもらったから、強くは言えなかったけどさ」



提督「で、ある日とうとう高熱出してぶっ倒れて……ありゃ珍しく雪が降った日だったな」


漣「瀬戸内って基本あったかいからね……しかもその前の日が小春日和で」


五月雨「あんまりのギャップにこっちも風邪ひきそうだったよぉ」



叢雲「確か、その日は司令官についてた秘書艦が……吹雪と、赤城さんだったわね」


提督「他は皆遠征やら出撃やらでいなかったっけな」



提督「あの日は大変だったんだぞー、朝から吹雪が妙にふらふらしてると思ったら、執務中にいきなり崩れ落ちたんだもんよ」


提督「とりあえず俺は毛布やら濡れタオルやら準備して、粥とか玉子酒とか作って……」


漣「軍人のくせに自炊スキル高いもんな」


提督「元々軍に入る前から料理は好きだったからな」



提督「だがそれ以上に赤城が頑張ってた」


漣「赤城さんって暇さえあればおやつ食べてるのほほんとしたイメージしかないんだけど」


叢雲「アンタそれ本人の前で言うんじゃないわよ、加賀さんが怒るから」


漣「あの人は能面の裏に般若隠してるから怖い」



提督「まあマイペースなのは事実だがな……その赤城が、自分から吹雪の身の回りの世話を買って出たんだ」


提督「料理はあまり自信がないからって、鳳翔さんや俺に任せてたが……それ以外は一生懸命やってくれたぞ、加賀が交代で看病しようって言ってもなかなか聞かないぐらい」


吹雪「申し訳ない気持ちでいっぱいだったなぁ……」


提督「結局俺が痺れを切らして、命令してローテーションにしたよ。あれでまた病人が増えちゃ敵わんからな」


五月雨「アレには本当に逆らえないですからね……命に関わること以外は、らしいですけど」


電「司令官さんはそんな命令しないですから……そんなことしなくてもいいぐらい、凄い人なのです」


叢雲「確かにここまで轟沈した子はこの鎮守府にいないわね。そのおかげで皆アンタを信頼してるんだもの」


漣「なんかその気になったら命令しなくてもハーレム作れそう」


提督「やめろ、その話を青葉が聞きつけたら嬉々として修羅場を作り出すから」



吹雪「でも、治った途端皆に叱られたなぁ。もっとみんなを頼れって」


提督「当たり前だわ、背負い込み過ぎて荷に潰されてちゃ話にならん」


五月雨「あの時の睦月ちゃん、泣きながら怒ってたもんね」


電「夕立ちゃんも、みんなおこだったのです……」


叢雲「病み上がりじゃなかったらビンタ食らわせてたわ」


漣「今だったら?」


叢雲「……何も言わずに抱きしめてるわね」


漣「ホントあの頃の尖り過ぎて穿ちそうなナイフだった叢雲様はどこ行ってしもうたん?」


叢雲「アンタこそ昔の根暗っぷりはどこに置いてきたのよ」


漣「過去は振り返らないタイプなんで」


叢雲「省みろたまには」



提督「……ま、あれ以来人に頼ることを覚えてくれたから、いい薬になったんじゃないか」


吹雪「はい……一人で出来ることなんて、たかが知れてますね……艦だったころは想像もつかなかったなぁ」


提督「人ってのは一人じゃ生きていけない……徒党を組んで、真価を発揮する生き物さ……善くも、悪くも、な」



吹雪「……でも、電ちゃんは一人でいたがってたよね、あの頃」


電「はわっ!?ここで電に振るのですか!?」



提督「出会った直後の電は今よりずっと臆病で……いや、アレは臆病というか……」


五月雨「……出会う存在全てに対して、恐怖していた」


提督「ああ、そんな感じだな。誰に対しても心を開かなくて……一人で狭い部屋に閉じこもって」


電「…………」



電「……怖かったのです。元はただの鉄の塊だったのに、気が付いたら……今度は人に、なっていて」


電「それなのに、大人の男の人よりもずっと力があって……加減を間違えれば、けがをさせてしまう」


電「電は、それが怖かった……出来るなら、この手で助けられる人を助けたい……でも、もし加減を間違えて、その手を握りつぶしてしまったら……」


電「深海の人たちもそう……本当は戦いたくなんかない、平和が……何でもない、平和な時間が……何よりも好きなのです」


提督「電……」



電「今でも思います。我が儘なのはわかってますし、向こうが撃ってくるなら割り切れます……でも、選んで殺すことが、そんなに上等なのかなって」


電「人も、電たち艦娘も、深海の人たちも……等しく、命なのです。その命を、互いの都合で消し去り合うのが、苦しくて」


電「……あの頃は、もっとひどかったのです。会う人みんなが怖くて、差し伸べられる手が怖くて」


電「もし間違えてけがをさせたら……そう思うと、電に向けられた手が、すごく脆い飴細工みたいに見えて」


電「……このまま、電に興味を失くしてほしいって……あの頃は、ずっと思ってました」



叢雲「それをこのバカは何を思ったか、初対面で無理やり手を取って抱きしめたのよね」


五月雨「私も話にしか聞いてないけど、随分強引だなーって思ったよ」


提督「いやー気づいたらついカッとなってな」



提督「電のあの姿を見てるとな……気づけば体が勝手に動いてた」


提督「そしたら叫んでたよ」



電「『やれるものならやってみろ、壊せるものなら壊してみろ』」


提督「『それでも俺はお前を抱き続ける、守って見せる』」


電「『俺はこれから何十人もの艦を率いる男だぞ』」


提督「『駆逐艦一人救ってやれなくて提督が務まるか』」



電・提督「『だから俺と来い。壊すんじゃない、守るために、俺の手を取ってついて来い』」



漣「くっさ!この空間青臭っ!」


吹雪「情熱的ですねー」


提督「思い出すと結構恥ずかしいこと口走ったな俺……」


電「でも、でも!電は、司令官さんのあの言葉で、自分のやりたかったことが見えたのです!」


五月雨「提督って自然にそういう事言えるんですよねー」


提督「やめろやめろ、漣の言う通り、まだ青臭いガキだったってだけだ」


提督「冷静に考えりゃ運用能力なんてからっきしの無能で、何十人運用するどころじゃなかったかもしれんのに、あんな大見得切っちまってよぉ……大ぼら吹きもいいとこだぜ」アタマカカエ


提督「つーかなんで俺にまで火種が飛んでくるんだよこの話……」


漣「全部自分が蒔いた種やし残当」




提督「その点五月雨は……あんまり、変わらないような……」


五月雨「えぇ!?」



叢雲「いろんな意味で自分のペースを乱されないわよね」


漣「漣もさみーと会話してるといつの間にかあの子のペースに引っ張り込まれててビックリするべ」


吹雪「ドジっ子も相変わらずだよねぇ」


電「なのです」



五月雨「そっ、そんなことないよぅ!私だって色々と変わってきてるよ!」


提督「例えば?」


五月雨「えっと、えと……昔はお茶を運んでたら、3回に1回は転んでたのが、最近は30回に1回あるかないかに減りました!」


提督「普通はそれでも高頻度なんだがな」


五月雨「あとあと、重要な書類にインクをこぼしちゃうこともほぼなくなりましたし!」


叢雲「いやもうそれでもこぼしてるじゃない、羽ペン止めてボールペンにしなさいよ」


五月雨「スカートを下着に挟んだまま気付かずに出歩くこともよっぽどのことがない限りありません!」


漣「アレわざと見せつけてるのかってぐらいのドジだったけど違ったん?」


五月雨「武装の予備弾薬を忘れたまま出撃なんて、まずありえませんし!?」


電「それ本当に致命的だから早く治してほしいのです」


五月雨「物忘れもペンとメモ帳を持てば解決です!」


吹雪「昨日メモ帳を忘れたよね……?」





五月雨「…………」


五月雨「」グスッ




提督「おーよしよし、辛いよな、わざとじゃないもんな」ナデナデ


五月雨「違うもん……ホントだもん、ドジ減ったもん……!」エグエグ


提督「そうだよな、ちゃんと改善できるもんな。だから早めになくなるよう頑張ろうな」ナデナデ


五月雨「いいもんいいもん……!皆がそう言うならっ、五月雨、もうなにもしないもん……!!」ズビッ


漣「ほらムラキョン、言い過ぎだって」コヅキ


叢雲「あ、アンタだって……!」


電「一回拗ねちゃうとご機嫌取りが大変なのです……」


吹雪「ダメな子ほどかわいい、とは言うけどね……」ニガワライ



漣「…………駄目な子、か」





ザザ……



『お姉ちゃん、どうしてパパもママもいなくなっちゃったの?』


『お腹空いたよ……』


『寒い……』


『お姉ちゃん……』



ザザザ……





漣「…………」ウツムキ


吹雪「……漣ちゃん?」


漣「ん……どったのブッキー」


吹雪「どうしたも……急にうつむいて黙っちゃうから」


漣「あー……ううん、なんでもない」



漣「ちょっと、昔を思い出しただけだから」ギュ……




提督「…………」




五月雨「っ、ひぐ……どうせ私、駄目な子だもんっ!何もしないでじっとしてるもんっ!」


提督「もう泣くなって……ちょっと女子ー!五月雨ちゃん泣いちゃったでしょ謝んなさいよー!」


漣「ご主人様だって原因の一端でしょうが自分の事棚の上の牡丹餅にしてんじゃねえ!」プンスカ


叢雲「それなんか色々混ざってるわよ……」


漣「アレーソダッタアルカーニポンゴムズカシネー」アイヤー


電「南米生まれのくせに似非中国人の真似をしてどうするのですか……」


吹雪「そもそも日本語しか喋れないじゃん……」


漣「だーって日本人街に住んでたから大体日本語で事足りたしー?向こうの言葉なんて挨拶と道尋ねるテンプレとちょっと挑発する言葉知ってれば大体何とかなったしー?」


叢雲「挑発する必要性はないんじゃないの……?」


提督「つか俺の発言無視ですかー!?」


五月雨「み、皆五月雨のこと、なんかっ、どうで、も……いい、んだもんっ!もうっ、それでい、いもん……っ!」


提督「つーかもう五月雨もいじけっぱなしでいないで!そろそろ俺も慰めの言葉のボキャブラリー少なくなってきたから!」





漣「……私らしく、ないか」ヘヘ




漣「ご主人様さみー泣かしたー!大本営に言ってやろー!具体的に言うとご主人様が新人時代にお世話になった宇喜多中将にチクったろー!」


提督「お師様にある事ない事吹き込もうとするのはやめろォ!」


叢雲「アンタあの人には頭上がんないもんね」


吹雪「何といっても艦娘推進派の第一人者だもん、私たちの大恩人だし」


電「時々お土産を持って遊びに来てくれるのです!白ばらのモンブラン美味しいのです!」


漣「つまり中将にチクればお詫びと称してお高い菓子折り持ってすっ飛んできてくれる……これだ!」


提督「これだ!じゃねえこの下衆ピンクッ!!」


漣「あ、もしもし中将殿?あのですね、うちの提督が五月雨ちゃん泣かせましてー、はいー」


提督「手ぇ早くねぇ!?」


漣「あ、ご主人様。中将が替われって。はい」デンワカシ



『輝幸君、今度うちの子何人か連れてそっち行くからお茶の用意お願いね?』


提督「ア、アイエエエエエエエエエ……!!」



漣「提督は犠牲になったのだ……漣たちの臨時収入という名のデザート、その犠牲にな」


提督「お師様帰ったら覚えてろ貴様アアアァァァァ!!」





その後、中将にこってり絞られた提督はしばらく漣と口を利かなかったという……。





五月雨「私の事、忘れてませんかぁ……?」グスッ







おわる





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宇喜多


小早川提督が士官時代世話になった上司。階級は中将。


対深海棲艦兵器として艦娘を積極的に投入する「推進派」の筆頭。彼の思想は小早川提督の根底に根付いている。

佐世保を受け持つ指揮官であり、自身の艦娘達を実の娘のように可愛がっているが、少々親バカが過ぎる面も?


壮年を半ば過ぎているが独身。彼の艦隊の加賀といい感じらしいが……。



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こぼれ話3:ある日の金剛型4姉妹





―――――――――1510、金剛私室






金剛「…………はぁ」




ワタシは英国生まれの高速戦艦、戦艦金剛。


この精鋭ぞろいと言われる呉第三鎮守府に配属され、早数年。当時に比べてたくさんのCuteな艦娘達も増え、ワタシは古参、古株と言われる地位になっていマス。



But……なのに、ワタシは日に日に悩みが増すばかり。


それと言うのも……。




金剛「テートクぅ……どうしてワタシのLOVEに応えてくれないのデスか……?」グテッ




ワタシ、色んな人から「凛々しくて素敵な金剛お姉さん」って言われてるのをよく聞きマス。


でも、ワタシだって一人のGirl……恋する乙女デス。


と言うのもワタシ、恥ずかしながらここのテートク……呉第三鎮守府の小早川提督に、所謂一目惚れをしてしまった性質でして。


初めて出会った時の、あの背中に電流が走ったような感覚。月日が経った今でも、色褪せることなく心に刻まれていマス。



それからというもの、とにかくテートクに振り向いて欲しくて、様々なApproachを試してきました。



例えば……






金剛「ヘーイテートクゥー!」ドアバァン


提督「金剛、ドアは静かに開けなさい」


金剛「Oh……sorry、テートクに会えると思うと嬉しくてつい……」ドアシメ


提督「全く……で、今日はどうした」



金剛「テートク!今日暇ですカー!?」


提督「ん……まあこのペースなら執務は午前中に終わるが……」


金剛「じゃ、じゃあ!今日は外へLunchに行きまショウ!ワタシ、おいしいItalianのお店見つけマシタ!」


提督「ほう、金剛の舌がそう言うってことは期待していいな」


金剛「YES!」


提督「んじゃちょっと待っててくれ、とっとと終わらす」





そうやって上手い事誘って……色々Appealしてみたのデス。



腕に抱きついてBustを押し付けたり、BodyTouchしてみたり……。




結果?ものの見事に不発ですヨー。あんにゃろうこっちが女の武器炸裂させても表情筋一つピクリともさせまセン。


そりゃ、凄く大きいって訳ではないですヨ?Iowaとかは規格外ですし、潮ちゃんや浦風にも、大きさ自体では負けるかもしれまセン。


でも、形の美しさでは負けないと思っていマス!というか艦隊でもトップを争えるぐらいにはStyleいいって皆から言われますヨー!


しかも普段からその体を、「時間と場所をわきまえれば」触ってOKって言ってあるんですヨ?女の子にそう言われて興味の出ない男の人っていないと思いマス!




……そう、思っていたはずなのデスが……。





金剛「Hey、テートク……もうMidnightですヨ……?」


提督「ん、もう日付変わっちまったか……悪いな金剛、秘書艦とはいえこんな時間まで」


金剛「それはNoproblemデス!秘書艦だからネ!」


提督「まったくお偉い方の爺様達には困ったもんだよ……少しランチに付き合えって言うから同伴したのにいつの間にか居酒屋梯子してんだもんよ……」


金剛「所謂飲みニケーションってやつデスね」


提督「まだ艦娘達推進派の人間オンリーだからよかったものの、反対派までいたらストレスで胃に穴が開くわ絶対」


金剛「皮肉と嫌味のRushですからネー……前にワタシもお会いしましたけど、心の底からHateしてる目でしたヨー」


提督「本ッ当にどうしようもないな……艦娘達がいなけりゃここまで盛り返せなかったろうに」



金剛「って、それはいいんですヨ!ワタシが言いたいのは、もうMidnightになりました、ってことデス!」


提督「え、ああ……深夜になんかあったか?」


金剛「モー!テートクってばニブチンなんですカラー!」


提督「ニブチンってお前……」



金剛「……深夜だから、誰も来ないヨ……?」


提督「…………」


金剛「あとは、テートクのPrivateroomに行けば、場所もOK……」


提督「金剛……」



金剛「…………いっぱい、触っていいんですよ?この、金剛の体……全部」





提督「よしお前疲れてるな、寝ろ」


金剛「What!?突然何を言い出すんですかテートク!?」


提督「お前のそれは所謂深夜テンションっていうやつだ。明日にも響くだろ、今日はとっとと自分の部屋帰って寝ろ」


金剛「Why!?Whyテートク!!どうしてワタシのBodyに靡かないのデスかー!!」


提督「部下に欲情して襲い掛かるほど男腐っちゃいねーよ、ハイハイごーほーむ」セナカオシ


金剛「NOOOOOO!!信じられまセーン!!そんなの漢じゃないヨテートクウウウ!!WhyJapanesePeople!?」


提督「お前も日本人だろうが、あとやかましい他の子が起きる」


金剛「テートクのバカアアアア!!」








金剛「あ゛ー思い出したらなんか腹立ってきたネ」



あれだけ露骨に誘っても全く効果なし……正直帰ってから思いっきりベッドの上で暴れまシタ……。


そりゃ、上司と部下の関係なのに恋人っていうのは色々と風聞が良くないのは分かりマス……テートクもそういうところは元々Stoicだったし。


でもそういうところがますますワタシの心をHeatさせるのデス……テートクは本当に罪作りネ……。



金剛「…………はぁ」



なので今日も今日とて窓際に座って、ため息を窓の外へ吐き出す日々デース……いい加減幸せがEscapeしそうネ……。




コンコン……ガチャ



比叡「お姉様ー、お茶にしましょー!」


榛名「お邪魔します、金剛姉様」


霧島「失礼します」


金剛「ああ、比叡……榛名に霧島も、Welcome」



比叡「あれ、お姉様……元気ありませんね……」


金剛「あー、うん……ちょっとネ」


霧島「風邪でもひかれたのですか?」


榛名「そうだとしたら大変です!」


金剛「ううん、別にそんなんじゃないヨー、体は元気ネ」



比叡「じゃあ、一体……」


霧島「…………良ければ相談に乗りますよ?」


金剛「……そう、ネ。ちょっと愚痴聞いてくれると嬉しいカナ」


榛名「榛名、紅茶淹れてきますね!」


霧島「私は伊良湖さんから洋菓子を頂いてきます」


比叡「お姉様はそのまま座っていてください」


金剛「Thanks、皆……お言葉に甘えマス」



比叡「じゃあこの比叡も、お姉様の代わりにスコーンを」


金剛「やっぱり比叡は食器の用意をしててッ!スコーンはワタシが焼いてくるからッ!」ガタッ


比叡「ひええええ!?」











金剛「ふぅ……榛名。紅茶の淹れ方、大分上達してきましたネー」


榛名「本当ですか!?そう言ってもらえて、榛名感激です!!」


霧島「うん、金剛姉様と遜色なくなってきたわね……」


比叡「紅茶の淹れ方は自信あったんだけどなー……負けたかも」


金剛「ワタシももっと精進しないとネー……」フゥ



霧島「…………金剛姉様、そろそろ……伺ってよろしいでしょうか」


金剛「…………ん」カチャ



比叡「本当に今日はため息が多いですねぇ……どうなさったんですか」


榛名「やっぱり体調が……」


金剛「ンー……まぁ、病って言えば病だケド……ね」


霧島「…………あぁ」ピーン



霧島「司令のこと……ですか]


金剛「アハハ……流石に分かっちゃうよネ」


比叡「えっ、司令になにかされたのですか!?」



金剛「違う違う、そんなんじゃなくて……ぶっちゃけ、恋の悩みヨー……」


金剛「ワタシがいくらApproachしても、テートク、全然反応してくれなくて……」


金剛「ワタシに、魅力がないせいなのカナ、って……悩んでたんデス……」





比叡「……司令に、金剛お姉様が……」


榛名「あぁ、なるほど……」


霧島「…………」





金剛「……アレ?どうしたの皆、ていうか何この空気……」


霧島「……姉様、その……悩みを打ち明けてくれたところ、非常に申し上げにくいのですが……」


榛名「その、なんというか……えっと」


比叡「うぅ…………」


金剛「エッ、何?本当にどうしたの?ワタシ何か悪い事言いまシタ!?」





霧島「ここにいる全員……司令のことを慕っているのです……金剛姉様のように」


金剛「」




金剛「えっ、本当に?Realy?」


榛名「はい……」


金剛「霧島も?」


霧島「恥ずかしながら」


金剛「比叡まで!?」


比叡「お姉様ごめんなさい……」



榛名「というか……金剛お姉様が提督に恋してるのは、ここにいる全員が知ってます」


金剛「……え、じゃあ知らなかったのワタシだけ?」


霧島「そう、なりますね……」



金剛「Wait……Wait、Wait、Wait!どういうことデース!?」


比叡「お、お姉様落ち着いて!」


金剛「ShutUp、比叡!そもそもワタシの混乱の大半はアナタのせいヨー!」


比叡「えぇ!?」



金剛「確かに榛名は薄々そんな気はしてまシタ、それは気にしまセン!」


金剛「霧島もちょっと意外でしたけどおかしくはありまセン、別に不自然ではないデス!」



金剛「ですが比叡!アナタいくらなんでもDarkHorseすぎデショー!?」ビシッ


比叡「ひえええ!?どうしてですかお姉様!比叡が司令を好きになったらおかしいのですか!?」


金剛「ダッテ比叡ってどっちかと言えばLoveじゃなくてLike方面で懐いてる感じじゃないデスカー!!Dogが飼い主に懐いてるみたいな感じのアレみたいナー!」


比叡「いくらなんでもそれはあんまりですよお姉様ッ!?」


霧島「気持ちは分からなくもないですが……」ニガワライ


比叡「霧島は黙ってて!」



比叡「大体比叡のどこら辺が犬っぽいと仰るのですか!?比叡納得いきません!」


金剛「なんか雰囲気がチワワっぽい!」


比叡「チワワっぽい!?」ガビーン



金剛「あーもう……無駄に勇気出して告白したのがバカみたいじゃないですカー……もったいぶらずにサラッと言えばよかったデース……」ガックシ


霧島「その代償が比叡姉様のメンタルですか……割に合いませんね」


榛名「あはは……」



金剛「……By the way、皆もうテートクにAttackしまシタ?」


霧島「えぇ……何度か」


榛名「はい」


比叡「迫りましたよー」


金剛「……結果は」


比叡「聞かないでください」


霧島「皆まで言わないで」


榛名「その質問は大丈夫じゃないです」



金剛「嘘デショー……あの堅物こんだけ綺麗どころから迫られておいて全くブレないんですカー?鋼Mentalにも程がありますヨー……」


霧島「バレンタインとか……頑張ったんですけどねぇ」


榛名「榛名の努力が足りないのでしょうか……」


比叡「気合い!入れて!……やったんですけど……全部不発でした……」



金剛「ちなみに方法を聞いても」


霧島「私はさっきも言ったように、バレンタインにチョコを……告白のメッセージカードを添えて」


金剛「それで……」


霧島「きっちりお返しはもらえたんですけど……それ以上のことは、なにも。「気持ちは非常に嬉しいが、返事は待ってくれ」とは頂けたのですが……未だ返事はもらえていません」ニガワライ


金剛「散々待たせるなんてテートクは本当にひどい人デース」



金剛「じゃあ、榛名は?」


榛名「ひ、秘書艦の時に……眠気を騙って、提督を……い、一緒のお布団に誘ってみました!あ、あわよくば、その……ゴニョゴニョを、狙って……!」


金剛「Oh my godness!?榛名ってば意外にAggressive!そ、それでどうなりまシタ!?」



榛名「……そのままお姉様たちとのティータイムまで、一緒にお昼寝しました……ただの添い寝になっちゃっても、大丈夫です……はい」ドンヨリ


金剛「おお、モウ……」




金剛「……じゃあ、大体想像つきますケド比叡」


比叡「比叡必殺の特製比叡カレーを司令に気合い!入れて!御馳走しました!」


金剛「……テートクはどうなりまシタ?」


比叡「……熱を出して倒れちゃいました……比叡、またやらかしました……」


金剛「ちなみに何を入れまシタ?」


比叡「……にんにく、スッポンとマムシのエキスに、生卵、トカゲの黒焼きの粉末に、あとバイアグラを少々」



金剛「ザッケンナコラー!!どう考えてもそれ精力つけさせすぎが原因ですヨこのバカ比叡ッ!!」


比叡「うぅぅ……司令に、スタミナ付けてもらおうと……」


金剛「それ比叡が既成事実狙って自爆しただけでショーが!インガオホーだよIdiot!!」


比叡「ひええええええええ!!」



金剛「皆色々Approachしてるんですネー……比叡は問題外として」


比叡「ひええぇぇぇん……」グスッ


霧島「それがことごとく撃沈……ここまで来るといっそ清々しくて笑えます」


榛名「榛名は自分の奥手ぶりに笑えません……」



金剛「……But、厳密に考えると……ワタシ達、Approachに対して、明確にNOって示されてないデスね」


霧島「姉様の場合も、あくまで上司と部下としての話で、姉様と司令個人の話は全くしていませんね」


榛名「立場的にはダメだけど、男としては嬉しい……そう、捉えていいんでしょうか」


金剛「そう信じたいネ……まあ、比叡はやり方が……Little、問題ありだケド」


比叡「う……で、でも一応完食はしてくれたので、そこまで嫌われてはない……と、思い、ます……」


霧島「本当に嫌いだったらすぐに残すか一口も食べませんよ。完食してくれるなら、少なくとも気遣ってくれているのは確かですし……」



金剛「…………それを踏まえるとワタシ達、テートクにYESでもNOでもなく宙ぶらりんのまんま、放置Play食らってるってことですよネー」


霧島「姉様、その言い方はどうかと思います」




金剛「そう考えると、なんか……段々、腹立ってきまシタ……」


榛名「……正直、榛名も同じ気持ちです。ぶっちゃけ激おこです、大丈夫なわけないです」


霧島「奇遇ですね、ちょうど私もそんな気分になり始めていまして」


比叡「なんか、今ならアイアンボトムサウンドも一人で攻略できる気がします」




金剛「……決めタ。もうワタシ、直接テートクにProposeしてきマス」


比叡「お姉様!?」



金剛「こんなところでウジウジ悩んでるなんてそもそもワタシらしくないデース!今まで通りStraightにテートクに迫ってやるデース!!」ガタッ


比叡「あ、ちょ、抜け駆けはいくらお姉様でも駄目ですよ!お姉様が行くなら比叡も!」ガタッ


榛名「榛名を置いて話を進めないでください!勝手は榛名が許しません!!」ガタッ


霧島「私の計算によると……私達、このまま競争になりますね。それも相当な泥沼展開になりそう」ガタッ





4人『…………』






金剛「テートクウウウウウウウ!!」ダッ


比叡「司令ぇぇぇぇえええ!!」ダッ


榛名「二人とも待ちなさああああい!!」バッ


霧島「逃がさないわよッ!!」ドッ










ドドドドドドドド……




提督「…………ん、なんか騒がしいな」


電「なのです……?」




ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……!!



バァァァァァァンッ!!


ドア「またかいな」




金剛「テートクッ!もう単刀直入に聞きマス!」


比叡「私たちの中で今すぐ結婚するとしたら!」


榛名「提督は誰がいいんですか!?」


霧島「すぐに答えてください!」




電「……はわ!?」マッカァァァァ


提督「…………は?」





提督「何言ってんだ、全員選ぶに決まってんだろ」




4人『え?』




金剛「H、Hey、テートク…………April foolは今日じゃありませんヨ……?」


榛名「榛名、笑えない冗談は嫌いです」


提督「冗談なんかでこんなこと言えるようなでかい器は持ってないぞ」



比叡「司令……いくらなんでもその答えはあんまりじゃ」


霧島「…………」



提督「あのねえ、確かに結婚とかだったらさ、日本の法律に従う限り一夫一妻制のしがらみからは逃れられんよ?でも、提督と艦娘達のはあくまでケッコンカッコカリなわけだろ」


提督「そもそも魂を結ぶと書いて結魂、本来は提督と艦娘の繋がり、つまり絆をより深めて、艦娘の力を精神的に高めようっていうのを、技研の阿呆共が変な遊び心働かした結果がこのシステムだぞ」


提督「これに限って言えば、別に一人に絞ろうがジュウコンしようがそれは提督個人の自由なわけ」


提督「結局のところこのシステムは各艦娘の力の限界を底上げするためのシステムなわけだから、効率的に言えば全員に指輪渡した方がよっぽど艦隊運用に幅が出る」



金剛「じゃあ……テートクは、ケッコンを……そういう目でしか、見てないってことデスか……?」


提督「いんや?どちらにせよお前たちにとってこれは特別なものに変わりはない訳だし、それは俺も重々理解してるつもりだ」


霧島「……では、提督の意図は何なのでしょう」



提督「いや、だからさっきも言ったろ?「お前たち全員を嫁に貰う」って」



提督「さっきも述べた通り、ケッコンカッコカリっていうのはとどのつまりただの能力の底上げシステム。そのカギになるのが指輪ってだけだ」


提督「だが技研の阿呆共がケッコンなんて文字をつけた所為で話がこじれちまったんだ。それで選んだ子と他の子に軋轢が出来ちまったら目も当てられねぇ。実際それで内部崩壊した鎮守府もいくつかケースがある」


提督「……たかが指輪一つで戦闘能力以外の方面でも優劣が決まっちまうなんざ、ちゃんちゃらおかしい話だ。そんなもんに特別な意味を感じろなんて言われても、俺には出来ない」


提督「だからこの指輪は全員平等に渡すつもりだ、これは絶対に変えない」



比叡「で、でも!それじゃ司令としての意見でしかありませんよ!?男としてはどうなんですか!!」



提督「そりゃ嬉しいに決まってるだろ、美女美少女美幼女より取り見取りの艦娘のなかでも、美人揃いの金剛型4姉妹に同時に慕われるんだぞ、男として本望に決まってらぁ」


提督「でもよ……俺は元々優柔不断が過ぎるんだ。美人で性格良くて家事炊事何でもこい、そんな子が4人もいてしかも全員から告白されて、迷わないわけがねぇだろ」



提督「ろくでなしに見えるかもしれんが、お前たちのことを真剣に考えてる」


提督「……だが、ここでお前たち以外の艦娘はどうなっちまうかってはなしになる」



提督「お前たち以外にも、俺を慕ってくれている子は少なくない。その子たちの気持ちを無碍にすることもできん」




金剛「……テートク」


榛名「…………」




提督「最低なことを言っているのは分かっている。それについて言い訳をするつもりはないし、俺を罵倒しようが軽蔑しようが構わない」


提督「……俺の本音を言わせてもらえるなら」



提督「俺はこの艦隊が好きだ。この鎮守府にいる艦娘が大好きだ。愛してると言ってもいい」


提督「皆が和気藹々と、この鎮守府で働いている……戦いの中で、つかの間の平和を噛み締め、過去を顧みながら、今を全力で生きて、未来を見つめる。そんなお前たちを愛してるんだ」


提督「……その中から一人、特別を選んだばかりに。この愛がただ一人に向いてしまったばかりに、皆を傷つけるのが怖い」


提督「そうなっちまうより……このまま皆を愛して、導いて、平和を掴み取って、幸せを抱く方がずっといい」


提督「……俺は、少なくとも俺はそう思ってる」


提督「……愛してるんだ、君たちを」



比叡「司令……」


霧島「……司令」






金剛「……ズルイ」



提督「……え」




金剛「そんな言い方されたら、こっちが我儘言ってるみたいでずるいデス」ウー


比叡「本当ですよ……結構サイテーなこと言ってるって自覚あるだけマシですけど」ムスッ


霧島「……まあ、真剣に考えてくれているのは分かりましたから。私は正直満足ですよ」フフ


榛名「どんな結果でも榛名は大丈夫です!」


霧島「貴女はもう少し我を通してもいいと思うわ」


榛名「え、十分我が儘を言っているような……」


霧島「せめてこう、愛人でもいいから自分も愛してほしいぐらい言ってもいいわよ」


金剛「Oh、霧島大胆なこと言いマスネ……」



提督「すまん……駄目な上司だな、俺ぁ」


金剛「テートクの気持ちはワカリマシタ。誰よりも真剣に悩んでいるのはテートクだったんデスネ」


榛名「榛名、お返事……待ってますから。どんな結果になっても、榛名は受け入れます」


比叡「……というかもういっそ、全員抱きこんでもらった方が話が早いような」


金剛「NOOOOOO!その発言ノーよ比叡!いくら何でもいきなり5Pなんてレベル高すぎマスヨー!!」


比叡「あの、お姉様……抱きこんでもらうって、そんな直接的な話じゃないです」


金剛「えっ」



提督「なんだ金剛お前、実は複数プレイがお望みか、しかも姉妹全員でとかレベルたけーなおい」


霧島「姉様、まだ日も高いのでそういう話はちょっと控えたほうがよろしいかと」


榛名「お姉様がムッツリスケベでも榛名は大丈夫です」


金剛「うわああああああん!テートクも皆も嫌いネー!!」









金剛「ハーァ……結局うやむやになっちゃいマシタ」ガックシ


比叡「でも司令もかっこいいこと言いますねぇ……全員もらう、だなんて」


榛名「榛名、ちょっと惚れ直してしまいました……」テレ


霧島「あそこまで突き抜けるなら、いっそ清々しいですよねぇ……」




金剛「……マァ、もしテートクが本当に鎮守府Harlem作っちゃったとしてモ……なんか、納得しちゃいそうネ」


霧島「賭けますか?負けたら一週間比叡姉様の食事だけで過ごすというのは」


金剛「それ割と本気で死人がでるからやめまショー」


比叡「なんか今日お姉様からの扱いがドライな気がする……」



榛名「……というより、皆作っちゃう方に入れますよね」


比叡「アハハ……バレた?」


金剛「正直誰を選んでくれるか分からないより、確実に自分も含まれるHarlemの方が魅力的に見えちゃうんですヨネー」


霧島「それに……あの司令なら、もしかすると……いえ、きっと」


金剛「ま、それは未来のワタシ達に見てもらうとして……部屋に戻って、Teatimeの続きと行きマショー!」


比叡「はいお姉様!」


霧島「お供します、姉様」


榛名「お姉様のためなら、喜んで!」









提督「はぁ……えっらい大口叩いちまったなぁ。こりゃ何回か死ぬ場面あるかもしれん……」


電「司令官さんの自業自得なのです」


提督「ごめんって電、あの間ずっと放置してたのは謝るから機嫌治してくれよ」


電「浮気性の司令官さんなんて知らないのです!」プンスカ



提督「……ほら、おいで電」ダキ


電「ひにゃっ!?は、離して……」



提督「よいしょ」ヒザノセ


電「ぁぅ……」



提督「……いつも、ありがとう」ナデ…


電「はわ…………」


提督「これからもよろしくな、電」ナデナデ


電「ぁ、ぅぅ……」チヂコマリ



提督「愛してるぞ」


電「……やっぱり司令官さんは意地悪なのです」






おわり


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金剛


呉第三鎮守府の古参勢。提督一筋早数年。


鎮守府最初の戦艦として歴戦を潜り抜けてきた。その実力は折り紙付き。

持ち前の快活さを生かしたムードメーカーぶりは鎮守府の支えになっている。

長らく提督への恋煩いを抱えているが、アプローチしては失敗しているため、魅力がないのではと焦っている。



比叡


呉第三鎮守府所属の戦艦。姉ラブ提督ラブのバイセクシャル。


金剛譲りの明るさと人懐っこさで、皆から頼られている姉貴分。ただし料理以外。

以前は金剛に好かれる提督に嫉妬していたが、とある出来事を境に提督を意識しだすように。

今では立派な恋する乙女だが、その有り余るパワーの行く先は料理という名の混沌(カオス)。



榛名


呉第三鎮守府所属。意外にも物事には積極的なタイプ。


少々お転婆ながら、淑やかさと提督への献身は大和撫子と呼ぶにふさわしい。

他の姉妹同様提督に心奪われ、積極的にチャンスを狙っている。同衾や混浴へ誘うなど、姉妹の中でもアグレッシブな面も。

意外にもクレーンをはじめとして重機にロマンを抱く感性の持ち主。そのためか夕張や明石とは結構仲がいい。



霧島


呉第三鎮守府所属。艦隊の頭脳を目指す武闘派。


敵戦艦にも臆することなく立ち向かい、時には肉弾戦を仕掛けるなど腕っぷしには大いに自信あり。

他の姉妹に比べるとアプローチが大人しいが、それでも積極的に提督へアピールしている。

提督からのイタズラの報復で鞭でしばいたりするなど、実はS疑惑が浮上している。


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初期艦と癒し!






――――――――1435、談話室





漣「ご主人様を癒して差し上げようッ!」ドンッ!





シィ…………ン






漣「うぉい!またこのTRI○K式沈黙パターンかよ、ワンパターンすぎやしませんかね」


吹雪「いや、だって……漣ちゃんいつも唐突なんだもん」


叢雲「物事の前後をはっきりさせなさいよ」


漣「えっ、激しく前後?」ナンチョウ


叢雲「言ってないわよバカナミ」


漣「綾波の事バカナミっていうのやめろよ!」


叢雲「お前に言ってんだよすっとこ馬鹿ッ!!」



漣「いや、あやなーじのことじゃなくてだね……ほら、最近ご主人ってば毎日忙しそうじゃん?」


五月雨「そうだねぇ……もうすぐ大規模作戦があるからって、書類が多いらしいから」


電「いつも以上に書類の山が出来てたのです……」



吹雪「しかもあれ、全然作戦と関係ない書類とか混ざってるよね」


叢雲「艦娘反対派の嫌がらせとか、マスコミとか左巻き団体の平和的解決を求める署名の束ね……」


漣「あれ大規模作戦が近くなるのに比例してガンガン増えるじゃん?絶対わざとだよアレ」


五月雨「しかもその書類の間に機密情報とか混ぜてたりするから、いちいち目を通さなきゃいけないし」


電「司令官さんがかわいそうなのです……」



漣「そのせいでさ……今日のご主人様見た?目にすっごい隈できてたよ」


叢雲「アレ絶対碌に寝てないわよねぇ」


吹雪「私達秘書艦も、健康のためだからって2200には帰らせちゃうし」


電「大淀さんは手伝ってくれないのです?」


五月雨「緊急時に控えてるけど、それ以外の時は仮眠してるよ。起こすのは忍びないからって、一人でお仕事してるみたい」


漣「優しいのは結構なんだけど、もっとウチらに頼ってくれてもいいのににゃー」


吹雪「あの人言っても聞かないから……」


叢雲「男の意地ってやつかしらね……それでぶっ倒れられたらこっちが迷惑になるっての」


漣「でもあなた実際にそうなったら真っ先に看病に走りますよね?」


叢雲「当たり前でしょうが」


漣「漣的にはもうちょっとこう、「ハァ!?んな、そんなわけないでしょ!あんなの自業自得なんだからほっとけばいいのよ、しばらく顔見なくてせいせいするわッ!」っていうツンデレ的アトモスフィアを期待したのにことごとく裏切ってくれるねアンタって人は、即答とか面白味のかけらもないっす」


叢雲「真面目な話に面白さなんて要る訳ないでしょ」


漣「クソ真面目かッ!」


叢雲「アンタが不真面目すぎるだけだっての!」


漣「ちくしょう事実だから何も言い返せねぇ!」



吹雪「……それで、結局?」


漣「うん、だからね?そんな苦労しっぱなしのご主人様を、どうにかして漣達でリフレッシュさせてやりたいなーって」



叢雲「あんたにしちゃ珍しくまともな考えね」


漣「普段がまともじゃないって言いたいのかってツッコみたいけど事実だからツッコめないこのジレンマ」


叢雲「自覚あったんだ、意外」


漣「ザナージ心が折れそうや」



電「でも、アイデアはすごくいいと思うのです!」


五月雨「時にはそういうお返しもしないと、だね」


吹雪「いっつも私達の事を考えてくれるからねぇ……」



叢雲「でも具体的にどう癒すっていうの?」


漣「んぇ?そりゃー……無難に肩揉みとか」


叢雲「それじゃあ司令官が普段感じてる疲労に釣り合わないんじゃない?」



吹雪「釣り合い、かぁ……」


漣「まぁ確かに日頃のストレスとかに比べて明らかに癒しがしょぼかったら不満もあるよにゃぁ……そこを考えてなかったわぁ」


電「釣り合い……どうすれば、とれるのでしょうか」



漣「まぁ簡単にいえば、普段の労働に対してこれをしてもらえるなら報われる……って思ってもらえる最低限のラインを越えなきゃいけないってことか」


叢雲「そ、正解よ。正直アンタに応えは期待してなかったけど特別に発言権を増やしてあげるわ」


漣「やったぁもっと喋れる嬉しいなぁ!」


叢雲「アンタチョロイのか腹黒いのか分かんなくなってきたわ」



五月雨「何をしたらそう思ってもらえるかが重要だよね」


吹雪「何をしたら、かぁ…………」



電「何をしたら喜んでくれるのでしょうか」


漣「……んー」クビカシゲ


五月雨「そもそも提督が喜びそうなことってなんだろう」


叢雲「あいつの趣味嗜好って分かりそうで分かりづらいのよねぇ……」


吹雪「小さい事でも喜んでくれそうな気はするけど……」


漣「でもどうせなら文字通り飛び上がって喜ぶことしてやりたい……やってみたくない?」


叢雲「まあねぇ……」



吹雪「……そう言えば叢雲ちゃん、よく司令官にマッサージしてもらってるよね」


叢雲「うっ…………そ、そうね」


漣「おやおやぁ?ムラムラさん顔が真っ赤ですけどどないしはりましたぁ~?」


叢雲「何でもないわよ黙ってなさいッ!……それで、マッサージがどうしたのよ」


吹雪「いや、逆にマッサージしてあげたら喜ぶんじゃないかなーって」


叢雲「わ、私が!?」


吹雪「うん叢雲ちゃんが」



叢雲「あー、でも……なるほど、私があいつに……」



叢雲「ちょっと前向きに考えてみるわ」


漣「それでお返しとばかりにやり返されてその日は朝までしっぽり?」


叢雲「アンタそろそろ本当に黙らないとアンクルホールド食らわせるわよ……」(※足首を内側に捻るプロレス技)


漣「アッハイ黙ります」



五月雨「他に何かあるかなぁ……」ウーン


吹雪「リフレッシュしてもらうには……」



電「……誰かほかの人の意見も聞きたいのです」


漣「……そだねぇ、この5人だと早々に煮詰まりそうだし」


叢雲「そうは言うけど誰に頼むのよ」





鈴谷「その話ッ!」スズッ!


熊野「わたくし達もッ!」クマッ!



「「一枚噛ませて頂きますッ!!」」スズクマァァァァァァァァァァ


漣「ファッ!?」



吹雪「鈴谷さんに熊野さん!?いつから……」


鈴谷「『綾波の事バカナミっていうのやめろよ!』の辺りから」


漣「あらやだ割と最初!」



熊野「そんなわけですので、わたくし達も参加させていただきますわね」


五月雨「それは構わないんですけど……」


叢雲「そういうってことは何かしらアイデアがあるんでしょうね?」


鈴谷「まあね、アイデアっていうかちょっとした提案なんだけどさ」




熊野「提督に少し仕返ししたくありませんこと?」




吹雪「仕返し……?」


電「なのです……?」



鈴谷「いや、あたしらもさ?前からちょくちょく提督のマッサージ受けてるんだけどさ」


漣「あーなんかめっちゃ盛況だよねー……すずやん先輩足繁く通ってるもんね、押しかけ通い妻の如く」


鈴谷「いつか妻になれたらいいんだけどねー……で、いっつもマッサージ受けてるわけだけど、毎回毎回人に見せられないような顔になっちゃうぐらい気持ちいからさ、だんだん悔しくなってきてね」


熊野「そこで日頃の感謝に……少しの仕返しを添えて、お返しにマッサージをして差し上げましょう、と相成りましたの」


鈴谷「それだけじゃないよー?男が喜ぶものジャンジャンオプションに付けて、あの提督の顔をだらしなく蕩けさせてやろうってわけ」


熊野「あわよくばそれを写真に撮って青葉さんに……なんて」



叢雲「でも、そんなんであの司令官が崩れるかしら?割とそういうのにも聡いし、下手したらこっちの企みがバレるんじゃ」


鈴谷「バレたらバレたでしょうがないけどね」



鈴谷「でも、あの提督がだらしなく涎垂らしながら蕩け切ってる顔……見たくない?」



漣「正直すっげぇ見たいッ!!」ガタッ


叢雲「アンタは本ッ当に……」



五月雨「…………実は、私も少し興味が」


叢雲「五月雨!?」


電「同じくなのです」


吹雪「私も賛成」


叢雲「えっ、えっ!?」



漣「つーかムラキョンは悔しくないのー?あんだけ散々良い声で鳴かされといて反撃の一つもしないのー?それでも水雷屋なのー誇りはないのー部屋の隅っこで埃被ってんのー?」ニヤニヤ



叢雲「ムッガァァァァァァアアア!!そこまで言うならやってやろうじゃないの!いい加減アンタの挑発を聞かされ続けるのもウンザリなのよッ、水雷屋らしく一撃必殺入れてやろうじゃないッ!!」


吹雪「あーあーあー思いっきり乗せられて……」


電「相変わらず煽り耐性が低いのです……」



鈴谷「んじゃあ全員がやるってことでよろしいな?」


電「一人は完全に怒りに任せて自棄になってるのですが」


漣「一体誰が彼女をそこまで怒らせたのか」


吹雪「この堂々としたしらばっくれぶりはいっそ清々しいよ」


漣「さざなーじ何のことか分からないなーうん何のことかさっぱりだよー」ボウヨミ




鈴谷「……んじゃ、ちょいと作戦会議するよー。皆集まって」テマネキ


熊野「皆で提督を癒して差し上げましょう。そのついでに、あわよくば……ふふ」


漣「全力で楽しそうで何よりです」


五月雨「当人より楽しんでるねー」


叢雲「…………私、やっぱり帰るわ」


吹雪「叢雲ちゃん、もう遅いよ」ガシッ


叢雲「んなっ、吹雪!?ちょ、ちょっと離しなさいよ、何でアンタがッ!」


吹雪「私も嫌な予感しかしないけど、ここまで来たら一蓮托生だよ……絶対逃がさないから」


叢雲「ひぃぃッ!?姉の後ろに龍田さんが見えるッ!?」


吹雪「敵前逃亡なんて……絶対許さないから。フフフフフ……」


電「叢雲ちゃん、大人しく従った方が身のためなのです」


漣「その通り!ムラキョぉ~ン、まさか貴女ともあろうものが敵前逃亡なんて情けないことやるわけありやせんよねぇ~いっつも我々に激飛ばす立場の人がいやいやまさかそんな、ねぇ~?」ネットリ


叢雲「う、うううぅぅぅ…………!」



※結局折れました








―――――翌朝








提督「…………で」


電「司令官さん、どうしたのです?」


提督「いや、どうしたもこうしたもさ」





提督「何この状況」ヒザマクラ


電「電の膝枕なのです」


提督「うん、それは分かってんのよ、ついでに耳掻きもされてすっごく嬉しい」


電「電の本気の耳かきをとくと味わうのです!」カリカリカリ


提督「あぁぁ~……そこ、ええとこぉ……そこ取れなくて困ってたんだ……」


電「ん~~…………よいしょっ」パリパリパリ



スポッ



提督「おっ!」


電「取れたのです!」


提督「おぉぉ、痒かったのが一気にスッキリ!」




提督「いや、待って電、何で?どうしてこんな状況になったのか私気になります」



電「司令官さんを癒して差し上げるためなのです!」


提督「うん、それは嬉しいよ?休日の朝からこんな展開そうそうないから嬉しいよ?でもさ、それ以外になんか企んでないよね?」


電「何も企んでないのです」


提督「ほんとぉ?」


電「本当なのです!」



電「…………ひょっとして、こういうの……ご迷惑でしたか……?」ウルッ


提督「いや、滅茶苦茶嬉しい」


電「本当なのです?」


提督「そりゃそうさ、電に膝枕ついでに耳かきまでしてもらってめっちゃ至れり尽くせりだよ?嬉しくないわけないじゃん」


提督「ただ、強いて言うならさ?どうして急にこんなことしてくれるのかなーって」



電「司令官さん、近頃はいつにも増してお疲れみたいなのです」


提督「大規模作戦近いからねぇ……今から準備で忙しいし」


電「なのに電たちに頼らないから、最近寝不足みたいなのです」


提督「……まあ実際に現場に出るのは電たち艦娘だからねぇ。負担をかけるわけにはいかないよ」



電「でも、せめてきちんと睡眠をとってほしいのです!いつも隈を作ってフラフラしながらお仕事して……いつ倒れるか心配なのです!」


提督「そうしたいのはやまやまなんだけどね。そうもいかないんだよねぇ……」


電「電たちじゃ頼りにならないのですか!?」


提督「そもそもこういう書類仕事は俺みたいな提督の役割だからな。俺としては、余計な疲れを残してほしくないのさ」


電「でも!」


提督「それに……電がこういうことをしてくれるだけで、俺のやったことが報われるよ……」


電「…………」カリカリ


提督「お前がこんなことをしてくれるだけで、俺は嬉しいんだ……これ以上を望むなんて贅沢だよ……あー、気持ちぃ」





電「…………頑固者」カリカリカリ


提督「ささやかなプライドだよ。これ以上甘えるのはダメだ……俺がそう決めたんだ」



パリッ!パリパリ、ベリッ!



提督「おうっ……!」


電「動くと危ないのです……じっとしていてください」


提督「ごめんよ」






鈴谷(何か普通にいい雰囲気なんですけど)ヒソヒソ


熊野(スクープに出来るような顔ではありませんわ)ヒソヒソヒソ


漣(こういう覗きってアリなのかな)


叢雲(バレなかったらいいのよ、バレなきゃ)


五月雨(私も提督に膝枕……)


吹雪(次があるから。大丈夫大丈夫)



鈴谷(んー、電っちはだめか……次!)






―――――――吹雪、五月雨のターン





吹雪「お疲れ様です司令官」オチャオキ


五月雨「お加減どうですか?」カタタタキ


提督「ぁー……いい感じだよ五月雨……極楽極楽」




吹雪「今日はいつにも増してお疲れですから」カタモミ


五月雨「私たちが頑張って労います!」カタモミ


提督「ぁ゛ー…………ごっつえぇ感じぃ……」



吹雪(……筋肉が強張ってる……ちゃんと休めてないんだ)モミモミ


五月雨(私たちのためにこんなに……)モミモミモミ



提督「……もうこのまま本当に極楽に昇っちまいそうだ……」


吹雪「ダメですよ司令官」


五月雨「私達は提督に導いてもらわないと、すぐ迷子になりますよ?」


提督「あぁ、頑張る……俺頑張るよ……」ウツラウツラ



五月雨「くすっ……はい提督、ごろーん」ネカセ


提督「あーれー……ここは極楽か」ヒザマクラ


吹雪「あ、五月雨ちゃんずるーい」


五月雨「早い者勝ちだよ吹雪ちゃん」


吹雪「むー……じゃあ、一緒に寝ちゃおっと」ソイネ


五月雨「あ、そっちもいいなー」


吹雪「早い者勝ちー」



提督「なんか今日は良いこと尽くしだなぁ……冗談抜きで今死んでも悔いはねぇや……」ウトウト


吹雪「司令官……ちゃんと、休んでください」


五月雨「私たちは提督あっての艦娘なんですから……」




吹雪「司令官がいなくなったら……私、すぐに後を追いますよ?」


五月雨「私もです……提督……どこにも行かないで」




提督「…………当たり前だろ。お前たちを残して逝けるものかよ」


提督「この戦いが終わるまで、俺はお前達を見守る」


提督「この戦いが終わったら、俺はお前達を全員貰い受ける」


提督「……死ねるものかよ」






鈴谷(提督……)トゥンク


熊野(あぁ、提督……)トゥンク



漣(みんなチョロ過ぎるんだよなぁ……)


叢雲(アンタもその一員だからね?分かってんの?)


電(優柔不断なのか器が大きいのか判断に困るのです)






鈴谷(あの二人もダメか……えぇい、こうなれば奥の手です!やってしまいなさい、ザーボンさん!)


叢雲(誰がザーボンよ電探槍突き刺すわよ)






――――――――叢雲のターン






グリッ、グリッ


提督「っぁあ゛~そこそこぉ……効っくぅ……」


叢雲「もう、馬鹿みたいな声出して……そんなにいいの?」グリグリ


提督「いいなんてレベルじゃねぇよ、お前マッサージ上手ぇなぁ……」


叢雲「前に言ったでしょ?私按摩にはちょっとうるさいのよ」グッグッ



提督「おぉ、そこ、その腰のあたりもうちょい……あ゛あ゛ぁ~痛ってぇ~でも気持ちいい」


叢雲「うっわガッチガチ、指が少しも入っていかないじゃない……ずっと座りっぱなしだったのね」


提督「仕事が終わらないんですよこれが……普段ならもっと少ないんだけどねぇ……」


叢雲「私たちに頼らないで一人でやろうとするからでしょ?何のための秘書艦よ」ググッ


提督「う゛っ、ぅ゛ぅ゛う゛え゛!」


叢雲「あっ、ごめん痛かった!?」


提督「いや、気持ち良すぎて変な声出ただけ……大丈夫、続けて」


叢雲「もう…………」スリスリ




提督「…………お前らには、いつも危険な目に合わせてるからな」


叢雲「え?」


提督「毎回毎回命張ってんだ。死ぬ手前までボロボロにやられることも珍しい話じゃない……その上夜遅くまで事務仕事なんて、させられねぇよ」


叢雲「アンタ…………」



叢雲「そうやって強がって、抱え込んだ結果がこのザマなわけ」


提督「はは、面目次第もない」


叢雲「なんでヘラヘラ笑ってんのよアンタはッ!」


提督「…………」



叢雲「そうやって、いっつも笑って誤魔化して!こんなこと続けてたらいつか本当に倒れるわよ!」


提督「大規模作戦終わったら減るんだから、それまでの辛抱……」


叢雲「私達じゃ助けにならないっていうの!?」


提督「叢雲」


叢雲「だってそうじゃないッ!現にアンタの体、いつ体調崩してもおかしくないのよ!?それも近いうちに絶対!」


提督「…………」


叢雲「私達秘書艦は、司令官の補助をするためにいるのに……なんで頼ってくれないのよ!」



提督「お前たちに無理をさせたくないからだよ」


叢雲「ッ!!まだそんなこと」


提督「お前達しか、奴ら深海棲艦に対抗できる存在はない。だからこそ、お前たちになるべく負担を掛けたくないから、事務仕事は俺がやるんだ」


提督「提督っていうのは責任を取るためにいるんだ。お前たちの体調を管理し、敵を討つ。勝てなければ俺の所為、勝てたらお前らのおかげ」


提督「ぶっちゃけていうとな、俺は提督なんてたいそうな肩書が付いちゃいるが、大本営のお偉い爺さん方からしてみれば、ただ妖精が見えて対話できるってだけでその役職に着けられた鼻たれ小僧なのさ。だからあちこちから嫌がらせが絶えん」



提督「お前らに見せられんような、下衆な手紙を何度も見てきた」


提督「罵詈雑言の殴り書きの手紙なんて、100から先は数えるのをやめた」


提督「平和ボケした団体や、利益のためならねつ造も厭わんマスコミからも色々あったぜ?危うく囲まれてリンチにされかけたこともある」


提督「艦娘は危険な存在だのなんだのご高説垂れてたが……俺からすりゃ、人間の方がよっぽど恐ろしいよ」



叢雲「ちょ、ちょっと待ちなさいよ……初めて聞いたわよそんな話」


提督「……なるべく心配を掛けんようにと思ってな。お前の按摩が上手すぎてつい気が緩んじまった」


叢雲「ッ!!」バッ


提督「うおぉぉい殴るのは勘弁ッ!?」ガード





叢雲「…………んでよ」


提督「へ?」





叢雲「アンタ……何でいっつもそうなのよ……ッ!」ポロ―――――


提督「!」


叢雲「アンタをっ、助けたいのに……頼っていいのにっ、なんで言ってくれないのよぉ……」ポロ……ポロ……


提督「叢雲……」



叢雲「ぇっ、く……司令官が、心配なのッ!手伝える、ことはっ……ぇぅ、全部手伝うからッ!」


叢雲「手紙がなによっ……そんなの堪える訳ないでしょ、馬鹿にしないでよッ!」


叢雲「書類仕事も手伝うからっ!だから頼ってよッ!!」



叢雲「……倒れて、そのまま死んじゃうかもしれないじゃない……っ、そんなの嫌なの……、私の上官は、アンタだけなの……っ」


提督「叢雲……」


叢雲「私が守るから……っ!!司令官のこと、っ……ずっと守るからっ!」




叢雲「……死んじゃやだぁ……!!」


提督「…………ッ!」



ギュッ



叢雲「ぇぐ……グスッ……ぅぅう……っ」


提督「…………ごめんな、余計に心配かけて……」


叢雲「っぅ、ぅう……ぅううああああ……!!」


提督「これからはもっと頼るよ……電たちにも言われちまったしな……」ナデ


叢雲「っ、ぅん……!」


提督「……こんな俺でも、まだついてきてくれるか」


叢雲「当たり前でしょ……っ!私の、上官は……っアンタだけなんだからぁ……!」グスッ


提督「……ありがとうな」ナデナデ







鈴谷(畜生もらい泣きした不覚ッ!)ズビッ


熊野(叢雲さんがいじらしくて心の底から形容しがたい気持ちが湧き上がってきますわッ!)クネクネ



電(…………むぅ)


吹雪(電ちゃん拗ねない拗ねない)


電(電の時はうんともすんとも言わなかったのにッ!失礼しちゃうのですッ!)プンスカ


五月雨(叢雲ちゃんずるい)パルパルパルパルパル


漣(嫉妬深い人多すぎやしませんかねぇ……)



鈴谷(だ、だがここで諦めるわけにはいかないッ!提督のだらしない蕩け顔を写真に収めるまではッ!)


漣(すずやん先輩趣旨変わってますけど)


鈴谷(えぇいうるさい!今度は鈴谷がメイド服着て突撃してやるしッ!)


漣(骨は拾いますよー)ヒラヒラ


鈴谷(お前も行くんだよサザンクロス!)ワキカカエ


漣(アイエエエエ!?やめて、私にエロい衣装着せる気でしょ!エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!)ジタバタ


鈴谷(そうと決まれば早速準備準備!!)ダダダダダ


漣(お助けーッ!?)ドナドナドナ



吹雪(さようなら漣ちゃん)ヒラヒラ


電(三分は忘れないのです)ヒラヒラ


五月雨(電ちゃんイライラしてるからって薄情すぎるよ!)ヒラヒラ


熊野(五月雨さんも助けない辺り一緒ですわ……)






――――――鈴谷、漣のターン





鈴谷「というわけで旦那様」


漣「私達艦娘メイドに」



すずさみ「「何なりとお申し付けくださいませ!」」


提督「帰って?」マガオ






鈴谷「…………というわけで旦那様」


漣「私達艦む」


提督「いやTAKE2要らないから帰って?」ハンギレ



鈴谷「なんでよぉーッ!?鈴谷達じゃ不足だってのー!?」


漣「こんな美少女2人がメイドになってお世話して差し上げるというのにあァァァんまりだぁぁぁぁぁ!!」



提督「いやね、単純にね?今日は朝から幸せなことばっかり続いてたからさ?もしかしたらこの夢の時間がまだ続くんじゃないかって思ってたんよ」


提督「でもね、その幻想は砕かれたね。現れたのが普段から真面目とは言い難いお前ら二人がよ?そんなメイド服なんてふざけたコスプレしてさ、何でも言いつけていいなんて言われてみろ」



提督「お前らそんな奴の言葉に「裏がなさそう」なんて思えるのか?」



鈴谷「う、裏って……」


漣「私は真面目にお手伝いしようとしたんよ……それなのにそこのおバカ重巡がメイド服なんて着させるもんだから私までおかしな立場に……」


鈴谷「漣貴様ァ!?」


漣「こっちは真面目にご主人様の事を考えてやってたのに、すずやん先輩がこういうことするからややこしくなるんだよ!」


鈴谷「自分だって着てるじゃん!」


漣「あとで埋め合わせするっていうから渋々着てるんだよ!でもこの現状鑑みたらどう埋め合わせされても割に合わない気がしてきましたハイ!」




鈴谷「漣、貴様裏切るのか……」


漣「君は良い友人だったが……君の浅ましい発想がいけないのだよ!」キリッ


提督「喧嘩なら表出てやってくれない?」シゴトシゴト


鈴谷「なんで平然と仕事してやがりますかねアンタは」


漣「せめて間に立つぐらいしてほしいんですけど」


提督「嫌に決まってるだろ保身的に考えて」


漣「えぇ……」




鈴谷「だからッ!鈴谷は単純に提督の役に立ちたいのッ!今の鈴谷は完璧で瀟洒な提督のメイド……ご命令とあらば何でもするよ!」


提督「ん?」


漣「ん?」





提督「お前…………今、"なんでも"って言ったな?」


鈴谷「え、そうだけど」


提督「俺が望むなら、"な  ん  で  も"してくれるんだな?」



鈴谷「…………あの、やっぱり出来る範囲で」


漣「あ、おい待てい(江戸っ子」


提督「敵前逃亡なんてメチャ許せんよなぁ?」


鈴谷「いや、あの……流石にお子様に見せられないのはちょっと」


漣「嘘つけ絶対期待してたゾ」


提督「今更いい訳なんて必要ねえんだよ!」


漣「そうだよ(便乗」


鈴谷「ていうか漣テメーッ!?いつから提督側に寝返りやがったコラァ!?」


漣「いつからこの漣がすずやん先輩側だと錯覚していた?」


鈴谷「なん……だと……」


漣「漣は常に面白い方の味方ですんで。というかこの場合どう見てもご主人様の方に付いた方が圧倒的に利益ウマウマなんすよ」


鈴谷「は……図ったな!?」


漣「世の中騙される方が悪いんザマスのよ」


鈴谷「こんな悲しい気持ちになるなら友情などいらぬッ……!!」


提督「どうでもいいけど仕事させてくんない?」ハンコペタペタ


漣「あ、これよどよどさんから至急指示を仰ぎたいって」ショルイペラー


提督「あーこれはそうね、俺としてもとっとと片づけたいから最優先で消化するよう言っといて」


漣「了解、任務を遂行する」


提督「書類渡してくるだけで大袈裟なんだよなあ」




鈴谷「…………鈴谷は?」


提督「え、なんだって?」


鈴谷「鈴谷にもお仕事頂戴ッ!!」


提督「えぇー欲しいの?」


鈴谷「だってこのままだと鈴谷だけ仕事しないみたいで居心地悪いもん!鈴谷にもお仕事!」




提督「……じゃあせっかくだから紅茶を淹れて来て。軽くつまめるものがあると嬉しい」


鈴谷「畏まりました、旦那様!」オジギー






熊野(あぁ鈴谷、お辞儀の仕方が違いますわ!その浅い角度では会釈になってしまいますの!)ハラハラ



吹雪(無駄に礼儀作法の知識が増えていく……)


叢雲(あの二人が終わるころには完璧な所作が身に付きそうだわ)


電(というよりも当初の目的から大分外れている気がするのです)


五月雨(というか最初の目的何だったっけ?)





熊野(………こうなったら、わたくしが出ますわ!)



叢雲(大丈夫なのかしら……)







―――――――――――ラスト、熊野のターン






熊野「如何かしら?」ヒザマクラ


提督「あ、あぁ……寝心地がいい」


熊野「嬉しいですわ」



提督「何だか今日は本当に嬉しい事ばっかりだなぁ……漣達は正直よく分からんかったが」




鈴谷(がっでむ)


漣(もうすずやん先輩なんて信じない)





提督「それにしても熊野までこんなことしてくれるとはなぁ」


熊野「あら、お気に召しませんでした?」


提督「まさか。逆だよ、このまま動きたくない」


熊野「ふふ」



提督「あぁ……いかん、眠くなってきた」ウト……


熊野「寝てしまってもよろしいんですのよ」


提督「いや、仕事が……」


熊野「みんなで協力して終わらせますわ……だから、提督はお休みなさいな」



提督「…………じゃあ、お言葉に甘えて」


熊野「はい、存分に甘えてくださいな」





提督「……スピー……スピー」


熊野(……5分と立たず寝息を……余程疲れていらっしゃるのね)


熊野(……莫迦な人。わたくし達を頼ればいいものを……意気地になって、自分を追い詰めて……それで何になるというのかしら)


熊野(ですがわたくしは……提督の、そういうところに惹かれたのです……)




提督「んん…………」モゾ


熊野「ん……こそばゆいですわ提督」


提督「……悪い」


熊野「もう、まだ寝ていてよろしいんですのよ」


提督「やはり落ち着かなくてな……いつまでもお前の膝を借りるのも、な」


熊野「いいんです、それで。今日は提督さんを一日癒して差し上げるんですのよ?わたくしのお膝、存分に味わって」


提督「……だがなぁ」


熊野「…………分かりました」


提督「え?」


熊野「わたくし、これでも少々歌には自信がありますの。子守歌を歌って差し上げますわ」


提督「…………へぇ」




熊野「……紫けむる 新雪の

        峰ふり仰ぐ この心」




提督(……なるほど、"新雪"か……熊野め、自分の生まれとかぶせてきやがったな)




熊野「麓の丘の 小草を敷けば

     草の青さが 身に染みる……」




提督(それにしてもなかなか上手いじゃないか……優しい声だ……)




熊野「穢れを知らぬ 新雪の

      素肌へ匂う 朝の陽よ

    若い人生に 幸あれかしと

      祈るまぶたに 湧く涙……」




提督(……本当に、眠くなってきた……)ウト……


提督(……今度御守りでも……頼んで、みるか……)




熊野「大地を踏んで がっちりと

     未来に続く 尾根伝い

    新雪光る あの峰越えて

     行こよ元気で 若人よ……」



提督(…………―――――――)




提督「」スヤァ




熊野「ふふ……お休みなさい、提督」







鈴谷(熊野ぉ!お前計画にかこつけて本命は膝枕だったなぁ!?)ギリギリギリ


漣(しかもウチらさらっと売られてる件について)


叢雲(今日は徹夜決定ね……)


五月雨(つまりどういうこと?)


吹雪(司令官の仕事、一日肩代わり、なお書類は山脈レベル)


五月雨(…………)シロメ


電(……金剛さんあたり引っ張ってきましょうか)






提督「…………ところで熊野」


熊野「あ、はい……?というか起きていらしたの?」


提督「さっき電にも聞いたんだけどさぁ……お前らやっぱなんか企んでるだろ」


熊野「えっ……そんなことありませんわ」


提督「嘘つけ今絶対顔に出てたゾ」


熊野「ですから何も企んでなんていませんわ!いくら提督でも許しませんよ!」


提督「素直に白状するならマッサージ年間予約優先権つけるけど?」


熊野「……ゆ、揺るぎませんわ……」


提督「ついでに間宮さんに協力してもらってマッサージの合間に間宮アイス付けちゃう」


熊野「揺るがないもん……」


提督「……はぁ」



提督「まあ喋りたくないなら別にいいや、俺もそこまでして知りたいわけじゃねぇし」


熊野「提督……」




提督「ただ向こう1年間『たまたま』予約が重なってマッサージが受けられなくなる可能性が出てくるってだけだし?」


熊野「提督を癒すついでに緩み切った顔を写真に撮って青葉さんに送り付けて仕返ししようと思っていましたわ!」


提督「おめでとう、その罰は鈴谷に移ったぞ!」





鈴谷(熊野おおおおお!!提督貴様も外道があああああ!!)


叢雲(常連の熊野さんにとっては悪魔の選択ね……)


吹雪(司令官、あくどい顔してる……)


電(やっぱりあの人ドSなのです、潜在的サディストなのです)





提督「つーわけでだ、そこで覗き見してる貴様ら」ギロッ




鈴谷(ヒィッ!?)ゾッ


漣(え、いまご主人こっち見た?見たよね?)


五月雨(そそそそそんなわけないよよよよよ)


叢雲(落ち着け五月雨)


電(でも、確実にこっちに向かって言ってたのです……!あ、あの目が怖いのです……!)


吹雪(あー……絶対怒られるパターンだわこれー……)






提督「聞こえなかったのか?そこの扉に隠れてる鈴谷、以下駆逐艦5人、『さっさとこっちに来い』」




ドクンッ……!!



鈴谷(んぁ……っ!だ、だめ……)フラッ


吹雪(この声だ、けは……ダメなのに……)


電(体が……本能が勝手に……ッ!)




ガチャ……




鈴谷「はい、提督……」


叢雲「御呼び、かしら……」



提督「よく来たなイタズラっ子ども、今日はお前達に罰を与えようと思ってな」


五月雨「ば、罰ですか……?」


提督「そうだ。俺こう見えてもさ、ちょっと怒ってるのよ」


吹雪「お、怒ってるって……?」



提督「人に無断で写真を撮ろうなんて、俺はそんな無礼な子に育てた覚えはないぞ」


鈴谷「だ、だって……いっつもは提督が鈴谷の事辱めて」


提督「良い訳やらは聞いてない、というかこの期に及んでベラベラ口答えするのはその舌か?」ジロッ


鈴谷「ひぃ!?」



提督「……いいだろう、鈴谷。命令だ、『そこのソファにうつ伏せで寝ころべ』」



ゾワッ……



鈴谷「あ…………ッ!?」フラッ


提督「よし、『そのまま俺がいいと言うまで動くな』」


鈴谷「て、とく……待って、これ……まさか……っ」


提督「おう、そのまさかだ。俺の気が済むまで余すところなくマッサージを受けさせてやろう……」




提督「かなり痛いやり方でな」パキッパキッ


鈴谷「…………ッ!!」ビクビク





提督「……あ、そうだ忘れてた。『そこの駆逐艦五隻も順番にやってやるから待ってろ』」


吹雪「あっ!?」ピキッ


叢雲「しまっ」ピシッ


漣「ノゾミガタタレター!?」ピシッ


五月雨「えぇぇ私もぉ!?」ピキッ


電「はわ―――――ッ!?」ピシッ



提督「ククク……さぁ、準備は整った。始めようか!地獄のカーニバルをなぁ!!」



フフハハハハハハハ!!









青葉「ふっふふーん♪何かいいネタありませんかねーっと」テクテク


衣笠「もー、また懲りずに……文屋なら文屋らしく全うに勝負すればいいのに、隙あらばパパラッチ紛いのことするんだから」テクテク


青葉「ガサこそ分かってないなー!何気ない日常の中に潜むちょっとした非日常、それが顔を見せる一瞬を、青葉は余すところなく撮り尽くしたい……純粋な探求心だよ!」


衣笠「その非日常は更衣室とかお風呂場とかにしか潜んでないの?」


青葉「うぐ…………」


衣笠「はぁ……呆れた」


青葉「で、でもガサだってそういうの嫌いじゃないでしょ!?」


衣笠「人を盗撮犯呼ばわりしないでほしいな」


青葉「誰が盗撮犯ですか!!」プンスコ


衣笠「似たようなものっていうかそのものじゃないの!」



青葉「もう、失礼しちゃうなぁ……ん?」ピタ


衣笠「……青葉?どうしたの?」ピタ


青葉「……なんか聞こえない?」


衣笠「え……?」キキミミ




アヒィィィィ!


ユルシテクダサイィィィ!




衣笠「…………なんだろう、悲鳴?」


青葉「司令官の私室からだ……行ってみようガサ!」ダッ


衣笠「えっ、ちょっと青葉!?待ってよ!」ダッ






提督「オラ、ここか!?ここがええんかオラ!」グリグリグリ


鈴谷「や、やっ、やぁぁあああんッ!!も、だめぇ許してぇ!」ビックンビックン


提督「口じゃ強がっても体は正直だぜぇ!?厭らしい声出しやがってこの欲しがりがよぉホラァ!」グリグリギリリリ


鈴谷「ひぎいいぃぃぃぃぃ!?」ビクビクビク





青葉「……すっごい声出してるね鈴谷ちゃん」ノゾキミ


衣笠「こんなことだろうとは思ったよ……事情知らない人が聞いたら勘違い率100%だね」ノゾキミ



青葉「……でももっと意外なのが」チラ


衣笠「うん……」チラ




熊野「とぉぉぉおおう!」グリィッ


叢雲「あぁぁそこダメっ!良すぎるからぁぁ!」ビクンッ


漣「アッー!も、許して!お姉さん許してぇ!漣のツボこわれちゃ^~う!」ビクビクンッ


熊野「マッサージを受けるのもいいですけど、施す側もこれはこれで楽しいものがありますわ!えぇいっ!」グリグリィッ


叢雲「ふぁあんっ!そこもっとぉ!」ガクガクッ


漣「っていうか熊野嬢マッサージ上手すぎィ!?どこでやり方を習った!」ガクンッ


熊野「提督の特製按摩指南書を読みましたわ!」グリグリギリィィッ


漣「あぎひぃっ!?読んだだけでそれってゲームの主人公かこんちくしょう!」ビクンッ


叢雲「あはぁぁ!司令官とはまた違った豪快な快楽……んふぁあっ、いいのぉ!もっとしてぇぇ!」ガクンガクンッ


漣「む、叢雲ダイ――――ン!!」


熊野「なんだか調子が出てきましたわ!叢雲さんはちょっと息切れが激しいので小休止として……では漣さん、集中的にお相手いたします!」


漣「いやぁ……漣の、この快楽は……漣を癒してくれるのはご主人様だけなのにぃ……!」


熊野「では参ります!……南斗水鳥拳ッ!!」シャァァァオッ!!


漣「いやそれゲーム違ひぎいいいいぃぃ!!だめぇ漣こわれるぅ!壊れンアーッ!!」ビッ……クンッ!




吹雪「……やっぱり司令官、マッサージ上手すぎ……」チーン


五月雨「熊野さんすごかったぁ……」グッタリ


電「はぁ……はぁ……」ガク……ガク……





青葉「……なんか楽しそうだね……」


衣笠「そうだね……」


青葉「まあこれはこれでネタになるからいいか……ビデオも撮って……」ジー


衣笠「青葉……こんなときでもそれなの?もし気付かれたら……」


青葉「司令官も熊野さんもマッサージに夢中だし、よっぽどへたをしなきゃバレないって……」






提督「…………!」ギロッ





衣笠「えっ、こっち見た……?」


青葉「…………マズいかも、ガサ逃げるよ!」


衣笠「えっ、ちょっと!?」




ガチャッ




提督「おやおや、これはこれは青葉型のお二人じゃないですか……二人そろってどこに行くんだぁ?」ゴゴゴゴゴゴゴ




衣笠「ひぃ!?てっ、提督!?」ビクッ


青葉「あ、し、ししし司令官……」ガクガクガク



提督「青葉はともかく衣笠まで覗き見とは趣味が悪い……良くない、良くないなぁ……」ゴゴゴゴゴゴゴ


衣笠「あわわわわわ」


青葉「あっ、あの違うんです司令官これは」



提督「良い訳なんぞ聞きとうないわぁ!確保ォ!」ビシィッ


漣「ハイヨロコンデー!」ガシィッ


青葉「ちょっ、漣さん!?」


電「衣笠さん、神妙にお縄に付くのです」ガシッ


衣笠「あ、ちょ、電ちゃん離してぇ!?」



提督「さて、どうしてくれようか」


青葉「司令官ッ!話せばわかります、青葉たちきっと分かり合えるはずです!」


衣笠「青葉の所為だからね!?向こう一か月口きいてあげないからっ!!」


青葉「ガ、ガサの薄情者ォォォ―――――ッ!!」


提督「えぇい煩いキャンキャン吠えるな貴様等ァ!我々の情事を見られたからにはただで返すと思うなっ!」


青葉「情事!?情事って言ったよこの人疚しいことしてる自覚あるじゃないですかやだー!」


衣笠「もうどうにでもして……」


提督「貴様等も辱めてやろう……というわけで漣、電!こいつらを部屋に連れ込んでおしまい!」



漣「アラホラサッサー!」ズルズル


青葉「ま、待って漣さん引きずらないで……ッ!ていうかどっからこんな力出してんですか!?駆逐艦ですよね!?青葉重巡ですよ!?」


漣「そこはほらギャグ補正っていうことでひとつ」


青葉「アニメやら漫画と現実を一緒にしないでください!」



衣笠「…………電ちゃん、もう抵抗しないから。だからせめて自分で歩かせて」


電「ダメなのです、手を離したら逃げる可能性が高いのです」


衣笠「ねぇ~お願い!後で間宮パフェ奢ってあげるからぁ!」


電「往生際が悪いのです!大人しく部屋の中でハイクを詠むのです!」


衣笠「アイエエエエエ…………」ズルズルズル



提督「……まぁ安心しろよ、死ぬことはねぇから」


青葉「そりゃマッサージで死んだらこっちがびっくりですよ!」


提督「そんなに警戒しなくても大丈夫だって、ただ死ぬほど痛いだけだから平気平気」


衣笠「痛いのイヤぁ……」


提督「どうせ次の話でピンピンしてるから気にするな!」


青葉「メタぁい!!」



提督「つーわけで覚悟しろ、二度と逆らう気が起きないぐらい徹底的に喘がせてやるからな!フハハハハハッ!」


『いやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』






――――――その後、工廠で宙づりにされぐったりしている青葉と衣笠の姿があったが、二人ともどこか満足げな表情であったという……。






おわり





_________________



衣笠


パパラッチ青葉の姉妹艦。青葉と共に広報部を担当、取材では主にカメラマンを担っている。


取材自体は楽しんでいるのだが、青葉の犯罪ギリギリなやり口に辟易している。


最近は漣に薦められた「ス○ースコ○ラ」に嵌っている。それはまぎれもなく奴さ。



________________






物語は続く!






―――――ザザァァ……



提督「…………」ボケー






吹雪「司令官」


提督「……吹雪か」



吹雪「どうしたんですか?夕暮れの海見て黄昏ちゃって」


提督「……いや」



提督「この戦いは、いつになれば終わるのだろう……って、考えちまってさ」


吹雪「…………」


提督「このまま、永遠に平和は来ないんじゃなかろうか……俺達がやっていることは全部無駄で……誰かの、手の上で踊らされてるだけなんじゃなかろうかって」


吹雪「司令官……」




提督「……悪い、縁起でもないこと考えた。お前たちが頑張ってくれてんのに、ちょっと失礼だよな」


吹雪「……私も、司令官と同じことを、何度も考えました」




吹雪「この戦争に終わりはないんじゃないか、私たちの努力は無駄なんじゃないか……いっそ、戦いをやめてしまった方が、楽なんじゃないか……って」


提督「吹雪……」



吹雪「でも、今は……違います。司令官となら、私はどんな敵とも戦える…………そんな気がするんです」



提督「……奇遇だな。俺も同じこと考えた」





――――――ザザァァァ…………




吹雪「……そろそろ部屋に戻りましょう。みんな待ってますから」


提督「……ん、そうだな」ヨッコイセ




提督「……」テクテク


吹雪「……」テクテク




提督「…………ん、吹雪」スッ


吹雪「……え、この手は?」



提督「ちょっと手が寂しくて、な」


吹雪「…………ふふっ」




ギュッ




吹雪「不器用なんですから……」


提督「やかましい」







提督「……吹雪」


吹雪「……はい、司令官」







提督「これからもよろしくな」


吹雪「はい、お任せください!」






_________つづく



後書き

もはやこれまで

ここまで見てくれた方、誠にありがとうございました
このような拙作を飽きもせず一区切りつけることが出来たのは
ひとえに皆様のおかげでございます

というわけで続編かくよ!待て次回!

リクエストは続編に持ち越すよ!


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このSSへのコメント

6件コメントされています

1: dynabook 2016-03-15 17:36:30 ID: tUICb8nb

通りすがりのオッパイ「今後の展開に期待してるのね!」
通りすがりの眼帯「単発でもありだな!」
通りすがりのシラフ「いけるいける!」

2: 影乃と月の神 2016-04-04 17:44:10 ID: cUP5NpmE

漣がちょっと壊れてる気がしますが、原作のキャラ設定をあまり弄らずにここまで魅力的に描けるのはすごいと思います。僕も見習わねば。

3: SS好きの名無しさん 2016-04-13 23:31:45 ID: kT7D1xe8

初期艦の5人良いですよね!
期待しています

4: SS好きの名無しさん 2016-07-02 21:07:54 ID: a70VjQdS

更新のたび楽しませて貰っています
しょきかん!の残りの3人の改二くらいやってもいい気がする本家。

5: SS好きの名無しさん 2016-07-19 00:43:06 ID: D15uHL-R

ずっと見てるから楽しいです
たまに初期艦じゃない子もメイン(もしくはサブメイン)ともなってくれるなら三日月とか村雨とか出て来て欲しいです

6: SS好きの名無しさん 2016-09-13 03:23:41 ID: TaPUNY1h

第一部完結おめでとうございます

続編を全力で待機しています!


このSSへのオススメ

1件オススメされています

1: 影乃と月の神 2016-04-04 17:42:10 ID: cUP5NpmE

僕はあまりSSすぎる作品って正直好きではないのですが、これは文句なしに面白いと思います。


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